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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】高圧タンク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20241213BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20241213BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20241213BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20241213BHJP
   H01M 8/04 20160101ALN20241213BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20241213BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
B29C70/16
B29C70/32
H01M8/04 N
B29K105:08
B29L22:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021045739
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144646
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】辰島 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】西埀水 裕基
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-168111(JP,A)
【文献】特開2014-080999(JP,A)
【文献】特開2020-070907(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0285227(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F16J 12/00
B29C 70/16
B29C 70/32
H01M 8/04
B29K 105/08
B29L 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のライナと、
前記ライナの外面に繊維が複数回巻回されることで形成された複数の繊維層からなる補強層と、
前記ライナの軸方向の端部に固定され、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔が形成された口金と、
を備える高圧タンクであって、
前記口金は、前記軸方向から見て前記ライナの前記端部に重なるフランジ部と、前記フランジ部から前記ライナの軸方向外側に突出する筒部とを有し、
前記フランジ部は、前記ライナと前記補強層との間に配置され、
前記繊維の巻き始めである始端は、前記軸方向から見て前記ライナの前記端部及び前記フランジ部に重ねて配置されている、高圧タンク。
【請求項2】
請求項1記載の高圧タンクにおいて、
前記複数の繊維層の最内層は、低ヘリカル層である、高圧タンク。
【請求項3】
樹脂製のライナの軸方向の端部に、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔が形成された口金が固定されたアセンブリを提供するアセンブリ提供工程と、
前記アセンブリの前記ライナの外面に繊維を複数回巻回することで複数の繊維層からなる補強層を形成する補強層形成工程と、
を有する高圧タンクの製造方法において、
前記口金は、前記軸方向から見て前記ライナの前記端部に重なるフランジ部と、前記フランジ部から前記ライナの軸方向外側に突出する筒部とを有し、
前記フランジ部は、前記ライナと前記補強層との間に配置され、
前記補強層形成工程では、前記繊維の巻き始めである始端を、前記軸方向から見て前記ライナの前記端部及び前記フランジ部に重ねて配置する、高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
樹脂製のライナの軸方向の端部に、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔が形成された口金が固定されたアセンブリを提供するアセンブリ提供工程と、
前記アセンブリの前記ライナの外面に繊維を複数回巻回することで複数の繊維層からなる補強層を形成する補強層形成工程と、
を有する高圧タンクの製造方法において、
前記口金は、前記ライナに重なるフランジ部と、前記フランジ部から前記ライナの軸方向外側に突出する筒部とを有し、
前記補強層形成工程では、前記繊維の巻き始めである始端を、前記フランジ部に重ねて配置し、
前記補強層形成工程は、
前記繊維を前記筒部に巻き付ける工程と、
前記繊維のうち前記筒部に巻き付けられた第1部分から前記フランジ部の表面を横切る第2部分の上に、前記繊維の他の部分である第3部分を重ねることで、前記繊維の第2部分を前記口金に対して固定する工程と、
前記第1部分と前記第2部分との間の位置で前記繊維を切断して、前記第1部分を前記口金から取り外す工程と、を有する、高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
樹脂製のライナの軸方向の端部に、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔が形成された口金が固定されたアセンブリを提供するアセンブリ提供工程と、
前記アセンブリの前記ライナの外面に繊維を複数回巻回することで複数の繊維層からなる補強層を形成する補強層形成工程と、
を有する高圧タンクの製造方法において、
前記口金は、前記ライナに重なるフランジ部と、前記フランジ部から前記ライナの軸方向外側に突出する筒部とを有し、
前記補強層形成工程では、前記繊維の巻き始めである始端を、前記フランジ部に重ねて配置し、
前記補強層形成工程は、
前記フランジ部の上に、前記繊維をリング状に配置する工程と、
リング状に配置された前記繊維の重なる部分同士を接着する工程と、を有する高圧タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライナの外面を覆う補強層を備えた高圧タンク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タンクは、気体や液体等の流体を収容する容器として広汎に用いられている。例えば、燃料電池車両には、燃料電池システムに供給するための水素ガスを収容するものとして搭載される。
【0003】
この種の高圧タンクとして、流体を中空内部に収容する樹脂製のライナと、該ライナを補強するべくその外面を覆う繊維強化樹脂からなる補強層とを備えるものが知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。補強層は、一般的に、フィラメントワインディングと呼ばれる製法によって形成される。フィラメントワインディングでは、樹脂を含浸した強化繊維(FRP)をライナの外壁に複数回巻回した後、加熱によって樹脂を硬化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-249147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、フィラメントワインディングにおいて、ライナに対して繊維を巻き始める際の繊維端(始端)によってライナとの間に段差が生じる。当該段差の上に重なる繊維(補強層の最内層の繊維)には、段差に起因するせん断力が作用し、最内層の繊維にクラックが発生する。高圧タンクの内圧によって、繊維のクラックに樹脂製のライナが押し込まれると、押し込まれた箇所でライナが破損する。このため高圧タンクの耐久性が低下する可能性がある。
【0006】
上記に鑑み本発明は、繊維のクラックに起因するライナの破損を防止することで長寿命化を図ることができる高圧タンク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、樹脂製のライナと、前記ライナの外面に繊維が複数回巻回されることで形成された複数の繊維層からなる補強層と、前記ライナの軸方向の端部に固定され、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔が形成された口金と、を備える高圧タンクであって、前記繊維の巻き始めである始端は、前記口金に重ねて配置されている、高圧タンクである。
【0008】
本発明の第2の態様は、樹脂製のライナの軸方向の端部に、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔が形成された口金が固定されたアセンブリを提供するアセンブリ提供工程と、前記アセンブリの前記ライナの外面に繊維を複数回巻回することで複数の繊維層からなる補強層を形成する補強層形成工程と、を有する高圧タンクの製造方法において、前記補強層形成工程では、前記繊維の巻き始めである始端を、前記口金に重ねて配置する、高圧タンクの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、補強層を構成する繊維の巻き始めである始端が口金に重ねて配置されているため、始端による段差で補強層の最内層にクラック(破損)が発生した場合でもライナが破損することがない。従って、繊維のクラックに起因するライナの破損を防止することで長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクの軸方向に沿った断面図である。
図2図1に示した高圧タンクのライナ及び補強層の拡大断面図である。
図3】ヘリカル巻きを説明する斜視図である。
図4】繊維の始端(巻き始めの端部)の位置を説明する要部断面図である。
図5】高圧タンクの製造方法のフローチャートである。
図6図6Aは、口金に繊維を固定する方法の一態様を説明する図であり、図6Bは、口金に繊維を固定する方法の他の態様を説明する図である。
図7】高圧タンクの第1変形例を示す要部断面図である。
図8】高圧タンクの第2変形例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す本実施形態に係る高圧タンク10は、例えば、燃料電池車両に搭載される燃料タンク(水素タンク)である。高圧タンク10が燃料電池車両に搭載される場合、高圧タンク10には水素ガスが高圧で充填される。水素ガスは、燃料電池車両に搭載された燃料電池(あるいは燃料電池スタック)のアノードに供給される。
【0012】
高圧タンク10は、燃料電池車両以外に適用されるタンクであってもよい。高圧タンク10は、水素ガス以外の燃料ガスを貯留するための燃料ガスタンク、あるいはそのガスを燃料ガスタンクに充填する設備に使用するガスタンク、あるいはそのガスを輸送するために使用するガスタンクであってもよい。高圧タンク10は、圧縮天然ガス、液化石油ガスを貯留するためのタンクであってもよい。
【0013】
高圧タンク10は、内部に流体の貯留室13(充填室)が形成されたライナ12と、該ライナ12を覆う補強層14と、ライナ12の両端部に固定された口金16a、16bとを備える。
【0014】
ライナ12は、例えば、水素バリア性を示す高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂からなる。この場合、HDPE樹脂が安価で且つ加工が容易であるので、ライナ12を低コストで且つ容易に作製することができるという利点がある。また、HDPE樹脂が強度及び剛性に優れるため、高圧タンク10のライナ12に好適である。
【0015】
ライナ12は、略円筒形状をなす中空の胴部18と、該胴部18の両端に設けられて徐々に収斂する収斂部としての第1ドーム部20a及び第2ドーム部20bとを有する。本実施形態では、胴部18の内径及び外径は略一定である。なお、胴部18の内径及び外径は、第1ドーム部20a、第2ドーム部20bに向かうに従ってテーパ状に縮径又は拡径させるようにしてもよい。第1ドーム部20a及び第2ドーム部20bは、ライナ12の軸方向の両端部を構成する。
【0016】
第1ドーム部20a、第2ドーム部20bのそれぞれの内周部にはライナ12の軸方向内側に向かって凹む環状凹部22が設けられている。環状凹部22の中央部に、ライナ12の軸方向外側に突出した筒状凸部24が設けられている。筒状凸部24の外周部には、雄ねじ26が設けられている。筒状凸部24の雄ねじ26に、口金16a、16bの内周部に設けられた雌ねじ28が螺合することにより、口金16a、16bがライナ12に固定されている。
【0017】
口金16a、16bは、ライナ12に対して流体を給排するための給排孔17が形成された筒状部材であり、例えば、金属からなる。一方の口金16aと他方の口金16bとは、互いに同様に構成されているため、以下では代表的に一方の口金16aの構成について説明する。なお、他方の口金16bは設けられなくてもよい。
【0018】
口金16aの内周部には雌ねじ28が設けられている。筒状凸部24の雄ねじ26に、口金16aの雌ねじ28が螺合することにより、口金16aがライナ12に固定されている。口金16aは、ライナ12と補強層14との間に介在する円環状のフランジ部30と、該フランジ部30に一体的に連なり且つ該フランジ部30に比して小径な円筒状の筒部32とを有する。
【0019】
フランジ部30は、ライナ12の環状凹部22に配置されている。フランジ部30の裏面30b(貯留室13側の面)は、ライナ12(詳細には、環状凹部22)に当接する。フランジ部30の表面30a(貯留室13と反対側の面)は、補強層14に当接する。筒部32は、フランジ部30からライナ12の軸方向外側に突出する。筒部32の先端は、補強層14から露呈する。
【0020】
口金16aには、アノードに水素ガスを供給するための、又は、水素補給源から水素ガスを補給するための配管(図示せず)が接続される。
【0021】
補強層14は、強化繊維に樹脂基材が含浸された繊維強化樹脂(FRP)から形成される。すなわち、補強層14は、樹脂を含浸した含浸繊維36(フィラメント。以下、単に「繊維36」という)がフィラメントワインディングによって複数回巻回された後、例えば、加熱によって樹脂が硬化することで形成された積層体である。FRPの例としては、CFRP、GFRP等が挙げられる。
【0022】
補強層14は、図2に示すように、繊維36の巻き始めを含む内周側の内側積層部40と、繊維36の巻き終わりを含む外周側の外側積層部44と、内側積層部40と外側積層部44の間に介在する中間積層部42とを有する。なお、図2中の一点鎖線は、第1ドーム部20aと胴部18との境界を示す。
【0023】
内側積層部40は、繊維36が低ヘリカル巻きされることで形成された低ヘリカル層46が複数積層されてなる積層体である。従って、高圧タンク10において、複数の繊維層からなる補強層14の最内層は、低ヘリカル層46である。同様に、外側積層部44は、繊維36が低ヘリカル巻きされることで形成された低ヘリカル層46が複数積層されてなる積層体である。
【0024】
ヘリカル巻きとは、図3に示すように、繊維36を、その延在方向がライナ12の胴部18の長手方向(軸線a)に対して所定の傾斜角度θで傾斜するように巻回する巻き方である。本明細書において、「低ヘリカル巻き」は、傾斜角度θが約40°以下の場合を指す。図3では、傾斜角度θが約10°の場合を例示している。また、本明細書における「高ヘリカル巻き」は、傾斜角度が約40°を超える場合をいう。
【0025】
図2において、内側積層部40と外側積層部44の間に介在する中間積層部42は、含浸繊維36がフープ巻きされることで形成されたフープ層50と、高ヘリカル巻きされることで形成された高ヘリカル層48との混合積層体である。フープ層50と高ヘリカル層48は、交互に積層される。フープ巻きとは、繊維36を、その延在方向がライナ12の胴部18の長手方向に対して略直交するように巻回する巻き方である。この中間積層部42、特にフープ層50により、胴部18の耐圧強度が確保される。なお、中間積層部42は、複数のフープ層50のみから形成されてもよい(高ヘリカル層48が設けられなくてもよい)。
【0026】
図4に示すように、フィラメントワインディングの際のライナ12に対する繊維36の巻き始めで部分である始端36sは、口金16aに重ねて配置されている。具体的に、繊維36の始端36sは、フランジ部30に重ねて配置されている。繊維36の始端36sは、フランジ部30の表面30aに当接している。なお、図4では理解の容易のため、補強層14が仮想線で示されている。
【0027】
以下に、高圧タンク10の製造方法を例示する。
【0028】
図5に示すように、高圧タンク10の製造方法は、アセンブリ提供工程S1と、補強層形成工程S2とを有する。アセンブリ提供工程S1では、樹脂製のライナ12の軸方向の端部に、ライナ12に対して流体を給排するための給排孔17が形成された口金16aが固定されたアセンブリ58(図6A参照)を提供する。補強層形成工程S2では、アセンブリ58のライナ12の外面に繊維36を複数回巻回する(フィラメントワインディングを実施する)ことで複数の繊維層からなる補強層14を形成する。補強層形成工程S2では、繊維36の巻き始めである始端36sを、口金16a(フランジ部30)に重ねて配置する。
【0029】
補強層形成工程S2では、例えば以下のような手法を採用することができる。
【0030】
図6Aに示す態様では、繊維36を口金16a(筒部32)に巻き付ける。次に、繊維層の形成(低ヘリカル巻き)を開始する。その際、繊維36のうち筒部32に巻き付けられた第1部分36aから口金16aのフランジ部30の表面30aを横切る第2部分36bの上に、繊維36の他の部分である第3部分36cを重ねることで、繊維36の第2部分36bを口金16aに対して固定する。次に、繊維36の第1部分36a(巻き付けられた部分)と第2部分36b(重なり部分)との間の位置Pで繊維36を切断して、第1部分36aを口金16a(筒部32)から取り外す。その後、繊維36をライナ12(及び口金16a)に巻き付けて複数の繊維層(補強層14)を形成する(図2参照)。
【0031】
図6Bに示す態様では、口金16aのフランジ部30の表面30a上に、繊維36をリング状に配置する。次に、リング状に配置された繊維36の重なる部分同士を接着する。これにより、口金16aに対し繊維36を固定する。その後、繊維36をライナ12(及び口金16a)に巻き付けて複数の繊維層(補強層14)を形成する(図2参照)。
【0032】
上記のように構成される高圧タンク10は、以下の効果を奏する。
【0033】
図4に示すように、高圧タンク10では、補強層14を構成する繊維36の巻き始めである始端36sが口金16aに重ねて配置されているため、始端36sによる段差で補強層14の最内層の繊維36にクラック(破損)が発生した場合でもライナ12が破損することがない。すなわち、始端36sによる段差で補強層14の最内層の繊維36にクラックが発生した場合でも、当該クラックは、口金16aに重なる位置に存在するため、ライナ12が内圧によって押し出されてクラックに入り込むことがない。このため、クラックに起因するライナ12の破損を防止することができる。従って、高圧タンク10の長寿命化を図ることができる。
【0034】
高圧タンク10において、繊維36の始端36sは、口金16aのフランジ部30に重ねて配置されている。このように繊維36の始端36sがフランジ部30に重ねて配置されるため、フィラメントワインディング時に繊維36の始端36sを口金16aに対して容易に位置決めすることができる。
【0035】
高圧タンク10において、フランジ部30は、ライナ12と補強層14との間に配置されている。この構成により、繊維36の始端36sによる段差で補強層14の最内層の繊維36にクラックが発生した場合でも、クラックとライナ12との間に口金16aのフランジ部30が介在しており、ライナ12がクラックに接触することがない。このため、クラックに起因するライナ12の破損を一層効果的に防止することができる。
【0036】
一般的に、補強層の最内層が低ヘリカル層である場合、フィラメントワインディング時に、繊維の巻き始めである始端を固定するために少なくとも1周分、フープ巻きを行い、低ヘリカル層まで角度を変化させる。この場合、巻き始めのフープ巻きと低ヘリカル層との間には、遷移層(巻き始めのフープ巻き部分と低ヘリカル層との間をつなぐために繊維の角度が徐々に変化していく層)を設ける必要がある。しかし遷移層は、耐圧強度に寄与しないため、FRPの無駄が生じる。これに対し、本実施形態に係る高圧タンク10では、繊維36の始端36sが口金16aに重ねて配置されているため、フィラメントワインディング時に、繊維36の巻き始めから、遷移層を介在させることなく低ヘリカル層46を形成することができる。すなわち、遷移層を排除することができるため、高圧タンク10の軽量化及び低コスト化が図られる。
【0037】
図7に示す態様(第1変形例)では、口金16a(フランジ部30)とライナ12とに跨る保護部材60が設けられている。保護部材60は、フランジ部30に沿って円環状に形成される、例えば樹脂製のシート状部材である。保護部材60は、フランジ部30と補強層14との間に配置される。
【0038】
この場合、繊維36の始端36sは、ライナ12の軸方向から見てフランジ部30に重なる位置で、保護部材60上に配置される。すなわち、繊維36の始端36sは、保護部材60を介してフランジ部30に重なっている。このように、繊維36の始端36sが口金16aに直接当接していないが、ライナ12の軸方向から見てフランジ部30に重なる位置に始端36sが配置されている場合も、「繊維36の巻き始めである始端36sは、口金16aに重ねて配置されている」構成に含まれる。
【0039】
なお、保護部材60に代えて、あるいは保護部材60に加えて、フランジ部30に重ねて液体ガスケットが配置されてもよい。このような構成も、「繊維36の巻き始めである始端36sは、口金16aに重ねて配置されている」構成に含まれる。
【0040】
図8に示す態様(第2変形例)では、口金62のフランジ部64は、ライナ12の内側に配置されている。この構成の場合、ライナ12がフランジ部64の表面64a側に配置されている。繊維36の始端36sは、ライナ12の軸方向から見てフランジ部30に重なる位置で、ライナ12上に配置される。すなわち、繊維36の始端36sは、ライナ12を介してフランジ部64に重なっている。
【0041】
このような場合でも、貯留室13の内圧によってライナ12がクラックに押し出されてクラックに入り込むことがないため、クラックに起因するライナ12の破損を防止することができる。このように、繊維36の始端36sが口金62に直接当接していないが、ライナ12の軸方向から見てフランジ部64に重なる位置に始端36sが配置されている場合も、「繊維36の巻き始めである始端36sは、口金62に重ねて配置されている」構成に含まれる。
【0042】
上記の実施形態をまとめると、以下のようになる。
【0043】
上記の実施形態は、樹脂製のライナ(12)と、前記ライナの外面に繊維(36)が複数回巻回されることで形成された複数の繊維層からなる補強層(14)と、前記ライナの軸方向の端部に固定され、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔(17)が形成された口金(16a)と、を備える高圧タンク(10)であって、前記繊維の巻き始めである始端(36s)は、前記口金に重ねて配置されている高圧タンク(10)を開示している。
【0044】
上記の高圧タンクにおいて、前記口金は、前記ライナに重なるフランジ部(30)と、前記フランジ部から前記ライナの軸方向外側に突出する筒部(32)とを有し、前記繊維の前記始端は、前記フランジ部に重ねて配置されている。
【0045】
上記の高圧タンクにおいて、前記フランジ部は、前記ライナと前記補強層との間に配置されている。
【0046】
上記の高圧タンクにおいて、前記フランジ部は、前記ライナの内側に配置されている。
【0047】
上記の高圧タンクにおいて、前記複数の繊維層の最内層は、低ヘリカル層(46)である。
【0048】
また、上記の実施形態は、樹脂製のライナ(12)の軸方向の端部に、前記ライナに対して流体を給排するための給排孔(17)が形成された口金(16a)が固定されたアセンブリ(58)を提供するアセンブリ提供工程(S1)と、前記アセンブリの前記ライナの外面に繊維(36)を複数回巻回することで複数の繊維層からなる補強層(14)を形成する補強層形成工程(S2)と、を有する高圧タンク(10)の製造方法において、前記補強層形成工程では、前記繊維の巻き始めである始端(36s)を、前記口金に重ねて配置する、高圧タンクの製造方法を開示している。
【0049】
上記の高圧タンクの製造方法において、前記口金は、前記ライナに重なるフランジ部(30)と、前記フランジ部から前記ライナの軸方向外側に突出する筒部(32)とを有し、前記補強層形成工程では、前記繊維の前記始端を、前記フランジ部に重ねて配置する。
【0050】
上記の高圧タンクの製造方法において、前記補強層形成工程は、前記繊維を前記筒部に巻き付ける工程と、前記繊維のうち前記筒部に巻き付けられた第1部分(36a)から前記フランジ部の表面(30a)を横切る第2部分(36b)の上に、前記繊維の他の部分である第3部分(36c)を重ねることで、前記繊維の第2部分を前記口金に対して固定する工程と、前記第1部分と前記第2部分との間の位置で前記繊維を切断して、前記第部分を前記口金から取り外す工程と、を有する。
【0051】
上記の高圧タンクの製造方法において、前記補強層形成工程は、前記フランジ部の上に、前記繊維をリング状に配置する工程と、リング状に配置された前記繊維の重なる部分同士を接着する工程と、を有する。
【0052】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10…高圧タンク 12…ライナ
14…補強層 16a、16b…口金
30…フランジ部 32…筒部
36…繊維 36s…始端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8