(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20241213BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241213BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20241213BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20241213BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20241213BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20241213BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241213BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/147 166
H01F1/33
H01F27/255
B22F1/052
B22F1/102 100
B22F3/00 B
C22C38/00 303S
(21)【出願番号】P 2022044995
(22)【出願日】2022-03-22
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】深澤 真之
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-194273(JP,A)
【文献】特開2015-105220(JP,A)
【文献】特開2017-188588(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021260(WO,A1)
【文献】特開2021-095629(JP,A)
【文献】特開2022-147119(JP,A)
【文献】特開2023-137624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/24
H01F 1/147
H01F 1/33
H01F 27/255
B22F 1/052
B22F 1/102
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の表面に付着するニオブアルコキシドと、
を備え
、
前記ニオブアルコキシドは、前記軟磁性粉末の粒子又は前記粒子の凝集体の全表面を覆うように付着していること、
を特徴とする圧粉磁心用粉末。
【請求項2】
前記ニオブアルコキシドは、前記軟磁性粉末に対して0.10wt%以上2.00wt%以下の割合で付着していること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心用粉末。
【請求項3】
前記ニオブアルコキシドは、前記軟磁性粉末に対して0.50wt%以上1.00wt%以下の割合で付着していること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心用粉末。
【請求項4】
前記軟磁性粉末は、粉末粒径が粒度分布におけるD50で20μm以下であること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の圧粉磁心用粉末。
【請求項5】
前記軟磁性粉末はFeSi合金粉末であること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の圧粉磁心用粉末。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の圧粉磁心用粉末を含むこと、
を特徴とする圧粉磁心。
【請求項7】
前記軟磁性粉末の表面には、前記ニオブアルコキシドが酸化して成る酸化ニオブが付着し
、
前記酸化ニオブは、前記軟磁性粉末の粒子又は前記粒子の凝集体の全表面を覆うように付着していること、
を特徴とする請求項6に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心用粉末及びこの圧粉磁心用粉末を含む圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車など様々な用途にリアクトルといったコイル部品が用いられている。コイル部品は、コアにコイルが装着されている。そして、このコアとしては、圧粉磁心が用いられることが多い。
【0003】
圧粉磁心は、圧粉磁心用粉末から成る。具体的には、圧粉磁心用粉末は、軟磁性粉末と、軟磁性粉末の周囲に形成された絶縁層を含み、この絶縁層が形成された軟磁性粉末を数ton~数十tonといった高い圧力で押し固め、圧粉成形体を作製する。そして、この圧粉成形体を焼鈍といわれる熱処理することで圧粉磁心が作製される。
【0004】
圧粉磁心は、エネルギー交換効率の向上や低発熱などの要求から、磁束密度変化におけるエネルギー損失が小さいという磁気特性が求められる。エネルギー損失に関する磁気特性とは、具体的には鉄損(Pcv)である。鉄損(Pcv)は、ヒステリシス損失(Ph)と、渦電流損失(Pe)の和で表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5929819号公報
【文献】特開2017-098426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来からヒステリシス損失又は渦電流損失の低減を図り、鉄損を低減させる研究が進められている。例えば、特許文献1のように、粉末の粒子径や結晶粒が粗大な場合に、ヒステリシス損失が低減できるなどといった研究が進められている。また、特許文献2のように、コアとコイルとを一定距離以上離間させることで渦電流損失の低減できるといった研究が進められている。しかし、近年では、コイル部品の用途も多様化しており、ヒステリシス損失及び渦電流損失の低減、即ち、鉄損の低減が一層求められている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ヒステリシス損失及び渦電流損失の低減でき、鉄損の低減を図ることができる圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の圧粉磁心用粉末は、軟磁性粉末と、前記軟磁性粉
末の表面に付着するニオブアルコキシドと、を備え、前記ニオブアルコキシドは、前記軟磁性粉末の粒子又は前記粒子の凝集体の全表面を覆うように付着していること、を特徴とする。
【0009】
また、この圧粉磁心用粉末を含む圧粉磁心も本発明の一態様である。この圧粉磁心においては、加熱による反応により、前記軟磁性粉末の表面には、ニオブアルコキシドが酸化して成る酸化ニオブが付着し、前記酸化ニオブは、前記軟磁性粉末の粒子又は前記粒子の凝集体の全表面を覆うように付着していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒステリシス損失及び渦電流損失の低減でき、鉄損の低減を図ることができる圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心を得ることはできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ニオブアルコキシドの添加量と鉄損の関係を示すグラフである。
【
図2】ニオブアルコキシドの添加量とヒステリシス損失の関係を示すグラフである。
【
図3】ニオブアルコキシドの添加量と渦電流損失の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
以下、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0013】
圧粉磁心は、OA機器、太陽光発電システム、自動車などに搭載されるコイル部品のコアに用いられる磁性体である。圧粉磁心は、圧粉磁心用粉末を押し固め、焼鈍することで成る。圧粉磁心用粉末は軟磁性粉末を含む。この軟磁性粉末の表面にニオブアルコキシドが付着させることで圧粉磁心用粉末は作製される。また、ニオブアルコキシドが付着している軟磁性粉末は、絶縁層で被覆される。この絶縁層で被覆された軟磁性粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を焼鈍することで圧粉磁心は作製される。
【0014】
軟磁性粉末は鉄を主成分とする。軟磁性粉末としては、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、又はこれら2種以上の粉末の混合粉等が挙げられる。軟磁性粉末は、アモルファス合金であってもよいし、ナノ結晶合金粉末であってもよい。
【0015】
純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。パーマロイ(Fe-Ni合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe-80Ni、Fe-36Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいてもよい。Si含有鉄合金には、Co、Al、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0016】
Fe-Si合金粉末は、例えば、Fe-3.5%Si合金粉末、Fe-5.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や5.5%以外であってもよい。Fe-Si-Al合金は、鉄と珪素とアルミニウムからなる三元合金であり、例えば、Feに対して、6wt%から10wt%程度のSiと、4wt%から5wt%程度のAlとを含有させているが、Feに対して1wt%から3wt%程度のNiが含まれていてもよく、更にCo、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0017】
この軟磁性粉末は、粉砕法により作製されたものでも、アトマイズ法により作製されたものでもよい。粉砕法は、軟磁性粉末の塊を機械的に粉砕する。軟磁性粉末の塊が大きい場合には、ジョークラッシャ、ハンマーミル、スタンプミル等により粉砕し、軟磁性粉末の塊が小さい場合には、ボールミル、振動ミル等によって微粉化する。また、アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでもよい。例えば、ガスアトマイズ法では、高温で溶融した軟磁性粉末にガスを吹き付けて粉末化し、その後、冷却して凝固させる。
【0018】
軟磁性粉末は、粒度分布におけるメジアン径D50が20μm以下であることが好ましい。ニオブアルコキシドは液状であるため、20μm以下という粒径が小さい軟磁性粉末であってもニオブアルコキシドを均一に分散させることができる。
【0019】
ニオブアルコキシドを付着させる前に、軟磁性粉末を熱処理する粉末熱処理工程を経ることが好ましい。この粉末熱処理工程を経ることで軟磁性粉末を解砕し易くなり、軟磁性粉末を所望の粒径に分級し易くなる。粉末熱処理は、窒素ガス中、水素ガス中、窒素と水素の混合ガス、酸素濃度が0.01%程度の低酸素雰囲気等の非酸化雰囲気中又は大気中において2時間程度加熱する。熱処理温度としては、500℃以上900℃以下が好ましい。
【0020】
軟磁性粉末の表面には、ニオブアルコキシドが付着している。このニオブアルコキシドは、軟磁性粉末の各粒子の表面に付着してもよいし、粒子の凝集体の表面に付着していてもよいし、これらの両方の態様が混在していてもよい。また、ニオブアルコキシドは、粒子又は粒子の凝集体の全表面を覆うように付着していてもよいし、粒子又は粒子の凝集体の一部の表面を覆うように付着していてもよい。
【0021】
ニオブアルコキシドは一般式Nb(OR)5で表され、式中のRは同一又は異なるアルキル基であり、アルキル基の炭素数は1以上である。ニオブアルコキシドとしては、例えば、化学式Nb(OC2H5)5で表され、全てのアルキル基の炭素数が2であるペンタエトキシニオブが挙げられる。その他には、化学式Nb(O-n-C3H7)5で表されるペンタ-n-プロポキシニオブ、化学式Nb(O-n-C4H9)5で表されるペンタ-n-ブトキシニオブ、化学式Nb(o-sec-C4H9)5で表されるペンタ-sec-ブトキシニオブなども挙げられる。
【0022】
これは推測であり、このメカニズムに限定されるものではないが、軟磁性粉末の表面に付着したニオブが軟磁性粉末の結晶中の格子欠陥を修復することで、ヒステリシス損失を低減させているものと推察する。また、軟磁性粉末の表面に付着したニオブアルコキシドが、圧粉磁心が作製される工程において熱処理され酸化されることで、絶縁層として作用し、渦電流損失を低減させているものと推察する。
【0023】
ニオブアルコキシドの添加量は、少量であってもヒステリシス損失及び渦電流損失の低減効果が生じるが、軟磁性粉末に対して0.10wt%以上2.00wt%以下が好ましく、軟磁性粉末に対して0.50wt%以上1.00wt%以下が更に好ましい。0.10wt%以上2.00wt%以下では、ヒステリシス損失及び渦電流損失を低下させる効果が大きく発生し、その結果、鉄損を低減させることができる。0.5wt%以上1.00wt%以下では、ヒステリシス損失の低減効果がより大きく現れ、損失低減効果も大きくなる。混合は、容器内の羽根が回転するプラネタリーミキサーや高速攪拌造粒機等を使用すればよい。
【0024】
ニオブアルコキシドを添加した後、窒素雰囲気中において、熱処理を行う。熱処理温度は、350℃以上800℃以下が好ましい。熱処理の時間はピーク温度に2時間程度晒すが、熱処理温度によって適宜変更してもよい。
【0025】
軟磁性粉末にニオブアルコキシドが付着させた後、この軟磁性粉末に絶縁樹脂から成る絶縁層を形成させる絶縁層形成工程を経る。ニオブアルコキシドが粒子又は粒子の凝集体の全表面を覆うように付着している場合には、絶縁層はニオブアルコキシドの表面に形成され、ニオブアルコキシドが粒子又は粒子の凝集体の一部の表面を覆うように付着している場合には、絶縁層の一部は、軟磁性粉末の表面にも形成されている。
【0026】
絶縁層を構成する絶縁材料としては、シラン化合物、シリコーンオリゴマー、シリコーンレジン又はこれらの混合が含まれる。絶縁層は、単層であってもよいし、複数層であってもよい。例えば、絶縁層は、種類ごとに各層に分けた複数層で構成してもよいし、1種類又は2種類以上を混合した絶縁材料の単層であってもよい。
【0027】
シラン化合物には、官能基の無いシラン化合物及びシランカップリング剤が含まれる。官能基の無いシラン化合物としては、例えばエトキシ系及びメトキシ系等のアルコキシシランを使用することができ、特にテトラエトキシシランが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。
【0028】
シラン化合物の添加量としては、軟磁性粉末に対して、0.05wt%以上、1.0wt%以下が好ましい。シラン化合物の添加量をこの範囲にすることで、軟磁性粉末の流動性を向上させるとともに、成形された圧粉磁心の密度、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0029】
シリコーンオリゴマーとしては、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの、又はアルコキシシリル基ではなく、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁層を形成することができる。また、絶縁層の形成のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いてもよい。
【0030】
シリコーンオリゴマーの添加量は、軟磁性粉末に対して0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましい。添加量が0.1wt%より少ないと絶縁層として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.0wt%より多いと、圧粉磁心の密度低下を招く。
【0031】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O―Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた被膜を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁層を形成することができる。
【0032】
シリコーンレジンの添加量は、軟磁性粉末に対して、0.6wt%以上2.5wt%であることが好ましい。添加量が0.6wt%より少ないと絶縁層として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.5wt%より多いと圧粉磁心の密度低下を招く。なお、より好ましくは0.8wt%以上2.0wt%以下である。
【0033】
この絶縁層形成工程では、軟磁性粉末に絶縁樹脂を添加、混合した後、加熱乾燥を行う。絶縁樹脂を加熱乾燥することで、ニオブアルコキシドが付着した軟磁性粉末の表面に絶縁層が形成される。加熱乾燥条件としては、これに限定されるものではないが、70℃以上300℃以下の温度で加熱乾燥する。温度が70℃よりも低いと絶縁層の形成が不完全となり渦電流損失が増加する虞がある。一方、300℃よりも高いとバインダーとしての役割を果たさず、圧粉成形体の密度や透磁率が悪化する虞がある。加熱乾燥時間は2時間程度である。
【0034】
絶縁層が周囲に形成された軟磁性粉末に対して、潤滑剤を添加したうえで、加圧成形工程及び焼鈍工程を経て、圧粉磁心は作製される。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸及びその金属塩並びにエチレンビスステアルアミド、エチレンビスステアロアマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤を添加することで、金型を離型させる際の抜き圧が低減するともに、軟磁性粉末が金型への焼き付きくことも防止されるので、圧粉成形体の品質が向上する。潤滑剤の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.2wt%~0.6wt%程度であることが好ましい。この範囲にすることで、軟磁性粉末間の滑りを向上させることができる。なお、潤滑剤は、軟磁性粉末に添加するのではなく、後述する加圧成形工程で軟磁性粉末を充填する金型の内面に塗布してもよい。また、潤滑剤を軟磁性粉末に添加したうえで、金型の内面にも潤滑剤を塗布してもよい。
【0035】
加圧成形工程は、絶縁層が形成された軟磁性粉末を加圧成形することにより、圧粉成形体を作製する工程である。まず、軟磁性粉末を金型に充填し、その後、10~20ton/cm2で加圧し、圧粉成形体が形成される。
【0036】
焼鈍工程は、加圧成形工程を経て作製された圧粉成形体を焼鈍し、軟磁性粉末内の歪を除去する。焼鈍工程では、窒素ガス中、水素ガス中、窒素と水素の混合ガス、0.01%程度の低酸素雰囲気等の非酸化性雰囲気中にて、650℃以上、望ましくは800℃以上且つ軟磁性粉末の周囲に形成された絶縁層が破壊される温度(例えば、900℃とする)よりも低い温度で、圧粉成形体の熱処理を行う。この焼鈍工程を経ることで圧粉磁心が作製される。
【0037】
このように、軟磁性粉末から圧粉磁心用粉末が作製され、圧粉磁心用粉末を元に圧粉磁心が作製される。圧粉磁心の作製が完了した時点では、ニオブアルコキシドはニオブ酸化物になって軟磁性粉末に付着していてもよいし、ニオブとして軟磁性粉末にドープされた状態となっていてもよい。
【0038】
(実施例)
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
次のように、実施例1~7及び比較例の圧粉磁心用粉末を作製し、この圧粉磁心用粉末を用いて圧粉磁心を作製した。実施例1~7及び比較例は、ニオブアルコキシドの添加量が異なるのみでその他の製造工程、製造条件は同一である。
【0040】
まず、軟磁性粉末としてFe-Si合金粉末用いた。このFe-Si合金粉末は、5.5wt%のSiを含む。Fe-Si合金粉末を650℃の窒素雰囲気中において2時間加熱した。Fe-Si合金粉末を熱処理して解砕した後、篩分けし、粒度分布におけるD50が20μm以下のFe-Si合金粉末を用いた。
【0041】
今回用いたFe-Si合金粉末の粒度、円形度及び保磁力は、下記表1のとおりである。粒度と円形度は、粒子画像分析装置(Malvern社製、装置名:morphologi G3S)を用いて3000個のサンプルから算出したものであり、ガラス基板上にFe-Si合金粉末を分散して、顕微鏡で粉末写真を撮り一個毎自動で画像から測定した。また、保磁力は、HCメーター(東北特殊鋼株式会社製、K-HC1000)により測定した。
【0042】
【0043】
Fe-Si合金粉末にニオブアルコキシドを付着させた。ニオブアルコキシドは、化学式Nb(OC2H5)5で表されるペンタエトキシニオブを用いた。ペンタエトキシニオブは、添加しないもの(表2の添加量0.00)も含め、下記表2に示す0.00~2.50wt%までの添加量でFe-Si合金粉末に添加し、乳鉢で混合した。ペンタエトキシニオブを添加、混合した後、Fe-Si合金粉末を窒素雰囲気中において、380℃で2時間熱処理した。ここでいう2時間の熱処理は、380℃の温度で熱処理をした時間であり、380℃までの加熱時間や温度を下げる時間を含めるとこの熱処理は10時間程度要した。
【0044】
その後、Fe-Si合金粉末に対して0.5wt%のシリコーンオリゴマーを添加、混合して、200℃で2時間乾燥させた。乾燥後、凝集を解消する目的で目開き250μmの篩を通した。さらに、篩を通したFe-Si合金粉末に対して1.6wt%のシリコーンレジン(固形分50%)を添加、混合して、150℃で2時間乾燥させ、絶縁層が形成された圧粉磁心用粉末を作製した。
【0045】
凝集を解消する目的でFe-Si合金粉末を目開き250μmの篩に通し、潤滑剤(Acrawax(登録商標))を0.5wt%添加した。潤滑剤を添加したFe-Si合金粉末を金型に充填し、15ton/cm2で加圧成形し、外径16.5mm、内径11.0mm及び高さ5.0mmのトロイダル状の圧粉成形体を作製した。そして、この圧粉成形体を850℃の温度で、酸素濃度0.01%の雰囲気において、2時間焼鈍し、各圧粉磁心は作製された。
【0046】
そして、作製された各圧粉磁心の密度(g/cm3)、0A/mにおける初透磁率及び10kA/mにおける透磁率、ヒステリシス損失(kW/m3)、渦電流損失(kW/m3)及び鉄損(kW/m3)を測定した。
【0047】
密度(g/cm3)は、見かけ密度である。圧粉磁心の外径、内径、及び高さを測り、これらの値から各圧粉成型体の体積(cm3)を、π×(外径2-内径2)×高さに基づき算出した。そして、圧粉磁心の重量を測定し、測定した重量を算出した体積で除して密度を算出した。
【0048】
各透磁率の測定に際し、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を1次巻線として17ターン巻回し、また2次巻線として17ターン巻回した。そして、LCRメータ(アジレントテクノロジー:4284A)を使用することで、100kHz、1.0Vにおける磁界の強さのインダクタンスから初透磁率及び10kA/mにおける透磁率を算出した。また、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて、周波数が100kHz及び最大磁束密度Bmが100mTの測定条件にて鉄損Pcv(kW/m3)の測定を行った。
【0049】
更に、鉄損Pcvの測定結果からヒステリシス損失Ph(kW/m3)と渦電流損失Pe(kW/m3)とを算出した。ヒステリシス損失Ph(kW/m3)と渦電流損失Pe(kW/m3)は、鉄損Pcvの周波数曲線を次の(1)~(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損失係数(Kh)、渦電流損失係数(Ke)を算出することで行った。
【0050】
Pcv =Kh×f+Ke×f2・・(1)
Ph =Kh×f・・(2)
Pe =Ke×f2・・(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損失係数
Ke :渦電流損失係数
f :周波数
Ph :ヒステリシス損失
Pe :渦電流損失
【0051】
測定された結果を表2に示す。また、
図1はニオブアルコキシドの添加量と鉄損の関係を示すグラフであり、
図2はニオブアルコキシドの添加量とヒステリシス損失の関係を示すグラフであり、
図3はニオブアルコキシドの添加量と渦電流損失の関係を示すグラフである。
【0052】
【0053】
表2及び
図1に示すように、ニオブアルコキシドを添加した実施例1~7は、ニオブアルコキシドを添加していない比較例よりも鉄損が大きく減少している。
図2に示すように、実施例1~7のヒステリシス損失は、何れも比較例よりも低減しており、特に、
図3に示すように、比較例1の渦電流損失は300(kW/m
3)近くであるのに対し、実施例1~7は70(kW/m
3)よりも低く、ニオブアルコキシドを添加することで渦電流損失が大きく減少することが確認された。
【0054】
一般的に添加物を増やすと、圧粉磁心の密度は低下するといわれている。しかし、表2に示すように、ニオブアルコキシドの添加量が最も多い実施例7においても、ニオブアルコキシドを添加していない比較例と比べても密度の低減は0.1(g/cm3)程度であり、大きな減少は見られなかった。
【0055】
また、ニオブアルコキシドの添加量が0.10wt%以上2.00wt%以下である実施例2~6は、鉄損が850(kW/m3)程度より下回っており、より低鉄損を実現できていることが確認された。さらに、ニオブアルコキシドの添加量が0.50wt%以上1.00wt%以下である実施例4及び5は、ヒステリシス損失が790(kW/m3)を下回り、鉄損も840(kW/m3)よりも低減でき、ヒステリシス損失及び鉄損の低減効果が最も高いことが確認された。
【0056】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。