(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】タングステン不活性ガス(TIG)溶接によるアセンブリの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/362 20060101AFI20241213BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20241213BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241213BHJP
C22C 38/54 20060101ALN20241213BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20241213BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
B23K35/362 A
B23K9/167 A
C22C38/00 301A
C22C38/54
C22C21/00 N
C22C18/00
(21)【出願番号】P 2021561678
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 IB2020053582
(87)【国際公開番号】W WO2020212885
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-12-09
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/053172
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンホン・フェルナンデス,アルバロ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス・ロドリゲス,マルコス
(72)【発明者】
【氏名】ノリエガ・ペレス,ダビド
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ・ロルダン,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】スアレス・サンチェス,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ボーム,シバサンブ
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06664508(US,B1)
【文献】特開2010-005696(JP,A)
【文献】特開2002-120088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0288397(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0234814(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0173744(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102862004(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/362
B23K 9/167
C22C 38/00-38/60
C22C 21/00
C22C 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコート鋼基材であって、
-任意選択的に、防食コーティングと、
-少なくとも1つのチタネートと、TiO
2、SiO
2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al
2O
3、MoO
3、CrO
3、CeO
2又はそれらの混合物のみから選択される少なくとも1つのナノ粒子とを含むフラックスであって、フラックスの厚さが30~95μmの間であり、少なくとも1つのチタネートは、乾燥重量割合が、フラックスの総重量に対して45~70%であり、粒径分布が1~40μmの間であり、及び少なくとも1つのナノ粒子は、乾燥重量割合が、フラックスの総重量に対して15~80%であり、ナノ粒子の直径の範囲が1~100nmの間である、フラックスと、
でコーティングされた、プレコート鋼基材。
【請求項2】
フラックスが、バインダーをさらに含む、請求項1に記載のプレコート鋼基材。
【請求項3】
フラックス中のバインダーの乾燥重量割合が、フラックスの総重量に対して1~20%の間である、請求項2に記載のプレコート鋼基材。
【請求項4】
防食コーティングが、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金からなる群から選択される金属を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のプレコート鋼基材を製造するための方法であって、以下の連続するステップ:
A.任意選択的に防食コーティングでコーティングされた鋼基材を提供するステップ、
B.少なくとも1つのチタネートと、TiO
2、SiO
2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al
2O
3、MoO
3、CrO
3、CeO
2又はそれらの混合物のみから選択される少なくとも1つのナノ粒子とを含むフラックスであって、少なくとも1つのチタネートは、乾燥重量割合が、フラックスの総重量に対して45~70%であり、粒径分布が1~40μmの間であり、及び少なくとも1つのナノ粒子は、乾燥重量割合が、フラックスの総重量に対して15~80%であり、直径の範囲が1~100nmの間である、フラックスを堆積するステップ、
C.任意選択的に、ステップB)で得られたコーティングされた鋼基材を乾燥させるステップ、
を含む、方法。
【請求項6】
ステップB)において、フラックスの堆積が、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング又はブラシコーティングによって実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップB)において、フラックスが、有機溶媒をさらに含む、請求項5又は6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップB)において、フラックスが、1~200g/Lのナノ粒子を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップB)において、フラックスが、100~500g/Lの少なくとも1つのチタネートを含む、請求項7又は8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップB)において、フラックスが、バインダー前駆体をさらに含む、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
アセンブリを製造するための方法であって、以下の連続するステップ:
I.少なくとも2つの金属基材を提供するステップであって、少なくとも1つの金属基材が、少なくとも1つのチタネートと、TiO
2、SiO
2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al
2O
3、MoO
3、CrO
3、CeO
2又はそれらの混合物のみから選択される少なくとも1つのナノ粒子とを含むフラックスでコーティングされたプレコート鋼基材であり、フラックスの厚さが30~95μmの間であり、少なくとも1つのチタネートは、乾燥重量割合が、フラックスの総重量に対して45~70%であり、粒径分布が1~40μmであり、及び少なくとも1つのナノ粒子は、乾燥重量割合が、フラックスの総重量に対して15~80%であり、直径の範囲が1~100nmの間である、少なくとも2つの金属基材を提供するステップと、
II.少なくとも2つの金属基材をタングステン不活性ガス(TIG)溶接によって溶接するステップと、
を含む、方法。
【請求項12】
ステップII)において、TIG溶接が、不活性ガスであるシールドガスを用いて実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップII)において、溶接機の電流が、10~300Aの間である、請求項11又は12のいずれか一項に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングが少なくとも1つのチタネート及び少なくとも1つのナノ粒子を含むプレコート鋼基材、アセンブリを製造するための方法、コーティングされた金属基材を製造するための方法、及び最後にコーティングされた金属基材に関する。それは、建設業及び自動車産業に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
車両を製造するために鋼部品を使用することが知られている。通常、鋼部品は、車体の軽量化を達成し、衝突安全性を向上させるために、高強度鋼板で製造することができる。鋼部品の製造は、一般に、鋼部品を別の金属基材と溶接することに続く。2つの金属基材の溶接は、鋼基材に深い溶接溶込みがないため、達成が困難な場合がある。このため、いくつかの溶接パスを設ける必要があり、生産性が低下する。
【0003】
鋼部品は、タングステン不活性ガス(TIG)溶接としても知られるガスタングステンアーク溶接(GTAW)によって溶接されることがある。TIGは、溶接部を形成するために非消耗タングステン電極を使用するアーク溶接法である。溶接領域及び電極は、不活性シールドガス(アルゴン又はヘリウム)によって酸化又は他の大気汚染から保護され、溶加材が通常使用されるが、自生溶接として知られるいくつかの溶接部はそれを必要としない。定電流溶接電源は電気エネルギーを生じ、これは、プラズマとして知られる高度に電離したガス及び金属蒸気のカラムを通してアーク全体に伝導される。
【0004】
特許出願WO00/16940は、深い溶込みガスタングステンアーク溶接が、Na2Ti3O7又はK2TiO3などのチタネートを使用して達成されることを開示している。チタネートは、キャリア流体ペーストにおける溶接ゾーンに、又はワイヤ充填材の一部として適用され、炭素鋼、クロム-モリブデン鋼及びステンレス鋼、並びにニッケル基合金に深い溶込み溶接部をもたらす。アークふらつき、ビードの稠度、並びに溶接物のスラグ及び表面外観を制御するために、TiO、TiO2、Cr2O3及びFe2O3などの遷移金属酸化物、二酸化ケイ素、ケイ化マンガン、フッ化物並びに塩化物を含む様々な追加の成分をチタネートフラックスに任意選択的に添加することができる。さらに、酸化チタン、Fe2O3及びCr2O3のフラックスは、炭素鋼及びニッケル基合金において溶接溶込みをもたらすが、若干の熱間変動を伴うことが開示されている。
【0005】
この特許出願は、チタネート化合物が、典型的には、約325メッシュか、又はより細かい、44μmに相当する325メッシュの高純度粉末の形態で使用されることを開示している。特定の組成物中のチタネートの必要量は、他のすべての成分が除去されたときに、325メッシュのチタネートの薄い開放又は閉鎖コーティングをもたらすのに十分であるべきである。フラックスの化合物は、すべてマイクロメートル寸法を有する。
【0006】
WO00/16940に開示されているフラックスにより溶込みが改善されるが、溶込みは鋼基材には最適ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、鋼基材の溶接溶込み、ひいては溶接鋼基材の機械的特性を改善する必要がある。TIG溶接によって互いに溶接された少なくとも2つの金属基材のアセンブリを得る必要もあり、当該アセンブリは鋼基材を含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明は、
-任意選択的に、防食コーティングと、
-少なくとも1つのチタネートと、TiO2、SiO2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al2O3、MoO3、CrO3、CeO2又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つのナノ粒子とを含むフラックスであって、フラックスの厚さが30~95μmの間である、フラックスと、でコーティングされた、プレコート鋼基材に関する。
【0010】
本発明によるプレコート鋼基材はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-フラックスは、Na2Ti3O7、K2TiO3、K2Ti2O5、MgTiO3、SrTiO3、BaTiO3、CaTiO3、FeTiO3及びZnTiO4又はそれらの混合物の中から選択される少なくとも1つのチタネートを含むことと、
-フラックスは有機溶媒をさらに含むことと、
-ナノ粒子の割合は80重量%以下であることと、
-チタネートの割合は45重量%以上であることと、
-防食コーティング層は、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金からなる群から選択される金属を含むことと、
-少なくとも1つのチタネートの直径は1~40μmの間であることと、
である任意の特徴を有してよい。
【0011】
本発明はまた、プレコート鋼基材を製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
A.鋼基材を提供するステップ、
B.本発明によるフラックスを堆積するステップ、
C.任意選択的に、ステップB)で得られたコーティングされた金属基材を乾燥させるステップ、
を含む。
【0012】
本発明による方法はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-フラックスの堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング又はブラシコーティングによって実施されること、
-ステップB)において、フラックスは1~200g/Lのナノ粒子を含むこと、
-フラックスは100~500g/Lのチタネートを含むこと、
である任意の特徴を有してよい。
【0013】
本発明はまた、アセンブリを製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
I.少なくとも2つの金属基材を提供するステップであって、少なくとも1つの金属基材は、本発明によるプレコート鋼基材である、ステップ、
II.少なくとも2つの金属基材をタングステン不活性ガス(TIG)溶接によって溶接するステップ、
を含む。
【0014】
本発明による方法はまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-TIG溶接は、不活性ガスであるシールドガスを用いて実施されること、
-溶接機の電流は10~200Aの間であること、
である任意の特徴を有してよい。
【0015】
本発明はまた、本発明による方法から得ることができるタングステン不活性ガス(TIG)溶接によって少なくとも部分的に互いに溶接された少なくとも2つの金属基材のアセンブリに関し、当該アセンブリは、
-任意選択的に防食コーティングでコーティングされた少なくとも1つの鋼基材と、
-少なくとも1つのチタネートと、TiO2、SiO2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al2O3、MoO3、CrO3、CeO2又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つのナノ粒子とを含む溶解及び/又は析出したフラックスを含む溶接ゾーンと、
を含む。
【0016】
本発明によるアセンブリはまた、個別に又は組み合わせて考慮される、以下に列挙される任意の特徴であって、
-第2の金属基材は、鋼基材又はアルミニウム基材であること、
-第2の金属基材は、本発明によるプレコート鋼基材であること、
である任意の特徴を有してよい。
【0017】
最後に、本発明は、構造体の配管要素及び部品の製造のための、本発明による方法から得ることができるアセンブリの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の用語が定義される。
【0019】
-ナノ粒子は、サイズが1~100ナノメートル(nm)の間の粒子である。
【0020】
-チタネートは、酸化チタンと少なくとも1つの他の酸化物とを組み合わせた組成の無機化合物を指す。それらはそれらの塩の形態であり得る。
【0021】
-「コーティングされた」とは、鋼基材が少なくとも局所的にフラックスで被覆されていることを意味する。被覆は、例えば、鋼基材が溶接される領域に限定することができる。「コーティングされた」には、「直接的に」(中間材料、要素又は空間がそれらの間に配置されていない)及び「間接的に」(中間材料、要素又は空間がそれらの間に配置されている)が包含的に含まれる。例えば、鋼基材をコーティングすることは、中間材料/要素がそれらの間にない基材に直接フラックスを適用すること、並びに1つ以上の中間材料/要素がそれらの間にある基材に間接的にフラックスを適用すること(防食コーティングなど)を含むことができる。
【0022】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、フラックスは、主に鋼基材の溶融池の物理的性質を改変し、より深い溶融溶込みを可能にすると考えられる。チタネート化合物が溶接溶込みを改善するための必須成分である特許出願WO00/16940とは対照的に、本発明では、粒子の性質だけでなく、100nm以下の粒子のサイズも、溶融池の表面のくぼみによって引き起こされるキーホール効果、逆マランゴニ効果、アーク収縮及びアーク安定性の改善により、溶込みを改善するように思われる。
【0023】
実際、特定のナノ粒子と混合されたチタネートは、逆マランゴニ流及び電気絶縁によるアークの収縮の複合効果により、キーホールモードを可能にし、より高い電流密度及び溶接溶込みの増加をもたらす。キーホール効果とは、溶融池の表面のくぼみである文字通りの穴を指し、エネルギービームをさらにより深く入り込ませることを可能にする。エネルギーは接合部に非常に効率的に供給され、これにより溶接深さが最大化され、溶接深さ対幅の比が大きくなり、これにより部品のひずみが制限される。
【0024】
さらに、フラックスは、表面張力勾配による液体-ガス界面での物質移動であるマランゴニ流を逆転させる。特に、フラックスの成分は、界面に沿った表面張力の勾配を変化させる。表面張力のこの変化は、溶接池の中心に向かう流体の流れの反転をもたらし、この場合、溶接溶込み及び濡れ性の改善をもたらす。いかなる理論にも束縛されるものではないが、ナノ粒子はマイクロ粒子よりも低温で溶解し、したがってより多くの酸素が溶融池に溶解し、逆マランゴニ流を活性化すると考えられる。
【0025】
さらに、ナノ粒子は、マイクロ粒子間のギャップを充填することによって、適用されたフラックスの均一性を改善することが観察された。これは、溶接アークの安定化に役立ち、したがって溶接溶込み及び品質を改善する。
【0026】
好ましくは、ナノ粒子は、SiO2及びTiO2であり、より好ましくはSiO2及びTiO2の混合物である。いかなる理論にも束縛されるものではないが、SiO2は、主に溶込み深さの増加並びにスラグの除去及び剥離に役立ち、TiO2は、主に溶込み深さの増加及び鋼との合金化に役立ち、機械的特性を改善するTi基介在物を形成すると考えられる。
【0027】
好ましくは、ナノ粒子は、5~60nmの間に含まれるサイズを有する。
【0028】
好ましくは、ナノ粒子の乾燥重量における割合は80%以下、好ましくは2~40%の間である。場合によっては、ナノ粒子の割合は、高すぎる耐火効果を回避するために制限されなければならない場合がある。各種類のナノ粒子の耐火効果を知っている当業者は、場合毎に割合を適合させるであろう。
【0029】
ナノ粒子は、炭素鋼にとって有害な硫化物又はハロゲン化物の中から選択されない。
【0030】
好ましくは、チタネートは、1~40μmの間、より好ましくは1~20μmの間、有利には1~10μmの間の粒径分布を有する。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、このチタネートの直径は、溶融池の表面のくぼみ、アーク収縮及び逆マランゴニ効果をさらに改善すると考えられる。
【0031】
好ましくは、フラックスは、Na2Ti3O7、NaTiO3、K2TiO3、K2Ti2O5、MgTiO3、SrTiO3、BaTiO3、CaTiO3、FeTiO3及びZnTiO4又はそれらの混合物の中から選択されるチタネートのうちの少なくとも1種類を含む。より好ましくは、チタネートはMgTiO3である。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、これらのチタネートは、逆マランゴニ流の効果に基づいて溶込み深さをさらに増加させると考えられる。
【0032】
好ましくは、少なくとも1つのチタネートの乾燥重量における割合は45%以上、例えば50又は70%である。
【0033】
本発明の一変形例によれば、フラックスが鋼基材上に適用され、それがコーティングとなるように乾燥されると、コーティングは、少なくとも1つのチタネートと、TiO2、SiO2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al2O3、MoO3、CrO3、CeO2又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つのナノ粒子とからなる。
【0034】
本発明の別の変形例によれば、コーティングは、チタネート及びナノ粒子を包埋し、鋼基材上のフラックスの接着性を改善する少なくとも1つのバインダーをさらに含む。好ましくは、バインダーは、特に溶接中に有機バインダーが生成する可能性のあるヒュームを回避するために、純粋に無機である。無機バインダーの例は、有機官能性シラン又はシロキサンのゾルゲルである。有機官能性シランの例は、特にアミン、ジアミン、アルキル、アミノ-アルキル、アリール、エポキシ、メタクリル、フルオロアルキル、アルコキシ、ビニル、メルカプト及びアリールの群の基で官能化されたシランである。アミノ-アルキルシランは、接着性を大幅に促進し、長い貯蔵寿命を有するため、特に好ましい。好ましくは、バインダーは、乾燥したフラックスの1~20重量%の量で添加される。
【0035】
好ましくは、鋼基材は炭素鋼である。
【0036】
好ましくは、防食コーティングは、亜鉛、アルミニウム、銅、ケイ素、鉄、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、マンガン及びそれらの合金からなる群から選択される金属を含む。
【0037】
好ましい実施形態では、防食コーティングは、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1~8.0%のMg及び任意選択的に0.1~30.0%のZnを含み、残部がAlであるアルミニウム系コーティングである。別の好ましい実施形態では、防食コーティングは、0.01~8.0%のAl、任意選択的に0.2~8.0%のMgを含み、残部がZnである亜鉛系コーティングである。
【0038】
防食コーティングは、好ましくは、鋼基材の少なくとも1つの側面に適用される。
【0039】
本発明はまた、プレコート金属基材を製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
A.本発明による鋼基材を提供するステップ、
B.本発明によるフラックスを堆積するステップ、
C.任意選択的に、ステップB)で得られたコーティングされた金属基材を乾燥させるステップ、
を含む。
【0040】
好ましくは、ステップA)において、鋼基材は炭素鋼である。
【0041】
好ましくは、ステップB)において、フラックスの堆積は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング又はブラシコーティングによって実施される。
【0042】
好ましくは、ステップB)において、フラックスは局所的にのみ堆積される。特に、フラックスは、鋼基材が溶接される領域に適用される。それは、溶接される鋼基材の縁部に、又は溶接される基材の1つの側面の一部にあってもよい。より好ましくは、適用されるフラックスの幅は、アーク収縮がさらに改善されるように、行われるべき溶接と少なくとも同じ大きさである。
【0043】
有利には、フラックスは有機溶媒をさらに含む。実際、いかなる理論にも束縛されるものではないが、有機溶媒は、十分に分散されたコーティングを可能にすると考えられる。好ましくは、有機溶媒は周囲温度で揮発性である。例えば、有機溶媒は、アセトン、メタノール、イソプロパノール、エタノール、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどの揮発性有機溶媒、エチレングリコール及び水などの不揮発性有機溶媒の中から選択される。
【0044】
好ましくは、フラックスは100~500g.L-1のチタネート、より好ましくは175~250g.L-1の間のチタネートを含む。好ましくは、フラックスは1~200g.L-1のナノ粒子、より好ましくは5~80g.L-1の間のナノ粒子を含む。
【0045】
本発明の一変形例によれば、ステップB)のフラックスは、少なくとも1つのチタネートと、TiO2、SiO2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al2O3、MoO3、CrO3、CeO2又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つのナノ粒子と、少なくとも1つの有機溶媒とからなる。
【0046】
本発明の別の変形例によれば、ステップB)のフラックスは、チタネート及びナノ粒子を包埋し、鋼基材上のフラックスの接着性を改善するためのバインダー前駆体をさらに含む。好ましくは、バインダー前駆体は、少なくとも1つの有機官能性シランのゾルである。有機官能性シランの例は、特にアミン、ジアミン、アルキル、アミノ-アルキル、アリール、エポキシ、メタクリル、フルオロアルキル、アルコキシ、ビニル、メルカプト及びアリールの群の基で官能化されたシランである。好ましくは、バインダー前駆体は、フラックスの40~400g.L-1の量で添加される。
【0047】
乾燥ステップC)が実施される場合、乾燥は、空気又は不活性ガスを周囲温度又は高温で吹き付けることによって実施される。フラックスがバインダーを含む場合、乾燥ステップC)は、バインダーが硬化されるその間、硬化ステップでもあることが好ましい。硬化は、赤外線(IR)、近赤外線(NIR)、従来のオーブンによって実施することができる。
【0048】
好ましくは、乾燥ステップC)は、有機溶媒が周囲温度で揮発性である場合には実施されない。実際、コーティングの堆積後、有機溶媒が蒸発して、金属基材上に乾燥したフラックスがもたらされると考えられる。
【0049】
本発明はまた、アセンブリを製造するための方法に関し、この方法は以下の連続するステップ:
I.少なくとも2つの金属基材を提供するステップであって、少なくとも1つの金属基材は、本発明によるプレコート鋼基材である、ステップと、
II.少なくとも2つの金属基材のタングステン不活性ガス(TIG)溶接による溶接ステップと、
を含む。
【0050】
好ましくは、ステップII)において、溶接は、不活性ガスであるシールドガスを用いて実施される。例えば、不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン又はそれらの混合物から選択される。有利には、不活性ガスは少なくともアルゴンを含む。
【0051】
好ましくは、ステップII)において、溶接中の電流は10~300Aの間である。溶接は、充填材の有無にかかわらず行うことができる。
【0052】
本発明による方法では、任意選択的に防食コーティングでコーティングされた鋼基材の形態の少なくとも第1の金属基材と、第2の金属基材とのアセンブリを得ることが可能であり、第1及び第2の金属基材は、タングステン不活性ガス(TIG)溶接により少なくとも部分的に互いに溶接されており、溶接ゾーンは、少なくとも1つのチタネートと、TiO2、SiO2、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、Al2O3、MoO3、CrO3、CeO2又はそれらの混合物から選択される少なくとも1つのナノ粒子とを含む溶解及び/又は析出したフラックスを含む。
【0053】
「溶解及び/又は析出したフラックス」とは、逆マランゴニ流のためにフラックスの成分を溶融池の液体-ガス界面の中心に向かって引き込むことができ、さらに溶融金属内に引き込むことができることを意味する。いくつかの成分は溶融池に溶解し、溶接部の対応する要素の富化をもたらす。他の成分は析出し、溶接部に介在物を形成する複合酸化物の一部である。
【0054】
特に、鋼基材のAl量が50ppmを超える場合、溶接ゾーンは、添加されたナノ粒子の性質に応じて、特にAl-Ti酸化物若しくはSi-Al-Ti酸化物又は他の酸化物を含む介在物を含む。これらの混合要素の介在物は5μmより小さい。したがって、それらは溶接ゾーンの靭性を損なうことはない。介在物は、電子プローブマイクロ分析(EPMA)によって観察することができる。いかなる理論にも束縛されるものではないが、ナノ粒子は、限定されたサイズの介在物の形成を促進し、その結果、溶接ゾーンの靭性が損なわれないと考えられる。
【0055】
好ましくは、第2の金属基材は、鋼基材又はアルミニウム基材である。より好ましくは、第2の鋼基材は、本発明によるプレコート鋼基材である。
【0056】
最後に、本発明は、構造体の配管要素及び部品の製造のための、本発明によるコーティングされた金属基材の使用に関する。
【実施例】
【0057】
以下の実施例及び試験は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的とするものとして考慮されなければならない。それらは、本発明の有利な特徴、広範な実験後に本発明者らによって選択されたパラメータの重要性を示し、本発明によって達成され得る特性をさらに確立する。
【0058】
試験品については、表1に開示されている重量パーセントの化学組成を有する鋼基材を使用した。
【0059】
【0060】
[実施例1]
試験品1~3については、MgTiO3(直径:2μm)、SiO2(直径範囲:12~23nm)及びTiO2(直径範囲:36~55nm)を含むアセトン溶液を、アセトンを当該要素と混合することによって調製した。アセトン溶液において、MgTiO3の濃度は175g.L-1であった。SiO2の濃度は25g.L-1であった。TiO2の濃度は50g.L-1であった。次に、試験品1~3を、行われる溶接部よりも広い領域に、噴霧することによって異なる厚さのアセトン溶液でコーティングした。アセトンを蒸発させた。コーティング中のMgTiO3の割合は70重量%であり、SiO2の割合は10重量%であり、TiO2の割合は20重量%であった。
【0061】
試験品4を、MgTiO3(直径:2μm)、SiO2(直径:2μm)及びTiO2(直径:2μm)のマイクロ粒子を含むアセトン溶液でコーティングした。
【0062】
試験品5はコーティングしなかった。
【0063】
次に、TIG溶接を各試験品に適用した。溶接パラメータを以下の表2示す。
【0064】
【0065】
TIG溶接後、溶接領域側のコーティングの様子を肉眼及び電界放射型電子銃-走査型電子顕微鏡法(FEG-SEM)によって分析した。コーティング上の溶接アークの熱画像を撮影した。溶接領域の組成を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析した。試験品を規格ISO15614-7に従って180°まで曲げた。両方の試験品の硬度を、微小硬度計を使用して溶接領域の中心で決定した。溶接領域の組成を、エネルギー分散型X線分光法及び誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)によって分析した。結果を以下の表3に示す。
【0066】
【0067】
結果は、試験品2が比較試験品と比較してTIG溶接を改善することを示している。
【0068】
熱画像はまた、チタネート及び特定のナノ粒子の組み合わせが熱流束を増加させ、溶融池の高温及び高ガス圧をもたらすことを確認した。溶融池の温度が高いほど、逆マランゴニ対流のために溶融池のより低い領域に向かってより多くの熱伝達が生じ、母材の溶融及び溶込みの増加につながる。
【0069】
[実施例2]
鋼基材に対する有限要素法(FEM)シミュレーションによって、種々のコーティングを試験した。シミュレーションでは、フラックスは、任意選択的にMgTiO3(直径:2μm)及び10~50nmの直径を有するナノ粒子を含む。コーティングの厚さは40μmであった。各フラックスでアーク溶接をシミュレートした。シミュレーションによるアーク溶接の結果を以下の表4に示す。
【0070】
【0071】
結果は、本発明による試験品が比較試験品と比較してTIG溶接を改善することを示す。
【0072】
[実施例3]
試験品19については、以下の成分を含む水溶液を調製した。363g.L-1のMgTiO3(直径:2μm)、77.8g.L-1のSiO2(直径範囲:12~23nm)、77.8g.L-1のTiO2(直径範囲:36~55nm)及び238g.L-1の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Evonik(R)製のDynasylan(R)AMEO)。溶液を鋼基材に適用し、1)IR及び2)NIRによって乾燥させた。乾燥したコーティングは厚さ40μmであり、62重量%のMgTiO3、13重量%のSiO2、13重量%のTiO2及び3-アミノプロピルトリエトキシシランから得られた12重量%のバインダーを含有していた。
【0073】
試験品20については、以下の成分を含む水溶液を調製した。330g.L-1のMgTiO3(直径:2μm)、70.8g.L-1のSiO2(直径範囲:12~23nm)、70.8g.L-1のTiO2(直径範囲:36~55nm)、216g.L-1の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Evonik(R)製のDynasylan(R)AMEO)及び104.5g.L-1の有機官能性シランと官能化ナノスケールSiO2粒子との組成物(Evonik製のDynasylan(R)Sivo110)。溶液を鋼基材に適用し、1)IR及び2)NIRによって乾燥させた。乾燥したコーティングは厚さ40μmであり、59.5重量%のMgTiO3、13.46重量%のSiO2、12.8重量%のTiO2及び3-アミノプロピルトリエトキシシランと有機官能性シランとから得られた14.24重量%のバインダーを含有していた。
【0074】
すべての場合において、鋼基材に対するフラックスの接着性が大幅に改善された。