(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】燃料電池システムの運転方法、及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0432 20160101AFI20241213BHJP
H01M 8/04303 20160101ALI20241213BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20241213BHJP
B60L 58/30 20190101ALI20241213BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241213BHJP
【FI】
H01M8/0432
H01M8/04303
H01M8/04746
B60L58/30
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2023199820
(22)【出願日】2023-11-27
(62)【分割の表示】P 2020062583の分割
【原出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】小岩 信基
(72)【発明者】
【氏名】沼田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】小河 純平
(72)【発明者】
【氏名】吉村 祐哉
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-091885(JP,A)
【文献】特開2018-160311(JP,A)
【文献】特開2008-218242(JP,A)
【文献】特開2011-048948(JP,A)
【文献】特開2012-185997(JP,A)
【文献】国際公開第2011/010365(WO,A1)
【文献】特許第7394003(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
B60L 50/50 - 50/75
B60L 58/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給路と、
前記燃料電池スタックから排出される燃料オフガスを前記燃料電池スタックに循環させる循環経路と、
前記循環経路から前記燃料オフガスを排出するパージ弁と、
前記パージ弁の周辺環境の温度を検出する温度センサと、を備え、車両に搭載される燃料電池システムの運転方法であって、
前記車両のイグニッションオフによる前記車両の駆動停止状態において、前記温度センサが検出した前記温度が所定温度以下に低下したか否かを判定する判定工程と、
前記温度が前記所定温度以下の場合に、前記駆動停止状態において、前記燃料ガス供給路を介して前記燃料ガスを供給しながら、前記パージ弁の開閉を複数回間欠的に行うパージ弁掃気処理工程と、
を含
み、
前記循環経路は、前記燃料電池スタックから排出される前記燃料オフガスに含まれる液体と気体を分離する気液分離器を備え、
前記気液分離器には、分離した前記液体を排出するドレイン路が接続されると共に、前記ドレイン路は、当該ドレイン路を開閉するドレイン弁を備え、
前記パージ弁掃気処理工程では前記ドレイン弁を閉弁し、
前記パージ弁掃気処理工程後に、前記ドレイン弁を開弁して前記液体を排出するドレイン排水処理工程を行う
燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムの運転方法において、
前記燃料電池スタックに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給路と、
前記燃料電池スタックから排出される酸化剤オフガスが流通すると共に、前記パージ弁から排出された流体が流通するパージ路が接続された酸化剤ガス排出路と、
前記酸化剤ガス供給路と前記酸化剤ガス排出路の間を接続し、前記酸化剤ガス供給路の前記酸化剤ガスを前記酸化剤ガス排出路に直接流通させる酸化剤ガスバイパス路と、
前記酸化剤ガスバイパス路が接続される箇所と前記燃料電池スタックの間の前記酸化剤ガス排出路に設けられ、当該酸化剤ガス排出路を開閉する排圧弁と、を備え、
前記パージ弁掃気処理工程では、前記排圧弁を閉弁状態とし、前記酸化剤ガスバイパス路を介して前記酸化剤ガス排出路に前記酸化剤ガスを流通させて、前記パージ弁から排出される前記燃料ガスを希釈する
燃料電池システムの運転方法。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムの運転方法において、
前記酸化剤ガス供給路には、前記酸化剤ガスを前記燃料電池スタックに供給するコンプレッサが設けられ、
前記パージ弁掃気処理工程後に、前記コンプレッサを回転させつつ前記排圧弁を開弁状態とすることで、前記酸化剤ガス供給路を通して前記燃料電池スタックに前記酸化剤ガスを供給して前記燃料電池スタック内の水分量を減らすカソード掃気処理工程を行う
燃料電池システムの運転方法。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムの運転方法において、
前記パージ弁掃気処理工程における前記コンプレッサの回転数は、前記カソード掃気処理工程における前記コンプレッサの回転数よりも大きい
燃料電池システムの運転方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の燃料電池システムの運転方法において、
前記パージ弁掃気処理工程の実施前に、前記コンプレッサを回転させて前記酸化剤ガスを前記酸化剤ガス排出路に流通させる酸化剤ガス経路希釈処理工程を実施する
燃料電池システムの運転方法。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載の燃料電池システムの運転方法において、
前記酸化剤ガスバイパス路の流量を調整するための流量調整弁を当該酸化剤ガスバイパス路に備え、
前記パージ弁掃気処理工程では、前記流量調整弁を開弁する一方で、
前記カソード掃気処理工程では、前記流量調整弁を閉弁する
燃料電池システムの運転方法。
【請求項7】
請求項
1に記載の燃料電池システムの運転方法において、
前記ドレイン排水処理工程では、前記循環経路の前記燃料ガスの圧力を、前記パージ弁掃気処理工程時における前記循環経路の前記燃料ガスの圧力よりも低下させる
燃料電池システムの運転方法。
【請求項8】
車両に搭載される燃料電池システムであって、
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給路と、
前記燃料電池スタックから排出される燃料オフガスを前記燃料電池スタックに循環させる循環経路と、
前記循環経路から前記燃料オフガスを排出するパージ弁と、
前記パージ弁の周辺環境の温度を検出する温度センサと、
前記車両のイグニッションオフによる前記車両の駆動停止状態において、前記温度センサが検出した前記温度が所定温度以下に低下したか否かを判定し、前記温度が前記所定温度以下の場合に、前記駆動停止状態において、前記燃料ガス供給路を介して前記燃料ガスを供給しながら、前記パージ弁の開閉を複数回間欠的に行う制御部と、
を備
え、
前記循環経路は、前記燃料電池スタックから排出される前記燃料オフガスに含まれる液体と気体を分離する気液分離器を備え、
前記気液分離器には、分離した前記液体を排出するドレイン路が接続されると共に、前記ドレイン路は、当該ドレイン路を開閉するドレイン弁を備え、
前記制御部は、前記温度が前記所定温度以下の場合に、前記駆動停止状態において前記ドレイン弁を閉弁し、前記燃料ガス供給路を介して前記燃料ガスを供給しながら、前記パージ弁の開閉を複数回間欠的に行い、
前記制御部は、前記パージ弁の閉弁後に、前記ドレイン弁を開弁して前記液体を排出する
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックに燃料ガスを供給する流路に設けられた循環経路から燃料ガスを排出するパージ弁を備えた燃料電池システムの運転方法、及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料電池スタックと、水素ガス等の燃料ガス(アノードガス)を燃料電池スタックに供給する燃料ガス系装置と、エア等の酸化剤ガス(カソードガス)を燃料電池スタックに供給する酸化剤ガス系装置とを有する。燃料電池スタックは、燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電を行う。
【0003】
また、燃料ガス系装置は、特許文献1に開示されているように、燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給路に当該燃料電池スタックから排出された燃料オフガス(燃料ガス)を循環させる循環経路と、循環経路から燃料ガスを排出するパージ路と、パージ路を開閉するパージ弁とを備える。例えば、パージ弁は、通常状態でパージ路を閉塞しており、循環経路の窒素ガス濃度が上昇する等の状態変化に応じて開放されることで、循環経路の流体を排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池システムの循環経路を流通する流体(燃料電池スタックから排出された燃料オフガス)には、燃料電池スタックの発電により生成された水蒸気が含まれる。そのため、燃料電池システムの周辺が低温環境(例えば、氷点下以下)になると水蒸気が凍結することで、パージ弁にはオリフィスの閉塞や弁本体の固着等が生じる場合がある。これによりパージ弁が開閉できなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みたものであり、低温環境になる際にパージ弁のオリフィス付近に付着した水を適切に排出することで、パージ弁の凍結を抑制可能な燃料電池システムの運転方法、及び燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給路と、前記燃料電池スタックから排出される燃料オフガスを前記燃料電池スタックに循環させる循環経路と、前記循環経路から前記燃料オフガスを排出するパージ弁と、前記パージ弁の周辺環境の温度を検出する温度センサと、を備え、車両に搭載される燃料電池システムの運転方法であって、前記車両のイグニッションオフによる前記車両の駆動停止状態において、前記温度センサが検出した前記温度が所定温度以下に低下したか否かを判定する判定工程と、前記温度が前記所定温度以下の場合に、前記駆動停止状態において、前記燃料ガス供給路を介して前記燃料ガスを供給しながら、前記パージ弁の開閉を複数回間欠的に行うパージ弁掃気処理工程と、を含む。
【0008】
本発明の第2の態様は、車両に搭載される燃料電池システムであって、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給する燃料ガス供給路と、前記燃料電池スタックから排出される燃料オフガスを前記燃料電池スタックに循環させる循環経路と、前記循環経路から前記燃料オフガスを排出するパージ弁と、前記パージ弁の周辺環境の温度を検出する温度センサと、前記車両のイグニッションオフによる前記車両の駆動停止状態において、前記温度センサが検出した前記温度が所定温度以下に低下したか否かを判定し、前記温度が前記所定温度以下の場合に、前記駆動停止状態において、前記燃料ガス供給路を介して前記燃料ガスを供給しながら、前記パージ弁の開閉を複数回間欠的に行う制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
上記の燃料電池システムの運転方法、及び燃料電池システムは、パージ弁が凍結する可能性がある低温環境で、パージ弁付近の水を適切に排出することができる。特に、パージ弁の開閉を複数回間欠的に行うことで、パージ弁よりも上流側の燃料ガス圧に脈動を与えて、循環経路に含まれる水を移動させ、パージ弁から円滑に排出することができる。従って、燃料電池システムは、パージ弁の凍結をより確実に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの全体構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】凍結抑制処理におけるECU内の機能部を示すブロック図である。
【
図3】
図3Aは、燃料電池システムの運転方法を示すフローチャートである。
図3Bは、凍結抑制処理の各処理工程の実施順を示すフローチャートである。
【
図4】燃料電池システムの凍結抑制処理の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る燃料電池システム10は、
図1に示すように、燃料電池スタック12、燃料ガス系装置14、酸化剤ガス系装置16及び冷却装置18を備える。この燃料電池システム10は、燃料電池自動車(以下、単に車両11という)のモータルーム等に搭載される。燃料電池システム10は、車両11のバッテリBtや走行用モータMt等に燃料電池スタック12の発電電力を供給する。なお、燃料電池システム10は、車両11に搭載されることに限定されず、例えば定置型システムの用途に用いられてもよい。
【0013】
燃料電池スタック12は、燃料ガス(水素ガス、アノードガス)及び酸化剤ガス(エアに含まれる酸素、カソードガス)の電気化学反応により発電を行う発電セル20を複数備える。複数の発電セル20は、燃料電池スタック12を車両11に搭載した状態で、電極面を立位姿勢にして車幅方向に沿って積層された積層体21を構成している。なお、複数の発電セル20は、車両11の車長方向(前後方向)や重力方向に積層されていてもよい。
【0014】
各発電セル20は、電解質膜・電極構造体22(以下、「MEA22」という)と、MEA22を挟持する一対のセパレータ24(第1セパレータ24a、第2セパレータ24b)とで構成される。MEA22は、電解質膜26(例えば、固体高分子電解質膜(陽イオン交換膜))と、電解質膜26の一方面に積層されたアノード電極28と、電解質膜26の他方面に積層されたカソード電極30と、を有する。第1セパレータ24aは、MEA22との間に、セパレータ面に沿って燃料ガスを流通させる燃料ガス流路32を形成する。第2セパレータ24bは、MEA22との間に、セパレータ面に沿って酸化剤ガスを流通させる酸化剤ガス流路34を形成する。また、複数の発電セル20の積層により第1セパレータ24aと第2セパレータ24b同士の間には、セパレータ面に沿って冷媒を流通させる冷媒流路36が形成される。
【0015】
さらに、燃料電池スタック12は、燃料ガス、酸化剤ガス及び冷媒の各々を、積層体21の積層方向に沿って流通させる図示しない複数の連通孔(燃料ガス連通孔、酸化剤ガス連通孔、冷媒連通孔)を備える。燃料ガス連通孔は燃料ガス流路32に、酸化剤ガス連通孔は酸化剤ガス流路34に、冷媒連通孔は冷媒流路36に、それぞれ連通している。
【0016】
燃料電池スタック12は、燃料ガス系装置14により燃料ガスが供給される。燃料電池スタック12内において燃料ガスは、燃料ガス連通孔(燃料ガス入口連通孔)を流通して燃料ガス流路32に流入し、アノード電極28において発電に使用される。発電に使用されていない燃料ガス及び水を含む燃料オフガスは、燃料ガス流路32から燃料ガス連通孔(燃料ガス出口連通孔)に流出して、燃料電池スタック12から燃料ガス系装置14に排出される。
【0017】
また、燃料電池スタック12は、酸化剤ガス系装置16により酸化剤ガスが供給される。燃料電池スタック12内において酸化剤ガスは、酸化剤ガス連通孔(酸化剤ガス入口連通孔)を流通して酸化剤ガス流路34に流入し、カソード電極30において発電に使用される。発電に使用されていない酸化剤ガス及び水を含む酸化剤オフガスは、酸化剤ガス流路34から酸化剤ガス連通孔(酸化剤ガス出口連通孔)に流出して、燃料電池スタック12から酸化剤ガス系装置16に排出される。
【0018】
さらに、燃料電池スタック12は、冷却装置18により冷媒が供給される。燃料電池スタック12内において冷媒は、冷媒連通孔(冷媒入口連通孔)を流通して冷媒流路36に流入し、各発電セル20の温度を適宜調整する。この冷媒は、冷媒流路36から冷媒連通孔(冷媒出口連通孔)に流出して燃料電池スタック12から冷却装置18に排出される。
【0019】
次に、燃料電池スタック12の外部において燃料ガスを流通させる燃料ガス系装置14について詳述する。
【0020】
燃料ガス系装置14は、燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給路40と、燃料電池スタック12から燃料オフガスを排出する燃料ガス排出路42とを有する。また、燃料ガス供給路40と燃料ガス排出路42の間には、燃料ガス排出路42の燃料オフガスに含まれる未反応の燃料ガスを燃料ガス供給路40に戻す燃料ガス循環路44が接続されている。
【0021】
すなわち、燃料ガス供給路40の下流側、燃料ガス排出路42及び燃料ガス循環路44は、燃料電池スタック12との間で燃料ガスを循環させる循環経路45を形成している。燃料ガス循環路44には、この循環経路45から燃料オフガス(燃料ガス、水(水蒸気や付着した液水を含む)、窒素ガス等)を排出するためのパージ路46が接続されている。
【0022】
燃料ガス供給路40の上流端部は、高圧タンク47に接続されている。高圧タンク47は、燃料ガスを貯留及び供給する供給源であり、高圧タンク47自体に設けられた供給弁47a(インタンク電磁弁)及び途中に設けられた減圧弁47bの開閉に基づき燃料ガスを燃料ガス供給路40に流出する。
【0023】
燃料ガス供給路40の途中位置には、インジェクタ48及びエジェクタ50が直列に設けられ、またインジェクタ48及びエジェクタ50を跨いで供給用バイパス路52が接続される。供給用バイパス路52には、BP(バイパス)インジェクタ54が設けられている。
【0024】
インジェクタ48及びBPインジェクタ54は、燃料電池システム10の運転時に、燃料ガス供給路40よりも上流側(高圧側)で開閉して、下流側(低圧側)に所定量の燃料ガスを吐出する。インジェクタ48は、発電時に主として使用されるメインインジェクタであり、BPインジェクタ54は、燃料電池スタック12の始動時や高電流発電が要求された際等に、大量の水素を供給するサブインジェクタである。エジェクタ50は、インジェクタ48から吐出された燃料ガスの流通によって発生する負圧により、燃料ガス循環路44から燃料オフガスを吸引しつつ下流側の燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する。
【0025】
燃料ガス排出路42には、燃料オフガスに含まれる液体(発電時の生成水の液水)と気体を分離する気液分離器56が設けられる。気液分離器56の上部には、上記の燃料ガス循環路44が接続される一方で、気液分離器56の底部には、気液分離器56から液体を排出するドレイン路60の一端が接続されている。このドレイン路60には、内部の流路を開閉するドレイン弁60aが設けられている。また、気液分離器56には、燃料オフガスから分離されて底部に溜まった液体(液水)の水位を検出するための水位センサ56aが設けられている。
【0026】
燃料ガス循環路44には、燃料オフガスを燃料ガス供給路40に循環させる燃料ガスポンプ58が設けられている。パージ路46の一端は、気液分離器56と燃料ガスポンプ58の間に接続されている。パージ路46の他端は、後記の酸化剤ガス系装置16の酸化剤ガス排出路64に接続されている。また、パージ路46の途中位置には、ドレイン路60の他端が接続されると共に、ドレイン路60の接続箇所よりも上流(燃料ガス循環路44)側に、流路を開閉するパージ弁46aが設けられている。パージ弁46aは、循環経路45から燃料オフガス(燃料ガス)を排出する。なお、パージ弁46aは、循環経路45上に設けられ循環経路45から分岐するパージ路46に燃料ガスを排出する構成でもよい。
【0027】
次に、燃料電池スタック12の外部において酸化剤ガスを流通させる酸化剤ガス系装置16について詳述する。
【0028】
酸化剤ガス系装置16は、燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給路62と、燃料電池スタック12から酸化剤オフガスを排出する酸化剤ガス排出路64とを有する。さらに、酸化剤ガス供給路62と酸化剤ガス排出路64の間には、酸化剤ガス供給路62の酸化剤ガスを酸化剤ガス排出路64に直接流通させる酸化剤ガスバイパス路66が設けられている。また、本実施形態に係る燃料電池システム10は、酸化剤ガス供給路62と酸化剤ガス排出路64の間に、酸化剤ガス排出路64の酸化剤オフガスを酸化剤ガス供給路62に循環させる酸化剤ガス循環路68を備える。なお、燃料電池システム10は酸化剤ガス循環路68を備えない構成でもよい。
【0029】
酸化剤ガス供給路62の所定箇所には、大気から取り込んだ空気を圧縮して酸化剤ガスとして供給するコンプレッサ70が設けられている。酸化剤ガスバイパス路66は、コンプレッサ70よりも酸化剤ガスの流通方向下流側の酸化剤ガス供給路62に接続されている。酸化剤ガス供給路62において酸化剤ガスバイパス路66の接続箇所よりも酸化剤ガスの流通方向下流側には、供給側開閉弁72が設けられている。酸化剤ガス循環路68は、供給側開閉弁72よりも酸化剤ガスの流通方向下流側の酸化剤ガス供給路62に接続されている。なお図示は省略するが、酸化剤ガス供給路62には酸化剤ガスを冷却するインタクーラ等の補機が設けられてもよい。
【0030】
また、酸化剤ガス供給路62においてコンプレッサ70(供給側開閉弁72の酸化剤ガスの流通方向下流側)と燃料電池スタック12の間には、加湿器74が設けられている。加湿器74は、酸化剤ガス供給路62及び酸化剤ガス排出路64の両方に接続され、酸化剤ガス排出路64の酸化剤オフガスに含まれる水分により酸化剤ガス供給路62の酸化剤ガスを加湿する。酸化剤ガス供給路62には、加湿器74をバイパスする加湿器バイパス路75が設けられ、この加湿器バイパス路75には、流路を開閉する加湿器バイパス弁75aが設けられている。
【0031】
酸化剤ガス循環路68は、酸化剤ガス排出路64において加湿器74よりも酸化剤オフガスの流通方向下流側に接続されている。この酸化剤ガス循環路68には、酸化剤ガス排出路64の酸化剤オフガスを酸化剤ガス供給路62に循環させるためのEGRポンプ82が設けられている。
【0032】
また、酸化剤ガス排出路64において酸化剤ガス循環路68の接続箇所よりも酸化剤オフガスの流通方向下流側には、排出側開閉弁76及び排圧弁78が設けられている。
【0033】
酸化剤ガスバイパス路66は、酸化剤ガス排出路64において排圧弁78よりも酸化剤オフガスの流通方向下流側に接続されている。この酸化剤ガスバイパス路66には、酸化剤ガス供給路62から酸化剤ガス排出路64に向かう酸化剤ガスの流量を調整する流量調整弁80が設けられている。さらに、酸化剤ガス排出路64において酸化剤ガスバイパス路66の接続箇所よりも下流側には、燃料ガス系装置14のパージ路46が接続されている。
【0034】
また、燃料電池システム10は、パージ弁46aの周辺環境の温度を検出するための温度センサ84を備える。温度センサ84としては、例えば、燃料電池システム10の周辺(車両11の外部を含む)の気温を検出する外気温センサ84aを適用することができる。或いは、温度センサ84は、パージ弁46a自体に取り付けられていてもよく、また例えば、燃料ガス排出路42に設けられる燃料ガス出口温度センサ84bを適用してよい。
【0035】
またさらに、燃料電池システム10は、燃料ガス供給路40において、当該燃料ガス供給路40内を流通する気体(燃料ガス等)の圧力を検出する圧力センサ86を備える。
【0036】
以上の燃料電池システム10は、当該燃料電池システム10の各構成の動作を制御して、燃料電池スタック12の発電を行うECU(Electronic Control Unit:制御部)90を有する。ECU90は、図示しないプロセッサ、メモリ及び入出力インタフェースを有するコンピュータに構成されている。なお、ECU90は、複数のECU(例えば、燃料電池スタック12の電流を制御する発電用ECU、燃料ガス系装置14用のECU、酸化剤ガス系装置16用のECU等)により構成されてもよい。
【0037】
図2に示すように、ECU90は、車内通信線等を介して燃料電池システム10の各補機(又は各補機への供給電力を制御する配電部)に接続されている。また、ECU90には、車内通信線等を介して上記した水位センサ56a、温度センサ84及び圧力センサ86が接続されている。
【0038】
ECU90は、車両11の駆動停止(イグニッションオフ)状態でも低電力で作動しており、温度センサ84が検出する温度情報に基づき燃料電池システム10の周辺が低温環境(例えば、氷点下以下)か否かを判定又は推定している。そして、ECU90は、低温環境を判定した場合に、パージ弁46aの凍結を抑制するためのパージ弁掃気処理を実施する。
【0039】
すなわち、燃料電池システム10は、既述したように燃料オフガスに水蒸気が含まれていることにより、パージ路46のパージ弁46aにもこの水蒸気が移動する。氷点下以下等の低温環境下において、この水蒸気が凍結して氷となる。この際、凍結した水は、パージ弁46aのオリフィスを閉塞する、又はパージ弁46aの図示しない弁本体と弁筐体を固着する可能性がある。これによりパージ弁46aは、循環経路45の流体を排出できなくなる。
【0040】
このため、本実施形態に係る燃料電池システム10は、パージ弁46aに付着する水や循環経路45に存在する水蒸気を排出することで、パージ弁46aの凍結の回避を図るパージ弁掃気処理を実施する。また、燃料電池システム10は、低温環境下において燃料電池スタック12内の発電セル20の凍結を抑制するために行うカソード掃気処理に合わせて、パージ弁掃気処理を実施する構成としている。以下では、カソード掃気処理とパージ弁掃気処理等を含む一連の処理を凍結抑制処理ともいう。
【0041】
ECU90は、凍結抑制処理を実施するために、メモリに記憶された図示しないプログラムをプロセッサが読み出し及び実行することで、
図2に示すような機能ブロックを内部に構築する。ECU90内には、凍結判定部92、協調制御部94、カソード掃気制御部96及びアノード掃気制御部98が形成される。なお、燃料電池システム10が複数のECUを有する場合、燃料ガス系装置14のECUにアノード掃気制御部98が設けられ、酸化剤ガス系装置16のECUにカソード掃気制御部96が設けられてもよい。
【0042】
凍結判定部92は、温度センサ84が検出した温度情報に基づき、パージ弁46aの凍結可能性を判定又は推定する機能部である。凍結判定部92は、パージ弁46aが凍結する低温環境を規定する凍結判定閾値Th(所定温度)を予め保有しており、温度情報が凍結判定閾値Th以下となるか否かを判定する。凍結判定閾値Thの温度としては、例えば、0℃があげられるが、パージ弁46aの構造等を適宜勘案して0℃よりも低い温度に設定してよい。また、凍結判定部92は、温度情報の低下速度等に基づき凍結判定閾値Th以下になる前に低温環境になることを早期に推定してもよい。
【0043】
協調制御部94は、凍結抑制処理において、カソード掃気制御部96による制御と、アノード掃気制御部98による制御とを連動させる機能部である。すなわち凍結抑制処理では、燃料ガス系装置14の各補機の動作と、酸化剤ガス系装置16の各補機の動作を適宜同期させる。これにより燃料電池システム10は、例えば、パージ路46から排出される燃料ガスを、酸化剤ガス排出路64から排出される酸化剤ガスにより希釈する等の対処を採ることができる。
【0044】
また、本実施形態の凍結抑制処理では、複数の処理(酸化剤ガス経路希釈処理、パージ弁掃気処理、カソード掃気処理、ドレイン排水処理)を順次又は並行して実施する構成としており、協調制御部94は各処理の実施タイミングを管理している。酸化剤ガス経路希釈処理とは、酸化剤ガス系装置16の経路に酸化剤ガスを供給することで、後に燃料ガス系装置14から排出される燃料ガスの濃度を酸化剤ガスで希釈可能とする工程である。またドレイン排水処理とは、燃料ガス系装置14の気液分離器56に蓄積される液水を排水する工程である。
【0045】
カソード掃気制御部96は、凍結抑制処理において、酸化剤ガス系装置16の各補機を制御する。凍結抑制処理で動作する酸化剤ガス系装置16の各補機としては、コンプレッサ70、排圧弁78、流量調整弁80があげられる。なお、凍結抑制処理において、供給側開閉弁72、加湿器バイパス弁75a及び排出側開閉弁76(共に
図1参照)は、開弁状態を維持している。
【0046】
アノード掃気制御部98は、凍結抑制処理において、燃料ガス系装置14の各補機を制御する。凍結抑制処理で動作する燃料ガス系装置14の各補機としては、パージ弁46a、供給弁47a、インジェクタ48、ドレイン弁60aがあげられる。なお説明は省略するが、凍結抑制処理において、燃料ガスの吐出量を増加させる際に、BPインジェクタ54(
図1参照)を動作させる構成でもよい。
【0047】
本実施形態に係る燃料電池システム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下その動作について説明する。
【0048】
燃料電池システム10のECU90は、車両11の駆動(イグニッションオン)状態で、燃料電池スタック12による発電を行うために、燃料ガス系装置14の各補機及び酸化剤ガス系装置16の各補機の動作を制御する。燃料電池スタック12は、各補機の動作により供給された燃料ガス及び酸化剤ガスの電気化学反応により発電を行う。燃料電池スタック12内には発電に伴って生成水が生じ、この生成水は、燃料電池スタック12から燃料ガス排出路42や酸化剤ガス排出路64等に排出される。
【0049】
燃料ガス排出路42に排出された生成水のうち液体(液水)は、気液分離器56において気体と分離され、気液分離器56に貯留される。その一方で、燃料ガス排出路42に排出された生成水のうち気体(水蒸気)は、循環経路45(燃料ガス排出路42、燃料ガス循環路44、燃料ガス供給路40)を循環する。この水蒸気は、循環経路45からパージ路46にも移動し、通常状態で閉塞しているパージ弁46aが開放された際に、パージ路46を介して排出される。
【0050】
車両11の駆動停止(イグニッションオフ)時に、ECU90は各補機の動作を適宜終了して、燃料電池スタック12の発電を停止する。駆動停止状態で、燃料ガス系装置14の循環経路45やパージ路46、パージ弁46aには、上記した水蒸気又は水蒸気が凝集した液水が存在するようになる。そのため、ECU90は、低電力で駆動して、
図3Aに示す処理フロー(燃料電池システム10の運転方法)を実施する。
【0051】
ECU90の凍結判定部92は、温度センサ84が定常的に検出している温度情報を受信(取得)する(ステップS1)。そして、凍結判定部92は、予め保有している凍結判定閾値Thと温度情報を比較し、温度情報が凍結判定閾値Th以下となったか否かを判定する(ステップS2)。温度情報が凍結判定閾値Thを上回っている場合(ステップS2:NO)には、パージ弁46aが凍結する可能性がないため、ステップS1に戻り、以下同様の処理フローを繰り返す。
【0052】
一方、温度情報が凍結判定閾値Th以下の場合(ステップS2:YES)には、パージ弁46aが凍結する可能性があるため、ステップS3に進む。ステップS3において、ECU90の協調制御部94は、カソード掃気制御部96及びアノード掃気制御部98を連動させて凍結抑制処理を実施する。
【0053】
詳細には
図3Bに示すように、協調制御部94は、酸化剤ガス経路希釈処理(ステップS3-1)、パージ弁掃気処理(ステップS3-2)、カソード掃気処理及びドレイン排水処理(ステップS3-3)を順に実施する。以下、
図4のタイムチャートを参照して、凍結抑制処理の動作内容(ステップS3-1~ステップS3-3)について具体的に説明していく。
【0054】
ECU90のカソード掃気制御部96は、凍結抑制処理の開始後の時点t1において、駆動停止状態で閉弁している流量調整弁80に対して開弁指令を出力する。これにより流量調整弁80は、時点t1~時点t2の間に100%の開度で開放され(
図4中の点線参照)、酸化剤ガスバイパス路66に多量の酸化剤ガスを流通可能とする。またカソード掃気制御部96は、時点t1において、駆動停止状態で開弁している排圧弁78を短時間だけ閉弁し、排圧弁78の動作状態を確認する。排圧弁78の動作確認後は、排圧弁78を再び開弁する。
【0055】
そして、流量調整弁80が実際に開弁する時点t2において、カソード掃気制御部96は、コンプレッサ70の回転を開始し、コンプレッサ70よりも下流側の酸化剤ガス供給路62に酸化剤ガスを供給する。この時点t2においてカソード掃気制御部96は、コンプレッサ70の要求回転数を第1要求回転数(例えば、50000rpm)に設定する。この第1要求回転数に基づきコンプレッサ70の実回転数が徐々に上昇していき、第1要求回転数に達する時点t3以降は、第1要求回転数に沿って実回転数が制御される。
【0056】
コンプレッサ70の回転により酸化剤ガス供給路62に供給された酸化剤ガスは、排圧弁78及び流量調整弁80が開弁していることで、燃料電池スタック12に向かって酸化剤ガス供給路62を流通し、且つ酸化剤ガスバイパス路66にも流通する。これにより燃料電池スタック12(酸化剤ガス流路34)内、酸化剤ガス排出路64、酸化剤ガスバイパス路66が酸化剤ガスによって満たされる。
【0057】
また、アノード掃気制御部98は、協調制御部94の指令下に、時点t2において循環経路45の燃料ガス圧の目標値を所定の圧力値に上昇させることで、燃料ガス系装置14の動作を開始する。すなわちアノード掃気制御部98は、駆動停止状態で閉弁していた燃料ガス供給路40の上流側(高圧タンク47側)の供給弁47a及び減圧弁47bを開弁する。これにより、燃料ガス系装置14は、高圧タンク47の高圧の燃料ガスを減圧弁47bにおいて減圧しつつ燃料ガス供給路40の下流側に供給する。ただし時点t2では、インジェクタ48を駆動させていないことで、インジェクタ48よりも下流側に燃料ガスが吐出されず、循環経路45(圧力センサ86)の燃料ガス圧は上昇しない。
【0058】
そして、アノード掃気制御部98は、時点t3よりも若干前の時点t2aにおいてインジェクタ48を動作させる。インジェクタ48は、流量を調整した燃料ガスを、下流側の燃料ガス供給路40に吐出する。これにより時点t3以降は、燃料電池スタック12(燃料ガス流路32)及び循環経路45(燃料ガス排出路42、燃料ガス循環路44、エジェクタ50の下流側の燃料ガス供給路40)が燃料ガスに満たされる。そのため圧力センサ86は、インジェクタ48の動作に応じて上昇した燃料ガス圧(実圧力値)を検出する。
【0059】
協調制御部94は、酸化剤ガス系装置16の経路を酸化剤ガスが満たした時点t4において酸化剤ガス経路希釈処理(
図3BのステップS3-1)を終了し、この終了後に(つまり時点t4から)パージ弁掃気処理に移行する。パージ弁掃気処理において、カソード掃気制御部96は、コンプレッサ70の回転数を、第1要求回転数よりも低速の第2要求回転数(例えば、40000rpm)に設定する。この第2要求回転数に応じてコンプレッサ70の実回転数が低下する。
【0060】
また、カソード掃気制御部96は、時点t4でも流量調整弁80の開弁を継続する一方で、時点t4まで開弁状態だった排圧弁78を閉弁させる。この排圧弁78の閉弁により燃料電池スタック12には酸化剤ガスが流通しなくなり、コンプレッサ70が供給する酸化剤ガスは全て酸化剤ガスバイパス路66に向かうようになる。従って、酸化剤ガスバイパス路66の接続箇所よりも下流側の酸化剤ガス排出路64には多量の酸化剤ガスが流通する。
【0061】
一方、アノード掃気制御部98は、時点t4後のパージ弁掃気処理において、駆動停止状態で閉弁していたパージ弁46aを複数回間欠的(断続的)に開閉する動作を行う。また時点t4において、アノード掃気制御部98は、インジェクタ48から吐出する燃料ガスの吐出量を上昇させる。つまり、アノード掃気制御部98は、時点t3~時点t4までのインジェクタ48の第1吐出量よりも、時点t4~時点t5までのインジェクタ48の第2吐出量を大きくする。
【0062】
これにより、パージ路46及びパージ弁46aには、循環経路45から大量の燃料ガスが流入する。パージ弁46aは、開弁と閉弁を間欠的に繰り返す動作により、パージ弁46aよりも上流側の燃料ガス圧に脈動を与えて、循環経路45やパージ路46の水を移動させることができる。例えば、パージ弁46aは、閉弁状態でパージ弁46aにかかる燃料ガス圧が高められ、開弁状態でこの燃料ガス圧下に内部の水(水蒸気又は液水)を弾き飛ばす。従って、パージ弁46aにおいてオリフィスや弁本体付近に存在する水が大幅に低減する。特に、アノード掃気制御部98は、パージ弁46aの開弁及び閉弁を複数回継続的に繰り返すことにより、循環経路45内の水を、パージ弁46aよりも下流側のパージ路46に良好に排出することができる。
【0063】
このパージ弁46aの開弁時には、燃料ガスを含む気体が水と共にパージ弁46aよりも下流側のパージ路46に排出される。パージ路46に排出された燃料ガスは、パージ路46が接続されている酸化剤ガス排出路64において酸化剤ガスと混じり合う。すなわち、酸化剤ガス排出路64が酸化剤ガスにより満たされていることで、酸化剤ガス排出路64において燃料ガスを希釈することができる。そして酸化剤ガス排出路64は、酸化剤ガスにより希釈した燃料ガスを車両11の外部に排出する。
【0064】
協調制御部94は、以上のパージ弁掃気処理を、時点t4から時点t5の期間にわたって実施する。パージ弁掃気処理の実施期間(時点t4~時点t5の間隔)は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化剤ガス経路希釈処理の実施期間(時点t1~t4)よりも長く設定される。
【0065】
協調制御部94は、時点t5においてパージ弁掃気処理(
図3BのステップS3-2)を終了し、この終了後に(つまり時点t5から)カソード掃気処理及びドレイン排水処理を実施する。カソード掃気処理において、カソード掃気制御部96は、コンプレッサ70の回転数を、第2要求回転数よりも低速の第3要求回転数(例えば、24000rpm)に設定する。この第3要求回転数に応じてコンプレッサ70の実回転数が低下する。
【0066】
また、カソード掃気制御部96は、時点t5において、流量調整弁80を閉弁する一方で、時点t5まで閉弁状態だった排圧弁78を開弁させる。流量調整弁80の閉弁により、酸化剤ガスバイパス路66において酸化剤ガスの流通が遮断され、コンプレッサ70が供給する酸化剤ガスは全て燃料電池スタック12に向かうようになる。このため、燃料電池スタック12内では、供給された酸化剤ガスによりMEA22に残留する水分が飛ばされる。また、供給された酸化剤ガスは、その一部が酸化剤ガス排出路64に排出される一方で、他の一部がMEA22を透過(クロスリーク)して燃料ガス流路32及び燃料ガス排出路42(循環経路45)に移動する。燃料電池スタック12内は、酸化剤ガスの移動によって乾燥が促進される。
【0067】
なお、カソード掃気制御部96は、
図4中の二点鎖線に示すように流量調整弁80の閉弁タイミングを時点t5よりも遅いタイミング(時点t5a)にずらしてもよい。これにより、時点t5aまで酸化剤ガスが酸化剤ガスバイパス路66を介して酸化剤ガス排出路64に排出されることで、ドレイン排水処理に伴い排出される燃料ガスを良好に希釈することができる。
【0068】
一方、アノード掃気制御部98は、時点t5後のドレイン排水処理において、間欠的に開閉していたパージ弁46aを閉弁状態とする。また時点t5において、アノード掃気制御部98は、気液分離器56の水位センサ56aによる液水を監視しつつ、ドレイン路60のドレイン弁60aを開弁する。
【0069】
さらに時点t5において、アノード掃気制御部98は、インジェクタ48から吐出する燃料ガスの吐出量(供給圧)を低下させる。つまり、アノード掃気制御部98は、時点t4~時点t5までのインジェクタ48の第2吐出量よりも、時点t5~時点t6までのインジェクタ48の第3吐出量を小さくする。
【0070】
開弁したドレイン路60及びドレイン弁60aは、気液分離器56が貯留した水(液水)を円滑に排出することができる。この際、インジェクタ48の動作により循環経路45の燃料ガス圧が適切に調整されることで、ドレイン路60への燃料ガスの流出を抑制しつつ、気液分離器56からの液水の排出を促すことができる。ドレイン弁60aよりも下流側のドレイン路60に流出した液水及び燃料ガスは、パージ路46を介して酸化剤ガス排出路64に流入し、酸化剤ガス排出路64において酸化剤ガスにより希釈された後、車両11の外部に排出される。
【0071】
ドレイン弁60aの開弁(ドレイン排水処理)は、水位センサ56aによる液水の水位の監視下に実施され、水位が略ゼロとなって液水がない状態が所定時間継続した時点t6において終了する。ドレイン排水処理の終了時(時点t6)に、アノード掃気制御部98は、燃料ガス圧の目標値を凍結抑制処理前の圧力値まで低下させる。これによりアノード掃気制御部98は、供給弁47a及び減圧弁47bを閉弁すると共に、インジェクタ48の動作を停止することで、循環経路45内の燃料ガス圧(実圧力値)が徐々に低下する。またアノード掃気制御部98は、開弁していたドレイン弁60aを時点t6において閉弁する。すなわちこのタイミングで、燃料ガス系装置14側の掃気が終了する。
【0072】
これに対し、カソード掃気制御部96は、時点t6において、カソード掃気処理を継続する。つまり、酸化剤ガスにより燃料電池スタック12内の発電セル20を充分に乾燥させる処理は、ドレイン排水処理よりも時間がかかるため、ドレイン排水処理後も実施する。なお、カソード掃気処理の実施時間は、周辺環境の温度に基づき適宜設定されることが好ましく、例えば燃料電池スタック12の温度が高い場合には、パージ弁掃気処理よりも短い期間実施する構成でもよい。
【0073】
時点t6以降においても、カソード掃気制御部96は、コンプレッサ70を第3要求回転数で回転させつつ、流量調整弁80の閉弁状態と排圧弁78の開弁状態を継続する。これにより、燃料電池スタック12内が充分に乾燥され、凍結抑制処理後に低温環境となった場合に発電セル20の凍結を抑制することができる。
【0074】
そして、カソード掃気処理の開始(時点t5)から所定時間経過した時点t7において、カソード掃気制御部96は、カソード掃気処理(
図3BのステップS3-3)を終了する。この際、カソード掃気制御部96は、コンプレッサ70の要求回転数をゼロにしてコンプレッサ70の回転を停止する。またカソード掃気制御部96は、排圧弁78の開弁状態、流量調整弁80の閉弁状態を維持する。これにより、燃料電池システム10は、凍結抑制処理を終了し、待機状態に移行する。
【0075】
上記の凍結抑制処理を実施した燃料電池システム10は、周辺が低温環境となっても、循環経路45内に水が殆ど存在しない状態となる。このため、燃料電池システム10は、パージ弁46aの凍結を抑制して、パージ弁46aの凍結によって循環経路45から流体が排出できない不都合を低減することが可能となる。また燃料電池システム10は、パージ弁46aにヒータ等を設置せずにすみ、製造コストや消費電力の増加を抑えることが可能となる。
【0076】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。例えば、燃料電池システム10は、パージ弁46aを間欠的に開閉するパージ弁掃気処理の実施時にカソード掃気処理を実施してもよい。また、燃料電池システム10は、カソード掃気処理や酸化剤ガス経路希釈処理を行わずにパージ弁掃気処理を実施してもよい。或いは、酸化剤ガス経路希釈処理の実施タイミングを、パージ弁掃気処理時やパージ弁掃気処理後に設定してもよい。
【0077】
上記の実施形態から把握し得る技術的思想及び効果について、以下に記載する。
【0078】
本発明の第1の態様は、燃料電池スタック12と、燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給路40と、燃料電池スタック12から排出される燃料オフガスを燃料電池スタック12に循環させる循環経路45と、循環経路45から燃料オフガスを排出するパージ弁46aと、パージ弁46aの周辺環境の温度を検出する温度センサ84と、を備える燃料電池システム10の運転方法であって、温度センサ84が検出した温度が所定温度(凍結判定閾値Th)以下に低下したか否かを判定する判定工程と、温度が所定温度以下の場合に、燃料ガス供給路40を介して燃料ガスを供給しながら、パージ弁46aの開閉を複数回間欠的に行うパージ弁掃気処理工程と、を有する。
【0079】
上記によれば、燃料電池システム10の運転方法は、判定工程及びパージ弁掃気処理工程を有することで、パージ弁46aが凍結する可能性がある低温環境下で、パージ弁46a付近の水を適切に排出することができる。特に、パージ弁掃気処理工程では、パージ弁46aの開閉を複数回間欠的に行うことで、パージ弁46aよりも上流側の燃料ガス圧に脈動を与えて、循環経路45やパージ路46の水を移動させ、パージ弁46aから円滑に排出することができる。従って、燃料電池システム10は、パージ弁46aの凍結をより確実に抑制することが可能となる。
【0080】
また、燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給路62と、燃料電池スタック12から排出される酸化剤オフガスが流通すると共に、パージ弁46aから排出された流体が流通するパージ路46が接続された酸化剤ガス排出路64と、酸化剤ガス供給路62と酸化剤ガス排出路64の間を接続し、酸化剤ガス供給路62の酸化剤ガスを酸化剤ガス排出路64に直接流通させる酸化剤ガスバイパス路66と、酸化剤ガスバイパス路66が接続される箇所と燃料電池スタック12の間の酸化剤ガス排出路64に設けられ、当該酸化剤ガス排出路64を開閉する排圧弁78と、を備え、パージ弁掃気処理工程では、排圧弁78を閉弁状態とし、酸化剤ガスバイパス路66を介して酸化剤ガス排出路64に酸化剤ガスを流通させて、パージ弁46aから排出される燃料ガスを希釈する。これにより、燃料電池システム10は、パージ弁46aの開弁に伴って排出された燃料ガスを、酸化剤ガス排出路64の酸化剤ガスにより良好に希釈することができる。また燃料電池システム10は、パージ弁掃気処理工程で排圧弁78を閉弁状態とすることで、燃料電池スタック12の乾燥を抑制することが可能となる。
【0081】
また、酸化剤ガス供給路62には、酸化剤ガスを燃料電池スタック12に供給するコンプレッサ70が設けられ、パージ弁掃気処理工程後に、コンプレッサ70を回転させつつ排圧弁78を開弁状態とすることで、酸化剤ガス供給路62を通して燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給して燃料電池スタック12内の水分量を減らすカソード掃気処理工程を行う。これにより、燃料電池システム10は、パージ弁掃気処理工程とカソード掃気処理工程を合わせて実施することが可能となり、パージ弁掃気処理工程の実施によるバッテリBtの電力消費を抑えて燃費向上を図ることができる。
【0082】
また、パージ弁掃気処理工程におけるコンプレッサ70の回転数は、カソード掃気処理工程におけるコンプレッサ70の回転数よりも大きい。これにより、燃料電池システム10は、コンプレッサ70による酸化剤ガスの流量を高流量から低流量に変化させることで、凍結抑制処理における騒音を抑えて商品性を高めることができる。
【0083】
また、パージ弁掃気処理工程の実施前に、コンプレッサ70を回転させて酸化剤ガスを酸化剤ガス排出路64に流通させる酸化剤ガス経路希釈処理工程を実施する。これにより、燃料電池システム10は、パージ弁掃気処理工程の実施前に酸化剤ガス排出路64を酸化剤ガスで満たして、パージ弁掃気処理工程の燃料ガスを確実に希釈することができる。
【0084】
また、酸化剤ガスバイパス路66の流量を調整するための流量調整弁80を当該酸化剤ガスバイパス路66に備え、パージ弁掃気処理工程では、流量調整弁80を開弁する一方で、カソード掃気処理工程では、流量調整弁80を閉弁する。これにより、燃料電池システム10は、パージ弁掃気処理工程において酸化剤ガス排出路64に酸化剤ガスを円滑に導く一方で、カソード掃気処理工程において燃料電池スタック12に酸化剤ガスを円滑に導くことができる。
【0085】
また、循環経路45は、燃料電池スタック12から排出される燃料オフガスに含まれる液体と気体を分離する気液分離器56を備え、気液分離器56には、分離した液体を排出するドレイン路60が接続されると共に、ドレイン路60は、当該ドレイン路60を開閉するドレイン弁60aを備え、パージ弁掃気処理工程ではドレイン弁60aを閉弁し、パージ弁掃気処理工程後に、ドレイン弁60aを開弁して液体を排出するドレイン排水処理工程を行う。これにより、燃料電池システム10は、気液分離器56からも液体を良好に排出することができる。
【0086】
また、ドレイン排水処理工程では、循環経路45の燃料ガスの圧力を、パージ弁掃気処理工程時における循環経路45の燃料ガスの圧力よりも低下させる。これにより、燃料電池システム10は、ドレイン排水処理工程における燃料ガスの排出を抑制することができ、燃料ガスの燃費向上を図ることができる。
【0087】
また、当該燃料電池システム10は、車両11に搭載され、車両11の駆動停止状態で、判定工程及びパージ弁掃気処理工程を実施する。これにより、燃料電池システム10は、車両11の駆動停止状態で低温環境になった際に、パージ弁46aの凍結を防ぐことができる。
【0088】
また、本発明の第2の態様は、燃料電池スタック12と、燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給路40と、燃料電池スタック12から排出される燃料オフガスを燃料電池スタック12に循環させる循環経路45と、循環経路45から燃料オフガスを排出するパージ弁46aと、パージ弁46aの周辺環境の温度を検出する温度センサ84と、を備える燃料電池システム10であって、温度センサ84が検出した温度が所定温度以下に低下したか否かを判定し、温度が所定温度以下の場合に、燃料ガス供給路40を介して燃料ガスを供給しながら、パージ弁46aの開閉を複数回間欠的に行う。これにより燃料電池システム10は、低温環境になる際にパージ弁46a付近の水を適切に排出して、パージ弁46aの凍結を抑制することができる。
【符号の説明】
【0089】
10…燃料電池システム 11…車両
12…燃料電池スタック 40…燃料ガス供給路
45…循環経路 46…パージ路
46a…パージ弁 56…気液分離器
60…ドレイン路 60a…ドレイン弁
62…酸化剤ガス供給路 64…酸化剤ガス排出路
66…酸化剤ガスバイパス路 70…コンプレッサ
78…排圧弁 80…流量調整弁
84…温度センサ 90…ECU
Th…凍結判定閾値