(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】含フッ素ビニル化合物塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 303/32 20060101AFI20241213BHJP
C07C 309/10 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C07C303/32
C07C309/10
(21)【出願番号】P 2020197440
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】中村 光武
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176425(WO,A1)
【文献】米国特許第03560568(US,A)
【文献】特開2001-114750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含フッ素環状化合物(1)と、
リン酸塩化合物(2)、下記一般式(3)で表されるホウ酸塩化合物(3)及び下記一般式(4)で表されるケイ酸塩化合物(4)からなる群から選択される1種又は2種以上の塩類と、を反応さ
せ、かつ前記リン酸塩化合物(2)は、リン酸三ナトリウム、リン酸三リチウム、リン酸三カリウム、二リン酸四ナトリウム及び二リン酸四カリウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、下記一般式(5)で表される含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法。
下記一般式(1):
【化1】
(上記一般式(1)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。
)
下記一般式(3):
【化2】
(上記一般式(3)中、M
4は、L
i又はNaである。)
下記一般式(4):
【化3】
(上記一般式(4)中、M
5は
、Naである。)
下記一般式(5):
【化4】
(上記一般式(5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であり、Mは、Na、K、Rb、又はCsである。)
【請求項2】
前記含フッ素環状化合物(1)の物質量(α)に対する、前記リン酸塩化合物(2)の物質量(β)と前記ホウ酸塩化合物(3)の物質量(γ)と前記ケイ酸塩化合物(4)の物質量(δ)の合計の比率((β+γ+δ)/α)が、0.5~10である、請求項1に記載の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法。
【請求項3】
ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びアジポニトリルからなる群から選択される1種又は2種以上の添加物の存在下で、前記含フッ素環状化合物(1)と、前記リン酸塩化合物(2)、前記ホウ酸塩化合物(3)及び/又は前記ケイ酸塩化合物(4)とを反応させる、請求項1又は2に記載の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸塩化合物(2)の質量(ε)と前記ホウ酸塩化合物(3)の質量(ζ)と前記ケイ酸塩化合物(4)の質量(η)の合計に対する、前記添加物の質量(θ)の比率(θ/(ε+ζ+η))が、0.5~100である、請求
項3に記載の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ビニル化合物塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記一般式(1):
【化1】
(上記一般式(1)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。)
で表される含フッ素環状化合物(1)(以下、「化合物(1)」ともいう。)を用いて、
下記一般式(5):
【化2】
(上記一般式(5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であり、Mは、Na、K、Rb、又はCsである。)
で表される含フッ素ビニル化合物塩(5)(以下、「化合物(5)」ともいう。)を製造できることが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1では、上記一般式(1)における“X=F、Y=F”の条件を満たす含フッ素環状化合物(1)とナトリウムメトキシドとを、脱水エーテルの存在下、室温で終夜反応させ、溶媒除去、乾燥をさせることにより、上記一般式(5)における“X=F、Y=F”の条件を満たす含フッ素ビニル化合物塩(5)を得る方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、上記一般式(1)における“X=F、Y=F”の条件を満たす含フッ素環状化合物(1)と各種のシラノール化合物(例えば、ナトリウムトリメチルシラノラート)とを反応させることにより、上記一般式(5)における“X=F、Y=F”の条件を満たす含フッ素ビニル化合物塩(5)を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3560568号明細書
【文献】国際公開第2019/176425号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、上記のとおり、“X=F、Y=F”の条件を満たす含フッ素環状化合物(1)とナトリウムメトキシドとを反応させることにより、目的物である“X=F、Y=F”の条件を満たす含フッ素ビニル化合物塩(5)を得る方法が開示されている。また、特許文献2にも記載されているように、実際に特許文献1の方法を用いて“X=F、Y=F”の条件を満たす含フッ素ビニル化合物塩(5)を合成すると、目的物の生成量が少なくなる(特許文献2 段落〔0010〕参照)。
さらに、上記のように特許文献1に記載の方法では含フッ素ビニル化合物塩(5)の生成量が少ないことを鑑みると、発明者の知る限り、特許文献2に記載の含フッ素ビニル化合物塩(5)を得る方法が、収率高く含フッ素ビニル化合物塩(5)を得られる唯一の方法である。
しかしながら、特許文献2で用いられているシラノール化合物(R
1R
2R
3Si(OM)[Mは、アルキル金属又はアルキル土類金属であり、R
1~R
3は、各々独立に置換されてもよい炭素数1~10個の炭化水素基又はOMである。])は、下記の平衡反応を有することが知られている(J.Am.Chem.Soc.1953,75,5615-5618頁)。
【化3】
(式中、Rはアルキル基である。)
そのため、前記シラノール化合物の存在する環境によっては、水分により前記シラノール化合物が(R
3Si)
2Oに変質してしまい、前記シラノール化合物の純度又は系内の前記シラノール化合物の量が低下する可能性があった。このことから、前記シラノール化合物を使用せずに、含フッ素環状化合物(1)から含フッ素ビニル化合物塩(5)を収率よく製造することができる新たな方法の開発が求められてきた。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みなされたものであり、含フッ素環状化合物(1)から含フッ素ビニル化合物塩(5)を収率よく製造する新規の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、含フッ素環状化合物(1)と、一般的な入手が容易であり、安定に取り扱うことのできる所定の塩類とを反応させることにより、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。また、前記所定の塩類は、下記一般式(2a)で表される構造単位を有するリン酸塩化合物(2)(以下、「化合物(2)」ともいう。)、下記一般式(3)で表されるホウ酸塩化合物(3)(以下、「化合物(3)」ともいう。)及び下記一般式(4)表されるケイ酸塩化合物(4)(以下、「化合物(4)」ともいう。)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【化4】
(上記一般式(2a)中、M
2は、Li、Na、K、Rb、又はCsであり、nは1以上の整数であり、nが2以上の整数の場合、複数存在するM
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【化5】
(上記一般式(3)中、M
4は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
【化6】
(上記一般式(4)中、M
5は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]本開示の発明は、下記一般式(1)で表される含フッ素環状化合物(1)と、
下記一般式(2a)で表されるリン酸塩化合物(2)、下記一般式(3)で表されるホウ酸塩化合物(3)及び下記一般式(4)で表されるケイ酸塩化合物(4)からなる群から選択される1種又は2種以上の塩類と、を反応させることを特徴とする、下記一般式(5)で表される含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法である。
下記一般式(1):
【化7】
(上記一般式(1)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。)
下記一般式(2a):
【化8】
(上記一般式(2a)中、M
2は、Li、Na、K、Rb、又はCsであり、nは1以上の整数であり、nが2以上の整数の場合、複数存在するM
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
下記一般式(3):
【化9】
(上記一般式(3)中、M
4は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
下記一般式(4):
【化10】
(上記一般式(4)中、M
5は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
下記一般式(5):
【化11】
(上記一般式(5)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であり、Mは、Na、K、Rb、又はCsである。)
[2]本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法おいて、前記含フッ素環状化合物(1)の物質量(α)に対する、前記リン酸塩化合物(2)の物質量(β)と前記ホウ酸塩化合物(3)の物質量(γ)と前記ケイ酸塩化合物(4)の物質量(δ)の合計の比率((β+γ+δ)/α)が、0.5~10であることが好ましい。
[3]本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法おいて、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、及びスルホ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加物の存在下、前記含フッ素環状化合物(1)と、前記リン酸塩化合物(2)、前記ホウ酸塩化合物(3)及び/又は前記ケイ酸塩化合物(4)とを反応させることが好ましい。
[4]本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法おいて、前記添加物は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ジメトキシプロパン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、2-メチルブチロニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、及び3-メチルスルホランからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であることが好ましい。
[5]本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法おいて、前記リン酸塩化合物(2)の質量(ε)と前記ホウ酸塩化合物(3)の質量(ζ)と前記ケイ酸塩化合物(4)の質量(η)の合計に対する、前記添加物の質量(θ)の比率(θ/(ε+δ+η))が、0.5~100であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、収率よく含フッ素環状化合物(1)から含フッ素ビニル化合物塩(5)を製造することができる新規の方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施形態の製造方法は、
下記一般式(1):
【化12】
(上記一般式(1)中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。)
で表される含フッ素環状化合物(1)と、
下記一般式(2a):
【化13】
(上記一般式(2a)中、M
2は、Li、Na、K、Rb、又はCsであり、nは1以上の整数であり、nが2以上の整数の場合、複数存在するM
2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される構造単位を有するリン酸塩化合物(2)、
下記一般式(3):
【化14】
(上記一般式(3)中、M
4は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
で表されるホウ酸塩化合物(3)、及び/又は
下記一般式(4):
【化15】
(上記一般式(4)中、M
5は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
で表されるケイ酸塩化合物(4)と、を反応させる工程を有することを特徴とする、
下記一般式(5):
【化16】
(上記一般式(5中、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であり、Mは、Na、K、Rb、又はCsである。)
で表される含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法である。
【0013】
以下、化合物(1)、及び塩類(=化合物(2)、(3)、及び(4))、並びに化合物(1)から含フッ素ビニル化合物塩(5)を製造する際の反応条件等の詳細について説明する。
【0014】
[含フッ素環状化合物(1)(化合物(1)とも称する。)]
本実施形態における含フッ素環状化合物(1)は、下記一般式(1):
【化17】
(上記一般式中(1)、Xは、フッ素原子、塩素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。)
で表される。
化合物(1)は、1種単独であっても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記一般式(1)において、Xとしては、入手又は製造が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、フッ素原子又はトリフルオロメチル基が好ましく、同様の観点からフッ素原子がより好ましい。
上記一般式(1)において、Yとしては、入手又は製造が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、フッ素原子塩素原子が好ましく、同様の観点からフッ素原子がより好ましい。
XとYの組み合わせとしては、いずれもフッ素原子(X=F、Y=F)であることが、特に好ましい。
【0016】
本実施形態の含フッ素環状化合物(1)の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。例えば、上記一般式中(1)中の“X=F、Y=F”の条件を満たす化合物(1)は、国際公開第2019/176425号に記載の方法により、製造することができる。また、化合物(1)は、例えば、Synquest Laboratories社から購入することもできる。
【0017】
[塩類]
本実施形態において、含フッ素環状化合物(1)と所定の塩類とを反応させることにより、目的物である含フッ素ビニル化合物塩(5)を製造する。そして前記所定の塩類は、化合物(2)、(3)及び(4)からなる群から選択される少なくとも1種である。
以下、各化合物(2)~(4)について説明する。
<リン酸塩化合物(2)(化合物(2)とも称する。)>
本実施形態におけるリン酸塩化合物(2)は、下記一般式(2a):
【化18】
(上記一般式(2a)中、M
2はそれぞれ独立して、Li、Na、K、Rb、又はCsであり、nは1以上の整数である。また、nが2以上の整数の場合、複数存在するM
2はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。)で表される構造単位を有する。
本実施形態におけるリン酸塩化合物(2)は、下記一般式(2b):
【化19】
(上記一般式(2b)中、M
1、M
2及びM
3はそれぞれ独立して、Li、Na、K、Rb、又はCsであり、nは1以上の整数である。また、M
1、M
2及びM
3はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。)
で表されることが好ましい。
リン酸塩化合物(2)は、1種単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記一般式(2a)において、M2はLi、Na、K、Rb、又はCsのいずれかである。これらの内、入手が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、M2は、Li、Na、又はKであることが好ましく、Li、又はNaであることがより好ましく、Naであることがさらに好ましい。また、上記一般式(2a)中のnが2以上の場合、複数存在するM2はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。
上記一般式(2b)において、M1、M2及びM3は互いに独立であって、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Li、Na、K、Rb、又はCsのいずれかである。これらの内、入手が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、M1、M2及びM3は互いに独立であって、Li、Na、又はKであることが好ましく、Li、又はNaであることがより好ましく、Naであることがさらに好ましい。
また、上記一般式(2b)中のnが2以上の場合、複数存在するM2はそれぞれ同一であっても、あるいは異なっていてもよい。
【0019】
上記一般式(2a)及び(2b)において、nは1以上の整数である。一般的に入手可能な化合物(2)の有するnであれば、nは特に限定されないが、上記一般式(2a)及び(2b)におけるnの上限は、25以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。化合物(1)と化合物(2)との反応性が高まる傾向にあることから、上記一般式(2a)及び(2b)におけるnは、2以下であることがさらに好ましく、1であることが特に好ましい。
【0020】
本実施形態におけるリン酸塩化合物(2)は、具体的に例示するならば、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ルビジウム、リン酸三セシウム、二リン酸四リチウム、二リン酸四ナトリウム、二リン酸四カリウム、二リン酸四ルビジウム、二リン酸四セシウム、三リン酸五リチウム、三リン酸五ナトリウム、三リン酸五カリウム、三リン酸五ルビジウム、三リン酸五セシウム、ヘキサメタリン酸リチウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸ルビジウム、ヘキサメタリン酸セシウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ルビジウム、メタリン酸セシウム等が挙げられる。
入手が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、本実施形態におけるリン酸塩化合物(2)は、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、二リン酸四リチウム、二リン酸四ナトリウム、二リン酸四カリウム、三リン酸五リチウム、三リン酸五ナトリウム、三リン酸五カリウム、ヘキサメタリン酸リチウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウムが好まく、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、二リン酸四リチウム、二リン酸四ナトリウム、二リン酸四カリウム、三リン酸五リチウム、三リン酸五ナトリウム、三リン酸五カリウムがより好ましい。化合物(1)と化合物(2)との反応性が高まる傾向にあることから、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、二リン酸四ナトリウム、二リン酸四カリウムがさらに好ましく、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムが特に好ましい。
【0021】
<ホウ酸塩化合物(3)(化合物(3))>
本実施形態におけるホウ酸塩化合物(3)は、下記一般式(3):
【化20】
(上記一般式(3)中、M
4は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
で表される。
ホウ酸塩化合物(3)は、1種単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記一般式(3)において、M4は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。これらの内、入手が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、一般式(3)中のM4はLi、Na、又はKであることが好ましく、Na、又はKであることがより好ましい。
【0023】
本実施形態におけるホウ酸塩化合物(3)は、具体的に例示するならば、四ホウ酸二リチウム、四ホウ酸二ナトリウム、四ホウ酸二カリウム、四ホウ酸二ルビジウム、四ホウ酸二セシウムが挙げられる。入手が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、四ホウ酸二リチウム、四ホウ酸二ナトリウム、四ホウ酸二カリウムが好ましく、四ホウ酸二ナトリウム、四ホウ酸二カリウムがより好ましい。
【0024】
<ケイ酸塩化合物(4)(化合物(4))>
本実施形態におけるケイ酸塩化合物(4)は、下記一般式(4):
【化21】
(上記一般式(4)中、M
5は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。)
で表される。
ケイ酸塩化合物(4)は、1種単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記一般式(4)において、M5は、Li、Na、K、Rb、又はCsである。これらの内、入手が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、上記一般式(4)中のM5は、Li、Na、又はKであることが好ましく、Na、又はKであることがより好ましく、Naがさらに好ましい。
【0026】
本実施形態におけるケイ酸塩化合物(4)は、具体的に例示するならば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ルビジウム、ケイ酸セシウムが挙げられる。入手が容易であり、経済性に優れる傾向にあることから、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが好ましく、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウムがより好ましく、ケイ酸ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
本実施形態において、含フッ素環状化合物(1)と反応する化合物は、リン酸塩化合物(2)、ホウ酸塩化合物(3)及びケイ酸塩化合物(4)のうち、いずれかの化合物を1種使用してもよく、あるいはこれらの化合物(リン酸塩化合物(2)、ホウ酸塩化合物(3)及びケイ酸塩化合物(4))のそれぞれ1種単独で用いても、それぞれ複数種を組み合わせて用いてもよい。目的物である化合物(5)の収率を向上させる傾向を示す観点を重視する場合、化合物(2)及び/又は化合物(4)をそれぞれ1種単独で使用する、あるいは化合物(2)及び/又は化合物(4)を組み合わせて用いることが好ましく、化合物(2)を用いることがより好ましい。
【0028】
本実施形態において、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)は、必要に応じて、含水量を低減させたものを用いることもできる。特に、化合物(1)から目的物である含フッ素ビニル化合物塩(5)を製造する際には、副反応を抑制でき、含フッ素ビニル化合物塩(5)の収率が高まる傾向にあることから、含水量を低減させた化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)を用いることが好ましい。本実施形態の製造方法において使用する、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)の含水量を低減させる方法としては、一般的に利用できる方法であれば特に限定されないが、前記化合物(2)~(4)を加熱する方法が好ましい。当該化合物(2)~(4)を加熱する際には、真空下又は乾燥ガス流通下において加熱してもよい。
前記乾燥ガスとしては、一般的に用いられる乾燥ガスであれば特に限定されず、乾燥空気、乾燥窒素などが挙げられる。
本実施形態において、加熱する温度は、化合物(2)~化合物(4)の含水量を低減できる温度であれば特に限定されないが、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)の変質を抑制できる傾向にあることから、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。含水量の低減が促進する傾向にあることから、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。
【0029】
<添加物>
本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法において、使用する化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)の種類によっては、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)を溶解させることにより、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)、及び/又は化合物(4)との反応を促進できることから、さらに添加物を利用することもできる。
本実施形態における添加物の利用方法としては、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)及び化合物(4)からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物と添加物とを混合させる方法、あるいは化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)、及び化合物(4)からなる群から選択される1種又は2種以上の塩類との混合物に対して添加物を混合する方法など挙げられる。
本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法には、必要に応じて添加物を化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)及び化合物(4)からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物と混合して使用してもよく、当該添加物としては、例えば、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホ化合物、飽和炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化炭化水素化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、エステル化合物、及び水等が挙げられる。これらの中でも、化合物(2)化合物(3)及び/又は化合物(4)に高い溶解性を有する傾向があることから、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホ化合物が好ましく、アミド化合物、スルホ化合物がより好ましい。
添加物は、1種単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
前記添加物は、具体的に例示するならば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ジメトキシプロパン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及びジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、2-メチルブチロニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、ベンゾニトリル、及びアジポニトリル等のニトリル化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド化合物、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、及び3-メチルスルホラン等のスルホ化合物、n-ペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、n-デカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、及びシクロオクタン等の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ナフタリン、テトラリン、及びビフェニル等の芳香族炭化水素化合物、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、ヘキサクロロエタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロプロパン、トリクロロプロパン、塩化イソプロピル、塩化ブチル、塩化ヘキシル、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロトルエン、及びクロロナフタリン等のハロゲン化炭化水素化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、シクロヘキサノール、及びベンジルアルコール等のアルコール化合物、アセトン、メチルアセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン化合物、及び酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、及び安息香酸ベンジル等のエステル化合物が挙げられる。
【0031】
化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)に高い溶解性を有する傾向があることから、本実施形態の添加物は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ジメトキシプロパン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、2-メチルブチロニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホランが好ましい。
同様の観点から、本実施形態の添加物は、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホランがより好ましい。さらに好ましくは、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、アジポニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホランである。特に好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホランである。
【0032】
本実施形態において、含水量がより少ない添加物を用いることにより、含フッ素ビニル化合物塩(5)の収率がより高まる傾向にあることから、含水量が少ない添加物を用いることが好ましい。
当該含水量が少ない添加物は、購入することもできるし、添加物の含水量を減少させる方法を利用することもできる。本実施形態の添加物の含水量を減少させる方法としては、一般的に利用できる方法であれば特に限定されないが、例えば、脱水剤を利用する方法、蒸留する方法などが挙げられる。
前記脱水剤としては、一般的に用いられる脱水剤であれば特に限定されないが、水素化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、五酸化二リン、活性アルミナ、シリカゲル、及びモレキュラーシーブなどが挙げられる。
本実施形態において、脱水剤を用いる場合、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応に影響がない限り脱水剤を含んだ添加物を利用してもよいし、あるいはろ過などにより脱水剤を含まない添加物を利用してもよい。
【0033】
<化合物(1)の物質量(α)に対する、化合物(2)の物質量(β)と化合物(3)の物質量(γ)と化合物(4)の物質量(δ)の合計の比率((β+γ+δ)/α)>
本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法において、上記一般式(1)で表される含フッ素環状化合物(1)と、上記一般式(2a)で表される構造単位を有するリン酸塩化合物(2)、上記一般式(3)で表されるホウ酸塩化合物(3)及び上記一般式(3)で表されるケイ酸塩化合物(4)からなる群から選択される塩類との混合比率は、前記含フッ素環状化合物(1)の物質量(α)に対する、前記前記リン酸塩化合物(2)の物質量(β)と前記ホウ酸塩化合物(3)の物質量(γ)と前記ケイ酸塩化合物(4)の物質量(δ)の合計の比率を表す数式(I):
(β+γ+δ)/αが、0.5以上を満たすことが好ましく、0.8以上を満たすことがより好ましく、1以上を満たすことがさらに好ましい。
上記式(I)((β+γ+δ)/α)が0.5以上であると、含フッ素ビニル化合物塩(5)の収率がより高まる傾向を示す。
【0034】
また、上記数式(I)の上限は、特に限定されないが、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)の使用量が低減され、かつ目的物である化合物(5)の製造効率又はコストが優れる傾向にあることから、上記数式(I)である(β+γ+δ)/αが10以下であることが好ましく、7以下であることが好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0035】
<化合物(2)の質量(ε)と化合物(3)の質量(ζ)と化合物(4)の質量(η)の合計に対する、添加物の質量(θ)の比率(θ/(ε+ζ+η))>
本実施形態の含フッ素ビニル化合物塩(5)の製造方法において、上記一般式(1)で表される含フッ素環状化合物(1)と、上記一般式(2a)で表される構造単位を有するリン酸塩化合物(2)、上記一般式(3)で表されるホウ酸塩化合物(3)及び上記一般式(4)で表されるケイ酸塩化合物(4)からなる群から選択される塩類と、必要により添加される添加物と、の混合比率は、前記リン酸塩化合物(2)の質量(ε)と前記ホウ酸塩化合物(3)の質量(ζ)と前記ケイ酸塩化合物(4)の質量(η)の合計に対する、前記添加物の質量(θ)の比率を表す数式(II):
θ/(ε+ζ+η)は、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)とが反応する範囲であれば特に限定さない。本実施形態において、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)の種類によっては、化合物(2)、化合物(3)、及び/又は化合物(4)を溶解させることにより、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応が促進できることから、上記数式(II)であるθ/(ε+ζ+η)が0.5以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることがさらに好ましい。
【0036】
また、上記数式(II)であるθ/(ε+ζ+η)の上限は、特に限定されないが、添加物の使用量が低減され、かつ目的物である化合物(5)の製造効率又はコストが優れる傾向にあることから、上記数式(II)であるθ/(ε+ζ+η)が100以下であることが好ましく、50以下であることが好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
【0037】
<化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応>
本実施形態において、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応温度は、一般的に用いられる反応温度であれば特に限定されないが、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応性が高まる傾向にあることから、-20℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましい。同様の観点、及び工業的に温度調整する際の経済性に優れる傾向にあることから、20℃以上であることがさらに好ましい。
本実施形態において、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応温度の上限は、特に限定されないが、化合物(1)、及び/又は添加物の種類によっては、揮発を抑制できる傾向にあり、化合物(5)の収率がより高まる傾向にあること、また、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応の副反応を抑制できる傾向にあることから、160℃以下であることが好ましく、140℃以下がより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。
化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応温度は、上記範囲であれば一定である必要はなく、途中で変化させてもよい。
【0038】
本実施形態において、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応時間は、一般的に用いられる範囲であれば特に限定されないが、化合物(5)の収率の安定性がより高まることから、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。過剰な反応時間としないことで、経済性により優れる製造方法となる傾向にあることから、100時間以下であることが好ましく、同様の観点から50時間以下であることがより好ましく、20時間以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本実施形態において、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応圧力は、通常用いられる範囲であれば特に限定されず、通常は大気圧下で反応が行われる。ただし、化合物(1)及び/又は添加剤の種類によっては、標準状態での蒸気圧が低いため、化合物(1)及び/又は添加剤を液化させ、再利用しない場合には、大気圧以上の加圧を行うことが有効な手段である。化合物(1)及び/又は添加剤を液化させ、再利用する場合には、大気圧以下の減圧であってもよい。
化合物(1)と、化合物(2)及び/又は化合物(3)との反応圧力は、上記範囲であれば一定である必要はなく、途中で変化させてもよい。
【0040】
本実施形態において、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応の雰囲気は、通常用いられる雰囲気であれば特に限定されず、通常は大気雰囲気、窒素雰囲気、及びアルゴン雰囲気等が用いられる。これらの中でも、より安全に化合物(5)を製造できる傾向にあることから、窒素雰囲気及びアルゴン雰囲気が好ましい。また、より経済性に優れる製造方法となる傾向にあることから、窒素雰囲気がよりに好ましい。
反応雰囲気は、1種単独で用いてもよいし、複数種の反応雰囲気を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本実施形態において、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)とを添加する順序は特に限定されないが、化合物(1)と、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)との反応は発熱反応であり、特に化合物(1)、(2)、(3)、(4)の使用量が多い場合には、副反応を抑制できる傾向にあることから、化合物(1)へ化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)を徐々に添加する方法、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)へ化合物(1)を徐々に添加する方法等が好ましく、化合物(2)、化合物(3)及び/又は化合物(4)へ化合物(1)を徐々に添加する方法がより好ましい。
【0042】
以上のように、本発明は、一般的な入手が容易であり、安定に取り扱うことのできるリン酸塩化合物(2)、ホウ酸塩化合物(3)及び/又はケイ酸塩化合物(4)を用いることにより、アルカリ金属アルコキシド及びシラノール化合物(例えば、R1aR2aR3aSi(OM)[Mは、アルキル金属又はアルキル土類金属であり、R1a~R3aは、各々独立に置換されてもよい炭素数1~10個の炭化水素基又はOMである。])を用いずに、含フッ素環状化合物(1)から含フッ素ビニル化合物塩(5)を収率よく製造することができる。
【実施例】
【0043】
以下に本実施形態を具体的に説明した実施例を例示する。本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例及び比較例において使用された分析方法は、以下のとおりである。
【0045】
<核磁気共鳴分析(NMR):19F-NMRによる分子構造解析>
実施例及び比較例で得られた生成物について、19F-NMRを用いて、下記測定条件にて分子構造解析を行った。
[測定条件]
測定装置:JNM-ECZ400S型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
観測核:19F
溶媒:重クロロホルム
基準物質:CFCl3(0.00ppm)
観測周波数:400MHz(1H)
パルス幅:6.5μ秒
待ち時間:2秒
積算回数:16回
【0046】
実施例及び比較例で使用した原材料を以下に示す。
【0047】
(含フッ素環状化合物(1))
国際公開第2019/176425号に記載の方法に従い、下記式(1.1)で表される含フッ素環状化合物(1.1)を製造した。
【化22】
【0048】
(リン酸塩化合物(2))
・リン酸三ナトリウム(AlfaAesar社製の無水物を使用した。以下、「P3N」ともいう。分子式は、Na3PO4である。)
・リン酸三リチウム(株式会社豊島製作所製を使用した。以下、「P3L」ともいう。分子式は、Li3PO4である。)
・リン酸三カリウム(AlfaAesar社製の無水物を使用した。以下、「P3K」ともいう。分子式は、K3PO4である。)
・二リン酸四ナトリウム(AlfaAesar社製の無水物を使用した。以下、「P4N」ともいう。分子式は、Na4P2O7である。)
・二リン酸四カリウム(AlfaAesar社製の無水物を使用した。以下、「P4K」ともいう。分子式は、K4P2O7である。)
【0049】
(ホウ酸塩化合物(3))
・四ホウ酸リチウム(富士フィルム和光純薬株式会社製の和光特級の無水物を使用した。以下、「B2L」ともいう。分子式は、Li2B4O7である。)
・四ホウ酸ナトリウム(AlfaAesar社製の無水物を使用した。以下、「B2N」ともいう。分子式は、Na2B4O7である。)
【0050】
(ケイ酸塩化合物(4))
・ケイ酸ナトリウム(ナカライテクス株式会社製の無水を使用した。以下、「S2N」ともいう。分子式は、Na2SiO3である。)
【0051】
(添加物)
・ジメチルスルホキシド(富士フィルム和光純薬株式会社製の和光特級を使用した。以下、「DMSO」ともいう。乾燥したモレキュラーシーブ4A 1/16(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ4A 1/16を除去することにより含水量を調整した。)
・N,N-ジメチルホルムアミド(富士フィルム和光純薬株式会社製の和光特級を使用した。以下、「DMF」ともいう。乾燥したモレキュラーシーブ4A 1/16(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ4A 1/16を除去することにより含水量を調整した。)
・1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(富士フィルム和光純薬株式会社製の和光特級を使用した。以下、「DMI」ともいう。乾燥したモレキュラーシーブ4A 1/16(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ4A 1/16を除去することにより含水量を調整した。)
・スルホラン(東京化成工業株式会社製。以下、「SFL」ともいう。乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより含水量を調整した。)
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業株式会社製。以下、「TEG」ともいう。乾燥したモレキュラーシーブ3A 1/16(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ3A 1/16を除去することにより含水量を調整した。)
・アジポニトリル(富士フィルム和光純薬株式会社製の和光特級を使用した。以下、「ADN」ともいう。乾燥したモレキュラーシーブ4A 1/16(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加え、脱水し、モレキュラーシーブ4A 1/16を除去することにより含水量を調整した。)
【0052】
(その他)
・2,2,2-トリフルオロエタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製の和光特級を使用した。)
ベンゾトリフルオリド(東京化成工業株式会社製、以下、「BTF」ともいう。)
・炭酸ナトリウム(AlfaAesar社製の無水物を使用した。以下、「CN2」ともいう。分子式は、Na2CO3である。)
・硫酸ナトリウム(AlfaAesar社製の無水物を使用した。以下、「RN2」ともいう。分子式は、Na2SO4である。)
・硝酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製の和光特級を使用した。以下、「NN1」ともいう。分子式は、NaNO3である。)
【0053】
[実施例1]
試験管(Radley Discovery Technologies社製、RP98059、RP98062)に、攪拌子とP3N(0.60g、3.68mmol)を入れ、加熱冷却攪拌装置(東京理化器械株式会社製、PPM-5512型、冷却する際には外部より冷却水を循環させた)に設置し、真空とした後、加熱冷却攪拌装置を100℃に設定し、1時間乾燥した。試験管内を窒素雰囲気とした後、室温に冷却した。試験管にDMSO(2.55g)を入れ、攪拌した後、加熱冷却攪拌装置を60℃に設定した。加熱冷却攪拌装置が60℃となった後、含フッ素環状化合物(1.1)(1.00g、3.57mmol)を滴下し、4時間攪拌した。室温に冷却した後、分析用のBTF(0.1g)を加え、攪拌し、クロマトディスク(ジーエルサイエンス株式会社製、孔径0.2μm)にてろ過し、得られたろ液を
19F-NMRにて分析した。分析の結果、下記式(5.1)で示される含フッ素ビニル化合物塩(5.1)が生成していた(生成量:0.84g、生成物質量:2.78mmol、生成率:78.0%)。なお、分析においては、BTFの質量、BTFのCF
3及び含フッ素ビニル化合物塩(5.1)のCF
2の積分値より、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成量等を算出した。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.2であった。
【化23】
19F-NMR:δ(ppm)-84.67(2F)、-116.41(1F)、-118.20(2F)、-123.72(1F)、-134.78(1F)
【0054】
[実施例2]
P3NをP3L(0.43g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物である含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3Li)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3Li)の生成を確認した(生成量:0.80g、生成物質量:2.65mmol、生成率:74.3%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は6.0であった。
【0055】
[実施例3]
P3NをP3K(0.78g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3K)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3K)の生成を確認した(生成量:0.86g、生成物質量:2.86mmol、生成率:80.2%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は3.3であった。
【0056】
[実施例4]
P3NをP4N(0.98g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.70g、生成物質量:2.35mmol、生成率:65.8%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は2.6であった。
【0057】
[実施例5]
P3NをP4K(1.21g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3K)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3K)の生成を確認した(生成量:0.72g、生成物質量:2.41mmol、生成率:67.5%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は2.1であった。
【0058】
[実施例6]
P3NをB2L(0.62g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3Li)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(CF=CF2OCF2CF2SO3Li)の生成を確認した(生成量:0.61g、生成物質量:2.04mmol、生成率:57.1%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.1であった。
【0059】
[実施例7]
P3NをB2N(0.74g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.63g、生成物質量:2.10mmol、生成率:58.8%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は3.4であった。
【0060】
[実施例8]
P3NをS2N(0.45g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.69g、生成物質量:2.31mmol、生成率:64.6%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は5.7であった。
【0061】
[実施例9]
DMSOをDMF(2.55g)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.80g、生成物質量:2.68mmol、生成率:75.1%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.2であった。
【0062】
[実施例10]
DMSOをDMI(2.55g)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(7)の生成を確認した(生成量:0.82g、生成物質量:2.73mmol、生成率:76.4%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.2であった。
【0063】
[実施例11]
DMSOをSFL(2.55g)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.81g、生成物質量:2.71mmol、生成率:75.8%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.2であった。
【0064】
[実施例12]
DMSOをTEG(2.55g)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.73g、生成物質量:2.45mmol、生成率:68.5%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.2であった。
【0065】
[実施例13]
DMSOをADN(2.55g)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(7)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.75g、生成物質量:2.49mmol、生成率:69.8%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.2であった。
【0066】
[実施例14]
試験管(Radley Discovery Technologies社製、RP98059、RP98062)に、攪拌子とP3N(2.87g、17.5mmol)を入れ、加熱冷却攪拌装置(東京理化器械株式会社製、PPM-5512型、冷却する際には外部より冷却水を循環させた)に設置し、真空とした後、加熱冷却攪拌装置を100℃に設定し、1時間乾燥した。試験管内を窒素雰囲気とした後、室温に冷却した。試験管にDMSO(12.1g)を入れ、攪拌した後、加熱冷却攪拌装置を60℃に設定した。加熱冷却攪拌装置が60℃となった後、含フッ素環状化合物(1.1)(1.00g、3.57mmol)を滴下し、1時間攪拌した。室温に冷却した後、分析用のBTF(0.1g)を加え、攪拌し、クロマトディスク(ジーエルサイエンス株式会社製、孔径0.2μm)にてろ過し、得られたろ液を19F-NMRにて分析した。分析の結果、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)が生成していた(生成量:0.77g、生成物質量:2.57mmol、生成率:72.1%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは4.9であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.2であった。
【0067】
[実施例15]
DMSOの量を5.73gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により目的物の含フッ素ビニル化合物塩(5.1)を製造した。19F-NMRの分析により、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)の生成を確認した(生成量:0.82g、生成物質量:2.72mmol、生成率:76.2%)。
また、本実施例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は9.5であった。
【0068】
[比較例1]
P3NをCN2(0.39g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により含フッ素環状化合物(1.1)を反応させた。19F-NMRの分析の結果、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)は検出されなかった。
また、本比較例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は6.5であった。
【0069】
[比較例2]
P3NをRN2(0.52g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により含フッ素環状化合物(1.1)を反応させた。19F-NMRの分析の結果、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)は検出されなかった。
また、本比較例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は4.9であった。
【0070】
[比較例3]
P3NをNN1(0.31g、3.68mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により含フッ素環状化合物(1.1)を反応させた。19F-NMRの分析の結果、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)は検出されなかった。
また、本比較例では、(β+γ+δ)/αは1.0であり、(θ/(ε+ζ+η))は8.2であった。
【0071】
[比較例4]
CN2の量を1.85g(17.5mmol)、DMSOの量を12.1gに変更した以外は、実施例1と同様の方法により含フッ素環状化合物(1.1)を反応させた。19F-NMRの分析の結果、含フッ素ビニル化合物塩(5.1)は検出されなかった。
また、本比較例では、(β+γ+δ)/αは4.9であり、(θ/(ε+ζ+η))は6.5であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、一般的な入手が容易であり、安定に取り扱うことのできるリン酸塩化合物(2)、ホウ酸塩化合物(3)及び/又はケイ酸塩化合物(4)を利用することで、含フッ素環状化合物(1)から含フッ素ビニル化合物塩(5)を収率よく製造することができるため、各種フッ素含有化合物、イオン交換樹脂、イオン交換膜、食塩電解膜、燃料電池膜、レドックスフロー電池用膜、水電解用膜等の原料の製造において好適に用いることができる。