(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】二次電池用の負極、負極用スラリー、及び、負極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20241213BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241213BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241213BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241213BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241213BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241213BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241213BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20241213BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20241213BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 D
H01M4/36 E
H01M4/36 B
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M4/1393
H01M4/1395
(21)【出願番号】P 2020216840
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】松原 恵子
(72)【発明者】
【氏名】高椋 輝
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-186732(JP,A)
【文献】特表2018-514918(JP,A)
【文献】特開2008-027897(JP,A)
【文献】特開2004-146292(JP,A)
【文献】特開2018-088406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/134
H01M 4/1393
H01M 4/1395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用の負極であって、
負極活物質としての黒鉛系材料及び珪素系材料と、導電材と、を少なくとも含み、
前記黒鉛系材料が、人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を含み、
前記造粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛が部分的に
グラフェン化して、
厚さ300nm以下のグラフェン化部分を形成しており、
前記グラフェン化部分が、前記珪素系材料もしくは他の人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体と接触しているか、又は前記珪素系材料と複合している、負極。
【請求項2】
前記珪素系材料が、酸化珪素と珪素系合金とのうち一方又は両方を含む、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記珪素系合金が、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)のうちの一種又は二種以上を含む、請求項2に記載の負極。
【請求項4】
前記導電材が、カーボンブラックである、請求項1から3のいずれか一項に記載の負極。
【請求項5】
前記黒鉛系材料と前記珪素系材料の重量比が98:2~50:50である、請求項1から4のいずれか一項に記載の負極。
【請求項6】
前記造粒体中の人造黒鉛と天然黒鉛の重量比が60:40~90:10である、請求項1から5のいずれか一項に記載の負極。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の負極と、正極と、前記負極と前記正極との間に介在するセパレータと、電解質と、を含む二次電池。
【請求項8】
二次電池用の負極用スラリーであって、
負極活物質としての黒鉛系材料及び珪素系材料と、導電材と、溶媒と、増粘剤及びバインダーのうち少なくとも一方とを、スラリー中の固形分の含有量が60重量%以上であるように含み、
前記黒鉛系材料が、人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を含み、
前記造粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛が部分的にグラフェン化して、厚さ300nm以下のグラフェン化部分を形成している、負極用スラリー。
【請求項9】
前記スラリー中の固形分の含有量が65重量%以上75重量%以下である、請求項8に記載の負極用スラリー。
【請求項10】
二次電池用の負極を製造する方法であって、
負極活物質としての黒鉛系材料及び珪素系材料と、導電材と、溶媒と、増粘剤及びバインダーのうち少なくとも一方とを混合して、スラリー中の固形分の含有量が60重量%以上であるスラリーを調製するステップと、
前記スラリーを固練りするステップと、
前記スラリーを集電体に塗布することによって、負極を製造するステップと、を含み、
前記黒鉛系材料が、人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体であり、
前記スラリーを固練りするステップにおいて、前記造粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛が部分的にグラフェン化されて、厚さ300nm以下のグラフェン化部分が形成される、方法。
【請求項11】
前記スラリーを固練りするステップの後に、前記スラリーにバインダー及び溶媒を更に加えるステップを更に含む請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の負極、負極用スラリー、負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器と電気自動車に対する技術開発と需要が増加するに伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度及び電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウムイオン二次電池が常用化され、広く使用されている。現在、このようなリチウムイオン二次電池の高容量化を試みる研究が精力的に進められている。
【0003】
酸化珪素や珪素系合金等の珪素系材料は、現在主流である黒鉛等の炭素系材料よりも大きい理論容量密度を有しているため、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させる負極材料として期待され従来研究されている。珪素系材料の中でも特に酸化珪素(SiOx(0<x<2)、例えば、SiO)については比較的膨張率が低く一部実用化されているが、黒鉛に比べ20%以上初期効率が低く、単独で使用すると正極との不可逆容量の差が大きくなるため、炭素系材料に数%程度混合して使用されているのが現状である。酸化珪素より不可逆容量が低い珪素系合金には膨張率に課題があり、やはり黒鉛と混合して電極全体の膨張率を緩和することが検討されているという状況である。
【0004】
しかしながら、炭素系材料と珪素系材料は粉体特性や導電性、膨張率等が異なるものであるため、炭素系材料と珪素系材料を混合して用いる場合には、繰り返しの充放電による膨張収縮において炭素系材料と珪素系材料との間の導電経路を維持しながら活物質全体が利用される構造を形成することは困難であり、膨張率が大きい珪素系材料だけでなく、炭素系材料の容量も次第に活用されなくなる。
【0005】
また、炭素系材料として人造黒鉛を用いる場合には、天然黒鉛と比較しても膨張率が低いという利点があるものの、硬質であるため圧延によっても変形しにくく、電極製造時から珪素系材料との間に空隙が形成され易く、粒径が小さい珪素系材料の粒子が孤立して、初期容量の低下や充放電に伴う容量劣化が起き易くなる。
【0006】
そこで、炭素系材料と珪素系材料の両方を含む負極内における導電経路を確保するために、基本的には非導電性である珪素系材料を導電性の炭素系材料と複合化すること(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)や、グラフェンやカーボンナノチューブといったナノカーボン材料を導電材として添加することが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。しかし、前者の場合には粒子間の導電経路の確保が困難であるという問題があり、後者の場合には、負極全体にわたってナノカーボン材料を均一に分散させることが困難であり、またナノカーボン材料のコストが非常に高いといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-067579号公報
【文献】国際公開第2012/140790号
【文献】特開2020-013718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、負極中の導電経路を高度且つ強固に確立して、安定な充放電の繰り返しを可能とすることによって、寿命特性を向上させることができる二次電池用の負極、負極用スラリー、負極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、二次電池用の負極が提供され、その負極は負極活物質としての黒鉛系材料及び珪素系材料と導電材とを少なくとも含み、黒鉛系材料は人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を含み、造粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛は部分的に薄片化して薄片化部分を形成しており、薄片化部分は珪素系材料もしくは他の人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体と接触しているか又は珪素系材料と複合している。
【0010】
上記態様の負極において、珪素系材料は、酸化珪素と珪素系合金とのうち一方又は両方を含み得る。
【0011】
上記態様の負極において、珪素系合金は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)のうちの一種又は二種以上を含み得る。
【0012】
上記態様の負極において、導電材はカーボンブラックであり得る。
【0013】
上記態様の負極において、黒鉛系材料と珪素系材料の重量比が98:2~50:50であり得る。
【0014】
上記態様の負極において、造粒体中の人造黒鉛と天然黒鉛の重量比が60:40~90:10であり得る。
【0015】
上記態様の負極を含む二次電池も提供され、その二次電池は、正極と、負極と正極との間に介在するセパレータと、電解質と、を更に含む。
【0016】
本発明の他の態様によると、二次電池用の負極用スラリーが提供され、その負極用スラリーは、負極活物質としての黒鉛系材料及び珪素系材料と、導電材と、溶媒と、増粘剤及びバインダーのうち少なくとも一方とを、スラリー中の固形分の含有量が60重量%以上であるように含み、黒鉛系材料は人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を含む。
【0017】
上記態様の負極用スラリーにおいて、粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛は部分的に薄片化して、薄片化部分を形成し得る。
【0018】
上記態様の負極用スラリーにおいて、スラリー中の固形分の含有量が65重量%以上75重量%以下となり得る。
【0019】
本発明の更に他の態様によると、二次電池用の負極を製造する方法が提供され、その方法は、負極活物質としての黒鉛系材料及び珪素系材料と、導電材と、溶媒と、増粘剤及びバインダーのうち少なくとも一方とを混合して、スラリー中の固形分の含有量が60重量%以上であるスラリーを調製するステップと、スラリーを固練りするステップと、スラリーを集電体に塗布することによって、負極を製造するステップと、を含み、黒鉛系材料が人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体である。
【0020】
上記態様の方法では、スラリーを固練りするステップにおいて、造粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛が部分的に薄片化され、薄片化部分が形成され得る。
【0021】
上記態様の方法では、スラリーを固練りするステップにおいて、造粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛が部分的に薄片化され、薄片化部分が形成され得る。
【0022】
上記態様の方法は、前記スラリーを固練りするステップの後に、前記スラリーにバインダー及び溶媒を更に加えるステップを更に含み得る。
【発明の効果】
【0023】
負極活物質としての黒鉛系材料に、人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を用い、その造粒体中の一部の天然黒鉛が部分的に薄片化して薄片化部分を形成しているため、珪素系材料と黒鉛系材料が薄片化部分を通して広い面積で接触し、あるいは珪素系材料が一部の薄片化部分と複合化されることにより、黒鉛との導電経路が高度且つ強固に形成され、安定した充放電を繰り返すことができ、寿命特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
本願全体にわたって、特に断らない限り、「平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布における積算値50%での粒径、すなわちメジアン径(D50)を意味する。また、記号「~」は、当該記載が示す範囲の両端を含む意味で使用される。例えば、「1~2」との記載は「1以上2以下」を意味する。
【0027】
[非水電解質二次電池]
本発明の一実施形態は、非水電解質二次電池に係るものである。本実施形態に係る非水電解質二次電池は、負極、正極、負極と正極との間に介在するセパレータ、及び非水電解質を含む。当該二次電池の具体例としては、高いエネルギー密度、放電電圧、出力安定性などの長所を有するリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0028】
以下、主にリチウムイオン二次電池を例に取って説明するが、本発明はリチウムイオン二次電池に限定されず、種々の非水電解質二次電池に適用可能である。
【0029】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、負極、正極、負極と正極との間に介在するセパレータ、及び非水電解質を含む。また、リチウムイオン二次電池は、負極、正極、及びセパレータから構成される電極組立体を収容する電池ケース、並びに電池ケースを密封する密封部材を選択的に含み得る。
【0030】
[負極]
負極は、負極集電体と、負極集電体の一面上又は両面上に形成された負極活物質層を含む。負極活物質層は、負極集電体の面全体に形成されてもよく、一部のみに形成されてもよい。
【0031】
(負極集電体)
負極に使用される負極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず、かつ、導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、負極集電体として、銅;ステンレス鋼;アルミニウム;ニッケル;チタン;焼成炭素;銅又はステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの;アルミニウム‐カドミウム合金などが使用され得る。
【0032】
負極集電体は、3μm以上500μm以下の厚さを有し得る。負極集電体の表面上に微細な凹凸を形成して負極活物質との接着力を高めることもできる。負極集電体は、例えば、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を有し得る。
【0033】
(負極活物質層)
負極活物質層は、例えば、負極活物質、バインダー、及び導電材の混合物が溶媒中に溶解又は分散した負極用スラリーを負極集電体に塗布した後、乾燥及び圧延することにより、又は、上記の負極用スラリーを別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることにより、形成され得る。上記混合物は、必要に応じて、さらに分散剤や充填材その他の任意の添加剤を含み得る。
【0034】
負極活物質は、負極活物質層の全重量を基準に70重量%以上99重量%以下で含まれ得る。
【0035】
(負極活物質)
実施形態に係るリチウムイオン二次電池において、負極活物質は、黒鉛系材料と、珪素系材料と、を少なくとも含む。
【0036】
黒鉛系材料は、人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を含む。例えば、造粒体は、母材(コア)としての人造黒鉛の粒子に天然黒鉛の粒子を付着させ造粒したものである。造粒は、人造黒鉛と天然黒鉛とを大気雰囲気中等で混合し、機械的/物理的な力の印加によって造粒する乾式方式、溶媒中に人造黒鉛と天然黒鉛を分散させ混合した後に溶媒を除去する湿式方式等の公知の方法によって行われ得る。
【0037】
人造黒鉛は、コークス、コールタールピッチ等の易黒鉛化性炭素材を高温(例えば、2800℃程度)で焼成(つまり、黒鉛化)することによって工業的に生産される黒鉛である。例えば、人造黒鉛としては、メソカーボンマイクロビーズ、メソカーボンファイバー、塊状人造黒鉛(マッシブアーティフィシャルグラファイト)等が知られているが、本発明において使用可能な人造黒鉛は特に限定されない。一般的に、人造黒鉛は、天然黒鉛と比較して硬質であり、リチウムイオン二次電池の負極における使用時においては天然黒鉛よりも充放電による膨張が少ないことが知られている。
【0038】
天然黒鉛は、黒鉛鉱石を採掘し、選鉱、精製等の処理をすることによって生成された黒鉛である。天然黒鉛としては、鱗片状、塊状、土状のもの等が知られているが、本発明において使用可能な天然黒鉛は特に限定されない。
【0039】
造粒体に用いられる人造黒鉛と天然黒鉛のサイズは、これらを造粒することによって形成される造粒体の所望のサイズが得られるように選択される。そして、人造黒鉛と天然黒鉛の造粒によって得られた造粒体の平均粒径(D50)は、例えば、3μm以上30μm以下、好ましくは5μm以上25μm以下、より好ましくは15μm以上20μm以下であり得て、一例として20μmであり得る。
【0040】
造粒体中の人造黒鉛と天然黒鉛の重量比は、特に造粒体の表面に十分な量の天然黒鉛が存在するように選択され、例えば、(人造黒鉛:天然黒鉛)=60:40~90:10となり得て、一例として80:20となり得る。
【0041】
珪素系材料としては、酸化珪素、珪素系合金、珪素(Si)粉末、珪素ナノ粒子、珪素ナノワイヤ等が挙げられ、これらが単独又は二種以上の混合物で使用され得る。好ましくは、酸化珪素と珪素系合金のいずれか一方又は両方が使用され得る。
【0042】
酸化珪素は、一般式SiOxで表され、ここで、xは、0<x<2であり、例えば、SiO(x=1)であり得る。酸化珪素は、例えば、アモルファスの酸化珪素のマトリックス中にSi微粒子が微結晶又はアモルファスの形態で分散した構造を有し得る。酸化珪素は、特定のxの値を有するSiOxのみを含んでもよく、xの値が異なる2種以上のSiOxの混合物であってもよい。
【0043】
珪素系合金は、アモルファスの珪素のマトリクス中に遷移金属シリサイドの微粒子が微結晶又はアモルファスの形態で分散した粒子構造を有する造粒体であり得る。このような珪素系合金の造粒体は、例えば、ケイ素と遷移金属のアトマイズ処理(好ましくは、ガスアトマイズ処理)によって珪素合金粉末を得て、その後メカニカルアロイング処理によって珪素をアモルファス化することによって得られる。上記珪素系合金の造粒体中のアモルファスの珪素の含有量は、例えば、10重量%以上60重量%以下、好ましくは20重量%以上40重量%以下となり得る。シリサイドの遷移金属は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)のうちの一種又は二種以上であり得る。二種以上の遷移金属の組み合わせとしては、例えば、CrとTiとFeが選択され、好ましくはCrとTiが選択される。CrとTiを用いる場合、SiCrTi合金粉末が得られ、その粉末中のシリサイドとしては、CrSi、CrSi2、TiSi2、TiSi等の二元系シリサイド、CrxSiyTizの三元系のシリサイドが理論的には形成される。SiCrTi合金粉末の場合、主成分としてSiが70原子%以上90原子%以下で含まれ得て、残りが遷移金属成分となる。例えば、SiとCrとTiの原子量比(Si:Cr:Ti)=84原子%:8原子%:8原子%や、82.4原子%:8.8原子%:8.8原子%等となり得る。
【0044】
珪素系材料は、粒子状であり得て、珪素系材料の粒子の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上10μm以下、特に、1μm以上5μm以下、例えば5μmとなり得て、又は、1μm以上2μm以下ともなり得る。
【0045】
珪素系材料の粒子の平均粒径は、黒鉛系材料の粒子の平均粒径よりも小さく選択され得る。このように、珪素系材料の粒子を小さくすることによって、炭素系材料よりも膨張率が高い珪素系材料を負極中の空隙(例えば、炭素系材料同士の間の空隙)や、炭素系材料の表面上又は内部に配置することができる。
【0046】
負極活物質中の黒鉛系材料と珪素系材料の重量比は、珪素系材料の膨張率及び容量を考慮して選択され得て、例えば、黒鉛系材料と珪素系材料の重量比(黒鉛系材料:珪素系材料)=98:2~50:50、特に98:2~70:30となり得て、一例として90:10となり得る。
【0047】
(バインダー)
バインダーは、活物質と導電材との結合や集電体との結合などを促進する成分として添加される。バインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸、アクリルアミド、ポリイミド、フッ素ゴム、これらの種々の共重合体などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0048】
バインダーの含有量は、負極活物質層の総重量を基準として0.1重量%以上30重量%以下であり得る。バインダーの含有量は、好ましくは0.5重量%以上20重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以上10重量%以下であり得る。バインダー高分子の含量が上記の範囲を満足するとき、電池の容量特性低下を防止しながら、電極内の十分な接着力を付与することができる。
【0049】
(導電材)
導電材は、化学変化を誘発しない電気伝導性材料であれば、特に制限されない。導電材の例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、炭素繊維などの炭素系材料(負極活物質としての炭素系材料とは別途添加される炭素系材料);アルミニウム、スズ、ビスマス、シリコン、アンチモン、ニッケル、銅、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、モリブデン、タングステン、銀、金、ランタン、ルテニウム、白金、イリジウムなどの金属粉末や金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0050】
有利には、分散性やコストの観点から、炭素系材料の導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、特にカーボンブラックが導電材として選択され得るが、これは、導電材としての人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンの使用を排除するものではない。
【0051】
導電材の含有量は、負極活物質層の総重量を基準として0.1重量%以上30重量%以下であり得る。導電材の含有量は、好ましくは0.5重量%以上15重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上10重量%以下であり得る。導電材の含量が上記の範囲を満足するとき、十分な導電性を付与することができ、負極活物質の量を減少させないため電池容量を確保できる点で有利である。
【0052】
(増粘剤)
負極用スラリーは、増粘剤をさらに含むことができる。具体的に、増粘剤はセルロース系化合物であり得る。セルロース系化合物としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、メチルエチルヒドロキシエチルセルロース(MEHEC)等が挙げられ、これらのうちいずれか一種又は二種以上の組み合わせが使用され得る。増粘剤は、負極活物質層の総重量を基準として、例えば0.5重量%以上10重量%以下の量で含まれ得る。
【0053】
(溶媒)
負極用スラリーにおいて使用される溶媒は、一般に負極の製造に使用されるものであれば特に制限されない。溶媒の例としては、純水、N‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソプロピルアルコール、アセトンなどが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0054】
[負極の製造方法]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池用の負極の製造方法は、(1)負極用スラリーを調製するステップ;(2)負極用スラリーの固練りを行うステップ;(3)負極用スラリーから負極を製造するステップを含み得る。
【0055】
(1)負極用スラリーを調製するステップ
負極活物質としての黒鉛系材料(人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体)と珪素系材料、導電材、増粘剤、バインダー、及び溶媒を用意する。必要に応じて、分散剤や充填材その他の任意の添加剤を用意する。増粘剤は予め溶媒(水、NMPなど)に溶解させておくと使い易い。そして、これらの材料を混合して、負極用スラリーを調製する。具体的には、まずはじめに、導電材と増粘剤、分散剤等に溶媒を加えて混合し、その後に珪素系材料と黒鉛系材料を投入する。増粘剤を併用しないバインダーを用いる場合には、増粘剤の代わりにバインダーの一部を投入する。
【0056】
負極用スラリー中の固形分の含有量は、スラリー全体の重量を基準として60重量%以上となるように調整される。この調整は、スラリーに加える溶媒の量を調整することによって行われ得る。好ましくは、負極用スラリー中の固形分の含有量は65重量%以上となるように調製される。固形分の含有量が60重量%未満では、スラリーの粘度が低いため、後続の固練りステップにおいて十分なせん断応力が得られず、また、特に、黒鉛系材料と珪素系材料との間の相互作用(衝突、衝撃、摩擦等)が不十分となる。スラリー中の固形分の含有量の上限は、後続の固練りステップが適切に行われる限りにおいて特に制限されないが、固形分の含量が高過ぎると、スラリー中の各材料の分散性が低下するため、例えば75重量%以下、好ましくは70重量%以下に設定され得る。
【0057】
(2)負極用スラリーの固練りを行うステップ
次いで、(1)で調製された負極用スラリーの固練り(hard mixing、混錬とも称される)を行う。固練りは、例えば、自転公転攪拌機(planetary centrifugal mixer)を用いる等の公知の方法で行われ得る。
【0058】
固練り中においては、スラリー中の固形分の含有量が60重量%以上と高いため、珪素系材料が黒鉛系材料に激しく衝突する。ここで、一般的に天然黒鉛は人造黒鉛や珪素系材料と比較して軟質である。そのため、黒鉛系材料の造粒体中に存在する少なくとも一部の天然黒鉛については、その表面に硬質の珪素系材料が衝突することによって、その天然黒鉛の表面部が部分的に薄片化して、薄片化部分を形成する。ここで、本願において、部分的な薄片化とは、天然黒鉛の表面部が、天然黒鉛から完全に剥離、脱離してしまうのではなくて、天然黒鉛の表面部が部分的に剥がれ、めくれて、薄片化した状態、いわば、ささくれ立った状態を意味する。薄片化部分は、単層のグラフェンであり得て、この場合、薄片化はグラフェン化を意味する。又は、薄片化部分は、グラフェンの積層数が2層以上であって、数十層程度、数百層程度、数千層程度以下のものとなり得て、厚さとしては、数nm以下、数十nm以下、又は、サブミクロン厚さ程度(例えば、300nm程度以下や、100nm程度以下)のものとなり得る。
【0059】
一方で、造粒体中の人造黒鉛については、その硬質性のため、固練り中に特に破壊されることはない。結果として、黒鉛系材料の造粒体全体としては、母材として人造黒鉛の存在に起因して、固練り中の必要以上の破壊や粉砕を抑制することができる。同様に、硬質である珪素系材料についても固練り中に特に破壊されない。
【0060】
固練りが進行するにつれ、珪素系材料は、スラリー中に分散していき、造粒体と接触し、特に、天然黒鉛に形成された薄片化部分と接触し、更には、固練り中に印加されるせん断力や衝突の力等によって、天然黒鉛の薄片化部分と複合化(例えば、物理的及び/又は化学的に吸着/結合)され得る。
【0061】
固練り中においては、スラリーの温度を或る程度の高温(例えば、60℃以上80℃以下、好ましくは65℃以上75℃以下)とすることによって、固練りを促進することができ、結果として造粒体中の一部の天然黒鉛の部分的な薄片化を促進し得る。
【0062】
(3)負極用スラリーから負極を製造するステップ
固練り終了後に、バインダーを全量投入し、溶媒で固形分濃度が50重量%程度となるように調整し、さらに混合を行う。最後に塗布しやすい固形分濃度となるように溶媒で調整し、軽く混合する。このようにして製造した負極用スラリーを負極集電体に塗布した後、乾燥及び圧延することにより、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極が製造され得る。負極用スラリーの塗布の前に、塗布を容易にするため固練り後のスラリーに溶媒を更に加えた上で、塗布を行ってもよい。
【0063】
他の方法として、例えば、上記の負極用スラリーを別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで負極が製造されてもよい。また、その他の任意の方法を用いて負極活物質層が負極集電体上に形成されてもよい。
【0064】
上記のようにして得られた負極は、負極活物質としての黒鉛系材料(人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体)及び珪素系材料と、導電材とを少なくとも含んでいる。造粒体中の少なくとも一部の天然黒鉛においては、特に表面部が部分的に薄片化して、薄片化部分を形成している。その薄片化部分は、天然黒鉛から脱離してはいないため、造粒体表面において多様な方向を向いて存在し、隣接する珪素系材料や他の造粒体と接触し、更には一部の薄片化部分が珪素系材料と複合化して、負極中に等方的な導電経路を確立している。薄片化部分が形成する導電経路については、負極活物質としての造粒体に由来しているものであるため、分散の問題は生じない。そして、更に導電材が添加されているため、導電経路の更なる向上が図られている。また、粒径の小さな珪素系材料が、薄片化部分を通して広い面積で造粒体と接触しており、又は薄片化部分と複合化しており、それによって、負極全体にわたって導電経路が高度且つ強固に形成されている。
【0065】
[正極]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池において、正極は、正極集電体及び当該正極集電体の一面上又は両面上に形成された正極活物質層を含む。正極活物質層は、正極集電体の面全体に形成されてもよく、一部のみに形成されてもよい。
【0066】
(正極集電体)
正極に使用される正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、正極集電体として、ステンレス鋼;アルミニウム;ニッケル;チタン;焼成炭素;アルミニウム又はステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。
【0067】
正極集電体は、3μm以上500μm以下の厚さを有し得る。正極集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質との接着力を高めることもできる。正極集電体は、例えば、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を有し得る。
【0068】
(正極活物質層)
正極活物質層は、例えば、正極活物質、導電材、及びバインダーの混合物が溶媒中に溶解及び分散した正極用スラリーを正極集電体に塗布した後、乾燥及び圧延することにより形成され得る。上記混合物は、必要に応じて、さらに増粘剤、分散剤や充填材その他の任意の添加剤を含み得る。
【0069】
正極活物質は、正極活物質層の全重量を基準に80重量%以上99重量%以下で含まれ得る。
【0070】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムの可逆的な挿入(インターカレーション)及び脱離(デインターカレーション)が可能な化合物が使用できる。具体的な例としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウムなどの1種以上の金属とリチウムとを含むリチウム金属複合酸化物が挙げられる。より具体的には、そのようなリチウム金属複合酸化物として、リチウム‐マンガン系酸化物(例えば、LiMnO2、LiMnO3、LiMn2O3、LiMn2O4など);リチウム‐コバルト系酸化物(例えば、LiCoO2など);リチウム‐ニッケル系酸化物(例えば、LiNiO2など);リチウム‐銅系酸化物(例えば、Li2CuO2など);リチウム‐バナジウム系酸化物(例えば、LiV3O8など);リチウム‐ニッケル‐マンガン系酸化物(例えば、LiNi1-zMnzO2(0<z<1)、LiMn2-zNizO4(0<z<2)など);リチウム‐ニッケル‐コバルト系酸化物(例えば、LiNi1-yCoyO2(0<y<1)など);リチウム‐マンガン‐コバルト系酸化物(例えば、LiCo1-zMnzO2(0<z<1)、LiMn2-yCoyO4(0<y<2)など);リチウム‐ニッケル‐マンガン‐コバルト系酸化物(例えば、Li(NixCoyMnz)O2(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)、Li(NixCoyMnz)O4(0<x<2、0<y<2、0<z<2、x+y+z=2)など);リチウム‐ニッケル‐コバルト‐金属(M)酸化物(例えば、Li(NixCoyMnzMw)O2(MはAl、Fe、V、Cr、Ti、Ta、Mg、及びMoからなる群より選択され、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<w<1、x+y+z+w=1)など);これらの化合物中の遷移金属元素が部分的に他の1種又は2種以上の金属元素で置換された化合物などが挙げられる。正極活物質層は、これらのうちいずれか1つ又は2つ以上の化合物を含むことができる。ただし、これらのみに限定されるものではない。
【0071】
とりわけ、電池の容量特性及び安定性の向上の面で、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiNiO2、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(例えば、Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2、Li(Ni0.6Mn0.2Co0.2)O2、Li(Ni0.4Mn0.3Co0.3)O2、Li(Ni0.5Mn0.3Co0.2)O2、Li(Ni0.7Mn0.15Co0.15)O2、Li(Ni0.8Mn0.1Co0.1)O2など)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(例えば、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2など)などが好ましい。
【0072】
(バインダー及び導電材)
正極用スラリーに使用されるバインダー及び導電材の種類及び含有量は、負極について説明したものと同様であり得る。
【0073】
(溶媒)
正極用スラリーにおいて使用される溶媒は、一般に正極の製造に使用されるものであれば特に制限されない。溶媒の例としては、純水、N,N‐ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、N,N‐ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミン系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、アセト酸メチルなどのエステル系溶媒、ジメチルアセトアミド、1‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)などのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0074】
溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さや製造収率を考慮して、正極活物質、導電材、及びバインダーを溶解又は分散させるとともに、正極集電体への塗布時に優れた厚さ均一度を示し得る粘度を有する程度であれば十分である。
【0075】
[正極の製造方法]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池用の正極の製造方法は、正極活物質を、必要に応じてバインダー、導電材、増粘剤などとともに溶媒に溶解又は分散させることにより正極用スラリーを得るステップと、負極の製造方法と同様に正極用スラリーを正極集電体上に塗布するなどして正極活物質層を正極集電体上に形成することにより正極を得るステップと、を含み得る。
【0076】
[セパレータ]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池において、セパレータは、負極と正極とを分離してリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常リチウムイオン二次電池でセパレータとして使用されるものであれば特に制限なく使用可能である。特に、電解質のイオン移動に対する抵抗が小さく、電解質の含湿能に優れたものが好ましい。例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、エチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子から製造された多孔性高分子フィルム、又はこれらの2層以上の積層構造体がセパレータとして使用され得る。また、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維やポリエチレンテレフタレート繊維などから製造された不織布も使用され得る。また、耐熱性又は機械的強度確保のためにセラミック成分又は高分子物質がコーティングされたセパレータが用いられてもよい。
【0077】
[非水電解質]
実施形態に係る非水電解質二次電池において、非水電解質は、二次電池の製造に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
非水電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含むことができ、さらに必要に応じて添加剤を含むことができる。以下、液体電解質を「電解液」とも言う。
【0079】
有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たせるものであれば、特に制限なく使用可能である。有機溶媒の例としては、メチルアセテート、エチルアセテート、γ‐ブチロラクトン、ε‐カプロラクトンなどのエステル系溶媒;ジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ベンゼン、フルオロベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(RはC2からC20の直鎖状、分岐状又は環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環又はエーテル結合を含んでよい)などのニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン系溶媒;スルホラン系溶媒などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。特に、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充電/放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~1:9の体積比で混合して用いると、優れた電解質性能を示し得る。
【0080】
リチウム塩は、リチウムイオン二次電池で使用されるリチウムイオンを提供可能な化合物であれば、特に制限なく使用可能である。リチウム塩の例としては、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI又はLiB(C2O4)2などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。当該リチウム塩は、例えば電解質に0.1mol/L以上2mol/L以下の濃度で含まれ得る。リチウム塩の濃度が当該範囲に含まれる場合、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動できる。
【0081】
添加剤は、電池寿命特性の向上、電池容量減少の抑制及び電池放電容量の向上などを目的として、必要に応じて使用可能である。添加剤の例としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)やジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)などのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グリム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。当該添加剤は、例えば、電解質の総重量に対して0.1重量%以上15重量%以下で含まれ得る。
【0082】
特に、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートは、電極と電解質との界面に被膜を形成する被膜形成剤として働き得る。例えば、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートのうち少なくとも一方を含む場合、珪素系材料を含む負極活物質を使用した負極で珪素系材料とリチウムとが合金化する過程において、良好なSEI被膜が形成されることにより安定した充放電が行われ得る。被膜形成剤の含有量は、例えば、電解質の総重量を基準として、0.1重量%以上15重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上10重量%以下であり、より好ましくは1重量%以上7重量%以下であり得る。当該被膜形成剤は、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートのうち少なくとも一方を含み得る。
【0083】
[非水電解質二次電池の製造方法]
実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記のように製造した負極と上記のように製造した正極との間にセパレータ(例えば分離膜)及び電解液を介在させることにより製造することができる。より具体的には、負極と正極との間にセパレータを配置して電極組立体を形成し、当該電極組立体を円筒形電池ケースや角形電池ケースなどの電池ケースに入れた後、電解質を注入して製造することができる。あるいは、上記電極組立体を積層した後、これを電解質に含浸させて得られた結果物を電池ケースに入れて密封して製造することもできる。
【0084】
上記の電池ケースは、当分野で通常用いられるものが採択され得る。電池ケースの形状は、例えば、缶を用いた円筒形、角形、パウチ(pouch)形又はコイン(coin)形などであり得る。
【0085】
実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、小型デバイスの電源として用いられ得るだけでなく、多数の電池セルなどを含む中大型電池モジュールの単位電池としても用いられ得る。このような中大型デバイスの好ましい例としては、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電力貯蔵用システムなどを挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0086】
以下、実施例及び比較例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0087】
[実施例1]
人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体(平均粒径20μm、人造黒鉛対天然黒鉛の重量含有比=8対2)90重量%と、平均粒径5μmの一酸化珪素(SiO)10重量%を混合し、この混合物に対し、導電材としてカーボンブラック1重量%と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)1.7重量%を加え、更に固形分の含有量が65重量%となるように純水を追加して調整したスラリーを調製し、これを自転公転攪拌機で固練りした。固練り時のスラリーの温度は70℃であった。得られたスラリーに対してバインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)1.5重量%を投入し、塗布し易いように更に純水を加えて固形分を50重量%に調整した後、銅箔に塗布し、60℃で30分間乾燥後、120℃で12時間真空乾燥させ、その後、電極密度が1.65g/ccとなるように圧延して負極を作製した。
【0088】
[実施例2]
固練り時のスラリーの固形分の含有量の含有量が60重量%となるように純水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。固練り時のスラリーの温度は65℃であった。
【0089】
[実施例3]
人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体と混合される一酸化珪素(SiO)の代わりに、平均粒径2μmのSiCrTi合金造粒体(SiとCrとTiの原子量比(Si:Cr:Ti)=82.4:8.8:8.8)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。固練り時のスラリーの温度は72℃であった。
【0090】
[比較例1]
固練り時のスラリーの固形分の含有量が55重量%となるように純水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。固練り時のスラリーの温度は57℃であった。
【0091】
[比較例2]
固練り時のスラリーの固形分の含有量が55重量%となるように純水の量を調整したこと以外は、実施例3と同様にして負極を作製した。固練り時のスラリーの温度は58℃であった。
【0092】
[比較例3]
人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体の代わりに、平均粒径20μmの人造黒鉛粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。固練り時のスラリーの温度は36℃であった。
【0093】
[比較例4]
人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体の代わりに、平均粒径20μmの人造黒鉛粉末と平均粒径5μmの天然黒鉛粉末を8対2の重量比で混合した粉末混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。固練り時のスラリーの温度は50℃であった。
【0094】
[比較例5]
導電材としてカーボンブラック1重量%の代わりに、グラフェン1重量%使用したこと以外は比較例3と同様にして負極を作成した。固練り時のスラリーの温度は36℃であった。
【0095】
[比較例6]
人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体の代わりに、平均粒径20μmの天然黒鉛粉末を使用したこと以外は、比較例1と同様にして負極を作成した。固練り時のスラリーの温度は57℃であった。
【0096】
[評価例1:SEM観察]
実施例3で作製した負極を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。負極中の天然黒鉛部分を示すSEM像を
図1及び
図2に示す。これらSEM像に示されるように、天然黒鉛の表面部は部分的に薄片化して、ささくれ立った状態となっている。特に、
図2のSEM像においては、天然黒鉛の表面部が部分的にめくれていて、グラフェン化している状態や、薄片化部分の表面上にSi合金造粒体が分散して接触している様子を見て取ることができる。
【0097】
[評価例2:容量維持率]
寿命特性として容量維持率を以下のようにして評価した。実施例1~3、比較例1~6で作製した各負極に対して、対極(すなわち正極)として金属リチウムを使用し、コイン電池(ハーフセル)を製造した。そして、各コイン電池に対して、0.2Cの定電流で、カットオフ電圧を1.5Vとして1サイクル目(初回)の充放電を行った。同じ条件で2サイクル目(2回目)の充放電を行った後、0.5Cの定電流で同様の充放電を48サイクル(48回)繰り返し、放電容量(mAh)を測定した。すなわち、1回目及び2回目の充放電過程と合わせて合計50回の充放電過程を繰り返した。そして、容量維持率を3サイクル目の充放電過程における放電容量に対する50サイクル目の充放電過程における放電容量の割合(50サイクル目の放電容量/3サイクル目の放電容量)として定義して、求めた。結果を以下の表1に示す。
【0098】
【0099】
上記表1から明らかなように、黒鉛系材料として人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を用い、固練り時のスラリー固形分の含有量を60重量%以上とした実施例1~3においては、良好な容量維持率が得られた。これは、天然黒鉛の部分的な薄片化によって、負極全体にわたって高度且つ強固な導電経路が確立されており、充放電時の負極活物質(特に珪素系材料)の膨張が繰り返されても、導電経路が維持されているためであると考えられる。また、実施例1~3においては固練り時のスラリー温度が65℃以上と比較的高く、これが固練りの過程を促進したと考えられる。
【0100】
一方、比較例1と比較例2に示されるように、黒鉛系材料として人造黒鉛と天然黒鉛の造粒体を用いた場合であっても、固練り時のスラリー固形分の含有量が55重量%と低い場合には、容量維持率が低くなっている。これは、固練り時にスラリーの粘度が低く、造粒体中の天然黒鉛の薄片化が生じていないためであると考えられる。比較例6についても同様に天然黒鉛粉末は特に薄片化していないと考えられる。
【0101】
比較例3と比較例5の容量維持率の低さは、人造黒鉛は天然黒鉛と比較して硬質であるため、固練り時に人造黒鉛の薄片化が生じず、実施例1~3のような高度且つ強固な導電経路が確立されていないためであると考えられる。また、比較例5に関して、グラフェンを単に添加しただけでは黒鉛系材料と珪素系材料の両方に接触させ難く、また、負極中に均一に分散させることも容易ではなく、更に、グラフェンが集電体と平行に配向し易い傾向にあるため、実施例1~3のように等方的な導電経路が確保されておらず、特に集電体の表面に対して垂直方向の導電経路が不十分であると考えられる。
【0102】
比較例4では、単に人造黒鉛と天然黒鉛の混合物を用いているため、固練り時に人造黒鉛が薄片化されない一方で、柔らかい天然黒鉛が過度に粉砕されるため、母材としての人造黒鉛の存在が天然黒鉛の過度の粉砕を抑制している実施例1~3と比較して、容量維持率が低くなったと考えられる。