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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】多層チューブ
(51)【国際特許分類】
   B32B 1/08 20060101AFI20241213BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20241213BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241213BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20241213BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B32B1/08 B
B32B27/28 102
B32B27/30 D
F16L11/04
B41J2/175 503
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023132685
(22)【出願日】2023-08-16
【審査請求日】2024-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日置 友哉
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/059243(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/261301(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/125233(WO,A1)
【文献】特開2024-25141(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186111(WO,A1)
【文献】特開2021-94857(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021422(WO,A1)
【文献】国際公開第02/092643(WO,A1)
【文献】特開2006-29574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B41J2/01
2/165-2/20
2/21-2/215
F16L9/00-11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に複数の層が積層された中空のチューブであって、
前記複数の層は、
変性された接着性フッ素樹脂で形成された内周側の第1層と、
アセトアセチル基で変性されたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂で前記第1層の外周に形成されたガスバリア性を有する第2層と、
酸性官能基で変性された変性ポリオレフィン樹脂で前記第2層の外周に形成された第3層と
を備え、
前記第1層、前記第2層、及び前記第3層を含む前記チューブの全体の肉厚に対する、前記第2層の肉厚の比が、6/10以上である
多層チューブ。
【請求項2】
前記第1層、前記第2層、及び前記第3層を含む前記チューブの全体の肉厚に対する、前記第2層の肉厚の比が、7/10以上である
請求項1に記載の多層チューブ。
【請求項3】
前記第1層、前記第2層、及び前記第3層を含む前記チューブの全体の肉厚に対する、前記第2層の肉厚の比が、8/10以上である
請求項1に記載の多層チューブ。
【請求項4】
前記アセトアセチル基で変性されたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂は、下記式(1)で表されるビニルアルコール単位、下記式(2)で表されるアセト酢酸ビニル単位、及び下記式(3)で表されるエチレン単位を含む
請求項1に記載の多層チューブ。
【化4】
【請求項5】
前記変性された接着性フッ素樹脂は、変性されたエチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂である
請求項1~4のいずれか1項に記載の多層チューブ。
【請求項6】
前記変性ポリオレフィン樹脂は、変性ポリプロピレン樹脂である
請求項1~4のいずれか1項に記載の多層チューブ。
【請求項7】
前記変性された接着性フッ素樹脂は、変性されたエチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂であり、前記変性ポリオレフィン樹脂は、変性ポリプロピレン樹脂である
請求項1~4のいずれか1項に記載の多層チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層チューブは、例えばインク供給用チューブとして用いられる。多層チューブ外部の大気が多層チューブ肉厚を透過して多層チューブ内部のインクまで到達すると、インクの性質や塗布精度に影響を与えることが知られている。このため、インク供給用チューブとして用いられる多層チューブにおいて、ガスバリア性は重要な因子である。ガスバリア性を確保するために、多層チューブを構成する材料として例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体(以下EVOHとも称する)が用いられる。
【0003】
特許文献1には、熱可塑性樹脂及び帯電防止剤で構成された帯電防止層と、ガスバリア性樹脂で構成されたガスバリア層とを含む複数の層で構成され、ガスバリア性樹脂がエチレン・酢酸ビニル共重合体のけん化物である、多層チューブが開示されている。
【0004】
特許文献2には、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂等から構成された内層と、ポリアミド樹脂から構成された第1中間層と、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂で構成された第2中間層と、ポリオレフィン樹脂で構成された第3中間層と、熱可塑性樹脂又はエラストマーで構成された外層とを有するインク供給用チューブが開示されている。
【0005】
特許文献3には、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂で形成された第1層と、変性されたエチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂で形成された第2層と、ポリアミド樹脂等で形成された第3層と、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂で形成された第4層と、変性ポリプロピレン樹脂で形成された第5層とを有するインク供給用チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-160899号公報
【文献】国際公開第2016/186111号
【文献】特開2021-94857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
EVOHは他のチューブ用樹脂材料と比較して非常に硬い特性を有しているので、上記のガスバリア性を高めるためにEVOHが用いられたチューブも硬く、このため、キンク点半径が大きく、屈曲耐久性が低くなってしまう。チューブの屈曲耐久性が低いと、チューブが可動配管等の繰り返し連続して屈曲する部分に用いられた場合に、屈曲によりクラックが入りやすくなるという問題がある。チューブにクラックが入るとチューブのガスバリア性は低下する。特にインクジェットプリンタでは印刷速度の高速化が進んでおり、インクジェットプリンタに用いられるインク供給用チューブには、高い屈曲耐久性が求められている。
【0008】
本発明は、キンク点半径が小さく、屈曲耐久性が高められた多層チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る多層チューブは、厚さ方向に複数の層が積層された中空のチューブであって、前記複数の層は、変性された接着性フッ素樹脂で形成された内周側の第1層と、アセトアセチル基で変性されたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂で前記第1層の外周に形成されたガスバリア性を有する第2層と、酸性官能基で変性された変性ポリオレフィン樹脂で前記第2層の外周に形成された第3層とを備え、前記第1層、前記第2層、及び前記第3層を含む前記チューブの全体の肉厚に対する、前記第2層の肉厚の比が、6/10以上である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キンク点半径が小さく、屈曲耐久性が高められた多層チューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るインク供給用チューブの一部を除去した斜視図である。
図2】曲げ剛さ試験装置の概略構成を示す図である。
図3】曲げ剛さ試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
(多層チューブ10の構成)
図1は、本実施形態に係る3層構造からなる多層チューブ10を示す。多層チューブ10は中空の構造である。多層チューブ10は、内周側から順に、第1層11、第2層12、及び第3層13を備える。第1層11は最も内周側に配置され、第2層12は第1層11の外周に形成され、第3層13は第2層12の外周に形成されている。
【0014】
第1層11は、変性された接着性フッ素樹脂である。第1層11を形成する変性された接着性フッ素樹脂は、公知のものを使用でき、エチレン(以下、「E」とも記す。)単位とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)単位とを有する共重合体(以下、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体とも称し、「ETFE」とも記す。)、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位とを有する共重合体、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン単位とを有する共重合体、フッ化ビニリデン単位を有する重合体等のホモポリマー又はコポリマーの少なくとも末端又は側鎖に、1種又は2種以上の接着性官能基が導入されたものである。接着性官能基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物残基、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、加水分解性シリル基、シアノ基、炭素-炭素二重結合、スルホン酸基、及びエーテル基が例示される。
【0015】
上記の変性された接着性フッ素樹脂は、耐薬品性に優れ、吸水率も低いため、ガスバリア層の保護材として最適であり、ガスバリア層のガスバリア性能の低下も防止できる。なかでも変性ETFEは、耐薬品性とチューブに必要な柔らかさの理由で好ましい。
【0016】
第2層12は、アセトアセチル基で変性されたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂(以下、「変性EVOH樹脂」という)で形成されている。
【0017】
変性EVOH樹脂は、下記式(1)で表されるビニルアルコール単位、下記式(2)で表されるアセト酢酸ビニル単位、及び下記式(3)で表されるエチレン単位を含む。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
変性EVOH樹脂は、曲げ弾性率が例えば200[MPa](ISO178 23℃、50%RH、2mm/min)である。また、酸素透過係数が例えば120[cc.20μm/m.day.atm](20℃、65%RH)であり、32mol%のEVOH樹脂の0.27[cc.20μm/m.day.atm]よりは大きな値であるが、酸素についてガスバリア性を有することを示している。
【0022】
第2層12は、変性EVOH樹脂で形成されているため、ガスバリア性を有する。アセトエチレン単位の比率が高いほどEVOH樹脂の柔軟性は高く、ガスバリア性は低い。アセト酢酸ビニル単位の比率が高いほどEVOH樹脂の柔軟性は低く、ガスバリア性は高い。柔軟性とガスバリア性のバランスを考えると、好ましいエチレン組成比は20mol%以上60mol%以下である。さらに、柔軟性とガスバリア性の観点から、本実施形態におけるエチレン組成比は、29mol%以上45mol%以下であることが望ましい。
【0023】
第3層13は、変性ポリオレフィン樹脂である。変性ポリオレフィン樹脂は、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、超低密度ポリエチレン樹脂(VLDPE)等のポリエチレン樹脂、及びポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂が、酸性官能基で変性されたものであり、好ましくはカルボン酸又はその誘導体により変性されたものであり、例えばポリオレフィン樹脂に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、これらの酸の無水物又はこれらの酸のエステルを導入することによって得られる。
【0024】
第3層13を形成する変性ポリオレフィン樹脂は、酸性官能基で変性されていることによって変性EVOH樹脂と強固に接着できる。変性ポリオレフィン樹脂は、例えば変性された接着性フッ素樹脂と共押出して用いられるが、この場合には成型温度が高いことから変性ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
多層チューブ10は、第1層11、第2層12、及び第3層13を含むチューブの全体の肉厚に対する、第2層12の肉厚の比が、6/10以上である。例えば、チューブ全体の肉厚が1.0mmであるとき、第2層12の肉厚は0.6mm以上である。第1層11及び第3層13の肉厚は、合わせて0.4mm以下となる範囲内で適宜選択可能である。例えば第2層12の肉厚が0.6mmであるとき、第1層11の肉厚を0.1mm、第3層の肉厚を0.3mmとすることができる。
【0026】
好ましくは、多層チューブ10は、第1層11、第2層12、及び第3層13を含むチューブの全体の肉厚に対する、第2層12の肉厚の比が、7/10以上であり、さらに好ましくは8/10以上である。例えば、チューブ全体の肉厚が1.0mmであるとき、第2層12の肉厚は0.7mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.8mm以上である。第1層11及び第3層13の肉厚は、合わせて0.3mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2mm以下であり、この範囲内で適宜選択可能である。例えば第2層12の肉厚が0.7mmであるとき、第1層11の肉厚を0.1mm、第3層の肉厚を0.2mmとすることができる。例えば第2層12の肉厚が0.8mmであるとき、第1層11の肉厚を0.1mm、第3層の肉厚を0.1mmとすることができる。
【0027】
第2層12が、変性EVOH樹脂で構成されているので、多層チューブ10のガスバリア性を確保できる。
【0028】
第1層11が変性ETFE樹脂で形成されているので、多層チューブ10は、耐薬品性、低透湿性を有する。例えば多層チューブ10がインク供給用チューブに適用されたときは、インクの色残りを抑制することができる。
【0029】
第3層13は、酸性官能基が導入された変性ポリオレフィン樹脂で形成されているので、第2層12との接合強度を向上することができる。また、第3層13は酸性官能基が導入された変性ポリオレフィン樹脂で形成されることによって、透明性の低下を抑制する。例えば多層チューブ10がインク供給用チューブに適用されたときは、内部を流れるインクを外部からより良好に視認することができる。第3層13を変性ポリオレフィン樹脂で形成することによって、成形性を向上することができる。
【0030】
(多層チューブ10の作用・効果)
本実施形態の多層チューブ10は、第1層11、第2層12、及び第3層13を含むチューブの全体の肉厚に対する比が6/10以上の肉厚であり、変性EVOH樹脂からなる、第2層12を有している。
【0031】
第2層12を構成する変性EVOH樹脂は、EVOH樹脂よりも柔らかく、かつガスバリア性を有する。ガスバリア性を得るための第2層12に、EVOH樹脂ではなく、変性EVOH樹脂を用いているので、多層チューブ10が硬くなりすぎることがない。また、変性EVOH樹脂を用いた第2層12の肉厚を上記の範囲とすることで、多層チューブ10のガスバリア性を確保することができる。本実施形態の多層チューブ10は、ガスバリア層としてEVOH樹脂を用いた多層チューブよりも柔らかい。このため、本実施形態の多層チューブ10は、キンク点半径が小さく、屈曲耐久性が高められた多層チューブである。
【0032】
本実施形態の多層チューブ10は、水又は有機溶剤を含む液体又は気体等の流体、或いは、粉状物を搬送するための用途に使用できる。本実施形態の多層チューブ10は、第2層12によってガスバリア性を確保できるので、多層チューブ10の内部に滞留する流体等の酸化や溶媒の揮散等を抑制できる。本実施形態の多層チューブ10は、特にガスバリア性が求められるインク供給用チューブに適用できる。供給するインクは水性インク及び油性インクのいずれも適用できる。本実施形態の多層チューブ10は、キンク点半径が小さく、屈曲耐久性が高められているので、特にインクジェットプリンタのインク供給用チューブに好ましく適用でき、印刷速度の高速化が進むインクジェットプリンタに対して、交換周期の長期化や狭所配管化が可能となる。
【0033】
(多層チューブ10の製造方法)
次に上記のように構成された多層チューブ10の製造方法を説明する。例えば、多層チューブ10は、第1層11、第2層12、及び第3層13を構成する3種類の樹脂を同時に押し出して、筒状に積層して一工程で成形することができる。また、内層となる第1層11を内層押出機で形成後、この第1層11の外周面に、外層押出機で第2層12を形成し、さらに第2層12の外周面に、外層押出機で第3層13を形成することができる。
【0034】
(実施例)
次に、以上説明した実施形態の多層チューブ10の実施例と、その比較例について説明する。
【0035】
ここでは、第1層11を最内層とし、第1層の外側から第2層12、及び第3層13を共押出成形にて形成し、表1に示す構成の実施例1に係る多層チューブのサンプルを作成した。第1層11の材料としては、変性ETFE樹脂を用いた。第2層12の材料としては、変性EVOH樹脂を用いた。第3層13の材料としては、酸性官能基で変性されている変性ポリオレフィン樹脂を用いた。3層構造の多層チューブの成形は、共押出成形により3種類の樹脂を同時に押し出して行った。多層チューブのサイズは、全て外径6mm、内径4mmであり、第1層11から第3層13までの肉厚の合計は1mm(すなわち、(6mm-4mm)/2=1mm)であり、第1層11、第2層12、及び第3層13の肉厚は表1に示す構成とした。
【0036】
実施例1と同様にして、表1に示すように各層の肉厚を変更して、実施例2、実施例3、比較例4、及び比較例5に係る多層チューブのサンプルを作成した。
【0037】
第1層の材料として変性ETFE樹脂、第2層の材料としてPA612、第3層の材料としてEVOH樹脂、第4層の材料としてPA612、第5層の材料として変性ポリオレフィンを用いて、表1に示す構成の比較例1に係る多層チューブのサンプルを作成した。
【0038】
比較例2に係る多層チューブについては、表1に示す構成の市販の多層チューブを用いた。
【0039】
第1層の材料として変性ETFE樹脂、第2層の材料としてPA11及びPA12の混合物を用いて、表1に示す構成の比較例3に係る多層チューブのサンプルを作成した。
【0040】
表1に示すように、実施例1の多層チューブは、第2層が変性EVOH樹脂で形成され、第1層、第2層、及び第3層を含むチューブの全体の肉厚(1.0mm)に対する、第2層の肉厚(0.6mm)の比が、6/10である。実施例2の多層チューブは、チューブの全体の肉厚(1.0mm)に対する、第2層の肉厚(0.7mm)の比が、7/10である。実施例3の多層チューブは、チューブの全体の肉厚(1.0mm)に対する、第2層の肉厚(0.8mm)の比が、8/10である。比較例1~比較例3の多層チューブは、変性EVOH樹脂で形成された層を有していない。比較例4~比較例5の多層チューブは、第2層が変性EVOH樹脂で形成されているが、チューブの全体の肉厚(1.0mm)に対する、第2層の肉厚の比は6/10より小さい。
【0041】
【表1】
【0042】
上記の表1に示す構成の実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例5の合計8種類の多層チューブについて、曲げ剛さ、ガスバリア性、屈曲耐久性、及び透明性について評価した。これらの評価の結果について、表2に示して説明する。
【0043】
(曲げ剛さ試験)
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例5の多層チューブのサンプルについて、曲げ剛さ試験を行った。曲げ剛さ試験は、図2に示す曲げ剛さ試験装置31を用いて行った。まず各多層チューブのサンプルを恒温恒湿室(23℃、50%RH)で24時間以上静置させた後、曲げ剛さ試験装置31に取り付けた。なお、多層チューブは、長さ(mm)=π(R+OD/2)+(2×OD)で求めた長さに切断した。ここで、R:試験開始時のチューブ曲げ半径(mm)、OD:チューブ外径(mm)であり、本試験では336mmとした。レール上に設けられた可動部33を100mm/分の速度で固定部32に向かって移動させることにより、多層チューブ10を徐々に曲げていき、曲げ荷重(N)に対する曲げ半径(mm)を調べた。
【0044】
図3は曲げ剛さ試験結果を示す図である。縦軸は曲げ荷重(N)、横軸は曲げ半径(mm)を示す。実施例1は点x、実施例2はグラフa、実施例3はグラフb、比較例1はグラフc、比較例2はグラフd、比較例3はグラフe、比較例4はグラフf、比較例5はグラフgで示す。
【0045】
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例5の多層チューブのキンク点半径を調べた。キンク点半径は、多層チューブ10にキンクが発生したときの多層チューブ10の曲げ半径である。試験数を5とし、各実施例及び比較例のキンク点半径の平均を求め、キンク点半径が、比較例1の多層チューブよりも小さい場合(11.0mm以下)は「◎」、比較例1の多層チューブと同等の場合(11.0mmより大きく13.6mm以下)は「〇」、比較例1の多層チューブより大きい場合(13.6mmより大きい)は「×」とし、結果を表2の「曲げ剛さ」の欄に記載した。
【0046】
図3において、点xは実施例1の多層チューブのキンク点半径を示す。図3中の「13.6mm(比較例1)」と示した破線は、比較例1のキンク点半径を示す。図3に示すように、実施例2~実施例3の多層チューブは、グラフのピークの曲げ半径が例えば比較例1の多層チューブより小さくなっていることが確認された。表2に示すように、実施例1~実施例3の多層チューブのキンク点半径は、比較例2の多層チューブより小さくなっていることが確認された。これらから、実施例1~実施例3の多層チューブは、比較例1及び比較例2の多層チューブより折れにくいことが確認された。
【0047】
(ガスバリア性試験)
実施例1~実施例3、比較例1、及び比較例3の多層チューブについて、ガスバリア性試験を行った。ガスバリア性試験における溶存酸素飽和率測定は、溶存酸素計((株)東興化学研究所、TD-51[ポーラログラフ方式])を用いて行った。ガスバリア性試験では、各多層チューブのサンプルに脱気したトルエン溶媒を入れて両端を密栓し、温度23℃、湿度50%の環境下で静置した後、多層チューブ内の脱気したトルエン溶媒の溶存酸素飽和率を測定することによってガスバリア性を評価した。溶存酸素飽和率の測定は、試験開始から7日後に行った。溶存酸素飽和率は、溶存酸素量が安定するまで脱気したトルエンの溶存酸素量をOmin、酸素が飽和したトルエンの溶存酸素量をOmax、ガスバリア試験での溶存酸素量をOtestとして以下の式から算出した。
溶存酸素飽和率(%)=(Otest-Omin)/(Omax-Omin)×100
トルエンの脱気は、トルエンを超音波照射下で減圧して行った。酸素が飽和したトルエンは、トルエンをエアレーションし、溶存酸素量の増加が収まり安定するまで飽和させ調製した。溶存酸素飽和率は、低いほど多層チューブのガスバリア性が高いことを示す。
【0048】
実施例1~実施例3、比較例1、及び比較例3の多層チューブについて、ガスバリア試験の開始から7日経過後の溶存酸素飽和率を表2に示した。ここで、7日経過後の溶存酸素飽和率の基準値を50%および10%と設定し、10%以下の場合は「◎」、10%より大きく50%以下の場合は「〇」、50%より大きい場合は「×」とし、結果を表2の「ガスバリア性」の欄に記載した。
【0049】
表2に示すように、実施例1~実施例3の多層チューブのガスバリア性は、比較例1の多層チューブと同等に良好であることが確認された。
【0050】
(屈曲耐久性試験)
実施例1~実施例3、比較例1、比較例2、比較例4、及び比較例5の多層チューブについて、屈曲耐久性試験を行った。屈曲耐久性試験は、実施例1~実施例3、比較例1、比較例2、比較例4、及び比較例5の各多層チューブのサンプルを屈曲耐久試験機に試料を取り付け、試験温度23℃、試料長300mm、封入液なし、屈曲時の曲率R40、屈曲速度300回/min、ストローク長140mm、の条件で屈曲を行い、クラックが発生するまでの屈曲回数を計測した。ここで、屈曲数1回は、1往復として計測した。
【0051】
実施例1~実施例3、比較例1、比較例2、比較例4、及び比較例5の多層チューブについて、クラックが発生する屈曲回数を表2に示した。ここで、クラックが発生する屈曲回数の基準値を47万回と設定し、基準値を超える場合は「〇」、基準値以下である場合は「×」とし、結果を表2の「屈曲耐久性」の欄に記載した。
【0052】
表2に示すように、実施例1~実施例3の多層チューブの屈曲耐久性は、比較例1、比較例2、比較例4、及び比較例5の多層チューブより良好であることが確認された。
【0053】
(透明性試験)
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例5の多層チューブのサンプルについて、透明性試験を行った。透明性試験は、各多層チューブのサンプルにトルエンを封入し、封入されたトルエンの液面をレベルゲージが検出可能であるか(反応するか)否かにより行った。評価にはレベルゲージ(オムロン社製、EE-SPX613)を使用し、感度Low設定で評価した。
【0054】
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例5の多層チューブについて、レベルゲージの反応の有無を表2に示した。ここで、レベルゲージの反応がある場合は「〇」、レベルゲージの反応がない場合は「×」とし、結果を表2の「透明性」の欄に記載した。
【0055】
表2に示すように、実施例1~実施例3の多層チューブの透明性は、比較例2~比較例5と同様に良好であることが確認された。
【0056】
【表2】
【0057】
以上説明したように、実施例1~実施例3の多層チューブは、曲げ剛さ、ガスバリア性、屈曲耐久性、及び透明性について、良好な結果を示した。比較例1の多層チューブは、曲げ剛さ及びガスバリア性は良好であったが、屈曲耐久性及び透明性は良好ではなかった。比較例2の多層チューブは、透明性は良好であったが、曲げ剛さ及び屈曲耐久性は良好ではなかった。比較例3の多層チューブは、曲げ剛さ及び透明性は良好であったが、ガスバリア性は良好ではなかった。比較例4の多層チューブは、透明性は良好であったが、曲げ剛さ及び屈曲耐久性は良好ではなかった。比較例5の多層チューブは、透明性は良好であったが、曲げ剛さ及び屈曲耐久性は良好ではなかった。このことから、実施例1~実施例3の多層チューブは、比較例1~比較例5の多層チューブよりも総合的に高く評価されるものといえる。
【0058】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。第1層11の内周側に、変性されていないエチレン・テトラフルオロエチレン共重合樹脂で形成された最内周層をさらに有してもよい。第1層11と第2層12の間にポリアミド等から形成された中間層をさらに有してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 多層チューブ
11 第1層
12 第2層
13 第3層
31 曲げ剛さ試験装置
32 固定部
33 可動部
【要約】
【課題】キンク点半径が小さく、屈曲耐久性が高められた多層チューブを提供する。
【解決手段】多層チューブ10は、厚さ方向に複数の層が積層された中空のチューブであって、複数の層は、変性された接着性フッ素樹脂で形成された内周側の第1層11と、アセトアセチル基で変性されたエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂で第1層11の外周に形成されたガスバリア性を有する第2層12と、酸性官能基で変性された変性ポリオレフィン樹脂で第2層12の外周に形成された第3層13とを備え、第1層11、第2層12、及び第3層13を含むチューブの全体の肉厚に対する、第2層12の肉厚の比が、6/10以上である。
【選択図】図1


図1
図2
図3