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特許7603579量子マイクロ波回路用の極低温分散-抵抗ハイブリッド減衰器のパッケージングおよび熱平衡化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】量子マイクロ波回路用の極低温分散-抵抗ハイブリッド減衰器のパッケージングおよび熱平衡化
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/80 20230101AFI20241213BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20241213BHJP
   H03H 7/24 20060101ALI20241213BHJP
   H10N 60/00 20230101ALI20241213BHJP
   H10N 60/12 20230101ALI20241213BHJP
【FI】
H10N60/80 A
H03H7/01 A
H03H7/24
H10N60/00 Z
H10N60/12 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021507556
(86)(22)【出願日】2019-08-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2019071958
(87)【国際公開番号】W WO2020043503
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-01-25
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】16/114,890
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/114,793
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】グマン、パトリク
(72)【発明者】
【氏名】アブド、バレーフ
【合議体】
【審判長】小宮 慎司
【審判官】河本 充雄
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0231068(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0257074(US,A1)
【文献】特開平8-46473(JP,A)
【文献】特開昭60-223314(JP,A)
【文献】特開平3-38105(JP,A)
【文献】Jen-Hao et al.,Microwave attenuators for use with quantum devices below 100 mK,Journal of Applied Physics,2017年06月08日,Vol. 121, Issue 22,224501-1~224501-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N60/80
H01P 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド・マイクロ波減衰器であって、
第1のポート及び第2のポートを有する回路を備え、前記回路が、
入力信号(伝送信号)の複数の周波数を減衰させるように構成された抵抗構成要素と、
周波数範囲内の第2の複数の周波数を減衰させるように構成された分散構成要素であり、前記抵抗構成要素と前記分散構成要素が、前記回路の前記第1のポートと前記第2のポートとの間に、互いに対して直列構成で配列されている、前記分散構成要素と
を備え、
前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成され、
前記分散構成要素は、前記温度範囲で動作しているときに、しきい熱伝導率レベルよりも高い熱伝導率を示す第1材料で形成されている、第1の誘導素子、第2の誘導素子および第3の誘導素子を備え、
前記第2の誘導素子および前記第3の誘導素子は、前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器の中心導体と前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器の接地との間に電気-熱経路を提供するように構成され、
熱伝導性の前記きい熱伝導率レベルは、前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器を通過する信号が入力される量子回路の動作する極低温範囲で達成され、
熱伝導性の前記しきい熱伝導率レベルは、少なくとも100の残留抵抗比および4ケルビンにおいて1W/(cm・K)であり、
前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器がさらに、ハウジングを備え、
前記ハウジングが、
前記ハウジングに熱的に結合された一対のマイクロ波コネクタを備え、
前記抵抗構成要素は、
第1の抵抗及び前記第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗を有し、
前記分散構成要素は、
前記第1のポートに電気的に接続された第1の容量素子と、
前記第1の抵抗に電気的に接続された第2の容量素子と、
一端が前記第1の容量素子と電気的に接続され且つ他端が前記第2の容量素子と電気的に接続された第1の誘導素子と、
前記第2の抵抗に電気的に接続された第2の誘導素子と、
前記第2のポートに電気的に接続された第3の誘導素子と、
一端が前記第2の誘導素子と電気的に接続され且つ他端が前記第3の誘導素子と電気的に接続された第3の容量素子と、を有
前記接地と前記ハウジングとが接続されている、
ハイブリッド・マイクロ波減衰器。
【請求項2】
前記温度範囲の境界が300ケルビン(K)および2Kである、請求項1に記載のハイブリッド・マイクロ波減衰器。
【請求項3】
前記温度範囲の境界が2Kおよび0.000001Kである、請求項1に記載のハイブリッド・マイクロ波減衰器。
【請求項4】
前記分散構成要素が、前記温度範囲で動作しているときに、前記しきい熱伝導率レベルを超える熱伝導率を有する一対の極板を含む前記第1の容量素子ないし前記第3の容量素子をさらに備える、請求項1ないしのいずれかに記載のハイブリッド・マイクロ波減衰器。
【請求項5】
前記一対のマイクロ波コネクタのそれぞれのコネクタの雌雄が同一である、請求項1ないしのいずれかに記載のハイブリッド・マイクロ波減衰器。
【請求項6】
前記一対のマイクロ波コネクタのそれぞれのコネクタが、前記回路の前記第1のポート及び第2のポートのうちの1つのポートに結合されている、請求項1ないしのいずれかに記載のハイブリッド・マイクロ波減衰器。
【請求項7】
方法であって、
第1のポート及び第2のポートを有する回路を組み立てることによってハイブリッド・マイクロ波減衰器を形成することを含み、
前記回路が、
入力信号(伝送信号)の複数の周波数を減衰させるように構成された抵抗構成要素と、
周波数範囲内の第2の複数の周波数を減衰させるように構成された分散構成要素であり、前記抵抗構成要素と前記分散構成要素が、前記回路の前記第1のポートと前記第2のポートとの間に、互いに対して直列構成で配列されている、前記分散構成要素と
を備え、
前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成され、
前記分散構成要素は、前記温度範囲で動作しているときに、しきい熱伝導率レベルよりも高い熱伝導率を示す第1材料で形成されている、第1の誘導素子、第2の誘導素子および第3の誘導素子を備え、
前記第2の誘導素子および前記第3の誘導素子は、前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器の中心導体と前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器の接地との間に電気-熱経路を提供するように構成され、
熱伝導性の前記きい熱伝導率レベルは、前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器を通過する信号が入力される量子回路の動作する極低温範囲で達成され、
熱伝導性の前記しきい熱伝導率レベルは、少なくとも100の残留抵抗比および4ケルビンにおいて1W/(cm・K)であり、
前記方法がさらに、
ハウジングを形成すること
を含み、前記ハウジングが、
前記ハウジングに熱的に結合された一対のマイクロ波コネクタを備え、
前記抵抗構成要素は、
第1の抵抗及び前記第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗を有し、
前記分散構成要素は、
前記第1のポートに電気的に接続された第1の容量素子と、
前記第1の抵抗に電気的に接続された第2の容量素子と、
一端が前記第1の容量素子と電気的に接続され且つ他端が前記第2の容量素子と電気的に接続された第1の誘導素子と、
前記第2の抵抗に電気的に接続された第2の誘導素子と、
前記第2のポートに電気的に接続された第3の誘導素子と、
一端が前記第2の誘導素子と電気的に接続され且つ他端が前記第3の誘導素子と電気的に接続された第3の容量素子と、を有
前記接地と前記ハウジングとが接続されている、
方法。
【請求項8】
前記温度範囲の境界が300ケルビン(K)および2Kである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記温度範囲の境界が2Kおよび0.000001Kである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記分散構成要素が、前記温度範囲で動作しているときに、前記しきい熱伝導率レベルを超える熱伝導率を有する一対の極板を含む前記第1の容量素子ないし前記第3の容量素子をさらに備える、請求項ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記一対のマイクロ波コネクタのそれぞれのコネクタの雌雄が同一である、請求項ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記一対のマイクロ波コネクタのそれぞれのコネクタが、前記回路の前記第1のポート及び第2のポートのうちの1つのポートに結合されている、請求項ないしのいずれかに記載の方法。
【請求項13】
動作を実行する製造システムであって、前記動作が、
第1のポート及び第2のポートを有する回路を組み立てることによってハイブリッド・マイクロ波減衰器を形成することを含み、
前記回路が、
入力信号(伝送信号)の複数の周波数を減衰させるように構成された抵抗構成要素と、
周波数範囲内の第2の複数の周波数を減衰させるように構成された分散構成要素であり、前記抵抗構成要素と前記分散構成要素が、前記回路の前記第1のポートと前記第2のポートとの間に、互いに対して直列構成で配列されている、前記分散構成要素と
を備え、
前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成され、
前記分散構成要素は、前記温度範囲で動作しているときに、しきい熱伝導率レベルよりも高い熱伝導率を示す第1材料で形成されている、第1の誘導素子、第2の誘導素子および第3の誘導素子を備え、
前記第2の誘導素子および前記第3の誘導素子は、前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器の中心導体と前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器の接地との間に電気-熱経路を提供するように構成され、
熱伝導性の前記きい熱伝導率レベルは、前記ハイブリッド・マイクロ波減衰器を通過する信号が入力される量子回路の動作する極低温範囲で達成され、
熱伝導性の前記しきい熱伝導率レベルは、少なくとも100の残留抵抗比および4ケルビンにおいて1W/(cm・K)であり、
前記動作がさらに、ハウジングを形成することを含み、
前記ハウジングが、
前記ハウジングに熱的に結合された一対のマイクロ波コネクタを備え、
前記抵抗構成要素は、
第1の抵抗及び前記第1の抵抗に直列に接続された第2の抵抗を有し、
前記分散構成要素は、
前記第1のポートに電気的に接続された第1の容量素子と、
前記第1の抵抗に電気的に接続された第2の容量素子と、
一端が前記第1の容量素子と電気的に接続され且つ他端が前記第2の容量素子と電気的に接続された第1の誘導素子と、
前記第2の抵抗に電気的に接続された第2の誘導素子と、
前記第2のポートに電気的に接続された第3の誘導素子と、
一端が前記第2の誘導素子と電気的に接続され且つ他端が前記第3の誘導素子と電気的に接続された第3の容量素子と、を有
前記接地と前記ハウジングとが接続されている、
製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、量子コンピューティングにおいて超伝導キュービット(superconducting qubit)とともに使用可能なデバイス、ハウジング設計方法およびマイクロ波周波数減衰器ハウジングの構築システムに関する。より詳細には、本発明は、量子マイクロ波回路用の極低温分散-抵抗ハイブリッド減衰器(cryogenic dispersive-resistive hybrid attenuator)のパッケージングおよび熱平衡化(thermalization)のためのデバイス、方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
使用されている箇所で特に区別されていない限り、本明細書では以降、語または句の中の接頭辞「Q」が、量子コンピューティングの文脈でその語または句に言及していることを示す。
【0003】
分子および亜原子粒子(subatomic particle)は量子力学の法則に従う。量子力学は、物質界(physical world)がどのように機能しているのかを最も基本的なレベルで探究する物理学の一部門である。このレベルにおいて、粒子は奇妙な振舞いを示し、同時に2つ以上の状態をとり、非常に遠く離れた別の粒子と相互作用する。量子コンピューティングはこれらの量子現象を利用して情報を処理する。
【0004】
現在我々が使用しているコンピュータは、古典的コンピュータ(本明細書では「従来型」コンピュータまたは従来型ノード(conventional node)ないし「CN」とも呼ぶ)として知られている。従来型コンピュータは、半導体材料および半導体技術、半導体メモリ、ならびに磁気または固体状態ストレージ・デバイスを使用して製造された従来型プロセッサを、フォン・ノイマン型アーキテクチャとして知られているアーキテクチャ内で使用する。具体的には、従来型コンピュータのプロセッサは、2進プロセッサ、すなわち1および0で表された2進データに対して演算を実行するプロセッサである。
【0005】
量子プロセッサ(qプロセッサ)は、エンタングルされた(entangled)キュービット・デバイス(本明細書では簡潔に「キュービット」(「qubit」、複数形は「qubits」)と呼ぶ)の変わった性質を使用して、計算タスクを実行する。量子力学が機能する特定の領域において、物質の粒子は、例えば「オン」状態、「オフ」状態、および「オン」と「オフ」の両方を同時にとる状態など、多数の状態で存在しうる。半導体プロセッサを使用する2進コンピューティングは、(2進コードの1および0と等価の)オンおよびオフ状態だけを使用することに限定されているが、量子プロセッサは、物質のこれらの量子状態を利用して、データ・コンピューティングで使用可能な信号を出力する。
【0006】
従来型コンピュータは、情報をビットとしてコード化する。それぞれのビットは1または0の値をとることができる。これらの1および0は、コンピュータ機能を最終的に駆動するオン/オフ・スイッチの働きをする。一方、量子コンピュータはキュービットに基づき、キュービットは、量子物理学の鍵となる2つの原理、すなわち重ね合わせ(superposition)およびエンタングルメント(entanglement)に従って動作する。
【0007】
重ね合わせは、それぞれのキュービットが1と0の両方を同時に表すことができることを意味する。エンタングルメントは、重ね合わせの状態にあるキュービットを古典的でない手法で互いに相関させることができること、すなわち、1つの状態(それが1なのかもしくは0なのかまたはその両方であるのかは問わない)が別の状態に依存しうること、および2つのキュービットがエンタングルされているときの方が、それらの2つのキュービットが個別に処理されるときよりも、それらの2つのキュービットに関して確認することができるより多くの情報が存在することを意味する。
【0008】
これらの2つの原理を使用して、キュービットは、従来型コンピュータを使用することによっては扱えない難しい問題を量子コンピュータが解決することを可能にする手法で量子コンピュータが機能することを可能にする、より洗練された情報プロセッサとして動作する。IBM(R)は、超伝導キュービットを使用する量子プロセッサを構築し、その実施可能性(operability)を示すことに成功した(IBMは、米国および他の国におけるInternational Business Machines社の登録商標である)。
【0009】
超伝導キュービットはジョセフソン接合を含む。ジョセフソン接合は、2つの薄膜超伝導金属層を非超伝導材料によって分離することによって形成される。これらの超伝導層の金属を、例えばその金属の温度を指定された極低温まで下げることによって超伝導性にすると、非超伝導層を通り抜けて一方の超伝導層からもう一方の超伝導層へ電子対がトンネリングすることができる。キュービットでは、分散非線形インダクタとして機能するジョセフソン接合が、1つまたは複数の容量デバイスと並列に電気的に結合されて、非線形マイクロ波発振器を形成する。この発振器は、キュービット回路のインダクタンスおよび静電容量の値によって決まる共振/遷移周波数を有する。使用されている箇所で特に区別されていない限り、用語「キュービット」への言及は、ジョセフソン接合を使用した超伝導キュービット回路への言及である。
【0010】
キュービットによって処理された情報は、マイクロ波周波数範囲のマイクロ波信号/光子の形態で搬送または伝送される。それらのマイクロ波信号は、信号の中にコード化された量子情報を解読するために捕捉、処理および解析される。読出し回路は、キュービットの量子状態の捕捉、読出しおよび測定のためにキュービットに結合された回路である。読出し回路の出力は、計算を実行するためにqプロセッサが使用できる情報である。
【0011】
超伝導キュービットは2つの量子状態、すなわち|0>および|1>を有する。これらの2つの状態は、原子の2つのエネルギー状態、例えば超伝導人工原子(超伝導キュービット)の基底状態(|g>)および第1の励起状態(|e>)とすることができる。他の例は、核スピンまたは電子スピンのスピンアップとスピンダウン、結晶欠陥の2つの位置、量子ドットの2つの状態を含む。このシステムは量子性を有するため、これらの2つの状態の任意の組合せが許容され、有効である。
【0012】
キュービットを使用した量子コンピューティングを信頼性の高いものにするためには、量子回路(q回路)、例えばキュービット自体、キュービットに関連した読出し回路および量子プロセッサの他の部分が、エネルギーを注入しもしくは放散させることなどにより、キュービットのエネルギー状態をあまり変更してはならず、またはキュービットの|0>状態と|1>状態の間の相対位相に影響を与えてはならない。量子情報を使用して動作する回路に対するこの動作上の制約のため、このような回路で使用される半導体および超伝導構造体を製造する際には特別な考慮が必要となる。
【0013】
現在入手可能な超伝導量子回路は、極低温で、例えば約10~100ミリケルビン(mK)または約4Kの温度で超伝導になる材料を使用して形成されている。量子回路を制御し、動作させ、測定するために使用される電子回路は通常、超伝導量子回路を収容した希釈冷凍機(dilution fridge)の外側に配置されている。冷凍機の外側の温度は通常、約300K(室温)である。
【0014】
現在入手可能な超伝導量子回路は通常、マイクロ波周波数範囲で動作する。超伝導q回路内で超伝導キュービットを初期化し、動作させ、制御し、測定するためにマイクロ波信号/パルスが使用される。冷凍機の外側の外部電子回路と冷凍機の内側の超伝導量子回路との間でこれらのマイクロ波信号をやりとりするために、希釈冷凍機の内側でマイクロ波伝送線が使用される。同軸線は、これらのマイクロ波信号を運ぶことができる伝送線の一例である。
【0015】
現在入手可能な希釈冷凍機は、ミリケルビン温度まで試料/デバイスを冷却する目的に使用することができる極低温装置である。しかしながら、室温から冷凍機の内側のミリケルビン温度への遷移は突然に起こるものでもまたは急激に起こるものでもない。温度遷移および冷却操作を容易にするために、希釈冷凍機は、異なる周囲温度に維持された、熱的に分離された多数のステージ(本明細書では簡潔に「ステージ」(「stage」、複数形は「stages」)と呼ぶ)からなる。例えば、一般的な商用希釈冷凍機は、冷凍機の内側に、40K、4K、0.7K、0.1K、0.01K(ベース・ステージとしても知られている)の5つの温度ステージを有する。議論を単純にするため、以下では、冷凍機の内側の入力線に焦点を合わせる。冷凍機の内側の異なるステージ間の温度差を維持するため、および入力線を通って到来する、室温電子回路、またはより高いステージの黒体放射、または他の電磁雑音源を起源とする雑音から量子回路を保護するために、損失のある伝送線を使用して、2つの連続するステージ間を接続し、異なるステージのこれらの線の経路上に抵抗減衰器およびフィルタを組み込むことは、一般的に実施されていることである。一般に、構成要素は、以下のような多数の目的を果たす。構成要素は、これらの入力線を通って到来する雑音を減衰/低減させ、これらの線内を伝搬しているマイクロ波信号を減衰/低減させ、ステージ間の熱的分離を提供し、構成要素内を伝搬しているマイクロ波信号を冷却する。
【0016】
ステージを通過する線上を伝搬している信号は雑音、特に電磁雑音を含みうる。この雑音は、マイクロ波周波数スペクトルまたは赤外スペクトルの雑音でありうる。線および信号が、q回路を使用した量子コンピューティングに関係しているときには、本明細書に記載された理由から、電子、マイクロ波および赤外雑音は望ましくない。
【0017】
信号の減衰は、その信号の特定の周波数または周波数範囲のパワーを低減させる過程である。減衰器は、2つのポートを有する電子回路であって、入力信号/雑音の特定の周波数または周波数範囲を減衰させるように構成された電子回路である。
【0018】
抵抗減衰器は、伝送された信号(以後、伝送信号)もしくは雑音またはその両方のエネルギーを減衰器の抵抗構成要素内で放散させることにより、信号もしくは雑音またはその両方を減衰させる。分散減衰器は、伝送信号/雑音が入ったポートから伝送信号/雑音のエネルギー/パワーの一部分を反射することにより、分散減衰器の2つのポートを通過する伝送信号/雑音を減衰させる。
【0019】
例示的な実施形態は、市販の標準マイクロ波減衰器が、抵抗減衰器または分散減衰器のどちらかであり、その両方ではないことを認識している。さらに、例示的な実施形態は、現在入手可能な抵抗マイクロ波減衰器のある不利な点を認識している。例えば、ほとんどの場合、現在入手可能な抵抗減衰器は、基板を取り囲んでいる金属ケースが、不十分な熱伝導係数を有するステンレス鋼であるように形成されている。さらに、抵抗減衰器の両方のポートに位置するコネクタのピンは、基板上の導体に機械的に押しつけられており、このことは不良な熱接触を与える。基板は、金属ケースの胴体に機械的に押しつけられており、このことも不良な熱接触を与える。さらに、これらの減衰器に対して使用されている基板材料は、理想からはほど遠い熱伝導係数を有する。
【0020】
例示的な実施形態は、都合の悪いことに、現在入手可能な抵抗減衰器の減衰が低いほど、減衰器の中心導体と減衰器の金属ケースによって形成された減衰器の対応する外部導体(例えば大地)との間の熱抵抗および電気抵抗が大きいことをさらに認識している。例示的な実施形態は、現在入手可能な抵抗減衰器は現在、広い周波数帯にわたって固定された減衰を提供しており、減衰器の減衰レベルを周波数依存性にすること(すなわち、減衰レベルを周波数に対して固定すること)はできないことを認識している。さらに、現在入手可能な抵抗減衰器は、減衰器自体の内部にマイクロ波パワーを放散させる。このような吸収性の減衰は、以下のような望まれていないいくつかの結果を有しうる。(1)吸収性の減衰は、減衰器がステージに対して不十分に熱平衡化されている場合には特に、減衰器の温度を上昇させうる。このことは、減衰器を通過しているマイクロ波信号の冷却を弱めることにつながる。(2)吸収性の減衰は、多くの減衰器および限られた冷却能を有する場合には特に、ステージの温度を上昇させうる。(3)吸収性の減衰は、より低温のステージへ向かう黒体放射を増大させうる。
【0021】
例示的な実施形態は、現在入手可能な分散型の商用マイクロ波減衰器のある不利な点も認識している。それらの減衰器は、上に概説した抵抗減衰器と同様の熱平衡化の問題を有する。さらに、それらの減衰器は、線内における信号の多数の反射の原因となりうる。この反射は、マイクロ波パルス/信号の歪み、混信、および被測定信号のリップルを引き起こしうる。
【0022】
例示的な実施形態は、極低温環境で、および特に量子コンピューティング装置とともに、減衰器が有効かつ使用可能であるためには、減衰器が、マイクロ波干渉から遮蔽されていなければならないことを認識している。マイクロ波干渉はさまざまな源から到来しうるが、例示的な実施形態は、減衰器の不十分に形成されたハウジングが、その結果として、減衰器を通して伝搬されている信号とのかなりのマイクロ波干渉を引き起こしうることを認識している。例えば、線内の接続は、その接続を通って接続する線内で信号反射を引き起こすことにより、マイクロ波干渉の一因となる。接続の数が多いほど、反射点の数および接続によって導入される他の外乱も大きくなる。
【0023】
例示的な実施形態は、減衰器と対応する冷凍ステージとの間の温度差が最小化されるように、このマイクロ波遮蔽が、ロバスト(robust)な熱平衡化とともに実行されるべきであることを認識している。1つの構造体の別の構造体に対する熱平衡化は、その結合が、最低でも、2つの構造体間のしきい熱伝導率レベル(threshold level of thermal conductivity)を達成するような方式で、2つの構造体を構築し結合する過程である。良好な熱平衡化は、熱的に結合された構造体間の熱伝導率が、必要な熱伝導率のしきいレベルを超える熱平衡化である。
【0024】
例示的な実施形態は、現在入手可能な極低温減衰器が、約77ケルビン(K)までの極低温で動作するのには適しているが、1ケルビンよりも低い2ミリKまでの温度で動作する量子コンピューティング回路とともに使用するのには適していないことを認識している。量子コンピューティング回路が動作する温度範囲において、現在入手可能な極低温減衰器は、基板、ハウジングおよびマイクロ波コネクタの不十分な熱伝導率を示す。さらに、現在入手可能な極低温減衰器は、雌雄(gender)が異なるマイクロ波コネクタを使用しており、このことは、雌雄変換アダプタの必要性を生み出す。このアダプタは、マイクロ波線上の反射点の数を増やし、ミリKまで冷却する必要がある追加のサーマル・マス(thermal mass)を追加する。
【0025】
例示的な実施形態は、量子プロセッサの制御線に対して減衰器を使用するために、希釈冷凍機ステージのさまざまな部分に熱的に固定された、特別に設計されたハウジングに、減衰器が埋め込まれるべきであることを認識している。現在入手可能な極低温減衰器のこの熱的固定はそれでも、望ましい熱平衡化レベルを達成することができず、さらに、固定に含まれるコストおよび作業も増大させる。量子マイクロ波回路用の極低温分散-抵抗ハイブリッド減衰器のパッケージングおよび熱平衡化であって、量子プロセッサが現在動作している温度において望ましい熱平衡化レベルを提供し、同時に、改良されたマイクロ波ハイジーン(microwave hygiene)を、マイクロ波線内の反射の最小化により提供する、パッケージングおよび熱平衡化が求められている。
【0026】
したがって、当技術分野では、上述の問題に対処することが求められている。
【発明の概要】
【0027】
第1の態様から見ると、本発明は、ハイブリッド・マイクロ波減衰器であって、2つのポートを有する回路を備え、この回路が、入力信号(伝送信号)の複数の周波数を減衰させるように構成された抵抗構成要素と、周波数範囲内の第2の複数の周波数を減衰させるように構成された分散構成要素であり、上記抵抗構成要素と上記分散構成要素が、上記回路の2つのポート間に、互いに対して直列構成で配列されている、上記分散構成要素とを備え、このハイブリッド・マイクロ波減衰器がさらに、ハウジングを備え、このハウジングが、その中に上記回路が配置された閉鎖可能な構造体であり、該構造体が、最低でもしきい熱伝導率レベルを示す材料から形成されており、上記しきい熱伝導率レベルが、量子コンピューティング回路が動作する極低温範囲で達成される、上記構造体と、上記ハウジングに熱的に結合された一対のマイクロ波コネクタとを備える、上記ハイブリッド・マイクロ波減衰器を提供する。
【0028】
別の態様から見ると、本発明は、方法であって、2つのポートを有する回路を組み立てることによってハイブリッド・マイクロ波減衰器を形成することを含み、この回路が、入力信号(伝送信号)の複数の周波数を減衰させるように構成された抵抗構成要素と、周波数範囲内の第2の複数の周波数を減衰させるように構成された分散構成要素であり、上記抵抗構成要素と上記分散構成要素が、上記回路の2つのポート間に、互いに対して直列構成で配列されている、上記分散構成要素とを備え、この方法がさらに、ハウジングを形成することを含み、このハウジングが、その中に上記回路が配置された閉鎖可能な構造体であり、該構造体が、最低でもしきい熱伝導率レベルを示す材料から形成されており、上記しきい熱伝導率レベルが、量子コンピューティング回路が動作する極低温範囲で達成される、上記構造体と、上記ハウジングに熱的に結合された一対のマイクロ波コネクタとを備える、方法を提供する。
【0029】
別の態様から見ると、本発明は、動作を実行する製造システムであって、この動作が、2つのポートを有する回路を組み立てることによってハイブリッド・マイクロ波減衰器を形成することを含み、この回路が、入力信号(伝送信号)の複数の周波数を減衰させるように構成された抵抗構成要素と、周波数範囲内の第2の複数の周波数を減衰させるように構成された分散構成要素であり、上記抵抗構成要素と上記分散構成要素が、上記回路の2つのポート間に、互いに対して直列構成で配列されている、上記分散構成要素とを備え、この動作がさらに、ハウジングを形成することを含み、このハウジングが、その中に上記回路が配置された閉鎖可能な構造体であり、該構造体が、最低でもしきい熱伝導率レベルを示す材料から形成されており、上記しきい熱伝導率レベルが、量子コンピューティング回路が動作する極低温範囲で達成される、上記構造体と、上記ハウジングに熱的に結合された一対のマイクロ波コネクタとを備える、製造システムを提供する。
【0030】
例示的な実施形態は、電子式減衰デバイスを提供する。一実施形態では、このハイブリッド・マイクロ波減衰器が、2つのポートを有する回路を含み、この回路が、入力信号(伝送信号)の複数の周波数を減衰させるように構成された抵抗構成要素と、周波数範囲内の第2の複数の周波数を減衰させるように構成された分散構成要素であり、上記抵抗構成要素と上記分散構成要素が、上記回路の2つのポート間に、互いに対して直列構成で配列されている、上記分散構成要素とを備える。この実施形態の減衰器はハウジングをさらに含み、このハウジングは、その中に上記回路が配置された閉鎖可能な構造体であり、該構造体が、最低でもしきい熱伝導率レベルを示す材料から形成されており、上記しきい熱伝導率レベルが、量子コンピューティング回路が動作する極低温範囲で達成される、上記構造体と、ハウジングに物理的および熱的に結合された一対のマイクロ波コネクタとを備える。
【0031】
別の実施形態では、このハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成されており、上記分散構成要素が、この温度範囲で動作しているときにしきい熱エネルギー吸収よりも小さい熱吸収を示し、この温度範囲で動作しているときに必要とされるしきい電気伝導率よりも高い電気伝導率を示す材料から形成された誘導素子をさらに含む。別の実施形態では、この温度範囲の境界が300ケルビン(K)および2Kである。
【0032】
別の実施形態では、温度範囲の境界が2Kおよび0.000001Kである。
【0033】
別の実施形態では、このハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成されており、この分散構成要素が、この温度範囲で動作しているときにしきい熱エネルギー吸収よりも小さい熱吸収を示す材料の誘電体を含む容量素子と、この温度範囲で動作しているときにしきい電気伝導率よりも高い電気伝導率を有する一対の極板とをさらに含む。
【0034】
別の実施形態では、このハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成されており、上記分散構成要素が、この温度範囲で動作しているときにしきい熱伝導率よりも高い熱伝導率を示す材料から形成された基板をさらに含む。
【0035】
別の実施形態では、上記一対のコネクタのそれぞれのコネクタの雌雄が同一である。
【0036】
別の実施形態では、上記一対のコネクタのそれぞれのコネクタが、回路の2つのポートのうちの1つのポートに結合されている。
【0037】
別の実施形態では、このハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成されており、上記一対のコネクタが、この温度範囲で動作しているときに必要とされるしきい熱伝導率よりも高い熱伝導率を示す材料から形成されている。
【0038】
別の実施形態では、このハイブリッド・マイクロ波減衰器が、1つの冷凍ステージの温度範囲で動作するように構成されており、上記閉鎖可能な構造体が、この温度範囲で動作しているときに必要とされるしきい熱伝導率よりも高い熱伝導率を示す材料から形成されている。
【0039】
一実施形態は、良好に熱平衡化された低雑音ハイブリッド・マイクロ波減衰器を製造するための製造方法を含む。
【0040】
一実施形態は、良好に熱平衡化された低雑音ハイブリッド・マイクロ波減衰器を製造するためのシステムを含む。
【0041】
添付の特許請求の範囲には、本発明の特徴と考えられる新規の特徴が記載されている。しかしながら、本発明自体、ならびに本発明の好ましい使用形態、さらに本発明の目的および利点は、例示的な実施形態の以下の詳細な説明を添付図面とともに読んだときに、その説明を参照することによって最もよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】例示的な実施形態による、量子コンピューティング・デバイスの入力線調整の例示的な構成のブロック図である。
図2】例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の構成要素として使用することができる、現在入手可能な抵抗マイクロ波減衰器の例を示す図である。
図3】例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の例示的な一構成を示す図である。
図4】例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器を実施する例示的な回路を示す図である。
図5】ハイブリッド減衰器の一例の散乱パラメータのマイクロ波シミュレーション結果を示す図である。
図6】例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の別の例示的な構成を示す図である。
図7】例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器を実施する例示的な回路を示す図である。
図8】ハイブリッド減衰器の一例の散乱パラメータのマイクロ波シミュレーション結果を示す図である。
図9】例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の例示的なパッケージングまたはハウジングのレンダリング(rendering)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
量子コンピューティングは、単一光子程度のマイクロ波放射を高い信頼性で読むことを含む。低マイクロ波雑音環境は、単一光子程度のマイクロ波放射を高い信頼性で読むことを可能にするようなしきいレベルに、マイクロ波雑音を制限する。本発明を説明するために使用される例示的な実施形態は一般に、主にq回路に接続する入力線のある種のマイクロ波信号を減衰させるための、低マイクロ波雑音の良好に熱平衡化されたパッケージングまたはハウジングに対する上述の必要性に対処し、それらの必要性を解決する。例示的な実施形態は、量子マイクロ波回路用の極低温分散-抵抗ハイブリッド減衰器のこのようなパッケージングおよび熱平衡化であって、上述の必要性または問題に対処するパッケージングおよび熱平衡化を提供する。
【0044】
例示的な実施形態は、超伝導ベースの量子アーキテクチャの性能が、コヒーレンス時間を測定することによって直接に特徴づけることができる超伝導キュービット自体の質に大きく依存することを認識している。コヒーレンス時間は、量子コンピューティング回路が動作する温度範囲におけるマイクロ波ハードウェアの性能に強く依存する。マイクロ波ハードウェアは、キュービット自体だけでなく、マイクロ波線で使用されている減衰器および減衰器のハウジングも含む。コヒーレンス時間を増大させるため、したがって量子プロセッサの機能を向上させるために、マイクロ波構成要素、制御線、構成要素およびパッケージングは全て、マイクロ波雑音を最小化するように設計されており、量子コンピューティングが許容する熱平衡化レベルに熱平衡化される。
【0045】
例示的な実施形態は、本明細書に記載された減衰器設計、パッケージング設計、減衰器の製造材料、およびパッケージング製造における高熱伝導率材料を利用することにより、マイクロ波構成要素のより良好でより速い熱平衡化およびよりクリーンなマイクロ波信号スループットを可能にする。最初に、提案のハイブリッド減衰器のさまざまな設計を説明するいくつかの実施形態が、いくつかの図に関して提示される。その後に、一実施形態のハイブリッド減衰器の良好に熱平衡化された低雑音パッケージングを説明するいくつかの実施形態が提示される。
【0046】
1つまたは複数の周波数に関して実行されると本明細書に記載されている動作は、その1つまたは複数の周波数の信号に関して実行されると解釈すべきである。使用されたときに明白に区別されていない限り、「信号」に対する全ての言及はマイクロ波信号に対する言及である。
【0047】
一実施形態は、抵抗特性と分散特性の両方を示すハイブリッド・マイクロ波減衰器(本明細書では相互に交換可能に「ハイブリッド減衰器」とも呼ぶ)の構成を提供する。別の実施形態は、ソフトウェア・アプリケーションとして実施することができるような形で、ハイブリッド減衰器の設計/構築方法を提供する。設計/構築方法の実施形態を実施するこのアプリケーションは、回路組立てシステムなどの既存の回路製造システムとともに機能するように構成することができる。
【0048】
説明を明瞭にするため、その説明に限定される含意なしに、例示的な実施形態は、いくつかの例示的な構成を使用して説明される。この開示から、当業者は、記載された目的を達成するための記載された構成の多くの改変、適合および変更を考案することができ、それらは、例示的な実施形態の範囲内で企図される。
【0049】
さらに、図および例示的な実施形態では、例示的な抵抗器、インダクタ、コンデンサおよびその他の回路構成要素の簡略図が使用される。実際の回路には、例示的な実施形態の範囲を逸脱することなく、本明細書に示されていないもしくは本明細書に記載されていない追加の構造体もしくは構成要素、または、示された構造体もしくは構成要素とは異なるが本明細書に記載された機能と同様の機能を有する構造体もしくは構成要素が存在することがある。
【0050】
さらに、実際のまたは仮定の特定の構成要素に関して、例示的な実施形態は単なる例として記載されている。例示的なさまざまな実施形態によって説明されたステップを、ハイブリッド減衰器内の記載された機能を提供することを目的としうる、またはそのような機能を提供するために転用しうるさまざまな構成要素を使用して回路を製造するように適合させることができ、そのような適合は、例示的な実施形態の範囲に含まれることが企図される。
【0051】
例示的な実施形態は、あるタイプの材料、電気特性、ステップ、数、周波数、回路、構成要素および用途に関して、単なる例として説明される。これらのアーチファクトおよび他の同様のアーチファクトの特定の表現物(manifestation)が本発明を限定することは意図されていない。例示的な実施形態の範囲内で、これらのアーチファクトおよび他の同様のアーチファクトの適当な表現物を選択することができる。
【0052】
本開示の例は、説明を明瞭にするためだけに使用され、例示的な実施形態を限定するものではない。本明細書に挙げられた利点は単なる例であり、それらの利点が例示的な実施形態を限定することは意図されていない。特定の例示的な実施形態によって追加の利点または異なる利点を実現することができる。さらに、特定の例示的な実施形態は、上に挙げた利点の一部もしくは全部を有することがあり、または上に挙げた利点を1つも持たないことがある。
【0053】
図1を参照すると、この図は、例示的な実施形態による、量子コンピューティング・デバイスの入力線調整の例示的な構成のブロック図を示している。構成100は、1つまたは複数の希釈冷凍機ステージ102、104、...106からなる一組の希釈冷凍機ステージを備える。入力線108が外部回路をq回路110に接続している。線108がq回路110にマイクロ波信号を伝達すると仮定すると、信号Sは、信号Sとともに減衰させるマイクロ波雑音を含む信号である。信号Sは、q回路110に到達する減衰後の信号である。
【0054】
一実施形態は、ステージ102~106のうちの全てではない一部のステージを備えるハイブリッド減衰器を構成している。別の実施形態は、図1に示されているように、ステージ102~106のそれぞれのステージを備えるハイブリッド減衰器を構成している。例えば、ハイブリッド減衰器112は、ステージ102とともに動作するように構成されている。ハイブリッド減衰器112は、入力信号Sと、一連のステージの中の後続のステージからの反射信号SR2とを受け取る。ハイブリッド減衰器112は、(S+SR2)信号の1つの周波数または周波数帯を減衰させて信号Sを生成する。
【0055】
ハイブリッド減衰器114は、ステージ104とともに動作するように構成されている。ハイブリッド減衰器114は、入力信号Sと、一連のステージの中の後続のステージからの反射信号SR3とを受け取る。ハイブリッド減衰器114は、(S+SR3)信号の異なる周波数または周波数帯を減衰させて信号Sを生成する。このように動作した後、ステージ106(ステージn)は、ステージ106(ステージn)と一緒に構成されたハイブリッド減衰器116を有する。ハイブリッド減衰器116は、一連のステージの中の前のステージからの入力信号Sn-1(と、ことによると、q回路110がいずれかの信号周波数を反射するように構成されている場合には、図示されていない反射信号と)を受け取る。ハイブリッド減衰器116は、(Sn-1+反射周波数)信号の異なる周波数または周波数帯を減衰させて、q回路110への入力を形成する信号Sを生成する。
【0056】
図2を参照すると、この図は、例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の構成要素として使用することができる、現在入手可能な抵抗マイクロ波減衰器の例を示している。回路200は、T構成を使用してポート1とポート2との間に形成された例示的な10dB集中定数素子(lumped-element)抵抗減衰器(すなわち大地に通じる1つの抵抗器によって中央で接続された2つの等しい直列抵抗器)を実施する。マイクロ波工学の用語では、S12が、ポート2に入り、ポート1から出る信号(すなわちポート2からポート1への伝送)の散乱パラメータを表す。同様に、S21は、ポート1に入り、ポート2から出る信号の散乱パラメータを表す。S11およびS22はそれぞれ、ポート1に入った信号およびポート2に入った信号の反射パラメータを表す。
【0057】
グラフ202は、抵抗減衰器200の散乱パラメータのマイクロ波シミュレーション結果を示している。グラフ202で分かるとおり、このデバイスを通過する伝送信号(散乱パラメータS21およびS12の振幅によって表されている)は、大きな帯域幅にわたって約10dBだけ減衰する。さらに、反射パラメータS11およびS22の無視できる振幅によって示されているように、このデバイスは、両方のポート上の50オームによく整合している。このことは、デバイス・ポートからの反射がほとんどないことを意味している。伝送信号の失われたエネルギーは、回路200の抵抗器内で熱として放散される。
【0058】
図3を参照すると、この図は、例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の例示的な一構成を示している。ハイブリッド減衰器300のこの図のこの例示的な構成、すなわち変形構成(variation)1は、抵抗減衰器302、低域フィルタ304および高域フィルタ306を備える。例示的な実施形態の範囲内で、これらの構成要素をさまざまな配列に配列することができる。例えば、1つの配列を、示されたとおりの順序の304-302-306(すなわち低域フィルタ304、続いて抵抗減衰器302、続いて高域フィルタ306)とすることができる。他の配列は、302-304-306、304-306-302、306-302-304、306-304-302、および同様の方式の可能な他の配列とすることができる。
【0059】
ハイブリッド減衰器300は分散-抵抗減衰器であり、2ポート集積回路として実施することができる。低域フィルタ304は、しきい周波数よりも高い周波数帯をフィルタ除去する(しきい周波数よりも低い周波数帯を通過させる)分散フィルタである。抵抗減衰器302は、図2の抵抗減衰器200の方式で動作する抵抗または吸収フィルタである。高域フィルタ306は、しきい周波数よりも低い周波数帯をフィルタ除去する(しきい周波数よりも高い周波数帯を通過させる)分散フィルタである。一実施形態によれば、回路組立てシステムが、同じチップまたはプリント回路板上で、これらの3つの構成要素302、304および306を形成および接続する。
【0060】
図4を参照すると、この図は、例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器を実施する例示的な回路を示している。構成要素402は、抵抗減衰器、すなわち図3の構成要素302を実施する抵抗素子である。構成要素404は、低域フィルタ、すなわち図3の構成要素304を実施する分散素子である。構成要素406は、高域フィルタ、すなわち図3の構成要素306を実施する分散素子である。
【0061】
構成要素402は、図2の場合と同様に、抵抗素子R1、R2およびR3のT構成を備える。構成要素402および抵抗器R1、R2およびR3のこの描写は、集中定数実現形態(lumped realization)、すなわち、マイクロ波周波数帯の抵抗減衰器としての構成要素402の有効な機能の表現であることに留意されたい。この構成要素の等価のπ構成も存在し、その構成は、図示されたこの非限定的な例示的構成と相互に交換可能である。
【0062】
構成要素404は、示されているとおり、一方の側が大地、すなわちハイブリッド減衰器の外部導体に結合され、もう一方の側が、ハイブリッド減衰器の中心導体を介して誘導素子L1に結合された、容量素子C1およびC2のπ配列を備える。構成要素404ならびに素子C1、C2およびL1のこの描写は、集中定数実現形態、すなわちマイクロ波周波数帯の低域フィルタとしての構成要素404の有効な機能の表現である。この例は、単純な1単位セル低域フィルタを示している。この設計は、図4に示された単純な低域フィルタの代わりに、いくつかの単位セルからなり、その減衰、伝送、帯域幅、カットオフ周波数およびリップル特性がさらにまたは異なる形で最適化された、より高度な低域フィルタが使用されている場合もカバーする。
【0063】
構成要素406は、示されているとおり、一方の側が大地、すなわちハイブリッド減衰器の外部導体に結合され、もう一方の側が、ハイブリッド減衰器の中心導体を介して容量素子C3に結合された、誘導素子L2およびL3のπ配列を備える。構成要素406ならびに素子L2、L3およびC3のこの描写は、集中定数実現形態、すなわちマイクロ波周波数帯の高域フィルタとしての構成要素406の有効な機能の表現である。この例は、単純な1単位セル高域フィルタを示している。この設計は、図4に示された単純な高域フィルタの代わりに、いくつかの単位セルからなり、その減衰、伝送、帯域幅、カットオフ周波数およびリップル特性がさらにまたは異なる形で最適化された、より高度な高域フィルタが使用されている場合もカバーする。
【0064】
構成要素406では、ハイブリッド減衰器の中心導体上の容量素子C3が、冷凍機内での接地ループの形成を排除する目的に使用することができる直流(DC)遮断物(block)の役目を果たす。このような接地ループは、電子雑音を発生させうるため望ましくない。さらに、誘導素子L2およびL3は、ハイブリッド減衰器の中心導体と外部導体との間の無視できる抵抗の経路を提供する。このような低抵抗の電気-熱経路は、かなりの電気-熱抵抗によって中心導体が大地(減衰器ハウジング)から熱的に分離されている抵抗減衰器だけの場合に比べて、ハイブリッド減衰器の中心導体の熱平衡化を大幅に改善することができる。
【0065】
低いマイクロ波雑音、高い熱平衡化またはその両方を促進するために、さまざまな実施形態が、本明細書に示され説明されている集中定数素子を使用するさまざまな手法で、ハイブリッド減衰器400の製造を達成する。一実施形態は、ウェーハの基板上での半導体製造法を使用して、単一のチップ上に構成要素402、404および406を製造する。別の実施形態は、電気および電子素子を集積するための回路組立て法を使用して、プリント回路板(PCB)上に構成要素402、404および406を製造して、同じPCB上に構成要素402、404および406を形成する。
【0066】
構成要素402、404および406の集中定数素子実現形態を形成するため、一実施形態は、少なくとも100の残留抵抗比(Residual Resistance Ratio)(RRR)および4ケルビンにおいてしきい熱伝導率レベルである1W/(cm×K)よりも高い熱伝導率を示す金属を使用して、インダクタ、例えば誘導素子L1、L2もしくはL3またはこれらの組合せを製造する。RRRは、材料の室温における抵抗率と0Kにおける抵抗率との比である。実際には0Kに到達することはできないため、4Kにおける近似値が使用される。さらに、異なるステージは異なる温度範囲で動作するため、誘導素子に対する材料の選択も、集中定数実現形態ごとに、その集中定数実現形態が動作しているステージおよび熱範囲に応じて異なる。300Kから2Kの温度範囲における動作に関して、誘導素子に対して使用可能な金属のいくつかの非限定的な例は、アルミニウムおよび黄銅を含む。2Kから0.000001Kの温度範囲における動作に関して、誘導素子に対して使用可能な金属のいくつかの非限定的な例は、無酸素高伝導率銅、電解銅、金、白金または銀を含む。
【0067】
構成要素402、404および406の集中定数素子実現形態を形成するため、一実施形態は、少なくとも100のRRRを示す誘電体材料、および4ケルビンにおいてしきい熱伝導率レベルである1W/(cm×K)よりも高い熱伝導率を有する極板を使用して、コンデンサ、例えば容量素子C1、C2もしくはC3またはこれらの組合せを製造する。容量素子の誘電体に対して使用可能な材料のいくつかの非限定的な例は、窒化ケイ素(SiN)、結晶質ケイ素および非晶質ケイ素を含む。
【0068】
構成要素402、404および406の集中定数素子実現形態を形成するため、一実施形態は、抵抗性金属の薄膜を使用して、抵抗器、例えば抵抗素子R1、R2もしくはR3またはこれらの組合せを製造する。一実施形態では、薄膜の厚さが、しきい厚さ、例えば100nmよりも薄く、薄膜抵抗素子を形成する目的に使用可能な金属のいくつかの非限定的な例が、NiCr、TaN(ニッケル-クロム、硝酸タンタル)を含む。
【0069】
1つの手法または上記の手法でハイブリッド減衰器400を製造するため、一実施形態は、低温で高い熱伝導率を示す基板材料を使用する。一実施形態では、基板の熱伝導率が、1つの温度範囲、例えば4~300Kの温度範囲において最低でもしきい熱伝導率レベル以上、例えば4ケルビンにおいて0.1W/(cm×K)以上である。基板を形成する目的に使用可能な材料のいくつかの非限定的な例は、ケイ素、ヒ化ガリウム(GaAs)、サファイヤ、石英および溶融シリカを含む。
【0070】
構成要素402、404および406のこれらの集中定数実現形態は、限定を意図したものではない。この開示から、当業者は、図示された集中定数実現形態に対する他の多くの実施態様を考案すること、例えば、追加の素子または異なる素子を使用して本明細書に示された集中定数実現形態の機能と同様の機能を達成することができ、そのような実施態様は、例示的な実施形態の範囲内で企図される。
【0071】
図5を参照すると、この図は、ハイブリッド減衰器の一例の散乱パラメータのマイクロ波シミュレーション結果を示している。図5に散乱パラメータが示されているハイブリッド減衰器回路は、図4に示された集中定数素子回路400に基づく。詳細には、この非限定的な例示的実施態様では、R1およびR2をそれぞれ27オームに設定し、R3を36オームに設定し、L1を3.18ナノヘンリー(nH)に設定し、C1およびC2をそれぞれ0.64ピコファラド(pF)に設定し、L2およびL3をそれぞれ2.65nHに設定し、C3を0.53pFに設定した。
【0072】
図5では、グラフ502が伝送パラメータS21およびS12を表しており、グラフ506および504がそれぞれ、反射パラメータS11およびS22を表している。グラフ502は、超伝導キュービット周波数範囲(例えば3~5GHz)よりも高い周波数の伝送信号に対するかなりの減衰(例えば7GHzにおいて20dB)、および超伝導キュービット周波数範囲よりも低い周波数の伝送信号に対するかなりの減衰(例えば2GHzにおいて20dB)を示しており、キュービット信号範囲の信号は、適度な減衰(すなわち約10dBの減衰)で通過することができる。
【0073】
図6を参照すると、この図は、例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の例示的な別の構成を示している。ハイブリッド減衰器600のこの図のこの例示的な構成、すなわち変形構成2は、抵抗減衰器602および帯域通過(または帯域阻止)フィルタ604を備える。例示的な実施形態の範囲内で、これらの構成要素をさまざまな配列に配列することができる。例えば、1つの配列を、示されたとおりの順序の604-602(すなわち帯域通過フィルタ604、続いて抵抗減衰器602)とすることができる。他の配列は、異なる周波数帯に対して602-604、604-602-604、および同様の方式の可能な他の配列とすることができる。
【0074】
ハイブリッド減衰器600は分散-抵抗減衰器であり、2ポート集積回路として実施することができる。帯域通過フィルタ604は、2つのしきい周波数間の周波数帯を通過させる(この通過帯域外の周波数を減衰させる/遮断する)分散フィルタである。抵抗減衰器602は、図3の抵抗減衰器302の方式で動作する抵抗または吸収フィルタである。一実施形態によれば、回路組立てシステムが、同じチップまたはプリント回路板上でこれらの2つの構成要素602および604を形成し、互いに接続する。
【0075】
図7を参照すると、この図は、例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器を実施する例示的な回路を示している。構成要素702は、図3の構成要素302と同様の方式で抵抗減衰器を実施する抵抗素子である。構成要素704は、図3の構成要素304および306に代わる帯域通過フィルタを実施し、同様の役割を果たす分散素子である。
【0076】
構成要素702は、図2の場合と同様に、抵抗素子R4、R5およびR6のT構成を備える。構成要素702および抵抗器R4、R5およびR6のこの描写は、集中定数実現形態、すなわち、マイクロ波周波数帯の抵抗減衰器としての構成要素702の有効な機能の表現であることに留意されたい。
【0077】
構成要素704は、一方の側が大地、すなわちハイブリッド減衰器の外部導体に結合された、並列の容量素子L6およびC6の構成を備える。L6-C6は、示されているとおり、もう一方の側が、ハイブリッド減衰器の内部導体を介してL4-C4直列およびL5-C5直列に結合している。構成要素704および素子L4~L6およびC4~C6のこの描写は、集中定数実現形態、すなわちマイクロ波周波数帯の帯域通過フィルタとしての構成要素704の有効な機能の表現である。この例は、単純な1単位セル帯域通過フィルタを示している。この設計は、図7に示された単純な帯域通過フィルタの代わりに、いくつかの単位セルからなり、その減衰、伝送、帯域幅、カットオフ周波数およびリップル特性がさらにまたは異なる形で最適化された、より高度な帯域通過フィルタが使用されている場合もカバーする。
【0078】
構成要素704では、ハイブリッド減衰器の内部導体上の容量素子C4およびC5が、冷凍機内での接地ループの形成を排除する目的に使用することができるDC遮断物の役目を果たす。このような接地ループは、電子雑音を発生させうるため望ましくない。ハイブリッド減衰器の中心導体と外部導体とを接続している誘導素子L6は、ハイブリッド減衰器の中心導体と外部導体との間の無視できる抵抗の経路を提供する。このような低抵抗の電気-熱経路は、かなりの電気-熱抵抗によって中心導体が大地(減衰器ケース)から熱的に分離されている抵抗減衰器だけの場合に比べて、ハイブリッド減衰器の中心導体の熱平衡化を大幅に改善することができる。
【0079】
低いマイクロ波雑音、高い熱平衡化またはその両方を促進するために、さまざまな実施形態が、図4のハイブリッド減衰器400に関して説明した実施形態と同様の手法で、ハイブリッド減衰器700の製造を達成する。一実施形態は、ウェーハの基板上での半導体製造法を使用して、単一のチップ上に構成要素702および704を製造する。別の実施形態は、電気および電子素子を集積するための回路組立て法を使用して、プリント回路板(PCB)上に構成要素702および704を製造して、同じPCB上に構成要素702および704を形成する。
【0080】
構成要素702および704の集中定数素子実現形態を形成するため、一実施形態は、図4の誘導素子L1、L2またはL3に関して説明した材料および技法を使用して、インダクタ、例えば誘導素子L4、L5もしくはL6またはこれらの組合せを製造する。同様に、一実施形態は、図4の容量素子C1、C2またはC3に関して説明した材料および技法を使用して、コンデンサ、例えば容量素子C4、C5もしくはC6またはこれらの組合せを製造する。一実施形態は、図4の抵抗素子R1、R2またはR3に関して説明した材料および技法を使用して、抵抗器、例えば抵抗素子R4、R5もしくはR6またはこれらの組合せを製造する。集中定数実現形態702および704を製造するために基板が使用されるとき、一実施形態は、図4に関して説明した材料を基板に対して使用する。
【0081】
構成要素702および704のこれらの集中定数実現形態は、限定を意図したものではない。この開示から、当業者は、図示された集中定数実現形態に対する他の多くの実施態様を考案すること、例えば、追加の素子または異なる素子を使用して本明細書に示された集中定数実現形態の機能と同様の機能を達成することができ、そのような実施態様は、例示的な実施形態の範囲内で企図される。
【0082】
図8を参照すると、この図は、ハイブリッド減衰器の一例の散乱パラメータのマイクロ波シミュレーション結果を示している。図8に散乱パラメータが示されているハイブリッド減衰器回路は、図7に示された集中定数素子回路700に基づく。詳細には、この非限定的な例示的実施態様では、R4およびR5をそれぞれ27オームに設定し、R6を36オームに設定し、L4およびL5をそれぞれ3.98nHに設定し、C4およびC5をそれぞれ0.398pFに設定し、L6を0.497nHに設定し、C6を3.18pFに設定した。
【0083】
グラフ804Aおよび804Bはそれぞれ、図7に示された例示的なハイブリッド減衰器構成の反射パラメータS11およびS22を表している。グラフ804Aは、約3から5GHzであるキュービット信号の周波数範囲の外側のかなりの反射を示している。一方、グラフ804Bは、キュービット周波数範囲の50オーム(すなわちハイブリッド減衰器の外部ポートの特性インピーダンス)に対する良好な整合を示している。
【0084】
グラフ806は、図7に示された例示的なハイブリッド減衰器の伝送パラメータS21およびS12を表している。グラフ806は、キュービット周波数範囲よりも高い周波数および低い周波数でのかなりの減衰を示している。帯域通過フィルタ704を伴う構成要素702の構成は、入力信号の約3から5GHzであるキュービット信号の範囲内で、約-10~-12デシベル(dB)の低レベルの減衰を生み出し、したがって、キュービット信号を比較的に小さな減衰で通過させ、その一方で、キュービット範囲の外側の雑音および信号を抑制した。キュービット・パルスのパワーが大きくなるにつれて量子ゲートの持続時間が低下するとき(例えば交差共鳴ゲート(cross-resonance gate))、キュービット信号のこのような適度な減衰は有用となろう。
【0085】
図9を参照すると、この図は、例示的な実施形態によるハイブリッド減衰器の例示的なパッケージングまたはハウジングのレンダリングを示している。ハウジング900は、極低温抵抗-分散ハイブリッド減衰器のハウジングの非限定的な例示的構成である。ハウジング900は、関連ステージとの高い熱平衡化を示し、ハウジング内に収容されたハイブリッド減衰器(見えていない)内を通って接続している線の中でのマイクロ波反射の発生および導入を最小化し、量子処理回路または量子処理回路の部分が動作する1つまたは複数の温度範囲で使用可能である。ハウジング900は、高熱伝導率材料、例えば1ワット/ケルビン-センチメートルのしきい熱伝導率レベルを満たしまたはしきい熱伝導率レベルを超える熱伝導率を示す材料から形成されている。
【0086】
ハウジング900は、ハイブリッド減衰器を製造し、配置しまたは他の手法で設置することができる空間を含むベース902を備える。ハウジング900はさらにカバー904を備える。カバー904は、ベース902の開口(図示せず)を完全に覆うように構成されており、この開口は、ベース902の中に減衰器を設置する目的に使用可能である。ベース902とカバー904とが互いに対して良好に熱平衡化されるような方式で、すなわち一体に結合されたときにベース902とカバー904の組合せが熱的に同じ温度となるような方式で、カバー904は、ベース902に熱的に固定され、締結され、または他の手法で熱的に結合されている。
【0087】
量子コンピューティング温度範囲での許容される熱平衡化のためにカバー904をベース902に固定する非限定的で例示的な1つの手法が図9に示されている。カバー904をベース902に熱平衡化するために、しきい熱伝導率レベルよりも高い熱伝導率を示す材料から製造された1つまたは複数のねじ906が、カバー904およびベース902と熱的に接触している。黄銅は、ねじ906を製造する目的に使用可能な材料の1つの非限定的な例である。熱平衡化のためのこの固定例は限定を意図したものではない。この開示から、当業者は、良好な熱平衡化のための他の多くの固定方法を考案することができ、それらは、例示的な実施形態の範囲内で企図される。例えば、ねじ906の代わりに、しきい熱伝導率レベルよりも高い熱伝導率を示す熱伝導性結合剤を使用して、カバー904をベース902に結合することもできる。
【0088】
ハウジング900はさらにコネクタ908および910を備える。コネクタ908および910は特に、マイクロ波周波数範囲の信号とともに使用できるように構成されている。例示的な実施形態によれば、コネクタ908と910は、型および雌雄が同じであるように選択されている。例えば、マイクロ波ケーブルをハウジング900に接続するのに(およびそれによってマイクロ波ケーブルをハウジング900内のハイブリッド減衰器400または700に接続するのに)雌雄変換アダプタが必要とならないように、コネクタ908および910をともに、雌型のSubMiniature version A(SMA)型コネクタとすることができる。したがって、型および雌雄が同じコネクタ908および910の使用は、そうしなければ雌雄変換アダプタから生じるであろうマイクロ波信号反射を最小化する。
【0089】
さらに、コネクタ908および910に対して使用される材料または材料の組合せは、(しきい値よりも高い)高い熱伝導率および(しきい電気伝導率よりも高いまたはしきい抵抗よりも小さい)高い電気伝導率を示すものであるべきである。コネクタ908および910を形成するための材料のこのような1つの非限定的な組合せは、黄銅と金めっきである。非限定的な一実施形態では、このしきい電気伝導率が、製造された電気配線で使用される銅または銅合金の、室温で測定された電気伝導率に匹敵する。
【0090】
コネクタ908および910の型、雌雄および材料の組合せのこれらの例は、限定を意図したものではない。この開示から、当業者は、マイクロ波コネクタの他の多くの型、雌雄および材料の組合せを考案することができ、それらは、例示的な実施形態の範囲内で企図される。例えば、例示的な実施形態の範囲内で、同じ雌雄および適当な材料もしくは材料の組合せのミニチュア同軸(miniature coaxial)(MCX)もしくはマイクロミニチュア同軸(micro-miniature coaxial)(MMCX)コネクタ、または他の多くのタイプのマイクロ波および無線周波コネクタを、コネクタ908および910として形成および使用することができる。
【0091】
さらに、コネクタ908および910は、適当な任意の固定手法を使用してマイクロ波ケーブルに固定することができる。図示された非限定的な例は、マイクロ波ケーブルの対応する雄型端をねじ込むことができるねじ式ねじ込みコネクタ908および910を示している。コネクタの雌雄が同じであり、コネクタが、本明細書に記載された熱伝導率および電気伝導率要件を満たすように形成される限りにおいて、例示的な実施形態の範囲を逸脱することなく、プレスばめ型または摩擦軸継手型のコネクタをコネクタ908および910として使用することができる。
【0092】
本明細書では、本発明のさまざまな実施形態が関連図を参照して説明される。本発明の範囲を逸脱することなく代替実施形態を考案することができる。以下の説明および図面には、要素間のさまざまな接続および位置関係(例えば上、下、隣りなど)が記載されているが、たとえ向きが変わっても記載された機能が維持されるときには、本明細書に記載された位置関係の多くは向きに依存しないことを当業者は理解するであろう。これらの接続もしくは位置関係またはその両方は、特に指定されていない限り、直接的なものであることまたは間接的なものであることができ、本発明は、この点に関して限定を意図したものではない。したがって、実在物の結合は、直接結合または間接結合であることがあり、実在物間の位置関係は、直接的位置関係または間接的位置関係であることができる。間接的位置関係の例として、本明細書の説明に、層「A」を層「B」の上に形成すると記載されているとき、それは、層「A」および層「B」の関連特性および機能が中間層(例えば層「C」)によって実質的に変更されない限りにおいて、層「A」と層「B」の間に1つまたは複数の中間層が存在する状況を含む。
【0093】
特許請求の範囲および本明細書の解釈のために、以下の定義および略語が使用される。本明細書で使用されるとき、用語「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含有する(contains)」もしくは「含有する(containing)」、またはこれらの用語の他の変異語は、非排他的包含(non-exclusive inclusion)をカバーすることが意図されている。例えば、要素のリストを含む組成物、混合物、プロセス、方法、物品または装置は、必ずしもそれらの要素だけに限定されるわけではなく、明示的にはリストに入れられていない他の要素、あるいはこのような組成物、混合物、プロセス、方法、物品または装置に固有の他の要素を含みうる。
【0094】
さらに、本明細書では、用語「例示的な」が、「例、事例または実例として役立つ」ことを意味するものとして使用されている。本明細書に「例示的」として記載された実施形態または設計は必ずしも、他の実施形態または設計よりも好ましいまたは有利であるとは解釈されない。用語「少なくとも1つの」および「1つまたは複数の」は、1以上の任意の整数、すなわち1、2、3、4などを含むと理解される。用語「複数」は、2以上の任意の整数、すなわち2、3、4、5などを含むと理解される。用語「接続」は、間接「接続」および直接「接続」を含みうる。
【0095】
本明細書において「一実施形態」、「実施形態」、「例示的な実施形態」などに言及されているとき、それは、記載されたその実施形態は特定の特徴、構造もしくは特性を含みうるが、全ての実施形態がその特定の特徴、構造もしくは特性を含むことがあり、またはそうではないこともあることを示す。さらに、このような句が、同じ実施形態を指しているとは限らない。さらに、1つの実施形態に関して特定の特徴、構造または特性が記載されているとき、明示的に記載されているか否かを問わず、他の実施形態に関してそのような特徴、構造または特性に影響を及ぼすことは、当業者の知識の範囲内にある。
【0096】
用語「約」、「実質的に」、「およそ」およびこれらの用語の変異語は、特定の数量の大きさに関連した、本出願の提出時に利用可能な機器に基づく誤差の程度を含むことが意図されている。例えば、「約」は、所与の値の±8%、5%または2%の範囲を含みうる。
【0097】
本発明のさまざまな実施形態の以上の説明は、例示のために示したものであり、以上の説明が網羅的であること、または、以上の説明が、開示された実施形態だけに限定されることは意図されていない。当業者には、記載された実施形態の範囲を逸脱しない多くの変更および変形が明らかとなろう。本明細書で使用した用語は、実施形態の原理、実用的用途、もしくは市販されている技術にはない技術的改良点を最もよく説明するように、または本明細書に開示された実施形態を当業者が理解できるように選択された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9