(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】上飾り機構及びミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 61/00 20060101AFI20241213BHJP
D05B 1/10 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
D05B61/00 B
D05B1/10
(21)【出願番号】P 2021081878
(22)【出願日】2021-05-13
【審査請求日】2024-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】三藤 智郎
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-085471(JP,A)
【文献】特開2006-141424(JP,A)
【文献】特開平10-137474(JP,A)
【文献】特開2003-038872(JP,A)
【文献】米国特許第05901655(US,A)
【文献】独国特許出願公開第19740178(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 61/00
D05B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重環縫いミシンに設けられる上飾り機構であって、
スプレッダ
と上飾り糸案内とを、
同一方向に一体的に移動させることで、針と協働させて上飾り縫いを実行させる展開状態と、前記針から
前記スプレッダ及び前記上飾り糸案内が離隔した格納状態とに切り替え可能な展開格納機構を備える上飾り機構。
【請求項2】
前記展開格納機構は、前記スプレッダ及び前記上飾り糸案内を支持する軸を備え、
前記スプレッダ及び前記上飾り糸案内は、前記軸上をスライド移動することで、前記展開状態と前記格納状態とに切り替えられる請求項1に記載の上飾り機構。
【請求項3】
前記針を駆動させる主軸からの動力を、前記展開状態では前記スプレッダに伝達して前記格納状態では遮断する伝動機構を備える請求項1
または2に記載の上飾り機構。
【請求項4】
前記伝動機構は、前記格納状態から前記展開状態に切り替わる際に前記針の動作と前記スプレッダの動作を所定のタイミングに合わせる位置合わせ機構を備える請求項
3に記載の上飾り機構。
【請求項5】
前記展開状態と前記格納状態とに切り替える際に前記スプレッダを所定の姿勢及び経路で移動させる案内機構を備える請求項1~
4の何れか一項に記載の上飾り機構。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の上飾り機構を備えるミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重環縫いミシンに設けられる上飾り機構、及びこの上飾り機構を備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、JIS-L0120において表示記号406、407等で規定される二重環縫いを行うことができるミシンが知られている。このミシンにおいては、上飾り機構を取り付けることで、表示記号406等の縫目に飾り糸を追加した表示記号602、605(表示記号605の縫目を
図7に示す)等で規定される上飾り糸付き二重環縫い(以下「上飾り縫い」と称する)を行うことが可能である。なお、
図7においてハッチングを付した糸が飾り糸である。
【0003】
ところで上述した2種類の二重環縫いが可能なミシンにおいて、飾り糸を使用しない二重環縫いを行う場合に上飾り機構が取り付けられていると、針の近くに位置する上飾り機構が邪魔になって作業性が低下する。このため、飾り糸を使用しない二重環縫いを行う場合には上飾り機構を取り外し、上飾り縫いを行う場合には上飾り機構を取り付けることが行われている。特許文献1では、上飾り機構としてのスプレッダをミシンの駆動アームに取り付けるにあたり、位置合わせが容易に行えるように合印を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献1のミシンは、上飾り機構の位置合わせ作業が簡便化できるとはいえ、作業者は合印を目視で確認しながら作業を行わなければならず、作業自体が不要になる訳ではない。またミシンから取り外した上飾り機構を紛失したり、これを保管している際に誤って破損させたりする等の不具合が生じるおそれもある。
【0006】
このような問題点に鑑み、本発明は、ミシンから取り外す作業は不要であり、また飾り糸を使用しない二重環縫いを行う場合も作業性を損なうことがない上飾り機構、及びこの上飾り機構を備えるミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、二重環縫いミシンに設けられる上飾り機構であって、スプレッダと上飾り糸案内とを、同一方向に一体的に移動させることで、針と協働させて上飾り縫いを実行させる展開状態と、前記針から前記スプレッダ及び前記上飾り糸案内が離隔した格納状態とに切り替え可能な展開格納機構を備えることを特徴とする。
【0008】
このような上飾り機構では、前記展開格納機構は、前記スプレッダ及び前記上飾り糸案内を支持する軸を備え、前記スプレッダ及び前記上飾り糸案内は、前記軸上をスライド移動することで、前記展開状態と前記格納状態とに切り替えられることが好ましい。
このような上飾り機構は、前記針を駆動させる主軸からの動力を、前記展開状態では前記スプレッダに伝達して前記格納状態では遮断する伝動機構を備えることが好ましい。
【0009】
またこのような上飾り機構において、前記伝動機構は、前記格納状態から前記展開状態に切り替わる際に前記針の動作と前記スプレッダの動作を所定のタイミングに合わせる位置合わせ機構を備えることが好ましい。
【0010】
そしてこのような上飾り機構は、前記展開状態と前記格納状態とに切り替える際に前記スプレッダを所定の姿勢及び経路で移動させる案内機構を備えることが好ましい。
【0011】
また前記展開格納機構に連動して、前記スプレッダに上飾り糸を案内して上飾り縫いを実行させる展開状態と、前記針から離隔した格納状態とに切り替え可能な上飾り糸案内を備えることが好ましい。
【0012】
また本発明は、上述した何れかの上飾り機構を備えるミシンでもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上飾り機構によれば、上述した展開格納機構によってスプレッダを展開状態に切り替えることで、ミシンからスプレッダを取り外すことなく上飾り縫いを行うことができる。すなわち、スプレッダの紛失や破損につながるおそれがなく、またスプレッダを着脱する作業が不要になるため作業性が良くなる。また展開格納機構によってスプレッダを格納状態に切り替えると、スプレッダを針から離隔させることができるため、飾り糸を使用しない二重環縫いを作業性よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る上飾り機構を備えるミシンの一実施形態を示した斜視図である。
【
図4】
図1に示した上飾り機構における上飾り案内の展開状態と格納状態に関する説明図である。
【
図5】
図1に示した上飾り機構におけるスプレッダの展開状態と格納状態に関する説明図である。
【
図6】
図1に示した上飾り機構の動作に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る上飾り機構の一実施形態、及びこの上飾り機構を備えるミシンの一実施形態について説明する。以下の説明においては、便宜上、図面に示した右、左、前、後、上、下、及びX、Y、Zの向きで説明することとする。
【0016】
図1は、本発明に係るミシンを具現化したミシン1を示している。ミシン1には、本発明に係る上飾り機構を具現化した上飾り機構2が搭載されている。そしてミシン1のアーム部1aには、不図示のミシンモータによって回転する主軸3が設けられ、ベッド部1bには、ミシンモータによって回転する不図示の下軸が設けられている。主軸3には、上飾り機構2(後述するスプレッダ14を備えている)と針(本実施形態では第一針4、第二針5、第三針6の3本で構成される)が連結され、下軸には、ベッド部1bに設けられたルーパー機構(不図示)と送り機構(不図示)が連結される。またミシン1には、糸コマに巻かれた第一針糸T1、第二針糸T2、第三針糸T3、飾り糸T4、ルーパー糸T5が取り付けられる。そして、ミシンモータが回転して主軸3と下軸に連結する各要素が協働することにより、第一針糸T1等で縫目を形成して布を縫い合わせていく。本実施形態のミシン1によれば、
図7に示した上飾り縫いを行うことが可能であり、また飾り糸T4を使用しない二重環縫いを行うことも可能である。なおミシン1には、第三針6等の周辺において、針糸ガイド21等の部材が取り付けられている。
【0017】
図1の部分拡大図は、スプレッダ14が第三針6等の近傍まで移動した展開状態を示していて、この状態でミシンモータが回転すると上飾り縫いを行うことができる。また
図1の全体斜視図は、スプレッダ14が第三針6等に対して上方に移動してこれらから離隔した格納状態を示していて、この状態でミシンモータが回転すると飾り糸T4を使用しない二重環縫いを行うことができる。本実施形態の上飾り機構2では、格納状態において後述する展開レバー17を押し下げることにより、展開状態に切り替えることができる。また展開状態において前方から後方へ格納レバー18を押すことにより、格納状態に切り替えることができる。
【0018】
図2は、格納状態の上飾り機構2と主軸3を示している。主軸3には、これとともに回転する上飾りカム7が取り付けられている。また上飾り機構2は、ベースプレート8を備えていて、ベースプレート8は、不図示のミシンフレームに固定される。更に上飾り機構2は、長尺円柱状の上飾り軸9と、板状の連結プレート10と、短尺円柱状のフォロアピン11を備えている。ここでベースプレート8は、上飾り軸9を回転可能に支持している。また図示したように、連結プレート10の一端部は上飾り軸9と連結し、連結プレート10の他端部はフォロアピン11と連結する。なお上飾り軸9は、不図示のバネによって矢印Aの向き(上方から下方に向かう視点で時計回り)に付勢されていて、フォロアピン11は上飾りカム7に常に接触している。このため、上飾りカム7に応じて主軸3が回転し、主軸3の回転に応じて上飾り軸9は揺動する。
【0019】
図3は、上飾り機構2の分解図である。本実施形態の上飾り機構2は、更に、機構コア12、上飾り糸案内13、スプレッダ14、上側連結体15、下側連結体16、展開レバー17、格納レバー18、段付きねじ19を備えている。なお、
図3、
図4、
図5では図面の都合上カバー20等一部の部品を省略している。
【0020】
機構コア12は、概略中空状に形作られていて、上飾り軸9に挿入されてこれに回転可能且つ軸方向にスライド可能に支持される。また機構コア12は、外周面から突出するスライド部12aを備えている。
【0021】
上飾り糸案内13は、上飾り軸9に挿入可能な穴を有するとともに上下方向に間隔をあけて設けられる一対の支持部13aを備えている。支持部13a同士の間隔は、機構コア12の全長と略同一である。また上飾り糸案内13は、左側から右側に向けて延在する板状の解除部受け13bと、解除部受け13bの上端部に設けられ前方から後方に向けて突き出す位置決め部13cを備えている。
【0022】
スプレッダ14は、上飾り軸9に挿入可能な穴を有するとともに上下方向に間隔をあけて設けられる一対の支持部14aを備えている。支持部14a同士の間隔は、上側に位置する支持部13aの上面から下側に位置する支持部13aの下面までの長さと略同一である。またスプレッダ14は、左から右に向けて突き出すスプレッダ退避カムフォロア14bを備えている。
【0023】
上側連結体15は、短尺円柱状であって、上下方向に指向した状態で上端部がスプレッダ14に連結している。すなわち上側連結体15は、スプレッダ14と一体的に動作する。なお上側連結体15の下端部は、半球面状に形作られている。
【0024】
下側連結体16は、上飾り軸9の下端部に連結される連結穴16aを備えている。下側連結体16と上飾り軸9とは所定の角度関係を持って取り付けされているため、上飾りカム7の回転角度と下側連結体16の揺動角度は一意に定められる。また下側連結体16は、連結穴16aの径方向外側に、上下方向に延在する溝状のスプレッダ角度決めカム部16bを備えている。なおスプレッダ角度決めカム部16bの溝幅は、上側連結体15の外径と略同一である。そしてスプレッダ角度決めカム部16bの上方には、下方から上方に向かうにつれて間隔が広くなるように傾く一対の傾斜部16cが設けられている。
【0025】
展開レバー17は、概略L字状に形作られていて、上下方向に延在する板状部分17aには、スライド部固定穴17bと、スライド部固定穴17bの下方に位置する段付きねじスライド部17cが設けられている。また板状部分17aには、右側に向けて突出する円柱状の回転ピン17dが設けられている。
【0026】
格納レバー18は、長手方向中央部に位置するとともに回転ピン17dを挿入可能なピン穴18aを備えている。格納レバー18の上端部には、後方から前方に向けて突出する位置決め解除部18bが設けられている。
【0027】
なお上飾り機構2は、上飾り糸案内13、スプレッダ14、展開レバー17、格納レバー18をそれぞれ付勢する不図示のバネを備えている。そして上飾り糸案内13は、矢印Bの向き(上方から下方に向かう視点で時計回り)に付勢され、スプレッダ14は、矢印Cの向き(上方から下方に向かう視点で反時計回り)に付勢され、展開レバー17は矢印Dの向き(下方から上方に向かう向き)に付勢され、格納レバー18は矢印Eの向き(右から左に向かう視点で反時計回り)に付勢される。
【0028】
ここで上述したベースプレート8について説明する。本実施形態のベースプレート8は、上飾り軸9に挿入可能な穴を有するとともに上下方向に間隔をあけて設けられる一対の支持部8aを備えている。またベースプレート8の右側に位置する板状部分8bには、これを貫通して上下方向に延在するスライド溝8cが設けられている。また板状部分8bには、スライド溝8cよりも前方において、上下方向に延在するスプレッダスライド溝8dが設けられている。スプレッダスライド溝8dの下方には、上方から下方に向かうにつれて前方から後方に向けて傾斜したスプレッダ退避カム部8eが設けられている。また板状部分8bの前方端部には、上下方向に延在する上飾り糸案内スライドカム部8fが設けられている。そして上飾り糸案内スライドカム部8fの上方には、後方から前方に向けて突出するストッパ8gが設けられ、上飾り糸案内スライドカム部8fの下方には、前方から後方に向けて板状部分8bを切り欠くようにして形成した位置決め溝8hが設けられている。
【0029】
上飾り機構2を構成するこれらの部材は、一例として下記の手順で組み立てることができる。まず、回転ピン17dにピン穴18aを挿入して、展開レバー17に対して格納レバー18を回転可能に支持する。なお格納レバー18は、不図示の抜け止め手段(例えば回転ピン17dの先端部に細溝を設けておき、ピン穴18aを挿入した後にEリングを嵌め込む)によって、展開レバー17に抜け止め保持される。そして、段付きねじスライド部17cに挿入した段付きねじ19をベースプレート8にねじ止めする。これにより展開レバー17は、ベースプレート8に対して上下方向に移動可能に支持される。
【0030】
またベースプレート8に対して機構コア12、上飾り糸案内13、スプレッダ14を取り付けるにあたっては、一対の支持部13aで機構コア12を挟み込むように、また一対の支持部14aで一対の支持部13aを挟み込むようにした後、ベースプレート8の一方の支持部8aに挿通させた上飾り軸9を、支持部14a等に挿入する。なおベースプレート8に対して機構コア12等を組み込む際、スライド部12aは、スライド溝8cを挿通させてスライド部固定穴17bに挿入される。そして上飾り軸9の下端部を、下側連結体16の連結穴16aに挿入して、下側連結体16を上飾り軸9に取り付ける。
【0031】
このようにして組み立てた状態において、機構コア12、上飾り糸案内13、スプレッダ14、展開レバー17、及び格納レバー18は、ベースプレート8と上飾り軸9に対して上下方向に一体的に移動するように支持される。また上述したように、展開レバー17は矢印Dの向きに付勢されるため、機構コア12、上飾り糸案内13、スプレッダ14、展開レバー17、及び格納レバー18は、位置決め部13cがストッパ8gの下端部に押し当たって上下方向に位置決めされる。また飾り糸案内13は、矢印Bの向きに付勢されるため、位置決め部13cが上飾り糸案内スライドカム部8fに押し当たって周方向に位置決めされる。そしてスプレッダ14は、矢印Cの向きに付勢されるため、スプレッダ退避カムフォロア14bがスプレッダスライド溝8dに挿入された状態で周方向に位置決めされる。ここで、格納レバー18には矢印Eの向きへの付勢力が作用しているが、格納レバー18は、
図2に示したカバー20で覆われているため、付勢された状態であっても矢印Eの向きに過剰に回転することはない。なお上側連結体15は、後述するように下側連結体16のスプレッダ角度決めカム部16bに挿入されるものであるが、位置決め部13cがストッパ8gの下端部に押し当たる状態においては、下側連結体16の上方に位置している。
【0032】
次に、本実施形態における上飾り機構2の格納状態と展開状態について説明する。まず
図4を参照しながら上飾り糸案内13の格納状態と展開状態について説明する。なお
図4においてベースプレート8と展開レバー17は、一部のみを示している。また
図4(a)は格納状態を示した図であって、
図4(b)は展開状態を示した図である。
【0033】
図4(a)に示すように格納状態において、展開レバー17は矢印Dの向きに付勢されている。このため、展開レバー17と上下方向に一体的に移動する上飾り糸案内13も、矢印Dの向きに付勢される。従って上飾り糸案内13は、上下方向において、位置決め部13cがストッパ8gの下端部に押し当たって停止している。また上飾り糸案内13は、矢印Bの向きに付勢されているため、位置決め部13cは、上飾り糸案内スライドカム部8fに押し当てられている。
【0034】
そして展開レバー17を押し下げていくと、展開レバー17と連動して上下動する上飾り糸案内13は、位置決め部13cが上飾り糸案内スライドカム部8fに押し当てられた状態で下方に向けて移動する。そして、位置決め部13cが位置決め溝8hに差し掛かると、位置決め部13cは、矢印Bの向きへの付勢力によって位置決め溝8hに嵌合する。すなわち上飾り糸案内13は、位置決め部13cと位置決め溝8hによって上下方向に位置決めされるため、展開レバー17から手を離しても、上飾り糸案内13や展開レバー17は、下方に移動した状態(展開状態)で維持される。
【0035】
このように、展開レバー17を押し下げて上飾り糸案内13を格納状態から展開状態に切り替える際、上飾り糸案内13は、上飾り軸9を中心とする角度を保ったまま下降し、位置決め部13cが位置決め溝8hに嵌合する時点で矢印Bの向きに回転する。すなわち上飾り糸案内13は、
図1の部分拡大図に示すように展開状態では第三針6等の近傍に位置するものの、格納状態から展開状態に切り替わる途中においては、第三針6等から離れる向きに回転した角度を保って下降していくため、第三針6等やその周辺に設けられた針糸ガイド21等との衝突を回避することができる。
【0036】
一方、展開状態から格納状態に切り替える場合は、
図4(b)に示すように、格納レバー18の下端部を前方から後方に向けて押圧する。この動作によって格納レバー18は、矢印Eに対して逆向きに回転し、位置決め解除部18bが上飾り糸案内13の解除部受け13bに押し当たる。これにより上飾り糸案内13は、矢印Bに対して逆向きに回転するため、位置決め部13cと位置決め溝8hとの嵌合が解除される。その後、上飾り糸案内13は、矢印Bの向きへの付勢力と矢印Dの向きへの付勢力によって、位置決め部13cが上飾り糸案内スライドカム部8fに押し当てられた状態で上方に向けて移動し、位置決め部13cがストッパ8gの下端部に押し当るところで停止する。
【0037】
このように展開状態から格納状態に切り替える際、上飾り糸案内13は、矢印Bに対して逆向きに回転した後に上昇する。すなわち
図1の部分拡大図に示すように、第三針6等の近傍に位置していた展開状態の上飾り糸案内13は、第三針6等から離隔した後に、その角度を保ったまま上昇するため、第三針6等やその周辺に設けられた針糸ガイド21等との衝突を回避することができる。
【0038】
次に
図5を参照しながらスプレッダ14の格納状態と展開状態について説明する。なお
図5においてベースプレート8と展開レバー17は、一部のみを示している。また
図5(a)は格納状態を示した図であって、
図5(b)は展開状態を示した図である。
【0039】
上述したようにスプレッダ14は、展開レバー17等とともに上下方向に一体的に移動する。そして展開レバー17等は、
図4(a)で示したように格納状態において、矢印Dの向きへの付勢力によって、位置決め部13cがストッパ8gの下端部に押し当たった状態で停止している。このためスプレッダ14も、
図5(a)に示した格納状態で上下方向に停止している。また格納状態においてスプレッダ退避カムフォロア14bは、スプレッダスライド溝8dに挿入されているため、スプレッダ14の回転方向の動きは規制されている。なお、上述したようにスプレッダ14には矢印Cの向きへの付勢力が作用しているため、スプレッダ退避カムフォロア14bは、スプレッダスライド溝8dにおける前側の壁面に押し当たっている。
【0040】
そして展開レバー17を押し下げていくと、スプレッダ14は展開レバー17と連動して、スプレッダ退避カムフォロア14bがスプレッダスライド溝8dに挿入された状態で下方に向けて移動する。なおスプレッダスライド溝8dの下方には、傾斜したスプレッダ退避カム部8eが設けられていて、溝の幅は、上方から下方に向かうにつれて前方から後方に向かって広がっている。すなわち、
図5(a)に示した格納状態において、スプレッダ14の回転方向の動きは規制されているものの、
図5(b)に示した展開状態において、スプレッダ14の回転方向の動きの規制は解除される。
【0041】
ところでスプレッダ14には、上側連結体15が連結しているため、スプレッダ14が下降する際は上側連結体15も下降する。ここで上側連結体15の下方には、上飾り軸9に連結した下側連結体16が位置している。このため、スプレッダ14が下降すると、上側連結体15が下側連結体16に挿入され、上側連結体15の下端部がスプレッダ角度決めカム部16bに嵌合する。本実施形態において、スプレッダ角度決めカム部16bの溝幅と上側連結体15の外径は略同一であるため、上側連結体15がスプレッダ角度決めカム部16bに嵌合することで、スプレッダ14は下側連結体16と一体的に揺動する。
【0042】
なお、下側連結体16が連結する上飾り軸9は、
図2に示すように上飾りカム7にフォロアピン11が接触しているため、主軸3が回転している状態では常に揺動する。このためスプレッダ14が下降する際に、下側連結体16のスプレッダ角度決めカム部16bが上側連結体15の直下に位置していない場合がある。一方、本実施形態の下側連結体16は、スプレッダ角度決めカム部16bの上方において、下方から上方に向けて間隔が広くなるように傾く一対の傾斜部16cを備えているため、下降した上側連結体15が傾斜部16cに対して接触すると、傾斜部16cに応じてスプレッダ14が回転して上側連結体15はスプレッダ角度決めカム部16bに向けて移動する。すなわち、傾斜部16cによってスプレッダ14と下側連結体16との角度ずれが解消されるため、スプレッダ14が下降する際、スプレッダ角度決めカム部16bに対して上側連結体15をスムーズに嵌合させることができる。
【0043】
このように、展開レバー17を押し下げてスプレッダ14を格納状態から展開状態に切り替える際、スプレッダ14は、上飾り軸9を中心とする角度を保ったまま下降し、上側連結体15と下側連結体16が嵌合するところで所定角度回転する。すなわちスプレッダ14は、
図1の部分拡大図に示すように展開状態では第三針6等の近傍に位置するものの、格納状態から展開状態に切り替わる途中では、第三針6等から離れる向きに回転した角度を保って下降していくため、第三針6等やその周辺に設けられた針糸ガイド21等との衝突を回避することができる。
【0044】
そして、展開状態から格納状態に切り替えるにあたって、
図4(b)に示したように格納レバー18を押圧すると、矢印Dの向きへの付勢力によってスプレッダ14は上昇するため(
図5(b)参照)、上側連結体15と下側連結体16との嵌合が解除される。上側連結体15と下側連結体16との嵌合が解除されると、スプレッダ14は、矢印Cの向きへの付勢力でもって、スプレッダ退避カムフォロア14bがスプレッダスライド溝8dにおける前側の壁面に押し当たるまで回転する。なお、回転が終了する前にスプレッダ14が上昇したとしても、スプレッダ退避カムフォロア14bがスプレッダ退避カム部8eに接触してスプレッダ14は矢印Cの向きへ回転するため、第三針6等やその周辺に設けられた針糸ガイド21等との衝突を避けることができる。その後スプレッダ14は、スプレッダ退避カムフォロア14bがスプレッダスライド溝8dに挿入された状態で、その角度を保ったまま上昇して格納状態に切り替わる。
【0045】
このように展開状態から格納状態に切り替える際、スプレッダ14は、第三針6等から離れる向きに回転し、その角度を保ったまま上昇するため、第三針6等やその周辺に設けられた部材との衝突を回避することができる。
【0046】
上飾り機構2を格納状態に切り替えた際、上飾り糸案内13やスプレッダ14は第三針6等から離隔して上方に移動している。また格納状態において、上側連結体15は下側連結体16とは分離しているため、主軸3が回転しても、スプレッダ14は揺動することがない。このため、飾り糸T4を使用しない二重環縫いを作業性よく行うことができる。そして上飾り機構2を展開状態に切り替えると、上飾り糸案内13やスプレッダ14が第三針6等の近傍まで下降し、また上側連結体15がスプレッダ角度決めカム部16bに嵌合してスプレッダ14が主軸3の回転に同期して揺動するため、
図7に示した上飾り縫いを行うことができる。ここで、
図6を参照しながら、
図7に示した上飾り縫いの縫目を形成する工程について説明する。
【0047】
図6において、第一針糸T1、第二針糸T2、第三針糸T3はそれぞれ第一針4、第二針5、第三針6に挿通され、ルーパー糸T5はルーパー(不図示)に挿通され、飾り糸T4は上飾り糸案内13の先端の穴形状部分に挿通されている。
図6における左側の図は、第一針4、第二針5、及び第三針6が最上位置へ移動していて、スプレッダ14は最左位置へ移動した状態を示している。この状態においてスプレッダ14の先端部分は、飾り糸T4を補足していて、補足した飾り糸T4を第一針4等に対して横断させるように保持している。
【0048】
その後、
図6における上側の図に示すように第一針4等が降下する際、第三針6は飾り糸T4の後側を通過する。このとき右側に移動するスプレッダ14では、飾り糸T4の保持が解除される。
【0049】
次いで、
図6における右側の図に示すように、第一針4等は最下位置へ移動し、不図示のルーパー機構及び送り機構等と協働して、第一針糸T1等とルーパー糸T5で飾り糸T4を縫い込みながら上飾り縫いの縫目を形成する。このときスプレッダ14は、上飾り糸案内13により係止されている飾り糸T4をくぐり抜けて最右位置、上飾り糸案内13の先端の穴形状部分の右下まで移動する。
【0050】
しかる後は、
図6における下側の図に示すように、第一針4等は上昇し、スプレッダ14は飾り糸T4を補足しつつ左側へ移動する。そして送り機構によって布を送り出した後、第一針4等とスプレッダ14は、
図6における左側の図に示した位置へ移動する。その後は上述した工程を繰り返すことによって、
図7に示した上飾り縫いが行われる。
【0051】
以上、本発明を具現化した実施形態について例示したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0052】
例えば本明細書の「展開格納機構」は、本実施形態の上飾り機構2においては、上飾り軸9及びスプレッダ14における支持部14aによるスプレッダ14のスライド構造を主とする構成で具現化し、かつ、上飾り糸案内13における支持部13aと上飾り軸9のスライド構造及び支持部14aが支持部13aを挟持している構造により上飾り糸案内13がスプレッダ14と連動して展開状態と格納状態に切り替わる構成としたが、上述した実施形態に限定されず、別の構成を追加してもよいし、代替となる構成に置き換えてもよい。例えば、上下方向にスライドして展開状態と格納状態に切り替わる機構に替えて、前後方向に揺動させる機構によりスプレッダ14と上飾り糸案内13とを展開状態と格納状態に切り替えてもよい。または、スプレッダ14は上下方向にスライドして展開状態と格納状態に切り替わり、上飾り糸案内13は前後方向に揺動するなどしてそれぞれが連動せずに展開状態と格納状態に切り替わる構成であってもよい。
また本明細書の「伝動機構」は、上側連結体15と下側連結体16のスプレッダ角度決めカム部16bにより具現化したが、これらに限定されず、例えば展開レバー17とともに上下動する部材を設け、展開レバー17が上昇する際にこの部材が上飾りカム7とフォロアピン11の間に介在してフォロアピン11を上飾りカム7から離隔させることによって、主軸3からの動力の伝達を切り替えるようにしてもよい。また上飾り軸9と下側連結体16との間にクラッチを設け、クラッチが有効となったときに主軸3からの動力によって下側連結体16が揺動し、クラッチが無効となったときに下側連結体16が停止するように構成してもよい。また、第一針4等を上下動させるモータとスプレッダ14を揺動させるモータの2つを設け、展開状態では2つのモータを駆動させる一方、格納状態ではスプレッダ14を揺動させるモータを停止させるように構成したものでもよい。
【0053】
また本実施形態における上側連結体15の外径とスプレッダ角度決めカム部16bの溝幅は略同一であって、上側連結体15、スプレッダ角度決めカム部16b、そして傾斜部16cは本明細書の「位置合わせ機構」としても機能する構成であるが、例えば上側連結体15の外径に対してスプレッダ角度決めカム部16bの溝幅は広くして「伝動機構」として機能させ、「位置合わせ機構」は別異に設けるようにしてもよい。また「位置合わせ機構」は、第一針4等を上下動させるモータとスプレッダ14を揺動させるモータの2つを設けるとともに、2つのモータのそれぞれに回転角度を計測するエンコーダを設け、各モータの回転角度をエンコーダで計測して両者を同期させることによって、第一針4等の動作とスプレッダ14の動作を所定のタイミングに合わせるように構成したものでもよい。
【0054】
そして本明細書の「案内機構」は、本実施形態においてはスプレッダ14に設けたスプレッダ退避カムフォロア14b、ベースプレート8に設けたスプレッダスライド溝8dと矢印Cの向きにスプレッダ14を付勢するバネ、もしくはスプレッダ退避カム部8eにより具現化したが、上述した実施形態に限定されず、例えばスプレッダ14に対してスプレッダスライド溝8dやスプレッダ退避カム部8eに相当するものを設け、ベースプレート8に対してスプレッダ退避カムフォロア14bに相当するものを設けてもよい。なお、本実施形態ではスプレッダ14の動作を確実にするため、矢印Cの向きにスプレッダ14を付勢するバネとスプレッダ退避カム部8eとの両方備えている。しかし、少なくとも矢印Cの向きにスプレッダ14を付勢するバネかスプレッダ退避カム部8eのどちらか一つが設けられていれば、上側連結体15と下側連結体16との嵌合が解除された後スプレッダ14を矢印Cの向きへ回転させることができる。
【0055】
また本実施形態の上飾り機構2は、格納状態においてミシン1のカバーの内側に格納されるものであったが、カバーの外側に格納されるものでもよい。例えばアーム部1aの前方外側は、作業者にとって作業性が悪くなる場所ではなく、また視覚的にも邪魔になる場所でもないため、このような場所に上飾り機構2が格納されるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1:ミシン
2:上飾り機構
3:主軸
4:第一針
5:第二針
6:第三針
8:ベースプレート
8c:スライド溝
8d:スプレッダスライド溝
8e:スプレッダ退避カム部
8f:上飾り糸案内スライドカム部
8g:ストッパ
8h:位置決め溝
9:上飾り軸
10:連結プレート
11:フォロアピン
12:機構コア
12a:スライド部
13:上飾り糸案内
13a:支持部
13b:解除部受け
13c:位置決め部
14:スプレッダ
14a:支持部
14b:スプレッダ退避カムフォロア
15:上側連結体
16:下側連結体
16b:スプレッダ角度決めカム部
16c:傾斜部
17:展開レバー
17b:スライド部固定穴
17c:段付きねじスライド部
17d:回転ピン
18:格納レバー
19:段付きねじ