IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

<>
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図1
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図2
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図3
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図4
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図5
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図6
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図7
  • 特許-計算機システム及び支払額の算出方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】計算機システム及び支払額の算出方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/00 20230101AFI20241213BHJP
   G06Q 30/04 20120101ALI20241213BHJP
   G16H 20/00 20180101ALI20241213BHJP
【FI】
G06Q10/00
G06Q30/04
G16H20/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021146637
(22)【出願日】2021-09-09
(65)【公開番号】P2023039502
(43)【公開日】2023-03-22
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木戸 邦彦
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-062514(JP,A)
【文献】特表2007-531116(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0228824(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0325502(US,A1)
【文献】特開2002-230298(JP,A)
【文献】特開2002-251458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G16H 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算機システムであって、
プロセッサ、前記プロセッサに接続される記憶装置、及び前記プロセッサに接続されるネットワークインタフェースを有する計算機を備え、
患者から採取された細胞を保管する保管施設、保管された前記細胞を加工する加工施設、及び加工された前記細胞を用いた細胞治療を実施する医療施設にアクセス可能であって、
保管期間に応じて、前記保管施設に支払われる保管料は、前記患者及び前記加工施設を運用する事業者が互いに負担し、
前記事業者は、前記患者から前記細胞治療の成功報酬を受け取り、
前記プロセッサは、前記医療施設が管理する治療成績データを用いて、前記細胞治療の実施確率を算出し、前記記憶装置に格納し、
前記プロセッサは、前記細胞治療が行われた前記患者から採取された前記細胞の特性及び当該患者の前記治療成績データを用いて生成される、前記細胞治療の成功確率を算出する第1モデルに、保管された前記細胞の時間経過による前記細胞の劣化を評価するための評価モデルを組み込むことによって第2モデルを生成し、前記記憶装置に格納し、
前記プロセッサは、前記細胞治療の実施確率及び前記第2モデルを用いて、前記保管施設における前記細胞の保管期間及び前記保管施設に対する前記事業者の支払額を変動させ、前記細胞治療の成功による前記事業者の利益を推定するシミュレーションを実行し、前記シミュレーションの結果を前記記憶装置に格納し、
前記プロセッサは、前記シミュレーションの結果に基づいて、前記事業者の利益を最大化する最適保管期間及び最適支払額を算出することを特徴とする計算機システム。
【請求項2】
請求項1に記載の計算機システムであって、
前記プロセッサは、前記シミュレーションでは、前記保管期間及び前記支払額の組合せごとに、前記事業者の利益分布を算出し、
前記プロセッサは、複数の前記利益分布に基づいて、前記最適保管期間及び前記最適支払額を算出することを特徴とする計算機システム。
【請求項3】
請求項2に記載の計算機システムであって、
前記記憶装置は、前記評価モデルとして、前記保管期間を変数とする細胞劣化評価関数を記憶し、
前記第1モデルは、前記細胞の特性を変数とする関数であり、
前記プロセッサは、前記第1モデルに前記評価モデルを乗算することによって前記第2モデルを生成することを特徴とする計算機システム。
【請求項4】
請求項3に記載の計算機システムであって、
前記記憶装置は、前記保管施設に対する前記患者の負担額から、前記患者が前記負担額を受容する確率を算出する確率モデルを記憶し、
前記プロセッサは、前記確率モデルを用いて、前記負担額を変動させた場合における前記負担額の期待分布を算出し、前記記憶装置に格納し、
前記プロセッサは、前記負担額の期待分布を用いて、前記患者の平均負担額を算出し、前記記憶装置に格納し、
前記プロセッサは、前記保管料、前記最適支払額、及び前記平均負担額に基づいて、前記支払額を算出することを特徴とする計算機システム。
【請求項5】
請求項2に記載の計算機システムであって、
前記細胞の特性は、遺伝子変異、遺伝子発現、並びに、細胞成長及び細胞死に関わる遺伝子セットの少なくともいずれかであることを特徴とする計算機システム。
【請求項6】
計算機システムが実行する、患者から採取した細胞を用いた細胞治療に係る支払額の算出方法であって、
前記計算機システムは、
プロセッサ、前記プロセッサに接続される記憶装置、及び前記プロセッサに接続されるネットワークインタフェースを有する計算機を含み、
患者から採取された細胞を保管する保管施設、保管された前記細胞を加工する加工施設、及び加工された前記細胞を用いた細胞治療を実施する医療施設にアクセス可能であって、
保管期間に応じて、前記保管施設に支払われる保管料は、前記患者及び前記加工施設を運用する事業者が互いに負担し、
前記事業者は、前記患者から前記細胞治療の成功報酬を受け取り、
前記支払額の算出方法は、
前記プロセッサが、前記医療施設が管理する治療成績データを用いて、前記細胞治療の実施確率を算出し、前記記憶装置に格納する第1のステップと、
前記プロセッサが、前記細胞治療が行われた前記患者から採取された前記細胞の特性及び当該患者の前記治療成績データを用いて生成される、前記細胞治療の成功確率を算出する第1モデルに、保管された前記細胞の時間経過による前記細胞の劣化を評価するための評価モデルを組み込むことによって第2モデルを生成し、前記記憶装置に格納する第2のステップと、
前記プロセッサが、前記細胞治療の実施確率及び前記第2モデルを用いて、前記保管施設における前記細胞の保管期間及び前記保管施設に対する前記事業者の支払額を変動させ、前記細胞治療の成功による前記事業者の利益を推定するシミュレーションを実行し、前記シミュレーションの結果を前記記憶装置に格納する第3のステップと、
前記プロセッサが、前記シミュレーションの結果に基づいて、前記事業者の利益を最大化する最適保管期間及び最適支払額を算出する第4のステップと、を含むことを特徴とする支払額の算出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の支払額の算出方法であって、
前記第3のステップは、前記プロセッサが、前記保管期間及び前記支払額の組合せごとに、前記事業者の利益分布を算出するステップを含み、
前記第4のステップは、前記プロセッサが、複数の前記利益分布に基づいて、前記最適保管期間及び前記最適支払額を算出するステップを含むことを特徴とする支払額の算出方法。
【請求項8】
請求項7に記載の支払額の算出方法であって、
前記記憶装置は、前記評価モデルとして、前記保管期間を変数とする細胞劣化評価関数を記憶し、
前記第1モデルは、前記細胞の特性を変数とする関数であり、
前記第2のステップは、前記プロセッサが、前記第1モデルに前記評価モデルを乗算することによって前記第2モデルを生成するステップを含むことを特徴とする支払額の算出方法。
【請求項9】
請求項8に記載の支払額の算出方法であって、
前記記憶装置は、前記保管施設に対する前記患者の負担額から、前記患者が前記負担額を受容する確率を算出する確率モデルを記憶し、
前記支払額の算出方法は、
前記プロセッサが、前記確率モデルを用いて、前記負担額を変動させた場合における前記負担額の期待分布を算出し、前記記憶装置に格納するステップと、
前記プロセッサが、前記負担額の期待分布を用いて、前記患者の平均負担額を算出し、前記記憶装置に格納するステップと、
前記プロセッサが、前記保管料、前記最適支払額、及び前記平均負担額に基づいて、前記支払額を算出するステップと、を含むことを特徴とする支払額の算出方法。
【請求項10】
請求項7に記載の支払額の算出方法であって、
前記細胞の特性は、遺伝子変異、遺伝子発現、並びに、細胞成長及び細胞死に関わる遺伝子セットの少なくともいずれかであることを特徴とする支払額の算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療に用いる細胞の保管のコスト及び期間を決定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
診療報酬請求及び支払い制度では、診療報酬を請求して支払基金からの支払いが遅く、資金繰りで経営が悪化する医療機関も出てくる。また、医療事務が非能率的でかつ、データの保存、セキュリティ等にも問題がある。これに対して、特許文献1及び特許文献2に記載の技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、「医療機関と支払基金に請求した診療報酬債権について、金融機関とのファイナンシャル契約のために事業者が介在し、事業者はその円滑な運用のため、例えば、診療報酬明細書のアプリケーションソフトウェアネットワーク配信サービス等の各種業務を提供する。」ことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、「選択された最適な処置方法に係る標準的診療報酬額及び患者の自己負担額が出力される段階、当該診療報酬に関連する薬剤費部分の標準的上限額が出力される段階、薬剤費部分の標準的上限額を超えない範囲で処方できる薬剤、特にジェネリック医薬品及び当該薬剤に係る患者の自己負担額を出力する段階を含む診療費用の適正化システム」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-230298号公報
【文献】特開2002-251458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CAR-T療法等、自家細胞を用いた細胞治療では、医療機関にて患者から細胞を採取し、超低温容器で細胞加工センタに細胞を輸送し、細胞加工センタにおいて加工処理を行い、加工された細胞を医療機関に返送し、患者に輸注するという手順で治療が行われる。
【0007】
このとき、輸送、加工、及び輸注までに、1か月から3か月かかり、この待ち時間の間に患者の状態が悪化し、死亡するケースが存在する。また、細胞治療の前に、強力な抗がん剤治療を行うのが一般的であり、抗がん剤治療による細胞の劣化によって、細胞加工に失敗し、又は、十分な治療効果が発揮できないケースがある。細胞加工及び治療の失敗のケースでは、製薬会社は、治療に関わる償還が得られないため損失を被る。
【0008】
したがって、患者が強力な抗がん剤治療を行う前の段階で細胞を採取し、冷凍保管しておくことで、細胞加工の成功率及び治療効果を向上させ、制約会社の損失を抑制し、また、患者の生存率を向上できるものと考えられる。しかし、細胞の保管コストは、診療報酬では償還されないことがあり、患者及び製薬会社が保管コストを負担しなければならないという課題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、計算機システムであって、プロセッサ、前記プロセッサに接続される記憶装置、及び前記プロセッサに接続されるネットワークインタフェースを有する計算機を備え、患者から採取された細胞を保管する保管施設、保管された前記細胞を加工する加工施設、及び加工された前記細胞を用いた細胞治療を実施する医療施設にアクセス可能であって、保管期間に応じて、前記保管施設に支払われる保管料は、前記患者及び前記加工施設を運用する事業者が互いに負担し、前記事業者は、前記患者から前記細胞治療の成功報酬を受け取り、前記プロセッサは、前記医療施設が管理する治療成績データを用いて、前記細胞治療の実施確率を算出し、前記記憶装置に格納し、前記プロセッサは、前記細胞治療が行われた前記患者から採取された前記細胞の特性及び当該患者の前記治療成績データを用いて生成される、前記細胞治療の成功確率を算出する第1モデルに、保管された前記細胞の時間経過による前記細胞の劣化を評価するための評価モデルを組み込むことによって第2モデルを生成し、前記記憶装置に格納し、前記プロセッサは、前記細胞治療の実施確率及び前記第2モデルを用いて、前記保管施設における前記細胞の保管期間及び前記保管施設に対する前記事業者の支払額を変動させ、前記細胞治療の成功による前記事業者の利益を推定するシミュレーションを実行し、前記シミュレーションの結果を前記記憶装置に格納し、前記プロセッサは、前記シミュレーションの結果に基づいて、前記事業者の利益を最大化する最適保管期間及び最適支払額を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製薬会社の収益の観点で合理的な支払額に基づいて、採取された細胞を保管できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のサービスのイメージ図である。
図2】本発明を実現するシステムの構成例を示す図である。
図3】実施例1の医療機関を利用する患者の状態遷移モデルの一例を示す図である。
図4】実施例1の細胞保管管理システムが実行する判別モデル生成処理の一例を説明するフローチャートである。
図5】実施例1の細胞保管管理システムが実行するコスト算出処理の一例を説明するフローチャートである。
図6】実施例1の細胞保管管理システムが保持する負担額受容曲線の一例を示す図である。
図7】実施例1の細胞保管管理システムが算出する履歴分布の一例を示す図である。
図8】実施例1の冷凍保管施設に支払う保管料の内訳を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0013】
以下に説明する発明の構成において、同一又は類似する構成又は機能には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」等の表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数又は順序を限定するものではない。
【0015】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、及び範囲等は、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、及び範囲等を表していない場合がある。したがって、本発明では、図面等に開示された位置、大きさ、形状、及び範囲等に限定されない。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明のサービスのイメージ図である。図2は、本発明を実現するシステムの構成例を示す図である。
【0017】
サービスのステークホルダとして、医療機関10、検査会社20、冷凍保管施設30、及び細胞加工センタ40が存在する。
【0018】
医療機関10は、病院等、患者の治療を行う施設である。医療機関10は、図2に示すように、患者管理システム200及び治療成績管理システム201を運用する。
【0019】
患者管理システム200は、医療機関10を利用する患者を管理するシステムであり、患者管理DB210を保持する。患者管理DB210は、患者を管理するための患者データを格納する。患者データは、患者の個人情報(氏名、年齢、性別等)、患者のID、病状、行った治療、治療の結果、及びバイタル等を含む。治療成績管理システム201は、患者に行った治療の成績を管理するシステムであり、治療成績管理DB211を保持する。治療成績管理DB211は、患者に行った治療の結果を管理するための治療成績データを格納する。治療成績データは、患者のID、治療の内容、及び治療の成績等を含む。本実施例では、細胞治療に関する治療成績データが治療成績管理DB211に蓄積される。
【0020】
検査会社20は、患者から採取した細胞の検査を行う企業である。
【0021】
冷凍保管施設30は、細胞を冷凍保存する施設である。冷凍保管施設30は、細胞保管管理システム202を運用する。
【0022】
細胞保管管理システム202は、冷凍保存された細胞を管理するシステムであり、細胞管理DB212を保持する。細胞管理DB212は、冷凍保存される細胞を管理するための細胞データを格納する。細胞データは、患者のID、冷凍保存を開始した日時、細胞の検査結果等を含む。
【0023】
細胞加工センタ40は、患者から採取した細胞を加工する施設である。本明細書では、細胞加工センタ40は製薬会社が運営しているものとする。ただし、CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)等の企業を対象としてもよい。細胞加工センタ40は、細胞加工管理システム203を管理する。細胞加工管理システム203は、加工された細胞を管理するシステムであり、加工管理DB213を保持する。加工管理DB213は、加工された細胞を管理するための加工データを格納する。加工データは、患者のID、加工日、及び加工内容等を含む。
【0024】
患者管理システム200、治療成績管理システム201、細胞保管管理システム202、及び細胞加工管理システム203は、少なくとも一つの計算機から構成される。計算機は、プロセッサ、主記憶装置、副記憶装置、及びネットワークインタフェースを有する。なお、各システムは、ストレージ装置及びネットワークスイッチを含んでもよい。
【0025】
ここで、サービスフローについて説明する。
【0026】
医療機関10は、患者から細胞を取得し(ステップS101)、細胞に対して、-80度程度に冷凍処理を行う(ステップS102)。細胞の採取の記録は、患者管理DB210に登録される。細胞は患者IDと関連付けて管理される。細胞の採取方法は、例えば、アフェレーシスによる白血球の採取等である。ただし、本発明は、細胞の採取方法に限定されない。
【0027】
冷凍処理された細胞は、ドライシッパー等の容器に格納されて、搬送される。具体的には、医療機関10は、冷凍処理された細胞の一部を検査会社20に送り、残りの細胞を冷凍保管施設30に送る。
【0028】
検査会社20は、容器から取り出した細胞の一部を解凍し(ステップS103)、細胞計測を行う(ステップS104)。細胞計測では、細胞の特性に関する計測が行われる。例えば、フローサイトメトリによる細胞表面タンパク質の計測、又は、NGS(Next Generation Sequencer)による遺伝子変異及び遺伝子発現の計測が行われる。なお、本発明は、計測方法及び計測する項目に限定されない。
【0029】
検査会社20は、患者ID及び計測データを含む検査結果を冷凍保管施設30に送信することによって、検査結果を細胞管理DB212に登録する(ステップS105)。
【0030】
冷凍保管施設30は、医療機関10より送られてきた細胞を保管する(ステップS106)。冷凍保管施設30は、保管する細胞に関するデータを細胞管理DB212に登録する(ステップS107)。製薬会社は、冷凍保管の料金(保管料)の一部を負担し、また、患者は、保管料の一部を負担する。製薬会社が負担する金額を支払額と記載し、患者が負担する金額を負担額と記載する。
【0031】
冷凍保管施設30は、医療機関10から細胞加工の依頼を受けた場合、ドライシッパー等の容器に細胞を格納し、細胞加工センタ40に送る。
【0032】
細胞加工センタ40は、細胞を解凍し(ステップS108)、細胞加工処理を行う(ステップS109)。さらに、細胞加工センタ40は、加工済み細胞に対して冷凍処理を行い(ステップS110)、加工済みの細胞に関するデータを加工管理DB213に登録する(ステップS111)。細胞加工センタ40は、ドライシッパー等の容器に加工済み細胞を格納し、医療機関10に送る。
【0033】
医療機関10は、加工済み細胞を解凍し(ステップS112)、当該細胞に関連付けられる患者IDに対応する患者に加工済み細胞を輸注する(ステップS113)。医療機関10は、加工済み細胞を用いた治療の奏功/非奏功に関するデータを患者管理DB210に登録する(ステップS114)。医療機関10の患者管理システム200は、細胞治療に関する治療成績データを患者IDとともに収集し、治療成績管理システム201に送信する。治療成績管理システム201は、受信した治療成績データを患者IDとともに治療成績管理DB211に登録する(ステップS115)。
【0034】
図3は、実施例1の医療機関10を利用する患者の状態遷移モデルの一例を示す図である。
【0035】
本実施例では、状態として、1次治療、2次治療、細胞治療、経過観察、及び死亡がある。1次治療及び2次治療は、抗がん剤治療等、加工済み細胞を用いた細胞治療以外の治療を表す。経過観察は、治療後の経過観察を表す。
【0036】
図3に示すように、患者の状態遷移モデルは、1次治療301、経過観察302、2次治療303、経過観察304、細胞治療305、経過観察306、及び死亡307をノードとするグラフとして表される。経過観察302は、1次治療が行われた場合の経過観察を表し、経過観察304は、2次治療が行われた場合の経過観察を表し、経過観察306は、細胞治療が行われた場合の経過観察を表す。各状態(ノード)の間を接続する有向エッジは状態の遷移を表し、状態遷移確率piが設定される。iは1から10までの自然数である。
【0037】
実施例1の細胞保管管理システム202は、治療成績管理システム201から治療成績データを取得する。細胞管理DB212から細胞データを取得する。また、細胞保管管理システム202は、取得した治療成績データ及び細胞データに基づいて、利益を最大化する支払額を算出する。
【0038】
具体的には、細胞保管管理システム202は、細胞治療の治療成績データ及び細胞データを用いて、細胞治療の奏功/非奏功を判別する判別モデルを生成する。細胞保管管理システム202は、患者データ及び判別モデルを用いて、図3に示す状態遷移モデルの各状態遷移確率を算出する。細胞保管管理システム202は、状態遷移確率を用いたシミュレーションを行うことによって利益分布を算出し、患者の負担額の期待分布を算出する。細胞保管管理システム202は、利益分布及び負担額の期待分布に基づいて、支払額を算出する。
【0039】
次に、支払額の算出方法の詳細について説明する。
【0040】
図4は、実施例1の細胞保管管理システム202が実行する判別モデル生成処理の一例を説明するフローチャートである。
【0041】
実施例1では、医療機関10ごとに判別モデルが生成されるものとする。ただし、全ての医療機関10で共通する判別モデルが生成されてもよいし、地域ごとに判別モデルが生成されてもよい。この場合、取得するデータの範囲を変更すればよい。
【0042】
細胞保管管理システム202は、細胞管理DB212から細胞データを取得する(ステップS401)。
【0043】
次に、細胞保管管理システム202は、治療成績管理システム201から、細胞データに含まれる患者IDに対応する治療成績データを取得する(ステップS402)。
【0044】
次に、細胞保管管理システム202は、細胞データ及び治療成績データに基づいて、細胞の特性に基づいて、細胞治療の奏功/非奏功を判別する判別モデルを生成する(ステップS403)。
【0045】
例えば、細胞保管管理システム202は、治療成績データを参照し、細胞データに奏功及び非奏功のいずれかのラベルを付与する。細胞保管管理システム202は、ラベルを目的変数Y(i)、細胞データに含まれる細胞の特性を説明変数X(j)とするロジスティック回帰分析によって判別モデルを生成する。
【0046】
ここで、変数iは1からnまでの整数であり、変数jは1からmまでの整数である。nは患者の数を表し、mは細胞の特性に含まれる属性の数を表す。細胞データが遺伝子発現を含む場合、属性数は遺伝子の数に対応する。また、細胞成長及び細胞死に関わる遺伝子セットを説明変数X(j)に含めることによって、より、細胞の特性を捉えることが可能となる。
【0047】
例えば、ロジスティック回帰分析では、式(1)の係数b(j)及び定数b(0)が算出される。
【0048】
【数1】
【0049】
判別モデルは式(2)で与えられる。Zは治療の効果が期待される確率(奏功確率)である。
【0050】
【数2】
【0051】
なお、判別モデルは、ロジスティック回帰分析以外の手法を用いて生成してもよい。例えば、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、及び深層学習等を用いてもよい。
【0052】
次に、細胞保管管理システム202は、ステップS403で生成された判別モデルに冷凍処理された細胞の時間経過による細胞の劣化を評価するためのモデルを組み込むことによって、細胞特性、冷凍温度、及び保管期間に基づいて、細胞治療の奏功/非奏功を判別する判別モデルを生成する(ステップS404)。その後、細胞保管管理システム202は、生成した判別モデルを保存し、判別モデル生成処理を終了する。
【0053】
具体的には、細胞保管管理システム202は、ステップS403で生成された判別モデルに細胞劣化曲線を乗算することによって、新たな判別モデルを生成する。細胞劣化曲線は、細胞の冷凍温度及び保管期間と、細胞の劣化との関係を表す曲線であり、例えば、式(3)で与えられる。ここで、係数A及びBは、冷凍温度から定まる劣化係数であり、tは保管期間を表す変数である。
【0054】
【数3】
【0055】
したがって、判別モデルは式(4)で与えられる。Wは奏功確率である。
【0056】
【数4】
【0057】
図5は、実施例1の細胞保管管理システム202が実行するコスト算出処理の一例を説明するフローチャートである。図6は、実施例1の細胞保管管理システム202が保持する負担額受容曲線の一例を示す図である。図7は、実施例1の細胞保管管理システム202が算出する履歴分布の一例を示す図である。図8は、実施例1の冷凍保管施設30に支払う保管料の内訳を示す図である。
【0058】
実施例1では、医療機関10ごとにコスト算出処理が実行されるものとする。ただし、全ての医療機関10に対してコスト算出処理が実行されてもよいし、地域ごとにコスト算出処理が実行されてもよい。この場合、取得するデータの範囲を変更すればよい。
【0059】
細胞保管管理システム202は、負担額受容曲線及び判別モデル生成処理において生成された判別モデルを取得する(ステップS501)。
【0060】
負担額受容曲線は、患者が負担額を受容する確率を算出するための曲線であり、例えば、図6に示すような曲線として与えられる。横軸は負担額を表し、縦軸は受容確率を表す。負担額受容曲線は予め設定されているものとする。
【0061】
次に、細胞保管管理システム202は、患者管理システム200から患者データを取得し、患者データを用いて、遷移確率p1、p2、p3、p4、p6、p7、p8、p9、p11を算出する(ステップS502)。すなわち、細胞治療が行われる確率が算出される。なお、遷移確率は、患者管理システム200が算出してもよい。
【0062】
次に、細胞保管管理システム202は、患者のループ処理を開始する(ステップS503)。細胞保管管理システム202は、細胞管理DB212にて管理される患者群の中からターゲットとなる患者を選択し、当該患者の細胞データを取得する。
【0063】
次に、細胞保管管理システム202は、保管期間のループ処理を開始する(ステップS504)。細胞保管管理システム202は保管期間をランダムに選択する。本実施例では、1年から5年の範囲で保管期間が選択されるものとする。変更幅は、例えば、1ヶ月である。データ処理では、保管期間は数値として扱われる。
【0064】
次に、細胞保管管理システム202は、奏功確率を算出する(ステップS505)。
【0065】
具体的には、細胞保管管理システム202は、式(4)に示す判別モデルの変数tにステップS504で選択した保管期間を設定し、また、細胞データを入力することによって、奏功確率を算出する。当該奏功確率は遷移確率p5に対応する。さらに、細胞保管管理システム202は、式(5)により、遷移確率p10を算出する。
【0066】
【数5】
【0067】
以上の処理によって、患者の状態遷移モデルが確定する。本実施例では、当該状態遷移モデルを用いたモンテカルロシミュレーションによって、製薬会社の利益を最大化する支払額及び保管期間を見積もる。
【0068】
次に、細胞保管管理システム202は、支払額のループ処理を開始する(ステップS506)。細胞保管管理システム202は、0円から保管コスト全額の範囲で、支払額をランダムに選択する。変更幅は、例えば、10万円である。
【0069】
次に、細胞保管管理システム202は、保管期間、遷移確率、及び支払額に基づいてシミュレーションを行うことによって、利益分布を算出する(ステップS507)。利益分布は、保管期間及び支払額と対応付けて保存される。
【0070】
本実施例では、モンテカルロシミュレーションを用いて利益分布が算出される。例えば、細胞保管管理システム202は、仮想的に1万人の患者が状態遷移モデルにしたがって状態遷移した場合のコスト及び売上を積算することによって利益を算出し、1万人の患者の利益を集約することによって図7に示すような利益分布を算出する。
【0071】
1次治療301、経過観察302、2次治療303、及び経過観察304のいずれかの状態において、細胞採取日から5年未満の場合、製薬会社の冷凍保管施設30への支払いが発生するが、売上は発生しない。1次治療301、経過観察302、2次治療303、及び経過観察304のいずれかの状態において、細胞採取日から5年を経過した場合、劣化により細胞は破棄され、製薬会社の冷凍保管施設30への支払額は0円となる。1次治療301、経過観察302、2次治療303、経過観察304の状態から死亡307に遷移した場合、支払額は0円となり、この時点でシミュレーションは終了する。細胞治療305の状態では、細胞加工のコスト及び各施設間の細胞輸送のコストが発生する。さらに、1次治療301、経過観察302、2次治療303、及び経過観察304に遷移するまでの間に、細胞採取日から5年を経過した場合、劣化により細胞は破棄されるため、細胞を再度採取する必要があり、コストが発生する。経過観察306の状態は、細胞治療が失敗しなかったこと、すなわち、治療の成功を意味する。したがって、細胞治療305から経過観察306に遷移した場合に、製薬会社は、初めて、患者から治療費が償還され、売上として計上できる。
【0072】
以上のようなモンテカルロシミュレーションによって、支払額及び保管期間の組合せごとに利益分布が算出される。
【0073】
次に、細胞保管管理システム202は、支払額のループ処理を終了するか否かを判定する(ステップS508)。
【0074】
支払額のループ処理を終了しないと判定された場合、細胞保管管理システム202は、ステップS506に戻り、同様の処理を実行する。
【0075】
支払額のループ処理を終了すると判定された場合、細胞保管管理システム202は、保管期間のループ処理を終了するか否かを判定する(ステップS509)。
【0076】
保管期間のループ処理を終了しないと判定された場合、細胞保管管理システム202は、ステップS504に戻り、同様の処理を実行する。
【0077】
保管期間のループ処理を終了すると判定された場合、細胞保管管理システム202は、自己負担額受容曲線を用いて、負担額の期待分布を算出する(ステップS510)。
【0078】
具体的には、細胞保管管理システム202は、シミュレーションにおいて選択された支払額から負担額を求め、負担額及び負担額受容曲線を用いて、受容確率を算出する。さらに、細胞保管管理システム202は、受容確率と負担額の積を算出する。各支払額について同様の処理を実行することによって、負担額の期待分布が算出される。
【0079】
次に、細胞保管管理システム202は、患者のループ処理を終了するか否かを判定する(ステップS511)。
【0080】
患者のループ処理を終了しないと判定された場合、細胞保管管理システム202は、ステップS503に戻り、同様の処理を実行する。
【0081】
患者のループ処理を終了すると判定された場合、細胞保管管理システム202は、利益分布に基づいて、最適支払額及び最適保管期間を算出する(ステップS512)。
【0082】
具体的には、細胞保管管理システム202は、各利益分布の平均値を比較し、当該平均値が最大となる利益分布を選択する。細胞保管管理システム202は、選択された利益分布に対応付けられる支払額及び保管期間を、最適支払額及び最適保管期間として算出する。このように、最適支払額及び最適保管期間は、製薬会社の利益を最大化する、合理的な支払額及び保管期間である。
【0083】
次に、細胞保管管理システム202は、負担額の期待分布の平均値を、平均負担額として算出する(ステップS513)。
【0084】
次に、細胞保管管理システム202は、保管料、最適支払額、最適保管期間、及び平均負担額に基づいて、支払額を決定する(ステップS514)。その後、細胞保管管理システム202は、コスト算出処理を終了する。
【0085】
具体的には、細胞保管管理システム202は、式(6)を用いて、交渉額を算出する。保管料の内訳は図8に示すようになっている。
【0086】
【数6】
【0087】
製薬会社は、経営状態及び患者の病状等を総合的に判断して交渉額を決定し、交渉額及び利益の合計を最大化する支払額を決定する。
【0088】
本発明によれば、製薬会社は、利益を最大化するコストで採取細胞を保管できる。さらに、治療成績が向上することによって、患者のQoL(Quality of Life)が改善する。
【0089】
細胞保管管理システム202が各種処理を実行していたが、他のシステムが実行してもよい。また、図示しないシステムが実行してもよい。
【0090】
また、本発明は、冷凍以外の手法で細胞を保管するサービスにも適用できる。
【0091】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために構成を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成に追加、削除、置換することが可能である。
【0092】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、本発明は、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をコンピュータに提供し、そのコンピュータが備えるプロセッサが記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施例の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0093】
また、本実施例に記載の機能を実現するプログラムコードは、例えば、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Python、Java(登録商標)等の広範囲のプログラム又はスクリプト言語で実装できる。
【0094】
さらに、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することによって、それをコンピュータのハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、コンピュータが備えるプロセッサが当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしてもよい。
【0095】
上述の実施例において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10 医療機関
20 検査会社
30 冷凍保管施設
40 細胞加工センタ
200 患者管理システム
201 治療成績管理システム
202 細胞保管管理システム
203 細胞加工管理システム
210 患者管理DB
211 治療成績管理DB
212 細胞管理DB
213 加工管理DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8