(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】カルボン酸エステル製造用触媒、カルボン酸エステルの製造方法及びカルボン酸エステル製造用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20241213BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20241213BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20241213BHJP
C07C 67/39 20060101ALI20241213BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
B01J23/89 Z
B01J33/00 C
B01J33/00 G
C07C69/54 Z
C07C67/39
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2023508403
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013068
(87)【国際公開番号】W WO2022201533
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 大
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 ちひろ
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-538323(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107519892(CN,A)
【文献】特開2000-176285(JP,A)
【文献】特表2011-529493(JP,A)
【文献】国際公開第2012/035637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/89
B01J 33/00
C07C 69/54
C07C 67/39
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属粒子と、前記触媒金属粒子を担持する担体と、を含むカルボン酸エステル製造用触媒であって、
前記カルボン酸エステル製造用触媒の嵩密度が0.50g/cm
3以上1.50g/cm
3以下であり、
前記カルボン酸エステル製造用触媒の体積基準の粒径分布にて頻度累計がx%となる粒子径をD
xとするとき、D
10/D
50≧0.2かつD
90/D
50≦2.5であり、
前記粒径分布の半値幅をWとするとき、W/D
50≦1.5である、カルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項2】
前記Wが100μm以下である、請求項1に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項3】
前記触媒金属粒子が、ニッケル、コバルト、パラジウム、白金、ルテニウム、鉛及び金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1又は2に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項4】
前記触媒金属粒子が、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトと、X(Xはニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す)と、を含む複合粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項5】
前記複合粒子におけるニッケル又はコバルトとXの組成比は、Ni/X原子比又はCo/X原子比で0.1~10である、請求項4に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項6】
前記複合粒子が、酸化状態のニッケル又はコバルトと、金と、を含む、請求項4又は5に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項7】
前記複合粒子の平均粒子径が2~10nmである、請求項4~6のいずれか1項に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項8】
前記複合粒子が局在した担持層が、前記カルボン酸エステル製造用触媒の表面から前記カルボン酸エステル製造用触媒の相当直径の40%までの領域に存在する、請求項4~7のいずれか1項に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項9】
前記相当直径が200μm以下であり、前記複合粒子が局在した担持層が、前記カルボン酸エステル製造用触媒の表面から前記カルボン酸エステル製造用触媒の相当直径の30%までの領域に存在する、請求項
8に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項10】
前記複合粒子がXからなる核を有し、前記核が酸化状態のニッケル又はコバルトで被覆されている、請求項4~
9のいずれか1項に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項11】
前記担体が、シリカ及びアルミナを含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項12】
前記D
50が、10μm以上200μm以下である、請求項1~
11のいずれか1項に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のカルボン酸エステル製造用触媒及び酸素の存在下、(a)アルデヒドとアルコール、又は、(b)1種もしくは2種以上のアルコール、を反応させる工程を含む、カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項14】
前記アルデヒドは、アクロレイン及び/又はメタクロレインである、請求項
13に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項15】
前記アルデヒドは、アクロレイン及び/又はメタクロレインであり、前記アルコールは、メタノールである、請求項
13又は
14に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸エステル製造用触媒、カルボン酸エステルの製造方法及びカルボン酸エステル製造用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル又はニッケル化合物は、酸化反応、還元反応、水素化反応等の化学合成用の触媒として広く利用されており、近年、ニッケル系触媒の様々な修飾や改良により、触媒的なアルコールの酸素酸化反応が実現されている。もっとも、化学工業界では、ニッケル及びニッケル化合物は、アルコールの酸化反応に限らず、種々の酸化反応、還元反応、水素化反応等の様々な反応に、また、自動車排ガスの浄化触媒や光触媒等に広く有効であることが知られている。
【0003】
例えば、カルボン酸エステルを製造するための方法として、特許文献1では酸化状態のニッケルと、X(Xはニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す)と、から構成される複合粒子と、前記複合粒子を担持する担体と、を含む複合粒子担持物であって、前記複合粒子が局在した担持層を有する複合粒子担持物を触媒として用いることが提案されている。かかる触媒によれば、長期間に亘って高い反応性を維持することできるとされている。
【0004】
特許文献2では、比表面積、細孔容積、細孔分布、嵩密度、耐摩耗性、平均粒子径、アルミニウムの含有量及びマグネシウムの含有量を所定範囲とした、アルミニウムとマグネシウムを含有するシリカ球状粒子が記載されている。当該文献によれば、触媒担体を含む広範囲の用途での使用が可能であり、機械的強度が強く、比表面積が大きく、流動性の良い球状シリカ系粒子を提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4803767号公報
【文献】特許第4420991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2に記載の触媒を用いたカルボン酸エステル製造においては、触媒活性の向上が求められ、より高い転化率を示す触媒が求められる。本発明者らは、カルボン酸エステル製造の実験を重ねた結果、特許文献1~2に記載の触媒を用いて長期にわたりカルボン酸エステル製造を行うと、原料の転化率が徐々に低下していく傾向にあることを見出している。その原因についてより詳細に検討した結果、反応器からの触媒の流出や触媒の流動性が、原料の転化率に影響を与えていることが判明している。なお、カルボン酸エステル製造時の空気の吹込み量を増加させることで原料の添加率やカルボン酸エステルの選択率を向上させることができるが、反応器から触媒が流出しやすい場合、空気の吹込み量増加にしたがって触媒流出の影響がより顕著となり、この点においても反応成績向上の妨げとなり得る。
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、触媒の流出を抑制しつつ、高い活性を示す、カルボン酸エステル製造用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、嵩密度と粒径分布(D10/D50、D90/D50、及びW/D50)を所定範囲とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
触媒金属粒子と、前記触媒金属粒子を担持する担体と、を含むカルボン酸エステル製造用触媒であって、
前記カルボン酸エステル製造用触媒の嵩密度が0.50g/cm3以上1.50g/cm3以下であり、
前記カルボン酸エステル製造用触媒の体積基準の粒径分布にて頻度累計がx%となる粒子径をDxとするとき、D10/D50≧0.2かつD90/D50≦2.5であり、
前記粒径分布の半値幅をWとするとき、W/D50≦1.5である、カルボン酸エステル製造用触媒。
[2]
前記Wが100μm以下である、[1]に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[3]
前記触媒金属粒子が、ニッケル、コバルト、パラジウム、白金、ルテニウム、鉛及び金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む、[1]又は[2]に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[4]
前記触媒金属粒子が、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトと、X(Xはニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す)と、を含む複合粒子である、[1]~[3]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[5]
前記複合粒子におけるニッケル又はコバルトとXの組成比は、Ni/X原子比又はCo/X原子比で0.1~10である、[4]に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[6]
前記複合粒子が、酸化状態のニッケル又はコバルトと、金と、を含む、[4]又は[5]に記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[7]
前記複合粒子の平均粒子径が2~10nmである、[4]~[6]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[8]
前記複合粒子が局在した担持層が、前記カルボン酸エステル製造用触媒の表面から前記カルボン酸エステル製造用触媒の相当直径の40%までの領域に存在する、[4]~[7]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[9]
前記相当直径が200μm以下であり、前記複合粒子が局在した担持層が、前記カルボン酸エステル製造用触媒の表面から前記カルボン酸エステル製造用触媒の相当直径の30%までの領域に存在する、[4]~[8]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[10]
前記複合粒子が局在した担持層の外側に、実質的に複合粒子を含まない外部層を有し、外部層は0.01~15μmの厚みで形成されている、[4]~[9]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[11]
前記複合粒子がXからなる核を有し、前記核が酸化状態のニッケル又はコバルトで被覆されている、[4]~[10]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[12]
前記担体が、シリカ及びアルミナを含む、[1]~[11]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[13]
前記D50が、10μm以上200μm以下である、[1]~[12]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒。
[14]
[1]~[13]のいずれかに記載のカルボン酸エステル製造用触媒及び酸素の存在下、(a)アルデヒドとアルコール、又は、(b)1種もしくは2種以上のアルコール、を反応させる工程を含む、カルボン酸エステルの製造方法。
[15]
前記アルデヒドは、アクロレイン及び/又はメタクロレインである、[14]に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
[16]
前記アルデヒドは、アクロレイン及び/又はメタクロレインであり、前記アルコールは、メタノールである、[14]又は[15]に記載のカルボン酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触媒の流出を抑制しつつ、高い活性を示す、カルボン酸エステル製造用触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
[カルボン酸エステル製造用触媒]
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、触媒金属粒子と、前記触媒金属粒子を担持する担体と、を含むカルボン酸エステル製造用触媒であって、前記カルボン酸エステル製造用触媒の嵩密度が0.5g/cm3以上1.5g/cm3以下であり、前記カルボン酸エステル製造用触媒の体積基準の粒径分布の半値幅が100μm以下であり、前記カルボン酸エステル製造用触媒の体積基準の粒径分布にて頻度累計がx%となる粒子径をDxとするとき、D10/D50≧0.2かつ、D90/D50≦2.5であり、体積基準の粒径分布の半値幅をWとするとき、W/D50≦1.5である。このように構成されているため、本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、触媒の流出を抑制しつつ、高い活性を示す。
【0013】
本実施形態において、カルボン酸エステル製造用触媒の嵩密度は、0.50g/cm3以上1.50g/cm3以下である。上記嵩密度は、触媒活性の低下に関する課題との関連は薄いものと考えられるが、当該嵩密度を上記範囲に調整することで、反応器内で触媒が拡散しやすくなり、原料の転化率が高まるものと考えられる。すなわち、嵩密度が上記下限値よりも小さければ、長期間の運転にて触媒が反応器から流出し、触媒量が低下するため活性が低くなり、嵩密度が上記上限値よりも大きければ、触媒の循環性が低いため原料との接触機会が損なわれ、活性が低くなると考えられる。このような観点から、カルボン酸エステル製造用触媒の嵩密度は、0.70g/cm3以上1.30g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは0.90g/cm3以上1.20g/cm3以下である。
上記嵩密度は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
上記嵩密度は、例えば、後述する好ましい製造条件を採用すること等により、上述した範囲に調整することができる。
【0014】
カルボン酸エステル製造用触媒の体積基準の粒径分布にて頻度累計がx%となる粒子径をDxとするとき、D10/D50は0.2以上である。D10/D50はカルボン酸エステル製造用触媒として小粒径の粒子が平均粒子径に対してどの程度存在しているかを表す指標であり、この数値が1.0に近いほど、小粒子側の分布がシャープとなっていることを表す。本実施形態においては、D10/D50が0.2以上であることにより、カルボン酸エステル製造用触媒の流動性が高まり、高い活性が発現される。同様の観点から、D10/D50は0.3~0.8であることが好ましい。
D10/D50は、レーザー回折・散乱法により測定でき、より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
D10/D50は、例えば、後述する好ましい製造条件を採用すること等により、上述した範囲に調整することができる。
【0015】
本実施形態において、D90/D50は2.5以上である。カルボン酸エステル製造用触媒として大粒径の粒子が平均粒子径に対してどの程度存在しているかを表す指標であり、この数値が1.0に近いほど、大粒子側の分布がシャープとなっていることを表す。本実施形態においては、D90/D50が2.5以上であることにより、カルボン酸エステル製造用触媒の流動性が高まり、高い活性が発現される。同様の観点から、D90/D50は1.4~2.3であることが好ましい。
D90/D50は、レーザー回折・散乱法により測定でき、より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
D90/D50は、例えば、後述する好ましい製造条件を採用すること等により、上述した範囲に調整することができる。
【0016】
カルボン酸エステル製造用触媒の体積基準の粒径分布の半値幅をWとするとき、W/D50は1.5以下である。W/D50は上記粒径分布におけるピーク半値幅が平均粒子径に対してどの程度広がっているのかを表す指標であり、この数値が小さいほどシャープな分布となっていることを表す。本実施形態においては、W/D50が1.5以下であることにより、触媒の流出を抑制しつつカルボン酸エステル製造用触媒の流動性が高まり、触媒の流出を抑制しつつ高い活性が発現される。なお、上記粒径分布においてピークが複数あるときは、最も高いピークについてのWが上記関係を満たすものとする。同様の観点から、W/D50は0.6~1.3であることが好ましい。
W/D50は、レーザー回折・散乱法により測定でき、より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
W/D50は、例えば、後述する好ましい製造条件を採用すること等により、上述した範囲に調整することができる。
【0017】
本実施形態において、上記Wは、100μm以下であることが好ましい。Wの値を100μm以下とすることで、触媒の流出をより抑制できる傾向にある。前述の嵩密度だけでなく、上記半値幅についても、触媒活性の低下に関する課題との関係は薄いものと考えられるが、当該半値幅を上記範囲に調整することにより、反応器からの触媒の流出が防止されること、さらにはこれに伴い原料の転化率が高まる傾向にある。なお、触媒の粒径分布により、原料の転化率に影響を与えるほど反応器からの触媒の流出があることは、知られておらず新規な知見である。
Wは、同様の観点から、5μm以上95μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10μm以上90μm以下である。
Wは、レーザー回折・散乱法により測定でき、より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
Wは、例えば、後述する好ましい製造条件を採用すること等により、上述した範囲に調整することができる。
【0018】
本実施形態におけるD50は、10μm以上200μm以下であることが好ましく、20μm以上150μm以下であることがより好ましく、40μm以上100μm以下であることがさらに好ましく、40μm以上80μm以下であることがよりさらに好ましい。D50を当該範囲とすることで、触媒の流出をより抑制しつつ、より高い活性を示す、カルボン酸エステル製造用触媒が得られる傾向にある。
D50は、レーザー回折・散乱法により測定でき、より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
D50は、例えば、後述する好ましい製造条件を採用すること等により、上述した範囲に調整することができる。
【0019】
本実施形態において、触媒の粒径分布は、単一ピークであることが好ましい。粒径分布が単一ピークであるとは、体積基準の粒径分布において、最も高いピーク以外に、最も高いピークの1/5以上のピークを有しないことを意味する。
【0020】
本実施形態において、触媒金属粒子としては、カルボン酸エステルを製造するための反応を触媒する機能を有するものであれば特に限定されないが、触媒性能の観点から、ニッケル、コバルト、パラジウム、白金、ルテニウム、鉛及び金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。また、更なる触媒性能の観点から、触媒金属粒子としては、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトと、X(Xはニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す)と、を含む複合粒子であることがより好ましく、当該複合粒子が酸化状態のニッケル又はコバルトと、金と、を含むことがさらに好ましい。
【0021】
本実施形態において、カルボン酸エステル製造用触媒は、複合粒子が局在した担持層を有することが好ましい。用語「複合粒子が局在した担持層」とは、担体中で、複合粒子が集中して担持されている領域をいう。本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒において、複合粒子は、担体中にランダムに担持されるのではなく、一定の領域に選択的に担持されることが好ましく、この領域を「複合粒子が局在した担持層」と称呼する。カルボン酸エステル製造用触媒において、他の部分と比較して一定の領域に複合粒子が集中していれば、その領域が「複合粒子が局在した担持層」であるので、どの領域が「複合粒子が局在した担持層」であるかは、後述のX線マイクロプローブ分析法や、高分解能の走査型電子顕微鏡の二次電子反射像によって把握することができる。複合粒子が局在した担持層は、カルボン酸エステル製造用触媒の表面からカルボン酸エステル製造用触媒の相当直径の40%までの領域に存在することが好ましい。複合粒子が局在した担持層が、上記領域に存在すると、担体内部における反応物質の拡散速度の影響が少なくなり、反応活性が向上する傾向にある。
【0022】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、実質的な厚さ又は粒子径がμmからcmのオーダーの様々の大きさ、及び種々の形状を有することができる。カルボン酸エステル製造用触媒の形状の具体例としては、以下に限定されないが、球状、楕円状、円柱状、錠剤状、中空円柱状、板状、棒状、シート状、ハニカム状等の様々な形状が挙げられる。かかる形状は反応形式によって適宜変えることができ、以下に限定されないが、例えば、固定床反応では圧力損失の少ない中空円柱状、ハニカム状の形状が選択され、液相スラリー懸濁条件では、一般的に球状の形状が選択される。
【0023】
ここでいう、用語「相当直径」とは、球状粒子の直径、又は不規則な形の粒子の場合には、その粒子と等体積の球若しくはその粒子の表面積と同じ表面積を持つ球の直径を表す。相当直径の測定方法は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置を用いてD50を測定し、それを相当直径とする。
【0024】
複合粒子が局在した担持層の厚みは、担体の厚み、粒子径、反応の種類、及び反応形式によって最適な範囲が選ばれる。なお通常、「カルボン酸エステル製造用触媒の相当直径」は、「担体の相当直径」と同じであるから、担体の相当直径によって「カルボン酸エステル製造用触媒の相当直径」を決定することができる。
【0025】
一方、カルボン酸エステル製造用触媒の相当直径が200μm以下である場合、複合粒子をカルボン酸エステル製造用触媒の表面からカルボン酸エステル製造用触媒の相当直径の30%までの領域に担持させることが好ましい。特に、液相反応で用いる場合には、反応速度と担体内部における反応物質の細孔内拡散速度の影響が生じるため、従来は反応にあわせて担体の粒子径を小さくする設計がされていた。本実施形態においては、複合粒子が局在した担持層を薄くすることにより、担体の粒子径を小さくすることなく高い活性のカルボン酸エステル製造用触媒を得ることができる。この場合、沈降による触媒の分離が容易になり、小容量の分離器を用いて分離が可能になるという利点もある。一方、カルボン酸エステル製造用触媒中の複合粒子が担持されていない部分の体積が大きくなりすぎると、反応器当たりの反応に不必要な体積が大きくなり無駄が生じる場合もある。従って、反応の形態に合わせて担体粒子径を設定し、必要な複合粒子が局在した担持層の厚み、複合粒子が担持されていない層の厚みを設定することが好ましい。
【0026】
カルボン酸エステル製造用触媒は、複合粒子が局在した担持層の外側に、実質的に複合粒子を含まない外部層を有してもよい。外部層は、担体の外表面から0.01~15μmの厚みで形成されていることが好ましい。この範囲で外部層を設けることにより、流動層、気泡塔、攪拌型反応器等、触媒粒子の摩擦が懸念される反応器を用いる反応や、被毒物質の蓄積が起こる反応において、触媒毒に強く、磨耗による複合粒子の脱落を抑制した触媒として利用することができる。また、外部層を極めて薄く制御できることから、活性の大幅な低下を抑制することができる。
【0027】
実質的に複合粒子を含まない外部層の厚さは、反応特性、担体物性、複合粒子の担持量等によって最適な範囲が選ばれ、好ましくは0.01~15μm、より好ましくは0.1~10μm、さらに好ましくは0.2~5μmである。外部層(複合粒子未担持層)の厚さが15μmを超えると、該複合粒子を触媒として用いる際に触媒の寿命の向上効果は変わらないが、触媒活性の低下を招くことがある。外部層の厚さが0.01μm未満であると、磨耗による複合粒子の脱落が起こり易くなる傾向にある。
【0028】
本実施形態において、用語「実質的に複合粒子を含まない」とは、後述のX線マイクロプローブ分析法や、高分解能の走査型電子顕微鏡の二次電子反射像において、相対強度10%以上の酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとX(Xはニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す)の分布を示すピークが実質的に存在しないことを意味する。
【0029】
本実施形態における複合粒子を構成し得る酸化状態のニッケルとしては、好ましくはニッケルと酸素とが結合して生成するニッケル酸化物(例えば、Ni2O,NiO,NiO2,Ni3O4,Ni2O3)、或いはニッケルとX及び/又は1種以上の他の金属元素と酸素とが結合して生成するニッケルの酸化化合物若しくは固溶体又はこれらの混合物等のニッケルが含まれる複合酸化物である。
また、本実施形態における複合粒子を構成し得る酸化状態のコバルトとしては、好ましくはコバルトと酸素とが結合して生成するコバルト酸化物(例えば、CoO,Co2O3,Co3O4)、或いはコバルトとX及び/又は1種以上の他の金属元素と酸素とが結合して生成するコバルトの酸化化合物若しくは固溶体又はこれらの混合物等のコバルトが含まれる複合酸化物である。
【0030】
ここでいう、用語「ニッケル酸化物」とは、ニッケルと酸素が含まれる化合物を表す。ニッケル酸化物とは、前記に例示したNi2O,NiO,NiO2,Ni3O4,Ni2O3又はこれらの水和物、OOH基を含むニッケルのヒドロペルオキシド若しくはO2基を含むニッケルの過酸化物又はこれらの混合物等を包含する。
【0031】
また、ここでいう、用語「複合酸化物」とは、2種以上の金属を含む酸化物を表す。「複合酸化物」とは、金属酸化物2種以上が化合物を形成した酸化物であり、構造の単位としてオキソ酸のイオンが存在しない複酸化物(例えば、ニッケルのペロブスカイト型酸化物やスピネル型酸化物)を包含するが、複酸化物より広い概念であり、2種以上の金属が複合した酸化物を全て包含する。2種以上の金属酸化物が固溶体を形成した酸化物も複合酸化物の範疇である。
【0032】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒において、上述のようにニッケル酸化物及び/又はコバルト酸化物とXの複合化を行う場合、酸化エステル化活性を有するニッケル酸化物及び/又はコバルト酸化物の本来の触媒能が引き出され、各単一成分からなる触媒では実現しなかったような著しく高い触媒性能が現れる傾向にある。これはニッケル酸化物及び/又はコバルト酸化物とXとを複合化させることで発現する特異な効果であって、両金属成分間における二元機能効果或いは新たな活性種の生成等により、各単一成分とは全く異なった新しい触媒作用が生み出されたためと考えられる。さらに、酸化状態のニッケル及び/又は酸化状態のコバルトとXを担体に高分散状態で担持させた場合は、特に、従来の触媒では得られない画期的な触媒性能を実現できる傾向にある。
【0033】
例えば、Xとして金を選択し、担体に酸化ニッケルと金を高分散担持すると、著しく高い触媒性能が現れる傾向にある。このようなカルボン酸エステル製造用触媒は、酸化ニッケル或いは金をそれぞれ単体で担体に担持した触媒に比べ、カルボン酸エステルの選択性が高く、特定のNi/Au組成比のところで大きく活性が向上する傾向にある。金属原子当たりの触媒活性については、各単一成分からなる粒子担持物に比べて高い活性を示し、その複合化による触媒機能の発現は、ニッケルと金の担持組成に強く依存する。これは、反応に最適なニッケルの酸化状態の形成に最適な比率が存在するためと推定される。このように、酸化ニッケルと金の二成分が担体に分散されて担持されていることによって、各単一成分の単なる相加算からでは予想できない際立った複合効果が発現される傾向にある。
【0034】
上記のようにXとして金を選択した上記カルボン酸エステル製造用触媒は、担体に酸化状態のニッケルと金とが高分散担持されており、両成分がナノサイズで複合化される傾向にある。このようなカルボン酸エステル製造用触媒を透過型電子顕微鏡/走査透過電子顕微鏡(TEM/STEM)で観察すると、典型的には、2~3nmのほぼ球状のナノ粒子が担体上に均一に分散担持された構造が観測される。
また、エネルギー分散型X線分光(EDS)によるナノ粒子の元素分析に供する場合、典型的には、いずれの粒子にもニッケルと金が共存しており、金ナノ粒子の表面にニッケルが被覆した形態であることが観察され、ニッケルと金が含まれるナノ粒子以外にも担体上にニッケル成分が単体で担持されていることも観察される。
さらに、X線光電子分光法(XPS)及び粉末X線回折(粉末XRD)に供することにより金属の存在状態を確認することができ、典型的には、金は結晶性の金属として存在する一方、ニッケルは2価の価数を有する非晶質状の酸化物として存在していることが観測される。
さらにまた、電子の励起状態の変化を観測できる紫外可視分光法(UV-Vis)に供すれば、典型的には、単一金属種の金ナノ粒子では観測された金ナノ粒子由来の表面プラズモン吸収ピーク(約530nm)が酸化ニッケルと金との複合化により消失することが観測される。このような表面プラズモン吸収ピークの消失現象は、反応に効果が見られなかった酸化ニッケル以外の他の金属酸化物種(例えば、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化銅及び酸化亜鉛等の金属酸化物)と金との組み合わせからなる触媒では認められていない。この表面プラズモン吸収ピークの消失は、酸化状態のニッケルと金の接触界面を介した電子状態の混成が生じた結果、つまり2種類の金属化学種のハイブリット化によるものと考えられる。
なお、高酸化型のニッケル酸化物への変換は、触媒の色調変化と紫外可視分光法(UV-Vis)により確認できる。酸化ニッケルへの金の添加により、酸化ニッケルは灰緑色から茶褐色に変色し、UVスペクトルは可視光領域がほぼ全体にわたって吸収を示す。そのUVスペクトルの形状と触媒の色は、参照試料として測定した高酸化型の過酸化ニッケル(NiO2)と類似する。このように、酸化ニッケルは金の添加により、高酸化状態のニッケル酸化物に変換されていることが推察される。
以上の結果から、Xとして金を選択した場合の複合粒子の構造については、金粒子を核とし、その表面が高酸化状態のニッケル酸化物で被覆された形態であり、複合粒子の表面には金原子は存在しないと考えられる。
【0035】
複合粒子は、担体に高分散状態で担持されているのが好ましい。複合粒子は、微粒子状或いは薄膜状で分散担持されているのがより好ましく、その平均粒子径は、好ましくは2~10nm、より好ましくは2~8nm、さらに好ましくは2~6nmである。
複合粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、ニッケル及び/又はコバルトとXとからなる特定の活性種構造が形成され、反応活性が向上する傾向にある。ここで、本実施形態における複合粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定された数平均粒子径を意味する。具体的には、透過型電子顕微鏡で観察される画像において、黒いコントラストの部分が複合粒子であり、各粒子の直径を全て測定してその数平均を算出することができる。
【0036】
複合粒子中のニッケル又はコバルトとXの組成は、Ni/X原子比又はCo/X原子比として、0.1~10の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2~8.0、さらに好ましくは0.3~6.0の範囲である。Ni/X原子比又はCo/X原子比が上記範囲内であると、ニッケル及び/又はコバルトとXとからなる特定の活性種構造、及び反応に最適なニッケル及び/又はコバルトの酸化状態を形成し、その結果、上記範囲外からなる場合よりも活性及び選択性が高くなる傾向にある。
【0037】
複合粒子の形態については、ニッケル及び/又はコバルトとXの両成分が含まれる限り特に限定されないが、好ましくは粒子中に両成分が共存し、相構造、例えば、化学種がランダムに結晶のサイトを占める固溶体構造、各化学種が同心球状に分離したコアシェル構造、異方的に相分離した異方性相分離構造、粒子表面に両化学種が隣り合って存在するヘテロボンドフィリック構造のいずれかの構造を有する形態であることが好ましい。より好ましくはXからなる核を有し、その核の表面が酸化状態のニッケル及び/又はコバルトで被覆された形態であることが好ましい。複合粒子の形状については、両成分が含まれるものであれば特に限定されず、球状或いは半球状等のいずれの形状であってもよい。
【0038】
複合粒子の形態を観察する解析手法としては、例えば、上述したように、透過型電子顕微鏡/走査透過電子顕微鏡(TEM/STEM)が有効であり、TEM/STEMで観察されたナノ粒子像に電子線を照射することで、粒子中の元素分析や元素の分布像の描出が可能となる。本実施形態における複合粒子は、後述する実施例に示されるように、いずれの粒子中にもニッケル及び/又はコバルトとXが含まれ、Xの表面がニッケル及び/又はコバルトで被覆された形態を有していることが確認された。このような形態を有する場合、粒子中の組成分析点の位置によって、ニッケル及び/又はコバルトとXの原子比が異なり、粒子中央部よりも粒子エッジ部にニッケル及び/又はコバルトが多く検出される。従って、個々の粒子でも分析点の位置によってはニッケル又はコバルトとXの原子比に幅を持つことになり、その範囲は、上述したNi/X原子比又はCo/X原子比の範囲に含まれる。
【0039】
Xとして、金、銀、銅を選択した場合には、紫外可視分光法(UV-Vis)がその構造を特定する上で有力な手段となる。金・銀・銅のナノ粒子単体では、可視~近赤外域の光電場と金属の表面自由電子がカップリングして、表面プラズモン吸収を示す。例えば、金粒子が担持された触媒に可視光を照射すると、約530nmの波長に金粒子由来のプラズモン共鳴に基づく吸収スペクトルが観測される。しかしながら、本実施形態のニッケル酸化物と金を担持したカルボン酸エステル製造用触媒では、その表面プラズモン吸収が消失することから、本実施形態における複合粒子の表面には金は存在しないと考えることができる。
【0040】
ニッケルの固体形態としては、所定の活性が得られるものであれば特に限定されないが、好ましくは、X線回折で回折ピークが観測されない非晶質状である。このような形態にすることで、酸化反応の触媒として用いる場合に、酸素との相互作用が高くなると推定され、さらには、酸化状態のニッケルとXの接合界面が増加することから、より優れた活性が得られる傾向にある。
【0041】
本実施形態において、Xは、ニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。より好ましくは、ニッケル、パラジウム、ルテニウム、金、銀から選択される。
【0042】
Xの化学状態は、金属、酸化物、水酸化物、Xとニッケル、コバルト若しくは1種以上の他の金属元素を含む複合化合物、又はこれらの混合物のいずれでもよいが、好ましい化学状態としては金属若しくは酸化物、より好ましくは金属である。またXの固体形態としては、所定の活性が得られるものであれば特に限定されず、結晶質或いは非晶質のいずれの形態であってもよい。
【0043】
ここでいう、用語「他の金属元素」とは、後述するような担体の構成元素、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXの他に、カルボン酸エステル製造用触媒中に含有させる第3成分元素若しくはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属等の金属成分を指す。
【0044】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、上述したように酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXを担体に担持し、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXとから構成される複合粒子を形成させることによって優れた効果を発揮する。なお、本実施形態でいう、用語「複合粒子」とは、一つの粒子の中に異なる二元金属種を含む粒子をいう。これとは異なる二元金属種としては、ニッケル及び/又はコバルトとXの両成分が金属である二元金属粒子、ニッケル及び/又はコバルトとXの合金或いは金属間化合物を形成している金属粒子等が挙げられるが、これらは化学合成用の触媒とした場合に、本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒と比較して、目的生成物の選択性と触媒活性が低くなる傾向にある。
【0045】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXとから構成される複合粒子とは別に、担体上に酸化状態のニッケル及び/又はコバルトを単独で含有することが好ましい。Xと複合化していない酸化状態のニッケル及び/又はコバルトが存在することにより、カルボン酸エステル製造用触媒の構造安定性がより高められ、長期反応による細孔径の増大とそれに伴う複合粒子の粒子成長が抑制される。この効果は、後述するように、担体としてシリカ及びアルミナを含むアルミニウム含有シリカ系組成物を用いた場合に顕著になる。
【0046】
以下に、担体上に酸化状態のニッケル及び/又はコバルトを単独で存在させることにより、カルボン酸エステル製造用触媒の構造安定性が高められ、長期反応による細孔径の増大とそれに伴う複合粒子の粒子成長が抑制された作用について説明する。
【0047】
後述するように、カルボン酸エステルの合成反応においては、反応系にアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の化合物を添加して、反応系のpHを6~9、より好ましくは中性条件(例えば、pH6.5~7.5)、すなわち、限りなくpH7付近に保持することによって、カルボン酸エステルの製造反応固有の副生物であるメタクリル酸又はアクリル酸に代表される酸性物質によるアセタール等の副生を抑制することができる。
【0048】
本発明者らの検討によると、単一成分の金粒子をシリカ及びアルミナを含むアルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体に担持した金粒子担持物を用いて、前記反応操作による長期反応を実施した場合、徐々にではあるが金粒子担持物の構造変化が起こる傾向にある。この現象は、前記反応操作により、担持物粒子が局所的に酸と塩基に繰り返し曝され、上記担体中のAlの一部が溶解、析出し、シリカ-アルミナ架橋構造の再配列が生じることによって、担持物粒子の細孔径が拡大することに起因すると考えられる。また、細孔径が拡大する変化に伴って、金粒子のシンタリングが起こり、表面積が低下することによって、触媒活性が低下する傾向にある。
【0049】
一方、複合粒子及び単独の酸化状態のニッケル及び/又はコバルトを担体上に存在させることにより、上記反応操作による担持物粒子の構造安定性が高められ、細孔径の拡大と複合粒子の成長が抑制される傾向にある。その理由については、上述のごとく、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトが担体の構成元素と反応してニッケル及び/又はコバルトの酸化化合物若しくは固溶体等のニッケル及び/又はコバルトを含む複合酸化物が生成していることが要因であると考えられ、そのようなニッケル化合物がシリカ-アルミナ架橋構造の安定化に作用した結果、担持物粒子の構造変化が大きく改善されたと考えられる。このような担持物の構造安定化効果の発現は、担体に存在する酸化状態のニッケル及び/又はコバルトに起因すると本発明者らは推定している。そのため、複合粒子に含まれる酸化状態のニッケル及び/又はコバルトが担体に接触している場合には、もちろんこの効果は得られるし、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトが担体上に単独で存在している場合には、一層大きい安定化効果を得られると考えられる。
【0050】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒の担体としては、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXを担持できるものであれば特に限定されず、従来の化学合成用に用いられる触媒担体を用いることができる。
【0051】
担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、チタニア、シリカ-チタニア、ジルコニア、マグネシア、シリカ-マグネシア、シリカ-アルミナ-マグネシア、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ゼオライト、結晶性メタロシリケート等の各種担体が挙げられる。好ましくは、活性炭、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-アルミナ-マグネシア、チタニア、シリカ-チタニア、ジルコニア、より好ましくは、シリカ-アルミナ、シリカ-アルミナ-マグネシアである。
【0052】
また、担体にアルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)、アルカリ土類金属(Be,Mg,Ca,Sr,Ba)、及び希土類金属(La,Ce,Pr)から選ばれる単独若しくは複数種の金属成分が含まれていてもよい。担持する金属成分としては、例えば、硝酸塩や酢酸塩等の焼成等によって酸化物となるものが好ましい。
【0053】
担体としては、シリカ及びアルミニウムを含むアルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体が好ましく用いられる。すなわち、担体がシリカ及びアルミナを含むことが好ましい。上記担体は、シリカに比べて高い耐水性を有し、アルミナに比べて耐酸性が高い。また、活性炭に比べて硬く機械的強度が高い等、従来の一般的に使用される担体に比して優れた物性を備え、しかも活性成分である酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXを安定に担持することができる。その結果、カルボン酸エステル製造用触媒が長期間にわたり高い反応性を維持することが可能となる。
【0054】
酸化状態のニッケル及び/又はコバルトと、Xとが特定の原子比を有し、アルミニウム含有シリカ系組成物を担体とするカルボン酸エステル製造用触媒は、化学合成用の触媒として用いる場合、触媒担体としての使用に適する高い表面積を有しつつも、機械的強度が高く物理的に安定で、しかも反応固有の液性に対する耐腐食性を満足する。
【0055】
以下、触媒寿命の大幅な改良を可能にした本実施形態のシリカ及びアルミナを含むアルミナ含有シリカ系組成物からなる担体の特性について説明する。担体の機械強度及び化学的安定性が大きく改善できた理由については、以下のように推定される。
【0056】
アルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体は、シリカゲルの未架橋シリカ(Si-O)鎖にアルミニウム(Al)を加えることにより、Si-O-Al-O-Si結合が新たに形成され、Si-O鎖本来の酸性物質に対する安定性を失うことなく、Al架橋構造が形成されたことでSi-O結合が強化され、耐加水分解安定性(以下、単に「耐水性」ともいう)が格段に向上していると考えられる。また、Si-O-Al-O-Si架橋構造が形成されると、シリカゲル単独の場合に比べてSi-O未架橋鎖が減り、機械的強度も大きくなると考えられる。即ち、Si-O-Al-O-Si構造の形成量と、得られるシリカゲルの機械的強度及び耐水性の向上とが相関するものと推定される。
【0057】
酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXを担体上に長期間安定に担持することが可能になった理由の1つは、上記担体は、上述した通り、機械的強度並びに化学的安定性が大きく改善され、従来の一般的に使用される担体に比して優れた物性を備えることにある。その結果、活性成分であるニッケル及び/又はコバルトとXが剥離し難く、長期にわたって安定に担持することが可能になったと考えられる。
【0058】
一般的に使用される担体、例えば、シリカ、又は、シリカ-チタニアでは、長期反応において、徐々にではあるがニッケル及び/又はコバルト成分の溶出が認められた。これに対し、上記担体を用いた場合には、長期にわたりニッケル及び/又はコバルト成分の溶出が抑制されることを本発明者らは見出した。X線光電子分光法(XPS)、透過型電子顕微鏡(TEM/EDX)、二結晶型高分解能蛍光X線分析法(HRXRF)の結果から、シリカ、又は、シリカ-チタニア担体を用いた場合、溶出するニッケル及び/又はコバルト成分は、担体上に単独で存在する酸化ニッケル又は酸化コバルトであることが確認された。酸化ニッケル又は酸化コバルトは酸に可溶な化合物であるため、カルボン酸エステル合成用の触媒として用いた場合、本反応固有の副生物であるメタクリル酸又はアクリル酸に代表される酸性物質によって溶出したものと推定される。
【0059】
二結晶型高分解能蛍光X線分析法(HRXRF)によるニッケル及び/又はコバルトの化学状態の解析から、本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒中のニッケル及び/又はコバルトは、単一化合物である酸化ニッケル及び/又は酸化コバルトのみではなく、酸化ニッケル及び/又は酸化コバルトと担体の構成成分元素とが結合して生成するニッケル及び/又はコバルトの酸化化合物若しくは固溶体又はこれらの混合物等のニッケル及び/又はコバルトが含まれる複合酸化物が生成しているものと推定される。
【0060】
二結晶型高分解能蛍光X線分析法(HRXRF)は、そのエネルギー分解能が極めて高く、得られるスペクトルのエネルギー位置(化学シフト)や形状から化学状態が分析できる。特に、3d遷移金属元素のKαスペクトルにおいては、価数や電子状態の変化によって化学シフトや形状に変化が現れ、化学状態を詳細に解析することができる。本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒においては、NiKαスペクトルに変化が現れ、単一化合物である酸化ニッケルとは異なるニッケルの化学状態が確認された。
【0061】
例えば、酸化ニッケルとアルミナから生成するアルミン酸ニッケルは、酸に不溶な化合物である。このようなニッケル化合物が担体上で生成した結果、ニッケル成分の溶出が大きく改善されたものと推定される。
【0062】
シリカ及びアルミナを含むアルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体の好ましい元素組成は、アルミニウムの量が、ケイ素とアルミニウムの合計モル量に対して1~30モル%、好ましくは5~30モル%、より好ましくは5~25モル%の範囲である。アルミニウムの量が上記範囲内であると、耐酸性、機械的強度が良好となる傾向にある。
【0063】
また、本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒における担体は、シリカ及びアルミナに加えて、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選択される少なくとも1種の塩基性金属の酸化物をさらに含むことが、機械的強度及び化学的安定性をより向上させる観点から好ましい。塩基性金属成分のアルカリ金属としては、Li,Na,K,Rb,Csが、アルカリ土類金属としては、Be,Mg,Ca,Sr,Ba等が、希土類金属としては、La,Ce,Prが挙げられる。上記した中でも、アルカリ土類金属としてのMgが好ましく、担体が、シリカ、アルミナ及びマグネシアを含むことがとりわけ好ましい。
【0064】
シリカ、アルミナ並びにアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の少なくとも1種の塩基性金属の酸化物を含む担体の元素組成は、アルミニウムの量が、ケイ素とアルミニウムの合計モル量に対して1~30モル%、好ましくは5~30モル%、より好ましくは5~25モル%の範囲である。また、塩基性金属酸化物とアルミナの組成比は、(アルカリ金属+1/2×アルカリ土類金属+1/3×希土類金属)/Al原子比で、好ましくは0.5~10、より好ましくは0.5~5.0、さらに好ましくは0.5~の2.0の範囲である。シリカ、アルミナ及び塩基性金属酸化物の元素組成が上記範囲内であると、ケイ素、アルミニウム及び塩基性金属酸化物が特定の安定な結合構造を形成し、その結果、担体の機械的強度及び耐水性が良好となる傾向にある。
【0065】
次に、シリカ及びアルミナを含むアルミニウム含有シリカ系組成物を用いる場合を例に、担体の調製する好ましい方法を説明するが、担体の調製方法は以下に限定されるものではない。すなわち、シリカゾルとアルミニウム化合物溶液とを反応させることにより、アルミニウム含有シリカ系組成物を調製し、これにより担体を調製する。
【0066】
上記の例において、シリカ源として、シリカゾルを用いる。この場合には、シリカゾルとアルミニウム化合物を混合して、シリカゾルとアルミニウム化合物を含む混合物ゾルを得、20~100℃、1~48時間の多段階での水熱反応を行い、次いで乾燥してゲルを得、後述の温度・時間・雰囲気条件で焼成する、或いは上記混合物ゾルにアルカリ性水溶液を加えてシリカとアルミニウム化合物を共沈させ、乾燥後、後述の条件で焼成することが好ましい。また、上記混合物ゾルのままスプレードライヤーを用いて微粉化したり、上記混合物ゾルを乾燥してゲルを造粒する等の工程によって所望の粒子径を有するアルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体とすることも可能である。
【0067】
シリカ、アルミナ並びにアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の少なくとも1種の塩基性金属の酸化物を含む担体の調製方法については、上記のシリカ及びアルミナを含むアルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体の調製方法に従い、シリカ及びアルミニウム成分にアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物及び/又は希土類金属化合物を混合したスラリーを乾燥し、さらに後述する条件で焼成することにより調製することができる。
【0068】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属の原料としては、アルミニウム原料と同様に一般に市販されている化合物を用いることができる。好ましくは水溶性の化合物であり、より好ましくは水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩である。
【0069】
他の調製方法としては、アルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体に、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選ばれる塩基性金属成分を吸着させる方法を用いることができる。例えば、塩基性金属化合物を溶解した液中に担体を加えて乾燥処理を行う等の浸漬法を用いた方法や、細孔容量分の塩基性化合物を担体に染み込ませて乾燥処理を行う含浸法を用いる方法を適用できる。但し、後から塩基性金属成分を吸着させる方法は、担体に塩基性金属成分を高分散化するうえで液乾燥処理を緩和な条件で行う等の注意が必要である。
【0070】
また、上述した各種原料の混合スラリーに、スラリー性状の制御や生成物の細孔構造等の特性や得られる担体物性を微調整するために無機物や有機物を加えることが可能である。
【0071】
用いられる無機物の具体例としては、硝酸、塩酸、硫酸等の鉱酸類、Li,Na,K,Rb,Cs等のアルカリ金属、Mg,Ca,Sr,Ba等のアルカリ土類金属等の金属塩及びアンモニアや硝酸アンモニウム等の水溶性化合物のほか、水中で分散して懸濁液を生じる粘土鉱物が挙げられる。また、有機物の具体例としては、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等の重合体が挙げられる。
【0072】
無機物及び有機物を加える効果は様々であるが、主には、球状担体の成形、細孔径及び細孔容積の制御等であり、具体的には、球状の担体を得るには混合スラリーの液質が重要な因子となる。無機物或いは有機物によって粘度や固形分濃度を調製することによって、球状の担体が得られやすい液質に変更できる。また、細孔径及び細孔容積の制御は、後述する混合スラリーの多段階での水熱合成工程によって実施できる。また、担体の成形段階で内部に残存し、成形後の焼成並びに洗浄操作により残存物を除去できる最適な有機化合物を適宜選択して用いることも好ましい。
【0073】
(カルボン酸エステル製造用触媒の製造方法)
カルボン酸エステル製造用触媒の製造方法は、特に限定されないが、下記の方法によると、本実施形態に係る所定の範囲の嵩密度及び所定の粒径分布を有するカルボン酸エステル製造用触媒を得やすくなる。
【0074】
本実施形態に係るカルボン酸エステル製造用触媒の好ましい製造方法は、混合スラリーを乾燥器内で回転円盤方式により噴霧乾燥する工程Iと、得られた噴霧乾燥物を焼成し担体を得る工程IIと、前記担体に触媒金属粒子を担持する工程IIIと、備える。さらに、本実施形態に係るカルボン酸エステル製造用触媒の製造方法では、前記工程Iにおいて、噴霧乾燥機の横方向の半径に対する噴霧する混合スラリーのフィード量が5×10-3m2/Hr以上70×10-3m2/Hr以下であり、円盤の周速度が10m/s以上120m/s以下である。
上述の方法によれば、本実施形態に係るカルボン酸エステル製造用触媒における、所定範囲の嵩密度と粒径分布を得やすくなり、触媒の流出を抑制しつつ、高い活性を示す、カルボン酸エステル製造用触媒が得られる。
【0075】
本実施形態における工程Iで使用する混合スラリーを調製する際は、例えば、加熱条件を適宜調整しながら原料混合液の攪拌操作を実施することができる。
【0076】
本実施形態における担体は、工程I~工程IIのように、前述した各種原料及び添加物を含む混合スラリーを噴霧乾燥して製造することができる。混合スラリーを液滴化する方法としては、回転円盤方式、二流体ノズル方式、加圧ノズル方式等の公知の噴霧装置を使用できる。
【0077】
噴霧する液(混合スラリー)は、よく混合された状態(各成分がよく分散された状態)で用いることが好ましい。良好な混合状態である場合、各成分の偏在に起因する耐久性の低下等、担体の性能に悪影響を低減できる傾向にある。特に原料混合液の調合時には、スラリーの粘度上昇及び一部ゲル化(コロイドの縮合)が生じる場合もあり、不均一な粒子を形成することが懸念される。そのため、原料の混合を攪拌下で徐々に行う等の配慮を行うほか、酸やアルカリを加える等の方法によって、例えば、pH2付近のシリカゾルの準安定領域に制御して行うことが好ましい場合もある。
【0078】
噴霧する液(混合スラリー)は、ある程度の粘度と、固形分濃度を有していることが好ましい。粘度や固形分濃度が一定以上である場合、噴霧乾燥で得られる多孔質体が、真球とならずに陥没球となることを防止できる傾向にある。また、粘度や固形分濃度が一定以下である場合、多孔質体同士の分散性を確保できるほか、安定な液滴の形成に寄与する傾向にある。さらに、噴霧乾燥開始1時間前(原料混合液の状態)から噴霧(混合スラリーの状態)までの1時間の粘度の変化(最終Δ粘度)は噴霧乾燥で得られる粒子径分布、嵩密度に影響する傾向にある。
上述した観点から、最終Δ粘度としては10mPa・s/Hr未満であることが好ましく、より好ましくは7mPa・s/Hr以下、さらに好ましくは5mPa・s/Hr以下である。最終Δ粘度は、その下限値は特に限定されないが、例えば0mPa・s/Hr以上である。最終Δ粘度は、後述する実施例に記載の方法に基づいて測定することができる。
また、固形分濃度は10~50質量%の範囲内にあることが形状や嵩密度、粒子径から好ましい。
さらに、原料混合液を攪拌する際の攪拌翼先端速度は特に限定されないが、最終Δ粘度の制御の観点から、3m/s以上9m/s以下が好ましく、より好ましくは4m/s以上8m/s以下であり、更に好ましくは5m/s以上7m/s以下である。
【0079】
混合スラリーを乾燥器内で回転円盤方式により噴霧乾燥する場合、以下の条件が好ましい。回転円盤方式の乾燥器は、例えば、アトマイザ等の円盤を備える。当該円盤により、混合スラリーを噴霧し、乾燥物の嵩密度及び粒度分布を調整することができる。
具体的には噴霧乾燥機の横方向の半径に対する噴霧する液のフィード量は5×10-3m2/Hr以上70×10-3m2/Hr以下が好ましく、10×10-3m2/Hr以上50×10-3m2/Hr以下がより好ましく、20×10-3m2/Hr以上40×10-3m2/Hr以下がさらに好ましい。
また、円盤の周速度は10m/s以上120m/s以下であることが好ましく、20m/s以上100m/s以下であることがより好ましく、30m/s以上90m/s以下がさらに好ましい。
【0080】
担体の焼成温度は、一般的には200~800℃の範囲から選ばれる。800℃を超える温度で焼成すると比表面積の低下が著しくなる傾向にあるため好ましくない。また、焼成雰囲気は特に限定されないが、空気中或いは窒素中で焼成するのが一般的である。また、焼成時間は、焼成後の比表面積に応じて決めることができるが、一般的に1~48時間である。焼成条件は多孔質性等の担体物性が変化するため、適切な温度条件及び昇温条件の選定が必要である。焼成温度が低すぎると複合酸化物として耐久性の維持が難しくなる傾向にあり、高すぎると細孔容積の低下に至るおそれがある。また、昇温条件は、プログラム昇温等を利用し徐々に昇温していくことが好ましい。急激に高い温度条件で焼成した場合は、無機物及び有機物のガス化や燃焼が激しくなり、設定以上の高温状態に曝され、粉砕の原因になるため好ましくない。
なお、焼成後又は触媒担持後に分級工程を追加することでも粒径分布を制御できる。分級装置としては、ふるいや振動ふるい機、慣性分級機、強制渦遠心式分級機、サイクロン等の自由渦式分級機等が挙げられる。
【0081】
担体の比表面積は、複合粒子の担持し易さ、触媒として用いた場合の反応活性、離脱し難さ及び反応活性の観点から、BET窒素吸着法による測定で10m2/g以上が好ましく、20m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がさらに好ましい。また活性の観点からは特に制限はないが、機械的強度及び耐水性の観点から700m2/g以下が好ましく、350m2/g以下がより好ましく、300m2/g以下がさらに好ましい。
【0082】
担体の細孔径が3nmより小さいと、担持金属の剥離性状は良好となる傾向にはあるが、触媒として液相反応等で使用する場合に、反応基質の拡散過程を律速にしないよう細孔内拡散抵抗を大きくし過ぎず、反応活性を高く維持する観点から、細孔径は3nm以上であるのが好ましい。一方、担持物の割れ難さ、担持した金属の剥離し難さの観点から、50nm以下であるのが好ましい。従って、担体の細孔径は、好ましくは3nm~50nmであり、より好ましくは3nm~30nmである。細孔容積は複合ナノ粒子を担持する細孔が存在するために必要である。しかし、細孔容積が大きくなると急激に強度が低下する傾向が見られる。従って、強度及び担持特性の観点から、細孔容積は0.1~1.0mL/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~0.5mL/gの範囲である。本実施形態の担体は、細孔径及び細孔容積が共に上記範囲を満たすものが好ましい。
【0083】
担体の形状は、反応形式によって、固定床では圧力損失の少ない構造の中空円柱状、ハニカム状形態が選択され、液相スラリー懸濁条件では、一般的に球状で反応性と分離方法から最適な粒子径を選択して使用する形態が選ばれる。例えば、一般的に簡便である沈降分離による触媒の分離プロセスを採用する場合は、反応特性とのバランスから10~200μmの粒子径が好ましく、より好ましくは20~150μm、さらに好ましくは30~150μmの粒子径が選定される。クロスフィルター方式では、0.1~20μm以下の小さな粒子がより反応性が高いことから好ましい。このような利用目的に併せて種類、形態を変えて化学合成用の触媒として利用することができる。
【0084】
酸化状態のニッケル又はコバルトの担体への担持量は特に限定はないが、担体質量に対し、ニッケル又はコバルトとして通常0.01~20質量%、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。Xの担体への担持量は、担体質量に対し、金属として通常0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.2~2質量%、さらに好ましくは0.3~1.5質量%、特に好ましくは0.5~1.0質量%である。
【0085】
さらに本実施形態においては、ニッケル及び/又はコバルトと上記担体の構成元素との原子比に好適な範囲が存在する。本実施形態におけるシリカ及びアルミナを含むアルミニウム含有シリカ系組成物からなる担体を用いる場合、触媒中のニッケル又はコバルトとアルミナの組成比は、Ni/Al原子比又はCo/Al原子比で、好ましくは0.01~1.0、より好ましくは0.02~0.8、さらに好ましくは0.04~0.6である。また、シリカ、アルミナ並びにアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の少なくとも1種の塩基性金属の酸化物を含む担体を用いる場合、担持物中のニッケル又はコバルトとアルミナの組成比は、Ni/Al原子比又はCo/Al原子比で、好ましくは0.01~1.0、より好ましくは0.02~0.8、さらに好ましくは0.04~0.6であり、かつ、ニッケル又はコバルトと塩基性金属成分の組成比が、Ni/(アルカリ金属+アルカリ土類金属+希土類金属)原子比又はCo/(アルカリ金属+アルカリ土類金属+希土類金属)原子比で、好ましくは0.01~1.2であり、より好ましくは0.02~1.0、さらに好ましくは0.04~0.6である。
【0086】
ニッケル及び/又はコバルトと担体構成元素であるアルミニウム、塩基性金属酸化物との原子比が上記範囲内であると、ニッケル及び/又はコバルトの溶出及び担持物粒子の構造変化の改善効果が大きくなる傾向がある。これは、上記範囲内でニッケル及び/又はコバルト、アルミニウム、塩基性金属酸化物が特定の複合酸化物を形成し、安定な結合構造を形成するためと考えられる。
【0087】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、活性成分として酸化状態のニッケル及び/又はコバルトとXの他に、第3成分元素を含有することもできる。第3成分元素としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、カドニウム、インジウム、錫、アンチモン、テルル、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスニウム、イリジウム、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、アルミニウム、硼素、珪素、リンを含ませることが可能である。これらの第3成分元素の含有量は、担持物中に、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.05~10質量%含まれる。また、カルボン酸エステル製造用触媒にアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選択される少なくとも一種の金属成分を含有させてもよい。アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の含有量は、担持物中に好ましくは15質量%以下の範囲から選ばれる。
【0088】
なお、これらの第3成分元素若しくはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属は、カルボン酸エステル製造用触媒の製造や反応の際に担持物中に含有させてもよいし、あらかじめ担体に含有させておく方法を用いてもよい。
【0089】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒の比表面積は、反応活性及び活性成分の離脱し難さの観点から、BET窒素吸着法による測定で、好ましくは20~350m2/gであり、より好ましくは50~300m2/g、さらに好ましくは100~250m2/gの範囲である。
【0090】
カルボン酸エステル製造用触媒の細孔径は、担体の細孔構造に由来するものであり、3nmより小さいと、担持金属成分の剥離性状は良好となる傾向にはあるが、触媒として液相反応等で使用する場合に、反応基質の拡散過程を律速にしないよう細孔内拡散抵抗を大きくし過ぎず、反応活性を高く維持する観点から、細孔径は3nm以上であるのが好ましい。一方、担持物の割れ難さ、担持した複合粒子の剥離し難さの観点から、50nm以下であるのが好ましい。従って、カルボン酸エステル製造用触媒の細孔径は、好ましくは3nm~50nmであり、より好ましくは3nm~30nm、さらに好ましくは3nm~10nmである。細孔容積は、担持特性及び反応特性の観点から、0.1~1.0mL/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~0.5mL/g、さらに好ましくは0.1~0.3mL/gの範囲である。本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、細孔径及び細孔容積が共に上記範囲を満たすものが好ましい。
【0091】
[カルボン酸エステル製造用触媒の製造方法]
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒の製造方法としては、特に限定されないが、次の好ましい工程を含むものとすることができる。以下、各工程について説明する。
【0092】
第1の工程として、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属の酸化物を担持した担体を含む水スラリーと、ニッケル及び/又はコバルトとX(Xはニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す)を含む可溶性金属塩の酸性水溶液とを混合する。両液の混合物の温度が60℃以上になるように温度を調整する。混合物中には、担体上にニッケル及び/又はコバルトとX成分が析出したカルボン酸エステル製造用触媒の前駆体が生成する。
【0093】
次いで、第2の工程として、前記第1の工程で得られた前駆体を必要に応じて水洗、乾燥した後、加熱処理することによってカルボン酸エステル製造用触媒を得ることができる。
【0094】
この方法によれば、複合粒子が局在した担持層を有し、担体の中心を含む領域に複合粒子を含まないカルボン酸エステル製造用触媒を得ることができる。
【0095】
本実施形態においては、第1の工程に先立って、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属の酸化物を担持した担体を水中で熟成する熟成工程を実施することが好ましい。予め担体の熟成を行うことによって、よりシャープな複合粒子の分布層を得ることができる。担体の熟成による効果は、窒素吸着法による細孔分布測定の結果から、担体の細孔構造の再配列が生じることによって、より均一でシャープな細孔構造になることに起因するものと推察される。担体の熟成温度は、室温でも可能であるが、細孔構造の変化が遅いため、室温より高い温度である60~150℃の範囲から選ばれるのが好ましい。常圧で行う場合には、60~100℃の範囲が好ましい。また、熟成処理の時間は、温度条件により変わるが、例えば、90℃の場合、好ましくは1分~5時間、より好ましくは1~60分、さらに好ましくは1~30分である。第1工程の操作としては、担体の熟成後、担体を一度乾燥、焼成してから用いることもできるが、水中に担体を分散させたスラリーとニッケル及び/又はコバルトとXを含む可溶性金属塩の酸性水溶液とを接触させて、ニッケル及び/又はコバルトとX成分を担体上に不溶固定化させることが好ましい。
【0096】
触媒の調製に用いられるニッケルが含まれる可溶性金属塩としては、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられる。また、Xが含まれる可溶性金属塩としては、例えば、Xとしてパラジウムを選択する場合は、塩化パラジウム、酢酸パラジウム等が、ルテニウムを選択する場合は、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム等、金を選択する場合は、塩化金酸、塩化金ナトリウム、ジシアノ金酸カリウム、ジエチルアミン金三塩化物、シアン化金等、銀を選択する場合は、塩化銀、硝酸銀等が挙げられる。
【0097】
ニッケル及び/又はコバルトとXを含む水溶液の各々の濃度は、通常0.0001~1.0mol/L、好ましくは0.001~0.5mol/L、より好ましくは0.005~0.2mol/Lの範囲である。水溶液中のニッケル又はコバルト及びXの比率は、Ni/X原子比又はCo/X原子比として、0.1~10の範囲が好ましく、より好ましくは0.2~5.0、さらに好ましくは0.5~3.0である。
【0098】
担体と、ニッケル及び/又はコバルトとXを含む可溶性金属塩の酸性水溶液とを接触させる際の温度は、複合粒子の分布を制御する重要な因子の一つであり、担体に予め担持させるアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属の酸化物の量により異なるが、温度が低くなりすぎると反応が遅くなり複合粒子の分布が広がる傾向にある。本実施形態の製造方法においては、よりシャープな複合粒子が局在した担持層を得る観点から、ニッケル及び/又はコバルトとXを含む可溶性金属塩の酸性水溶液とを接触させる際の温度は、高い反応速度が得られるような温度であり、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上、特に好ましくは90℃以上である。酸性水溶液と水スラリーを混合した液の温度が60℃以上になるように混合すればよいので、酸性水溶液を加えても混合液が60℃を超える程度に水スラリーを加熱しておいてもよいし、反対に酸性水溶液のみを加熱しておいてもよい。酸性水溶液と水スラリーの両方を60℃以上に加熱しておいてもよいのはもちろんである。
【0099】
反応は、加圧下で溶液の沸点以上の温度で行うこともできるが、操作の容易性から、通常は沸点以下の温度で行うことが好ましい。ニッケル及び/又はコバルトとX成分を固定化させる際の時間は特に限定されるものでなく、担体種、ニッケル及び/又はコバルトとXの担持量、比率等の条件により異なるが、通常1分~5時間、好ましくは5分~3時間、より好ましくは5分~1時間の範囲内である。
【0100】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒の製造方法は、担体に予め担持させたアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属の酸化物と、ニッケル及び/又はコバルトとXを含む可溶性金属塩との化学反応によって、ニッケル及び/又はコバルトとX成分を不溶固定化する原理に基づく。ニッケル及び/又はコバルトとX成分の複合化をより十分なものとするためには、両成分の混合水溶液から同時に固定化させることが好ましい。
【0101】
また、本実施形態の製造方法においては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属の酸化物を担持した担体を含む水スラリーが、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属塩を含有していることが好ましい。
【0102】
これにより、Xの金属ブラックの発生を抑えられ、ニッケル及び/又はコバルトとXの複合化を促進し、更に、複合粒子の分布をより精密に制御することができる。このような効果は、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属塩を水溶液中に添加することにより、担体上に予め担持させた塩基性金属酸化物とニッケル及び/又はコバルトとXを含む可溶性金属塩との化学反応の速度を制御することに起因するものと推察される。
【0103】
アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属塩としては、これら金属の有機酸塩、硝酸塩、塩化物等の無機塩等の水溶性塩から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0104】
上記アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属塩の量は、ニッケル及び/又はコバルトとX成分の量や比率によって異なり、また、担体に予め担持させた塩基性金属酸化物の量によって決定される。通常、水溶液中のニッケル及び/又はコバルトとX成分の量に対して0.001~2倍モル、好ましくは0.005~1倍モルである。
【0105】
また、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性金属の酸化物を担持した担体を含む水スラリーが、可溶性アルミニウム塩を含有していることが好ましい。可溶性アルミニウム塩としては、塩化アルミニウムや硝酸アルミニウムを用いることができる。
【0106】
水スラリーに可溶性アルミニウム塩を添加することによって、複合粒子が局在した担持層の外側に、実質的に複合粒子を含まない外部層を形成させることができる。これも上述した不溶固定化原理に基づくものである。可溶性アルミニウム塩としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等の可溶性塩が用いられ、担体に予め担持させた塩基性金属酸化物との化学反応によって、担体の外表面でアルミニウムを反応させ、ニッケル及び/又はコバルトとXの反応場を消費し、さらに内部の前記塩基性金属酸化物とニッケル及び/又はコバルトとX成分とを反応によって固定する。
【0107】
アルミニウム成分の量は、ニッケル及び/又はコバルトとX成分を担持させない層の厚さを何μmに設定するかによって異なり、また、担体に予め担持させた塩基性金属酸化物の量によって決定される。通常、担体に担持された塩基性金属酸化物の量に対して0.001~2倍モル、好ましくは0.005~1倍モルである。
【0108】
ニッケル及び/又はコバルトとX成分の分布がいかなる機構により達成されるのか、その詳細については不明な点も多いが、ニッケル及び/又はコバルトとX含有可溶成分の担体内における拡散速度と、該成分が化学反応により不溶化する速度とのバランスが本実施形態の条件下でうまく取られ、担体の表面近傍のごく狭い領域に複合粒子を固定化することが可能になったためと推定される。
【0109】
また、担体の外表面に複合粒子を実質的に含まない外部層を形成する場合は、アルミニウムと担体の外表面近傍の塩基性金属成分とを反応させて担体の外表面近傍のニッケル及び/又はコバルトとX成分と反応し得る塩基性金属成分を消費し、ついでニッケル及び/又はコバルトとXを担持させると、担体の外表面近傍の反応性の塩基性金属成分が既に消費されているために、ニッケル及び/又はコバルトとXが担体内部の塩基性金属酸化物と反応することによって固定化されると推定される。
【0110】
次に、第2工程について説明する。
第2工程の加熱処理に先立ち、第1の前駆体を必要に応じて水洗、乾燥する。第1の前駆体の加熱温度は、通常40~900℃、好ましくは80~800℃、より好ましくは200~700℃、さらに好ましくは300~600℃である。
【0111】
加熱処理の雰囲気は、空気中(又は大気中)、酸化性雰囲気中(酸素、オゾン、窒素酸化物、二酸化炭素、過酸化水素、次亜塩素酸、無機・有機過酸化物等)又は不活性ガス雰囲気中(ヘリウム、アルゴン、窒素等)で行われる。加熱時間は、加熱温度及び第1の前駆体の量に応じて適宜選択すればよい。また、加熱処理は、常圧、加圧若しくは減圧下で行うことができる。
【0112】
上述した第2工程の後、必要に応じて還元性雰囲気中(水素、ヒドラジン、ホルマリン、蟻酸等)で還元処理を行うこともできる。その場合、酸化状態のニッケル及び/又はコバルトが完全に金属状態に還元されない処理方法を選択して行う。還元処理の温度及び時間は、還元剤の種類、Xの種類及び触媒の量に応じて適宜選択すればよい。
【0113】
さらに上記加熱処理或いは還元処理の後、必要に応じて空気中(又は大気中)又は酸化性雰囲気中(酸素、オゾン、窒素酸化物、二酸化炭素、過酸化水素、次亜塩素酸、無機・有機過酸化物等)で酸化処理することもできる。その場合の温度及び時間は、酸化剤の種類、Xの種類及び触媒の量に応じて適宜選択される。
【0114】
ニッケル及び/又はコバルトとX以外の第3成分元素は、担持物調製時或いは反応条件下に加えることができる。アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属についても、触媒調製時或いは反応系に添加することもできる。また、第3成分元素、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の原料は、有機酸塩、無機酸塩、水酸化物等から選ばれる。
【0115】
[カルボン酸エステルの製造方法]
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、広く化学合成用の触媒として使用することができる。例えば、アルデヒドとアルコールとの間のカルボン酸エステル生成反応、アルコール類からのカルボン酸エステル生成反応のために利用することができる。すなわち、本実施形態のカルボン酸エステルの製造方法は、本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒及び酸素の存在下、(a)アルデヒドとアルコール、又は、(b)1種もしくは2種以上のアルコール、を反応させる工程を含むものとすることができる。
【0116】
本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒は、特に酸化反応の触媒として用いた場合に優れた効果を発揮する。本実施形態で用いられる反応基質としては、実施例で示されるカルボン酸エステルの生成反応で用いられるアルデヒドとアルコール以外にも、種々の反応基質、例えば、アルカン類、オレフィン類、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、エーテル類、芳香族化合物、フェノール類、硫黄化合物、リン化合物、含酸素窒素化合物、アミン類、一酸化炭素、水等が挙げられる。これら反応基質は、単独若しくは2種以上からなる混合物として使用することができる。これらの反応基質から、工業的に有用な様々な含酸素化合物や酸化付加物、酸化脱水素物等の酸化生成物が得られる。
【0117】
反応基質としては、具体的には、アルカン類として、例えば、メタン、エタン、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、n-へキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン等の脂肪族アルカン;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環族アルカン等が挙げられる。
【0118】
オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、デセン、3-メチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、塩化アリル等の脂肪族オレフィン;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン等の脂環族オレフィン;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族置換オレフィン等が挙げられる。
【0119】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、アリルアルコール、クロチルアルコール等の飽和及び不飽和脂肪族アルコール;シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロヘキサノール、シクロヘキセン-1-オール等の飽和及び不飽和脂環族アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール等の脂肪族及び脂環族多価アルコール;ベンジルアルコール、サリチルアルコール、ベンズヒドロール等の芳香族アルコール等が挙げられる。
【0120】
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリオキサール等の脂肪族飽和アルデヒド;アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド等の脂肪族α,β-不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、トリルアルデヒド、ベンジルアルデヒド、フタルアルデヒド等の芳香族アルデヒド及びこれらアルデヒドの誘導体が挙げられる。
【0121】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、メチルプロピルケトン等の脂肪族ケトン;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、2-メチルシクロヘキサノン、2-エチルシクロヘキサノン等の脂環族ケトン;アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン等の芳香族ケトン等が挙げられる。
【0122】
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン、或いはアルキル基、アリール基、ハロゲン、スルホン基等が置換したそれらの誘導体等が挙げられる。
【0123】
フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ナフトール、アントール(ヒドロキシアントラセン)及びそれらの誘導体(芳香環の水素原子がアルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホン酸基等で置換されたもの)が挙げられる。
【0124】
硫黄化合物としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオフェノール等のメルカプタン等が挙げられる。
【0125】
アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン等の脂肪族アミン;シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、シクロオクチルアミン等の脂環式アミン;アニリン、ベンジルアミン、トルイジン等の芳香族アミン等が挙げられる。
【0126】
これら反応基質は単独若しくは2種以上からなる混合物として使用することができる。また、必ずしも精製する必要はなく、他の有機化合物との混合物であってもよい。
【0127】
以下に、本実施形態のカルボン酸エステル製造用触媒を用い、アルデヒドとアルコールから酸素存在下で酸化的エステル化反応によりカルボン酸エステルを製造する方法を例に挙げて説明する。
【0128】
原料として用いるアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリオキサール等のC1-C10脂肪族飽和アルデヒド;アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド等のC3-C10脂肪族α・β-不飽和アルデヒド;ベンズアルデヒド、トリルアルデヒド、ベンジルアルデヒド、フタルアルデヒド等のC6-C20芳香族アルデヒド;並びにこれらアルデヒドの誘導体が挙げられる。これらのアルデヒドは単独若しくは任意の2種以上の混合物として用いることができる。本実施形態においては、アルデヒドが、アクロレイン、メタクロレイン又はこれらの混合物から選ばれることが好ましい。
【0129】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール等のC1-C10脂肪族飽和アルコール;シクロペンタノール、シクロヘキサノール等のC5-C10脂環族アルコール、;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のC2-C10ジオール;アリルアルコール、メタリルアルコール等のC3-C10脂肪族不飽和アルコール;ベンジルアルコール等のC6-C20芳香族アルコール;3-アルキル-3-ヒドロキシメチルオキセタン等のヒドロキシオキセタン類が挙げられる。これらのアルコールは単独若しくは任意の2種以上の混合物として用いることができる。本実施形態においては、アルデヒドは、アクロレイン及び/又はメタクロレインであり、アルコールがメタノールであることが好ましい。
【0130】
アルデヒドとアルコールとの量比としては、特に限定されず、例えば、アルデヒド/アルコールのモル比で10~1/1,000のような広い範囲で実施できるが、一般的にはモル比で1/2~1/50の範囲で実施される。
【0131】
触媒の使用量は、反応原料の種類、触媒の組成や調製法、反応条件、反応形式等によって大幅に変更することができ、特に限定されないが、触媒をスラリー状態で反応させる場合は、スラリー中の固形分濃度として、好ましくは1~50質量/容量%、より好ましくは3~30質量/容量%、さらに好ましくは10~25質量/容量%の範囲内に収まるよう使用する。
【0132】
カルボン酸エステルの製造においては、気相反応、液相反応、潅液反応等の任意の方法で、回分式又は連続式のいずれによっても実施できる。
【0133】
反応は、無溶媒でも実施できるが、反応成分に対して不活性な溶媒、例えば、ヘキサン、デカン、ベンゼン、ジオキサン等を用いて実施することができる。
【0134】
反応形式も固定床式、流動床式、攪拌槽式等の従来公知の形式によることができる。例えば、液相で実施する際には、気泡塔反応器、ドラフトチューブ型反応器、撹拌槽反応器等の任意の反応器形式によることができる。
【0135】
カルボン酸エステルの製造に使用する酸素は、分子状酸素、即ち、酸素ガス自体又は酸素ガスを反応に不活性な希釈剤、例えば、窒素、炭酸ガス等で希釈した混合ガスの形とすることができ、酸素原料としては、操作性、経済性等の観点から、空気が好ましく用いられる。
【0136】
酸素分圧は、アルデヒド種、アルコール種等の反応原料、反応条件若しくは反応器形式等により変化するが、実用的には、反応器出口の酸素分圧は爆発範囲の下限以下の濃度となる範囲であり、例えば、20~80kPaに管理することが好ましい。反応圧力は、減圧から加圧下の任意の広い圧力範囲で実施することができるが、通常は0.05~2MPaの範囲の圧力で実施される。また、反応器流出ガスの酸素濃度が爆発限界を超えないように全圧を設定(例えば、酸素濃度8%)することが安全性の観点から好ましい。
【0137】
カルボン酸エステルの製造反応を液相等で実施する場合には、反応系にアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の化合物(例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩)を添加して反応系のpHを6~9に保持することが好ましい。これらのアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の化合物は、単独若しくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0138】
カルボン酸エステルを製造する際の反応温度は、200℃以上の高温でも実施できるが、好ましくは30~200℃であり、より好ましくは40~150℃、さらに好ましくは60~120℃である。反応時間は、特に限定されるものではなく、設定した条件により異なるので一義的には決められないが、通常1~20時間である。
【実施例】
【0139】
以下に実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0140】
以下の実施例及び比較例において、各種物性測定は次の方法により実施した。
【0141】
[混合スラリーの粘度測定]
混合スラリーの攪拌開始から毎時間、下記の条件で室温にて粘度を測定した。
粘度計:ブルックデジタル粘度計「LVDV1M」
スピンドル:LV-1
回転数:100rpm
温度:室温(25℃)
スプレードライヤー装置でのFeed開始直前の粘度とFeed開始1時間前の粘度の差を最終Δ粘度とした。
【0142】
[Ni、Xの担持量及びNi/X原子比の決定]
複合粒子中のニッケル及びXの濃度は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 IRIS Intrepid II XDL型ICP発光分析装置(ICP-AES,MS)を用いて定量した。
試料の調製は、担持物をテフロン製分解容器に秤取り、硝酸及びフッ化水素を加えて、マイルストーンゼネラル社製ETHOS TC型マイクロウェーブ分解装置にて加熱分解後、ヒーター上で蒸発乾固し、次いで析出した残留物に硝酸及び塩酸を加えてマイクロウェーブ分解装置にて加圧分解し、得られた分解液を純粋で一定容したものを検液とした。
定量方法はICP-AESにて内標準法で定量を行い、同時に実施した操作ブランク値を差し引いて触媒中のニッケル及びX含有量を求め、担持量と原子比を算出した。
【0143】
[複合粒子の結晶構造の解析]
リガク社製Rint2500型粉末X線回折装置(XRD)を用い、X線源Cu管球(40kV,200mA)、測定範囲5~65deg(0.02deg/step)、測定速度0.2deg/min、スリット幅(散乱、発散、受光)1deg,1deg,0.15mmの条件で行った。
試料は、無反射試料板上に均一散布し、ネオプレンゴムで固定する手法を採用した。
【0144】
[複合粒子金属成分の化学状態の解析]
サーモエレクトロン社製ESCALAB250型X線光電子分光装置(XPS)を用い、励起源AlKα15kV×10mA、分析面積 約1mm(形状:楕円)取込領域:サーベイスキャン0~1,100eV、ナロースキャンNi2pの条件で行った。
測定試料は、複合粒子担持物をメノウ乳鉢ですりつぶし、粉体専用試料台にて採取してXPS測定に供した。
【0145】
[ニッケルの化学状態解析]
NiKαスペクトルをTechnos社製XFRA190型二結晶型高分解能蛍光X線分析装置(HRXRF)で測定し、得られた各種パラメーターを標準物質(ニッケル金属、酸化ニッケル)のそれらと比較し、担持物中ニッケルの価数等の化学状態を推測した。
測定試料はそのままの状態で測定に供した。NiのKαスペクトルの測定は、部分スペクトルモードで行った。この際、分光結晶にはGe(220)、スリットは縦発散角1°のものを使用し、励起電圧と電流はそれぞれ35kVと80mAに設定した。その上で、標準試料ではアブソーバとしてろ紙を使用し、担持物試料では計数時間を試料毎に選択してKαスペクトルのピーク強度が3,000cps以下、10,000counts以上になるように測定した。それぞれの試料で5回測定を繰り返し、その繰り返し測定前後に金属試料の測定を行った。実測スペクトルを平滑化処理(S-G法7点-5回)後、ピーク位置、半値幅(FWHM)、非対称性係数(AI)を算出し、ピーク位置は試料の測定前後に測定した金属試料の測定値からのズレ、化学シフト(ΔE)として取り扱った。
【0146】
[複合粒子の形態観察及び元素分析]
JEOL社製3100FEF型透過型電子顕微鏡/走査透過電子顕微鏡装置(TEM/STEM)[加速電圧300kV,エネルギー分散型X線検出器(EDX)付属]を用いて、TEM明視野像、STEM暗視野像、STEM-EDS組成分析(点分析、マッピング、ライン分析)を測定した。
データ解析ソフトは、TEM像、STEM像解析(長さ測定、フーリエ変換解析):DigitalMicrographTM Ver.1.70.16,Gatan、EDSデータ解析(マッピング画像処理、組成定量計算):NORAN System SIX ver.2.0,Thermo Fisher Scientificを用いた。
測定試料は、複合粒子担持物を乳鉢で破砕後、エタノールに分散させ、超音波洗浄を約1分間行った後、Mo製マイクログリット上に滴下・風間し、TEM/STEM観察用試料とした。
【0147】
[複合粒子の紫外可視分光スペクトルの測定]
日本分光社製V-550型紫外可視分光光度計(UV-Vis)[積分球ユニット、粉末試料用ホルダ付属]を用い、測定範囲800-200nm、走査速度400nm/minで行った。
測定試料は、複合粒子担持物をメノウ乳鉢ですりつぶし、粉末試料用ホルダに設置してUV-Vis測定に供した。
【0148】
[担体及びカルボン酸エステル製造用触媒の形状観察]
日立製作所社製X-650走査型電子顕微鏡装置(SEM)を用いて、担体及びカルボン酸エステル製造用触媒を観察した。
【0149】
[カルボン酸エステル製造用触媒のD10、D50、D90及び半値幅Wの測定]
触媒を0.2gビーカーに取り、精製水を16mL添加し、その後、SONIC&MATERIALS.INC.製VCX130型超音波分散器を用いて1分間分散処理して測定用サンプルを調製した。この測定用サンプルを、ベックマン・コールター社製LS230型レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置を用いて、カルボン酸エステル製造用触媒の体積基準の粒径分布にて頻度累計がx%となる粒子径Dx(D10、D50、及びD90)及び粒径分布(体積基準)の半値幅Wを測定した。
【0150】
[比表面積]
Quantachrome社のQuadrasorbを使用し、BET法により比表面積を測定した。
【0151】
[カルボン酸エステル製造用触媒の嵩密度(CBD)の測定]
前処理として、カルボン酸エステル製造用触媒をステンレス製のるつぼに約120g採取し、150℃のマッフル炉で6時間乾燥を行った。焼成後、デシケータ(シリカゲル入り)に入れ室温まで冷却する。次いで、前処理したカルボン酸エステル製造用触媒を100.0g採取し、250mLのメスシリンダーに移し、メスシリンダーを振とう器で15分間タッピング充填した。その後、メスシリンダーにおける試料表面を平らにし、充填容積を読み取った。嵩密度は、カルボン酸エステル製造用触媒の質量を充填容積で割った値とした。
【0152】
[流出率]
後述するカルボン酸エステルの製造に使用した触媒の全量と、カルボン酸エステルの製造を500時間実施した後の残存触媒量に基づき、以下の式にて流出率を算出した。
流出率={1-(残存触媒量/反応に用いた触媒量)}×100〔%〕
ここで、残存触媒量は、カルボン酸エステルの製造を500時間実施した後のカルボン酸エステル製造用触媒を130℃で10時間乾燥させた触媒質量とした。
すなわち、流出率が高い触媒は、反応器から流出しやすいため反応器内に残存しにくく、長期間の運転において反応に供する触媒が少なくなるため、結果として転化率が悪化する傾向にある。
【0153】
[実施例1]
(カルボン酸エステル製造用触媒の製造)
硝酸アルミニウム9水和物3.75kg、硝酸マグネシウム2.56kg、60質量%硝酸540gを純水5.0Lに溶解した水溶液を15℃に保持した攪拌状態のコロイド粒子径10~20nmのシリカゾル溶液(SiO2含有量30質量%)20.0kg中へ徐々に滴下し、pH=1.8となるようにpHを調整した。このようにして得られたシリカゾル、硝酸アルミニウム及び硝酸マグネシウムを含む原料混合液(固形分25質量%)を55℃に昇温した。その後、原料混合液を攪拌翼先端速度5.5m/sにて30時間攪拌し、最終Δ粘度0.5mPa・s/Hrの混合スラリーが得られた。
その後、スプレードライヤー装置にてFeed量/SD半径が25×10-3[m2]となるようにスラリーをフィードしながら、円盤(アトマイザ)周速度80m/sの条件で噴霧乾燥を行い、固形物を得た。なお、SD半径は本実施例で使用した回転円盤方式の噴霧乾燥機における横方向の半径を意味する。
次いで、得られた固形物を上部が開放したステンレス製容器に厚さ約1cm程充填し、電気炉で室温から300℃まで2時間かけ昇温後3時間保持した。さらに600℃まで2時間で昇温後3時間保持した後徐冷し、担体を得た。得られた担体は、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムの合計モル量に対し、ケイ素、アルミニウム及びマグネシウムをそれぞれ83.3モル%、8.3モル%、8.3モル%含んでいた。また、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から、担体の形状はほぼ球状であった。
【0154】
上記のようにして得られた担体300gを90℃に加温した1.0Lの水に分散させ、90℃で15分攪拌した。次に硝酸ニッケル6水塩16.35gと1.3mol/Lの塩化金酸水溶液12mLを含む水溶液を調製し、90℃に加温したものを上記担体スラリーに添加し、90℃でさらに30分攪拌を続け、ニッケルと金成分を担体上に不溶固定化させた。
次いで、静置して上澄みを除去し、蒸留水で数回洗浄した後、濾過した。これを乾燥機により105℃で10時間乾燥した後、マッフル炉で空気中450℃で5時間焼成することにより、ニッケル1.05質量%、金0.91質量%担持したカルボン酸エステル製造用触媒(NiOAu/SiO2-Al2O3-MgOの複合粒子担持物)を得た。得られたカルボン酸エステル製造用触媒のNi/Au原子比は4.0であった。
得られた複合粒子担持物を樹脂に包埋して研磨して得た試料をX線マイクロプローブ(EPMA)を用い、粒子断面の線分析に付した。その結果、担体の最外表面から0.5μmの深さの領域にはニッケル及び金を実質的に含まない外部層を有し、表面から10μmまでの深さの領域にニッケル及び金が担持され、担体内部には複合粒子は存在していないことが確認された。
次に、上記複合粒子担持物の形態を透過型電子顕微鏡(TEM/STEM)で観察したところ、粒子2~3nmに極大分布(数平均粒子径:3.0nm)を持つ球状のナノ粒子が担体に担持されていることが確認された。ナノ粒子をさらに拡大して観察すると、ナノ粒子にはAu(111)の面間隔と対応する格子縞が観察された。個々のナノ粒子に対してSTEM-EDSによる組成点分析を行ったところ、いずれの粒子にもニッケルと金が検出された。そのナノ粒子のニッケル/金原子比の平均値(算出個数:50)は1.05であった。さらに観察された粒子のナノ領域分析を行ったところ、粒子中央部のNi/Au原子比は0.90、粒子エッジ部が2.56であった。粒子以外の部分ではニッケルのみが微量に検出された。同様の測定を50点行った結果、いずれの粒子もエッジ部周辺においてニッケルが多く検出された。EDS元素マッピングからは、ニッケルと金の分布はほぼ一致していることが観察された。また、組成のラインプロファイルからは、いずれの走査方向においても、金の分布より一回り大きくニッケルが分布していた。
粉末X線回折(XRD)の結果から、ニッケルに由来する回折パターンは観測されず、非晶質の状態で存在していることが確認された。一方、明瞭なピークとは言えないものの、金の結晶に相当するブロードなピークが存在した。粉末X線回折の検出限界(2nm)に近い値ではあるものの、その平均結晶子径をScherrerの式より算出すると3nm程度であった。ニッケルの化学状態については、X線光電子分光法(XPS)の結果から、ニッケルは2価であることが確認された。
二結晶型高分解能蛍光X線分析法(HRXRF)の結果から、ニッケルの化学状態は、ニッケルのハイスピン2価と推測され、NiKαスペクトルの相違から単一化合物である酸化ニッケルとは異なる化学状態であることが判明した。実測スペクトルから得られた触媒のNiKαスペクトルの半値幅(FWHM)は3.470、化学シフト(ΔE)は0.335であった。標準物質として測定した酸化ニッケルのNiKαスペクトルの半値幅(FWHM)は3.249、化学シフト(ΔE)は0.344であった。
また、この複合粒子担持物の電子励起状態の変化を紫外可視分光法(UV-Vis)で調べた結果、530nm近傍の金ナノ粒子に由来する表面プラズモン吸収ピークは現れず、200~800nm波長域にNiO2起因のブロードな吸収が認められた。
以上の結果から、複合粒子の微細構造は、金ナノ粒子の表面が酸化状態のニッケルで覆われた形態を有していることが推測される。
【0155】
(カルボン酸エステル製造用触媒の物性評価)
得られたカルボン酸エステル製造用触媒の比表面積を求めたところ、141m2/gであった。また、カルボン酸エステル製造用触媒のレーザー・散乱法粒度分布測定による結果から粒径分布を得た結果、粒径分布半値幅Wは50μmであり、D50、D10/D50、D90/D50、W/D50の値は、それぞれ、60μm、0.7、1.5、0.8であった。粒径分布は、単一ピークであった。また嵩密度を測定したところ、1.05g/cm3であった。
【0156】
(カルボン酸エステルの製造)
得られたカルボン酸エステル製造用触媒240gを、触媒分離器を備え、液相部が1.2リットルの攪拌型ステンレス製反応器に仕込み、攪拌羽の先端速度4m/sの速度で内容物を攪拌しながら、アルデヒドとアルコールからの酸化的カルボン酸エステルの生成反応を実施した。すなわち、36.7質量%のメタクロレイン/メタノール溶液を0.6リットル/hr、1~4質量%のNaOH/メタノール溶液を0.06リットル/hrで連続的に反応器に供給し、反応温度80℃、反応圧力0.5MPaで出口酸素濃度が8.0容量%となるように空気を吹き込み、反応系のpHが7となるように反応器に供給するNaOH濃度をコントロールした。反応生成物は、反応器出口からオーバーフローにより連続的に抜き出し、ガスクロマトグラフィーで分析して反応性を調べた。
反応開始から500時間のメタクロレイン転化率は72%、メタクリル酸メチルの選択率は95%であった。また、触媒の流出率は2%であった。
【0157】
[実施例2~7及び比較例1~7]
担体製造時の混合スラリーの調製条件及び噴霧乾燥条件を表1に示すように変更したことを除き、実施例1と同様にカルボン酸エステル製造用触媒を製造した。すなわち、(i)原料混合液中の硝酸アルミニウム9水和物及び硝酸マグネシウムを溶解させる純水の量を増減することで固形分量を、(ii)60質量%硝酸の量を増減することでpHを、それぞれ表1の値となるように調整した。かかるカルボン酸エステル製造用触媒の物性を、実施例1と同様に評価し、さらに、これを用いて実施例1と同様にカルボン酸エステルを製造し、反応成績及び触媒の流出率を算出した。なお、実施例2~7の触媒の体積基準の粒径分布は、単一ピークであった。これらの結果を表1に示す。
【0158】