(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】ポリアジン担持カーボン触媒、及びそれを用いた触媒電極
(51)【国際特許分類】
B01J 31/02 20060101AFI20241213BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241213BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241213BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241213BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241213BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20241213BHJP
C07D 403/14 20060101ALN20241213BHJP
C07D 401/14 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
B01J31/02 102M
H01M4/90 Z
H01M4/88 K
B01J37/08
B01J37/02 301C
C01B3/04 R
C07D403/14
C07D401/14
(21)【出願番号】P 2020024839
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏亮
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/035321(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105047953(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/90
H01M 4/88
C01B 3/04
C07D 403/14
C07D 401/14
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A-1)から(A-36)
【化1】
【化2】
【化3】
で示されるポリアジン化合物
のうち何れか一つのポリアジン化合物をカーボンに担持した、プロトン還元電極触媒。
【請求項2】
カーボンが、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ及び黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種類である請求項1に記載のプロトン還元電極触媒。
【請求項3】
下記の三工程を経ることを特徴とする、請求項1に記載のプロトン還元電極
触媒を有するプロトン還元電極の製造方法。
工程1:前記式(A-1)から(A-36)で示されるポリアジン化合物
のうち何れか一つのポリアジン化合物をカーボンに担持し、プロトン還元電極触媒を製造する工程。
工程2:プロトン還元電極触媒、結着材及び分散媒から成る触媒インクを調製する工程。
工程3:工程2で調製した触媒インクを集電体上に塗布し、加熱硬化する工程。
【請求項4】
請求項1に記載のプロトン還元電極
触媒を有するプロトン還元電極を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的プロトン還元反応の過電圧を低減せしめる電極材料として有用な、ポリアジン化合物を担持したカーボン触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリアジン環を繰り返し単位に含む重合体であるポリアジン化合物は、二次元的な共役系に由来する半導体様の電子構造と、触媒活性点として機能するアジン環とを有しており、電極触媒として有用である。
特許文献1では、ポリアジン化合物と導電性カーボンとを組み合わせた本発明のカーボン触媒に類するハイブリッド材料を製造する方法、及び該ハイブリッド材料を電極触媒材料として応用する方法が開示されているが、該ハイブリッド材料が電極触媒として機能するためには金属元素の添加が必要であり、ポリアジン化合物と導電性カーボンのみからなる材料の電極触媒活性に関する記述はない。また、非特許文献1には、ポリアジン環化合物の酸素還元電極触媒としての応用について述べられているが、プロトン還元電極触媒としての応用については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2016035321A1
【文献】JP2017160144
【文献】WO2017050689A1
【非特許文献】
【0004】
【文献】Polymer,2017年,126巻,283-290頁
【文献】Angewante Chemie Intarnational Edition,2008年,47巻,3450-3453頁
【文献】Inorganic Chemistry,2008年,47巻,4481-4489頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、省資源低環境負荷な非金属元素のみで構成される、高活性なプロトン還元電極触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ニトリル化合物と塩基との反応により得られるポリアジン化合物を担持したカーボン触媒が、非金属触媒として良好な電気化学的プロトン還元活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明は、
(i) 一般式(1)
【0008】
【化1】
(式中、Xは窒素原子又はC-Hを表す。)で示されるアリーレン基、及び一般式(2)
【0009】
【化2】
で示されるトリアジン環を繰り返し単位として有し、分子末端に一般式(3)
【0010】
【化3】
(式中、Arは、水素原子又は炭素数4から18の単環、連結環、若しくは縮合環の含窒素芳香族炭化水素基を表す。該含窒素芳香族炭化水素基は、炭素数1から6のアルキル基若しくはシアノ基で修飾されていてもよい。)で示される末端基を有するポリアジン化合物をカーボンに担持した、カーボン触媒。
(ii)含窒素芳香族炭化水素基がピリジル基、ビピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、キノリニル基、フェナントロリニル基、シアノピリジル基、ジシアノピリジル基、カルバゾリル基、ジフェニルアミノ基である前記(i)に記載のカーボン触媒。
(iii)Arがシアノピリジル基である前記(i)又は(ii)に記載のカーボン触媒。
(iv)Arが水素原子である前記(i)又は(ii)に記載のカーボン触媒。
(v)ポリアジン化合物の熱分解点が350℃から700℃の範囲にある、前記(i)から(iv)のいずれか1項に記載のカーボン触媒 。
(vi)下記式(I)又は(II)に記載の分子構造を有するポリアジン化合物を担持した、前記(i)又は(ii)に記載のカーボン触媒。
【0011】
【0012】
【化5】
(vii)ポリアジン化合物が、ニトリル化合物と金属水酸化物塩とを混合加熱することにより製造されることを特徴とする、前記(i)から(vi)のいずれか1項に記載のカーボン触媒。
(viii)ポリアジン化合物の含有量が、カーボンに対して0.01から50重量%の範囲にある前記(i)から(vii)のいずれか1項に記載のカーボン触媒。
(ix)カーボンが、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ及び黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種類である前記(i)から(viii)のいずれか1項に記載のカーボン触媒。
に関するものである。
【0013】
また本発明は、
(x)前記(i)から(ix)のいずれか1項に記載のカーボン触媒を含む触媒電極。
(xi)下記の三工程を経ることを特徴とする、前記(x)に記載の触媒電極の製造方法。
工程1:ポリアジン化合物をカーボンに担持し、カーボン触媒を製造する工程。
工程2:カーボン触媒、結着材及び分散媒から成る触媒インクを調製する工程。
工程3:工程2で調製した触媒インクを集電体上に塗布し、加熱硬化する工程。
(xii)前記(x)に記載の触媒電極をプロトン還元極とした水素の製造法。
(xiii)前記(x)に記載の触媒電極を含む燃料電池。
に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
ポリアジン化合物を担持した本発明のカーボン触媒を、電極を構成する材料とすることで、プロトンの電気化学的還元のエネルギー効率を向上せしめることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明のカーボン触媒に担持されるポリアジン化合物に繰り返し単位として含まれるアリーレン基(1)におけるXは、窒素原子又はC-Hを表し、合成が容易である点でXはC-Hであることが好ましい。アリーレン基(1)としては、具体的には、2,3-ピリジレン基、2,4-ピリジレン基、2,5-ピリジレン基、2,6-ピリジレン基、3,4-ピリジレン基、3,5-ピリジレン基、2,4-ピリミジレン基、2,5-ピリミジレン基、4,5-ピリミジレン基又は4,6-ピリミジレン基を例示することができ、合成が容易な点で2,4-ピリジレン基、2,5-ピリジレン基、2,6-ピリジレン基又は3,5-ピリジレン基が好ましく、触媒活性に優れる点で2,4-ピリジレン基又は2,6-ピリジレン基がさらに好ましい。
【0017】
本発明のカーボン触媒に担持されるポリアジン化合物に含まれる末端基(3)は、炭素数4から18の単環、連結環、若しくは縮合環の含窒素芳香族炭化水素基を表し、具体的には、ピロリル基、ピリジル基、ターピリジニル基、ビピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、フェナントロリニル基、インドリニル基、カルバゾリル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、アクリジニル基等を例示することができる。
【0018】
該含窒素芳香族炭化水素基は、炭素数1から6のアルキル基で置換されていてもよい。該アルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、具体的にはメチル基、シクロヘキシルメチル基、エチル基、2-シクロペンチルエチル基、プロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、3-シクロプロピルプロピル基、1-メチルエチル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2-ブチル基、3-メチルブタン-2-イル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、2-メチルペンチル基、2-ペンチル基、2-メチルペンタン-2-イル基、3-ペンチル基、シクロペンチル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、ヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、シクロヘキシル基等を例示することができる。
【0019】
末端基(3)としては、高分子量の分子の合成が容易な点で、シアノ基を有する炭素数5から10の含窒素芳香族炭化水素基が好ましく、シアノピリジル基又はジシアノピリジル基がさらに好ましい。
【0020】
末端基(3)としては水素原子が好ましい。
【0021】
本発明のカーボン触媒に担持されるポリアジン化合物は、熱安定性に優れる点で、200℃から700℃の範囲に熱分解点を有することが好ましく、300℃から700℃の範囲に熱分解点を有することさらに好ましく、300℃から600℃の範囲に熱分解点を有することがことさら好ましい。
【0022】
本発明のカーボン触媒に担持されるポリアジン化合物は、以下の式(I)又は(II)に示される構造を有することが好ましい。
【0023】
【0024】
【化5】
本発明のカーボン触媒に担持されるポリアジン化合物の具体例としては、化合物(I)~(II)および以下の(A-1)から(A-36)を例示できるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【0026】
【0027】
【化8】
本発明のカーボン触媒に担持されるポリアジン化合物としては触媒活性が良い点で、(I),(II),(A-3),(A-4),(A-28)で表される化合物が好ましい。
【0028】
本発明のカーボン触媒に担持されるポリアジン化合物は、グリニャール試薬による求核置換反応(例えば、特許文献2に開示されている反応)、クロスカップリング反応(例えば、非特許文献1に開示されている反応)、ニトリル化合物の3量化によるトリアジン環形成反応等により製造することができるが、反応操作が簡便な点でトリアジン環形成反応が好ましい。トリアジン環形成反応として、ニトリル化合物を、塩化亜鉛融液と混合加熱する手法(例えば、非特許文献2に開示されている手法)、強酸と混合加熱する手法(例えば、非特許文献1に開示されている手法)、塩基と混合加熱する手法(例えば、非特許文献3に開示されている手法)などが知られているが、収率が高い点で、ニトリル化合物と塩基とを混合加熱する手法が好ましい。この際、用いるニトリル化合物は当業者の良く知る方法で製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0029】
ニトリル化合物と塩基とを混合加熱する手法にて用いる塩基は無機塩基又は有機塩基のいずれでもよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等の金属炭酸塩、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の金属酢酸塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等の金属リン酸塩、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等の金属フッ化物塩、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロピルオキシド、カリウムtert-ブトキシド等の金属アルコキシド、トリリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、N-メチルモルホリン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジエチルトルイジン、ピリジン、ピコリン等のアミン、リチウムアミド、ナトリウムアミド、カリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、ナトリウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、カリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどの金属アミドを挙げることができる。これらのうち、精製が容易である点で無機塩基が好ましく、収率がよい点で金属水酸化物がさらに好ましく、安価である点で水酸化ナトリウムがことさら好ましい。
【0030】
ニトリル化合物と塩基とを混合加熱する手法において、用いる塩基のニトリル化合物に対する当量は0.001~0.8モル当量の範囲にあることが好ましく、収率が良い点で0.02~0.20モル当量の範囲にあることがさらに好ましい。
ニトリル化合物と塩基とを混合加熱する手法において、反応収率を向上させる目的でクラウンエーテルを加えてもよい。クラウンエーテルとしては、1,4,7-トリオキサシクロナン、1,4,7,10-テトラオキサシクロドデカン、1,4,7,10,13-ペンタオキサシクロペンタデカン、1,4,7,10,13,16-ヘキサオキサシクロオクタデカン、1,4,7,10,13,16,19,22-オクタオキサシクロテトラコサン等を例示することができ、塩基が金属水酸化物である場合にはその金属イオンのイオン半径に合致したクラウンエーテルを適宜選択して用いればよい。用いるクラウンエーテルは、塩基に対して1~2当量の範囲にあることが好ましい。
【0031】
ニトリル化合物と塩基とを混合加熱する手法において、加熱温度は収率が良い点で100~400℃の範囲から適宜選ばれた温度が好ましく、150~300℃がさらに好ましい。
【0032】
次に、本発明のカーボン触媒、並びに本発明のカーボン触媒を含む触媒電極(以下、本発明の電極と称することがある。)の製造方法について説明する。
【0033】
本発明のカーボン触媒および本発明の電極は、以下の三工程を経ることで得られる。
工程1:ポリアジン化合物をカーボンに担持し、カーボン触媒を製造する工程。
工程2:カーボン触媒、結着材及び分散媒から成る触媒インクを調製する工程。
工程3:工程2で調製した触媒インクを集電体上に塗布し、加熱硬化する工程。
【0034】
工程1は、ポリアジン化合物及びカーボンを有機溶媒に分散又は溶解した後、有機溶媒を除去することで本発明のカーボン触媒を製造する工程である。
【0035】
工程1に用いるカーボンは、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ又は黒鉛等を例示することができ、2種以上のカーボンを組み合わせて用いることができる。カーボンは、触媒の活性が高い点で、アセチレンブラックであることがさらに好ましい。
工程1に用いるポリアジン化合物は、カーボンに対して材料の導電性が高い点で0.005重量%から99重量%の範囲にあることが好ましく、触媒活性が高い点で0.01重量%から50重量%重量の範囲にあることがさらに好ましい。
【0036】
工程1に用いる有機溶媒に特に制限は無く、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等のモノアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン、テトラリン、アニソール等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1-クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、γ-ラクトン等のエステル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミドを例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。ポリアジン化合物の溶解性又は分散性が良い点で、トルエン、クロロホルム、DMF、NMPが好ましく、除去が容易な点でクロロホルム又はDMFがさらに好ましい。有機溶媒の使用量に特に制限は無く、分散液におけるポリアジン化合物の含有量が、好ましくは0.01~90重量%、さらに好ましくは0.1~50重量%から適宜選ばれた含有量となる量を用いることができる。
【0037】
工程1において、触媒の活性を向上させる目的で、添加材を加えてもよい。この添加材は、3族から12族の元素を含む錯体又は塩であって、具体的には、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、白金、金等の錯体又は塩を例示することができる。
【0038】
工程1において、ポリアジン化合物等を有機溶媒に溶解又は分散する方法に制限は無く、例えば、加熱撹拌、振盪、ボールミル、超音波照射等、当業者の良く知る方法を用いることができる。ポリアジン化合物等の分散性が良い点で、加熱撹拌又は超音波照射が好ましい。
【0039】
本発明のカーボン触媒は、溶解又は分散操作の終了後に、ろ過、遠心分離等により有機溶媒を除去することで得られる。得られたカーボン触媒は必要に応じて60℃から450℃の範囲から適宜選ばれた温度にて加熱乾燥してもよく、触媒活性が向上する点で、200~400℃で加熱処理を行うことが好ましい。
【0040】
工程2は、本発明のカーボン触媒及び結着材を分散媒に分散し、本発明の電極の製造に用いる触媒インク(以下、本発明の触媒インクと称することがある。)を調整する工程であり、例えば、特許文献2に開示されている方法を用いることができる。
【0041】
工程2で用いる結着材はカーボン触媒と集電体とを結着する機能を有するものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリドなどの疎水性樹脂、セルロースファイバー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性樹脂、アンバーライト(オルガノ社製)、ナフィオン(デュポン社製)、レバチット(ランクセス社製)などの陽イオン交換樹脂を例示することができ、プロトンの伝導性に優れる点で、陽イオン交換樹脂が好ましく、ナフィオンがさらに好ましい。結着材の使用量に特に制限は無く、触媒インクにおける結着材の含有量が、好ましくは0.01~20重量%、さらに好ましくは0.01~10重量%から適宜選ばれた含有量となる量を用いることができる。
【0042】
工程2に用いる分散媒としては、水、有機溶媒、高分子分散媒等を利用することができ、分散性が良い点で有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等のモノアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン、テトラリン、アニソール等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1-クロロナフタレン等のハロゲン化炭化水素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、γ-ラクトン等のエステル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミドを例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。結着材の分散性が良い点で、水、モノアルコールが好ましく、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、又はこれらの混合溶媒がさらに好ましく、除去が容易な点でメタノール又はエタノールがことさら好ましい。分散媒の使用量に特に制限は無く、分散液におけるポリアジン化合物の含有量が、好ましくは0.01~90重量%、さらに好ましくは0.1~50重量%から適宜選ばれた含有量となる量を用いることができる。
【0043】
工程2において、本発明のカーボン触媒等を分散媒に分散させる方法としては、工程1にて例示した方法と同様のものを例示することができ、分散性が良い点で超音波照射が好ましい。分散操作後に得られた分散液は、触媒インクとして次工程に供することができる。
【0044】
工程3は、本発明の触媒インクを集電体に塗布した後、加熱硬化し、本発明の電極を得る工程である。
工程3に用いる集電体としては、白金、金、銀、ロジウム、ルテニウム等の貴金属、ステンレス、鉄、アルミ、銅、チタン等の卑金属、ガラス状カーボン、カーボン不織布などのカーボン材料が挙げられる。これらのうち、安価で耐酸性が高い点から、貴金属又はカーボン材料が好ましく、ガラス状カーボンがさらに好ましい。
【0045】
工程3にて、本発明の触媒インクを集電体に塗布する方法としては、湿式法による薄膜作製プロセスにおいて一般的な方法を用いることができる。具体的には、キャストコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、フローコーティング法、ロールコーティング法、カーテンコーティング法、バーコーティング法、超音波コーティング法、スクリーン印刷法、刷毛塗り、スポンジ塗りなどを例示することができる。安価であり、平滑な膜を作製することができる点で、キャストコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法が好ましく、簡便である点でキャストコーティング法がさらに好ましい。
【0046】
工程3における加熱硬化の温度は、本発明の触媒インクの塗膜より分散媒が揮発し、分散質からなる触媒層が形成される温度であればよく、好ましくは40~400℃、触媒の熱分解を抑制可能な点で好ましくは50~250℃の範囲から適宜選択した温度で加熱を行うことが好ましい。
【0047】
工程3における加熱硬化の時間は、本発明の触媒インクの塗膜より分散媒が揮発し、分散質からなる触媒層が形成される時間であればよく、好ましくは1分~5時間、さらに好ましくは5~30分の範囲から適宜選択した時間で焼成を行うことが好ましい。
【0048】
工程3の終了後、所望の膜厚の触媒膜を得るために工程2および3を繰り返して行ってもよい。
本発明のカーボン触媒は、非金属材料としてはプロトン還元過電圧が小さいため、省資源なプロトン還元触媒電極として利用できる。本発明のカーボン触媒は、省資源で効率よく水を電気分解することができるため、エネルギー変換の分野に応用される可能性がある。
【0049】
本発明のカーボン触媒を、水素製造装置のための電極触媒として用いる場合、該電極における集電体、導電助剤、結着剤は、用いられる電解液の種類及び電解条件に応じて、該技術分野において公知の材料を用いることができる。また、該電極の作製方法についても、該技術分野において慣行されている方法を用いることができる。
【0050】
本発明のカーボン触媒を、燃料電池の水素極として用いる場合、該電極における集電体、導電助剤、結着剤は、用いられる電解質の種類及び作動条件に応じて、該技術分野において公知の材料を用いることができる。また、該電極の作製方法についても、該技術分野において慣行されている方法を用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例、比較例及び参考例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
[1H-NMR測定]
1H-NMRの測定には、Bruker ASCEND HD(400MHz;BRUKER製)を用いた。1H-NMRは、重クロロホルム(CDCl3)を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。また、試薬類は市販品を用いた。
[赤外分光測定]
赤外分光スペクトルの測定は、粉末状の化合物を用いて、フーリエ変換型赤外分光測定装置(HORIBA,FT-720)を用いたATR法により行い、600cm-1から4000cm-1の範囲のスペクトルを測定した。
[TG/DTA測定]
熱分解温度の測定は、熱重量分析装置(日立ハイテクノロジーズ,TG/DTA-6200)を用いて、乾燥空気雰囲気下での熱重量分析により行った。粉末状の化合物(約5mg)を用いて、30℃から800℃の温度範囲、及び昇温速度10℃min-1で測定を行った。
[プロトン還元活性評価]
プロトン還元反応の活性評価は、ポテンショスタット(北斗電工,HSV-100)を用いたリニアスイープボルタンメトリーにより行った。作用極には表面に電極触媒層を形成したグラッシーカーボン電極(GC電極)、参照極には内部液を飽和塩化カリウム溶液とした銀-塩化銀電極、対極にはPtワイヤ、電解液には0.5molcm-3の硫酸水溶液を用いた。掃引範囲は0Vから-1.2V(vs.Ag/AgCl)とし、電位掃引速度を50mVsec-1 として測定を行った。
得られた電位とプロトン還元電流のプロットより、-0.2mAcm-2到達電位(Onset,[Vvs.SHE])、-5mAcm-2到達電位(E5mA,[Vvs.SHE])、Tafel slope(TS,[mVdecade-1])を算出した。
参考例-1
【0052】
【化9】
2-シアノピリミジン(200mg,1.6mmol)と水酸化ナトリウム(7.8mg, 0.20mmol)とを粉砕混合した。アルゴン雰囲気下、この混合物を220℃で4時間加熱攪拌した。反応終了後、生成物を水およびメタノールで洗浄した後、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製することで、目的の2,4,6-トリ(2-ピリミジル)-1,3,5-トリアジン(A-4)を得た(120mg,0.38mmol,11%)。
1HNMR(CDCl3):δ7.54(t,J=4.9Hz,3H),9.13(dd,J=4.9Hz,0.7Hz,6H).
参考例-2
【0053】
【化10】
6-シアノ-2,2’-ビピリジル(50mg,0.28mmol)と水酸化ナトリウム(2.3mg,0.06mmol)とを粉砕混合した。アルゴン雰囲気下、この混合物を220℃で4時間加熱攪拌した。反応終了後、生成物を水およびメタノールで洗浄することで、目的の2,4,6-トリ(2-ピリミジル)-1,3,5-トリアジン(A-28)を得た(33mg, 0.06mmol, 66%)。
1HNMR(CDCl3):δ7.37(m,3H),7.86(m,3H),8.01 (t,3H),8.25(dd,J=7.7,1.1Hz,3H),8.40(m,3H),8.62 (dd,J=7.7,1.1Hz,3H),8.70(m,3H).
参考例-3
【0054】
【化11】
水酸化カリウム(1mg,0.02mmol)、1,4,7,10,13,16-へキサオキサシクロオクタデカン(5.3mg,0.02mmol)、およびエタノール(1mL)を反応容器に入れ、室温で20分間撹拌し均一溶液とした後、エタノールを減圧留去した。反応容器に2,4-ジシアノピリジン(200mg,0.15mmol)を加え、アルゴン雰囲気下300℃で4時間加熱攪拌した。反応終了後、生成物をクロロホルム及び純水で洗浄することで、白色固体の生成物を得た(82mg)。
この生成物を粉砕した後、赤外分光スペクトルを測定したところ(
図1)、波数1580cm
-1付近にトリアジン環に由来する吸収ピーク[a1]が現れたことから、目的のポリアジン化合物(I)であることを確かめた。
【0055】
化合物(I)の熱分解温度は約400℃であった(
図3)。
参考例-4
【0056】
【化12】
2,4-ジシアノピリジン(200mg,1.55mmol)と水酸化ナトリウム(13mg,0.32mmol)とを粉砕混合した。アルゴン雰囲気下、この混合物を220℃で4時間加熱攪拌した。反応終了後、生成物をクロロホルム及び純水で洗浄することで、褐色固体の生成物を得た(152mg,76%)。
この生成物を粉砕した後、赤外分光スペクトルを測定したところ(
図3)、波数1580cm
-1付近にトリアジン環に由来する吸収ピーク[a1]が現れたことから、目的のポリアジン化合物(II)であることを確かめた。
【0057】
化合物(II)の熱分解温度は約600℃であった(
図4)。
実施例-1
カーボン触媒の製造
化合物(A-3)(1mg)およびアセチレンブラック(デンカ,Li-100,5mg)をクロロホルム(1mL)に加えた後、超音波分散した。分散質をろ取した後、真空乾燥することで、化合物(A-3)を担持したカーボン触媒を得た(5mg)。
触媒インクの調製
化合物(A-3)を担持したカーボン触媒(5mg)、ナフィオン分散液(50μL)をエタノール(950μL)に懸濁し、超音波分散することで触媒インクを作製した。
カーボン触媒を含む電極の作製
この触媒インク(6μL)をGC極にキャストした後、これを60℃で乾燥することで、GC極上に電極触媒層を形成した。
プロトン還元活性評価
電極触媒層を形成したGC極のリニアスイープボルタンメトリー(
図7)より、プロトン還元触媒活性を表1に示した。
実施例-2
実施例-1に記載の方法に則り、化合物(A-3)の代わりに化合物(A-4)を用いてカーボン触媒を製造した。プロトン還元触媒活性を表1および
図7に示した。
実施例-3
実施例-1に記載の方法に則り、化合物(A-3)の代わりに化合物(A-28)を用いてカーボン触媒を製造した。プロトン還元触媒活性を表1および
図7に示した。
実施例-4
実施例-1に記載の方法に則り、化合物(A-3)の代わりに化合物(I)を用いてカーボン触媒を製造した。赤外分光スペクトルを測定したところ、ポリアジン化合物の担持を確認した(
図5)。プロトン還元触媒活性を表1および
図8に示した。
実施例-5
実施例-1に記載の方法に則り、化合物(A-3)の代わりに化合物(II)を用いてカーボン触媒を製造した。赤外分光スペクトルを測定したところ、ポリアジン化合物の担持を確認した(
図6)。プロトン還元触媒活性を表1および
図8に示した。
比較例-1
実施例1に記載の方法に則り、カーボン触媒の代わりにアセチレンブラック(デンカ、Li-100)を用いた。プロトン還元触媒活性を表1および
図7に示した。
比較例-2
実施例1に記載の方法に則りカーボン触媒を製造した後、200℃で4時間のアニーリングを行った。プロトン還元触媒活性を表1に示した。
比較例-3
先行例との比較
【0058】
【化13】
アルゴン雰囲気下、反応容器にトリフルオロメタンスルホン酸(1.70g,11.3mmol)を加えた後、100℃に加熱した。加熱撹拌しながら、1,4-ジシアノベンゼン(200mg,0.15mmol)のジクロロメタン溶液(20mL)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で4時間加熱撹拌した後、反応容器にエタノール(100mL)を加えた。生じた析出物をろ取し、エタノール及びDMFで洗浄することで、化合物(C)を得た(124mg,62%)。
実施例1に記載の方法に則り、化合物(A-3)の代わりに化合物(C)を用いてカーボン触媒を製造した。プロトン還元触媒活性を表1および
図8に示した。
【0059】
【表1】
実施例1~5と比較例1より、種種のポリアジン化合物を担持したカーボン触媒のプロトン還元活性と、未担持のカーボンの触媒活性を比較した。Onset、E
5mAが上昇したことから、ポリアジン化合物を担持したカーボン触媒(実施例1~5)は、プロトン還元反応の触媒活性を有することがわかった。また、E
5mA
が上昇したことから、ポリアジン化合物(II)を担持したカーボン触媒(実施例5)は高電流域でもプロトン還元反応の触媒活性を有することがわかった。
実施例1と比較例2より、化合物(A-3)を担持したカーボン触媒について、加熱処理の有無を比較した。カーボン触媒の加熱処理によって、Onsetが上昇した。加熱処理によって、プロトン還元活性が向上することがわかった。高温長時間でのアニーリングの効果により、カーボン担体とポリアジン化合物間の界面抵抗が減少したことに因ると考えられる。
実施例5と比較例3より、非特許文献1で報告されたポリアジン化合物(C)を担持したカーボン触媒と、本発明のカーボン触媒とを比較した。ポリアジン化合物(II)を担持したカーボン触媒の方が、Onset、E
5mAともに高いことから、本発明のカーボン触媒を担持した電極は、既知の含トリアジンポリマー材料よりも良好なプロトン還元触媒活性を有することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】ポリアジン化合物(I)の赤外分光スペクトルである。
【
図2】ポリアジン化合物(I)の空気雰囲気下における熱重量曲線である。
【
図3】ポリアジン化合物(II)の赤外分光スペクトルである。
【
図4】ポリアジン化合物(II)の空気雰囲気下における熱重量曲線である。
【
図5】カーボン担体、ポリアジン化合物(I)およびポリアジン化合物(I)を担持したカーボン触媒の赤外分光スペクトルである。
【
図6】カーボン担体、ポリアジン化合物(II)およびポリアジン化合物(II)を担持したカーボン触媒の赤外分光スペクトルである。
【
図7】実施例1、実施例2、実施例3および比較例1に記載の触媒電極の、プロトン還元反応に対応するリニアスイープボルタモグラムである。
【
図8】実施例4、実施例5、比較例1および比較例3に記載の触媒電極の、プロトン還元反応に対応するリニアスイープボルタモグラムである。