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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】ソイルセメントの強度推定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20241213BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
E02D3/12 102
G01N23/223
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021006579
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110876
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】九里 知宏
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】谷川 友浩
(72)【発明者】
【氏名】清塘 悠
(72)【発明者】
【氏名】山中 龍
(72)【発明者】
【氏名】小谷 忠宏
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-134524(JP,A)
【文献】特開2019-105112(JP,A)
【文献】特開2019-019471(JP,A)
【文献】特開平07-197444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
G01N 23/223
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルクと現場発生土とを混合して形成されたソイルセメントの未固結試料を乾燥させて、前記未固結試料の含水量を測定し、含水比を算出する工程と、
乾燥した前記未固結試料を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて、前記未固結試料の所定元素含有量を測定し、所定元素濃度を算出する工程と、
前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度、前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度、及び、前記所定元素濃度から、前記未固結試料におけるセメントと土粒子の質量比を算出する工程と、
前記含水比、前記所定元素濃度、前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度、前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度、及び、前記質量比から、
前記未固結試料の有効セメント水比を算出する工程と、
前記有効セメント水比と圧縮強度との相関データから、前記ソイルセメントの圧縮強度を推定する工程と、
を備えたソイルセメントの強度推定方法。
【請求項2】
前記有効セメント水比をRとすると、前記有効セメント水比Rは、
前記含水比をω、
前記未固結試料の前記所定元素濃度をCa、
前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度をCa(c)、
前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度をCa(s)、
前記未固結試料におけるセメントと土粒子の質量比をαとして、
以下の(A)式を用いて算出する、
請求項1に記載のソイルセメントの強度推定方法。
R=Ca/{[α・Ca(s)+Ca(c)]・ω} ・・・(A)
【請求項3】
前記含水比ωは、
前記未固結試料を構成するセメントに含まれる水の含有量をW、
前記未固結試料を構成する土に含まれる水の含有量をSw、
前記未固結試料に含まれる乾燥したセメントの含有量をC、
前記未固結試料に含まれる乾燥した土の含有量をSとして、
以下の(B)式を用いて表される、
請求項2に記載のソイルセメントの強度推定方法。
ω=(W+Sw)/(C+S)・・・(B)
【請求項4】
前記未固結試料の前記所定元素濃度Caは、
前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素含有量をCca、
前記未固結試料に含まれる土における所定元素含有量をSca、
前記未固結試料に含まれる乾燥したセメントの含有量をC、
前記未固結試料に含まれる乾燥した土の含有量をSとして、
以下の(C)式を用いて表される、
請求項2に記載のソイルセメントの強度推定方法。
Ca=(Cca+Sca)/(C+S) ・・・(C)
【請求項5】
前記質量比αは、
以下の(D)式を用いて算出する、
請求項2に記載のソイルセメントの強度推定方法。
α=[Ca(c)-Ca]/[Ca-Ca(s)] ・・・(D)
【請求項6】
前記有効セメント水比をRとすると、前記有効セメント水比Rは、
前記含水比をω、
前記未固結試料の前記所定元素濃度をCa、
前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度をCa(c)、
前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度をCa(s)、
前記未固結試料におけるセメントと土粒子の質量比をαとして、
以下の(A)式を用いて算出し、
前記含水比ωは、
前記未固結試料を構成するセメントに含まれる水の含有量をW、
前記未固結試料を構成する土に含まれる水の含有量をSw、
前記未固結試料に含まれる乾燥したセメントの含有量をC、
前記未固結試料に含まれる乾燥した土の含有量をSとして、
以下の(B)式を用いて表され、
前記未固結試料の前記所定元素濃度Caは、
前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素含有量をCca、
前記未固結試料に含まれる土における所定元素含有量をScaとして、
以下の(C)式を用いて表され、
前記質量比αは、
以下の(D)式を用いて算出する、
請求項1に記載のソイルセメントの強度推定方法。
R=Ca/{[α・Ca(s)+Ca(c)]・ω} ・・・(A)
ω=(W+Sw)/(C+S)・・・(B)
Ca=(Cca+Sca)/(C+S) ・・・(C)
α=[Ca(c)-Ca]/[Ca-Ca(s)] ・・・(D)
【請求項7】
前記ソイルセメントは、杭孔の根固め部を形成する、請求項1~6の何れか1項に記載のソイルセメントの強度推定方法。
【請求項8】
前記現場発生土の所定元素含有量は、乾燥した現場発生土を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて測定される、請求項1~7の何れか1項に記載のソイルセメントの強度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメントの強度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、杭穴に根固め液を注入し、根固め液と泥水が混ざったソイルセメントを未固結の状態で採集する杭穴充填物の採集方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-59619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1における杭穴充填物の採集方法では、杭穴充填物を地上に引き上げて固結させた後、圧縮強度試験を行って、根固め部の強度を確認している。このような方法では、地上に引き上げた杭穴充填物が固結するまでの養生期間、杭の構築工事を進めることが難しい。このため、工期が長引く。
【0005】
また、圧縮強度試験を行わない場合は、根固め液の注入率(根固め液注入量/根固め部掘削量)を十分に大きくして、根固め部の強度を確保する。このような場合においては、材料費が嵩む。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、ソイルセメントが固結するまでの養生期間を確保せずに強度を推定できるソイルセメントの強度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のソイルセメントの強度推定方法は、セメントミルクと現場発生土とを混合して形成されたソイルセメントの未固結試料を乾燥させて、前記未固結試料の含水量を測定し、含水比を算出する工程と、乾燥した前記未固結試料を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて、前記未固結試料の所定元素含有量を測定し、所定元素濃度を算出する工程と、前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度、前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度、及び、前記所定元素濃度から、前記未固結試料におけるセメントと土粒子の質量比を算出する工程と、前記含水比、前記所定元素濃度、前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度、前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度、及び、前記質量比から、前記未固結試料の有効セメント水比を算出する工程と、前記有効セメント水比と圧縮強度との相関データから、前記ソイルセメントの圧縮強度を推定する工程と、を備えている。
【0008】
ソイルセメントの強度は、ソイルセメントに含まれるセメントの含有量と含水量とが分かれば、これらの比率である有効セメント水比(C/We)と圧縮強度との相関データから、推定することができる。
【0009】
しかし、ソイルセメントは、セメントミルク(セメントと水の混合体)と現場発生土とを混合して形成されており、これらの混合割合を把握することは困難であるため、ソイルセメントに含まれるセメントの含有量を把握することも難しい。
【0010】
ここで、セメント及び現場発生土には、それぞれ様々な元素が含まれている。この様々ン元素のうち、特定の元素(所定元素、例えばカルシウムなど)に注目して、ソイルセメント、及び、現場発生土の所定元素含有量を把握することができれば、ソイルセメントを構成するセメントの含有量を算出することができる。
【0011】
そこで、請求項1のソイルセントの強度推定方法では、ソイルセメントにおける未固結試料の所定元素含有量を、蛍光X線分析計を用いて測定する。このとき、未固結試料は乾燥及び粉砕されるため、セメント成分と現場発生土成分とが均一に混合され、所定元素含有量を精度よく測定できる。
【0012】
そして、測定された未固結試料の所定元素含有量と、現場発生土の所定元素含有量と、を用いて、未固結試料を構成するセメントの所定元素含有量を算出する。
【0013】
セメントの所定元素含有量は既知であるため、この所定元素含有量を把握することで、未固結試料におけるセメントの含有量を把握できる。
【0014】
また、本態様のソイルセントの強度推定方法では、未固結試料を乾燥させて、未固結試料の含水量(We[g])を測定する。これにより、未固結試料におけるセメントと水の重量比である有効セメント水比(C/We)を算出することができる。
【0015】
そして、有効セメント水比(C/We)と試料の圧縮強度とのデータから、ソイルセメントの圧縮強度を推定する。これにより、ソイルセメントが固結するまでの養生期間を確保せずに、ソイルセメントを乾燥及び粉砕して所定元素含有量を測定することで、ソイルセメントの強度を推定できる。
請求項2のソイルセメントの強度推定方法は、請求項1に記載のソイルセメントの強度推定方法において、前記有効セメント水比をRとすると、前記有効セメント水比Rは、前記含水比をω、前記未固結試料の前記所定元素濃度をCa、前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度をCa(c)、前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度をCa(s)、前記未固結試料におけるセメントと土粒子の質量比をαとして、以下の(A)式を用いて算出する。
R=Ca/{[α・Ca(s)+Ca(c)]・ω} ・・・(A)
請求項3のソイルセメントの強度推定方法は、請求項2に記載のソイルセメントの強度推定方法において、前記含水比ωは、前記未固結試料を構成するセメントに含まれる水の含有量をW、前記未固結試料を構成する土に含まれる水の含有量をSw、前記未固結試料に含まれる乾燥したセメントの含有量をC、前記未固結試料に含まれる乾燥した土の含有量をSとして、以下の(B)式を用いて表される。
ω=(W+Sw)/(C+S)・・・(B)
請求項4のソイルセメントの強度推定方法は、請求項2に記載のソイルセメントの強度推定方法において、前記未固結試料の前記所定元素濃度Caは、前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素含有量をCca、前記未固結試料に含まれる土における所定元素含有量をSca、前記未固結試料に含まれる乾燥したセメントの含有量をC、前記未固結試料に含まれる乾燥した土の含有量をSとして、以下の(C)式を用いて表される。
Ca=(Cca+Sca)/(C+S) ・・・(C)
請求項5のソイルセメントの強度推定方法は、請求項2に記載のソイルセメントの強度推定方法において、前記質量比αは、以下の(D)式を用いて算出する。
α=[Ca(c)-Ca]/[Ca-Ca(s)] ・・・(D)
請求項6のソイルセメントの強度推定方法は、請求項1に記載のソイルセメントの強度推定方法において、前記有効セメント水比をRとすると、前記有効セメント水比Rは、前記含水比をω、前記未固結試料の前記所定元素濃度をCa、前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素濃度をCa(c)、前記未固結試料に含まれる現場発生土における所定元素濃度をCa(s)、前記未固結試料におけるセメントと土粒子の質量比をαとして、以下の(A)式を用いて算出し、前記含水比ωは、前記未固結試料を構成するセメントに含まれる水の含有量をW、前記未固結試料を構成する土に含まれる水の含有量をSw、前記未固結試料に含まれる乾燥したセメントの含有量をC、前記未固結試料に含まれる乾燥した土の含有量をSとして、以下の(B)式を用いて表され、前記未固結試料の前記所定元素濃度Caは、前記未固結試料に含まれるセメントにおける所定元素含有量をCca、前記未固結試料に含まれる土における所定元素含有量をScaとして、以下の(C)式を用いて表され、前記質量比αは、以下の(D)式を用いて算出する。
R=Ca/{[α・Ca(s)+Ca(c)]・ω} ・・・(A)
ω=(W+Sw)/(C+S)・・・(B)
Ca=(Cca+Sca)/(C+S) ・・・(C)
α=[Ca(c)-Ca]/[Ca-Ca(s)] ・・・(D)
【0016】
請求項7のソイルセメントの強度推定方法は、請求項1~6の何れか1項に記載のソイルセメントの強度推定方法において、前記ソイルセメントは、杭孔の根固め部を形成する。
【0017】
請求項7のソイルセメントの強度推定方法では、杭孔の根固め部を形成するソイルセメントの強度を推定することができる。このため、杭の支持力を迅速に確認できる。
【0018】
請求項8のソイルセメントの強度推定方法は、請求項1~7の何れか1項に記載のソイルセメントの強度推定方法において、前記現場発生土の所定元素含有量は、乾燥した現場発生土を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて測定される。
【0019】
請求項8のソイルセメントの強度推定方法では、現場発生土の所定元素含有量を乾燥及び粉砕して、蛍光X線分析計を用いて測定する。これにより、現場発生土の所定元素含有量を精度よく測定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、ソイルセメントが固結するまでの養生期間を確保せずに、ソイルセメントの強度を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)は本発明のソイルセメントの強度推定方法が適用される既製杭を埋設する杭孔を形成している状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔に根固め部を形成している状態を示す立断面図であり、(C)は杭孔から掘削ロッドを引き上げている状態を示す立断面図であり、(D)は杭孔に既製杭を挿入した状態を示す立断面図である。
図2】ソイルセメントの成分を示す概念図である。
図3】ソイルセメントの有効セメント水比(C/We)と圧縮強度との相関データを示すグラフである。
図4】乾燥状態のソイルセメントの成分を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るソイルセメントの強度推定方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
<杭の施工方法>
本発明の実施形態に係るソイルセメントの強度推定方法は、一例として、杭の根固め部を形成するソイルセメントに用いられる。そこで、ソイルセメントの強度推定方法の説明に先立ち、強度を推定するソイルセメントが用いられる杭の施工方法の概略について説明する。
【0024】
図1(A)~(D)には、既製杭10を埋込み工法で地盤Gへ埋設する方法の一例が示されている。図1(D)に示す既製杭10は、コンクリート製の杭であり、工場などにおいて予め成型された後、施工現場へ搬入される。
【0025】
既製杭10を地盤Gへ埋設するためには、まず、図1(A)に示すように、掘削ロッド20を用いて掘削液を注入しながら地盤Gを掘削し、杭孔GHを形成する。本実施形態においては既製杭10を先端支持杭とするために、杭孔GHの先端を、支持層GAに到達させる。
【0026】
次に図1(B)に示すように、掘削ロッド20から杭孔GHの先端(底)へセメントミルクを注入する。このセメントミルクを攪拌することで、地盤G中の土と混合させ、根固め部を形成するソイルセメント12を構築する。
【0027】
なお、セメントミルクは、セメント及び水を混錬して、又は、セメント、水及び各種添加剤を混錬して形成される。また、ソイルセメントとは、セメントミルクと土との混錬体である。本明細書においては、「地盤G」を形成する鉱物、有機物、気体、液体及び生物等の混合物を「土」と称す。
【0028】
杭孔GHの先端には、杭孔GHの直径が拡径され、かつ、ソイルセメント12が充填された部分である根固め球根12Aを形成することが好適である。なお、根固め球根12Aを形成する場合、掘削ロッド20における掘削ヘッドを、拡径できる公知の構造とする。そして当該掘削ヘッドを所定の深度において拡径することで、根固め球根12Aが形成される。
【0029】
次に図1(C)に示すように、掘削ロッド20を引き抜きながら、ソイルセメント12の上方にセメントミルクを注入及び攪拌する。これにより杭周固定液としてのソイルセメント14を形成する。ソイルセメント14は、ソイルセメント12と比較して、単位体積当たりのセメント量が少ない貧調合のセメントミルクを用いて形成してもよい。
【0030】
次に図1(D)に示すように、杭孔GHへ既製杭10を挿入する。このとき、既製杭10の先端を、杭孔GHの先端の根固め球根12Aへ陥入する。これにより、既製杭10が地盤Gへ埋設される。
【0031】
<杭強度推定方法>
本発明の実施形態に係るソイルセメントの強度推定方法は、例えば既製杭10の根固め部であるソイルセメント12の固結後の強度を推定する方法である。
【0032】
ソイルセメント12の固結後の強度を推定する理由は、既製杭10の支持力がソイルセメント12の強度に影響を受けるからである。具体的には、ソイルセメント12は、既製杭10の先端部分と支持層GAとを一体化し、既製杭10に作用する押し込み力に抵抗する。このため、既製杭10の支持力を評価する際には、既製杭10そのものの強度だけではなく、ソイルセメント12の強度を推定することが好適である。
【0033】
また、ソイルセメント12の固結後の強度を「推定」するとは、ソイルセメント12の「固結前」において固結後の強度を評価することである。この場合、ソイルセメント12の固結後に、当該ソイルセメント12の強度を「測定」する場合と比較して、ソイルセメント12が固結するまでの養生期間を確保する必要がない。これにより、工期を短縮できる。
【0034】
なお、本実施形態において強度を推定するソイルセメントは、本設杭に用いられるものでなくてもよく、本設杭に用いられるものと略等しい成分のソイルセメントでよい。
【0035】
この場合、本設杭としての既成杭10が設けられる敷地と同じ敷地に仮設の杭孔を削孔し、セメントミルクを注入及び攪拌する。これにより、本設杭に用いられるソイルセメント12と略等しい成分のソイルセメントを形成できる。「略等しい」とは、例えばセメントと土との混合割合がほぼ等しいことを示す。
【0036】
また、本実施形態において強度を推定するソイルセメントは、必ずしも杭の根固め部に用いる必要はなく、杭の根固め部以外の部分に用いてもよい。さらに、ソイルセメントは、地盤改良体に用いるものとしてもよい。以下の説明においては、本設杭に用いられるソイルセメント12を含むソイルセメント全般の強度推定方法について説明する。
【0037】
(ソイルセメントの強度推定方法の概要)
図2に示すように、ソイルセメントを形成するセメントミルクは、一例として、C[g]のセメントと、W[g]の水とを混錬して形成されている。また、セメントミルクと攪拌される土である現場発生土には、S[g]の土粒子(乾燥状態)と、Sw[g]の水と、が含まれている。
【0038】
ソイルセメントの強度は、ソイルセメントに含まれるセメントの含有量(C[g])と含水量(We=W+Sw[g])とが分かれば、これらの比率である有効セメント水比(C/We)と圧縮強度との相関データから、推定することができる。有効セメント水比(C/We)と圧縮強度(一軸圧縮強度qu[N/mm2])との相関データは、例えば図3に示されるように、既知の情報として得ることができる。
【0039】
図3においては、様々な有効セメント水比(C/We)を有する複数の試料において、一軸圧縮強度を測定した測定値がプロットされている。そして、これらのプロット箇所を一次曲線で近似した近似線C1で示されている。試料の有効セメント水比に対応する一軸圧縮強度は、近似線C1から1対1対応で導出される。
【0040】
しかし、ソイルセメントにおけるセメントミルクと現場発生土との混合割合を把握することは困難であるため、ソイルセメントに含まれるセメントの含有量C[g]を把握することも難しい。
【0041】
ここで、セメント及び現場発生土には、それぞれカルシウムが含まれている。ソイルセメント、及び、現場発生土のカルシウム含有量を把握することができれば、以下に示す方法で、ソイルセメントを構成するセメントの含有量及び有効セメント水比(C/We)を算出することができる。なお、カルシウムは本発明における所定元素の一例である。本発明に用いる「所定元素」とは、カルシウムのようにセメントに含有されているものであればよい。
【0042】
(セメントのカルシウム濃度)
ソイルセメントに用いられるセメントのカルシウム濃度Ca(c)[ppm]は、既知の情報である。例えば図4に示すように、C[g]のセメントにおけるカルシウム含有量Ccaは、次の(1)式で示される。なお、セメントのカルシウム濃度は、蛍光X線分析計を用いて測定してもよい。
【0043】
Cca=C・Ca(c) ・・・(1)
【0044】
(事前調査-試料採取)
ソイルセメントの強度を推定するためには、事前調査を実施する。事前調査の一例としては、まず、地盤(例えば図1に示す地盤G)から現場発生土の試料を採集する。試料の採集は、地盤調査のためのボーリング試験と併せて実行することが好適である。この試料とは、例えば図1に示す支持層GAを形成する現場発生土(以下、「土試料」と称す場合がある)であり、図2に示すように、S[g]の土粒子(乾燥状態)と、Sw[g]の水と、が含まれている。
【0045】
(事前調査-現場発生土のカルシウム含有量の測定)
次に、採集した土試料を乾燥して、粉砕する。土試料の乾燥には、電子レンジ等、任意の機材を用いることができる。また、土試料の粉砕には、ミル等を用いることができる。
【0046】
次に、蛍光X線分析計を用いて、乾燥及び粉砕した土試料(土粒子)におけるカルシウム濃度を測定する。図4に示すように、土粒子(乾燥状態)のカルシウム濃度が、Ca(s)[ppm]と測定された場合、S[g]の土粒子(乾燥状態)におけるカルシウム含有量Scaは、次の(2)式で示される。
【0047】
Sca=S・Ca(s) ・・・(2)
【0048】
(ソイルセメントの含水比の測定)
次に、例えば図1に示す杭孔GHの内部においてセメントミルクと現場発生土とを混錬し、ソイルセメントを形成する。そして、未固結状態のソイルセメントを未固結試料として採取して、重量を測定する。未固結試料の重量W1は、図2及び(3-1)式に示すように、セメントミルクと現場発生土の重量の合計である、C+S+W+Sw[g]で示される。
【0049】
W1=C+S+W+Sw ・・・(3-1)
【0050】
次に、採取した未固結試料を乾燥して、粉砕する。未固結試料の乾燥には、土試料と同様に、電子レンジ等、任意の機材を用いることができる。また、未固結試料の粉砕には、ミル等を用いることができる。電子レンジ等による乾燥、粉砕及びカルシウム測定に要する時間は約1時間程度であり、一軸圧縮試験用の試験及び試験体の養生に要する時間(3~7日程度)と比較して十分に短い。
【0051】
そして、乾燥した未固結試料(つまり、乾燥状態のソイルセメント)の重量を測定する。乾燥状態のソイルセメントの重量W2は、図2及び次の(3-2)式に示すように、未固結試料におけるセメントと土粒子(乾燥状態)の重量の合計である、C+S[g]で示される。
【0052】
W2=C+S ・・・(3-2)
【0053】
ここで、未固結試料の重量W1と乾燥状態のソイルセメントの重量W2の差から算出される値W3は、図2及び次の(3-3)式に示すように、未固結試料の含水量W+Sw(=We)[g]を示している。
【0054】
なお、本発明における「未固結試料の含水量を測定する工程」とは、未固結試料の重量W1と、乾燥状態のソイルセメントの重量W2とを測定して、未固結試料の含水量W3を算出することを含む。
【0055】
W3=W+Sw ・・・(3-3)
【0056】
以上の(3-1)~(3-3)式から、未固結試料の含水比ωが、以下の(3)式のように算出される。
【0057】
ω=W3/W2=(W+Sw)/(C+S) ・・・(3)
【0058】
(ソイルセメントのカルシウム含有量の測定)
次に、蛍光X線分析計を用いて、乾燥及び粉砕した未固結試料(つまり、乾燥状態のソイルセメント)におけるカルシウム濃度を測定する。このとき、未固結試料は乾燥及び粉砕されているため、セメント成分と現場発生土成分とが均一に混合され、カルシウム含有量を精度よく測定できる。
【0059】
図4に示すように、ソイルセメント(乾燥状態)のカルシウム濃度が、Ca[ppm]と測定された場合、このソイルセメント(乾燥状態)におけるカルシウム含有量Cca+Scaは、次の(4)式で示される。
【0060】
Cca+Sca=(C+S)・Ca ・・・(4)
【0061】
(ソイルセメントにおけるセメントと土粒子(乾燥状態)の質量比)
図4に示すように、ソイルセメントにおけるセメントと土粒子(乾燥状態)の質量比C:Sを、1:αとすると、この係数α(以下、質量比αと称す)は、次の(5-1)式で示される。
【0062】
α=S/C ・・・(5-1)
【0063】
また、ソイルセメントにおけるカルシウム濃度Caは、(1)、(2)、(4)式から、次の(5-2)式で示される。
【0064】
Ca=[C・Ca(c)+S・Ca(s)]/(C+S) ・・・(5-2)
【0065】
これらの(5-1)、(5-2)式から、質量比αは次の(5)式のように算出される。
【0066】
α=[Ca(c)-Ca]/[Ca-Ca(s)] ・・・(5)
【0067】
さらに、以上の(1)式~(5)式を用いて、ソイルセメントを構成するセメントの含有量及び有効水セメント比(C/We)が、次の(6)式のように算出される。
【0068】
C/We=Ca/{[α・Ca(s)+Ca(c)]・ω} ・・・(6)
【0069】
(ソイルセメントの強度推定)
次に、図3に示す有効水セメント比(C/We)と圧縮強度との相関データから、ソイルセメントの強度(一軸圧縮強度)を推定する。具体的には、近似線C1において、算出された有効水セメント比(C/We)に対応する一軸圧縮強度の値が、ソイルセメントの強度として推定される。これにより、ソイルセメントの未固結試料が固結した時の一軸圧縮強度が推定される。
【0070】
このように、本実施形態に係るソイルセメントの強度推定によると、ソイルセメントが固結するまでの養生期間を確保せずに強度を推定できる。
【0071】
また、セメントミルクの注入率(セメントミルクの注入量/例えば根固め部の掘削量)を十分に大きくすることにより根固め部の強度を確保しつつ圧縮強度試験を省略する場合と比較して、根固め部に注入するセメントミルク量を少なくできる。これにより、材料費を低減できる。
【符号の説明】
【0072】
12 ソイルセメント
図1
図2
図3
図4