(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】粉末増粘剤用改質剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20241213BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20241213BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20241213BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20241213BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20241213BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C09K3/00 103H
C09K3/00 103G
C09K3/00 ZAB
C04B24/38 C
C04B24/38 D
C04B24/02
C04B24/04
C04B24/12 A
C04B24/18 B
(21)【出願番号】P 2020098517
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】谷所 美明
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-001919(JP,A)
【文献】特開2014-125397(JP,A)
【文献】特開平07-187843(JP,A)
【文献】特開2016-033097(JP,A)
【文献】特開2016-003152(JP,A)
【文献】特開昭61-281055(JP,A)
【文献】特開2001-187733(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129257(WO,A1)
【文献】特開2008-115376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素原子と、水素原子と、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子とを含み、環構造を持たず、デイビス法によるHLB値が8以上である化合物〔以下、(A)成分という〕を含有する、粉末増粘剤用改質剤であって、
(A)成分が、官能基として水酸基のみを有する多価アルコール
、官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩
、アミノカルボン酸及びその塩、アミノホスホン酸及びその塩、アミノリン酸及びその塩
、ポリアミン及びその塩、
並びにポリイミ
ンから選択される化合物であり、
水硬性組成物用の粉末増粘剤に用いられる、
粉末増粘剤用改質剤。
【請求項2】
(A)成分が、官能基として水酸基のみを有する多価アルコール、官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩
、アミノカルボン酸及びその塩
、並びにポリアミン及びその
塩から選択される化合物である、請求項1に記載の粉末増粘剤用改質剤。
【請求項3】
(A)成分が、アミノカルボン酸及びその塩から選択される化合物である、請求項1又は2に記載の粉末増粘剤用改質剤。
【請求項4】
(A)成分が、アミノ酸及びその塩から選択される化合物である、請求項1~3の何れか1項に記載の粉末増粘剤用改質剤。
【請求項5】
(A)成分のHLBが8以上3,000以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の粉末増粘剤用改質剤。
【請求項6】
粉末増粘剤が、セルロース系高分子化合物、及び主骨格にエーテル結合を有する高分子化合物から選択される粉末増粘剤である、請求項1~5の何れか1項に記載の粉末増粘剤
用改質剤。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の粉末増粘剤用改質剤と、水硬性組成物用粉末増粘剤と、水とを含有する、水硬性組成物用増粘剤組成物であって、
形態がスラリーであり、粉末増粘剤の少なくとも一部が固体状態で分散している、
水硬性組成物用増粘剤組成物。
【請求項8】
20℃の粘度が15mPa・s以上1,000mPa・s以下である、請求項7に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物。
【請求項9】
粉末増粘剤を0.1質量%以上50質量%以下含有する、請求項7又は8に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物。
【請求項10】
(A)成分/粉末増粘剤の質量比が0.001以上20以下である、請求項7~9の何れか1項に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物。
【請求項11】
(A)炭素原子と、水素原子と、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子とを含み、環構造を持たず、デイビス法によるHLB値が8以上である化合物〔以下、(A)成分という〕と、水硬性組成物用粉末増粘剤と、水とを混合する、水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法であって、
(A)成分が、官能基として水酸基のみを有する多価アルコール
、官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩
、アミノカルボン酸及びその塩、アミノホスホン酸及びその塩、アミノリン酸及びその塩
、ポリアミン及びその塩、
並びにポリイミ
ンから選択される化合物である、
水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1~6の何れか1項に記載の粉末増粘剤用改質剤と、水硬性組成物用粉末増粘剤と、水とを混合する、請求項11に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法。
【請求項13】
水硬性組成物用粉末増粘剤を、混合する成分の全量中、0.1質量%以上50質量%以下の割合で混合する、請求項11又は12に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法。
【請求項14】
(A)成分と水硬性組成物用粉末増粘剤とを、(A)成分/水硬性組成物用粉末増粘剤の質量比が0.001以上20以下となるように混合する、請求項11~13の何れか1項に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項7~10の何れか1項に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物と、水硬性粉体と、水とを混合する、水硬性組成物の製造方法。
【請求項16】
水硬性組成物用増粘剤組成物と水とを、水硬性組成物用増粘剤組成物/水の質量比が0.01以上10以下となるように混合する、請求項15に記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項17】
水硬性組成物用増粘剤組成物と水とを、水硬性組成物用増粘剤組成物中の(A)成分/水の質量比が化合物(A)/水の質量比が0.001以上0.2以下となるように混合する、請求項15又は16に記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項18】
水と水硬性粉体とを、水/水硬性粉体比が、20質量%以上100質量%以下となるよ
うに混合する、請求項15~17の何れか1項に記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項19】
請求項15~18の何れか1項に記載の製造方法で水硬性組成物を製造し、水硬性組成物を型枠に充填して硬化させる、硬化体の製造方法。
【請求項20】
水硬性組成物用粉末増粘剤、水、及び(A)炭素原子と、水素原子と、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子とを含み、環構造を持たず、デイビス法によるHLB値が8以上である化合物〔以下、(A)成分という〕から、水硬性組成物用増粘剤組成物を調製し、当該水硬性組成物用増粘剤組成物中の水の量よりも多い量の水を含む水硬性組成物に前記水硬性組成物用増粘剤組成物を添加して、水硬性組成物を増粘させる、水硬性組成物の増粘方法であって、
(A)成分が、官能基として水酸基のみを有する多価アルコール
、官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩
、アミノカルボン酸及びその塩、アミノホスホン酸及びその塩、アミノリン酸及びその塩
、ポリアミン及びその塩、
並びにポリイミ
ンから選択される化合物である、
水硬性組成物の増粘方法。
【請求項21】
水硬性組成物用粉末増粘剤を、水硬性組成物用増粘剤組成物の調製に用いる成分の全量中、0.1質量%以上50質量%以下で用いる、請求項20に記載の水硬性組成物の増粘方法。
【請求項22】
(A)成分と水硬性組成物用粉末増粘剤とを、(A)成分/水硬性組成物用粉末増粘剤の質量比が0.001以上20以下で用いる、請求項20又は21に記載の水硬性組成物の増粘方法。
【請求項23】
水硬性組成物用増粘剤組成物を、水硬性組成物中の水との質量比である、水硬性組成物用増粘剤組成物/水が0.01以上10以下となるように添加する、請求項20~22の何れか1項に記載の水硬性組成物の増粘方法。
【請求項24】
水硬性組成物用増粘剤組成物を、水硬性組成物用増粘剤組成物中の(A)成分と水硬性組成物中の水との質量比である、水硬性組成物用増粘剤組成物中の(A)成分/水が0.001以上0.2以下となるように添加する、請求項20~23の何れか1項に記載の水硬性組成物の増粘方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末増粘剤用改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
増粘剤は、食品、化粧品、その他の工業製品に広く用いられる化合製品であり、溶媒、分散媒や分散質を保持、拘束することにより系の粘度を高め(増粘)、各々の用途に求められる適切なテクスチャの実現や、系の安定性の向上に貢献している。
【0003】
溶媒、分散媒や分散質を保持、拘束する増粘剤の思想から、その分子設計は、溶媒、分散媒や分散質に対して相互作用力を示す構成単位を有することが考慮される。代表的な増粘剤としては、セルロースエーテル系増粘剤、アクリル系増粘剤、ポリビニルアルコール系増粘剤、ポリオキシエチレン系増粘剤、粘土系増粘剤等が挙げられる。
【0004】
また、斯様な増粘剤は、溶媒、分散媒に溶解、分散して増粘性を発現するため、その多くが、ハンドリングや輸送の観点から、溶媒、分散媒を極力取り除いた、粉末状の製品として流通することが多い。
【0005】
特許文献1には、ペクチン又はアルギン酸の金属イオンゼリーを10~70重量%含有したゼリーが開示されている。
特許文献2には、カルボキシメチルセルロース、平均分子量が約1000g/lより小さいポリエチレングリコール及び不活性な粉末又は分散液を、それぞれ、所定の割合で含有するカルボキシメチルセルローススラリーが開示されている。
特許文献3には、メチル、ヒドロキシエチル及びヒドロキシプロピルからなる群より選ばれた非イオン性置換基で非イオン性セルロースエーテルを水溶性とするのに十分な程度に置換され、そして約0.2重量%と該セルロースエーテルを1重量%より少ない程度に水溶性とする量との間の量において10~24炭素原子を有する長鎖アルキル基で更に置換されている非イオン性セルロースエーテルが開示されている。
特許文献4には、所定の接着剤組成物と所定の非繊維状化合物とを含む、水と混合して、だれ抵抗性接着剤組成物を生成できる、組成物が開示されている。
特許文献5には、約0.01~1000μの粒子寸法及び約10000~2×106g/グラム分子の分子量を有する粒状水溶性セルロースエーテル、ポリマーに対して少なくとも実質的に非溶剤である酸素化有機キャリヤー、並びに粒状増粘剤を、それぞれ、所定の割合で含み、実質的に塩を含有せず、実質的に水を含有せず、且つ少なくとも1週間安定である。スラリー組成物が開示されている。
特許文献6には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性セルロース誘導体、IOB値(無機性値/有機性値)が3.4以下のエタノール及び/又は多価アルコールを、それぞれ、所定の割合で含有する粘性洗浄剤組成物が開示されている。
特許文献7には、高分子化合物及びアミノ酸類を含有するコンタクトレンズ用眼科組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-52252号公報
【文献】特表平7-505426号公報
【文献】特開昭55-110103号公報
【文献】特開昭53-104641号公報
【文献】特表2001-503101号公報
【文献】特再表2014/129257号公報
【文献】特開2001-187733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粉末増粘剤は、使用に際して、溶媒や分散媒に溶解ないし分散させて用いられる。その際、粉末増粘剤が継子(フロック)を形成し、あるいは、急激に膨潤、増粘し、粉末増粘剤スラリーの流動性が損なわれるという課題があった。また、流動性の乏しい粉末増粘剤スラリーによって作製される混合物では、混合、分散の不良によって均質な混合物を得ることが困難となる、もしくは、調整に時間を要することが少なくない。粉末増粘剤スラリーの流動性を向上させるには、溶媒ないし分散媒の量を増やすことが考えられるが、有効分の割合が小さい希薄なスラリーとなるため、増粘効果は著しく低下する。増粘効果を維持しようとすると希薄なスラリーの使用量を増やす必要があるため、作業性などの観点から実使用上好ましくない。とりわけ水を増粘させる粉末増粘剤で、水を含むスラリーを調製する場合は、スラリーの流動性は著しく損なわれるため、粉末増粘剤の濃度が高い製品を提供することが困難となる。
【0008】
本発明は、粉末増粘剤をスラリーにした際に当該スラリーの流動性を向上させ、一方で、そのスラリーを用いて所定の製造物を得る際には本来の増粘効果を速やかに発現させる、粉末増粘剤用改質剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)炭素原子と、水素原子と、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子とを含み、炭素原子と水素原子とからなる環構造を持たず、デイビス法によるHLB値が8以上である化合物〔以下、(A)成分という〕を含有する、粉末増粘剤用改質剤に関する。
【0010】
また、本発明は、前記本発明の粉末増粘剤用改質剤と、粉末増粘剤と、水とを含有する、増粘剤組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、(A)成分と、粉末増粘剤と、水とを混合する、増粘剤組成物の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、前記本発明の増粘剤組成物と、水硬性粉体と、水とを混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、前記本発明の製造方法で水硬性組成物を製造し、水硬性組成物を型枠に充填して硬化させる、硬化体の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、粉末増粘剤と、水と、(A)成分とから、増粘剤組成物を調製し、当該増粘剤組成物中の水の量よりも多い量の水を含む対象物に前記増粘剤組成物を添加して、対象物を増粘させる、増粘方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粉末増粘剤をスラリーにした際に当該スラリーの流動性を向上させ、一方で、そのスラリーを用いて所定の製造物を得る際には本来の増粘効果を速やかに発現させる、粉末増粘剤用改質剤が提供される。本発明の粉末増粘剤用改質剤を用いると、流動性に優れ、粉末増粘剤を高濃度で含有し、増粘効果が速やかに発現する増粘剤スラリーを調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、一般的な粉末増粘剤と水を含むスラリーに、同一分子内に二つ以上の非環状炭化水素に共有結合したヘテロ原子を有し、デイビス法によって算出されるHLB値が8以上である化合物を配合することで、継子(フロック)の形成や急激な膨潤・増粘が抑制され、流動性に優れる粉末増粘剤スラリーが得られ、そしてこの粉末増粘剤スラリーは対象物に用いた場合に優れた増粘効果が速やかに発現することを見出した。
このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。水系増粘剤の多くは系を効率的に増粘させるため、水分子と相互作用する親水的なユニット及び、増粘剤(分子)そのもの、もしくは分散質と相互作用する疎水的なユニットにより構成されている。本発明の化合物は、キレート構造を形成しうる孤立電子対を有するヘテロ原子及びフレキシブルな構造、適当な親疎水性(親疎水性バランス;HLB)を有することから、水系増粘剤の親水的なユニットと水素結合的な相互作用力により複合体を形成し、水分子との相互作用を緩和することで、継子(フロック)の形成や急激な膨潤、増粘が抑制されると考えられる。
また、本発明化合物により作成される流動性に優れる粉末増粘剤スラリーが、水中や水硬性組成物スラリーといった実施系では増粘性を速やかに発現できるメカニズムとしては必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
水系増粘剤の親水的なユニットと水素結合的な相互作用力により複合体を形成した該化合物は、粉末増粘剤スラリーとして水系の実施系に添加されると、水分子に対する当該化合物の割合が大幅に低下し、拡散により水系増粘剤の親水的なユニットと当該化合物との相互作用力が相対的に弱くなることで、該化合物により改質されていた粉末増粘剤が水分子と再び強く相互作用するようになり、実施系で増粘作用を速やかに発現することができると考えられる。
【0017】
近年、持続的な社会実現のためにSDGsが提唱されている。本発明は、粉末増粘剤の混合工程の労務節減、スラリーの自己充填性の向上による省力化などを実現でき、例えば、SDGsのNo.8、9、13、15などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【0018】
[粉末増粘剤用改質剤]
本発明の粉末増粘剤用改質剤は、(A)成分を含有する。(A)成分は1種類以上を含有することができる。
(A)成分のヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられる。(A)成分は、好ましくはヘテロ原子として、酸素原子、窒素原子、及びリン原子から選ばれる原子を含む化合物である。
【0019】
(A)成分としては、アルコール、エーテル、有機酸、及びアミンから選択される化合物が挙げられる。
(A)成分としては、官能基として水酸基のみを有する多価アルコール、多価アルコールエーテル、官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩、ヒドロキシカルボン酸及びその塩、アミノカルボン酸及びその塩、アミノホスホン酸及びその塩、アミノリン酸及びその塩、アルカノールアミン及びその塩、ポリアミン及びその塩、ポリイミン並びに高分子カルボン酸及びその塩から選択される化合物が挙げられる。
(A)成分としては、官能基として水酸基のみを有する多価アルコール、官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩、ヒドロキシカルボン酸及びその塩、アミノカルボン酸及びその塩、アルカノールアミン及びその塩、ポリアミン及びその塩並びに高分子カルボン酸及びその塩から選択される化合物が挙げられる。
【0020】
(A)成分が酸性化合物である場合、塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属、アンモニウム塩などが挙げられる。アルカリ金属塩は、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
(A)成分が塩基性化合物である場合、塩は、有機酸塩、無機酸塩が挙げられる。有機酸は、(A)成分に該当するものでも、該当しないものでも、どちらでもよい。
なお、本発明では、例えば、クエン酸とアルカノールアミンとの塩のように、(A)成分に属する複数の化合物からなる化合物(塩、エステル、エーテルなど)は、当該化合物全体のHLBが8以上であれば、1つの(A)成分として取り扱うものとする。
【0021】
官能基として水酸基のみを有する多価アルコールとしては、グリコール及びその誘導体、ビニルアルコール及びその誘導体、グリセリン、エリトリトール、マンニトール、ソルビトールおよびキシリトール等の糖アルコール及びその誘導体が挙げられる。
【0022】
多価アルコールエーテルとしては、グリコールエーテル、グリセリルエーテル、ビニルアルコールエーテル、糖アルコールエーテル、グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0023】
官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩としては、コハク酸及びその塩、フマル酸及びその塩、マレイン酸及びその塩、アジピン酸及びその塩等が挙げられる。
【0024】
ヒドロキシカルボン酸及びその塩としては、グリコール酸及びその塩、グリセリン酸及びその塩、乳酸及びその塩、グルコン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、リンゴ酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩、クエン酸及びその塩等が挙げられる。
【0025】
アミノカルボン酸及びその塩としては、アミノ酸及びその塩、例えば、α-アミノ酸及びその塩、β-アミノ酸及びその塩、γ-アミノ酸及びその塩、6-アミノヘキサン酸及びその塩、ペプチド及びその塩等が挙げられる。
(A)成分として、アミノカルボン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物、更にアミノ酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物を含有する粉末増粘剤用改質剤は、本発明の好ましい態様である。アミノ酸は分子量が、75以上、更に85以上、そして、100,000以下、更に1,000以下のものが挙げられる。
【0026】
アミノカルボン酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物、更にアミノ酸及びその塩から選ばれる1種以上の化合物を含有する粉末増粘剤用改質剤が、本発明の好ましい態様であるメカニズムとしては、必ずしも定かではないが、電離により陰イオン性、及び陽イオン性となる官能基を同一分子中に有する両性分子であることにより、粉末増粘剤近傍の環境に依らず、効率的に水素結合を形成できるためであると考えられる。
【0027】
アミノホスホン酸及びその塩としては、アミノアルキルホスホン酸及びその塩等が挙げられる。
【0028】
アミノリン酸及びその塩としては、O-ホスホリルアルカノールアミン及びその塩等が挙げられる。
【0029】
アルカノールアミン及びその塩としては、メタノールアミン及びその塩、エタノールアミン及びその塩、プロパノールアミン及びその塩、ジエタノールアミン及びその塩、トリエタノールアミン及びその塩、N-メチルエタノールアミン及びその塩、N,N-ジメチル-2-アミノエタノール及びその塩等が挙げられる。アルカノールアミンは、官能基として水酸基のみ、又は水酸基及びアミノ基のみを有するものが好ましい。
【0030】
ポリアミン及びその塩としては、直鎖状又は分岐状ポリエチレンイミン重合体又は共重合体及びその塩、アルキルアミンエピクロルヒドリン共重合体及びその塩、アリルアミン重合体又は共重合体及びその塩、ジアリルアミン重合体又は共重合体及びその塩、アルキルアリルアミン重合体又は共重合体及びその塩、アルキルジアリルアミン重合体又は共重合体及びその塩、アリルアミンアミド硫酸重合体又は共重合体及びその塩、ジアリルアミンアミド硫酸重合体又は共重合体及びその塩、アルキルジアリルアミンアミド硫酸重合体又は共重合体及びその塩、ジアリルジアルキルアンモニウムクロリド重合体又は共重合体、ジアリルジアルキルアンモニウムエチルサルフェート重合体又は共重合体等が挙げられる。
【0031】
上記ポリアミン及びその塩に関して、重量平均分子量は、粉末増粘剤粒子の分散性の観点から、100以上、好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上、そして、スラリー粘度の観点から、100,000以下、好ましくは50,000以下、より好ましくは10,000以下である。この重量平均分子量は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定されたものである。
※GPC条件
カラム:α-M(東ソー製)2本連結
溶離液:0.15mol/L硫酸Na、1%酢酸水溶液
流速:1.0mL/min
温度:40℃
検出器:RI
分子量標準:プルラン
【0032】
ポリイミンは、当業者が入手可能なものから、HLBが8以上のものを選択して使用できる。
【0033】
高分子カルボン酸及びその塩としては、(1)ポリアクリル酸及びその塩、(2)ポリメタクリル酸及びその塩、(3)アクリル酸-無水マレイン酸共重合物又はその塩、(4)アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸から選ばれる単量体と、アクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸から選ばれる化合物にエチレンオキシドが付加した構造を有する単量体との共重合物並びにその塩、(5)アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸から選ばれる単量体と、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール及びイソプレニルアルコールから選ばれる化合物にエチレンオキシドが付加した構造を有する単量体との共重合物並びにその塩、等が挙げられる。
【0034】
高分子カルボン酸及びその塩の重量平均分子量は、粉末増粘剤粒子の分散性の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは5,000以上、より更に好ましくは10,000以上、そして、スラリー粘度の観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下、更に好ましくは50,000以下である。この重量平均分子量は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定されたものである。
※GPC条件
装置:GPC(HLC-8320GPC)東ソー株式会社製
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(単分散のポリエチレングリコール:分子量24,000、46,000、87,500、145,000、250,000)
【0035】
(A)成分は、分散媒との親和性の観点から、デイビス法によるHLB値が8以上である。(A)成分のHLBは、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、スラリー粘度の観点から、好ましくは3,000以下、より好ましくは1,500以下、更に好ましくは500以下である。以下、HLB値という場合、特記しない限りデイビス法によるHLB値を意味する。
【0036】
(A)成分が官能基として水酸基のみを有する多価アルコールの場合、HLBは、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは1,000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは100以下である。
【0037】
(A)成分が多価アルコールエーテルの場合、HLBは、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは1,000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは100以下である。
【0038】
(A)成分が官能基としてカルボキシ基のみを有する多価カルボン酸及びその塩の場合、HLBは、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは75以下、更に好ましくは50以下である。
【0039】
(A)成分がヒドロキシカルボン酸及びその塩の場合、HLBは、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは40以下である。
【0040】
(A)成分がアミノカルボン酸及びその塩の場合、HLBは、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは50以下である。
【0041】
(A)成分がアミノホスホン酸及びその塩の場合、HLBは、8以上、好ましくは16以上、より好ましくは24以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは60以下である。
【0042】
(A)成分がアミノリン酸及びその塩の場合、HLBは、8以上、好ましくは12以上、より好ましくは16以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは40以下である。
【0043】
(A)成分がアルカノールアミン及びその塩の場合、HLBは、8以上、好ましくは9.5以上、より好ましくは9以上、そして、好ましくは60以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは20以下である。
【0044】
(A)成分がポリアミン及びその塩の場合、HLBは、好ましくは10以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは100以上、そして、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下、更に好ましくは1,000以下である。
【0045】
(A)成分が高分子カルボン酸及びその塩の場合、HLBは、好ましくは10以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは100以上、そして、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下、更に好ましくは1,000以下である。
【0046】
本発明の粉末増粘剤用改質剤は、(A)成分を、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは30質量%以下含有する。
本発明の粉末増粘剤用改質剤は、(A)成分からなるものであってもよい。
【0047】
本発明の粉末増粘剤用改質剤は、種々の粉末増粘剤を対象とすることができる。例えば、粉末増粘剤としては、セルロース系高分子化合物、及びエーテル系高分子化合物から選択される粉末増粘剤が挙げられる。
【0048】
セルロース系高分子化合物としては、疎水変性セルロース、特に、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースに代表される、アルキル又はヒドロキシアルキル変性セルロースが挙げられる。
【0049】
エーテル系高分子化合物としては、アルキレングリコール、例えば、エチレングリコールの重合体又は共重合体が挙げられ、該化合物がエチレングリコール重合体の場合、親疎水性の観点から、重量平均分子量は、100,000以上10,000,000以下であることが好ましい。
【0050】
その他の粉末増粘剤として、疎水変性されたセルロース系高分子化合物によって疎水変性された、ベントナイトやモンモリロナイト等の粘土鉱物が挙げられる。
【0051】
[増粘剤組成物]
本発明の増粘剤組成物は、本発明の粉末増粘剤用改質剤と、粉末増粘剤と、水とを含有する。本発明の増粘剤組成物は、(A)成分と、粉末増粘剤と、水とを含有する増粘剤組成物であってよい。
本発明の増粘剤組成物には、本発明の粉末増粘剤用改質剤で述べた事項を適宜適用することができる。(A)成分と粉末増粘剤の具体例及び好ましい態様も、本発明の粉末増粘剤用改質剤と同じである。
本発明の増粘剤組成物は、スラリーであってよい。スラリーは、粉末増粘剤の少なくとも一部が固体状態で分散しているものが挙げられる。
【0052】
本発明の増粘剤組成物は、作業性及び使用系における粘性の観点から、20℃の粘度が、好ましくは15mPa・s以上、より好ましくは50mPa・s以上、更に好ましくは100mPa・s以上、そして、好ましくは1,000mPa・s以下、より好ましくは750mPa・s以下、更に好ましくは500mPa・s以下である。この粘度は、AntonPaar社製レオメータPhysica MCR301により、直径25mmのプレート治具を用いて、ギャップ1mm、回転数600rpm、20℃で測定されたものである。
【0053】
本発明の対象とする粉末増粘剤としては、水を増粘させる増粘剤が好ましい。更には、アルカリ性の水を増粘させる増粘剤が好ましい。
本発明の対象とする粉末増粘剤としては、濃度2質量%、pH12の水溶液の20℃で測定した粘度が100mPa・s以上、更に500mPa・s以上、更に1,000mPa・s以上、そして、100,000mPa・s以下、更に75,000mPa・s以下、更に50,000mPa・s以下のものが挙げられる。この粘度は、1mol/L 水酸化ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社)によりpH12に調整した水に、粉末増粘剤を濃度2質量%で溶解させた水溶液について、上記増粘剤組成物の粘度と同様に測定されたものである。
【0054】
本発明の増粘剤組成物は、作業性及び使用系における粘性の観点から、粉末増粘剤を、例えば0.1質量%以上、更に1質量%以上、更に5質量%以上、そして、50質量%以下、更に35質量%以下、更に20質量%以下含有する。
【0055】
本発明の増粘剤組成物は、スラリーの流動性及び作業性の観点から、(A)成分/粉末増粘剤の質量比が、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下である。
【0056】
本発明の増粘剤組成物は、水を含有する。水は組成物の残部であり、増粘剤組成物の組成が100質量%となる量で用いられる。本発明の増粘剤組成物は、水を、例えば、5質量%以上、更に30質量%以上、更に60質量%以上、そして、99質量%以下、更に95質量%以下、更に90質量%以下含有する。
【0057】
本発明の増粘剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で任意成分を含有することができる。任意成分としては、例えば、セメント分散剤、水溶性高分子化合物、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張材、防水剤、遅延剤、急結剤、起泡剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、液体増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、防腐剤、消泡剤、防錆剤が挙げられる。
【0058】
本発明の増粘剤組成物は、種々の対象物の増粘に使用できる。例えば、本発明の増粘剤組成物は、水硬性組成物、水質浄化組成物、塗料組成物、電子材料組成物、研磨組成物、吐出組成物、食品組成物、飲料組成物、飼料組成物、医薬用組成物、衛生用組成物に使用できる。
【0059】
本発明の増粘剤組成物としては、(A)成分と、粉末増粘剤と、水とを含有する増粘剤組成物であって、
粉末増粘剤は、濃度2質量%、pH12の水溶液の20℃で測定した粘度が100mPa・s以上であり、
20℃下で測定した粘度が15mPa・s以上1,000mPa・s以下である、
増粘剤組成物が挙げられる。
更に、本発明の増粘剤組成物としては、(A)成分と、粉末増粘剤と、水とを含有する増粘剤組成物であって、
粉末増粘剤を5質量%以上50質量%以下含有し、
粉末増粘剤は、濃度2質量%、pH12の水溶液の20℃で測定した粘度が100mPa・s以上であり、
20℃下で測定した粘度が15mPa・s以上1,000mPa・s以下である、
増粘剤組成物が挙げられる。
【0060】
[増粘剤組成物の製造方法]
本発明の増粘剤組成物の製造方法は、(A)成分と、粉末増粘剤と、水とを混合する、増粘剤組成物の製造方法である。
本発明の増粘剤組成物の製造方法には、本発明の粉末増粘剤用改質剤及び増粘剤組成物で述べた事項を適宜適用することができる。(A)成分と粉末増粘剤の具体例及び好ましい態様も、本発明の粉末増粘剤用改質剤と同じである。
【0061】
本発明の増粘剤組成物の製造方法では、本発明の粉末増粘剤用改質剤と、粉末増粘剤と、水とを混合することができる。
【0062】
本発明の増粘剤組成物の製造方法では、スラリーの均一性の観点から、粉末増粘剤を、混合する成分の全量中、例えば0.1質量%以上、更に1質量%以上、更に5質量%以上、そして、50質量%以下、更に35質量%以下、更に20質量%以下の割合で混合することができる。
【0063】
本発明の増粘剤組成物の製造方法では、スラリーの流動性及び均一性の観点から、(A)成分と粉末増粘剤とを、(A)成分/粉末増粘剤の質量比が、例えば0.001以上、更に0.01以上、更に0.1以上、そして、20以下、更に10以下、更に5以下となるように混合する。
【0064】
(A)成分と、粉末増粘剤と、水との混合は順序を問わないが、(A)成分と粉末増粘剤を予め混合した後、水を加え更に混合することが好ましい。
【0065】
[水硬性組成物の製造方法]
本発明の水硬性組成物の製造方法は、本発明の増粘剤組成物と、水硬性粉体と、水とを混合する、水硬性組成物の製造方法である。
本発明の水硬性組成物の製造方法には、本発明の粉末増粘剤用改質剤、増粘剤組成物及び増粘剤組成物の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。(A)成分と粉末増粘剤の具体例及び好ましい態様も、本発明の粉末増粘剤用改質剤と同じである。
【0066】
水硬性粉体は、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、セメントが挙げられる。セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)などが挙げられる。これらの中でも、水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントがより好ましい。
【0067】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、クリンカアッシュ、ボトムアッシュ、スーパーアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、クリンカアッシュ、ボトムアッシュ、スーパーアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。また、ベントナイト等の粘土を含んでいてもよい。
【0068】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、水と水硬性粉体とを、水/水硬性粉体比が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、そして、好ましくは200質量%以下、より好ましくは50質量%以下となるように混合する。ここで、水/水硬性粉体比(W/P)は、水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/水硬性粉体×100で算出される。水/水硬性粉体比は、水和反応により硬化する物性を有する粉体の量に基づいて算出される。水硬性粉体がセメントである場合、W/PがW/Cと表記される場合がある。なお、水硬性粉体が、セメント等の水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量%等においても同様である。
【0069】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、水硬性組成物の均一性の観点から、増粘剤組成物と水とを、増粘剤組成物/水の質量比が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは1以上、そして、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下となるように混合する。
【0070】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、水硬性組成物の均一性の観点から、増粘剤組成物と水とを、増粘剤組成物中の(A)成分/水の質量比が、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上、更に好ましくは0.01以上、そして、好ましくは9以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以下となるように混合する。
【0071】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、本発明の効果を損なわない範囲で任意成分を混合することができる。任意成分としては、例えば、セメント分散剤、水溶性高分子化合物、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張材、防水剤、遅延剤、急結剤、起泡剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、液体増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、硬化促進剤、防腐剤、消泡剤、防錆剤が挙げられる。
【0072】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、本発明の増粘剤組成物と、水硬性粉体と、水との混合は順序を問わないが、好ましくは(A)成分と粉末増粘剤を予め混合した後、水を加え更に混合したものを水硬性粉体に添加する、あるいは、(A)成分と粉末増粘剤と水硬性粉体を予め混合した後、水を加え更に混合することが好ましい。
【0073】
水硬性組成物は、例えば、モルタル、コンクリートが挙げられる。また、水硬性組成物は、ボックスカルバート(壁)用、橋梁下部工用、トンネル覆工用、海洋構造物用、PC構造物用、地盤改良用、UHPC用、セルフレベリング材用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である
【0074】
[硬化体の製造方法]
本発明の硬化体の製造方法は、本発明の製造方法で水硬性組成物を製造し、水硬性組成物を型枠に充填して硬化させる、硬化体の製造方法である。
本発明の硬化体の製造方法には、本発明の粉末増粘剤用改質剤、増粘剤組成物、増粘剤組成物の製造方法、及び水硬性組成物の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。(A)成分と粉末増粘剤の具体例及び好ましい態様も、本発明の粉末増粘剤用改質剤と同じである。
【0075】
本発明では、本発明の製造方法で製造した水硬性組成物を、未硬化の状態で型枠に充填し、必要に応じて養生を行い、硬化させる。型枠として、構造物の型枠、コンクリート製品用の型枠等が挙げられる。型枠への充填方法として、ミキサーから直接投入する方法、水硬性組成物をポンプで圧送して型枠に導入する方法等が挙げられる。型枠に充填する際及び充填後には、充填性を向上させる観点から、振動を付加しても良い。また、セルフレベリング材用途では、上記に加えてペール缶等で水を加え調整した水硬性組成物を、直接フロアに展開することができ、この際には、充填性を向上させる観点から、トンボ等を用いても良い。更に、グラウト材用途では、上記いずれかの方法により調製した水硬性組成物を、対象箇所に直接充填することができる。
【0076】
本発明の硬化体の製造方法では、水硬性組成物の養生の際、硬化を促進するために蒸気加熱等の追加的なエネルギーを加えても良い。本発明では、型枠に充填した水硬性組成物の養生温度は、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、そして、50℃未満が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下が更に好ましい。養生として室温での気中養生などを行うことができる。
【0077】
蒸気等の加熱養生をする場合でも、エネルギーを削減する観点から、加熱養生の時間は短いことが好ましい。加熱養生の時間は0時間であってもよい。つまり、加熱養生を行わなくても良い。
【0078】
硬化した水硬性組成物は、型枠から脱型して水硬性組成物の硬化体が得られる。得られた硬化体は、水硬性組成物で述べた用途に用いることができる。
【0079】
本発明では、水硬性組成物の調製で水硬性粉体に水を接触させてから脱型するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点から、例えば、4時間以上14日以下とすることができる。
【0080】
硬化体は、建材、例えば、外壁材、床材などであってよい。本発明の一例として、本発明の増粘剤組成物と、水硬性粉体と、水とを混合して水硬性組成物を製造し、水硬性組成物を型枠に充填して圧縮成形する外壁材又は床材の製造方法が挙げられる。
【0081】
[増粘方法]
本発明は、粉末増粘剤をスラリーとして用いる際のスラリーの流動性や対象物に対する増粘効果といった挙動に(A)成分が関与することを見いだしたものである。すなわち、本発明により、粉末増粘剤と、水と、(A)成分とから、増粘剤組成物を調製し、当該増粘剤組成物中の水の量よりも多い量の水を含む対象物に前記増粘剤組成物を添加して、対象物を増粘させる、増粘方法が提供される。
本発明の増粘方法には、本発明の粉末増粘剤用改質剤、増粘剤組成物、増粘剤組成物の製造方法、水硬性組成物の製造方法、及び硬化体の製造方法で述べた事項を適宜適用することができる。(A)成分と粉末増粘剤の具体例及び好ましい態様も、本発明の粉末増粘剤用改質剤と同じである。
【0082】
本発明の増粘方法では、粉末増粘剤を、増粘剤組成物の調製に用いる成分の全量中、例えば0.1質量%以上、更に1質量%以上、更に5質量%以上、そして、50質量%以下、更に35質量%以下、更に20質量%以下で用いる。
【0083】
本発明の増粘方法では、(A)成分と粉末増粘剤とを、(A)成分/粉末増粘剤の質量比が、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下で用いる。
【0084】
本発明の増粘方法では、増粘剤組成物を、対象物中の水との質量比である、増粘剤組成物/水が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは1以上、そして、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下となるように添加する。
【0085】
本発明の増粘方法では、増粘剤組成物を、増粘剤組成物中の(A)成分と対象物中の水との質量比である、増粘剤組成物中の(A)成分/水が、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上、更に好ましくは0.01以上、そして、好ましくは9以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以下となるように添加する。
【0086】
本発明の増粘方法の対象物は、水を含む種々の組成物、例えば、水硬性組成物、水質浄化組成物、塗料組成物、電子材料組成物、研磨組成物、吐出組成物、食品組成物、飲料組成物、飼料組成物、医薬用組成物、衛生用組成物が挙げられる。
【実施例】
【0087】
<使用した成分>
以下に、実施例、比較例で用いた成分を示す。
〔(A)成分〕
(A-1)ポリエチレングリコール 分子量200 HLB値:11.2(日油株式会社製)
(A-2)ポリオキシエチレンモノメチルエーテル 分子量400 HLB値:10.1(日油株式会社製)
(A-3)ポリオキシエチレン(10)モノメチルエーテル HLB値:10.8(花王株式会社製、括弧内の数字はエチレンオキシドの平均付加モル数である(以下同様))
(A-4)メトキシポリオキシエチレン(10)メタクリレート HLB値:12.2(花王株式会社製)
(A-5)ポリオキシエチレン(20)モノメチルエーテル HLB値:15.0(花王株式会社製)
(A-6)ポリオキシエチレンジメチルエーテル 分子量400 HLB値:8.7(日油株式会社製)
(A-7)ポリグリセリン#310 HLB値:23.2(阪本薬品工業株式会社製)
(A-8)ポリグリセリン#750 HLB値:40.9(阪本薬品工業株式会社製)
(A-9)乳酸 HLB値:10.5(Corbion PURAC社製)
(A-10)乳酸ナトリウム溶液(約50%) HLB値:27.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-11)グリコール酸ナトリウム HLB値:27.5(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-12)DL-グリセリン酸(20%水溶液, 約2mol/L) HLB値:12.0(東京化成工業株式会社製)
(A-13)50%グルコン酸溶液 HLB値:16.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-14)グルコン酸ナトリウム HLB値:33.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-15)(+)-酒石酸ナトリウム二水和物 HLB値:48.1(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-16)L(-)-りんご酸ナトリウム HLB値:46.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-17)L(+)-アスコルビン酸ナトリウム HLB値:14.6(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-18)2-エチルヘキシルグリセリルエーテル HLB値:8.3(花王株式会社製)
(A-19)ポリオキシエチレングリセリルエーテル 分子量200 HLB値:12.0(日油株式会社製)
(A-20)2-アミノエタノール HLB値:8.0(東京化成工業株式会社製)
(A-21)N-メチルジエタノールアミン HLB値:8.4(東京化成工業株式会社製)
(A-22)トリエタノールアミン HLB値:9.9(東京化成工業株式会社製)
(A-23)ポリエチレンイミン(平均分子量 約600) HLB値:127.8(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-24)ポリエチレンイミン、branched、M.W.10,000、99% HLB値:2018.1(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-25)DT-EH HLB値:453.3以上(ポリアルキレンポリアミン・エピクロルヒドリン縮合物、Mw:5,000以上、四日市合成株式会社製)
(A-26)マロン酸二ナトリウム HLB値:44.7(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-27)こはく酸二ナトリウム HLB値:44.3(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-28)クエン酸三ナトリウム HLB値:64.8(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-29)アジピン酸ナトリウム HLB値:43.3(富士フイルム和光純薬株式会社製、水溶性を高めるためナトリウム塩として添加)
(A-30)ポリアクリル酸ナトリウム塩 HLB値:1266.6(花王株式会社製、重量平均分子量5,000)
(A-31)メタクリル酸/メトキシポリエチレン(25)グリコールメタクリレート=75/25mol%共重合物ナトリウム塩 HLB値:2826.9(花王株式会社製、重量平均分子量50,000)
(A-32)グリシン HLB値:8.6(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-33)L-グルタミン酸ナトリウム HLB値:26.8(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-34)コラーゲンペプチド、平均分子量3000、HLB値:111.2、酵素分解品(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-35)ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(約50%水溶液,約2.2mol/L) HLB値:54.9(東京化成工業株式会社製)
(A-36)O-ホスホリルエタノールアミン HLB値:30.1(東京化成工業株式会社製)
(A-37)L(-)-プロリン HLB値:16.6(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-38)β-アラニン HLB値:17.6(東京化成工業株式会社製)
(A-39)6-アミノヘキサン酸 HLB値:16.1(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-40)グリシルグリシン HLB値:20.0(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A-41)サルコシン HLB値:17.6(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0088】
<(A’)成分:比較成分>
(A’-1)ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル HLB値:3.9(花王株式会社製)
(A’-2)ポリオキシエチレン(30)ソルビトールテトラオレエート HLB値:-3.1(花王株式会社製)
(A’-3)ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノオレエート HLB値:8.7(花王株式会社製)
(A’-4)アルキル(炭素数9~11)ポリグルコシド HLB値:11.5(花王株式会社製)
(A’-5)サッカロース HLB値:17.8(塩水港精糖株式会社製)
(A’-6)D-(-)-フルクトース HLB値:15.0(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A’-7)D-(+)-マンノース HLB値:15.0(東京化成工業株式会社製)
(A’-8)D-(+)-グルコース HLB値:15.0(東京化成工業株式会社製)
(A’-9)D-(+)-グルクロノラクトン HLB値:14.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A’-10)デキストリン水和物 HLB値:14.4以上(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A’-11)スターチヒドロライズド、ジャガイモ由来 HLB値:14.4以上(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A’-12)N-ブチルジエタノールアミン HLB値:7.0(東京化成工業株式会社製)
(A’-13)N,N-ジエチルエタノールアミン HLB値:6.1(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A’-14)サリチル酸ナトリウム HLB値:25.2(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A’-15)3,4-ジヒドロキシ安息香酸 HLB値:10.1(東京化成工業株式会社製、水溶性を高めるためナトリウム塩として添加)
(A’-16)没食子酸一水和物 HLB値:12.0(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(A’-17)没食子酸メチル HLB値:11.8(東京化成工業株式会社製)
(A’-18)1質量%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製48質量%水酸化ナトリウム水溶液を上水道水で希釈し作製)
(A’-19)1質量%塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製10質量%塩酸を上水道水で希釈し作製)
【0089】
<(B)成分:粉末増粘剤>
(B-1)アスカクリーンD(信越化学工業株式会社製、粘度:3,811mPa・s)
(B-2)メチルセルロース(東京化成工業株式会社製、粘度:408mPa・s)
(B-3)メトローズ SM-4000(信越化学工業株式会社製、粘度:586mPa・s)
(B-4)メトローズ 60SH-4000(信越化学工業株式会社製、粘度:350mPa・s)
(B-5)メトローズ 90SH-4000(信越化学工業株式会社製、粘度:926mPa・s)
(B-6)メトローズ 90SH-30000(信越化学工業株式会社製、粘度:993mPa・s)
(B-7)メトローズ hi90SH-4000(信越化学工業株式会社製、粘度:1,840mPa・s)
(B-8)メトローズ hi90SH-30000(信越化学工業株式会社製、粘度:3,514mPa・s)
(B-9)HEC AW-15F(住友精化株式会社製、粘度:1,676mPa・s)
(B-10)ヒドロキシエチルセルロース(200-300mPa・s、東京化成工業株式会社製、粘度:218mPa・s)
(B-11)ヒドロキシエチルセルロース(800-1500mPa・s、東京化成工業株式会社製、粘度:811mPa・s)
(B-12)ヒドロキシプロピルセルロース(1000-4000mPa・s、東京化成工業株式会社製、粘度:1,878mPa・s)
(B-13)ポリエチレングリコール 分子量2,000,000(富士フイルム和光純薬株式会社製、粘度:2,844mPa・s)
【0090】
<溶媒又は分散媒>
水(和歌山市上水道水)
【0091】
<HLB値の算出方法>
上記(A)及び(A’)成分のHLB値は、下記計算式に基づきデイビス法により算出したHLB値である。
HLB値=7+親水基の基数の総和+親油基の基数の総和
【0092】
<実施例1及び比較例1>
(1)粉末増粘剤スラリーの調製方法
30mLのバイアルビンに、上記(B)成分である各種粉末増粘剤を1.5g計量し、上記(A)成分又は(A’)成分を、表1~5に示す添加量で添加し、そこに上水道水を表1~5に示す添加量で添加した後、マグネティックスターラーにて激しく撹拌することで粉末増粘剤スラリーを調製した。(A)成分又は(A’)成分を加えない場合は、水のみを加えることで粉末増粘剤スラリーを調製した。なお、表中の添加量は、見かけの添加量である。
【0093】
(2)粉末増粘剤スラリーの流動性評価
(1)の方法で調製した粉末増粘剤スラリーの入った30mLのバイアルビンを、20℃下で1時間静置した後、横に90度、1秒間かけ転倒させ、当該粉末増粘剤スラリーの流動(変形)を、観察、評価した。評価は肉眼による観察に基づいて実施した。評価基準は以下に示す通りである。結果を表1~5に示す。
〇…上記操作により自重で流動(変形)する
×…著しく増粘し、流動(変形)が起こらない
【0094】
(3)粉末増粘剤スラリーの粘度測定
(1)の方法で調製した粉末増粘剤スラリーの粘度を、Anton Paar社製レオメータPhysica MCR301により、直径25mmのプレート治具を用いて、ギャップ1mm、回転数600rpm、20℃で測定した。結果を表1に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
表1~5中、実施例1-1~1-102は、比較例1-1~1-22に比べ、優れた粉末増粘剤スラリーの流動性を示した。これは、本発明の粉末増粘剤用改質剤により、粉末増粘剤表面が改質され、水分子との相互作用が緩和されることで、継子(フロック)の形成や急激な膨潤、増粘が抑制されたためであると考察される。
【0101】
<実施例2及び比較例2>
(1)評価用水系混合物の調製方法
100mLのディスポーサブルカップに、実施例1及び比較例1で調製した粉末増粘剤スラリーを添加し、そこに水(上水道水)を表6に示す添加量で添加した。その後、マグネティックスターラーにて激しく撹拌することで評価用水系混合物を調製した。
【0102】
(2)評価用水系混合物の粘度測定方法
(1)の方法で調製した評価用水系混合物の粘度を、20℃下でB型粘度計(冶具#3)を用いて測定した。測定は、(1)の上水道水添加直後、撹拌開始30秒後、60秒後、120秒後、180秒後、240秒後、300秒後、15分後に実施し、撹拌開始からの各経過時間における評価用水系混合物の粘度を測定、記録することで、増粘性発現の指標とした。結果を表6に示す。
【0103】
【0104】
<実施例3及び比較例3>
(1)セメントブリーディング水の調製方法
20Lの鋼鉄製の容器に、住友大阪セメント株式会社製普通ポルトランドセメントを5kg、太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントを5kg入れ、そこに上水道水を10kg入れてハンディミキサーで2分間撹拌し、セメントペーストを調製した。その後、当該セメントペーストを鋼鉄製の容器で24時間静置し、上澄み液を採取してこれをセメントブリーディング水とした。
【0105】
(2)評価用水系混合物の調製方法
実施例2及び比較例2と同様に、ただし、水(上水道水)に代えて、(1)のセメントブリーディング水を用いて評価用水系混合物を調製した。
【0106】
(3)評価用水系混合物の粘度測定方法
(2)の方法で調製した評価用水系混合物の粘度を、実施例2及び比較例2と同様に測定した。結果を表7に示す。
【0107】
【0108】
表6及び表7中、実施例2-1~2-15及び3-1~3-15は、比較例2-1~2-2、及び3-1~3-2に比べ、撹拌開始からの時間経過が短い時点での優れた増粘性の発現挙動及び高い増粘効果を示した。これは、本発明の粉末増粘剤用改質剤により、粉末増粘剤表面が改質され、水分子との相互作用が緩和されることで、継子(フロック)の形成や急激な膨潤・増粘が抑制され、増粘剤(分子)に水分子が効果的に浸透し、該改質剤が拡散することで増粘作用が回復し、より効果的に増粘剤が水分子と相互作用したためであると考察される。
【0109】
<実施例4及び比較例4>
(1)混練水の調製方法
実施例2及び比較例2と同様に、ただし、100mLのディスポーサブルカップに代えて、300mLのディスポーサブルカップを用いて評価用水系混合物を調製した。この評価用水系混合物を、セメントペーストの調製に用いる混練水として使用した。
【0110】
(2)セメントペーストの調製方法
300mLのディスポーサブルカップに、住友大阪セメント株式会社製普通ポルトランドセメントを100g、太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントを100g入れ、そこに(1)の混練水を添加した。その後、ハンドミキサーにて620rpmで30秒撹拌することでセメントペーストを調製した。比較例4-3は、粉末増粘剤の添加方法に関する比較対象として実施し、300mLのディスポーサブルカップに、住友大阪セメント株式会社製普通ポルトランドセメントを100g、太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントを100g入れ、そこに(B)成分を表8に示す添加量で添加した後、ハンドミキサーにて620rpmで10秒撹拌することでドライミックスし、そこに更に上水道水を表8に示す添加量で添加し、ハンドミキサーにて620rpmで30秒撹拌することでセメントペーストを調製した。
【0111】
(3)セメントペーストの粘度測定方法
(2)の方法で調製したセメントペーストの粘度を、20℃下でB型粘度計(冶具#4)を用いて、30rpmの回転速度で測定した。測定は、(2)のセメントペースト調製直後(撹拌開始30秒後)、60秒後、120秒後、180秒後、240秒後、300秒後に実施し、撹拌開始からの各経過時間におけるセメントペーストの粘度を測定、記録することで、増粘性発現の指標とした。結果を表8に示す。
【0112】
【0113】
表8中、実施例4-1~4-13は、比較例4-1~4-6に比べ、撹拌開始からの時間経過が短い時点での優れた増粘性の発現挙動及び高い増粘効果を示した。これは、本発明の粉末増粘剤用改質剤により、粉末増粘剤表面が改質され、水分子との相互作用が緩和されることで、継子(フロック)の形成や急激な膨潤・増粘が抑制され、増粘剤(分子)に水分子が効果的に浸透し、該改質剤が拡散することで増粘作用が回復し、より効果的に増粘剤が水分子乃至水硬性組成物粒子と相互作用したためであると考察される。