(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】相転移放熱装置
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20241213BHJP
【FI】
F28D15/02 102A
F28D15/02 102H
F28D15/02 L
F28D15/02 101B
F28D15/02 104A
(21)【出願番号】P 2021544903
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 CN2019125969
(87)【国際公開番号】W WO2020155900
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】201910086875.0
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521338754
【氏名又は名称】株洲智▲熱▼技▲術▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲純▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 ▲広▼帆
(72)【発明者】
【氏名】姚 春▲紅▼
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 秋成
【合議体】
【審判長】鈴木 充
【審判官】飯星 潤耶
【審判官】水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/121819(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0258213(US,A1)
【文献】特開平10-185468(JP,A)
【文献】特開2006-11638(JP,A)
【文献】特開2016-14508(JP,A)
【文献】実開昭51-127144(JP,U)
【文献】特開2002-59823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相転移熱交換媒体が内部に設けられた相転移ユニットを含む相転移放熱装置であって、
相転移ユニットに設けられる相転移熱交換媒体は、相転移放熱装置が作動状態である場合、前記相転移ユニットの内部の気圧が0.15MPaよりも大きいように構成されており、
前記相転移ユニットは蒸発部と凝縮部を含み、前記蒸発部の内部に蒸発室を有し、前記凝縮部の内部に凝縮室を有し、前記蒸発室内の相転移熱交換媒体が発熱源の熱を吸収できるように、前記蒸発部の外壁は発熱源に接触して設けられ、前記蒸発室内の相転移熱交換媒体が前記熱を前記凝縮室へ伝達できるように、前記蒸発室と前記凝縮室が連通し、前記凝縮室は外部へ熱を放出することで前記発熱源を冷却するように構成され、
前記蒸発室は平面状又は曲面状キャビティであり、前記相転移放熱装置は、強化熱交換構造をさらに備え、前記強化熱交換構造は、前記蒸発部の外面に形成された突起又はトレンチであることを特徴とする相転移放熱装置。
【請求項2】
相転移ユニットに設けられる相転移熱交換媒体は、R134a、R142b、R114、R124、R1233Zd(E)、R1234Ze(Z)、R1234Ze(E)、R600a、RC318、RE245cb2、R22、R32、R407C、R410Aのうちのいずれか1種又は複数種であることを特徴とする請求項1に記載の相転移放熱装置。
【請求項3】
前記凝縮部は複数の凝縮分岐板を含み、前記凝縮室は凝縮分岐板の内部
に設けられる平面状空洞であり、又は、
前記凝縮部は複数の凝縮分岐管を含み、前記凝縮室は凝縮分岐管の内部
に設けられる円筒形空洞であり、又は、
前記凝縮部は複数の凝縮テーパ管を含み、前記凝縮室は凝縮テーパ管の内部
に設けられる円錐形空洞であることを特徴とする請求項1に記載の相転移放熱装置。
【請求項4】
前記凝縮部は直接又は管路を介して蒸発部に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の相転移放熱装置。
【請求項5】
凝縮部の内壁には凝縮強化構造が設けられ、凝縮部の外壁には凝縮面積を増大するフィン又はリブが設けられる、ことを特徴とする請求項1に記載の相転移放熱装置。
【請求項6】
前記蒸発部及び凝縮部の内部に複数のリブ、突起又はフィンが設けられることで、耐圧能力を向上させることを特徴とする請求項1に記載の相転移放熱装置。
【請求項7】
前記蒸発部の外面に接触吸熱面を有し、発熱源は熱源面を有し、蒸発部の前記接触吸熱面と発熱源の前記熱源面は接触し、前記熱源面と接触吸熱面は共に平面であることを特徴とする請求項1に記載の相転移放熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相転移放熱装置の技術分野に関し、特に電子デバイスの相転移放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
相転移放熱とは、効率的な放熱方式であり、その原理は相転移熱交換媒体が所定の温度で沸騰して気化し吸熱し、次に気化した気体が他の位置で凝縮して液化し放熱することを利用して、熱を伝達することであり、その伝熱効果が高く、広く適用されている。
【0003】
現在、相転移ラジエータでは、ヒートパイプを用いて相転移放熱を行うのが一般的であり、他の従来の放熱方式に比べて、ヒートパイプ放熱は、熱の伝達効率が高く、放熱効果が高い。一般的なヒートパイプラジエータは主に、ヒートパイプ、放熱フィン、熱伝導ベースという3つの主な部分から構成される。この中でも、相転移ユニットとしてのヒートパイプは、相転移により熱を伝達し、熱伝導ベースは発熱源とラジエータを接続し、熱源は熱伝導ベースを介して熱をヒートパイプに伝達し、放熱フィンはヒートパイプとヒートパイプ内の相転移熱交換媒体の熱を外界に伝達する。ヒートパイプは、一端(蒸発部)が熱伝導ベースに嵌設又は溶接され、他端(凝縮部)が放熱フィンに接続される。
【0004】
現在、一般的な相転移ラジエータでは、相転移熱交換媒体が適切な温度で蒸発するために、ほとんどは真空吸引により相転移熱交換媒体の沸点を低下させる。従来のヒートパイプは、脱イオン水又はエタノールを作動流体とするので、作動点で気化するには一定の負圧を維持しなければならない。
【0005】
ヒートパイプ自体が管状のものであると相まって、1つのヒートパイプラジエータに配置され得るヒートパイプの数が限られるので、ヒートパイプと熱源が直接接触する面積が小さく、その結果、熱源から相転移ユニット(ヒートパイプ)への熱の伝達の障害となり、伝熱効率が低く、放熱性能が深刻に制限されてしまい、また、ベースの局所での高温を引き起こす。また、ヒートパイプの放熱方式は、線形方式で熱を伝導するような一次元的なものであり、ヒートパイプ自体は放熱能力や放熱効果が最適なものといえず、ヒートパイプラジエータの加工コストも高く、ほとんどの相転移式ラジエータでは、内部を真空環境として作動するので、内部の相転移熱交換媒体の流動が制限され、放熱に不利となる。
【0006】
さらに、現在のヒートパイプでは、ほとんどシェル材料として赤銅が使用され、一方、ベース材料としてアルミ合金が使用され、通常、低温錫ろう付け又は粘着によりヒートパイプとベースの成形後の隙間が充填され、このようにすると、一定の熱抵抗が生じて、伝熱に不利となり、そして、低温錫ろう付けの欠陥には、溶接前にラジエータ全体にニッケルメッキや銅メッキなどの表面処理を施す必要があり、溶接や表面処理によりコストが高くなり、また環境汚染をもたらすこと、はんだ付けによれば、ヒートパイプとアルミ合金ベースの平面が完全に充填されて、局所に孔隙が生じないことを確保しにくく、一方、ヒートパイプがパワーデバイスの下方に設けられて、熱流束が大きいので、孔隙があれば、熱源デバイスの局所での温度が上昇し、その結果、デバイスが損耗されることが含まれる。ヒートパイプラジエータは加工コストが高く、環境汚染を引き起こす。
【0007】
したがって、従来の相転移ラジエータは、伝熱の熱抵抗が大きく、伝熱が不均一であり、製造コストが高く、熱交換効率が低いなどの問題を抱えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術の問題を解決するために、本発明は、熱伝達効率を高め、熱拡散を促進するために、電子デバイス相転移放熱装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成させるために、本発明の電子デバイス相転移放熱装置の技術案は、具体的には、以下のとおりである。
【0010】
相転移熱交換媒体が内部に設けられた相転移ユニットを含む相転移放熱装置であって、
相転移ユニットに設けられる相転移熱交換媒体は、相転移放熱装置が作動状態である場合、前記相転移ユニットの内部の気圧が0.15MPaよりも大きいように構成されている。
【0011】
さらに、相転移ユニットに設けられる相転移熱交換媒体は、R134a、R142b、R114、R124、R1233Zd(E)、R1234Ze(Z)、R1234Ze(E)、R600a、RC318、RE245cb2、R22、R32、R407C、R410Aのうちのいずれか1種又は複数種である。
【0012】
さらに、相転移ユニットは蒸発部と凝縮部を含み、蒸発部の内部に蒸発室を有し、凝縮部の内部に凝縮室を有し、前記蒸発室と前記凝縮室が連通し、前記蒸発室内の相転移熱交換媒体は発熱源の熱を吸収して前記凝縮室へ伝達し、凝縮室は外部へ熱を放出することで発熱源を冷却する。
【0013】
さらに、前記蒸発室は平面状又は曲面状キャビティである。
【0014】
さらに、前記凝縮部は複数の凝縮分岐板を含み、前記凝縮室は凝縮分岐板の内部に対応して設けられる平面状空洞であり、又は、
前記凝縮部は複数の凝縮分岐管を含み、前記凝縮室は凝縮分岐管の内部に対応して設けられる円筒形空洞であり、又は、
前記凝縮部は複数の凝縮テーパ管を含み、前記凝縮室は凝縮テーパ管の内部に対応して設けられる円錐形空洞である。
【0015】
さらに、前記凝縮部は直接又は管路を介して蒸発部に接続されている。
【0016】
さらに、凝縮部の内壁には凝縮強化構造が設けられ、凝縮部の外壁には凝縮面積を増大するフィン又はリブが設けられる。
【0017】
さらに、前記蒸発部及び凝縮部の内部に複数のリブ、突起又はフィンが設けられることで、耐圧能力を向上させる。
【0018】
さらに、前記蒸発部の外壁は発熱源に接触して設けられる。
【0019】
さらに、前記蒸発部の外面に接触吸熱面を有し、発熱源は熱源面を有し、蒸発部の前記接触吸熱面と発熱源の前記熱源面は接触し、前記熱源面と接触吸熱面は共に平面である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の相転移放熱装置は以下の利点がある。
1)相転移ユニットの蒸発部が発熱源と直接接触するため、蒸発部は発熱源と十分に接触でき、伝熱面積が大きく、伝熱効果が高く、発熱源の熱流束が大きい場合、蒸発室の底部と直接接触する相転移媒体は気化し、局所での気体の圧力が上昇し、蒸発室と発熱源が接触した最高熱流束の部位と他の部位とで圧力差が生じ、このように、相転移ユニットの蒸発部の熱が素早く拡散され、蒸発部全体の温度差が小さくなる。
2)相転移ユニットが三次元放熱構造であるので、相転移熱交換媒体が気化すると、相転移ユニットの任意の低圧部位に迅速に拡散することができ、それにより、相転移ユニットの温度が均一になり、伝熱効率が高く、且つ伝熱が均一になる。
3)相転移放熱装置が作動する際には、作動温度の範囲が30~80℃であり、内部の圧力が標準大気圧よりも遥かに大きく、正圧の非真空環境となる。発熱源の熱流束が大きく、相転移装置の蒸発部の絶対圧力が高く、相転移装置の異なる部位では、同じ温度差の条件下で相対圧力差が大きく、圧力差により、より多くの相転移媒体が駆動され、熱交換能力を高め、内部の相転移熱交換媒体の流動性を向上させ、伝熱の熱流束を向上させ、効率的な放熱を容易とする。
4)相転移放熱装置が作動する際には、内部の絶対圧力が大きく、蒸発部及び凝縮部の受ける圧力が大きい。蒸発部及び凝縮部の内部に複数のリブ、突起又はフィンが設けられることで、耐圧能力を向上させる。
5)相転移ユニットの内部には、沸騰や蒸発熱交換を強化する構造がろう付け又は焼結されており、それにより、相転移熱交換媒体は沸騰熱伝達をより効率よく実施でき、且つ、熱拡散がより均一かつ迅速になり、熱の伝達も熱交換面積の増加により効率的になる。
【0021】
さらに、本発明の相転移放熱装置の製造には、銅メッキやニッケルメッキなどの表面処理プロセスが不要であり、放熱装置の相転移構造と凝縮フィンは直接高温ろう付けで一体に溶接され、発熱源(例えばパワーデバイスCPU)と相転移放熱装置は接触して、低温はんだ付けで隙間が充填され、それにより、隙間の発生を回避し、本発明の相転移放熱装置の伝熱限界を顕著に向上させる(200Wよりも遥かに大きい)。
【0022】
本発明は、チップ、抵抗器、コンデンサ、インダクタ、記憶媒体、光源、電池パックなどのパワーエレクトロニクスデバイスの放熱に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1a】本発明の相転移放熱装置の実施例1の斜視図であり、複数の凝縮分岐板は連通していない。
【
図1b】
図1aの相転移放熱装置の断面図であり、複数の凝縮分岐板は凝縮天板を介して互いに連通している。
【
図2】本発明の相転移放熱装置の実施例2の斜視図である。
【
図3a】本発明の相転移放熱装置の実施例3の斜視図である。
【
図4a】本発明の相転移放熱装置の実施例4の斜視図である。
【
図5a】本発明の相転移放熱装置の実施例5の斜視図であり、蒸発部及び凝縮部は別々に設置され、管路を介して連通し、蒸発部は中空矩形キャビティを有し、凝縮部は複数の凝縮分岐板を含む。
【
図6a】本発明の相転移放熱装置の実施例6の斜視図であり、蒸発部及び凝縮部は別々に設置され、管路を介して連通し、蒸発部は中空矩形キャビティであり、凝縮部は複数の凝縮分岐管を含み、凝縮分岐管は複数の円筒形空洞を有する。
【
図7】本発明の相転移熱交換媒体の相転移ユニットにおける流動の模式図を示す。
【
図8】本発明の相転移熱交換媒体の相転移ユニットにおける流動の模式図を示す。
【
図9】相転移放熱装置の強化熱交換構造の模式図を示す。
【
図10】相転移放熱装置の強化熱交換構造の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の目的、構造及び機能をよりよく理解できるように、以下、図面を参照して、本発明の電子デバイスの相転移放熱装置をさらに詳しく説明する。
【0025】
本発明の関連用語の定義は以下のとおりである。
【0026】
沸騰熱伝達とは、熱が壁面から液体に伝達されて、液体を沸騰気化させる伝熱プロセスである。
【0027】
気化コアは、液体沸騰を開始させる担体である。
【0028】
熱伝導率とは、物体の内部のうち、距離1m、面積1m2の熱伝導方向に垂直な2つの平行平面を取り、2つの平面の温度差が1Kであれば、1秒内に一方の平面から他方の平面に伝導される熱をこの物質の熱伝導率として定義し、単位はワット・メートル-1・ケルビンメートル-1(W・m-1・K-1)である。
【0029】
熱抵抗とは、熱が物体上で伝達される場合、物体の両端の温度差と熱源のパワーとの間の比として定義され、単位はワットあたりのケルビンメートル(K/W)又はワットあたりの摂氏度(℃/W)である。
【0030】
伝熱係数とは、安定的に伝熱する条件下で、周辺構造の両側の空気の温度差が1℃(K又は℃)である場合、単位時間あたり単位面積を通じて伝達される熱のことであり、単位はワット/(m2・℃)(W/・K、ここでKは℃に置き換えてもよい)であり、伝熱プロセスの強さを反映する。
【0031】
熱流束とは、単位時間当たり単位面積で伝達される熱は熱流束と呼ばれ、q=Q/(S*t)-Qは熱、tは時間、Sは断面積、熱流束の単位は、J/(m2・s)である。
【0032】
遷移沸騰とは、熱流束が増大すると、大量の気化コアから噴出される蒸気が蒸気ビームとなり、蒸気流れが伝熱面へ補充される液体を阻害するに伴い、短時間内で伝熱面の液体が乾き、その結果、伝熱面の温度が急に上昇する。
【0033】
正圧とは、ラジエータと発熱源との接触部位の温度が安定的になるときに、ラジエータの相転移ユニットの内部の圧力が標準大気圧の1.5倍以上(0.15MPaよりも大きい)であるものを正圧として定義する。
【0034】
微正圧:ラジエータと発熱源との接触部位の温度が安定的になるときに、ラジエータの相転移ユニットの内部の圧力が0.1MPa~0.15MPaである場合、微正圧である。例えば、エタノールなどを相転移熱交換媒体として作動する際に、相転移ユニットの内部の気圧が微正圧である。
【0035】
負圧:ラジエータと発熱源との接触部位の温度が安定的になるときに、ラジエータの相転移ユニットの内部の圧力が0.1MPa未満である場合、負圧である。例えば、水を相転移熱交換媒体として作動する際に、相転移ユニットの内部の圧力が負圧ではなければならず、そうではないと、相転移熱交換媒体が起動できず、ラジエータが故障する。
【0036】
図1a~6bに示すように、本発明の相転移放熱装置10は、蒸発部11、凝縮部12、及び蒸発部11又は凝縮部12内に設けられる相転移熱交換媒体20を含み、蒸発部11、凝縮部12の両方により三次元熱交換構造が構成される。相転移放熱装置10は、作動状態である場合、内部の作動圧力が0.15MPaよりも大きく、正圧状態である。蒸発部11と凝縮部12は、直接接続されてもよいし(図la~
図4b参照)、管路を介して接続される別体式構造としてもよい(
図5a~
図6b参照)。
【0037】
図5a~
図6bに示す実施例では、凝縮部12は水平に配置されてもよく、垂直に配置されてもよく、CPU基板を含むシステムの構造設計のニーズに応じて、構造や配置方向を変更してもよい。発熱源30は相転移部件の蒸発部11に直接取り付けられ、熱が蒸発部11の薄壁を介して相転移熱交換媒体20に直接伝達され、相転移熱交換媒体20は吸熱して相転移し、相転移放熱装置10内の蒸発部11と凝縮部12との間で圧力差を生じさせ、それにより、相転移熱交換媒体20を凝縮部12へ流動させ、相転移媒体は凝縮部12で凝縮した後、重力や毛細管力を通じて蒸発部11に戻り、このように循環する。
【0038】
図1a~1bに示すように、本発明の相転移放熱装置10は相転移ユニットを含み、相転移ユニットは内部に空洞を有する密閉構造であり、相転移ユニットの内部に相転移熱交換媒体20が収容されており、相転移ユニットの内部空洞は全体として連通している構造であり、相転移熱交換媒体20は相転移ユニットの内部空洞全体を循環流動することができる。
【0039】
相転移ユニットは蒸発部11と凝縮部12を有し、蒸発部11の内部に蒸発室を有し、凝縮部12の内部に凝縮室を有し、蒸発部11の蒸発室は凝縮部12の凝縮室と連通し、蒸発室と凝縮室により相転移ユニットの内部空洞が構成され、凝縮部12は凝縮フィンに連結される。蒸発室内の相転移熱交換媒体20は発熱源30の熱を吸収して気化し蒸発し、凝縮室に流動して冷却し液化し、凝縮室は凝縮フィンを介して外部へ熱を放出する。これによって、相転移放熱装置10は、発熱源30の熱を空気又は他の気体の冷却媒体に伝達して、熱源を放熱して冷却する効果を達成させる。
【0040】
上記相転移ユニットの蒸発部11は、内部に空洞を有する平面板状体又は曲面板状体であり、蒸発部11の内部に平面状蒸発室又は曲面状蒸発室を有し、蒸発部11の内部の平面状空洞又は曲面状空洞は凝縮部12の内部の凝縮室と連通する。
【0041】
凝縮部12は、内部に空洞を有する複数の凝縮分岐板を含み、凝縮分岐板の内部が平面状凝縮室であり、複数の凝縮分岐板は蒸発部11に接続され、凝縮分岐板の内部の平面状凝縮室は蒸発部11の内部の平面状蒸発室又は曲面状蒸発室と連通する。上記複数の凝縮分岐板は、好ましくは平行に並設され、凝縮分岐板は蒸発部11に垂直に接続され、凝縮分岐板の外側に凝縮フィンが接続され、凝縮分岐板内の熱が凝縮フィンを介して外界へ放出される。蒸発部11は板状体構造に限定されず、他の柱状体構造であってもよく、下底面が平面であればよい。
【0042】
さらに、凝縮部12の内壁には凝縮強化構造が設けられ、凝縮強化構造は、凝縮部12の内壁に分散して設けられる毛細管構造であってもよく、前記毛細管構造はソラマメ形の柱状、円筒又は円錐状の構造であり、毛細管作用を有し、気化した相転移熱交換媒体20を凝縮室に沿ってより迅速かつ均一に流動させ、また、凝縮した相転移熱交換媒体20が蒸発室に迅速に逆流することにも有利である。さらに、このような毛細管構造は凝縮室自体の熱交換面積を増大し、熱伝達速度を速める。
【0043】
図2a~2bに示すように、凝縮部12は凝縮天板121をさらに含み、凝縮天板121の内部に平面状凝縮室又は曲面状凝縮室を有し、凝縮天板121の内部の凝縮室は凝縮分岐板の内部の凝縮室と連通し、凝縮部12は全体として櫛状である。相転移熱交換媒体20は、蒸発部11の蒸発室内で吸熱し、凝縮部12の凝縮分岐板及び凝縮天板121を介して放熱し、蒸発部11の蒸発室と凝縮分岐板及び凝縮天板121内の凝縮室とで循環流動することで、発熱源30を放熱する。凝縮天板121は凝縮分岐板と一体成形されてもよい。相転移ユニットの蒸発部11と凝縮部12も、好ましくは一体成形構造である。
【0044】
図3a~3bに示すように、本実施例では、凝縮部12の凝縮分岐板は他の形態を取り、つまり、前記凝縮部12は複数の円筒形の凝縮分岐管を含み、前記凝縮室は凝縮分岐管の内部に対応して設けられる円筒形空洞である。
図4a~4bに示すように、前記凝縮部12は複数の凝縮テーパ管をさらに含んでもよく、前記凝縮室は凝縮テーパ管の内部に対応して設けられる円錐形空洞である。
【0045】
図5a、5b、6a、6bに示すように、前記凝縮部12の凝縮室は、凝縮部12が発熱源30のシステム内部の構造に応じて合理的に配置されるように、直接ではなく、管路を介して蒸発部11に接続される。
【0046】
これによって、相転移ユニットの蒸発部11は凝縮部12と直接連通し、相転移ユニットの一端の蒸発部11は相転移ユニットの他端の凝縮部12と直接連通し、相転移ユニットの内部の相転移熱交換媒体20による蒸発・凝縮において、熱は相転移ユニットの一端から相転移ユニットの他端へかける水平方向、垂直方向において三次元的に拡散し、これにより、相転移ユニットの内部の空洞全体、特に凝縮部12の凝縮室の温度の均一性が高まる。
【0047】
上記蒸発部11は発熱源30と直接接触し、つまり、蒸発部11の表面(蒸発室の外面)は発熱源30と直接接触し、蒸発部11の表面は従来の放熱装置の基板の代わりとして機能し、それにより、発熱源30と蒸発部11との熱伝達効率が高まる。蒸発部11は、好ましくは、内部に空洞を有する平面板状体であり、蒸発部11の一方の側に接触吸熱面を有し、発熱源30は平面状の熱源面を有し、蒸発部11の接触吸熱面は発熱源30の熱源面と接触して設けられる。
【0048】
上記発熱源30の熱源面の面積が相転移ユニットの蒸発部11の接触吸熱面の面積よりも小さく、内部の相転移熱交換媒体20は相転移して流動することで、発熱源30から二次元方向に沿って熱を相転移ユニットの蒸発部11に迅速に伝達することができ、相転移ユニットの蒸発室内の温度を均一とすることができる。気化した相転移熱交換媒体20は凝縮分岐板に入って第3の方向に沿って流動し、この第3の方向は平面板状体の蒸発部11に垂直であり、つまり、蒸発部11の内部の二次元放熱方向に垂直である。
【0049】
前記蒸発部11及び/又は前記凝縮部12の内部には、複数のリブ、突起又はフィンが設けられることで、耐圧能力を向上させる。
【0050】
上記相転移ユニット及び凝縮フィンは、銅、アルミ、銅合金、アルミ合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼材料で製造されてもよく、例えば、相転移ユニット及び凝縮フィンは全て銅又はアルミ材料で製造され、相転移ユニット及び凝縮フィンは、好ましくは、相転移ユニット及び凝縮フィンの接触熱抵抗を低下させて、凝縮フィンと発熱源30との温度差を小さくするために、ろう付けによって接続される。発熱源30(例えばパワーデバイスCPU)と相転移放熱装置10(例えば蒸発部11)が接触して接続された後、低温はんだ付けにより隙間が充填され、隙間の発生を回避することができる。
【0051】
冷却フィンと凝縮分岐板の外壁が一体に溶接されることによって、凝縮分岐板の耐圧能力が高まり、ラジエータが作動する際には、凝縮部12及び蒸発部11の内部の作動圧力が増加し、1MPa以上に増加すると、冷却フィンと凝縮分岐板が溶接されてなる交差構造により、作動に必要な凝縮部12の強度が確保され、凝縮部12の変形が回避され、ラジエータの正常な作動が確保される。
【0052】
図9~10に示すように、凝縮フィンの代わりとして他の強化熱交換構造を使用してもよく、強化熱交換構造は、凝縮部12又は蒸発部11の外面に形成される凸起又はトレンチ(
図9)であってもよく、焼結によって凝縮部12又は蒸発部11の表面に形成される多孔質構造(
図10)であってもよい。強化熱交換構造によって、相転移熱交換媒体20は沸騰熱伝達をより効率的に行い、且つ熱拡散がより均一且つ迅速になり、熱交換面積の増加により、外界との熱伝達もより効率的になり、強化熱交換構造は、発熱源30のパワー密度や製造コストに応じて決定できる。
【0053】
図7~8に示すように、相転移ユニットにおける相転移熱交換媒体20の循環流動が示されており、蒸発部11の相転移熱交換媒体20は、発熱源30の熱を吸収した後、蒸発部11の内部の蒸発室において二次元平面に沿って拡散し、次に、気化して蒸発部11の凝縮部12に垂直な凝縮分岐板に流れ、さらに凝縮天板121内に流れ、凝縮分岐板及び凝縮天板121の外面には凝縮フィンが接続されており、凝縮分岐板及び凝縮天板121内の相転移熱交換媒体20に含まれる熱が、凝縮フィンを介して外部へ拡散し、それにより、より有利な放熱効果や性能が得られる。
【0054】
本発明の相転移放熱装置では、蒸発部の蒸発室は平面又は曲面状の薄肉空洞であり、蒸発部内には、沸騰熱伝達を強化する毛細管構造が設けられ、凝縮部は複数の中空凝縮分岐板、凝縮分岐管又は凝縮テーパ管を含み、中空分岐板、中空円筒又は中空円錐の内部には、凝縮熱交換を強化する構造が設けられ、凝縮部の外部に凝縮熱交換の面積を増大し得るフィン又はリブが接続され、良好な熱交換性能がある。
【0055】
非作動状態では、ラジエータの環境温度が相転移媒体の沸点よりも低く、相転移ユニットの内部空洞の各部位での圧力が同じであり、内部の圧力が標準大気圧又は負圧状態であり得る。相転移ユニットが作動状態である場合、環境温度が相転移媒体の沸点よりも高く、相転移ユニットの内部の各点での温度が異なり、それにより、圧力が異なり、相転移ユニットの内部の熱交換は、相転移ユニットの温度の相違により圧力差が生じて、蒸発部11の相転移熱交換媒体20が凝縮部12に輸送されることにより達成される。相転移熱交換媒体20は、蒸発部11から凝縮部12への輸送動力が相転移熱交換媒体20の異なる温度での圧力差である。したがって、圧力差が大きいほど、媒体輸送能力が高い。相転移ユニットでは、蒸発部11から凝縮部12への伝達能力は主として、蒸発部11と凝縮部12とでの相転移熱交換媒体20の圧力差、相転移熱交換媒体20の気化潜熱及び相転移熱交換媒体20の密度によって決定される。
【0056】
従来技術では、一般的に使用される相転移熱交換媒体20は、水、メタノール、エタノール及びアセトンを含み、作動状態では、これらの従来の相転移熱交換媒体20は負圧又は微正圧状態である。
【0057】
上記相転移熱交換媒体20を用いる場合、作動圧力は全て負圧又は微正圧状態であり、つまり、気圧は0.15MPa未満である。一方、現在、電子デバイスの発熱パワーがますます大きくなり、通常のCPU又はGPUは、発熱パワーが200Wよりも大きく、パワー密度が60000J/m2・sよりも大きくなっている。ラジエータの表面温度が60℃である場合、Φ6mm×150mmの銅水ヒートパイプでは、凝縮部12の温度の最大伝達能力が35Wしかない。よく使用されるサイズ45mm×69mmのCPUのスペースには4本しか配置できず、このため、銅水ヒートパイプによる最大伝熱能力が約140Wしかなく、残りの熱はラジエータの底部を通じて伝達する必要があり、エタノール、メタノール、アセトンを相転移熱交換媒体20として使用することにより圧力差が増加し、伝達する体積流量が増加するが、等体積流量では脱イオン水の気化潜熱がエタノール、メタノールやアセトン等よりも遥かに高いため、低熱流束の場合、同じ温度差の条件下では、脱イオン水の方は伝熱能力がエタノール、メタノールやアセトン等よりも高い。しかし、熱流束の増加及び相転移放熱装置の体積による制限のため、従来の銅水ヒートパイプの伝熱能力が、電子デバイスの高パワー放熱の要件を満たすことができなくなる。
【0058】
サイズ42mm×69mmの発熱源30の場合、発熱源30のパワーに周波数変換調整、凝縮部12に液冷を使用し、液体量を液冷試験装置により提供し、給液温度を35℃に維持し、発熱源30の温度を40℃に制御し、様々な相転移熱交換媒体20を用いて、相転移ユニットの内部の作動圧力及び発熱パワーをテストし、試験結果を表1に示す。
【0059】
様々な相転移熱交換媒体20の熱流束のテスト結果は以下のとおりである。
【0060】
【0061】
熱交換媒体のうち、R134aはテトラフルオロエタン(CF3CH2F)、R114はジクロロテトラフルオロエタン(CClF2CClF2)、R124はテトラフルオロクロロエタン(CHClFCF3)、R125はペンタフルオロエタン(CHF2CF3)、R1233Zd(E)又はR1234Ze(Z)又はR1234Ze(E)は全てトランスクロロトリフルオロプロペン(CF3CH=CHCl)、R600aはイソブタン(CH(CH3)3)、RC318はオクタフルオロシクロブタン(cyclo-C4F8)、R245fa又はR245caは全てペンタフルオロプロパン(CHF2CF2CH2F)、R32はトリフルオロメタン(CH2F2)、R22はクロロジフルオロメタン(CHC1F2)である。
【0062】
実施例1:
サイズ30mm×45mmの発熱源30の場合、発熱源30のパワーに周波数変換調整、凝縮部12に風冷を使用し、風量を試験風洞により提供し、吹き込み温度を25℃、吹き出し温度を50℃とし、発熱源30の温度を60℃に制御し、様々な相転移熱交換媒体20を用いて、相転移ユニットの内部の作動圧力及び発熱パワーをテストし、試験結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2のデータから分かるように、本発明では、標準大気圧で沸点が30℃未満の相転移熱交換媒体20が使用されており、相転移ユニット内の圧力差が増加するため、相転移ユニットの伝達能力が大幅に増加し、サイズ45mm×69mmのCPUの場合、同体積のラジエータでは、R134a、R142b、R114、R124、R1233Zd(E)、R1234Ze(Z)、R1234Ze(E)、R600a、RC318、RE245cb2などの相転移熱交換媒体20を用いると、伝達能力がすべて顕著に向上した(200Wよりも遥かに大きい)。
【0065】
これによって、相転移ユニットに上記相転移熱交換媒体、即ち、R134a、R142b、R114、R124、R1233Zd(E)、R1234Ze(Z)、R1234Ze(E)、R600a、RC318、RE245cb2など、又はこれらの組み合わせが設けられることによって、相転移放熱装置が作動状態である場合、相転移ユニットの内部の気圧が0.15MPaよりも大きくなり、以上の相転移熱交換媒体は市販品として入手可能である。
【0066】
試験データから分かるように、相転移ユニットの伝熱能力は相転移ユニットの内部気圧と正の相関を持ち、圧力が大きいほど、熱交換パワーが大きい。
【0067】
本発明は、チップ、抵抗器、コンデンサ、インダクタ、記憶媒体、光源、電池パックなどのパワーエレクトロニクスデバイスの放熱に適用できる。
【0068】
なお、本発明はいくつかの実施例によって説明されているが、当業者に公知のように、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、これらの特徴及び実施例について様々な変化や等価置換を行ってもよい。また、本発明に基づいて、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、具体的な状況及び材料に適用できるようにこれらの特徴及び実施例について修正してもよい。このため、本発明は、ここで開示される具体的な実施例により制限されず、本出願の特許請求の範囲に入る実施例は全て本発明の特許範囲に含まれる。