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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】レーザモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/32 20060101AFI20241213BHJP
   G02B 6/27 20060101ALI20241213BHJP
   G02B 6/34 20060101ALI20241213BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20241213BHJP
   H01S 5/02 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
G02B6/32
G02B6/27
G02B6/34
G02B6/42
H01S5/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021002910
(22)【出願日】2021-01-12
(65)【公開番号】P2022108080
(43)【公開日】2022-07-25
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】平野 兼史
(72)【発明者】
【氏名】西尾 駿
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-284779(JP,A)
【文献】特開平09-307161(JP,A)
【文献】特開2017-157756(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037663(WO,A1)
【文献】特開2006-171348(JP,A)
【文献】特開2004-085589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0067016(US,A1)
【文献】特開2004-096092(JP,A)
【文献】特開平07-098402(JP,A)
【文献】特開2003-103389(JP,A)
【文献】特開2004-061727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/26-6/27
6/30-6/34
6/42-6/43
H01S 3/00-3/02
3/04-3/0959
3/098-3/102
3/105-3/131
3/136-3/213
3/23-4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1列に配置されていてビームを発する複数のエミッタを有するマルチエミッタレーザと、
前記マルチエミッタレーザが有する前記複数のエミッタが発する複数のビームを平行ビームにするコリメートレンズと、
対向している2個の平行な反射面を有しており、前記コリメートレンズによって前記平行ビームにされた前記複数のビームの一部を前記2個の反射面により2回反射して平行移動させて前記平行ビームにされた前記複数のビームを複数列の平行ビームに再配列する変位プリズムと、
光ファイバと、
前記変位プリズムによって再配列された前記複数列の平行ビームを前記光ファイバの端面に集光させる集光レンズとを備え、
前記マルチエミッタレーザの前記複数のエミッタの配列方向をx方向とし、
前記コリメートレンズによって前記平行ビームにされた前記複数のビームが前記変位プリズムに進行する方向をz方向とし、
前記x方向および前記z方向の双方と直交する方向をy方向として、
前記2個の反射面の各々は、前記x方向および前記y方向の双方について傾斜しており、
前記変位プリズムは、前記コリメートレンズによって前記平行ビームにされた前記複数のビームを複数のビーム群に分割し、前記複数のビーム群の各々を前記複数のビーム群のなかの他のビーム群と異なる光路に導き、
前記複数のビーム群のうちのひとつ以上のビーム群の光路に配置された偏光回転手段と、
偏光ビームスプリッタとを更に備え、
前記偏光回転手段は、配置された前記光路における前記ビーム群の偏光を回転し、
前記偏光ビームスプリッタは、前記偏光回転手段によって偏光が回転した前記ビーム群である偏光回転後ビーム群と、前記複数のビーム群のうちの前記偏光回転後ビーム群以外のひとつ以上のビーム群とを合成する
ことを特徴とするレーザモジュール。
【請求項2】
1列に配置されていてビームを発する複数のエミッタを有するマルチエミッタレーザと、
前記マルチエミッタレーザが有する前記複数のエミッタが発する複数のビームを平行ビームにするコリメートレンズと、
対向している2個の平行な反射面を有しており、前記コリメートレンズによって前記平行ビームにされた前記複数のビームの一部を前記2個の反射面により2回反射して平行移動させて前記平行ビームにされた前記複数のビームを複数列の平行ビームに再配列する変位プリズムと、
光ファイバと、
前記変位プリズムによって再配列された前記複数列の平行ビームを前記光ファイバの端面に集光させる集光レンズとを備え、
前記マルチエミッタレーザの前記複数のエミッタの配列方向をx方向とし、
前記コリメートレンズによって前記平行ビームにされた前記複数のビームが前記変位プリズムに進行する方向をz方向とし、
前記x方向および前記z方向の双方と直交する方向をy方向として、
前記2個の反射面の各々は、前記x方向および前記y方向の双方について傾斜しており、
前記変位プリズムは、前記コリメートレンズによって前記平行ビームにされた前記複数のビームを複数のビーム群に分割し、前記複数のビーム群の各々を前記複数のビーム群のなかの他のビーム群と異なる光路に導き、
前記変位プリズムでの前記2回反射によるp偏光とs偏光との位相差は、6°以下である
ことを特徴とするレーザモジュール。
【請求項3】
前記複数のビーム群の各々は、前記複数のエミッタの配列方向において前記複数のビーム群のなかの他のビーム群から離れている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザモジュール。
【請求項4】
前記複数のビーム群のうちのひとつ以上のビーム群の光路に配置された偏光回転手段と、
偏光ビームスプリッタとを更に備え、
前記偏光回転手段は、配置された前記光路における前記ビーム群の偏光を回転し、
前記偏光ビームスプリッタは、前記偏光回転手段によって偏光が回転した前記ビーム群である偏光回転後ビーム群と、前記複数のビーム群のうちの前記偏光回転後ビーム群以外のひとつ以上のビーム群とを合成する
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザモジュール。
【請求項5】
前記複数のビーム群の各々は、前記複数のエミッタの配列方向において前記複数のビーム群のなかの他のビーム群から離れており、
前記複数のビーム群のうちのひとつ以上のビーム群の光路に配置された偏光回転手段と、
偏光ビームスプリッタとを更に備え、
前記偏光回転手段は、配置された前記光路における前記ビーム群の偏光を回転し、
前記偏光ビームスプリッタは、前記偏光回転手段によって偏光が回転した前記ビーム群である偏光回転後ビーム群と、前記複数のビーム群のうちの前記偏光回転後ビーム群以外のひとつ以上のビーム群とを合成する
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザモジュール。
【請求項6】
前記コリメートレンズは、第1のシリンドリカルレンズと、第2のシリンドリカルレンズとを有し、
前記第1のシリンドリカルレンズ及び前記第2のシリンドリカルレンズは、前記マルチエミッタレーザが有する前記複数のエミッタの各々が発するビームについて、前記ビームの光軸に直交する面における直交する二つの軸の各々に進む光を平行にする
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のレーザモジュール。
【請求項7】
前記マルチエミッタレーザが有する前記複数のエミッタの各々が発するビームを、光軸を中心に回転させるビーム回転手段を更に備える
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光を出力するレーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機及びレーザ溶接機では、レーザ光を所望の位置に導いたり、レーザ光を発振させて増幅させたりするため、光ファイバに結合されたレーザモジュールがよく用いられている。レーザモジュールを高出力かつ小型とするため、レーザ光源として、1チップのレーザダイオードが複数の発光点を持つマルチエミッタレーザが用いられることがある。発光点は、エミッタである。光ファイバには結合可能な入射角及び集光径の各々について上限があり、エミッタの数ひいては光出力に対する設計上の制約となっている。当該制約に対し、1列に並んだビームの配列を2組の鏡面対により2列以上に再配列することで光ファイバに結合可能な光出力を向上させる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-61727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、特許文献1が開示しているレーザモジュール1の構成を模式的に示す斜視図である。図1に示される通り、特許文献1のレーザモジュール1は、発光部2から出射したビームBをコリメートレンズ3により平行ビームにし、第1のロンボイドプリズム4及び第2のロンボイドプリズム5によりビームBを再配列する。第1のロンボイドプリズム4及び第2のロンボイドプリズム5をレーザモジュール1として組み立てる際、第1のロンボイドプリズム4及び第2のロンボイドプリズム5の各々の姿勢を調整するために第1のロンボイドプリズム4及び第2のロンボイドプリズム5の各々を把持したり、固定用の接着剤を塗布したりする工程及び作業に問題がある。
【0005】
第1のロンボイドプリズム4及び第2のロンボイドプリズム5の各々において、ビームBの透過面及び反射面は把持及び接着剤の塗布のために用いることができず、把持及び接着剤の塗布のためには矢印6A、矢印6B、矢印7A及び矢印7Bで示された4個の面しか用いることができない。限られた当該4個の面を把持し、接着剤を塗布し、第1のロンボイドプリズム4及び第2のロンボイドプリズム5の各々を他の部材に接着剤により固定しようとすると、第1のロンボイドプリズム4及び第2のロンボイドプリズム5の各々を中空で把持するために組み立て装置の構成が複雑となり、生産性が悪くなる。また、精密な調整が必要となるため、発光させた状態でビームBの進行方向を把握しながら調整する場合、把持用のアーム及び接着剤の各々とビームBとの干渉を避ける必要があり、組み立て装置の構成が一層複雑となる。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、高出力かつ生産性が高いレーザモジュールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るレーザモジュールは、1列に配置されていてビームを発する複数のエミッタを有するマルチエミッタレーザと、マルチエミッタレーザが有する複数のエミッタが発する複数のビームを平行ビームにするコリメートレンズと、対向している2個の平行な反射面を有しており、コリメートレンズによって平行ビームにされた複数のビームの一部を2個の反射面により2回反射して平行移動させて平行ビームにされた複数のビームを複数列の平行ビームに再配列する変位プリズムと、光ファイバと、変位プリズムによって再配列された複数列の平行ビームを光ファイバの端面に集光させる集光レンズとを有する。マルチエミッタレーザの複数のエミッタの配列方向をx方向とし、コリメートレンズによって平行ビームにされた複数のビームが変位プリズムに進行する方向をz方向とし、x方向およびz方向の双方と直交する方向をy方向として、2個の反射面の各々は、x方向およびy方向の双方について傾斜している。変位プリズムは、コリメートレンズによって平行ビームにされた複数のビームを複数のビーム群に分割し、複数のビーム群の各々を複数のビーム群のなかの他のビーム群と異なる光路に導く。本開示に係るレーザモジュールは、複数のビーム群のうちのひとつ以上のビーム群の光路に配置された偏光回転手段と、偏光ビームスプリッタとを更に有する。偏光回転手段は、配置された光路におけるビーム群の偏光を回転する。偏光ビームスプリッタは、偏光回転手段によって偏光が回転したビーム群である偏光回転後ビーム群と、複数のビーム群のうちの偏光回転後ビーム群以外のひとつ以上のビーム群とを合成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係るレーザモジュールは、高出力かつ生産性が高いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】特許文献1が開示しているレーザモジュールの構成を模式的に示す斜視図
図2】レーザ光を集める際の集光半角に対する輝度及びビームパラメータ積の保存則を説明するための第1図
図3】レーザ光を集める際の集光半角に対する輝度及びビームパラメータ積の保存則を説明するための第2図
図4】ビーム品質が光ファイバによって決まることを説明するための図
図5】マルチエミッタレーザからのビームの光ファイバへの結合を説明するための図
図6】最大受光角の範囲内におけるビームの空白領域を示す図
図7】半導体レーザの速軸方向と遅軸方向とを示す図
図8】ビームのシフトによりビーム空白領域を減らすことができることを示す図
図9】実施の形態1に係るレーザモジュールの構成を模式的に示す斜視図
図10】実施の形態1に係るレーザモジュールの構成を模式的に示す上面図
図11】+z方向の側から-z方向の側に向かって実施の形態1に係るレーザモジュールを見た場合の変位プリズムとビームとを示す図
図12】+x方向の側から-x方向の側に向かって実施の形態1に係るレーザモジュールを見た場合の変位プリズムとビームとを示す図
図13】実施の形態2に係るレーザモジュールの構成を模式的に示す斜視図
図14】実施の形態2に係るレーザモジュールの構成を模式的に示す上面図
図15】-z方向の側から+z方向の側に向かって実施の形態2に係るレーザモジュールを見た場合の変位プリズムを示す図
図16】実施の形態2に係るレーザモジュールのビーム回転手段が有するビーム回転素子を説明するための第1図
図17】実施の形態2に係るレーザモジュールのビーム回転手段が有するビーム回転素子を説明するための第2図
図18】実施の形態2におけるビームを-z方向の側から+z方向の側に向かって見た状況を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態に係るレーザモジュールを図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
本開示の基本思想.
具体的な実施の形態を説明する前に、レーザ光による溶接又は切断の加工速度及び加工品質を決定するファクタであるビームの輝度及び品質と、ビームの輝度及び品質を向上させるための本開示の基本思想とを説明する。ビームの輝度及び品質を向上させることは、ビームの輝度及び品質の低下を抑制することを含む。
【0012】
空間を伝搬した後に集められるビームの輝度Br0は、下記の式(1)で定義される。
【0013】
【数1】
【0014】
Pwは光のパワーであり、AFは集光スポットの面積であり、ΩFは集光立体角である。集光立体角ΩFは、広がり立体角である。wFは集光スポットの半径であり、θFは集光半角である。集光半角θFは、広がり半角である。BPP0は、ビームパラメータ積である。ビームパラメータ積BPP0は、ビームの集光性の良さを表す指標である。ビームの集光性の良さは、ビーム品質を意味する。光の回折の原理より、同一のビームについては集光半角θFと集光スポットの半径wFとは反比例し、下記の式(2)が一定となる。式(2)におけるλは、光の波長である。
【0015】
【数2】
【0016】
すなわち、半径wEおよび発散半角θEが同一である発光点8からのレーザ光を集める場合、図2及び図3に示される通り、集光半角θFを変えても集光スポットFSにおける輝度Br0及びビームパラメータ積BPP0は一定となり、一種の保存則が成り立つ。つまり、下記の式(3)の関係が成り立つ。図2は、レーザ光を集める際の集光半角に対する輝度及びビームパラメータ積の保存則を説明するための第1図である。図2は、レーザ光が集光半角θFで集められる場合の図である。図3は、レーザ光を集める際の集光半角に対する輝度及びビームパラメータ積の保存則を説明するための第2図である。図3は、レーザ光が集光半角θF’で集められる場合の図である。図3では、集光スポットFSの半径はwF’と記載されている。集光半角θFについては、集光半角θF≒集光NAである。
【0017】
【数3】
【0018】
はビーム品質を無次元化した指標であり、常にM≧1である。ビームが理想的なTEM00ガウシアンビームである場合、M=1となり、悪化要因としては、高次モード、マルチモード、収差、及びインコヒーレンシーがある。
【0019】
一般に、同一のパワーで比較すると、輝度が高い方が、一箇所に高パワーを集中させることができ、レーザ光による溶接及び切断の加工速度を向上させることができる。輝度を低下させることは低コストである一方、輝度を向上させることは例えばファイバレーザ発振又は波長多重が必要であるため高コストであるので、レーザモジュールにおいては極力、輝度を維持することが望ましい。
【0020】
次に、光ファイバへのビームの結合について説明する。コア半径がwCであって、最大受光角がθCである光ファイバを考える。最大受光角θCについては、最大受光角θC≒受光NAである。光ファイバに損失なくビームを結合させるためには、下記の式(4)及び式(5)で表される条件が必要である。
【0021】
【数4】
【0022】
【数5】
【0023】
ビームが光ファイバの内部を伝搬した後に空間に出射するときのビーム品質は、入射ビームのビーム品質でなく、光ファイバによって決まる。図4は、ビーム品質が光ファイバ9によって決まることを説明するための図である。ファイバ出射ビームについては、集光スポットFSの半径がwCであって、広がり半角がθCであり、ビームパラメータ積が下記の式(6)で表され、光ファイバ9への入射ビームBのビームパラメータ積BPP0がファイバ出射ビームの下限となる。ファイバ出射ビームは、光ファイバ9から出射するビームである。ファイバ出射ビームの輝度BrCは、下記の式(7)で表され、光ファイバ9への入射ビームBの輝度Br0がファイバ出射ビームの輝度の上限となる。以下では、BPPCをファイバ結合ビームパラメータ積と称し、BrCをファイバ結合輝度と称する。
【0024】
【数6】
【0025】
【数7】
【0026】
エミッタの数がNEであるマルチエミッタレーザからのビームを光ファイバに結合させるレーザモジュールを考える。エミッタは、発光点である。図5は、マルチエミッタレーザからのビームBの光ファイバへの結合を説明するための図である。図5に示される通り、1列に並んだNE個のエミッタ10の各々からのビームBが他のエミッタ10からのビームBに混ざらないようにコリメートレンズ11でコリメートされ、集光レンズ12で集められ、NE個のビームBが光ファイバに結合することを仮定する。図5では、NEは3である。
【0027】
NE個のエミッタ10の各々からのビームBは他のエミッタ10からのビームBに対してインコヒーレントであるため、集光スポットFSの半径wFは、単一のエミッタの場合と同じく、下記の式(8)で表される。
【0028】
【数8】
【0029】
NE個のエミッタ10が1列に並んでいるため、光ファイバの最大受光角θCについては、下記の式(9)で表される条件が必要となる。
【0030】
【数9】
【0031】
このため、ファイバ結合ビームパラメータ積BPPCは、下記の式(10)で表され、ビームパラメータ積BPP0のNE倍に悪化する。
【0032】
【数10】
【0033】
ファイバ結合輝度BrCは、下記の式(11)で表され、輝度Br0の1/NEに低下する。この輝度の低下は、図6に示されるように、最大受光角θCの範囲内に、ビームBが存在しない「空白領域」が存在するためである。図6は、最大受光角θCの範囲内におけるビームの空白領域を示す図である。
【0034】
【数11】
【0035】
光源が半導体レーザである場合、レーザ出射ビームのビーム品質は、光軸に直交する面における二つの直交する軸の各々の方向で異なっており、これも輝度を低下させる要因となる。レーザ出射ビームのビーム品質が光軸に直交する面における二つの直交する軸の各々の方向で異なることは、異方性と称される。図7は、半導体レーザ13の速軸方向と遅軸方向とを示す図である。異方性の固有方向は、半導体ウェハの厚み方向と、エミッタ配列方向とである。半導体ウェハの厚み方向は速軸方向及びFA方向であり、エミッタ配列方向は遅軸方向及びSA方向である。エミッタ配列方向は、1列に配置されているエミッタ14の配列方向である。図7には、ビームBも示されている。
【0036】
FA方向のビームパラメータ積であるBPP0Fは、下記の式(12)で表される。SA方向のビームパラメータ積であるBPP0Sは、下記の式(13)で表される。ビームBの輝度Br0は下記の式(14)で表される。
【0037】
【数12】
【0038】
【数13】
【0039】
【数14】
【0040】
wFFはFA方向の集光スポットの半径であり、wFSはSA方向の集光スポットの半径である。θFFはFA方向の集光半角であり、θFSはSA方向の集光半角である。集光半角は、広がり半角である。M2FはFA方向のM値であり、M2SはSA方向のM値である。
【0041】
一般に、SA方向のビーム品質はFA方向のビーム品質より悪く、典型的には、M2F≒1、M2Sは5から10程度である。
【0042】
ビーム品質に異方性があるビームを同一の集光半角θFで集めると、集光スポットは、半径がwFF,wFSの楕円形となり、ビームを光ファイバの円形コアに結合させた際、ビームの輝度が低下する。集光スポットの形状を半径wCの円形とするためには、下記の式(15)及び式(16)で表される条件が必要である。
【0043】
【数15】
【0044】
【数16】
【0045】
ここでは、光ファイバに損失なくビームを結合させるために必要な最大受光角を「必要受光角」と称する。マルチエミッタの半導体レーザでは、FA方向についての必要受光角θCFは下記の式(17)で表され、SA方向について必要受光角θCSは下記の式(18)で表される。
【0046】
【数17】
【0047】
【数18】
【0048】
θCFがθCSより小さいので、光ファイバの最大受光角θCについては、下記の式(19)で表される条件が必要となる。
【0049】
【数19】
【0050】
このため、ファイバ結合ビームパラメータ積BPPCについては、下記の式(20)で表される関係が得られる。ファイバ結合輝度BrCは、下記の式(21)で表される。
【0051】
【数20】
【0052】
【数21】
【0053】
αθは必要受光角比であって、下記の式(22)で表される。αθが小さいほど、正確にはαθが1から乖離するほど、ファイバ結合輝度は低下する。すなわち、半導体レーザにおけるSA方向のビーム品質の悪さに加えて、半導体レーザがマルチエミッタであることにより、さらに輝度が低下する。
【0054】
【数22】
【0055】
マルチエミッタレーザに対してファイバ結合輝度の低下を抑制するためには、必要受光角比αθを1に近づけ、最大受光角θCの内部でのビーム空白領域を減らせばよい。図8は、ビームBのシフトによりビーム空白領域を減らすことができることを示す図である。図8における破線は、隠れ線である。図8に示されるように、エミッタ配列と直交する方向について空白領域があるのに対し、エミッタ配列の方向に並んだビームBの一部をビーム変位手段15により変位させることで、ビーム空白領域を減らすことができる。エミッタ配列に直交する方向はFA方向であり、エミッタ配列の方向はSA方向である。
【0056】
1列に配置されたNE個のビームBをNL列のマトリクス状に再配列した場合、必要受光角比αθ’は下記の式(23)で表される通りに改善される。
【0057】
【数23】
【0058】
αθ’が1に近いほどファイバ結合輝度の低下を抑制することができるため、目安としては、列数NLが下記の式(24)で表現される値に近いことが望ましい。式(24)におけるNLSを、標準列数と称することとする。
【0059】
【数24】
【0060】
ビーム変位手段15は、平行な2個の反射面の対により実現することができる。
【0061】
なお、上述の説明では、ビームBはマトリクス状に再配列されるが、例えば、ビームBは千鳥状に再配列されてもよい。ビームBのビーム形状が楕円形で、最大受光角の範囲が円形と仮定すると、ビームBが千鳥状に再配列される場合、最大受光角の範囲及びビーム形状に対して空白領域をより小さくすることができる。
【0062】
実施の形態1.
図9は、実施の形態1に係るレーザモジュール50の構成を模式的に示す斜視図である。図10は、実施の形態1に係るレーザモジュール50の構成を模式的に示す上面図である。レーザモジュール50は、1列に配置されていてビームを発する複数のエミッタ51EiEを有するマルチエミッタレーザ51と、マルチエミッタレーザ51が有する複数のエミッタ51EiEが発する複数のビームを平行ビームにするコリメートレンズ52とを有する。
【0063】
レーザモジュール50は、変位プリズム53を更に有する。変位プリズム53は、対向している2個の平行な反射面を有する。変位プリズム53は、コリメートレンズ52によって平行ビームにされた複数のビームの一部を2個の反射面により2回反射して平行移動させて平行ビームにされた複数のビームを複数列の平行ビームに再配列する。変位プリズム53が有する2個の反射面の各々は、x方向とy方向の双方について傾斜している。レーザモジュール50は、集光レンズ54と、光ファイバ55とを更に有する。集光レンズ54は、変位プリズム53によって再配列された複数列の平行ビームを光ファイバ55の端面55Aに集光させる。以下に、レーザモジュール50を構成する複数の構成要素の各々を更に説明する。
【0064】
マルチエミッタレーザ51は、半導体レーザであり、x方向に配列されたNE個のエミッタ51EiEを有する。NEは、2以上の整数である。iEは、1からNEまでの数である。図9及び図10には、NE個のエミッタ51EiEのうちのひとつのエミッタ51Eのみに符号が与えられている。NE個のエミッタ51EiEは、1列に配列されている。マルチエミッタレーザ51は、+z方向に向けてNE個のビームBiEを発する。z方向は、x方向と直交する。図9及び図10には、NE個のビームBiEのうちのひとつのビームBのみに符号が与えられている。
【0065】
コリメートレンズ52は、FAコリメートレンズ52Aと、SAコリメートレンズ52Bとを有し、NE個のビームBiEの各々を平行ビームにする。FAコリメートレンズ52Aはシリンドリカルレンズであり、SAコリメートレンズ52BはNE個のシリンドリカルレンズを有するレンズアレイである。つまり、コリメートレンズ52は、第1のシリンドリカルレンズと、第2のシリンドリカルレンズとを有する。FAコリメートレンズ52Aは第1のシリンドリカルレンズの例であり、SAコリメートレンズ52Bが有するNE個のシリンドリカルレンズは第2のシリンドリカルレンズの例である。第1のシリンドリカルレンズ及び第2のシリンドリカルレンズは、マルチエミッタレーザ51が有する複数のエミッタの各々が発するビームについて、ビームの光軸に直交する面における直交する二つの軸の各々に進む光を平行にする。
【0066】
コリメートレンズ52がFAコリメートレンズ52AとSAコリメートレンズ52Bとを有するので、直交する2方向のビーム品質を考慮して、集光スポットが円形となるように、FAコリメートレンズ52A及びSAコリメートレンズ52Bの各々の焦点距離を設計することができる。その結果、レーザモジュール50が出力する光の輝度が向上する。
【0067】
変位プリズム53は、1個の単プリズム53Aと、NP個の単プリズム53DiPとを有する。NPは、NEから1少ない数である。iPは、1からNPまでの数である。単プリズム53Aには、反射面53AiPが形成されている。反射面53AiPは、ひとつの平面に位置している。単プリズム53DiPには、反射面53DRiPが形成されている。反射面53AiPは、反射面53DRiPと平行である。変位プリズム53により、NE個の平行ビームBiEのうち一部の位置が-x方向及び-y方向に平行移動され、NE個のビームBiEは、NE列に再配列される。例えば、NE個の平行ビームBiEは、変位プリズム53により、y方向のNE列のビームに再配列される。y方向は、x方向及びz方向と直交する。変位プリズム53については、後に更に説明する。
【0068】
集光レンズ54は、NE個の平行ビームBiEを光ファイバ55の端面55Aに集める。マルチエミッタレーザ51、コリメートレンズ52、変位プリズム53、集光レンズ54及び光ファイバ55は、支持基材56のひとつの平面に実装されてレーザモジュール50を構成する。支持基材56は、図11及び図12に示されている。支持基材56は、レーザモジュール50を構成する複数の構成要素のうちのひとつの構成要素である。
【0069】
次に、レーザモジュール50の生産性を考慮した変位プリズム53の構造を詳述する。図11は、+z方向の側から-z方向の側に向かって実施の形態1に係るレーザモジュール50を見た場合の変位プリズム53とビームBiEとを示す図である。図11において、符号pEはエミッタのピッチであり、符号pLは再配列の列ピッチである。図12は、+x方向の側から-x方向の側に向かって実施の形態1に係るレーザモジュール50を見た場合の変位プリズム53とビームBiEとを示す図である。
【0070】
上述の通り、反射面53AiPは、ひとつの平面に位置する反射面であり、1個の単プリズム53Aに形成されている。図9には、反射面53Aが示されている。図11には、反射面53A,53A,53A,53Aが示されている。単プリズム53Aの+y方向の面には、把持することが可能な把持部53Bが設けられている。把持部53Bは、組み立て装置の把持アームや接着剤が反射面53AiPに接触したりビームBiEと干渉したりすることなく組み立て時に把持されることを可能にする。単プリズム53Aの-y方向の面には、支持基材56に接着される接着部53Cが設けられている。接着部53Cは、ビームBiEと干渉すること無く接着剤が塗布されて支持基材56に固定されることを可能にする。
【0071】
反射面53DRiPは、ガラスによって構成されているNP個の単プリズムのうちの単プリズム53DiPに形成されている。図9には、反射面53DRが示されている。単プリズム53DiPの+y方向の面には、把持することが可能な把持部53EiPが設けられている。図9図11及び図12には、把持部53Eが示されている。把持部53EiPは、組み立て装置の把持アームや接着剤が反射面53DRiPに接触したりビームBiEと干渉したりすることなく組み立て時に把持されることを可能にする。単プリズム53DiPの-y方向の面には、支持基材56に接着される接着部53FiPが設けられている。図9図11及び図12には、接着部53Fが示されている。接着部53FiPは、ビームBiEと干渉すること無く接着剤が塗布されて支持基材56に固定されることを可能にする。
【0072】
変位プリズム53の構造が上述の構造であるため、製造者は、マルチエミッタレーザ51を発光させた状態で、ビームBiEの進行方向を把握しながら各素子の位置及び角度の一方又は双方を精密に調整することができ、その結果、高出力かつ生産性が高いレーザモジュール50を製造することができる。
【0073】
把持部53B、接着部53C、把持部53EiP及び接着部53FiPは、ビームBiEの平行移動を1対のみの平行反射面で行なうことを可能にするレーザモジュール50の特徴である。
【0074】
単プリズム53A及び単プリズム53DiPの各々は、光損失を抑制するため、光学ガラスによって形成されている。反射面53AiP及び反射面53DRiPの各々は、誘電体多層膜によって形成されている全反射膜であることが望ましい。
【0075】
下記の表1は、実施の形態1に係る光学設計パラメータの一例を示している。
【0076】
【表1】
【0077】
標準列数NLSは、下記の式(25)で表現される。
【0078】
【数25】
【0079】
実際の列数も、NL=5とされている。
【0080】
平行ビームBiEのFA方向の半径wBFは、下記の式(26)で表現される。平行ビームBiEのSA方向の半径wBSは、下記の式(27)で表現される。
【0081】
【数26】
【0082】
【数27】
【0083】
光ファイバ55の受光NA=NACを集光レンズ54における有効径に換算して、換算によって得られたものを最大集光半径wBCとすると、下記の式(28)が得られる。
【0084】
【数28】
【0085】
図11に示される通り、NEが5である半径wBF,wBSの楕円ビームBiEがFA方向に並んでいる場合、楕円ビームBiEは最大集光半径wBCの円をはみ出すが、変位プリズム53により楕円ビームBiEがSA方向にNL=5列に再配列されることで、楕円ビームBiEのすべては最大集光半径wBCの円内に収まる。光ファイバ55の端面55Aにおける集光スポットFSの半径は、下記の式(29)及び式(30)で表現され、コア半径wCより小さいため、ビームが損失なく光ファイバ55に結合される。
【0086】
【数29】
【0087】
【数30】
【0088】
上述の通り、実施の形態1に係るレーザモジュール50は、変位プリズム53によってビームを再配列することができる。つまり、レーザモジュール50は、マルチエミッタレーザ51からの出射ビームに対するファイバ結合輝度を維持することができる。レーザモジュール50は、ビームの平行シフトを2個の反射面で行うことから、レーザモジュール50の組み立て時の把持部及び接着部を含む構造の設計の自由度を高くし、組み立て作業性を確保することができる。したがって、レーザモジュール50は、高出力かつ生産性が高いという効果を奏する。
【0089】
なお、レーザモジュール50は、マルチエミッタレーザ51を冷却するための水冷ヒートシンクと、光ファイバ55からの戻り光をカットするためのフィルタとのうちの一方又は双方といった公知の部品を更に有していてもよい。レーザモジュール50が上述の公知の部品を有することにより、レーザモジュール50の性能及び信頼性は向上する。
【0090】
マルチエミッタレーザ51は、1個の半導体チップに複数のエミッタが形成されたものであってもよいし、複数の半導体チップが1列に配列されたものであってもよい。各素子の具体的な材料の選定は、コストと要求性能とのトレードオフが考慮されて行われる。レンズの選定についても、コストと要求性能とのトレードオフが考慮されて行われる。つまり、コストと要求性能とのトレードオフが考慮されて、平凸レンズと両面レンズとのうちの一方が選定され、球面レンズと非球面レンズとのうちの一方が選定される。
【0091】
実施の形態2.
図13は、実施の形態2に係るレーザモジュール60の構成を模式的に示す斜視図である。図14は、実施の形態2に係るレーザモジュール60の構成を模式的に示す上面図である。レーザモジュール60は、マルチエミッタレーザ51と、FAコリメートレンズ52Aと、ビーム回転手段61と、SAコリメートレンズ52Bと、変位プリズム62と、1/2波長板63と、合流ミラー64と、偏光ビームスプリッタ65と、集光レンズ54と、光ファイバ55と、支持基材56とを有する。実施の形態2では、実施の形態1と同様な点については説明を省略する。
【0092】
変位プリズム62は、コリメートレンズ52によって平行ビームにされた複数のビームを複数のビーム群に分割し、複数のビーム群の各々を複数のビーム群のなかの他のビーム群と異なる光路に導く。コリメートレンズ52は、FAコリメートレンズ52AとSAコリメートレンズ52Bとを有する。つまり、レーザモジュール60は、複数のビーム群の各々の光路を分離することにより、光路毎に別の光学素子を挿入することで、例えば偏光合成により高輝度化する等のように性能を向上させることができる。更に言うと、複数のビーム群の各々は、複数のエミッタの配列方向において複数のビーム群のなかの他のビーム群から離れている。
【0093】
実施の形態2における具体的では、変位プリズム62は、単プリズム62A、単プリズム62D及び単プリズム62Dを有する。単プリズム62Aには、反射面62A及び反射面62Aが形成されている。反射面62Aと反射面62Aとは、ひとつの平面に位置していない。単プリズム62Dには、反射面62DRが形成されている。反射面62Aは、反射面62DRと平行である。単プリズム62Dには、反射面62DRが形成されている。反射面62Aは、反射面62DRと平行である。つまり、変位プリズム62は、対向している2個の平行な反射面の組を2個有している。
【0094】
変位プリズム62が有する反射面62A、反射面62A、反射面62DR及び反射面62DRの各々は、コリメートレンズ52によって平行ビームにされた複数のビームが変位プリズム62に進行する方向と直交する平面に対して傾斜している。反射面62A及び反射面62DRにより、平行ビームBiEのうち一部の位置が-x方向及び-y方向に平行移動され、反射面62A及び反射面62DRにより、平行ビームBiEのうち別の一部の位置が-x方向及び-y方向に平行移動される。これにより、平行ビームBiEは、y方向については2列であって、x方向については互いに離れた2つのビーム群Bxとビーム群Byとに再配列される。
【0095】
図15は、-z方向の側から+z方向の側に向かって実施の形態2に係るレーザモジュール60を見た場合の変位プリズム62を示す図である。単プリズム62Aには、ビームBiEから見て+y方向に掴み把持が可能な把持部62Bが設けられている。単プリズム62Aは、組み立て装置の把持アームや接着剤が反射面62A及び反射面62Aに接触したりビームBiEと干渉したりすることなく組み立て時に把持されることを可能とする。単プリズム62Aには、-y方向の面に、支持基材56に接着される接着部62Cが設けられている。単プリズム62Aは、ビームBiEと干渉すること無く接着剤が塗布されて支持基材56に固定される。
【0096】
単プリズム62Dには、反射面62DRから見て-x方向に掴み把持が可能な把持部62Eが設けられている。単プリズム62Dは、組み立て装置の把持アームや接着剤が反射面62DRに接触したりビームBiEと干渉したりすることなく組み立て時に把持されることを可能とする。単プリズム62Dには、反射面62DRから見て+x方向に掴み把持が可能な把持部62Eが設けられている。単プリズム62Dは、組み立て装置の把持アームや接着剤が反射面62DRに接触したりビームBiEと干渉したりすることなく組み立て時に把持されることを可能とする。単プリズム62Dの-y方向の面に、支持基材56に接着される接着部62Fが設けられている。単プリズム62Dの-y方向の面に、支持基材56に接着される接着部62Fが設けられている。単プリズム62D及び単プリズム62Dは、ビームBiEと干渉すること無く接着剤が塗布されて支持基材56に固定される。
【0097】
変位プリズム62の構造が上述の構造であるため、製造者は、マルチエミッタレーザ51を発光させた状態で、ビームBiEの進行方向を把握しながら各素子を精密に調整することにより、高性能なレーザモジュール60を製造することができる。
【0098】
次に、ビーム回転手段61の構成及び機能について説明する。ビーム回転手段61は、マルチエミッタレーザ51が有する複数のエミッタの各々が発するビームBiEを、光軸を中心に回転させる。具体的には、ビーム回転手段61は、NE個のビーム回転素子61iEを有しており、ビームBiEを、光軸を中心に90°回転させる。
【0099】
図16は、実施の形態2に係るレーザモジュール60のビーム回転手段61が有するビーム回転素子61iEを説明するための第1図である。図17は、実施の形態2に係るレーザモジュール60のビーム回転手段61が有するビーム回転素子61iEを説明するための第2図である。ビーム回転素子61iEは、図16に示される通り、45°方向に曲率を有する2枚のシリンドリカルレンズの組によって構成されている「ケプラー式の等倍ビームエキスパンダー」である。
【0100】
図17に示される通り、ビームBiEは、ビーム回転素子61iEを通過すると45°方向に対して反転し、x方向のビームプロファイルとy方向のビームプロファイルとが入れ替わる。つまり、ビームBiEは、x方向について、ビーム品質M2F、ビーム半径wBFの平行ビームとなり、y方向について、ビーム品質M2S、広がり半角θLSの拡散ビームとなる。
【0101】
変位プリズム62でのビーム再配列における標準列数NLSは、ビーム回転手段61が無い場合、下記の式(31)で表され、ビーム回転手段61が有る場合、下記の式(32)で表される。
【0102】
【数31】
【0103】
【数32】
【0104】
NLSがNLSBより大きく、列数が比較的少なくて済むため、変位プリズム62の反射面の配置及び把持部の構造についての設計が容易になる。更に言うと、ビーム回転手段61は、ビームの配列をそのままにFAの方向とSAの方向とを入れ替えることにより、集光スポットを円形とするための集光NAのSAとFAとの比をNE×M2F/M2Sとし、当該比をビーム回転手段61が存在しない場合の比であるNE×M2S/M2Fより小さくする。つまり、ビーム回転手段61により、変位プリズム62がビームを再配列する際の最適な列数を小さくすることができ、反射面の配置、把持部及び接着部の構造の設計が容易になる。
【0105】
次に、偏光合成について説明する。偏光が90°異なる二つのビームを、偏光ビームスプリッタ65で1つのビームに合成することにより、輝度を2倍に向上することができる。
【0106】
マルチエミッタレーザ51は半導体レーザであり、出射されるビームはTE偏光である。つまり、出射されるビームはx方向に電界が振動するx偏光である。すべてのビームBiEはビーム群Bxとビーム群Byとで半数ずつに分かれるが、ビーム群Bxは、偏光を維持したまま偏光ビームスプリッタ65に入射し、ビーム群Byは、1/2波長板63により偏光の方向が回転させられてy偏光となり、偏光ビームスプリッタ65に入射する。偏光ビームスプリッタ65は、x偏光を透過し、y偏光を反射し、これによりビームが合成される。x偏光はp偏光であり、y偏光はs偏光である。
【0107】
1/2波長板63は、複数のビーム群のうちのひとつ以上のビーム群の光路に配置された偏光回転手段の一例である。偏光回転手段は、配置された光路におけるビーム群の偏光を回転する。偏光ビームスプリッタ65は、偏光回転手段によって偏光が回転したビーム群である偏光回転後ビーム群と、複数のビーム群のうちの偏光回転後ビーム群以外のひとつ以上のビーム群とを合成する。
【0108】
ビーム群Bxとビーム群Byとのx方向の離隔により、ビーム群Byの光路に、1/2波長板63及び合流ミラー64を挿入して調整するための空間マージンが得られる。空間マージンが得られることは、生産性の向上に寄与する。
【0109】
変位プリズム62でのビーム再配列における標準列数NLSは、偏光合成により、下記の式(33)で表され、ビーム回転手段61が組み合わされると、下記の式(34)で表される値まで減少させることができる。
【0110】
【数33】
【0111】
【数34】
【0112】
変位プリズム62による偏光間位相差が、偏光合成における光損失を生じることがある。
【0113】
平行ビームBiEのうちの一部は、変位プリズム62の反射面62A、反射面62A、反射面62DR及び反射面62DRにより2回反射される。図18は、実施の形態2におけるビームBiEを-z方向の側から+z方向の側に向かって見た状況を示す図である。変位プリズム62に入射するビームはx偏光であるが、変位プリズム62の入射面はx軸と垂直ではなく、入射面とy軸とがなす角度は傾斜θPである。このため、ビームの電界exは、入射面に対してp偏光の成分epとs偏光の成分esとを有する。ep及びesは、下記の式(35)で表される。
【0114】
【数35】
【0115】
変位プリズム62での2回の反射によるp偏光とs偏光との位相差をφPとすると、下記の式(36)が得られる。当該位相差は、偏光間位相差である。
【0116】
【数36】
【0117】
偏光間位相差φPにより、ビームBiEは直線偏光から楕円偏光に変化する。x方向の偏光成分ex’は下記の式(37)で表され、y方向の偏光成分ey’は下記の式(38)で表される。
【0118】
【数37】
【0119】
【数38】
【0120】
光強度Ix’は下記の式(39)で表され、光強度Iy’は下記の式(40)で表される。
【0121】
【数39】
【0122】
【数40】
【0123】
偏光間位相差φPにより、最初に存在しなかったy偏光成分Iy’が発生し、y偏光成分Iy’は偏光合成において損失となる。当該損失は、「位相差損失」と称される。すなわち、ビーム群Bxについては反射損失が生じ、ビーム群Byについて透過損失が生じる。y偏光成分Iy’について、下記の式(41)が得られる。
【0124】
【数41】
【0125】
式(41)より、偏光間位相差φPを6°以下とすることで、位相差損失を0.27%以下に抑えることができ、位相差損失は、他の設計及び製造における損失と比べて無視できる範囲となる。また、反射1回あたりの偏光間位相差≦3°は、誘電体多層膜によって構成される全反射膜の要求仕様としてさほど厳しくなく、コストアップを抑えることに寄与する。
【0126】
なお、反射に対するP偏光の符号の定義によっては、偏光間位相差φPに180°の相違が生じるが、当該相違は位相差損失の計算には影響しない。
【0127】
下記の表2は、実施の形態2に係る光学設計パラメータの一例を示している。
【0128】
【表2】
【0129】
標準列数は、下記の式(42)で表され、実際の列数はNL=2とされる。
【0130】
【数42】
【0131】
平行ビームBiEのFA方向の半径wBFは、下記の式(43)で表される。平行ビームBiEのSA方向の半径wBSは、下記の式(44)で表される。
【0132】
【数43】
【0133】
【数44】
【0134】
光ファイバ55に対する最大集光半径wBCは、下記の式(45)で表される。
【0135】
【数45】
【0136】
図15に示される通り、NE/2=20個の半径wBF,wBSの楕円ビームは、変位プリズム62によりNL=2列に再配列されることで、最大集光半径wBCの円内に収まる。また、光ファイバ55の端面55Aにおける集光スポットの半径は、下記の式(46)及び式(47)で表され、コア半径wCより短い。
【0137】
【数46】
【0138】
【数47】
【0139】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略又は変更することも可能である。
【符号の説明】
【0140】
50,60 レーザモジュール、51 マルチエミッタレーザ、51EiE エミッタ、52 コリメートレンズ、52A FAコリメートレンズ、52B SAコリメートレンズ、53,62 変位プリズム、53A,53DiP,62A,62D,62D 単プリズム、53AiP,53DRiP,62A,62A,62DR,62DR 反射面、53B,53EiP,62B,62E,62E 把持部、53C,53FiP,62C,62F,62F 接着部、54 集光レンズ、55 光ファイバ、55A 光ファイバの端面、56 支持基材、61 ビーム回転手段、61iE ビーム回転素子、63 1/2波長板、64 合流ミラー、65 偏光ビームスプリッタ、BiE ビーム、Bx,By ビーム群。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18