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特許7603600細胞増殖又は細胞分化に関与する受容体を標的にする内在化結合分子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】細胞増殖又は細胞分化に関与する受容体を標的にする内在化結合分子
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20241213BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241213BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241213BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241213BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241213BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241213BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241213BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241213BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28
C07K19/00
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K45/00
A61K47/68
A61P1/16
A61P9/00
A61P9/14
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021553119
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 NL2020050148
(87)【国際公開番号】W WO2020185069
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】2022702
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】520223491
【氏名又は名称】リンクシス ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホウソフ、ヘンドリク ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ベルゲン エン ヘネゴウベン、パウルス マルティヌス ペトリュス
(72)【発明者】
【氏名】シユブランディ、ニールス フーリアーン
(72)【発明者】
【氏名】ムンス、ジョイ アルマンド
(72)【発明者】
【氏名】ショーテン、ヤン ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】プロンク、セバス ダニエル
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509394(JP,A)
【文献】特表2017-514456(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0282033(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00 - 16/46
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの単一可変抗体ドメイン及び少なくとも1つの診断用又は治療用の分子を含む結合分子であって、前記少なくとも2つの単一可変抗体ドメインは、相互に独立して、肝星細胞(HSC)及び/又は筋線維芽細胞上に発現される膜貫通受容体に特異的に結合することが可能である、ここで、前記膜貫通受容体は、血小板由来増殖因子ベータ受容体(PDGFBR)であり、及び、
前記少なくとも2つの単一可変抗体ドメインは、
少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、
配列番号11によるCDR1配列
配列番号13によるCDR2配列及び
配列番号15によるCDR3配列
を含み、
少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、
配列番号155によるCDR1配列
配列番号157によるCDR2配列及び
配列番号159によるCDR3配列
を含む、上記結合分子。
【請求項2】
前記少なくとも2つの単一可変抗体ドメインが、ヒト化されているかもしくはラクダ化されている、及び/又は下記の置換:
i) ヒト化の程度を高める置換
ii) 化学的安定性を高める置換及び/又は
iii) 発現レベルを高める置換
から選択される1つ又は2つ以上の置換を含む、請求項1に記載の結合分子。
【請求項3】
少なくとも1つの単一可変抗体ドメイン(単数)、及び/又は少なくとも2つの単一可変抗体ドメイン(複数)が、互いに独立して、免疫グロブリン単一可変ドメイン抗体(ISVD)、重鎖の可変ドメイン(VH)、重鎖のみの抗体の可変ドメイン(VHH)、ドメイン抗体(dAb)、及び単一ドメイン抗体(sdAb)からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の結合分子。
【請求項4】
少なくとも2つの単一可変抗体ドメインが、ともに単一可変ドメイン抗体である、請求項1~3のいずれかに記載の結合分子。
【請求項5】
少なくとも2つの単一可変抗体ドメインが、ともに重鎖のみの抗体の可変ドメインである、請求項1~4のいずれかに記載の結合分子。
【請求項6】
少なくとも2つの単一可変抗体ドメインが、
配列番号9の配列(SP02P)を有する単一抗体ドメインを含むか又は該単一可変抗体ドメインからなり、及び
配列番号153の配列(SP26P)を有する単一抗体ドメインを含むか又は該単一可変抗体ドメインからなる、
請求項1~5のいずれかに記載の結合分子。
【請求項7】
治療用又は診断用の分子が、リンカー及び/又はスペーサーによって、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインに結合されている、請求項1~6のいずれかに記載の結合分子。
【請求項8】
リンカー及び/又はスペーサーが、遷移金属錯体を含むか、又は遷移金属錯体からなる、請求項7に記載の結合分子。
【請求項9】
リンカー及び/又はスペーサーが、シス-白金(II)錯体を含む、請求項8に記載の結合分子。
【請求項10】
リンカー及び/又はスペーサーが、不活性二座部分を含む、請求項9に記載の結合分子。
【請求項11】
半減期延長剤を含む、請求項1~10のいずれかに記載の結合分子。
【請求項12】
半減期延長剤が、半減期延長剤を伴わない結合分子と比較して、増加された半減期を結合分子に付与する1つ又は2つ以上の基、残基、部分又は結合単位を含むか、あるいは前記1つ又は2つ以上の基、残基、部分又は結合単位からなる、請求項11に記載の結合分子。
【請求項13】
増加された半減期を結合分子に付与する基、残基、部分又は結合単位が、アルブミン結合ドメイン、アルブミン結合VHHもしくは抗体Fcテイル又はそれらの断片である、請求項11又は12に記載の結合分子。
【請求項14】
筋線維芽細胞が、肝筋線維芽細胞である、請求項1~13のいずれかに記載の結合分子。
【請求項15】
筋線維芽細胞が、HSC又は門脈線維芽細胞に由来する、請求項1~14のいずれかに記載の結合分子。
【請求項16】
結合分子の、受容体への結合が、リガンド又は抗体の内在化の誘導を可能にする、請求項1~15のいずれかに記載の結合分子。
【請求項17】
前記少なくとも2つの単一可変抗体ドメインが、リンカーアミノ酸配列によって分離されている、請求項1~16のいずれかに記載の結合分子。
【請求項18】
治療用の分子が、キナーゼ阻害剤である、請求項1~17のいずれかに記載の結合分子。
【請求項19】
治療用の分子が、Rhoキナーゼ阻害剤、JAK-2阻害剤又はネプリライシン阻害剤、又はアンジオテンシンII受容体アンタゴニストから選択される、請求項1~18のいずれかに記載の結合分子。
【請求項20】
治療用の分子が、毒素である、請求項1~19のいずれかに記載の結合分子。
【請求項21】
医薬としての使用のための請求項1~20のいずれかに記載の結合分子。
【請求項22】
肝硬変、肝線維症及び/又は門脈圧亢進症の防止及び/又は処置のための、請求項1~20のいずれかに記載の結合分子。
【請求項23】
食道静脈瘤及び/又は痔核と関連付けられる疾患又は障害の防止及び/又は処置のための、請求項1~20又は22のいずれかに記載の結合分子。
【請求項24】
内部もしくは外部静脈瘤出血を特徴とする疾患又は障害の防止及び/又は処置のための、請求項1~20、22及び23のいずれかに記載の結合分子。
【請求項25】
請求項1~24のいずれかに記載の結合分子をコードする核酸。
【請求項26】
請求項25に記載の核酸を含む、請求項1~24のいずれかに記載の結合分子の発現のための宿主細胞。
【請求項27】
請求項1~24のいずれかに記載の少なくとも1つの結合分子と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項28】
診断用の分子を含み、前記診断用の分子が、造影剤である、請求項1~20のいずれかに記載の結合分子。
【請求項29】
請求項28に記載の少なくとも1つの結合分子と、希釈剤及び/又は賦形剤とを含む、診断用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋線維芽細胞及び/又は肝星細胞(HSC)上に存在する受容体を標的としている、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含む結合分子の分野に関する。本発明はまた、それぞれがHSC上及び/又は筋線維芽細胞上の受容体をターゲティングする、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含む結合分子に関する。本発明はさらに、かかる結合分子をコードする核酸、かかる結合分子の発現のための宿主細胞及びかかる結合分子を調製する方法に関する。本発明はさらに、かかる結合分子を含む医薬組成物、ならびにとくに予防目的、治療目的もしくは診断目的でのかかる結合分子及び/又は組成物の使用に関する。
【0002】
発明の背景
慢性肝疾患
臨床状況での慢性肝疾患(CLD)は、線維化瘢痕、肝実質の結節性再生及び門脈血圧の上昇を特徴とする状態である肝線維症(LF)及び肝硬変(LC)を招く肝実質の進行性破壊及び再生のプロセスを含む肝臓の疾患プロセスである。CLDは、ウイルス感染(例えば、HCV)、メタボリック症候群(例えば、NASH)、又はアルコール中毒によって引き起こされ得る。LFは、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の蓄積、組織収縮、結果として血流の変更を特徴とする。これらの症状は、ディッセ腔(類洞と、肝細胞との間の小さな領域)に見られる周皮細胞であるHSCの活性化によって引き起こされる。一般的に述べると、周皮細胞は、身体全体にわたって毛細血管及び細静脈を覆う内皮細胞の周りを包む収縮性細胞である。活性化すると、HSCは、筋線維芽細胞に分化転換して(transdifferentiate)、大量のECMタンパク質及び線維形成促進性(profibrogenic)サイトカインを分泌し始める。未処置のままの場合、ECMタンパクの蓄積により、LFは、世界での12番目の主要な死因としてランク付けられているLCに進行する。
【0003】
CLDにおける治療法
肝疾患の主要な原因に狙いを定めた治癒法は、現在、最も有効な戦略をとなっているが、少数の病因に関して存在するに過ぎない。概して、肝移植が、末期の慢性肝疾患を患う患者に利用可能な唯一の処置である。高レベルの罹患率及び死亡率を考慮すると、現在の処置方法を補うか、又は潜在的に置き換える(さらなる)治療アプローチの開発が明らかに必要とされる。この数十年にわたってCLDに対して行われた研究により、疾患の病態生理学の理解が改善されており、基礎疾患プロセスを標的とする新規作用物質の開発を可能にしてきた。これまで、CLDに関して認可された特定の薬物療法は存在せず、現在評価を受けているより新しい治療法は存在するが、これらの処置の研究は、比較的初期段階にある。
【0004】
現在の治療法に対する代替手段は、肝臓における門脈圧亢進症及び/又は線維化瘢痕組織の低減ならびに最終的な消失である。理論上、マトリックス沈着及びコラーゲン合成の阻害ならびに新たに生成される線維化組織の崩壊を含め、抗線維化療法は、線維形成の様々な態様を標的とし得る。新たに合成されたコラーゲンは、古いコラーゲンよりも分解を受けやすいと考えられるが、動物における研究により、進行した硬変ですら可逆的であることが示されており、ヒトのデータも同じことを示唆している。肝線維症の発病機序の理解における最近の進展は、現在、肝線維症の新規治療アプローチにつながっている。「抗線維化活性」を有する薬物は、臨床試験で研究されているが、とくにそれらの全身毒性に起因して、無効であることが判明している。Rho-キナーゼ阻害剤及びJAK-2キナーゼ阻害剤等のこれらの(多くの場合、小さな)分子の治療的応用は、それらの扱いにくい薬力学的及び動力学的プロファイルによって阻まれている。したがって、CLD向けの、とくに肝線維症向けの改善された治療法及び診断が必要とされている。
【0005】
発明の概要
本発明は、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインと、少なくとも1つの診断用及び/又は治療用の分子とを含む結合分子の形態により、かかる代替的な改善された治療法又は診断を提供する。ここで、前記少なくとも1つの単一可変抗体ドメインは、肝星細胞(HSC)上及び/又は筋線維芽細胞上で発現される膜貫通受容体に特異的に結合することができる。
【0006】
かかる結合分子は、好ましくは、血小板由来増殖因子受容体-ベータ(PDGFRB)又はインスリン様増殖因子2受容体(IGF2R)への結合を通じて、活性化された肝星細胞又は筋線維芽細胞のターゲティングを可能にする。血小板由来増殖因子受容体-ベータ(PDGFRB)又はインスリン様増殖因子2受容体(IGF2R)はともに、かかる細胞上で高度に発現される。前記結合分子は、例えば、Pt(II)遷移金属錯体を含むリンカーを介して、好ましくは毒素又は薬物に結合される。とくに、薬物が、RHO-キナーゼ、JAK-2阻害剤、又はネプリライシン阻害剤等のキナーゼ阻害剤である場合、本発明の結合分子は、好ましくは、活性化されたHSC又は筋線維芽細胞の弛緩(relaxation)を与え、該弛緩により、例えば、肝線維症が減衰される。前記リンカーの使用により、これらのキナーゼ阻害剤を用いた場合に一般的に観察される(オフターゲットの)毒性が低減される。
【0007】
肝疾患において、硬変の発病、維持及び増悪において重大な役割を果たす(活性化された)細胞、例えば、肝星細胞(HSC)、への、薬物の選択的な送達は、追求に関心がもたれる到達点(venue)である。活性化されたHSCでアップレギュレートされるPDGFRB及びIGF2R等の受容体のターゲティングを使用して、肝疾患の有効な薬物処置を達成することができる可能性がある。本発明において、PDGFRB又はIGF2Rのターゲティングは、上記ターゲティングにより、例えば、rho-キナーゼ阻害剤、JAK-2キナーゼ阻害剤、又はネプリライシン阻害剤を含む、タンパク質性分子の内在化(internalisation)が誘導されるため、重要な手段であるとみなされる。
【0008】
本発明はさらに、本発明の結合分子の少なくとも一部をコードする核酸及び本発明の核酸を含む、本発明の結合分子の少なくとも一部の発現のための宿主細胞を提供する。また、本発明の結合分子を産生する方法も提供される。該方法は、本発明の宿主細胞を培養するステップと、前記結合分子の少なくとも一部の発現を可能にするステップと、前記結合分子を収集するステップと、上記治療用又は診断用の分子を、任意に上記で定義されるリンカーにより、前記結合分子の前記一部にカップリングするステップとを含む方法である。
【0009】
治療用の分子を含む本発明の結合分子は、例えば、線維症又は癌の治療法にとくに適していることにより、本発明はさらに、本発明の少なくとも1つの結合分子と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。かかる医薬組成物は、慢性肝疾患の処置において有用な少なくとも1つの他の化合物をさらに含み得る。本発明の医薬組成物は、門脈圧亢進症の存在下での静脈瘤出血の補助的処置として、又は肝疾患の処置における使用のためにとくに有用である。
【0010】
診断用の分子を含む本発明の結合分子は、例えば肝硬変の診断に、とくに適していることにより、本発明は、診断用の分子、好ましくは造影剤、を含む、本発明の少なくとも1つの結合分子と、希釈剤及び/又は賦形剤とを含む診断用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)免疫化したラマの血液試料から、VHHライブラリーを創出することから、(B)ファージディスプレイ選択を実施すること及び(C)スクリーニング用のクローンを選択することに至る研究プロセスの概要(図の出典Schoonooghe S. et al,Immunobiology 2012,217:1266-1272)。
図2】IGF2R選択したVHHの、ヒトIGF2Rエクトドメインへの結合。
図3】ヒトPDGFRBエクトドメイン(ライブラリー152及び153)及びラットPDGFRBエクトドメイン(ライブラリー154及び155)に関するPDGFRBライブラリーの第1の選択回からのファージアウトプット。
図4】ヒトPDGFRB(ライブラリー152及び153)又はラットPDGFRB(ライブラリー154及び155)のいずれかをトランスフェクトしたSCC VII細胞に関するPDGFRBライブラリーの第2の選択回からのファージアウトプット。
図5】ヒトPDGFRB VHHのアミノ酸配列(CDRに下線)。親和性は、ヒトPDGFRBエクトドメイン(ECD)、ヒトPDGFRB受容体をトランスフェクトしたSCC VII細胞(SCC-hPDGFRB)及びヒト肝星細胞系(LX-2)に関して測定する。競合アッセイのデータは、種々のエピトープ基においてVHHを分類するように包含される。
図6】ラットPDGFRB VHHのアミノ酸配列(CDRに下線)。親和性は、ラットPDGFRBエクトドメイン(ECD)及びラットPDGFRB受容体をトランスフェクトした扁平上皮癌細胞(SCC-rPDGFRB)に関して測定する。競合アッセイのデータは、種々のエピトープ基においてVHHを分類するように包含される。
図7】ペプチドテイル及び精製タグを有するVHH挿入片を有する模式的に表示した発現ベクター。
図8】ヒトIGF2Rに対して誘導される二価及びビパラトピックVHH構築物の構築ならびに特性決定。A.一価、二価及びビパラトピックVHHフォーマットの模式図。二価及びビパラトピックフォーマットでは、2つのVHHは、可撓性(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)リンカー(GGGGSGGGGSGGGGS;配列番号369)と融合される。フォーマットは全て、チオール反応性プローブへの部位特異的なコンジュゲーションのためのC末端システイン及びアフィニティクロマトグラフィ精製用のヘキサヒスチジンタグ(HHHHHH;配列番号370)又はEPEAタグ(EPEA;配列番号371)を含有する。B.抗ヒトIGF2R VHH構築物の、組換えヒトIGF2Rエクトドメインへの結合。C.選択したVHHに関するBmax及びK+95%信頼区間。
図9】GFPに融合したヒト又はラットPDGFRB受容体(SCC-hP又はSCC-rP)のいずれかをトランスフェクトしたSCC VII細胞上の選択したVHHの結合。VHHは、IRDye800CWで標識した抗VHHウサギ血清及びロバ抗ウサギ二次抗体を使用して検出される。
図10】ヒトIGF2Rに対して誘導されるVHHを用いた競合酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)。
図11】PDGFRB ECDに関するSP02P及びSP26Pを用いた競合酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)アッセイ。
図12】ヒト又はラットIGF2R発現SCC細胞への13F11-13E8(F11E8)結合。
図13】13F11-13E8-ABD(F11E8-ABD)の、IGF2R及び血清アルブミンへの結合。A)組換えヒトIGF2R ECDに関する結合アッセイ。B)種々の種由来の血清アルブミンに関する結合アッセイ。C)静脈内注射後のラットにおけるF11E8-ABD及びF11E8の血清レベル。ELISAによって評価した場合の血清濃度を示す。LOD:およそ20nM。
図14】Alexa Fluor 488にコンジュゲートされた13F11-13E8-ABD(FE-A-A488)の、活性化された初代ラット肝星細胞への結合。
図15】PDGFRB VHHを使用した結合アッセイ。A)ヒトPDGFRB ECDに関するヒトPDGFRB特異的なVHHを使用した結合アッセイ。B)ヒトPDGFRB、ラットPDGFRB及びヒトIGF2R発現標的細胞に関する、ビパラトピックSP28-SP26P(SP28-26P)を使用した結合アッセイ。C)ヒトPDGFRB、ラットPDGFRB及びヒトIGF2R発現標的細胞に関する、ビパラトピックSP02P-SP26Pを使用した結合アッセイ。
図16】IGF2R発現標的細胞における13F11及び13F11-13E8の内在化、倍率63倍。スケールバーは、30μmである。A.A549(IGF2R陽性)。B.ヒトIGF2Rを一過的にトランスフェクトしたNIH 3T3 2.2。C.偽トランスフェクトしたNIH 3T3 2.2。D.A549細胞に関する酸性洗浄対照。
図17】ヒト又はラットIGF2R発現SCC細胞に関する13F11-13E8(F11E8)及び13E8-13F11(E8F11)の内在化の速度。
図18】pH感受性pHrodo red色素にコンジュゲートされた一価(13F11)及びビパラトピック(13F11-13E8及び13E8-13F11)VHHのLX-2細胞における内在化。
図19】ヒトPDGFRB発現SCC細胞及びLX-2細胞に関するSP02P-SP26Pの内在化の速度。
図20】活性化された肝星細胞(HSC)に関する収縮アッセイ。NDCとのインキュベーションの6日後のゲルの測定面積を表す。いかなる阻害剤も含まないLX-2細胞の収縮を、弛緩0%と設定した一方で、1μM BDMを、100%弛緩と設定した。注記:培地に関しては、収縮阻害は観察されなかった。
図21】13F11-13E8-ABD(F11E8-ABD)の、硬変(BDL)ラット肝臓切片及び健常な(SHAM)ラット肝臓切片への免疫蛍光結合。
図22】硬変(BDL)ラット及び健常(SHAM)ラットに由来する各種組織におけるIGF2Rの発現。
図23】A)13F11-13E8-ABD-Y27632(検査コンジュゲート)及びB)13F11-13E8-ABD-エチル(偽コンジュゲート)に関する投薬後の時間(分)の関数としての、BDLラットにおける門脈圧(PP)及び平均動脈圧(MAP)の変化。
図24】BLDラット及びSHAMラットにおける13F11-13E8-ABD-Y27632(検査コンジュゲート)によるIGF2Rのin vivoターゲティング。A)注入した検査コンジュゲートのin situ検出。VHH特異的な検出抗体(緑色)により、検査コンジュゲートの存在に関してプローブされたBDLラット(上部)及びSHAMラット(下部)の肝臓凍結切片。検査コンジュゲートは、BDLラットの硬変肝臓における、閉塞した類洞を覆う細胞層において明らかに検出されて、SHAMラットの健常肝臓では検出されない。B)検査コンジュゲートの分布対IGF2Rの(組織)分布。同じ凍結切片をまた、フルオロフォアコンジュゲートF11E8(赤色)を使用してIGF2Rに関して染色した。検査コンジュゲートは、IGF2Rとの同時局在化を示す(赤色を伴う緑色:黄色)。注目すべきことには、より深くに位置する領域は、検査コンジュゲートの非存在下でIGF2R発現(赤色)を示し、組織浸透が、生存中の研究の単一時間の最後に、依然として進行中であり、完了していないことを示唆している。より初期の観察と一致して、IGF2Rは、SHAMラットの肝臓では検出されなかった。
【0012】
発明の詳細な説明
まず、具体的に詳述されていないステップ、方法、及び技法は全て、別記しない限り、当業者に明らかであるように、本質的に自体公知の様式で実施され得ることに留意されるべきである。免疫グロブリン単一可変ドメイン抗体(ISVD)、重鎖の可変ドメイン(VH)、重鎖のみの抗体の可変ドメイン(VHH)、ドメイン抗体(dAb)、又は単一ドメイン抗体(sdAb)等の本発明の結合分子中に存在する結合部分の特異性及び他の所望の特性を改善するための親和性成熟及び他の技法等の、タンパク質工学に関する技法について記載する、本明細書中で言及される標準的なハンドブック及び共通の一般知識を参照する。本明細書中で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他の状況を示さない限り、複数形の内容を包含することに留意しなくてはならない。当業者は、日常的にすぎない実験を使用して、本明細書中に記載される本発明の特定の態様に対する多くの等価体を認識するか、又は確かめることが可能である。かかる等価体は、本発明によって包含されると意図される。「及び/又は」の語は、本明細書中で使用される場合はいつでも、「及び」、「又は」及び「上記用語につながっている要素の全て又はあらゆる他の組合せ」を包含する。「約」又は「およそ」の語は、本明細書中で使用する場合、所与の値又は範囲の25%以内、好ましくは20%以内、より好ましくは15%以内、最も好ましくは10%以内を意味する。本明細書及び併記の特許請求の範囲全体にわたって、文脈が他の状況を求めない限りは、「含む」という単語ならびに「含む(三人称単数現在形)」及び「含んでいる」等の変化形は、表示した特色の包含の意味を含むが、あらゆる他の特色の排除の意味を含まないと理解される。本明細書中で使用される場合、「含んでいる」の語は、「含有している」又は「包含している」又は「有している」の語で置換することができる。対比して、特色(単数又は複数)と組み合わせた「からなっている」という単語は、言及される特色(単数又は複数)の包含を意味するが、あらゆる他の特色(単数又は複数)の排除も意味する。
【0013】
第1の態様では、本発明は、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインと、少なくとも1つの診断用又は治療用の分子とを含む結合分子を提供し、ここで、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインは、好ましくは増加された増殖、収縮性、走化性、及び高められた細胞マトリックス(ECM)タンパク質産生(例えば、コラーゲン)を特徴とする活性化されたHSC上及び/又は筋線維芽細胞上で発現される膜貫通受容体に特異的に結合することが可能である。HSCが活性されているか、又は活性されていないかどうかを好ましくは決定する方法の完全な説明に関して、Tscuchida et al(肝星細胞活性化のメカニズム(Mechanisms of hepatic stellate cell activation),Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology,2017)を参照されたい。
【0014】
本発明の結合分子内に含まれる治療用の分子は好ましくは、HSC弛緩を誘導し、HSC弛緩は、HSC活性化の減少の徴候であり、それにより、原発性肝疾患によって始まる線維形成プロセスを減少させる。かかる治療用の分子の一例は、本発明の実施例においてHSC弛緩を誘導することがわかっている小分子キナーゼ阻害剤であるY27632である。とくに、本発明の結合分子はとくに、活性化されたHSC上の受容体と相互作用することが示された。研究により、本発明の結合分子を使用して、肝線維症患者を処置することができるという概念実証が示されている。また、研究により、本発明の結合分子は、血小板活性を妨げないことが証明されている。
【0015】
本発明の結合分子は、肝星細胞、とくに、活性化された肝星細胞、及び/又は筋線維芽細胞上で発現される膜貫通受容体に特異的に結合可能でなくてはならない。活性化されたHSC及び/又は筋線維芽細胞上で十分量で発現される受容体の例は、例えば、PDGFRB及びIGF2Rである。したがって、好ましい態様では、膜貫通受容体がPDGFRB又はIGF2Rである本発明の結合分子が提供される。
【0016】
PDGFは、細胞成長及び分裂を調節する多数の増殖因子の1つである。とくに、PDGFは、血管形成、既存の血管組織からの血管の成長、線維芽細胞、骨芽細胞、腱細胞、血管平滑筋細胞及び間葉系幹細胞等の間葉系細胞の有糸分裂誘発、すなわち増殖、ならびに間葉系細胞の直接的な遊走である走化性において、重要な役割を果たす。PDGFは、2つのAサブユニット(PDGF-AA)、2つのBサブユニット(PDGF-BB)、又はそれぞれの1つ(PDGF-AB)で構成され得る二量体糖タンパク質である。PDGFは、線維芽細胞、平滑筋細胞及びグリア細胞を包含する間質系起源の細胞にとっての強力な有糸分裂促進因子(細胞に、細胞分裂を開始するように促して、有糸分裂を誘発するタンパク質)である。マウス及びヒトの両方において、PDGFシグナル伝達ネットワークは、5つのリガンド、PDGF-AA、PDGF-BB、PDGF-AB、PDGF-CC及びPDGF-DD、ならびに2つの受容体、PDGFR-アルファ(PDGFRA)及びPDGFR-ベータ(PDGFRB)からなる。PDGFは全て、分泌されるジスルフィド連結ホモ二量体として機能するが、PDGFA及びPDGFBのみが、機能性ヘテロ二量体を生成し得る。PDGFはHSCの活性化時に過度に合成され、アルコール中毒又は肝炎の状態においてそうである可能性がある。したがって、線維芽細胞の活性化及び細胞分裂が起こり、とくに創傷治癒で蔓延している結合組織に至る。PDGFは、このプロセスにおいて必要とされる要素である。本質的に、PDGFは、分裂するように、細胞にG1チェックポイントをスキップさせることが可能である。単球-マクロファージ及び線維芽細胞において、外因的に投与されたPDGFは、走化性、増殖、及び遺伝子発現を刺激して、炎症性細胞及び線維芽細胞の流入を著しく増して、細胞外マトリックス及びコラーゲン生成を促進して、したがって、治癒プロセスが起きる時間を低減する。静止状態のHSCが、PDGFRAを発現するのに対して、HSCは、活性化すると、PDGFRB発現に切り替わる。HSCは、肝細胞傷害及び肝細胞死によって活性化されるようになり、線維形成をもたらす。マンノース6-リン酸/インスリン様増殖因子-2受容体(M6P/IGF2R)は、肝瘢痕を生じる活性化されたHSCにおけるマトリックスタンパク質の強力な誘導因子である潜在型トランスフォーミングPDGFBの活性化に関与することによって、初期線維形成において重要な役割を果たす。IGF2Rは、細胞外リガンド(IGF-II)の浄化、細胞外リガンドの活性化(TGFβ)に、またトランスゴルジネットワーク(TGN)からリソソームまでの新たに合成されたM6Pでタグ付けされたリソソーム酵素の選別に関与される膜貫通糖タンパク質である。この機能のため、IGF2Rは、ソーティングエンドソーム、エンドサイトーシスリサイクリング区画、TGN、後期エンドソーム及び原形質膜間を循環する(Maxfield & McGraw,Nat Rev Mol Cell Biol.2004 Feb;5(2):121-32)。
【0017】
本発明の結合分子は、例えば、肝線維症、肺線維症、又は腎線維症等の、上述される膜貫通受容体の1つを発現する筋線維芽細胞が、役割を果たす様々な繊維化疾患に使用することができる。実施例において、本発明は、(活性化された)HSCにおける原理証明を提供する。しかしながら、肝線維形成では、活性化された肝星細胞(HSC)は、PDGFRB及びIGF2Rを大量に発現する筋線維芽細胞へ分化転換すると考えられる(Yuchang Li,et al.肝臓における中皮-間葉系の移行(Mesothelial-mesenchymal transition in the liver).PNAS(2013),110:2324-2329)。肝線維症の実験モデル及び肝疾患を患う患者の両方における線維化肝臓における肝筋線維芽細胞の別の主要な供給源は、門脈線維芽細胞である(Jun Xu,et al.種々の病因論の肝線維症に寄与する肝筋線維芽細胞のタイプ(The types of hepatic myofibroblasts contributing to liver fibrosis of different etiologies).Frontiers in pharmacology (2014),5:167)。したがって、好ましい態様では、筋線維芽細胞が、肝筋線維芽細胞である本発明の結合分子が提供される。好ましくは、線維芽細胞は、HSC又は門脈線維芽細胞に、より好ましくはHSCに由来する。「に由来する」は、本文脈では、オリジネーター細胞(HSC又は門脈線維芽細胞)の、筋線維芽細胞への分化を指す。「筋線維芽細胞」の語は、好ましくは、HSC又は門脈線維芽細胞から、筋線維芽細胞への移行中であり、オリジネーター細胞と、筋線維芽細胞との間の中間表現型を有し得る筋線維芽細胞様細胞を包含する。静止状態のHSCは概して、グリア線維性関連タンパク質(GFAP)、シナプトフィジン(synaptophisin)、シネミン、及び神経増殖因子受容体p75等の神経マーカーであるデスミンを発現する(Geerts A.(2001).静止状態の肝星細胞の歴史、不均一性、発生生物学、及び機能(History,heterogeneity,developmental biology,and functions of quiescent hepatic stellate cells).Semin.Liver Dis.21 311-335 10.1055/s-2001-17550;Bataller R.,Brenner D. A.(2005).肝臓線維症(Liver fibrosis).J.Clin.Invest.115,209-218)。さらに、Nr1d2、Adipor1、Adpf、Dbp、Prei4、及びFoxj1は、HSC静止状態表現型と関連付けられる特有のマーカーとして同定された(Liu X.,Xu J.,Brenner D.A.,Kisseleva T.(2013).肝線維症の可逆性及び線維形成筋線維芽細胞の不活性化(Reversibility of Liver Fibrosis and Inactivation of Fibrogenic Myofibroblasts).Curr.Pathobiol.Rep.1,209-214)。線維形成肝障害及びTGFβ1の放出に応答して、静止状態のHSCは、迅速に活性化を受ける。静止状態のHSCは、ビタミンA含有脂質液滴及び神経マーカーをダウンレギュレートして、I型コラーゲン及びα-SMA発現する活性化されたHSC/筋線維芽細胞へと分化する(Bataller and Brenner,2005;Forbes S.J.,Parola M.(2011).肝線維形成細胞(Liver fibrogenic cells).Best Pract.Res.Clin.Gastroenterol.25,207-217)。静止状態のHSCはまた、マトリックスメタロプロテアーゼMMP、とくにMMP13及びそれらの阻害剤TIMPの産生をアップレギュレートする(Uchinami H.,Seki E.,Brenner D. A.,D’Armiento J.(2006).MMP 13の損失は、胆汁鬱滞中にマウス肝傷害及び線維症を減衰させる(Loss of MMP 13 attenuates murine hepatic injury and fibrosis during cholestasis).Hepatology 44,420-429)。さらに、活性化されたHSCは、活性化されたHSC/筋線維芽細胞表現型と一意的に関連付けられる遺伝子であるCrlf1、Spp1、Lox、LoxL2、IL-17Ra、Fosl1、及びFolr1をアップレギュレートする(Liu et al.,肝線維症の可逆性及び線維形成筋線維芽細胞の不活性化(Reversibility of Liver Fibrosis and Inactivation of Fibrogenic Myofibroblasts).Curr.Pathobiol.Rep.2013,1:209-214)。
【0018】
とくに、結合分子が、細胞内部で作用する治療用の分子を含む場合、結合分子は、例えば、リガンド又は抗体内在化を通じて、細胞によって吸収されることが好ましい。リガンド内在化は、細胞外分子が細胞の表面上のその特異的な受容体タンパク質に結合する場合にのみ、細胞が細胞外分子(例えば、(天然)リガンド又は抗体)を取り込む、受容体媒介性エンドサイトーシスプロセスとして定義される。エンドサイトーシスは、細胞が、タンパク質又は多糖等の非粒子状材料を、それらを貪食することによって内在化するプロセスである。したがって、好ましい態様では、結合分子の、受容体への結合により、リガンド又は抗体内在化の誘導が可能となる本発明の結合分子が提供される。
【0019】
好ましい態様では、結合分子が、HSC及び/又は筋線維芽細胞上で発現される膜貫通受容体に特異的に結合することが可能であるさらなる単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子が提供される。かかる結合分子は、2つの異なる抗原、例えば、同じ抗原上のエピトープ、すなわち、1つの受容体上の2つの異なるエピトープに結合することが可能である2つの単一可変抗体ドメインを含み得る。後者はまた、ビパラトピック結合分子とも呼ばれる。本発明の結合分子はまた、ともに同じエピトープに特異的である、2つの単一可変抗体ドメインを含む。二価結合分子としても知られるかかる結合分子は、単一受容体上の2つのエピトープに結合することはできず(一般に、1つの受容体の配列中に存在するエピトープ配列の2つは存在しない(それが、二量体でない限り)ため)、同じタイプの2つの受容体、例えば、互いの近傍に存在する2つのPDGF受容体上の同じエピトープ配列に結合することが可能である。その効果は、二価結合分子が2つの受容体を架橋して、それにより、受容体及びそれらが結合した結合分子の内在化を誘導することである。ビパラトピック結合分子の場合、結合は、受容体オリゴマー形成をもたらし、オリゴマー形成は、受容体内在化をさらに高める。したがって、好ましい態様では、結合分子が、マルチパラトピック、好ましくはビパラトピック結合分子である、本発明の結合分子が提供される。あるいは、又はマルチパラトピック特異性と併せて、結合分子は、多価、好ましくは二価結合分子であることが好ましい。あるいは、又はマルチパラトピック特異性、二価特異性、又はその両方と併せて、結合分子は、多特異的、好ましくは二特異的結合分子であることが好ましい。したがって、本発明の結合分子は、多重単一可変抗体ドメインを組み合わせることができ、ここで、例えば、2つが、互いに対して二価であり、さらに、第3の、第4の、第5の、又はさらには第6の単一可変抗体ドメインに関して、ビパラトピック及び/又は二特異的である。本発明の結合分子は、6つよりも多い単一可変抗体ドメインを含み得るが、本発明の結合分子は、すでに定義され、また以下で定義されるように、2つ~6つ、好ましくは2つ~4つ、より好ましくは2つの単一可変抗体ドメインを含むことが好ましい。この方が産生しやすいためであり、また動物モデルにおいて優れた結果が示されている。
【0020】
本発明の結合分子中に存在する単一可変抗体ドメインは、あらゆる種類の単一可変抗体ドメインであり得る。古典的な単一可変抗体ドメインは、(単一)ドメイン抗体又は免疫グロブリン単一可変ドメイン抗体等の、抗体(の一部)の可変ドメインである。好ましくは、少なくとも1つの単一可変抗体ドメイン及び/又はさらなる単一可変抗体ドメインは、互いに独立して、免疫グロブリン単一可変ドメイン抗体(ISVD)、重鎖の可変ドメイン(VH)、重鎖のみの抗体の可変ドメイン(VHH)、ドメイン抗体(dAb)、及び単一ドメイン抗体(sdAb)からなる群から選択される。より好ましくは、少なくとも1つの単一可変抗体ドメイン及びさらなる単一可変抗体ドメインはともに、単一可変ドメイン抗体、好ましくは重鎖のみの抗体の可変ドメインである。これらのより小さな抗体(の一部)は、とくに、タンデムフォーマット(例えば、二価又はビパラトピック)で、抗体が、それらのより小さなサイズのため高い内在化能力及び最適な組織浸透を示すため、好ましい。
【0021】
「免疫グロブリン単一可変ドメイン」(「ISVD」)の語は、「単一可変ドメイン」と交換可能に使用され、抗原結合部位は、単一免疫グロブリンドメイン上に存在して、また単一免疫グロブリンドメインによって生成される分子を定義する。これは、「従来の」免疫グロブリン又はそれらの断片とは切り離して、免疫グロブリン単一可変ドメインを設定し、ここで、2つの免疫グロブリンドメイン、とくに2つの可変ドメインが相互作用して、抗原結合部位を生成する。通常、従来の免疫グロブリンでは、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)が相互作用して、抗原結合部位を生成する。この場合、VH及びVLの両方の相補性決定領域(CDR)が、抗原結合部位に寄与し、すなわち、総計6つのCDRが、抗原結合部位生成に関与する。対比して、免疫グロブリン単一可変ドメインの結合部位は、単一VH又はVLドメインによって生成される。したがって、免疫グロブリン単一可変ドメインの抗原結合部位は、3つ以下のCDRによって生成される。したがって、「免疫グロブリン単一可変ドメイン」の語は、抗原結合部位の生成用の少なくとも2つの可変ドメインの相互作用を必要とする従来の免疫グロブリン又はそれらの断片を含まない。このことはまた、免疫グロブリン単一可変ドメインを「含む」か、又は「含有する」本発明の態様に関する事例である。したがって、免疫グロブリン単一可変ドメインを「含む」か、又は「含有する」結合分子又は組成物は、例えば1つよりも多い免疫グロブリン単一可変ドメインを含む構築物に関し得る。あるいは、免疫グロブリン単一可変ドメイン以外のさらなる成分、例えば、様々な種類の助剤、タンパク質タグ、着色剤、色素等が存在し得る。しかしながら、これらの用語は、抗原結合部位が単一可変ドメインによって生成される従来の免疫グロブリンの断片を含まない。概して、単一可変ドメインは、本質的に4つのフレームワーク領域(それぞれ、FR1~FR4)及び3つの相補性決定領域(それぞれ、CDR1~CDR3)からなるアミノ酸配列である。かかる単一可変ドメイン及び断片は、最も好ましくは、免疫グロブリンフォールドを含むか、又は適切な条件下で、免疫グロブリンフォールドを生成することが可能である。したがって、単一可変ドメインは、例えば、それが単一抗原結合単位(すなわち、単一抗原結合ドメインが、例えばVH/VL相互作用を通じて、例えば、別の可変ドメインと相互作用して、機能性抗原結合ドメインを生成する必要がある、例えば従来の抗体及びscFv断片中に存在する可変ドメインに関する事例である場合、別の可変ドメインと相互作用して、機能性抗原結合単位を生成する必要がないような、本質的に単一可変ドメインからなる機能性抗原結合単位)を生成することが可能である限りは、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VL-配列)もしくはその適切な断片;又は重鎖可変ドメイン配列(例えば、VH-配列又はVHH配列)もしくはその適切な断片を含み得る。本発明の一態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VL-配列)又は重鎖可変ドメイン配列(例えば、VH-配列)であり、より具体的には、免疫グロブリン単一可変ドメインは、従来の4鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列又は重鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列(例えば、VHH)であり得る。重鎖抗体及びそれらの可変ドメインの一般的説明に関して、とくに本明細書中で引用される従来技術、ならびに国際公開第08/020079号の59頁で言及される従来技術及び国際出願公開第06/040153号の41頁~43頁で言及される参考文献のリストを参照されたい。これらの従来技術及び参考文献は、参照により本明細書で援用される。これらの参考文献に記載されるように、VHH配列及び部分的にヒト化したVHH配列は、とくに、フレームワーク配列の1つ又は2つ以上における1つ又は2つ以上の「特徴残基」の存在を特徴とし得る。
【0022】
VHHのヒト化、ならびに他の修飾、一部もしくは断片、誘導体又は「VHH融合体」、多価構築物(リンカー配列の幾つかの非限定的な例を包含する)、ならびにVHH及びそれらの調製物の血清半減期を増加させる種々の修飾を包含する、VHHのさらなる説明は、例えば、国際公開第08/101985号及び国際公開第08/142164号に見出すことができる。一例は、例えば、ヒト血清アルブミンに対して親和性を有する結合ドメインの存在である。
【0023】
したがって、本発明の結合分子の半減期を増加させるためには、上記結合分子は、好ましくは、1つ又は2つ以上の他の基、残基、部分又は結合単位を伴わない結合分子と比較して上記半減期を増加させるかかる1つ又は2つ以上の他の基、残基、部分又は結合単位を含む。これらの基、残基、部分又は結合単位はまた、半減期延長剤とも称される。
【0024】
本発明の結合分子において使用されるべき半減期延長剤は、ヒトにおける結合分子の血清半減期を、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間又は2時間超、増加させる。半減期延長剤は、6時間を超えて、例えば12時間を超えて、又はさらには24時間、48時間もしくは72時間を超えて半減期を増加し得る。本発明の結合分子において使用されるべきとくに好ましい結合単位は、アルブミン結合ドメイン、アルブミン結合VHHもしくは抗体Fcテイル又はそれらの断片である。
【0025】
「dAb」又は「sdAb」に関して、Ward et al.1989(Nature 341(6242):544-6)、Holt et al.2003(Trends Biotechnol.21(11):484-490)ならびに国際公開第04/068820号、同第06/030220号、同第06/003388号を参照されたい。
【0026】
また、哺乳動物起源ではないことから本発明における好適さを他に譲る単一可変ドメインとして、ある特定の種のサメ(例えば、いわゆる「IgNARドメイン」、国際公開第05/18629号を参照)ならびにマウス(例えば、いわゆるCrescendo Biologics社のhumabodies)に由来するものを、本発明において挙げることができる。免疫グロブリン配列、とくに免疫グロブリン単一可変ドメインのアミノ酸配列及び構造は、本技術において、また本明細書中で、それぞれ、「フレームワーク領域1」又は「FR1」と、「フレームワーク領域2」又は「FR2」と、「フレームワーク領域3」又は「FR3」と、また「フレームワーク領域4」又は「FR4」と称される4つのフレームワーク領域又は「FR」とを含むとみなされ得るが、それらに限定されない。これらのフレームワーク領域に、本技術において、それぞれ、「相補性決定領域1」又は「CDR1」と、「相補性決定領域2」又は「CDR2」と、「相補性決定領域3」又は「CDR3」と称される3つの相補性決定領域又は「CDR」が割り込んでいる。免疫グロブリン単一可変ドメインにおけるアミノ酸残基の総数は、110~120の領域に存在してもよく、好ましくは112~115であり、最も好ましくは113である。しかしながら、免疫グロブリン単一可変ドメインの一部、断片、類似体又は誘導体は、かかる一部、断片、類似体又は誘導体が、本明細書中で概要するさらなる要件を満たして、また好ましくは本明細書中に記載する目的に適している限りは、それらの長さ及び/又はサイズに関してとくに限定されないことに留意すべきである。したがって、本発明の意味において、「免疫グロブリン単一可変ドメイン」又は「単一可変抗体ドメイン」の語は、非ヒト供給源に、好ましくはラクダ科に由来される、好ましくはラクダ重鎖抗体としてのペプチドを含む。「免疫グロブリン単一可変ドメイン」又は「単一可変抗体ドメイン」は、国際公開第08/101985号及び同第08/142164号に、すでに記載されるように、ヒト化されてよい。さらに、この用語は、国際公開第08/101985号及び同第08/142164号に、すでに記載されるように、「ラクダ化されて(camelized)」いる非ラクダ科供給源、例えば、マウス又はヒトに由来する結合分子を含む。「免疫グロブリン単一可変ドメイン」の語は、マウス、ラット、ウサギ、ロバ、ヒト、及びラクダ科免疫グロブリン配列を含む、種々の起源の免疫グロブリン配列を包含する。この用語はまた、完全ヒト免疫グロブリン配列、ヒト化免疫グロブリン配列又はキメラ免疫グロブリン配列を包含する。例えば、この用語は、ラクダ科免疫グロブリン配列及びヒト化ラクダ科免疫グロブリン配列又はラクダ化免疫グロブリン単一可変ドメイン、例えば、Ward et al.(国際公開第94/04678号ならびにDavies and Riechmann 1994,Febs Lett.339:285及び1996,Protein Engineering 9:531を参照)に記載されるようなラクダ化dAbを含む。すでに上述するように、少なくとも1つの結合分子は、HSC及び/又は筋線維芽細胞上で発現される受容体の細胞外ドメインに特異的に結合することが可能である。好ましくは、第2の単一可変抗体ドメインもまた、存在する場合、HSC及び/又は筋線維芽細胞上で発現される膜貫通受容体に特異的に結合することが可能である。PDGFRBに特異的に結合することが可能な少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含むか、又はIGF2Rに特異的に結合することが可能な少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子がとくに好ましい。
【0027】
PDGFRBに特異的に結合することが可能な少なくとも1つの単一可変抗体ドメイン及びIGF2Rに特異的に結合することが可能な少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子は、あまり好ましくない。
【0028】
1つの好ましい態様では、単一可変抗体ドメインの1つの、その抗原への結合が、他の単一可変抗体ドメインの、その抗原への結合を調節し、好ましくは、クラスター誘導型エンドサイトーシス及び迅速な受容体内在化をもたらす、本発明の結合分子が提供される。
【0029】
本発明は、実施例において、PDGFRBへの優れた結合及びPDGFRBの内在化を示す幾つかのVHHを提供する。好ましい態様では、PDGFRBへの特異的な結合において、それぞれ、配列番号9、配列番号25、配列番号81、及び配列番号65として表1に示される、SP02P又はSP05P又はSP14P又はSP12Pの配列のいずれか1つから選択される配列を有する単一ドメイン抗体と競合することが可能である少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子が提供される。より好ましい態様では、結合分子は、SP02P又はSP05P又はSP14P又はSP12Pの配列の1つを有する単一ドメイン抗体と競合することが可能である少なくとも第2の単一可変抗体ドメインを含み、ここで、好ましくは、第1の単一可変抗体ドメイン及び第2の単一可変抗体ドメインはともに、SP02P又はSP05P又はSP14P又はSP12Pの配列の1つを有する同じ単一ドメイン抗体と競合しない。あるいは、また好ましくは、結合分子は、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含み、ここで、好ましくは、第1の単一可変抗体ドメイン及び第2の単一可変抗体ドメインはともに、SP02P又はSP05P又はSP14P又はSP12Pの配列の1つを有する同じ単一ドメイン抗体と競合する。
【0030】
「競合する」の語は、例えば、本発明の例5及び例8に記載されるような競合アッセイにおいて、結合分子の添加により、所与のVHH、すなわち、競合が決定されるVHHの結合の著しい減少が誘導されることを意味する。これらに関する「著しい」は、好ましくは、250nMの結合分子が、ELISAにおいて、10nMの蛍光標識したVHHに添加される場合に、5%を上回る、好ましくは10%を上回る減少である。例8は、例えば、10nMの標識13F11及び250nMの非標識13E8を、ELISAにおいてヒトIGF2Rエクトドメインに結合させた場合、5%未満のより小さな蛍光強度を示す一方で、10nMの標識13F11及び250nMの非標識13A8、13C11、13G10、又は13A12が、同じか、又は重複するエピトープに関して競合する場合に、蛍光強度の実質的により大きな減少が観察される。これらのデータから、13F11及び13E8は、互いに競合しないのに対して、13A8、13C11、13G10及び13A12は、IGF2Rへの結合に関して、13F11と競合すると結論付けられる。結合分子が所与のVHHと競合するかどうかを決定する場合、同じ検査条件及び閾値が、PDGFRBに対して誘導される結合分子に当てはまる。
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表1-4】

【表1-5】

【表1-6】
【0031】
本発明はさらに、実施例において、IGF2Rへの優れた結合及びIGF2Rの内在化を示す幾つかのVHHを提供する。好ましい態様では、IGF2Rへの特異的な結合において、それぞれ、配列番号249及び配列番号273として表2に示される、13E8又は13F11の配列を有する単一ドメイン抗体と競合することが可能である少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子が提供される。より好ましい態様では、結合分子は、13E8又は13F11の配列を有する単一ドメイン抗体と競合することが可能である少なくとも第2の単一可変抗体ドメインを含み、ここで、好ましくは、第1の抗体及び第2の抗体はともに、13E8又は13F11の配列を有する同じ単一ドメイン抗体と競合しない。あるいは、また好ましくは、結合分子は、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含み、ここで、好ましくは、第1の単一可変抗体ドメイン及び第2の単一可変抗体ドメインはともに、13E8又は13F11の配列の1つを有する同じ単一ドメイン抗体と競合する。
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】
【0032】
好ましい態様では、結合分子が、PDGFRBに特異的に結合することが可能な少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子が提供され、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号83によるCDR1配列、配列番号85によるCDR2配列及び配列番号87によるCDR3配列;もしくは配列番号3によるCDR1配列、配列番号5によるCDR2配列及び配列番号7によるCDR3配列;もしくは配列番号11によるCDR1配列、配列番号13によるCDR2配列及び配列番号15によるCDR3配列;もしくは配列番号35によるCDR1配列、配列番号37によるCDR2配列及び配列番号39によるCDR3配列;もしくは配列番号75によるCDR1配列、配列番号77によるCDR2配列及び配列番号79によるCDR3配列;もしくは配列番号27によるCDR1配列、配列番号29によるCDR2配列及び配列番号31によるCDR3配列;もしくは配列番号43によるCDR1配列、配列番号45によるCDR2配列及び配列番号47によるCDR3配列;もしくは配列番号51によるCDR1配列、配列番号53によるCDR2配列及び配列番号55によるCDR3配列;もしくは配列番号115によるCDR1配列、配列番号117によるCDR2配列及び配列番号119によるCDR3配列;もしくは配列番号67によるCDR1配列、配列番号69によるCDR2配列及び配列番号71によるCDR3配列、又はCDR1配列、CDR2配列及びCDR3配列の組合せのいずれかを含み、ここで、独立して、多くても4つ、より好ましくは多くても3つ、より好ましくは多くても2つ、最も好ましくは多くても1つのアミノ酸が、保存的に置換されており、好ましくは独立して、下記のアミノ酸置換から選択される:AlaをGly又はSerへ;ArgをLysへ;AsnをGln又はHisへ;AspをGluへ;CysをSerへ;GlnをAsnへ;GluをAspへ;GlyをAla又はProへ;HisをAsn又はGlnへ;IleをLeu又はValへ;LeuをIle又はValへ;LysをArg、Gln又はGluへ;MetをLeu、Tyr又はIleへ;PheをMet、Leu又はTyrへ;SerをThrへ;ThrをSerへ;TrpをTyrへ;TryをTrp又はPheへ;及びValをIle又はLeuへ。
【0033】
好ましくは、本発明の結合分子は、IGF2Rに特異的に結合することが可能な少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含み、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号251によるCDR1配列、配列番号253によるCDR2配列及び配列番号255によるCDR3配列;もしくは配列番号275によるCDR1配列、配列番号277によるCDR2配列及び配列番号279によるCDR3配列;もしくは配列番号259によるCDR1配列、配列番号261によるCDR2配列及び配列番号263によるCDR3配列;もしくは配列番号291によるCDR1配列、配列番号293によるCDR2配列及び配列番号295によるCDR3配列;もしくは配列番号299によるCDR1配列、配列番号301によるCDR2配列及び配列番号302によるCDR3配列;もしくは配列番号307によるCDR1配列、配列番号309によるCDR2配列及び配列番号311によるCDR3配列、又はCDR1配列、CDR2配列及びCDR3配列の組合せのいずれかを含み、ここで、独立して、多くても4つ、より好ましくは多くても3つ、より好ましくは多くても2つ、最も好ましくは多くても1つのアミノ酸が、保存的に置換されており、好ましくは独立して、下記のアミノ酸置換から選択される:AlaをGly又はSerへ;ArgをLysへ;AsnをGln又はHisへ;AspをGluへ;CysをSerへ;GlnをAsnへ;GluをAspへ;GlyをAla又はProへ;HisをAsn又はGlnへ;IleをLeu又はValへ;LeuをIle又はValへ;LysをArg、Gln又はGluへ;MetをLeu、Tyr又はIleへ;PheをMet、Leu又はTyrへ;SerをThrへ;ThrをSerへ;TrpをTyrへ;TryをTrp又はPheへ;及びValをIle又はLeuへ。
【0034】
好ましくは、本発明の結合分子は、PDGFRBに特異的に結合することが可能な少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含み、ここで、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号81、配列番号1、配列番号9、配列番号33、配列番号73、配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つを含むか、又は配列番号81、配列番号1、配列番号9、配列番号33、配列番号73、配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つからなる。
【0035】
好ましくは、本発明の結合分子は、IGF2Rに特異的に結合することが可能な少なくとも1つの単一可変抗体ドメインを含み、ここで、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号249、配列番号273、配列番号257、配列番号289、配列番号297、もしくは配列番号305のいずれか1つを含むか、又は配列番号249、配列番号273、配列番号257、配列番号289、配列番号297、もしくは配列番号305のいずれか1つからなる。
【0036】
1つの好ましい態様では、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子が提供され、ここで、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号81を含むか、又は配列番号81からなり、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号1、配列番号9、配列番号33、配列番号73、配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つを含むか、又は配列番号1、配列番号9、配列番号33、配列番号73、配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つからなるか、あるいは少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号1、配列番号9、配列番号33、もしくは配列番号73のいずれか1つを含むか、又は配列番号1、配列番号9、配列番号33、もしくは配列番号73のいずれか1つからなり、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つを含むか、又は配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つからなるか、あるいは少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号25、配列番号41、配列番号49のいずれか1つを含むか、又は配列番号25、配列番号41、配列番号49のいずれか1つからなり、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号65もしくは配列番号113のいずれか1つを含むか、又は配列番号65もしくは配列番号113のいずれか1つからなる。かかる分子は、ビパラトピック抗PDGFRB結合分子を包含する。
【0037】
好ましくは、本発明の結合分子は、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含み、ここで、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号249を含むか、又は配列番号249からなり、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号273、配列番号257、配列番号289、配列番号297、もしくは配列番号305のいずれか1つを含むか、又は配列番号273、配列番号257、配列番号289、配列番号297、もしくは配列番号305のいずれか1つからなる。かかる分子は、ビパラトピック抗IGF2R結合分子を包含する。
【0038】
好ましくは、本発明の結合分子は、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含み、ここで、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号81、配列番号1、配列番号9、配列番号33、配列番号73、配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つを含むか、又は配列番号81、配列番号1、配列番号9、配列番号33、配列番号73、配列番号25、配列番号41、配列番号49、配列番号65、もしくは配列番号113のいずれか1つからなり、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、配列番号249、配列番号273、配列番号257、配列番号289、配列番号297、もしくは配列番号305のいずれか1つを含むか、又は配列番号249、配列番号273、配列番号257、配列番号289、配列番号297、もしくは配列番号305のいずれか1つからなる。かかる結合分子は、PDGFRB上の1つのエピトープ及びIGF2R上の1つのエピトープに結合することが可能な二特異的結合分子を包含する。
【0039】
2つ又は3つ以上のアミノ酸配列を比較する目的で、[第2のアミノ酸配列における相当する位置にあるアミノ酸残基に同一の第1のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の数]を、[第1のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の総数]で除算することと、[100%]を乗じることとによって、第1のアミノ酸配列と、第2のアミノ酸配列との間の「配列同一性」又は「配列類似性」(本明細書中では、「アミノ酸同一性」とも称される)のパーセントが算出されてもよく、ここで、第1のアミノ酸配列と比較して、第2のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の各欠失、挿入、置換又は付加は、単一アミノ酸残基(位置)での差として、すなわち、本明細書中で定義される「アミノ酸の差」としてみなされる。あるいは、2つのアミノ酸配列間の配列同一性の度合いは、ヌクレオチド配列に関する配列同一性の度合いの決定に関して上述するような公知のコンピュータアルゴリズムを使用して、同様に標準的な設定を使用して、算出され得る。通常、上記で概要する算出方法に従って、2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」のパーセントを決定する目的で、最大数のアミノ酸残基を有するアミノ酸配列は、「第1の」アミノ酸配列と解釈され、他のアミノ酸配列は、「第2の」アミノ酸配列と解釈される。また、2つのアミノ酸配列間の配列同一性の度合いを決定する際、当業者は、いわゆる「保存的」アミノ酸置換を考慮に入れてもよく、このことは概して、アミノ酸残基が、類似の化学構造の別のアミノ酸残基で置き換えられ、また結合分子の機能、活性又は他の生物学的特性に対してほとんど又は本質的に影響しないアミノ酸置換として記載され得る。かかる保存的アミノ酸置換は、例えば、国際公開第04/037999号、英国特許第A-3 357 768号、国際公開第98/49185号、同第00/46383号及び同第01/09300号から、当業者に周知であり、かかる置換の(好ましい)タイプ及び/及び組合せは、国際公開第04/037999号ならびに国際公開第98/49185号から、またそこで引用されるさらなる参考文献からの適切な教示に基づいて選択され得る。かかる保存的置換は好ましくは、下記群(a)~(e)内の1つのアミノ酸が、同じ群内の別のアミノ酸残基で置換される置換である:(a)小さな脂肪族の無極性又はわずかに極性の残基:Ala、Val、Leu、Pro、Ile及びGly;(b)極性の負に帯電した残基及びそれらの(非荷電)アミド:Asp、Asn、Glu及びGln;(c)極性の正に帯電した残基:His、Arg及びLys;(d)大きな脂肪族の無極性残基:Met、Ser、Thr、Sec及びCys;及び(e)芳香族残基:Phe、Tyr及びTrp。とくに好ましい保存的置換は下記の通りである:AlaをGly又はSerへ;ArgをLysへ;AsnをGln又はHisへ;AspをGluへ;CysをSerへ;GlnをAsnへ;GluをAspへ;GlyをAla又はProへ;HisをAsn又はGlnへ;IleをLeu又はValへ;LeuをIle又はValへ;LysをArg、Gln又はGluへ;MetをLeu、Tyr又はIleへ;PheをMet、Leu又はTyrへ;SerをThrへ;ThrをSerへ;TrpをTyrへ;TryをTrp又はPheへ;及びValをIle又はLeuへ。
【0040】
本明細書中に記載される結合分子に適用されるあらゆるアミノ酸置換はまた、Schulz et al.,タンパク質構造の原理(Principles of Protein Structure),Springer-Verlag,1978によって開発された、種々の種の相同タンパク質間のアミノ酸変動の頻度の分析、Chou and Fasman, Biochemistry 13:211,1974及びAdv.Enzymol.,47:45-149,1978によって開発された構造生成能の分析、ならびにEisenberg et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:140-144,1984;Kyte & Doolittle;J Molec.Biol.157:105-132,1981、及びGoldman et al.,Ann.Rev.Biophys.Chem.15:321-353,1986によって開発されたタンパク質における疎水性パターンの分析に基づき得る。全て、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0041】
本発明はまた、これらのアミノ酸配列の最適化された変異体を包含する。概して、本発明のアミノ酸配列の「最適化された変異体」は、i)「ヒト化」の度合い、ii)化学的安定性、及び/又はiii)発現のレベルを高める置換等の1つ又は2つ以上の有益な置換を含む変異体である。
【0042】
1つの好ましい態様では、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインを含む、本発明の結合分子が提供され、ここで、少なくとも2つの単一可変抗体ドメインは、リンカーアミノ酸配列によって分離されている。多くの場合、4個~15個のアミノ酸の簡素なGly-Serリンカーで十分であり得るが、アミノ酸鎖のより大きな可撓性が望ましい場合には、より長いか、又はより複雑なリンカーが使用されてよい。好ましいリンカーは、(Gly4Ser)n、(GSTSGS)n又はタンパク質フォールディングのために可撓性を提供するあらゆる他のリンカーである。結合ドメインは、リンカーによってのみ分離されてよいが、他の有用なアミノ酸配列が、結合ドメイン間に、あるいはそれぞれ、第1の結合ドメイン配列もしくは最終結合ドメイン配列のN末端又はC末端に導入されてよい。したがって、一態様では、リンカーをコードするアミノ酸配列をさらに含む、本発明の結合分子が提供される。かかるリンカー配列は、好ましくは、分子内に可撓性を提供して、2つのエピトープ間を連結(架橋)するように結合分子によって架橋され得る距離を高める。さらに、かかるリンカーは、単一可変抗体ドメインの1つが、その第1の標的に結合されており、第2の単一可変抗体ドメインが、第2の標的を見つけて、結合しなくてはならない場合に、生じ得る立体障害を減させ得る。
【0043】
本発明の結合分子は、分子内の単一可変抗体ドメインが、十分な親和性でその標的に結合すると内在化されることが観察された。したがって、好ましい態様では、少なくとも1つの単一可変抗体ドメイン、及び存在する場合、さらなる単一可変抗体ドメインが、互いに独立して、それら各々の受容体に、解離定数(K)10E-5~10E-12モル/リットル又はそれ未満、好ましくは10E-7~10E-12モル/リットル又はそれ未満、より好ましくは10E-9~10E-12モル/リットルで、特異的に結合することが可能である、本発明の結合分子が提供される。
【0044】
本発明の文脈では、ある特定の抗原「・・・に結合する、及び/又は・・・に対して親和性を有する」は、例えば、抗体及びそれらの各々の抗原の状況において理解されるように、本技術で有用な意味を有する。本発明の特定の態様では、「・・・に結合する、及び/又は・・・に対して親和性を有する」の語は、少なくとも1つの単一可変抗体ドメインが、抗原と特異的に相互作用することを意味する。「特異性」の語は、特定の免疫グロブリン配列、抗原結合性部分又は抗原結合性分子(例えば、本発明の結合分子)が結合し得る種々のタイプの抗原又は抗原決定基の数を指す。抗原結合性分子の特異性は、非標的分子に関する親和性及び/又はアビディティに対する、標的分子(単数又は複数)に関する親和性及び/又はアビディティに基づいて決定され得る。抗原と、抗原結合性タンパク質との解離に関する平衡定数(K)によって表される親和性は、抗原決定基と、抗原結合性タンパク質上の抗原結合性部位との間の結合強度に関する尺度であり、Kの値が小さいほど、抗原決定基と、抗原結合性分子との間の結合強度は強力である(あるいは、親和性はまた、1/Kである親和性定数(K)と表すことができる)。Kを決定する方法は、当業者に明らかであり、例えば、本明細書中で言及される技法を包含する。親和性は、分子相互作用の強度又は安定性を表す。親和性は、mol/リットル(又はM)の単位を有するK、又は平衡解離定数によって、一般的に付与される。親和性はまた、1/Kに等しく、またリットル/molの単位を有する、結合定数Kとして表すことができる。本明細書中では、2つの分子(例えば、本発明のアミノ酸配列、免疫グロブリン配列、又は結合分子と、その対象とされる標的との)間の相互作用の安定性は、主にそれらの相互作用のK値に関して表され、K=1/Kの関係を考慮して、分子相互作用の強度を、そのK値によって指定することを、相当するK値を算出するのに使用することができることは、当業者に明らかである。
【0045】
値は、それが結合の自由エネルギーに関連するため、同様に熱力学的意義において分子相互作用の強度を特性決定する。当業者に明らかであるように(例えば、本明細書中のさらなる開示に基づいて)、親和性は、それ自体公知の様式で、目的の特異的な抗原に応じて、決定することができる。アビディティは、抗体-抗原複合体の強度全体の尺度を付与する。アビディティは、3つの主要なパラメーターに依存する:エピトープに対する抗体の親和性(上記を参照)、抗体及び抗原の両方の結合価、及び相互作用する部分の構造配列。アビディティは、抗原決定基と、抗原結合性分子上のその抗原結合部位との間の親和性、及び抗原結合性分子上に存在する適切な結合部位の数の両方に関する。通常、本発明の免疫グロブリン配列(例えば、本発明のアミノ酸配列、ISVD及び/又は結合分子)は、それらの抗原に、10E-5~10E-12モル/リットル又はそれ未満、好ましくは10E-7~10E-12モル/リットル又はそれ未満、より好ましくは10E-9~10E-12モル/リットルで結合する。10E-5Mよりも大きいあらゆるK値は、一般に、非特異的な結合を示すとみなされる。好ましくは、本発明の一価免疫グロブリン配列は、500nM未満、好ましくは200nM未満、より好ましくは10nM未満、最も好ましくは500pM未満の親和性で、所望の抗原に結合する。抗原結合タンパク質又は抗原結合性タンパク質の、抗原又は抗原決定基に対する結合特異性及び結合親和性は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)及びサンドイッチ競合アッセイ等のスッキャッチャード分析及び/又は競合結合アッセイ、及び本技術において自体公知のそれらの異なる変形、ならびに本明細書中で言及される他の技法を包含する、自体公知のあらゆる適切な様式で決定され得る。意義のある(例えば、特異的である)とみなされる、本発明の結合分子の、本明細書中で規定されるような細胞関連抗原への結合等の生物学的相互作用に関するKは、通常、10E-10M(0.1nM)~10E-6M(1μM)の範囲に存在する。
【0046】
はまた、koffと表される複合体の解離速度定数の、konと表されるその解離の速度に対する比として表される(つまり、K=koff/kon、及びK=kon/koff)。2つの分子間の分子相互作用の親和性は、一方の分子がバイオセンサチップ上に固定化され、他方の分子が、流動条件下で、固定化された分子上を通過する、周知の表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサ技法(例えば、Ober et al.,Intern.Immunology,13,1551-1559,2001を参照)等の、自体公知の種々の技法により測定することができ、kon測定値、koff測定値、したがってK(又はK)値をもたらす。これは、例えば、周知のBiocore機器を使用して実施され得る。細胞によって発現される膜貫通受容体に関する親和性測定は、LISAによって実施されることが好ましい。
【0047】
また、測定したKは、測定プロセスが何らかの形で、例えば、1つの分子のバイオセンサ上のコーティングに関連した人工産物によって、含意される分子の固有の結合親和性に影響を与える場合、見かけのKに相当し得る。また、見かけのKは、1つの分子が、他の分子に関して1つよりも多い認識部位を含有する場合に測定され得る。かかる状況では、測定される親和性は、2つの分子による相互作用のアビディティによって影響され得る。親和性を評価するのに使用され得る別のアプローチは、Friguet et al.(J.Immunol.Methods,77,305-19,1985)の2工程ELISA手順である。この方法は、溶液相結合平衡測定を確立して、プラスチック等の支持体上の分子の1つの吸着に関連する考え得る人工産物を回避する。しかしながら、Kの正確な測定は、非常に労働集約的である可能性があり、したがって、多くの場合、見かけのK値は、2つの分子の結合強度を評価するために決定される。測定が全て、一貫した方法で(例えば、アッセイ条件を変更しないまま保って)行われる限りは、見かけのK測定は、真のKの近似値として使用することができ、したがって、本文書では、K及び見かけのKは、同等の重要性又は関連性で取り扱われるべきであることに留意すべきである。
【0048】
また、治療用又は診断用の分子は、存在する場合、リンカー及び/又はスペーサーによって、結合分子の残部に結合されることが好ましい。リンカーは、薬物のランダム/異種又は部位特異的なコンジュゲーションのいずれかに関する戦略を使用して、例えば、本発明の結合分子等のターゲティング部分に結合される。前者の戦略は、それぞれリシン又は(ヒンジ領域)システイン残基への薬物コンジュゲーションに関する従来の活性エステル又はマレイミド化学反応に主に基づいているのに対して、後者は、遺伝的に、酵素的に、又は他の手段によって操作された「修飾ターゲティング部位」の特異的な部位で導入されている化学残基を利用する。単一可変抗体ドメインは、C末端もしくはN末端部分上でシステイン又はヒスチジン残基を含み得る。ターゲティング部分への部位特異的なコンジュゲーションは、最小のバッチ間変動性で、同種混合物を生じる。リンカーは、切断可能であり得るか、又は切断不可能であり得る。両方のタイプのリンカーが、循環中で安定であると仮定されるが、血中での完全性の詳細な分析に、またある特定のADCの毒性プロファイルに基づいて、安定性は、現在認可されているADCにとって懸念事項である。切断可能なリンカーを有するADCの場合、標的細胞による内在化後、切断可能なリンカーならびに抗体は、リソソーム中で分解されるようになり、毒性活性を発揮するのに、薬物を自由に利用可能にさせる。切断不可能なリンカーを有するADCの場合、抗体のみが、リソソーム中で分解されるようになり、薬物-リンカー複合体が放出される。上述の洞察により、例えば、ADC産生プロセスをより簡素且つ安価にすることによって、及び/又は治療域を広げることによって、有益な方法で、リンカーに、ADCならびに薬物の特性を変更させることができる調節可能な物理化学的機能を与える道が開かれる。次に、薬物と、mAbとの間に安定な接着剤が存在すると、理想的なリンカーは、(1)薬物及びADCの溶解度を改善して、薬物の、mAbへのコンジュゲーションを、より効率的にし、(2)細胞輸送、及び薬物と、その細胞標的との間の相互作用を改善し、(3)多剤耐性タンパク質を介して腫瘍細胞による薬物の流出を減少させ、(4)健常な細胞による薬物-リンカー複合体の取込みを防止する。従来の有機リンカーのほとんどが、準最適なADCを提供するため、ここ数年で、新たなコンジュゲーション技術に関して幅広い研究が開始されている。
【0049】
本発明は、例えば、国際特許出願公開第2013103301号に記載されるようもの等であるが、これらに限定されない2つの反応性基を有する機能性白金(II)錯体を含む、さらに「Lx」と称される特定のリンカーを提供する。Lxの第1の反応性基は、キナーゼ阻害剤によって、第2の反応性基は、本発明の結合分子等のターゲティング部分によって置き換えられることが可能である。Lxを使用することによって、コンジュゲートされた結合分子の免疫反応性は、結合されていない天然の結合分子と、実質的に同じままである。これは、結合分子の免疫反応性が、十分に高いままである場合のみにとくに重要であり、身体において適所で、コンジュゲートされた薬物を、治療用化合物として送達することが可能である。さらに、結合分子を、LXに結合するのにあまり時間がかからず、このカップリングを行うための反応条件が穏やかであり、使用される機能性部分とは非常に独立しているため、使用されるターゲティング部分は、患者特有のニーズにカスタマイズされ得る。穏やかな反応条件に起因して、結合分子は、優れた条件のままであり、その元の(コンジュゲートされていない)免疫反応性を保持する。本発明は、小さな治療用又は診断用の分子の、結合分子への迅速で効率的で安定な部位特異的な結合を可能にする技術を提供する。Lxを通じてコンジュゲートされたビパラトピックポリペプチドは、細胞モデルにおいて、優れた弛緩活性を示した。Lxリンカーは、血中での分解に耐性である一方で、依然として標的でペイロードの放出を可能にしている。さらに、Lxは、他の系と異なり、種々の化学種の薬物の結合を可能にする。上述するように、薬物の、結合分子を介したHSCへのターゲティングは、特異性を高めるのに、全身毒性を減少させるのに、また例えばそれらの毒性プロファイルに関して、原則上は全身薬物としてあまり適していないか、又は不適切である化合物の治療用途を可能にするのに、概念上、魅力的である。これは、活性化されたHSCの外側膜上に露出された、アップレギュレートされた受容体を標的とするには、薬物の、本発明の結合分子への安定な部位特異的なカップリングを要する。したがって、リンカー及び/又はスペーサーは好ましくは、遷移金属錯体を含むか、又は遷移金属錯体からなる。好ましい態様では、遷移金属錯体は、Pt(II)を含む。さらなる好ましい態様では、上記リンカーは、シス-白金(II)錯体、より好ましくは、不活性な二座部分を含むシス-白金(II)錯体を含み、ここで、上記二座部分は、好ましくはエタン-1,2-ジアミンである。
【0050】
上述したように、活性化されたHSC又は筋線維芽細胞の細胞骨格の収縮を阻害することによって、線維症が減弱する。したがって、好ましい態様では、治療用の分子が、活性化されたHSCの細胞骨格の収縮を阻害することが可能である、本発明の結合分子が提供される。
例えば、キナーゼ阻害剤は、活性化されたHSCの細胞骨格の収縮を阻害することが可能である。標的とされるキナーゼは、肝線維症及び門脈圧亢進症において役割を果たすレニン-アンジオテンシン系(RAS)と呼ばれるシグナル伝達経路に関与する。RASは、血管平滑筋緊張を調節することによって、血圧の調節において中心的な枠割を果たす。RASに関与する2つのキナーゼは、チロシンキナーゼヤヌスキナーゼ2(JAK2)及びPho関連コイルドコイル含有プロテインキナーゼ(ROCK)である。これらのタンパク質キナーゼの発現は、ヒト硬変における門脈圧亢進症と関連付けられている。
【0051】
門脈圧亢進症は、肝線維症及び肝硬変の全ての段階に存在する。肝硬変では、活性化されたHSCは、それらが存在する類洞周辺で収縮する。これにより、門脈圧亢進症を引き起こし、ここでは、肝臓における門脈系を通じて、血流が閉塞される。RAS内では、JAK2は、リン酸化されるようになり、小GTPアーゼRhoAの活性化を担うヌクレオチド交換因子であるArhgef1を活性化し、続いて、Arhgef1は、その下流のエフェクターROCKを活性化する。ROCKは、収縮力発生を促進するアクトミオシン細胞骨格の制御因子である。ROCKは、ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)をリン酸化して、それによりミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)を不活性化して、ミオシン軽鎖リン酸化及び収縮の増加を招く。したがって、ROCK阻害剤であるY27632の使用は、RASによって誘導されるHSC収縮の減少を引き起こす。続いて、JAK2は、ROCKを活性化するのに役割を果たすので、SB1518(パクリチニブとも呼ばれる、これはJAK2阻害剤である)によるその阻害は、HSCを弛緩するのを助長し得る。これらの小分子は、非常に毒性があり、非特異的であり、したがって、それらは、それ自体を全身投与に不適切にさせる用量制限毒性に悩まされている。効果的な量のコンジュゲートされた小分子薬物を保有する本発明の結合分子は、それ自体が小分子の全身投与の制限を克服するように設計されている。好ましくは、治療用の分子は、好ましくは、Rho-キナーゼ阻害剤、JAK-2阻害剤及びネプリライシン阻害剤からなる群から選択される、より好ましくは、Y27632、SB1518及びLBQ657からなる群から選択されるキナーゼ阻害剤である。別の好ましい態様では、治療用の分子は、タキサン、アントラサイクリン、ビンカアルカロイド、カリケアマイシン、マイタンシノイド、アウリスタチン、好ましくは、アウリスタチンF及びCC 10065類似体等の毒素である。
【0052】
通常、膜貫通受容体への結合は、細胞内シグナル伝達カスケードを誘導する。例えば、PDGFの、PDGFRBへの結合は、受容体自体及び他のタンパク質のリン酸化を誘導し、それにより、遊走及び増殖等の細胞応答を誘発する細胞内シグナル伝達経路を関与させる。本発明の結合分子の目的は、そのペイロードの、標的細胞の細胞質への輸送であり、輸送に使用される受容体の活性化ではないため、結合分子の、膜貫通受容体の細胞外ドメインへの結合が、受容体の細胞内シグナル伝達カスケードを誘導しないことが好ましい。結合分子の、膜貫通受容体への結合が、受容体媒介性内在化、エンドサイトーシス及びエンドリソソーム区画内の薬物又は毒素の放出を引き起こすことは、さらに好ましい。
【0053】
1つの好ましい態様では、結合分子が、リンカー分子へのコンジュゲーションの目的を果たすN末端もしくはC末端のシステイン又はヒスチジン残基、好ましくはN末端又はC末端システインを含む、本発明の結合分子が提供される。ある態様では、本発明は、本発明の少なくとも2つの結合分子を含むビパラトピック結合分子を提供する。
【0054】
上述するように、治療用の分子を含む、本発明の結合分子は、治療分子を、標的細胞、例えば、線維化肝細胞の細胞質に送達するのに役立ち、それにより、肝線維症の処置を可能にする。したがって、本発明は、医薬としての使用のための本発明の内在化用結合分子を提供する。「処置する」、「処置すること」、又は「処置」の語は、疾患と関連付けられる状態、症状、もしくはパラメーターを改善するのに、又は疾患の進行を防ぐのに有効な量、様式及び/又は形式で、統計学的に有意な度合いで、又は当業者にとって検出可能な度合いで、治療法を施すことを指す。治療用途の場合、処置は、対象における疾患もしくは状態を改善し得るか、治癒し得るか、維持し得るか、又はその持続期間を減少させ得る。治療用途では、対象は、症状の部分的又は完全な所見を有し得る。典型的な場合、処置は、医師によって検出可能な程度に、対象の疾患もしくは状態を改善するか、又は疾患もしくは状態の悪化を防止する。本明細書中で使用する場合、「防止する」又は「防止すること」の語は、言及される障害の症状を和らげることを意味する。とくに、上記用語は、CLD関連障害、例えば食道静脈瘤出血、及びそれらの症状の低減、それらの緩和又はそれらからの軽減を包含する、本発明の結合分子を、対象に投与することの治療上プラスの効果の完全範囲を包含する。「防止」の語は、疾患の発症の防止もしくは先延ばし、症状の発症の防止もしくは先延ばし、及び/又は発症するか、もしくはもしくは発症すると予想されるかかる症状の重篤性の低減を包含する。これらは、現存する症状を改善すること、さらなる症状を防止すること、及び症状の根底にある原因を改善又は防止することをさらに包含する。本明細書中で使用する場合、「対象」及び「患者」の語は、相互に置換可能に使用される。本明細書中で使用する場合、「対象(単数)」及び「対象(複数)」の語は、動物、例えば、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ロバ、ヤギ、ラクダ、ネコ、イヌ、モルモット、ラット、マウス、ヒツジ)及び霊長類(例えば、サル、例えばカニクイザル、テナガザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、及びヒト)を包含する哺乳動物を指す。「患者」は、好ましくは、ヒトを指す。上記患者は、あらゆる年齢の高齢者、成人、青年及び子供、例えば2歳から12歳未満の範囲の子供、12歳から18歳未満の範囲の青年、18歳から65歳未満の範囲の成人、及び85歳及びそれ以上の高齢者を包含し得る。
【0055】
好ましくは、かかる医薬は、PDGFRB及び/又はIGF2Rの発現の増加と関連付けられるか、もしくはそれを特徴とする疾患もしくは障害の防止及び/又は処置に関する方法における使用のためのものである。
【0056】
好ましくは、かかる医薬は、肝硬変、肝線維症及び/又は門脈圧亢進症の防止及び/又は処置に関する方法における使用のためのものである。例えば、門脈圧亢進症(PH)は、肝線維症に、また肝硬変の全ての段階に存在する。肝硬変では、活性化されたHSCは、それらが存在する類洞周辺で収縮する。これにより、PHを引き起こし、ここでは、肝臓における門脈系を通じて、血流が閉塞される。門脈系は、胃、腸、脾臓、及び膵臓からの大量の血液を混合する門脈で構成され、大量の血液を、より小さな血管を通じて分岐させて、肝臓全体にわたって移動させる。肝臓における血管が、肝臓損傷に起因して遮断されると、血液は、肝臓を通って適切に流れることができず、高血圧をもたらす。PHが悪化して、血流が、門脈を通じて閉塞されると、血液は、かかる大量の血液を運搬するように設計されていない食道における血管等のより小さな血管を通って再誘導される。これが、遠位の食道及び近位の胃で拡張された静脈(静脈瘤)を引き起こし、それらにより、破裂(静脈瘤出血)の危険性が増加し、重篤な内出血から致命的な内出血を引き起こす。本発明の結合分子は、肝硬変、肝線維症及び/又は門脈圧亢進症を引き起こすか、又は増悪させる細胞を標的とするのにとくに有用である。
【0057】
好ましくは、かかる医薬は、食道静脈瘤及び/又は痔と関連付けられる疾患又は障害の防止及び/又は処置に関する方法における使用のためのものである。好ましくは、かかる医薬は、静脈瘤内出血及び外出血を特徴とする疾患又は障害の防止及び/又は処置に関する方法における使用のためのものである。
【0058】
一態様では、本発明は、本発明の結合分子の少なくとも一部をコードする核酸を提供する。本発明の利点の1つは、本発明の分子の産生の容易さ及び本発明の分子の簡素さであるが、本質的に全ての必須機能をコードする単一核酸に関する選択により、得られた結合分子において他の機能性の比較的容易な付加(選択される発現ベクターにおいて余地が存在する限りは)が可能となる。かかる核酸は、適切な宿主細胞においてトランスフェクトされると、本発明の結合分子の産生を可能にする。したがって、本発明は、本発明の核酸を含む、本発明の結合分子の少なくとも一部の発現のための宿主細胞を提供する。一態様では、本発明は、本発明の結合分子を産生する方法であって、本発明の宿主細胞を培養するステップと、前記結合分子の少なくとも一部の発現を可能にするステップと、前記結合分子を収集するステップと、任意にこれまでに定義されたリンカーにより、上記治療用又は診断用の分子を、前記結合分子の前記一部にカップリングするステップとを含む上記方法を提供する。
【0059】
本発明の結合分子は、あらゆる一般的に使用される方法によって産生することができる。典型的な例として、適切な宿主系、例えば、細菌、酵母又は哺乳動物細胞における組換え発現が挙げられる。本発明の結合分子は、本発明に従って配合される前に、適切な精製レジメンを受ける。概して、本発明の結合分子は、結合分子を産生するように遺伝子操作された生存宿主細胞によって産生される。タンパク質を産生するように細胞を遺伝子操作する方法は、本技術で周知されている。例えば、Ausubel et al.,eds.(1990),分子生物学における現行プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)(Wiley,New York)を参照のこと。かかる方法は、結合分子をコードして、結合分子の発現を可能にする核酸を、生存宿主細胞に導入することを包含する。これらの宿主細胞は、培養液中で成長させた細菌細胞、真菌細胞、又は動物細胞であり得る。細菌宿主細胞として、大腸菌(Escherichia coli)細胞が挙げられるが、これに限定されない。適切な大腸菌(E.coli)株の例として、BL21(D3)、HB101、DH5a、GM2929、JM109、KW251、NM538、IMM539、及び外来DNAを切断することができないあらゆる大腸菌株が挙げられる。大腸菌株BL21(D3)が好ましい。使用することができる真菌宿細胞として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)及びアスペルギルス属(Aspergillus)細胞が挙げられるが、これらに限定されない。使用することができる動物細胞系の数少ない例は、CHO、VERO、BHK、HeLa、Cos、MDCK、HEK293、3T3及びWI38である。新たな動物細胞系は、当業者に周知されている方法を使用して(例えば、形質転換、ウイルス感染、及び/又は選択によって)確立することができる。任意に、結合分子は、宿主細胞によって、培地に分泌され得る。幾つかの態様では、結合分子は、細菌細胞において、例えば大腸菌細胞において産生することができる。
【0060】
一態様では、結合分子は、ピキア属(Pichia)(例えば、Powers et al.,J Immunol Methods 251:123-35(2001)を参照)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、又はサッカロマイセス属(Saccharomyces)等の酵母細胞において発現される。クローン抗体又はそれらの抗原結合性断片を発現するための典型的な哺乳動物宿主細胞として、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)(dhfr-CHO細胞を包含する、Urlaub and Chasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-4220(1980)に記載されている、例えば、Kaufman and Sharp,Mol.Biol.159:601-621(1982)に記載されるようにDHF選択可能マーカーとともに使用される)、リンパ球細胞系、例えば、NS0骨髄腫細胞及びSP2細胞、COS細胞、及びトランスジェニック動物、例えばトランスジェニック哺乳動物由来の細胞が挙げられる。例えば、細胞は、乳腺上皮細胞である。結合分子をコードする核酸配列に加えて、組換え発現ベクターは、宿主細胞においてベクターの複製を調節する配列(例えば、複製起点)及び選択可能マーカー遺伝子等のさらなる配列を保有し得る。選択可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(例えば、米国特許第4,399,216号、同第4,634,665号、及び同第5,179,017号を参照)。例えば、通常、選択可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞で、G418、ハイグロマイシン、又はメトトレキサート等の薬物に対して耐性を付与する。標準的な分子生物学技法を使用して、組換え発現ベクターを調製して、宿主細胞をトランスフェクトして、形質転換体に関して選択して、宿主細胞を培養して、抗体分子を培養培地から回収することができる。例えば、本発明の結合分子は、アフィニティクロマトグラフィによって単離することができる。一態様では、本発明の結合分子は、国際公開第10/058550号に記載されるように精製される。例示的な態様では、結合分子は、結合分子を支持体に結合又は吸着させることを可能にする条件下で、結合分子と混入物(単数又は複数)との混合物を、プロテインAベースの支持体及び/又はイオン交換支持体と接触させることと、結合分子が支持体に結合した状態のままである条件下で、結合を受けている支持体を洗浄することにより1つ又は2つ以上の混入物を除去することと、吸着された結合分子を、溶出緩衝液で溶出させることにより結合分子を支持体から選択的に溶出させることとによって、1つ又は2つ以上の混入物から精製される。本発明の結合分子はまた、トランスジェニック動物によって産生され得る。例えば、米国特許第5,849,992号は、トランスジェニック哺乳動物の乳腺において抗体を発現する方法について記載している。乳特異的プロモーター及び抗体分子をコードする核酸及び分泌用のシグナル配列を包含する導入遺伝子が構築される。かかるトランスジェニック哺乳動物の雌によって産生される乳は、その中に分泌された形で目的のシグナルドメインを包含する。抗体分子は、乳から精製され得るか、又は用途によっては、直接使用され得る。本発明は、本明細書中で規定されるような配合物を産生する方法を包含する。
【0061】
本発明は、本発明の少なくとも1つの結合分子と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物をさらに提供する。
【0062】
本発明の結合分子は、液体溶液(例えば、注射可能溶液及び注入可能溶液)の形態で投与され得るか、又は投与に使用され得る。かかる組成物は、非経口形式(例えば、皮下、腹腔内又は筋内注射)によって、又は吸入によって投与され得る。「非経口投与」及び「非経口投与される」という語句は、本明細書中で使用する場合、経腸及び局所投与以外の、通常は注射による投与の形式を意味し、皮下(s.c.)又は筋内投与ならびに静脈内(i.v.)、関節包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管内、表皮下、被膜下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外、及び胸骨内の注射ならびに注入を包含する。好ましくは、本明細書中に記載する本発明の結合分子の第2の用量又はさらなる用量は、徐放、したがって持続効果のために、皮下的に又は経口に投与される。好ましくは、とくに急性状況では、結合分子は、胃における取込み後に罹患した肝臓に対して直接、臓器循環を介して輸送されるため、本発明の結合分子を経口投与することが好ましい。本発明はまた、安定であり、好ましくは薬剤の調製を包含する医薬用途に適している、PDGF又はIGFに対する少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含む結合分子の配合物(「本発明の医薬組成物」とも呼ばれる)を提供する。「医薬組成物」の語は、有効成分(本発明の結合分子)の生物活性を有効にさせるような形態で存在し、また配合物が投与される対象にとって受け入れがたいほど毒性があるさらなる構成成分を含有しない調製物を指す。かかる配合物は、好ましくは滅菌である。「薬学的に許容可能な」賦形剤(ビヒクル、添加剤)は、用いられる有効成分の有効な用量を提供するように、対象哺乳動物に合理的に投与され得るものである。
【0063】
「賦形剤」の語は、本明細書中で使用する場合、配合物に有益な物理特性を付与する化合物用の希釈剤、ビヒクル、防腐剤、リオプロテクタント(lyoprotectant)、界面活性剤、結合剤、担体又は安定化剤として一般に使用される不活性物質を指す。当業者は、リオプロテクション(lyoprotection)、安定化、防腐剤等の、配合物において特定の機能を有し得る、医薬目的に適した賦形剤に精通している。
【0064】
本発明の結合分子とともに同時配合され得る作用物質の非限定的な例として、例えば、補助的な処置(例えば、(メチル)プレドニゾロン又は(メチル)プレドニゾン等の副腎皮質ステロイド、利尿薬、アルブミン、ビタミンK、抗生物質及び栄養療法及びベータ遮断薬等の全身降圧剤)及び赤血球輸血による支持療法が挙げられる。かかる併用療法は、有利には、より低投与量の投与される治療剤を利用してもよく、したがって、各種単独療法と関連付けられる考え得る毒性又は合併症を回避する。ある態様では、本発明は、全身降圧処置とともに本発明の結合分子の併用療法に関する。好ましくは、複合療法は、門脈圧が正常化されるまで提供される。門脈圧測定は、診断を確認して、疾患の経過及びさらなる処置の考え得る必要性をモニタリングするのに役立つ。本発明のあらゆる特定のタンパク質性分子の有効性又は投薬レジメンは、当業者に利用可能な方法によって決定され得る。簡潔に述べると、臨床試験の間、患者は、医療従事者によって観察される場合があり、疾患の状態は、判断基準のあらゆる組合せによって評価される。患者の疾患状態の改善は、多数の時点でこれらの判断基準に基づいて決定され、患者集団に関するこれらの決定の組合せをプロットして、処置の有効性を評価する。例示的な態様では、有効性の評価は、以下に記載される判断基準のいずれか又は全てによって測定され得る:
・時間に対する処置の応答
・完全な寛解を伴う対象の数
・EVHの増悪(を伴う対象)の数及びEVHの第1の増悪までの時間
・臓器機能不全の改善ならびにCLD関連の兆候及び症状の改善
・研究薬物処置期間(テーパリングを包含する)内の総死亡率
・CLDのバイオマーカーの決定。
【0065】
本発明の結合分子の投与量は、いわゆる上昇用量実験における動物研究及び臨床研究により確立されるべきである。通常、用量は、今日の抗体投与量に匹敵する(モルレベルで、本発明の分子の重量は、抗体の重量と異なり得る)。通常、かかる投与量は、3mg/kg~15mg/kg(体重)又は用量1回当たり25mg~1000mgである。
【0066】
とくに、肝疾患のより慢性の段階では、本発明の結合分子の第1の適用は、(少なくとも初期では)、他の処置(標準的なケア)と組み合わせて行われる蓋然性が高い。したがって、本発明はまた、本発明の結合分子と、通常療法、例えばプロプラノロール等の降圧薬又は例えば食道における静脈瘤からの出血を停止させる外科的手段とを含む、医薬組成物を提供する。さらに、本発明はまた、例えば肝疾患における、補助的処置における使用のための、本発明の結合分子を含む医薬組成物を提供する。さらに、本発明はまた、肝疾患の複合内科的処置における使用のための、本発明の結合分子を含む医薬組成物を提供する。
【0067】
したがって、理想的な治療用化合物は、プロプラノロール等の現在使用されている分子よりもはるかに強力であり、且つ他の状況では遊離薬物としてそれらの使用を可能にするには狭すぎる治療域を有するエフェクター化合物の送達を可能にすべきである。好ましくは、薬物の、ターゲティング部分への安定なコンジュゲーションは、循環における(他の状況では、毒性がある)化合物の放出によって、全身毒性を回避する。分子がHSCによって内在化されると、薬物が放出されて、HSCを不活性化することが可能となるはずである。
【0068】
好ましくは、医薬組成物は、慢性肝疾患の処置に有用な少なくとも1つの他の化合物をさらに含む。本発明の医薬組成物は、好ましくは、門脈圧亢進症の存在下での静脈瘤出血の補助的処置としての使用のため、及び/又は肝疾患の治療における使用のためのものである。診断用の分子を含む、本発明の結合分子は、例えば肝線維症の診断にとくに有用である。したがって、好ましい態様では、診断用の分子を含む、本発明の結合分子が提供され、ここでは、診断用の分子は、造影剤である。診断用の分子を含む、本発明の少なくとも1つの結合分子と、希釈剤及び/賦形剤とを含む診断用組成物がさらに提供される。
【0069】
本発明のとくに好ましい態様では、本発明の結合分子は、互いに独立して、肝星細胞及び/又は筋線維芽細胞のPDGFRB又はIGF2R受容体に特異的に結合することが可能である、少なくとも2つの単一可変ドメインを含み、それらのドメインは、シス-白金(II)錯体を含むリンカーを介して、Rho-キナーゼ阻害剤、Jak-2キナーゼ阻害剤、ネプリライシン阻害剤又はアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト等のキナーゼ阻害剤から選択される治療用の分子に連結される。好ましくは、リンカーのシス-白金(II)錯体は、不活性な二座部分、最も好ましくは、エタン-1,2-ジアミンを含む。さらに、IGF2R受容体に特異的に結合する、好ましい単一可変ドメインは、配列番号275によるCDR1配列、配列番号277によるCDR2配列及び配列番号279によるCDR3配列を含むか、又は配列番号251によるCDR1配列、配列番号253によるCDR2配列及び配列番号255によるCDR3配列を含み(すなわち、それぞれ、13F11及び13E8による)、PDGFRB受容体に特異的に結合する、好ましい単一可変ドメインは、配列番号11によるCDR1配列、配列番号13によるCDR2配列及び配列番号15によるCDR3配列、又は配列番号155によるCDR1配列、配列番号157によるCDR2配列及び配列番号159によるCDR3配列を含む(すなわち、それぞれ、SP02P及びSP26Pによる)。さらに、上記結合分子はまた、好ましくは、いわゆる半減期延長剤を含み、半減期延長剤は、アルブミン結合ドメイン、アルブミン結合VHHもしくは抗体Fcテイル又はそれらの断片から選択されることが好ましい。以下の例では、とりわけ、これらの好ましい態様の特定の種が、より詳細に記載されている。
【0070】

(例1):IGF2R又はPDGFRBに特異的なヒト抗体断片の選択。ラマ免疫化、細胞収集、ファージVHH選択及びライブラリーの構築。標的親和性及びHSC内在化に基づくVHH選択:IGF2R(ラット及びヒト)。
抗原特異的なVHHを生成及び特性決定するための一般的な手順を、図1に表す。
【0071】
1.1 IGF2R
本発明者等の目的は、ヒト及びラット肝星細胞(HSC)上の受容体IGF2Rに、特異的に且つ高い親和性で結合するVHHを同定することであった。研究用の出発材料は、予め生成したラマVHH cDNAライブラリーであった。ライブラリーは、ヒトIGF2R(hIGF2R)発現A549細胞で免疫化したラマの末梢血単核細胞から抽出したVHH配列の大規模プールからなっていた。ライブラリーサイズは、DNA形質転換時にコロニー滴定を用いて評価した場合、およそ10個のコロニー形成単位(cfu)であった。
【0072】
ファージは、A549VHHライブラリーから調製され、IGF2Rの組換えヒト細胞外ドメイン(hIGF2R-ECD)に対して、2回の選択を行った。各回において、およそ1011個のコロニー形成単位(cfu)のファージを、種々の濃度の標的上でインキュベートして、溶出して、増幅させて、続いて、次の回の選択に使用した。第2の選択回後のファージアウトプットは、第1の回よりも明らかに高く(それぞれ、1.2×10個及び3.3×10個)、VHH結合剤が増幅されていることを実証した。
【0073】
最終選択回後、94個のファージクローンを、無作為に選択して、ファージELISAにおいて、hIGF2R-ECDへの結合に関して検査した。続いて、高い結合親和性を有するクローンを、HinfI消化を使用して、それらの制限パターンによってさらに特性決定して、それらの制限パターンに従って分類した。各カテゴリーから、多数のクローンを選択して、これらの結合剤のアミノ酸配列を同定した(表2)。この選択は、A549ライブラリーに由来される15個の特有のhIGF2R結合剤全てのパネルをもたらした(図2)。
【0074】
1.2 PDGFRB
受容体PDGFRB(ラット及びヒト)に、特異的に且つ高い親和性で結合するVHHの選択を、ラマの免疫化によって開始した。各受容体に関して、表3の免疫化スケジュールに従って、2匹のラマに5回、細胞外ドメイン(ECD)を4回及びPDGFRBをトランスフェクトしたSCC VII細胞を1回注射した。rPDGFRBで免疫化した2匹のラマはまた、rIGF2Rに特異的に且つ高い親和性で結合するVHHの生成のためにrIGF2RをトランスフェクトしたSCC VII細胞でも免疫化されたことに留意しなくてはならない。最終免疫化の8日後に、血液を収集して、末梢血リンパ球(PBL)を精製して、それらのRNAを抽出した。
【表3】
【0075】
PDGFRBライブラリー(ヒト及びラットPDGFRBの両方に関する)を、下記の手順に従って創出した。ともに製造業者のプロトコールに従って、抽出したRNA(40μg、それぞれ10μgの反応を4回)を、逆転写酵素キット(Invitrogen社)を使用してcDNAに転写して、cDNAを、QIAquick PCR精製キット(Qiagen社)を用いて浄化した。IG H断片(従来の重鎖)を、リーダー配列領域及びCH2領域でアニーリングするプライマーを使用して増幅した。PCR産物を、1%アガロースゲル上に載せて、その後、700bp断片をゲルから切り出して、製造業者のプロトコールに従って、QIAquickキット(Qiagen社)を用いて精製した。続いて、精製したDNA 80ngを、ネステッドPCR用の鋳型として使用して、制限部位を導入した(最終容量800μL)。増幅した断片を、製造業者のプロトコールに従って、QIAquick PCR精製キットを用いて浄化して、溶出緩衝液120μL中に溶出した。溶出したDNAを、BstEII及びSfiIで消化し、その後、試料を、1.5% TAE-アガロースゲル上に流して、400bp断片をゲルから単離した。DNA断片を、製造業者のプロトコールに従って、QIAquick cleanupキット(Qiagen社)を用いて単離して、溶出緩衝液100μL中に溶出した。次に、DNA断片(330ng)を、ファージミドベクター(pHEN1誘導体、1μg)にライゲーションして、TG1細菌細胞に形質転換した。ライゲーション前に、ファージミドベクターを、SfiI及びBstEIIによる消化、続くFastAPによる脱リン酸化によって調製した。
【0076】
形質転換体の数を、プレートアウトしたTG1細胞(8mL)の希釈から算出した。ライブラリーの力価(表4)は、最も高い希釈においてコロニーを計数することと、以下の式を使用することとによって算出した:
ライブラリーサイズ=(コロニーの量)×(希釈)×8mL/0.005mL(スポットした容量)。インサート頻度は、ライブラリー形質転換それぞれから、24個の異なるクローンを採取することと、コロニーPCRを実行することとによって決定された。インサート頻度は、ライブラリー1、ライブラリー2及びライブラリー4に関しては100%、またライブラリー3に関しては96%であった。
【表4】
【0077】
ファージを、ライブラリーから調製して、2回の選択を行った。第1の選択回は、細胞外ドメイン(hPDGFRB-ECD又はrPDGFRB-ECD)に関して実行した。ファージを、種々の濃度の標的上でインキュベートして、溶出して、増幅して、続いて、次の回の選択に使用した。第1の選択回のファージアウトプットを、図3に表示する。第2の選択回は、結合及び内在化するファージの選択のため、hPDGFRB又はrPDGFRBのいずれかをトランスフェクトしたSCC VII細胞に関して実行した。酸洗浄を使用して、PDGFRBにのみ結合するファージを、結合後にPDGFRBを介して内在化するファージと分離した。最小のECD密度を有するウェル由来の第1の回からのアウトプットを用いて、この選択回を実行した。第2の選択回のファージアウトプットを、図4に表示する。
【0078】
第2の選択回後、94個の内在化するファージクローンを、無作為に選択して、ファージELISAにおいて、PDGFRB-ECDへの結合に関して検査した。続いて、高い結合親和性を有するクローンを、HinfI消化を使用して、制限パターン分析によって、さらに特性決定した。クローンを、それらの制限パターンに従って分類して、各カテゴリー由来の唯一のクローンを選択して、これらの結合剤のアミノ酸配列を同定して、18個の特有のhPDGFRB結合VHH及び11個の特有のrPDGFRB結合VHHを生じた(表1、図5図6)。
【0079】
(例2):VHHを含む結合分子の産生のための遺伝子の設計
VHHを産生するために、選択したVHHの遺伝子を、発現ベクターのインサートにおいて下記の配列を含有するpET-21又はpET-28ベクターにクローニングした(図7)。細菌細胞における産生されたタンパク質の、ペリプラズムへの輸送を誘導するPelB配列。IPTGによる添加時にVHHタンパク質の誘導を可能にするT7プロモーター及びターミネーター、ならびにその間にあるlacオペロン。それぞれ、抗生物質アンピシリン又はカナマイシンに対する耐性のためのアンピシリン又はカナマイシン耐性遺伝子。色素又はキナーゼ阻害剤等のペイロードを含む、準最終部分又はマレイミド修飾部分の部位選択的なコンジュゲーションに利用可能な1つの遊離C末端システインは、その1つである。ヒスチジン、EPEA又は他の親和性精製タグ及びトロンビン切断部位を使用して、必要に応じて精製タグを除去する。
【0080】
(例3):VHHドメインを含む単量体、二量体及び多量体結合分子の産生
大腸菌BL21-DE3 Codonplus(Stratagene社)を、VHHコードプラスミドDNA(例2)でヒートショック形質転換して、適切な抗生物質の存在下で成長させた。単一コロニーを採取及び使用して、2×YT(2%(w/v)グルコース、35μg/mLのクロラムフェニコール及び100μg/mLのアンピシリン又は30μg/mLのカナマイシンを補充した)10mLを接種して、接種した培地を、37℃及び180rpmで一晩インキュベートした。次に、一晩の培養液を、Terrific Broth(KPO緩衝液100mL、0.1%(w/v)グルコース及び100μg/mLのアンピシリン又は30μg/mLのカナマイシンを補充した)900mL中で1/100に希釈して、OD600が、0.5~0.8の値に達するまで、培養液を37℃及び180rpmでインキュベートして、その後、1M IPTG 1mLを培養液に添加して、タンパク質産生を誘導して、インキュベーションを、25℃及び180rpmで一晩続けた。培養液を、4℃にて4700rpmで15分間、遠心沈殿させることによって、細菌細胞を収集した後、PBS中に細菌細胞を再懸濁した(細菌培養液800mL当たりPBS 30mL)。懸濁液を2回凍結融解することによって、VHHを含有するペリプラズム内容物を細胞から放出させて、その後、懸濁液を、4℃及び4700rpmで遠心沈殿させた。Talon金属親和性樹脂(Clontech社)(細菌培養液1L当たり0.75mL)上での固定化金属アフィニティクロマトグラフィ(IMAC)精製を用いて、VHHを精製した。樹脂は、PBSで3回、予め洗浄し、その後、樹脂をペリプラズムに添加して、4℃及び15rpmで30分間インキュベートした。懸濁液を4℃及び900rpmで3分間、遠心沈殿させることによって、樹脂をペリプラズムと分離させて、PBS中の0.05%(v/v)TWEEN20で洗浄した後、PBSで2回の洗浄ステップを行った。続いて、樹脂を、Poly-Prepクロマトグラフィカラム(Bio-Rad社)に添加して、続いて、非特異的に結合したタンパク質を、PBS中の15mMイミダゾール溶液1mLで予め溶出させ、その後、目的のタンパク質を、PBS中の150mMイミダゾール溶液で溶出させた。収集した画分のタンパク質濃度を、NanoDrop 1000分光光度計(TermoFisher Scientific社)で280nm(1Ab=1mg/mLで設定)にて測定し、VHHを含有する画分をプールして、3.5kDa MWCO SnakeSkin Dialysisチューブ(TermoFisher Scientific社)を用いて、4℃で一晩、PBS中の1mM TCEP-HClの溶液に対して透析した。精製したタンパク質を分注して、-20℃で保存した。SDS-PAGEで、およそ15KDaのはっきりした唯一のバンドによって明らかであるように、クローンは全て、首尾よく精製された。
【0081】
(例4):単量体VHHドメインの特性決定。
4.1 IGF2R
15個の特有のhIGF2R結合剤(例1.1、図2)を、例2及び例3に記載されるように産生及び精製した。hIGF2R-ECDに関する結合アッセイにより、見かけの親和性を決定した。簡潔に述べると、1μMから始まって、3倍段階VHH希釈物を、hIGF2R-ECDでコーティングしたプレート上に添加した。2時間のインキュベーション後、プレートを洗浄して、VHH特異的IgG抗体、続くIRD800CWコンジュゲートIgG特異的抗体を使用して、結合したVHHを検出した。結合アッセイの結果を、図2に表示する。VHH 13F11もまた、C末端遊離システインを用いて産生し、マレイミド化学反応を使用して、Alexa Fluor 647にコンジュゲートした(図8Aの13F11-A647、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)。この構築物を用いた滴定ELISA(647nmでの直接的な読取り)を、hIGF2R-ECDに関して実行して、部位特異的コンジュゲーション後に、親和性が影響されるかどうかを決定した(図8B)。一部位特異的結合分析を使用して、K及びBmaxをGraphpad(バージョン8.3)において算出した(図8C)。13F11-A647の算出した親和性は、1.00±0.61nM(K±SEM、n=2)であった。それは、コンジュゲートされてない13F11に関して算出された親和性(0.23±0.05nM(K±SEM、n=2))よりもわずかに低い。これにより、C末端遊離末端への部位特異的コンジュゲーションは、親和性において、わずかな、しかし許容可能な減少を引き起こすことが示唆される。
【0082】
4.1 PDGFRB
18個の特有のhPDGFRB結合剤及び11個の特有のrPDGFRB結合剤(例1.2、図5及び図6)を、例2及び例3に記載されるように産生及び精製して、それぞれ、hPDGFRB-ECD及びrPDGFRB-ECDに関する結合アッセイにより、見かけの親和性を決定した。結果は、それぞれ、hPDGFRB VHH及びrPDGFRB VHHに関して、図5及び図6に概要する。続いて、ECDに関して高い結合親和性を有するhPDGFRB及びrPDGFRB結合VHHを、それぞれ、図9A及び図9BにおけるhPDGFRB及びrPDGFRBをトランスフェクトしたSCC VII細胞に関する結合に関して検査した。さらに、hPDGFRB VHHヒトの結合親和性もまた、ヒト肝星細胞(HSC)系LX-2で決定した(図5)。
【0083】
(例5):ビパラトピック結合分子の構築を可能にするための、非重複受容体エピトープへのVHH結合の決定
5.1 IGF2R VHH
15個のhIGF2R特異的結合剤のパネル(図2)から、VHH 13A8、13A12、13C11、13E8、13F11及び13G10を、さらなる特性決定用に選択した。競合アッセイを実施して、選択したVHHが、hIGF2R上の別個のエピトープを認識するかどうかを決定した。このために、不飽和量(10nM)の、Alexa Fluor 647にコンジュゲートされた13F11(13F11-A647、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)を、コンジュゲートされていない競合体(250nM)の存在下で、固定化hIGF2R-ECDとともにインキュベートした(図10)。13F11-A647+13F11とのhIGF2R-ECDのインキュベーションを陽性対照として使用し、13F11-A647のみとのhIGF2R-ECDのインキュベーションを使用して、最大蛍光強度を定めた。VHH 13A8は、VHH 13F11との完全な競合を示し、これらの2つのVHHが、重複エピトープを(少なくとも部分的に)認識することが実証された。他のVHHのうち、13E8のみが、13F11と競合せず、13F11及び13E8は、非重複エピトープを認識することが実証された。したがって、2つのVHHは、ビパラトピックVHH構築物に関する構成要素として適格である。
【0084】
5.2 PDGFRB VHH
競合ELISAを実行して、hPDGFRB特異的結合剤(図5)及びrPDGFRB特異的結合剤(図6)が、それぞれ、hPDGFRB又はrPDGFRB上の別個のエピトープを認識するかどうかを決定した。hPDGFRB結合VHH SP02P、SP05P、SP12P及びSP14PならびにrPDGFRB結合剤SP26Pを、IRDye800CWにコンジュゲートして(VHH-IRDye800CW、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)、コンジュゲートされたVHHをそれぞれ、3倍段階希釈で、コンジュゲートされてない競合体と混合して、固定化hIGF2R-ECDに関してインキュベートした。コンジュゲートされていないVHHの濃度が増加すると、VHH-IRDye800CWの蛍光シグナルが減少する場合、2つのVHHは、同じエピトープ(の一部)を共有している。hPDGFRB結合VHH及びrPDGFRB VHHに関する競合アッセイによって決定されるエピトープを、それぞれ、図5及び図6に概要する。さらに、セクション5.1に記載されるのと類似した方法を使用して、hPDGFRB結合VHH SP02Pと、rPDGFRB結合VHH SP26Pとの間の結合エピトープ競合を実施した。2つのVHH間で、競合は観察されず、それらを、ビパラトピック結合分子用の構成要素として認定した。
【0085】
(例6):ビパラトピックVHHの構築及び特性決定
6.1 IGF2R
VHH 13F11及び13E8は、非重複受容体エピトープに対するそれらの高い親和性及び結合に基づいて、ビパラトピック及び二価VHH構築物の設計用に選択された。2つのVHHを、3つのGly-Gly-Gly-Gly-Ser反復からなる可撓性リンカーと融合させた(図8A)。配列は、大腸菌における発現に関してコドン最適化され、GeneArtからの合成DNA断片として得られた。VHHをコードするDNA断片を、部位特異的コンジュゲーション用のC末端遊離システイン及びIMAC精製用のHis6タグを導入しているベクターpET28ベースのベクターにクローニングした(図8A)。構築物を、例3に記載されるように、産生及び精製した。構築物を、Alexa Fluor 647にコンジュゲートして(例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)、組換えhIGF2R-ECDに関する滴定ELISA(例4.1に記載されるように)を実施して、K及びBmaxを決定した(一部位特異的結合分析を使用して、Graphpad(バージョン8.3)において算出した)(図8C)。13F11、13F11-13F11、13F11-13E8及び13E8-13F11に関する、算出した親和性は、それぞれ、1.00±0.61nM(K±SEM、n=2)、3.10±0.87nM、2.5±1.87nM及び2.5±1.56nM(K±SEM、n=2)である(図8C)。
【0086】
13F11-13E8が、rIGF2Rに対して交差反応性であるかどうかを決定するために、構築物を、IRDye800CWにコンジュゲートして(13F11-13E8-IRDye800CW、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)、ヒト又はラットIGF2Rのいずれかを過剰発現するSCC VII細胞に関する結合アッセイを使用して、結合親和性を決定した(図12)。13F11-13E8-IRDye800CWは、図12に示されるように、匹敵する親和性(10nM未満)で、ヒト及びラットIGF2Rの両方に結合し、これにより交差反応が確認される。
【0087】
次に、13F11-13E8を、Johansson et al(細菌アルブミン結合モジュールに関する構造、特異性、及び相互作用の機序(Structure,specificity,and mode of interaction for bacterial albumin-binding modules),J.Biol.Chem.2002(277):8114-8120)に記載されるように、アルブミン結合ドメイン(ABD)の形態で、in vivo半減期延長剤を包含するように、遺伝的に再度操作し、続いて、例3に記載されるように、産生及び精製した。次に、13F11-13E8-ABDを、IRDye800CWにコンジュゲートして(F11E8-ABD-IRD800、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)、ビパラトピックVHHならびにABD単位の結合親和性を決定した。F11-E8-ABD-IRD800に関して、hIGF2R-ECDへの低ナノモル結合親和性が見られ、ABDドメインの付加が、ビパラトピックF11-E8の、hIGF2Rへの結合に対して効果がないことを示した(図13A)。F11-E8-ABD-IRD800の、ラット血清アルブミン(RSA)に対する結合親和性(K)は、30nMであり、マウス血清アルブミン(MSA)及びヒト血清アルブミン(HSA)に対して、結合親和性は、およそ200nMであった。ウシ血清アルブミン(BSA)に対して、結合は観察されなかった(図13B)。
【0088】
構築物を、Alexa Fluor 488にコンジュゲートすること(FE-A-A488、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)によって、初代活性化ラット肝星細胞(HSC)への結合実験において、F11-E8-ABDの交差反応性をさらに評価した。活性化HSCは、硬変胆管結紮(BDL)ラットの灌流肝臓から得られ、HSCは、密度勾配遠心分離を使用して単離した。細胞を培養液中に6日間保持して、完全な活性化を可能にし、続いて、50nM FE-A-A488で染色した。アルファ-平滑筋アクチン(a-SMA)を用いたさらなる染色によって、活性化を決定した。FE-A-A488は、図14において見られるように、ラットHSCに結合し、長アクチンポリマー、又はいわゆるストレスファイバーの存在によって、活性化が確認された(図14)。
【0089】
6.2 PDGFRB
VHH SP02P、SP12P、SP14P及びSP26Pは、非重複hPDGRBエピトープに対するそれらの高い親和性及び結合に基づいて、ビパラトピックVHH構築物の設計用に選択され、例6.1に記載されるのと類似した方法で産生された(図15A)。ビパラトピック構築物の結合親和性を、ペリプラズムを用いたELISAアッセイで決定した(図15A)。VHH SP26P及びSP28Pは、非重複rPDGRBエピトープに対するそれらの高い親和性及び結合に基づいて、ビパラトピックVHH構築物の設計用に選択され、例6.1に記載されるのと類似した方法で産生された。生成されたビパラトピックSP28P-SP26Pを、IRDye800CWにコンジュゲートして(SP28P-SP26P-IRDye800CW、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)、hPDGFRB、rPDGFRB又はhIGF2RをトランスフェクトしたSSC VII細胞に関する結合アッセイに供した(図15B)。構築物は、rPDGFRBに対して非常に高い親和性を示した(1nM未満のK)一方で、hPDGFRBに対する結合親和性は、数桁低い。hPDGFRB及びrPDGFRBに関して交差反応性であるビパラトピックVHH構築物を創出するために、hPDGFRBへのVHH SP02P結合及びrPDGFRBへのVHH SP026P結合を選択して、ビパラトピック構築物SP02P-SP26Pを、例6.1に記載されるのと類似した方法で産生した(図15C)。構築物SP02P-SP26Pを、IRDye800CWにコンジュゲートして(SP02P-SP26P-IRDye800CW、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)、hPDGFRB、rPDGFRB又はhIGF2RをトランスフェクトしたSSC VII細胞に関する結合アッセイに供した(図15C)。hPDGFRB及びrPDGFRBの両方に対する結合親和性は、5nM未満であり、本発明の結合分子における使用にとくに有望であるビパラトピックSP02P-SP26Pを作製する。
【0090】
(例7):アルブミン結合ドメインの付加による13F11-13E8の、ラットにおけるin vivo薬物動態の改善
13F11-13E8-ABDのin vivo薬物動態特性を、健常なスプラーグドーリーラットにおいて、ABD部分を有さない13F11-13E8と比較した。簡潔に述べると、ラットに、およそ3mg/kg(体重)で静脈内投薬して、血液試料を、種々の時点で採取して、固定化hIGF2R-ECDに関してELISAを使用して、VHH構築物の濃度を決定した。13F11-13E8-ABDピーク血清レベル(Cmax)は、図13Cに示されるように1000nMを上回った。およそ20ナノモルを動物に注入して、推定血清容量10mLで、このCmaxは、注入した用量のおよそ50%に相当し、注入した用量の50%が、投薬後の1時間、循環中に依然として存在しており、良好なバイオアベイラビリティを示した。他方で、13F11-13E8は、循環から迅速に浄化され、注射後2時間以内にはもう、検出することができなかった(図13C)。
【0091】
(例8):小分子キナーゼ阻害剤:Y27632、パクリチニブ、サクビトリル(at)、ロサルタンを用いた場合の、Lx準最終複合体及びマレイミド官能基化部分の合成、ならびに分析による特性決定
8.1.本発明の状況で利用することができるY27632-Lx(準最終部分)SFM及びY27632マレイミド官能基化部分の構造
【化1-1】

【化1-2】

【化1-3】
【0092】
8.1.1.Y27632-Lx-Cl(1a)の合成、及び分析による特性決定
【化2】
【0093】
AgNO(85mg、500μmol、1.0当量)を、乾燥DMF(24.8mL)中のPtCl(エタン-1,2-ジアミン)(LxCl;163mg、500μmol、1.0当量)の懸濁液に添加した。混合物を、暗所にてアルゴン雰囲気下で、室温で一晩攪拌した。その後、懸濁液を、0.2μmのシリンジフィルターに通して濾過して、活性化Pt錯体の20.2mMストック溶液を得た。次に、MilliQ水(14mL)中のY27632×2HCl(40mg、125μmol、1.0当量)の溶液(1M NaOHを使用して、pHを6.95に調節した)に、上記で調製した、活性化Pt錯体の20.2mMのストック溶液(12.4mL、250μmol、2.0当量)を添加した。反応混合物を、暗所にてアルゴン雰囲気下で、60℃で4.5時間攪拌した。続いて、反応混合物を、0.2μmフィルターに通して濾過して、0.9%NaClを溶液に添加して(1mL)、その後、溶媒を減圧下で除去した。残渣を、MilliQ水/MeOH(85:15、6mL)中に溶解して、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:36分以内に15%~35%の水/0.1%TFA中のMeOH/0.1%TFA)によって実施した。生成物画分を凍結乾燥して、無色固体として、生成物1aが得られた(41.8mg、収率43.8%)。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 8.57 - 8.47 (m, 2 H), 7.74 - 7.68 (m, 2 H), 6.09 - 5.78 (m, 2 H), 5.72 - 5.40 (m, 2 H), 3.21 - 3.11 (m, 1 H), 2.80 - 2.51 (m, 4 H), 2.48 - 2.37 (m, 1 H), 2.10 - 2.01 (m, 2 H), 1.98 - 1.84 (m, 2 H), 1.67 - 1.51 (m, 3 H), 1.32 - 1.15 (m, 5 H).
195Pt NMR (86.0 MHz, CD3OD): δ -2512.
【0094】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が95.6%純粋であることが示された(保持時間15.8分;勾配:18分以内に5%~25%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0095】
8.1.2.Y27632-Lx-I(1c)の合成、及び分析による特性決定
【化3】

MilliQ水(125μL)中のY27632×2HCl(10mg、31μmol、1.0当量)及びPt(エタン-1,2-ジアミン)I(LxI;14.90mg、29μmol、0.95当量)を、乾燥DMF(250μL)中に溶解して、反応混合物を、60℃で48時間振盪した。次に、反応混合物を、MilliQ/MeOH(1:1、3mL)中の10mM NaIで希釈して、25℃で1時間インキュベートし、その後、懸濁液を、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:40分以内に15%~50%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeOH(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeOH(+0.1%TFA))によって実施した。生成物含有画分を収集して、凍結乾燥して、黄色固体として、生成物1cが得られた(11.0mg、収率41.1%)。
HRMS (ESI+) C16H29N5OPt [M+H]+ 629.1065, 実測値629.1092.
【0096】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が99.1%純粋であることが示された(保持時間13.3分;勾配:20分以内に5%~50%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0097】
8.1.3.Mal-PEG-Val-Cit-PAB-Y27632(1e)の合成、及び分析による特性決定
【化4】
【0098】
Y27632×2HCl(18mg、56μmol、1.0当量)、Mal-PEG-Val-Cit-PAB-PNP(49mg、56μmol、1.0当量)及びトリエチルアミン(19.6μL、112μmol、2.0当量)を、乾燥DMSO(1mL)中に溶解し、反応混合物を、25℃で45分間攪拌した。次に、反応混合物を、MilliQ/MeOH(1:1、3mL)で希釈して、その後、懸濁液を、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:80分以内に20%~40%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeCN(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeCN(+0.1%TFA))によって実施した。生成物含有画分を収集して、凍結乾燥して、黄色固体として、生成物1eが得られた(22.3mg、収率36.3%)。
HRMS (ESI+) C48H70N9O13[M+H]+ 980.5088, 実測値980.5093.
【0099】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が97.1%純粋であることが示された(保持時間10.1分;勾配:20分以内に20%~100%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0100】
8.1.4.Mal-Val-Cit-PAB-Y27632(1f)の合成、及び分析による特性決定
【化5】
【0101】
Y27632×2HCl(20mg、62μmol、1.0当量)、Mal-Val-Cit-PAB-PNP(48mg、66μmol、1.05当量)及びトリエチルアミン(22.2μL、125μmol、2.0当量)を、乾燥DMSO(1mL)中に溶解し、反応混合物を、25℃で45分間攪拌した。次に、反応混合物を、MilliQ/MeOH(1:1、3mL)で希釈して、その後、懸濁液を、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:80分以内に20%~40%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeCN(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeCN(+0.1%TFA))によって実施した。生成物含有画分を収集して、凍結乾燥して、黄色固体として、生成物1fが得られた(23.5mg、収率39.2%)。
HRMS (ESI+): C43H60N9O9[M+H]+ 846.4509, 実測値846.4472.
【0102】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が95.6%純粋であることが示された(保持時間10.5分;勾配:20分以内に20%~100%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0103】
8.2.本発明の状況で利用することができるサクビトリル-Lx SFMの構造
【化6-1】

【化6-2】

【化6-3】
【0104】
8.2.1.サクビトリル-py-Lx-I(2c)の合成、及び分析による特性決定
【化7】
【0105】
8.2.1.1.サクビトリル-pyの合成、及び分析による特性決定
【化8】
【0106】
サクビトリルヘミカルシウム(100mg、0.232mmol、1.0当量)、ピリジン-4-イルメタノール(30mg、0.279mmol、1.2当量)及びDMAP(3mg、0.023mmol、0.1当量)を、乾燥DMF(1.5mL)中に溶解した。続いて、EDC×HCl(67mg、0.348mmol、1.5当量)及びさらなるDMF(0.5mL)を添加した。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下で、室温で4日間攪拌した。反応混合物を水(20mL)で希釈して、EtOAc(2×20mL)で抽出した。有機相をNaSOで乾燥させて、濾過して、溶媒を減圧下で除去した。残渣を、シリカによるカラムクロマトグラフィによって精製し(溶離液:0~3%のMeOH/DCM)、無色固体を得た(73mg、収率62.4%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.58 (d, 2 H), 7.60 - 7.54 (m, 2 H), 7.54 - 7.49 (m, 2 H), 7.46 - 7.40 (m, 2 H), 7.37 - 7.30 (m, 1 H), 7.27 - 7.22 (m, 4 H), 5.62 (d, 1 H), 5.13 (s, 2 H), 4.31-4.19 (m, 1 H), 4.13 (q, 2 H), 2.89 - 2.80 (m, 2 H), 2.76 - 2.69 (m, 2 H), 2.66 - 2.50 (m, 2 H), 2.49 - 2.42 (m, 2 H), 1.99-1.90 (m, 1 H), 1.59-1.49 (m, 1 H), 1.24 (t, 3 H), 1.16 (d, 3 H).
HRMS (ESI+) C30H35N2O5[M+H]+ 計算値503.2540, 実測値503.2599.
【0107】
8.2.1.2.サクビトリル-py-Lx-I(2c)の合成、及び分析による特性決定
【化9】
【0108】
Pt(エタン-1,2-ジアミン)I(LxI;76.0mg、149.2μmol、5当量)を、乾燥DMF(200μL)中のサクビトリル-py(15.0mg、29.8μmol、1.0当量)の溶液中に溶解して、反応混合物を、25℃で22時間振盪した。次に、反応混合物を、水/MeOH(1:1、3mL)で希釈して、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:40分以内に45%~100%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeOH(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeOH(+0.1%TFA))によって実施した。生成物含有画分を収集して、凍結乾燥して、黄色固体を得た(14mg、収率47.0%)。
HRMS (ESI+) C32H42IN4O5 195Pt [M]+ 計算値884.1845, 実測値884.1856.
【0109】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が95.8%純粋であることが示された(保持時間15.9分;勾配:20分以内に20%~100%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0110】
8.2.2.サクビトリル-CHCHNHCO-py-Lx-I(2o)の合成、及び分析による特性決定
【化10】
【0111】
8.2.2.1.2,3,5,6-テトラフルオロフェニル3-(ピリジン-4-イル)プロパノエートの合成、及び分析による特性決定
【化11】
【0112】
3-(ピリジン-4-イル)プロピオン酸(500mg、3.3mmol、1.0当量)、2,3,5,6-テトラフルオロフェノール(604mg、3.6mmol、1.1当量)及びEDC×HCl(761mg、4.0mmol、1.2当量)を、乾燥DCM(10mL)中に溶解した。得られた混合物を、室温で16時間攪拌した。続いて、混合物を、0.1M HCl(2回)、食塩水(1回)で抽出して、NaSOで乾燥させて、その後、溶媒を減圧下で除去した。反応により、白色固体が得られた(530mg、収率47.7%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.49 (m, 2 H), 7.91 (m, 1 H), 7.35 (d, 2 H), 3.21 (t, 2 H), 3.02 (t, 2 H).
【0113】
8.2.2.2.N-(ヒドロキシエチル)-3-(ピリジン-4-イル)プロパンアミドの合成、及び分析による特性決定
【化12】
【0114】
3-(ピリジン-4-イル)プロピオン酸-TFP(478mg、1.6mmol、1.0当量)、2-アミノ-エタノール(98mg、1.6mmol、1.0当量)及びDIPEA(222μL、1.6mmol、1.0当量)を、乾燥DCM(10mL)中に溶解した。得られた混合物を、室温で1時間攪拌した。続いて、溶媒を減圧下で除去して、残渣を、シリカによるカラムクロマトグラフィによって精製し(溶離液:0~3%のMeOH/DCM)、無色固体を得た(260mg、収率83.3%)。
1H NMR (400 MHz, CD3OD): δ 8.36 - 8.44 (m, 2 H), 7.31 (d, 2 H), 3.54 (t, 2 H), 3.26 (t, 2 H), 2.97 (t, 2 H), 2.55 (t, 2 H).
【0115】
8.2.2.3.サクビトリル-CHCHNHCO-pyの合成、及び分析による特性決定
【化13】
【0116】
サクビトリルヘミカルシウム(200mg、0.487mmol、1.0当量)、N-(2-ヒドロキシエチル)-3-(ピリジン-4-イル)プロパンアミド(114mg、0.584mmol、1.2当量)及びDMAP(6mg、0.049mmol、0.1当量)を、乾燥DMF(1.5mL)中に溶解した。続いて、EDC×HCl(140mg、0.751mmol、1.5当量)及びさらなるDMF(0.5mL)を添加した。得られた混合物を、アルゴン雰囲気下で、室温で20時間攪拌した。反応混合物を水(20mL)で希釈して、EtOAc(2×20mL)で抽出した。有機相をNaSOで乾燥させて、濾過して、溶媒を減圧下で除去した。残渣を、シリカによるカラムクロマトグラフィによって精製し(溶離液:0~5%のMeOH/DCM)、無色固体を得た(99mg、収率33.5%)。
HRMS (ESI+) C35H41IN3O6 [M+H]+ 計算値588.3068, 実測値588.3083.
【0117】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が100%純粋であることが示された(保持時間14.0分;勾配:20分以内に20%~100%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0118】
8.2.2.4.サクビトリル-CHCHNHCO-py-Lx-I(2o)の合成、及び分析による特性決定
【化14】
【0119】
Pt(エタン-1,2-ジアミン)I(LxI;34.6mg、272.8μmol、4.0当量)を、乾燥DMF(416μL)中のサクビトリル-CHCHNHCO-py(40.0mg、68.2μmol、1.0当量)の溶液中に溶解して、反応混合物を、50℃で27時間振盪した。次に、反応混合物を、水/MeOH(1:1、3mL)で希釈して、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:40分以内に65%~90%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeOH(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeOH(+0.1%TFA))によって実施した。生成物含有画分を収集して、凍結乾燥して、黄色固体を得た(26.7mg、収率36.2%)。
HRMS (ESI+) C36H49IN5O6 195Pt [M]+ 計算値969.2370, 実測値969.2388.
【0120】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が96.4%純粋であることが示された(保持時間15.2分;勾配:20分以内に20%~100%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0121】
8.3.本発明の状況で利用することができるパクリチニブ-Lx SFM及びマレイミド官能基化パクリチニブ部分の構造
【化15-1】

【化15-2】
【0122】
8.3.1.パクリチニブ-Lx-I(3c)の合成、及び分析による特性決定
【化16】
【0123】
パクリチニブ(20mg、42.3μmol、1当量)及びPt(エタン-1,2-ジアミン)I(LxI;96.9mg、190.4μmol、4.5当量)を、乾燥DMF(250μL)中に溶解して、反応混合物を、60℃で48時間振盪した。次に、反応混合物を、水/MeOH(1:1、3mL)で希釈して、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:40分以内に45%~80%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeOH(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeOH(+0.1%TFA))によって実施した。生成物含有画分を収集して、凍結乾燥して、黄色固体として、化合物3cが得られた(13.1mg、収率28.6%)。
HRMS (ESI+) C30H41IN6O3 195Pt [M]2+ 計算値427.5962, 実測値427.5999.
【0124】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が92.7%純粋であることが示された(保持時間10.7分;勾配:20分以内に20%~100%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0125】
8.3.2.Mal-PEG-Val-Cit-PAB-パクリチニブ(3e)の合成、及び分析による特性決定
【化17】
【0126】
8.3.2.1.Mal-PEG-Val-Cit-PAB-Clの合成、及び分析による特性決定
【化18】
【0127】
Mal-PEG-Val-Cit-OH(10mg、14.2μmol、1.0当量)を、DMF(200μL)中に溶解して、氷/水浴中で0℃に冷却した。続いて、塩化チオニル(1.9mg、15.6μmol、1.1当量)を添加して、混合物を、0℃で15分間攪拌し、その後、溶媒を減圧下で除去した。
HRMS (ESI+) C33H49 35ClN6O10[M+H] + 計算値725.3271, 実測値725.3298.
【0128】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が90%を上回って純粋であることが示された(保持時間9.6分;勾配:20分以内に20%~50%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeCN(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeCN(+0.1%TFA)。波長273nmで測定した)。
【0129】
8.3.2.2.Mal-PEG-Val-Cit-PAB-パクリチニブ(3e)の合成、及び分析による特性決定
【化19】
【0130】
パクリチニブ(6.7mg、14.2μmol、1.0当量)を、DMF(300μL)中に溶解して、Mal-PEG-Val-Cit-Cl(10.3mg、14.2μmol、1.0当量)に添加した。続いて、DIPEA(4.6mg、35.5μmol、2.5当量)及びヨウ化テトラブチルアンモニウムを添加して(1.0mg、2.8μmol、0.2当量)、混合物を、60℃で24時間攪拌した。生成物生成は、HRMSによって確認した。
HRMS (ESI+) C61H81N10O13[M+H] + 計算値1161.5979, 実測値1161.5886.
【0131】
8.4.本発明の状況で利用することができるロサルタン-Lx SFMの構造
【化20】
【0132】
8.4.1.ロサルタン-Lx-Cl(4a)の合成、及び分析による特性決定
【化21】
【0133】
AgNO(26.1mg、153.3μmol、1.0当量)を、乾燥DMF(8.3mL)中のPtCl(エタン-1,2-ジアミン)(LxCl;50mg、153.3μmol、1.0当量)の懸濁液に添加して、暗所にてアルゴン雰囲気下で、室温で一晩攪拌した。次に、懸濁液を、0.2μmのシリンジフィルターに通して濾過して、活性化Pt錯体の18.5mMストック溶液を得た。続いて、乾燥DMF(500μL)中のロサルタンカリウム(20mg、43.4μmol、1.0当量)の溶液に、上記で調製した、活性化Pt錯体の18.5mMのストック溶液(1.76mL、32.5μmol、0.75当量)を添加した。反応混合物を、22℃で1.5時間攪拌した。続いて、1M HCl(70.4μL、2当量)及び0.9%NaCl(1mL)を混合物に添加して、その後、溶媒を減圧下で除去した。残渣を、MilliQ水/MeOH(1:1、3mL)中に溶解して、0.2μmシリンジフィルターに通して濾過した。精製は、分取用逆相HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、22×250mm;勾配:40分以内に20%~50%のB、但し、溶離液A:95/5の水/MeCN(+0.1%TFA)及び溶離液B:5/95の水/MeCN(+0.1%TFA))によって実施した。生成物含有画分を凍結乾燥して、無色固体として、生成物4aが得られた(11mg、収率47.4%)。
HRMS (ESI+) C24H31 35Cl2N8O195Pt [M]+ 計算値712.1641, 実測値712.1628.
【0134】
HPLC(Grace Alltima C18 5μmカラム、25×4.6mm)により、生成物が94.3%純粋であることが示された(保持時間9.6分;勾配:18分以内に5%~25%の水/0.1%TFA中のMeCN/0.1%TFA。波長273nmで測定した)。
【0135】
(例9):準最終複合体及びマレイミド官能基化部分の、本発明の結合分子へのコンジュゲーション。
9.1.Lx SFMの、結合分子へのコンジュゲーション
ビパラトピック13F11-13E8(分子量およそ27.9kD、105μL、5nmol、1.33mg/mL、1.0当量)を、ホウ酸緩衝液(20μL、250mMホウ酸ナトリウム、250mM NaCl、及び10mMジエチレントリアミン五酢酸、pH8.0)及びHO(200μL)で希釈して、その後、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩の溶液(TCEP×HCl;2μL、HO中に10mM、10nmol、2.0当量)を添加した。混合物を、サーモシェーカーにおいて、37℃で2時間インキュベートした。同時に、SFM 1cの溶液(10μL、20mM NaI中に5mM、50nmol、10.0当量)を、チオ尿素の水溶液(10μL、20mM)と混合して、サーモシェーカーにおいて、37℃で2時間インキュベートした。続いて、上記で調製した、本発明の結合分子及びチオ尿素で処置したSMFの溶液を混合して、サーモシェーカーにおいて、37℃で1時間インキュベートした。コンジュゲートを、10kDa MWCOフィルターを使用したスピン濾過によって精製して(PBSで4回洗浄)、その後、コンジュゲートを、PBS中で復元及び保存した。Y27632対13F11-13E8比は、SEC-MSによって決定される場合、1.0であった。
【0136】
9.2.マレイミド官能基化部分の、結合分子へのコンジュゲーション
ビパラトピック13F11-13E8(分子量およそ27.9kD、105μL、5nmol、1.33mg/mL、1.0当量)を、ホウ酸緩衝液(20μL、250mMホウ酸ナトリウム、250mM NaCl、及び10mMジエチレントリアミン五酢酸、pH8.0)及びHO(200μL)で希釈して、その後、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩の溶液(TCEP×HCl;2μL、HO中に10mM、120nmol、2.0当量)を添加した。混合物を、サーモシェーカーにおいて、37℃で2時間インキュベートした。続いて、上記で調製した、本発明の結合分子の溶液を、マレイミド官能基化部分1e(2.5μL、DMSO中に10mM、50nmol、10.0当量)と混合して、0℃で1時間インキュベートした。コンジュゲートを、10kDa MWCOフィルターを使用したスピン濾過によって精製して(PBSで4回洗浄)、その後、コンジュゲートを、PBS中で復元及び保存した。Y27632対13F11-13E8比は、SEC-MSによって決定される場合、1.0であった。
【0137】
(例10):VHHの内在化
10.1 IGF2R VHH
一価13F11及びビパラトピック13F11-13E8が、hIGF2R発現細胞において内在化されるかどうかを評価するために、A549細胞(図16A)及びhIGF2Rを一過的にトランスフェクトしたNIH 3T3 2.2細胞(図16B)を、ALexa Fluor 647にコンジュゲートされた25nM VHH(例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)とともにインキュベートした。hIGF2Rトランスフェクト細胞NIH 3T3 2.2でのIGF2R発現を検出するために、マウス抗IGF2R mAbが包含され(図16B、右の欄)、mAbは、Alexa Fluor 555にコンジュゲートされたヤギ抗マウスmAbで検出された。さらに、偽トランスフェクトNIH 3T3 2.2細胞を、13F11及び13F11-13E8とともにインキュベートした(図16C)。確実に内在化されたVHH又はマウス抗IGF2Rのシグナルのみが存在することを確実にするために、酸洗浄(0.2Mグリシン-HCl、150mM NaCl、pH2.3)を使用して、細胞表面上の標的受容体に結合したVHH又はマウス抗IGF2Rを除去した。hIGF2RトランスフェクトNIH 3T3 2.2細胞を、氷上で13F11-13E8-A647とインキュベートすることと、続いて、これらの細胞を、氷上に残したまま、酸洗浄で処置して、内在化を防止することとによって、酸洗浄手順の効率を検証した(図10D)。ビパラトピック13F11-13E8は、A549細胞において明らかに内在化したのに対して、一価13F11に関しては、内在化は観察されなかった(図16A)。他方で、VHHはともに、hGF2Rを一過的にトランスフェクトしたNIH 3T3 2.2細胞では内在化しなかったが、13F11-13E8に関しては、より高い強度の染色が観察された(図16B)。内在化の差は、おそらく標的細胞上のIGF2R発現レベルの差に関係している。予想通り、VHH構築物はともに、偽トランスフェクトNIH 3T3 2.2細胞では内在化しなかった(図16C)。酸洗浄対照実験により、酸洗浄処置は、膜結合性VHH全てを除去するのに十分であることが示された(図16D)。まとめると、ビパラトピック13F11-13E8は、細胞表面上でhIGF2Rを発現する細胞において、明らかに内在化する。
【0138】
ビパラトピック構築物13F11-13E8及び13E8-13F11の内在化速度(エンドサイトーシス速度定数、k)を、hIGF2R及びrIGF2RをトランスフェクトしたSCC-VII細胞に関する動力学的内在化アッセイを用いて決定した。簡潔に述べると、10nMのIRD800CWコンジュゲート13F11-13E8又は13E8-13F11(例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)を、hIGF2R発現SCC細胞又はrIGF2R発現SCC細胞に添加して、37℃で、種々の時点から最大12分までの間、インキュベートした。次に、細胞を氷上に置くことによって、内在化を意図的に停止させた。続いて、細胞を冷PBSで洗浄して、上述するように、内在化しないVHH構築物(結合した画分)を、酸洗浄を使用して、内在化した構築物(内部移した画分)と分離して、その後、両方の画分の蛍光を測定した。構築物はともに、hIGF2R発現SCC細胞において、類似したエンドサイトーシス速度定数(kおよそ1.5分-1)で内在化する(図17)。経時的な蛍光の明らかな増加が、図17において示され得るように、rIGF2R発現SCC細胞においても、内在化が観察された(kおよそ0.7分-1)。
【0139】
生存活性化HSC LX-2における一価13F11ならびにビパラトピック13F11-13E8及び13E8-13F11の内在化を、pHrodo pH依存性プローブ(ThermoFisher Scientific社)を使用して可視化した。pHプローブは、周囲のpHが結果的に減少するため、より蛍光性になっている。エンドソーム及びリソソームは、細胞質pH7.0と比較して、それぞれ、6.5及び4.5で維持されたpHを有し、したがって、VHH-pHrodo構築物の内在化は、それが、エンドソーム経路を介して内在化する場合に可視化させることができる。LX-2細胞を、50nMのpHrodo-redコンジュゲート13F11、13F11-13E8及び13E8-13F11(例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)とともに、37℃で2時間インキュベートした。mCherryフィルター及び40倍の油対物レンズを備えた広視野PEXScope顕微鏡(Nicon社)を使用して、5分間隔で、画像を撮った。一価構築物と比較して、ビパラトピック構築物13F11-13E8及び13E8-13F11の両方に関して、より顕著な細胞内蛍光の増加が、15分以降観察された(図18)。ビパラトピック13F11-13E8は、13E8-13F11と比較して、40分の期間にわたって、蛍光のより高い増加を示し、内在化のより高い速度を示している。さらに、内在化された13F11-13E8及び13E8-13F11は、核周囲の区画(エンドソーム/リソソーム)に蓄積する。
【0140】
10.2.PDGFRB VHH
VHH構築物SP02P-SP26Pの内在化の速度を決定するために、例10.1においてIGF2R構築物に関して記載するのと類似した方法を使用して、hPDGFRB発現SCC細胞及びLX-2細胞に関する動力学的内在化アッセイを実施した。SP02P-SP26Pの内在化は、hPDGFRB発現SCC細胞及びLX-2細胞の両方において観察された(図19)。
【0141】
(例11):NDC-Lx-パクリチニブは、収縮アッセイにおいて、活性化された肝星細胞(HSC)の弛緩を誘導する。
JAK2阻害剤パクリチニブ(3c)にコンジュゲートされたビパラトピックVHH 13F11-13E8(例9.1に記載されるようなコンジュゲーション方法)の弛緩効力を、ヒトHSC系LX-2を用いた収縮アッセイを使用して、in vitroで評価した。24ウェルプレートのウェルに、BSA 0.5mLを充填して、37℃で1時間放置して、その後、ウェルをPBSで洗浄して、乾燥させた。続いて、1M NaOH、10×PBS、滅菌水、2×DMEM、0.2M HEPES及び1mg/mL I型コラーゲンの混合物をウェルに添加して、37℃で1時間インキュベートして、コラーゲンをゲル化させた。アッセイの24時間前に、培地を、2% FBSを補充したDMEMと置き換えたLX-2細胞を収集して、培地(DMEM中の2%FCS)1mL当たり2×10個の細胞で再懸濁して、500μlをゲルに添加して、37℃で3時間インキュベートした。細胞をコラーゲンゲルに結合した後、培地を除去して、1μM 13F11-13E8-Lx-パクリチニブ、1μM 13F11-13E8-Cy5(例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法、陰性対照)又は1μM 収縮阻害剤2,3-ブタンジオンモノキシム(BDM、陽性対照)を有する新鮮な培地500μlと置き換えた。ピペットチップ又はスパチュラを縁周辺で動かすことによって、コラーゲンゲルを、ウェルの側面から剥離させ、細胞を、37℃で最大7日間インキュベートした。24時間毎に、カメラ(JAI CV-A55-IR)を用いて、固定の距離又は高さでコラーゲンゲルの写真を撮った。コラーゲンのゲルの面積を、Adobe Photoshop(CC 2017)を使用してピクセルで定量化した。0%収縮阻害のいかなる阻害剤も用いずにインキュベートされたゲル、及び100%収縮阻害の1μM BDM(陽性対照)でインキュベートしたゲルを設定して、収縮阻害のパーセントを定量化した。構築物13F11-13E8-Lx-パクリチニブは、最大76%、収縮阻害を誘導することが可能であったのに対して、キナーゼ阻害剤を備えていないナノボディ構築物(13F11-13E8-mal-Cy5)は、収縮を阻害しなかった(図20)。
【0142】
(例12):硬変肝切片におけるターゲティングされたIGF2Rの発現
IGF2R受容体発現が、硬変肝においてアップレギュレートされるかどうかを評価するために、健常(SHAM)及び硬変(BDL)ラットの両方から得られる組織(肝臓、腎臓、脾臓、心臓、回腸、脳)の各種凍結切片(例13に概要されるような調製手順)を、Alexa Fluor 647にコンジュゲートされた13F11-13E8-ABD(13F11-13E8-ABD-A647、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)で染色した。凍結切片化後、組織切片を、50nM蛍光13F11-13E8-ABD-AF647で染色して、4℃で一晩インキュベートした。続いて、切片を洗浄して、DAPIで染色して、モウィオールマウンティング(mowiol mounting)培地(Merck社)を用いて標本にして、20倍の対物レンズを備えたZeiss LSM700レーザー走査型共焦点顕微鏡で画像化した。13F11-13E8-ABD-AF647は、BDLラット由来の肝臓において、細胞に明らかに結合し、SHAMラット由来の肝臓では、細胞に結合せず(図21)、硬変肝におけるIGF2Rの強力なアップレギュレーションを示す。さらに、BDLラット及びSHAMラット由来の他の組織に対して、染色は、全く観察することができなかったか、又はわずかな染色を観察することができたに過ぎず、このことは、IGF2R発現が、硬変肝に非常に制限されることを示す(図22)。
【0143】
(例13):小分子キナーゼ阻害剤にコンジュゲートされた本発明のIGF2R結合分子を用いた、活性化された肝星細胞をin vivoでターゲティングすることによる、門脈圧亢進症の選択的低減
in vivo機能性を評価するために、例9.2に概要されるように、13F11-13E8-ABDを、Y27632マレイミド修飾官能部分(1e)にコンジュゲートした(検査コンジュゲート)。競合体を提供するために、類似した量の13F11-13E8-ABDを、匹敵する類似の調製で、N-エチルマレイミドにコンジュゲートした(偽コンジュゲート)。
【0144】
門脈圧亢進症を示す動物を確立するために(Klein et al,Fibrosis:Methods and Protocols.Methods in Molecular Biology.2017(1627):91-122.)、スプラーグドーリーラットを、腹腔内でのケタミン/キシラジン誘導性麻酔下での正中部回復術により、胆管結紮に供した(BDLラット)。健常な対照を提供するために、ラットの第2のコホートを、胆管の実際の結紮を除いて、同じ外科手技に供した(SHAMラット)。手術は、疼痛コントロール薬物療法(皮下でのカプロフェン)を用いて経過観察した。手術のおよそ5週後、ケタミン/キシラジン麻酔したラットを、正中部回復術に供し、その後、カテーテルを1つ、回腸部の静脈を通じて門脈へ挿入し、またカテーテルを1つ、大腿動脈に挿入した。それぞれ、門脈圧及び平均動脈圧の評価のために、カテーテルを圧記録装置に接続した。
【0145】
カテーテル法及び血行動態安定化後、ラットに、5mg/kg 検査コンジュゲート又は偽コンジュゲートを、外側尾静脈を通じて静脈内投薬して、圧力を連続的にモニタリングした(例13.1)。投薬の1時間後、動物を屠殺して、その後、ex vivo分析用に、組織を単離した(例13.2)。
【0146】
13.1.小分子キナーゼ阻害剤にコンジュゲートされた本発明のIGF2R結合分子による、門脈圧の選択的低減
BDLにおいて、検査コンジュゲートの注入は、動脈圧が一定のままであるものの(MAP)、門脈圧(PP)の漸減をもたらしたが、偽コンジュゲートの注入は、それをもたらさず、門脈圧亢進症の選択的軽減が示された(図23A)。偽コンジュゲートを注入した動物において、圧力はともに、一定のままであり、検査コンジュゲートによる門脈圧の低減が、小分子キナーゼ阻害剤によって媒介されることを示した(図23B)。SHAMラットでは、検査コンジュゲートも、偽コンジュゲートも、門脈圧又は動脈圧に影響を及ぼさず、BDLラットで観察される効果が、罹患状態に特異的であることを示した。
【0147】
13.2.小分子キナーゼ阻害剤にコンジュゲートされた本発明のIGF2R結合分子による、IGF2Rのin vivoターゲティング
単離後、検査コンジュゲート注入BDL及びSHAMラットから得られる肝臓を、パラホルムアルデヒドで固定して、PBS中の30%(w/v)スクロースに浸漬させて、クライオミクロトームを使用して切片化した。検査コンジュゲートをin situで検出するために、組織切片を、コンジュゲートの13F11-13E8部分を認識するウサギポリクローナル抗VHH抗血清、続いて、共焦点蛍光顕微鏡による可視化のためのフルオロフォアAlexa-488にコンジュゲートされた抗ウサギ抗体を使用して染色した(例12を参照)。図24Aに示されるように、検査コンジュゲートは、BDLラットの肝臓において検出され、SHAMラットの肝臓では検出されなかった。さらに、同じ切片の、過剰な、フルオロフォアAlexa-647にコンジュゲートされた13F11-13E8(13F11-13E8-A647、例9.2に記載されるようなコンジュゲーション方法)による第2の染色により、BDLラットの肝臓における検査コンジュゲートの分布が、IGF2Rの(組織)分布と重なることが実証された(図24B)。これらの結果により、肝臓における検査コンジュゲートの存在が、IGF2Rの(硬変特異的な)発現によって駆動され、分子標的のin vivoターゲティングが、実際に達成されたことが示される。IGF2R分布を検出するためのAlexa-647コンジュゲート13F11-13E8を使用した第2の染色により、IGF2R分子全てに、in vivo研究のほんの1時間以内に検査コンジュゲートが到達していたわけではないことが示されたことは、注目すべきである。この1時間の時点を超えるBDL肝臓における検査コンジュゲートのさらなる蓄積が起きた可能性が高かった。
【配列表フリーテキスト】
【0148】
配列番号369:<223>Gly-Gly-Gly-Gly-Serリンカー
配列番号370:<223>ヘキサヒスチジンタグ
配列番号371:<223>EPEAタグ
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