(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】電気機械を動作させるための方法、制御装置及び電気機械
(51)【国際特許分類】
H02P 6/182 20160101AFI20241213BHJP
【FI】
H02P6/182
(21)【出願番号】P 2020569796
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2019059752
(87)【国際公開番号】W WO2019238296
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-02-15
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】102018209710.0
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウード ズィーバー
【合議体】
【審判長】林 毅
【審判官】山崎 慎一
【審判官】脇岡 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-064385(JP,A)
【文献】特開2016-082756(JP,A)
【文献】特開2016-226184(JP,A)
【文献】特開2000-236691(JP,A)
【文献】特開2007-028889(JP,A)
【文献】特開平09-331695(JP,A)
【文献】特開2017-034767(JP,A)
【文献】特開2004-147415(JP,A)
【文献】特開2004-129471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械(5)を動作させるための方法であって、前記電気機械(5)は、多相の駆動巻線を有し、トルクを発生させるために、前記電気機械(5)のロータ(7)の角度位置に応じて、前記駆動巻線を少なくとも第1の回転数範囲内において正弦波転流によって通電し、前記ロータ(7)の前記角度位置を、前記ロータにより前記駆動巻線に誘導される相電流に応じて特定する、方法において、
前記駆動巻線を、前記第1の回転数範囲を下回る第2の回転数範囲内において矩形波転流によって通電し、
前記角度位置を特定するために、ツェナーダイオード(13)を使用し、
前記第2の回転数範囲の上限は、前記ロータ(7)の前記角度位置を逆起電圧により特定することが可能な前記正弦波転流の最低回転数にまで達して
いる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2の回転数範囲は、回転数0から始まることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の回転数範囲内において120°矩形波転流を使用することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記120°矩形波転流を三相の駆動巻線において使用することを特徴とする、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記角度位置を、通電されていない相における誘起電圧の推移に応じて特定することを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記誘起電圧の前記推移をステータ側の付加的なセンサ巻線によって特定することを特徴とする、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記角度位置を特定するために、検出された電圧推移のゼロ交差を検査することを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気機械(5)は、ターボチャージャ(1)の電気機械(5)であることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
多相の駆動巻線を備えるステータ(6)と、回転可能に支承されたロータ(7)とを有する電気機械(5)を動作させるための制御装置(8)であって、トルクを発生させるために、前記駆動巻線の相を前記ロータ(7)の角度位置に応じて通電するように構成されている制御装置(8)において、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成されていることを特徴とする制御装置(8)。
【請求項10】
多相の駆動巻線を有するステータ(6)と、回転可能に支承されたロータ(7)と、請求項9に記載の制御装置(8)とを備える電気機械(5)。
【請求項11】
前記電気機械(5)は、内燃機関のターボチャージャ(1)用の電気機械(5)であることを特徴とする、
請求項10に記載の電気機械(5)。
【請求項12】
軸に相対回動不能に支承されたコンプレッサホイール(4)と、前記軸(3)を駆動するための電気機械(5)とを備える、自動車の内燃機関用のターボチャージャ(1)であって、
請求項10又は11に記載の電気機械(5)の構成を有することを特徴とするターボチャージャ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にターボチャージャの電気機械を動作させるための方法であって、電気機械は、多相の駆動巻線を備えるステータと、回転可能に支承されたロータとを有し、トルクを発生させるために、ロータの角度位置に応じて、駆動巻線を少なくとも第1の回転数範囲内において正弦波転流によって通電し、ロータの角度位置を、ロータにより駆動巻線に誘導される相電流に応じて特定する、方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、前述したような電気機械を動作させるための制御装置であって、前述した方法を実施するように構成されている制御装置に関する。
【0003】
さらに、本発明は、前述した形態の制御装置を備える電気機械に関する。
【0004】
さらに、本発明は、軸に相対回動不能に支承された少なくとも1つのコンプレッサホイールと、軸を駆動するための前述した電気機械とを備えるターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0005】
背景技術
冒頭に記載した形態の方法、電気機械及び電気機械を備えたターボチャージャは、先行技術に基づき既に公知である。内燃機関の回転数が低い場合においても高い駆動トルクを確保するために、内燃機関に、電気モータにより駆動可能なコンプレッサを有するターボチャージャを前置することが知られている。電気モータによる駆動によって、内燃機関のシリンダ内への給気量が、内燃機関の排ガス流量に左右されずに調整可能となる。これによって、電気モータにより駆動されるターボチャージャが、内燃機関の排ガス流により駆動される単純な排ガスターボチャージャと動特性の点において一義的に区別される。また、排ガスターボチャージャの圧縮特性を、対応する内燃機関の排ガス流から切り離すために、排ガスターボチャージャを電動式の補助駆動装置と組み合わせて、排ガスターボチャージャ内に電気機械を組み込むことも知られている。この電気機械が、既にターボチャージャの低い回転数、特に停止状態から最高回転数にまで最大のトルクを提供することができると理想的である。従って、電気機械を電子的に転流するために、ロータの瞬時の角度位置(ロータ位置)を正確に把握することが必要不可欠となる。この場合、この角度位置を、ロータの回転運動により駆動巻線に逆方向に誘導される電圧、いわゆる「逆起電圧」に応じて特定することが知られている。このためには、駆動巻線の誘導された相電流が評価される。電気機械の高い出力を達成するために、さらに、電気機械を少なくとも所定の回転数範囲内において正弦波転流によって駆動することが知られている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の開示
請求項1の特徴を有する本発明に係る方法は、回転数が低い場合においても、正確なロータ位置特定が簡単に保証されるという利点を有している。さらに、電気機械の出力が全体的に高められる。このために、本発明によれば、駆動巻線が、第1の回転数範囲を下回る第2の回転数範囲内において矩形波転流によって通電されることが特定されている。つまり、高い回転数、即ち、第1の回転数範囲内においては、既に使用されている正弦波転流が維持されるのに対して、低い回転数、即ち、第2の回転数範囲内においては、矩形波転流への切換が行われる。これによって、回転数が低い場合に正弦波転流により生じる、高い相電流のもとで小さい回転数において支配的な分岐遮断時間による障害信号を、回避することが達成される。この障害信号に基づき結果的に生じる、相電流のゼロ交差における電流プラトーは、短縮され又は完全に回避される。これによって、駆動巻線に誘導され、逆起電圧に誤りを生じさせる障害電圧が、ステータ回路において低減される。
【0007】
本発明の好適な実施形態によれば、第2の回転数範囲は、回転数0即ち停止状態から始まる。これによって、電気機械の一番下側の回転数範囲が矩形波転流され、これに基づく利点が得られる。
【0008】
さらに、好適には、第2の回転数範囲は、ロータの角度位置を逆起電圧により(角度位置の精度に関して)確実に又は十分正確に特定することが可能な正弦波転流の最低回転数にまで達していることが特定される。即ち、第2の回転数範囲の上限は、ロータの角度位置を逆起電圧により特定することを基礎とする正弦波転流による従来の方法を確実に使用することが可能なところに選択される。この回転数は、あらゆる形態の電気機械に対して、例えば試験又は計算によって特定することができる。これによって、正弦波転流を確実に実施することが可能でない回転数範囲内においては、確実な矩形波転流を使用し、正弦波転流を確実に実施することが可能な回転数範囲内においては、正弦波転流を実施して、電気機械の最大の出力を確保することが達成される。
【0009】
好適には、第2の回転数範囲内において120°の矩形波転流が使用される。これによって、逆起電圧の有利な評価が達成される。
【0010】
特に、この形態の矩形波転流は、三相の駆動巻線において使用される。この場合には、複数の相駆動巻線のうちの1つの相駆動巻線は、常に通電されておらず、従って、ロータ位置を検出するためには、この相に誘導される逆起電圧が適していることが明らかである。
【0011】
好適には、ロータ位置が、通電されていない相における誘起電圧の推移に応じて特定される。
【0012】
代替的に、好適には、誘起電圧の推移が、ステータ側の付加的なセンサ巻線によって特定されることが特定されている。これは、それぞれ付加的なセンサ巻線のコイル両端が、後置接続された電子装置に対して電位に束縛されずに使用可能であるという利点を有している。複数のセンサ巻線は、例えば1つの中性点において接続される。
【0013】
好適には、角度位置を特定するために、分圧器及びフィルタ又はツェナーダイオードが使用される。適当に分圧しかつフィルタリングした後、特に、誘起電圧のゼロ交差が検知される。代替的には、クロック制御される矩形波転流の場合、ゼロ交差の検知は、パルス休止中、好ましくは各パルスの終了時に行われるものとするとよい。これによって、結線の浪費が簡略化される。即ち、分圧器及びフィルタの代わりに、前述したツェナーダイオードが、好ましくは適当な電気的な抵抗と共に使用される。ゼロ交差を評価するためには、ツェナーダイオードを介した電圧降下が考慮される。
【0014】
請求項10の特徴を有する本発明に係る制御装置は、本発明に係る方法を前述したように実施するように特有に構成されている点において優れている。これによって、既に記載した利点が得られる。
【0015】
請求項11の特徴を有する電気機械は、本発明に係る制御装置の点において優れている。これによって、既に記載した利点が得られる。
【0016】
請求項12の特徴を有する本発明に係るターボチャージャは、軸を駆動するための本発明に係る電気機械の点において優れている。これによって、既に記載した利点が得られる。
【0017】
更なる利点並びに好適な特徴及び特徴の組合せは、前述した事項及び特許請求の範囲から明らかとなる。以下に、本発明を図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】ターボチャージャを動作させるための制御装置の出力電子装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、自動車(図示せず)の内燃機関用のターボチャージャ1が簡略図において示されている。このターボチャージャ1は、ハウジング2を有している。このハウジング2内には、軸3が回転可能に支承されている。この軸3は、一端にコンプレッサホイール4を支持している。このコンプレッサホイール4には、軸線方向にガス流が供給可能であり、このガス流をコンプレッサホイール4が圧縮して、半径方向にハウジング2から圧出する。このことは、矢印によって示されている。
【0020】
さらに、ターボチャージャ1は、電気機械5を有している。この電気機械5は、ハウジングに対して不動のステータ6と、軸3に相対回動不能に配置されたロータ7とを有している。ステータ6は、多相の駆動巻線、図示の実施形態においては、相U,V,Wを備えた三相の駆動巻線を有している。相U,V,Wの通電によって、ステータ磁界が形成される。このステータ磁界によって、ロータ7、ひいては軸3及びコンプレッサホイール4が駆動される。このためには、相U,V,Wを制御する制御装置8が設けられている。
【0021】
図2には、これに加えて、制御装置8の出力電子装置9が簡略図において示されている。この出力電子装置9は、制御装置8により制御可能なそれぞれ2つの半導体スイッチTH10,TL10,TH11,TL11,TH12,TL12を有する3つのハーフブリッジ10,11,12を備えたB6ブリッジ回路を有している。ハーフブリッジ10,11,12は、相U,V,Wのうちのそれぞれ1つの相に接続されている。
【0022】
最高回転数nmaxまでの、nxからnmaxまでの第1の回転数範囲内においては、相U,V,Wは、正弦波転流によって制御される。しかしながら、低い回転数の場合には、正弦波転流によって、高い相電流のもとでより小さい回転数において支配的な分岐遮断時間による障害信号が生じる。このとき、相電流のゼロ交差に、望ましくない電流プラトーが生じる。この電流平坦部分は、ステータ又はステータ回路に付加的な電圧リップルを生じさせ、この電圧リップルは、逆起電圧に誤りを生じさせ、ひいては、誤ったロータ角度検出を招くこととなる。従って、図示の実施形態においては、n0(n0=0である)からnxまでのより低い第2の回転数範囲内において、相U,V,Wが矩形波転流によって制御される。
【0023】
図3には、これに加えて、第2の回転数範囲内において相U,V,Wに使用される120°矩形波転流が簡略図において示されている。3つの相と120°矩形波転流とによって、これらの相のうちのそれぞれ1つの相が通電されていないことが達成される。この場合、回転動作中にこの相を使用し、この相にロータ磁界により誘導された逆起電圧に応じて、ロータ7の(回転)角度位置が特定される。この角度位置は、通電されていない相における誘起電圧の推移を介して特定される。
【0024】
代替的には、誘起電圧の推移は、ステータ6に付加的に配置されたセンサコイルを介して検出される。このセンサコイルは、それぞれセンサコイルのコイル両端が、後置接続された評価電子装置に対して電位に束縛されずに使用可能であるという利点を有している。
【0025】
図5には、これに加えて、センサコイルシステムが簡略図において示されている。各相U,V,Wには、それぞれ1つのセンサ空芯コイルH
U,H
V,H
Wが割り当てられており、これらのセンサコイルは1つの点Sにより星形に接続されている。
【0026】
後続の評価は、特に典型的な形態において行われる。適当に分圧しかつフィルタリングした後、通電されていない相における誘起電圧のゼロ交差が検知される。代替的には、クロック制御される矩形波転流の場合、ゼロ交差の検知は、パルス休止中、好ましくは各パルス休止の終了時に行われるものとするとよい。こうして、接続の浪費が簡略化される。なぜならば、分圧器及びフィルタが、適当な抵抗に予め結線されたツェナーダイオードによって置き換えられるからである。ゼロ交差を評価するためには、例えば、相Uと、中性点Sと、ツェナーダイオード13と、抵抗Rとを示した
図4に例示したように、ツェナーダイオードを介した電圧降下が使用される。
【0027】
必要となるパルス休止は、電流制限手段によって、好適にはトルク損失なしに付与されている。さらに、簡略化された結線は、電気機械5の相端子に直接、即ち、センサ巻線を設けることなく使用することができる。下側の回転数範囲内における矩形波転流によるセンサレスでの回転数調整のための交差の検知のほかに、インダクタンス若しくはオブザーバ又はモデルに基づく方法も同様に使用可能である。特に後者の方法は、低い回転数範囲内における正弦波転流時に生じる冒頭に記載した回避される電圧リップルにおいて特に有利である。