(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】透明導電フィルム用積層体、透明導電フィルム、及び、透明導電フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241213BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20241213BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20241213BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20241213BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20241213BHJP
H05B 33/28 20060101ALI20241213BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241213BHJP
H10K 50/805 20230101ALI20241213BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241213BHJP
H10K 71/40 20230101ALI20241213BHJP
H10K 71/60 20230101ALI20241213BHJP
B32B 7/06 20190101ALN20241213BHJP
H10K 102/10 20230101ALN20241213BHJP
【FI】
B32B27/00 Z
H01B5/14 A
H05B33/02
H05B33/10
H05B33/14 Z
H05B33/28
H10K50/10
H10K50/805
H10K59/10
H10K71/40
H10K71/60
B32B7/06
H10K102:10
(21)【出願番号】P 2022510713
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021012764
(87)【国際公開番号】W WO2021193889
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2020057706
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 博貴
(72)【発明者】
【氏名】永縄 智史
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-24225(JP,A)
【文献】特開2018-24226(JP,A)
【文献】特開2007-293001(JP,A)
【文献】特開2018-122583(JP,A)
【文献】国際公開第2020/138206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
H01B 5/14
B32B 7/06
H05B33/00-33/28
H10K50/00-102/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電フィルムを形成することに用いられる透明導電フィルム用積層体であって、
工程フィルムと硬化樹脂層とをこの順で備え、
前記硬化樹脂層は、重合体成分(A)及び硬化性単量体(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であり、
前記硬化樹脂層の150℃昇温による熱変形率の絶対値が1.2%以下であり、
前記硬化樹脂層の厚さは20μm以下であり、
前記工程フィルムは、剥離層が設けられていてもよい第1の表面と、剥離層が設けられていない第2の表面とを有し、
前記硬化樹脂層は、前記工程フィルムの第2の表面上に形成されている、透明導電フィルム用積層体。
【請求項2】
前記重合体成分(A)のガラス転移温度が、250℃以上である、請求項1に記載の透明導電フィルム用積層体。
【請求項3】
前記重合体成分(A)の重量平均分子量が、100,000以上である、請求項1又は2に記載の透明導電フィルム用積層体。
【請求項4】
前記重合体成分(A)がポリイミド樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の透明導電フィルム用積層体。
【請求項5】
前記ポリイミド樹脂は、メチルエチルケトンに可溶である、請求項4に記載の透明導電フィルム用積層体。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂は、分子内にフルオロ基を有する、請求項4又は5に記載の透明導電フィルム用積層体。
【請求項7】
前記硬化樹脂層の破断伸度が2.5%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の透明導電フィルム用積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の透明導電フィルム用積層体と、当該透明導電フィルム用積層体の前記硬化樹脂層上に設けられた透明導電層とを有する、透明導電フィルム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の透明導電フィルム用積層体の前記硬化樹脂層上に導電性材料層を形成する工程と、前記導電性材料層を140℃以上に加熱して透明導電層を形成する工程とを含む、透明導電フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電層を形成することに用いられる透明導電フィルム用積層体、それを用いた透明導電フィルム、及び、透明導電フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ、EC(エレクトロクロミック)ディスプレイ、太陽電池、電磁シールド用の電磁遮蔽膜、透明タッチパネル等のフィルムセンサー等には、基材フィルムの表面に透明導電層が形成された透明導電フィルムが用いられている。
透明導電フィルムの製造過程においては、金属化合物のスパッタリングとその後のアニール処理等の、加熱を伴う過酷な条件で加工がされることが多い。このため、透明導電層が形成される基材となる積層体には高い耐熱性が求められる。そこで、ポリイミド樹脂等の高耐熱性樹脂(例えば、ガラス転移温度が250℃以上の樹脂)を用いて形成されたフィルムを含む積層体を用いることで、この問題を解決することが考えられる。
また、近年では、透明性や柔軟性の向上や軽量化等の目的で、高耐熱性樹脂のフィルムの厚さを薄くすることが求められるようになっている。
【0003】
例えば、先行文献1には、溶剤に可溶であり、溶液キャスト法により、透明性の高いフィルムを得ることができるポリイミド樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、溶液キャスト法によりガラス板上にポリイミド樹脂層を形成する場合は、比較的容易にポリイミド樹脂層をガラス板から剥離することができる。しかしながら、樹脂シートや樹脂フィルム上にポリイミド樹脂層を溶液キャスト法により形成する場合は、形成されたポリイミド樹脂層を樹脂シートや樹脂フィルムから良好に剥離できなかったり、全く剥離できなかったりする場合があった。この傾向は、溶液キャスト法により形成されるポリイミドフィルムの厚さが薄い場合に特に顕著である。また、ロールツーロールでポリイミドフィルムを加工しづらくなるという課題も生じていた。
【0006】
本発明は、上記問題を鑑み、薄く耐熱性に優れ、工程フィルムを容易に剥離することができ、良好な特性を有する透明導電フィルムが得られる、透明導電フィルム用積層体を提供することを課題とする。また、本発明は、良好な特性を有し、薄型で、優れた耐熱性を備える透明導電フィルム、及び、その製造方法を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、透明導電フィルムを形成することに用いられる透明導電フィルム用積層体であって、工程フィルムと、硬化樹脂層とをこの順で備えており、上記硬化樹脂層を所定の熱変形率及び厚さを有するものとすることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
[1]透明導電フィルムを形成することに用いられる透明導電フィルム用積層体であって、
工程フィルムと硬化樹脂層とをこの順で備え、
前記硬化樹脂層は、重合体成分(A)及び硬化性単量体(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であり、
前記硬化樹脂層の150℃昇温による熱変形率の絶対値が1.2%以下であり、
前記硬化樹脂層の厚さは20μm以下であり、
前記工程フィルムは、剥離層が設けられていてもよい第1の表面と、剥離層が設けられていない第2の表面とを有し、
前記硬化樹脂層は、前記工程フィルムの第2の表面上に形成されている、透明導電フィルム用積層体。
[2]前記重合体成分(A)のガラス転移温度が、250℃以上である、上記[1]に記載の透明導電フィルム用積層体。
[3]前記重合体成分(A)の重量平均分子量が、100,000以上である、上記[1]又は[2]に記載の透明導電フィルム用積層体。
[4]前記重合体成分(A)がポリイミド樹脂である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の透明導電フィルム用積層体。
[5]前記ポリイミド樹脂は、メチルエチルケトンに可溶である、上記[4]に記載の透明導電フィルム用積層体。
[6]前記ポリイミド樹脂は、分子内にフルオロ基を有する、上記[4]又は[5]に記載の透明導電フィルム用積層体。
[7]前記硬化樹脂層の破断伸度が2.5%以上である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の透明導電フィルム用積層体。
[8]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の透明導電フィルム用積層体と、当該透明導電フィルム用積層体の前記硬化樹脂層上に設けられた透明導電層とを有する、透明導電フィルム。
[9]上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の透明導電フィルム用積層体の前記硬化樹脂層上に導電性材料層を形成する工程と、前記導電性材料層を140℃以上に加熱して透明導電層を形成する工程とを含む、透明導電フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薄く耐熱性に優れ、工程フィルムを容易に剥離することができ、良好な特性を有する透明導電フィルムが得られる、透明導電フィルム用積層体を提供することができる。また、本発明は、良好な特性を有し、薄型で、優れた耐熱性を備える透明導電フィルム、及び、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る透明導電フィルム用積層体の構成例を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る透明導電フィルムの構成例を示す断面模式図である。
【
図3】透明導電フィルム用積層体の製造方法の一例を示す工程図である。
【
図4】透明導電フィルムの製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の双方を示し、他の類似用語も同様である。
以下、本発明の実施形態に係る透明導電フィルム用性積層体について説明する。
【0011】
1.透明導電フィルム用性積層体
本発明の実施形態に係る透明導電フィルム用性積層体は、工程フィルムと、硬化樹脂層とをこの順で備えている。そして、上記硬化樹脂層は、重合体成分(A)及び硬化性単量体(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層であり、150℃昇温による熱変形率の絶対値が1.2%以下、かつ、厚さ20μm以下である。更に、上記工程フィルムは、第1の表面を有し、第1の表面には、剥離層が設けられていてもよく、設けられていなくてもよい。上記硬化樹脂層は、工程フィルムの上記剥離層を有する表面とは反対側の第2の表面上に形成され、第2の表面上には、剥離層が設けられていない。
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下の事項を見出した。(i)重合体成分(A)及び硬化性単量体(B)を含有する硬化性樹脂組成物から硬化樹脂層を得ること、及び、(ii)硬化樹脂層を工程フィルムの、剥離層を有しない表面上に形成することにより、硬化性樹脂組成物が良好に工程フィルム上に塗布され、硬化樹脂層を良好に形成することができ、また、硬化樹脂層を10μm以下の厚さに形成しても、硬化樹脂層を工程フィルムから容易に剥離できる。加えて、(iii)硬化樹脂層の150℃昇温による熱変形率を1.2%以下とすることにより、硬化樹脂層上に透明導電層を形成する際の熱負荷に硬化樹脂層が耐え得るので、硬化樹脂層に変形等が生じることが防止される。この結果、透明導電層の性能が低下することが抑制され、良好な特性を有する透明導電フィルムが得られる。
【0013】
以下、理解を容易にするため、適宜、図面を参照したり、図面に示す符号を用いて各層やフィルムの構成を説明したりするが、本発明は図示した態様には制限されない。
本発明の実施形態に係る透明導電フィルム用積層体の具体的な構成例を
図1に示す。
図1(a)に示す透明導電フィルム用積層体10Aは、硬化樹脂層2の片面に工程フィルム1を有するものである。後述するように、硬化樹脂層2の工程フィルム1が設けられたのとは反対側の面に透明導電層が設けられて、透明導電フィルムとなる。
図1(b)に示す透明導電フィルム用積層体10Bは、硬化樹脂層2の両面に、それぞれ工程フィルム1A、1Bを有するものである。透明導電層を設ける場合は、工程フィルム1A、1Bのうちいずれかを剥離して除去する。そして、露出した表面に透明導電層を設ける。
この場合には、工程フィルム1A、1Bのうちの少なくともいずれかが、第2の表面が硬化樹脂層と対向する状態で硬化樹脂層と積層されている。
【0014】
1-1.硬化樹脂層
本発明の実施形態に係る透明導電フィルム用性積層体が有する硬化樹脂層は、重合体成分(A)及び硬化性単量体(B)を含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる。硬化樹脂層は単層であってもよく、積層された複数の層を含んでいてもよい。
【0015】
〔重合体成分(A)〕
重合体成分(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは250℃以上、より好ましくは290℃以上、更に好ましくは320℃以上である。重合体成分(A)のTgが250℃以上であれば、硬化樹脂層に十分な耐熱性を付与しやすく、透明導電層を形成する際に、アニール処理等の加熱によって硬化樹脂層が影響を受けて変形等を生じることを防止しやすくなる。
また、重合体成分(A)のTgを250℃以上とすることで、後述する硬化性単量体(B)とともに硬化性組成物を調製し、この硬化性組成物を硬化させた際に生じる重合物の影響により、耐熱性が低下することを回避しやすくなる。
ここでTgは、粘弾性測定(周波数11Hz、昇温速度3℃/分で0~250℃の範囲で引張モードによる測定)により得られたtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大点の温度をいう。
【0016】
重合体成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは800,000以下、更に好ましくは500,000以下である。
また、重合体成分(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは、1.0~5.0、より好ましくは、2.0~4.5の範囲である。重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。Mwを100,000以上とすることで、硬化樹脂層の破断伸度を大きくさせやすくなる。
【0017】
重合体成分(A)としては、熱可塑性樹脂が好ましく、非晶性熱可塑性樹脂がより好ましい。非晶性熱可塑性樹脂を用いることで、光学等方性に優れた硬化樹脂層を得やすくなり、また、透明性に優れる透明導電フィルム用積層体が得られ易くなる。また、非晶性熱可塑性樹脂は概して有機溶剤に溶け易いため、後述するように、溶液キャスト法を利用して、効率よく硬化樹脂層を形成することができる。
ここで、非晶性熱可塑性樹脂とは、示差走査熱量測定において、融点が観測されない熱可塑性樹脂をいう。
【0018】
重合体成分(A)は、特に、酢酸エチルやメチルエチルケトン(MEK)等の低沸点の汎用の有機溶剤に可溶なものが好ましい。汎用の有機溶媒に可溶であれば、塗工によって硬化樹脂層を形成することが容易になる。
【0019】
重合体成分(A)として、特に好ましいものは、Tgが250℃以上の非晶質熱可塑性樹脂であって、酢酸エチルやメチルエチルケトン等の低沸点の汎用の有機溶剤に可溶なものである。
【0020】
また重合体成分(A)としては、耐熱性の観点から、芳香族環構造又は脂環式構造等の環構造を有する熱可塑性樹脂が好ましく、芳香族環構造を有する熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0021】
重合体成分(A)の具体例としては、ポリイミド樹脂、及び、Tgが250℃以上であるポリアリレート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は概してTgが高く耐熱性に優れており、また、非晶質熱可塑性樹脂であるため、溶液キャスト法による塗膜形成が可能である。これらの中でも、Tgが高く耐熱性に優れており、また、良好な耐熱性を示しつつも汎用の有機溶媒に可溶なものを得やすいという点からポリイミド樹脂が好ましい。
【0022】
ポリイミド樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、例えば、芳香族ポリイミド樹脂、芳香族(カルボン酸成分)-環式脂肪族(ジアミン成分)ポリイミド樹脂、環式脂肪族(カルボン酸成分)-芳香族(ジアミン成分)ポリイミド樹脂、環式脂肪族ポリイミド樹脂、およびフッ素化芳香族ポリイミド樹脂等を使用することができる。特に、分子内にフルオロ基を有するポリイミド樹脂が好ましい。
【0023】
具体的には、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を用いて、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応を経て得られるポリイミド樹脂が好ましい。
【0024】
芳香族ジアミン化合物としては、合わせて用いられるテトラカルボン酸二無水物との反応により、共通の溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC))に可溶で、所定の透明性を有するポリイミドを与える芳香族ジアミン化合物であれば、任意の芳香族ジアミン化合物を使用することができる。具体的には、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェニル)〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェニル)〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-フルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
【0025】
これらの芳香族ジアミン化合物は単独で用いてもよく、2種類以上の芳香族ジアミン化合物を使用しても良い。そして、透明性や耐熱性の観点から、好ましい芳香族ジアミン化合物としては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどのフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物が挙げられ、使用する芳香族ジアミン化合物の少なくとも1種類はフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物であることが好ましく、特に好ましくは2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルである。フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を用いることで、透明性、耐熱性、溶剤への可溶性を得ることが容易となる。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物としては、上記芳香族ジアミン化合物と同様に、共通の溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC))に可溶で所定の透明性を有するポリイミドを与えるテトラカルボン酸二無水物であれば、任意のものを使用でき、具体的には、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3, 3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物などが例示される。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、二種類以上のテトラカルボン酸二無水物を使用しても良い。そして、透明性、耐熱性及び溶剤への可溶性の観点から、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物など、少なくとも1種類のフルオロ基を有するテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。
【0027】
ポリアミド酸への重合は、生成するポリアミド酸が可溶な溶剤への溶解下で、上記芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を反応させることにより行うことができる。ポリアミド酸への重合に用いる溶剤としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の溶剤を用いることができる。
【0028】
ポリアミド酸への重合反応は、撹拌装置を備えた反応容器で撹拌しながら行うことが好ましい。例えば、上記溶剤に所定量の芳香族ジアミン化合物を溶解させて、撹拌しながらテトラカルボン酸二無水物を投入して反応を行い、ポリアミド酸を得る方法、テトラカルボン酸二無水物を溶剤に溶解させて、撹拌しながら芳香族ジアミン化合物を投入して反応を行い、ポリアミド酸を得る方法、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を交互に投入して反応させてポリアミド酸を得る方法などが挙げられる。
【0029】
ポリアミド酸への重合反応の温度については特に制約はないが、0~70℃の温度で行うことが好ましく、より好ましくは10~60℃であり、更に好ましくは20~50℃である。重合反応を上記範囲内で行うことで、着色が少なく透明性に優れた高分子量のポリアミド酸を得ることが可能となる。
【0030】
また、ポリアミド酸への重合に使用する芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物は概ね当モル量を使用するが、得られるポリアミド酸の重合度をコントロールするために、テトラカルボン酸二無水物のモル量/芳香族ジアミン化合物のモル量(モル比率)を0.95~1.05の範囲で変化させることも可能である。そして、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物のモル比率は、1.001~1.02の範囲であることが好ましく、1.001~1.01であることがより好ましい。このようにテトラカルボン酸二無水物を芳香族ジアミン化合物に対して僅かに過剰にすることで、得られるポリアミド酸の重合度を安定させることができるとともに、テトラカルボン酸二無水物由来のユニットをポリマーの末端に配置することができ、その結果、着色が少なく透明性に優れたポリイミドを与えることが可能となる。
【0031】
生成するポリアミド酸溶液の濃度は、溶液の粘度を適正に保ち、その後の工程での取り扱いが容易になるよう、適切な濃度(例えば、10~30質量%程度)に整えることが好ましい。
【0032】
得られたポリアミド酸溶液にイミド化剤を加えて化学イミド化反応を行う。イミド化剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸などのカルボン酸無水物を用いることができ、コストや反応後の除去のしやすさの観点から無水酢酸を使用することが好ましい。使用するイミド化剤の当量は化学イミド化反応を行うポリアミド酸のアミド結合の当量以上であり、アミド結合の当量の1.1~5倍であることが好ましく、1.5~4倍であることがより好ましい。このようにアミド結合に対して少し過剰のイミド化剤を使用することで、比較的低温でも効率的にイミド化反応を行うことができる。
【0033】
化学イミド化反応には、イミド化促進剤として、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族、芳香族又は複素環式第三級アミン類を使用することができる。このようなアミン類を使用することで、低温で効率的にイミド化反応を行うことができ、その結果イミド化反応時の着色を抑えることが可能となり、より透明なポリイミドを得やすくなる。
【0034】
化学イミド化反応温度については特に制約はないが、10℃以上50℃未満で行うことが好ましく、15℃以上45℃未満で行うことがより好ましい。10℃以上50℃未満の温度で化学イミド化反応を行うことで、イミド化反応時の着色が抑えられ、透明性に優れたポリイミドを得ることができる。
【0035】
この後、必要に応じて、化学イミド化反応により得られたポリイミド溶液に、ポリイミドの貧溶媒を加えてポリイミドを析出させて粉体を形成させる粉体化、乾燥を行う。
【0036】
ポリイミド樹脂としては、酢酸エチルやメチルエチルケトンなどの低沸点の有機溶剤に可能であることが好ましい。特に、メチルエチルケトンに可溶であることが好ましい。メチルエチルケトンに可溶であると、塗布・乾燥によって容易に硬化性樹脂組成物の層を形成することができる。
【0037】
フルオロ基を含むポリイミド樹脂は、メチルエチルケトン等の沸点の低い汎用の有機溶剤に溶解しやすくなり、塗布法で硬化樹脂層を形成しやすくなるという観点から、特に好ましい。
フルオロ基を有するポリイミド樹脂としては、分子内にフルオロ基を有する芳香族ポリイミド樹脂が好ましく、分子内に以下の化学式で示す骨格を有するものが好ましい。
【化1】
【0038】
上記化学式で示される骨格を有するポリイミド樹脂は、上記骨格の剛直性が高いことにより、300℃を超える極めて高いTgを有している。このため、硬化樹脂層の耐熱性を大きく向上させ得る。また、上記骨格は直線的であり比較的柔軟性が高く、硬化樹脂層の破断伸度を高くさせやすくなる。更に、上記骨格を有するポリイミド樹脂は、フルオロ基を有することにより、メチルエチルケトン等の低沸点の汎用有機溶剤に溶解し得る。したがって、溶液キャスト法を用いて塗工を行い、塗膜として硬化樹脂層を形成することができ、また、乾燥による溶剤除去も容易である。上記化学式で示される骨格を有するポリイミド樹脂は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルと、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物とを用いて、上述のポリアミド酸の重合及びイミド化反応により得ることができる。
【0039】
ポリアリレート樹脂は、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸又はそのクロライドとの反応により得られる高分子化合物からなる樹脂である。ポリアリレート樹脂も、比較的高いTgを有しており、伸び特性も比較的良好である。ポリアリレート樹脂としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。
【0040】
芳香族ジオールとしては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン〔ビスフェノールF〕、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、2,2-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)オクタン等のビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類;1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(2,6-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(2,3,6-トリメチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フルオロフェニルメタン、ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)-4-フルオロフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-クロロフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-ブロモフェニルメタン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-4-フルオロフェニルメタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン〔ビスフェノールP〕、1,1-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(3’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(3’-フェニル-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-(4’-ニトロフェニル)エタン、1,1-ビス(3’-ブロモ-4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等のビス(ヒドロキシフェニル)フェニルアルカン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテル等のビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ケトン等のビス(ヒドロキシフェニル)ケトン類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等のビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン〔ビスフェノールS〕、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン等のビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類;9,9-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3’-メチル-4’-ヒドロキシフェニル)フルオレン等のビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;等が挙げられる。
【0041】
芳香族ジカルボン酸又はそのクロライドとしては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテル4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及びそれらのクロライド等が挙げられる。また、用いるポリアリレート系樹脂は、変性ポリアリレート系樹脂であってもよい。これらの中でも、ポリアリレート系樹脂としては、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパンとイソフタル酸との反応により得られる高分子化合物からなる樹脂が好ましい。
【0042】
重合体成分(A)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、重合体成分(A)として、ガラス転移温度が250℃以上の重合体成分(A’)とガラス転移温度が250℃未満である重合体成分(A”)とを組み合わせて用いてもよい。重合体成分(A”)としては、例えば、ポリアミド樹脂、Tgが250℃未満であるポリアリレート樹脂が挙げられ、ポリアミド樹脂が好ましい。
【0043】
ポリアミド樹脂としては、有機溶媒に可溶であるものが好ましく、ゴム変性ポリアミド樹脂が好ましい。ゴム変性ポリアミド樹脂としては、例えば、特開2004-035638号公報に記載のものを用いることができる。
【0044】
重合体成分(A)及び重合体成分(A”)としては、単一種類のポリイミド樹脂を用いたもの、種類の異なるポリイミド樹脂を複数用いたもの、及び、ポリイミド樹脂にポリアミド樹脂及びポリアリレート樹脂のうち少なくとも一方を添加したものが、伸び特性を調整し得る観点、及び、耐溶剤性の観点から好ましい。
【0045】
ポリイミド樹脂にポリアミド樹脂やTgが250℃未満であるポリアリレート樹脂を添加する場合、添加する樹脂の量は、Tgを高く維持しつつ、適度に柔軟性を付与する観点から、ポリイミド樹脂100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、より更に好ましくは30質量部以下であり、また、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。
【0046】
〔硬化性単量体(B)〕
硬化性単量体(B)は、重合性不飽和結合を有する単量体であって、重合反応、又は、重合反応に関与し得る単量体である。硬化性単量体(B)を用いることで、硬化樹脂層の工程フィルムからの剥離が容易となる。また、耐溶剤性に優れる透明導電フィルム用性積層体を得ることができる。
硬化樹脂層を、上述した重合体成分(A)と上記硬化性単量体(B)とを含有する硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層とすることで、耐熱性に優れ、薄い硬化樹脂層を形成することが容易になる。また、このような材料を用いれば、透明導電フィルム用性積層体の基材として一般的に用いられるポリエステル系フィルムのような、異方性の分子配向を有する材料に起因した光学上の問題が生じない。また、硬化樹脂層の150℃昇温による熱変形率の絶対値が1.2%以下であることにより、硬化樹脂層が耐熱性を示すので、導電性材料層を加熱して透明導電層を形成する場合に、加熱による硬化樹脂層の変形等により、透明導電層の性能が低下することが抑制される。
更に、本発明者らの検討によれば、硬化性単量体(B)を用いずにポリイミド樹脂のみを溶媒に溶かし、一般的な剥離フィルムであるシリコーン樹脂製の剥離フィルムに塗布・乾燥して形成した樹脂層は、剥離フィルム表面に存在する凹凸の影響により、ヘイズが上昇する傾向にある。これに対して、硬化性単量体(B)を併用することにより、剥離層が設けられていない工程フィルムの第2の表面上に硬化樹脂層を設けても、容易に硬化樹脂層を剥離することができるため、ヘイズの上昇を抑制することができる。
【0047】
硬化性単量体(B)の分子量は、通常、3,000以下、好ましくは200~2,000、より好ましくは200~1,000である。硬化性単量体(B)の分子量がこのような範囲にあれば、硬化性樹脂組成物の塗膜を形成する際、後述の皮張り現象をより効率的に抑制することができる。
硬化性単量体(B)中の重合性不飽和結合の数は特に制限されない。硬化性単量体(B)は、重合性不飽和結合を1つ有する単官能型の単量体であっても、複数有する2官能型や3官能型等の多官能型の単量体であってもよい。
【0048】
前記単官能型の単量体としては、単官能の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体、脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体、ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体等が挙げられる。
【0049】
窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
式中、R1は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~12の有機基を表し、R2とR3は、結合して環構造を形成してもよく、R4は、2価の有機基を表す。
R1で表される炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、メチル基が好ましい。
R2及びR3で表される炭素数1~12の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の、炭素数1~12のアルキル基;シクロペンチル基、シクロへキシル基等の、炭素数3~12のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の、炭素数6~12の芳香族基;が挙げられる。これらの基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。また、R2とR3が一緒になって環を形成してもよく、該環は、骨格中に更に窒素原子や酸素原子を有していてもよい。
R4で表される2価の有機基としては、-(CH2)m-、-NH-(CH2)m-で表される基が挙げられる。ここで、mは、1~10の整数である。
【0052】
これらの中でも、窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で表される(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましいものとして挙げられる。
【0053】
【0054】
窒素原子を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体を、硬化性単量体(B)として用いることで、より耐熱性に優れる硬化樹脂層を形成することができる。
【0055】
脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0056】
【0057】
式中、R1は上記と同じ意味を表し、R5は脂環式構造を有する基である。
R5で表される脂環式構造を有する基としては、シクロへキシル基、イソボルニル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、トリシクロデカニル基等が挙げられる。
【0058】
脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
脂環式構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体を、硬化性単量体(B)として用いることで、より光学特性に優れる硬化樹脂層を形成することができる。
【0060】
ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0061】
【0062】
式中、R1は上記と同じ意味を表し、R6は炭素数1~12の有機基を表す。R6で表される炭素数1~12の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の、炭素数1~12のアルキル基;シクロへキシル基等の、炭素数3~12のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の、炭素数6~12の芳香族基;等が挙げられる。jは、2~20の整数を表す。
【0063】
ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、エトキシ化o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0064】
ポリエーテル構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸誘導体を、硬化性単量体(B)として用いることで、靭性に優れる硬化樹脂層を形成することができる。
【0065】
前記多官能型の単量体としては、多官能の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
多官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。例えば、2~6官能の(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。
2官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、下記式で示される化合物が挙げられる。
【0066】
【0067】
式中、R1は、上記のものと同じ意味を表し、R7は、2価の有機基を表す。R7で表される2価の有機基としては、下記式で示される基が挙げられる。
【0068】
【0069】
(式中、sは1~20の整数を表し、tは、1~30の整数を表し、uとvは、それぞれ独立に、1~30の整数を表し、両末端の「-」は、結合手を表す。)
【0070】
前記式で示される2官能の(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び靭性の観点から、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の、上記式において、R7で表される2価の有機基がトリシクロデカン骨格を有するもの、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等の、上記式において、R7で表される2価の有機基がビスフェノール骨格を有するもの、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等の、上記式において、R7で表される2価の有機基が9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有するものが好ましい。
【0071】
また、これら以外の2官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、ジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0072】
3官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
4官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
5官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
6官能の(メタ)アクリル酸誘導体としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0073】
硬化性単量体(B)として、環化重合性モノマーを用いてもよい。環化重合性モノマーとは、環化しながらラジカル重合する性質をもつモノマーである。環化重合性モノマーとしては、非共役ジエン類が挙げられ、例えば、α-アリルオキシメチルアクリル酸系モノマーを用いることができ、2-アリロキシメチルアクリル酸の炭素数1~4のアルキルエステル、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸シクロヘキシルが好ましく、2-アリロキシメチルアクリル酸の炭素数1~4のアルキルエステルがより好ましく、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチルが更に好ましい。
また、ジメチル -2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジエチル-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(n-プロピル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(i-プロピル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(n-ブチル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジ(n-ヘキシル)-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート、ジシクロヘキシル-2,2’-[オキシビス(メチレン)]ビス-2-プロペノエート等の環化重合性モノマーを用いることもできる。
【0074】
硬化性単量体(B)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、硬化性単量体(B)は、耐熱性及び耐溶剤性により優れる硬化樹脂層が得られることから、多官能型の単量体が好ましい。多官能の単量体としては、重合体成分(A)と混ざりやすく、かつ、重合物の硬化収縮が起こりにくく硬化物のカールが抑制できるという観点から、2官能(メタ)アクリル酸誘導体が好ましい。
硬化性単量体(B)として、多官能(メタ)アクリレート化合物と、環化重合性モノマーとが含まれることがより好ましい。これらを併用することで、硬化樹脂層の耐熱性を適度に調整しつつ、硬化樹脂層の破断伸度を所定の範囲に調整しやすくなる。
硬化性単量体(B)が多官能型の単量体を含む場合、その含有量は、硬化性単量体(B)の全量中、40質量%以上が好ましく、50~100質量%がより好ましい。
【0075】
〔硬化性樹脂組成物〕
本発明の実施形態に係る硬化樹脂層を形成するのに用いる硬化性樹脂組成物は、重合体成分(A)、硬化性単量体(B)、及び所望により、後述する重合開始剤やその他の成分を混合し、適当な溶媒に溶解又は分散させることにより調製することができる。
【0076】
硬化性樹脂組成物中の、重合体成分(A)と硬化性単量体(B)の合計含有量は、溶媒を除いた硬化性樹脂組成物全体の質量に対して、好ましくは40~99.5質量%、より好ましくは60~99質量%、更に好ましくは80~98質量%である。
【0077】
硬化性樹脂組成物中の、重合体成分(A)と硬化性単量体(B)の含有量は、重合体成分(A)と硬化性単量体(B)との質量比で、好ましくは、重合体成分(A):硬化性単量体(B)=30:70~90:10、より好ましくは35:65~80:20である。
硬化性樹脂組成物において、重合体成分(A):硬化性単量体(B)の質量比がこのような範囲にあることで、得られる硬化樹脂層の柔軟性がより向上しやすく、硬化樹脂層の耐溶剤性も保たれやすい傾向がある。
【0078】
また、硬化性樹脂組成物中の硬化性単量体(B)の含有量が上記範囲であれば、例えば、硬化樹脂層を溶液キャスト法等によって得る場合、効率よく溶媒を除去することができる。このため、乾燥工程の長時間化によるカールやうねり等の変形の問題が解消される。
【0079】
重合体成分(A)として、上述したポリイミド樹脂と、ポリアミド樹脂あるいはポリアリレート樹脂との組合せ等の、溶剤可溶性の異なる複数の樹脂を組み合わせて用いる場合は、まず、それぞれに適した溶剤に樹脂を溶解した上で、樹脂を溶解した低沸点の有機溶剤に、他の樹脂を溶解した溶液を添加することが好ましい。
【0080】
硬化性樹脂組成物には、所望により重合開始剤を含有させることができる。重合開始剤は、硬化反応を開始させるものであれば、特に制限なく用いることができ、例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤が挙げられる。
【0081】
熱重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ系化合物が挙げられる。
有機過酸化物としては、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類;t-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド、p-メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド等のヒドロパーオキサイド類;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類;等が挙げられる。
アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
【0082】
光重合開始剤としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等のアルキルフェノン系光重合開始剤;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィネート、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド等のリン系光重合開始剤;ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル]チタニウム等のチタノセン系光重合開始剤;1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-メチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-(13-アクリロイル-1,4,7,10,13-ペンタオキサトリデシル)-ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;チオキサントン、2-クロロチオキサントン、3-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤;等が挙げられる。
【0083】
上記の光重合開始剤の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィネート、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイド等のリン系光重合開始剤が好ましい。
重合体成分(A)が芳香族環を有する熱可塑性樹脂である場合、重合体成分(A)が紫外線を吸収する結果、硬化反応が起こりにくいことがある。しかしながら、上記のリン系光重合開始剤を用いることで、上記重合体成分(A)に吸収されない波長の光を利用して硬化反応を効率よく進行させることができる。
重合開始剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂組成物全体に対して、0.05~15質量%が好ましく、0.05~10質量%がより好ましく、0.05~5質量%が更に好ましい。
【0085】
また、前記硬化性樹脂組成物は、重合体成分(A)、硬化性単量体(B)、及び重合開始剤に加えて、トリイソプロパノールアミンや、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン等の光重合開始助剤を含有していても良い。
【0086】
前記硬化性樹脂組成物の調製に用いる溶媒としては、特に制限されず、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤;1,3-ジオキソラン等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。
【0087】
前記硬化性樹脂組成物中の溶媒の含有量は、特に限定されないが、重合体成分(A)1gに対し、通常、0.1~1,000g、好ましくは、1~100gである。溶媒の量を適宜調節することによって、硬化性樹脂組成物の粘度を適宜なものに調節することができる。
【0088】
また、前記硬化性樹脂組成物は、本発明の目的、効果を損なわない範囲内で、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の、公知の添加剤を更に含有していてもよい。
【0089】
前記硬化性樹脂組成物を硬化させる方法は、用いる重合開始剤や硬化性単量体の種類に応じて適宜決定することができる。詳細は、後述する透明導電フィルム用性積層体の製造方法の項で説明する。
【0090】
〔硬化樹脂層の性状等〕
硬化樹脂層の厚さは、20μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは12μm以下、更に好ましくは10μm以下である。硬化樹脂層の厚さの下限に特に制限はないが、通常、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上である。
【0091】
硬化樹脂層の厚さが20μm以下であると、薄く軽量な透明導電フィルム形成用積層体を得やすく、取り扱い性に優れた透明導電フィルム形成用積層体とすることができる。
また、硬化樹脂層が薄いので、透明性が高く、しかも薄型で軽量な透明導電フィルムを得ることができる。したがって、薄型化が求められる有機ELディスプレイ等の用途において、透明導電フィルムが適用デバイス全体の厚さの増大要因とならないため好ましい。また、薄型の透明導電フィルムであれば、透明導電フィルムの実装後のフレキシブル性及び屈曲耐性を向上させることができる。
【0092】
上述したように、本発明の実施形態に係る透明導電フィルム形成用積層体が有する硬化樹脂層は、150℃昇温による熱変形率の絶対値が1.2%以下である。このため、優れた耐熱性を有しており、耐熱性に優れた透明導電フィルム形成用積層体とすることができる。
特に、スパッタリング、蒸着、塗工等によって、硬化樹脂層上に導電性材料層を形成し、更に導電性材料層を加熱して透明導電層を形成する等、硬化樹脂層形成後に加熱を伴う工程を経て透明導電フィルム形成用積層体が作製されても、硬化樹脂層の耐熱性が高いため問題を生じにくい。具体的には、硬化樹脂層の変形等によって、透明導電層を良好に形成することができなくなったり、透明導電層が十分な電気特性を発揮できなくなったりすることが回避できる。同様の観点から、硬化樹脂層の150℃昇温による熱変形率の絶対値は、0.8%以下であることが好ましい。
硬化樹脂層の熱変形率は、後述する実施例に記載の方法により測定される特性値である。実施例においては、硬化樹脂層の厚さを20μmに調整して測定を行っているが、硬化樹脂層が薄く、熱機械分析装置の治具に取り付けた際に、硬化樹脂層が伸びてしまうという問題を回避するため、硬化樹脂層の厚さを20μm以上になるように積層して測定する。
【0093】
後述するように、硬化性樹脂組成物を工程フィルム上に塗工して得られる塗膜を硬化して、容易に硬化樹脂層を形成することができる観点から、硬化樹脂層は、当該工程フィルムの、剥離層が設けられていない表面(第2の表面)に形成された硬化性樹脂組成物の塗膜の硬化物であることが好ましい。
【0094】
上記硬化樹脂層は耐溶剤性にも優れる。耐溶剤性に優れることから、例えば、硬化樹脂層表面に他の層を形成する際に有機溶剤を用いる場合であっても、硬化樹脂層表面がほとんど溶解しない。したがって、例えば、硬化樹脂層表面に、有機溶剤を含む樹脂溶液を用いて、塗布法により透明導電層を形成する場合であっても、硬化樹脂層の成分が透明導電層に混入しにくいため、透明導電層の電気特性が低下しにくい。
【0095】
このような観点から、前記硬化樹脂層のゲル分率は90%以上が好ましく、94%以上がより好ましい。ゲル分率が90%以上の硬化樹脂層は、耐溶剤性に優れるものであるため、硬化樹脂層表面に他の層をコーティングにより形成する際に有機溶剤を用いる場合であっても、硬化樹脂層表面がほとんど溶解せず、耐溶剤性に優れる透明導電フィルム用積層体を得やすくなる。
【0096】
ここで、ゲル分率とは、100mm×100mmにカットした硬化樹脂層を、予め質量を測定した150mm×150mmのナイロンメッシュ(#120)で包み、トルエン(100mL)中に3日間浸漬し、取り出して120℃で1時間乾燥させ、次いで、23℃相対湿度50%の条件下に3時間放置して調湿を行った後、その質量を測定して、以下の式によって得られるものである。
【0097】
ゲル分率(%)=[(浸漬後の残存樹脂の質量)/(浸漬前の樹脂の質量)]×100
【0098】
硬化樹脂層は、透明導電層との層間密着性に優れる。すなわち、上記硬化樹脂層上にアンカーコート層を設けることなく透明導電層を形成することができる。
【0099】
硬化樹脂層は、無色透明であることが好ましい。硬化樹脂層が無色透明であることで、本発明の実施形態に係る透明導電フィルム形成用積層体を光学用途に好ましく用いることができる。
【0100】
硬化樹脂層は、複屈折率が低く光学等方性に優れる。硬化樹脂層の面内の位相差は、通常、20nm以下であり、15nm以下が好ましい。厚さ方向の位相差は、通常、-500nm以下であり、-450nm以下が好ましい。また、面内の位相差を硬化樹脂層の厚さで割った値(複屈折率)は、通常、100×10-5以下であり、好ましくは20×10-5以下である。
硬化性脂層の面内の位相差、厚さ方向の位相差、複屈折率が上記の範囲内であれば、複屈折率が低く光学等方性に優れる透明導電フィルム形成用積層体が得られ、この透明導電フィルム形成用積層体を用いて作製される透明導電フィルムを光学用途に好ましく用いることができる。
【0101】
硬化樹脂層の破断伸度は、好ましくは2.5%以上、より好ましくは2.6%以上、更に好ましくは、2.7%以上である。硬化樹脂層の破断伸度が2.5%以上であれば、透明導電フィルム形成用積層体の破断伸度を2%以上程度に調整しやすくなり、結果的に、柔軟性に優れる透明導電フィルム形成用積層体が得られ易い。
【0102】
1-2.工程フィルム
工程フィルムは、透明導電フィルム形成用積層体や後述する透明導電フィルムを保存、運搬等する際に、硬化樹脂層や後述するその他の任意に設けられる層を保護する役割を有し、所定の工程において剥離されるものである。
工程フィルムは、例えば、基材層を有する。工程フィルムは、基材層以外の他の層が設けられていてもよいが、工程フィルムの一方の表面(第1の表面)に剥離層が設けられている場合、上述の硬化樹脂層は、工程フィルムの、剥離層が設けられたのとは反対側の表面(第2の表面)に設けられる。上述した
図1(a)と
図1(b)においては、工程フィルム1、1Aの第1の表面を符号S1で表し、工程フィルム1、1Aの第2の表面を符号S2で表している。
【0103】
透明導電フィルム用積層体が工程フィルムを有することにより、硬化樹脂層を保護しつつハンドリング性の高い透明導電フィルム形成用積層体とすることができる。また、硬化性樹脂組成物を工程フィルムに塗布する場合、工程フィルムの表面に剥離層が設けられていると、塗膜が均一にならない場合がある。本発明の実施形態に係る透明導電フィルム用積層体の製造工程では、工程フィルムの剥離層が設けられていない第2の表面に硬化性樹脂組成物を塗布することで、均一な塗膜を得ることができる。透明導電フィルム形成用積層体は、
図1(a)に示すように、硬化樹脂層の片面に工程フィルムを有していてもよいし、
図1(b)に示すように、硬化樹脂層の両面に工程フィルムを有していてもよい。後者の場合は、2種類の工程フィルムを用いて、先に剥離する工程フィルムをより剥離しやすいものにするのが好ましい。この場合、工程フィルム1A及び1Bの少なくともいずれか一方が剥離層を有しない第2の表面を有し、その表面上に硬化樹脂層が形成されていればよい。硬化樹脂層を形成するために工程フィルム上に硬化性樹脂組成物を塗工する場合、均一な塗膜が得られるように、工程フィルム1A及び1Bのうち、第2の表面を有する工程フィルムの第2の表面上に硬化性樹脂組成物の塗膜を形成することが好ましい。
【0104】
工程フィルムは、シート状またはフィルム状のものが好ましい。シート状またはフィルム状とは、長尺のものに限らず、短尺の平板状のものも含まれる。
【0105】
工程フィルムの基材層としては、グラシン紙、コート紙、上質紙等の紙基材;これらの紙基材にポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙;上記紙基材に、セルロース、デンプン、ポリビニルアルコール、アクリル-スチレン樹脂等で目止め処理を行ったもの;あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルムやポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム等のプラスチックフィルム;ガラス等が挙げられる。
【0106】
また、工程フィルムは、剥離層を有していてもよく、この場合、剥離層を有するのはいずれか一方の表面(第1の表面)上のみである。
剥離層は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキッド系剥離剤、オレフィン系剥離剤等、従来公知の剥離剤を用いて形成することができる。
剥離層の厚さは、特に制限されないが、通常、0.02~2.0μm、より好ましくは0.05~1.5μmである。
【0107】
工程フィルムの厚さは、取り扱い易さの点から、1~500μmが好ましく、5~300μmがより好ましい。
【0108】
1-3.その他の層
工程フィルムは、例えば、易接着層、帯電防止層等の剥離層以外の層を有していてもよいが、剥離層が設けられていない第2の表面においては、剥離層以外の層も設けられていないことが好ましい。
【0109】
透明導電フィルム用積層体の構成層のうち、所定の工程において工程フィルムから剥離される部分(分離層)は、硬化樹脂層を含んでいる。硬化樹脂層は、工程フィルムに他の層を介さずに積層されているため、硬化樹脂層は分離層の一方の最表面に位置する。分離層の他方の表面側には、硬化樹脂層以外の易接着層、帯電防止層等が設けられていてもよいが、分離層は、工程フィルム除去後の透明導電フィルムを構成する層であるため、薄いことが好ましく、硬化樹脂層以外の層の数や厚さは最小限とすることが好ましい。
【0110】
2.透明導電フィルム
本発明の実施形態に係る透明導電フィルムは、工程フィルムと、硬化樹脂層と、透明導電層とをこの順で備えている。透明導電フィルムを実際に用いる際、透明導電フィルムから工程フィルムを剥離し、ディスプレイや太陽電池パネルに組み込んだり、タッチパネル用タッチセンサーの基材に貼り付けたりして使用する。透明導電フィルムの被適用部への適用方法は、例えば、後述するように透明導電フィルムが接着剤層を有する場合には、接着剤層により被適用部に貼り付ければよく、貼付の後、工程フィルムを剥離除去する。
【0111】
本発明の実施形態に係る透明導電フィルムの具体的な構成例を
図2に示す。
図2(a)に示す透明導電フィルム20は、硬化樹脂層2の片面に、透明導電層3を有し、硬化樹脂層2の、透明導電層3とは反対側の面に、工程フィルム1を有するものである。
透明導電層3は、例えば、硬化樹脂層2の表面全体を覆うように形成される。また、透明導電層3は、エッチング等の適切な方法により、所望の形状にパターニングすることができる。
図2(b)に示す透明導電フィルム21は、硬化樹脂層2の片面に、パターン形成された透明導電層31を有している。なお、選択的に硬化樹脂層2上に透明導電材料を配することにより、エッチング等の工程を経ることなく、所望のパターン形状を有する透明導電層31を硬化樹脂層2上に形成してもよい。
図2に示す状態にある透明導電フィルムから工程フィルム1を剥離除去すると、取り扱い性に劣ることから、透明導電フィルムを被着体等の被適用部に適用した後、工程フィルム1を剥離除去することが好ましい。
【0112】
透明導電フィルムの厚さは、目的とする用途等によって適宜決定することができる。本発明の実施形態に係る透明導電フィルムの実質的な厚さは、取り扱い性の観点から、好ましくは0.3~50μm、より好ましくは0.5~25μm、より好ましくは0.7~12μmである。
なお、「実質的な厚さ」とは、使用状態における厚さをいう。すなわち、上記透明導電フィルムは工程フィルムを有しているが、使用時に除去される部分(工程フィルム等)の厚さは、「実質的な厚さ」には含まれない。
【0113】
本明細書において、透明導電フィルムにおける「透明」とは、450nmの波長における光線透過率が80%以上であることをいう。
【0114】
本発明の実施形態に係る透明導電フィルムは、複屈折率が低く光学等方性に優れる。
透明導電フィルムの面内の位相差は、通常、20nm以下であり、15nm以下が好ましい。厚さ方向の位相差は、通常、-500nm以下であり、-450nm以下が好ましい。また、面内の位相差を透明導電フィルムの厚さで割った値(複屈折率)は、通常、100×10-5以下であり、好ましくは20×10-5以下である。
透明導電フィルムの面内の位相差、厚さ方向の位相差、複屈折率が上記の範囲内であれば、本発明の実施形態に係る透明導電フィルムは光学等方性に優れ、光学用途に好ましく用いることができる。
【0115】
透明導電層を構成する導電性材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体的には、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO);フッ素をドープした酸化スズ(FTO);酸化スズ、ゲルマニウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の半導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これら金属と導電性金属酸化物との混合物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料;等が挙げられる。銀等の金属は、ナノフィラー、ナノロッド、ナノファイバー等の粒子状の状態のものが集合することにより、透明導電層を構成していてもよい。
【0116】
透明導電層の形成方法には特に制限はない。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。また、例えば、粒子状の金属を含む塗布材料を透明導電フィルム用積層体に塗布することにより、塗膜より透明導電層を得てもよい。
【0117】
透明導電層の厚さはその用途等に応じて適宜選択すればよい。通常10nmから50μm、好ましくは20nmから20μmである。
【0118】
本発明の実施形態に係る透明導電フィルムは、
図2に示す構成を持つものに限定されず、本発明の目的を損ねない範囲で、更に他の層を1層又は2層以上含有するものであってもよい。
他の層としては、例えば、衝撃吸収層、接着剤層等が挙げられる。また、他の層の配置位置は特に限定されない。
【0119】
衝撃吸収層は、透明導電層に衝撃が加わった時に、透明導電層を保護する層である。衝撃吸収層を形成する素材としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、ゴム系材料等が挙げられる。
【0120】
衝撃吸収層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記衝撃吸収層を形成する素材、及び、所望により、溶剤等の他の成分を含む衝撃吸収層形成溶液を、積層すべき層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
また、別途、剥離基材上に衝撃吸収層を成膜し、得られた膜を、積層すべき層上に転写して積層してもよい。
衝撃吸収層の厚さは、通常1~100μm、好ましくは5~50μmである。
【0121】
接着剤層は、透明導電フィルムを被着体に貼付する場合に用いられる層である。接着剤層を形成する材料としては、特に限定されず、アクリル系、シリコーン系、ゴム系等の公知の接着剤または粘着剤、ヒートシール材等を使用することもできる。透明導電フィルムにおいて、硬化樹脂層の、工程フィルムと対向する表面とは逆の側に接着剤層が形成されている場合、接着剤層により透明導電フィルム積層体を被着体に貼付した後、工程フィルムを剥離することで、硬化樹脂層及び透明導電層を有する薄い被膜を被着体上に容易に形成することができる。本発明では、工程フィルムが柔軟であるために、このような貼付を容易に行うことができ、また、工程フィルムの剥離も容易である。透明導電フィルムは、接着剤層の硬化樹脂層に対向するのと逆の側に、接着剤層を保護するための剥離フィルムを有していてもよい。これにより、透明導電フィルムは両側の最表層に工程フィルムと剥離フィルムを有することになり、取り扱いが容易である。
【0122】
3.透明導電フィルム形成用積層体の製造方法
本発明の実施形態に係る透明導電フィルム形成用積層体は工程フィルムを用いて製造される。工程フィルムを用いることで、透明導電フィルム形成用積層体を効率よく、かつ、容易に製造することができる。特に、以下の工程1~2を有する方法が好ましい。
【0123】
工程1:工程フィルム上に、重合体成分(A)及び硬化性単量体(B)を含有する硬化性樹脂組成物を用いて硬化性樹脂層を形成する工程
工程2:工程1で得られた硬化性樹脂層を硬化させて硬化樹脂層を形成する工程
【0124】
図3に、本発明の実施形態に係る透明導電フィルム用積層体の製造工程の一例を示す。
図3(a)は硬化性樹脂層を形成する前の状態を示しており、
図3(b)が上記工程1に、また、
図3(c)が上記工程2に、それぞれ対応する。
図3(a)~
図3(c)においては、
図1(a)と同様に、工程フィルム1の第1の表面を符号S1で表し、工程フィルム1の第2の表面を符号S2で表している。
【0125】
(工程1)
先ず、工程フィルム(
図3(a)の符号1)の表面(第2の表面)に、重合体成分(A)及び硬化性単量体(B)を含有する硬化性樹脂組成物を用いて硬化性樹脂層(
図3(b)の符号2a)を形成する。硬化性樹脂層の形成方法は、塗工によることが好ましい。
【0126】
硬化性樹脂組成物を工程フィルム上に塗工する方法は、特に制限されず、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等の公知の塗布方法を利用することができる。硬化性樹脂組成物を工程フィルムの第2の表面に塗布することで、均一な塗膜を得ることが容易である。
【0127】
得られた塗膜を乾燥する方法は特に制限されず、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法を利用することができる。硬化性単量体(B)を用いずに、重合性成分(A)を単独で溶剤に溶かして樹脂層を形成すると、樹脂層の表面が先に乾燥して樹脂層内部に溶剤が残留する現象(いわゆる「皮張り」)が生じやすい。上記のように、本発明の実施形態に係る硬化樹脂層は熱変形率が小さく、この硬化樹脂層を形成するために用いる硬化性樹脂組成物に含まれる重合体成分(A)は、そのTgが概して高いものである。この場合には、特に、上記の皮張り現象が発生しやすい。しかしながら、上記硬化性樹脂組成物が硬化性単量体(B)を含有していることで、溶液キャスト法を用いて得られた塗膜を乾燥する場合、樹脂組成物の流動性が保たれ、樹脂層の内部に至るまで溶剤を効率よく除去することができる。
【0128】
塗膜の乾燥温度は、通常、30~150℃、好ましくは、50~100℃である。
乾燥塗膜(硬化性樹脂層)の厚さは、特に制限されないが、硬化させた後の厚さと殆ど差はないことから、上述した硬化性樹脂層の厚さと同様にすればよい。
【0129】
(工程2)
次いで、工程1で得られた硬化性樹脂層を硬化させて硬化樹脂層を形成する。この硬化樹脂層が硬化樹脂層(
図3(c)の符合2)となる。
硬化性樹脂層を硬化する方法としては、特に限定されず、公知の方法が採用できる。例えば、硬化性樹脂層が、熱重合開始剤を含有する硬化性樹脂組成物を用いて形成されたものである場合、硬化性樹脂層を加熱することで硬化性樹脂層を硬化させることができる。加熱温度は、通常、30~150℃、好ましくは、50~100℃である。
【0130】
また、硬化性樹脂層が、光重合開始剤を含有する硬化性樹脂組成物を用いて形成されたものである場合、硬化性樹脂層に活性エネルギー線を照射することで硬化性樹脂層を硬化させることができる。活性エネルギー線は、高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプ等を用いて照射することができる。
【0131】
活性エネルギー線の波長は、200~400nmが好ましく、350~400nmがより好ましい。照射量は、通常、照度50~1,000mW/cm2、光量50~5,000mJ/cm2、好ましくは1,000~5,000mJ/cm2の範囲である。照射時間は、通常、0.1~1,000秒、好ましくは1~500秒、更に好ましくは10~100秒である。光照射工程の熱負荷を考慮して前述の光量を満たすために、複数回照射しても構わない。
【0132】
この場合、活性エネルギー線照射による重合体成分(A)の劣化や、硬化樹脂層の着色を防止するために、硬化反応に不要な波長の光を吸収するフィルタを介して、活性エネルギー線を硬化性樹脂組成物に照射してもよい。この方法によれば、硬化反応に不要で、かつ、重合体成分(A)を劣化させる波長の光がフィルタに吸収されるため、重合体成分(A)の劣化が抑制され、無色透明の硬化樹脂層が得られやすくなる。
フィルタとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルムを利用することができる。樹脂フィルムを用いる場合、工程1と工程2の間に、硬化性樹脂層上にポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂フィルムを積層させる工程を設けることが好ましい。なお、樹脂フィルムは、通常は、工程2の後に剥離される。
【0133】
また、硬化性樹脂層に電子線を照射することで、硬化性樹脂層を硬化させることもできる。電子線を照射する場合は、通常、光重合開始剤を利用しなくても、硬化性樹脂層を硬化させることができる。電子線を照射する場合は、電子線加速器等を用いることができる。照射量は、通常10~1,000kradの範囲である。照射時間は、通常、0.1~1,000秒、好ましくは1~500秒、更に好ましくは10~100秒である。
【0134】
硬化性樹脂層の硬化は、必要に応じて窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガス雰囲気下で硬化を行うことにより、酸素や水分等が硬化を妨げることを回避しやすくなる。
【0135】
4.透明導電フィルムの製造方法
本発明の実施形態に係る透明導電フィルムの製造方法は、以下の工程3~4を有する方法が好ましい。
工程3:透明導電フィルム用積層体の硬化樹脂層上に導電性材料層を形成する工程
工程4:工程3で得られた導電性材料層を140℃以上に加熱して透明導電層を形成する工程
【0136】
本発明の実施形態に係る透明導電フィルムの製造方法は、以下の工程5を有する方法であってもよい。
工程5:工程4で得られた透明導電層を所定形状にパターニングする工程
【0137】
図4に、本発明の実施形態に係る透明導電フィルムの製造工程の一例を示す。
図4(a)は、導電性材料が配される前の透明導電フィルム用積層体を示している。
図4(b)が上記工程3に、
図4(c)が上記工程4に、
図4(d)が上記工程5に、それぞれ対応する。
【0138】
(工程3)
工程2で得られた硬化樹脂層上に、導電性材料層(
図4(b)の符号3a)を配する。
導電性材料層を設ける方法としては、例えば、スパッタリング法、EB蒸着法、イオン
プレーティング法等のPVD法やCVD法を採用することができる。導電性材料と溶液を含む組成物を硬化樹脂層上に塗布し乾燥することで導電性材料層を形成する方法を用いることもできる。
導電性材料層は、例えば、硬化樹脂層の表面全体を覆うように形成される。
【0139】
(工程4)
工程4においては、工程3で形成した導電性材料層を140℃以上に加熱して導電性材料を結晶化させることにより、透明導電層(
図4(c)の符号3)を形成する。こうして、透明導電フィルム20が得られる。
導電性材料層を加熱する方法としては、電気炉による加熱等を採用することができる。
【0140】
透明導電層は、様々な方法で形成され得るが、導電性材料層を結晶化するために加熱を行う必要がある。また、導電性材料層を塗工によって形成する場合は、導電性材料を含む組成物を塗布した後に加熱して乾燥する必要がある。本発明の実施形態に係る硬化樹脂層は、上述したように、150℃昇温による熱変形率の絶対値が1.2%以下であるため、透明導電層を形成する際の加熱による影響を受けにくい。
【0141】
硬化樹脂層が形成された長尺状の工程フィルムを一定方向に搬送しながら、上記硬化樹脂層上への導電性材料層の形成及びその加熱処理を連続的に行うことにより、硬化樹脂層上に透明導電層が形成された長尺の積層体を効率よく製造することができる。
【0142】
(工程5)
工程5においては、工程4で形成した透明導電層の一部を除去することにより、所望の形状にパターニングされた透明導電層(
図4(d)の符号31)を形成する。工程5を経ることにより、パターニングされた透明導電層を有する透明導電フィルム21が得られる。
透明導電層をパターニングする方法としては、例えば、所望の形状に対応する部分をマスキングした上で透明導電層にエッチング液を接触させて透明導電層を部分的に除去したり、レーザーを照射することによって不要な部分を除去したりする方法を採用することができる。
なお、透明導電材料を選択的に硬化樹脂層上に配し、これを加熱することで透明導電層にすることにより、エッチング等の工程を経ることなく、所望のパターン形状を有する透明導電層を硬化樹脂層上に形成してもよい。
【0143】
上記の工程により、透明導電フィルムを得た後、透明導電層上に、接着剤層を設けてもよい。上記製造方法により得られる透明導電フィルムは、上述の説明から明らかなように、薄く、耐熱性に優れ、透明性及び光学的等方性に優れ、透明導電層が良好な電気特性を有するものである。
【実施例】
【0144】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0145】
各実施例及び比較例の、硬化樹脂層及び透明導電フィルム用積層体の物性値の測定と評価は以下の手順で行った。
【0146】
<硬化樹脂層の熱変形率測定>
工程フィルムに相当する硬化樹脂層側の第1のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを剥離除去した硬化樹脂層を、4枚積層して20μmの厚さの積層体とした。次に、5mm×30mmの試験片に裁断し、熱機械分析装置(ネッチ・ジャパン株式会社製TMA4000SE)を用いて、チャック間距離20mmに設定して上記硬化樹脂層の積層体を把持した。次いで、上記硬化樹脂層の積層体を25℃から5℃/minで150℃まで昇温させた後に5℃/minで25℃まで冷却した。そして、加熱前後の長尺方向の変位の変化率(チャック間距離20mmに対する変位量の割合を百分率で示した値)を硬化樹脂層の熱変形率とした。なお、硬化樹脂層の積層体が収縮した場合を負の値、伸長した場合を正の値とした。
【0147】
<硬化樹脂層の破断伸度>
硬化樹脂層を15mm×150mmの試験片に裁断し、JIS K7127:1999に従って破断伸度を測定した。具体的には、チャック間距離100mmに設定して上記試験片を、引張試験機(島津製作所社製、オートグラフ)に装着し、200mm/minの速度で引張試験を行うことにより、破断伸度[%]を測定した。なお、試験片が降伏点を持たない場合には引張り破断ひずみを破断伸度とし、降伏点を持つ場合には降伏点におけるひずみを破断伸度とみなした。
【0148】
<透明導電フィルム用積層体における工程フィルムの剥離性>
透明導電フィルム用積層体(幅50mm)の第2の工程フィルムを剥離した後、第1の工程フィルム(実施例1、2、比較例1~3は第1のPETフィルム、比較例4は二軸延伸ポリエステルフィルム)を、JIS Z0237:2000に準じて、テンシロン万能試験機RTG-1225(株式会社エー・アンド・デイ)を用いて、剥離角度180°、剥離速度0.3m/minで剥離し、試験後の透明導電フィルム用積層体の外観変化を評価した。なお、上記剥離試験は、第2の工程フィルムを剥離して露出した硬化樹脂層の表面を、両面粘着フィルムによりガラス板に接着した後に、第1の工程フィルムを剥離することにより行った。硬化樹脂層の形状変化が無かった場合を合格(「A」)、形状変化が生じた場合を不合格(「B」)と評価した。
【0149】
[実施例1]
硬化樹脂層を形成するための硬化性樹脂組成物1を以下の手順で調製した。
重合体成分として、ポリイミド樹脂(PI)のペレット(河村産業株式会社製、製品名KPI-MX300F、Tg=354℃、重量平均分子量28万)100質量部をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して、PIの15質量%溶液を調製した。次いで、この溶液に、硬化性単量体として、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-DCP)122質量部、及び重合開始剤として、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(BASF社製、Irgacure819)5質量部を添加、混合して、硬化性樹脂組成物1を調製した。なお、本実施例及び他の実験例において使用した硬化性単量体および重合開始剤は溶媒を含まず、全て固形分100%の原料である。
【0150】
次に、第1の工程フィルムとして、片面に易接着層を有する第1のPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインPET100A-4160、厚さ100μm)を使用し、このPETフィルムの易接着層面とは反対の面に、硬化性樹脂組成物を塗布し、塗膜を90℃で3分間加熱して乾燥した。
更に、この乾燥した塗膜上に、第2の工程フィルムとして、片面に易接着層を有する第2のPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインPET50A-4160、厚さ50μm)を、上記易接着面とは反対の面が対向するように積層した。そして、ベルトコンベア式紫外線照射装置(アイグラフィクス社製、製品名:ECS-401GX)を用いて、高圧水銀ランプ(アイグラフィクス社製、製品名:H04-L41)にて、紫外線ランプ高さ100mm、紫外線ランプ出力3kw、光線波長365nmの照度が400mW/cm2、光量が800mJ/cm2(オーク製作所社製、紫外線光量計UV-351にて測定)の条件で、第2のPETフィルムを介して紫外線照射して硬化反応を行い、厚さ5μmの硬化樹脂層を形成し、透明導電フィルム用積層体を得た。
【0151】
[実施例2]
硬化性単量体を、上記トリシクロデカンジメタノールジアクリレートと、環化性重合モノマー(株式会社日本触媒製、FX-AO-MA)との併用(混合比1:1)に変更した以外は、実施例1と同様にして透明導電フィルム用積層体を得た。
【0152】
[実施例3]
硬化性単量体の全量を、実施例2で用いたのと同じ環化性重合モノマーとした以外は、実施例1と同様にして透明導電フィルム用積層体を得た。
【0153】
[比較例1]
重合体成分として、ポリイミド樹脂(PI)のペレットに代えて、ポリスルホン樹脂(PSF)のペレット(BASF社製、ULTRASON S6010、Tg=187℃)を用いた以外は実施例1と同様にして透明導電フィルム用積層体を作製した。
【0154】
[比較例2]
硬化性単量体及び重合開始剤を添加しないようにしたこと以外は実施例1と同様の手順で、ポリイミド樹脂のメチルエチルケトン溶液を調製し樹脂組成物2とした。そして、樹脂組成物2を用い、紫外線照射を行わないこと以外は実施例1と同様の手順で、硬化樹脂層ではない単なる樹脂層を形成し、透明導電フィルム用積層体を得た。
【0155】
各実施例及び比較例の測定結果を表1に示す。
【0156】
【0157】
表1から明らかなように、実施例1~3では、高耐熱性の重合体成分を含有し、硬化性単量体を用いた硬化樹脂層とし、剥離層を有していない工程フィルムを用いることで、厚さ10μm以下の硬化樹脂層から工程フィルム(第1のPETフィルム)を問題なく剥離することができた。
比較例1では、厚さ10μm以下の硬化樹脂層から工程フィルム(第1のPETフィルム)を問題なく剥離することができたが、硬化樹脂層の熱変形率が大きく、透明導電層形成工程に適さない。
比較例2では、硬化性単量体を含有しないことにより、第2の工程フィルムが剥離できず、剥離性の評価を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0158】
1、1A、1B:工程フィルム
2:硬化樹脂層
2a:硬化性樹脂層(硬化前の硬化樹脂層)
3:透明導電層
3a:導電性材料層
10A、10B:透明導電フィルム用積層体
20:透明導電フィルム
21:透明導電層がパターニングされた透明導電フィルム
31:パターニングされた透明導電層