(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】組成物、及び補強方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20241213BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20241213BHJP
C04B 41/62 20060101ALI20241213BHJP
C04B 41/68 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
E04G23/02 A
C09D1/00
C04B41/62
C04B41/68
(21)【出願番号】P 2020158474
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019181560
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510114125
【氏名又は名称】株式会社エフコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】近本 悠
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-193638(JP,A)
【文献】特開2019-157124(JP,A)
【文献】特開2021-054708(JP,A)
【文献】特開2011-057844(JP,A)
【文献】特開平02-307879(JP,A)
【文献】特開2018-172950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
C09D 1/00
C04B 41/62
C04B 41/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に塗付する組成物であって、 水溶性カルシウム塩、水溶性シラン化合物、及び水を含み、
上記水溶性カルシウム塩は
、亜硝酸カルシウム
であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
上記水溶性シラン化合物が、アミノ基含有シラン化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
コンクリート構造物に対し、上記請求項1または請求項2に記載の組成物を塗付することを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。
【請求項4】
コンクリート構造物に対し、上記請求項1または請求項2に記載の組成物を塗付した後、少なくともアルカリ金属珪酸塩を含む表面強化剤を塗付することを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物用の新規な組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁、トンネル、高架道路、建築物などに多くのコンクリート構造物が使用されている。しかし、コンクリート構造物は、塩害、中性化及び凍害等によって経時的に劣化が進行し、該構造物にひび割れやコンクリート片の剥離が発生するといった問題がある。そのため、コンクリート構造物の補修および補強方法が多く提案されている。
【0003】
例えば、特開平11-193638号公報(特許文献1)には、カルシウム塩の水溶液にアルコールを添加したコンクリート構造物の亀裂補修剤が開示されている。
しかし、かかる特許文献1の補修剤では、アルコールの作用により迅速に乾燥させカルシウム塩の結晶体を形成するため、コンクリート構造物の内部までカルシウム塩を浸透させることが不十分な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物に対し、カルシウム成分を十分に含浸させることができる組成物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を行った結果、水溶性カルシウム塩、水溶性シラン化合物、及び水を含むことを特徴とする組成物に想到し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
1.コンクリート構造物に塗付する組成物であって、 水溶性カルシウム塩、水溶性シラン化合物、及び水を含み、
上記水溶性カルシウム塩は、亜硝酸カルシウムであることを特徴とする組成物。 2.上記水溶性シラン化合物が、アミノ基含有シラン化合物を含むことを特徴とする1.に記載の組成物。 3.コンクリート構造物に対し、上記1.または2.に記載の組成物を塗付することを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。 4.コンクリート構造物に対し、上記1.または2.に記載の組成物を塗付した後、少なくともアルカリ金属珪酸塩を含む表面強化剤を塗付することを特徴とするコンクリート構造物の補強方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリート構造物に対するカルシウム塩(カルシウムイオン)の浸透性をよりいっそう高め、コンクリート構造物の強度、特に劣化したコンクリート構造物を補修し、かつ表面強度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
(組成物)
本発明は、コンクリート構造物に塗付する組成物に関するものであり、コンクリート構造物、特に劣化したコンクリート構造物に塗付することにより、コンクリート構造物内部にカルシウムイオンを補充し、劣化部分を補修するとともに、表面強度を高めることができるコンクリート構造物用の含浸補強剤として好適な組成物である。このような組成物は、(A)水溶性カルシウム塩、(B)水溶性シラン化合物、及び水を含むことを特徴とする。
【0011】
コンクリート構造物としては、例えば、橋梁、トンネル、高架道路、建築物等のセメントやモルタル等により構成されるものであり、新規、既設いずれであってもよい。本発明の組成物は、既設コンクリート構造物、特に経年変化により中性化が進行したり、降雨によってカルシウム成分が溶出したり、さらには亀裂が発生した劣化コンクリート構造物等に好適なものである。
【0012】
本発明の(A)水溶性カルシウム塩(以下「(A)成分」ともいう)は、コンクリート構造物の内部の空隙にカルシウムイオンを補充する成分である。本発明の(A)成分は、25℃の水に対し1重量%以上溶解することができるカルシウム塩であり、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。本発明では、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム等から選ばれる1種を含むことが好ましい。特に、亜硝酸カルシウムを含む場合には、亜硝酸イオンの作用によりコンクリート構造物内部の鉄筋に対する防錆効果が得られるため好適である。
【0013】
(A)成分の含有量は、組成物中に、好ましくは1~50重量%(より好ましくは2~40重量%、さらに好ましくは3~20重量%)である。このような範囲を満たす場合、コンクリート構造物の内部に、十分なカルシウムイオンを補充することができる。
【0014】
本発明の組成物は、(B)水溶性シラン化合物(以下「(B)成分」ともいう)を必須成分として含むことを特徴とするものである。本発明では、上記(A)成分と(B)成分を併用することにより、コンクリート構造物内部に対する上記(A)成分の浸透(含浸)性を高めることができる。これにより、塗り付け直後にコンクリート構造物の表面近傍にカルシウムイオンが溜まることなく、コンクリート構造物の深部まで浸透し、十分なカルシウムイオンを補充することができるため、補修に十分な浸透深さ及び浸透量を確保することができる。さらに、コンクリート構造物内部に浸透した(B)成分は、コンクリート構造物の構成成分(セメント等)と反応し、強度を高めることができる。さらに、(B)成分を含むことにより、次工程として、アルカリ金属珪酸塩を含む表面強化剤を塗付する際に、コンクリート構造物の内部(深部)まで表面強化剤を浸透させることが可能となり、コンクリート構造物の強度をいっそう高めることができるとともに、優れた防水性を付与することができる。
【0015】
本発明の(B)成分は、水に溶解するものであればよく、好ましくは1重量%シラン水溶液を作製できるものが好ましい。この1重量%シラン水溶液作製時には、必要に応じてpHを調整してもよい。このような(B)成分としては、例えば、
グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル(エチル)ジメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;
【0016】
γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロビルアミン等のアミノ基含有シラン化合物;
【0017】
3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シラン化合物;
その他、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、及び3-イソシアネートプロピルエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0018】
中でも、本発明では、(B)成分として、アミノ基含有シラン化合物を含むことが好ましい。これにより、上記(A)成分の浸透(含浸)性をよりいっそう高め、コンクリート構造物の表面にカルシウム成分が溜まるのを抑制できる。また、塗付後には、塗付ムラ、表面白化等もなく美観性に優れる。アミノ基含有シラン化合物の含有量は、(B)成分中に好ましくは50重量%以上(より好ましくは80重量%以上)であり、アミノ基含有シラン化合物のみの態様であってもよい。
【0019】
(B)成分の含有量は、組成物中に、好ましくは0.01~5重量%(より好ましくは0.05~5重量%)である。このような範囲を満たす場合、コンクリート構造物に対する上記(A)成分の浸透性を高めることができるとともに、表面強度をいっそう高めることができる。
【0020】
本発明組成物は、上記(A)成分と上記(B)成分を水に溶解させたものである。組成物中の水の含有量は、上記(A)成分及び上記(B)成分を除く残量であり、好ましくは45~98.99重量%(より好ましくは55~97.95重量%)である。
【0021】
本発明の組成物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、必要に応じ、公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消臭剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、難燃剤、着色顔料、体質顔料、繊維、撥水剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。
【0022】
(補強方法)
本発明は、
(1)コンクリート構造物に対し、上記組成物を塗付する工程、
を含むものであり、コンクリート構造物の補強、及び表面強度を高めることができる。特に、劣化した既設のコンクリート構造物に対して好適なものである。
【0023】
上記(1)工程において、組成物の塗付方法としては、特に限定されないが、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等の種々の方法を採用することができる。また、工場内で塗装する場合は、上記以外にもロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。さらに、亀裂部等には、シリンダー等により注入することもできる。
【0024】
組成物の塗付け量については、好ましくは0.01~0.5kg/m2(より好ましくは0.03~0.4kg/m2、さらに好ましくは0.05~0.3kg/m2)程度である。このような範囲を満たす場合、本発明の効果を十分に得ることができる。また、上記上限以下で塗付した場合、コンクリート表面の変色等を抑制することができる。なお、組成物の塗付回数は、コンクリート構造物の状態(劣化具合等)によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。また、組成物の塗付後に、コンクリート構造物の表面に散水することもできる。本発明では、(B)成分を含むため、散布した水とともに上記(A)成分がコンクリート構造物の内部までよりいっそう浸透(含浸)しやすくなり、本発明の効果を高めることができる。さらには、表面に組成物が残存しにくくなるため、変色等も抑制することができる。組成物の乾燥時間は、好ましくは1時間以上とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは5℃以上40℃以下であればよい。
【0025】
さらに、上記(1)工程に次いで、
(2)少なくともアルカリ金属珪酸塩を含む表面強化剤を塗付する工程、
を行うことが好ましい。上記(2)工程により、コンクリート構造物の表面強度をよりいっそう高めることができる。特に、上記(1)工程後に、アルカリ金属珪酸塩を含む表面強化剤を塗付することによって、コンクリート構造物の内部(深部)まで表面強化剤を浸透させることが可能となり、コンクリート構造物の強度をいっそう高めることができる。さらには、表面強化剤を均一に浸透(含浸)させることができるため、光沢ムラ等を生じ難く、美観性に優れた仕上がりを得ることができる。
【0026】
上記表面強化剤に含まれる(C)アルカリ金属珪酸塩(以下「C)成分」ともいう)は、コンクリート構造物の内部に浸透(含浸)し、硬化体を形成するものであり、これによりコンクリート構造物の表面強度等を向上させるものである。このような(C)成分としては、一般式:M2 O・nSiO2 (MはLi、K、Na、Csから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属)で表される水溶性のアルカリ金属珪酸塩(「水ガラス」ともいう)であればいずれも使用できる。このような(C)成分としては、例えば、珪酸ナトリウム、オルト珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、珪酸リチウム、珪酸カリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属珪酸塩の水溶液として市販されている水ガラスを使用することもできる。上記のアルカリ金属珪酸塩は、単独で用いられてもよく、または2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0027】
表面強化剤における(C)成分の含有量は、表面強化剤中に、有効成分(M2 O及びSiO2)換算で好ましくは5~60重量%(より好ましくは8~50重量%)である。このような範囲の場合、表面強度を高め、優れた美観性を得ることができる。
【0028】
本発明では、(C)成分として、少なくともSiO2 /Na2 O(モル比)が5/1~2/1(より好ましくは4/1~3/1)の珪酸ナトリウムを含むことが好ましい。このような場合、本発明の効果を一層高めることができる。さらに、本発明では、SiO2 /K2 O(モル比)が5/1~1/1(より好ましくは4/1~1/1)の珪酸カリウム、SiO2 /Li2 O(モル比)が5/1~2/1(より好ましくは5/1~3/1)の珪酸リチウムを混合して使用することができる。これによって、コンクリート構造物への浸透性が高まり、緻密な硬化体を形成することができる。本発明の補強方法により、コンクリート構造物の防水性が高まり、降雨等の水の浸透による劣化を効果的に抑制することができる。さらには、アルカリ金属の溶出等を抑制し、コンクリート構造物表面の白華等も防止することができる。
【0029】
本発明では特に、珪酸ナトリウムと珪酸カリウムを混合して使用することが好ましい。珪酸ナトリウムと珪酸カリウムの混合比率は、SiO2 /(Na2 O+K2 O)(モル比)が、5/1~1/1(好ましくは4/1~2.5/1)であり、表面強化剤全体に対しSiO2の含有量が5~50重量%(より好ましくは10~30重量%)と成るように調整することが好ましい。この場合、(C)成分中の珪酸ナトリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは10~98重量%(より好ましくは30~95重量%以上)、珪酸カリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは2~90重量%(より好ましくは5~70重量%)とすることにより、上記範囲に調整することができる。このような範囲である場合、表面強度をいっそう高めることができ、優れた美観性を得ることができる。
【0030】
さらに、珪酸リチウムを混合して使用することも好ましい。この場合、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、及び珪酸リチウムの混合比率は、SiO2 /(Na2 O+K2 O+Li2 O)(モル比)が、5/1~1/1(好ましくは4/1~2/1)であり、表面強化剤全体に対しSiO2の含有量が5~50重量%(より好ましくは10~30重量%)となるように調整することが好ましい。この場合、(C)成分中の珪酸ナトリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは30~98重量%(より好ましくは50~95重量%以上)、珪酸カリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは1.5~50重量%(より好ましくは4~40重量%)、珪酸リチウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは0.5~40重量%(より好ましくは1~30重量%)とすることにより、上記範囲に調整することができる。このような範囲である場合、耐水性が高まり、降雨等の水の浸透による白化や光沢変化等の外観異常を効果的に抑制することができる。
【0031】
本発明では、上記表面強化剤に、上記(B)成分と同様のシラン化合物を含むことが好ましい。表面強化剤における(B)成分の含有量は、表面強化剤中に、好ましくは0.01~5重量%(より好ましくは0.05~5重量%)である。これによりコンクリート構造物内部(深部)まで表面強化剤(上記(C)成分)が浸透しやすくなり、本発明の効果を一層高めることできる。さらには、表面強化剤を均一に浸透(含浸)させることができるため、光沢ムラ等を生じ難く、美観性に優れた仕上りを得ることができる。
【0032】
本発明表面強化剤は、上記(C)成分と上記(B)成分を水に溶解させたものである。表面強化剤中の水の含有量は、上記(C)成分及び上記(B)成分の有効成分を除く残量であり、好ましくは45~95重量%(より好ましくは50~90重量%)である。
【0033】
上記表面強化剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り、必要に応じ、公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消臭剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、難燃剤、着色顔料、体質顔料、繊維、撥水剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。
【0034】
上記(2)工程において、表面強化剤の塗付方法としては、特に限定されないが、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等の種々の方法を採用することができる。また、工場内で塗装する場合は、上記以外にもロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。
【0035】
表面強化剤の塗付け量については、好ましくは0.01~0.5kg/m2(より好ましくは0.05~0.4kg/m2)程度である。表面強化剤の塗回数は、コンクリート構造物の状態(劣化具合等)によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。また、表面強化剤の塗付後に、浸透性を高めるために、表面に散水することもできる。これにより、光沢ムラ等を生じ難く、美観性に優れた仕上りを得ることができる。表面強化剤の乾燥時間は、好ましくは1時間以上とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは5℃以上40℃以下であればよい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0037】
原料としては以下のものを使用した。
(A)成分
(A1)亜硝酸カルシウム
(B)成分
(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシキシシラン
(B2)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン
(C)成分
(C1)珪酸ナトリウム水溶液
有効成分:33.0%(SiO2=26.0%、Na2O=7.0%)
SiO2/Na2O(モル比)=3.83
(C2)珪酸カリウム水溶液
有効成分:55.0%(SiO2=28.0%、K2O=22.0%)
SiO2/K2O(モル比)=1.99
(C3)珪酸リチウム水溶液
有効成分:23.3%(SiO2=20.4%、Li2 O=2.9%)
SiO2/Li2O(モル比)=3.50
【0038】
<組成物の調製>
・組成物1
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.1重量部添加・攪拌して組成物1を得た。
・組成物2
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B2)γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.1重量部添加・攪拌して組成物2を得た。
・組成物3
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.3重量部添加・攪拌して組成物3を得た。
・組成物4
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを1重量部添加・攪拌して組成物4を得た。
・組成物5
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを8重量部添加・攪拌して組成物5を得た。
・組成物6
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた5重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.3重量部添加・攪拌して組成物6を得た。
・組成物7
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた20重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.3重量部添加・攪拌して組成物7を得た。
・組成物8
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた45重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.3重量部添加・攪拌して組成物8を得た。
・組成物9
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15重量%亜硝酸カルシウム水溶液を組成物9とした。
・組成物10
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた45重量%亜硝酸カルシウム水溶液を組成物10とした。
・組成物11
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、エタノールを1.0重量部添加・攪拌して組成物11を得た。
・組成物12
(A1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15重量%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を0.1重量部添加・攪拌して組成物12を得た。
【0039】
<表面強化剤の調製>
・表面強化剤1
(C1)珪酸ナトリウム水溶液70重量部、水30重量部を混合したものを表面処理剤1とした。
・表面強化剤2
(C1)珪酸ナトリウム水溶液70重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面処理剤2とした。
・表面強化剤3
(C1)珪酸ナトリウム水溶液60重量部、(C2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面処理剤3とした。
・表面強化剤4
(C1)珪酸ナトリウム水溶液55重量部、(C2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(C3)珪酸リチウム水溶液5重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を添加・攪拌して表面強化剤4を得た。
【0040】
<試験例[I]>
・基材
標準モルタル(100×100×20mm)を、5%CO2雰囲気下に60日間静置し、中性化させたものを基材とした。
【0041】
・浸透性評価1
上記基材に組成物1~組成物12をそれぞれ塗付け量0.1Kg/m2で刷毛塗りし、基材へ浸透する速さを観測し、水(ブランク)を塗付した場合と比較し、評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。結果は、表1に示す。
A:水よりも早く浸透する。
B:水と同程度の速さで浸透する。
C:水よりも浸透が遅い。
【0042】
・浸透性評価2
上記基材に組成物1~組成物12をそれぞれ塗付け量0.1Kg/m2で刷毛塗りし、室温(25℃、60%Rh)で24時間養生したものを試験体とした。得られた試験体を割断し、さらに24時間乾燥後、割断面の亜硝酸カルシウムの浸透深さを測定した。(なお、亜硝酸カルシウム浸透部は、乾燥後、淡黄色に呈色した部分とした。)評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。結果は、表1に示す。
A:2mm以上
B:1.5mm以上2mm未満
C:1.5mm未満
【0043】
・美観性評価
上記基材に組成物1~組成物12をそれぞれ塗付け量0.1Kg/m2で刷毛塗りし、室温(25℃、60%Rh)で24時間養生したものを試験体とした。試験体の表面を目視評価し、光沢ムラ、色相ムラ等の外観異常の有無を評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。結果は、表1に示す。
A:均一な仕上がりで異常がない。
B:僅かな異常が認められる。
C:明らかな異常が認められる。
【0044】
【0045】
試験例I-1~I-8において、浸透性評価、美観性評価において良好な結果であった。特に、試験例I-1~I-4、I-6、I-7においては、すべての評価でA判定となる優れた結果であった。一方、試験例I-9~I-11では、十分な結果が得られなかった。なお、試験例I-12は、浸透性評価2において、やや劣る結果であった。
【0046】
<試験例II>
表2に示す組成物と表面強化剤の組み合わせに従い、上記基材に組成物を塗付け量0.1Kg/m2で刷毛塗りし、室温(25℃、60%Rh)で24時間養生した後、表面強化剤を塗付け量0.2kg/m2で刷毛塗りし、常温(25℃)で7日間養生したものを試験体とし、以下の評価を実施した。結果は、表2に示す。
【0047】
・美観性評価
試験体の表面を目視評価し、光沢ムラ、色相ムラ等の外観異常の有無を評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。
A:均一な仕上がりで異常がない。
B:僅かな異常が認められる。
C:明らかな異常が認められる。
【0048】
・耐摩耗性(表面強度)評価
得られた試験体について、JIS K5600 5.9耐摩耗性(摩耗輪法)に準じ、テーバー式試験機、摩耗輪CS-17、荷重1000gで500回転後の摩耗減量を観測した。未処理のスレート板の摩耗減量と比較し、評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。
A:未処理品より良好
B:未処理品よりやや良好
C:未処理品と同等、またはそれ以下
【0049】
・浸透深さ評価
得られた試験体の表面を深さ1mmごとに研削する。得られた研削粉が5%となるように水を加えて10分間撹拌し、24時間静置してナトリウム(Na)を水に抽出する。Naイオンメーターを用いてNa量を測定し、未塗付モルタル対比で30%以上Na量が多い深さまで材料が浸透していると判定し、浸透深さを算出した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。
A:2mm以上
B:1mm以上2mm未満
C:1mm未満
【0050】
・透水性(防水性)評価
得られた試験体について、JIS A 6909 7.13(透水試験B法)により透水性を評価した。未塗付の標準モルタル板と比較し、評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。結果は、表2に示す。
A:透水量が少ない
B:同等
C:透水量が多い
【0051】
【0052】
試験例II-1~II-5において、表面強化剤の浸透性が良好であり、美観性評価、耐摩耗性評価、浸透深さ、透水性(防水性)評価において良好な結果であった。特に、試験例II-2~II-5では、表面強化剤の浸透性に優れ、全ての評価においてA評価であった。一方、試験例II-6では、表面強化剤の浸透性が悪く十分な結果が得られなかった。また、試験例II-7では、透水量が多く十分な防水性が得られなかった。