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特許7603591=CF2もしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの精製方法、並びに高純度フルオロオレフィン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】=CF2もしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの精製方法、並びに高純度フルオロオレフィン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/389 20060101AFI20241213BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C07C17/389
C07C21/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021545612
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034442
(87)【国際公開番号】W WO2021049605
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019166611
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】松田 結花
(72)【発明者】
【氏名】加藤 惟人
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第15/125877(WO,A1)
【文献】特開昭64-040436(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0082618(KR,A)
【文献】特開2003-261480(JP,A)
【文献】特開2011-136955(JP,A)
【文献】特開2006-193437(JP,A)
【文献】特開2017-196601(JP,A)
【文献】特開2013-241389(JP,A)
【文献】特表2013-508265(JP,A)
【文献】国際公開第13/151070(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103449959(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108623432(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱ハロゲン化水素反応により得た、ハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の少なくとも1種を含有する=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンを固体吸着剤に接触させて、前記不純物を吸着除去する工程を含む=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの精製方法であって、
前記不純物を含有するフルオロオレフィンが1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンであり、
固体吸着剤が、活性アルミナである、
方法
【請求項2】
前記不純物を含有するフルオロオレフィン中の前記不純物の合計含有量が0ppmを超え10質量%以下である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記不純物を含有するフルオロオレフィンを最大60分間の接触時間で固体吸着剤と接触させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
脱ハロゲン化水素反応により得た、ハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の少なくとも1種を含有する=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンを固体吸着剤に接触させて、前記不純物を吸着除去する工程を含む純度99%以上の=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの製造方法であって、
前記不純物を含有するフルオロオレフィンが1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンであり、
固体吸着剤が、活性アルミナである、
方法。
【請求項5】
前記不純物を含有するフルオロオレフィン中の前記不純物の合計含有量が0ppmを超え10質量%以下である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記不純物を含有するフルオロオレフィンを最大60分間の接触時間で固体吸着剤と接触させる、請求項4又は5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの精製方法、並びに高純度フルオロオレフィン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)はその低いODP(オゾン層破壊係数)及びGWP(地球温暖化係数)の値のために、HCFCに対する望ましい代替物として知られている。例えば1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、冷却剤、伝熱流体、消火剤、噴射剤、発泡剤、膨張剤、ガス誘導体、重合媒体又はモノマーとして有用な化合物として知られている。
【0003】
1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、脱ハロゲン化水素反応により得られることが知られている。例えば特許文献1では、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンから無触媒条件下にて熱分解することで製造する方法が開示されている。特許文献1の[0002]には、原料ガスの熱分解を高温で行うと分離が困難な複雑な混合物が生成することが説明されている。しかし、特許文献1の[0007]には、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(CFCH=CF)生成物が安定であり、水素原子および/またはフッ素原子の数が少ない生成物に変換されないことも記載されている。このため、引用文献1には、本発明者らによる検討段階で問題となった不純物について記載がない。
【0004】
副生した塩素原子またはフッ素原子が結合しているハロアルカンおよびハロアルケン類は、冷却剤、伝熱流体、消火剤、噴射剤、発泡剤、膨張剤、ガス誘導体、重合媒体又はモノマーとして利用する上で、その含有量を簡便に、効率よく低減させる必要がある。
【0005】
ハロアルカンおよびハロアルケン類は1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンの沸点(約-21℃)と近い沸点を有しているため、蒸留による分離が困難であり、含有量を下げるには非常に多くの段数を有する蒸留装置が必要となり、設備コストが高くなる等、量産の面で問題となる。
【0006】
特に分離の難しいテトラフルオロプロペンについては、本発明者らの検討によれば、99.99%以上の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得るには最小理論段数113段の蒸留塔を必要とする。
【0007】
吸着による精製方法として、特許文献2ではフルオロオレフィンと、炭素数1のアルカンを含む流体を合成ゼオライト4Aに接触させて、前記炭素数1のアルカンを除去する方法を開示している。特許文献3では(ハイドロ)ハロアルケン不純物を最大寸法として7~10Åの開口を有する固体吸着剤(ゼオライト)と―20℃~100℃の温度で接触させることで(ハイドロ)ハロアルケン不純物を除去する方法を開示している。特許文献4では(ヒドロ)ハロカーボン化合物を含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンをアルミニウム含有吸着剤、活性炭またはそれらの混合物と接触させるプロセスを開示している。特許文献5では、ハロプロペン類を含有する1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパンを固体吸着剤(特に活性炭)に接触させて、ハロプロペン類を除去する方法を開示している。特許文献6では、ハイドロアルケン不純物およびハイドロアルカン不純物を含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを、有効細孔径が5~10Åの分子篩に接触させて前記不純物の少なくとも一部を除去する精製方法を開示している。特許文献7では、炭素数3以上のフルオロオレフィンを含む流体混合物から、炭素数1または2の不純物を吸着除去し、フルオロオレフィンを精製する方法を開示している。
【0008】
特許文献8には、蒸留塔からの抜き出し留出物を脱水処理するための脱水剤として、モレキュラーシーブ(合成ゼオライト)、シリカゲル、活性アルミナが記載されている。特許文献9には、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225zc)は沸点が近いために、=CHの構造を持つ3,3,3-トリフルオロプロペン(1243zf)と分離が難しいことが記載され、活性炭吸着材を使用して1243zfから1225zcを分離することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2008-518938号公報
【文献】WO2013/151070号公報
【文献】特許第4121745号公報
【文献】特許第6074454号公報
【文献】特開2002-226411号公報
【文献】特開2012-1495号公報
【文献】特開2013-241390号公報
【文献】WO2013/099856号公報
【文献】特表2013-508265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2は炭素数1のハイドロアルカンを除去する方法であり、特許文献7は炭素数が1または2の不純物を除去して、フルオロオレフィンを精製する方法であり、特許文献3および特許文献5は(ハイドロ)ハロアルケン不純物を除去する方法であるが、飽和ハイドロフルオロカーボンからの精製方法であり、特許文献4および特許文献6は=CHの構造を持つ2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)に含まれるハイドロハロアルカン類およびハイドロハロアルケン類不純物を除去する方法である。より沸点の近い炭素数3のハロアルケン類およびハロアルカン類を含む不純物を吸着除去する方法が知られていなかった。
【0011】
例えば前記で示した高温条件下での合成反応では、=CFの構造を持つ1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンのような炭素数3以上のフルオロオレフィンを製造する場合、炭素数1のハロアルカンや炭素数2の種々のハロアルカンおよびハロアルケンに加え、より沸点の近い炭素数3のハロアルカンおよびハロアルケンが副生される。目的とする炭素数3以上のフルオロオレフィンをできるだけ高い収率で得るには、炭素数1のハロアルカンや炭素数2のハロアルカンおよびハロアルケンに加え、より沸点の近い炭素数3のハロアルカンおよびハロアルケン不純物を効率よく除去することが求められることが、本発明者らの検討より分かった。しかし炭素数3以上のフルオロオレフィンを含む混合物から、望ましくない炭素数3のハロアルカンおよびハロアルケン不純物だけを吸着し除去する方法は知られていないのが現状であった。
【0012】
本発明は、沸点の近いハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキンを含む不純物を吸着除去することにより、=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンを効率的に精製し、より純度の高いフルオロオレフィンを得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のものを提供する。
[1]
脱ハロゲン化水素反応により得た、ハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の少なくとも1種を含有する=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンを固体吸着剤に接触させて、前記不純物を吸着除去する工程を含む=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの精製方法。
[2]
固体吸着剤の有効細孔径が3~50Åである[1]に記載の方法。
[3]
固体吸着剤が活性炭、モレキュラーシーブスA型もしくはX型、及び活性アルミナからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記不純物を含有するフルオロオレフィン中の前記不純物の合計含有量が0ppmを超え10質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記不純物を含有するフルオロオレフィンを最大60分間の接触時間で固体吸着剤と接触させる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
脱ハロゲン化水素反応により得た、ハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の少なくとも1種を含有する=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンを固体吸着剤に接触させて、前記不純物を吸着除去する工程を含む高純度の=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの製造方法。
[7]
固体吸着剤の有効細孔径が3~50Åである[6]に記載の方法。
[8]
固体吸着剤が活性炭、モレキュラーシーブスA型もしくはX型、及び活性アルミナからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[6]または[7]に記載の方法。
[9]
前記不純物を含有するフルオロオレフィン中の前記不純物の合計含有量が0ppmを超え10質量%以下である、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記不純物を含有するフルオロオレフィンを最大60分間の接触時間で固体吸着剤と接触させる、[6]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
99.9%以上の純度の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン。
[12]
不純物としてテトラフルオロプロペンを0~100ppmの量で含有する1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン。
【発明の効果】
【0014】
本発明の=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの精製方法によれば、ハロアルカンおよび/またはハロアルケンおよび/またはハロアルキン類不純物、特に塩素原子またはフッ素原子が結合しているハロアルカンおよび/またはハロアルケンおよび/またはハロアルキン類不純物を除去し、=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの純度を上げることができる。また本発明の製造方法によれば、前記したフルオロオレフィンの精製を行うことで、高純度なフルオロオレフィンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の精製方法を実施するための装置の一例の概略図である。
図2】本発明の精製方法を実施するための装置の他の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<作用>
本発明は、脱ハロゲン化水素反応により得た、ハロアルカンおよびハロアルケンおよび/またはハロアルキン類不純物、特に塩素原子またはフッ素原子が結合しているハロアルカンおよびハロアルケンおよび/またはハロアルキン類不純物の少なくとも1種を含有する=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンを固体吸着剤に接触させて、前記不純物を吸着除去することを特徴とする=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの精製方法及び製造方法を提供する。本発明の特徴は、精製対象物が=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンであるという点にある。=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンは、=CHの構造を持つフルオロオレフィン(前述の1243zf、1234yfなど)に比べ熱分解により多くの不純物を生じやすい一方で、先行技術文献において高純度のものを製造することが十分に検討されていなかった。本発明者らの検討により、高純度の=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの製造が可能になったことは驚くべきことであった。より具体的には、理論段数40段という蒸留塔を用いて分離することが困難であった不純物、特に沸点差の小さいC3の化合物について優先的に除去し、高純度な(特に、99.9%以上の純度を有する)1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得ることができる。本発明によれば、蒸留での分離が特に困難で、主不純物となっている1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが吸着塔を通気させることで未検出となっている。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<フルオロオレフィンの精製方法>
本発明の第1の実施形態は、ハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物、特に塩素原子またはフッ素原子が結合しているハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の少なくとも1種を含有する=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンから前記のハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物を除去するフルオロオレフィンの精製方法であり、前記流体を、固体吸着剤と接触させることを特徴とする。
【0018】
(フルオロオレフィン)
精製されるフルオロオレフィンとしては、炭素数が3または4のフルオロオレフィンが好ましい。具体的にはヘキサフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、オクタフルオロブテン、ヘキサフルオロブテン、テトラフルオロブタジエンなどが挙げられる。すなわち、前記化合物からなる群より選ばれる1種類以上のフルオロオレフィンを含む混合物が、本発明で精製される。ここで、ペンタフルオロプロペンとしては、例えば、1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンなどが挙げられる。テトラフルオロプロペンとしては、例えば、1,1,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2,3,3-テトラフルオロプロペンなどが、トリフルオロプロペンとしては、例えば、1,3,3-トリフルオロプロペン、1,1,3-トリフルオロプロペン、1,2,3-トリフルオロプロペンなどがそれぞれ挙げられる。オクタフルオロブテンとしては、例えば、オクタフルオロ-1-ブテンなどが挙げられる。ヘキサフルオロブテンとしては、例えば、1,1,3,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-1-ブテン、1,2,3,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-1-ブテンなどが挙げられる。テトラフルオロブタジエンとしては、例えば、1,1,4,4-テトラフルオロ―1,3-ブタジエンなどが挙げられる。
【0019】
本発明におけるフルオロオレフィンは、高温条件下、特に、400~1000℃、での熱分解を伴う合成反応により得られた反応生成物でもかまわない。そのような合成反応としては、例えば、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンを400~1000℃の温度で熱分解させる反応が挙げられ、より具体的には以下のものが挙げられる。
(1)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンをニッケル、ハステロイ、モネル、インコネルなどの金属製の空洞の反応管内で600~1000℃の温度で熱分解させる反応
(2)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンを充填材としてニッケルなどの金属充填材を充填したニッケル、ハステロイなどの金属製の反応管内で600~1000℃の温度で熱分解させる反応
(3)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンを触媒としてCrF/CもしくはAlF/CもしくはRuF/CもしくはPtF/Cなどの金属触媒を充填したニッケル、ハステロイなどの金属製の反応管内で400~800℃の温度で熱分解させる反応
【0020】
反応生成物は、あらかじめ蒸留により不純物を除去してから、本発明の精製方法に供することが望ましい。
【0021】
(ハロアルカン不純物)
前記のフルオロオレフィンに含まれている、本発明において除去されるハロアルカン不純物は、炭素数が1または2または3のハロアルカンが好ましい。さらに炭素数が2または3のハロアルカンがより好ましい。具体的には、ハイドロフルオロエタン、ハイドロフルオロプロパンが挙げられ、より具体的には、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。
【0022】
(ハロアルケン不純物)
前記のフルオロオレフィンに含まれている、本発明において除去されるハロアルケン不純物は、例えば、ペンタフルオロプロペンとしては、(Z)1,2,3,3,3―ペンタフルオロプロペン、(E)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンが挙げられ、テトラフルオロプロペンとしては、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが挙げられ、トリフルオロプロペンとしては、3,3,3-トリフルオロプロペンが挙げられ、オクタフルオロブテンとしては、オクタフルオロ-2-ブテンが挙げられ、ヘキサフルオロブテンとしては、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、2,3,3,4,4,4-ヘキサフルオロ-1-ブテン、2-(トリフルオロメチル)-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンが挙げられる。
【0023】
(ハロアルキン不純物)
前記のフルオロオレフィンに含まれている、本発明において除去されるハロアルキン不純物は、例えば、トリフルオロプロピンとしては、1,3,3-トリフルオロプロピン、3,3,3-トリフルオロプロピンが挙げられ、ヘキサフルオロブチンとしては、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロー2-ブチンが挙げられる。
【0024】
(固体吸着剤)
本発明における固体吸着剤としては、活性炭、ゼオライトA型もしくはX型、活性アルミナ、シリカゲル等が挙げられる。なかでも、不純物の除去の観点から、ゼオライトが好ましい。ゼオライトが有するカチオン種は、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオンが好ましい。ゼオライトとしては、例えば、ゼオライトMS-3A(有効細孔径:3Å、KA型)、ゼオライトMS-4A(有効細孔径:4Å、NaA型)、ゼオライトMS-5A(有効細孔径:5Å、CaA型)、ゼオライトMS-13X(有効細孔径:10Å、NaA型)などが挙げられる。固体吸着剤の有効細孔径は、好ましくは3~50Åであり、より好ましくは、3~20Åであり、さらに好ましくは5~10Åである。
【0025】
固体吸着剤は、精製に使用する前に、100℃~350℃の乾燥ガス(特に窒素ガス)により加熱処理するか、減圧下の容器内で100℃~350℃で加熱処理することが好ましい。これにより、固体吸着剤は活性化され、不純物の除去効率が向上する。
【0026】
(フルオロオレフィンと固体吸着剤との接触)
固体吸着剤に接触させる際のフルオロオレフィンの圧力条件は、特に限定されない。通常は、大気圧~0.5MPa(ゲージ圧)が採用される。温度条件は、0℃~200℃が好ましく、0℃~100℃がより好ましい。固体吸着剤と混合ガスとの接触時間は、長いほど、固体吸着剤の吸着効率が向上し、純度の高いフルオロオレフィンが得られやすい。短いほど、処理能力が向上し、効率よくフルオロオレフィンを精製できる。
【0027】
ハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の除去効率の観点から、精製前のフルオロオレフィン中に含まれるハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の合計含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。
【0028】
(精製装置)
精製装置の材質としては、例えば、ステンレス、インコネル、モネル、ハステロイ、ニッケルなどの耐腐食性金属などが挙げられる。
【0029】
本発明に適用できる精製装置の一例を図1に示す。図1において、熱分解反応器2はニッケル製の円筒管であり、反応器2の外周には加熱用のヒーター3が配置されており、反応器2の全体を一様に加熱できるようになっている。図1では反応器2は垂直方向に円筒管を立てた状態に配置され、原料タンク1からの原料ガスが配管を通って反応器2の上部から下部へ向かって反応器2の内部を通過するようになっている。反応器2の下流にはガス洗浄塔4が配置され、熱分解反応により生じたハロゲン化水素や高沸点化合物などの副生成物を除去する。ガス洗浄塔4の下流には蒸留塔5が配置され、蒸留により低沸点化合物および高沸点化合物が除去される。蒸留塔5を通過した不純物を含む精製物は捕集容器6に格納される。捕集容器6の下流には吸着精製塔7が配置されている。捕集容器6によって蒸留塔5と吸着精製塔7の処理速度の差が緩和されるようになっている。吸着精製塔7は垂直方向にニッケル製の円筒管を立てた状態で内部に固体吸着剤を充填して構成される。捕集容器6からの不純物を含む精製物が配管を通って吸着精製塔7の下部から上部へ向かって吸着精製塔7の内部を通過するようになっている。吸着精製塔7の固体吸着剤によって蒸留では分離が困難であった不純物が除かれ、吸着精製品を精品貯槽8に回収する。
【0030】
本発明に適用できる精製装置の他の例を図2に示す。図2において、ガス洗浄塔4を通過した粗生成物は、乾燥塔9で水分を除去した後、先に吸着精製塔7を通過し、その後、蒸留塔5で蒸留されて吸着精製品を精品貯槽8に回収する点が図1と異なる。即ち、図2の精製装置では、蒸留塔5で分離できない不純物を先に吸着精製塔7で分離する。固体吸着剤は水分を吸着して吸着効率を低下させる傾向があるので、吸着精製塔7の上流に乾燥塔9を配置することが望ましい。
【0031】
(本発明の製造方法及び製造物)
本発明によればまた、脱ハロゲン化水素反応により得た、ハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の少なくとも1種、特に、塩素原子またはフッ素原子が結合しているハロアルカンおよびハロアルケンおよびハロアルキン類不純物の少なくとも1種を含有する=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンを固体吸着剤に接触させて、前記不純物を吸着除去する工程を含む高純度の=CFもしくは=CHFの構造を持つフルオロオレフィンの製造方法が提供される。
【0032】
本発明の上記製造方法で行うフルオロオレフィンを固体吸着剤に接触させる工程は、本発明の精製方法において上述したとおりであるが、本発明の上記製造方法により高純度、特に、精製後の不純物の濃度が100ppm以下、特に0~10ppmであるフルオロオレフィンが提供される。脱ハロゲン化水素反応では目的物の他に多くの不純物(特に、不純物の合計含有量が0ppmを超え10質量%以下)が形成される。本発明の製造方法により、例えば、不純物としてテトラフルオロプロペンを0~100ppmの量で含有する1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン;などの高純度のフルオロオレフィンが得られる。本発明の製造方法で得られるフルオロオレフィンの純度は、純度99%以上、特に純度99.5%以上、特に99.9%以上、特に99.99%以上であり、出願人の知る限り、従来の方法ではこのような高純度のフルオロオレフィンは得られなかった。
【実施例
【0033】
以下、実施例、比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において混合物の組成はガスクロマトグラフ(GC-MSもしくはGC-FID)によるGC面積%から求めた。
(比較例1)
<フルオロプロペンの製造方法>
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンを原料とし、3B×1500mmのニッケル製の管を、抵抗加熱装置で800℃に加熱し、原料を9.0SLMの流量で導入した。反応器出口から得られるガスを純水およびアルカリ性の水溶液で処理することで1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、表1に示される不純物の混合物が得られた。
【0034】
この混合物を理論段数40段の精留塔で精留処理した結果、表1に示される組成物、即ち、不純物として1,1,1-トリフルオロエタン0.04%、1,1,1,2-テトラフルオロエタン0.26%、3,3,3-トリフルオロプロペン0.11%、(Z)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン0.41%、(E)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン0.05%、(E)1,3,3,3-テトラフルオロプロペン0.52%、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン0.37%が含まれる98.25%の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン不純物を含む精製物が得られた。
【0035】
(実施例1)
SUS304製、φ12A×500mmの管に固体吸着材としてゼオライトMS-3A(東ソー株式会社製 ゼオラムA-3 4~8mesh)を27.6g封入し、加熱窒素で内温100℃として12時間乾燥したものを吸着精製塔として用意した。比較例1で得られた不純物を含む、純度98.25%の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン不純物を含む精製物を、この吸着精製塔に導入し、導入前のガス組成と吸着精製塔後段で得られるガス組成を比較した。吸着精製塔後段から得られる1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、1,1,1-トリフルオロエタン0.02%、1,1,1,2-テトラフルオロエタン0.08%、3,3,3-トリフルオロプロペン0.02%、(Z)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン0.15%、(E)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン0.02%、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン0.19%を含み、その純度は99.52%となった。
【0036】
(実施例2)
SUS304製、φ12A×500mmの管に固体吸着材としてゼオライトMS-4A(東ソー株式会社製 ゼオラムA-4 4~8mesh)を25.6g封入し、加熱窒素で内温100℃として12時間乾燥したものを吸着精製塔として用意した。比較例1で得られた不純物を含む、純度98.25%の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン不純物を含む精製物を、この吸着精製塔に導入し、導入前のガス組成と吸着精製塔後段で得られるガス組成を比較した。吸着精製塔後段から得られる1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、(Z)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン0.26%を含み、その純度は99.74%となった。
【0037】
(実施例3)
SUS304製、φ12A×500mmの管に固体吸着材としてゼオライトMS-5A(東ソー株式会社製 ゼオラムA-5 4~8mesh)を24.8g封入し、加熱窒素で内温100℃として12時間乾燥したものを吸着精製塔として用意した。比較例1で得られた不純物を含む、純度98.25%の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン不純物を含む精製物を、この吸着精製塔に導入し、導入前のガス組成と吸着精製塔後段で得られるガス組成を比較した。吸着精製塔後段から得られる1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、1,1,1-トリフルオロエタン0.04%、1,1,1,2-テトラフルオロエタン0.06%、3,3,3-トリフルオロプロペン0.06%、(Z)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン0.23%、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン0.13%を含み、その純度は99.48%となった。
【0038】
(実施例4)
SUS304製、φ12A×500mmの管に固体吸着材としてゼオライトMS-13X(東ソー株式会社製 ゼオラムF-9 4~8mesh)を25.6g封入し、加熱窒素で内温100℃として12時間乾燥したものを吸着精製塔として用意した。比較例1で得られた不純物を含む、純度98.25%の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン不純物を含む精製物を、この吸着精製塔に導入し、導入前のガス組成と吸着精製塔後段で得られるガス組成を比較した。吸着精製塔後段から得られる1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンは、1,1,1-トリフルオロエタン0.02%を含み、その純度は99.98%となった。
【0039】
(実施例5)
SUS304製、φ12A×500mmの管に固体吸着材として活性アルミナ(Axens社製 活性アルミナグレードD 2~5mm)を23.7g封入し、加熱窒素で内温100℃として12時間乾燥したものを吸着精製塔として用意した。比較例1で得られた不純物を含む、純度98.25%の1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン不純物を含む精製物を、この吸着精製塔に導入し、導入前のガス組成と吸着精製塔後段で得られるガス組成を比較した。吸着精製塔後段から得られる1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンには不純物が含まれず、その純度は100%となった。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から、本発明によれば、ハロアルカン及び/又はハロオレフィンを有意に除去でき、精製対象物の純度を99%以上に上昇させることができる。特にアルミナや有効細孔径10Åのゼオライトを使用した場合に不純物の除去効果が顕著であった(実施例4、実施例5)。本発明によれば、理論段数40段という蒸留塔を用いて分離することが困難であった不純物、特に沸点差の小さいC3の化合物について優先的に除去し、高純度な1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを得ることができる。本発明によれば、蒸留での分離が特に困難で、主不純物となっている1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが吸着塔を通気させることで未検出となっている。
図1
図2