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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】選択的触媒還元物品およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/76 20060101AFI20241213BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B01J29/76 A ZAB
B01D53/94 222
【請求項の数】 4
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023067456
(22)【出願日】2023-04-17
(62)【分割の表示】P 2019552011の分割
【原出願日】2018-03-20
(65)【公開番号】P2023099027
(43)【公開日】2023-07-11
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】62/473,651
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】524318674
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ モバイル エミッションズ カタリスツ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】BASF Mobile Emissions Catalysts LLC
【住所又は居所原語表記】33 Wood Avenue South, Iselin, New Jersey 08830, USA
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】シュエ,ウェン-メイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シヤオファン
(72)【発明者】
【氏名】チュー,ハイヤン
(72)【発明者】
【氏名】ロス,スタンリー エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,ジェフ エイチ
(72)【発明者】
【氏名】プラサッド,サブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】モイニ,アーマド
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】Catalysis Today,2015年12月30日,Vol. 267,pp. 3-9,DOI:10.1016/j.cattod.2015.12.002
【文献】SAE Int. J. Engines,2015年04月14日,Vol. 8, No. 3,pp. 1181-1186,DOI: 10.4271/2015-01-1022
【文献】Experimental Neurology,Vol.158,1999年,pp.366-381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温水熱条件SCRプロセスの間のエージングに対して安定な選択的触媒還元(SCR)触媒材料を識別するための方法であって、
Cu+2カチオンとして、およびCu(OH)+1カチオンとしてイオン交換銅を含有する銅含有モレキュラーシーブの粒子をそれぞれが含む複数個のサンプルを準備する工程と、
銅含有モレキュラーシーブのCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピーク、および銅含有モレキュラーシーブのCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークを評価するため、銅含有モレキュラーシーブの粒子を、拡散反射赤外フーリエ変換(DRIFT)分光法に供する工程と、
銅含有モレキュラーシーブが新鮮な状態で、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積が、Cu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積に対して、1以上の比率を示すサンプルのうちの1個または複数個を選択する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
銅含有モレキュラーシーブが新鮮な状態で、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率が、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについての積分ピーク面積を、C+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについてのピーク積分面積およびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについてのピーク積分面積を合わせた総積分ピーク面積によって除算することによって計算され、Cu+2カチオンについての摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる総ピーク積分面積の百分率が50%以上である、1個または複数個のサンプルを選択する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数個のサンプルを新鮮な状態でDRIFT分光法に供する、請求項2に記載の方法であって、
複数個のサンプルを、10mol%のHO含有率を有する空気の存在下、800℃の温度において、16時間エージングし、エージングサンプルを形成する工程と、
エージングサンプルをDRIFT分光法に供する工程と、
エージングされた状態の1個または複数個のサンプルについてのCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる総積分ピーク面積への寄与が、新鮮な状態の1個または複数個のサンプルについてのCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる総積分ピーク面積への寄与に対して、20%以下増加する、サンプルのうちの1個または複数個を選択する工程と、
をさらに含む方法。
【請求項4】
高温水熱条件SCRプロセスの間のエージングに対して安定な選択的触媒還元(SCR)触媒物品を生産する方法であって、
銅含有モレキュラーシーブを含む第1の組成物を製造するためのプロセスを開発する工程と、
少なくともDRIFT分光法を使用して第1の組成物のサンプルを新鮮な状態で分析し、Cu+2およびCu(OH)+1に対応する摂動T-O-T非対称伸縮ピークの強度の比較に基づいて、第1の組成物中のCu+2およびCu(OH)+1の相対量を決定する工程と、
Cu+2に対応する摂動T-O-T非対称伸縮ピークによる、摂動T-O-T非対称伸縮ピークの総積分ピーク面積への寄与が50%以上である場合、第1の組成物を商業生産するためのプロセスを選択する工程と、
該プロセスによって作製された商業生産された第1の組成物を基材に適用し、触媒物品を生成する工程と、
を含み、且つ、
前記総積分ピーク面積は、Cu +2 に対応する摂動T-O-T非対称伸縮ピークによる積分ピーク面積と、Cu(OH) +1 に対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる積分ピーク面積との合計として定義される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気の処理に好適な、選択的触媒還元(SCR)触媒、触媒物品、システム、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトなどのモレキュラーシーブは、ある種の化学反応、例えば、アンモニア、尿素、または炭化水素などの還元剤による窒素酸化物の選択的触媒還元(SCR)の触媒反応において使用される。ゼオライトは、ゼオライトのタイプに応じて、直径が約3~約25オングストロームの範囲である、かなり均一な孔径を有する結晶性材料である。
【0003】
SCRプロセスで使用する触媒は、例えば約150℃~約800℃またはそれ以上の範囲の温度による水熱条件下を含む、実際的な適用に見られる広範囲の温度にわたって、良好な触媒活性を保持できなければならない。SCR触媒は水熱条件に遭遇し、水が燃料燃焼の副生成物である。炭素質粒子の除去に使用される排ガス処理システムの構成要素である、ディーゼル微粒子フィルター(DPF)または触媒煤煙フィルター(CSF)の再生の際などの排気用途では、高温の水熱条件が生じる。
【0004】
SCRプロセスは、窒素酸化物(NOx)を窒素(N)および水(HO)に転換する。窒素酸化物(NOx)としては、NO、NO、N、NO、N、N、またはHNOが挙げられ得る。内燃機関の排気流内のNOxをNに選択的に変換するための、改良された物品、システム、およびプロセスがあれば望ましいであろう。排気温度が750℃、800℃、850℃、または900℃にさえ達し得る短期間の過渡のため、高温水熱耐久性における改良が必要である。特に重要であるのは、例えば、高温水熱エージング後の約150℃~約300℃における、低温NOx性能における改良である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施形態では、本開示は、新鮮な状態の触媒がイオン交換銅を含有し、イオン交換銅の50at%(原子パーセント)以上がCu+2である銅含有モレキュラーシーブ触媒を提供する(以下、本明細書において、「新しい状態」、「新しいサンプル」というときは、それぞれ、「新鮮な状態」、「新鮮なサンプル」と言い換えるものとする。)
【0006】
さらなる実施形態では、本開示は、約5~約35、または約14~約28のシリカ対アルミナ比(SAR)、および約0.20~約0.50のCu/Al原子比を有する銅含有モレキュラーシーブ触媒を提供することができる。
【0007】
他の実施形態では、本開示は、新しい状態の触媒が、触媒のDRIFTスペクトルにおいて、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピーク、およびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークを示す、Cu+2およびCu(OH)+1としてイオン交換銅を含有し、Cu+2およびCu(OH)+1ピークそれぞれについてのピーク積分面積の比率が1以上である、銅含有モレキュラーシーブ触媒を提供することができる。
【0008】
さらに他の実施形態では、本開示は、新しい状態の触媒が、触媒のDRIFTスペクトルにおいてCu+2に対応するT-O-T非対称伸縮振動ピーク、およびCu(OH)+1に対応するT-O-T非対称伸縮振動ピークを示す、Cu+2およびCu(OH)+1としてイオン交換銅を含有し、Cu+2に対応するT-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積の、Cu+2とCu(OH)+1との両方に対応するT-O-T非対称伸縮振動ピークの合計積分面積に対するパーセント(すなわち、面積Cu+2/(面積Cu+2+面積Cu(OH)+1))が、10%HO/空気の存在下、800℃において16時間エージングすると、新しい状態と比較して、20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下増加する、銅含有触媒を提供することができる。
【0009】
本開示はまた、基材上に配置された触媒コーティングを含む触媒物品であって、触媒コーティングが1層または複数層のコーティング層を含み、少なくとも1層のコーティング層が、上に記載した銅含有モレキュラーシーブ触媒を含む触媒コーティング層である、触媒物品を提供することができる。
【0010】
本開示はさらに、触媒物品を含む排ガス処理システム、および排気流を触媒物品または処理システムに通過させる工程を含む、NOxを含有する排気流を処理するための方法を提供することができる。
【0011】
本触媒、触媒物品、システム、および方法は、ディーゼルまたはガソリンエンジンから発生する排ガスの処理、特に、化学量論的燃焼に必要な量を超える空気が存在する「リーン」燃焼条件で作動する処理に好適である。
【0012】
本発明は、限定するものではないが、以下の実施形態を含む。
【0013】
実施形態1:少なくとも表面の一部に触媒コーティングを有する基材を含む選択的触媒還元物品であって、触媒コーティングがCu+2カチオンとしておよびCu(OH)+1カチオンとしてイオン交換銅を含有する銅含有モレキュラーシーブを含み、銅含有モレキュラーシーブが、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピーク、およびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークを示し、拡散反射赤外フーリエ変換(DRIFT)分光法を使用して測定される、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積、およびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積が、1以上の比率を有する、選択的触媒還元物品。
【0014】
実施形態2:銅含有モレキュラーシーブが、赤外スペクトルにおいて、Cu+2カチオンおよびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークを、それぞれ約900cm-1および約950cm-1に示す、または銅含有モレキュラーシーブが、赤外スペクトルにおいて、Cu+2カチオンおよびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークを、それぞれ約900cm-1および約970cm-1に示す、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0015】
実施形態3:Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率が、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについての積分ピーク面積を、合わせたCu+2カチオンおよびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについての積分ピーク面積によって除算することによって計算され、Cu+2カチオンについての摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率が、50%以上である、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0016】
実施形態4:エージングされた状態の銅含有モレキュラーシーブについて、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる、Cu+2カチオンおよびCu(OH)+1カチオンの摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについて合わせた積分ピーク面積への寄与が、新しい状態の銅含有モレキュラーシーブについての寄与に対して20%以下増加し、エージングされた状態が、選択的触媒還元物品を、約10mol%のHO含有率を有する空気の存在下、約800℃の温度において、約16時間エージングしたことによって定義される、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0017】
実施形態5:酸化銅として計算される銅含有モレキュラーシーブ中の銅の総量が、銅含有モレキュラーシーブの総質量に対して約1.0wt%~約10wt%である、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0018】
実施形態6:銅含有モレキュラーシーブが、2.0ミクロン以下の平均サイズを有する結晶または凝集体を含む、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0019】
実施形態7:銅含有モレキュラーシーブが、骨格タイプAEI、AFT、AFV、AFX、AVL、CHA、DDR、EAB、EEI、ERI、IFY、IRN、KFI、LEV、LTA、LTN、MER、MWF、NPT、PAU、RHO、RTE、RTH、SAS、SAT、SAV、SFW、TSC、UFI、これらの混合物、およびこれらの連晶からなる群から選択される小細孔モレキュラーシーブを含む、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0020】
実施形態8:モレキュラーシーブが、骨格タイプAEL、AFO、AHT、BOF、BOZ、CGF、CGS、CHI、DAC、EUO、FER、HEU、IMF、ITH、ITR、JRY、JSR、JST、LAU、LOV、MEL、MFI、MFS、MRE、MTT、MVY、MWW、NAB、NAT、NES、OBW、PAR、PCR、PON、PUN、RRO、RSN、SFF、SFG、STF、STI、STT、STW、SVR、SZR、TER、TON、TUN、UOS、VSV、WEI、WEN、これらの混合物、およびこれらの連晶からなる群から選択される中細孔モレキュラーシーブを含む、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0021】
実施形態9:モレキュラーシーブが、骨格タイプAFI、AFR、AFS、AFY、ASV、ATO、ATS、BEA、BEC、BOG、BPH、BSV、CAN、CON、CZP、DFO、EMT、EON、EZT、FAU、GME、GON、IFR、ISV、ITG、IWR、IWS、IWV、IWW、JSR、LTF、LTL、MAZ、MEI、MOR、MOZ、MSE、MTW、NPO、OFF、OKO、OSI、RON、RWY、SAF、SAO、SBE、SBS、SBT、SEW、SFE、SFO、SFS、SFV、SOF、SOS、STO、SSF、SSY、USI、UWY、VET、これらの混合物、およびこれらの連晶からなる群から選択される大細孔モレキュラーシーブを含む、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0022】
実施形態10:モレキュラーシーブが、アルミノシリケートゼオライト、ボロシリケート、ガロシリケート、SAPO、AlPO、MeAPSO、MeAPO、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0023】
実施形態11:モレキュラーシーブがCHAケージおよび二重6員環構築単位を有し、Cu-CHA、Cu-SAPO-34、AEI、Cu-SAPO-18、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0024】
実施形態12:選択的触媒還元物品が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、セリウム、白金、パラジウム、およびロジウムからなる群から選択される1種もしくは複数種の触媒活性金属をさらに含み、またはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種もしくは複数種の卑金属を含有する、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0025】
実施形態13:触媒コーティングが、銅含有モレキュラーシーブを含む第1の触媒コーティング、および第1の触媒コーティングとは異なる第2の触媒コーティングを含む、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0026】
実施形態14:第2の触媒コーティングが、第1のコーティングの銅含有モレキュラーシーブとは異なる銅含有モレキュラーシーブを含む、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0027】
実施形態15:第2の触媒コーティングが、高融点金属酸化物支持体上に白金族金属を含む、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0028】
実施形態16:白金族金属が、基材の総体積に対して約0.5g/ft~約30g/ftの量で存在する、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0029】
実施形態17:銅含有モレキュラーシーブを含む触媒コーティングが、基材の総体積に対して約0.1g/in~約4.5g/inの量で存在する、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0030】
実施形態18:第1の触媒コーティングおよび第2の触媒コーティングが、層状構成またはゾーン構成である、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0031】
実施形態19:基材が多孔質ウォールフローフィルター、またはフロースルーモノリスである、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品。
【0032】
実施形態20:先行するいずれかの実施形態による選択的触媒還元物品、および
選択的触媒還元物品と流体連通し、その上流にある還元剤注入器、
を含む排ガス処理システム。
【0033】
実施形態21:ディーゼル酸化触媒、煤煙フィルター、リーンNOxトラップ(LNT)、およびアンモニア酸化触媒のうち1種または複数種をさらに含む、先行するいずれかの実施形態の排ガス処理システム。
【0034】
実施形態22:排気流を、先行するいずれかの実施形態の選択的触媒還元物品または排ガス処理システムに通過させる工程を含む、NOxを含有する排気流を処理するための方法。
【0035】
実施形態23:エージングに対して安定な触媒材料を識別するための方法であって、Cu+2カチオンとして、およびCu(OH)+1カチオンとしてイオン交換銅を含有する銅含有モレキュラーシーブの粒子をそれぞれが含む複数個のサンプルを準備する工程と、銅含有モレキュラーシーブのCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピーク、および銅含有モレキュラーシーブのCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークを評価するため、銅含有モレキュラーシーブの粒子を、拡散反射赤外フーリエ変換(DRIFT)分光法に供する工程と、銅含有モレキュラーシーブが、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積と、Cu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積との、1以上の比率を示すサンプルのうちの1個または複数個を選択する工程と、を含む方法。
【0036】
実施形態24:Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T結合振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率が、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T結合振動ピークについての積分ピーク面積を、合わせたCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T結合振動ピークおよびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T結合振動ピークについての積分ピーク面積によって除算することによって計算され、Cu+2カチオンについての摂動T-O-T結合振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率が50%以上である、1個または複数個のサンプルを選択する工程を含む、先行するいずれかの実施形態の方法。
【0037】
実施形態25:複数個の銅含有モレキュラーシーブサンプルを新しい状態でDRIFT分光法に供する、先行するいずれかの実施形態の方法であって、
複数個のサンプルを、約10mol%のHO含有率を有する空気の存在下、約800℃の温度において、約16時間エージングし、エージングサンプルを形成する工程と、
エージングサンプルをDRIFT分光法に供する工程と、
エージングされた状態の1個または複数個のサンプルについてのCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる総積分ピーク面積への寄与が、新しい状態の1個または複数個のサンプルについてのCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる総積分ピーク面積への寄与に対して、20%以下増加する、サンプルのうちの1個または複数個を選択する工程と、
をさらに含む方法。
【0038】
実施形態26:触媒物品を生産する方法であって、銅含有モレキュラーシーブを含む第1の組成物を製造するためのプロセスを開発する工程と、少なくともDRIFT分光法を使用して第1の組成物のサンプルを分析し、Cu+2およびCu(OH)+1に対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの強度の比較に基づいて、第1の組成物中のCu+2およびCu(OH)+1の相対量を決定する工程と、Cu+2に対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる、摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの総積分ピーク面積への寄与が50%以上である場合、第1の組成物を商業生産するためのプロセスを選択する工程と、該プロセスによって作製された商業生産された第1の組成物を基材に適用し、触媒物品を生成する工程と、を含む方法。
【0039】
本開示のこれらおよび他の特徴、態様、および利点は、以下に簡単に説明する添付の図面とともに以下の詳細な説明を読むことから明らかになろう。本発明は、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の上述の実施形態の任意の組み合わせ、および本開示に記載の任意の2個、3個、4個、またはそれ以上の特徴または要素であって、そのような特徴または要素が本明細書の特定の実施形態の説明において明示的に組み合わされているかどうかにかかわらず、それらの特徴または要素の組み合わせを含む。本開示は、その様々な態様および実施形態のいずれかにおいて、開示された発明の任意の分離可能な特徴または要素が、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、組み合わせ可能であると見なされるように全体的に読まれることを意図する。本発明の他の態様および利点は以下から明らかになるであろう。
【0040】
本明細書に記載する開示は例として図示され、添付の図面における限定として図示されるものではない。図示の簡潔さおよび明瞭性のため、図面に図示される特徴は必ずしも原寸に比例して描かれていない。例えば、いくつかの特徴の寸法は、明瞭性のため、他の特徴に対して誇張されている場合がある。さらに、適当であると考えられる場合、対応するまたは類似する要素を示す参照番号は、図面間で繰り返されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本開示によるウォッシュコート組成物の形態の触媒物品を含むことができるハニカム型基材担体の斜視図である。
図2図1に関する拡大部分断面図であり、図1の基材担体の端面に平行な平面に沿って切り取っており、基材担体がモノリシックフロースルー基材である一実施形態における、図1に示した複数のガス流路の拡大図を示す。
図3図1に関する拡大した部分の破断図であり、図1におけるハニカム型基材担体がウォールフローフィルター基材モノリスを表している。
図4a】本開示の例示的実施形態による1つまたは複数の基材上のコーティング層および/またはコーティングゾーンを示す断面図である。
図4b】本開示の例示的実施形態による1つまたは複数の基材上のコーティング層および/またはコーティングゾーンを示す断面図である。
図5】実施例1および実施例2に記載する触媒コーティングサンプルの、NOx転化率を示すグラフである。
図6】実施例1および実施例3に記載する触媒コーティングサンプルの、NOx転化率を示すグラフである。
図7】実施例1~3に記載する新しい状態の触媒コーティングサンプルの、DRIFTスペクトルを示す。
図8】実施例1に記載する新しい状態およびエージングされた状態の触媒コーティングサンプルの、DRIFTスペクトルを示す。
図9】実施例3に記載する新しい状態およびエージングされた状態の触媒コーティングサンプルの、DRIFTスペクトルを示す。
図10】実施例3および実施例6に記載する触媒コーティングサンプルの、NOx転化率を示すグラフである。
図11】実施例6に記載する新しい状態およびエージングされた状態の触媒コーティングサンプルの、DRIFTスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本触媒組成物は、内燃機関、例えばガソリン、軽負荷ディーゼル、および高負荷ディーゼルエンジンの排ガス流の処理に好適である。触媒組成物は、固定工業プロセスからの排出物の処理、または化学反応プロセスにおける触媒にも好適である。
【0043】
高表面積の高融点金属酸化物支持体は、会合、分散、含浸、または他の好適な方法を通じて、貴金属、安定剤、促進剤、バインダーなどを受容する触媒支持体として使用される材料である。高表面積の高融点金属酸化物担体は、アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタニア、セリア、ランタナ、バリア、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される活性化化合物を含み得る。
【0044】
モレキュラーシーブ
モレキュラーシーブとは、一般に四面体型の部位を含有する酸素イオンの広範な三次元ネットワークを有し、比較的均一な細孔径の細孔分布を有する材料を指す。ゼオライトは、モレキュラーシーブの具体例であり、さらにケイ素およびアルミニウムを含む。触媒層中の「非ゼオライト支持体」または「非ゼオライト系支持体」への言及は、ゼオライトではない材料を指す。そのような非ゼオライト系支持体の例としては、これらに限定されないが、高表面積の高融点金属酸化物が挙げられる。
【0045】
モレキュラーシーブは、小細孔、中細孔、および大細孔のモレキュラーシーブ、またはこれらの組み合わせを含む。小細孔モレキュラーシーブは、最大8個の四面体原子によって画定されるチャネルを含有する。中細孔モレキュラーシーブは、10員環によって画定されるチャネルを含有する。大細孔モレキュラーシーブは、少なくとも12個の四面体原子の環によって画定されるチャネルを含有する。
【0046】
小細孔モレキュラーシーブは8員環開口部を有するが、例えば二重6員環(D6R)または6員環構造単位を有し得る。ケージ構築単位としては、CHAケージ、様々なCHAケージの修飾、LTAケージ、GMEケージなどが挙げられる。
【0047】
小細孔モレキュラーシーブは、アルミノシリケートモレキュラーシーブ、金属含有アルミノシリケートモレキュラーシーブ、アルミノホスフェート(ALPO)モレキュラーシーブ、金属含有アルミノホスフェート(MeALPO)モレキュラーシーブ、シリコ-アルミノホスフェート(SAPO)モレキュラーシーブ、および金属含有シリコ-アルミノホスフェート(MeSAPO)モレキュラーシーブ、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。例えば、小細孔モレキュラーシーブは、骨格タイプAEI、AFT、AFV、AFX、AVL、CHA、DDR、EAB、EEI、ERI、IFY、IRN、KFI、LEV、LTA、LTN、MER、MWF、NPT、PAU、RHO、RTE、RTH、SAS、SAT、SAV、SFW、TSC、UFI、およびこれらの混合物または連晶からなる群から選択される。例えば、小細孔モレキュラーシーブは、骨格タイプCHA、LEV、AEI、AFT、AFX、ERI、LTA、SFW、KFI、およびDDRの群から選択される。
【0048】
中細孔モレキュラーシーブは、骨格タイプAEL、AFO、AHT、BOF、BOZ、CGF、CGS、CHI、DAC、EUO、FER、HEU、IMF、ITH、ITR、JRY、JSR、JST、LAU、LOV、MEL、MFI、MFS、MRE、MTT、MVY、MWW、NAB、NAT、NES、OBW、PAR、PCR、PON、PUN、RRO、RSN、SFF、SFG、STF、STI、STT、STW、SVR、SZR、TER、TON、TUN、UOS、VSV、WEI、WEN、およびこれらの混合物または連晶からなる群から選択される。例えば、中細孔モレキュラーシーブは、骨格タイプFER、MEL、MFI、およびSTTからなる群から選択される。
【0049】
大細孔モレキュラーシーブは、骨格タイプAFI、AFR、AFS、AFY、ASV、ATO、ATS、BEA、BEC、BOG、BPH、BSV、CAN、CON、CZP、DFO、EMT、EON、EZT、FAU、GME、GON、IFR、ISV、ITG、IWR、IWS、IWV、IWW、JSR、LTF、LTL、MAZ、MEI、MOR、MOZ、MSE、MTW、NPO、OFF、OKO、OSI、RON、RWY、SAF、SAO、SBE、SBS、SBT、SEW、SFE、SFO、SFS、SFV、SOF、SOS、STO、SSF、SSY、USI、UWY、VET、およびこれらの混合物または連晶からなる群から選択される。例えば、大細孔モレキュラーシーブは、骨格タイプAFI、BEA、FAU、MAZ、MOR、およびOFFからなる群から選択される。
【0050】
例えば、モレキュラーシーブは、AEI、BEA(βゼオライト)、CHA(チャバザイト)、FAU(ゼオライトY)、FER(フェリエライト)、MFI(ZSM-5)、およびMOR(モルデナイト)からなる群から選択される骨格タイプを含む。これらの構造を有するゼオライトの非限定例としては、チャバザイト、フォージャサイト、ゼオライトY、超安定ゼオライトY、βゼオライト、モルデナイト、シリカライト、ゼオライトX、およびZSM-5が挙げられる。
【0051】
有用なモレキュラーシーブは、8員環細孔開口部および二重6員環二次構築単位を有し、例えば、構造タイプAEI、AFT、AFX、CHA、EAB、ERI、KFI、LEV、SAS、SAT、またはSAVを有するものである。同じ構造タイプを有するSAPO、ALPO、およびMeAPO材料などの、あらゆる同位体骨格材料が含まれる。
【0052】
アルミノシリケートゼオライト構造は、骨格内で同型置換されたリンまたは他の金属を含まない。すなわち、「アルミノシリケートゼオライト」は、SAPO、ALPO、およびMeAPO材料などのアルミノホスフェート材料を除外し、一方、より広い用語「ゼオライト」は、アルミノシリケートおよびアルミノホスフェートを含む。
【0053】
1つまたは複数の実施形態では、8員環小細孔モレキュラーシーブはCHA結晶構造を有する。銅含有チャバザイトはCuCHAと略記される。さらなる実施形態では、モレキュラーシーブはSAPO結晶構造、すなわちCuSAPOを有し得る。
【0054】
合成8員環小細孔モレキュラーシーブ(例えばCHA構造を有する)は、アルカリ性水性条件下でシリカ源、アルミナ源、および構造規定剤を混合することによって製造することができる。典型的なシリカ源としては、様々なタイプのヒュームドシリカ、沈降シリカ、およびコロイダルシリカ、ならびにシリコンアルコキシドが挙げられる。典型的なアルミナ源としては、ベーマイト、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、亜硫酸アルミニウムまたはアルミン酸ナトリウムなどのアルミニウム塩、およびアルミニウムアルコキシドが挙げられる。典型的には水酸化ナトリウムを反応混合物に添加する。この合成のための典型的な構造規定剤は、アダマンチルトリメチルアンモニウムヒドロキシドであるが、他のアミンおよび/または四級アンモニウム塩を代替する、または添加することができる。反応混合物を圧力容器中で撹拌しながら加熱し、結晶性生成物を得る。典型的な反応温度は、約100℃~約200℃、例えば約135℃~約170℃の範囲である。典型的な反応時間は1時間~30日であり、いくつかの実施形態では、10時間~3日である。反応終了時に、任意にpHを6~10、例えば7~7.5に調整し、生成物を濾過して、水で洗浄する。任意の酸、例えば硝酸をpH調整に使用することができる。任意に、生成物を遠心分離してもよい。有機添加物を使用して、固体生成物の取扱いおよび単離を助けることができる。噴霧乾燥は、生成物の加工における任意の工程である。固体生成物は、空気中または窒素中で熱処理する。あるいは、各ガス処理を様々な順序で適用することができ、またはガスの混合物を適用することができる。典型的な焼成温度は、約400℃~約850℃である。
【0055】
CHA構造を有するモレキュラーシーブは、例えば、米国特許第4,544,538号および6,709,644号に開示されている方法に従って製造することができ、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
モレキュラーシーブは約1~約1000のシリカ対アルミナ比(SAR)を有し得る。いくつかの実施形態では、モレキュラーシーブは約2~約750、約5~約250、または約5~約50のSARを有し得る。
【0057】
有利には、本触媒組成物のモレキュラーシーブは、小細孔、中細孔、または大細孔のモレキュラーシーブである。
【0058】
触媒モレキュラーシーブ
触媒は、例えばイオン交換銅を含有するが、新しいサンプルにおけるCu+2状態のイオン交換銅の原子百分率(原子%またはat%)は、10%HO/空気の存在下、800℃において16時間エージングされたサンプルにおけるCu+2状態のイオン交換銅の原子%と比較して、安定なままである。本明細書においてさらに記載されるように、このような安定性は、NOx転化活性が改良された触媒材料の識別において、非常に望ましいことが見出されている。好ましくは、新しいサンプル対エージングサンプルの原子百分率は、互いの20%以内、15%以内、10%以内、または5%以内である。Cu+2状態のイオン交換銅の原子百分率は、全イオン交換銅に対するものを意味する。
【0059】
本発明では、モレキュラーシーブのイオン交換部位に存在する銅(イオン交換銅)は、50at%(原子パーセント)Cu+2以上である。他のイオン交換銅は、例えば、Cu(OH)+1の形態である。これは空気および/または水分に暴露後であり、したがって酸化後である。Cu+2原子百分率は、新しいサンプル、およびエージングサンプルの赤外スペクトルの分析に基づいて決定され、これによって銅交換触媒材料に存在する、相対的な銅種の識別が可能になる。
【0060】
いくつかの実施形態では、イオン交換銅は例えば、公知の方法を使用して実行される、DRIFT分光法(拡散反射赤外フーリエ変換分光法)によって識別することができる。銅種は、モレキュラーシーブの摂動T-O-T結合(Si-O-AlおよびSi-O-Si)振動をモニタリングすることによって検知することができる。モレキュラーシーブのT-O-T結合の構造振動は、非対称および対称振動モードについて、それぞれ約1350cm-1~約920cm-1、および約850cm-1~約620cm-1の吸収ピークを示す。摂動T-O-T結合振動は、銅イオンがモレキュラーシーブのカチオン位置に交換されている場合に、銅イオンと骨格酸素との間の強い相互作用によって観察される。ピーク位置は、銅イオンの性質、およびモレキュラーシーブ骨格の構造に依存する。ピーク強度およびピーク積分面積は、交換部位の銅イオンの量に依存し得る。したがって、DRIFT分光法は、銅交換モレキュラーシーブ触媒材料の性質の定性分析に効果的である。概して、この発明は、モレキュラーシーブのT-O-T骨格と相互作用する様々な金属イオン種が存在することにより摂動(すなわちシフト)する任意の振動モードを、特性評価のために使用することを検討する。例えば、本明細書において開示されるように、銅種は、DRIFT分光法を使用することにより、摂動T-O-T非対称伸縮振動モードをモニタリングすることによって検知することができる。
【0061】
DRIFT分光法は、本実施例のように行うことができる。Luoら、「Identification of two types of Cu sites in Cu/SSZ-13 and their unique responses to hydrothermal aging and sulfur poisoning」、Catalysis Today、267(2016)、3~9、およびKwakら、「two different cationic positions in Cu-SSZ-13?」、Chem. Commun.、2012、48、4758~4760も参照されたい。
【0062】
アルミノシリケートチャバザイトCuCHAのDRIFTスペクトルにおいて、約1040および約810cm-1における非摂動T-O-T(Si-O-Al)結合の非対称および対称振動に加えて、約900cm-1および約950cm-1に、それぞれ、Al対と会合したCu+2による摂動T-O-T非対称伸縮振動、および単独Alと会合したCu(OH)+1による摂動T-O-T非対称伸縮振動に起因する、2つの吸収が観察される。本開示において、用語「Cu+2ピークおよびCu(OH)+1ピークを示す」は、DRIFTスペクトルにおいて識別される摂動吸収を指す。例えば、銅チャバザイト触媒材料の場合、摂動T-O-T非対称伸縮振動に対応する約900cm-1および約950cm-1における赤外吸収は、それぞれCu+2およびCu(OH)+1の存在に関連付けることができる。同様に、銅SAPO触媒材料の場合、摂動非対称伸縮振動に対応する約900cm-1および約970cm-1における赤外吸収は、それぞれCu+2およびCu(OH)+1の存在に関連付けることができる。
【0063】
理論に束縛されるものではないが、Al対の電荷を均衡させるCu+2は、単独Alと会合したCu(OH)+1より水熱安定的であり、それによって触媒の高NOx還元活性および高水熱安定性を可能にすると考えられる。やはり理論に束縛されるものではないが、Cuカチオンは、SAPOモレキュラーシーブにおいて、PをSiが置換することによって作り出される電荷を均衡させると考えられる。SAPOについての摂動T-O-T結合振動は、四面体「T」部位のSi、Al、およびPによる構造振動と関係する。以上のように、モレキュラーシーブ骨格内のCu+2の相対百分率が高い触媒(摂動T-O-T非対称伸縮振動に対応するもののような摂動T-O-T結合の識別を通じて、上に論じたようにDRIFT分析によって決定される)を識別することができ、改良された触媒性能およびエージング安定性を提供することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、好ましい安定性は、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮ピークの積分ピーク面積(例えば、DRIFTスペクトルの約900cm-1における摂動T-O-T結合についてのピーク)と、Cu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮ピークの積分ピーク面積(例えば、DRIFTスペクトルの約950cm-1におけるCuCHAについての、またはDRIFTスペクトルの約970cm-1におけるCuSAPOについての、摂動T-O-T結合についてのピーク)との間で定義される比率と関連し得る。例えば、Cu+2に対応する摂動T-O-T非対称伸縮ピークについての積分ピーク面積と、Cu(OH) +1 に対応するピークとの比率は、1以上、1.2以上、または1.5以上であってよい。例えば、積分ピーク面積の比率は、約1~約5、約1.2~約4、または約1.5~約3であってよい。

【0065】
さらなる実施形態では、好適な銅交換モレキュラーシーブは、Cu+2についての摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークによる、摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの総ピーク面積への寄与との関係で識別することができる。これは、下に与えられる式を使用して計算することができ、式中、「面積Cu+2」は、Cu+2に対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークの積分ピーク面積(すなわち、DRIFTスペクトルの約900cm-1におけるピーク)であり、「面積Cu(OH)+1」は、Cu(OH)+1に対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについての積分ピーク面積(すなわち、DRIFTスペクトルの約950cm-1におけるCuCHAについての、およびDRIFTスペクトルの約970cm-1におけるCuSAPOについてのピーク)である。
【0066】
【数1】
【0067】
好ましくは、Cu+2についての摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる総ピーク面積の百分率は、少なくとも50%、少なくとも55%、または少なくとも60%、例えば約55%~約95%、約60%~約90%、または約65%~約85%である。
【0068】
目下の摂動吸収についてのそれぞれの曲線の下の積分面積は、存在する個々の銅種の相対原子%の量に相関していない一方、エージングに伴う比率の維持は、明らかに安定な構造を示唆しており、安定な触媒活性を有する材料に相関している。
【0069】
いくつかの実施形態では、前述の比率および百分率は、銅交換モレキュラーシーブについて、新しい状態とエージングされた状態との間で実質的に変化しない場合がある。例えば、銅交換モレキュラーシーブを、約10mol%のHO含有率の空気の存在下、約800℃の温度において、16時間エージングさせた後、Cu+2についての摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる、摂動T-O-T非対称伸縮振動に対応する総ピーク面積の百分率は、30%以下、20%以下、または10%以下増加し得る。
【0070】
理論に束縛されるものではないが、CHAおよび二重6員環から構築されるすべてのモレキュラーシーブは、同様の振動モードを示し、Cuカチオンは同様に振動スペクトルを乱すであろうと考えられる。このようなモレキュラーシーブは、CHA、SAPO-34、AEI、およびSAPO-18である。他の小、中、および大モレキュラーシーブは、それぞれに特有の振動スペクトルを示すであろうが、Cuカチオンは同様に振動モードを乱すであろう。
【0071】
銅含有モレキュラーシーブは、例えばNa含有モレキュラーシーブ(Na型)から、例えばイオン交換により製造する。Na型は一般に、イオン交換を伴わない焼成型を指す。この形態では、モレキュラーシーブは一般に、交換部位にNaおよびHカチオンの混合物を含有する。Naカチオンが占める部位の割合は、特定のゼオライトのバッチおよびレシピによって変わる。任意に、アルカリ金属モレキュラーシーブはNH 交換をされ、NH 型を、銅とのイオン交換に使用する。任意に、NH 交換モレキュラーシーブをH型に焼成し、これも銅とのイオン交換に使用することができる。
【0072】
例えば、開示内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,242,238号に開示されているように、酢酸銅、硫酸銅などの銅塩を用いて、銅を、アルカリ金属、NH 、またはH型のモレキュラーシーブ中にイオン交換する。例えば、Na、NH 、またはH型のモレキュラーシーブを塩水溶液と混合し、高温で好適な時間撹拌する。スラリーを濾過し、フィルターケーキを洗浄し、乾燥させる。
【0073】
さらに、開示内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,272,272号に開示されているように、触媒活性金属の少なくとも一部は、調製コロイドが構造規定剤、シリカ源、アルミナ源、および金属イオン(例えば銅)源を含有するように、モレキュラーシーブ合成プロセスの際に含まれてもよい。
【0074】
モレキュラーシーブ中の銅の総量は、例えば、銅含有モレキュラーシーブの総質量に対して約1.0wt%~約10wt%である。いくつかの実施形態では、モレキュラーシーブ中の銅の総量は、銅含有モレキュラーシーブの総質量に対して、約1.5wt%~約9wt%、約2.0wt%~約8wt%、または約3.0wt%~約7wt%であってよい。
【0075】
銅の総量は、イオン交換銅、およびモレキュラーシーブと会合しているがイオン交換されていない銅を含む。
【0076】
モレキュラーシーブ中の銅の量は、酸化物、CuOとして報告される。モレキュラーシーブの総乾燥質量は、銅などの任意の添加された/交換された金属を含む。
【0077】
モレキュラーシーブ、例えばアルミノシリケートゼオライト中の銅の総量は、銅対アルミニウム原子比によっても定義され得る。例えば、Cu/Al原子比は、約0.20~約0.50であり得る。いくつかの実施形態では、Cu/Al原子比は約0.25~約0.50、約0.3~約0.50、または約0.35~約0.50であってよい。
【0078】
銅を含有するモレキュラーシーブはそれぞれ、触媒組成物の総質量に対して、2wt%未満のナトリウム含有量(揮発物質フリーベースでNaOとして報告)を有し得る。より具体的な実施形態では、ナトリウム含有量は2500ppm未満である。モレキュラーシーブはそれぞれ、約0.7未満、例えば約0.02~約0.7のナトリウム対アルミニウム原子比を有し得る。モレキュラーシーブはそれぞれ、約0.5より大きい、例えば約0.5~約50の銅対ナトリウム原子比を有し得る。
【0079】
本銅含有モレキュラーシーブは、DIN66131に従って決定される、少なくとも約400m/g、少なくとも約550m/g、または少なくとも約650m/g、例えば約400~約750m/g、または約500~約750m/gのBET表面積を示し得る。本モレキュラーシーブは、走査型電子顕微鏡(SEM)により決定される、約10ナノメートル~約20ミクロン、好ましくは約0.1ミクロン~約2.0ミクロンの平均結晶サイズを有し得る。有利には、平均結晶サイズは、0.5ミクロン以下、または2.0ミクロン以下である。
【0080】
触媒コーティング/基材
モレキュラーシーブは、好適な改質剤と混合されている、または好適な改質剤でコーティングされている、粉末または噴霧乾燥材料の形態で提供し得る。改質剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、および高融点金属酸化物バインダー(例えば、ジルコニウム前駆体)が挙げられる。粉末または噴霧材料は、好適な改質剤による混合またはコーティングの後に、任意に、例えば水を用いてスラリーに形成することができ、このスラリーは、例えば、開示内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,404,203号に開示されるように、触媒コーティングの一部としての好適な基材上に堆積させる。
【0081】
触媒コーティングは、活性触媒種を含有する1種または複数種の担体を含有する。触媒コーティングは典型的には、その上に触媒活性種を有する担体を含有する、ウォッシュコートの形態で塗布され得る。ウォッシュコートは、液体ビヒクル中に特定の固体含有率(例えば、10~60質量%)の担体を含有するスラリーを製造することによって形成し、次にこれを基材上にコーティングし、乾燥させ、焼成させてコーティング層を提供する。複数のコーティング層を塗布する場合、各層を塗布した後、基材を乾燥させ、および/または焼成する。最後の焼成工程は、所望の数の複数の層を塗布した後に行う。
【0082】
モレキュラーシーブのコーティング層は、バインダー、例えば、酢酸ジルコニルなどの好適な前駆体、または硝酸ジルコニルなどの任意の他の好適なジルコニウム前駆体から誘導される、ZrOバインダーを使用して製造することができる。酢酸ジルコニルバインダーは、熱エージング後、例えば触媒が少なくとも約600℃、例えば約800℃以上の高温、および約5%もしくは約10%またはそれ以上の高水蒸気環境に暴露された場合に、均質かつ無傷のままである触媒コーティングを提供する。場合により好適な他のバインダーとしては、これらに限定されないが、アルミナおよびシリカが挙げられる。アルミナバインダーとしては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、およびオキシ水酸化アルミニウムが挙げられる。アルミニウム塩およびコロイド形態のアルミナも使用され得る。シリカバインダーは、コロイダルシリカを含む様々な形態のSiOを含む。バインダー組成物は、ジルコニア、アルミナ、およびシリカの任意の組み合わせを含み得る。
【0083】
本コーティング層はいずれも、ZrOおよび/またはAlバインダーを含有してもよい。
【0084】
「触媒」または「触媒組成物」という用語は、化学反応を促進する物質を指す。触媒は、「触媒活性種」および活性種を担持または支持する「担体」を含む。例えば、ゼオライトを含むモレキュラーシーブは、本銅活性触媒種用の担体/支持体である。同様に、高融点金属酸化物粒子は、白金族金属触媒種用の担体であり得る。
【0085】
本銅含有触媒は、窒素酸化物(NOx)のNへの選択的触媒還元(SCR)触媒として、非常に効果的である。典型的には、アンモニアのような還元剤を使用する。尿素は、アンモニア前駆体として使用され得る。
【0086】
触媒活性種はまた、化学反応を促進するので「促進剤」とも称される。例えば、本銅含有モレキュラーシーブは、銅促進モレキュラーシーブと称してもよい。「促進モレキュラーシーブ」とは、触媒活性種が意図的に添加されているモレキュラーシーブを指す。
【0087】
「基材」という用語は、一般に、触媒コーティングがその上に配置されているモノリシック材料、例えばフロースルーモノリスまたはモノリシックウォールフローフィルターを指す。1つまたは複数の実施形態では、基材は、ハニカム構造を有するセラミックまたは金属である。基材の入口端部から出口端部まで延び、通路が流体の流れに対して開口している、微細で平行なガス流路を有するタイプのモノリシック基材などの、任意の好適な基材を使用し得る。通路は、それらの流体入口からそれらの流体出口まで実質的に直線経路であり、通路を通って流れるガスが触媒材料と接触するように触媒コーティングが配置される壁によって画定される。モノリシック基材の流路は薄壁のチャネルであり、台形、長方形、正方形、正弦波、六角形、楕円形、円形などのような、任意の好適な断面形状およびサイズであり得る。このような構造体は、1平方インチの断面あたり約60~約900個、またはそれ以上のガス入口開口部(すなわちセル)を含有してもよい。
【0088】
本基材は、長さと直径と体積とを有する、円柱に類似した三次元である。形状は必ずしも円柱に一致する必要はない。長さは、入口端部と出口端部とによって画定される軸方向の長さである。
【0089】
フロースルーモノリス基材は、例えば、約50in~約1200inの体積、1平方インチあたりのセル数(cpsi)が約60~約500cpsiまたは最大約900cpsi、例えば約200~約400cpsiのセル密度、および約50~約150ミクロンまたは約200ミクロンの壁厚を有する。
【0090】
基材は、上に記載した「フロースルー」モノリスであってもよい。あるいは、触媒コーティングをウォールフローディーゼル微粒子フィルター(DPF)上に配置し、それによって、触媒煤煙フィルター(CSF)、または触媒DPF(CDPF)を生成してもよい。ウォールフロー基材を利用する場合、得られるシステムはガス状汚染物質とともに微粒子状物質を除去することが可能である。ウォールフローフィルター基材は、コージェライト、チタン酸アルミニウム、または炭化ケイ素などの、当技術分野において一般に公知の材料から製造することができる。ウォールフロー基材上の触媒コーティングの担持率は、多孔度および壁厚などの基材特性に依存し、典型的にはフロースルー基材上の触媒担持率よりも低い。
【0091】
SCR触媒コーティングを支持するのに有用なウォールフローフィルター基材は、基材の長手方向軸に沿って延びている、複数の微細で実質的に平行なガス流路を有する。典型的には、各通路は基材本体の一端で塞がれ、互い違いになっている通路は反対側の端面で塞がれる。このようなモノリシック担体は、1平方インチの断面あたり最大約700以上の流路(または「セル」)を含有してもよいが、はるかに少ないものを使用してもよい。例えば、典型的な担体は通常、約100~約300個の、1平方インチあたりのセル数(「cpsi」)を有する。セルは、長方形、正方形、円形、楕円形、三角形、六角形、または他の多角形形状の断面を有することができる。ウォールフロー基材は、典型的には、約150ミクロン~約500ミクロン、例えば約200ミクロン~約350ミクロンの壁厚を有する。ウォールフローフィルターは一般に、触媒コーティングを配置する前に、少なくとも40%の壁多孔度を有し、平均孔径が少なくとも10ミクロンである。例えば、ウォールフローフィルターは、触媒コーティングを配置する前に、約50~約75%の壁多孔度、および約10~約30ミクロンの平均孔径を有する。
【0092】
図1および図2は、本明細書に記載のウォッシュコート組成物でコーティングされたフロースルー基材の形態の例示的基材2を示す。図1を参照すると、例示的基材2は、円筒形状と、円筒形外面4と、上流端面6と、端面6と同一の、対応する下流端面8とを有する。基材2は、その中に形成された複数の微細で平行なガス流路10を有する。図2で分かるように、流路10は壁12によって形成され、担体2を通って上流端面6から下流端面8へ延び、通路10は遮られておらず、流体、例えばガス流は、担体2を通って長手方向に、その中のガス流路10を介して流れることができる。図2でより容易に分かるように、壁12は、ガス流路10が実質的に規則的な多角形形状を有するように寸法決めされ、構成される。示されるように、ウォッシュコート組成物は、所望ならば複数の異なる層に塗布することができる。図示の実施形態では、ウォッシュコートは、担体部材の壁12に付着した別個のボトムウォッシュコート層14と、ボトムウォッシュコート層14上にコーティングされた第2の別個のトップウォッシュコート層16との両方からなる。本発明は、1層または複数(例えば、2、3または4)層のウォッシュコート層で実施することができ、例示された2層の実施形態に限定されない。
【0093】
あるいは、図1および図3は、本明細書に記載のウォッシュコート組成物でコーティングされたウォールフローフィルター基材の形態の、例示的基材2を示す場合がある。図3で分かるように、例示的基材2は、複数の通路52を有する。通路は、フィルター基材の内壁53によって管状に囲まれている。基材は入口端部54と出口端部56とを有する。互い違いになっている通路は、入口端部で入口プラグ58により、出口端部で出口プラグ60により栓をされ、入口54と出口56とで反対の市松模様を形成する。ガス流62は、栓をされていないチャネル入口64を通って入り、出口プラグ60によって止められ、チャネル壁53(これは多孔質である)を通って出口側66に拡散する。ガスは、入口プラグ58のために壁の入口側に戻ることはできない。本発明において使用される多孔質ウォールフローフィルターは、前記要素の壁が、その上に1種または複数種の触媒材料を有するか、またはその中に含有することから、触媒化される。触媒材料は、要素壁の入口側のみ、出口側のみ、入口側と出口側の両方に存在してもよく、または壁自体が、全体もしくは部分的に、触媒材料からなってもよい。この発明は、要素の入口壁および/または出口壁に、1層または複数層の触媒材料を使用することを含む。
【0094】
触媒ウォールフローフィルターは、例えば、開示内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,229,597号に開示されている。この参考文献は、触媒コーティングが多孔質壁に浸透する、すなわち壁全体に分散するようにコーティングを塗布する方法を教示している。フロースルー基材およびウォールフロー基材は、例えば、WO2016/070090として公開されている、米国特許出願第62/072,687号にも教示されている。
【0095】
本触媒コーティングは、壁面上および/または壁の細孔内、すなわちフィルター壁「内」および/または「上」にあってもよい。したがって、「その上に触媒コーティングを有する」という語句は、任意の表面上、例えば壁面上および/または細孔表面上を意味する。
【0096】
基材の入口端部とは、「上流」端部または「前部」端部と同義である。出口端部とは、「下流」端部または「後部」端部と同義である。基材は長さおよび幅を有するであろう。
【0097】
セラミック基材は、任意の好適な高融点材料、例えば、コージェライト、コージェライト-α-アルミナ、アルミニウムチタネート、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコンムライト、スポジュメン、アルミナ-シリカ-マグネシア、ジルコンシリケート、シリマナイト、マグネシウムシリケート、ジルコン、ペタライト、α-アルミナ、アルミノシリケートなどから作製されてもよい。
【0098】
本発明において有用な基材は、1種または複数種の金属または金属合金を含む、金属性であってもよい。金属基材は、ペレット、波形シート、またはモノリシックフォームなどの様々な形状で使用することができる。金属基材の具体例としては、耐熱性の卑金属合金、特に鉄が実質的な成分または主成分である合金が挙げられる。このような合金は、ニッケル、クロム、およびアルミニウムのうちの1種または複数種を含有することができ、これらの金属の合計は、有利には合金の少なくとも約15wt%(質量パーセント)、例えば約10~約25wt%のクロム、約1~約8wt%のアルミニウム、および0~約20wt%のニッケルを含むことができる。
【0099】
触媒コーティングは、1層または複数層の薄い付着コーティング層を含み、少なくとも1層のコーティング層は銅含有触媒を含む。コーティングは、基材上に配置され、付着している。コーティング全体は、個々の「コーティング層」を含む。触媒コーティングは「ゾーン化」されてもよく、ゾーン化触媒層を含み得る。これはまた、「横方向ゾーン化」とも記載され得る。例えば、第1層は、入口端部から出口端部に向かって延びていてもよく、基材の長さの約10%~約90%、約10%~約50%、または約10%~約25%延びていてもよい。第2層は、出口端部から入口端部に向かって延びていてもよく、基材の長さの約10%~約90%、約10%~約50%、または約10%~約25%延びていてもよい。第1層と第2層は互いに隣接し、互いに重ならないようにすることができる。あるいは、第1層および第2層は互いの一部が重なり、第3の「中間」ゾーンを提供してもよい。中間ゾーンは、例えば、基材の長さの約5%~約80%延びていてもよい。あるいは、第1層は出口端部から延び、第2層は入口端部から延びていてもよい。
【0100】
上流ゾーンは、下流ゾーンの上流である。触媒基材のゾーンは、その上にある種のコーティング構造を有する断面として定義する。
【0101】
第1層および第2層はそれぞれ、基材の全長にわたって延びていても、またはそれぞれ基材の長さの一部にわたって延びていてもよく、部分的または全体的に、互いの上または下のいずれかに重なっていてもよい。第1層および第2層のそれぞれは、入口端部または出口端部のいずれから延びていてもよい。部分的または全体的に、互いの上または下に重なるコーティング層は「トップ」および「ボトム」コーティング層と称され得るが、トップ層はボトム層より「上」にある。ボトム層より上のトップ層は、これらが直接接触していてもよく、または間に中間層を有してもよいことを意味する。
【0102】
第1および/または第2のコーティング層は、基材と直接接触していてもよい。あるいは、1層または複数層の「アンダーコート」が存在してもよく、それにより、第1および/または第2のコーティング層の少なくとも一部は、基材と直接接触しない(むしろアンダーコートと接触する)。1層または複数層の「オーバーコート」もまた存在してもよく、それにより、第1および/または第2のコーティング層の少なくとも一部は、ガス流または大気に直接暴露されない(むしろオーバーコートと接触する)。
【0103】
第1および第2のコーティング層は、「中間」の重なり合うゾーンなしで、互いに直接接触していてもよい。あるいは、第1および第2のコーティング層は、2つのゾーン間の「ギャップ」によって、直接接触していなくてもよい。「アンダーコート」または「オーバーコート」の場合、第1および第2のSCR層の間のギャップは「中間層」と称される。
【0104】
アンダーコートはさらなるコーティング層より「下」の層であり、オーバーコートはさらなるコーティング層より「上」の層であり、中間層は2層のさらなるコーティング層の「間」の層である。
【0105】
中間層、アンダーコート、およびオーバーコートは、1種または複数種の触媒を含有してもよく、または触媒を含まなくてもよい。
【0106】
本触媒コーティングは、2層以上の同一の層、例えば本銅含有触媒を含む2層以上の同一の層を含み得る。
【0107】
図4aおよび4bは、2層のコーティング層を有する、いくつかの可能なコーティング層構成を示す。コーティング層201(トップコート)および202(ボトムコート)がその上に配置された、基材壁200を示す。これは単純化した図示であり、多孔質ウォールフロー基材の場合、細孔および細孔壁に付着したコーティングは示しておらず、栓をされた端部は示していない。図4aにおいて、ボトムコーティング層202は出口から基材の長さの約50%延びており、トップコーティング層201は入口から基材の長さの約50%より長く延びて、層202の一部の上に重なり、上流ゾーン203、中間ゾーン205、および下流ゾーン204を提供する。図4bにおいて、コーティング層201および202はそれぞれ、基材の長さ全体にわたって延びており、トップ層201はボトム層202の上に重なっている。図4bの基材は、ゾーン化されたコーティング構成を含有しない。図4aおよび4bにおいて、層201、202のいずれか、または両方は、本銅含有モレキュラーシーブを含有し得る。図4aおよび4bは、ウォールスルー基材、またはフロースルー基材上のコーティング組成物を図示するのに有用であり得る。
【0108】
本触媒コーティング、および触媒コーティングの各ゾーン、またはコーティングの任意の部分は、例えば、基材に対して約0.3g/in~約4.5g/inの担持率(濃度)において、基材上に存在する。これは、基材の体積あたりの、例えばハニカムモノリスの体積あたりの、乾燥固体質量を指す。卑金属、すなわち銅の量は、モレキュラーシーブも含めた触媒コーティングの一部に過ぎない。体積あたりの銅の量は、例えば、上の値の約0.2%~約10%であろう。体積あたりの銅の量は、銅濃度である。体積あたりの銅含有モレキュラーシーブの量は、モレキュラーシーブ濃度である。濃度は、基材の断面、または基材全体に対するものである。
【0109】
触媒物品およびシステム
「触媒物品」という用語は、所望の反応を促進するために使用する要素を指す。本触媒物品は、その上に配置された触媒コーティングを有する基材を含む。
【0110】
システムは2個以上の物品、例えば、第1のSCR物品および第2のSCR物品を含有する。システムはまた、還元剤注入器、ディーゼル酸化触媒(DOC)、煤煙フィルター、アンモニア酸化触媒(AMOx)、またはリーンNOxトラップ(LNT)を含有する、1個または複数個の物品を含み得る。
【0111】
還元剤注入器を含有する物品は、還元物品である。還元システムは、還元剤注入器、および/またはポンプ、および/またはリザーバなどを含む。
【0112】
本処理システムは、ディーゼル酸化触媒、および/または煤煙フィルター、および/またはアンモニア酸化触媒をさらに含み得る。ディーゼル微粒子フィルター(DPF)は、触媒化されなくてもよく、または触媒化され、それによって触媒煤煙フィルター(CSF)を作り出してもよい。例えば、本処理システムは、上流から下流に向かって、DOC、CSF、尿素注入器を含有する物品、本ゾーン化SCR物品、または第1のSCR物品および第2のSCR物品、ならびにAMOxを含有する物品を含んでもよい。
【0113】
代替的なシステムは、リーンNOxトラップ(LNT)に続く、微粒子フィルター上にコーティングされたSCR触媒(SCRoF)、および任意に、AMOx触媒を含有するゾーン化SCR物品を含有し得る。このシステムにおいて、SCRoFおよびSCR物品の両方は、本触媒を含有し得る。
【0114】
AMOx触媒を含むアンダーコート層は、基材の下流ゾーンに存在してもよい。例えば、AMOxアンダーコート層は、出口端部から入口端部に向かって、本物品の基材の長さの約10%~約80%延びていてもよい。
【0115】
AMOx層はまた、第2の下流物品の第2の基材上に存在し、下流AMOx物品を提供してもよい。
【0116】
AMOx触媒は、例えば、開示内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2011/0271664号に教示されている。アンモニア酸化(AMOx)触媒は、排ガス流からアンモニアを除去するのに効果的な支持貴金属成分であり得る。貴金属としては、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、または金が挙げられ得る。例えば、貴金属成分は、貴金属の物理的混合物、または化学的もしくは原子的にドーピングされた組み合わせを含む。貴金属成分は、例えば白金を含む。白金は、AMOx触媒に対して約0.008%~約2wt%の量で存在し得る。
【0117】
貴金属成分は、典型的には、高表面積の高融点金属酸化物支持体上に堆積させる。好適な高表面積高融点金属酸化物の例としては、アルミナ、シリカ、チタニア、セリア、およびジルコニア、ならびにこれらの物理的混合物、化学的組み合わせ、および/または原子的にドーピングされた組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、高融点金属酸化物は、シリカ-アルミナ、非晶質または結晶性アルミノシリケート、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-ランタナ、アルミナ-マンガネシア(manganesia)、アルミナ-バリア、アルミナ-セリアなどの混合酸化物を含有してもよい。例示的な高融点金属酸化物は、約50~約300m/gの比表面積を有する高表面積γ-アルミナを含む。
【0118】
AMOx触媒としては、例えばAEI、CHA、FAU、BEA、MFI、およびMORタイプのものから選択される、ゼオライト系または非ゼオライト系モレキュラーシーブが挙げられ得る。モレキュラーシーブは、酸化物支持白金成分と物理的に混合することができる。代替的実施形態では、白金は、モレキュラーシーブの外面上、またはチャネル、キャビティ、もしくはケージ内に分布し得る。
【0119】
第1の触媒物品および第2の触媒物品を含む本実施形態は、「多成分」または「マルチブリック(multi-brick)」系と称されることがある。「ブリック(brick)」は、モノリスまたはフィルターのような単一物品を指すことがある。
【0120】
有利には、多成分系の物品はそれぞれ、本明細書に開示されるゾーン化または層状コーティングを含有する基材を含有し得る。
【0121】
触媒物品は、還元剤、例えばアンモニアまたは尿素の存在下で、窒素酸化物(NOx)の還元を触媒するのに効果的である。作動中、還元剤は、SCR物品の上流の位置から排気流に周期的に計量供給される。注入器はSCR物品と流体連通しており、SCR物品の上流にある。注入器は、還元剤リザーバおよびポンプとも結合してよい。
【0122】
本物品、システム、および方法は、トラックおよび自動車などの移動排出源からの排ガス流の処理に好適である。物品、システム、および方法は、発電装置などの固定排出源からの排気流の処理にも好適である。
【0123】
アンモニアは、固定発電装置の排気処理用のSCR反応のための典型的な還元剤であり、一方、尿素は、移動排出源の排気処理用に使用する典型的なSCR還元剤である。尿素は、SCR触媒と接触する前またはSCR触媒上でアンモニアと二酸化炭素に分解され、アンモニアはNOxの還元剤として働く。
【0124】
本明細書に記載の物品、システム、および方法は、高NO転化率をもたらすことができる。「新しい」という用語は、触媒物品の製造直後の状態と定義し、「新触媒活性」という用語は、「新しい」条件における触媒性能と定義する。「エージングされた」という用語は、規定された時間水熱エージングした後の触媒物品の状態と定義し、「エージング触媒活性」という用語は、「エージングされた」条件における触媒性能と定義する。触媒性能は、特定の試験温度に対して定義することができる。例えば、本触媒物品は、80000h-1のガス毎時空間速度で測定して、200℃で少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%(例えば、約50%~約99%)のエージングNO転化率を示し得る。本触媒物品は、研究所反応器の定常状態条件下で、NOが500ppm、NHが500ppm、Oが10%、HOが5%、残部がNのガス混合物中において、80000h-1の体積に対するガス毎時空間速度で測定して、450℃で少なくとも70%、好ましくは少なくとも85%(例えば約70%~約99%のエージングNO転化率を示し得る。上の要件を満足するエージング触媒は、評価の前にそのようなエージング条件に供され、触媒は管状炉内で、10%のHO、10%のO、残部Nを含有するガス流中において、650℃で50時間、750℃で5時間、または800℃で16時間水熱エージングされる。このようなSCR活性測定値は、米国特許第8,404,203号に実証されている。
【0125】
NO転化率などのSCR性能は、例えば、0.5℃/分の温度傾斜で200℃から600℃、NOが500ppm(高速SCR条件:NO/NOx=0.5、または標準SCR条件:NO/NOx=0)、NHが500ppm、Oが10%、HOが5%、残部がNのガス混合物中において、擬似定常状態条件下で、80000h-1の体積に対するガス毎時空間速度で測定する。
【0126】
NOx転化率は、NOとNOとを合わせたmol%転化率として定義する。高い値が望ましい。
【0127】
「排気流」または「排ガス流」という用語は、固体または液体の微粒子状物質を含有し得る流動ガスの任意の組み合わせを指す。流れはガス状成分を含み、例えば、リーンバーンエンジンの排気であり、これは液滴、固体微粒子などのようなある種の非ガス状成分を含有し得る。リーンバーンエンジンの排気流は、典型的には、燃焼生成物、不完全燃焼の生成物、窒素酸化物、可燃性および/または炭素質の微粒子状物質(煤煙)、ならびに未反応の酸素および/または窒素をさらに含む。
【0128】
本排ガス処理方法では、排ガス流は、上流端部に入り、下流端部から出ることによってSCR物品、SCRシステム、または排ガス処理システムを通過する。
【0129】
ある種の実施形態は、化学量論的燃焼に必要な量を超える空気が存在する燃焼条件、すなわちリーン条件で作動する内燃機関、特にディーゼルエンジンの排ガスから、NOxを除去するための物品、システム、および方法の使用に関係する。
【0130】
「車両」という用語は、例えば、内燃機関を有する任意の車両を意味し、例えば乗用自動車、スポーツ用多目的車、ミニバン、バン、トラック、バス、ゴミ運搬車、貨物輸送トラック、建築車両、重機、軍用車両、農耕用作業車両などが挙げられる。
【0131】
「白金族金属成分」とは、白金族金属またはそれらの酸化物のうちの1種を指す。「希土類金属成分」とは、ランタン、セリウム、プラセオジム、およびネオジムを含む、元素の周期表に定義されたランタン系列の1種または複数種の酸化物を指す。
【0132】
D90粒子サイズ分布は、粒子の90%(数による)が、サブミクロンサイズの粒子については走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)、支持体含有粒子(ミクロンサイズ)については粒子サイズ分析装置によって測定される、あるサイズを下回るフェレ径を有することを示す。平均粒子サイズは、D50と同義であり、集団の半分がこの点より上にあり、半分が下にあることを意味する。粒子サイズは、例えばASTM法D4464に従って、分散剤または乾燥粉末を用いて、レーザー光散乱技法によって測定することができる。粒子サイズ分析装置は、個々の粒子の数分布をサイズの関数として測定する。個々の粒子は、単結晶、またはより小さい結晶の凝集体であり得る。
【0133】
エージング安定触媒材料の識別
上記および添付の実施例から明らかなように、本開示は特に、有用な触媒材料を識別するための方法に関し得る。DRIFT分光法の使用は特に、複数個の銅含有モレキュラーシーブのサンプルを評価し、触媒材料として有用であることが期待される材料を識別することを、より詳細にはエージング安定性を示すことができる材料を識別することを可能にする。
【0134】
触媒材料の特定のための方法は、まず、Cu+2カチオンとして、およびCu(OH)+1カチオンとしてイオン交換銅を含有する銅含有モレキュラーシーブの粒子をそれぞれが含む複数個のサンプルを準備する工程を含むことができる。銅含有モレキュラーシーブ材料は、本明細書に別途記載の任意の構成を有してよい。
【0135】
様々なサンプルは微粒子形態であってよく、または銅含有モレキュラーシーブの粒子を拡散反射赤外フーリエ変換(DRIFT)分光法に供するのに必要な形態をもたらすため、必要に応じて粉砕され得る。DRIFT分光法は、銅含有モレキュラーシーブ中のCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T振動ピーク、および銅含有モレキュラーシーブ中のCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T振動ピークを評価するために、実行することができる。本明細書に別途記載のように、このような情報を使用して、銅含有モレキュラーシーブ中の銅カチオンの性質を識別することができる。さらに、このような情報は、銅含有モレキュラーシーブにおいて期待されるであろうNOx転化活性およびエージング安定性と、直接関係する場合がある。
【0136】
したがって、本方法はさらに、DRIFTデータが本明細書に別途論じる有用性を示すサンプルのうちの1個または複数個を選択する工程を含むことができる。例えば、銅含有モレキュラーシーブが、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T振動ピークのピーク積分面積と、Cu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T振動ピークのピーク積分面積との、1以上の比率を示す有用なサンプルを識別することができる。
【0137】
有用性を示すことでも本明細書に記載されるさらなる特徴は、触媒組成物または触媒物品の生産に使用する好適なサンプルを識別するための、代替または任意の組み合わせにおいても適用され得る。例えば、上に既に記載したように、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについての積分ピーク面積に帰せられる、総積分ピーク面積の百分率は、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについての積分ピーク面積を、合わせたCu+2カチオンに対応する摂動T-O-T結合振動ピークおよびCu(OH)+1カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークについての総ピーク積分面積によって除算することによって計算することができる。このような知識を用いて、本方法はこのようにして、Cu+2についての摂動T-O-T結合振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率が50%以上である、1個または複数個のサンプルを選択する工程を含むことができる。
【0138】
所望により、有用なサンプルのエージング安定性を確認するため、追加の加工工程を実行することができる。例えば、上に論じたDRIFT分光法に供する複数個のサンプルは、特に、新しい状態であってもよい。以上のように、該方法は、複数個のサンプルを、(例えば、約10mol%のHO含有率を有する空気の存在下、約800℃の温度において、約16時間)エージングし、エージングサンプルを形成する工程をさらに含むことができる。その後、該方法は、エージングサンプルをDRIFT分光法に供する工程と、エージングされた状態の銅含有モレキュラーシーブについての、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率が、新しい状態の銅含有モレキュラーシーブについての、Cu+2カチオンに対応する摂動T-O-T非対称伸縮振動ピークに帰せられる総積分ピーク面積の百分率に対して、20%以下増加する、サンプルのうちの1個または複数個を選択する工程とを含むことができる。
【0139】
上記方法はこのようにして、良好なNOx転化活性を示すことを期待することができ、およびまたエージング安定的であり得る、有用な触媒材料を識別することを可能にする。以上のように、他の詳細な試験技法を必要とすることなく、分光分析に基づいて、新しい触媒材料をより容易に識別することができる。
【0140】
本明細書における冠詞「a」および「an」は、その文法的対象の1つまたは2つ以上(例えば、少なくとも1つ)を指す。本明細書で引用されるすべての範囲は包括的である。全体を通して使用される「約」という用語は、小さな変動を記述し説明するために使用する。例えば、「約」とは、数値が±5%、±4%、±3%、±2%、±1%、±0.5%、±0.4%、±0.3%、±0.2%、±0.1%、または±0.05%修飾されていてもよいことを意味し得る。明示的に示されているかどうかにかかわらず、すべての数値は「約」という用語によって修飾される。「約」という用語によって修飾された数値は、特定の指定値を含む。例えば、「約5.0」は、5.0を含む。
【0141】
特に指示がない限り、すべての部および百分率は、質量による。特に指示がない限り、質量パーセント(wt%)は、いかなる揮発性物質も含まない組成物全体に基づく、すなわち乾燥固体含有量に基づく。
【0142】
本明細書で言及したすべての米国特許出願、公開特許出願、および特許は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0143】
[実施例1]SCR触媒
17のSAR、4.0wt%のCuO、および0.295のCu/Al比を有するCuCHAゼオライト、ならびに酸化ジルコニウムバインダーを含有する触媒コーティングを、ウォッシュコートプロセスによって、400cpsiのセル密度、および6milの壁厚を有するセルラーセラミックモノリス上に配置した。コーティングしたモノリスを110℃で乾燥させ、約550℃で1時間焼成した。コーティングプロセスは、その5%が酸化ジルコニウムバインダーである、2.1g/inの触媒担持率をもたらした。
【0144】
[実施例2]SCR触媒
20のSAR、3.8wt%のCuO、および0.325のCu/Al比を有するCuCHAゼオライト、ならびに酸化ジルコニウムバインダーを含有する触媒コーティングを、ウォッシュコートプロセスによって、400cpsiのセル密度、および6milの壁厚を有するセルラーセラミックモノリス上に配置した。コーティングしたモノリスを110℃で乾燥させ、約550℃で1時間焼成した。コーティングプロセスは、その5%が酸化ジルコニウムバインダーである、2.1g/inの触媒担持率をもたらした。
【0145】
[実施例3]SCR触媒
25のSAR、3.5wt%のCuO、および0.365のCu/Al比を有するCuCHAゼオライト、ならびに酸化ジルコニウムバインダーを含有する触媒コーティングを、ウォッシュコートプロセスによって、400cpsiのセル密度、および6milの壁厚を有するセルラーセラミックモノリス上に配置した。コーティングしたモノリスを110℃で乾燥させ、約550℃で1時間焼成した。コーティングプロセスは、その5%が酸化ジルコニウムバインダーである、2.1g/inの触媒担持率をもたらした。
【0146】
[実施例4]実施例1~3の触媒コーティングについてのNOx転化率試験
NO転化率は、研究所反応器中、0.5℃/分の温度傾斜で200℃~600℃、NOが500ppm、NHが500ppm、Oが10%、HOが5%、残部がNのガス混合物において、擬似定常状態条件下で、80000h-1の体積に対するガス毎時空間速度で測定した。NOx転化率は、mol%として報告し、NOおよびNOとして測定する。
【0147】
実施例1~3のコーティングしたモノリスを、10%HO/空気の存在下、800℃で16時間、水熱エージングした。図5は実施例1の、実施例2に対するNOx転化率を示す。図6は実施例1の、実施例3に対するNOx転化率を示す。実施例1は、両方のエージング条件下で、NOx転化率に関して優れていた。
【0148】
[実施例5]実施例1~3の触媒コーティングについてのDRIFT分光法
MCT(HgCdTe)検出器を有するTHERMO NICOLET FT-IR分析装置、およびZnSe窓を有するHarrick環境チャンバにおいて、DRIFT測定を行った。サンプルは、乳鉢および乳棒によって微粉末に摩砕し、サンプルカップ中に載置した。粉末を、40mL/分の流動Ar中、400℃で1時間脱水し、30℃に冷却し、参照としてKBrを使用してスペクトルを記録した。ゼオライト中の銅種は、赤外分光法により、摂動T-O-T結合(Si-O-AlおよびSi-O-Si)振動をモニタリングすることによって識別した。ゼオライト中のT-O-T結合の構造振動は、非対称および対称振動モードについて、それぞれ1350~920cm-1、および850~620cm-1における吸収ピークを有する。摂動T-O-T結合振動は、銅イオンがゼオライト構造のカチオン位置に交換されている場合に、銅イオンと骨格中の隣接する酸素原子との間の強い相互作用によって観察される。ピーク位置は、電荷補償カチオンの状態、およびゼオライト骨格の構造に依存する。ピーク強度は、交換部位における、電荷補償カチオンの量に依存する。
【0149】
新しい状態の実施例1、2、および3のCuCHAサンプルのDRIFTスペクトルを、図7に示す。約1040および810cm-1における、非摂動T-O-T(Si-O-Al)結合の非対称および対称振動に加えて、2箇所の新たな摂動吸収が、900および950cm-1に出現した。900cm-1におけるピークは、Al対と会合したCu2+による摂動T-O-T非対称伸縮振動に起因し、950cm-1におけるピークは、単独Alと会合したCu(OH)による摂動T-O-T非対称伸縮振動に起因していた。ピークフィッティングは、Origin 9.1ソフトウェアにおいて実行した。Gaussianピークとしてピークをモデル化し、1E-6のカイ二乗許容値に達するまでピークフィッティングを行った。新しいサンプルの900および950cm-1摂動振動モードに関連するピーク面積を、表1に列記する。Al対と会合したCu2+イオンを裏付ける、900cm-1における摂動T-O-Tピークが最大の面積を有するが、これは実施例1においてはCu+2が優勢な銅種であることを示唆し、900cm-1のピーク面積は、900および950cm-1におけるピーク面積の合計を含む総ピーク面積の71%である。実施例2および3は、Cu2+に加えて大量のCu(OH)+1を含み(950cm-1におけるT-O-Tピーク下の面積の増加によって裏付けられる)、900および950cm-1)を含むピーク面積の総合計に対する、900cm-1のピーク面積の百分率は、それぞれわずか47%および43%であった。実施例1は、高NO還元活性、および高水熱安定性を示し、理論に束縛されるものではないが、Al対の電荷を均衡させるCu2+イオンは、単独Alの電荷を均衡させるCu(OH)+1より安定であると考えられる。
【0150】
図8および表2に示すように、800℃における水熱エージングは、実施例1の銅交換モレキュラーシーブについての、900および950cm-1における相対T-O-Tピーク面積を変えなかった。これは、実施例1の銅交換モレキュラーシーブにおける、Cu+2およびCu(OH)+1の相対原子百分率が、エージングによって変化しなかったことの裏付けでもあり、したがって実施例1の高水熱安定性を実証する。実施例3の場合、800℃エージングの後、Cu(OH)+1を裏付ける摂動T-O-Tピーク(950cm-1)についてのシグナルは大きく減少し、Cu2+を裏付ける摂動T-O-Tピーク(900cm-1)についてのシグナルは増加し(図9)、900cm-1ピークの百分率は43%から76%へ上昇した(表3)。総ピーク面積は382から320に減少した。
【0151】
理論に束縛されるものではないが、Cu(OH)+1種がCu+2に変換されることが示唆されるのではなく、Cuカチオン種の総合計、[Cu+2+Cu(OH)+1]に対する、Cu+2の相対比が変化していることが示唆されるに過ぎないことに注意することは、重要である。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【0155】
実施例1の銅交換モレキュラーシーブについての900cm-1ピークの%ピーク面積(A900cm-1の%)は、エージングの際に、わずか約4%増加する(3/71)ことが分かる。実施例3の銅含有モレキュラーシーブについての900cm-1ピークの%ピーク面積は、約77%増加した(33/43)。したがって、実施例4で論じたように、実施例1の銅交換モレキュラーシーブは、所望のエージング安定性、および向上したNOx転化性能を示した。
【0156】
[実施例6]SCR触媒
CuSAPOを含有する触媒材料を製造した。具体的には、0.2M酢酸銅を使用した銅交換を、80℃において2時間、NH-SAPO-34に実行した。サンプルを濾過し、脱イオン水で洗浄し、90℃において乾燥させ、次いで450℃において2時間焼成した。得られたCuSAPO-34は、CuOとして表される、3.3wt%の銅含有率を有していた。CuSAPO材料を評価し、様々なタイプのモレキュラーシーブについて、安定が達成され得ることを確認した。
【0157】
[実施例7]NOx転化率試験
NOx転化率は、研究所反応器中、175、200、225、250、400、550、および575℃の温度において、NOが500ppm、NHが500ppm、Oが10%、HOが5%、残部がNのガス混合物において、定常状態条件下で、80000h-1の体積に対するガス毎時空間速度で測定した。NOx転化率は、mol%として報告し、NOおよびNOとして測定した。実施例6のCuSAPO、および実施例3のCuCHAを、10%HO/空気の存在下、800℃で16時間、水熱エージングした。図10は実施例6の、実施例3に対するNOx転化率を示す。実施例6は、新しい状態およびエージング後において、高NOx転化率を示す。
【0158】
[実施例8]実施例6についてのDRIFT分光法
実施例5に記載のように、DRIFT測定を行った。実施例6のサンプルのDRIFTスペクトルを、図11に示す。約900および970cm-1における摂動T-O-T結合はそれぞれ、Si対と会合したCu2+によるT-O-T結合の非対称伸縮振動、および単独Siと会合したCu(OH)によるT-O-T結合の非対称伸縮振動に起因する。ピークフィッティングは、再びOrigin 9.1ソフトウェアにおいて実行した。ピークフィッティングにおいて、Gaussianピークとしてピークをモデル化し、1E-6のカイ二乗許容値に達するまでピークフィッティングを行った。図11から分かるように、Cu2+イオンがSi対に会合していることを裏付ける900cm-1における摂動T-O-Tピークは、最大の面積を有し、実施例6においてCu+2が優勢な銅種であったことを示唆している。
【0159】
800℃における水熱エージングは、実施例6の銅交換SAPO-34モレキュラーシーブについての、900および970cm-1における相対T-O-Tピーク面積を変えなかった。これは、実施例6の銅交換SAPO-34モレキュラーシーブにおける、Cu+2およびCu(OH)+1の相対原子百分率が、エージングによって変化しないことの裏付けでもあり、したがって実施例6の高水熱安定性を実証している。
【0160】
図11および表4に示すように、800℃における水熱エージングは、実施例6におけるCu2+およびCu(OH)の量を変えず、実施例6の高水熱安定性を実証している。発明の実施例1および実施例6についての900cm-1ピークの%ピーク面積(A900cm-1の%)は、エージングの際に、わずか約4%増加している(実施例1については3/71、実施例6については3/73)ことが分かる。比較例3についての900cm-1ピークの%ピーク面積は、約77%増加している(33/43)。
【0161】
【表4】
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11