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  • 特許-フェライト系ステンレス鋼板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241213BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20241213BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C21D9/46 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021053997
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022151085
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】今川 一成
(72)【発明者】
【氏名】吉井 睦子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純一
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204059(JP,A)
【文献】特開2013-100596(JP,A)
【文献】特開2017-206725(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174078(WO,A1)
【文献】特開2020-037728(JP,A)
【文献】特開2010-235994(JP,A)
【文献】特開2007-254763(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170611(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0310105(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/54
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.002~0.03%、
Si:0.10~0.80%、
Mn:1.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.030%以下、
Cr:17.0~19.5%、
Nb:0.05~0.20%、
Ti:0.6%以下、
Cu:0.8~2.0%、
N:0.002~0.03%、
Ni:0~0.6%、
Mo:0~0.6%、
V:0~0.5%、
W:0~0.5%、
Co:0~0.5%、
Zr:0~0.5%、
Al:0~1.0%、
Sn:0~0.5%、
B:0~0.005%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
Ti含有炭窒化物と、当該Ti含有炭窒化物に接するように形成したNb含有炭窒化物と、を含み、断面積が1μm以上である、炭窒化物を有し、
前記炭窒化物の個数密度が、5個/mm以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
5×(C+N)≦Ti ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Ni:0.01~0.6%、
Mo:0.05~0.6%、
V:0.01~0.5%、
W:0.05~0.5%、
Co:0.01~0.5%、
Zr:0.01~0.5%、
Al:0.01~1.0%、および
Sn:0.01~0.5%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
B:0.0002~0.005%、
Ca:0.0002~0.01%、
Mg:0.0002~0.01%、および
REM:0.0002~0.01%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気部材は、フェライト系ステンレス鋼が用いられている。このような自動車排気部材は、上流部の排気部材と、下流部の排気部材とに、分類される。上流部の排気部材は、エンジンから排出された状態に近い、高温の排ガスに曝される。一方、下流部の排気部材は、排ガスが冷却されることで、内部に生成する凝縮水および融雪塩等の腐食生成物にも曝される。
【0003】
従って、上流部の排気部材と下流部の排気部材とでは、要求される特性も異なるため、異なる鋼種のフェライト系ステンレス鋼が用いられてきた。特に、上流部の排気部材では、600~800℃程度の高温の排ガスに曝されるため、主として、高温特性が重視される。その一例として、特許文献1~3には、上流部の排気部材での使用を想定し、耐熱性、耐酸化性、高温疲労特性といった高温特性を向上させたフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
【0004】
特許文献1~3に開示されたフェライト系ステンレス鋼は、高温特性の向上に有効であるものの、高価で、製造性をも低下させるNbおよびMoといった元素を低減している。その一方、上記元素を低減する代わりに、Ti、Cu等を含有させたり、他の元素の含有量を制御することで、高温特性を向上させており、原料コストおよび製造性の観点からも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-248620号公報
【文献】特開2013-100596号公報
【文献】国際公開第2015/174078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、部品形状の複雑化に伴い、排気部材の素材には、上流部、下流部問わず、良好な加工性が要求される。この点について、特許文献1では加工性について言及されているものの、プレス成型時に課題となるリジングに関しては検討がされていない。このため、加工度が大きい成形においては問題が生じる場合も考えられ、加工性について改善の余地がある。また、特許文献2および3では、加工性自体の検討がなされていない。
【0007】
加えて、特許文献1~3のフェライト系ステンレス鋼は、主として、高温特性に特化しているため、下流部の排気部材での使用する場合の耐食性については、何ら検討されていない。
【0008】
以上を踏まえると、特性の点から既存のフェライト系ステンレス鋼を上流部、下流部を問わず排気部材として使用することは難しいという課題がある。そして、上記文献の鋼のようにNbおよびMoを低減し合金コストを抑えながらも、600~800℃となる高温の熱環境下でも適応可能な優れた耐熱性と、良好な加工性と、良好な耐食性と、の全ての特性を具備させることは、難しいという課題がある。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決し、NbおよびMoを低減しながらも、良好な、耐熱性、加工性および耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のフェライト系ステンレス鋼板を要旨とする。
【0011】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.002~0.03%、
Si:0.10~0.80%、
Mn:1.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.030%以下、
Cr:17.0~19.5%、
Nb:0.05~0.20%、
Ti:0.6%以下、
Cu:0.8~2.0%、
N:0.002~0.03%、
Ni:0~0.6%、
Mo:0~0.6%、
V:0~0.5%、
W:0~0.5%、
Co:0~0.5%、
Zr:0~0.5%、
Al:0~1.0%、
Sn:0~0.5%、
B:0~0.005%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
Ti含有炭窒化物と、当該Ti含有炭窒化物に接するように形成したNb含有炭窒化物と、を含み、断面積が1μm以上である、炭窒化物を有し、
前記炭窒化物の個数密度が、5個/mm以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
5×(C+N)≦Ti ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0012】
(2)前記化学組成が、質量%で、
Ni:0.01~0.6%、
Mo:0.05~0.6%、
V:0.01~0.5%、
W:0.05~0.5%、
Co:0.01~0.5%、
Zr:0.01~0.5%、
Al:0.01~1.0%、および
Sn:0.01~0.5%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【0013】
(3)前記化学組成が、質量%で、
B:0.0002~0.005%、
Ca:0.0002~0.01%、
Mg:0.0002~0.01%、および
REM:0.0002~0.01%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、NbおよびMoを低減しながらも、良好な、耐熱性、加工性および耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、Ti含有炭窒化物およびその周りに形成したNb含有炭窒化物(複合炭窒化物)の一例を示した組織写真である。
図2図2は、Ti含有炭窒化物およびその周りにNb含有炭窒化物が形成した組織(複合炭窒化物)の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、フェライト系ステンレス鋼板の化学組成、および上述した各特性について検討を行い、以下の(a)~(c)の知見を得た。
【0017】
(a)原料コストを低減するためには、高価なNbおよびMo等の元素を低減する必要がある。その一方、Nbは、耐熱性を向上させる効果がある。また、Moは、耐熱性に加え、耐食性をも向上させる効果がある。そこで、NbおよびMoの代わりに、CuおよびTiを含有させ、かつCrを適正な範囲に調整することで、耐熱性と耐食性とを確保することができる。
【0018】
(b)しかしながら、Cu、Tiといった元素を含有させることで、加工性および靭性が低下する。加工性の低下は、600~800℃の温度域でCu析出物が形成することで、常温での強度が上昇することに起因する。また、靭性の低下は、硬質なTiを含む炭窒化物(以下、単に「Ti含有析出物」と記載する。)が析出することに起因する。
【0019】
そこで、本発明者らは、Cu析出物の形成が抑制できないかを検討した。そして、加工性および靭性を低下させるLaves相として析出しない範囲で、微量にNbを含有させることが有効であることを見出した。
【0020】
(c)また、本発明者らは、Ti含有炭窒化物の形成に伴う靭性の低下は、炭窒化物の形態を制御することで、抑制できることも知見した。具体的には、Ti含有炭窒化物は、多角形状に形成するが、この形状の角ばった部分の周りに接するようにNbを含む炭窒化物(以下、単に「Nb含有炭窒化物」と記載する。)が析出している形態に制御するのが望ましい。
【0021】
このような炭窒化物の形態が、靭性の低下を抑制するメカニズムは定かではない。しかしながら、通常、Ti含有炭窒化物の多角形状の角ばった部分にひずみが蓄積しやすく、割れの起点となりやすい。このため、上述した形態とすることで、炭窒化物周辺のひずみの蓄積状態を変え、応力集中が生じにくくなるためと考えられる。
【0022】
また、上述した形態の炭窒化物が析出した状態で、熱間圧延または冷間圧延を行うと、析出物周りのひずみ場により圧延伸長組織が分断される。この結果、伸長組織の形成を抑制することができ、リジングの発生も抑制される。従って、加工度の大きい場合にも適応できる良好な加工性を具備させることができる。
【0023】
本発明の実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態の各要件について詳しく説明する。
【0024】
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0025】
C:0.002~0.03%
本実施形態に係る鋼板では、Nb含有炭窒化物がTi含有炭窒化物の周囲に析出した形態とすることで、靭性を向上させている。このため、Cを一定量以上含有する必要があり、C含有量は、0.002%以上とする。しかしながら、Cを過剰に含有させると、加工性と耐食性とを低下させる。また、耐熱性の低下をももたらす。このため、C含有量は、0.03%以下とする。なお、精錬コストの観点からC含有量は、0.003~0.02%の範囲とするのが好ましく、0.003~0.015%の範囲とするのがより好ましい。
【0026】
Si:0.10~0.80%
Siは、脱酸剤としても有用な元素であるとともに、耐酸化性を向上させる元素である。このため、Si含有量は、0.10%以上とし、0.15%以上とするのが好ましい。しかしながら、Siを過剰に含有させると、常温の延性を低下させ、加工性が低下する。このため、Si含有量は、0.80%以下とし、0.60%以下とするのが好ましい。Si含有量は、0.15~0.60%の範囲とするのが好ましい。
【0027】
Mn:1.0%以下
Mnは、脱酸剤として有用な元素であるとともに、長時間使用中にMn系酸化物が表層に形成し、スケール密着性の向上に寄与する。この結果、耐酸化性が向上する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、酸化増量を著しく増加させてしまうのみならず、高温でオーステナイト相が生成しやすくなる。この結果、耐熱性が低下する。そのため、Mn含有量は、1.0%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。Mn含有量は、0.2~0.8%の範囲とするのが好ましい。
【0028】
P:0.04%以下
Pは、靭性および加工性を低下させる有害元素である。このため、P含有量は、0.04%以下とする。P含有量は、0.03%以下とするのが好ましい。Pは、可能な限り低減することが好ましいが、Pの過剰な低減は、精錬コストを増加させる。そのため、P含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0029】
S:0.030%以下
Sは、伸びを低下させて、加工性に悪影響を及ぼすとともに、耐食性を低下させる元素である。このため、S含有量は、0.030%以下とする。S含有量は、0.010%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。Sは、可能な限り低減することが好ましいが、Sの過剰な低減は、精錬コストを増加させる。そのため、S含有量は、0.0003%以上とするのが好ましい。
【0030】
Cr:17.0~19.5%
Crは、ステンレス鋼の特徴である耐食性、および耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。そして、Cr含有量が、17.0%未満であると、不働態皮膜中のCr分率が不足し、耐食性が得られないことに加え、800℃程度で長時間使用する際に必要となる耐酸化性が得られない。このため、Cr含有量は、17.0%以上とする。しかしながら、Crを、過剰に含有させると、室温において鋼を固溶強化し、硬質化、低延性化することで、加工性が低下する。特に19.5%を超えて含有すると、上記特性への弊害が顕著となるので、Cr含有量は、19.5%以下とする。Cr含有量は、17.5~19.0%の範囲とするのが好ましい。
【0031】
Nb:0.05~0.20
Nbは、高温強度および熱疲労特性を向上させる効果を有する。また、Nbを含有させることで、高温でのCu析出物の形成を抑制する。さらに、Nb含有炭窒化物として、Ti含有炭窒化物の周りに接するように析出させることで、靭性を高め、熱間圧延時に導入されるひずみの回復を抑制する効果を有する。このため、Nb含有量は、0.05%以上とする。Nb含有量は、0.06%以上とするのが好ましい。しかしながら、過剰にNbを含有させると、Nbを含むLaves相が形成し、靭性および加工性が低下する。このため、Nb含有量は、0.20%以下とする。Nb含有量は、0.18%以下とするのが好ましい。
【0032】
Ti:0.6%以下
本実施形態の鋼板では、Nb含有量を低減する。このため、C、およびNを固定する上でTiは重要な元素となる。そして、Tiは、C、Nを固定して、鋭敏化の発生を抑制し、耐食性、溶接部の粒界腐食性および耐酸化性を向上させる効果を有する。また、C、Nを固定することで析出したTi含有炭窒化物の周りに、Nb含有炭窒化物を形成させることで、熱間圧延および冷間圧延時に、炭窒化物の周囲がひずみ場の発生源となり、圧延伸長組織を分断させる。この結果、リジングの発生を抑制し、加工性を向上させる。このため、Ti含有量は、下記(i)式を満足する必要がある。
【0033】
5×(C+N)≦Ti ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
【0034】
しかしながら、Tiを過剰に含有させると、靭性の低下および表面疵の発生を誘発する。このため、Ti含有量は、0.6%以下とする。CおよびN含有量にもよるが、Ti含有量は、0.15~0.4%の範囲とするのが好ましく、0.2~0.3%の範囲とするのがより好ましい。
【0035】
Cu:0.8~2.0%
Cuは、上述したように耐熱性の向上に有効な元素である。本実施形態に係る鋼板では、耐熱性向上に有効なNbを低減する代わりに、Cuを含有させることで、耐熱性を確保する。このため、Cu含有量は、0.8%以上とする。Cu含有量は、1.0%以上とするのが好ましく、1.1%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Cuを過剰に含有させると、耐酸化性と加工性とを低下させる上、Cu析出物(「ε-Cu」ともいう。)の粗大化も促進させる。このため、Cu含有量は、2.0%以下とする。Cu含有量は、1.5%以下とするのが好ましい。
【0036】
N:0.002~0.03%
Nは、高温で粗大で硬質なTiNを構成し、熱間圧延時に析出物周りのひずみ場に生成することで、圧延伸長組織を分断し、加工性を向上させる効果を有する。このため、N含有量は、0.002%以上とする。しかしながら、Nを過剰に含有させると、Cと同様、加工性と耐食性とを低下させ、耐熱性をも低下させる。このため、N含有量は、0.03%以下とする。なお、精錬コストの兼ね合いから、N含有量は、0.003~0.02%の範囲とするのが好ましく、0.003~0.015%の範囲とするのがより好ましい。
【0037】
上記の元素に加えて、さらに、Ni、Mo、V、W、Co、Zr、AlおよびSnから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0038】
Ni:0~0.6%
Niは、フェライト系ステンレス鋼の靭性を向上させ、割れの発生を抑制する元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、強力なオーステナイト相生成元素であることから、過剰に含有させると、高温でオーステナイト相を生成しやすくさせ、耐熱性を低下させる。また、高価な元素であるため、合金コストも増加する。このため、Ni含有量は、0.6%以下とする。Ni含有量は、0.5%以下とするのが好ましく、0.3%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0039】
Mo:0~0.6%
Moは、耐熱性および耐酸化性、ならびに耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moは、高価な元素である上、固溶強化により鋼を硬質化することで、加工性を低下させてしまう。そのため、Mo含有量は、0.6%以下とする。Mo含有量は、0.5%以下とするのが好ましく、0.4%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.05%以上とするのが好ましく、0.1%以上とするのがより好ましい。
【0040】
V:0~0.5%
Vは、NbおよびTi同様、炭窒化物生成元素であり、これらの炭窒化物を微細析出させることで、耐熱性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Vの過剰な含有は、製造性の劣化をもたらす。そのため、V含有量は、0.5%以下とする。V含有量は、0.4%以下とするのが好ましく、0.3%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0041】
W:0~0.5%
Wは、耐熱性を高める効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Wの過剰な含有は、金属間化合物の生成を促進し、鋼の靭性および加工性を低下させる。そのため、W含有量は、0.5%以下とする。W含有量は、0.4%以下とするのが好ましく、0.3%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.05%以上とするのが好ましく、0.1%以上とするのがより好ましい。
【0042】
Co:0~0.5%
Coは、耐熱性を向上させるとともに、熱膨張係数も低下させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Coの過剰な含有は、固溶強化により鋼を硬質化するため、加工性を低下させてしまう。また、Coは、高価な元素であるため、合金コストが増加する。そのため、Co含有量は、0.5%以下とする。Co含有量は、0.4%以下とするのが好ましく、0.3%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0043】
Zr:0~0.5%
Zrは、耐酸化性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Zrの過剰な含有は、金属間化合物を生成し、鋼の靭性および加工性を低下させる。そのため、Zr含有量は、0.5%以下とする。Zr含有量は、0.4%以下とするのが好ましく、0.3%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0044】
Al:0~1.0%
Alは脱酸剤として使用される他、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Alの過剰な含有は、固溶強化により鋼を硬質化し、鋼の靭性および加工性を低下させる。そのため、Al含有量は、1.0%以下とする。Al含有量は、0.6%以下とするのが好ましく、0.2%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0045】
Sn:0~0.5%
Snは、常温の機械的特性を大きく劣化させず、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Snの過剰な含有は、製造性を著しく低下させる。そのため、Sn含有量は、0.5%以下とする。Sn含有量は、0.3%以下とするのが好ましく、0.2%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
【0046】
上記の元素に加えて、さらに、B、Ca、MgおよびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0047】
B:0~0.005%
Bは、加工性、特に二次加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Bの過剰な含有は、溶接性と靭性とを低下させる。そのため、B含有量は、0.005%以下とする。B含有量は、0.003%以下とするのが好ましく、0.0015%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0048】
Ca:0~0.01%
Caは、連続鋳造時に発生しやすいノズル閉塞を防止する効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Caの過剰な含有は、表面欠陥を発生させやすくする。そのため、Ca含有量は、0.01%以下とする。Ca含有量は、0.005%以下とするのが好ましく、0.003%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0049】
Mg:0~0.01%
Mgは、スラブの等軸晶率を向上させ、靭性および加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、Mgの過剰な含有は、鋼の靭性を低下させるとともに、表面性状を悪化させる。そのため、Mg含有量は、0.01%以下とする。Mg含有量は、0.005%以下とするのが好ましく、0.003%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0050】
REM:0~0.01%
REM(希土類元素)は、耐酸化性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてよい。しかしながら、REMの過剰な含有は、溶接性と靭性とを低下させる。そのため、REM含有量は、0.01%以下とする。REM含有量は、0.008%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。
【0051】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0052】
本発明の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、
鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0053】
2.炭窒化物
本実施形態に係る鋼板は、炭窒化物がマトリックス中に分散析出した鋼板である。そして、Tiを含有するTi含有炭窒化物と、Nbを含有するNb含有炭窒化物とを含む、炭窒化物を有する。上述した炭窒化物は、断面積が、1μm以上である。ここで、炭窒化物とは、Cおよび/またはNを含む化合物のことをいい、上述した断面積とは、後述する方法で組織観察を行った場合に観察される炭窒化物の面積、すなわち、観察面を水平投影した際の面積のことをいう。
【0054】
上述した炭窒化物に含まれるTi含有炭窒化物は、マトリックスと整合性が高く、例えば、図1の中央にあるような多角形状の形状をしており、大きさも比較的粗大である。また、硬質な化合物である。そして、硬質なTi含有炭窒化物の多角形状の角ばった部分において、特に、ひずみが蓄積しやすく、破壊の起点となりやすい。この結果、割れが伝播し、靭性が低下するとともに、これに起因して冷間圧延での圧下率を確保することが難しくなる。そして、加工性、特に、r値の向上が難しくなる。
【0055】
このため、図1および図2に示すように、Ti含有炭窒化物の角ばった部分の周りに接するように、Nb含有炭窒化物が後から形成する、すなわち、Nb含有炭窒化物は、Ti含有炭窒化物の周りに接するように形成する必要がある。これにより、炭窒化物の全体の形状における曲率半径が、大きくなり、応力集中の発生を抑制すると考えられるからである。なお、この際、Ti含有炭窒化物の周りの一部にNb含有炭窒化物が形成していればよく、特に、Ti含有炭窒化物の角ばった部分の周辺に、Nb含有炭窒化物が形成しているのが望ましく、複数の箇所で連続的に形成しているのが望ましい。
【0056】
なお、Ti含有炭窒化物は、例えば、TiN、TiC等が考えられる。また、Nb含有炭窒化物は、NbC、NbN等が考えられる。
【0057】
また、上記炭窒化物、すなわちTi含有炭窒化物と、当該Ti含有炭窒化物に接するように形成したNb含有炭窒化物と、を含み、断面積が1μm以上である炭窒化物(以下、簡単のため、「複合炭窒化物」ともいう。)の個数密度は、5個/mm以上とする。複合炭窒化物の個数密度が、5個/mm未満であると、割れの起点が多く存在し、良好な靭性および加工性を得ることが難しくなる。このため、複合炭窒化物の個数密度は、5個/mm以上とする。複合炭窒化物の個数密度は、10個/mm以上とするのが好ましく、15個/mm以上とするのがより好ましい。なお、複合炭窒化物の個数密度の上限については、特に限定しない。
【0058】
上述したように、Cu析出物の析出温度は、600~800℃の温度域で微細析出し、使用環境における温度域において鋼板の高温強度を高め、それよりも高温では固溶する。他方、Laves相が析出しない範囲の微量のNbを添加することで、600~800℃の温度域に保持した際のCu析出物の成長を抑制すること、固溶状態からの冷却過程でのCu析出物の析出を抑制することに加え、鋼板の常温強度の向上に起因した靭性低下が抑制される。また、上述したような形態が制御された複合炭窒化物を形成させておくことで、Cu析出物の析出サイトが減少した場合、Cu析出自体も抑制することができる可能性がある。
【0059】
なお、複合炭窒化物の測定は、以下の手順で行えばよい。具体的には、鋼板のL面から観察試料を採取する。この観察試料を、10質量%のアセチルアセトン、1質量%のテトラメチルアンモニウムクロライド、89質量%のメチルアルコールからなる非水系電解液中で、飽和甘汞基準電極(SCE)に対して-100mV~400mVの電位を付与する。これにより試料のマトリックス(金属素地)を溶解させ、マトリックスと炭窒化物等の化合物とを識別できる状態とし、SEMで金属組織を観察する。観察の際には、倍率を5000倍とし、測定視野数を100視野とする。
【0060】
そして、炭窒化物を観察し、図1のように、粗大なTi含有炭窒化物と思われる炭窒化物についてSEMに付属したEDXで組成を分析し、組成を確認し、Ti含有炭窒化物であるか、判定する。同様に、粗大な炭窒化物の周りに接するように形成している炭窒化物についても、組成を確認し、Nb含有炭窒化物であるか、判定する。この際、炭窒化物全体の断面積を測定し、複合炭窒化物であるか判断する。断面積は、観察された複合炭窒化物の長径に短径を乗じて算出する。なお、長径とは、水平または垂直方向で、外周状の2点を結んだ直線のうち最も長い直線の長さであり、短径とは、水平または垂直方向で、外周状の2点を結んだ直線のうち最も短い直線の長さである。また、個数密度については、上記倍率および視野数で観察された複合炭窒化物の個数を数え、観察視野の面積で除して、算出すればよい。
【0061】
3.製造方法
本実施形態に係る鋼板の好ましい製造方法について説明する。本実施形態に係る鋼板は、製造方法によらず、上述の構成を有していれば、その効果を得られるが、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。以下の説明では、冷延焼鈍板の場合について、説明する。
【0062】
上記化学組成を有する鋼を溶製し、常法でスラブを製造する。得られたスラブを加熱し、熱間圧延を行う。スラブの加熱温度については、特に限定しないが、通常、1150~1250℃の範囲とすることが多い。
【0063】
また、熱間圧延の際、900~1100℃の温度域で、1分以上滞留させる。上記温度域での滞留時間が1分未満であると、複合炭窒化物が形成しにくくなり、複合炭窒化物の個数密度が低下する。この結果、靭性および加工性を向上させる効果を得にくくなる。このため、上記温度域での滞留時間は、1分以上とし、1.5分以上とするのが好ましい。なお、上記温度域での滞留時間の上限は、特に限定しないが、通常、製造性の観点から4分以下となる。
【0064】
なお、熱間圧延完了温度は、通常、850~950℃程度となる。その後、必要に応じて、熱延板焼鈍を行う。熱延板焼鈍を行う場合は、その条件を特に限定しないが、例えば、850~900℃の範囲の焼鈍温度で、2分以下焼鈍すればよい。なお、熱延板焼鈍を行う場合であっても、行わない場合であっても、800~400℃の温度域の冷却における平均冷却速度を10℃/s以上とするのが好ましい。上記800~400℃の温度域における平均冷却速度が10℃/s未満であると、当該温度域を通過時にCu析出物が析出してしまうからである。このため、当該温度域の冷却における平均冷却速度は、10℃/s以上とするのが好ましい。なお、例えば、熱延後、および熱延板焼鈍後に必要に応じて、酸洗を行ってもよい。
【0065】
得られた熱延板(または熱延焼鈍板)に冷間圧延を行い、冷延板とする。冷間圧延の際の圧下率は、適宜、必要に応じて調整すればよい。得られた冷延板に必要に応じて、冷延板焼鈍を行う。冷延板焼鈍の焼鈍温度は、950℃以下とするのが好ましい。
【0066】
冷延板焼鈍における焼鈍温度が950℃を超えると、結晶粒が粗大になり、加工後に肌荒れ等が生じる。また、焼鈍の際に必要となる燃料コストが増加し、酸洗工程における負荷も大きくなる。このため、冷延板焼鈍における焼鈍温度が950℃以下とするのが好ましい。冷延板焼鈍の焼鈍時間については、特に限定するものではないが、製造性の観点から、通常、2分以内となると考えられる。
【0067】
なお、冷延板焼鈍の際の冷却においても、800~400℃の温度域を、平均冷却速度を10℃/s以上とするのが好ましい。これにより、Cu析出物の形成を抑制することができるからである。なお、例えば、冷延後、および冷延板焼鈍後に必要に応じて、酸洗を行ってもよい。
【0068】
以下の実施例によって本実施形態の鋼板をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0069】
表1に示す化学組成を有する鋼を、真空溶解で溶製し、厚さ80mmの鋳型に鋳造した後、1230℃で2時間加熱し、熱間圧延を施し、厚さ5mmの熱延板を得た。この際、900℃~1100℃の温度域の滞留時間を制御した。なお、鋼13および鋼18のみ900℃~1100℃の温度域の滞留時間を1分未満となるように熱間圧延速度を調整し、それ以外の鋼については、上記温度域の滞留時間が1分以上になるようにした。また、上記以外の冷却速度等の条件は、上述した好ましい条件の範囲内になるよう、調整した。
【0070】
次に、熱延板を酸洗した後、厚さ1.5mmに冷間圧延して冷延板を得た。さらに、冷延板を上述した好ましい条件を満たす920℃で焼鈍した後、酸洗を行うことによって冷延焼鈍板を得た。なお、上記例において、800~400℃の温度域における平均冷却速度は、全て、10℃/s以上であった。
【0071】
【表1】
【0072】
製造性の観点から、冷延する前の熱延板の靭性についても併せて、後述する方法で評価を行った。また、得られた冷延焼鈍板について、後述する方法で、炭窒化物の形態を観察した。その後、後述する方法で、耐熱性、加工性および耐食性の評価を行った。
【0073】
(熱延板靭性)
製造性を評価する指標として、熱延板の靭性を測定した。熱延板から、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように熱延板と同じ板厚で、Vノッチのサブサイズシャルピー衝撃試験片を作製し、JIS Z 2242:2018に記載の試験方法に従って各試験片に対して5本実施した。測定した吸収エネルギーを断面積で除すことで衝撃値を算出し、5本のうち、最も低い値をシャルピー衝撃値とした。熱延コイルの巻き戻しが問題なく実施でき、製造性が良好であるという観点から、シャルピー衝撃値が30J/cm以上である場合を良好な特性であると評価した。なお、試験温度は、室温(23±5℃)とし、試験を実施した。
【0074】
(炭窒化物の形態)
炭窒化物の形態を調べるために、鋼板のL面から観察試料を採取した。この観察試料を、10質量%のアセチルアセトン、1質量%のテトラメチルアンモニウムクロライド、89質量%のメチルアルコールからなる非水系電解液中で、飽和甘汞基準電極(SCE)に対して-100mV~400mVの電位を付与した。これにより試料のマトリックス(金属素地)を溶解させ、マトリックスと炭窒化物等の化合物とを識別できる状態とし、SEMで金属組織を観察した。観察の際には、倍率を5000倍とし、測定視野数を100視野とした。
【0075】
そして、炭窒化物を観察し、粗大なTi含有炭窒化物と思われる炭窒化物についてSEMに付属したEDXで組成を分析し、組成を確認し、Ti含有炭窒化物であるか、判定した。同様に、粗大な炭窒化物の周りに接するように形成している炭窒化物についても、組成を確認し、Nb含有炭窒化物であるか、判定した。この際、炭窒化物全体の断面積を測定し、複合炭窒化物であるか判断した。断面積は、観察された複合炭窒化物の長径に短径を乗じて算出した。また、個数密度については、上記倍率および視野数で観察された複合炭窒化物の個数を数え、観察視野の面積で除して、算出した。
【0076】
(耐熱性)
得られた冷延焼鈍板から、試験片を採取し、800℃で高温引張試験を実施し、0.2%耐力を測定した。引張試験は、JIS G 0567:2012に準拠して行い、800℃耐力が25MPa以上である場合を、耐熱性が良好であると評価した。
【0077】
(加工性)
加工性については、全伸び(破断伸び)と、耐リジング性の指標となるうねり高さの二つを測定することで、評価した。全伸びは、冷延焼鈍板から長手方向が圧延方向となるJIS13号B試験片を採取し、JIS Z 2201:1998に準拠し、測定した。常温での全伸びが30%以上あれば、複雑な部品への加工が可能となるため、全伸びが30%以上である場合を、良好な特性値であると評価した。
【0078】
また、うねり高さは、以下の手順で測定した。具体的には、冷延焼鈍板から長手方向が圧延方向となるJIS5号引張試験片を採取し、平行部での伸び率が20%となるまで引張ひずみを付与した後、徐荷した試験片を作製した。その試験片について、長手方向中央部の表面プロフィールを幅方向(すなわち圧延直角方向)に測定し、JIS B 0601:2013に従い、カットオフ値λf=8.0mm、λc=0.5mmとして、波長成分0.5~8.0mmのうねり曲線を定め、そのうねり曲線から算術平均うねりWa(μm)求め、これをうねり高さWとした。うねり高さWが2.0μm以下である場合を良好な特性値であると評価した。
【0079】
(耐食性)
耐食性については、以下の塩乾湿複合サイクル試験(以下、「CCT試験」と記載する。)を行うことで、評価した。ここで、CCT試験とは、下記の(1)~(3)を行うことを1サイクルとし、30サイクル繰り返した後のさびの発生度合いを調べるものである。
【0080】
(1)塩水噴霧(35℃、5%NaCl水溶液、15分)
(2)乾燥(60℃、30%RH、60分)
(3)湿潤(50℃、95%RH、3時間)
上記(1)~(3)を1サイクルとし、30サイクル行う。
【0081】
なお、上記(1)は35℃において、5%濃度のNaCl水溶液を15分間噴霧する工程を示している。また、(2)は、60℃、湿度が30%RHで、60分保持する工程を示している。(3)は、50℃、湿度が95%RHで、3時間保持する工程を示している。
【0082】
上述したサイクルを30サイクル繰り返した後、JIS G 0595:2004の「ステンレス鋼の表面さび発生程度評価方法」によりレイティングナンバー(以下、単に「RN」と記載する。)をつけ評価した。RNが8以上である場合を、耐食性が良好であると評価した。以下、結果を纏めて表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
鋼1~12の冷延焼鈍板は、組成および複合炭窒化物の要件を満たしているため、耐熱性、耐食性、加工性の全ての結果が良好であった。一方、鋼13は、組成は満足するものの、好ましい製造条件で製造されなかったため、複合炭窒化物の個数密度が低く、加工性が十分ではなかった。また、熱延板の靭性も低下した。鋼14~18は従来排ガス経路の上流部に用いられるフェライト系ステンレス鋼板を想定したものだが、耐熱性は満足するものの、耐食性および加工性の少なくともいずれかの特性が劣る結果となった。また、鋼15および18は、熱延板の靭性も低下した。鋼19は、Cu含有量が、本実施形態の範囲を満足しないため、耐熱性が劣る結果となった。また、鋼20は、Nb含有量が本実施形態の範囲を満足しないため、耐熱性が不足し、複合炭窒化物も十分形成せず、加工性も低下した。また、熱延板の靭性も低下した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本実施形態の鋼板は、NbおよびMoを低減することができ、経済性に優れる。また、600~800℃の高温環境下においても適応しうる耐熱性を有する。また、加工性と耐食性も良好であるため、上流部および下流部を問わず、排気部材に適応できる。このため、本実施形態の鋼板は、排気部材の素材として好適である。
【符号の説明】
【0086】
1.Ti含有炭窒化物
2.Nb含有炭窒化物
図1
図2