(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20241213BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20241213BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
E02D3/12 102
C09K17/02 P
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2020150423
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】大前 知也
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-041384(JP,A)
【文献】特開2009-079100(JP,A)
【文献】特開昭63-268812(JP,A)
【文献】特開2002-339342(JP,A)
【文献】特開2001-335778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
C09K 17/02
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土を含む土壌に、(A)水硬性粉体〔以下、(A)成分という〕と(B)粒度指数AFSが30以上90以下である水不溶性固体粒子〔(A)成分を除く〕〔以下、(B)成分という〕と
水とを含有する組成物であるセメントミルクを混合する、地盤改良工法であって、
(A)成分はセメントを含有し、
(B)成分を、(A)成分に対して、1質量%以上15質量%以下混合する、
地盤改良工法。
【請求項2】
(A)成分がセメントである、請求項1に記載の地盤改良工法。
【請求項3】
(A)成分を、土壌に対して、100kg/m
3以上500kg/m
3以下混合する、請求項1又は2に記載の地盤改良工法。
【請求項4】
(B)成分は、モース硬度が2以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項5】
(B)成分は、比重が1.1以上3.3以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項6】
(B)成分は、無機粒子である、請求項1~5の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項7】
(B)成分は、ムライトを含む粒子である、請求項1~6の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項8】
(B)成分は、球形度が0.2以上1以下である、請求項1~7の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項9】
前記組成物は、水/(A)成分の質量比が0.4以上0.9以下である、請求項
1~8の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項10】
前記組成物を地盤に注入しながら土壌と混合撹拌することによって、ソイルセメントコラムを築造する、請求項
1~9の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項11】
混合撹拌装置の先端部から前記組成物を排出させながら地盤を回転掘進して土壌と前記組成物と混合する、請求項
1~10の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【請求項12】
深層混合処理法において用いられる、請求項1~
11の何れか1項に記載の地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良を目的とした工法として、所定の位置で地盤とセメント系固化材を攪拌混合し、軟弱地盤を固めて良質地盤に改良する工法が知られている。例えば、特殊な形状の混練オーガ機によって攪拌した地盤に、攪拌機の中空軸を通してセメントミルクを注入しながら更に攪拌混合を続けて地中にソイルセメント柱体を造設する、いわゆるソイルセメント工法が知られている。また、地盤土壌を固化材で置換する、いわゆる置換コラム法が知られている。
【0003】
特許文献1には、水と水硬性固化材を主材料とし、地盤土の一部を置換するように地盤中に填充されて構造物の基礎としての置換コラムを築造する置換コラム用填充材であって、水硬性固化材とブリーディング防止材としての炭酸マグネシウムの重量比が0.4~5%、水・セメント比が60~120%の配合割合であることを特徴とする置換コラム用填充材が開示されている。
【0004】
特許文献2には、C3S含有量が35~65重量%、C3A含有量が10~20重量%の鉱物組成を有し、かつ、Fe2O3の含有量が2重量%以下で、Al2O3/Fe2O3の重量比が3以上であるセメント組成物100重量部、石膏10~300重量部及び高炉スラグ10~300重量部からなる地盤改良材を、土壌成分が相異なる少なくとも2層の土壌を有する地盤に供給して、深層混合処理することを特徴とする地盤改良方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-219502号公報
【文献】特開2006-144434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
土壌と固化材とを攪拌混合して軟弱地盤を改良する工法では、対象とする土壌の性質は様々であるが、例えば、粘土が多い土壌では、掘削撹拌装置が備えている掘削翼や攪拌翼に掘削土が付着して、これらの翼と同期回転する、いわゆる共回り現象が発生して土壌と固化材とが均一に攪拌混合されないことがある。粘土が均一に混合されないと、ソイルセメント柱体中で粘土塊が局在する状態となるため、強度の低下をもたらす。
本発明は、粘土を含む土壌に、固化材である水硬性粉体を均一に混合できる地盤改良工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粘土を含む土壌に、(A)水硬性粉体〔以下、(A)成分という〕と(B)粒度指数AFSが20以上100以下である水不溶性固体粒子〔(A)成分を除く〕〔以下、(B)成分という〕とを混合する、地盤改良工法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、地盤が粘土を多く含んでいても、土壌と固化材とを均一に混合できる地盤改良工法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で混合性を判定したソイルセメントの染色状況を示す写真
【
図2】比較例1で混合性を判定したソイルセメントの染色状況を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の対象となる土壌は、粒径0.074mm以下の細粒分の割合が50質量%以上の土壌である。地盤材料としての土の分類基準は、地盤工学会基準(公益社団法人地盤工学会、2009)としてまとめられている。それによると、粒径0.005mm以上0.074mm以下の粒子はシルト、粒径0.005mm未満の粒子は粘土に分類される。これらの細粒分は、土壌に粘性を与える成分である。また、前記地盤工学会基準によれば、粒径0.074mm以下の細粒分の割合が、50質量%以上の土壌として、粘性土、有機質土、火山灰質粘性土が知られている。本発明では、このような土壌を対象とすることができる。本発明の対象となる土壌の一例として、粒径0.074mm以下の細粒分の割合が、好ましくは50質量%を超える、より好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下の土壌が挙げられる。
【0011】
粘土は、層状構造をもった含水珪酸塩鉱物(以降、粘土鉱物と呼ぶ)を主体としたものであり、この粘土中に微粒の鉱物として含まれる粘土鉱物としては、カオリン(カオリナイト、ディッカイト、ナクライトなど)、蛇紋石(リザーダイト、アンチゴライト、クリソタイルなど)、雲母粘土鉱物(イライト、セリサイト、海緑石、セラドナイトなど)、クロライト、バーミキュライト、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライトなど)などが挙げられる。土壌が含む粘土の種類、量などは多様であるが、本発明では、例えば、カオリン及びスメクタイトから選ばれる粘土鉱物を含む土壌を対象とすることができる。
【0012】
(A)成分の水硬性粉体は、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。
水硬性粉体は、セメントを含有することが好ましい。セメントは、例えば、普通ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸塩セメント等のセメントである。水硬性粉体は、セメント、更にポルトランドセメントを、好ましくは25質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは92質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、より更に好ましくは85質量%以下含有する。
【0013】
また、水硬性粉体は、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポゾラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、石粉(炭酸カルシウム粉末)を含有することができる。セメントに、これらが添加された高炉スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等でもよい。水硬性粉体は、水和生成物であるエトリンガイトのアルミニウムイオン供給源の観点から、高炉スラグを含有することが好ましい。水硬性粉体が高炉スラグを含有する場合、その含有量は、水硬性粉体中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%未満である。
【0014】
なお、本発明では、水硬性粉体の量は、水和反応により硬化する物性を有する粉体の量、例えばセメントや石膏の量であるが、水硬性粉体が、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。
【0015】
(B)成分は、粒度指数AFSが20以上100以下である水不溶性固体粒子である。
ここで、粒度指数AFSは、American Foundry Societyの規格(AFS1106-00-S)による粒度指数である。
(B)成分のAFSは、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、そして、好ましくは80以下、より好ましくは90以下である。
【0016】
また、(B)成分についての水不溶性とは、20℃の水100gに対する溶解量が0.2g以下であることをいう。
【0017】
(B)成分は、平均粒径が、例えば、100μm以上、更に200μm以上、そして、2mm以下、更に1mm以下であってよい。この平均粒径は、顕微鏡法、ふるい分け法、沈降法、光散乱法で測定されたものであってよい。
【0018】
(B)成分は、混合時の粒子形状の安定性の観点から、モース硬度が、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上である。上限値は、例えば、1600以下であってよい。
【0019】
(B)成分は、スラリー混合時の沈降抑制の観点から、比重が、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.6以上、そして、好ましくは3.3以下、より好ましくは2.8以下である。
【0020】
(B)成分は、無機粒子であってよい。
また、(B)成分は、ムライトを含む粒子であってよい。
また、(B)成分は、球形度が0.2以上1以下であってよい。球形度は、粒子と同じ体積を有する球の表面積と粒子の表面積の商として求める、または、粒子の体積と外接球の体積の商の3乗根を計算する方法で求めることができる。
【0021】
(B)成分は、砂が好ましい。砂は、例えば、鋳物砂として市販されているものが使用できる。市販品としては、例えば、ムライト系鋳造用人工砂のルナモス#080、ルナモス#050やアルミナ系鋳造用人工砂のエスパール#075、エスパール#050、エスパール#025(いずれも花王株式会社)、セメント試験用の標準砂(一般社団法人セメント協会)が使用できる。スラグは鉄鋼スラグ、水砕スラグ、高炉スラグなどを使用できる。また、スラグをセメントで固めたスラグ骨材に含まれる微粉成分、その他人工骨材に含まれる微粉成分を使用することができる。また、解体工事や建築土木工事から生じる、廃棄土砂、金属くず、ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くずなどに含まれる微粉やそれらを粉砕して得られる乾燥粉末を使用することができる。
【0022】
(B)成分中、ムライトを含む粒子の割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であってよい。
【0023】
本発明では、改良土の強度向上と材料コストの観点から、(A)成分を、土壌に対して、好ましくは100kg/m3以上、より好ましくは200kg/m3以上、そして、好ましくは500kg/m3以下、より好ましくは400kg/m3以下、混合する。
【0024】
本発明では、改良土の混合均一性向上とスラリー圧送時の閉塞抑制の観点から、(B)成分を、(A)成分に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、混合する。
【0025】
本発明では、(A)成分と(B)成分と水とを含有する組成物を、土壌と混合することが好ましい。前記組成物は、いわゆるセメントミルク((B)成分を含有するセメントミルク)であってよい。前記組成物は、水/(A)成分の質量比が、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、そして、好ましくは0.8以下、より好ましくは1以下である。
【0026】
また、本発明では、(A)成分と(B)成分を、別々に、土壌と混合することもできる。
【0027】
本発明の地盤改良工法は、土木工事において実施できる。更に、地盤の改良工法において実施できる。地盤の改良工法としては、表層混合処理法、中層混合処理法、深層混合処理法、鋼管杭工法、シールド工法、杭状地盤補強工法、セメントミルク注入工法、などの工法が挙げられる。例えば、深層混合改良工法では、高圧噴射工法、TRD工法、SMW工法などが挙げられる。本発明の方法は、深層混合処理法に好適である。
【0028】
前記組成物を地盤に注入する具体的な方法は、公知の地盤改良方法に準じてよい。
前記組成物を地盤に注入する方法として、例えば、噴射撹拌工法(一相流方式、二相流方式、三相流方式)や機械撹拌工法(CDM工法など)、さらに地中連続壁工法(SMW工法、TRD工法など)などが挙げられる。前記組成物と土壌の混合物は、公知の地盤改良方法に準じて固化させる。
【0029】
本発明では、前記組成物を地盤に注入しながら土壌と混合撹拌することによって、ソイルセメントコラムを築造することができる。本発明では、混合撹拌装置の先端部から前記組成物を排出させながら地盤を回転掘進して土壌と前記組成物と混合することができる。これらを組み合わせて実施できる。このような方法は、深層混合処理法に好適である。
【0030】
本発明では、混合撹拌装置として、例えば、オーガロッドと、オーガロッドに設けられた固化材(前記組成物)の噴出口と、オーガロッドに設けられた掘削翼と、オーガロッドに設けられた撹拌翼と、必要によりオーガロッドに設けられた共回り防止翼とを、備えた掘削用アースオーガを用いることができる。このような掘削用アースオーガは、ソイルセメントコラムを築造する方法で公知ものを使用できる。
前記掘削用アースオーガを、地盤のソイルセメントコラムを築造する位置にセットし、回転させながら所定空堀深度まで掘進する。その際、オーガロッドから前記組成物を吐出させながら掘進する。注入掘進工程(混合撹拌)が完了したら、前記組成物の吐出を停止し、オーガロッドの回転方向を逆転した後、引き上げ(混合撹拌)を開始する。オーガを引き抜いて工程を完了する。
本発明では、ソイルセメントコラム中の粘土塊が低減され、また存在する粘土塊も小さいもとなるため、ソイルセメントコラムの強度の低下を抑制できる。
【実施例】
【0031】
<ソイルセメントの調製>
表1に示す配合で粘土とセメントミルク(固化材スラリー)とを混合し、ソイルセメントを調製した。ソイルセメントは、モルタルホバートミキサーで配合成分を1分混合して調製した。この配合では、セメントミルクの注入量は、100kg/粘土1m3となる。
なお、セメントミルクは、表2の種類、量で(B)成分を添加して調製した。セメントミルクは、ハンドミキサーで配合成分を1分混合して調製した。
得られたソイルセメントを用いて以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0032】
【0033】
表1中の成分は以下のものである。
・粘土:笠岡粘土(含水比50%)
・セメント:タフロック2000(住友大阪セメント)
【0034】
<評価>
(1)混合性
直径10cm×高さ5cmの容器にソイルセメントを充填し、10回タッピング行うことで粗な空隙を除いた。容器の高さ2.5cmの位置で充填したソイルセメントを割断し、断面に1%フェノールフタレイン(90%エタノール)を吹きかけた。セメントを含有する部分は染色されるので、染色の状況を観察することで、セメントの混合性を判定できる。染色の状況から1cmを超える粘土塊の存在の有無を確認した。また、非染色箇所のうち最大粒径の直径を垂直に2か所測定し、平均値を粘土塊の最大サイズとした。
【0035】
(2)ビガー針強度
直径10cm×高さ5cmの容器にソイルセメントを充填し、10回タッピング行うことで粗な空隙を除いた。容器の高さ2.5cmの位置で充填したソイルセメントを割断し、ビガー針試験機を用いて、断面で一定荷重で針を針入した時の変位を測定した。なお、針入度の試験は、JIS K 2207で使用される装置を用いて行った。その際、針の重さは2.5g、針保持具は47.5g、おもり50gを含む100gの荷重で試験をした。また、ソイルセメントを割断後、室温25℃で24時間養生後に針入度の試験を行った。針の針入度が大きいほど強度が低く、小さいほど強度が高い。測定箇所は断面のうち任意の5か所とし、それぞれの測定箇所から半径1cm以上離れた位置で測定した。5点の測定点の平均値、標準偏差、変動係数を算出した。セメントが存在しない個所は、極めて強度が低くなるため、変動係数は大きくなる。変動係数は、以下の式で求められる。
変動係数=針入度の標準偏差/針入度の平均値
【0036】
【0037】
図1に、実施例1で混合性を判定したソイルセメントの染色状況を示した。また、
図2に、比較例1で混合性を判定したソイルセメントの染色状況を示した。
図1、2では、黒色部分が染色箇所であり、この部分が多いほど均一な混合性であると判定できる。
図1の実施例1では、黒色部分(染色箇所)が比較例1よりも多く、比較例1に比べてより混合性に優れることがわかる。