(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】焼成用セッター
(51)【国際特許分類】
F27D 3/12 20060101AFI20241213BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20241213BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241213BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241213BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241213BHJP
C04B 35/569 20060101ALI20241213BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20241213BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20241213BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
F27D3/12 S
B05D1/26 A
B05D3/00 D
B05D3/00 F
B05D7/00 C
B05D7/24 301E
C04B35/569
C04B35/64
C04B41/87 R
C04B41/89 K
(21)【出願番号】P 2023109562
(22)【出願日】2023-07-03
(62)【分割の表示】P 2022546181の分割
【原出願日】2021-08-04
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2020150061
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】抜水 一輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 雅之
(72)【発明者】
【氏名】二本松 浩明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 好正
(72)【発明者】
【氏名】中山 奈央
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特許第7352747(JP,B2)
【文献】特開2019-120467(JP,A)
【文献】特開2005-255491(JP,A)
【文献】特開2011-046562(JP,A)
【文献】特開2018-138498(JP,A)
【文献】特開2000-109370(JP,A)
【文献】特開2005-008483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/12
B05D 1/26
B05D 3/00
B05D 7/00
B05D 7/24
C04B 35/569
C04B 35/64
C04B 41/87
C04B 41/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス質の基材と、
基材表面を被覆しており、被膜厚みが1μm以上20μm以下であり、表面粗さRaが1μm以下である被膜層と、を有し、
被膜層の厚みばらつきが、被膜厚みの40%以下であるとともに、被膜厚みの±3μmである焼成用セッター。
【請求項2】
被膜層が、基材表面を被覆している複数の被膜片を含んでおり、
各被膜片の間に、5μm以上50μm以下の隙間が設けられている請求項1に記載の焼成用セッター。
【請求項3】
被膜片が、円形または多角形の所定形状であり、基材の表面に規則的に出現している請求項2に記載の焼成用セッター。
【請求項4】
被膜層の材料が、ZrO
2/Y
2O
3、ZrO
2/CaO、Y
2O
3、Al
2O
3、MgO、ムライト、または、それらの材料の混合物を含む請求項
1から3のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項5】
前記基材の材料が、SiC質である請求項
1から4のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項6】
被膜層が、2層以上の多層構造を有している請求項
1から5のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項7】
被膜層の気孔率が、5%以上50%以下である請求項
1から6のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項8】
セラミックス質の基材と、基材表面を被覆しているとともに被膜厚みが1μm以上20μm以下である被膜層と、を有する焼成用セッターの製造方法であって、
被膜層形成用ペーストを、被膜層の厚みばらつきが被膜厚みの40%以下であるとともに被膜厚みの±3μmとなるように前記基材の表面に印刷し、基材表面に被膜層形成用塗膜が設けられた成形体を作製する工程を有する、製造方法。
【請求項9】
セラミックス質の基材と、
基材表面を被覆しており、被膜厚みが1μm以上20μm以下であり、表面粗さRaが1μm以下である被膜層と、を有し、
被膜層が、基材表面を被覆している複数の被膜片を含んでおり、
各被膜片の間に、5μm以上50μm以下の隙間が設けられている焼成用セッター。
【請求項10】
被膜片が、円形または多角形の所定形状であり、基材の表面に規則的に出現している請求項
9に記載の焼成用セッター。
【請求項11】
各々の被膜片の表面に、第2の被膜片が設けられており、
被膜片間の間隔が、第2の被膜片間の間隔と異なる請求項
10に記載の焼成用セッター。
【請求項12】
被膜層の材料が、ZrO
2/Y
2O
3、ZrO
2/CaO、Y
2O
3、Al
2O
3、MgO、ムライト、または、それらの材料の混合物を含む請求項
9から11のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項13】
前記基材の材料が、SiC質である請求項
9から12のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項14】
被膜層が、2層以上の多層構造を有している請求項
9から13のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【請求項15】
被膜層の気孔率が、5%以上50%以下である請求項
9から14のいずれか一項に記載の焼成用セッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、焼成用セッターに関する技術を開示する。特に、基材表面に被膜層を有する焼成用セッターに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、基材表面に被膜層が設けられた焼成用セッターが開示されている。被膜層は、被焼成物と基材が反応することを抑制するために設けられる。特許文献1では、被焼成物と基材の反応を確実に抑制するため、基材表面に材質の異なる2層以上の被膜層を設けている。特許文献1では、2層以上のスプレーコーティング層、あるいは、スプレーコーティング層の表面に溶射層を設け、被膜層を形成している。また、特許文献1では、基材表面に50~1000μmの被膜層を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、基材表面に50~1000μmの被膜層を設けることにより、被焼成物と基材の反応を十分に抑制することができる。しかしながら、基材表面に50μm以上の厚い被膜層を設けると、焼成用セッターの熱容量が増大し、焼成用セッターの温度追従性が低下する。また、スプレー,溶射により50μm以上の厚い被膜層を形成しているので、被膜層の原料歩留まりがよくない(高コストである)。被膜層の厚みを薄くすれば上記課題は解決するが、その場合、被膜むらが生じることがあり、被焼成物と基材の反応を確実に抑制することができなくなることがある。すなわち、従来は、被膜層としての機能を発揮するため、熱容量が増大するにも関わらず被膜層を厚くすることを許容していた。本明細書は、被膜層の厚みが薄く、温度追従性が良好な焼成用セッターを実現する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する焼成用セッターは、セラミックス質の基材と、基材表面を被覆しており、被膜厚みが1μm以上20μm以下であり、表面粗さRaが1μm以下である被膜層とを備えていてよい。
【0006】
本明細書では、セラミックス質の基材と、基材表面を被覆しているとともに被膜厚みが1μm以上20μm以下である被膜層とを有する焼成用セッターの製造方法も開示する。その製造方法は、基材の表面に被膜層形成用ペーストを印刷し、基材表面に被膜層形成用塗膜が設けられた成形体を作製する工程を有していてよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施例の焼成用セッターの斜視図を示す。
【
図2】第1実施例の焼成用セッターの表面の拡大図を示す。
【
図3】第1実施例の焼成用セッターの断面の拡大図を示す。
【
図4】第2実施例の焼成用セッターの表面の拡大図を示す。
【
図5】第2実施例の焼成用セッターの断面の拡大図を示す。
【
図6】第3実施例の焼成用セッターの表面の拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書で開示する焼成用セッターは、基材と、基材表面を被覆している被膜層を備えている。本明細書で開示する焼成用セッターは、特に限定されないが、セラミックス製の電子部品(セラミックコンデンサ等)の製造工程(焼成工程)で好適に用いられる。焼成用セッターの形状として、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形が挙げられる。基材は、板状であり、セラミックス質である。基材の材料として、例えば、SiC質、アルミナ質、ムライト質が挙げられる。特に、SiC質は、熱伝導率が良好であり、被膜層表面(被焼成物の載置面)の面内温度が均一になりやすい。なお、SiC質の一例として、Si-SiC質が挙げられる。「Si-SiC質」とは、SiC粒子を主体とし、SiC粒子間に金属Siが含まれる材料のことを意味する。基材の厚みは、例えば、0.1~5mmであってよい。焼成用セッターにおける基材とは、被膜層によって被覆されている部分のことであり、焼成用セッターの断面を観察したときに、焼成用セッターを構成している部分(基材、被膜層)のなかで最も厚みが厚い部分のことを意味する。
【0009】
上記したように、被膜層は、基材の表面に設けられ、基材表面を被覆する。被膜層は、被膜厚み(基材表面の厚み)が1μm以上20μm以下であってよい。また、被膜層は、単層であってもよいし、複数の層が積層された多層構造であってもよい。被膜層が多層構造の場合、各層の材料を変化させ、例えば、熱膨張率差に起因する被膜層の劣化を抑制することができる。また、被膜層が多層構造の場合、複数の層の合計の厚みが上記した1μm以上20μm以下であってよい。被膜層の合計厚みが1μm以上であれば、基材と被焼成物が接触することを抑制することができ、基材と被焼成物が反応することを防止することができる。また、被膜層の合計厚みが20μm以下であれば、被膜層の熱容量が低減し、被膜層の表層温度(被焼成物が接する部分の温度)が基材温度からずれることを抑制することができる。換言すると、被膜層の合計厚みが20μm以下であれば、温度追従性の良好な焼成用セッターを実現することができる。また、被膜厚みが1μm以上20μm以下であれば、高い熱伝導率を有するSiC質基材を用いた場合、SiCと比較して熱伝導率が低い酸化物の被膜層による熱伝導性の低下の影響を良好に抑制することが可能である。
【0010】
被膜層の厚み(合計厚み)は、走査型顕微鏡(SEM)を用いて焼成用セッターの断面(表面近傍の断面)のSEM画像を取得し、その断面SEM画像における被膜層の膜厚を5箇所測定し、測定値の平均を算出することによって得ることができる。なお、被膜層の合計厚みは、2μm以上であってもよく、4μm以上であってもよく、6μm以上であってもよく、8μm以上であってもよく、10μm以上であってもよく、12μm以上であってもよい。また、被膜層の合計厚みは、18μm以下であってもよく、16μm以下であってもよく、14μm以下であってもよく、12μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。
【0011】
被膜層は、表面粗さRaが1μm以下であってよい。表面粗さRaが1μm以下であれば、被膜層の厚みが薄くても、基材表面の被膜むらを抑制することができる。このような薄膜で表面粗さが小さい被膜層は、例えば、スクリーン印刷等の印刷技術を用いて作製することができる。具体的には、被膜層は、被膜層を形成するための原料粒子を有機溶媒と混合して被膜層形成用ペーストを作製し、被膜層形成用ペーストを基材表面に印刷して成形体(中間成形体)を作製した後、成形体を焼成することによって作製することができる。印刷技術を用いて被膜層を作製する場合、原料サイズ(粒径)の自由度が高くなる。そのため、印刷法では、スプレー,溶射等では使用が困難な微粒の原料を用いることができる。微粒の原料を用いて被膜層を形成することにより、薄膜で、表面粗さの小さい被膜層を形成することができる。被膜層の表面粗さRaは、0.5μm以下であってもよく、0.2μm以下であってもよい。また、表面粗さRaの下限値は、特に限定されないが、0.05μm以上であってよい。なお、被膜層の表面粗さRaは、触針式による接触法によって測定することができる。
【0012】
被膜層は、厚みばらつき(多層構造の場合、合計厚みのばらつき)が、被膜厚みの40%以下であるとともに被膜厚みの±3μmであってよい。例えば、被膜層の被膜厚みが1μmの場合、実質的に「被膜厚みの40%以下」という条件が適用され、被膜層の厚みは1±0.4μmであってよい。また、被膜層の被膜厚みが20μmの場合、実質的に「被膜厚みの±3μm」という条件が適用され、被膜層の厚みは20±3μmであってよい。なお、被膜層の厚みばらつきは、被膜層をランダムに10箇所選択して断面(表面近傍の断面)のSEM画像を取得し、各画像について最大被膜厚み及び最小被膜厚みを測定し、各画像において被膜厚みに対する最大被膜厚み及び最小被膜厚みの比率を算出することにより得ることができる。
【0013】
被膜層は、基材表面全体を隙間なく被覆していてもよいし、基材表面の一部を露出させた状態で基材表面を被覆していてもよい。具体的には、被膜層が、基材表面を被覆している複数の被膜片を含み、各被膜片の間に隙間が設けられていてよい。各被膜片間の隙間は、5μm以上50μm以下であってよい。被膜片間の隙間が5μm以上であれば、被膜層(被膜片)と基材の熱膨張率差に起因する力が被膜層に加わることを抑制することができる。その結果、被膜層の損傷が抑制され、被膜層の耐久性が向上する。被膜片間の隙間が50μm以下であれば、被焼成物と基材が接触することが防止され、被焼成物と基材が反応することが抑制される。各被膜片間の隙間は、10μm以上であってよく、15μm以上であってよく、20μm以上であってよく、25μm以上であってよく、30μm以上であってよく、35μm以上であってよく、40μm以上であってもよい。また、各被膜片間の隙間は、45μm以下であってよく、40μm以下であってよく、35μm以下であってよく、30μm以下であってよく、25μm以下であってよく、20μm以下であってよく、15μm以下であってもよい。なお、被膜片間の隙間は、SEM観察用試料(表面近傍の断面を観察するための試料)を250μm×200μmの範囲から複数個所選択して断面(表面近傍の断面)のSEM画像を取得し、得られた画像から10箇所の隙間を選択して測定し、測定値の平均を算出することによって得ることができる。
【0014】
上述した印刷法を用いることにより、基材表面に、被膜片間に隙間が設けられている被膜層を形成することができる。また、印刷法を用いることにより、基材表面に任意の形状の被膜片を形成することができ、幾何学模様の被膜片を形成することができる。被膜片の形状は、特に限定されないが、円形、多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)であってよい。さらに、印刷法を用いることにより、基材表面の任意の位置に被膜片を形成することができる。但し、被焼成物を均一に加熱するという観点より、被膜片は、基材の表面に規則的に出現していることが好ましい。例えば、基材表面に各被膜片を等間隔に形成し、各被膜片間の隙間を均一にしてもよい。
【0015】
上述したように、被膜層は、複数の層が積層された多層構造であってよい。この場合、基材表面に設けられている被膜片(第1被膜片)の表面に、さらに被膜片(第2被膜片)が設けられていてもよい。多層構造でありながら、被膜片間に隙間が設けられた被膜層を得ることができる。この場合、第1被膜片間の間隔(隙間のサイズ)と、第2被膜片間の間隔が異なっていてもよい。例えば、第2被膜片間の間隔が、第1被膜片間の間隔より大きくてよい。基材成分が被膜層(被膜片)に移動することを抑制しながら、被膜層(第2被膜層)と被焼成物の接触面積を小さくすることができる。第1被膜片間の間隔と第2被膜片間の間隔が異なるような被膜層も、印刷法を用いることにより容易に作製することができる。なお、第2被膜片の表面に、さらに、第3,第4,・・・第n被膜片が設けられていてもよい。
【0016】
被膜層の材料は、基材材料、被焼成物の種類によって適宜選択することができる。例えば、被膜層(被膜片)の材料は、ZrO2/Y2O3(Y2O3安定化ZrO2)、ZrO2/CaO(CaO安定化ZrO2)、Y2O3、Al2O3、MgO、ムライト等、または、それらの材料の混合物であってよい。なお、被膜層が多層構造である場合、例えば、第1被膜層(被膜片)がムライトであり、第2被膜層(被膜片)がZrO2/Y2O3といったように、各層で材料が異なっていてもよい。
【0017】
被膜層の気孔率は、5%以上50%以下であってよい。気孔率が5%以上であれば、焼成の際に被焼成物から生じたガスが被膜層を通過し、被焼成物と被膜層の間にガスが滞留することを抑制することができる。気孔率が50%以下であれば、被膜層の強度が維持され、焼成用セッターの耐久性が向上する。被膜層の気孔率は、10%以上であってよく、15%以上であってよく、20%以上であってよく、25%以上であってよく、30%以上であってよく、35%以上であってもよい。また、被膜層の気孔率は、45%以下であってよく、40%以下であってよく、35%以下であってよく、30%以下であってよく、25%以下であってよく、20%以下であってよく、15%以下であってもよい。なお、被膜層の気孔率は、JIS R2205-1992に準拠して測定することができる。
【実施例】
【0018】
(第1実施例)
図1から
図3を参照し、焼成用セッター10について説明する。
図1に示すように、焼成用セッター10は、平板状であり、SiC質の基材2と、基材2の表面に設けられている被膜層4を備えている。なお、被膜層4は、2層構造であり、基材2の表面に設けられている中間層6と、中間層6の表面に設けられている表層8を備えている。中間層6と表層8の詳細については後述する。
【0019】
図2及び
図3に示すように、中間層6は、基材2の表面全体を被覆している。中間層6の材料は、ムライトである。中間層6は、印刷法により基材2の表面に形成されており、厚みT6はおよそ1μmである。中間層6の表面に、表層8が設けられている。表層8の材料は、イットリアである。表層8は、複数の被膜片8aによって構成されている。被膜片8aは、四角形であり、各被膜片8a間の隙間G8はおよそ10μmである。表層8(被膜片8a)は、印刷法により中間層6の表面に形成されており、厚みT8はおよそ1μmである。また、被膜層4の表面(表層8の表面)の表面粗さRaは1μm以下に抑制されている。
【0020】
焼成用セッター10は、被膜層4(中間層6,表層8)を印刷法で形成しているので、厚みが薄く、表面粗さRaの小さい被膜層4を容易に実現することができる。被膜層4の厚みを薄くすることにより、被膜層4の熱容量が小さくなり、焼成の際、焼成用セッター10の面内における温度ばらつきが抑制され、焼成用セッター10の温度追従性が向上する。また、表層8が、複数の被膜片8aを有しており、各被膜片8a間に隙間が設けられているので、基材2と被膜層4の熱膨張率差に起因する力が被膜層4に加わることが抑制され、被膜層4の損傷が抑制される。
【0021】
以下、焼成用セッター10の変形例(第2~第3実施例)について説明する。以下に説明する焼成用セッター10a,10bにおいて、焼成用セッター10と共通する特徴については、焼成用セッター10と同一の参照番号を付すことにより、説明を省略することがある。
【0022】
(第2実施例)
図4及び
図5を参照し、焼成用セッター10aについて説明する。焼成用セッター10aでは、被膜層4は3層構造であり、基材2の表面に設けられている中間層6と、中間層の表面に設けられている表層8と、表層8の表面に設けられている最表層9を備えている。中間層6の材料はムライトであり、表層8及び最表層9の材料はイットリアである。最表層9は、複数の被膜片9aによって構成されている。被膜片9aは四角形であり、1個の被膜片9aが1個の被膜片8aの表面に設けられている。被膜片9aのサイズは、被膜片8aのサイズより小さい。そのため、各被膜片9a間の隙間G9は、各被膜片8a間の隙間G8より大きい。具体的には、隙間G9はおよそ20μmである。なお、最表層9(被膜片9a)の厚みはおよそ1μmである。
【0023】
図5に示すように、焼成用セッター10aに被焼成物20を載置すると、被焼成物20は最表層9に接触する。上記したように、被膜片9aのサイズは被膜片8aのサイズより小さい。そのため、焼成用セッター10aは、焼成用セッター10と比較して、被焼成物20と被膜層4の接触面積を小さくすることができる。被焼成物20と被膜層4の接触面積を小さくすることにより、焼成の際に被焼成物から生じたガスが被焼成物20の周囲に滞留することが抑制され、被焼成物に焼成ムラが生じることを抑制することができる。
【0024】
(第3実施例)
図6を参照し、焼成用セッター10bについて説明する。焼成用セッター10bでは、被膜層4は2層構造である。被膜層4は、基材(
図1を参照)の表面全体を被覆している中間層6と、中間層6の表面に設けられている表層8を備えている。表層8は、複数の円形の被膜片8aによって構成されている。各被膜片8a間の隙間(最短距離)G8はおよそ10μmである。すなわち、焼成用セッター10bは、表層8を構成する被膜片8aの形状が焼成用セッター10と異なる。
【0025】
(他の実施形態)
上記実施例では、表層8及び最表層9の形状が四角形(第1,第2実施例)及び円形(第3実施例)である焼成用セッターを例示したが、表層8(最表層9)の形状は三角形、五角形、六角形等の多角形であってもよい。あるいは、表層8(最表層9)は、中間層6の表面全体を被覆していてもよい。すなわち、表層8(最表層9)は、被膜片によって形成されていなくてもよい。また、第3実施例の焼成用セッター10bにおいて、第2実施例の焼成用セッター10aと同様に、表層8の表面に、さらに最表層9を設けてもよい。なお、表層8の表面に最表層9を設ける場合、表層8の被膜片8aの形状と最表層9の被膜片9aの形状は異なっていてもよい。また、中間層6の表面に、3層以上の表層が設けられていてもよい。
【0026】
上記実施例では、基材2の表面に中間層6を設ける形態について説明したが、中間層6は省略してもよい。中間層6を省略する場合、表層8(最表層9)は、基材2の表面全体を被覆していてもよいし、複数の被膜片によって形成されていてもよい。
【0027】
(実験例)
被膜層4の形態が異なる焼成用セッター10(試料1~試料4)を作製し、焼成用セッター10の昇温・降温時の面内温度ばらつきについて評価した。
図7に、各試料の特徴について示す。まず、試料1~試料4の製造方法について説明する。
【0028】
試料1は、まず、粒径(D50)0.5μmのムライト粒子と有機溶媒を混合し、ムライトペースト(被膜層形成用ペースト)を作製した。次に、ムライトペーストを150mm×150mm×1mmのSiC基材の全面に厚さ1μmで印刷し、1300℃で2時間焼成することにより、SiC基材の表面にムライト層(中間層)を作製した。その後、粒径(D50)0.5μmのイットリア粒子と有機溶媒を混合し、イットリアペーストを作製した。その後、イットリアペーストをムライト層の表面に厚さ1μmで印刷し、1350℃で2時間焼成することにより、ムライト層の表面にイットリア層(表層)を作製した。これにより、SiC基材の表面に2μmの被膜層(ムライト層1μm、イットリア層1μm)を有する試料1が得られた。なお、イットリア層は、ムライト層の表面全体に印刷せず、複数の四角形の被膜片を、隣り合う被膜片間の隙間が10μmとなるように印刷した。得られた試料の表面粗さは、0.5μmであった。
【0029】
試料2は、ムライト層の厚みが5μm、イットリア層の厚みが5μmであることを除き、試料1と同一の原料及び製造方法で作製した。試料2の表面粗さは0.2μmであった。
【0030】
試料3は、粒径(D50)70μmのムライト粒子をSiC基材の全面に溶射し、SiC基材の表面に50μmのムライト層を作製した。その後、粒径(D50)20μmのイットリア粒子をムライト層の全面に溶射し、ムライト層の表面に50μmのイットリア層(表層)を作製した。得られた試料の表面粗さは、5μmであった。
【0031】
試料4は、試料1(試料2)を作製する際に用いたムライト粒子を、試料3と同様にSiC基材の全面に溶射し、その後、試料1(試料2)を作製する際に用いたイットリア粒子を、ムライト層の全面に溶射して作製した。しかしながら、試料4は、SiC基材の表面に粒子(ムライト粒子,イットリア粒子)が十分に付着せず、安定した被膜層を得ることができなかった。上記したように、試料1及び試料2で用いた粒子は、粒径(D50)が0.5μmと小さく、粒子が軽すぎるため塗工面(SiC基材の表面)から弾かれるので、SiC基材の表面に粒子が十分に付着できなかったと推測される。
【0032】
上述したように、試料4は、安定した被膜層が得られなかった。そのため、試料1~3について、加熱・冷却試験を行い、焼成用セッター10の昇温・降温時の面内温度ばらつきについて評価した。加熱・冷却試験は、各試料を加熱炉内に配置し、炉内温度を室温から1200℃まで600℃/分で昇温させ、炉内温度が1200℃のときの焼成用セッター10の両端部の温度差を測定した。また、炉内温度を1200℃から室温まで600℃/分で降温させ、炉内温度が室温に達したときの焼成用セッター10の両端部の温度差を測定した。
図7に結果を示す。
【0033】
図7に示すように、被膜層の厚みが薄い(20μm以下)試料1及び2は、昇温時及び降温時ともに、焼成用セッター10の面内温度ばらつきが小さいことが確認された(昇温時:温度差15℃未満、降温時:温度差10℃未満)。それに対し、被膜層の厚みが厚い(20μm超)試料3は、昇温時及び降温時ともに、焼成用セッター10の面内温度ばらつきが大きいことが確認された(昇温時:温度差15℃以上、降温時:温度差10℃以上)。この結果は、試料1及び2は、試料3と比較して被膜層の厚みが薄いため、被膜層の熱容量が小さく、被膜層の温度が炉内温度に良好に追従したことを示している。なお、試料1及び2の表面粗さRaは、試料3の表面粗さRaより小さい。この結果は、使用した原料粒子の粒径の相違を反映している。すなわち、試料1及び2は、原料粒子の粒径が小さいため、被膜層の表面粗さRaが小さい(1μm以下)。換言すると、被膜層の表面粗さRaが1μm以下になるような粒径の原料を用いて被膜層を形成することにより、被膜層の厚みを薄くすることができる。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0035】
2:基材
4:被膜層
10:焼成用セッター