(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】骨伝導イヤホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20241213BHJP
A61F 11/00 20220101ALI20241213BHJP
H04R 1/10 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
H04R1/00 317
A61F11/00 310
H04R1/10 104Z
(21)【出願番号】P 2023108743
(22)【出願日】2023-06-30
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】500198966
【氏名又は名称】ラディウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】香田 進
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053640(JP,A)
【文献】特開2007-103989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
A61F 11/00
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を振動に変換する振動子と、
前記振動子を収容する筐体と、
前記筐体に結合され且つユーザの耳介の耳甲介腔にセットされる振動伝達部であって、前記耳甲介腔にセットされた場合に当該耳甲介腔の外部と内部とを連通する貫通孔が設けられた振動伝達部と、を備えて
おり、
前記振動伝達部は、互いに対向する一対の主面同士を貫通する前記貫通孔が設けられた板状部材であって、前記耳甲介腔にセットされた場合に、外耳道が延伸されている方向に前記一対の主面が交わるように設けられた板状部材であり、
前記振動伝達部の外縁を縁取る環状部材であって、弾性体からなる環状部材を更に備えている、
ことを特徴とする骨伝導イヤホン。
【請求項2】
前記振動伝達部と前記筐体とは、一体成形された単一の部材により構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の骨伝導イヤホン。
【請求項3】
前記環状部材は、前記外縁に対して着脱可能である、
ことを特徴とする請求項
1に記載の骨伝導イヤホン。
【請求項4】
前記筐体を第1の筐体として、
電池と、
前記電池を収容する第2の筐体と、
前記第1の筐体が一方の端部に固定され、且つ、前記第2の筐体が他方の端部に固定されたつると、を備え、
前記振動伝達部が前記耳甲介腔にセットされた場合に、前記つるは、(1)前記第1の筐体の少なくとも一部が前記耳介の表側の領域に位置し、(2)前記第2の筐体が前記耳介の裏側の領域に位置し、(3)耳輪の前側領域において前記表側から前記裏側へ回り込み、前記耳介の付け根に沿うように、設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の骨伝導イヤホン。
【請求項5】
外部から供給される音声信号を取得する無線通信インターフェースを更に備えている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の骨伝導イヤホン。
【請求項6】
前記振動子は、右耳用及び左耳用の振動子からなり、
前記筐体は、右耳用及び左耳用の筐体からなり、
前記無線通信インターフェースは、右耳用及び左耳用の無線通信インターフェースからなり、
前記右耳用の筐体は、前記右耳用の振動子及び前記右耳用の無線通信インターフェースを収容し、
前記左耳用の筐体は、前記左耳用の振動子及び前記左耳用の無線通信インターフェースを収容する、
ことを特徴とする請求項
5に記載の骨伝導イヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨伝導イヤホンに関する。
【背景技術】
【0002】
骨伝導イヤホンが特許文献1及び非特許文献1,2に記載されている。骨伝導イヤホンは、音声信号に応じて振動する振動子を備えており、その振動子を耳介の周辺の骨あるいは軟骨に密着させるように構成されている。振動子は、音声信号を振動に変換し、その振動は、骨あるいは軟骨を介して蝸牛に伝達される。したがって、骨伝導イヤホンを利用するユーザは、鼓膜を介することなく音声信号が表す音を聞くことができる。
【0003】
特許文献1の骨伝導イヤホンは、振動子(特許文献1においては圧電振動装置)を外耳道の開口部となる耳甲介腔に密着させるために、弾性を有するイヤーチップ(特許文献1においては遮音部)を用いたカナル型の骨伝導イヤホンである。このようなカナル型の骨伝導イヤホンは、耳甲介腔に挿入されたイヤーチップが復元しようとする力を用いて、振動子を耳甲介腔に固定する。したがって、カナル型の骨伝導イヤホンは、耳甲介腔に振動子を押しつける。
【0004】
非特許文献1の骨伝導イヤホンは、振動子を耳介の前方に位置する領域(例えばこめかみ近傍)に密着させるために、可撓性を有するバンドを用いたバンド型の骨伝導イヤホンである。このようなバンド型の骨伝導イヤホンは、バンドの両端が頭部を挟み込む力を用いて、耳介の前方に位置する領域に位置する骨に振動子を押しつける。
【0005】
非特許文献2のイヤホンは、振動子を耳甲介腔の後側壁面に密着させるために、可撓性を有するクリップを用いたクリップ型のイヤホンである。このようなクリップ式のイヤホンは、振動子とクリップとが耳介を挟み込む力を用いて、耳甲介腔の近傍に位置する軟骨に振動子を押しつける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許6240821号公報(2017年11月29日発行)
【非特許文献】
【0007】
【文献】"OpenRun Pro Sport Headphones - Engineered for Sound | Shokz Official"、[online]、[令和5年6月27日検索]、インターネット<https://shokz.com/products/openrunpro>
【文献】"完全ワイヤレス骨伝導イヤホン PEACE SS-1(BK/WH)|earsopen-耳をふさがずに音を楽しむ骨伝導式イヤホン"、[online]、[令和5年6月27日検索]、インターネット<https://boco.co.jp/eo/products/detail/56>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献1,2に記載の骨伝導イヤホンには、以下のような課題がある。
【0009】
特許文献1のカナル型の骨伝導イヤホンは、振動子及びイヤーチップが外耳道を塞ぐため、ユーザは、音声信号に起因する音を聞くことができるものの、ユーザの周囲の環境音を直接聞くことができない。なお、環境音は、外音とも呼ばれる。
【0010】
これに対して、非特許文献1及び2のバンド型の骨伝導イヤホン及びクリップ型の骨伝導イヤホンは、振動子が外耳道を塞がないオープンイヤー型の骨伝導イヤホンである。したがって、ユーザは、音声信号に起因する音に加えて環境音を聞くことができる。ただし、オープンイヤー型の骨伝導イヤホンでは、上述したようにバンドの両端が頭部を挟み込む力、又は、振動子とクリップとが耳介を挟み込む力を用いて、振動子を骨あるいは軟骨に密着させる。そのため、ユーザは、頭部あるいは耳介に痛みや圧迫感などを覚えやすい。
【0011】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、オープンイヤー型の骨伝導イヤホンにおいて、挟み込む力に起因する痛みや圧迫感などを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る骨伝導イヤホンは、音声信号を振動に変換する振動子と、前記振動子を収容する筐体と、前記筐体に結合され且つユーザの耳介の耳甲介腔にセットされる振動伝達部であって、前記耳甲介腔にセットされた場合に当該耳甲介腔の外部と内部とを連通する貫通孔が設けられた振動伝達部と、を備えている。
【0013】
本発明の第1の態様に係る骨伝導イヤホンの振動伝達部には、前記耳甲介腔にセットされた場合に当該耳甲介腔の外部と内部とを連通する貫通孔が設けられている。したがって、本骨伝導イヤホンは、オープンイヤー型の骨伝導イヤホンである。
【0014】
また、第1の態様に係る骨伝導イヤホンは、振動伝達部をユーザの耳甲介腔にセットすることによって、ユーザの耳介に固定される。そのため、骨伝導イヤホンをユーザの耳介に対して固定するときに、非特許文献1,2に記載の骨伝導イヤホンのように頭部あるいは耳介を挟み込む力を用いない。したがって、本骨伝導イヤホンは、挟み込む力に起因する痛みや圧迫感などを低減することができる。
【0015】
すなわち、本骨伝導イヤホンは、オープンイヤー型の骨伝導イヤホンにおいて、挟み込む力に起因する痛みや圧迫感などを低減することができる。
【0016】
また、本発明の第2の態様に係る骨伝導イヤホンにおいては、上述した第1の態様に係る骨伝導イヤホンの構成に加えて、前記振動伝達部と前記筐体とは、一体成形された単一の部材により構成されている、ことが好ましい。
【0017】
第2の態様に係る骨伝導イヤホンによれば、振動子を収容する筐体と、振動伝達部との間に構造が途切れる不連続部が含まれないため、振動子が発生した振動をできるだけ少ない損失で振動伝達部に伝達することができる。
【0018】
本発明の第3の態様に係る骨伝導イヤホンにおいては、上述した第2の態様又は第3の態様に係る骨伝導イヤホンの構成に加えて、前記振動伝達部は、互いに対向する一対の主面同士を貫通する前記貫通孔が設けられた板状部材であって、前記耳甲介腔にセットされた場合に、外耳道が延伸されている方向に前記一対の主面が交わるように設けられた板状部材である、構成が採用されている。
【0019】
第3の態様に係る骨伝導イヤホンによれば、耳甲介腔にセットされた場合に、振動伝達部を構成する板状部材は、外耳道の開口部を塞ぐように構成されている。したがって、板状部材における一対の主面の面積を大きくすることが容易であるため、貫通孔の開口部の面積を設計するときの自由度を容易に高めることができる。
【0020】
本発明の第4の態様に係る骨伝導イヤホンにおいては、上述した第3の態様に係る骨伝導イヤホンの構成に加えて、前記振動伝達部の外縁を縁取る環状部材であって、弾性体からなる環状部材を更に備えている。
【0021】
第4の態様に係る骨伝導イヤホンによれば、振動伝達部の外縁を弾性体からなる環状部材により覆うことができるので、ユーザが骨伝導イヤホンを装着する場合のフィット感を高めることができる。
【0022】
本発明の第5の態様に係る骨伝導イヤホンにおいては、上述した第4の態様に係る骨伝導イヤホンの構成に加えて、前記環状部材は、前記外縁に対して着脱可能である、構成が採用されている。
【0023】
第5の態様に係る骨伝導イヤホンによれば、環状部材を振動伝達部から取り外すことができる。したがって、様々な形状及びサイズの環状部材を製造者が予め用意しておくことにより、ユーザは、様々な形状及びサイズを有する環状部材のなかから、自分の耳介にフィットする環状部材を選択することができる。したがって、ユーザが骨伝導イヤホンを装着する場合のフィット感を高めることができる。
【0024】
本発明の第6の態様に係る骨伝導イヤホンにおいては、上述した第1の態様~第5の態様の何れか一態様に係る骨伝導イヤホンの構成に加えて、前記筐体を第1の筐体として、電池と、前記電池を収容する第2の筐体と、前記第1の筐体が一方の端部に固定され、且つ、前記第2の筐体が他方の端部に固定されたつると、を備え、前記振動伝達部が前記耳甲介腔にセットされた場合に、前記つるは、(1)前記第1の筐体の少なくとも一部が前記耳介の表側の領域に位置し、(2)前記第2の筐体が前記耳介の裏側の領域に位置し、(3)耳輪の前側領域において前記表側から前記裏側へ回り込み、前記耳介の付け根に沿うように、設けられている、構成が採用されている。
【0025】
第6の態様に係る骨伝導イヤホンによれば、骨伝導イヤホンにおける重量物である電池を、耳甲介腔にセットされた振動伝達部だけでなく、つるを用いて支持することができる。すなわち、電池の重さを、耳甲介腔と、耳介の付け根とに分散させることができる。したがって、ユーザが骨伝導イヤホンを装着する場合に耳甲介腔に生じ得る装着感を低減することができる。
【0026】
本発明の第7の態様に係る骨伝導イヤホンにおいては、上述した第1の態様~第6の態様の何れか一態様に係る骨伝導イヤホンの構成に加えて、外部から供給される音声信号を取得する無線通信インターフェースを更に備えている。
【0027】
第7の態様に係る骨伝導イヤホンは、ワイヤレス方式の骨伝導イヤホンとして機能する。
【0028】
本発明の第8の態様に係る骨伝導イヤホンにおいては、上述した第7の態様に係る骨伝導イヤホンの構成に加えて、前記振動子は、右耳用及び左耳用の振動子からなり、前記筐体は、右耳用及び左耳用の筐体からなり、前記無線通信インターフェースは、右耳用及び左耳用の無線通信インターフェースからなり、前記右耳用の筐体は、前記右耳用の振動子及び前記右耳用の無線通信インターフェースを収容し、前記左耳用の筐体は、前記左耳用の振動子及び前記左耳用の無線通信インターフェースを収容する、構成が採用されている。
【0029】
第8の態様に係る骨伝導イヤホンは、完全ワイヤレス方式の骨伝導イヤホンとして機能する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、オープンイヤー型の骨伝導イヤホンにおいて、挟み込む力に起因する痛みや圧迫感などを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】左図は、ユーザの耳介に本発明の一実施形態に係る骨伝導イヤホンを装着した状態を示す画像である。右図は、ユーザの耳介の模式図である。
【
図2】
図1に示した骨伝導イヤホンの正面図、側面図、及び背面図である。
【
図3】
図1に示した骨伝導イヤホンが備えている振動伝達部の斜視図である。
【
図4】
図1に示した骨伝導イヤホンが備えているイヤーループ及びその変形例の平面図である。
【
図5】発明の一実施形態であり、且つ、左右が対になっている骨伝導イヤホンの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一実施形態に係る骨伝導イヤホン1R及び1Lについて、
図1~
図5を参照して説明する。
【0033】
図1の左図は、ユーザUの右耳である耳介ERに、右耳用の骨伝導イヤホン1Rを装着した状態を示す画像である。
図1の右図は、耳介ERの模式図である。なお、
図1に示す耳介ERは、何れも、耳介ERの表側の領域を正面から平面視することによって得られる平面図である。また、耳介ERの表側の領域の逆側の領域を裏側の領域と呼ぶ。すなわち、耳介ERの表側の領域を平面視した場合に、裏側の領域は、見えない領域である。
【0034】
本実施形態においては、
図1に示すように、直立した状態のユーザUの耳介ERと、骨伝導イヤホン1Rとを用いて、骨伝導イヤホン1Rの構成を説明する。ここで、鉛直上向きの方向を上方向と定める。直立した状態のユーザUの耳介ERにおける耳垂E2から耳輪E1に向かう方向は、上方向に沿う。また、耳介ERを平面視した場合に、上方向に直交する方向のうち、ユーザUの視線が向かう方向を前方向と定める。また、前方向と、上方向とともに左手系の直交座標系を構成する方向を表方向と定める。なお、前方向、上方向、及び表方向の各々の逆方向を、それぞれ、後方向、下方向、及び裏方向と呼ぶ。
【0035】
また、骨伝導イヤホン1Rにおいては、
図1の左図に示すように、耳介ERに装着した状態において、耳介ERを正面から平面視した場合に見える面を正面と呼ぶ。また、骨伝導イヤホン1Rにおける正面と逆側の面を背面と呼ぶ。したがって、
図2は、骨伝導イヤホン1Rの正面図、側面図、及び背面図である。なお、
図2の側面図は、耳介ERに装着した状態の骨伝導イヤホン1Rを前方向から見ることによって得られる。
【0036】
図3は、骨伝導イヤホン1Rが備えている振動伝達部15の斜視図である。なお、
図3においては、振動伝達部15とイヤーループ16とを分解した状態を図示している。
【0037】
図4は、骨伝導イヤホン1Rが備えているイヤーループ16、並びに、その変形例であるイヤーループ16A及びイヤーループ16Bの平面図である。
【0038】
図5は、本発明の一実施形態であり、且つ、左右が対になっている骨伝導イヤホン1R及び1Lの画像である。骨伝導イヤホン1Rは、右耳用の骨伝導イヤホンであり、骨伝導イヤホン1Lは、左耳用の骨伝導イヤホンである。骨伝導イヤホン1Rと骨伝導イヤホン1Lとは、互いに鏡面対象となるように構成されている。
【0039】
〔骨伝導イヤホンの概要〕
図5に示すように、骨伝導イヤホン1R及び1Lは、何れも、第1の筐体11と、実装基板21と、振動子23とを備えている。骨伝導イヤホン1Rの第1の筐体11、実装基板21、及び振動子23は、それぞれ、右耳用の第1の筐体11、実装基板21、及び振動子23である。また、骨伝導イヤホン1Lの第1の筐体11、実装基板21、及び振動子23は、それぞれ、左耳用の第1の筐体11、実装基板21、及び振動子23である。
【0040】
骨伝導イヤホン1Rの第1の筐体11は、右耳用の実装基板21及び振動子23を収容し、骨伝導イヤホン1Lの第1の筐体11は、左耳用の実装基板21及び振動子23を収容する。
【0041】
右耳用及び左耳用の実装基板21には、それぞれ、右耳用及び左耳用の無線通信インターフェースが実装されている。各無線通信インターフェースは、骨伝導イヤホン1R及び1Lの外部(例えば、スマートフォンや、パソコンや、ゲーム機や、テレビなどに代表される端末)から供給される音声信号を取得する。各無線通信インターフェースは、端末との間で音声信号に代表される信号を送受信することができる何れかの通信規格に準拠していればよい。このような通信規格の例としては、Bluetooth(登録商標)や、2.4GHz帯デジタル通信などが挙げられる。各無線通信インターフェースが取得した音声信号は、右耳用及び左耳用の振動子23の各々を駆動する。
【0042】
このように構成された骨伝導イヤホン1R及び骨伝導イヤホン1Lは、市場において完全ワイヤレス方式と呼ばれるイヤホンである。なお、完全ワイヤレス方式として、リレー方式及び左右同時伝送方式の2通りが知られているが、何れを用いることもできる。本実施形態では、左右同時伝送方式を採用するものとして骨伝導イヤホン1R及び骨伝導イヤホン1Lを説明する。
【0043】
なお、本発明の一態様に係る骨伝導イヤホンは、1つの無線通信インターフェースを右用の骨伝導イヤホンと左用の骨伝導イヤホンとで共有するように構成されていてもよい。このような構成のイヤホンは、一般的にワイヤレスイヤホンとよばれ、完全ワイヤレスイヤホンとは区別されている。なお、骨伝導イヤホン1Rの一態様は、ワイヤレスイヤホンに限定されず、有線方式のイヤホンであってもよい。
【0044】
また、
図5では、右耳用である骨伝導イヤホン1Rと、左耳用である骨伝導イヤホン1Lとが対になって図示されている。本発明の一態様においては、骨伝導イヤホン1R及び骨伝導イヤホン1Lを対の状態で販売することもできるし、骨伝導イヤホン1R及び骨伝導イヤホン1Lの何れか一方のみを販売することもできる。
【0045】
〔骨伝導イヤホンの構成〕
図5を参照して上述したように、骨伝導イヤホン1Rと骨伝導イヤホン1Lとは、互いに鏡面対象となるように構成されている。したがって、以下では、骨伝導イヤホン1Rを用いて本発明の一実施形態に係る骨伝導イヤホンの構成について説明し、骨伝導イヤホン1Lに関する詳しい説明を省略する。
【0046】
図1の左図に示すように、骨伝導イヤホン1Rは、第1の筐体11と、振動子23と、振動伝達部15と、を備えている。第1の筐体11は、筐体の一例である。
【0047】
振動子23は、外部から供給された音声信号を振動に変換するデバイスである。本実施形態では、振動子23としてダイナミック型の骨伝導スピーカを採用している。ただし、振動子23は、圧電素子であってもよい。
【0048】
第1の筐体11は、振動子23を収容するように構成された樹脂製の部品である。振動子23が発生する振動をできるだけ少ない損失で振動伝達部15に伝達するために、第1の筐体11の内壁面は、振動子23の外壁面にぴったり密着するように、振動子23をかたどっていることが好ましい。なお、
図1、
図2、及び
図5においては、第1の筐体11及び後述する第2の筐体13に収容されている部材を破線で図示している。
【0049】
振動伝達部15は、第1の筐体11に結合され且つユーザUの耳介ERの耳甲介腔E3にセットされる。このように、耳甲介腔E3もセットされた振動伝達部15は、音声振動から変換した振動を、耳甲介腔E3を構成する軟骨に伝達する。したがって、骨伝導イヤホン1Rは、軟骨伝導型の骨伝導イヤホンである。振動伝達部15には、耳甲介腔E3にセットされた場合に耳甲介腔E3の外部と内部とを連通する貫通孔151が設けられている。
【0050】
また、本実施形態において、振動伝達部15は、互いに対向する一対の主面同士を貫通する貫通孔151が設けられた板状部材である。振動伝達部15は、耳甲介腔E3にセットされた場合に、外耳道が延伸されている方向(
図1が図示された紙面に対して交わる方向)に前記一対の主面が交わるように設けられている。
図2の正面図、側面図、及び背面図によれば、外縁が円形状である円盤状部材であることが分かる。
図2の正面図に図示されている外縁が円形状の平面部分が振動伝達部15の一方の主面であり、
図2の背面図に図示されている外縁が円形状の平面部分が振動伝達部15の他方の主面である。貫通孔151は、一方の主面と他方の主面とを貫通するように、振動伝達部15に対して形成されている。なお、振動伝達部15の外縁の形状は、円形状に限定されず、例えば、楕円形状や、卵型の形状や、カム型の形状などであってもよい。また、本実施形態において振動伝達部15の形状を表現する「板状部材」の範疇には、ドーナッツ型に代表される環状部材も含まれる。
【0051】
また、
図2の側面図に示すように、骨伝導イヤホン1Rは、第1の筐体11と振動伝達部15との間に介在する支柱14を更に備えている。支柱14は、第1の筐体11からおよそ裏方向(すなわち、耳甲介腔E3の外部から内部へ向かう方向)に向かって延伸された柱状部材であり、その先端に振動伝達部15が結合されている。換言すれば、支柱14が延伸されている方向である軸方向は、振動伝達部15の一対の主面に対して平行ではなく、当該一対の主面に交わるように構成されている。支柱14の軸方向は、振動伝達部15を耳甲介腔E3にセットした場合に、外耳道が延伸されている方向とも言える。このことは、
図2の側面図を見れば明らかである。換言すれば、振動伝達部15が耳甲介腔E3にセットされた耳介ERを平面視した場合に、第1の筐体11の一部と、支柱14の少なくとも一部と、振動伝達部15の少なくとも一部とは、重なっている。本実施形態においては、第1の筐体11の一部と、支柱14の全部と、振動伝達部15の一部とは、重なっている。このように、第1の筐体11と振動伝達部15との間に支柱14が介在することにより、振動伝達部15を耳甲介腔E3にセットした場合に、外耳道が延伸されている方向において第1の筐体11と振動伝達部15とを離間させることができる。すなわち、外耳道が延伸されている方向において、第1の筐体11を耳甲介腔E3から遠ざけることができる。したがって、第1の筐体11と耳甲介腔E3及びその周辺との間に生じ得る干渉を抑制することができるし、振動伝達部15を耳甲介腔E3のより深い位置にセットすることができる。なお、本実施形態では、支柱14における横断面の形状として、円形状を採用している。すなわち、支柱14の形状は、円柱状である。ただし、支柱14における横断面の形状は、円形状に限定されず、例えば、楕円形状や、4角形又は6角形といった多角形などであってもよい。
【0052】
本実施形態において、第1の筐体11と、振動伝達部15とは、間に介在する支柱14も含めて、一体成形された単一の部材により構成されている。ただし、第1の筐体11と振動伝達部15とは、別個の部材により構成され、互いに接合されていてもよい。なお、第1の筐体11、支柱14、及び振動伝達部15を構成する材料は、限定されないが、一例として、樹脂及び金属が挙げられる。樹脂の例としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)及びポリカーボネート樹脂(PC樹脂)が挙げられるし、金属の例としては、アルミニウム合金が挙げられる。
【0053】
図2及び
図3に示すように、骨伝導イヤホン1Rは、振動伝達部15に固定されたイヤーループ16を更に備えている。イヤーループ16は、振動伝達部15の外縁を縁取るように構成されている。具体的には、振動伝達部15の外縁には、断面形状が半円形状である溝152が形成されている。一方、イヤーループ16は、断面形状が円形状であるOリングである。すなわち、イヤーループ16は、環状部材の一例である。また、イヤーループ16は、弾性体により構成されている。イヤーループ16を構成する弾性体は、限定されないが、本実施形態は、弾性体としてシリコーン樹脂を用いる。弾性体の他の例としては、熱可塑性エラストマー(TPE樹脂)が挙げられる。このように構成されたイヤーループ16は、溝152に嵌合することによって、振動伝達部15に対して固定されている。イヤーループ16の硬度は、イヤーループ16の音響インピーダンスが耳甲介腔E3の音響インピーダンス(例えば1.52Mkg/m
3・s)にできるだけ整合するように、適宜設計することができる。イヤーループ16の硬度の例としては、硬度30(JIS K 6253)が挙げられる。また、イヤーループ16には、銀イオンに代表される抗菌作用を有するイオンが練り込まれていてもよい。なお、骨伝導イヤホン1Rにおいては、イヤーループ16を省略することもできる。
【0054】
また、本実施形態において、イヤーループ16は、振動伝達部15の外縁を構成する溝152に対して着脱可能に構成されている。この構成によれば、ユーザUの耳甲介腔E3の形状や、ユーザUのフィット感の好みなどに応じて、イヤーループ16をイヤーループ16Aやイヤーループ16Bなどに適宜交換することができる(
図4参照)。イヤーループ16A及びイヤーループ16Bは、何れも、イヤーループ16の変形例である。イヤーループ16Aは、イヤーループ16と比較して、円形状である断面の直径が細い。したがって、溝152に嵌合させた場合に、イヤーループ16Aの外径は、イヤーループ16の外径よりも小さくなる。したがって、イヤーループ16Aは、イヤーループ16と比較して、耳甲介腔E3のサイズが小さいユーザUに好適である。また、イヤーループ16Bは、イヤーループ16と同じ断面の直径を有するが、更にイヤーフィン16B1が設けられている。このように、平面視した場合に、外縁の形状が円形状ではないイヤーループを採用することもできる。平面視した場合のイヤーループの形状としては、卵型や、カム型や、楕円形状などが挙げられる。平面視した場合におけるイヤーループの外縁の形状及びサイズは、できるだけ多くのユーザUの耳介ERの耳甲介腔E3の形状及びサイズのバリエーションに併せて、適宜何種類でも製品に同梱することができる。
【0055】
図2の各図に示すように、骨伝導イヤホン1Rは、上述した第1の筐体11、支柱14、振動伝達部15、イヤーループ16、及び振動子23に加えて、つる12、第2の筐体13、実装基板21、電池22、充電ポート24、及びタッチセンサ25を更に備えている。
【0056】
第2の筐体13は、後述する電池22を収容するように構成された樹脂製の部品である。
【0057】
つる12は、第1の筐体11、支柱14、及び振動伝達部15と、第2の筐体13との相対的な位置関係を規定するために構成された樹脂製の部品である。また、つる12は、端部121を一方の端部とし、端部122を他方の端部とする柱状あるいは軸状の部品である。端部121には、第1の筐体11が固定されており、端部122には第2の筐体13が固定されている。
【0058】
振動伝達部15が耳甲介腔E3にセットされた場合に、平面視した場合に、つる12は、(1)第1の筐体11の少なくとも一部が耳介ERの表側の領域に位置し、(2)第2の筐体13が耳介ERの裏側の領域に位置し、(3)耳輪E1の前側領域R1において前記表側から前記裏側へ回り込み、耳甲介腔E3の付け根に沿うように、設けられている。前側領域R1は、耳輪E1の前側領域R1は、三角窩E4の前側領域とも言える。本実施形態においては、耳介ERを平面視した場合に、第1の筐体11の一部が耳介ERの表側の領域に位置し、第1の筐体11の残りの一部であってつる12の一方の端部(端部121、
図2参照)の近傍部分が前側領域R1に位置する。なお、骨伝導イヤホン1Rの一態様においては、第1の筐体11の全部が耳介ERの表側の領域に位置してもよい。
【0059】
本実施形態においては、第1の筐体11、つる12、及び第2の筐体13は、何れも、上述したように樹脂製の部品である。つる12を構成する樹脂の例としては、シリコーン樹脂が挙げられる。また、第2の筐体13を構成する樹脂の例としては、第1の筐体11を構成する樹脂と同様に、ABS樹脂及びPC樹脂が挙げられる。なお、第2の筐体13は、ABS樹脂又はPC樹脂により構成された内層と、シリコーン樹脂などに代表される弾性樹脂により構成された表層とからなる二層構造であってもよいし、三層以上の構造であってもよい。本実施形態では、つる12としてシリコーン樹脂を採用し、第2の筐体13として、ABS樹脂からなる内層と、シリコーン樹脂からなる表層とからなる二層構造を採用している。このような二層構造は、二色成型と呼ばれる製造方法を用いて製造することができる。本実施形態において、つる12及び第2の筐体13は、一体成形された単一の部材により構成されており、第1の筐体11は、つる12及び第2の筐体13とは別個の部材として構成されている。
図2において第1の筐体11とつる12との間に図示した実線は、境界を示している。なお、つる12及び第2の筐体13のうち少なくとも第2の筐体13は、金属により構成されていてもよい。金属の例としては、アルミニウム合金が挙げられる。
【0060】
第1の筐体11とつる12との接合部は、第1の筐体11がつる12の軸に対して、軸回りに回転可能なように構成されていてもよいし、第1の筐体11がつる12に対して完全に固定されるように構成されていてもよい。
【0061】
また、骨伝導イヤホン1Rの一態様において、第1の筐体11、つる12、及び第2の筐体13、支柱14、及び振動伝達部15は、一体成形された単一の部材により構成されていてもよい。この構成によれば、骨伝導イヤホン1Rの防水性能を高めることができる。
【0062】
つる12は、ユーザUの耳介ERの形状及びサイズのバリエーションに応じて、第1の筐体11の位置に対する第2の筐体13の相対位置を調整するとともに記憶するように構成されている。第1の筐体11の位置に対する第2の筐体13の相対位置を調整するために、つる12を構成する樹脂は、常温(例えば25℃)において柔軟性を有し、ユーザUの耳介ERの付け根の形状に沿って変形できるように構成されている。また、第1の筐体11の位置に対する第2の筐体13の相対位置を記憶するために、つる12の内部には、つる12と同軸状に配置された金属製の棒状部材が埋設されている。この棒状部材を構成する金属の種類は、限定されないが、例えばチタン合金が挙げられる。
【0063】
実装基板21は、第1の筐体11の内部に振動子23とともに収容されている。実装基板21には、上述した無線通信インターフェースや、電池22を充電するための充電モジュールや、後述するタッチセンサ25などが実装されている。
【0064】
電池22は、繰り返し充電及び放電が可能なように構成された二次電池である。電池22として用いる二次電池の態様は限定されないが、リチウムイオン電池であることが好ましい。また、本実施形態において電池22は、第2の筐体13に収容されている。ただし、電池22の容量及びサイズによっては、電池22を第1の筐体11に収容する構成を採用してもよい。この場合、つる12は、省略することもできる。電池22を第1の筐体11に収容する場合でも骨伝導イヤホン1Rがつる12を備えていることによって、耳介ERにセットされた骨伝導イヤホン1Rを安定させることができる。
【0065】
充電ポート24は、電池22を充電するための電力が供給される充電ポートであり、当該電極を充電モジュールに給電する。充電モジュールは、充電ポート24から給電された電力を用いて電池22を充電する。したがって、つる12の内部には、上述した金属製の棒状部材に加えて配線が埋設されている。
【0066】
タッチセンサ25は、骨伝導イヤホン1Rが再生する音の音量を制御したり、音の再生を始めたり止めたりするためのスイッチである。
【0067】
また、
図2の背面図に図示されている「R」の文字は、骨伝導イヤホン1Rが右耳用の骨伝導イヤホンであることを表す目印である。同様に、骨伝導イヤホン1Lには、左耳用の骨伝導イヤホンであることを表す「L」の文字が設けられている。
【0068】
なお、骨伝導イヤホン1Rは、上述した構成に加えて、マイクロフォンを備えていてもよい。マイクロフォンを備えていることにより、電話やWeb会議において用いる送受話器として骨伝導イヤホン1Rを利用することができる。また、マイクロフォンは、第1の筐体11に内蔵されていてもよいし、第1の筐体11の外部に、別途アームなどを介して取り付けられていてもよい。
【0069】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1R,1L 骨伝導イヤホン
11 第1の筐体(筐体)
12 つる
13 第2の筐体
14 支柱
15 振動伝達部
151 貫通孔
16 イヤーループ(環状部材)
21 実装基板
22 電池
23 振動子
24 充電ポート
25 タッチセンサ
ER 耳介
E1 耳輪
E2 耳垂
E3 耳甲介腔
E4 三角窩
R1 前側領域
【要約】
【課題】オープンイヤー型の骨伝導イヤホンにおいて、挟み込む力に起因する痛みや圧迫感などを低減すること。
【解決手段】骨伝導イヤホン(1R)は、振動子(23)と、耳甲介腔(E3)にセットされる振動伝達部(15)であって、耳甲介腔(E3)にセットされた場合に耳甲介腔(E3)の外部と内部とを連通する貫通孔(151)が設けられている振動伝達部(15)と、を備えている。
【選択図】
図1