(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】溶接部品および溶接部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20241213BHJP
B23K 9/167 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/23 B
B23K9/23 E
B23K9/167 A
(21)【出願番号】P 2023082404
(22)【出願日】2023-05-18
【審査請求日】2024-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】中村 大紀
(72)【発明者】
【氏名】上田 千春
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬太
(72)【発明者】
【氏名】藤川 敦士
(72)【発明者】
【氏名】石井 正信
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 隆
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-183489(JP,A)
【文献】特開平01-087080(JP,A)
【文献】特開昭57-130795(JP,A)
【文献】特表2003-523830(JP,A)
【文献】特開昭52-092840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材と、
銅から構成される第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する溶接部と、を備え、
前記溶接部は、
前記第1部材を構成するオーステナイト
系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、
前記第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、を含み、
前記第2領域内には、前記第1部材を構成するオーステナイト
系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域と前記第2領域とは、前記界面において金属結合を形成している、溶接部品。
【請求項2】
前記オーステナイト
系ステンレス鋼は、JIS規格SUS304またはJIS規格SUS316である、請求項1に記載の溶接部品。
【請求項3】
前記第1部材および前記第2部材は管状の形状を有し、
前記第1部材および前記第2部材は長手方向端部において、前記溶接部により互いに接合されている、請求項1または請求項2に記載の溶接部品。
【請求項4】
オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材および銅から構成される第2部材を準備する工程と、
前記第1部材および前記第2部材と電極との間にアークを形成した状態で、前記アーク内に溶加材を供給し、前記第1部材、前記第2部材および前記溶加材を前記アークにより加熱することで溶融させ、溶融池を形成する工程と、
前記溶融池を凝固させることにより、前記第1部材と前記第2部材とを接合する溶接部を形成する工程と、を備え、
前記溶加材は、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からな
り、
前記溶接部を形成する工程において形成された溶接部は、
前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、
前記第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、
を含み、
前記第2領域内には、前記第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域と前記第2領域とは、前記界面において金属結合を形成している、
溶接部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接部品および溶接部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅からなる部材と鋼からなる部材とを溶接により接合する技術が知られている。また、溶接の際に用いられる溶加棒(溶加材)として、銅と鉄との合金が採用され得ることが知られている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-087688号公報
【文献】特開2020-076136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、従来の手法により、銅からなる部材と鋼からなる部材とを溶接により接合することができる。しかし、銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とを溶接により接合する場合、溶接部の強度が不十分になるという問題がある。特に、溶接部品が、繰返し応力が作用する環境で使用される場合、溶接部の疲労強度が不十分であることにより、溶接部において疲労破壊が生じるという問題がある。
【0005】
そこで、銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の疲労強度を向上させることを、本開示の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った溶接部品は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材と、銅から構成される第2部材と、第1部材と第2部材とを接合する溶接部と、を備える。溶接部は、第1部材を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、を含む。第2領域内には、第1部材を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在する。第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在する。第1領域と第2領域とは、上記界面において金属結合を形成している。
【0007】
本開示に従った溶接部品の製造方法は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材および銅から構成される第2部材を準備する工程と、第1部材および第2部材と電極との間にアークを形成した状態で、アーク内に溶加材を供給し、第1部材、第2部材および溶加材をアークにより加熱することで溶融させ、溶融池を形成する工程と、溶融池を凝固させることにより、第1部材と第2部材とを接合する溶接部を形成する工程と、を備える。溶加材は、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0008】
上記溶接部品および溶接部品の製造方法によれば、銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、溶接部品の構造を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、溶接部品の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、溶接部品の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図5】
図5は、溶接部品の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図6】
図6は、引張試験後の溶接部品の状態を示す写真である。
【
図7】
図7は、条件1にて実施した疲労試験後の溶接部品の状態を示す写真である。
【
図8】
図8は、条件2にて実施した疲労試験後の溶接部品の状態を示す写真である。
【
図9】
図9は、溶接部の金属組織を示す光学顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、溶接部における元素の分布の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
本開示の溶接部品は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材と、銅から構成される第2部材と、第1部材と第2部材とを接合する溶接部と、を備える。溶接部は、第1部材を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、を含む。第2領域内には、第1部材を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在する。第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在する。第1領域と第2領域とは、上記界面において金属結合を形成している。
【0011】
本発明者らは、銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の疲労強度を向上させる方策について検討した。その結果、以下のような知見が得られた。
【0012】
銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とを溶接により接合する場合、銅とオーステナイト系ステンレス鋼とが一様に混合された溶接部を形成することは難しく、オーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域とが形成される。このとき、第2領域内に、オーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、かつ第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在する状態とすることにより、第1領域と第2領域とが、上記界面において金属結合を形成する状態を達成することができる。このような溶接部においては、溶接部の疲労強度が向上する。
【0013】
本開示の溶接部品においては、第2領域内には、第1部材を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が存在する。第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が存在する。そして、第1領域と第2領域とは、上記界面において金属結合を形成している。その結果、本開示の溶接部品によれば、銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の疲労強度を向上させることができる。
【0014】
上記溶接部品において、上記オーステナイトステンレス鋼は、JIS規格SUS304またはJIS規格SUS316であってもよい。SUS304およびSUS316は、本開示の溶接部品における第1部材を構成するオーステナイト系ステンレス鋼として好適である。
【0015】
上記溶接部品において、第1部材および第2部材は管状の形状を有していてもよい。第1部材および第2部材は長手方向端部において、上記溶接部により互いに接合されていてもよい。管状の形状を有する部材同士が接合された溶接部品においては、内部を流れる流体の影響、振動の影響などにより、溶接部における疲労強度が問題となる場合がある。溶接部における疲労強度が向上した本開示の溶接部品は、このような部品への適用に適している。
【0016】
本開示の溶接部品の製造方法は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材および銅から構成される第2部材を準備する工程と、第1部材および第2部材と電極との間にアークを形成した状態で、アーク内に溶加材を供給し、第1部材、第2部材および溶加材をアークにより加熱することで溶融させ、溶融池を形成する工程と、溶融池を凝固させることにより、第1部材と第2部材とを接合する溶接部を形成する工程と、を備える。溶加材は、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【0017】
本発明者らの検討によれば、アーク溶接において、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる溶加材を採用することによって、第2領域内に複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、かつ第1領域内に複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、第1領域と第2領域とが金属結合を形成する状態を達成することが容易となる。そのため、本開示の溶接部品の製造方法によれば、銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の疲労強度を向上させることができる。
【0018】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の溶接部品の具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
図1は、溶接部品の構造を示す概略断面図である。
図2は、溶接部の構造を示す概略図である。
図1を参照して、本実施の形態の溶接部品1は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材10と、銅から構成される第2部材20と、第1部材10と第2部材20とを接合する溶接部30とを備える。
【0020】
第1部材10を構成するオーステナイト系ステンレス鋼としては、たとえばJIS規格SUS304またはJIS規格SUS316を採用することができる。第2部材20は、純銅、すなわち純度99.9質量%以上の銅から構成されている。
【0021】
第1部材10は、外周面10Aと、内周面10Bとを含んでいる。外周面10Aは円筒面形状を有している。内周面10Bは、外周面10Aと共通の中心軸を有する円筒面形状を有している。第1部材10には、内周面10Bに取り囲まれた空間である貫通孔10Hが形成されている。第1部材10は、管状の形状を有している。第1部材10は、ステンレスパイプである。
【0022】
第2部材20は、外周面20Aと、内周面20Bとを含んでいる。外周面20Aは、第1部材10の外周面10Aと同一直径で、共通の中心軸を有する円筒面形状を有している。内周面20Bは、第1部材10の内周面10Bと同一直径で、共通の中心軸を有する円筒面形状を有している。内周面20Bは、外周面20Aと共通の中心軸を有している。第2部材20には、内周面20Bに取り囲まれた空間である貫通孔20Hが形成されている。第2部材20は、管状の形状を有している。第2部材20は、銅パイプである。貫通孔10Hと貫通孔20Hとは連通している。
【0023】
第1部材10および第2部材20は、長手方向端部において、溶接部30により互いに接合されている。
図2を参照して、溶接部30は、第1領域31と、第2領域32とを含んでいる。第1領域31と第2領域32との間には、界面33が形成されている。第2領域32は、第1領域31との間に界面33を形成するように配置されている。第1領域31は、第1部材10を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする領域である。第2領域32は、銅を主成分とする領域である。界面33を挟んで、第1領域31は第1部材10側に、第2領域32は第2部材20側に配置される。界面33は、溶接部品1の長手方向において、溶接部30の中央部に形成される。
【0024】
第2領域32内には、第1部材10を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域321が互いに分離して存在している。第1領域31内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域312が互いに分離して存在している。そして、第1領域31と第2領域32とは、界面33において金属結合を形成している。ここで、界面33において金属結合が形成されている状態とは、界面33において、第1領域31を構成する金属原子の格子と第2領域32を構成する金属原子の格子とが連続性を有している状態を意味する。
【0025】
本実施の形態の溶接部品1においては、第2領域32内には、第1部材10を構成するオーステナイトステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域321が存在する。第1領域31内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域312が存在する。そして、第1領域31と第2領域32とは、界面33において金属結合を形成している。その結果、本実施の形態の溶接部品1は、溶接部30の疲労強度が向上した溶接部品となっている。
【0026】
次に、本実施の形態の溶接部品1の製造方法の一例について説明する。
図3は、溶接部品の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図4および
図5は、溶接部品の製造方法を説明するための概略断面図である。
【0027】
図3を参照して、本実施の形態の溶接部品1の製造方法では、まず工程S10として素材準備工程が実施される。この工程S10では、素材として、オーステナイト系ステンレス鋼から構成される第1部材10および銅から構成される第2部材20が準備される。
図4を参照して、第1部材10と第2部材20とは、たとえば同一の内径および外径を有する中空円筒状の形状を有している。第1部材10と第2部材20とは、第1部材10の端面10Cと第2部材20の端面20Cとが隙間をおいて向かい合うように(ルート間隔W)、配置される。端面10Cおよび端面20Cは、外周面10Aおよび外周面20Aに近づくにしたがって互いの距離が大きくなるテーパ面(ベルル角度θ)である。第1部材10と第2部材20とは、中心軸が一致するように配置される。
【0028】
次に、工程S20として溶融池形成工程が実施される。この工程S20では、
図5を参照して、工程S10において準備された第1部材10および第2部材20と電極52との間にアーク71を形成した状態で、アーク71内に溶加材としての溶加棒61を供給し、第1部材10、第2部材20および溶加棒61(溶加材)をアーク71により加熱することで溶融させ、溶融池81が形成される。
【0029】
電極52は、たとえばタングステン(W)などの高融点の金属材料からなっている。電極52は、中空円筒状のノズル51内に外周面が取り囲まれるとともに、その先端がノズル51から外部に露出している。ノズル51および電極52は、溶接トーチ50を構成する。電極52の外周面とノズル51の内周面の間の環状の空間から第1部材10の外周面10Aおよび第2部材20の外周面20Aに向けて、シールドガスが矢印Aに沿って吐出される。シールドガスとしては、たとえばアルゴン(Ar)などの不活性ガスを採用することができる。シールドガスとしては、Arとヘリウム(He)との混合ガスを採用してもよい。また、貫通孔10Hおよび貫通孔20H内には、矢印Bに沿ってバックシールドガスが流される。バックシールドガスとしては、シールドガスと同様に、Ar、ArとHeとの混合ガスなどの不活性ガスを採用することができる。
【0030】
シールドガスが矢印Aに沿って吐出されることにより、アーク71が外部の空気から遮断される。溶加棒61は、アーク71による加熱によって溶融し、溶滴62として溶融池81へと到達する。溶融池81は、溶融した第1部材10、溶融した第2部材20および溶融した溶加棒61から構成される。溶加棒61は、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【0031】
次に、工程S30として凝固工程が実施される。この工程S30では、工程S20において形成された溶融池81を凝固させることにより、第1部材10と第2部材20とを接合する溶接部30が形成される。具体的には、工程S20において溶融池81が形成された第1部材10および第2部材20を周方向に沿って所定の角度、たとえば5~10°程度回転させる。これにより、アーク71は先に形成された溶融池81に隣接する領域に新たな溶融池81を形成するとともに、先に形成された溶融池81は凝固することにより、溶接部30(ビード)となる(
図1参照)。このような手順が繰り返されて第1部材10および第2部材20の全周にわたって溶接部30が形成されることにより、本実施の形態の溶接部品1の製造方法は完了し、本実施の形態の溶接部品1が得られる。
【0032】
本実施の形態の溶接部品1の製造方法の工程S20では、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる溶加棒61(溶加材)が採用される。これにより、第2領域32内に複数の第1島状領域321が存在し、かつ第1領域31内に複数の第2島状領域312が存在し、第1領域31と第2領域32とが金属結合を形成する状態を達成することが容易となっている。その結果、本実施の形態の溶接部品1の製造方法によれば、溶接部30の疲労強度を向上させることができる。溶加棒61は、4.0質量%以上4.8質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなることが好ましい。鉄の融点は、銅の融点に比べて高いため、銅の融点を超え鉄の融点以下の温度域では、固相の鉄と液相の銅とが共存する状態となる。鉄の含有量を4.8質量%以下に低減することにより、鉄の偏析が抑制され、溶接部30の強度の向上に寄与する。
【実施例】
【0033】
本開示の溶接部品を作製し、本開示の溶接部品の効果を確認するとともに、溶接部の金属組織を確認する実験を行った。実験の手順は以下のとおりである。
【0034】
上記実施の形態において説明した溶接部品の製造方法により直管状のステンレスパイプと直管状の銅パイプとが接合された溶接部品を作製した。第1部材10を構成するオーステナイトステンレス鋼として、JIS規格SUS304を採用した。シールドガスおよびバックシールドガスとしてはArガスを採用した。電極52の直径は2.4mm、ノズル51の内径は6mmとした。電極52を構成する材料としては、2質量%のセリウム(Ce)が添加されたタングステン(W)を採用した。
【0035】
溶加棒61の組成は、鉄4.5質量%および銅95.5質量%を含む組成(4.5質量%の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる組成)とした(以下、「Cu-4.5%Fe」と表示する場合がある)。また、比較のため、溶加棒61の組成として純銅(以下、「Cu」と表示する場合がある)、珪素(Si)3質量%および銅97質量%を含む組成(3.0質量%の珪素を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる組成)(以下、「Cu-3%Si」と表示する場合がある)およびスズ5質量%および銅95質量%を含む組成(5.0質量%のスズを含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる組成)(以下、「Cu-5%Sn」と表示する場合がある)を採用した場合についても、同様に溶接を実施し、溶接部品を作製した。得られた溶接部品について、以下のように(1)施工性を確認したうえで、(2)引張試験、(3)低温引張試験、(4)腐食試験および(5)疲労試験を実施した。
【0036】
(1)施工性の確認
上記実施の形態において説明した手順に沿って溶接を実施し、良好な溶接が達成できたかどうかを確認した。外観上良好な溶接が達成できた場合を「合格」、多数のボイドが発生するなど外観上良好な溶接が達成できなかった場合を「不合格」と判定した。
【0037】
(2)引張試験
溶接部品1を長手方向に引っ張り、破断させる引張試験を実施した。試験は、溶接部品1が常温(室温)の状態で実施した。そして、溶接部30以外で破断した場合を「合格」、溶接部30にて破断した場合を「不合格」と判定した。
【0038】
(3)低温引張試験
溶接部品1を長手方向に引っ張り、破断させる引張試験を実施した。試験は、溶接部品1が-40℃に冷却された状態で実施した。そして、溶接部30以外で破断した場合を「合格」、溶接部30にて破断した場合を「不合格」と判定した。
【0039】
(4)腐食試験
溶接部30に対し、5%シュウ酸水溶液を用いた電解エッチングを実施し、腐食が発生するかどうかを確認した。電解エッチングは、5Vの電圧を付与し、60秒間保持する条件にて実施した。溶接部30に腐食が見られなかった場合を「合格」、溶接部30に腐食が確認された場合を「不合格」と判定した。
【0040】
(5)疲労試験
溶接部品1の長手方向に周期的な繰返し引張応力を負荷する疲労試験を実施した。最大引張応力を126MPa、最小引張応力を13MPaとする条件(条件1)、および最大引張応力を137MPa、最小引張応力を14MPaとする条件(条件2)、の2つの条件で周期的な繰返し引張応力を溶接部品1に負荷した。応力の繰返し周期は、両条件とも15Hzとした。疲労試験は、溶接部品1が疲労により破断するまで継続した。そして、溶接部30以外のみにおける亀裂で破断した場合を「合格」、溶接部30における亀裂が含まれる状態にて破断した場合を「不合格」と判定した。
【0041】
次に、上記(1)~(5)実験の結果について説明する。表1に上記実験の結果を示す。
【0042】
【0043】
表1を参照して、Cu-5%Snの溶加棒61を用いた場合、溶接部30に多数のボイドが発生したため、施工性を不合格と判断した。Cu-5%Snの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1については、引張試験等を実施しても不合格となることが明らかであるため、その他の実験の対象から除外した。Cu-5%Sn以外の溶加棒61を用いて作製された溶接部品1については、施工性が合格であったほか、引張試験および低温引張試験についても合格と判断された。
【0044】
図6は、Cu-4.5%Feの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1の引張試験後の状態を示す写真である。
図6から明らかなように、溶接部品1は、溶接部30以外の領域、具体的には第2部材20において破断している。
【0045】
腐食試験については、Cuの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1に腐食が確認されたため、不合格と判断した。具体的には、溶接部30の第1部材10に接する領域において明らかな腐食が確認された。Cu-4.5%Feの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1およびCu-3%Siの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1については、腐食は確認されず、合格と判断した。Cuの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1については、腐食試験が不合格であったため、疲労試験の対象から除外した。
【0046】
表1を参照して、疲労試験については、Cu-4.5%Feの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1は合格と判断された一方で、Cu-3%Siの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1は不合格と判断された。
【0047】
図7は、条件1にて実施した疲労試験後の溶接部品1の状態を示す写真である。
図8は、条件2にて実施した疲労試験後の溶接部品1の状態を示す写真である。
図7および
図8において、Cu-4.5%Feの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1である実施例のサンプル91と、Cu-3%Siの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1である比較例のサンプル92とが、それぞれ1本ずつ示されている。
図7および
図8のいずれにおいても、実施例のサンプル91では、溶接部30以外の領域、具体的には第2部材20のみにおける亀裂で破断している。一方、比較例のサンプル92では、溶接部30における亀裂が含まれる状態にて破断している。
【0048】
このように、Cu-4.5%Feの溶加棒61を用いた本開示の溶接部品の製造方法によれば、施工性、引張試験、低温引張試験、および腐食試験において良好な結果が得られるとともに、溶接部の疲労強度が向上することが確認された。
【0049】
次に、Cu-4.5%Feの溶加棒61を用いて作製された溶接部品1について、溶接部30の金属組織の状態を確認した。
図9は、溶接部30の金属組織を示す光学顕微鏡写真である。
図10は、溶接部30における元素の分布を、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて分析した結果を示す図である。
図9および
図10を参照して、溶接部30は、第1部材10を構成するSUS304に含まれる元素(Fe、Cr、NiおよびMn)を主成分とする第1領域31と、第1領域31との間に界面33を形成するように配置され、Cuを主成分とする第2領域32とを含んでいる。そして、第2領域32内には、SUS304に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域321が存在し、第1領域31内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域312が存在している。さらに、上記疲労試験において溶接部30に亀裂が発生しなかったことから、第1領域31と第2領域32とは、界面33において金属結合を形成していると判断できる。すなわち、本開示の溶接部品の要件を満たす実施例のサンプル91において、溶接部の疲労強度が向上することが確認された。
【0050】
以上の実験結果より、本開示の溶接部品および溶接部品の製造方法によれば、銅からなる部材とオーステナイト系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の疲労強度が向上することが確認される。
【0051】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1 溶接部品、10 第1部材、10A 外周面、10B 内周面、10C 端面、10H 貫通孔、20 第2部材、20A 外周面、20B 内周面、20C 端面、20H 貫通孔、30 溶接部、31 第1領域、32 第2領域、33 界面、50 溶接トーチ、51 ノズル、52 電極、61 溶加棒、62 溶滴、71 アーク、81 溶融池、91,92 サンプル、312 第2島状領域、321 第1島状領域、W ルート間隔、θ ベルル角度。