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特許7603511突き合わせ溶接継手の矯正方法及び突き合わせ溶接継手の矯正装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】突き合わせ溶接継手の矯正方法及び突き合わせ溶接継手の矯正装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20241213BHJP
【FI】
B23K31/00 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021060770
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156866
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 誠仁
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠一朗
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-039285(JP,A)
【文献】特開昭52-041144(JP,A)
【文献】特開昭60-221190(JP,A)
【文献】特開2016-190259(JP,A)
【文献】米国特許第06438442(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正方法であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させ、前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延し、
前記圧延ロールとして、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールを用いる、突き合わせ溶接継手の矯正方法。
【請求項2】
ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正方法であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させ、前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延し、
前記圧延ロールによって圧延中の前記突き合わせ溶接継手に対し、角変形により前記溶接部が突出した側から、矯正ロール又は矯正治具によって前記溶接部を押圧するとともに、
前記圧延中は、前記圧延ロールの前記境界側の端面と前記境界との間隔を前記母材の板厚に相当する寸法以上空ける突き合わせ溶接継手の矯正方法。
【請求項3】
前記圧延ロールによる前記母材の圧延において、圧下率を0.5~2.0%とする、請求項1または請求項2に記載の突き合わせ溶接継手の矯正方法。
【請求項4】
ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正方法であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させ、前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延する第1工程と、
前記領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させるとともに、角変形により前記溶接部が突出した側から矯正ロール又は矯正治具によって前記溶接部を押圧しつつ、前記圧延ロールにより前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延する第2工程と、
を備え、
前記第1工程及び前記第2工程の前記圧延中は、前記圧延ロールの前記境界側の端面と前記境界との間隔を前記母材の板厚に相当する寸法以上空ける、突き合わせ溶接継手の矯正方法。
【請求項5】
前記第1工程の前記圧延ロールによる前記母材の圧延において、圧下率を0.5~2.0%とし、
前記第2工程の前記圧延ロールによる前記母材の圧延において、圧下率を0.1~2.0%とする、請求項4に記載の突き合わせ溶接継手の矯正方法。
【請求項6】
前記圧延ロールとして、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールを用いる、請求項乃至請求項5の何れか一項に記載の突き合わせ溶接継手の矯正方法。
【請求項7】
ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正装置であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から接触し、かつ前記溶接部の長手方向に沿って圧延する圧延ロールを備え
前記圧延ロールは、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールであることを特徴とする突き合わせ溶接継手の矯正装置。
【請求項8】
ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正装置であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から接触し、かつ前記溶接部の長手方向に沿って圧延する圧延ロールを備え、
前記圧延ロールによって圧延中の前記溶接継手に対し、角変形により前記溶接部が突出した側から、前記溶接部を押圧する矯正ロール又は矯正治具を備える突き合わせ溶接継手の矯正装置。
【請求項9】
前記圧延ロールは、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールである、請求項8に記載の突き合わせ溶接継手の矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼板を母材とする突き合わせ溶接継手の矯正方法及び突き合わせ溶接継手の矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板からなる母材に対して突き合わせ溶接を行うと、溶接線方向の熱収縮が主な原因となって、溶接後の溶接継手において、母材が溶接変形することがある。
【0003】
母材の溶接変形は、溶接トーチ側から見た場合に、溶接線を谷線としてV字状に変形するいわゆる角変形、溶接線方向に沿って母材が溶接トーチ側に突出するように湾曲する座屈変形、あるいはこれらが合成された変形になる場合がある。このような溶接変形は、溶接施工時に母材を拘束することで、ある程度の低減は可能だが、変形量の低減には限界がある。
【0004】
溶接変形を矯正するために、溶接後の溶接継手に対して矯正工程を実施する場合がある。矯正方法として、従来から局部加熱法や槌打ち法などが行われている。しかし、ステンレス鋼は、高温酸化や鋭敏化が起きる懸念から、局部加熱法は適用し難い問題がある。また、槌打ち法は、作業者の経験と練度が要求され、また複雑な変形に対して十分に対応できない問題がある。
【0005】
また、変形した溶接継手をロールで加圧することにより矯正を行う方法がある。特許文献1には、小型ローラにより溶接ビード近傍の高残留応力部のみを十分冷却し残留応力の発生している状態で、板母材の板厚方向に十分大きな圧力で加圧する溶接変形除去法が記載されている。また、特許文献2には、アルミニウムおよびその合金板の突き合わせ溶接継手において、溶接部に平行に溶接部境界から30mmの範囲の板部をロールによってロール加圧する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、ステンレス鋼板の場合は、熱伝導率の低さに起因して顕著な角変形や座屈変形が生じるものがあり、特許文献1または特許文献2に記載された方法では、十分な矯正が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭52-41144号公報
【文献】特開平8-39285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、ステンレス鋼板を母材とする突き合わせ溶接継手に対して、溶接変形を十分に矯正することが可能な突き合わせ溶接継手の矯正方法及び突き合わせ溶接継手の矯正装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正方法であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させ、前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延し、
前記圧延ロールとして、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールを用いる、突き合わせ溶接継手の矯正方法
ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正方法であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させ、前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延し、
前記圧延ロールによって圧延中の前記突き合わせ溶接継手に対し、角変形により前記溶接部が突出した側から、矯正ロール又は矯正治具によって前記溶接部を押圧するとともに、
前記圧延中は、前記圧延ロールの前記境界側の端面と前記境界との間隔を前記母材の板厚に相当する寸法以上空ける突き合わせ溶接継手の矯正方法。
[3] 前記圧延ロールによる前記母材の圧延において、圧下率を0.5~2.0%とする、[1]または[2]に記載の突き合わせ溶接継手の矯正方法。
[4] ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正方法であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させ、前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延する第1工程と、
前記領域内に、前記母材の板厚方向両側から圧延ロールを接触させるとともに、角変形により前記溶接部が突出した側から矯正ロール又は矯正治具によって前記溶接部を押圧しつつ、前記圧延ロールにより前記溶接部の長手方向に沿って前記母材を圧延する第2工程と、
を備え、
前記第1工程及び前記第2工程の前記圧延中は、前記圧延ロールの前記境界側の端面と前記境界との間隔を前記母材の板厚に相当する寸法以上空ける、突き合わせ溶接継手の矯正方法。
[5] 前記第1工程の前記圧延ロールによる前記母材の圧延において、圧下率を0.5~2.0%とし、
前記第2工程の前記圧延ロールによる前記母材の圧延において、圧下率を0.1~2.0%とする、[4]に記載の突き合わせ溶接継手の矯正方法。
[6] 前記圧延ロールとして、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールを用いる、[]乃至[5]の何れか一項に記載の突き合わせ溶接継手の矯正方法。
[7] ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正装置であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から接触し、かつ前記溶接部の長手方向に沿って圧延する圧延ロールを備え
前記圧延ロールは、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールであることを特徴とする突き合わせ溶接継手の矯正装置。
[8] ステンレス鋼板からなる一対の母材と溶接部とを備えてなる突き合わせ溶接継手の矯正装置であって、
前記一対の母材のそれぞれに対して、前記母材表面における前記溶接部と前記母材との境界から10mm以上離れ、かつ前記境界から25mm以内の領域内に、前記母材の板厚方向両側から接触し、かつ前記溶接部の長手方向に沿って圧延する圧延ロールを備え、
前記圧延ロールによって圧延中の前記溶接継手に対し、角変形により前記溶接部が突出した側から、前記溶接部を押圧する矯正ロール又は矯正治具を備える突き合わせ溶接継手の矯正装置。
[9] 前記圧延ロールは、ロール面が円弧状に膨出したクラウンロールである、[8]に記載の突き合わせ溶接継手の矯正装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明者が得た知見によれば、座屈変形が生じている場合、突き合わせ溶接継手の一対の母材のそれぞれにおいて、母材表面における溶接部と母材との境界に対して10~25mm離れた領域にて、母材の表面側における溶接部の長手方向の残留応力と、表面と反対側の裏面側における溶接部の長手方向の残留応力との差が大きくなる。そこで、本発明では、この領域に対して母材の肉厚方向両側から圧延ロールによって圧延を行う。これにより、突き合わせ溶接継手における座屈変形を矯正できる。また、本発明の矯正方法は、従来のロール加圧による矯正方法に比べて、十分な矯正を行うことができる。更に、本発明では母材に対して加熱する必要がないため、ステンレス鋼板よりなる突き合わせ溶接継手に好適に適用できる。更にまた、本発明は母材に対して槌打ちを行うものではないので、作業者の熟練が必要なく、複雑な形状の溶接変形にも対応できる。
【0011】
また、本発明によれば、圧延ロールによる圧延中の溶接継手に対して、角変形により溶接部が突出した側から、矯正ロール又は矯正治具によって溶接部を押圧することで、座屈変形とともに角変形を矯正できる。また、圧延ロールの境界側の端面と境界との間隔を、母材の板厚に相当する寸法以上空けることにより、溶接継手を挟んで矯正ロール又は矯正治具の反対側にある圧延ロールの端面に、矯正ロール又は矯正治具に押圧された溶接継手の母材が接触することを防止できる。
【0012】
次に、本発明の矯正方法によれば、例えば座屈変形及び角変形の両方が発生するとともに座屈変形の変形量が大きくなっている突き合わせ溶接継手に対して、母材の上記領域に対して圧延ロールで圧延する第1工程を行うことで座屈変形を矯正し、次いで、母材の上記領域に対して圧延ロールで圧延するとともにロール又は治具によって溶接部を押圧する第2工程を行うことで座屈変形及び角変形を矯正することができ、より確実に溶接変形を矯正できる。
【0013】
また、本発明の矯正装置によれば、溶接変形した溶接継手を容易に矯正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の突き合わせ溶接継手の矯正方法に供される突き合わせ溶接継手の一例を示す斜視図。
図2図2は、本発明の第1の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法を説明する図であって、溶接継手の搬送方向から見た正面図。
図3図3は、本発明の第1の実施形態の矯正方法によって矯正された突き合わせ溶接継手を示す斜視図。
図4図4は、矯正前の突き合わせ溶接継手の表面側における残留応力の分布を示す分布図。
図5図5は、矯正前の突き合わせ溶接継手の裏面側における残留応力の分布を示す分布図。
図6図6は、本発明の突き合わせ溶接継手の矯正方法に供される突き合わせ溶接継手の別の例を示す斜視図。
図7図7は、本発明の第2の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法を説明する図であって、溶接継手の搬送方向から見た正面図。
図8図8は、本発明の第2の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法を説明する図であって、溶接継手の搬送方向の側方から見た側面図。
図9図9は、本発明の第2の実施形態の矯正方法によって矯正された突き合わせ溶接継手を示す斜視図。
図10図10は、本発明の第3の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法を説明する図であって、圧延ロールの進行方向から見た正面図。
図11図11は、本発明の第3の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法の一例を説明する図であって、圧延ロールの進行方向の側方から見た側面図。
図12図12は、本発明の第3の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法の別の例を説明する図であって、圧延ロールの進行方向の側方から見た側面図。
図13図13は、本発明の突き合わせ溶接継手の矯正方法に供される突き合わせ溶接継手の別の例を示す斜視図。
図14図14は、本発明の第4の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法の第1工程を説明する図であって、圧延ロールの進行方向から見た正面図。
図15図15は、第1工程後の突き合わせ溶接継手を示す斜視図。
図16図16は、本発明の第4の実施形態である突き合わせ溶接継手の矯正方法の第2工程を説明する図であって、溶接継手の搬送方向から見た正面図。
図17図17は、第2工程後の突き合わせ溶接継手を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の突き合わせ溶接継手の矯正方法の実施形態について説明する。以下の説明では、「突き合わせ溶接継手」を「溶接継手」という場合があり、また、「突き合わせ溶接継手の矯正方法」を「矯正方法」という場合がある。
【0016】
(第1の実施形態)
まず、本実施形態の矯正方法に供される溶接継手について説明する。図1は、本実施形態の矯正方法に供される溶接継手の一例を示す斜視図である。図1に示す溶接継手100は、ステンレス鋼板からなる一対の母材101と、溶接部102とを備えている。母材101を構成するステンレス鋼板の鋼種は特に限定はなく、オーステナイト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板、フェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板のいずれであってもよいが、特に、オーステナイト系ステンレス鋼板からなる溶接継手に好適に適用できる。オーステナイト系ステンレス鋼板は熱伝導率が比較的低く、溶接変形が起きやすい傾向にあるため、特に本発明の矯正方法の矯正対象として好適である。また、母材101は、好ましくは単層溶接が可能な板厚4mm以下の薄鋼板を対象とする。
【0017】
溶接部102は、各母材101の端部同士を付き合わせて溶接することによって形成された突合せ溶接部である。図1において、母材101の上側の面を表面101aと呼び、母材101の下側の面を裏面101bと呼ぶ。図1に示す溶接継手100は、2枚の母材101、101を突き合わせ、表面101a側から溶接トーチによって入熱を与えつつ溶接されたものである。図1に示す溶接継手100においては、突き合わせ溶接後に座屈変形が生じている。図1に示す溶接継手100における座屈変形は、溶接部102の長手方向に沿って母材101が溶接トーチ側に突出するように湾曲する溶接変形とされている。
【0018】
次に、本実施形態の矯正方法について説明する。図2は、本実施形態の矯正装置及び矯正方法を説明する図であって、溶接継手の搬送方向から見た正面図である。本実施形態の矯正方法では、図2に示すように、母材101の板厚方向両側から接触し、かつ溶接部102の長手方向に沿って母材101を圧延する圧延ロール2を備えた矯正装置1を用いる。圧延ロール2は、母材101の表面101aにおける溶接部102と母材101との境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域内を、溶接部102の長手方向と平行な方向に沿って圧延可能となるように構成されている。圧延時の圧下率は、少なくとも0.5~2.0%の範囲で調整可能となっている。
【0019】
本実施形態の矯正方法は、母材101の板厚方向両側から母材101に対して圧延ロール2を接触させ、溶接部102の長手方向に沿って圧延することにより、溶接変形を矯正する。圧延は、溶接部102の幅方向両側にある一対の母材101それぞれに対して同時に圧延を行う。ここで、圧延ロール2を接触させる範囲は、母材101の表面101aにおける溶接部102と母材101との境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域R内である。以下、矯正方法における圧延条件について説明する。
【0020】
圧延対象とする母材101は、溶接部102の幅方向両側にある一対の母材101である。溶接部102の幅方向の片側の母材101に対してのみ圧延を行うと、片方の母材101のみが溶接部102の長手方向に沿って伸びてしまい、溶接変形を矯正できないばかりでなく、直線状に形成された溶接部102が湾曲してしまう。従って、溶接部102の幅方向両側の母材101に対して同時に圧延を行うことが好ましい。
【0021】
圧延ロール2は、図2に示すように、ロール面2bが円弧状に膨出したクラウンロールを用いることが好ましい。圧延ロール2としてクラウンロールを用いることで、母材101との接触面積が小さくなって効率よく圧下が可能になり、また、圧延ロール2による圧痕が目立ちにくくなる。更には、圧延中に圧延ロール2に対して母材101の姿勢が傾斜した場合にも、母材101を塑性変形させるおそれがない。圧延ロール2のクラウン高さは100μm以上とすることが好ましい。
【0022】
圧延ロール2を接触させる範囲は、図2に示すように、母材101の表面101aにおける溶接部102と母材101との境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域内とする。溶接部102と母材101との境界103は、溶接部102の溶接金属と母材との境界とすることが好ましい。
【0023】
溶接継手100に座屈変形が生じている場合、境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域Rでは、溶接継手100の一対の母材101のそれぞれにおいて、母材101の表面101a側における溶接部102の長手方向の残留応力と、表面101aと反対側の裏面101b側における溶接部102の長手方向の残留応力との差が大きくなる。この残留応力の差により座屈変形が生じていると推測される。そこで本実施形態では、この領域Rに対して母材101の肉厚方向両側から圧延ロール2で挟んで軽圧下を行うことにより、母材101の表面101a及び裏面101bにおける残留応力の差を小さくする。これにより、座屈変形が緩和されるようになる。圧延ロール2を接触させる範囲としてより好ましくは、境界103から12mm以上離れ、かつ境界103から17mm以内の領域内とする。
【0024】
軽圧下を行う場合の圧下率は、0.5~2.0%の範囲とする。圧下率を0.5%以上にすることで、母材101の表面101a及び裏面101bにおける残留応力の差を十分小さくすることができ、座屈変形を緩和できる。また、圧下率を2.0%以下にすることで、溶接部102近傍における割れの発生を防止できる。
【0025】
図3には、矯正後の溶接継手110を示す。図3に示す溶接継手100では、溶接部102の長手方向に沿った母材101の湾曲が解消され、座屈変形が矯正されている。
【0026】
図4には、矯正前の突き合わせ溶接継手100の表面101a側における残留応力の分布図を示し、図5には裏面101b側における残留応力の分布図を示す。図4に示すように、溶接継手100の表面101a側では、溶接部102の近傍にて溶接部102の長手方向に沿って引張残留応力が生じている。一方、図5に示すように、溶接継手100の裏面101b側では、溶接部102の近傍にて溶接部102の長手方向に沿って圧縮残留応力が生じている。そして、溶接部102と母材101との境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域R内では、表面101a側の残留応力と裏面側の残留応力との差が大きくなっており、特に境界から12mm以上離れ、かつ境界103から17mm以内の領域内では、残留応力の差が特に大きくなっている。本実施形態では、表面101a及び裏面101bにおいて残留応力の差が大きくなっている領域に対して圧延ロール2による圧延を行うことで、表面101a及び裏面101bにおいて残留応力の差が小さくなり、座屈変形を解消できるようになる。
【0027】
以上、本実施形態によれば、溶接部102と母材101との境界103から10~25mm離れた領域Rに対して、母材101の肉厚方向両側から圧延ロール2によって圧延を行うことで、突き合わせ溶接継手100における座屈変形を矯正できる。また、本実施形態の矯正方法は、従来のロール加圧による矯正方法に比べて、十分な矯正を行うことができる。更に、本実施形態では母材101に対して加熱する必要がないため、ステンレス鋼板よりなる突き合わせ溶接継手100に好適に適用できる。更にまた、本実施形態は母材101に対して槌打ちを行うものではないので、作業者の熟練が必要なく、複雑な形状の溶接変形にも対応できる。
【0028】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の矯正方法に供される溶接継手としては、図6に示すような溶接継手200を例示できる。図6に示す溶接継手200は、ステンレス鋼板からなる一対の母材101と、溶接部102とを備えている。図6に示す溶接継手200は、突き合わせ溶接後に座屈変形とともに角変形が生じている。座屈変形は、溶接部102の長手方向に沿って母材101が溶接トーチ側に突出するように湾曲する溶接変形とされている。また、角変形は、溶接部102を谷線としてV字状に変形する溶接変形とされている。
【0029】
次に、本実施形態の矯正方法について説明する。図7及び図8は、本実施形態の矯正装置及び矯正方法を説明する図である。本実施形態の矯正方法では、図7及び図8に示すように、第1の実施形態の場合と同様な圧延ロール2を備えるとともに、溶接部102を押圧する矯正ロール3を備えた矯正装置10を用いる。溶接部102を押圧する矯正ロール3は、溶接部102の長手方向に沿って溶接部102を押圧するようになっている。また、矯正ロール3は、ロール面3aが円弧状に膨出したクラウンロールとされている。矯正装置10においては、図8に示すように、矢印Xの方向が溶接継手200の搬送方向とされている。
【0030】
また、溶接継手200が溶接線方向に長い場合には、矯正装置10には、図8に示すように、圧延ロール2の溶接継手の搬送方向X(溶接線方向)の前方および/または後方に溶接継手200を下面から支持する支持ロール5を備えていてもよい。
【0031】
また、矯正ロール3の位置は、図8に示すように、溶接継手200の搬送方向Xと直交する方向から見た場合に、圧延ロール2と並ぶ位置にあることが好ましい。圧延ロール2及び矯正ロール3の位置は、それぞれのロール2、3が母材101に接触する接触位置を基準とし、溶接継手200の搬送方向Xと直交する方向から見た場合に接触位置が同じ位置に並んでいればよい。矯正ロール3の位置を圧延ロール2の位置と同じにすることで、圧延ロール2による座屈変形の矯正と同時に、矯正ロール3による角変形の矯正を行うことができる。なお、矯正ロール3の位置は、圧延ロール2と完全に同じ位置である必要はない。例えば、矯正ロール3の位置は、圧延ロール2の位置に対して10mmの範囲でずれていてもよい。
【0032】
本実施形態の矯正方法は、第1の実施形態の場合と同様に行う。すなわち、母材101の板厚方向両側から母材101に対して圧延ロール2を接触させ、溶接部102の長手方向に沿って圧延することにより、溶接変形を矯正する。圧延は、溶接部102の幅方向両側にある一対の母材101それぞれに対して同時に圧延を行う。圧延ロール2を接触させる範囲は、母材101の表面101aにおける溶接部102と母材101との境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域R内とする。圧延ロール2による圧下率は0.5~2.0%の範囲とする。
【0033】
また、本実施形態の矯正方法では、圧延ロール2による圧延中に、圧延ロール2の境界側の端面2aと境界103との間隔Mを、母材の板厚に相当する寸法以上空けたままとする。
【0034】
更に、本実施形態では、図7及び図8に示すように、角変形により溶接部102が突出した側から矯正ロール3によって溶接部102を押圧する。溶接部102の両側にある母材101が圧延ロール2によって拘束されているため、矯正ロール3によって溶接部102を押圧することで、角変形に対して逆曲げの変形が生じる。逆曲げの変形を生じさせるためには、矯正ロール3の高さを、下側の圧延ロール2と同じ高さとするか、下側の圧延ロール2の高さ以上、下側の圧延ロール2の高さ+2mm以下の範囲とするとよい。このように、溶接継手200において角変形に対して逆曲げの変形を生じさせることで、角変形を解消させることが可能になる。
【0035】
また、圧延ロール2が溶接部102に近すぎると、矯正ロール3によって溶接継手200を逆曲げして母材101を上側に反らせた際に、溶接継手200を挟んで矯正ロール3の反対側にある上側の圧延ロール2の端面2aに、上側に反った母材101が接触するおそれがある。そのため、本実施形態のように矯正ロール3を使用する場合は、圧延ロール2の境界側の端面2aと境界103との間隔Mを、少なくとも母材101の板厚以上にする。
【0036】
図9には、矯正後の溶接継手210を示す。図9に示す溶接継手210では、溶接部102の長手方向に沿った母材101の湾曲が解消され、座屈変形が矯正されている。また、角変形も解消されている。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、圧延ロール2によって圧延中の溶接継手200に対して、角変形により溶接部102が突出した側から矯正ロール3によって溶接部102を押圧することで、座屈変形とともに角変形を同時に矯正することができる。また、圧延ロール2の境界側の端面2aと境界103との間隔Mを母材101の板厚に相当する寸法以上空けることにより、溶接継手200を挟んで矯正ロール3の反対側にある圧延ロール2の端面2aに、矯正ロール3に押圧された溶接継手200の母材101が接触することを防止できる。
【0038】
なお、本実施形態の矯正方法では、座屈変形及び角変形が生じた溶接継手200を矯正する場合について説明したが、本実施形態の矯正対象は特に限定はなく、角変形のみが生じた溶接継手を対象としてもよい。
【0039】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の矯正対象は、例えば、第2の実施形態と同様に、座屈変形及び角変形が生じている溶接継手200とする。
【0040】
本実施形態では、第2の実施形態における矯正ロール3に代えて、矯正治具4を用いる。図10及び図11はそれぞれ、本実施形態の矯正装置及び矯正方法を説明するための正面図及び側面図である。図10及び図11に示す矯正装置20には、角変形により溶接部102が突出した側から溶接部102を押圧する矯正治具4が備えられている。矯正治具4は、裏面101b側から溶接部102を押圧するようになっている。また、図10に示すように、溶接継手の搬送方向から見た場合の矯正治具4の先端面4aは、円弧状に膨出した曲面とされている。また、図11に示すように、溶接継手の搬送方向の側方から見た場合の矯正治具4の先端面4aは、上方に円弧状に突出した曲面とされている。これにより、矯正治具4と溶接部102とを相対的に摺動させつつ溶接部102を押圧できるようになっている。矯正治具4と溶接部102との間には、摺動性を高めるために潤滑油などを塗布してもよい。
【0041】
本実施形態の矯正方法は、第1の実施形態の場合と同様に行う。すなわち、母材101の板厚方向両側から母材101に対して圧延ロール2を接触させ、溶接継手200を搬送方向Xの方向に搬送させつつ、溶接部102の長手方向に沿って圧延することにより、溶接変形を矯正する。圧延は、溶接部102の幅方向両側にある一対の母材101それぞれに対して圧延を行う。圧延ロール2を接触させる範囲は、母材101の表面101aにおける溶接部102と母材101との境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域R内とする。また、圧延ロール2による圧延中は、圧延ロール2の境界側の端面2aと境界103との間隔を母材101の板厚に相当する寸法以上空けたままとする。圧延ロール2による圧下率は0.5~2.0%の範囲とする。
【0042】
更に、本実施形態では、図10及び図11に示すように、角変形により溶接部102が突出した側から矯正治具4で溶接部102を押圧しつつ、圧延ロール2による圧延を行う。溶接部102の両側にある母材101が圧延ロール2によって拘束されているため、矯正治具4によって溶接部102を押圧することで、角変形に対して逆曲げの変形が生じる。逆曲げの変形を生じさせるためには、矯正治具4の高さを、下側の圧延ロール2と同じ高さとするか、下側の圧延ロール2の高さ以上、下側の圧延ロール2の高さ+2mm以下の範囲とする。このように、溶接継手200において角変形に対して逆曲げの変形を生じさせることで、角変形を解消させることが可能になる。
【0043】
矯正後の溶接継手は、座屈変形及び角変形が矯正されたものとなる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態によれば、圧延ロール2によって圧延中の溶接継手200に対して、角変形により溶接部102が突出した側から矯正治具4によって溶接部102を押圧することで、座屈変形とともに角変形を同時に矯正することができる。また、圧延ロール2の境界側の端面2aと境界103との間隔Mを母材101の板厚に相当する寸法以上空けることにより、溶接継手200を挟んで矯正ロール3の反対側にある圧延ロール2の端面2aに、矯正ロール3に押圧された溶接継手200の母材101が接触することを防止できる。
【0045】
なお、本実施形態に係る矯正治具4は、図10及び図11に示したものに限定されるものではない。例えば、図12に示すように、図10及び図11に示した矯正治具4よりも、溶接部102の長手方向に沿う長さを長くした矯正治具44を用い、矯正治具44上に溶接継手200を載置しておき、矯正治具44及び溶接継手200に対して圧延ロール2を矢印Yの方向に移動させながら圧延しつつ、矯正治具44によって溶接部102を押圧することで、角変形に対して逆曲げの変形が生じさせてもよい。
【0046】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の矯正対象は、図13に示すような溶接継手300を例示できる。図13に示す溶接継手300は、図6に示した溶接継手と同様に、突き合わせ溶接後に座屈変形とともに角変形が生じている。図13に示す溶接継手300は、図6に示した溶接継手200に比べて、座屈変形の変形量が大きくなっている。
【0047】
図14図17には、本実施形態の矯正装置及び矯正方法を説明する図である。本実施形態の矯正方法では、図14または図16に示すように、第2の実施形態と同様な矯正装置20を用いる。この矯正装置20は、圧延ロール2を備えるとともに、溶接部102を押圧する矯正ロール3を備えている。溶接部102を押圧する矯正ロール3は、溶接部102の長手方向に沿って溶接部を押圧するようになっている。また、矯正ロール3は、ロール面3aが円弧状に膨出したクラウンロールとされている。
【0048】
本実施形態の矯正方法は、第1工程と第2工程とを順次行う。第1工程は、第1の実施形態の場合と同様に、母材101の板厚方向両側から母材101に対して圧延ロール2を接触させ、溶接部102の長手方向に沿って圧延することにより、溶接変形を矯正する。この第1工程では、矯正ロール3による矯正は行わない。次に第2工程では、第2実施形態の場合と同様にして、第1工程後の溶接継手300に対して、母材101の板厚方向両側から母材101に対して圧延ロール2を接触させて、溶接部102の長手方向に沿って圧延するとともに、矯正ロール3によって溶接部102を押圧することにより、溶接変形を矯正する。
【0049】
第1工程における圧延ロール2による圧下率は0.5~2.0%の範囲とし、第2工程における圧延ロール2による圧下率は0.1~2.0%の範囲とすることが好ましい。
【0050】
すなわち、第1工程では、図14に示すように、母材101の板厚方向両側から母材101に対して圧延ロール2を接触させ、溶接部102の長手方向に沿って圧延することにより、溶接変形を矯正する。圧延は、溶接部102の幅方向両側にある一対の母材101それぞれに対して同時に圧延を行う。圧延ロール2を接触させる範囲は、溶接部102と母材101との境界103から10mm以上離れ、かつ境界103から25mm以内の領域内とする。また、圧延ロール2による圧延中は、圧延ロール2の境界側の端面2aと境界103との間隔Mを母材の板厚に相当する寸法以上空けたままとする。また、第1工程では、矯正ロール3を溶接部102の下方に退避させたままとする。
【0051】
図15には、第1工程終了後の溶接継手310を示す。図15に示すように、第1工程終了後の溶接継手310は、圧延ロールによる圧延によって、座屈変形が完全、若しくは不完全ながら矯正されている。また、角変形については、ある程度は矯正されているものの、完全に矯正されるまでには至っていない。
【0052】
次に、第2工程では、図16に示すように、母材101の板厚方向両側から母材101に対して圧延ロール2を接触させ、溶接部102の長手方向に沿って圧延するとともに、角変形により溶接部102が突出した側から矯正ロール3によって溶接部102を押圧する。矯正ロール3の高さは、第2の実施形態の場合と同様でよい。また、圧延ロール2による圧延条件は、第1工程と同じであってもよいし、第1工程から変化させてもよい。例えば、第2工程における圧下率は、0.1~2.0%の範囲内で第1工程における圧下率よりも低くしてもよい。また、第2工程における圧延ロール2の接触位置は、境界203から10mm以上離れ、かつ境界203から25mm以内の領域内において、第1工程における接触位置とは異なる位置にしてもよい。
【0053】
図17には、第2工程終了後の溶接継手320を示す。図17に示すように、第2工程終了後の溶接継手320は、圧延ロール2による圧延によって、座屈変形がほぼ完全に矯正されている。また、角変形についてもほぼ完全に矯正されている。
【0054】
本実施形態の矯正方法は、特に座屈変形の変形量が大きく、矯正ロール3による角変形の矯正が十分に行えない場合であっても、第1工程によって座屈変形を矯正することで座屈変形の変形量を小さくできるので、その後の第2工程によって矯正ロール3を用いて角変形を確実に矯正できるようになる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の矯正方法によれば、座屈変形及び角変形の両方が発生するとともに座屈変形の変形量が大きくなっている突き合わせ溶接継手300に対して、母材101の上記領域Rに対して圧延ロール2で圧延する第1工程を行うことで座屈変形を矯正し、次いで、母材101の上記領域Rに対して圧延ロール2で圧延するとともに矯正ロール3によって溶接部102を押圧する第2工程を行うことで、座屈変形及び角変形を矯正することができ、より確実に溶接変形を矯正できる。
【0056】
なお、本実施形態では、矯正ロール3を供えた矯正装置20による矯正方法を説明したが、本発明はこれに限らず、第3の実施形態のように矯正治具4、44を備えた矯正装置30によって本実施形態の矯正方法を行ってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1、10、20、30…矯正装置、2…圧延ロール、2a…端面、3…矯正ロール、4、44…矯正治具、100、200、300…突き合わせ溶接継手、101…母材、101a…表面、102…溶接部、103境界、R…領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17