(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】異材接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/20 20060101AFI20241213BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20241213BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/24 310
B23K11/11 540
(21)【出願番号】P 2021010855
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】松永 達則
(72)【発明者】
【氏名】河合 功介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 陽介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 信頼
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-017148(JP,A)
【文献】特開2006-224127(JP,A)
【文献】特開2006-167801(JP,A)
【文献】特開2009-226467(JP,A)
【文献】国際公開第2020/053735(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/20
B23K 11/24
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の第1被接合部材と、該第1被接合部材よりも電気抵抗率が小さい板状
の第2被接合部材とを対向する電極で挟んで加圧通電し、該第1被接合部材と第2被接合部材とを接合する異材接合方法において、
前記第1被接合部材と第2被接合部材との当接界面を除いて該第1被接合部材の融点を超えないように前記電極への
周波数が5kHz以上である印加電流を予め設定された所定電流増大率で予め設定された所定時間のみ通電し、前記当接界面の発熱で前記第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面近傍領域を溶融させて両接合部材を溶接することを特徴とする異材接合方法。
【請求項2】
前記第2被接合部材の融点が前記第1被接合部材の融点よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の異材接合方法。
【請求項3】
前記通電の電流立上時間が20msec.以下で、前記所定電流増大率は、前記通電の所定時間で電流値が15~25kAに到達する条件を満たす値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異材接合方法。
【請求項4】
板状の第1被接合部材と該第1被接合部材よりも電気抵抗率が小さい板状の第2被接合部材とを挟む対向する電極と、該電極に印加電流を通電する通電制御装置と、を有し、前記電極に前記通電制御装置から所定の印加電流を流して前記第1被接合部材と前記第2被接合部材との抵抗溶接を行う抵抗溶接装置において、
前記通電制御装置は、
前記第1被接合部材と第2被接合部材との当接界面を除いて該第1被接合部材の融点を超えないように前記電極への周波数が5kHz以上である印加電流を予め設定された所定電流増大率で予め設定された所定時間のみ通電するように構成され、
前記通電により前記当接界面の発熱で前記第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面近傍領域を溶融させて両接合部材を溶接させることを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項5】
前記通電の電流立上時間は、20msec.以下であり、前記所定電流増大率は、前記通電の所定時間で電流値が15~25kAに到達する条件を満たす値であることを特徴とする請求項4に記載の抵抗溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合方法、特に、板状の第1被接合部材と、第1被接合部材よりも電気抵抗率が小さい板状の第2被接合部材とを接合する異材接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接合方法の1つである抵抗溶接は、歪みの少なさ、外観の良好さ、溶接所要時間の短さといった利点を有し、自動車産業では、特に車体の製造に広く採用されている。周知のように、一般にスポット溶接とも呼ばれる抵抗溶接は、主として被接合部材同士の接触抵抗によるジュール熱が被接合部材自体を溶融することでなされる。こうした抵抗溶接の最も一般的な車体用被接合部材は、鋼製の板材、いわゆる鋼板である。一方で、例えば、車体の軽量化のために、アルミニウム(合金)製の板材が用いられつつある。アルミニウム製の被接合部材同士の抵抗溶接技術は確立化されつつあるが、アルミニウム製被接合部材と鉄系材料製被接合部材、例えば鋼板の異材抵抗溶接、特に量産抵抗溶接は、両者の電気抵抗率と融点が大きく離れていることから十分な接合強度(継手強度ともいう)を得ることが困難であり、その結果、未だ開発途上にある。
【0003】
こうした電気抵抗率と融点の異なる異材を抵抗溶接で接合する手法として、例えば下記特許文献1に記載されるものがある。この異材接合方法は、例えば、電極の先端形状、溶接電流値、通電時間、加圧力を精密に規定することにより、接合強度に優れたアルミニウム製被接合部材と鋼製被接合部材の異材接合ができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抵抗溶接によるアルミニウム製被接合部材と鋼製被接合部材の異材接合方法では、上記特許文献1にも記載されるように、両接合部材の接合部に、Fe2Al3やFeAl3などのアルミニウム-鉄合金が脆弱な金属間化合物(以下、IMC(Inter Metallic Compound)と称す)として生成され、このIMCの介在が両接合部材の接合強度を著しく低下させることが問題となる。上記特許文献1による異材接合方法では、アルミニウム製被接合部材の板厚を大きく減少させることにより、上記IMCを接合部領域の外側に排出できることから、接合強度が確保されるとしている。しかしながら、このようにアルミニウム製被接合部材の板厚が大きく減少すると、特に、車体用板部材のロボット搭載型抵抗溶接では、アルミニウム製被接合部材そのものの強度低下や外観などの商品性の低下につながる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、十分な接合強度を確保しながら被接合部材の板厚の減少を抑制することが可能な、電気抵抗率の異なる板状被接合部材の異材接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための異材接合方法は、
板状の第1被接合部材と、該第1被接合部材よりも電気抵抗率が小さい板状
の第2被接合部材とを対向する電極で挟んで加圧通電し、該第1被接合部材と第2被接合部材とを接合する異材接合方法において、
前記第1被接合部材と第2被接合部材との当接界面を除いて該第1被接合部材の融点を超えないように前記電極への周波数が5kHz以上である印加電流を予め設定された所定電流増大率で予め設定された所定時間のみ通電し、前記当接界面の発熱で前記第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面近傍領域を溶融させて両接合部材を溶接することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、例えば、鋼板のような電気抵抗率の大きい板状第1被接合部材とアルミニウム製板部材のような電気抵抗率の小さい板状第2被接合部材を接合する場合、第1被接合部材と第2被接合部材の当接界面の電気抵抗率は第1被接合部材の電気抵抗率よりも更に大きいことから、両接合部材を挟む電極間にごく短時間、印加電流を通電すると両接合部材の当接界面の発熱により、その当接界面及びその近傍領域のみが大きく昇温する。この両接合部材の当接界面及びその近傍領域のみの大きな昇温は、上記電極間に大きな電流増大率でごく短時間のみ、印加電流を通電することで達成される。その結果、例えば、鋼板とアルミニウム製板部材では、アルミニウム製板部材の融点は鋼板の融点よりも低いので、両接合部材の当接界面及びその近傍領域の昇温によって、アルミニウム製板部材の鋼板との当接界面近傍領域が溶融し、その溶融材が固化することによって第1被接合部材、例えば鋼板と第2被接合部材、例えばアルミニウム製板部材が溶接される。このとき、例えばアルミニウム製板部材などの第2被接合部材は、例えば鋼板などの第1被接合部材との当接界面近傍領域のみが溶融・固化するため、第2被接合部材の板厚の減少を抑制することができる。また、例えば鋼板などの融点の高い第1被接合部材は溶融しないか、又は殆ど溶融しないので、例えばアルミニウム-鉄合金などのIMC(金属間化合物)は生じないか、又は殆ど生じず、両接合部材の接合強度を確保することができる。
また、複数の板状被接合部材を挟む電極間には、通常、交番電流を印加するが、大きな通電電流増大率を達成するためには、印加電流の周波数を大きくする必要があり、例えば、電流立上時間20msec.以下で到達電流値15~25kAを達成するためには印加電流の周波数を5kHz以上とする必要がある。一般的なスポット溶接の印加電流周波数は、大きくても3~4kHz程度であり、この電源周波数では、通電開始直後の電流増大率が制限され、結果として、電流立上時間20msec.以下の短時間で通電電流値を15~25kAに到達させることができず、上記のような被接合部材の昇温挙動を得ることができない。これに対し、印加電流の周波数を5kHz以上とすることで、通電開始直後から大きな電流増大率で通電電流値を立ち上げることができ、これにより電流立上時間20msec.以下で到達電流値15~25kAを得ることができ、上記被接合部材の昇温挙動を得て両接合部材を良好に溶接することが可能となる。
【0009】
本発明の他の構成は、前記第2被接合部材の融点が前記第1被接合部材の融点よりも低いことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、第2被接合部材がアルミニウム製板部材で且つ第1被接合部材が鋼板である場合、アルミニウム製板部材の融点は鋼板の融点よりも低いので、上記両接合部材の当接界面及びその近傍領域の昇温により、アルミニウム製板部材の鋼板との当接界面近傍領域が溶融し、その溶融材が固化することによって両接合部材が確実に溶接され、アルミニウム製板部材の板厚の減少も抑制される。その際、融点の高い鋼板は溶融しないか、又は殆ど溶融しないので、両接合部材の接合部にIMCは生じないか、又は殆ど生じず、両接合部材の接合強度を確保することができる。
【0011】
本発明の更なる構成は、前記通電の電流立上時間が20msec.以下で、前記所定電流増大率は、前記通電の所定時間で電流値が15~25kAに到達する条件を満たす値であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、上記両接合部材の当接界面の電気抵抗率が第1被接合部材の電気抵抗率より大きいのは、通電によって第1被接合部材自体が昇温するまでの短時間であり、この時間のごく短い時間のみ電極間に通電することで両接合部材の当接界面を発熱させて第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面及びその近傍領域を昇温させることができる。一般的なスポット溶接の電流立上時間は、短くても30msec.以上であることから、本発明の上記電流立上時間20msec.以下は通常スポット溶接の電流立上時間より遥かに短いといえる。更に、この短時間で第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面近傍領域を溶融させるためには、上記通電時間で通電電流値が15~25kAに到達する電流増大率で通電電流を印加する必要があり、この条件を満たすことで第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面近傍領域が溶融し、その溶融材が固化することで両接合部材が確実に溶接される。周知のように、一般的なスポット溶接の到達電流値も15~25kA程度である(但し、板厚に依存する)が、通電時間が20msec.以下と短いことから、本発明の通電電流増大率は通常の通電電流増大率より遥かに大きいといえる。
【0013】
上記目的を達成するための抵抗溶接装置は、
板状の第1被接合部材と該第1被接合部材よりも電気抵抗率が小さい板状の第2被接合部材とを挟む対向する電極と、該電極に印加電流を通電する通電制御装置と、を有し、前記電極に前記通電制御装置から所定の印加電流を流して前記第1被接合部材と前記第2被接合部材との抵抗溶接を行う抵抗溶接装置において、
前記通電制御装置は、前記第1被接合部材と第2被接合部材との当接界面を除いて該第1被接合部材の融点を超えないように前記電極への周波数が5kHz以上である印加電流を予め設定された所定電流増大率で予め設定された所定時間のみ通電するように構成され、前記通電により前記当接界面の発熱で前記第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面近傍領域を溶融させて両接合部材を溶接させることを特徴とする。
この構成より、方法の発明の請求項1で述べた作用効果と同じ作用効果が、装置の発明の請求項4においても得られる。
【0014】
本発明の抵抗溶接装置の更なる構成は、前記通電の電流立上時間は、20msec.以下であり、前記所定電流増大率は、前記通電の所定時間で電流値が15~25kAに到達する条件を満たす値であることを特徴とする。
この構成より、方法の発明の請求項3で述べた作用効果と同じ作用効果が、装置の発明である請求項5においても得られる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面近傍領域が溶融し、その溶融材が固化することによって両接合部材が溶接されることにより、第2被接合部材の板厚の減少を抑制することができると共に、第1被接合部材は溶融しないか又は殆ど溶融しないので、例えばアルミニウム-鉄合金などのIMCは生じないか又は殆ど生じず、両接合部材の接合強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の異材接合方法が適用された抵抗溶接装置の概略構成図である。
【
図2】
図1の抵抗溶接装置で実施される異材接合方法の一実施の形態を示す抵抗溶接方法の通電電流とそれに伴う温度変化の説明図である。
【
図3】
図1の抵抗溶接装置で実施される異材接合方法の比較例を示す抵抗溶接方法の通電電流とそれに伴う温度変化の説明図である。
【
図4】
図2及び
図3の抵抗溶接方法に用いられる2つの被接合部材及びその当接界面の電気抵抗率の説明図である。
【
図5】
図2の抵抗溶接方法による接合後の接合部の断面図である。
【
図6】
図3の抵抗溶接方法による接合後の接合部の断面図である。
【
図7】
図2及び
図3の抵抗溶接方法による接合部のIMC厚さの説明図である。
【
図8】アルミニウム-鉄合金からなるIMC厚さと接合強度の説明図である。
【
図9】印加電流周波数の違いによる電流値と温度の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の異材接合方法の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の異材接合方法が適用された抵抗溶接装置の概略構成図である。この抵抗溶接装置は、いわゆるスポット溶接(スポット抵抗溶接)を行うためのものであり、例えば、板状の第1被接合部材を鋼板1、板状の第2被接合部材をアルミニウム製板部材2として、それら異なる種類の金属板を溶接する。この抵抗溶接装置では、例えば、重合された第1被接合部材と第2被接合部材を対向する電極3によって所定の加圧力で挟み、その状態で、通電制御装置4により、電極3間に所定の印加電流を通電して抵抗溶接を行う。電極3には、例えばサーボモータや油空圧シリンダ、スプリングなどで構成される図示しない加圧装置が備えられている。図示される抵抗溶接装置は模式的であり、実際の電極3や加圧装置は、例えば、量産車体製造ラインの産業用ロボットのマニュプレータに取付けられている。したがって、上記通電制御装置4は、例えば、産業用ロボットの動作制御装置と連動されるように構成され、或いは、それと一体化されて構成される。電極3の構成、例えば先端のR形状などは、適宜に設定される。この抵抗溶接装置は、既存のものを必要に応じて一部改良するなどして使用することができる。また、新規に作成してもよい。
【0018】
図2は、
図1の抵抗溶接装置で実施される抵抗溶接方法の実施の形態を示す通電電流とそれに伴う温度の経時変化を示す。また、
図3には、比較例として、従来様式の抵抗溶接方法の一例を示す通電電流とそれに伴う温度の経時変化を示す。周知のように、アルミニウムと鉄では、鉄の電気抵抗率よりもアルミニウムの電気抵抗率の方が小さい。また、鉄の融点よりもアルミニウムの融点の方が低い。一般的な鋼板同士のスポット抵抗溶接では、電流立上時間が短くても20msec、トータルで100msec.以上の通電を行うことで、2つの鋼板の当接界面のジュール熱で当接界面近傍の母材を溶融し、その溶融材が固化してできるナゲットにより両接合部材が溶接される。アルミニウム製板部材同士のスポット抵抗溶接では、板部材表面の酸化膜の除去が必要であったり、前述のように電気抵抗率が小さいことから必要なジュール熱を得るために印加電流の電流値を大きくしたり、それに伴って通電時間を短く設定したりする必要があるが、鋼板同士のスポット抵抗溶接と同様に、板部材の当接界面近傍の母材を溶融し、その溶融材が固化してできるナゲットによって板部材同士を溶接することは同様である。
【0019】
これに対し、鋼板1とアルミニウム製板部材2の異材スポット抵抗溶接では、後段に詳述するように、アルミニウム-鉄合金からなるIMCの介在や、融点の低いアルミニウム製板部材2の板厚の減少(母材減肉ともいう)が問題となる。
図2と
図3を比較して明瞭なように、この実施の形態の抵抗溶接方法では、従来様式の比較例と比較して通電時間が非常に短い。
図3の抵抗溶接方法では、電流立上時間20msec.、通電時間を100msec.以上としているが、
図2の抵抗溶接方法では、電流立上時間を20msec.以下、好ましくは5~10msec.としており、材質、板厚により所定の通電時間の通電を行う。比較のために、2つの抵抗溶接方法の通電到達電流値は15~25kAで同等としているが、この通電時間の差異のために、
図2の抵抗溶接方法における通電電流増大率は、
図3のそれよりも遥かに大きい。
【0020】
図4は、通電時間に対する電気抵抗率の経時変化を示す(
図2、
図3よりも時間軸のスケールが大きい)。通電時間は、通電される物質の昇温を意味する。同図から明らかなように、アルミニウム製板部材2(図ではアルミ板)の電気抵抗率は鋼板1の電気抵抗率よりも小さい。この鋼板1の電気抵抗率よりも、アルミニウム製板部材2と鋼板1の(図ではAl-Fe)当接界面の電気抵抗率の方が更に大きい。また、何れも、温度の上昇に伴って電気抵抗率が増大する。その結果、鋼板内部の温度が上昇してアルミニウム製板部材2との当接界面の温度と同等になると、両者の電気抵抗率も同等になる。この当接界面の電気抵抗率が鋼板内部の電気抵抗率より大きい時間は、通電開始後の短時間である。この短時間の更にごく短時間に、十分な印加電流値を通電することができれば、このアルミニウム製板部材2と鋼板1の当接界面の発熱によって、両者の当接界面及びその近傍領域のみを昇温させることができ、その熱量の熱伝導によって、融点の低いアルミニウム製板部材2の鋼板1との当接界面近傍領域を溶融させ、その溶融材の固化(凝固)によって両接合部材を溶接することができる。この溶接形態は、いわゆる界面接合に近い。また、この溶接方法であれば、鋼板1(鉄)は溶融しないか、又は殆ど溶融しないので、アルミニウム-鉄合金からなるIMCは生成されないか、又は殆ど生成されず、接合強度が確保され得る。
【0021】
図2の通電電流制御は、上記の知見に基づいたものであり、したがって電流立上時間は20msec.以下、好ましくは5~10msec.のごく短時間に設定されている。また、このごく短い通電時間で、到達電流値15~25kAの十分な電流値を達成することにより、上記のようにアルミニウム製板部材2と鋼板1の当接界面及びその近傍領域のみを昇温させることができている証として、鋼板1の内部温度もアルミニウム製板部材2の内部温度も比較的低い温度までしか昇温していない。図では、アルミニウム製板部材2の内部温度はアルミニウムの融点に達していないが、鋼板1との当接界面の近傍領域では融点を超えており、その結果、アルミニウム製板部材2の鋼板1との当接界面近傍領域が溶融している。このアルミニウム母材の溶融・固化(凝固)によって両接合部材が溶接される。また、アルミニウム製板部材2の内部温度が融点に達していないことは、アルミニウム製板部材2の溶融が板厚方向に進展しないことを意味するから、アルミニウム製板部材2の板厚の減少を抑制することができる。
【0022】
これに対し、
図3の電流立上時間は、30msec.以上、通電を継続し、その後は通電を遮断している。しかしながら、この通電の間に、アルミニウム製板部材2と鋼板1の当接界面だけでなく、鋼板1の内部温度も昇温してしまい、この熱量の熱伝達及び熱伝導によってアルミニウム製板部材2の内部温度がアルミニウムの融点に達している。これは、アルミニウム板部材2の溶融が板厚方向に進展してしまうことを意味し、したがってアルミニウム製板部材2は板厚が大きく減少してしまう。また、鋼板1の内部温度も融点に達していることから、アルミニウム-鉄合金からなるIMCが生成され、これにより接合強度の低下が想定される。
【0023】
図5は、
図2の抵抗溶接方法によるアルミニウム製板部材2と鋼板1の接合部の断面図である。図の上側がアルミニウム製板部材2、下側が鋼板1である。同図から明らかなように、この抵抗溶接方法では、特にアルミニウム製板部材2の板厚の減少が効果的に抑制されており、また両接合部材とも、母材の変形が抑制されている。
図6は、
図3の抵抗溶接方法によるアルミニウム製板部材2と鋼板1の接合部の断面図である。
図5と同じく、図の上側がアルミニウム製板部材2、下側が鋼板1である。同図から明らかなように、この抵抗溶接方法では、接合部においてアルミニウム製板部材2の板厚が大きく減少している。また、このアルミニウム製板部材2の板厚の減少にも伴って、両接合部材の母材変形が著しい。これは、前述のように、アルミニウム板部材2だけでなく、鋼板1の内部も融点に達していることが起因していると考えられる。
【0024】
図7は、
図2及び
図3の抵抗溶接方法(図では通電制御)によるIMC厚さの説明図、
図8は、IMC厚さと接合強度の相関図である。このIMCは、前述のように、アルミニウム-鉄合金からなる。まず、
図8から明らかなように、IMCの厚さの増大に伴って、アルミニウム製板部材2と鋼板1の接合強度は著しく低下し、やがて漸減して接合できなくなる。このIMCの実際の厚さはミクロンオーダーであり、例えば
図5や
図6の板厚レベルの断面には表れない。
図7に示すように、
図2の抵抗溶接方法では、IMCの厚さが相応に小さく、特に接合部の中心から遠い部分では存在しないか、ほとんど存在していない。このIMCの非存在領域でも、上記溶融アルミニウム凝固層によってアルミニウム製板部材2と鋼板1が溶接されていることを確認している。一方の
図3の抵抗溶接方法では、IMCの厚さが大きく、特に接合部の周縁部で大きくなっていることから、両接合部材の接合強度の低下が推測される。
【0025】
これらのアルミニウム製板部材2と鋼板1の接合部の接合強度測定を行った。試験には、共に板厚が1.2mmのアルミニウム製板部材2と鋼板1を用い、電極3による加圧力を3kN以下に設定し、電流値15~25kA、通電時間100~500msec.にて溶接を行った。その結果、
図2の抵抗溶接方法によるアルミニウム製板部材2と鋼板1の接合部の剪断強度はアルミニウム製板部材同士の抵抗溶接の接合部剪断強度より大きく、更に、
図3の抵抗溶接方法による接合部の剪断強度より大きかった。また、
図2の抵抗溶接方法によるアルミニウム製板部材2と鋼板1の接合部の剥離強度はアルミニウム製板部材同士の抵抗溶接の接合部剥離強度に近づけられたのに対し、
図3の抵抗溶接方法による接合部の剥離強度はアルミニウム製板部材同士の抵抗溶接の接合部剥離強度より相応に小さかった。
【0026】
なお、上記のように、電流立上時間が20msec.以下、好ましくは5~10msec.の短時間で15~25kAの到達電流値に達するための電流増大率は、電極3に印加される電流の周波数を5kHz以上、場合によって10kHz程度まで大きくしなければならない。
図9(a)には、直流に整流された通電交番電流の周波数が5kHzの場合のアルミニウム製板部材表面温度(実線)、アルミニウム製板部材内部温度(一点鎖線)、及び鋼板表面温度(破線)を示す。同様に、
図9(b)には、通電交番電流の周波数が5kHz未満、具体的には3kHzの場合のアルミニウム製板部材表面温度(実線)、アルミニウム製板部材内部温度(一点鎖線)、及び鋼板表面温度(破線)を示す。印加電流の周波数が小さい(3kHz)場合、通電電流値の増大率が制限され、その結果、到達電流値が25kAとなるまでの時間が長い(30msec.程度)。そして、その結果、通電電流値がピークに達しても鋼板表面温度とアルミニウム製板部材表面温度の差が大きくならず、前述のように長い通電時間で鋼板1の内部まで昇温し、その熱量でアルミニウム製板部材2が内部まで昇温して板厚全体に亘って溶融してしまう。これに対し、印加電流の周波数を5kHz以上とすることで、通電開始直後から大きな電流増大率で電流値が立ち上がり、極めて短時間(5msec.以下)で電流値が25kAに到達している。そして、その結果、通電終了後に鋼板表面温度とアルミニウム製板部材表面温度の差が大きくなっていることから、この短時間の通電によって鋼板1の表面、すなわち当接界面が大きく発熱し、その熱量でアルミニウム製板部材2の鋼板1との当接界面及びその近傍領域を溶融し、その溶融材の固化によって両接合部材を溶接することができる。その際、アルミニウム製板部材2の内部は、図に示すように、大きく昇温しておらず、板厚方向への溶融は進展しない。
【0027】
このように、この実施の形態の異材接合方法では、電気抵抗率の大きい鋼板1(板状第1被接合部材)と電気抵抗率の小さいアルミニウム製板部材2(板状第2被接合部材)を接合する場合、鋼板1とアルミニウム製板部材2の当接界面の電気抵抗率は鋼板1の電気抵抗率よりも更に大きいことから、両接合部材を挟む電極3間にごく短時間、大きな電流増大率で印加電流を通電すると両接合部材の当接界面の発熱により、その当接界面及びその近傍領域のみが大きく昇温する。その結果、両接合部材の当接界面及びその近傍領域の昇温によって、融点の低いアルミニウム製板部材2の鋼板1との当接界面近傍領域が溶融し、その溶融材が固化することによって鋼板1とアルミニウム製板部材2が溶接される。このとき、アルミニウム製板部材2は、例えば鋼板1との当接界面近傍領域のみが溶融・固化するため、アルミニウム製板部材2の板厚の減少を抑制することができる。また、融点の高い鋼板1は溶融しないか、又は殆ど溶融しないので、アルミニウム-鉄合金などのIMCは生じないか、又は殆ど生じず、両接合部材の接合強度を確保することができる。
【0028】
また、通電の所定時間を20msec.以下とし、この通電の所定時間で電流値が15~25kAに到達する条件を満たす電流増大率とすることにより、アルミニウム製板部材2の鋼板1との当接界面近傍領域が溶融し、その溶融材が固化することで両接合部材が確実に溶接される。
【0029】
また、電極3への印加電流の周波数を5kHz以上とすることで、通電開始直後から大きな電流増大率で通電電流値を立ち上げることができ、これにより電流立上時間20msec.以下で到達電流値15~25kAを得ることができ、上記被接合部材の昇温挙動を得て両接合部材を良好に溶接することが可能となる。
【0030】
以上、実施の形態に係る異材接合方法について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、電気抵抗率の異なる第1被接合部材及び第2被接合部材に、鋼板1とアルミニウム製板部材2を用いたが、これらの被接合部材は、鋼板1とアルミニウム製板部材2に限定されるものではない。本発明の骨子は、電気抵抗率の小さい第2被接合部材の第1被接合部材との当接界面及びその近傍領域を溶融させ、その溶融材を固化させることで両接合部材を溶接することにある。この技術的特徴に適合する板状被接合部材であれば、どのような被接合部材であっても本発明を適用することが可能である。その一例としては、例えば、含有する炭素量が所定値以上異なる鋼板が挙げられる。
【符号の説明】
【0031】
1 鋼板(第1被接合部材)
2 アルミニウム製板部材(第2被接合部材)
3 電極