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  • 特許-RNAの保存方法 図1
  • 特許-RNAの保存方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】RNAの保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20241213BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z
C12M1/00 A
C12N15/10 100Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021139172
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2022040103
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2024-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2020144317
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長森 夏海
(72)【発明者】
【氏名】井上 高良
(72)【発明者】
【氏名】上原 裕也
(72)【発明者】
【氏名】大矢 直樹
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/091044(WO,A1)
【文献】特表2003-524782(JP,A)
【文献】特表2020-503071(JP,A)
【文献】特表平08-511956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - 3/00
C12N 15/00 - 15/90
C12M 1/00 - 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表上脂質を採取するためのシート状皮膚表上脂質吸収性素材、
該シート状皮膚表上脂質吸収性素材を処理するための、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液、ならびに、
該水溶液で処理した後の皮膚表上脂質を含むシート状皮膚表上脂質吸収性素材を保存する容器であって、その内部に乾燥剤を収納している容器、
を備える、皮膚表上脂質由来RNAの採取用キット。
【請求項2】
前記溶媒が、アルコールの濃度が20体積%以上70体積%以下のアルコール水溶液である、請求項記載のキット。
【請求項3】
前記水溶液中における前記グアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の濃度が0.50g/mL以上である、請求項又は記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAの保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNAなどの生体由来の核酸の解析により、生体の生理状態を含む様々な情報を獲得することができる。生体由来の核酸は、細胞、組織、体液、分泌物などの生体由来の試料から抽出することができる。特許文献1には、皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)にRNAが含まれており、該SSL由来RNAを生体の解析に用いることができることが記載されている。しかし、SSLに含まれるRNAの量は微量であるため、生体から採取したSSLからできるだけ高収量でRNAを抽出することが求められる。
【0003】
生体由来の核酸の中でも、RNAは、DNAと比較して不安定であり分解されやすい。さらに、RNA分解酵素であるリボヌクレアーゼ(RNase)は、細胞及び組織中だけでなく、汗、唾液などの体液、及び環境中にも広く存在する。従来、生体試料中のRNAの分解を防止するためには、採取した試料からRNAを直ちに抽出する、試料中もしくは抽出したRNAを-80℃で保存する、又はRNase阻害剤を使用する、などの手段がとられている。例えば、グアニジン塩などのカオトロピック塩を生体試料に添加することにより、試料中のRNaseを含む蛋白質を変性させてRNaseを不活性化させることができる。ただしカオトロピック塩を添加した場合でも、周囲温度下ではRNAの分解は完全には防止できないことから、試料中もしくは抽出したRNAは-80℃で保存されるのが通常である。
【0004】
特許文献2には、生体試料にチオシアン酸グアニジン、塩酸グアニジン、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、尿素などの蛋白質変性剤を添加して、細胞膜や細胞壁等を破壊し、蛋白質を変性させて核酸だけを遊離させる工程と、アルコール類を添加して遊離した核酸を凝集させる工程と、得られた核酸含有抽出物をフィルターに通過させて核酸をフィルターに捕集させる工程と、精製水あるいは低濃度の緩衝液により核酸を可溶化させフィルターから回収する工程とからなる、核酸の簡易抽出法が記載されている。
特許文献3には、フェノール及びチオシアン酸グアニジンを含有するRNA抽出用薬剤を用いて乳からRNAを抽出した後、速やかに-80℃に冷凍することにより、乳からのRNAサンプルの3日以上の長期保存が可能となることが記載されている。
特許文献4には、グアニジニウム塩酸塩、チオシアン酸グアニジニウム、アルギニン、SDS、尿素などのタンパク質変性剤、還元剤、及び緩衝剤を含む組成物が乾燥状態で存在する固体マトリクスを適用して、試料から核酸を収集し、該固体マトリクスを乾燥し、周囲条件下において核酸を乾燥状態で該固体マトリクス上に貯蔵する、核酸を試料から抽出し貯蔵する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開公報第2018/008319号
【文献】特開2009-153467号公報
【文献】特開2000-264898号公報
【文献】特開2018-68303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被験体から採取した皮膚表上脂質(SSL)に含まれるRNAの分解を防止し、該RNAを安定に保存するための方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、採取媒体により被験体からSSLを採取した後、該SSLを含む採取媒体を、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液で処理することにより、該SSLに含まれるRNAの分解を防止し、該RNAを安定に保存することが可能であることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、皮膚表上脂質由来RNAの分解防止方法であって、皮膚表上脂質を含む採取媒体を、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液で処理することを含む、方法を提供する。
また本発明は、皮膚表上脂質由来RNAの保存方法であって、
皮膚表上脂質を含む採取媒体を、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液で処理すること、及び、
該処理した採取媒体を保存すること、
を含む、方法を提供する。
また本発明は、皮膚表上脂質を採取するための採取媒体、ならびに、
該採取媒体を処理するための、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液、
を備える、皮膚表上脂質由来RNAの採取用キットを提供する。
また、本発明は、被験体の皮膚表上脂質由来RNAの回収方法であって、
皮膚表上脂質由来RNAの採取を必要とする又は希望する被験体に、皮膚表上脂質を採取するための採取媒体、ならびに、該採取媒体を処理するための、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液を備える、前記皮膚表上脂質由来RNAの採取用キットを提供すること、及び、
該被験体から採取した皮膚表上脂質を含む該採取媒体を、該被験体から回収すること、
を含み、
ここで、回収した皮膚表上脂質を含む該採取媒体は、前記皮膚表上脂質由来RNAの分解防止方法又は保存方法に従って、該水溶液により処理されており、かつ該被験体の皮膚表上脂質を採取後、周囲温度にて保存されている、
方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、被験体から採取したSSLに含まれるRNAの分解を防止し、該RNAを安定に保存することができる。本発明によれば、分解しやすく取り扱いが困難なRNAを周囲温度下で保存することを可能にする。また本発明によれば、SSLからのRNAの収量、及び該RNAを用いた各種解析の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のSSL由来RNAの採取用キットに用いられる、採取媒体を保存するための容器の一例を示す図である。A:側面図(左)とその断面図(右)、B:上方斜視図(左)とその断面図(右)。
図2】SSL由来RNAを含む採取媒体及び乾燥剤を収納した状態の図1の容器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
本明細書における「RNA」は、1本鎖RNA及び2本鎖RNA、例えば、mRNA、tRNA、rRNA、small RNA(例えば、microRNA(miRNA)、small interfering RNA(siRNA)、PIWI-interacting RNA(piRNA)等)、long intergenic non-coding(linc)RNA、などを包含する。
【0013】
本明細書において、「皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。
【0014】
本明細書において、「皮膚」とは、特に限定しない限り、体表の表皮、真皮、毛包、ならびに汗腺、皮脂腺及びその他の腺などの組織を含む領域の総称である。
【0015】
本明細書において、「周囲温度」とは、SSLの採取を行うことが可能な環境における温度をいい、好ましくは室温又はそれ以下の温度をいう。ここで室温とは、日本薬局方に定める1~30℃の温度をいう。
【0016】
一態様において、本発明は、SSL由来RNAの分解防止方法、及びSSL由来RNAの保存方法を提供する。これらの本発明の方法は、被験体から採取されたSSLを含む採取媒体を、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液で処理することを含む。
【0017】
本発明の方法において、SSLを採取される被験体は、皮膚上にSSLを有する生物であればよい。被験体の例としては、ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。例えば、該被験体は、自身の核酸の解析を必要とするか又は希望するヒト又は非ヒト哺乳動物であり得る。あるいは、該被験体は、皮膚における遺伝子発現解析、又は核酸を用いた皮膚もしくは皮膚以外の部位の状態の解析を必要とするか又は希望するヒト又は非ヒト哺乳動物であり得る。
【0018】
被験体のSSLが採取される皮膚の部位としては、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚、例えば、健康な皮膚、アトピー、ニキビ、乾燥、炎症(赤み)、腫瘍等の疾患を有する皮膚、創傷を有する皮膚、などが挙げられるが、特に限定されない。
【0019】
被験体の皮膚からのSSLの採取に用いられる採取媒体としては、SSL吸収性素材が挙げられる。SSL吸収性素材の例としては、繊維状構造又は多孔質構造を有しており、毛細管現象により該構造中の空隙にSSLを回収及び保持することができる素材、親油性材料によりSSLを吸着することができる素材、それらの両方の性質を兼ね備えた素材、などが挙げられる。該SSL吸収性素材の材料の例としては、ポリプロピレン等のプラスチック、パルプ、セルロース、綿、レーヨン等の合成繊維、などが挙げられ、好ましくは多孔質構造を有するポリプロピレンである。
SSLの採取効率、及び後述する該採取媒体の乾燥の効率の観点から、該採取媒体は、体積に対する表面積比がより大きい形状を有することがより好ましい。好ましくは、該採取媒体はシート状である。
該採取媒体の具体的な例としては、多孔質プラスチック製フィルム、紙、ガーゼ、綿球などが挙げられ、あるいは、市販のあぶら取り紙又はあぶら取りフィルムを使用することもできる。該採取媒体の好ましい例としては、フィルム厚さが5~200μmの範囲であり、空孔率が5~50%の範囲であり、空孔の孔径が0.2~5μmの範囲である多孔質プラスチック製フィルム、特許3055778号に記載されるプラスチック材料の多孔質延伸フィルムからなる化粧用脂取りシート(例えば、3M社の多孔質ポリプロピレンフィルムを用いたオイルクリアフィルム(白元アース社))などが挙げられる。なお、該多孔質プラスチック製フィルムは、SSLの吸収を阻害しない限りにおいて、親水化処理が施されていてもよい。
【0020】
SSLの採取効率を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませた採取媒体を用いてもよい。一方、該採取媒体が水溶性の高い溶媒や水分を含んでいると、SSLの吸着が阻害されるため好ましくない。該採取媒体は、乾燥した状態で用いることが好ましい。
【0021】
本発明の方法において、被験体から採取されたSSLを含む該採取媒体は、グアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液(以下、処理水溶液と称する)で処理される。好ましくは、該処理水溶液はアルコールを含む。好ましくは、該処理水溶液はグアニジン塩酸塩を含む。該処理水溶液は、水又はアルコールを含む水溶液を溶媒として、グアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を溶解させることにより調製することができる。該溶媒としてのアルコール水溶液に含まれ得るアルコールとしては、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどから選択されるいずれか1種又は2種以上が挙げられ、後述する該採取媒体の乾燥の効率の観点からは、エタノールが好ましい。
該溶媒としてのアルコール水溶液におけるアルコール濃度は、特に限定されないが、SSL吸収性素材への浸透性、及び後述する該採取媒体の乾燥の効率の観点からは、好ましくは20体積%以上、より好ましくは30体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上であり、他方、該水溶液の取り扱いの安全性の観点からは70体積%以下が好ましい。好ましくは、該溶媒としてのアルコール水溶液におけるアルコール濃度は、20体積%以上70体積%以下であり、より好ましくは30体積%以上70体積%以下であり、さらに好ましくは50体積%以上70体積%以下であり、さらに好ましくは50体積%以上60体積%未満である。なお、ここでの体積とは25℃における体積を意味する。
【0022】
該処理水溶液におけるグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量(グアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩の合計量)は、RNA分解防止の観点からは0.50g/mL以上が好ましく、0.55g/mL以上がより好ましく、他方、該処理水溶液の溶媒に対する飽和濃度以下であればよい。
【0023】
該処理水溶液による該採取媒体の処理では、該採取媒体に含まれるSSLと該処理水溶液とを接触させる。例えば、該処理は、該採取媒体に該処理水溶液を滴下するか、該採取媒体に該処理水溶液を塗布するか、該採取媒体に該処理水溶液を噴霧するか、該採取媒体と該処理水溶液を保持する保持体とを接触させ、該保持体を介して該採取媒体に該処理水溶液を浸透させるか、又は該採取媒体の一部を該処理水溶液に浸漬することを含む。これらの手段により、該採取媒体に該処理水溶液を浸透させる。該処理水溶液は、該採取媒体の全体に浸透させてもよいが、少なくとも該採取媒体におけるSSLを含む部分に浸透させればよい。
【0024】
該採取媒体の処理に用いる該処理水溶液の量は、少なくとも該採取媒体におけるSSLを含む部分に行き渡る程度の量であることが好ましい。例えば、該採取媒体がシート状の採取媒体の場合、用いられる該処理水溶液の量は、シート面積の80%以上に該処理水溶液が行き渡る量であることが好ましい。また、該処理水溶液の量は、該採取媒体中又は上に保持され得る程度の量であることが好ましい。該処理水溶液の適用量が少なすぎると、該溶液が行き渡らない部分でRNAが分解されてしまう。他方、該処理水溶液の適用量が多すぎると、該採取媒体に含まれるSSLが、該処理水溶液とともに該採取媒体から流出するおそれがある。また、該処理水溶液の適用量が多すぎると、後述する乾燥において、該処理水溶液で処理した該採取媒体の乾燥に時間が掛かったり、十分な乾燥状態が得られないおそれがある。これらを踏まえて、該採取媒体への該処理水溶液の適用量を、該採取媒体の種類やサイズに応じて適宜調整すればよい。
【0025】
好ましくは、本発明の方法は、さらに、該処理水溶液で処理した該採取媒体を乾燥させることを含む。該採取媒体を乾燥させることで、加水分解酵素であるRNaseによるRNA分解がより効果的に防止される。該採取媒体の乾燥の手段は、該採取媒体を乾燥環境下に置くことができる手段であれば特に限定されないが、RNase汚染防止の観点からは、該採取媒体を、容器内などの閉鎖空間系において乾燥環境下に置くことが好ましい。具体的には、該採取媒体を収納できる容器内などの閉鎖空間系において該採取媒体と乾燥剤を共存させることで、該採取媒体の乾燥を促進してRNA分解をより効果的に防止することができる。容器としては、水分を透過させない素材で、該採取媒体と乾燥剤が収納でき、かつ密閉可能な容器であれば、大きさや形は特に限定されない。また、該採取媒体に含まれる処理水溶液と乾燥剤が接触して発熱する場合を考慮して、該容器は、該採取媒体と乾燥剤が直接接触しない構造又は構成であることが好ましい。乾燥剤としては、結晶性ゼオライト(モレキュラーシーブ)、活性炭、シリカゲルなどが挙げられる。該採取媒体を入れた該閉鎖空間を乾燥環境下にさせる(好ましくは湿度を0%に下げる)ことができるように、乾燥剤の使用量を調整することが好ましい。例えば、閉鎖空間の容積1cm3あたり0.05~0.10gのモレキュラーシーブを使用することが好ましい。又は、該採取媒体がシート状の採取媒体の場合、シート面積1cmあたり0.05~0.20gのモレキュラーシーブを使用することが好ましい。又は、該採取媒体に浸透させた処理水溶液1μLあたり0.02~0.10gのモレキュラーシーブを使用することが好ましい。
【0026】
以上の手順で得られる、処理水溶液で処理し、好ましくはさらに乾燥させた採取媒体は、SSL由来RNAを含有する試料として保存することができる。上述した処理水溶液での処理及び乾燥の工程により、該採取媒体に含まれるSSL由来RNAの分解が防止されるので、得られた採取媒体は周囲温度、又はそれ以上の温度(例えば、37℃以下、40℃以下、60℃以下)での保存が可能である。
【0027】
別の一態様において、本発明は、SSL由来RNAの採取用キットを提供する。該本発明のキットは、上述したSSL採取用の採取媒体、ならびに、該採取媒体を処理するための処理水溶液として、上述した水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液を備える。一実施形態において、該キットはさらに、該処理水溶液で処理した後のSSLを含む採取媒体を保存する容器を備える。該容器は密閉可能であり、該処理水溶液で処理した後の採取媒体の乾燥又は保存のために用いることができる。好ましくは、該キットの容器は乾燥剤と組み合わせて使用される。したがって、好ましくは、該キットは、該容器及び乾燥剤を備える。例えば、該処理水溶液で処理した後の採取媒体を該容器内に入れて、該容器の内部に収納した乾燥剤と共存させて密閉することにより、該容器内での該採取媒体の乾燥が促進される。乾燥させた該採取媒体は、該容器内でそのまま保存可能である。該採取媒体を入れた容器は、周囲温度、又はそれ以上の温度(例えば、37℃以下、40℃以下、60℃以下)での保存が可能である。
【0028】
図1に、本発明のキットに用いられる、採取媒体を保存するための容器の一例を示す。図1において、Aは側面図(左)とその断面図(右)、Bは上方斜視図(左)とその断面図(右)を表す。該容器は、容器のキャップ1Aと容器本体1Bから構成され、キャップ1Aと容器本体1Bが接する部位1-aにおいて、キャップ1Aの内面と容器本体1Bの外面に螺条が設けられており、キャップ1Aと容器本体1Bが螺合することにより該容器内部を密閉空間とすることができる。また、該容器内部は、通気性のある素材又は構造の部材1Cにより、収納室2と収納室3に区分されており、それぞれの収納室には処理水溶液で処理されたSSL採取後の採取媒体と乾燥剤とがそれぞれ収納され、これにより、両者を互いに接触させることなく該容器の内部の同一の密閉空間に収納することができる。該容器において、該乾燥剤は予め該容器内に収納されているのが好ましい。図2に、SSL由来RNAを含む採取媒体及び乾燥剤を収納した状態の図1の容器の一例を示す。容器内の収納室3に乾燥剤4が収納され、通気性を有する部材1Cにより隔てられた収納室2に処理水溶液で処理されたSSL採取後の採取媒体5が収納されている。通気性を有する部材1Cを介して該容器内全体の密閉空間が乾燥環境下となり、該採取媒体の乾燥が促進され、RNAを周囲温度、又はそれ以上の温度(例えば、37℃以下、40℃以下、60℃以下)で保存することができる。
【0029】
本発明の方法で処理された採取媒体は、SSL由来RNAを含有する試料として使用することができる。該採取媒体からのRNAの抽出は、試料からのRNA抽出のための通常の手順に従って行うことができる。例えば、フェノール/クロロホルム法、及びその変法、例えばPCI(Phenol/Chloroform/Isoamyl alcohol)法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、グアニジンチオシアネートとフェノールをあらかじめ混合しておくAGPC変法などにしたがって、該採取媒体からRNAを抽出することができる。あるいは、市販のRNA抽出用試薬(例えば、TRIzol(登録商標)Reagent、QIAzol Lysis Reagent、ISOGEN、RNeasy Mini Kit等)を用いて該採取媒体からRNAを抽出することができる。
【0030】
抽出されたRNAは、被験体のSSL由来RNAであり、各種解析に使用することができる。例えば、該SSL由来RNAに含まれるmRNAをOligo(dT)プライマーを用いてcDNAに変換した後、遺伝子発現解析、トランスクリプトーム解析などに用いることができる。あるいは、被験体のSSL由来RNAにおける標的RNAの有無を調べることで、該被験体の機能解析、疾患の診断、該被験体に投与した薬物の効能評価などを行うことができる。
【0031】
別の一態様において、本発明は、被験体の皮膚表上脂質由来RNAの回収方法を提供する。該本発明の方法では、皮膚表上脂質由来RNAの採取を必要とする又は希望する被験体に、上述した本発明の皮膚表上脂質由来RNAの採取用キットを提供すること、及び当該キットに備わる採取媒体を用いて該被験体から採取した皮膚表上脂質を含む、該採取媒体を、該被験体から回収することを含む。ここで、該被験体から回収した皮膚表上脂質を含む該採取媒体は、上述した本発明の皮膚表上脂質由来RNAの分解防止方法又は保存方法に従って前記水溶液により処理されている。また、該被験体から回収した皮膚表上脂質を含む該採取媒体は、該被験体の皮膚表上脂質を採取後は周囲温度、又はそれ以上の温度(例えば、37℃以下、40℃以下、60℃以下)で保存されている。ここで、皮膚表上脂質由来RNAの採取用キットの提供方法及び皮膚表上脂質採取後の採取媒体の被験体からの回収方法は特に限定されず、公知の輸送手段を用いることができ、例えば郵送サービス、貨物輸送業者による宅配サービス、被験体又は代理の者による該採取キットの頒布拠点における受け取り、被験体又は代理の者による該採取媒体の回収拠点への持ち込み、などが挙げられる。
【0032】
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の物質、製造方法、用途、方法等を本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0033】
〔1〕皮膚表上脂質由来RNAの分解防止方法であって、皮膚表上脂質を含む採取媒体を、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液で処理することを含む、方法。
〔2〕皮膚表上脂質由来RNAの保存方法であって、
皮膚表上脂質を含む採取媒体を、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液で処理すること、及び、
該処理した採取媒体を保存すること、
を含む、方法。
〔3〕好ましくは、さらに、前記水溶液で処理した採取媒体を乾燥させることを含む、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕好ましくは、前記溶媒がアルコール水溶液であり、該アルコール水溶液におけるアルコールの濃度が、
好ましくは、20体積%以上であり、
より好ましくは20体積%以上70体積%以下であり、
さらに好ましくは、30体積%以上であり、
さらに好ましくは、30体積%以上70体積%以下であり、
さらに好ましくは、50体積%以上であり、
さらに好ましくは、50体積%以上70体積%以下であり、
さらに好ましくは、50体積%以上60体積%未満である、
〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記水溶液中における前記グアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の濃度が、
好ましくは、0.50g/mL以上であり、
より好ましくは、0.55g/mL以上である、
〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記皮膚表上脂質を含む採取媒体の前記水溶液での処理が、
好ましくは、該採取媒体に含まれる皮膚表上脂質と該水溶液を接触させることを含み、
より好ましくは、該採取媒体に該水溶液を浸透させることを含み、
さらに好ましくは、少なくとも該採取媒体における皮膚表上脂質を含む部分に該水溶液を浸透させることを含む、
〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法。
〔7〕前記採取媒体が、
好ましくは、皮膚表上脂質吸収性素材であり、
より好ましくは、多孔質プラスチック製フィルムである、
〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の方法。
〔8〕好ましくは、前記アルコールがエタノール、イソプロパノール、及びブタノールから選なる群より選択される少なくとも1種である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕前記水溶液で処理した採取媒体の乾燥が、
好ましくは、該採取媒体を、閉鎖空間系において乾燥環境下に置くことを含み、
より好ましくは、容器内で該採取媒体と乾燥剤を共存させることを含む、
〔3〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法。
〔10〕前記水溶液で処理した採取媒体の保存が、該採取媒体を、好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは37℃以下、さらに好ましくは1~60℃、さらに好ましくは1~40℃、さらに好ましくは1~37℃、さらに好ましくは1~30℃の温度で保存することを含む、〔2〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法。
【0034】
〔11〕皮膚表上脂質を採取するための採取媒体、ならびに、
該採取媒体を処理するための、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液、
を備える、皮膚表上脂質由来RNAの採取用キット。
〔12〕好ましくは、さらに、前記水溶液で処理した後の皮膚表上脂質を含む採取媒体を保存する容器と乾燥剤を備える、〔11〕記載のキット。
〔13〕好ましくは、前記容器が、その内部に前記乾燥剤を収納している、〔12〕記載のキット。
〔14〕好ましくは、前記溶媒がアルコール水溶液であり、該アルコール水溶液におけるアルコールの濃度が、
好ましくは、20体積%以上であり、
より好ましくは20体積%以上70体積%以下であり、
さらに好ましくは、30体積%以上であり、
さらに好ましくは、30体積%以上70体積%以下であり、
さらに好ましくは、50体積%以上であり、
さらに好ましくは、50体積%以上70体積%以下であり、
さらに好ましくは、50体積%以上60体積%未満である、
〔11〕~〔13〕のいずれか1項記載のキット。
〔15〕前記水溶液中における前記グアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の濃度が、
好ましくは、0.50g/mL以上であり、
より好ましくは、0.55g/mL以上である、
〔11〕~〔14〕のいずれか1項記載のキット。
〔16〕前記採取媒体が、
好ましくは、皮膚表上脂質吸収性素材であり、
より好ましくは、多孔質プラスチック製フィルムである、
〔11〕~〔15〕のいずれか1項記載のキット。
〔17〕好ましくは、前記アルコールがエタノール、イソプロパノール、及びブタノールから選なる群より選択される少なくとも1種である、〔11〕~〔16〕のいずれか1項記載のキット。
〔18〕前記容器が、
好ましくは、密閉可能な容器であり、
より好ましくは、図1に示される容器である、
〔12〕~〔17〕のいずれか1項記載のキット。
【0035】
〔19〕被験体の皮膚表上脂質由来RNAの回収方法であって、
皮膚表上脂質由来RNAの採取を必要とする又は希望する被験体に、皮膚表上脂質を採取するための採取媒体、ならびに、該採取媒体を処理するための、水又はアルコール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩及びグアニジンチオシアン酸塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液を備える、〔11〕~〔18〕のいずれか1項記載の皮膚表上脂質由来RNAの採取用キットを提供すること、及び、
該被験体から採取した皮膚表上脂質を含む該採取媒体を、該被験体から回収すること、
を含み、
ここで、回収した皮膚表上脂質を含む該採取媒体は、〔1〕~〔10〕のいずれか1項記載の皮膚表上脂質由来RNAの分解防止方法又は保存方法に従って、該水溶液により処理されており、かつ該被験体の皮膚表上脂質を採取後、周囲温度にて保存されている、
方法。
【実施例
【0036】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
実施例1 グアニジン塩によるRNA分解防止
(1)グアニジン塩酸塩溶液及びチオシアン酸グアニジン塩溶液の調製
グアニジン塩酸塩(富士フイルム和光純薬社)を57%(v/v)エタノール水溶液を溶媒とし、濃度が6Mとなるように溶解させた。また、グアニジンチオシアン酸塩(富士フイルム和光純薬社)を57%(v/v)エタノール水溶液を溶媒とし、濃度が6Mとなるように溶解させた。
【0038】
(2)あぶら取りフィルムの準備
4枚のあぶら取りフィルム(オイルクリアフィルム、白元アース社、3M社の多孔質ポリプロピレンフィルムを使用、25×40mm)を用いて、被験者の顔全面よりSSLを採取した。別途、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてヒト皮膚切片からRNAを抽出し、RNA濃度が1μg/mLになるように57%(v/v)エタノール水溶液に溶解させた。得られた該ヒト皮膚由来RNA溶液を、該4枚のあぶら取りフィルムのそれぞれに20μLずつ該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。RNAを塗布した4枚のあぶら取りフィルムのうち、1枚には(1)で調製したグアニジン塩酸塩溶液を、もう1枚には(1)で調製したチオシアン酸グアニジン塩の溶液を、それぞれ20μLずつ該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。残りの2枚のあぶら取りフィルムにはグアニジン塩溶液を塗布しなかった。該4枚のあぶら取りフィルムを1枚ずつスクリュー管(容量20mL)に入れ、-80℃又は室温(18~25℃)下で4日間保存した(表1)。
【0039】
(3)RNA分解防止作用の評価
(2)で調製した保存後のあぶら取りフィルムからRNAを抽出し、抽出したRNAを逆転写によりcDNAに変換し、次いで該cDNAをPCRにかけ、反応産物を精製した。具体的には、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて該あぶら取りフィルムからRNAを抽出し、得られたRNAをSuperScript VILO cDNA Synthesis kit(Thermo Scientific社)を用いて逆転写してcDNAに変換した。該cDNAをIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン社)を用いてPCRにかけ、得られた反応産物を磁性ビーズ(Ampure XP:ベックマン・コールター社)を用いて精製し、10μLのcDNA精製物溶液を得た。該精製物溶液中のcDNA濃度をAgilent 4200 TapeStation(アジレント・テクノロジーズ社)を用いて定量し、-80℃保存サンプルのcDNA濃度に対する各サンプルの相対cDNA濃度を求めた。表1に示すように、グアニジン塩処理により室温下でのRNA分解が防止された。また、グアニジンチオシアン酸塩よりもグアニジン塩酸塩のほうがRNA分解防止効果に優れていた。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例2 乾燥によるRNA分解防止
(1)乾燥剤の調製
スクリュー管(容量20mL)を3本準備し、その内1本にモレキュラーシーブス 13X 1/8(富士フイルム和光純薬社)を、スクリュー管容量(mL)とモレキュラーシーブス質量(g)の比が20:1となるように添加した。具体的には、容量20mLのスクリュー管に1.0gのモレキュラーシーブスを添加した。
【0042】
(2)あぶら取りフィルムの準備
3枚のあぶら取りフィルム(オイルクリアフィルム、白元アース社、25×40mm)を用いて、被験者の顔全面よりSSLを採取した。該3枚のあぶら取りフィルムのそれぞれに、実施例1(2)で調製したヒト皮膚由来RNA溶液を20μLずつ該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。該3枚のあぶら取りフィルムを1枚ずつ、(1)で準備したスクリュー管に入れ、-80℃又は室温(18~25℃)下で3日間保存した(表2)。
【0043】
(3)RNA分解防止作用の評価
(2)で調製した保存後のあぶら取りフィルムから、実施例1(3)と同様の手順でRNAを抽出し、cDNAに変換してPCRにかけ、反応産物を精製し、定量し、-80℃保存サンプルのcDNA濃度に対する各サンプルの相対cDNA濃度を求めた。表2に示すように、乾燥により室温下でのRNA分解が防止された。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例3 グアニジン塩と乾燥によるRNA分解防止
(1)グアニジン塩酸塩溶液の調製
実施例1(1)と同様の手順により、グアニジン塩酸塩溶液を調製した。
【0046】
(2)乾燥剤の調製
実施例2(1)と同様の手順により3本のスクリュー管を準備し、そのうち1本に乾燥剤を添加した。
【0047】
(3)あぶら取りフィルムの準備
3枚のあぶら取りフィルム(オイルクリアフィルム、白元アース社、25×40mm)を用いて、被験者の顔全面よりSSLを採取した。該3枚のあぶら取りフィルムのそれぞれに、実施例1(2)で調製したヒト皮膚由来RNA溶液を20μLずつ該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。該RNAを塗布した3枚のあぶら取りフィルムのうち、1枚には(1)で調製したグアニジン塩酸塩溶液20μLを該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。該グアニジン塩酸塩溶液を塗布したフィルムは、(2)で準備した乾燥剤を添加したスクリュー管に入れた。残り2枚のあぶら取りフィルムは、グアニジン塩酸塩溶液を塗布せずに、1枚ずつ(2)で準備した乾燥剤を添加していないスクリュー管に入れた。各サンプルを-80℃又は室温(18~25℃)下で3日間保存した(表3)。
【0048】
(4)RNA分解防止作用の評価
(3)で調製した保存後のあぶら取りフィルムから、実施例1(3)と同様の手順でRNAを抽出し、cDNAに変換してPCRにかけ、反応産物を精製し、定量し、-80℃保存サンプルのcDNA濃度に対する各サンプルの相対cDNA濃度を求めた。表3に示すように、グアニジン塩処理及び乾燥を併用することにより、室温下でのRNA分解が顕著に防止された。
【0049】
【表3】
【0050】
実施例4 グアニジン塩水溶液又はグアニジン塩-アルコール水溶液と乾燥によるRNA分解防止
(1)グアニジン塩酸塩溶液の調製
グアニジン塩酸塩(富士フイルム和光純薬社)を30%(v/v)エタノール水溶液、又は水(UltraPure DNase/RNase-Free Distilled Water;Thermo Fisher Scientific K.K.)を溶媒とし、濃度が6Mとなるように溶解させた。
【0051】
(2)乾燥剤の調製
スクリュー管(容量20mL)を4本準備し、その内2本にモレキュラーシーブス 13X 1/8(富士フイルム和光純薬社)を、スクリュー管容量(mL)とモレキュラーシーブス質量(g)の比が20:1となるように添加した。具体的には、容量20mLのスクリュー管に1.0gのモレキュラーシーブスを添加した。
【0052】
(3)あぶら取りフィルムの準備
4枚のあぶら取りフィルム(汗もとれるオイルクリアフィルム、白元アース社、3M社の多孔質ポリプロピレンフィルムを使用、25×40mm)を用いて、被験者の顔全面よりSSLを採取した。別途、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてHuman HeLa Cell Total RNA(タカラバイオ社)を、RNA濃度が1μg/mLになるようにUltraPure DNase/RNase-Free Distilled Water(Thermo Fisher Scientific K.K.)で調製した。得られた該HeLa Cell由来RNA溶液を、該4枚のあぶら取りフィルムのそれぞれに20μLずつ該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。RNAを塗布した4枚のあぶら取りフィルムのうち、1枚には(1)で調製した30%(v/v)エタノール水溶液を溶媒とするグアニジン塩酸塩溶液を、もう1枚には、水を溶媒とするグアニジン塩酸塩溶液を、それぞれ20μLずつ該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。該グアニジン塩酸塩溶液を塗布した2枚のフィルムは、(2)で準備した乾燥剤を添加したスクリュー管に入れた。残り2枚のあぶら取りフィルムは、グアニジン塩酸塩溶液を塗布せずに、1枚ずつ(2)で準備した乾燥剤を添加していないスクリュー管に入れた。各サンプルを-80℃又は37℃で3日間保存した(表4)。
【0053】
(4)RNA分解防止作用の評価
(3)で調製した保存後のあぶら取りフィルムから、実施例1(3)と同様の手順でRNAを抽出し、cDNAに変換してPCRにかけ、反応産物を精製し、定量し、-80℃保存サンプルのcDNA濃度に対する各サンプルの相対cDNA濃度を求めた。表4に示すように、グアニジン塩処理及び乾燥により、37℃保存下でのRNA分解が顕著に防止された。
【0054】
【表4】
【0055】
実施例5 60℃保存下でのグアニジン塩と乾燥によるRNA分解防止
(1)グアニジン塩酸塩溶液の調製
実施例1(1)と同様の手順により、グアニジン塩酸塩溶液を調製した。
【0056】
(2)乾燥剤の調製
実施例2(1)と同様の手順により3本のスクリュー管を準備し、そのうち1本に乾燥剤を添加した。
【0057】
(3)あぶら取りフィルムの準備
3枚のあぶら取りフィルム(オイルクリアフィルム、白元アース社、25×40mm)を用いて、被験者の顔全面よりSSLを採取した。該3枚のあぶら取りフィルムのそれぞれに、実施例4(3)で調製したHeLa Cell由来RNA溶液を20μLずつ該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。RNAを塗布した3枚のあぶら取りフィルムのうち、1枚には(1)で調製したグアニジン塩酸塩溶液20μLを該フィルム全体に満遍なく塗布し、浸透させた。該グアニジン塩酸塩溶液を塗布したフィルムは、(2)で準備した乾燥剤を添加したスクリュー管に入れた。残り2枚のあぶら取りフィルムは、グアニジン塩酸塩溶液を塗布せずに、1枚ずつ(2)で準備した乾燥剤を添加していないスクリュー管に入れた。各サンプルを-80℃又は60℃で3日間保存した(表5)。
【0058】
(4)RNA分解防止作用の評価
(3)で調製した保存後のあぶら取りフィルムから、実施例1(3)と同様の手順でRNAを抽出し、cDNAに変換してPCRにかけ、反応産物を精製し、定量し、-80℃保存サンプルのcDNA濃度に対する各サンプルの相対cDNA濃度を求めた。表5に示すように、グアニジン塩処理及び乾燥により、60℃保存下でのRNA分解が顕著に防止された。
【0059】
【表5】
図1
図2