(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】圧縮空気貯蔵発電装置
(51)【国際特許分類】
F02C 6/16 20060101AFI20241213BHJP
F03B 17/02 20060101ALI20241213BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20241213BHJP
【FI】
F02C6/16
F03B17/02
B63B35/00 T
(21)【出願番号】P 2021107424
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521362885
【氏名又は名称】コベルコ・コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 元
(72)【発明者】
【氏名】松村 昌義
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-317578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0353139(US,A1)
【文献】特開2020-186657(JP,A)
【文献】特開2009-281344(JP,A)
【文献】特開昭54-011517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00
F02C 6/16
F03B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に浮かぶ浮体と、
再生可能エネルギーを利用して発電する発電設備と、
前記発電設備で発電した電力によって駆動される電動機と、
前記電動機で駆動されることによって空気を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機から吐出された圧縮空気を貯蔵する蓄圧部と、
前記蓄圧部で貯蔵した圧縮空気を膨張させる膨張機と、
前記膨張機によって駆動される発電機と
を備え、
前記発電設備は、前記浮体の浮力で浮かぶ構造体に配置され、
前記蓄圧部は、全体が水中に配置され、前記圧縮機に対して並列に設けられ、水中に開放された配管が流体的に接続された複数のタンクであり、
前記配管には、水の出入りに伴って発生する水流によって駆動され、発電する水流発電機が設けられている、圧縮空気貯蔵発電装置。
【請求項2】
前記圧縮機および前記膨張機は、前記構造体に配置されている、請求項1
に記載の圧縮空気貯蔵発電装置。
【請求項3】
前記圧縮機および前記膨張機は、圧縮膨張兼用機として一体に構成されている、請求項
2に記載の圧縮空気貯蔵発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮空気貯蔵発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上の浮体に風車を設置した風車装置が知られている(例えば特許文献1)。当該風車装置は、蓄電する構成を有しておらず、洋上の風車によって発電した電力をそのまま利用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記風車装置では、発電量が気象条件に依存するため、出力が安定しない。従って、電力需要に応じた適時の電力供給が困難である。
【0005】
また、再生可能エネルギーを利用した発電の出力を安定させるための圧縮空気貯蔵(CAES:compressed air energy storage)発電装置が知られている。CAES発電装置では、再生可能エネルギーを用いて発電した電力によって圧縮機を駆動し、圧縮機によって作られた圧縮空気をタンクなどの蓄圧部に貯蔵する。そして、必要なときに蓄圧部の圧縮空気を利用することによって、タービン発電機を駆動し、適時の発電を可能とする。
【0006】
CAES発電装置では、蓄圧部が大型化する場合があり、蓄圧部を設置するための大きなスペースの確保が必要である。地上における蓄圧部の設置スペースの確保には大きなコストもかかる。
【0007】
本発明は、圧縮空気貯蔵発電装置において、水上または水中のスペースを利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水に浮かぶ浮体と、再生可能エネルギーを利用して発電する発電設備と、前記発電設備で発電した電力によって駆動される電動機と、前記電動機で駆動されることによって空気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機から吐出された圧縮空気を貯蔵する蓄圧部と、前記蓄圧部で貯蔵した圧縮空気を膨張させる膨張機と、前記膨張機によって駆動される発電機とを備え、前記蓄圧部は、前記浮体に取り付けられ、少なくとも部分的に水中に配置され、前記発電設備は、前記浮体の浮力で浮かぶ構造体に配置されている、圧縮空気貯蔵発電装置を提供する。
【0009】
この構成によれば、蓄圧部が少なくとも部分的に水中に配置されるため、水上または水中のスペースを利用できる。同様に、再生可能エネルギーを利用して発電する発電設備を浮体の浮力で浮かぶ構造体に配置するため、水上または水中のスペースを利用できる。ここで、浮体の浮力で浮かぶ構造体とは、特にその態様を限定されず、浮体と一体であってもよいし(即ち浮体自体であってもよいし)、浮体とは別体であってもよい。
【0010】
前記蓄圧部は、底なしの容器であってもよい。
【0011】
この構成によれば、蓄圧部に対して下方から水を出入りさせることができる。これにより、蓄圧部に必要な容積が自動的に調整されるため、蓄圧部として大型のタンクを用意する必要がない。
【0012】
前記蓄圧部は、全体が水中に配置され、水中に開放された配管が流体的に接続されたタンクであってもよい。
【0013】
この構成によれば、タンクを沈める深さを好適に設定することで、蓄圧する圧力を調整でき、圧縮機および膨張機において良好な圧縮効率および膨張効率を発揮できる。また、タンクを水中に沈めることができるので、施工が容易である。
【0014】
前記配管には、水の出入りに伴って発生する水流によって駆動され、発電する水流発電機が設けられていてもよい。
【0015】
この構成によれば、発電機だけでなく、水流発電機でも発電するため、発電量を多く確保できる。
【0016】
前記圧縮機および前記膨張機は、前記構造体の内部または上部に配置されてもよい。
【0017】
この構成によれば、圧縮空気を流すための配管によって接続することが必要な圧縮機と蓄圧部と膨張機とが構造体に配置されるため、配管の取り回しを浮体(構造体)の近傍で完結させることができる。換言すれば、浮体(構造体)から地上まで配管を延ばす必要がない。圧縮空気を流すための配管は、電線に比べて太く、取り回しが容易ではないため、上記構成は有効である。
【0018】
前記圧縮機および前記膨張機は、圧縮膨張兼用機として一体に構成されてもよい。
【0019】
この構成によれば、圧縮機および膨張機(圧縮膨張兼用機)の設置スペースを減少させることができる。特に、浮体(構造体)の内部または上部に圧縮機および膨張機(圧縮膨張兼用機)を設置する場合、設置スペースが限られるため、上記構成は有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、圧縮空気貯蔵発電装置において、水上または水中のスペースを利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る圧縮空気貯蔵発電装置の概略構成図。
【
図2】第2実施形態に係る圧縮空気貯蔵発電装置の概略構成図。
【
図3】第3実施形態に係る圧縮空気貯蔵発電装置の概略構成図。
【
図4】第4実施形態に係る圧縮空気貯蔵発電装置の概略構成図。
【
図5】第5実施形態に係る圧縮空気貯蔵発電装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態におけるCAES発電装置1の概略構成図である。
【0024】
圧縮空気貯蔵(CAES)発電装置1は、海や湖などの水上または水中のスペースを利用するものである。
図1では、水面を符号2で示し、水中を符号3で示し、水上を符号4で示している。これは以降の図でも同様である。
【0025】
CAES発電装置1は、浮体(構造体)10と、発電設備20と、モータ(電動機)30と、圧縮機40と、蓄圧部50と、膨張機60と、発電機70とを有している。
図1では、図示を明瞭にするため、浮体10および蓄圧部50を断面図としてハッチングを付して示している。
【0026】
浮体10は、水に浮かべられている。浮体10には、後述するようにCAES発電装置1の構成要素を設置しても沈まない程度の浮力が働くように設計されている。浮体10は、浮力を受けて浮かぶ構造体として一体的に構成されており、ここでは浮体と構造体を区別することなく、ともに符号10で示し、以降単に構造体10ともいう。ただし、浮体と構造体は、別体として設けられてもよい。
【0027】
発電設備20は、再生可能エネルギーを利用して発電する。本実施形態では、発電設備20は、風力発電機能を有している。代替的には、発電設備20は、水温差発電、潮力発電、または太陽光発電などの機能を有していてもよい。
【0028】
本実施形態では、発電設備20は、構造体10の上部に配置されている。また、詳細を図示しないが、発電設備20は、構造体10の浮力によって浮かぶ別体の構造体に配置されてもよい。発電設備20はモータ30と配線5aを介して電気的に接続されている。発電設備20で発電した電力は、配線5aを介してモータ30に供給される。
【0029】
モータ30は、発電設備20で発電した電力によって駆動される。モータ30は、圧縮機40と機械的に接続されている。
【0030】
圧縮機40は、モータ30によって駆動される。圧縮機40は、吸気口41から外部の空気を吸気し、内部で圧縮し、吐出口42から圧縮空気を吐出する。圧縮機40の吐出口42は、配管6aを介して蓄圧部50と流体的に接続されている。圧縮機40の種類は、特に限定されないが、スクリュ式であってもよい。
【0031】
蓄圧部50は、圧縮機40から吐出された圧縮空気を貯蔵する。蓄圧部50は、構造体10に取り付けられている。本実施形態では、蓄圧部50は、部分的に水中3に配置されている。換言すれば、蓄圧部50は、部分的に水上4に露出している。本実施形態では、蓄圧部50は、底なしの容器である。従って、蓄圧部50の内部は、空気層S1と水層S2に分かれている。蓄圧部50は、膨張機60の給気口61と配管6bを介して流体的に接続されている。
【0032】
膨張機60は、給気口61から圧縮空気を給気され、内部で膨張させ、排気口62から外部へ排気する。膨張機60の種類は、特に限定されないが、スクリュ式であってもよい。膨張機60は、発電機70と機械的に接続されている。
【0033】
発電機70は、膨張機60によって駆動されることによって発電する。発電機70は、配線5bを図示しない電力系統に電気的に接続されている。発電機70で発電した電力は、配線5bおよび電力系統を介して供給先に供給される。
【0034】
本実施形態では、モータ30および圧縮機40と、膨張機60および発電機70とが、構造体10の上部に配置されている。従って、モータ30および圧縮機40と、膨張機60および発電機70とは、水上4に配置されている。
【0035】
本実施形態のCAES発電装置1の作用効果について説明する。
【0036】
風力を利用して発電設備20が発電すると、電力需要がある場合には、供給先(図示されないグリッド)へ電力を供給する。一方電力需要が無く、蓄電する場合には、発電した電力はモータ30に供給される。モータ30によって圧縮機40が駆動されると、圧縮機40から蓄圧部50に圧縮空気が供給される。これにより、蓄圧部50の下方から水が流出し、蓄圧部50の内部の水位が低下する。また、蓄圧部50から膨張機60に圧縮空気が供給されると、膨張機60が発電機70を駆動する。発電機70で発電した電力は、図示しない供給先に供給される。このとき、蓄圧部50の圧縮空気量の低下に伴って蓄圧部50には下方から水が流入し、蓄圧部50の内部の水位が上昇する。
【0037】
このように、本実施形態では、蓄圧部50の内部の圧縮空気量の増減に伴って、蓄圧部50の内部の水位が上下するようになっている。これにより、蓄圧部50に必要な容積が自動的に調整されるため、蓄圧部50として大型のタンクを用意する必要がない。
【0038】
また、蓄圧部50が少なくとも部分的に水中3に配置されるため、水中3のスペースを利用できる。同様に、再生可能エネルギーを利用して発電する発電設備20を水に浮かぶ構造体10の上部に配置するため、水上4のスペースを利用できる。なお、本実施形態では、発電設備20が風力を利用して発電するため、構造体10の上部に配置されるが、発電設備20の発電態様によっては、外部に露出される必要がない場合もある。そのような発電態様(例えば昼夜の温度差を利用して発電する態様)の発電設備20の場合、構造体10の内部に配置してもよい。
【0039】
また、圧縮空気を流すための配管6a,6bによって接続することが必要な圧縮機40と蓄圧部50と膨張機60とが構造体10に取り付けられるため、配管6a,6bの取り回しを構造体10の近傍で完結させることができる。換言すれば、水に浮かぶ構造体10から地上まで配管6a,6bを延ばす必要がない。圧縮空気を流すための配管6a,6bは、電線(配線)5a,5bに比べて太く、取り回しが容易ではないため、本実施形態の構成は有効である。
【0040】
(第2実施形態)
図2に示す第2実施形態のCAES発電装置1は、圧縮膨張兼用機80を有している。これに関する構成以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
図2では、図示を明瞭にするため、構造体10および蓄圧部50を断面図としてハッチングを付して示している。
【0041】
本実施形態では、第1実施形態における圧縮機40(
図1参照)および膨張機60(
図1参照)が、圧縮膨張兼用機80として一体に構成されている。圧縮膨張兼用機80は、スクリュ式であってもよい。また、第1実施形態におけるモータ30(
図1参照)および発電機70(
図1参照)が、電動発電兼用機81として一体に構成されている。
【0042】
本実施形態によれば、第1実施形態における圧縮機40(
図1参照)および膨張機60(
図1参照)の設置スペースを減少させることができる。特に、構造体10の上部では設置スペースが限られるため、本実施形態の構成は有効である。
【0043】
(第3実施形態)
図3に示す第3実施形態のCAES発電装置1では、蓄圧部50および構造体10が支持部材11で接続されている。これに関する構成以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
図3では、図示を明瞭にするため、蓄圧部50を断面図としてハッチングを付して示している。
【0044】
本実施形態では、蓄圧部50が支持部材11を介して構造体10に取り付けられている。蓄圧部50は、深さDだけ水中3に沈められている。ここで、深さDは、水面2から蓄圧部50の内部の上面までの距離を示す。深さDが大きいと水圧が高くなるため、深さDを大きくするほど蓄圧部50に貯蔵する圧縮空気の圧力を高くすることができる。
【0045】
深さDは、圧縮機40および膨張機60に応じて変更され得る。一般に、圧縮機40および膨張機60では、圧縮効率および膨張効率を良好にする運転圧力が設定されている。従って、当該運転圧力に合わせて深さDを設定することで、圧縮機40および膨張機60において、良好な圧縮効率および膨張効率が発揮される。例えば、蓄圧部50に貯蔵する圧縮空気の圧力を4~7[Bar]に設定する場合、深さDは40[m]以下に設定され得る。
【0046】
本実施形態によれば、蓄圧部50を配置する深さDを好適に設定することで、圧縮機40および膨張機60において良好な圧縮効率および膨張効率を発揮できる。
【0047】
(第4実施形態)
図4に示す第4実施形態のCAES発電装置1は、蓄圧部50と水流発電機70とに関して第1実施形態と異なる。これらに関する構成以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
【0048】
本実施形態では、蓄圧部50がタンク51~54によって構成されている。タンク51~54は、水中3に配置され、水上4には露出していない。
【0049】
タンク51~54には、水中3に開放された配管6cが流体的に接続されている。タンク51~54の内部の圧縮空気の増減に伴って、配管6cを介してタンク51~54に水が出入りする。
【0050】
配管6cには、水流発電機90が設けられている。水流発電機90は、タンク51~54に対する水の出入りに伴って発生する水流によって駆動され、発電する。水流発電機90は、配線6cを介して図示しない電力系統に電気的に接続されている。水流発電機90で発電した電力は、配線5cおよび電力系統を介して供給先に供給される。なお、水流発電機90の構造は、特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0051】
本実施形態によれば、発電機70だけでなく、水流発電機90でも発電するため、発電量を多く確保できる。また、タンク51~54を沈める深さDを第3実施形態と同様に好適に設定することで、圧縮機40および膨張機60において良好な圧縮効率および膨張効率を発揮できる。また、タンク51~54からなる蓄圧部50を水中3に沈めることができるので、施工が容易である。
【0052】
(第5実施形態)
図5に示す第5実施形態のCAES発電装置1では、モータ30、圧縮機40、膨張機60、および発電機70が、構造体10内に配置されている。これに関する構成以外は、第1実施形態と実質的に同じである。従って、第1実施形態にて示した部分については説明を省略する場合がある。
図5では、図示を明瞭にするため、構造体10および蓄圧部50を断面図としてハッチングを付して示している。
【0053】
本実施形態では、構造体10の内部に収容空間7が画定されている。収容空間7には水が流入しないようにされている。収容空間7には、モータ30、圧縮機40、膨張機60、および発電機70が、収容されている。
【0054】
本実施形態によれば、モータ30、圧縮機40、膨張機60、および発電機70を水から保護できる。また、構造体10の上部のスペースに発電設備20を大きく配置できる。
【0055】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 圧縮空気貯蔵発電装置(CAES発電装置)
2 水面
3 水中
4 水上
5a,5b,5c 配線
6a,6a,6c 配管
7 収容空間
10 浮体(構造体)
11 支持部材
20 発電設備
30 モータ(電動機)
40 圧縮機
41 吸気口
42 吐出口
50 蓄圧部
51~54 タンク
60 膨張機
61 給気口
62 排気口
70 発電機
80 圧縮膨張兼用機
81 電動発電兼用機
90 水流発電機