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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】交流発生回路および昇温装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/633 20140101AFI20241213BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20241213BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241213BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20241213BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20241213BHJP
   B60L 50/60 20190101ALN20241213BHJP
   B60L 58/25 20190101ALN20241213BHJP
   B60L 58/27 20190101ALN20241213BHJP
【FI】
H01M10/633
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/6571
H02J7/04 L
B60L50/60
B60L58/25
B60L58/27
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021142596
(22)【出願日】2021-09-01
(65)【公開番号】P2023035603
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大貫 泰道
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-228231(JP,A)
【文献】特開2011-146183(JP,A)
【文献】特開2013-077452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/633
H01M 10/615
H01M 10/625
H01M 10/6571
H02J 7/04
B60L 50/60
B60L 58/25
B60L 58/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタンス成分を有する蓄電体に蓄電された電力に基づく交流電流を発生させることにより前記蓄電体を昇温させる交流発生回路であって、
前記蓄電体の正極側に第1端が接続された第1のコンデンサと、
前記蓄電体の負極側に第1端が接続された第2のコンデンサと、
第1の制御信号に応じて、前記第1のコンデンサの第2端と前記第2のコンデンサの前記第1端とを接続し、前記第1のコンデンサの前記第1端と前記第2のコンデンサの第2端とを接続することにより、前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとを前記蓄電体に並列に接続させる並列スイッチ部と、
第2の制御信号に応じて、前記第1のコンデンサの前記第2端と前記第2のコンデンサの前記第2端とを接続することにより、前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとを前記蓄電体に直列に接続させる直列スイッチ部と、
前記直列スイッチ部の両方の端子の間に接続されたインダクタと、
を備える交流発生回路。
【請求項2】
前記並列スイッチ部は、
前記第1のコンデンサの前記第2端に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第1端に第2端子が接続された第1のスイッチと、
前記第1のコンデンサの前記第1端に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第2端に第2端子が接続された第2のスイッチと、
を有し、
前記直列スイッチ部は、前記第2のコンデンサの前記第2端に第1端子が接続され、前記第1のコンデンサの前記第2端に第2端子が接続された第3のスイッチ、を有し、
前記インダクタは、前記第3のスイッチの前記第1端子と前記第3のスイッチの前記第2端子との間に並列に接続される、
請求項1に記載の交流発生回路。
【請求項3】
前記インダクタのインダクタンスは、前記インダクタンス成分の略三分の一である、
請求項2に記載の交流発生回路。
【請求項4】
前記並列スイッチ部は、
前記第1のコンデンサの前記第2端側に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第1端に第2端子が接続された第1のスイッチと、
前記第1のコンデンサの前記第1端に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第2端側に第2端子が接続された第2のスイッチと、
を有し、
前記直列スイッチ部は、
前記第2のスイッチの前記第2端子に第1端子が接続され、前記第1のコンデンサの前記第2端に第2端子が接続された第3のスイッチと、
前記第2のコンデンサの前記第2端に第1端子が接続され、前記第1のスイッチの前記第1端子に第2端子が接続された第4のスイッチと、
を有し、
前記インダクタは、
前記第4のスイッチの前記第1端子に第1端が接続され、前記第3のスイッチの前記第2端子に第2端が接続された第1のインダクタと、
前記第1のインダクタの前記第1端に第1端が接続され、前記第2のスイッチの前記第2端子と前記第3のスイッチの前記第1端子との間に第2端が接続された第2のインダクタと、
前記第1のスイッチの前記第1端子と前記第4のスイッチの前記第2端子との間に第1端が接続され、前記第1のインダクタの前記第2端に第2端が接続された第3のインダクタと、
を有する、請求項1に記載の交流発生回路。
【請求項5】
前記第1のインダクタのインダクタンスは、前記インダクタンス成分の略三分の一である、
請求項4に記載の交流発生回路。
【請求項6】
前記第2のインダクタのインダクタンスと、前記第3のインダクタのインダクタンスとは等しい、
請求項5に記載の交流発生回路。
【請求項7】
前記インダクタンス成分は、前記蓄電体と前記交流発生回路との間の配線部分に有するインダクタンス成分を含む、
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の交流発生回路。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の交流発生回路と、
前記第1の制御信号として、前記並列スイッチ部を導通状態あるいは非導通状態にする所定のデューティ比の信号を出力し、
前記第2の制御信号として、前記直列スイッチ部を導通状態あるいは非導通状態にする前記所定のデューティ比の信号を出力し、
前記第1の制御信号と前記第2の制御信号とによって、前記並列スイッチ部を導通状態にすると共に前記直列スイッチ部を非導通状態にする第1状態と、前記並列スイッチ部を非導通状態にすると共に前記直列スイッチ部を導通状態にする第2状態とを交互に切り替える制御部と、
を備える昇温装置。
【請求項9】
前記所定のデューティ比は、略50パーセントである、
請求項8に記載の昇温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流発生回路および昇温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境上の悪影響を軽減(例えばNOx、SOxの削減、COの削減)する取り組みが進んでいる。このため、近年では、地球環境の改善の観点から、COの削減のために、例えば、ハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や、プラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)など、少なくとも、バッテリ(二次電池)により供給される電力によって駆動される電動モータによって走行する電気自動車への関心が高まっている。そして、車載用途のバッテリとして、リチウムイオン二次電池の使用が検討されている。これらの電気自動車では、二次電池の性能を充分に引き出すことが重要である。二次電池は、使用する際の温度が適度な範囲以下に低下すると、充放電性能が低下することが知られている。そして、二次電池は、使用する際に好適な温度まで上昇させることによって、充放電性能の低下を抑制することができる。
【0003】
これに関して、例えば、特許文献1には、二次電池を昇温させる昇温装置に関する技術が開示されている。特許文献1に開示された昇温装置では、二次電池のインピーダンスの周波数特性に基づいて、インピーダンスの絶対値が相対的に低下する周波数領域の所定の周波数のリップル電流を二次電池に積極的に発生させることによって、二次電池を昇温させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5293820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、効率的に二次電池を昇温させることができない場合があった。
【0006】
本発明は、上記の課題認識に基づいてなされたものであり、二次電池をより効率的に昇温させることによって、エネルギー効率の改善を図ることができる交流発生回路および昇温装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る交流発生回路および昇温装置は、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る交流発生回路は、インダクタンス成分を有する蓄電体に蓄電された電力に基づく交流電流を発生させることにより前記蓄電体を昇温させる交流発生回路であって、前記蓄電体の正極側に第1端が接続された第1のコンデンサと、前記蓄電体の負極側に第1端が接続された第2のコンデンサと、第1の制御信号に応じて、前記第1のコンデンサの第2端と前記第2のコンデンサの前記第1端とを接続し、前記第1のコンデンサの前記第1端と前記第2のコンデンサの第2端とを接続することにより、前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとを前記蓄電体に並列に接続させる並列スイッチ部と、第2の制御信号に応じて、前記第1のコンデンサの前記第2端と前記第2のコンデンサの前記第2端とを接続することにより、前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとを前記蓄電体に直列に接続させる直列スイッチ部と、前記直列スイッチ部の両方の端子の間に接続されたインダクタと、を備える交流発生回路である。
【0008】
(2):上記(1)の態様において、前記並列スイッチ部は、前記第1のコンデンサの前記第2端に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第1端に第2端子が接続された第1のスイッチと、前記第1のコンデンサの前記第1端に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第2端に第2端子が接続された第2のスイッチと、を有し、前記直列スイッチ部は、前記第2のコンデンサの前記第2端に第1端子が接続され、前記第1のコンデンサの前記第2端に第2端子が接続された第3のスイッチ、を有し、前記インダクタは、前記第3のスイッチの前記第1端子と前記第3のスイッチの前記第2端子との間に並列に接続されるものである。
【0009】
(3):上記(2)の態様において、前記インダクタのインダクタンスは、前記インダクタンス成分の略三分の一であるものである。
【0010】
(4):上記(1)の態様において、前記並列スイッチ部は、前記第1のコンデンサの前記第2端側に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第1端に第2端子が接続された第1のスイッチと、前記第1のコンデンサの前記第1端に第1端子が接続され、前記第2のコンデンサの前記第2端側に第2端子が接続された第2のスイッチと、を有し、前記直列スイッチ部は、前記第2のスイッチの前記第2端子に第1端子が接続され、前記第1のコンデンサの前記第2端に第2端子が接続された第3のスイッチと、前記第2のコンデンサの前記第2端に第1端子が接続され、前記第1のスイッチの前記第1端子に第2端子が接続された第4のスイッチと、を有し、前記インダクタは、前記第4のスイッチの前記第1端子に第1端が接続され、前記第3のスイッチの前記第2端子に第2端が接続された第1のインダクタと、前記第1のインダクタの前記第1端に第1端が接続され、前記第2のスイッチの前記第2端子と前記第3のスイッチの前記第1端子との間に第2端が接続された第2のインダクタと、前記第1のスイッチの前記第1端子と前記第4のスイッチの前記第2端子との間に第1端が接続され、前記第1のインダクタの前記第2端に第2端が接続された第3のインダクタと、を有するものである。
【0011】
(5):上記(4)の態様において、前記第1のインダクタのインダクタンスは、前記インダクタンス成分の略三分の一であるものである。
【0012】
(6):上記(5)の態様において、前記第2のインダクタのインダクタンスと、前記第3のインダクタのインダクタンスとは等しいものである。
【0013】
(7):上記(1)から(6)のうちいずれか一態様において、前記インダクタンス成分は、前記蓄電体と前記交流発生回路との間の配線部分に有するインダクタンス成分を含むものである。
【0014】
(8):この発明の一態様に係る昇温装置は、上記(1)から(7)のうちいずれか一態様の交流発生回路と、前記第1の制御信号として、前記並列スイッチ部を導通状態あるいは非導通状態にする所定のデューティ比の信号を出力し、前記第2の制御信号として、前記直列スイッチ部を導通状態あるいは非導通状態にする前記所定のデューティ比の信号を出力し、前記第1の制御信号と前記第2の制御信号とによって、前記並列スイッチ部を導通状態にすると共に前記直列スイッチ部を非導通状態にする第1状態と、前記並列スイッチ部を非導通状態にすると共に前記直列スイッチ部を導通状態にする第2状態とを交互に切り替える制御部と、を備える昇温装置である。
【0015】
(9):上記(8)の態様において、前記所定のデューティ比は、略50パーセントであるものである。
【発明の効果】
【0016】
上述した(1)~(9)の態様によれば、二次電池をより効率的に昇温させることによって、エネルギー効率の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る昇温装置が採用された車両の構成の一例を示す図である。
図2】第1実施形態に係る昇温装置が備える交流発生回路の構成の一例を示す図である。
図3】第1実施形態の交流発生回路の等価回路の一例である。
図4】比較例の交流発生回路の構成の一例を示す図である。
図5】比較例の交流発生回路の等価回路の一例である。
図6】比較例の交流発生回路の動作波形の一例を示す図である。
図7】比較例の交流発生回路の動作波形の別の一例を示す図である。
図8】第1実施形態の交流発生回路の動作波形の一例を示す図である。
図9】第1実施形態の交流発生回路の動作波形の別の一例を示す図である。
図10】比較例の交流発生回路の動作波形の別の一例を示す図である。
図11】第2実施形態に係る昇温装置が備える交流発生回路の構成の一例を示す図である。
図12】第2実施形態の交流発生回路の等価回路の一例である。
図13】第2実施形態の交流発生回路の動作波形の一例を示す図である。
図14】第2実施形態の交流発生回路の動作波形の別の一例を示す図である。
図15】交流発生回路が発生させる交流電流の特性を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の交流発生回路および昇温装置の実施形態について説明する。
【0019】
[車両の構成]
図1は、実施形態に係る昇温装置が採用された車両の構成の一例を示す図である。車両1は、走行用のバッテリ(二次電池)から供給される電力による電動機(電動モータ)の駆動、あるいは、例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの燃料をエネルギー源とする内燃機関による駆動を組み合わせて走行するハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)(以下、単に、「車両」という)である。本発明が適用される車両は、例えば、四輪の車両のみならず、鞍乗り型の二輪の車両や、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)の車両、さらには、アシスト式の自転車など、走行用のバッテリから供給される電力によって駆動される電動モータによって走行する車両の全般であってもよい。車両1は、例えば、電動機(電動モータ)のみの駆動によって走行する電気自動車(EV:Electric Vehicle)であってもよい。
【0020】
車両1は、例えば、エンジン10と、モータ12と、減速機14と、駆動輪16と、PDU(Power Drive Unit)20と、バッテリ30と、バッテリセンサ32と、昇温装置40と、運転操作子70と、車両センサ80と、制御装置100と、を備える。
【0021】
エンジン10は、車両1の燃料タンク(不図示)に蓄えられた、例えば、軽油やガソリンなどの燃料を燃焼させて稼働(回転)することで動力を出力する内燃機関である。エンジン10は、例えば、シリンダとピストン、吸気バルブ、排気バルブ、燃料噴射装置、点火プラグ、コンロッド、クランクシャフトなどを備えるレシプロエンジンである。エンジン10は、ロータリーエンジンであってもよい。エンジン10の回転動力は、減速機14に伝達される。
【0022】
モータ12は、車両1の走行用の回転電機である。モータ12は、例えば、三相交流電動機である。モータ12の回転子(ロータ)は、減速機14に連結されている。モータ12は、バッテリ30からPDU20を介して供給される電力によって駆動(回転)される。モータ12の回転動力は、減速機14に伝達される。モータ12は、車両1の減速時の運動エネルギーを用いた回生ブレーキとして動作して発電してもよい。モータ12は、発電用の電動機を含んでいてもよい。発電用の電動機は、例えば、エンジン10により出力される回転動力を用いて発電する。
【0023】
減速機14は、例えば、デファレンシャルギアである。減速機14は、駆動輪16が連結された車軸に、エンジン10やモータ12が連結された軸の駆動力、つまり、エンジン10やモータ12の回転動力を伝達させる。減速機14は、例えば、複数の歯車や軸が組み合わされ、変速比(ギア比)に応じてエンジン10やモータ12の回転速度を変速して車軸に伝達させる変速機構、いわゆる、トランスミッション機構を含んでもよい。減速機14は、例えば、エンジン10やモータ12の回転動力を車軸に直接的に連結または分離するクラッチ機構を含んでもよい。
【0024】
PDU20は、例えば、インバータや、DC―DCコンバータ、AC―DCコンバータである。PDU20は、バッテリ30から供給される直流の電力を、モータ12を駆動するための三相交流の電力に変換してモータ12に出力する。PDU20は、例えば、バッテリ30から供給される直流の電力を昇圧するVCU(Voltage Control Unit)を備えてもよい。PDU20は、回生ブレーキとして動作したモータ12により発電された三相交流の電力を直流の電力に変換して、バッテリ30に出力する。PDU20は、電力の出力先に合わせて昇圧あるいは降圧してから出力してもよい。図1では、PDU20の構成要素を一まとまりの構成として示しているが、これはあくまで一例であり、PDU20が備えるそれぞれの構成要素は、車両1において分散的に配置されてもよい。
【0025】
バッテリ30は、車両1の走行用のバッテリである。バッテリ30は、例えば、リチウムイオン電池などのように、充電と放電とを繰り返すことができる二次電池を蓄電部として備える。バッテリ30は、例えば、カセット式のバッテリパックなど、車両1に対して容易に着脱可能な構成であってもよいし、車両1に対する着脱が容易ではない据付式の構成であってもよい。バッテリ30が備える二次電池は、例えば、リチウムイオン電池である。バッテリ30が備える二次電池としては、例えば、鉛蓄電池、ニッケル・水素電池、ナトリウムイオン電池などの他、電気二重層キャパシタなどのキャパシタ、または二次電池とキャパシタとを組み合わせた複合電池なども考えられるが、二次電池の構成は、いかなるものであってもよい。バッテリ30は、車両1の外部の充電器(不図示)から導入される電力を蓄え(充電し)、蓄えた電力を、車両1を走行させるために放電する。バッテリ30は、PDU20を介して供給された、回生ブレーキとして動作したモータ12が発電した電力を蓄え(充電し)、蓄えた電力を車両1の走行(例えば、加速)のために放電する。バッテリ30は、少なくともインダクタンス成分を有している。
【0026】
バッテリ30は、特許請求の範囲における「蓄電体」の一例であり、バッテリ30が備える蓄電部に接続されたインダクタンス成分は、特許請求の範囲における「インダクタンス成分」の一例である。
【0027】
バッテリ30には、バッテリセンサ32が接続されている。バッテリセンサ32は、バッテリ30の電圧や、電流、温度などの物理量を検出する。バッテリセンサ32は、例えば、電圧センサ、電流センサ、温度センサを備える。バッテリセンサ32は、電圧センサによってバッテリ30の電圧を検出し、電流センサによってバッテリ30の電流を検出し、温度センサによってバッテリ30の温度を検出する。バッテリセンサ32は、検出したバッテリ30の電圧値、電流値、温度などの情報(以下、「バッテリ情報」という)を制御装置100に出力する。
【0028】
昇温装置40は、制御装置100からの制御に応じて、バッテリ30の温度を昇温させる。昇温装置40は、例えば、交流発生回路42と、制御部44と、を備える。
【0029】
交流発生回路42は、例えば、バッテリ30の正極側に接続される第1のコンデンサと、バッテリ30の負極側に接続される第2のコンデンサと、第1のコンデンサと第2のコンデンサとをバッテリ30に並列に接続させる並列スイッチ部と、第1のコンデンサと第2のコンデンサとをバッテリ30に直列に接続させる直列スイッチ部と、直列スイッチ部の両方の端子の間に接続されたインダクタと、を備える。交流発生回路42は、バッテリ30が有するインダクタンス成分と、少なくとも第1のコンデンサとの共振動作によって、交流電流を発生させる。より具体的には、交流発生回路42は、バッテリ30が有するインダクタンス成分に蓄えられる磁気エネルギーと、少なくとも第1のコンデンサに蓄積される静電エネルギーとを交互に交換させる共振動作によって、バッテリ30に蓄電された電力に基づく交流電流を発生させる。交流発生回路42は、発生させた交流電流をバッテリ30に印加する(流す)ことにより、バッテリ30の温度を昇温させる。
【0030】
制御部44は、交流発生回路42が備える並列スイッチ部および直列スイッチ部のそれぞれを導通状態または非導通状態にすることにより、第1のコンデンサと第2のコンデンサとのバッテリ30への接続を、並列接続あるいは直列接続のいずれかに切り替える。より具体的には、制御部44は、並列スイッチ部を導通状態にすると共に直列スイッチ部を非導通状態にすることによって第1のコンデンサと第2のコンデンサとをバッテリ30に並列接続させる状態と、並列スイッチ部を非導通状態にすると共に直列スイッチ部を導通状態にすることによって第1のコンデンサと第2のコンデンサとをバッテリ30に直列接続させる状態とを交互に切り替える。このとき、制御部44は、並列スイッチ部と直列スイッチ部とを共に非導通状態にする期間、いわゆるデッドタイムを設けて、第1のコンデンサと第2のコンデンサとのバッテリ30への接続を、並列接続から直列接続、あるいはその逆に切り替えてもよい。
【0031】
第1のコンデンサと第2のコンデンサとをバッテリ30に並列接続させる状態は、特許請求の範囲における「第1状態」の一例であり、第1のコンデンサと第2のコンデンサとをバッテリ30に直列接続させる状態は、特許請求の範囲における「第2状態」の一例である。昇温装置40、および昇温装置40が備える構成要素の詳細については後述する。
【0032】
運転操作子70は、例えば、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバー、ステアリングホイール、異形ステアリングホイール、ジョイスティック、その他の操作子を含む。運転操作子70には、車両1の利用者(運転者)によるそれぞれの操作子に対する操作の有無、あるいは操作量を検出するセンサが取り付けられている。運転操作子70は、センサの検出結果を、制御装置100に出力する。
【0033】
車両センサ80は、車両1の走行状態を検出する。車両センサ80は、例えば、車両1の速度を検出する車速センサや、車両1の加速度を検出する加速度センサを備える。車両センサ80は、それぞれのセンサが検出した検出結果を、制御装置100に出力する。
【0034】
制御装置100は、運転操作子70が備えるそれぞれのセンサにより出力された検出結果、つまり、車両1の利用者(運転者)によるそれぞれの操作子に対する操作に応じて、エンジン10やモータ12の稼働や動作を制御する。言い換えれば、制御装置100は、モータ12の駆動力を制御する。制御装置100は、例えば、エンジン制御部や、モータ制御部、バッテリ制御部、PDU制御部、VCU制御部というような、それぞれ別体の制御装置で構成されてもよい。制御装置100は、例えば、エンジンECU(Electronic Control Unit)や、モータECU、バッテリECU、PDU-ECU、VCU-ECUといった制御装置に置き換えられてもよい。
【0035】
制御装置100は、車両1が走行する際に、バッテリ30からモータ12に供給させる交流電力の供給量や、供給する交流電力の周波数(つまり、電圧波形)を制御する。このとき、制御装置100は、バッテリセンサ32により出力されたバッテリ情報に含まれるバッテリ30の温度の情報に基づいて、昇温装置40の起動を制御する。つまり、制御装置100は、バッテリ30の充放電性能の低下を抑制するため、バッテリ30の温度を、使用する際に好適な温度まで上昇(昇温)させるように、昇温装置40の起動あるいは停止を制御する。
【0036】
制御装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで動作する。制御装置100は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。制御装置100は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め車両1が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が車両1が備えるドライブ装置に装着されることで車両1が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0037】
<第1実施形態>
[昇温装置が備える交流発生回路の構成]
図2は、第1実施形態に係る昇温装置40が備える交流発生回路42(以下、「交流発生回路42-1」という)の構成の一例を示す図である。図2には、交流発生回路42-1に関連するバッテリ30も併せて示している。バッテリ30は、例えば、蓄電部Baの正極側に、抵抗RaとインダクタンスLaとが、直列に接続されている。バッテリ30が備える蓄電部Baに接続されたインダクタンスLaは、特許請求の範囲における「インダクタンス成分」の一例である。
【0038】
交流発生回路42-1は、例えば、コンデンサC1と、コンデンサC2と、スイッチS1と、スイッチS2と、スイッチS3と、インダクタL3と、を備える。コンデンサC1と、コンデンサC2とのそれぞれは、静電容量が等しいコンデンサである。スイッチS1と、スイッチS2と、スイッチS3とのそれぞれは、制御部44により出力された制御信号に応じて、両方の端子の間を接続した(閉状態にした)導通状態、または両方の端子の間を接続していない(開状態にした)非導通状態に制御される。以下の説明においては、制御部44により出力される、スイッチS1を導通状態または非導通状態に制御する制御信号を「制御信号CS1」といい、スイッチS2を導通状態または非導通状態に制御する制御信号を「制御信号CS2」といい、スイッチS3を導通状態または非導通状態に制御する制御信号を「制御信号CS3」という。
【0039】
スイッチS1と、スイッチS2と、スイッチS3とのそれぞれは、例えば、Nチャンネル型の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor:MOSFET)など、オンまたはオフのいずれかの状態に制御される半導体スイッチング素子であってもよい。この場合、例えば、還流用として機能するダイオードがさらに並列に接続された構成であってもよい。スイッチS1と、スイッチS2と、スイッチS3とのそれぞれが半導体スイッチング素子で構成される場合、制御部44は、スイッチS1と、スイッチS2と、スイッチS3とのそれぞれを導通状態または非導通状態に制御する制御信号として、半導体スイッチング素子をオン状態またはオフ状態にさせるゲート信号を出力する。
【0040】
交流発生回路42-1において、コンデンサC1の第1端は、バッテリ30の正極側に接続され、コンデンサC2の第1端は、バッテリ30の負極側に接続されている。さらに、交流発生回路42-1では、コンデンサC1の第1端にスイッチS2の第1端子が接続され、コンデンサC2の第1端にスイッチS1の第2端子が接続されている。そして、交流発生回路42-1では、コンデンサC1の第2端に、スイッチS1の第1端子とスイッチS3の第2端子とが接続され、コンデンサC2の第2端に、スイッチS2の第2端子とスイッチS3の第1端子とが接続されている。さらに、交流発生回路42-1では、スイッチS3の第1端子と第2端子との間にインダクタL3が並列に接続されている。
【0041】
このような構成によって、交流発生回路42-1では、制御部44からの制御に応じて、バッテリ30の正極側と負極側との間に、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列あるいは直列に接続させる。より具体的には、制御部44は、スイッチS1に、導通状態にさせる制御信号CS1を出力し、スイッチS2に、導通状態にさせる制御信号CS2を出力し、スイッチS3に、非導通状態にさせる制御信号CS3を出力することによって、バッテリ30の正極側と負極側との間に、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列に接続させる。一方、制御部44は、スイッチS1に、非導通状態にさせる制御信号CS1を出力し、スイッチS2に、非導通状態にさせる制御信号CS2を出力し、スイッチS3に、導通状態にさせる制御信号CS3を出力することによって、バッテリ30の正極側と負極側との間に、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列に接続させる。
【0042】
交流発生回路42-1において、コンデンサC1は、特許請求の範囲における「第1のコンデンサ」の一例であり、コンデンサC2は、特許請求の範囲における「第2のコンデンサ」の一例である。交流発生回路42-1において、スイッチS1とスイッチS2とを合わせた構成は、特許請求の範囲における「並列スイッチ部」の一例であり、スイッチS3は、特許請求の範囲における「直列スイッチ部」の一例である。交流発生回路42-1において、スイッチS1は、特許請求の範囲における「第1のスイッチ」の一例であり、スイッチS2は、特許請求の範囲における「第2のスイッチ」の一例であり、スイッチS3は、特許請求の範囲における「第3のスイッチ」の一例である。交流発生回路42-1において、インダクタL3は、特許請求の範囲における「インダクタ」の一例である。制御部44がスイッチS1に出力する制御信号CS1とスイッチS2に出力する制御信号CS2とは、特許請求の範囲における「第1の制御信号」の一例であり、制御部44がスイッチS3に出力する制御信号CS3は、特許請求の範囲における「第2の制御信号」の一例である。交流発生回路42-1において、バッテリ30の正極側と負極側との間にコンデンサC1とコンデンサC2とを並列に接続させる状態は、特許請求の範囲における「第1状態」の一例であり、バッテリ30の正極側と負極側との間にコンデンサC1とコンデンサC2とを直列に接続させる状態は、特許請求の範囲における「第2状態」の一例である。
【0043】
[昇温装置の動作]
ここで、交流発生回路42-1が発生させる交流電流の周波数について考える。昇温装置40によってバッテリ30を効率的に昇温させるためには、交流発生回路42-1が発生させる交流電流の電流波形が正弦波であることが好適である。そして、交流発生回路42-1に交流電流を発生させるための制御の観点から考えると、制御部44がスイッチS1、スイッチS2、およびスイッチS3に出力する制御信号のデューティ比は50パーセント(%)であることが好適である。
【0044】
ところで、上述したように、交流発生回路42-1では、コンデンサC1とコンデンサC2とのそれぞれは等しい静電容量のコンデンサである。このため、交流発生回路42-1では、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合と並列接続させた場合とで、コンデンサC1とコンデンサC2とを一つのコンデンサであると考えた場合における全体の静電容量が異なるものとなる。より具体的には、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合における交流発生回路42-1の全体の静電容量は、それぞれのコンデンサの静電容量の逆数の和、すなわち、二分の一倍の静電容量になる。一方、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合における交流発生回路42-1の全体の静電容量は、それぞれのコンデンサの静電容量の和、すなわち二倍の静電容量になる。このため、交流発生回路42-1では、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合と並列接続させた場合とで、発生させる交流電流の周波数が異なるものとなる。
【0045】
図3は、第1実施形態の交流発生回路42-1の等価回路の一例である。図3の(a)には、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合の等価回路を示し、図3の(b)には、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に並列接続させた場合の等価回路を示している。図3では、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分を「Ls」、抵抗Raの抵抗成分を「Rs」としている。そして、コンデンサC1およびコンデンサC2の静電容量を「Cx」とし、インダクタL3のインダクタンスを「Ly」としている。
【0046】
図3の(a)に示したように、交流発生回路42-1においてコンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合、インダクタL3は、スイッチS3によって短絡される。これに対して、交流発生回路42-1においてコンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に並列接続させた場合、コンデンサC1とコンデンサC2との間にインダクタL3が配置されるようになる。このように、交流発生回路42-1では、コンデンサC1とコンデンサC2と並列接続させた場合にインダクタL3が配置されるようにすることによって、発生させる交流電流の電流波形をより正弦波に近づけ、制御部44におけるそれぞれのスイッチの制御を容易にする(制御部44が出力する制御信号のデューティ比を50%に近づける)ことができる。
【0047】
<比較例>
[比較例の交流発生回路の構成]
ここで、交流発生回路42-1が備えるインダクタL3の効果を説明するため、まず、インダクタL3を備えない比較例の交流発生回路(以下、「交流発生回路42-C」という)について説明する。図4は、比較例の交流発生回路42-Cの構成の一例を示す図である。交流発生回路42-Cは、交流発生回路42-1からインダクタL3が省略された構成である。そして、交流発生回路42-CにおけるコンデンサC1、コンデンサC2、スイッチS1、スイッチS2、およびスイッチS3の接続は、交流発生回路42-1と等価である。
【0048】
図5は、比較例の交流発生回路42-Cの等価回路の一例である。図5の(a)には、交流発生回路42-Cにおいて、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合の等価回路を示し、図5の(b)には、交流発生回路42-Cにおいて、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に並列接続させた場合の等価回路を示している。図5でも、図3に示した交流発生回路42-1の等価回路と同様に、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分を「Ls」、抵抗Raの抵抗成分を「Rs」とし、コンデンサC1およびコンデンサC2の静電容量を「Cx」としている。
【0049】
まず、図5を参照して、交流発生回路42-Cが発生させる交流電流の周波数について説明する。交流発生回路42-Cにおいて、図5の(a)に示したようにコンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合のインピーダンスZは、下式(1)のように求めることができる。
【0050】
【数1】
【0051】
そして、交流発生回路42-CにおいてコンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数ωsは、下式(2)のように求めることができる。
【0052】
【数2】
【0053】
一方、交流発生回路42-Cにおいて、図5の(b)に示したようにコンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合のインピーダンスZは、下式(3)のように求めることができる。
【0054】
【数3】
【0055】
そして、交流発生回路42-CにおいてコンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpは、下式(4)のように求めることができる。
【0056】
【数4】
【0057】
ここで、交流発生回路42-CにおいてコンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数ωsと、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpとを比べると下式(5)で表される比率となる。
【0058】
【数5】
【0059】
すなわち、交流発生回路42-Cでは、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合と並列接続させた場合とにおける全体の静電容量の差によって、共振周波数が異なるものとなる。より具体的には、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数は、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数の二倍となる。このため、交流発生回路42-Cでは、発生させる交流電流の電流波形が正弦波とはならず、プラスの電流値のときとマイナスの電流値のときとで非対称な電流波形になってしまう。このため、交流発生回路42-Cでは、発生させる交流電流に高調波成分が多く含まれてしまい、バッテリ30を昇温させる際に多くのノイズを放射してしまうことになる。
【0060】
そして、交流発生回路42-Cにおいて最大の振幅の交流電流を発生させるためには、制御部44が、バッテリ30へのコンデンサC1とコンデンサC2との接続を直列接続あるいは並列接続に切り替えるための制御信号を、直列接続=「1」、並列接続=「2」の割合、つまり、デューティ比が1:2で出力しなくてはならない。言い換えれば、制御部44は、デューティ比が50%の制御信号をそれぞれのスイッチに出力した場合には、最大の振幅の交流電流を発生させることができない。
【0061】
[比較例の昇温装置の動作]
図6は、比較例の交流発生回路42-Cの動作波形(シミュレーション波形)の一例を示す図である。図6の(a)には、制御部44がそれぞれのスイッチに出力する制御信号と、交流発生回路42-C内の交流電流、および出力電圧の変化の一例を示し、図6の(b)には、交流発生回路42-C内を流れる交流電流を示している。
【0062】
より具体的には、図6の(a)には、交流発生回路42-Cに交流電流を発生させるために制御部44がそれぞれのスイッチに出力する、制御信号CS1、制御信号CS2、および制御信号CS3とのそれぞれを示している。図6の(a)においては、制御信号CS1、制御信号CS2、および制御信号CS3を“High”レベルにすることによって、対応するスイッチを導通状態にし、“Low”レベルにすることによって、対応するスイッチの非導通状態にするものとする。図6の(a)に示した動作波形は、交流発生回路42-Cに正弦波の交流電流を発生させるために、制御部44が、デューティ比は50%の制御信号をそれぞれのスイッチに出力して制御した場合の一例である。上述したように、制御部44は、スイッチを導通状態にする期間と、スイッチを非導通状態にする期間との間に、全てのスイッチを非導通状態にするデッドタイムを設けてもよいが、図6の(a)では、制御部44が、デッドタイムを設けずにそれぞれのスイッチを制御している場合を示している。
【0063】
図6の(a)には、制御部44が制御信号CS1、制御信号CS2、および制御信号CS3を制御したことにより変化する、バッテリ30(インダクタンスLaを含む)の両極間の電圧V1-V0と、コンデンサC1を流れる電流I-C1およびコンデンサC2を流れる電流I-C2と、バッテリ30(インダクタンスLaを含む)を流れる電流I-E1とのそれぞれの変化の一例を示している。そして、図6の(b)には、電圧V1-V0の計測位置と、電流I-C1、電流I-C2、および電流I-E1のそれぞれが流れる方向の一例を示している。
【0064】
図6の(a)に示したように、制御部44が、制御信号CS1および制御信号CS2を“Low”レベルにし、制御信号CS3を“High”レベルにしている直列接続期間PSでは、プラスの領域からマイナスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1もプラスの領域からマイナスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-Cの電圧V1-V0は、プラスのピーク電圧からマイナスのピーク電圧に向けて下降し、その後上昇する。一方、制御部44が、制御信号CS1および制御信号CS2を“High”レベルにし、制御信号CS3を“Low”レベルにしている並列接続期間PPでは、マイナスの領域からプラスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1もマイナスの領域からプラスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-Cの電圧V1-V0は、直列接続期間PSに引き続き、プラスのピーク電圧に向けて上昇する。
【0065】
このように、交流発生回路42-Cでは、制御部44がそれぞれのスイッチに制御信号を出力して、コンデンサC1とコンデンサC2とのバッテリ30への接続を直列接続あるいは並列接続に切り替えることによって交流電流を発生させことができる。しかしながら、図6の(a)に示した直列接続期間PSと並列接続期間PPとのそれぞれにおける電流I-E1や電圧V1-V0の波形からもわかるように、交流発生回路42-Cが発生させる交流電流の電流波形の振幅は小さいものとなってしまう。このため、上述したように、制御部44は、交流発生回路42-Cにおいて最大の振幅の交流電流を発生させるために、制御信号のデューティ比が1:2で出力しなくてはならない。
【0066】
ここで、制御信号のデューティ比による交流電流の電流波形の違いを示すため、制御部44が、デューティ比が1:2の制御信号をそれぞれのスイッチに出力して、交流発生回路42-Cに最大の振幅の交流電流を発生させる場合の動作について説明する。図7は、比較例の交流発生回路42-Cの動作波形(シミュレーション波形)の別の一例を示す図である。図7にも、図6の(a)に示したデューティ比は50%の制御信号における交流発生回路42-Cの動作波形の一例と同様に、それぞれの制御信号、および制御信号に応じて変化する電圧や電流を示している。つまり、図7には、制御部44が出力する制御信号と、制御信号に応じて変化する、バッテリ30(インダクタンスLaを含む)の両極間の電圧V1-V0と、それぞれの構成要素を流れる電流I-C1、電流I-C2、および電流I-E1とのそれぞれの変化の一例を示している。図7に示した動作波形も、図6に示した交流発生回路42-Cの動作波形の一例と同様に、制御部44が、デッドタイムを設けずにそれぞれのスイッチを制御している場合の一例である。図7に示した一例においても、電圧V1-V0の計測位置と、電流I-C1、電流I-C2、および電流I-E1のそれぞれが流れる方向の一例は、図6の(b)に示した一例と同様である。
【0067】
図7に示したように、制御部44が、デューティ比が1:2で制御信号を出力したことにより短くなった直列接続期間PSでは、プラスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1もプラスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-Cの電圧V1-V0は、プラスのピーク電圧からマイナスのピーク電圧に向けて下降する。一方、制御部44が、デューティ比が1:2で制御信号を出力したことにより長くなった並列接続期間PPでは、マイナスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1もマイナスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-Cの電圧V1-V0は、マイナスのピーク電圧からプラスのピーク電圧に向けて上昇する。
【0068】
このように、交流発生回路42-Cでは、制御部44が、デューティ比が1:2でそれぞれのスイッチに制御信号を出力することによって、図6の(a)と図7とのそれぞれにおける直列接続期間PSと並列接続期間PPとの電流I-E1や電圧V1-V0の波形を比べてわかるように、より振幅が大きい(最大の振幅の)交流電流を発生させることができる。しかしながら、制御部44が、デューティ比が1:2でコンデンサC1とコンデンサC2とのバッテリ30への接続を直列接続あるいは並列接続に切り替えると、図7に示した直列接続期間PSと並列接続期間PPとのそれぞれにおける電流I-E1や電圧V1-V0の波形からもわかるように、交流発生回路42-Cが発生させる交流電流の電流波形は正弦波ではなく、振幅も、交流電流がプラスの領域とマイナスの領域とで異なるものとなってしまう。
【0069】
図3に戻り、交流発生回路42-1が発生させる交流電流の周波数について説明する。まず、図3の(a)に示した、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数について考える。交流発生回路42-1においてコンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合、インダクタL3は、上述したようにスイッチS3によって短絡されるため、Ly=0である。従って、交流発生回路42-1においても、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合のインピーダンスZは、交流発生回路42-Cと同様に、上式(1)のように求めることができ、共振周波数ωsは、上式(2)のように求めることができる。
【0070】
続いて、図3の(b)に示した、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数について考える。交流発生回路42-1においてコンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合、インダクタL3は、上述したようにコンデンサC1とコンデンサC2との間に配置されるようになる。このため、交流発生回路42-1では、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合のインピーダンスZは、交流発生回路42-Cとは異なり、下式(6)のように求めることができる。
【0071】
【数6】
【0072】
そして、交流発生回路42-1においてコンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpは、下式(7)のように求めることができる。
【0073】
【数7】
【0074】
このことから、交流発生回路42-1において、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数ωsと、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpとを等しくする(下式(8)とする)ためには、下式(9)が成り立つようにすればよい。
【0075】
【数8】
【0076】
【数9】
【0077】
このことから、交流発生回路42-1におけるインダクタL3のインダクタンスLyは、下式(10)が成り立つようにすればよい。
【0078】
【数10】
【0079】
つまり、交流発生回路42-1において、インダクタL3のインダクタンスLyを、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの三分の一にすれば、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数ωsと、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpとを等しくすることができる。
【0080】
図8は、第1実施形態の交流発生回路42-1の動作波形(シミュレーション波形)の一例を示す図である。図8にも、図6図7に示した比較例の交流発生回路42-Cの動作波形の一例と同様に、それぞれの制御信号、および制御信号に応じて変化する電圧や電流を示している。つまり、図8の(a)には、制御部44が出力する制御信号と、制御信号に応じて変化する、バッテリ30(インダクタンスLaを含む)の両極間の電圧V1-V0と、それぞれの構成要素を流れる電流I-C1、電流I-C2、および電流I-E1とのそれぞれの変化の一例を示し、図8の(b)には、電圧V1-V0の計測位置と、電流I-C1、電流I-C2、および電流I-E1のそれぞれが流れる方向の一例を示している。
【0081】
図8の(a)に示した動作波形は、交流発生回路42-1に正弦波の交流電流を発生させるために、制御部44が、デューティ比は50%の制御信号をそれぞれのスイッチに出力して制御した場合の一例である。図8の(a)に示した動作波形も、図6図7に示した比較例の交流発生回路42-Cの動作波形の一例と同様に、制御部44が、デッドタイムを設けずにそれぞれのスイッチを制御している場合の一例である。
【0082】
図8の(a)に示したように、交流発生回路42-1では、制御部44が、制御信号CS1および制御信号CS2を“Low”レベルにし、制御信号CS3を“High”レベルにしている直列接続期間PSにおいて、主にマイナスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1も主にマイナスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-1の電圧V1-V0は、マイナスのピーク電圧からプラスのピーク電圧に向けて上昇する。一方、交流発生回路42-1では、制御部44が、制御信号CS1および制御信号CS2を“High”レベルにし、制御信号CS3を“Low”レベルにしている並列接続期間PPにおいて、主にプラスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1も主にプラスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-1の電圧V1-V0は、プラスのピーク電圧からマイナスのピーク電圧に向けて下降する。
【0083】
このように、交流発生回路42-1でも、交流発生回路42-Cと同様に、制御部44がそれぞれのスイッチに制御信号を出力して、コンデンサC1とコンデンサC2とのバッテリ30への接続を直列接続あるいは並列接続に切り替えることによって交流電流を発生させことができる。しかも、図8の(a)に示した直列接続期間PSと並列接続期間PPとのそれぞれにおける電流I-E1や電圧V1-V0の波形からもわかるように、交流発生回路42-1が発生させる交流電流の電流波形は、図6の(a)や図7に示した交流発生回路42-Cが発生させる交流電流の電流波形よりも、より正弦波に近い波形であり、振幅も、交流電流がプラスの領域とマイナスの領域とで、絶対値の差が少なくなっている。
【0084】
このように、交流発生回路42-1では、コンデンサC1とコンデンサC2と並列接続させる場合には、インダクタL3がコンデンサC1とコンデンサC2との間に配置されるような構成にすることによって、制御部44が出力する制御信号のデューティ比を50%にさせることができるとともに、発生させる交流電流の電流波形をより正弦波に近づけることができる。つまり、交流発生回路42-1では、プラスの電流値のときとマイナスの電流値のときとで対称な電流波形の交流電流を発生させることができる。このことにより、交流発生回路42-1では、制御部44におけるそれぞれのスイッチの制御を容易にするとともに、発生させた正弦波に近い電流波形の交流電流によって、より効率的にバッテリ30を昇温させることができる。言い換えれば、交流発生回路42-1では、高調波成分を低減させた交流電流を発生させることができ、バッテリ30を昇温させる際に放射されてしまうノイズを低減させることができる。
【0085】
このことから、交流発生回路42-1は、例えば、車両1に搭載するバッテリ30が、複数(例えば、二つ)のバッテリ30を組み合わせた構成である場合に、それぞれのバッテリ30に対して交流電流を印加する(流す)ことによって温度を昇温させるとともに、複数のバッテリ30の組によって出力される全体の電圧の変動(いわゆる、電圧波形のリップル)を低減させる構成として、より適用しやすくなる。より具体的には、車両1に搭載するバッテリ30が二つのバッテリ30を組み合わせた構成である場合、それぞれのバッテリ30に対して一つずつ交流発生回路42-1を接続し、制御部44が、それぞれの交流発生回路42-1に発生させる交流電流の位相をずらす(位相を180°ずらす)ように制御することによって、二つのバッテリ30の組により出力される全体の電圧の変動を低減させる構成として、より適用しやすくなる。
【0086】
[昇温装置の別の動作]
図9は、第1実施形態の交流発生回路42-1の動作波形(シミュレーション波形)の別の一例を示す図である。図9は、車両1に搭載するバッテリ30が二つのバッテリ30(バッテリ30aおよびバッテリ30b)を組み合わせた構成である場合の一例である。図9の(a)には、それぞれのバッテリ30に対応する交流発生回路42-1(交流発生回路42-1aおよび交流発生回路42-1b)の接続と、それぞれの交流発生回路42-1内を流れる交流電流を示している。図9の(b)には、制御部44がそれぞれのスイッチに出力する制御信号と、それぞれの交流発生回路42-1内の交流電流、および出力電圧の変化の一例を示している。図9において、それぞれの符号の最後に付与した「a」は、交流発生回路42-1aに対応するものであることを表し、「b」は、交流発生回路42-1bに対応するものであることを表している。
【0087】
図9の(a)に示したように、二つのバッテリ30を組み合わせた構成である場合、一方のバッテリ30aに交流発生回路42-1aを接続し、他方のバッテリ30bに交流発生回路42-1bを接続する。そして、制御部44は、それぞれの交流発生回路42-1が発生する交流電流の位相が180°ずれた位相となるように、それぞれの交流発生回路42-1が備えるスイッチに対して制御信号を出力する。図9の(b)には、それぞれの交流発生回路42-1に正弦波の交流電流を発生させるために、制御部44が、それぞれの交流発生回路42-1にデューティ比が50%の制御信号を出力している場合を示している。図9の(b)に示した制御信号も、制御部44が、デッドタイムを設けずにそれぞれのスイッチを制御する場合の制御信号の一例である。
【0088】
図9の(a)には、制御部44が制御信号によってそれぞれのスイッチを制御したことによりそれぞれの交流発生回路42-1において変化する、電圧の計測位置、および電流の流れる方向の一例を示している。より具体的には、交流発生回路42-1aに対応する電圧および電流の一例として、バッテリ30a(インダクタンスLaaを含む)の両極間の電圧V1-V0と、コンデンサC1aを流れる電流I-C1aおよびコンデンサC2aを流れる電流I-C2aと、バッテリ30a(インダクタンスLaaを含む)を流れる電流I-E1aとのそれぞれを示している。さらに、交流発生回路42-1bに対応する電圧および電流の一例として、バッテリ30b(インダクタンスLabを含む)の両極間の電圧V2-V1と、コンデンサC1bを流れる電流I-C1bおよびコンデンサC2bを流れる電流I-C2bと、バッテリ30b(インダクタンスLabを含む)を流れる電流I-E1bとのそれぞれを示している。そして、図9の(a)には、バッテリ30aおよびバッテリ30bを組み合わせた全体の電圧として、交流発生回路42-1aにおけるバッテリ30aの負極側の一端(V0)と、交流発生回路42-1bにおけるバッテリ30bの正極側の一端(V2)との両端の電圧V2-V0を示している。そして、図9の(b)には、交流発生回路42-1aと交流発生回路42-1bとにおける電流や電圧の変化の一例を示している。
【0089】
図9の(b)に示したように、制御部44は、期間P1において、交流発生回路42-1aの制御信号CS1aおよび制御信号CS2aを“Low”レベルにし、制御信号CS3aを“High”レベルにする。これにより、交流発生回路42-1aでは、コンデンサC1aとコンデンサC2aとがインダクタL3aを介して直列接続され、図8の(b)に示した直列接続期間PSと同様に、主にマイナスの領域に電流I-C1aおよび電流I-C2aが流れることによって、電流I-E1aも主にマイナスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-1aの電圧V1-V0は、図8の(b)に示した直列接続期間PSと同様に、マイナスのピーク電圧からプラスのピーク電圧に向けて上昇する。一方、期間P1において、制御部44は、交流発生回路42-1bの制御信号CS1bおよび制御信号CS2bを“High”レベルにし、制御信号CS3bを“Low”レベルにする。これにより、交流発生回路42-1bでは、コンデンサC1bとコンデンサC2bとが並列接続され、図8の(b)に示した並列接続期間PPと同様に、主にプラスの領域に電流I-C1bおよび電流I-C2bが流れることによって、電流I-E1bも主にプラスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-1bの電圧V2-V1は、プラスのピーク電圧からマイナスのピーク電圧に向けて下降する。
【0090】
その後、図9の(b)に示したように、制御部44は、期間P2において、交流発生回路42-1aの制御信号CS1aおよび制御信号CS2aを“High”レベルにし、制御信号CS3aを“Low”レベルにする。これにより、交流発生回路42-1aでは、コンデンサC1aとコンデンサC2aとが並列接続され、図8の(b)に示した並列接続期間PPと同様に、主にプラスの領域に電流I-C1aおよび電流I-C2aが流れることによって、電流I-E1aも主にプラスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-1aの電圧V1-V0は、プラスのピーク電圧からマイナスのピーク電圧に向けて下降する。一方、期間P2において、制御部44は、交流発生回路42-1bの制御信号CS1bおよび制御信号CS2bを“Low”レベルにし、制御信号CS3bを“High”レベルにする。これにより、交流発生回路42-1bでは、コンデンサC1bとコンデンサC2bとがインダクタL3bを介して直列接続され、図8の(b)に示した直列接続期間PSと同様に、主にマイナスの領域に電流I-C1bおよび電流I-C2bが流れることによって、電流I-E1bも主にマイナスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-1bの電圧V2-V1は、図8の(b)に示した直列接続期間PSと同様に、マイナスのピーク電圧からプラスのピーク電圧に向けて上昇する。
【0091】
このように、車両1に搭載するバッテリ30が二つのバッテリ30(ここでは、バッテリ30aおよびバッテリ30b)を組み合わせた構成である場合、制御部44は、それぞれのバッテリ30に対応する交流発生回路42-1が、逆の動作になるように制御信号を出力して制御する。これにより、図9の(b)に示したように、二つのバッテリ30を組み合わせた全体の電圧V2-V0の変動を低減させることができる。これは、それぞれの交流発生回路42-1が発生させる交流電流の電流波形が、プラスの電流値のときとマイナスの電流値のときとで対称な正弦波に近い電流波形であることによるものである。
【0092】
[比較例の昇温装置の別の動作]
図4に示した比較例の交流発生回路42-Cにおいても、車両1に搭載するバッテリ30が二つのバッテリ30を組み合わせた構成に適用することは可能である。ただし、交流発生回路42-Cが発生させる交流電流の電流波形は、プラスの電流値のときとマイナスの電流値のときとで非対称な電流波形であるため、二つのバッテリ30を組み合わせた全体の電圧の変動を低減させる効果は小さい。
【0093】
ここで、交流発生回路42-1との比較のため、交流発生回路42-Cを、二つのバッテリ30を組み合わせた構成に適用した場合の一例を示す。図10は、比較例の交流発生回路42-Cの動作波形の別の一例を示す図である。図10は、車両1に搭載するバッテリ30が二つのバッテリ30(バッテリ30aおよびバッテリ30b)を組み合わせた構成である場合において、それぞれのバッテリ30に交流発生回路42-Cを接続させた場合の一例である。この場合の交流発生回路42-Cの動作および制御部44における交流発生回路42-Cの制御は、図6図7に示した交流発生回路42-Cの動作および制御部44における交流発生回路42-Cの制御を参照して、図9に示した交流発生回路42-1の動作および制御部44における交流発生回路42-1の制御と同様に考えることができる。従って、図10に示した交流発生回路42-Cの動作および制御部44における交流発生回路42-Cの制御に関する詳細な説明は省略する。
【0094】
図9の(b)に示した電圧V2-V0の電圧波形と、図10の(b)に示した電圧V2-V0の電圧波形とを比べると、交流発生回路42-Cを二つのバッテリ30を組み合わせた構成に適用した場合よりも、交流発生回路42-1を二つのバッテリ30を組み合わせた構成に適用した場合の方が、電圧V2-V0の電圧変動を低減させる効果が大きいことがわかる。
【0095】
このように、第1実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42-1において、スイッチS3の第1端子と第2端子との間に、インダクタンスLyが、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの三分の一の値であるインダクタL3を並列に接続する。そして、第1実施形態の昇温装置40では、バッテリ30が有するインダクタンスLaと、少なくともコンデンサC1との共振動作によってバッテリ30に蓄電された電力に基づく交流電流を発生させる際に、交流発生回路42-1において、コンデンサC1とコンデンサC2と並列接続させる場合に、インダクタL3がコンデンサC1とコンデンサC2との間に配置されるようにする。これにより、第1実施形態の昇温装置40では、発生させる交流電流の電流波形をより正弦波に近づけ、制御部44が出力する制御信号のデューティ比を50%に近づけ、制御部44によるそれぞれのスイッチの制御を容易にすることができる。このことにより、第1実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42-1が発生させた正弦波に近い電流波形の交流電流によって、より効率的にバッテリ30を昇温させることができる。
【0096】
さらに、第1実施形態の昇温装置40では、例えば、車両1に搭載するバッテリ30が、二つのバッテリ30を組み合わせた構成である場合に、制御部44が、それぞれの交流発生回路42-1に発生させる交流電流の位相をずらす(位相を180°ずらす)ように制御することによって、二つのバッテリ30の組により出力される全体の電圧の変動を低減させることができる。
【0097】
<第2実施形態>
[昇温装置が備える交流発生回路の構成]
図11は、第2実施形態に係る昇温装置40が備える交流発生回路42(以下、「交流発生回路42-2」という)の構成の一例を示す図である。図11にも、交流発生回路42-2に関連するバッテリ30も併せて示している。交流発生回路42-2は、例えば、コンデンサC1と、コンデンサC2と、スイッチS1と、スイッチS2と、スイッチS31と、スイッチS32と、インダクタL3と、インダクタL10と、インダクタL20と、を備える。
【0098】
交流発生回路42-2は、第1実施形態の交流発生回路42-1が備えるスイッチS3がスイッチS31とスイッチS32との二つのスイッチの構成に代わり、インダクタL10およびインダクタL20が追加された構成である。交流発生回路42-2が備えるその他の構成要素、つまり、コンデンサC1、コンデンサC2、スイッチS1、スイッチS2、およびインダクタL3は、第1実施形態の交流発生回路42-1と等価である。インダクタL10と、インダクタL20とのそれぞれは、インダクタンスが等しいインダクタである。スイッチS31と、スイッチS32とのそれぞれも、交流発生回路42-1が備えるスイッチS3と同様に、制御部44により出力された制御信号に応じて、両方の端子の間を接続した(閉状態にした)導通状態、または両方の端子の間を接続していない(開状態にした)非導通状態に制御される。以下の説明においては、制御部44により出力される、スイッチS31を導通状態または非導通状態に制御する制御信号を「制御信号CS31」といい、スイッチS32を導通状態または非導通状態に制御する制御信号を「制御信号CS32」という。スイッチS31と、スイッチS32とのそれぞれも、交流発生回路42-1が備えるスイッチS3と同様に、例えば、Nチャンネル型の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチング素子であってもよい。
【0099】
交流発生回路42-2においても、コンデンサC1の第1端は、バッテリ30の正極側に接続され、コンデンサC2の第1端は、バッテリ30の負極側に接続されている。さらに、交流発生回路42-2でも、コンデンサC1の第1端にスイッチS2の第1端子が接続され、コンデンサC2の第1端にスイッチS1の第2端子が接続されている。そして、交流発生回路42-2では、コンデンサC1の第2端に、スイッチS31の第2端子と、インダクタL3の第2端と、インダクタL20の第2端とが接続され、コンデンサC2の第2端に、スイッチS32の第1端子と、インダクタL3の第1端と、インダクタL10の第1端とが接続されている。さらに、交流発生回路42-2では、スイッチS1の第1端子とスイッチS32の第2端子との間に、インダクタL20の第1端とが接続され、スイッチS2の第2端子とスイッチS31の第1端子との間に、インダクタL10の第2端とが接続されている。
【0100】
このような構成によって、交流発生回路42-2では、制御部44からの制御に応じて、バッテリ30の正極側と負極側との間に、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列あるいは直列に接続させる。より具体的には、制御部44は、スイッチS1に、導通状態にさせる制御信号CS1を出力し、スイッチS2に、導通状態にさせる制御信号CS2を出力し、スイッチS31に、非導通状態にさせる制御信号CS31を出力し、スイッチS32に、非導通状態にさせる制御信号CS32を出力することによって、バッテリ30の正極側と負極側との間に、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列に接続させる。一方、制御部44は、スイッチS1に、非導通状態にさせる制御信号CS1を出力し、スイッチS2に、非導通状態にさせる制御信号CS2を出力し、スイッチS31に、導通状態にさせる制御信号CS31を出力し、スイッチS32に、導通状態にさせる制御信号CS32を出力することによって、バッテリ30の正極側と負極側との間に、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列に接続させる。
【0101】
交流発生回路42-2において、コンデンサC1は、特許請求の範囲における「第1のコンデンサ」の一例であり、コンデンサC2は、特許請求の範囲における「第2のコンデンサ」の一例である。交流発生回路42-2において、スイッチS1とスイッチS2とを合わせた構成は、特許請求の範囲における「並列スイッチ部」の一例であり、スイッチS31とスイッチS32とを合わせた構成は、特許請求の範囲における「直列スイッチ部」の一例である。交流発生回路42-2において、スイッチS1は、特許請求の範囲における「第1のスイッチ」の一例であり、スイッチS2は、特許請求の範囲における「第2のスイッチ」の一例であり、スイッチS31は、特許請求の範囲における「第3のスイッチ」の一例であり、スイッチS32は、特許請求の範囲における「第4のスイッチ」の一例である。交流発生回路42-2において、インダクタL3は、特許請求の範囲における「第1のインダクタ」の一例であり、インダクタL10は、特許請求の範囲における「第2のインダクタ」の一例であり、インダクタL20は、特許請求の範囲における「第3のインダクタ」の一例である。制御部44がスイッチS1に出力する制御信号CS1とスイッチS2に出力する制御信号CS2とは、特許請求の範囲における「第1の制御信号」の一例であり、制御部44がスイッチS31に出力する制御信号CS31とスイッチS32に出力する制御信号CS32とは、特許請求の範囲における「第2の制御信号」の一例である。交流発生回路42-2において、バッテリ30の正極側と負極側との間にコンデンサC1とコンデンサC2とを並列に接続させる状態は、特許請求の範囲における「第1状態」の一例であり、バッテリ30の正極側と負極側との間にコンデンサC1とコンデンサC2とを直列に接続させる状態は、特許請求の範囲における「第2状態」の一例である。
【0102】
[昇温装置の動作]
図12は、第2実施形態の交流発生回路42-2の等価回路の一例である。図12の(a)には、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合の等価回路を示し、図12の(b)には、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に並列接続させた場合の等価回路を示している。図12でも、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分を「Ls」、抵抗Raの抵抗成分を「Rs」としている。そして、コンデンサC1およびコンデンサC2の静電容量を「Cx」とし、インダクタL3のインダクタンスを「Ly」としている。さらに、インダクタL10およびインダクタL20のインダクタンスを「Lx」としている。
【0103】
交流発生回路42-2でも、コンデンサC1とコンデンサC2とのそれぞれは等しい静電容量のコンデンサであるため、交流発生回路42-1と同様に、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合と並列接続させた場合とで、コンデンサC1とコンデンサC2とを一つのコンデンサであると考えた場合における全体の静電容量は異なるものとなる。このため、交流発生回路42-2でも、交流発生回路42-1と同様に、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列接続させた場合と並列接続させた場合とで、発生させる交流電流の周波数が異なるものとなる。交流発生回路42-2でも、昇温装置40によってバッテリ30を効率的に昇温させるためには、発生させる交流電流の電流波形が正弦波であり、制御部44がスイッチS1、スイッチS2、ステップS31、およびスイッチS32に出力する制御信号のデューティ比は50%であることが好適である。ここで、交流発生回路42-2が発生させる交流電流の周波数について考える。
【0104】
まず、図12の(a)に示した、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数について説明する。交流発生回路42-2においてコンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合、コンデンサC1とコンデンサC2との間に、インダクタL3、インダクタL10、およびインダクタL20による回路が配置されるようになる。このため、交流発生回路42-2においてコンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合のインピーダンスZは、下式(11)のように求めることができる。
【0105】
【数11】
【0106】
そして、交流発生回路42-2においてコンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数ωsは、上式(11)で求めたインピーダンスZが最小となり、抵抗成分Rsと等しくなる周波数である。このことから、共振周波数ωsは、上式(11)における右辺第一項の分子の部分がゼロになればよい。つまり、共振周波数ωsは、下式(12)が成り立つようにすればよい。
【0107】
【数12】
【0108】
そして、上式(12)から、共振周波数ωsは、下式(13)のように求めることができる。
【0109】
【数13】
【0110】
続いて、図12の(a)に示した、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数について説明する。交流発生回路42-2においてコンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合、コンデンサC1の第1端とコンデンサC2の第2端との間にインダクタL10が直列に接続され、コンデンサC1の第2端とコンデンサC2の第1端との間にインダクタL20が直列に接続され、インダクタL10とインダクタL20との間にインダクタL3が接続されるようになる。このため、交流発生回路42-2においてコンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合のインピーダンスZは、下式(14)のように求めることができる。
【0111】
【数14】
【0112】
ここで、交流発生回路42-2においてコンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpは、上式(14)で求めたインピーダンスZが最小となり、抵抗成分Rsと等しくなる周波数である。このことから、共振周波数ωpは、上式(14)における右辺第一項の分子の部分がゼロになればよい。つまり、共振周波数ωpは、下式(15)が成り立つようにすればよい。
【0113】
【数15】
【0114】
そして、上式(15)から、共振周波数ωpは、下式(16)のように求めることができる。
【0115】
【数16】
【0116】
ここで、共振周波数ωsと共振周波数ωpとを比較すると、共振周波数ωsは下式(17)のように表すことができ、共振周波数ωpは下式(18)のように表すことができる。
【0117】
【数17】
【0118】
【数18】
【0119】
このことから、交流発生回路42-2において、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数ωsと、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpとを等しくするためには、下式(19)が成り立つようにすればよい。
【0120】
【数19】
【0121】
このことから、交流発生回路42-2におけるインダクタL3のインダクタンスLyは、下式(20)が成り立つようにすればよい。
【0122】
【数20】
【0123】
これは、第1実施形態の交流発生回路42-1と同じである。つまり、交流発生回路42-2においても、インダクタL3のインダクタンスLyを、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの三分の一にすれば、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させた場合の共振周波数ωsと、コンデンサC1とコンデンサC2とを並列接続させた場合の共振周波数ωpとを等しくすることができる。これにより、交流発生回路42-2でも、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続あるいは並列接続させることによって、発生させる交流電流の電流波形をより正弦波に近づけ、制御部44が出力する制御信号のデューティ比を50%に近づけて、制御部44におけるそれぞれのスイッチの制御を容易にすることができる。
【0124】
図13は、第2実施形態の交流発生回路42-2の動作波形(シミュレーション波形)の一例を示す図である。図13にも、図8に示した交流発生回路42-1の動作波形の一例と同様に、それぞれの制御信号、および制御信号に応じて変化する電圧や電流を示している。図13の(a)には、制御部44が出力する制御信号と、制御信号に応じて変化する、バッテリ30(インダクタンスLaを含む)の両極間の電圧V1-V0と、それぞれの構成要素を流れる電流I-C1、電流I-C2、および電流I-E1とのそれぞれの変化の一例を示し、図13の(b)には、電圧V1-V0の計測位置と、電流I-C1、電流I-C2、および電流I-E1のそれぞれが流れる方向の一例を示している。
【0125】
図13の(a)に示した動作波形も、交流発生回路42-2に正弦波の交流電流を発生させるために、制御部44が、デューティ比は50%の制御信号をそれぞれのスイッチに出力して制御した場合の一例である。図13の(a)に示した動作波形も、図8に示した交流発生回路42-1の動作波形の一例と同様に、制御部44が、デッドタイムを設けずにそれぞれのスイッチを制御している場合の一例である。
【0126】
図13の(a)に示したように、交流発生回路42-2では、制御部44が、制御信号CS1および制御信号CS2を“Low”レベルにし、制御信号CS31および制御信号CS32を“High”レベルにしている直列接続期間PSにおいて、主にマイナスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1も主にマイナスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-2の電圧V1-V0は、マイナスのピーク電圧からプラスのピーク電圧に向けて上昇する。一方、交流発生回路42-2では、制御部44が、制御信号CS1および制御信号CS2を“High”レベルにし、制御信号CS31および制御信号CS32を“Low”レベルにしている並列接続期間PPにおいて、主にプラスの領域に電流I-C1および電流I-C2が流れることによって、電流I-E1も主にプラスの領域に流れる。これにより、交流発生回路42-2の電圧V1-V0は、プラスのピーク電圧からマイナスのピーク電圧に向けて下降する。
【0127】
このように、交流発生回路42-2でも、交流発生回路42-1と同様に、制御部44がそれぞれのスイッチに制御信号を出力して、コンデンサC1とコンデンサC2とのバッテリ30への接続を直列接続あるいは並列接続に切り替えることによって交流電流を発生させことができる。しかも、図13の(a)に示した直列接続期間PSと並列接続期間PPとのそれぞれにおける電流I-E1や電圧V1-V0の波形からもわかるように、交流発生回路42-2が発生させる交流電流の電流波形は、図8の(a)に示した交流発生回路42-1が発生させる交流電流の電流波形よりも、さらに正弦波に近い波形であり、振幅も、交流電流がプラスの領域とマイナスの領域とで、絶対値の差が少なくなっている。
【0128】
このように、交流発生回路42-2の構成でも、交流発生回路42-1と同様に、制御部44が出力する制御信号のデューティ比を50%にさせることができるとともに、発生させる交流電流の電流波形をさらに正弦波に近づけることができる。このことにより、交流発生回路42-2でも、交流発生回路42-1と同様に、制御部44におけるそれぞれのスイッチの制御を容易にするとともに、発生させた正弦波に近い電流波形の交流電流によって、より効率的にバッテリ30を昇温させることができる。そして、交流発生回路42-2では、さらに正弦波に近づけた、つまり、高調波成分をさらに低減させた交流電流を発生させることにより、バッテリ30を昇温させる際に放射されてしまうノイズをさらに低減させることができる。
【0129】
[昇温装置の別の動作]
交流発生回路42-2も、交流発生回路42-1と同様に、車両1に搭載するバッテリ30が複数(例えば、二つ)のバッテリ30を組み合わせた構成に適用することができる。図14は、第2実施形態の交流発生回路42-2の動作波形(シミュレーション波形)の別の一例を示す図である。図14も、図9に示した交流発生回路42-1の動作波形の別の一例と同様に、車両1に搭載するバッテリ30が二つのバッテリ30(バッテリ30aおよびバッテリ30b)を組み合わせた構成である場合において、それぞれのバッテリ30に交流発生回路42-2を接続させた場合の一例である。図14の(a)にも、それぞれのバッテリ30に対応する交流発生回路42-2(交流発生回路42-2aおよび交流発生回路42-2b)の接続と、それぞれの交流発生回路42-2内を流れる交流電流を示している。図14の(b)にも、制御部44がそれぞれのスイッチに出力する制御信号と、それぞれの交流発生回路42-2内の交流電流、および出力電圧の変化の一例を示している。
【0130】
図14の(a)に示したように、二つのバッテリ30を組み合わせた構成である場合、バッテリ30aに交流発生回路42-2aを接続し、バッテリ30bに交流発生回路42-2bを接続する。そして、制御部44は、それぞれの交流発生回路42-2が発生する交流電流の位相が180°ずれた位相となるように、それぞれの交流発生回路42-2が備えるスイッチに対して制御信号を出力する。図14の(b)にも、それぞれの交流発生回路42-2に正弦波の交流電流を発生させるために、制御部44が、それぞれの交流発生回路42-2にデューティ比が50%の制御信号を出力している場合を示している。図14の(b)に示した制御信号も、制御部44が、デッドタイムを設けずにそれぞれのスイッチを制御する場合の制御信号の一例である。
【0131】
この場合の交流発生回路42-2の動作および制御部44における交流発生回路42-2の制御は、図13に示した交流発生回路42-2の動作および制御部44における交流発生回路42-2の制御を参照して、図9に示した交流発生回路42-1の動作および制御部44における交流発生回路42-1の制御と同様に考えることができる。従って、図14に示した交流発生回路42-2の動作および制御部44における交流発生回路42-2の制御に関する詳細な説明は省略する。
【0132】
図14の(b)に示した電圧V2-V0の電圧波形と、図9の(b)に示した電圧V2-V0の電圧波形とを比べると、交流発生回路42-1を二つのバッテリ30を組み合わせた構成に適用した場合よりも、交流発生回路42-2を二つのバッテリ30を組み合わせた構成に適用した場合の方が、電圧V2-V0の電圧変動が少ないことがわかる。
【0133】
このように、第2実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42-2が、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの三分の一のインダクタンスLyであるインダクタL3と、同じインダクタンスLxであるインダクタL10およびインダクタL20を備える。そして、第2実施形態の昇温装置40では、バッテリ30が有するインダクタンスLaと、少なくともコンデンサC1との共振動作によってバッテリ30に蓄電された電力に基づく交流電流を発生させる際に、交流発生回路42-2において、コンデンサC1とコンデンサC2とを直列接続させる場合と並列接続させる場合とで、インダクタL3、インダクタL10、およびインダクタL20による異なる回路がコンデンサC1とコンデンサC2との間に配置されるようにする。これにより、第2実施形態の昇温装置40では、発生させる交流電流の電流波形をさらに正弦波に近づけ、制御部44が出力する制御信号のデューティ比を50%に近づけ、制御部44によるそれぞれのスイッチの制御を容易にすることができる。このことにより、第2実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42-2が発生させた、さらに正弦波に近い電流波形の交流電流によって、より効率的にバッテリ30を昇温させることができる。
【0134】
さらに、第2実施形態の昇温装置40でも、第1実施形態の昇温装置40と同様に、例えば、車両1に搭載するバッテリ30が、二つのバッテリ30を組み合わせた構成である場合に、制御部44が、それぞれの交流発生回路42-2に発生させる交流電流の位相をずらす(位相を180°ずらす)ように制御することによって、二つのバッテリ30の組により出力される全体の電圧の変動を低減させることができる。
【0135】
ここで、比較例の交流発生回路42-Cと、第1実施形態の交流発生回路42-1と、第2実施形態の交流発生回路42-2とのそれぞれが発生させる交流電流の特性の違いについて説明する。図15は、交流発生回路42(交流発生回路42-C、交流発生回路42-1、および交流発生回路42-2)が発生させる交流電流の特性を比較する図である。図15の(a)には、それぞれの交流発生回路42が発生させる交流電流の基本波の成分を「1」として正規化した場合において、それぞれの交流発生回路42が発生させる交流電流の電流波形に含まれる高調波成分の比率の特性を示している。図15の(b)には、それぞれの交流発生回路42が発生させる交流電流の電流波形における高調波歪みの特性を示している。図15では、図7に示した交流発生回路42-Cの電流I-E1と、図8に示した交流発生回路42-1の電流I-E1と、図13に示した交流発生回路42-2の電流I-E1とのそれぞれの交流電流の特性を比較している。
【0136】
図15の(a)に示したように、基本波の成分を「1」とした場合における「二次高調波」、「三次高調波」、「四次高調波」、および「五次高調波」の比率は、交流発生回路42-Cが発生させる電流I-E1が最も高く、交流発生回路42-1および交流発生回路42-2が発生させる電流I-E1では低くなっている。特に、交流発生回路42-1および交流発生回路42-2では、三次高調波から五次高調波が低くなっている。そして、図15の(b)に示したように、それぞれの交流発生回路42が発生させる電流I-E1の電流波形における高調波歪みも、交流発生回路42-Cが発生させる電流I-E1が最も多く、交流発生回路42-1が発生させる電流I-E1、交流発生回路42-2が発生させる電流I-E1の順に少なくなっている。
【0137】
これらのことから、交流発生回路42-1や交流発生回路42-2では、交流発生回路42-Cよりも、高調波成分や高調波歪みを低減させた電流I-E1(交流電流)を発生させることができることがわかる。これは、交流発生回路42-1や交流発生回路42-2では、インダクタL3を備えることによって、発生させる電流I-E1(交流電流)の電流波形がより正弦波に近い電流波形となったことによるものである。さらに、交流発生回路42-2では、交流発生回路42-1よりも高調波歪みが少ない電流I-E1(交流電流)を発生させることができることがわかる。これは、交流発生回路42-2では、インダクタL10およびインダクタL2をさらに備えることによって、発生させる電流I-E1(交流電流)の電流波形が、交流発生回路42-1が発生させる電流I-E1(交流電流)の電流波形よりも、さらに正弦波に近い電流波形となったことによるものである。
【0138】
上記に述べたとおり、各実施形態の昇温装置40によれば、交流発生回路42に、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの三分の一のインダクタンスLyであるインダクタL3を備える。そして、各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42が備えるコンデンサC1およびコンデンサC2のバッテリ30への接続を直列接続あるいは並列接続に切り替えることにより、バッテリ30が有するインダクタンスLaに蓄えられる磁気エネルギーと、少なくともコンデンサC1に蓄積される静電エネルギーとを交互に交換させる共振動作を利用して、バッテリ30に蓄電された電力に基づく交流電流を発生させる。このとき、各実施形態の昇温装置40では、少なくとも、交流発生回路42が備えるコンデンサC1およびコンデンサC2をバッテリ30に並列接続させた際に、コンデンサC1とコンデンサC2との間にインダクタL3が配置される。これにより、各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42が発生させる交流電流の電流波形が、より正弦波に近い電流波形になる。これにより、各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42が発生させた正弦波に近い電流波形の交流電流によって、より効率的にバッテリ30を昇温させることができる。これにより、各実施形態の昇温装置40が採用された車両1では、バッテリ30を好適な温度に昇温させた状態で使用することができ、バッテリ30の充放電性能の低下を抑制することができる。さらに、各実施形態の昇温装置40が採用された車両1では、交流発生回路42が発生させる交流電流に含まれる高調波成分が少ないため、バッテリ30を昇温させる際に放射されてしまうノイズを低減させることができる。
【0139】
ところで、上述した各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42(交流発生回路42-1や交流発生回路42-2)が備えるインダクタL3のインダクタンスLyが、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの三分の一の値であるものとして説明した。しかしながら、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsは、同じ形式のバッテリ30同士であっても、特性にばらつきがあることが想定される。さらに、交流発生回路42とバッテリ30とを接続する配線部分にもインダクタンス成分が含まれることが想定される。このため、各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42か備えるインダクタL3のインダクタンスLyを、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsのばらつきや、交流発生回路42とバッテリ30とを接続する配線部分に含まれるインダクタンス成分を考慮した値にしてもよい。つまり、各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42が発生させる交流電流の電流波形が正弦波であると見なすことができる範囲(実質的な効果を得られる範囲)であれば、インダクタL3のインダクタンスLyを、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの三分の一の値に対してある程度の幅を持った値にしてもよい。言い換えれば、各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42が備えるインダクタL3のインダクタンスLyを、バッテリ30が有するインダクタンスLaの実質的なインダクタンス成分Lsに対して三分の一と言うことができる範囲、つまり、略三分の一の範囲の値にすればよい。例えば、各実施形態の昇温装置40では、交流発生回路42が備えるインダクタL3のインダクタンスLyを、バッテリ30が有するインダクタンスLaのインダクタンス成分Lsの四分の一から五分の二の幅を持った範囲の値にしてもよい。
【0140】
上述した各実施形態の昇温装置40では、制御部44がそれぞれのスイッチに出力する制御信号のデューティ比を50%である場合について説明した。しかし、上述したように、制御部44は、スイッチを導通状態にする期間と、スイッチを非導通状態にする期間との間に、全てのスイッチを非導通状態にするデッドタイムを設けてスイッチを制御してもよい。例えば、各実施形態の昇温装置40では、制御部44が、それぞれのスイッチに出力する制御信号のデューティ比を、略50%であると見なすことができる値(例えば、45%から55%などの間の所定の値)にすることによってデッドタイムを設け、その制御信号をそれぞれのスイッチに出力することによって、コンデンサC1とコンデンサC2とのバッテリ30への接続を、並列接続から直列接続、あるいはその逆に切り替えてもよい。
【0141】
以上説明した各実施形態の昇温装置40によれば、インダクタンスLaを有するバッテリ30に蓄電された電力に基づく交流電流を発生させることによりバッテリ30を昇温させる交流発生回路42であって、バッテリ30の正極側に第1端が接続されたコンデンサC1と、バッテリ30の負極側に第1端が接続されたコンデンサC2と、第1の制御信号(例えば、制御信号CS1および制御信号CS2)に応じて、コンデンサC1の第2端とコンデンサC2の第1端とを接続し、コンデンサC1の第1端とコンデンサC2の第2端とを接続することにより、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に並列に接続させる並列スイッチ部と、第2の制御信号(例えば、制御信号CS3)に応じて、コンデンサC1の第2端とコンデンサC2の第2端とを接続することにより、コンデンサC1とコンデンサC2とをバッテリ30に直列に接続させる直列スイッチ部と、直列スイッチ部の両方の端子の間に接続されたインダクタL3と、を備えることにより、車両1に搭載された走行用のバッテリ30をより効率的に昇温させることができる。これにより、各実施形態の昇温装置40が採用された車両1では、バッテリ30を好適な温度に昇温させた状態で使用することができ、バッテリ30の充放電性能の低下を抑制することができる。このことにより、各実施形態の昇温装置40を搭載した車両1では、耐久性の向上など、車両1の商品性を高めることができる。これらのことから、各実施形態の昇温装置40を搭載した車両1では、エネルギー効率の改善を図り、地球環境上の悪影響を軽減させることへの貢献が期待される。
【0142】
上述したそれぞれの実施形態では、制御装置100が、昇温装置40の起動あるいは停止を制御し、制御部44が、交流発生回路42が備えるそれぞれのスイッチを導通状態または非導通状態に制御する構成を説明した。制御部44の動作は、制御部44が備えるCPUなどのハードウェアプロセッサがプログラムを実行することによって実現してもよい。制御装置100の機能は、上述した制御部44の機能を含んでもよい。この場合、昇温装置40において、制御部44は省略されてもよい。
【0143】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0144】
1・・・車両
10・・・エンジン
12・・・モータ
14・・・減速機
16・・・駆動輪
20・・・PDU
30,30a,30b・・・バッテリ
32・・・バッテリセンサ
40・・・昇温装置
42,42-1,42-1a,42-1b,42-2,42-2a,42-2b・・・交流発生回路
44・・・制御部
70・・・運転操作子
80・・・車両センサ
100・・・制御装置
C1,C1a,C1b・・・コンデンサ
C2,C2a,C2b・・・コンデンサ
S1,S1a,S1b,S2,S2a,S2b・・・スイッチ
S3,S3a,S3b・・・スイッチ
S31,S31a,S31b,S32,S32a,S32b・・・スイッチ
L3,L3a,L3b・・・インダクタ
L10,L10a,L10b,L20,L20a,L20b・・・インダクタ
La,Laa,Lab・・・インダクタンス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15