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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/02 20060101AFI20241213BHJP
   E04F 21/16 20060101ALI20241213BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20241213BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20241213BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
E04F13/02 G
E04F13/02 C
E04F21/16 P
B05D1/36 Z
B05D1/28
B05D5/06 104Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021163143
(22)【出願日】2021-10-01
(65)【公開番号】P2023053840
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2024-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】守本 浩直
(72)【発明者】
【氏名】中桐 麻人
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-025475(JP,A)
【文献】特許第4400822(JP,B2)
【文献】特開2021-137812(JP,A)
【文献】特許第6567904(JP,B2)
【文献】特開2020-138193(JP,A)
【文献】特開2011-036849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00 -13/30
E04F 21/00 -21/32
B05C 1/00 - 3/20
B05C 7/00 -21/00
B05D 1/00 - 7/26
C09D 1/00 -10/00
C09D 101/00 -201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜面を形成する被膜形成方法であって、
被塗面に被覆材(p)を塗付して着色被膜(P)を形成する工程、
上記着色被膜(P)が非流動状態となった後に、塗付具を用い被覆材(q)を塗付して模様被膜(Q)を形成する工程を含み、
上記被覆材(p)及び被覆材(q)は、異色であり、いずれも加熱残分が25重量%以上であり、
上記塗付具は、硬度及び/または密度が異なる少なくとも2種以上の吸液材が混在する吸液材層を有し、当該吸液材層は、塗付面外周縁のエッジ部がランダムな除去加工により凹凸形状を有することを特徴とする被膜形成方法。
【請求項2】
上記吸液材層は、塗付面外周縁のエッジ部が毟り取りや掻き取りによるランダムな除去加工により凹凸形状を有することを特徴とする請求項1に記載の被膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な装飾被膜面が形成できる被膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物、土木構造物等の壁面に対し、種々の模様を有する装飾被膜を形成することが行われている。このような装飾被膜の一例として、複数の被覆材を部分的に塗り重ねて模様を形成した装飾被膜が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、下塗り塗料を全面に塗付し、下塗り塗料の乾燥前に、下塗り塗料より濃い色の塗料(模様付け塗料)を模様付けする方法が記載されている。しかしながら、上記特許文献1では、下塗り塗料が乾燥する前に、模様付け塗料を塗付するため、被塗面において下塗り塗料と模様付け塗料が混ざりやすく、色、質感等のコントラストが減殺されるおそれがある。また、上記特許文献1では、平面的な模様しか得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-266911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたもので、質感に優れ、自然な彩りを有する美観性の高い装飾被膜面の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するため、本発明者は鋭意検討の結果、被塗面に、特定の複数の被覆材を特定の塗付具を用いて塗付する被膜形成方法に想到し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
【0008】
1.少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜面を形成する被膜形成方法であって、
被塗面に被覆材(p)を塗付して着色被膜(P)を形成する工程、
上記着色被膜(P)が非流動状態となった後に、塗付具を用い被覆材(q)を塗付して模様被膜(Q)を形成する工程を含み、
上記被覆材(p)及び被覆材(q)は、異色であり、いずれも加熱残分が25重量%以上であり、
上記塗付具は、硬度及び/または密度が異なる少なくとも2種以上の吸液材が混在する吸液材層を有し、当該吸液材層は、塗付面外周縁のエッジ部がランダムな除去加工により凹凸形状を有することを特徴とする被膜形成方法。
2.上記吸液材層は、塗付面外周縁のエッジ部が毟り取りや掻き取りによるランダムな除去加工により凹凸形状を有することを特徴とする1.に記載の被膜形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、質感に優れ、自然な彩りを有する美観性の高い装飾被膜面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明により形成される装飾被膜面の一例を示す正面図である。
図2図2は、本発明の塗付具の一例である。
図3図3は、本発明の塗付具の一例である。
図4図4は、従来の塗付具の一例である。
図5図5は、本発明の塗付具の一例である。
図6図6は、本発明の塗付具の一例である。
【符号の説明】
【0011】
1:装飾被膜面
P:着色領域P
Q:着色領域Q
A:吸液材層
a1~a5:吸液材
As:塗付面
Ae:エッジ部
At:厚み方向
B:支持部
C:取手部
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
本発明は、少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜面を形成する被膜形成方法であって、被塗面に、被塗面に被覆材(p)を塗付して着色被膜(P)を形成する工程、被覆材(q)を塗付して模様被膜(Q)を形成する工程を含み、それぞれ特定の被覆材を使用し、さらに被覆材(q)を特定の塗付具を用いて塗付することを特徴とするものである。本発明で形成される装飾被膜面は、正面から視認した場合に、少なくとも2種以上の着色領域(例えば、着色領域P、着色領域Q、・・等)が混在するものである。
【0014】
図1に、本発明によって形成される装飾被膜面の一例(正面図)を示す。本発明の被膜形成方法によれば、図1のように正面から視認した場合に、着色被膜(P)による着色領域P(図1:P)と、模様被膜(Q)による着色領域Q(図1:Q)が混在し、質感に優れ、自然な彩りを有する美観性の高い装飾被膜面を形成することができる。
【0015】
<被塗面>
被塗面としては、例えば、建築物、土木構造物等の基材表面、具体的には、内外壁、天井、建具等の表面が挙げられる。これら被塗面を構成する基材としては、例えば、石膏ボード、コンクリート、モルタル、磁器タイル、煉瓦、セメント板、繊維混入セメント板、セメント珪酸カルシウム板、パーライト板、ALC板、サイディング板、押出成形板、合板、木質板、鋼板、プラスチック板、ガラス板、等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたものであってもよい。また、基材の表面には、被覆材(p)の塗付前に、下塗材等を塗装しておいてもよい。このような下塗材等としては、例えば、公知の下塗材(例えば、シーラー、サーフェーサ、フィラー等)が使用できる。このような下塗材の色調は、適宜設定することができ、例えば、被覆材(p)と同色ないし共色にすることもできる。
【0016】
<被覆材(p)、被覆材(q)>
被覆材(p)、被覆材(q)としては、互いに異色のものが使用でき、具体的には、互いの色差(△E)が3以上(より好ましくは5以上)であるものを使用することが好適である。このように、互いの色調が異色であることにより、着色領域同士のコントラストを有する美観性の高い被膜を形成することができる。色差の上限は特に限定されないが、好ましくは90以下であり、所望の意匠に応じて設定することができる。例えば、コントラストを付与しつつ、統一感のある落ち着いた意匠を形成する場合には、色差の上限は30以下とすることが好ましい。一方、着色領域同士のコントラストが明瞭なアクセント意匠を形成する場合には、色差を30超90以下とすることが好ましい。
【0017】
なお、本発明における色差(△E)は、色彩色差計を用いて測定される値である。具体的には、標準白紙に、それぞれの被覆材を塗付け量1kg/mで塗り、塗面を水平に置いて標準状態(気温23℃、相対湿度50%。以下同様。)で48時間乾燥したときの被膜のL値、a値、b値(測定点3箇所以上の平均値)より下記式にて算出することができる。
<式>△E={(L *1-L *2+(a *1-a *2+(b *1-b *2 0.5
(式中、L *1、a *1、b *1はそれぞれ被覆材(p)のL、a、b。L *2、a *2、b *2はそれぞれ被覆材(q)のL、a、b
【0018】
本発明では、被覆材(p)、被覆材(q)として、上記条件を満たす任意の色調の被覆材を組み合わせることにより、種々の多色模様を形成することができる。さらに、本発明では、特定の塗付具を用いて被覆材(q)を塗付することにより、着色被膜の上に、不連続な模様被膜が形成され、質感に優れ、自然な彩りを有する模様を有する装飾被膜を得ることができる。これにより、本発明では、例えば、風化した石材調(土壁調)の模様、錆が浮き出したような模様等を容易に形成することも可能である。
【0019】
本発明における被覆材[被覆材(p)、被覆材(q)]としては、加熱残分が25重量%以上であるものが使用できる。このような被覆材としては、例えば、樹脂、着色顔料、及び充填材を含むものが使用できる。本発明では、着色顔料及び/または充填材の種類、混合比率等を調整することにより、色調、加熱残分等を設定することができる。本発明では、被覆材(p)、被覆材(q)として、このような同質の被覆材を使用することにより、全体的な質感に違和感がなく、自然な美観性を得ることができる。
【0020】
樹脂としては、例えば、水溶性樹脂、水分散性樹脂、溶剤可溶形樹脂、無溶剤形樹脂、非水分散形樹脂等、あるいはこれらを複合したもの等が挙げられる。これらは架橋反応性を有するものであってもよく、またその形態は特に限定されず、1液型、2液型のいずれであってもよい。本発明では特に、水分散性樹脂及び/または水溶性樹脂が好適に用いられる。使用可能な樹脂の種類としては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を挙げることができる。
【0021】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、べんがら、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、クロムグリーン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、アルミニウム顔料、パール顔料、光輝性顔料等が挙げられる。
【0022】
これら着色顔料の1種または2種以上を用いることにより、被覆材を所望の色調に着色することができる。着色顔料の混合比率は、樹脂固形分100重量部に対して、好ましくは3~500重量部(より好ましくは5~300重量部、さらに好ましくは10~200重量部)である。なお、本発明において、「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0023】
充填材としては、例えば、公知の体質顔料、骨材等を使用することができる。具体的に、充填材としては、例えば、重質炭酸カルシウム、寒水石、軽微性炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、珪藻土、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、珪砂、珪石粉、石英粉、樹脂ビーズ、ガラスビーズ、中空バルーン等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。充填材としては、好ましくは1μm~5mmの平均粒子径を有するものが使用できる。具体的に、体質顔料としては、好ましくは平均粒子径1~50μmのものが使用できる。体質顔料の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される平均値(測定条件は、分布基準:体積、屈折率:1.60-0.10i)である。一方、骨材としては、好ましくは平均粒子径50μm超5mm以下のものが使用できる。骨材の平均粒子径は、JIS Z8801-1:2000に規定される金属製網ふるいを用いてふるい分けを行い、その重量分布の平均値を算出することによって得られる値である。
【0024】
本発明では、充填材の種類、混合比率等を適宜設定することにより、被覆材を所望の加熱残分に調整することができ、立体的な質感を付与することも可能となる。また、艶が低減された質感(素材感、触感、等)を付与することもできる。充填材の混合比率は、樹脂固形分100重量部に対して、好ましくは150~2000重量部(より好ましくは250~1800重量部、さらに好ましくは350~1600重量部)である。
【0025】
被覆材は、上記成分以外に、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内において、公知の添加剤、例えば、染料、増粘剤、湿潤剤、凍結防止剤、造膜助剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、希釈溶媒等を含むものであってもよい。被覆材は、上述の各成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0026】
本発明において、被覆材の加熱残分は25重量%以上であり、好ましくは45~95重量%、より好ましくは55~90重量%である。本発明では、被覆材の加熱残分がこのような範囲内であることにより、コントラスト付与、質感付与等の点で好適であり、さらに乾燥・硬化に要する時間を短縮化することができ、早期に非流動状態を得ることができる。なお、加熱残分は、JIS K5601-1-2の方法にて測定される値であり、加熱温度は105℃、加熱時間は60分である。
【0027】
<塗付具>
図2に、本発明の塗付具の斜視図を示す。
本発明の塗付具は、特定の吸液材層を有するものであり、当該吸液材層は、塗付面外周縁のエッジ部が除去加工された形状であることを特徴とする。
【0028】
図3に、図2の吸液材層の断面図[図2:X-X’]を示す。本発明の吸液材層は、硬度及び/または密度が異なる少なくとも2種以上の吸液材[図3:a1~a5]が混在することを特徴とするものである。このような特定の吸液材層を使用することにより、異色が混在する自然な彩りの模様を容易かつ効果的に付与することができる。
【0029】
吸液材としては、塗材を含むことができるものであれば特に限定されないが、例えば、フェルト、不織布、スポンジ材(ウレタン系、メラミン系、アクリル系、ナイロン系)等が挙げられ、これらの硬度、密度のいずれかまたは両方が異なる少なくとも2種以上(好ましくは3種以上)のものを混合して使用する。本発明では、2種以上(好ましくは3種以上)のスポンジ材(好ましくはウレタン系スポンジ材を含む)を組み合わせて使用することが好ましい。各吸液材の硬度は、好ましくは10~3000N(より好ましくは20~2000N、さらに好ましくは30~1500N)、密度は、好ましくは1~300kg/m(より好ましくは3~200kg/m、さらに好ましくは5~150kg/m)である。このような吸液材を組み合わせた吸液材層を使用することにより、各吸液材の変形具合や被覆材の転写性等に対応した模様を形成することができる。ここで言う、「硬度」とは、JIS K6400-2に準じ、試験片の厚さ40%まで圧縮したときの力から測定される硬さ(C法)の値である。また、「密度」とは、JIS K7222に準じ、試験片の重量及び寸法から算出される見掛け密度の値である。
【0030】
上記吸液材の個々の外形は特に限定されないが、好ましくは不定形の立体形のものである。また、その個々の大きさは、好ましくは1~30mm(より好ましくは2~20mm)である。本発明では、大きさの異なる複数の吸液材が混在することが好ましい。このような場合、硬度及び/または密度に加え大きさも異なる吸液材が吸液材層にランダムに混在するため、本発明の効果を一層高めることができる。なお、ここで言う「大きさ」は、外形の最長軸であり、例えば、一辺が所定寸法の升目を有する篩いにより篩い分けされて測定されるものである。
【0031】
本発明の吸液材層は、上記吸液材がブロック状に形成(固定)されたものであることが好ましい。具体的に、本発明の吸液材層は、吸液材層の厚み方向に少なくとも1種の吸液材が固定されていればよいが、2種以上が積み重なるように固定されている形態がより好ましい。さらには、図2のように、厚み方向に複数の吸液材がランダムに混在するように積み重なるように固定された態様がいっそう好ましい。このような吸液材層を有することにより、本発明の効果を高めることができる。
【0032】
ブロック状の吸液材層の概形は、特に限定されないが、例えば、直方体形状、立方体形状、三角柱形状、四角柱形状、多角柱形状、円柱形状、半円柱形状、半円球形状等のブロック状が挙げられる。この場合、吸液材層の塗付面の概形は、例えば、三角形、四角形(長方形または正方形)、多角形、円形状、半円形状等となる。塗付面の面積は、所望に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは3~500cm(より好ましくは5~400cm、10~300cm)である。また、その高さ(吸液材層の厚み)は、個々の吸液材の大きさにもよるが、好ましくは50mm以下(より好ましくは1~30mm、さらに好ましくは2~15mm)である。
【0033】
特に、本発明の吸液材層は、塗付面外周縁のエッジ部が、除去加工された形状であることを特徴とするものである。本発明における「塗付面外周縁のエッジ部が、除去加工された形状」について説明する。図4に、従来から使用されている塗付具(例えば、特開2003-211062号、実用新案登録第3217177号等)のを示す。これらの塗付具は、塗付面[図4:As]外周縁にエッジ部(角部)[図4:Ae(Ae部のY方向部分断面拡大図)]を有するものである。これに対して、図5に、本発明の塗付具のエッジ部の拡大図(図3におけるAe部のY方向部分断面拡大図)の例を示す。図5に示すように、本発明の塗付具は、図5のエッジ部が除去加工された形状であれば、特に限定されず、このような形状としては、例えば、
・エッジ部が面取り加工された形状[図5(i)]、
・丸みを付けて面取り加工(R面取り加工)された形状[図5(ii)]、
・エッジ部(稜線上)に凹凸を有する形状[図5(iii)]、
・エッジ部に丸みを付けて、かつ凹凸形状を有するように加工された形状[図5(iv)]、
等が挙げられる。本発明では、上記のうち少なくとも1種の加工が施された形状であればよいが、これらが組み合わされた形状であってもよい。本発明では、特に、エッジ部に凹凸形状を有するように加工された形状[図5(iii)、(iv)]であることが好ましい。
本発明では、直線的な模様ではなく、色の境界部が非直線状の自然な(例えば、入り組み、濃淡等を有する)模様を容易かつ効率的に付与することができる。
【0034】
さらに、塗付面の表面の形状は、特に限定されず、平滑であっても、凹凸を有するものであってもよいが、本発明では、凹凸形状を有する[図3図5(iii)、(iv)等]ことが好ましい。これにより、よりいっそう自然な模様を付与することができ、本発明の効果を高めることができる。なお、上記塗付面外周縁のエッジ部や塗付面の表面の凹凸形状の大きさは、特に限定されないが、凹部と凸部の高低差が、好ましくは0.3~15mm(より好ましくは0.5~10mm、さらに好ましくは0.8~5mm)である。このような範囲を満たす場合、本発明の効果を高めることができる。
【0035】
上記吸液材層の成型方法としては、特に限定されないが、例えば、
(1)所望の形状が転写された成形型に少なくとも2種以上の吸液材を充填して成形する方法、
(2)少なくとも2種以上の吸液材を所望の概形を有するブロック状に成形後、塗付面外周縁のエッジ部を除去加工する方法、
等が挙げられる。また、上記(1)後に、さらに塗付面外周縁のエッジ部を除去加工することもできる。
【0036】
上記(1)、上記(2)において、吸液材を成形する場合、圧縮成形することが好ましい。これにより、本発明の効果を高めることができる。
上記(1)において、所望の形状が転写された成形型としては、予め塗付面外周縁のエッジ部(必要に応じて塗付面の表面形状)の形状が転写された成形型を使用することが好ましい。
また、上記(2)において、塗付面外周縁のエッジ部を除去加工する場合、面取り加工やR面取り加工等の除去加工により均一な加工を施したり、切除(カッティング)等の除去加工により凹凸加工を施したり、毟り取りや掻き取り等のランダムな除去加工により凹凸形状を施すことができる。本発明では、特に、塗付面外周縁のエッジ部をランダムな除去加工により凹凸形状を施すことが好ましい。これにより、いっそう自然な模様を効率的に付与することができる。
【0037】
本発明の塗付具は、図6に示すように吸液材層の塗付面と反対側の面に支持部[図6:B]を有することが好ましい。支持部としては、吸液材層を支持できるものであれはよいが、塗付具の塗付面が、被塗面と接触した際に均一に荷重を付加できる程度に剛性を有するものであればよい。その材質としては、例えば、金属製、合成樹脂製(プラスチック製)、木製、セラミック製、等が使用できる。また、その厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1mm~10cm(より好ましくは0.5mm~5cm)である。このような場合、塗付圧のムラによる模様の偏りを抑制し、美観性に優れた模様を効率的に形成することができる。
【0038】
また、上記支持部には、取手部[図6:C]を連結することもできる。取手部の形状、及び材質は上記効果が得られる範囲において特に限定されない。
【0039】
<装飾被膜面の形成方法>
図1の装飾被膜面の形成方法を例に説明する。
図1は、被塗面に対し、被覆材(p)と、被覆材(q)を順に塗付し、装飾被膜面を形成したものである。具体的に、
(工程P)被塗面に被覆材(p)を塗付して着色被膜(P)を形成する工程、
(工程Q)上記着色被膜が非流動状態となった後に、塗付具を用い被覆材(q)を塗付して模様被膜(Q)を形成する工程
を含むことを特徴とする。
【0040】
上記(工程P)において、被覆材(p)を被塗面に塗付する場合には、例えば、スプレー、ローラー、コテ、へら等を使用することができる。被覆材(p)の塗付け量は好ましくは0.1kg/m以上であり、より好ましくは0.15kg/m以上、さらに好ましくは0.2~5kg/mである。被覆材(p)の塗付け量が上記範囲を満たす場合、被塗面の全体を覆う連続的で質感(立体感、素材感、触感、等)を有する被膜を形成することができる。なお、本発明において、塗付け量とは、被塗面に塗着した被覆材の重量である。
【0041】
また、本発明では、被覆材(p)により形成された被膜が非流動状態となる前に、被覆材(p)の被膜に凹凸模様を形成することもできる。このような凹凸模様の付与は、被覆材(p)を塗付した時、ないし塗付した後に行うことができる。後者の場合、被覆材(p)を塗付した後、着色被膜が流動状態である間に(好ましくは被覆材(p)を塗付した直後に)、凹凸模様を形成させることが望ましい。凹凸模様の付与は、例えば、塗装器具、塗付方法、塗面処理用器具、塗面処理方法等を適宜選定して行うことができる。
【0042】
被覆材(p)塗付時に凹凸模様を付与する方法としては、例えば、被覆材(p)を玉状に吹付け(スプレー)塗装する方法、配りローラー、繊維質ローラー(ウールローラー)、多孔質ローラー等を用いて塗装する方法等が挙げられる。
【0043】
被覆材(p)塗付後における凹凸模様の付与は、例えば、デザインローラー、コテ、刷毛、櫛、へら等から選ばれる1種以上を用いて、塗面を処理することによって行うことができる。このような処理は、例えば、所望の凹凸模様に応じて、非流動状態となる前の被覆材(p)の塗面を部分的に押圧したり、引き上げたり、除去したりすること等によって行われる。
【0044】
このような方法によって形成される凹凸模様の種類としては、例えば、スタッコ状、吹付けタイル状、ゆず肌状、凹凸状、月面状、櫛引状、波状、縞状、虫食い状、砂岩状、割石状、リシン状、こぶ出し状、扇状、筋状、じゅらく状、土壁状、木目状、峡谷状、れんが状、渦状、水紋状、幾何学状等が挙げられる。凹凸模様の高低差は、好ましくは0.1~8mm、より好ましくは0.2~5mmである。
【0045】
上記(工程Q)において、被覆材(q)を塗付するタイミングは、着色被膜(P)が非流動状態となった後であれば、特に限定されない。本発明において、「非流動状態」とは、被覆材(p)を塗付し形成された着色被膜(P)の流動性が失われた状態のことをいい、具体的には、被覆材(q)を塗付しても滲みを生じない程度、あるいは各被覆材が互いに混ざらない程度に乾燥・硬化した状態のことをいう。この「非流動状態」には、JIS K5400に規定される指触乾燥、半硬化乾燥、硬化乾燥等の状態も含まれる。本発明では、着色被膜(P)の指触乾燥後(より好ましくは半硬化乾燥後、さらに好ましくは硬化乾燥後)に、被覆材(q)を塗付することが好ましい。なお、本発明において、乾燥・硬化は、好ましくは常温(5~40℃)で行えばよい。
【0046】
本発明とは異なり、着色被膜(P)が流動状態であるうちに被覆材(q)を塗付すると、塗装工程中、塗付器具において次第に被覆材(p)と被覆材(q)が混ざってしまい、形成される被膜の仕上がり性が不安定化するおそれがある。被塗面においても各被覆材が混ざり合い、コントラスト等が減殺されやすくなり、自然な彩りを有する模様が形成されないおそれがある。さらに、質感が損われるおそれもある。これに対し、本発明では、着色被膜が非流動状態となった後に、被覆材(q)を塗付することによって、各被覆材が混ざりにくく、安定した仕上がりを付与することができ、質感に優れ、自然な彩りを有する美観性の高い装飾被膜を得ることができる。
【0047】
上記(工程Q)では、被覆材(q)を不連続に塗付することが望ましい。この場合、上記(工程Q)では、着色被膜(P)に対し、所望の模様に応じて、上記塗付具を用いて被覆材(q)が部分的に塗着するように塗付すればよい。その塗付方法としては、例えば、叩き塗り、押え塗り等が挙げられる。本発明では、例えば、被覆材(q)を部分的(不連続)に叩き塗りすることにより、着色被膜(P)の質感を活かしつつ、異色が混在した自然な彩りを有する美観性に優れた装飾被膜を形成することができる。
【0048】
被覆材(q)の塗付け量は、所望の仕上り(模様等)に応じて、適宜設定すればよいが、被覆材(p)よりも被覆材(q)の塗付け量が少ないことが好ましく、好ましくは0.5kg/m以下、より好ましくは0.005~0.3kg/m、さらに好ましくは0.01~0.2kg/mである。被覆材(q)の塗付け量が上記範囲を満たす場合、不連続な被膜が形成されやすく、異色の着色領域が混在する装飾被膜面を安定して形成することができる。
【0049】
本発明では、被覆材(q)を不連続に塗付する際、上記塗付具を用いることにより、コントラストを付与しつつ、着色領域同士の境界を非直線状態(入り組んだ状態)にすることができ、自然な彩りを有する美観性の高い装飾被膜を形成することができる。被覆材(q)を不連続に塗付する際、ウールローラー等の繊維質材を用いた場合は、着色領域同士の境界において、本発明の塗付具を用いた時のような非直線状態(入り組んだ状態)は得られ難く、美観性は不十分となりやすい。
【0050】
<装飾被膜面の形成方法の応用例1>
本発明では、上記(工程P)の着色被膜(P)として、少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜(P’)を形成することもできる。このような装飾被膜面の形成方法としては、例えば、
(工程P1)被塗面に、被覆材(p1)を塗付する工程、
(工程P2)被覆材(p1)が非流動状態となった後に、被覆材(p2)を不連続に塗付し装飾被膜(P’)を形成する工程、
(工程Q)次いで、上記装飾被膜(P’)を有する被塗面に、上記塗付具を用い、被覆材(q)を塗付して模様被膜(Q)を形成する工程、
を含むことが好ましい。
【0051】
この場合、上記被覆材(p1)と上記被覆材(p2)は、互いに異色のものを使用することができる。これにより、意匠性、美観性をよりいっそう高めることができる。また、上記(工程P1)において、被覆材(p1)を塗付する際の塗付器具としては、上記被覆材(p)と同様の塗付器具を使用することができる。被覆材(p1)は、被塗面の全体を覆うように塗付することが望ましい。また、上記(工程P2)において、被覆材(p2)を不連続に塗付する場合には、公知の模様付けローラー(例えば、特開2019-025473号等)やスポンジ質材等の塗付具を使用することができる。
【0052】
上記(工程Q)において、被覆材(q)としては、被覆材(p1)及び被覆材(p2)の少なくとも1種とは異色のものが使用できる。例えば、被覆材(p1)と被覆材(p2)の両方に対し異色である被覆材(q)、あるいは被覆材(p1)と被覆材(p2)のうち少なくとも1種と同色(好ましくは△Eが3未満)の被覆材(q)を使用することができる。前者では、装飾被膜(P’)に対して、さらに異色の模様を付与することができるため意匠性を高めることができる。一方、後者では、装飾被膜(P’)の模様バランスを調整することができるため美観性を高めることができる。後者の場合、被覆材(q)としては、被覆材(p1)と被覆材(p2)のうち少なくとも1種と同種ないし同一の被覆材を使用することもできる。
【0053】
<装飾被膜面の形成方法の応用例2>
さらに、本発明では、上記着色被膜(P)または上記装飾被膜(P’)の表面に、模様被膜(Q)として、少なくとも2種以上の着色領域が混在する装飾被膜(Q’)を形成することもできる。このような模様被膜の形成方法としては、例えば、
上記(工程P)の後、または上記(工程P1)及び(工程P2)の後に、
(工程Q1)上記着色被膜(P)または上記装飾被膜(P’)を有する被塗面に、上記塗付具を用い、被覆材(q1)を塗付する工程、
(工程Q2)被覆材(q1)が非流動状態となった後に、被覆材(q2)を不連続に塗付し装飾被膜(Q’)を形成する工程、
を行うことが好ましい。
【0054】
このような工程において、上記被覆材(q1)と上記被覆材(q2)は、互いに異色であることが好ましい。この場合、被覆材(q1)、被覆材(q2)の色調は、互いに異色である限り、任意に設定することができる。
【0055】
本発明では、装飾被膜面を区画して、目地模様を形成させてもよい。目地模様形成の際には、例えば目地材を被塗面に貼着し、被覆材を塗装した後、当該目地材を除去する方法等が採用できる。
【0056】
本発明の被膜形成方法では、本発明の効果を阻害しない限り、例えば表面保護、耐候性向上、耐汚染性等の目的で、最表面にクリヤー被覆材を塗付して、クリヤー層を設けることもできる。このようなクリヤー層は、無色透明、着色透明のいずれであってもよく、また艶有り、艶消し(7分艶、5分艶、3分艶等を含む)のいずれであってもよい。
【実施例
【0057】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0058】
被覆材として、以下のものを用意した。
【0059】
・被覆材1
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部、着色顔料(酸化チタン、カーボンブラック、黄色酸化鉄、べんがら)25重量部、充填材(平均粒子径10μmの炭酸カルシウム、平均粒子径40μmの珪藻土)600重量部を主成分とする淡黄色系被覆材(L値:84.8、a値:1.3、b値:22.5、加熱残分:76重量%)
【0060】
・被覆材2
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部、着色顔料(酸化チタン、カーボンブラック、黄色酸化鉄、べんがら)50重量部、充填材(平均粒子径10μmの炭酸カルシウム、平均粒子径40μmの珪藻土)600重量部を主成分とする淡褐色系被覆材(L値:75.4、a値:12.7、b値:42.0、加熱残分:77重量%、被覆材1との△E:24.5)
【0061】
(実施例1)
下塗り塗装(被覆材1と同色)が施されたスレート板に対し、第1工程として被覆材1を塗付け量0.8kg/mで全面にウールローラーで塗装し、着色被膜を形成させた。その後、着色被膜が非流動状態(指触乾燥以上)となるように2時間乾燥させた。
次いで、第2工程として被覆材2を塗付け量0.06kg/mで不連続に叩き塗りし[図6に示す塗付具(吸液材層の厚み:10mm、スポンジ質材a1:硬度45~60N、密度50~100kg/m、スポンジ質材a2:硬度75~110N、密度15~30kg/m、スポンジ質材a3:硬度110~140N、密度15~50kg/m、スポンジ質材a4:硬度110~300N、密度30~85kg/m、スポンジ質材a5:硬度1000~1500N、密度10~20kg/m、エッジ部の除去加工:図5(iv))を使用]、24時間乾燥させた。
塗装及び乾燥は、全て標準状態(気温23℃、相対湿度50%)にて行った。以上の方法より、淡黄色領域に自然な濃淡を有する淡褐色領域がバランスよく混在し、土壁調の質感を有する装飾被膜面が得られた。
【0062】
(実施例2)
下塗り塗装(被覆材1と同色)が施されたスレート板に対し、第1工程として被覆材1を塗付け量0.8kg/mで全面にウールローラーで塗装し、着色被膜を形成させた。その後、着色被膜が非流動状態(指触乾燥以上)となるように2時間乾燥させた。
次いで、第2工程として被覆材2を塗付け量40g/mで不連続にローラー塗りし(特開2019-025473号公報、図3に記載の凹凸を有する模様ローラーを使用)、指触乾燥以上の状態となるように2時間乾燥させた。
次いで、第3工程として被覆材1を塗付け量0.06kg/mで不連続に叩き塗りし[図6に示す塗付具(吸液材層の厚み:10mm、実施例1第2工程と同一の5種のスポンジ質材を有する塗付具を使用。)]、24時間乾燥させた。塗装及び乾燥は、全て標準状態(気温23℃、相対湿度50%)にて行った。以上の方法より、淡黄色領域に自然な濃淡を有する淡褐色領域がバランスよく混在し、土壁調の質感を有する装飾被膜面が得られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6