(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/536 20060101AFI20241213BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
A61F13/536 100
A61F13/511 100
A61F13/511 300
(21)【出願番号】P 2021027992
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 絵里香
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-041867(JP,A)
【文献】特開2016-079529(JP,A)
【文献】特開2018-083016(JP,A)
【文献】特開2016-002100(JP,A)
【文献】特開2019-154964(JP,A)
【文献】特開2021-013579(JP,A)
【文献】特開2014-226457(JP,A)
【文献】特開2020-000664(JP,A)
【文献】特開2018-166923(JP,A)
【文献】特開2016-150126(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0360195(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収体と、該吸収体の肌対向面側に配された表面シートと、該吸収体の非肌対向面側に配された裏面シートとを備える吸収性物品であって、
前記吸収性物品における肌対向面側に、前記表面シート及び前記吸収体が前記裏面シート側に向かって一体的に凹陥した線状エンボス部を有し、
1又は複数の前記線状エンボス部により、一部に開放部分を有する環状エンボス部が形成されており、
前記環状エンボス部は、前記開放部分を有する略ハート形状であり、該開放部分の少なくとも1つが当該ハート形状の内方に向かって突出する屈曲部分に存在し、該開放部分が、厚み方向の内部に前記吸収体が存在する領域である吸収領域に配されて
おり、
前記環状エンボス部を複数有し、
複数の前記環状エンボス部のうち一の前記環状エンボス部の前記開放部分と、他の前記環状エンボス部の前記開放部分とが向かい合っている、吸収性物品。
【請求項2】
前記環状エンボス部が前記吸収性物品の長手方向の端部領域に配されている、請求項1
に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記吸収性物品を幅方向に2等分する中央線を挟んだ両側それぞれに、前記吸収性物品の長手方向に延びる長手方向エンボス部が形成されており、
前記長手方向エンボス部は、前記環状エンボス部を形成する前記線状エンボス部とは別の前記線状エンボス部により形成されている、請求項1
又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記環状エンボス部が、前記吸収性物品の長手方向において、前記長手方向エンボス部の端部よりも外方に位置している、請求項
3に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記環状エンボス部を形成している前記線状エンボス部は曲線部分を有している、請求項1~
4のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記表面シートは高伸度繊維を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の吸収性物品。
【請求項7】
前記表面シートの構成繊維中の高伸度繊維の割合が50質量%以上100質量%以下である、請求項
6に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装着感を向上させたり、体液の漏れを抑制したりすることを目的として、吸収性物品の肌対向面側に、エンボス部を形成することが行われている。例えば特許文献1及び2には、表面シート及び吸収体が裏面シート側に向かって一体的に凹陥したエンボス部を有する吸収性物品が記載されている。特許文献1において、エンボス部は、環状に構成された無端状の溝からなる第1環状溝を有する。第1環状溝は、内側に凸となった屈曲点及び外側に凸となった屈曲点の2つの屈曲点を有するハート形状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-50699号公報
【文献】特開2016-214405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吸収性物品に形成されたエンボス部が、その効果を発揮するとともに、液漏れに対する安心感を得られるようにするには、エンボス部の明瞭性を向上させる必要がある。エンボス部の明瞭性を向上させるには、吸収性物品を肌対向面側から強く押してエンボス部を形成する必要がある。しかしながら吸収性物品を肌対向面側から強く押すと、表面シートが破れ、該表面シートに穴が開いてしまい、装着感や漏れ防止性能が損なわれてしまうという不都合が生じる場合がある。この不都合は、特許文献1及び2に記載の吸収性物品においても同様に生じ得る。特に特許文献1に記載の吸収性物品が有する屈曲点は、外側又は内側に凸となっているので、該屈曲点には、エンボス部を形成するための応力が集中しやすく、このことに起因して、特許文献1に記載の吸収性物品は、表面シートが一層破れやすくなっている。
【0005】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、吸収体と、該吸収体の肌対向面側に配された表面シートと、該吸収体の非肌対向面側に配された裏面シートとを備える吸収性物品を提供するものである。
前記吸収性物品における肌対向面側に、前記表面シート及び前記吸収体が前記裏面シート側に向かって一体的に凹陥した線状エンボス部を有している。
1又は複数の前記線状エンボス部により、一部に開放部分を有する環状エンボス部が形成されている。
前記環状エンボス部は、前記開放部分の両側に位置する端部からの延長線どうしが、厚み方向の内部に前記吸収体が存在する領域である吸収領域において交差している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、明瞭性に優れた環状エンボス部を有するとともに、体液の漏れ抑制性能及び装着感に優れる吸収性物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の吸収性物品の一実施形態の肌対向面側を示す平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の吸収性物品に係る環状エンボス部の変形例を模式的に示す平面図である。
【
図6】
図6(a)~(d)は、本発明の吸収性物品に係る環状エンボス部の別の変形例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の吸収性物品の一実施形態が示されている。
図1に示す吸収性物品1は、失禁パッドである。吸収性物品は、主として尿、経血等の身体から排泄される体液を吸収保持するために用いられるものである。吸収性物品としては、失禁パッド以外に、例えば生理用ナプキン、おりものシートなどが挙げられる。
【0010】
図1に示す吸収性物品1は、長手方向X、及び該長手方向Xに直交する幅方向Yを有する。長手方向Xは、着用時における着用者の前後方向に対応する方向である。
吸収性物品1は、長手方向Xの一端側及び他端側それぞれに、端部領域を有する。より具体的には、吸収性物品1は、その長手方向Xにおいて、着用者の腹側(前側)に配される前側領域Aと、着用者の背側(後側)に配される後側領域Bと、前側領域Aと後側領域Bとの間に連続して配される中央領域Cとの3つに区分され、前側領域Aが、長手方向Xの一端側の端部領域であり、後側領域Bが長手方向Xの他端側の端部領域である。
前側領域A、中央領域C及び後側領域Bは、吸収性物品1を長手方向Xに三等分した各領域である。少なくとも中央領域Cは、着用者の尿道口などの液排泄部に対向する排泄部対向部(図示せず)を含んで構成される。
【0011】
吸収性物品1は、
図1ないし
図3に示すように、吸収体5と、該吸収体5の肌対向面側に配された表面シート2と、該吸収体5の非肌対向面側に配された裏面シート3とを有する。吸収性物品1は、厚み方向の内部に吸収体5が存在する領域である吸収領域Rを有している。吸収領域Rは、吸収性物品の平面視において、吸収体5の外周縁よりも内側に位置する領域である。
「肌対向面」は、吸収性物品又はその構成部材(例えば吸収体)に着目したときに、吸収性物品の着用時に着用者の肌に向けられる面であり、「非肌対向面」は、吸収性物品の着用時に着用者の肌とは反対側に向けられる面である。また「着用時」及び「着用状態」は、吸収性物品の適正な着用位置が維持されて着用された状態を指す。
【0012】
図1に示す実施形態においては、表面シート2と吸収体5との間に中間シート4が配されている。中間シート4は、セカンドシート、サブレイヤーシートなどとも呼ばれるものである。中間シート4としては、紙や各種不織布からなる液透過性シートを用いることができる。吸収体5は、吸収性コアを備えている。
【0013】
吸収性物品1は、
図1に示すように、肌対向面側における側部域に、長手方向Xに沿って延びる一対の防漏カフ7,7が設けられている。防漏カフ7は、幅方向Yの一端側が他の構成部材、例えば表面シート2に固定されて固定端部7bとなっており、幅方向Yの他端側が他の構成部材に非固定の自由端部7aとなっている。防漏カフ7は、設けなくてもよい。
【0014】
吸収性物品1は、その肌対向面側に、表面シート2及び吸収体5が裏面シート3側に向けて一体的に凹陥した線状エンボス部6を有する。線状エンボス部6は、吸収体5を厚み方向に貫通しておらず、表面シート2の肌対向面に開口を有するとともに、吸収体5の内部における該開口とは反対側に底部を有する。
図1に示す実施形態に係る線状エンボス部6においては、
図2及び
図3に示すように、表面シート2及び吸収体5とともに、中間シート4も裏面シート3側に向けて一体的に凹陥している。
【0015】
線状エンボス部6は、吸収性物品1に対しその肌対向面即ち表面シート2側から圧搾加工を施すことによって形成されている。このような形成方法から、線状エンボス部6は吸収体5の厚みが他の部分に比して薄くなっている。線状エンボス部6は、該線状エンボス部と交差する方向の液の流れを抑制する機能を有する。
【0016】
吸収性物品1においては、
図1に示すように、複数の線状エンボス部6により環状エンボス部61が形成されている。環状エンボス部61は、一部に開放部分61aを有する。吸収性物品1においては、2つの線状エンボス部6により1つの環状エンボス部61が形成されている。吸収性物品1は、4つの環状エンボス部61を有している。各環状エンボス部61は、開放部分61aを2箇所に有している。各環状エンボス部61は、略ハート形状を有している。4つの環状エンボス部61は、全体として、4枚の花びらを有する花模様形状となっている。各環状エンボス部61は、いずれも、前側領域Aに位置している。
環状エンボス部61は、排泄された液を該環状エンボス部61を構成する線状エンボス部6で囲まれた領域内に留めることができる。吸収性物品1は、環状エンボス部61を有することによって、体液の漏れ抑制性能に優れる。
【0017】
図1に示す実施形態においては、環状エンボス部61の開放部分61aの両側に位置する端部からの延長線Lどうしが、吸収体5を内部に有する吸収領域R内において交差している。以下、この点について、
図4(a)を参照しながら詳述する。環状エンボス部61の開放部分61aの両側に位置する端部のうち一方を端部61bとし、他方を端部61cとする。そして、一方の端部61bからの延長線L1と、他方の端部61cから延長線L2との交点を交点Pとすると、該交点Pが吸収領域R上に位置している。
図1に示す実施形態においては、環状エンボス部61が有する全ての開放部分61aがこのような構成を有している。
【0018】
環状エンボス部61がこのような構成を有していることにより、吸収性物品1は、体液の漏れ抑制性能及び装着感に優れるとともに、環状エンボス部61が明瞭性に優れる。
以下、この点について詳述する。仮に、環状エンボス部61が開放部分61aを有しておらず、環状エンボス部61の一方の端部61bと他方の端部61cとが前記交点Pを通るように連続している場合、該交点Pは、環状エンボス部61を構成する線状エンボス部6が屈曲した屈曲部となる。線状エンボス部6の屈曲部には、該線状エンボス部6を形成するときに吸収性物品1の肌対向面側から加えられる応力が集中しやすいので、該屈曲部は表面シート2が破れやすくなってしまう。また吸収性物品1を着用した着用者が激しく動いたとき等にも、線状エンボス部6の屈曲部は破れやすい。
これに対し、本実施形態の吸収性物品1においては、環状エンボス部61が上述のような構成を有していることにより、前記交点Pにおいて線状エンボス部6が存在していない。したがって、本実施形態に係る環状エンボス部61は、前記応力が集中しやすい前記屈曲部を有していないので、本実施形態の吸収性物品1は、環状エンボス部61を形成するときに表面シート2が破れにくい。そのため、本実施形態の吸収性物品1は、環状エンボス部61を形成するときの前記応力を、従来の吸収性物品に比して大きくした場合であっても、表面シート2を破ることなく、明瞭性に優れた環状エンボス部61を形成することができる。したがって、本実施形態の吸収性物品1は、体液の漏れ抑制性能及び装着感に優れるとともに、環状エンボス部61が明瞭性に優れる。
【0019】
吸収性物品1は環状エンボス部61を複数有していることが好ましい。これにより、排泄された液が表面シート2を伝って流れることを阻害する機能という環状エンボス部61の機能を向上させることができるので、体液の漏れ抑制性能を一層向上させることができる。この効果を一層顕著にする観点から、吸収性物品1が有する環状エンボス部61は、好ましくは2個以上、より好ましくは4個以上であり、また好ましくは8個以下、より好ましくは6個以下であり、また好ましくは2個以上8個以下、より好ましくは4個以上6個以下である。なお、吸収性物品1は、環状エンボス部61を1つのみ有していてもよい。
【0020】
吸収性物品1が複数の環状エンボス部61を有する場合、該複数の環状エンボス部61のうち一の環状エンボス部61の開放部分61aと、他の環状エンボス部61の開放部分61aとが向かい合っていることが好ましい。一の環状エンボス部61の開放部分61aと、他の環状エンボス部61の開放部分61aとが向かい合っていることについて、
図4(b)を参照しながら詳述する。
図4(b)においては、一の環状エンボス部61を符号61Aで示し、他の環状エンボス部61を符号61Bで示している。一の環状エンボス部61Aが有する開放部分61aにおける前記交点PをPAとし、他の環状エンボス部61Aが有する開放部分61aにおける前記交点PをPBとする。そして、一の環状エンボス部61Aと他の環状エンボス部61Bとを全体として一つの図形とみなしたときに、該図形の図心をMとする。交点PA及び図心Mを通る直線S1と、交点PB及び図心Mを通る直線S2とのなす角αが、120°以上180°以下のときに、一の環状エンボス部61Aの開放部分61aと、他の環状エンボス部61Bの開放部分61aとが向かい合っていると判断する。前記直線S1と前記直線S2とのなす角αは、前記直線S1と前記直線S2とのなす角のうち角度が大きい角を意味する。なす角αは、150°以上180°以下であることがより好ましく、より好ましくは170°以上180°である。
【0021】
一の環状エンボス部61Aの開放部分61aと、他の環状エンボス部61Bの開放部分61aとが向かい合っていることにより、排泄された液を、向かい合っている開放部分61a,61aそれぞれから、各環状エンボス部61A,61Bを構成する線状エンボス部6で囲まれた領域内に移行させることができるので、体液の漏れ抑制性能を一層向上させることができる。
【0022】
吸収性物品1においては、環状エンボス部61は、該吸収性物品1の長手方向Xの端部領域に配されていることが好ましい。これにより、吸収性物品1の長手方向Xの端部からの体液の漏れを抑制することができる。環状エンボス部61は、長手方向Xの一方側の端部領域A及び該長手方向Xの他端側の端部領域Bのいずれか一方又は両方に配されていてもよい。
【0023】
図1に示す実施形態においては、吸収性物品1を幅方向Yに2等分する中央線Cyを挟んだ両側それぞれに、長手方向Xに延びる長手方向エンボス部62が形成されている。一対の長手方向エンボス部62,62は、前側領域A側の端部どうしが離間しており、後側領域B側の端部どうしが連続している。即ち、一対の長手方向エンボス部62,62は、全体として、前側領域A側が開いた形状を有し、後側領域B側が閉じた形状を有している。
【0024】
吸収性物品1が長手方向エンボス部62を有することにより、排泄された体液を長手方向Xに拡散させることができるので、該吸収性物品1の吸液性能を向上させることができる。
また、環状エンボス部61が、長手方向エンボス部62よりも長手方向X外方に位置していることが好ましい。これにより、排泄された体液のうち、長手方向Xに拡散されて環状エンボス部61まで達した体液が該環状エンボス部61内の領域に移行する。つまり、より少量の体液が環状エンボス部61内の領域に移行することになる。したがって、環状エンボス部61の領域に体液を一層確実に留めることができるようになるので、体液の漏れ抑制性能を一層向上させることができる。
【0025】
図1に示す実施形態においては、長手方向エンボス部62は、環状エンボス部61を形成する線状エンボス部6とは別の線状エンボス部6により形成されている。具体的には、長手方向エンボス部62は、線状エンボス部6と非エンボス部8とが交互に配置されて形成されている。こうすることにより、長手方向エンボス部62を形成するときに、吸収性物品1の肌対向面側から加えられる応力を分散させることができるので、表面シート2を一層やぶれにくくすることができる。
【0026】
また吸収性物品1は、幅方向Yに延びる幅方向エンボス部63を2つ有する。2つの幅方向エンボス部63,63はいずれも、吸収性物品1の幅方向Yの中央域に形成されている。2つの幅方向エンボス部63のうち一方の幅方向エンボス部63aは、前側領域A及び中央領域Cの境界付近に位置しており、吸収性物品1の前側領域Aの端部側に向かって凸に湾曲している。他方の幅方向エンボス部63bは、後側領域Bに位置しており、吸収性物品1の後側領域Bの端部側に向かって凸に湾曲している。
【0027】
吸収性物品1において、環状エンボス部61を形成している線状エンボス部6は曲線部分を有していることが好ましい。線状エンボス部6が曲線部分を有している態様としては、線状エンボス部6が曲線部分のみからなる場合のみならず、線状エンボス部6が曲線部分及び直線部分からなる場合も含まれる。仮に、線状エンボス部6が曲線部分を有さず、直線部分のみからなる場合、該線状エンボス部6の該直線部分に沿って表面シート2が破れてしまう恐れがある。環状エンボス部61を形成している線状エンボス部6が曲線部分を有することにより、該環状エンボス部61を形成するときに、表面シート2を一層破れにくくすることができる。
【0028】
吸収性物品1において、環状エンボス部61は、
図5に示すように、開放部分61a以外の部分に非エンボス部8を有していてもよい。この場合、開放部分61aの長さD1は、非エンボス部8の長さD2よりも長いことが好ましい。開放部分61aの長さD1とは、の開放部分61aの両側に位置する線状エンボス部6の端部どうしの最大距離を意味する。非エンボス部8の長さD2とは、非エンボス部8の両側にする線状エンボス部6の端部どうしの最大距離を意味する。前記長さD2に対する前記長さD1の比D1/D2は、排泄された液を環状エンボス部61内に一層留めやすくする観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また好ましくは8以下、より好ましくは6以下であり、また好ましくは2以上8以下、より好ましくは3以上6以下である。
【0029】
次に、吸収性物品1の構成材料について説明する。
表面シート2としては、液透過性を有するシート、例えば不織布や穿孔フィルムなどを用いることができる。表面シート2は、その肌対向面側が凹凸形状になっていてもよい。例えば表面シート2の肌対向面側に、散点状に複数の凸部を形成することができる。あるいは、表面シート2の肌対向面側に、一方向に延びる畝部と溝部とを交互に形成することができる。そのような目的のために、2枚以上の不織布を用いて表面シート2を形成することもできる。
【0030】
表面シート2は、高伸度繊維を含むことが好ましい。ここで、高伸度繊維とは、原料の繊維の段階で高伸度である繊維のみならず、製造された表面シート2の段階でも高伸度である繊維を意味する。表面シート2が高伸度繊維を含むことにより、圧搾により線状エンボス部6を形成するときに、表面シート2を一層やぶれにくくすることができる。「高伸度繊維」としては、弾性(エラストマー)を有して伸縮する伸縮性繊維を除き、例えば特開2010-168715号公報の段落[0033]に記載のように低速で溶融紡糸して複合繊維を得た後に、延伸処理を行わずに加熱処理及び/又は捲縮処理を行うことにより得られる、加熱によって樹脂の結晶状態が変化して長さの延びる熱伸長性繊維、あるいは、ポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂を用いて比較的紡糸速度を低い条件にして製造した繊維、又は、結晶化度の低い、ポリエチレン-ポリプロピレン共重合体、若しくはポリプロピレンに、ポリエチレンをドライブレンドし紡糸して製造した繊維等が挙げられる。それらの繊維のうちでも、高伸度繊維は、熱融着性のある芯鞘型複合繊維であることが好ましい。芯鞘型複合繊維は、同心の芯鞘型でも、偏心の芯鞘型でも、サイド・バイ・サイド型でも、異形型でもよいが、特に同心の芯鞘型であることが好ましい。繊維がどのような形態をとる場合であっても、柔軟で肌触り等のよい表面シート2を製造する観点からは、高伸度繊維の繊度は、原料の段階で、1.0dtex以上10.0dtex以下が好ましく、2.0dtex以上8.0dtex以下であることがより好ましい。
【0031】
表面シート2は、高伸度繊維に加えて、他の繊維を含んで構成されていてもよいが、高伸度繊維のみから構成されていることが好ましい。他の繊維としては、例えば融点の異なる2成分を含みかつ延伸処理されてなる非熱伸長性の芯鞘型熱融着性複合繊維、あるいは、本来的に熱融着性を有さない繊維(例えばコットンやパルプ等の天然繊維、レーヨンやアセテート繊維など)等が挙げられる。
表面シート2の構成繊維中の高伸度繊維の割合は好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下である。表面シート2の構成繊維中の高伸度繊維の割合を上述の範囲とすることにより、該表面シート2を一層やぶれにくくするという効果が一層確実に奏される。
【0032】
高伸度繊維としては、熱伸長性繊維を用いることも好ましい。熱伸長性繊維は、原料の段階で、未延伸処理又は弱延伸処理の施された複合繊維であり、例えば、芯部を構成する第1樹脂成分と、鞘部を構成する、ポリエチレン樹脂を含む第2樹脂成分とを有しており、第1樹脂成分は、第2樹脂成分より高い融点を有している。第1樹脂成分は該繊維の熱伸長性を発現する成分であり、第2樹脂成分は熱融着性を発現する成分である。第1樹脂成分及び第2樹脂成分の融点は、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用い、細かく裁断した繊維試料(サンプル重量2mg)の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、各樹脂の融解ピーク温度を測定し、その融解ピーク温度で定義される。第2樹脂成分の融点がこの方法で明確に測定できない場合、その樹脂を「融点を持たない樹脂」と定義する。この場合、第2樹脂成分の分子の流動が始まる温度として、繊維の融着点強度が計測できる程度に第2樹脂成分が融着する温度を軟化点とし、これを融点の代わりに用いる。
【0033】
鞘部を構成する第2樹脂成分は、上述のとおりポリエチレン樹脂を含んでいる。該ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が挙げられる。特に、密度が0.935g/cm3以上0.965g/cm3以下である高密度ポリエチレンであることが好ましい。鞘部を構成する第2樹脂成分は、ポリエチレン樹脂単独であることが好ましいが、他の樹脂をブレンドすることもできる。ブレンドする他の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が挙げられる。ただし、鞘部を構成する第2樹脂成分は、鞘部の樹脂成分中の50質量%以上が、特に70質量%以上100質量%以下が、ポリエチレン樹脂であることが好ましい。また、該ポリエチレン樹脂は、結晶子サイズが10nm以上20nm以下であることが好ましく、11.5nm以上18nm以下であることがより好ましい。
【0034】
芯部を構成する第1樹脂成分としては、鞘部の構成樹脂であるポリエチレン樹脂より融点が高い樹脂成分を特に制限なく用いることができる。芯部を構成する樹脂成分としては、例えば、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂を除く)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂等が挙げられる。更に、ポリアミド系重合体や樹脂成分が2種以上の共重合体等も使用することができる。複数種類の樹脂をブレンドして使用することもでき、その場合、芯部の融点は、融点が最も高い樹脂の融点とする。不織布の製造が容易となることから、芯部を構成する第1樹脂成分の融点と、鞘部を構成する第2樹脂成分の融点との差(前者-後者)が、20℃以上であることが好ましく、また150℃以下であることが好ましい。
【0035】
高伸度繊維である熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分の好ましい配向指数は、用いる樹脂により自ずと異なるが、例えば第1樹脂成分がポリプロピレン樹脂の場合は、配向指数が60%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは25%以下である。第1樹脂成分がポリエステルの場合は、配向指数が25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。一方、第2樹脂成分は、その配向指数が5%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは30%以上である。配向指数は、繊維を構成する樹脂の高分子鎖の配向の程度の指標となるものである。そして、第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数がそれぞれ前記の値であることによって、熱伸長性複合繊維は、加熱によって伸長するようになる。
【0036】
第1樹脂成分及び第2樹脂成分の配向指数は、特開2010-168715号公報の段落〔0027〕~〔0029〕に記載の方法によって求められる。また、熱伸長性複合繊維における各樹脂成分が前記のような配向指数を達成する方法は、特開2010-168715号公報の段落〔0033〕~〔0036〕に記載されている。
【0037】
高伸度繊維の伸度は、原料の段階で、100%以上、特に200%以上、とりわけ250%以上であることが好ましい。また高伸度繊維の伸度は、原料の段階で、800%以下、特に500%以下、とりわけ400%以下であることが好ましい。具体的には、高伸度繊維の伸度は、原料の段階で、100%以上800%以下であることが好ましく、より好ましくは200%以上500%以下、更に好ましくは250%以上400%以下である。この範囲の伸度を有する高伸度繊維を用いることで、該高伸度繊維を含む表面シート2が伸びやすくなるので、圧搾により吸収領域Rに線状エンボス部6を形成するときに、表面シート2が一層やぶれにくくなる。
原料の段階とは、表面シート2を形成する前の繊維の状態をいう。
【0038】
高伸度繊維の伸度はJISL-1015に準拠し、測定環境温湿度20±2℃、65±2%RH、引張試験機のつかみ間隔20mm、引張速度20mm/minの条件での測定を基準とする。なお、既に製造された表面シート2から繊維を採取して伸度を測定するときを始めとして、つかみ間隔を20mmにできない場合、つまり測定する繊維の長さが20mmに満たない場合には、つかみ間隔を10mm又は5mmに設定して測定する。
【0039】
高伸度繊維である熱伸長性複合繊維における第1樹脂成分と第2樹脂成分との比率(質量比、前者:後者)は、原料の段階で、10:90~90:10、特に20:80~80:20、とりわけ50:50~70:30であることが好ましい。熱伸長性複合繊維の繊維長は、表面シート2の製造方法に応じて適切な長さのものが用いられる。不織布を例えばカード法で製造する場合には、繊維長を30~70mm程度とすることが好ましい。
【0040】
高伸度繊維である熱伸長性複合繊維の繊維径は、10μm以上35μm以下、特に15μm以上30μm以下のものを用いることが好ましい。前記の繊維径は、次の方法で測定される。
【0041】
〔繊維の繊維径の測定〕
繊維の繊維径として、繊維の直径(μm)を、マイクロスコープVH‐8000(キーエンス社製)を用いて、繊維の断面を200倍~800倍に拡大観察して測定する。繊維の断面は、フェザー剃刀(品番FAS‐10、フェザー安全剃刀(株)製)を用い、繊維を切断して得る。抽出した繊維1本について円形に近似したときの繊維径を5箇所測定し、それぞれ測定した値5点の平均値を繊維の直径とする。
【0042】
原料の段階で、高伸度繊維である熱伸長性複合繊維としては、上述の熱伸長性複合繊維の他に、特許第4131852号公報、特開2005-350836号公報、特開2007-303035号公報、特開2007-204899号公報、特開2007-204901号公報及び特開2007-204902号公報等に記載の繊維を用いることもできる。
【0043】
裏面シート3としては、例えば液難透過性のフィルムやスパンボンド・メルトブローン・スパンボンド積層不織布などを用いることができる。液難透過性のフィルムに、複数の微細孔を設け、該フィルムに水蒸気透過性を付与してもよい。吸収性物品の肌触り等を一層良好にする目的で、裏面シート3の外面に不織布等の風合いの良好なシートを積層してもよい。
【0044】
吸収体5が有する吸収性コアは例えばパルプを初めとするセルロース等の親水性繊維の積繊体、該親水性繊維と吸収性ポリマーとの混合積繊体、吸収性ポリマーの堆積体などから構成される。吸収性コアは、少なくともその肌対向面が液透過性のコアラップシートで覆われていてもよく、肌対向面及び非肌対向面を含む表面の全域がコアラップシートで覆われていてもよい。コアラップシートとしては、例えば親水性繊維からなる薄葉紙や、液透過性を有する不織布などを用いることができる。吸収体5は、吸収性コアのみからなるものであってもよい。
【0045】
吸収性コアは、シート状の吸収体である吸収性シートを主体とするものであってもよい。吸収性シートは、典型的には、木材パルプ等の繊維材料を主体とする繊維シートと、該繊維シートの内部又は表面に固定された吸収性ポリマー等の吸水性材料とを含んで構成されている。吸収性シートは、相対向する2枚のシート間に吸収性ポリマーの粒子が介在配置された構成を有するものであり得る。
【0046】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明の範囲は前記実施形態に制限されない。
例えば、環状エンボス部61は1つの線状エンボス部6により形成されていてもよい。また吸収性物品1が有する環状エンボス部61の数は特に限定されるものではなく、1つであってもよいし、複数であってもよい。また環状エンボス部61が有する開放部分61aの数は特に限定されるものではなく、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0047】
また、上述した実施形態において、環状エンボス部61は略ハート形状を有していたが、環状エンボス部61の形状はこれに限られず、例えば、矩形形状(
図6(a)参照)、星形形状(
図6(b)参照)、馬蹄形状(
図6(c)参照)、クローバー形状(
図6(d)参照)等であってもよい。
【0048】
また、防漏カフ7の自由端部7aは、伸縮性を有していてもよい。例えば、防漏カフ7の自由端部7aに、糸状又は帯状の弾性部材が長手方向Xに伸長状態で配置されていてもよい。防漏カフ7は、伸長状態で配された弾性部材が吸収性物品1の着用時に収縮することによって少なくとも中央領域Cで起立し、それによって尿等の排泄物の幅方向Yの外方への流出が阻止される。
また防漏カフ7の自由端部7aは伸縮性を有していなくてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 吸収性物品
2 表面シート
3 裏面シート
4 中間シート
5 吸収体
6 線状エンボス部
61 環状エンボス部
61a 開放部分
62 長手方向エンボス部
63 幅方向エンボス部
7 防漏カフ
A 前側領域
B 後側領域
C 中央領域
L 開放部分の端部からの延長線
R 吸収領域
X 長手方向
Y 幅方向