(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】有機ハイドライド製造用カソード拡散層
(51)【国際特許分類】
C25B 3/25 20210101AFI20241213BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20241213BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241213BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241213BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20241213BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241213BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20241213BHJP
【FI】
C25B3/25
C25B3/03
C25B9/00 G
C25B9/23
C25B13/08 302
C25B11/032
C25B11/052
C25B11/065
(21)【出願番号】P 2023535203
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2022025196
(87)【国際公開番号】W WO2023286560
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2021115961
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】金田 由香
(72)【発明者】
【氏名】山下 順也
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179601(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045645(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/096895(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069570(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/184455(WO,A1)
【文献】特開2017-190486(JP,A)
【文献】韓国登録特許第2254704(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0191605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 9/77
C25B 11/00 - 11/097
C25B 13/00 - 15/08
B01J 21/00 - 38/74
C01B 32/00 - 32/991
C04B 35/52 - 35/536
C04B 38/00 - 38/10
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続空隙を有する多孔体であり、線状部と該線状部を結合する結合部とを有し、前記線状部の平均繊維径が0.5μm以上4.0μm以下であ
り、平均炭素頻度が0.0004~0.0035μm
-2
である炭素フォームを含む、有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
【請求項2】
前記炭素フォームが、JIS P8125に準拠して測定されるテーバ曲げ剛さが1.0以上50.0gf・cm以下である、請求項1に記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
【請求項3】
前記炭素フォームが、少なくとも一部において前記結合部の密度が20,000個/mm
3以上であり、粉末X線回折測定における(002)面の回折から、結晶子サイズが1.50nm以上となる、請求項1または2に記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
【請求項4】
前記炭素フォームが、炭素頻度の標準偏差が0.0005以下である、請求項
1に記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
【請求項5】
前記炭素フォームが、平均炭素面積比率が0.010~0.300である、請求項
1又は
4に記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
【請求項6】
前記炭素フォームが、炭素面積比率の標準偏差が0.030以下である、請求項
5に記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
【請求項7】
プロトン伝導性の固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に水を酸化してプロトンを生成させるアノード触媒層が設けられ、かつ、前記固体高分子電解質膜の他方の面に被水素化物を還元するカソード触媒層、及び請求項1、2
、または
4のいずれか1項に記載のカソード拡散層が設けられた、有機ハイドライド製造用電解セル。
【請求項8】
プロトン伝導性の固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に水を酸化してプロトンを生成させるアノード触媒層が設けられ、かつ、前記固体高分子電解質膜の他方の面に被水素化物を還元するカソード触媒層、及び請求項
5に記載のカソード拡散層が設けられた、有機ハイドライド製造用電解セル。
【請求項9】
前記固体高分子電解質膜が、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体であり、イオン交換基の当量質量EWが600g/eq以上2000g/eq以下であり、下記蒸留水浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率が、80%以上100%未満であり、Z方向の寸法変化率が115%以上であり、小角X線散乱で測定される膜面に垂直な方向のイオンクラスター径が3.0nm以上である、請求項
7に記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
<蒸留水浸漬による寸法変化率>
含水率1%以下の試験用電解質膜を調整し、前記試験用電解質膜を蒸留水に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用電解質膜の面上のX方向、前記X方向に直交するY方向、並びに、前記X方向及び前記Y方向に直交するZ方向の寸法変化率を算出する。
寸法変化率(%)=(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)×100
【請求項10】
前記固体高分子電解質膜が、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体であり、イオン交換基の当量質量EWが600g/eq以上2000g/eq以下であり、下記蒸留水浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率が、80%以上100%未満であり、Z方向の寸法変化率が115%以上であり、小角X線散乱で測定される膜面に垂直な方向のイオンクラスター径が3.0nm以上である、請求項
8に記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
<蒸留水浸漬による寸法変化率>
含水率1%以下の試験用電解質膜を調整し、前記試験用電解質膜を蒸留水に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用電解質膜の面上のX方向、前記X方向に直交するY方向、並びに、前記X方向及び前記Y方向に直交するZ方向の寸法変化率を算出する。
寸法変化率(%)=(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)×100
【請求項11】
前記固体高分子電解質膜が、小角X線散乱で測定される結晶長周期のピーク強度が0.5以下である、請求項
9または
10に記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
【請求項12】
前記固体高分子電解質膜が、クレーズ面積率が1.5%以下である、請求項
9または
10に記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
【請求項13】
前記固体高分子電解質膜が、クレーズ面積率が1.5%以下である、請求項
11に記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を電気化学的に水素化する技術に関し、具体的には、カソード拡散層及びカソード拡散層を用いた有機ハイドライド製造用電解セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、石油精製、化学合成材料、金属精製、定置用燃料電池等、工業的に広く利用されている。近年は、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションやスマートコミュニティ、水素発電所等における利用の可能性も広がっている。さらに、再生可能エネルギーの導入が進むにつれて、電力網の需給バランスを維持する必要が出てきたため、大容量の電力を効率的に貯蔵・輸送する水素キャリア技術の開発が進められている。
【0003】
水素キャリアとしては、主に液化水素、アンモニア、そして水素をベンゼン、トルエン、ナフタレンなどの有機化合物に化学的に結合させた水素化有機化合物が挙げられる。液化水素は水素圧縮密度が高いという利点があるが、貯蔵・輸送に低温高圧を必要とし、またボイルオフによるエネルギー効率の低下がコストを上げる要因となっている。アンモニアは液化水素よりも高密度に水素を貯蔵することができるが、水素を外して利用するための脱水素技術の確立や取り扱い方法の確立が大きな課題である。一方で水素化有機化合物の一種である、トルエンに水素を結合させたメチルシクロヘキサンは、液化水素やアンモニアには劣るものの、圧縮水素より高密度に水素を貯蔵でき、またガソリンと同様のインフラ技術が利用できるという利点がある。さらに脱水素触媒も開発されており、メチルシクロヘキサンは最も実現性が高い水素キャリアと考えられている。
【0004】
水素キャリアとしての水素化有機化合物は、粒状触媒を網目状の床に担持した固定床式反応器に、水素と被水素化有機化合物のガスを高温高圧状態で流入することで製造されている。しかしベンゼン、トルエンなどの被水素化有機化合物への水添反応は発熱反応であるため、水素の持つエネルギーの一部が熱として失われてしまう。また、水素化有機化合物から水素を取り出すには、この熱損失分のエネルギーを再び投入しなければならないため、水素利用のために必要なエネルギーコストが高くなるという課題がある。
【0005】
一方で、水と被水素化有機化合物を電気化学的に反応させることで、水素を経由することなく直接的に水素化有機化合物を製造する技術が開発されている。この方法により、水添反応による熱損失を削減でき、さらに水添プラントが不要になるため、大幅な設備削減も可能になる。結果として水素利用のトータルコスト削減も期待できる。
【0006】
特許文献1~5においては、燃料電池と同様の構造を持つ固体高分子電解質(PEM)型電解合成セルを有する電気化学還元装置を用いて水素化有機化合物を製造する方法が報告されている。特許文献6には、炭素フォームを電極に使用したレドックスフロー電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開第2003-45449号公報
【文献】特開第2005-126288号公報
【文献】特開第2013-111585号公報
【文献】国際公開第2015/029367号
【文献】国際公開第2015/146944号
【文献】国際公開第2020/184455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記技術では、電解効率において改善すべき点が残されている。有機ハイドライドの電解合成においては、水溶液であるアノード室液と、有機化合物であるカソード室液とを分離するために、PEM膜で隔てられている。カソード室の電極表面では、原料である被水素化有機化合物の供給と、生成物である水素化有機化合物の排出を速やかに、かつ均一に行うことが必要である。供給と排出が速やかに行われないと、副反応による水素発生につながり、目的とするトルエンの還元を妨げ、電流効率の低下が生じてしまう。この観点で、有機ハイドライド電解合成セルの温度を高くすると、被水素化有機化合物であるトルエンの粘性が減少し、トルエンの物質移動が改善される一方、アノード室からPEM膜を透過し、カソード室へ拡散する水の量が増大し、トルエンの物質移動を阻害してしまう。これにより、電解合成セルに通電した電子数に対する水素化有機化合物精製に寄与した電子数の効率である電流効率が低下してしまう。この傾向は、電流密度が高くなると顕著に表れる。さらなる電流効率の改善をするために、トルエンの物質移動の改善が強く望まれている。
【0009】
特許文献6には、炭素フォーム電極内に電解液水溶液を通し、電極表面で活物質と電子の授受を行うことで、充放電されるレドックスフロー電池が開示されているが、物質移動については言及されていない。
【0010】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、カソード室側の物質移動抵抗を改善することで、高い電流密度でも良好な電流効率を示す有機ハイドライド製造用カソード拡散層及び、有機ハイドライド製造用電解セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した結果、特定の多孔質構造を持つ炭素フォームをカソード拡散層に用いることで、物質移動抵抗を低減し、高い電流密度でも良好な電流効率を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
連続空隙を有する多孔体であり、線状部と該線状部を結合する結合部とを有し、前記線状部の平均繊維径が0.5μm以上4.0μm以下であり、平均炭素頻度が0.0004~0.0035μm
-2
である炭素フォームを含む、有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
[2]
前記炭素フォームが、JIS P8125に準拠して測定されるテーバ曲げ剛さが1.0以上50.0gf・cm以下である、[1]に記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
[3]
前記炭素フォームが、少なくとも一部において前記結合部の密度が20,000個/mm3以上であり、粉末X線回折測定における(002)面の回折から、結晶子サイズが1.50nm以上となる、[1]または[2]に記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
[4]
前記炭素フォームが、炭素頻度の標準偏差が0.0005以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
[5]
前記炭素フォームが、平均炭素面積比率が0.010~0.300である、[1]~[4]のいずれかに記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
[6]
前記炭素フォームが、炭素面積比率の標準偏差が0.030以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の有機ハイドライド製造用カソード拡散層。
[7]
プロトン伝導性の固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に水を酸化してプロトンを生成させるアノード触媒層が設けられ、かつ、前記固体高分子電解質膜の他方の面に被水素化物を還元するカソード触媒層、及び[1]~[6]のいずれかに記載のカソード拡散層が設けられた、有機ハイドライド製造用電解セル。
[8]
前記固体高分子電解質膜が、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体であり、イオン交換基の当量質量EWが600g/eq以上2000g/eq以下であり、下記蒸留水浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率が、80%以上100%未満であり、Z方向の寸法変化率が115%以上であり、小角X線散乱で測定される膜面に垂直な方向のイオンクラスター径が3.0nm以上である、[7]に記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
<蒸留水浸漬による寸法変化率>
含水率1%以下の試験用電解質膜を調整し、前記試験用電解質膜を蒸留水に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用電解質膜の面上のX方向、前記X方向に直交するY方向、並びに、前記X方向及び前記Y方向に直交するZ方向の寸法変化率を算出する。
寸法変化率(%)=(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)×100
[9]
前記固体高分子電解質膜が、小角X線散乱で測定される結晶長周期のピーク強度が0.5以下である、[7]又は[8]に記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
[10]
前記固体高分子電解質膜が、クレーズ面積率が1.5%以下である、[7]~[9]のいずれかに記載の有機ハイドライド製造用電解セル。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い電流密度でも良好な電流効率を示す有機ハイドライド製造用カソード拡散層及び、有機ハイドライド製造用電解セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】連続空隙を持つ炭素フォームの一例のSEM画像である。
【
図2】本実施形態による炭素フォームの製造方法のフローチャートである。
【
図3】実施例1に用いた炭素フォームのSEM画像である。
【
図4】比較例3に用いた炭素フォームのSEM画像である。
【
図5】実施例3に用いた炭素フォームの炭素頻度を算出した解析画像である。
【
図6】実施例3、
参考例11に用いた炭素フォーム、
参考例13に用いた炭素繊維ペーパ、比較例2に用いた炭素繊維不織布の厚さ方向に対する1μm
2あたりの炭素頻度を示すグラフである。
【
図7】実施例3、
参考例11に用いた炭素フォーム、
参考例13に用いた炭素繊維ペーパ、比較例2に用いた炭素繊維不織布の厚さ方向に対する炭素面積比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
本実施形態の有機ハイドライドを製造する有機ハイドライド製造装置は、プロトン伝導性の高分子膜電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方の面に設けられ、水を酸化してプロトンを生成させるアノード触媒と、前記固体高分子電解質膜のもう一方の面に設けられ、被水素化物を還元するカソード触媒層とが設けられ、水を供給するアノード室と被水素化物を供給するカソード室を隔てている。カソード拡散層は、カソード室内に設けられ、カソード触媒に隣接するように設けられており、被水素化物の供給と水素化物の排出を行う役割と還元に使われる電子の導電体の役割を担っている。
【0017】
本実施形態のカソード拡散層は、集電体から触媒層へと電子を効率良く導電させる観点から、導電体が三次元的に連続した構造をしていることが好ましい。
また、被水素化物と水素化物の物質移動を速やかに行う観点から、連続空隙を持つ多孔体であることが好ましい。これらの観点から、炭素フォームが好適に用いられる。
図1は、連続空隙を持つ炭素フォームの一例のSEM画像である。
【0018】
本実施形態の炭素フォームは、線状部と当該線状部を結合する結合部とを有することが好ましい。1つの結合部においては複数(2つ以上、3つ以上、4つ以上等)の線状部が結合されていてよい。本発明において、線状部の繊維径は、結合部を繋ぐ線状部の太さである。線状の形状を備える部分のうち、繊維径が当該部分の繊維径の最小値の2倍以内である範囲を、線状部とし、繊維径が当該部分の繊維径の最小値の2倍超である範囲は、結合部とする。
【0019】
(線状部の平均繊維径)
本実施形態の炭素フォームにおける線状部の平均繊維径は、物理的な強度と導電性が良好な観点から、0.5μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましく、1.2μm以上が最も好ましい。また、炭素フォームの圧縮挙動時の変形性や復元性が良好に保たれる観点から、線状部の平均繊維径は4.0μm以下が好ましく、3.5μm以下がより好ましく、3.0μm以下が最も好ましい。
【0020】
(結合部密度)
本実施形態の炭素フォームの結合部の密度は、圧縮荷重を印加された際の復元性の観点から、20,000個/mm3以上であることが好ましく、より好ましくは80,000個/mm3以上であり、さらに好ましくは500,000個/mm3以上である。また、炭素フォームの結合部の密度は、炭素フォームの柔軟性の観点から、5,000,000個/mm3以下であることが好ましく、より好ましくは4,000,000個/mm3以下であり、さらに好ましくは3,000,000個/mm3以下である。
【0021】
本実施形態の炭素フォーム中の少なくとも一部に上記結合部の密度範囲を満たす箇所があることが好ましく、50体積%で上記の密度範囲を満たしていることがより好ましく、75体積%で上記の密度範囲を満たしていることがさらに好ましく、炭素フォームの任意の箇所で上記の密度範囲を満たしていることが特に好ましい。
【0022】
(表面官能基濃度)
本実施形態の炭素フォームでは、X戦光電子分光法によって測定される炭素原子のうち、黒鉛の割合が70at%以上が好ましい。当該割合が70at%以上であることにより、炭素フォームをカソード拡散層に用いる構成において長期充放電に対して安定的に抵抗が低く維持され得る。さらに、代替的または付加的に、本実施形態における炭素フォームでは、X戦光電子分光法によって測定される炭素原子のうち、ヒドロキシ基を有する炭素原子、カルボニル基を構成する炭素原子、およびカルボキシ基を構成する炭素原子の割合の合計は、被水素化物との親和性を良好にし、固体高分子電解質膜を透過する水の排出を良好にする観点から、40at%以下が好ましく、20at%以下がより好ましく、10at%以下が好ましい。
【0023】
(炭素含有率)
本実施形態の炭素フォームの炭素含有率は、導電性の観点から51質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。炭素含有理の上限は、特に限定されないが、100質量wt%以下であってもよく、99質量wt%以下であってもよい。
なお、炭素フォームの炭素含有率は、蛍光X線測定から求めることができ、具体的には炭素含有率は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0024】
(結合部の数に対する線状部の数の割合)
本実施形態の炭素フォームにおいて、結合部の数に対する線状部の数の割合は、1.4以上1.55以下であってよい。割合は、換言すれば、結合部にて分岐する枝分かれの平均数である。当該割合が1.4以上であることにより、線状部が結合部で結合した三次元網目状構造を有さず、不織布のように結合していない線状部が接触している構造が本実施形態の炭素フォームから排除され得る。また、当該割合が1.55以下であることにより、線状部が帯状の様になった、例えば蜂の巣の様な壁面で覆われた多孔性構造が本実施形態の炭素フォームから排除され得る。当該割合は、好ましくは1.42以上1.53以下、より好ましくは1.44以上1.50以下である。
【0025】
(線状部の配向角度)
炭素フォームは、熱処理炉において、例えばメラミン樹脂フォームを熱処理して炭素化すると、炭素フォームの骨格を構成する炭素繊維がすべての方向に均等に広がった等方的な構造を有するものとなる。このような炭素フォームでは、線状部の互いに直交する三方向の各々に対する配向角度の平均値について、一方向に対する配向角度の平均値と、他の方向に対する配向角度の平均値の差θは通常は1°以下である。
ただし、メラミン樹脂フォームを熱処理して炭素化する際に、炭素フォームの原料となる樹脂フォームに圧縮応力を印加すると、炭素繊維の拡がりに異方性を有する骨格構造の炭素フォームが得られる。このような炭素フォームでは、圧縮荷重が印加された際にも、炭素繊維(線状部)の破断を抑制して粉落ちが低減され得、高い復元性が実現され得る。この効果を得るために、本実施形態における炭素フォームでは、配向角度の平均値の差が3°以上であってよい。当該差は、好ましくは5°以上であり、より好ましくは8°以上である。なお、上記三方向は、例えば、x、y、z方向としてよく、炭素フォームに対して任意に設定されてよい。
【0026】
(空隙率)
本実施形態の炭素フォームの空隙率は、柔軟性の観点から50%以上であってよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。また、本実施形態の炭素フォームの空隙率は、表面積が向上し且つセル抵抗が低減する観点から、99%以下であってよく、98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましい。
【0027】
なお、本実施形態において、空隙率は、かさ密度および真密度から求めた値である。かさ密度は、炭素フォームに含まれる空隙も含めた体積に基づいた密度である。これに対して、真密度は、炭素フォームの材料が占める体積に基づいた密度である。
【0028】
(テーバ曲げ剛さ)
本実施形態の炭素フォームは、取り扱いが良好である観点から、JIS P8125に準拠して測定されるテーバ曲げ剛さが1.0gf・cm以上であることが好ましく、5.0gf・cm以上がより好ましく、10.0gf・cm以上が最も好ましい。一方で柔軟性が高く、セル内部での追随性が良好な観点から、50.0gf・cm以下が好ましく、45.0gf・cm以下がより好ましく、40.0gf・cm以下が最も好ましい。炭素フォームのテーバ曲げ剛さは、例えば炭素フォームを形成する過程で圧縮し、密度を高く調整することや、炭素フォーム表面を例えばカーボンブラック等の炭素材料で被覆することでテーバ曲げ剛さを高くすることができる。
【0029】
(結晶子サイズ)
本実施形態の炭素フォームの結晶子サイズLcは、1.50nm以上であることが好ましく、導電性の観点からは1.80nm以上であることがより好ましい。また物理的な脆弱性の点から4.00nm以下であることが好ましく、3.00nm以下であることがより好ましい。
【0030】
(平均炭素頻度)
本実施形態の炭素フォームの平均炭素頻度は、カソード触媒層、集電板(カソードプレート)との良好な接触を確保し、抵抗を低減することができる観点から0.0004以上が好ましく、より好ましくは0.0005以上であり、さらに好ましくは0.0010以上である。また、カソード拡散層内の強度を維持し、柔軟性を確保することで、取り扱い性が良好になる観点から、平均炭素頻度は、0.0035以下が好ましく、より好ましくは0.0030以下であり、さらに好ましくは0.0028以下である。
【0031】
(平均炭素面積比率)
本実施形態の炭素フォームの平均炭素面積比率は、カソード拡散層の電気伝導性が良好となる観点から、0.010以上が好ましく、より好ましくは0.020以上であり、さらに好ましくは0.10以上である。また、カソード拡散層内の通液性を確保し、物質移動における抵抗を低減する観点から、平均炭素面積比率は、0.300以下が好ましく、より好ましくは0.250以下であり、さらに好ましくは0.200以下である。
【0032】
(炭素頻度の標準偏差)
本実施形態の炭素フォームの炭素頻度の標準偏差は、カソード拡散層内の通液性が均一となり、水素付加反応が効率的に生じ、電流効率が良い観点から、0.0005以下が好ましく、より好ましくは0.0004以下であり、さらに好ましくは0.0002以下である。炭素頻度の標準偏差の下限は特に制限されない。
【0033】
(炭素面積比率の標準偏差)
本実施形態の炭素フォームの炭素面積比率の標準偏差は、カソード拡散層内の通液性が均一となり、水素付加反応が効率的に生じ、電流効率が良い観点から、0.030以下が好ましく、より好ましくは0.025以下であり、さらに好ましくは0.020以下である。炭素面積比率の標準偏差の下限は特に制限されない。
【0034】
(結晶子サイズの測定方法)
炭素フォームの(002)面の回折から結晶子サイズLcを評価する。サンプルを乳鉢で粉砕した後、卓上X線回折装置 D2 PHASER(Bluker社製)を用いて粉砕したサンプルの広角X線測定を行う。具体的な測定条件は以下の通りである。
-測定条件-
線源:Cu Kα
管電流:30mA
管電圧:40kV
スリット:1mm
試料回転速度:10回転/min
1ステップの測定時間:0.3sec
開始角度(2θ):5.00°
測定ステップ(2θ):0.01°
終了角度(2θ):90.00°
上記測定後、得られたデータを解析し、結晶子サイズLcを算出する。結晶子サイズLcの算出には2θ=25度の付近に現れる(002)面の回折ピークの半値幅β、ピーク最大値の角度θを下記の式(c)(Scherrerの式)に代入して求めることができる。一般的に高い温度で炭素化するほど高い結晶性を有し、Lcの値が大きくなる。
Lc=(Kλ)/βcosθ・・・(c)
ここでKは形状因子、λは線源の波長である。形状因子は(002)面回折であるため、0.90を代入する。線源は今回CuKαを用いているため、1.541を代入して計算を行う。
【0035】
(平均繊維径の測定方法)
本明細書において、炭素フォームを構成する炭素繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)像を画像解析することによって求められる。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍の倍率で炭素フォームが観察される。断面形状が円形であると仮定して、炭素繊維の太さが繊維径とみなされる。なお、平均繊維径は、任意の20箇所において、上述のように測定した繊維径の平均値である。
【0036】
(結合部密度、結合部および線状部それぞれの数、ならびに配向角度の測定方法)
本明細書において、結合部密度、結合部および線状部それぞれの数、ならびに配向角度は、X線CT(Computerized Tomography)装置を用いて炭素フォームを撮影し、得られた断層像データから、前処理として半径2ピクセルのフィルタサイズにて3次元Median filterを使用した後に、大津の二値化アルゴリズム(大津 展之著、「判別および最小2乗規準に基づく自動しきい値選定法」、電子情報通信学会論文誌D、Vol.J63-D、No.4、pp.346-356(1980)参照)を用いて構造と空間に領域分割し、炭素フォームの内部を含めた構造の三次元画像を作製し、得られた三次元画像から構造解析ソフトウェアを用いて求めた値である。
具体的には、結合部および線状部それぞれの数は、上述のように得られた三次元画像に含まれる結合部および線状部を検出し、その数をカウントすることにより求められる。結合部密度は、1mm×1mm×1mmの単位体積当たりの結合部の数をカウントすることにより求められる。結合部の数に対する線状部の数の割合は、同一の炭素フォームに対して上述のようにしてカウントされた結合部および線状部それぞれの数に基づいて求められる。
また、線状部の配向角度θは、線状部の両端の結合部を結ぶ直線と各方向との間の角度であり、三次元画像において互いに直交する三方向の各々に対して求め、各方向について、線状部の配向角度の平均値が求められる。
炭素フォームの構造解析に用いるCT装置としては、低エネルギー高輝度X線によるCT装置、例えば株式会社リガク製の高分解能3DX線顕微鏡nano3DXを用いることができる。また、画像処理並びに構造解析には、例えば株式会社JSOL社製のソフトウェアsimplewareのCenterline editorを用いることができる。
【0037】
(平均炭素頻度、平均炭素面積比率の測定方法)
本明細書において、炭素フォームの平均炭素頻度、平均炭素面積比率の測定は、以下のように行われる。上記X線CT装置を用いて得られた三次元画像を、半径2ピクセルのフィルタサイズで3次元Median filterで処理し、大津のアルゴリズムを用いて二値化する。さらに、炭素フォームの厚さ方向の断面画像(炭素フォームの厚さ方向に垂直に切断した断面の画像)の解析領域(624μm×624μm)内で、画像処理ソフトImageJの粒子解析機能を使用して、解析領域内の連続する炭素部分の個数、連続する炭素部分の面積の総和を検出し、下記式のとおり解析領域の面積で除することにより、1μm×1μmあたりの炭素頻度、および炭素面積比率を算出することができる。同様の操作を、炭素フォームの厚さ方向の断面画像1152枚(0.54μm/ピッチで取得)について繰り返し行い、全領域で得られた測定値の平均値を算出することで平均炭素頻度、平均炭素面積比率を求めることができる。
なお、解析の際、画像端の領域を含めた解析条件で算出することができる。
また、平均を算出する際は、サンプルとなる炭素が存在しない領域を除くため、解析領域での炭素面積比率が0.01以上である断面画像を用いて求めるものとする。
炭素頻度(μm-2)=連続する炭素部分の個数/解析領域の面積
炭素面積比率=連続する炭素部分の総面積/解析領域の面積
[画像処理条件]
画素数:1152×1202ピクセル
画素サイズ:0.54μm/ピクセル
厚さ方向:1152枚(0.54μm/ピッチ)
使用ソフト:ImageJ 1.50i
【0038】
(炭素頻度の標準偏差の測定方法)
上述の炭素フォームの平均炭素頻度について、厚さ方向の各断面画像で得られた炭素頻度の標準偏差を求めることができる。その際、サンプルとなる炭素が存在しない領域を除くため、解析領域での炭素面積比率が0.01以上となる断面画像を用いるものとする。
【0039】
(炭素面積比率の標準偏差の測定方法)
上述の炭素フォームの炭素面積比率について、厚さ方向の各断面画像で得られた炭素面積比率の標準偏差を求めることができる。その際、サンプルとなる炭素が存在しない領域を除くため、解析領域での炭素面積比率が0.01以上となる断面画像を用いるものとする。
【0040】
(表面積の測定方法)
本明細書において、炭素フォームの表面積は、例えばノギスなどを用いて表面の寸法が測定され、得られた寸法から表面積が求められる。
【0041】
(官能基濃度の測定方法)
本明細書において、炭素フォームのX線光電子分光法による表面分析は以下のように行われる。炭素フォーム表面の含酸素官能基濃度はX線光電子分光計(パーキンエルマー,ESCA-5500MT)を用いて測定することができる。得られたC1sピークを、結合エネルギー284.4eV(黒鉛)、285.6eV(C-OH)、287.0eV(C=O)および288.6eV(COOH)をピークとする4つのガウス分布によってフィッティングし、4つのピークの合計面積に対する各ピークの面積の割合を算出することで、各表面官能基濃度を求めることができる。また、4つのピーク合計面積に対する、結合エネルギーが285.6eV(C-OH)、287.0eV(C=O)および288.6eV(COOH)における3つのピーク合計面積の割合から、全表面官能基濃度を求めることができる。
【0042】
(空隙率の算出)
本明細書では、以下に説明するように求めたかさ密度ρbulkおよび真密度ρrealから、下記の式(X)を用いて空隙率Vf,poreを求めることができる。
Vf,pore=((1/ρbulk)-(1/ρreal))/(1/ρbulk)×100 (%) ・・・(X)
【0043】
(かさ密度の測定)
まず、ノギス等を用いて炭素フォームの寸法を測定し、得られた寸法から、炭素フォームのかさ体積Vbulkが求められる。次に、精密天秤を用いて、炭素フォームの質量Mが測定される。得られた質量Mおよびかさ体積Vbulkから、下記の式(Y)を用いて炭素フォームのかさ密度ρbulkを求めることができる。
ρbulk=M/Vbulk ・・・(Y)
【0044】
(真密度の測定)
炭素フォームの真密度ρrealは、n-ヘプタン、四塩化炭素および二臭化エチレンからなる混合液を用いて浮沈法によって求めることができる。具体的には、まず、共栓試験管に適当なサイズの炭素フォームが入れられる。次に、3種の溶媒が適宜混合して試験管に加えられ、30℃の恒温槽に漬けられる。試料片が浮く場合は、低密度であるn-ヘプタンが加えられる。一方、試験片が沈む場合は、高密度である二臭化エチレンが加えられる。この操作を繰返して、試験片が液中に漂うようにする。最後に、液の密度がゲーリュサック比重瓶を用いて測定される。
【0045】
(炭素フォームの製造方法)
本実施形態の炭素フォームの製造方法は、炭素フォームの原料となる樹脂フォームを熱処理炉内に導入する原料フォーム導入工程と、熱処理炉内の温度を第1の昇温速度で熱処理温度まで昇温する昇温工程と、上記熱処理温度で所定の時間保持して樹脂フォームを炭素化して炭素フォームとする炭素化工程と、熱処理炉内の温度を室温まで降温する降温工程と、熱処理炉から炭素フォームを搬出する炭素フォーム搬出工程とを備えていてよい。ここで、上記昇温工程は、少なくとも樹脂フォームからの分解性脱離ガスの発生量が多い第1の温度領域において、熱処理炉内を減圧排気しながら行われてよい。
【0046】
図2は、本実施形態による炭素フォームの製造方法のフローチャートである。
【0047】
まず、ステップS1において、炭素フォームの原料となる樹脂フォームが熱処理炉内に導入される。
【0048】
(原料フォーム導入工程)
炭素フォームの原料となる樹脂フォームとしては、炭素フォームの原料として公知の任意の樹脂フォームを用いることができる。例えば、原料の樹脂フォームとしてメラミン樹脂フォームを用いる場合、このメラミン樹脂フォームとしては、例えば特開平4-349178号公報に開示されている方法により製造されるメラミン/ホルムアルデヒド縮合発泡体を用いることができる。なお、樹脂フォームとしては、メラミン樹脂フォームに限定されず、ウレタン樹脂フォームおよびフェノール樹脂フォームであってもよい。
上記方法によれば、まず、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物と、乳化剤、気化性発泡剤、硬化剤、および必要に応じて周知の充填剤とを含有する水溶液または分散液を発泡処理した後、硬化処理を施すことによりメラミン/ホルムアルデヒド縮合フォームを得ることができる。
【0049】
上記方法において、メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物としては、例えばメラミン:ホルムアルデヒド=1:1.5~1:4、平均分子量が200~1000のものを使用することができる。また、乳化剤としては、例えば、0.5~5質量%(メラミン/ホルムアルデヒド前縮合物基準、以下同じ)のアルキルスルホン酸やアリールスルホン酸のナトリウム塩などが挙げられる。また、気化性発泡剤としては、例えば、1~50質量%のペンタンやヘキサンなどが挙げられる。また、硬化剤としては、0.01~20質量%の塩酸や硫酸などが挙げられる。発泡処理および硬化処理では、使用した気化性発泡剤などの種類に応じて設定される温度に、上記成分からなる溶液が加熱されればよい。
【0050】
また、原料の樹脂フォームを炭素化するための熱処理炉としては、樹脂フォームを炭素化して炭素フォームが得られる炉であれば限定されず、例えば原料の樹脂フォームを収容する反応炉と、反応炉内を加熱するヒーターと、反応炉内に不活性ガスを導入するガス導入口と、反応炉内からガスを排出するガス排出口と、反応炉内を減圧して真空にする真空ポンプとを備える熱処理炉を用いることができる。
【0051】
次に、ステップS2において、熱処理炉内の温度が第1の昇温速度で所定の熱処理温度まで昇温される(昇温工程)。その際、樹脂フォームからの分解性脱離ガスの発生量が多い第1の温度領域において、熱処理炉内を減圧排気しながら行うことが肝要である。
【0052】
上述のように、炭素フォームの原料である樹脂フォームを加熱すると、樹脂フォームから発生した活性な分解性脱離ガスが、炭素フォームを構成する炭素繊維と反応して局所的に分解し、炭素フォームに不均質性を生じさせる。分解性脱離ガスの発生量は、炉内の温度に依存する。そこで、本実施形態においては、昇温工程における、樹脂フォームからの分解性脱離ガスの発生量が多い温度領域(第1の温度領域)において、熱処理炉内が減圧排気される。これにより、樹脂フォームの内部で発生した分解性脱離ガスの樹脂フォーム外への拡散が促進されて、炭素フォームにおける不均質性の発生を防止することができる。
【0053】
なお、本実施形態において、樹脂フォームからの分解性脱離ガスの発生量が多い温度領域(第1の温度領域)は、昇温工程における原料の樹脂フォームの重量を0℃から100℃間隔で予めモニタリングし、樹脂フォームの重量が100℃当たり初期重量の5%以上減少する温度領域とする。例えば、300℃以上400℃未満、400℃以上500℃未満および500℃以上600℃未満のすべての温度領域において、樹脂フォームの重量が100℃当たり初期重量の5%以上減少した場合には、第1の温度領域は300℃以上600℃未満である。
【0054】
本発明者らによる検討の結果、樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合、分解性脱離ガスの発生量が多い温度領域(第1の温度領域)は、200℃以上800℃未満の温度領域であることが分かった。そこで、例えば樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合には、少なくとも上記第1の温度領域において、熱処理炉内が減圧排気される。
【0055】
上述の減圧排気は、真空ポンプ等の排気手段を用いて行うことができるが、これは、少なくとも炉内の圧力を10分以内に1Pa以下にできる排気能力を有するポンプを用いて行われる。
【0056】
熱処理温度までの昇温速度(第1の昇温速度)は、例えば、原料の樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合、分解性脱離ガスの発生量を抑制する観点から、10℃/分以下であることが好ましい。また、全体の生産性の観点から、第1の昇温速度は1℃/分以上であることが好ましい。
【0057】
また、昇温工程は、上記樹脂フォームからの分解性脱離ガスの発生量が多い温度領域(第1の温度領域)においては、熱処理温度までの昇温速度(第1の昇温速度)よりも低い昇温速度(第2の昇温速度)で行うことが好ましい。これにより、樹脂フォーム内で発生する単位時間当たりの分解性脱離ガスの発生量を低減して、フォーム構造外への分解性脱離ガスの拡散をより促進することができる。第1の温度領域において昇温速度を低減した場合(すなわち、第2の昇温速度に変更した場合)、炉内の温度が第1の温度領域の上限を超えた後には、昇温速度を第1の昇温速度に戻して昇温すればよい。
【0058】
さらに、昇温工程は、脱離ガスの発生量が多い第1の温度領域内の、分解性脱離ガスの発生量の増加率が高い領域(第2の温度領域)において、第2の昇温速度よりも低い昇温速度(第3の昇温速度)で行うことが好ましい。これにより、樹脂フォーム内で発生する単位時間当たりの分解性脱離ガスの発生量をさらに低減して、フォーム構造外への分解性脱離ガスの拡散をさらに促進することができる。
【0059】
なお、本実施形態において、樹脂フォームからの分解性脱離ガスの発生量の増加率が高い温度領域(第2の温度領域)は、昇温工程における原料の樹脂フォームの重量を0℃から100℃間隔で予めモニタリングし、樹脂フォームの重量が100℃当たり初期重量の20%以上減少する温度領域としてよい。例えば、300℃以上400℃未満および400℃以上500℃未満の温度領域において、樹脂フォームの重量が100℃当たり初期重量の20%以上減少した場合には、第2の温度領域は300℃以上500℃未満である。
【0060】
原料の樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合、樹脂フォームからの脱離ガスの発生量が多い温度領域(第1の温度領域)は、上述のように200℃以上800℃未満の温度領域である。また、本発明者らによる検討の結果、樹脂フォームからの脱離ガスの発生量の増加率が高い温度領域(第2の温度領域)は、300℃以上400℃未満の温度領域であることが分かった。そこで、原料の樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合、昇温速度は、第1の温度領域において5℃/分以下であることがより好ましく、さらに第2の温度領域において3℃/分以下であることが特に好ましい。
【0061】
また、本昇温工程および後述する炭素化工程において、酸素と炭素フォームを構成する炭素繊維との分解反応を防止するために、炉内の雰囲気を不活性ガス雰囲気または真空としてよい。ここで、炉内が真空であるとは、炉内の真空度が1Pa未満であることを指す。また、不活性ガス雰囲気は、炭素フォームの原料となる樹脂フォームを熱処理炉内に導入した後(原料フォーム導入工程)、炉内を減圧排気して酸素が含まれる空気が抜かれる。そして、炉内が1Pa未満の真空度に達して十分に空気が脱気された後、窒素ガスが導入される。こうして炉内を窒素ガス雰囲気にすることができる。このように、炉内を不活性ガス雰囲気又は真空とした後、昇温を開始し、第1の温度領域においては炉内が減圧排気される。
【0062】
さらに、メラミン樹脂フォームの脱離ガス量が多い200℃以上800℃未満の領域(第1の温度領域)においては、炉内に不活性ガスを導入しながら減圧排気し続けることが好ましい。これにより、炉内に窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスの流れを発生させて、樹脂フォーム内で発生した分解性脱離ガスの排出を促進することができる。
【0063】
不活性ガスの導入の際、不活性ガスの流量は1L/分以上であることが好ましく、3L/分以上であることがより好ましく、5L/分以上であることが特に好ましい。また、不活性ガスの流量は40L/分以下であることが好ましく、30L/分以下であることがより好ましく、20L/分以下であることが特に好ましい。
【0064】
続いて、ステップS3において、昇温して到達した熱処理温度で所定の時間保持し、樹脂フォームを炭素化して炭素フォームが得られる(炭素化工程)。本実施形態においては、熱処理温度は原料の樹脂フォームの軟化点以上の温度とする。例えば、樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合、メラミン樹脂フォームの軟化点は300℃~400℃であるため、熱処理温度は軟化点以上の温度である。メラミン樹脂フォームに対する熱処理温度は、好ましくは800℃以上であり、より好ましくは1000℃以上である。また、高い結晶性による物理的な脆弱性の観点から、メラミン樹脂フォームに対する熱処理温度は、好ましくは3000℃以下であり、より好ましくは2500℃以下である。
【0065】
また、熱処理温度で保持する時間(熱処理時間)は、原料の樹脂フォームが完全に炭素化する時間であってよい。例えば、原料の樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合、保持時間は0.5時間以上とする。メラミン樹脂フォームに対する保持時間は、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは2時間以上である。また、生産性の点から、メラミン樹脂フォームに対する保持時間は、好ましくは5時間以下であり、より好ましくは4時間以下である。
【0066】
次に、ステップS4において、熱処理炉内の温度が室温まで降温される(降温工程)。メラミン樹脂フォームの炭素化の際の温度の降温速度は、急冷による炉内のヒーターや断熱材へのダメージを緩和する観点から20℃/分以下であることが好ましい。メラミン樹脂フォームに対する降温速度は、より好ましくは、15℃/分以下である。また、全体の生産性の点から、メラミン樹脂フォームに対する降温速度は、5℃/分以上が好ましい。メラミン樹脂フォームに対する降温速度は、より好ましくは、10℃/分以上である。
【0067】
最後に、ステップS5において、熱処理炉から炭素フォームが搬出される(炭素フォーム搬出工程)。こうして、上記した本発明による炭素フォームを製造することができる。
【0068】
なお、昇温工程および炭素化工程を、原料の樹脂フォームに圧縮荷重を印加しながら行うことにより、炭素繊維の拡がりに異方性を有する骨格構造の炭素フォームを得ることができる。上述のように、異方性を有する炭素フォームは、圧縮荷重が印加された際にも、炭素繊維の破断を抑制して粉落ちを低減したり、高い復元性を実現したりすることができる。
【0069】
上記圧縮荷重の印加は、原料の樹脂フォーム上に、例えば黒鉛板等のおもりを載せることによって行うことができる。印加する圧縮荷重は、好ましくは50Pa以上であり、より好ましくは200Pa以上である。また、印加する圧縮荷重は、好ましくは2000Pa以下であり、より好ましくは1500Pa以下である。
【0070】
また、真空プレス装置等を用いて圧縮を行う際には、プレス荷重での制御ではなく、スペーサーにてプレス後の膜厚を定め、元の厚みをスペーサーの厚みで割り返した圧縮倍率による制御を行ってもよい。この場合、圧縮倍率は、異方性を持たせる点から、好ましくは4倍以上であり、より好ましくは10倍以上である。また、圧縮倍率は、3次元構造を保つ点から、好ましくは100倍以下であり、より好ましくは50倍以下である。この真空プレス装置は、活性ガスの排出が可能で、樹脂フォームを加熱して圧縮できる装置、または炭素フォームの積層体を圧縮できる装置であれば特に限定されず、例えば、樹脂フォームをプレスする天板と、当該天板を加熱するヒーターと、装置内からガスを排出するガス排出口と、装置内を減圧して真空にする真空ポンプを備える熱処理炉を用いることができる。
【0071】
原料の樹脂フォームに圧縮荷重を印加する場合、分解性脱離ガスの拡散が、黒鉛板等のおもりによって抑制される。そのため、昇温工程では、圧縮荷重を印加しない場合に比べて、昇温速度を低減し、かつ不活性ガスを炉内に供給しながら減圧排気し続けて、分解性ガスの排出促進を行うことが特に好ましい。
【0072】
例えば、原料の樹脂フォームがメラミン樹脂フォームの場合、200℃以上800℃未満の温度領域(第1の温度領域)においては、昇温速度は5℃/分以下にすることが好ましく、脱離ガスの発生量の増加率が高い300℃以上400℃未満の温度領域(第2の温度領域)においては、2℃/分以下にすることがより好ましい。また、200℃以上800℃未満の温度領域(第1の温度領域)において、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを熱処理炉内に供給することが好ましい。
【0073】
なお、原料の樹脂フォームへの圧縮応力は、一方向のみならず、二方向から印加してもよい。
【0074】
(カソード触媒層)
カソード触媒層は、貴金属担持触媒とプロトン伝導性のアイオノマーからなり、カソード拡散層、カソード触媒層、固体高分子電解質膜の順に並んでおり、接触抵抗を低減する観点から、それぞれが互いに接合されている、ないし、各層が互いに直接接触していることが好ましい。
【0075】
本実施形態の触媒層は、触媒活性の観点から、前記触媒金属が、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、モリブデン、レニウム、タングステン、チタン、ニッケル、銅、亜鉛、銀、スズ、金、鉛及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0076】
本実施形態の触媒層は、前記触媒金属が導電性の担体に担持された構造を有することが好ましい。前記担体は特に限定されるものではないが、その一例としてはカーボン粒子、アルミナ、シリカ、ゼオライト、メソ多孔質材等が挙げられる。触媒金属の微粒子を担体上に担持することで、触媒金属の使用量が低減され、また触媒金属の体積当たりの比表面積が大きくなる傾向にあるため、触媒活性がより向上する傾向にある。
本実施形態の触媒層における前記導電性の担体は、触媒金属を担持する際の物理的安定性、触媒金属との接点における導電性、電解液に対する化学的安定性、電解環境下における電気化学的安定性、及び経済性という観点から、カーボン素材であることが好ましい。また後述する、本実施形態のより好ましい形態であるネットワーク構造を触媒インク塗布法により形成する観点から、前記導電性の担体は粒子状であることが好ましい。以上の観点から、前記導電性の担体はカーボン粒子であることがさらに好ましい。
【0077】
本実施形態の触媒層は、前記触媒金属及び前記導電性の担体が互いに接触した構造を有し、当該構造をネットワーク構造と呼ぶことにする。当該ネットワーク構造は導電性を発現することが好ましい。前記触媒金属及び前記導電性の担体が互いに接触したネットワーク構造を有しているために導電性を持つことで、外部回路から触媒活性点へより効率的に電子を供給できる傾向にある。
【0078】
当該ネットワーク構造を得る方法は、特に限定されないが、例えば、後述する触媒インク塗布法が挙げられる。
【0079】
またネットワーク構造による導電性の確認方法は特に限定されないが、例えば、簡便には触媒層にテスターの電極を接触させて抵抗値を測定する方法や、より厳密には、シート抵抗測定機などを用いてシート抵抗値や体積抵抗率を測定する方法、などが挙げられる。
【0080】
本実施形態の触媒層を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、後述する触媒インク塗布法が挙げられる。触媒インク塗布法では、まず前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とを含有し、かつ、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とが水及び/又は有機溶剤に均一に分散された触媒インクを調製する。当該触媒インクを調製する際、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とを均一に分散させるために、分散剤を用いてもよい。また、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体と水及び/又は有機溶剤に混合した後、均一に分散させる方法は、特に限定されないが、例えば超音波洗浄器で分散する方法、マグネチックスターラーにより分散する方法、ホモジナイザーにより分散する方法などが挙げられる。上記のように調製した触媒インクを、基材上に塗布してウェット膜を形成する。触媒インクの塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スキージを用いたスクリーン印刷方法、アプリケーターによる塗布方法などが挙げられる。当該ウェット膜に含有される水及び/又は有機溶剤を、室温において乾燥させた後、加熱を行い、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とを結着させる。加熱する温度は、前記アイオノマーのガラス転移点以上であることが好ましく、さらに前記アイオノマーの分解温度以下であるとより好ましい。
【0081】
また加熱する際、ウェット膜に対して垂直方向に適度な荷重を行うと、前記有機高分子と前記触媒金属及び/又は前記導電性の担体とがより強固に結着され、加熱後の膜が安定になる傾向にあるため、好ましい。当該ウェット膜を、上記のように十分な時間(例えば30分)加熱した後、室温において除熱を行うことで、本実施形態の触媒層を得ることができる。
【0082】
(固体高分子電解質膜)
本実施形態の固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を有する材料で形成されており、プロトンを透過する一方で、カソード室とアノード室の間を隔て、物質の混合や拡散を抑制する。
【0083】
電解質膜の厚さは、物質の拡散抑制の観点から10μm以上が好ましく、20μm以上がさらに好ましく、25μm以上が最も好ましい。一方で抵抗を低くする観点から300μm以下が好ましく、250μm以下がさらに好ましく、200μm以下が最も好ましい。
【0084】
本実施形態の電解質膜は、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体を含有する。また、パーフルオロカーボン重合体は、600g/eq以上2000g/eq以下のイオン交換基の当量質量EWを有する。
【0085】
本実施形態の電解質膜は、下記2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率が、80%以上100%未満である。
(2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率)
含水率1%以下の試験用電解質膜を調整し、前記試験用電解質膜を2M硫酸水溶液に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用電解質膜の面上のX方向及び前記X方向に直交するY方向の寸法変化率を下記式にて算出する。
寸法変化率(%)=(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)×100
【0086】
本実施形態の電解質膜は、下記蒸留水浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率が、80%以上100%未満であり、Z方向の寸法変化率が115%以上である。
(蒸留水浸漬による寸法変化率)
含水率1%以下の試験用電解質膜を調整し、前記試験用電解質膜を蒸留水に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用電解質膜の面上のX方向、前記X方向に直交するY方向、並びに、前記X方向及び前記Y方向に直交するZ方向の寸法変化率を算出する。
寸法変化率(%)=(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)×100
【0087】
以上の2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率及び蒸留水浸漬による寸法変化率を満たす構成によれば、電解質膜中のクラスター構造(イオンや水分子の移動経路)を複雑化させ、さらに、高い結晶性を持つことにより膨潤が抑制されるため、アノード室からカソード室へ拡散する水を抑制した有機ハイドライド製造用電解セルを提供することができる。
【0088】
(パーフルオロカーボン重合体)
本実施形態の電解質膜は、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体を含有する。
イオン交換基としては、特に限定されないが、例えば、-COOH基、-SO3H基、-PO3H2基又はこれらの塩が挙げられる。塩としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン類塩が挙げられる。
【0089】
(当量質量EW)
パーフルオロカーボン重合体は、プロトン伝導性を向上し、セル抵抗を低減させる観点から2000g/eq以下が好ましく、1700g/eq以下がより好ましく、1500g/eq以下が最も好ましい。一方で、アノード室からカソード室への水の移動を抑える観点から600g/eq以上が好ましく、700g/eq以上がより好ましく、750g/eq以上が最も好ましい。
なお、当量質量EWは、イオン交換基1当量あたりのパーフルオロカーボン重合体の乾燥質量(g)を意味する。
パーフルオロカーボン重合体の当量質量EWは、パーフルオロカーボン重合体を塩置換し、その溶液をアルカリ溶液で逆滴定することにより測定することができる。
当量質量EWは、パーフルオロカーボン重合体の原料であるフッ素系モノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整することができる。
【0090】
パーフルオロカーボン重合体は、好ましくは、下記式(1)で表される構造を含む。
-[CF2-CX1X2]a-[CF2-CF(-O-(CF2-CF(CF2X3))b-Oc-(CFR1)d-(CFR2)e-(CF2)f-X4)]g- (1)
式(1)中におけるX1、X2、X3、R1、R2及びa~gは、それぞれ、次のように定義される。
X1、X2及びX3は、それぞれ独立して、ハロゲン原子又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基である。
上記ハロゲン原子としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。上記炭素数1~3のパーフルオロアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロn-プロピル基、パーフルオロイソプロピル基が挙げられる。
X1、X2及びX3は、ポリマーの耐酸化劣化性等の化学的安定性の観点から、好ましくは、それぞれ独立して、フッ素原子、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくはフッ素原子である。
X4は、-COOZ基、-SO3Z基、-PO3Z2基又は-PO3HZ基である。
Zは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、NH4、NH3R11、NH2R11R12、NHR11R12R13、NR11R12R13R14である。
ここで、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基である。R11、R12、R13及びR14のアルキル基は、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、又はn-ヘキシル基である。アリール基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
なお、X4が、-PO3Z2基である場合、Zは、同じでも異なっていてもよい。上記アルカリ金属原子としては、特に限定されないが、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子が挙げられる。アルカリ土類金属原子としては、特に限定されないが、例えば、カルシウム原子、マグネシウム原子が挙げられる。X4としては、ポリマーの耐酸化劣化性等の化学的安定性の観点から、SO3Zが好ましい。
R1及びR2は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基である。ここで、R1及びR2のハロゲン原子としては、特に限定されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子が好ましい。
a及びgは、0≦a<1、0<g≦1、及びa+g=1を満たす数である。bは、0~8の整数である。cは、0又は1である。d、e及びfは、それぞれ独立して、0~6の整数である。ただし、d、e及びfは同時に0ではない。
なお、[CF2-CX1X2]の構造単位と、[CF2-CF(-O-(CF2-CF(CF2X3))b-Oc-(CFR1)d-(CFR2)e-(CF2)f-X4)]の構造単位とは、その配列順序は、特に限定されず、ランダムであっても、ブロック体であってもよい。
【0091】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体としては、本実施形態の効果がより顕著となる傾向にあるため、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(以下、「PFSA樹脂」ともいう。)であることが好ましい。本実施形態におけるPFSA樹脂は、PTFE骨格連鎖からなる主鎖に、側鎖としてパーフルオロカーボンと、それぞれの側鎖に1個ないし2個以上のスルホン酸基(場合により一部が塩の形になっていてもよい)が結合した樹脂である。
PFSA樹脂は、-[CF2CF2]-で表される繰り返し単位と、下記式(3)、(4-1)又は(4-2)で表される化合物から誘導される繰り返し単位を含有することが好ましい。
CF2=CF(-O-(CF2CFXO)n-[A]) (3)
(式(3)中、Xは、F又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、nは0~5の整数である。[A]は(CF2)m-SO3Hであり、mは0~6の整数を示す。ただし、nとmは同時に0にならない。)
CF2=CF-O-(CF2)P-CFX(-O-(CF2)K-SO3H) (4-1)
CF2=CF-O-(CF2)P-CFX(-(CF2)L-O-(CF2)m-SO3H) (4-2)
(式(4-1)及び(4-2)中、Xは、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、Pは0~12の整数であり、Kは1~5の整数であり、Lは1~5の整数であり、mは0~6の整数である。ただし、KとLは同じでも、異なっていてもよく、P、K、Lは同時に0とはならない。)
【0092】
また、PFSA樹脂は、-[CF2CF2]-で表される繰り返し単位と、-[CF2-CF(-O-(CF2CFXO)n-(CF2)m-SO3H)]-(当該式中、Xは、F又はCF3であり、nは0~5の整数であり、mは0~12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない。)で表される繰り返し単位と、を含む共重合体であって、-[CF2-CF(-O-(CF2CFXO)n-(CF2)m-SO3H)]-(当該式中、Xは、CF3であり、nは0又は1であり、mは0~12の整数である。ただし、nとmは同時に0にならない。)で表される繰り返し単位を少なくとも1つ含む共重合体であることがより好ましい。PFSA樹脂が上記構造を有する共重合体であり、且つ所定の当量質量EWを有する場合、得られる電解質膜は十分な親水性を有し、且つ電解液活物質、例えば5価のバナジウムへの耐性が強くなる傾向にある。
【0093】
さらに、PFSA樹脂の前記-[CF2-CF(-O-(CF2CFXO)n-(CF2)m-SO3H)]-(当該式中、nが0であり、mが1~6の整数である)で表される繰り返し単位、又は式(4-1)で表される化合物及び式(4-2)で表される化合物からそれぞれ誘導される-[CF2-CF(-O-(CF2)P-CFX(-O-(CF2)K-SO3H))]-及び-[CF2-CFX(-O-(CF2)P-CFX(-(CF2)L-O-(CF2)m-SO3H))]-の両方の繰り返し単位を含む場合、当量質量(EW)が低くなり、得られる電解質膜の親水性が高くなる傾向にある。
【0094】
本実施形態における式(1)で表されるパーフルオロカーボン重合体は、本実施形態の効果がより顕著となる傾向にあるため、下記式(2)で表される構造を有することがより好ましい。
-[CF2CF2]a-[CF2-CF(-O-(CF2)m-SO3H)]g- (2)
式(2)中、a及びgは、0≦a<1、及び0<g≦1、a+g=1を満たす数であり、mは、1~6の整数である。
【0095】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体は、式(1)又は式(2)で表される構造を有するものであれば、特に限定されず、他の構造を含むものであってもよい。
【0096】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体は、溶解性又は膨潤性を制御する観点から、イオン交換基で直接的に又は間接的に分子間を部分架橋反応させたものであってもよい。部分架橋を行うことにより、例えば、パーフルオロカーボン重合体の当量質量EWが500g/eq程度であっても、パーフルオロカーボン重合体の水溶解性を低下(耐水性が向上)させることができる。
【0097】
また、パーフルオロカーボン重合体が低いメルトフロー値を有する場合(高い分子量を有する場合)にも、前記部分架橋により、分子間の絡みを増加し、溶解性や過剰膨潤性を低下できる。
【0098】
前記部分架橋反応としては、例えば、イオン交換基と他分子の官能基又は主鎖との反応、又はイオン交換基同士の反応、耐酸化性の低分子化合物、オリゴマー又は高分子物質等を介しての架橋反応(共有結合)等が挙げられ、場合により、塩(-SO3H基とのイオン結合を含む)形成物質との反応であってもよい。耐酸化性の低分子化合物、オリゴマー又は高分子物質としては、例えば、多価アルコール類、有機ジアミン類が挙げられる。
【0099】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体の分子量は、特に限定されないが、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されるメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05g/10分以上50g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上30g/10分以下であることがより好ましく、0.5g/10分以上20g/10分以下であることがさらに好ましい。
(パーフルオロカーボン重合体の製造方法)
【0100】
本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体は、特に限定されないが、例えば、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体の前駆体(以下、「樹脂前駆体」ともいう。)を製造した後、それを加水分解処理することにより得ることができる。
【0101】
PFSA樹脂の場合、例えば、下記式(6)又は式(7)で表されるフッ化ビニルエーテル化合物と、下記式(8)で表されるフッ化オレフィンモノマーとの共重合体からなるPFSA樹脂前駆体を加水分解することにより得られる。
CF2=CF-O-(CF2CFXO)n-A (6)
(式(6)中、Xは、F又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、nは、0~5の整数であり、Aは(CF2)m-Wであり、ここで、mは、0~6の整数であり、nとmは同時に0にならず、Wは加水分解により-SO3H基に転換し得る官能基である。)
CF2=CF-O-(CF2)P-CFX(-O-(CF2)K-W)又はCF2=CF-O-(CF2)P-CFX(-(CF2)L-O-(CF2)m-W) (7)
(式(7)中、Xは、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であり、Pは、0~12の整数であり、Kは、1~5の整数であり、Lは、1~5の整数であり、ここで、L、K及びmは同時に0とならない。mは0~6の整数であり、Wは加水分解により-SO3H基に転換し得る官能基である。)
CF2=CFZ (8)
(式(8)中、Zは、H、Cl、F、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又は環構成原子として酸素を含んでいてもよい環状パーフルオロアルキル基である。)
式(6)及び式(7)中のWとしては、特に限定されないが、例えば、-SO2F基、-SO2Cl基、-SO2Br基が挙げられる。また、上記式(6)及び式(7)において、Xは、CF3であり、Wは、-SO2F基であり、上記式(8)において、Zは、Fであることが好ましい。中でも、n=0、m=1~6の整数であり、XがCF3であり、Wが、-SO2F基、Zが、Fであることが、高い親水性及び高い樹脂濃度の溶液が得られる傾向にあるため、より好ましい。
【0102】
本実施形態における樹脂前駆体は、公知の手段により合成することができる。例えば、過酸化物等のラジカル発生剤等の存在下、加水分解等によりイオン交換基(式(1)におけるX4)に転換し得る基(イオン交換基前駆体基)を有するフッ化ビニル化合物とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう)などのフッ化オレフィンを重合することにより製造できる。前記重合方法は、特に限定されないが、例えば、前記フッ化ビニル化合物等とフッ化オレフィンのガスを含フッ素炭化水素等の重合溶剤に充填溶解して反応させることにより重合する方法(溶液重合)、含フッ素炭化水素等の溶媒を使用せずフッ化ビニル化合物そのものを重合溶剤として重合する方法(塊状重合)、界面活性剤の水溶液を媒体として、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスとを充填して反応させることにより重合する方法(乳化重合)、界面活性剤及びアルコール等の助乳化剤の水溶液に、フッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填、乳化して反応させることにより重合する方法(エマルジョン重合)、及び懸濁安定剤の水溶液にフッ化ビニル化合物とフッ化オレフィンのガスを充填懸濁して反応させることにより重合する方法(懸濁重合)等を用いることができる。
【0103】
本実施形態における樹脂前駆体は、上述したいずれの重合方法で調製されたものでも使用することができる。また、TFEガスの供給量等の重合条件を調整することにより得られる、ブロック状やテーパー状の重合体を樹脂前駆体としてもよい。
【0104】
樹脂前駆体は、重合反応中に樹脂分子構造中に生成した不純末端や、構造上酸化されやすい部分(CO基、H結合部分等)を、公知の方法によりフッ素ガス下で処理し、該部分をフッ化したものでもよい。
【0105】
樹脂前駆体は、イオン交換基前駆体基(例えば、-SO2F基)の一部が、部分的(分子間を含む)にイミド化(アルキルイミド化など)されていてよい。
【0106】
樹脂前駆体の分子量は、特に限定されないが、該前駆体を、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されたメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05g/10分以上50g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上30g/10分以下であることがより好ましく、0.5g/10分以上20g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0107】
樹脂前駆体の形状は、特に限定されないが、後述の加水分解処理及び酸処理における処理速度を速める観点から、例えば、0.5cm3以下のペレット状であるか、分散液状、粉末粒子状であることが好ましい。中でも、重合後の粉末状体のものを用いることがより好ましい。コストの観点からは、押し出し成型した膜状の樹脂前駆体を用いてもよい。
【0108】
樹脂前駆体から本実施形態におけるパーフルオロカーボン重合体を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂前駆体を、押出機を用いてノズル又はダイ等で押し出し成型した後、加水分解処理を行うか、重合した時の産出物のまま、即ち分散液状、又は沈殿、ろ過させた粉末状の物とした後、加水分解処理を行う方法がある。
【0109】
具体的には、上記のようにして得られ、必要に応じて成型された樹脂前駆体は、引き続き塩基性反応液体中に浸漬し、加水分解処理に供することができる。加水分解処理に使用する塩基性反応液としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、モノメチルアミン及びモノエチルアミン等のアミン化合物の水溶液、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液が好ましい。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を用いる場合、その含有量は特に限定されないが、反応液全体に対して10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。上記反応液は、さらにメチルアルコール、エチルアルコール、アセトン及びジメチルスルホキシド(DMSO)等の膨潤性有機化合物を含有することがより好ましい。膨潤性の有機化合物の含有量は、反応液全体に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0110】
樹脂前駆体は、塩基性反応液体中で加水分解処理された後、温水等で十分に水洗し、その後、酸処理が行なわれる。酸処理に使用する酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸類、シュウ酸、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸類が挙げられる。これらの酸と水との混合物が好ましい。また、上記酸類は単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、加水分解処理で用いた塩基性反応液は、カチオン交換樹脂で処理すること等により、酸処理の前に予め除去してもよい。
【0111】
酸処理によって樹脂前駆体のイオン交換基前駆体基がプロトン化されてイオン交換基が生成する。例えば、前記式(6)を用いて製造される樹脂前駆体の場合、式(6)のWは酸処理によってプロトン化され、-SO3H基となる。加水分解及び酸処理することによって得られたパーフルオロカーボン重合体は、プロトン性有機溶媒、水、又は両者の混合溶媒に分散又は溶解することが可能となり、懸濁液又は溶液とすることができる。
【0112】
パーフルオロカーボン重合体は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他、ラジカル分解性の遷移金属(Ce化合物、Mn化合物等)を、これらとの部分塩(全イオン交換基当量の0.01~5当量%程度)の形で、あるいは、単独で又は後述する塩基性重合体と併用する形で、含有してもよい。
【0113】
本実施形態の電解質膜は、電気抵抗及び機械的強度をより良好なものとする観点から、イオン交換基を有し、且つ、単量体の構造が異なる、2種類以上のパーフルオロカーボン重合体の混合物を含むことが好ましい。
【0114】
2種類以上のパーフルオロカーボン重合体を混合させることで、お互いの機能を融合させた優れた特性を示すことが可能となる。
【0115】
また、機械的強度をより良好なものとする観点から、2種類以上のパーフルオロカーボン重合体を混合させる際、より高い当量質量EWを有する重合体の比率を50質量%より大きくすることが好ましく、55質量%より大きくすることがより好ましく、60質量%より大きくすることがさらに好ましい。高い当量質量EWを有する重合体は、結晶性が高くなる傾向にあるため、上記比率とする場合、より高い機械的強度が発現される傾向にある。
【0116】
(パーフルオロカーボン重合体の原料膜の製造方法)
本実施形態の電解質膜の製造に用いられる原料膜は、公知の方法で、前駆体樹脂又はパーフルオロカーボン重合体をフィルム状に加工することで得られる。例えば、前述のパーフルオロカーボン重合体の前駆体を、溶融混練後、押し出し機を用いてフィルムを形成した後、加水分解しイオン交換基を形成する方法を用いることができる。また、一度パーフルオロカーボン重合体を溶媒に分散させた後、基材上にキャスト製膜することでフィルムを形成してもよい。
【0117】
(パーフルオロカーボン重合体の原料膜の延伸方法)
本実施形態にかかる電解質膜の製造方法は、原料膜を加熱下で延伸する工程を含む。
本実施形態の製造方法は、前記延伸する工程後、冷却過程において緩和処理する工程を更に含む。
つまり、本実施形態の電解質膜は、加熱下で延伸し、好ましくは、0.1%以上5.0%以下の緩和率で冷却することで、クレーズがなく、自己放電が抑制される。
【0118】
本実施形態の延伸処理は、例えば、一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸で行うことができる。
【0119】
本発明において、X軸方向とは、押出製膜、キャスト製膜等を行って長尺の膜を製造する際の巻き取り方向(MD方向)をいい、Y軸方向とは、MD方向と直交する方向(TD方向)をいう。
【0120】
延伸倍率は、セルに組み込んだ際の膜のたわみを抑制する観点から、少なくとも一軸方向に1.5倍が好ましく、1.8倍がより好ましく、2.1倍がさらに好ましく、2.5倍がよりさらに好ましい。また、クレーズの発生を抑制し、透過イオンの選択性を向上する観点から、8倍以下が好ましく、6倍以下がより好ましく、5倍以下がさらに好ましく、4倍以下がさらに好ましい。本発明における延伸倍率は、X軸方向とY軸方向で独立に延伸倍率を設定することができる。X軸方向の延伸倍率と、Y軸方向の延伸倍率を掛け合わせた面積延伸倍率は、透過イオンの選択性を向上する観点から、2.2倍以上が好ましく、3.2倍以上がより好ましく、4.0倍以上がさらに好ましい。当該面積延伸倍率は、クレーズの発生を抑制する観点から、50倍以下が好ましく、40倍以下がより好ましく、30倍以下がさらに好ましい。
【0121】
電解質膜中のクラスター径を制御し、イオンの選択透過性をより向上させる観点から、二軸延伸を行うことが好ましい。つまり、本実施形態の電解質膜は、二軸延伸電解質膜であることが好ましい。本実施形態においては、イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体の膜を、先ず、該重合体のα分散温度より20℃低い温度から40℃高い温度までの温度範囲において同時二軸延伸を行う。
【0122】
イオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体の膜のα分散温度とは、動的粘弾性測定装置にて測定される、重合体の主鎖が熱運動を開始すると考えられる温度である。例えば、ナイロン等の重合体のα分散温度は、一般的に室温よりもはるかに高いため、延伸終了後にα分散温度以下に冷却することによって主鎖の熱運動を大きく減少させることが可能であり、これによって延伸配向を効果的に安定化させることができる。
【0123】
例えば、イオン交換基がスルホン酸基の場合の、パーフルオロカーボン重合体のα分散温度は110~140℃近傍に存在する。そこで、α分散温度を仮に140℃とした場合、延伸工程の延伸温度は120℃以上180℃以下の温度領域から設定される。
【0124】
本実施形態は、また、延伸工程によって延伸された膜を、引き続き、膜固定した状態で、延伸温度より高い温度で熱処理することを特徴とする。
【0125】
膜の固定とは、延伸処理した膜の配向が緩和されないよう膜の周囲を固定することをいい、具体的には、膜の端が固定された状態であればよく、チャック式テンターのような装置を用いて、電解質膜の端を固定することができる。
【0126】
延伸処理時の延伸速度は、配向緩和を抑制する観点から、10mm/min以上が好ましく、50mm/min以上がより好ましく、90mm/min以上がさらに好ましい。一方、当該延伸速度は、破断を抑制する観点からは、500mm/min以下が好ましく、300m/min以下がより好ましく、200m/min以下がさらに好ましい。
【0127】
本実施形態の電解質膜の製造方法は、延伸処理後、冷却過程において緩和処理する工程を更に含むことが好ましい。
【0128】
本実施形態における、延伸処理後の緩和処理は、チャック間隔を所定の距離狭めることによってなされる。チャック間隔に対する狭めた距離の割合(緩和率)は、破断を抑制する観点から、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.4%以上がさらに好ましい。一方、配向緩和を抑制する観点から、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。これにより、冷却時の収縮による応力を緩和し、膜中に微小な欠陥を生じることなく延伸処理した膜を得ることができ、有機ハイドライド製造用電解セルを形成した際に、アノード室からカソード室への水の透過を抑制する電解質膜を得ることができる。
【0129】
(平坦性)
本実施形態の電解質膜における平坦性指数は、有機ハイドライド製造用電解セルの組立の際の作業性が良好である観点から、1.2未満が好ましく、1.1未満がより好ましく、1.05未満がさらに好ましい。電解質膜の平坦性指数は、膜の投影寸法に対する膜面に沿った長さの比である。具体的な測定方法は、実施例に記載したとおりである。電解質膜の平坦性指数は、任意の面で上記数値を満たしていればよく、好ましくは任意の140mm四方に切り出した面で満たしていればよい。
【0130】
(クレーズ面積率)
本実施形態の電解質膜における、クレーズ面積率は、アノード室からカソード室への水の透過を抑制する観点から、1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.8%以下が最も好ましい。クレーズ面積率は、例えば、0%以上である。
クレーズ面積とは、電解質膜の全面積に対する透過率10%以上の領域の面積の比を意味する。クレーズ面積は、電解質膜面内の可視光透過率分布を測定することによって求めることができ、より具体的には、実施例に示す方法により測定できる。
【0131】
(配向パラメータ)
本実施形態の配向パラメータは、膜面内、又は膜面に垂直な面(膜面外)のいずれか一方が、透過イオン選択性の観点から、0.05以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましい。配向パラメータは、上限は特に制限されないが、クレーズの発生による膜強度の低下を抑制する観点から、0.70以下であることが好ましく、0.60以下であることがより好ましく、0.50以下であることがさらに好ましい。
【0132】
膜面に垂直な面の配向パラメータ(以下、「膜面外配向パラメータ」ともいう)は、自己放電が抑制される観点から、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。膜面に垂直な面の配向パラメータは、上限は特に限定されないが、0.70以下であることが好ましく、0.60以下であることがより好ましく、0.50以下であることがさらに好ましい。
【0133】
上述の配向パラメータの範囲となるように、電解質膜を特定の条件で配向させることで、膜厚方向のクラスター形状を制御し、膜内の微細な欠陥であるクレーズを抑制した膜を形成することで、プロトンの移動を抑制することなく、アノード室からカソード室への水の透過を効果的に抑制できる。
膜面内、膜面外の配向パラメータqは、後述する小角X線散乱におけるイオンクラスターに由来するピークの方位角方向強度分布I(φ)を、下記式に示す配向関数を用いて近似することによって求めることができる。
【数1】
ここで、Qは定数であり、φは方位角であり、qは配向パラメータである。
【0134】
(イオンクラスター径)
本実施形態のイオンクラスター径は、膜面方向と、膜面に垂直な方向について、小角X線散乱(SAXS)により測定することができる。膜面方向のイオンクラスター径は、有機ハイドライド製造用電解セルを形成した際の抵抗成分を低減させる観点から、2.5nm以上が好ましく、2.7nm以上がより好ましく、2.8nm以上がさらに好ましい。また、膜面方向のイオンクラスター径は、電解質膜の膨潤を抑制し、アノード室からカソード室への水の透過を抑制する観点から、3.9nm以下が好ましく、3.5nm以下がより好ましく、3.2nm以下がさらに好ましい。
【0135】
膜面に垂直な方向のイオンクラスター径(以下、「膜面外方向イオンクラスター径」)は、アノード室からカソード室への水の透過を抑制する観点から、3.0nm以上が好ましく、3.3nm以上がより好ましく、3.4nm以上がさらに好ましい。膜面外方向のイオンクラスター径は、特に限定されないが、3.9nm以下が好ましく、3.7nm以下がより好ましく、3.6nm以下がさらに好ましい。
【0136】
(結晶長周期)
本実施形態の電解質膜における小角X線散乱で測定される結晶長周期は、小角X線散乱の散乱ベクトル0.1~1.0nm-1の範囲に生じる、結晶と非晶の電子密度差の周期性に由来するピークの位置から、ブラッグの式を用いて求める。
【0137】
小角X線散乱で測定される結晶長周期は、5nm以上60nm以下が好ましく、10nm以上55nm以下がより好ましく、20nm以上50nm以下がさらに好ましく、30nm以上50nm以下がよりさらに好ましい。
【0138】
小角X線散乱で測定される結晶長周期のピーク強度は、小角X線散乱の散乱ベクトル0.1~1.0nm-1の範囲に生じる結晶長周期ピークのベースライン強度に対する、ピークトップ強度とベースライン強度の差の比として定義される。電流効率を向上させる観点から、ピーク強度は0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.2以下がさらに好ましく、0.1以下がよりさらに好ましい。
【0139】
本実施形態で延伸処理させる原料膜の膜厚は、目標とする延伸倍率に応じて算出される厚さの膜を使用することができる。
【0140】
本実施形態の電解質膜は、有機ハイドライド製造用電解セルの隔膜に好適に用いられる。一般的に、イオン交換基を持つパーフルオロカーボン重合体で構成される電解質膜は、蒸留水や硫酸水溶液、水溶液に触れると膨潤し、寸法変化を生じる。本実施形態の電解質膜は、これらの水溶液に触れても、膨潤が抑制されており、膜面方向の寸法変化が抑制されている。このため、有機ハイドライド製造用電解セルを組み立てる際、アノード水溶液および被水素化物を充填しても、膜にたわみを生じず、電気特性を低下させずに用いることができる。
【0141】
(2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率)
本実施形態の電解質膜の2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率は、有機ハイドライド製造用電解セル内にたわみを生じず、電気特性を低下させない観点から、80%以上100%未満である。
含水率1%以下の試験用電解質膜を調整し、前記試験用電解質膜を2M硫酸水溶液に、25℃で30分間浸漬し、前記試験用電解質膜の面上のX方向及び前記X方向に直交するY方向の寸法変化率を下記式にて算出する。
寸法変化率(%)=(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)×100
【0142】
本実施形態の電解質膜の2M硫酸水溶液への寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率は、有機ハイドライド製造用電解セル内にたわみを生じず、電気特性を低下させない観点から、99.8%以下であることが好ましく、99.5%以下であることがより好ましく、99.2%以下であることがさらに好ましく、99.0%以下であることがよりさらに好ましい。X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率は、応力を低減させ、長期耐久性が良好となる観点から、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95.0%以上であることがさらに好ましく、97.0%以上であることがよりさらに好ましい。
【0143】
2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率は、より具体的には、例えば、電解質膜の含水率を1%以下に調整したものを、一片7cmの正方形に切り出し、25℃の2M硫酸水溶液に30分浸漬させた後の寸法を測ることで評価することができる。含水率測定は、実施例に記載した方法で測定することができる。含水率が1%を超過している場合は、減圧下50℃に加熱したオーブンで2時間乾燥し、再度含水率を測定することで調整することができる。
なお、X方向は、膜面上の任意に選択される方向であり、Y方向は、膜面上でX方向に垂直な方向を意味する。
また、2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率は、例えば、日本光器製作所製D2XY-KSH読取り顕微鏡を用いることで、精度良く評価することができる。一片7cmの正方形の試験片を得ることが難しい場合、例えば、1cm×3cmの短冊状の試験片を使用することでも測定することができる。その際、膜面上の任意のX方向、Y方向をそれぞれ3cmとなるように、2枚の試験片を用いることで、より精度よく評価することができる。
【0144】
2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率は、例えば、電解質膜に使用するパーフルオロカーボン重合体の種類、電解質膜の製造時の延伸倍率、緩和率等を調整することで上述の範囲とすることができる。
【0145】
(蒸留水浸漬による寸法変化率)
本実施形態の電解質膜の蒸留水浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率は、有機ハイドライド製造用電解セル内にたわみを生じず、電気特性を低下させない観点から、80%以上100%未満であり、Z方向の寸法変化率が115%以上である。
蒸留水浸漬による寸法変化率における、X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率は、有機ハイドライド製造用電解セル内にたわみを生じず、電気特性を低下させない観点から、99.8%以下であることが好ましく、99.5%以下であることがより好ましく、99.2%以下であることがさらに好ましく、99.0%以下であることがよりさらに好ましい。X方向及びY方向のうち少なくとも一方の寸法変化率は、応力を低減させ、長期耐久性が良好となる観点から、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93.0%以上であることがさらに好ましく、94.0%以上であることがよりさらに好ましい。
【0146】
蒸留水浸漬による寸法変化率における、Z方向の寸法変化率は、水を保持し、プロトン伝導性を良くする観点から、115%以上であることが好ましく、120%以上であることがより好ましく、125%以上であることがさらに好ましい。Z方向の寸法変化率は、膜の含水率を減らし、アノード室からカソード室への水の透過を抑制する観点から、160%以下であることが好ましく、150%以下であることがより好ましく、140%以下であることがさらに好ましく、130%以下であることがよりさらに好ましい。
【0147】
蒸留水浸漬による寸法変化率は、より具体的には、電解質膜の含水率を1%以下に調整したものを、一片7cmの正方形に切り出し、25℃の蒸留水に30分浸漬させた後の寸法を測ることで評価することができる。含水率測定は、実施例に記載した方法で測定することができる。含水率が1%を超過している場合は、減圧下50℃に加熱したオーブンで2時間乾燥し、再度含水率を測定することで調整することができる。
なお、X方向は、膜面上の任意に選択される方向であり、Y方向は、膜面上でX方向に垂直な方向を意味する。Z方向は、X方向及びY方向に直交する方向を意味する。
また、蒸留水浸漬による寸法変化率は、例えば、日本光器製作所製D2XY-KSH読取り顕微鏡を用いることで、精度良く評価することができる。一片7cmの正方形の試験片を得ることが難しい場合、例えば、1cm×3cmの短冊状の試験片を使用することでも測定することができる。その際、膜面上の任意のX方向、Y方向をそれぞれ3cmとなるように、2枚の試験片を用いることで、より精度よく評価することができる。
電解質膜が蒸留水で膨潤している場合は、電解質膜の含水率が1%以下となるように乾燥してから測定に用いることができる。蒸留水以外のもの、例えば、流酸水溶液で膨潤している場合は、洗浄液がpH6.0以上になるまで蒸留水で洗浄した後、電解質膜の含水率が1%以下となるように乾燥してから測定に用いることができる。
【0148】
蒸留水浸漬による寸法変化率における、寸法変化率は、例えば、電解質膜に使用するパーフルオロカーボン重合体の種類、電解質膜の製造時の延伸倍率、緩和率等を調整することで上述の範囲とすることができる。
【0149】
(YI値)
本実施形態の電解質膜のYI値(黄色度)は、膜中の成分が溶出し、触媒層に付着することによる抵抗を抑える観点から、9.00以下が好ましく、3.00以下がより好ましく、1.00以下がさらに好ましい。
電解質膜のYI値の増加は、電解質膜中に存在する溶剤や、添加剤、低分子量成分が、加熱により分解、変性することによって生じる。電解質膜中のこれらの成分を、あらかじめ蒸留水等で洗浄し、除去することや、例えば50℃以下で減圧乾燥、不活性ガス気流下で乾燥させることで、電解質膜のYI値を低く抑えることができる。また、原料膜を延伸して電解質膜とする場合には、原料膜を延伸する際の装置内の排風量を増加させることや、不活性ガス気流下で延伸することでもYI値を低く抑えることができる。
YI値の測定は、具体的には、一片5cmの正方形に切り出した電解質膜を、日本電色工業株式会社製「Spectrophotometer:SE600」にて、D65光源を用い、透過により測定することができる。電解質膜厚については、75μmのものを用いるか、積層して75μmに調整したものを用いてもよい。また、例えば、25μm、50μm、100μmなど、異なる厚み3種類の膜のYI値を測定し、厚みとYI値をプロットした点の直線関係から75μmでのYI値を求めてもよい。
【0150】
(アノード電極)
アノード電極は、電気伝導性を持つ支持体とアノード触媒を有する。アノード電極の支持体は、機械的強度を高くし、取り扱い性を良好にする観点から、0.1mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。一方でセルサイズを小さくする観点から、5.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましい。また、アノードで発生する酸素ガスを排出し、気泡が表面に付着することによる抵抗増大を抑制する観点から、網目構造を持つことが好ましい。また、酸素ガスを発生するアノード電極は、気泡による抵抗の増大を避け、被電解液の供給を促進するため多孔体であることが好ましく、耐酸腐食性に優れていることが好ましい。この観点からチタン製であることが好ましい。
【0151】
アノード触媒は、アノード電極の支持体表面に保持されており、水、又は酸性電解液に浸漬された状態で使用され、白金族貴金属酸化物系触媒が好ましく用いられる。中でも酸化イリジウム系の電極触媒材料は、耐久性の観点から好ましい。
【0152】
(被水素化有機化合物)
本実施形態の触媒層は、被水素化有機化合物の少なくとも一部又は全部が芳香族化合物であることが好ましい。さらに、本実施形態の触媒層は、前記芳香族化合物がベンゼン、ナフタレン、アントラセン、トルエン、キシレン、ジフェニルメタン、ジフェニルエタン、トリフェニルメタン、トリフェニルエタン、ジベンジルトルエン、フェノール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン及びイソキノリンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、これら芳香族化合物は1種単独で含まれていてもよく、2種以上の混合物であってもよい。また、被水素化有機化合物は、常温常圧で液体であるとより好ましい。液体を電解液として用いることで、昇温昇圧設備を用いることなく電解合成セルによる電気化学的水素化が可能となり、また水素キャリアとしての扱いも容易となる傾向にある。こうした観点から被水素化有機化合物はベンゼン、トルエン、キシレン、ジフェニルエタン又はキノリンであるとより好ましく、トルエンが最も好ましい。
【実施例】
【0153】
以下、具体的な実施例、参考例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0154】
[厚さの測定]
カソード拡散層の厚さ(mm)は接触式の膜厚計(株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定した。
【0155】
[目付の測定]
カソード拡散層の目付(g・m-2)は50×50mmに切り出した電極の質量を面積によって除して求めた。
【0156】
[かさ密度の測定]
まず、ノギス等を用いてカソード拡散層の寸法を測定し、得られた寸法から、カソード拡散層のかさ体積Vbulkを求める。次に、精密天秤を用いて、カソード拡散層の質量Mを測定する。得られた質量Mおよびかさ体積Vbulkから、下記の式(Y)を用いてカソード拡散層のかさ密度ρbulk(g・cm-3)を求めることができる。
ρbulk=M/Vbulk・・・(Y)
【0157】
[真密度の測定]
カソード拡散層の真密度ρreal(g・cm-3)は、n-ヘプタン、四塩化炭素および二臭化エチレンからなる混合液を用いて浮沈法によって求めることができる。具体的には、まず、共栓試験管に適当なサイズのカソード拡散層を入れる。次に、3種の溶媒を適宜混合して試験管に加え、30℃の恒温槽に漬ける。試料片が浮く場合は、低密度であるn-ヘプタンを加える。一方、試験片が沈む場合は、高密度である二臭化エチレンを加える。この操作を繰り返して、試験片が液中に漂うようにする。最後に、液の密度をゲーリュサック比重瓶を用いて測定する。
【0158】
[空隙率の算出]
上述のように求めたかさ密度ρbulkおよび真密度ρrealから、下記の式(X)を用いて空隙率Vf,pore(%)を求めることができる。
Vf,pore=((1/ρbulk)-(1/ρreal))/(1/ρbulk)×100(%)
・・・(X)
【0159】
[X線CTによる構造解析]
炭素フォームについて、厚み方向をx軸となるようにして、X線CTによる構造解析を行った。具体的には、X線画像を撮像しやすくするため、実施例の各々に無電解銅めっきを行った後、試験片(サンプル)を採取し、高分解能3DX線顕微鏡nano3DX(株式会社リガク製)を用いて、採取した試験片に対して構造解析を行った。具体的な無電解めっき条件、X線CT解析条件は以下の通りである。
得られた3次元画像を、半径2ピクセルのフィルタサイズにて3次元Median filterで隣接する1pixelにて処理し、大津のアルゴリズムを用いて二値化した。
続いて、JSOL社製のソフトウェアsimplewareのCenterline editor(Ver.7)をデフォルトの設定値で使用して、2.16μm以下の線をノイズとして除去した後、測定視野300μm×300μm×300μm内の結合部の数Nn、線状部の数Nlを検出した。
さらに、炭素フォームの厚み方向をx方向(x軸)、前記x方向に垂直な方向をy方向(y軸)、前記x方向及び前記y方向に垂直な方向をz方向(z軸)とし、前記測定視野内の各線状部のベクトルを算出し、各ベクトルのx軸に対する配向度の平均値θavex(deg)、y軸に対する配向度の平均値θavey(deg)、z軸に対する配向度の平均値θavez(deg)を算出した。その際、配向角度は90度以内となるように変換した。
【0160】
[無電解めっき条件]
サンプルをOPCコンディクリーンMA(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)に70℃で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPCプリディップ49L(奥野製薬工業社製、10mL/Lに蒸留水で希釈、98%硫酸を1.5mL/L添加)に70℃で2分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPCインデューサー50AM(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)及び、OPCインデューサー50CM(奥野製薬工業社製、100mL/Lに蒸留水で希釈)を1:1で混合した溶液中に45℃で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPC-150クリスタMU(奥野製薬工業社製、150mL/Lに蒸留水で希釈)に室温で5分間浸漬した後、蒸留水で1分間洗浄した。続いてOPC-BSM(奥野製薬工業社製、125mL/Lに蒸留水で希釈)に室温で5分間浸漬した。続いて化学銅500A(奥野製薬工業社製、250mL/Lに蒸留水で希釈)及び、化学銅500B(奥野製薬工業社製、250mL/Lに蒸留水で希釈)を1:1で混合した溶液中に室温で10分間浸漬した後、蒸留水で5分間洗浄した。その後90℃で12時間真空乾燥を行い、水分を乾燥させた。
【0161】
[X線条件]
X線ターゲット:Cu
X線管電圧:40kV
X線管電流:30mA
[撮影条件]
投影数:1500枚
回転角度:180°
露光時間:20秒/枚
画素数:1648×1202ピクセル
画素サイズ:0.54μm/ピクセル
観察領域サイズ:624μm×624μm×H600μm
上記構造解析により、結合部の数Nn、線状部の数Nl、互いに直交する3方向(x、y、z)に対する配向角度の平均値(deg)および結合部の密度(結合部の数Nn/mm3)を求めた。
得られた結果を表1に示す。
表1におけるθc(deg)は、θavex、θavey、θavezの中の最大値と最小値との差を求めたもので、θd(deg)は、θavexとθavey又はθavezとの差のうち、小さい値を求めたものである。
【0162】
[平均炭素頻度、平均炭素面積比率の測定方法]
上記[X線CTによる構造解析]で撮像した3次元画像を、半径2ピクセルのフィルタサイズで3次元Median filterで隣接する1pixelにて処理し、大津のアルゴリズムを用いて二値化した。さらに、炭素フォームの厚さ方向の断面画像(炭素フォームの厚さ方向に垂直に切断した断面の画像)の解析領域(624μm×624μm)内で、画像処理ソフトImageJの粒子解析機能を使用して、解析領域内の連続する炭素部分の個数、連続する炭素部分の面積の総和を検出し、下記式のとおり解析領域の面積で除することにより、1μm×1μmあたりの炭素頻度、および解析領域面積当たりの炭素面積比率を算出した。同様の操作を、炭素フォームの厚さ方向の断面画像1152枚(0.54μm/ピッチで取得)について繰り返し行い、全領域で得られた測定値の平均値を算出して平均炭素頻度、平均炭素面積比率を求めた。
なお、解析の際、画像端の領域を含めた解析条件で算出した。また、平均を算出する際は、サンプルとなる炭素が存在しない領域を除くため、解析領域での炭素面積比率が0.01以上である断面画像を用いて算出した。
炭素頻度(μm-2)=連続する炭素部分の個数/解析領域の面積
炭素面積比率=連続する炭素部分の総面積/解析領域の面積
[画像処理条件]
画素数:1152×1202ピクセル
画素サイズ:0.54μm/ピクセル
厚さ方向:1152枚(0.54μm/ピッチ)
使用ソフト:ImageJ 1.50i
【0163】
[炭素頻度の標準偏差の測定方法]
上述の炭素フォームの炭素頻度について、厚さ方向の各断面画像で得られた炭素頻度の標準偏差を求めた。その際、サンプルとなる炭素が存在しない領域を除くため、解析領域での炭素面積比率が0.01以上となる断面画像を用いて求めた。
【0164】
[炭素面積比率の標準偏差の測定方法]
上述の炭素フォームの炭素面積比率について、厚さ方向の各断面画像で得られた炭素面積比率の標準偏差を求めた。その際、サンプルとなる炭素が存在しない領域を除くため、解析領域での炭素面積比率が0.01以上となる断面画像を用いて求めた。
【0165】
[平均繊維径の測定方法]
カソード拡散層を構成する繊維状炭素の平均繊維径dave(μm)は、走査型電子顕微鏡像を画像解析することによって求める。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍の倍率で炭素電極を観察する。得られた観察像から、繊維状炭素の太さを無作為に20か所測定する。断面形状が円形であると仮定して、この平均太さを平均繊維径daveとする。
【0166】
[炭素含有率]
カソード拡散層の炭素含有率は製の蛍光X線分析によって求めた。35mm角に切断したサンプルを、X線照射径30mmφ用のサンプルホルダーにセットした後、株式会社リガク製の蛍光X線分析装置ZSX-100E(波長分散型、Rh管球)を用いて測定を行った。X線照射径30mmφで全元素半定量分析を行い、全元素中の炭素含有率(wt%)を決定した。
【0167】
[表面酸素濃度]
カソード拡散層の表面の元素組成をX線光電子分光計(アルバックファイ社製、VersaProbe II)を用いて測定した。このとき、主要な元素のピークとして285eV近傍のC1sピーク、400eV近傍のN1sピーク、533eV近傍のO1sピーク、400eV近傍のN1sピークの相対元素濃度atomic%(以下、「at%」)を計算し、百分率で計算した。それ以外の元素ピークで大きな検出強度を持つピークがあれば、それも含めて百分率で計算した。
【0168】
[結晶子サイズの評価]
実施例1~5、7~10、参考例6、11~15および比較例1~3によるカソード拡散層の(002)面の回折から結晶子サイズLc(nm)を評価した。サンプルを乳鉢で粉砕した後、卓上X線回折装置 D2 PHASER(Bluker社製)を用いて粉砕したサンプルの広角X線測定を行った。具体的な測定条件は以下の通りである。
[測定条件]
線源:Cu Kα
管電流:30mA
管電圧:40kV
スリット:1mm
試料回転速度:10回転/min
1ステップの測定時間:0.3sec
開始角度(2θ):5.00°
測定ステップ(2θ):0.01°
終了角度(2θ):90.00°
上記測定後、得られたデータを解析し、結晶子サイズLc(nm)を算出した。結晶子サイズLcの算出には2θ=25度の付近に現れる(002)面の回折ピークの半値幅β、ピーク最大値の角度θを下記のScherrerの式(c)に代入して求めることができる。一般的に高い温度で炭素化するほど高い結晶性を有し、Lcの値が大きくなる。
Lc=(Kλ)/βcosθ・・・(c)
ここでKは形状因子、λは線源の波長を表す。形状因子は(002)面回折であるため、0.90を代入する。線源は今回CuKαを用いているため、1.541を代入して計算を行った。
2000℃という高温で熱処理した場合、1100℃の時と比較して、結晶性が高くなり、より大きなLcを示す。
【0169】
[テーバ曲げ剛さ]
カソード拡散層のテーバ曲げ剛さ(gf・cm)は、熊谷理機工業株式会社製テーバスティフネステスターNo.2048-Dを用いて、JIS P 8125-2000に従って求めた。幅38mmの短冊状に切り出したサンプルを、自由長が60mmとなるように把持した。これを±15°となるように曲げたときの荷重の平均値から曲げ剛さを求めた。
【0170】
[当量質量]
電解質膜およそ0.02~0.10gを50mLの25℃飽和NaCl水溶液(0.26g/mL)に浸漬し、攪拌しながら30分間放置した後、フェノールフタレイン(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)を用いて中和滴定した。中和後得られたNa型イオン交換膜を純水ですすいだ後、真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの当量をM(mmol)、Na型イオン交換膜の質量をW(mg)とし、下記式より当量質量当量質量EW(g/当量)を求めた。
当量質量EW=(W/M)-22
以上の操作を5回繰り返した後、算出された5つのEW値の最大値及び最小値を除き、3つの値を相加平均して測定結果とした。
【0171】
[延伸後膜厚]
延伸処理した電解質膜を23℃、相対湿度65%の恒温室で12時間以上静置した後、接触式の膜厚計(株式会社東洋精機製作所製)を用いて延伸後膜厚(μm)を測定した。
【0172】
[クレーズ面積率]
クレーズ面積率は、任意のX軸方向と、当該X軸に直交するY軸方向に移動できる自動ステージと可視光分光光度計「uSight-2000」(製品名、Technospex社製)を備えた光学顕微鏡を用いて測定した可視光の透過率マッピングから求めた。直径1μmに集光させた光を、ステップ間隔1μmにて移動させて、延伸膜の縦75mm×横50mm範囲の可視光の透過率をマッピングした。測定する可視光の波長範囲は450-700nmとした。マッピングした全面積に対する透過率10%以下の領域の面積の比をクレーズ面積率(%)とした。
【0173】
[平坦性]
電解質膜の平坦性は、膜の投影寸法に対する膜面に沿った長さの比の大小によって評価した。膜面に沿った長さは、読み取り顕微鏡を用いて測定した膜面の高さ―位置プロファイルから求めた。具体的には、約140mm四方に切り出した膜の膜面の高さを、X軸方向に5mm間隔にて25点測定した。膜面の高さ―位置プロファイルをスプライン関数にて近似し、数値計算によって膜面に沿った長さを求め、下記式により平坦性指数を求め、以下の基準で評価した。
平坦性指数 = 膜面に沿った長さ/膜の投影寸法
A:1.05未満
B:1.05以上1.1未満
C:1.1以上1.2未満
D:1.2以上
【0174】
[イオンクラスター径]
イオンクラスター径(nm)は、小角X線散乱(SAXS)により測定した。電解質膜を25℃水中で24hr浸漬し、水に浸漬した状態で膜面方向、及び膜面に垂直な方向からポイントフォーカスのX線を入射して透過散乱光を検出した。測定には小角X線散乱測定装置「Nano Viewer」(株式会社リガク製)を使用し、小角領域は試料―検出器間距離841mmで検出器「PILATUS100K」(株式会社リガク製)を用い、広角領域は試料と検出器との距離75mm、検出器にイメージングプレートを用いて測定を行い、両プロフィールを合体させることにより0.1°<散乱角(2θ)<30°の範囲の散乱角における散乱データを得た。
【0175】
試料は7枚重ねた状態で測定を行い、露光時間は小角領域、広角領域測定とも15分とした。二次元検出器によりデータを取得した場合には円環平均等合理的な手法によりデータを一次元化した。得られたSAXSプロフィールに対しては、検出器の暗電流補正等、検出器に由来する補正、試料以外の物質による散乱に対する補正(空セル散乱補正)を実施した。SAXSプロフィールに対するX線ビーム形状の影響(スメアの影響)が大きい場合はX線ビーム形状に対する補正(デスメア)も行った。こうして得られた一次元SAXSプロフィールに対し、橋本康博、坂本直紀、飯嶋秀樹 高分子論文集 vol.63 No.3 pp.166 2006に記載された手法に準じてイオンクラスター径を求めた。すなわち、イオンクラスター構造が粒径分布を持つコア-シェル型の剛体球で表されると仮定し、このモデルに基づく理論散乱式を用いて実測のSAXSプロフィールのイオンクラスター由来の散乱が支配的な散乱角領域のSAXSプロフィールをフィッティングすることで平均クラスター直径(イオンクラスター径)、イオンクラスター個数密度を求めた。このモデルにおいて、コアの部分がイオンクラスターに相当し、コアの直径がイオンクラスター径となるものとした。なお、シェル層は仮想的なものでシェル層の電子密度はマトリックス部分と同じとした。またここではシェル層厚みは0.25nmとした。フィッティングに用いるモデルの理論散乱式を下記式(A)に示す。また、フィッティング範囲は1.4<2θ<6.7°とした。
【数2】
上記において、Cは装置定数、Nはクラスター個数密度、ηはコア、つまりイオンクラスター部分とその周りの仮想的なシェルを剛体球と仮定した場合のその体積分率、θはブッラグ角、λは用いるX線波長、tはシェル層厚み、a
0は平均イオンクラスター半径、Γ(x)はガンマ関数、σはイオンクラスター半径(コア半径)の標準偏差を示す。P(a)はコア半径aの分布関数を表し、ここではaの体積分布がガウス分布p(a)に従うとする。I
b(q)は測定時の過剰な水由来の散乱、熱散漫散乱を含むバックグラウンド散乱を表し、ここでは定数と仮定する。フィッティングの際には上記パラメータのうち、N、η、a
0、σ、I
b(q)を可変パラメータとする。なお、本明細書において、イオンクラスター径とは、イオンクラスターの平均直径(2a
0)を意味する。
【0176】
[配向パラメータ]
電解質膜の膜面内配向パラメータ及び膜面外配向パラメータは、前述の方法にしたがって測定した二次元小角散乱における、イオンクラスターに由来するピークの方位角方向強度分布I(φ)を、下記式に示す配向関数を用いて近似することによって求めた。
【数3】
ここで、Qは定数であり、φは方位角であり、qは配向パラメータである。
膜面内配向パラメータを求めるときは、X方向をφ=0とした。したがって、イオンクラスターがX方向に完全配向するとqは1となるのに対して、Y方向に完全配向するとqは-1となる。一方、配向がランダムなときは、qは0となる。
膜面外配向パラメータを求めるときは、膜の法線方向をφ=0とした。したがって、イオンクラスターが法線方向に完全配向するとqは1となるのに対して、膜面方向に完全配向するとqは-1となる。一方、配向がランダムなときは、qは0となる。
【0177】
[結晶長周期]
結晶長周期(nm)は、前述の方法に従って得た一次元SAXSプロフィールにおいて、散乱ベクトル0.1~1.0nm-1の範囲に生じる、結晶と非晶の電子密度差の周期性に由来するピークの位置から、ブラッグの式を用いて求めた。
一方、ピーク強度はベースライン強度に対する、ピークトップ強度とベースライン強度の差の比として定義した。なお、ピークが検出できなかったものは、強度の差が検出できないものとして、「-」と記載した。
【0178】
[2M硫酸水溶液浸漬による寸法変化率]
電解質膜を、50℃以下、減圧下で2時間乾燥し、含水率を1質量%以下に調整したものを、一片7cmの正方形に切り出し、試験用電解質膜を調製した。当該試験用電解質膜を25℃の2Mの硫酸水溶液に30分浸漬させた。浸漬後の試験用電解質膜のX方向及びY方向の寸法を読取り顕微鏡「D2XY-KSH」(製品名、株式会社日本光器製作所製)を用いて測定し、寸法変化率を下記の式にて算出した。なお、X方向は、膜面上の任意に選択される方向であり、Y方向は、膜面上でX方向に垂直な方向を意味する。
寸法変化率(%)={(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)}×100
【0179】
[蒸留水浸漬による寸法変化率]
電解質膜を、50℃以下、減圧下で2時間乾燥し、含水率を1%以下に調整したものを、一片7cmの正方形に切り出し、試験用電解質膜を調製した。当該試験用電解質膜を25℃の蒸留水に30分浸漬させた。浸漬後の試験用電解質膜のX方向、Y方向及びZ方向の寸法を読取り顕微鏡「D2XY-KSH」(製品名、株式会社日本光器製作所製)を用いて測定し、寸法変化率を下記の式にて算出した。なお、X方向は、膜面上の任意に選択される方向であり、Y方向は、膜面上でX方向に垂直な方向を意味する。Z方向は、X方向及びY方向に直交する方向を意味する。
寸法変化率(%)={(浸漬後の特定方向の寸法)/(浸漬前の特定方向の寸法)}×100
【0180】
[突刺し強度]
突刺し強度は突刺し試験機「Puncture Strength Tester SPK-NDA1-A」(製品名、カトーテック株式会社製)を用いて、室温にて12時間以上放置した電解質膜について測定した。直径10mmの円形の穴が開いた2枚の金属板に挟んだ電解質膜を、曲率半径0.5mmの針にて、速度2mm/secにて突刺した。荷重―変位曲線の最大荷重(kgf)を電解質膜の厚さ(μm)によって除して、突き刺し強度(kgf/μm)を求めた。
【0181】
[YI値の測定]
電解質膜のYI値の測定は、日本電色工業株式会社製「Spectrophotometer:SE600」にて、D65光源を用い、透過により測定した。電解質膜は、75μmの厚みのものを用い、一片5cmの正方形に切り出した膜を使用した。
【0182】
[パーフルオロカーボン重合体]
本実施例では、以下2種類の構造を有するパーフルオロカーボン重合体を使用した。
下記式(P1)で表される構造を含むパーフルオロカーボン重合体
―[CF2CF2]―[CF2-CF(-O-CF2CF2-SO3H)]- (P1)
下記式(P2)で表される構造を含むパーフルオロカーボン重合体
―[CF2CF2]―[CF2-CF(-O-CF2CFCF3-O-CF2CF2-SO3H)]- (P2)
【0183】
(実施例1)
カソード拡散層にはBASF社製メラミン樹脂フォームBASOTECT G+を炭素化して作製した炭素フォームを用いた。メラミン樹脂フォーム(寸法:90mm×120mm×25mm)上に厚さ6mmの炭素繊維不織布とその上に黒鉛板を載置して、280Paの圧縮荷重を印加し、この圧縮荷重を印加した状態でメラミン樹脂フォームを熱処理炉内に導入した。続いて、炉内に窒素ガスを流量:2.5L/分で供給し、炉内の温度を昇温速度:5℃/分で1100℃まで昇温した後、1時間保持してメラミン樹脂フォームを炭素化した。その後、炉内の温度を室温まで降温し、炉から炭素化したメラミン樹脂フォームを取り出した。得られたカソード拡散層(炭素フォーム)は連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。
電解質膜にはパーフルオロカーボン重合体(ポリマー構造:式(P1)、当量質量EW=750g/eq)からなる厚さ75μmの膜を、70℃の蒸留水に30分間浸漬、洗浄する操作を4回繰り返し、100℃で20分間乾燥させたものを、延伸することなくそのまま用いた。
トルエン電解水素化試験は、電極面積が2×2cmであるミックラボ社製電解セルを用いて行った。カソードおよびアノードプレートには、それぞれ硫酸およびトルエンを流通させるための平行型流路を形成し、表面には電解による腐食を抑制するため金メッキを施した。また、セル温度を制御するための棒状ヒーターを挿入できる構造とした。セルを構成する部材を、カソード側から以下の順に積層したのち、ボルトを所定のトルクにて締結することによってセルを組み立てた。
カソードプレート/炭素フォーム/カソード触媒層-膜接合体/アノード触媒電極/アノード拡散層/アノードプレート
アノード触媒電極、およびアノード拡散層には、それぞれ市販の酸素発生用電極(酸化イリジウム系触媒被覆チタン電極)、およびベカルト東綱メタルファイバー株式会社製チタン繊維焼結体2GDL5-030(厚さ300μm)を用いた。カソードプレートと膜の間に用いるガスケットは、セルに組み込んだ際の炭素フォームの厚さが250μmとなるように、その厚さを調節した。
カソード触媒層-膜接合体は、スプレー塗工にて作製したカソード触媒層と膜をホットプレスによって接合するデカール法を用いて作製した。まず、白金-ルテニウム担持炭素触媒粒子(田中貴金属工業株式会社製、固体高分子型燃料電池用標準触媒、耐一酸化炭素被毒触媒標準品TEC 61E54-Pt及びRu含有量54質量%(Pt:Ru=1:1.5)担持触媒(担体Ketjenblack EC)、以下「Pt/Ru-C触媒」という。)0.50g、蒸留水2.00g、シグマアルドリッチ社製ナフィオン117溶液(濃度5wt%)5.00gをジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミルにて混合してカソード触媒インクを調製した。次に、カソード触媒インクを、株式会社エーシングテクノロジーズ製小型スプレー塗布装置AV-8型を用いて、テフロン(登録商標)シート状に目付0.5mgcm
-2となるように塗布することによって陰極触媒層を作製した。最後に、膜と陰極触媒層を140℃にて2minホットプレスしたのち、基材であるテフロン(登録商標)シートをはく離することによってカソード触媒層-膜接合体を作製した。
[電解試験]
上述の手順にしたがって組み立てた電解セルについて、以下の手順にしたがって電解試験を行った。まず、アノードおよびカソードに、それぞれ1M H
2SO
4および100%トルエンを、いずれも流速2mlmin
-1にて流通させた。次に、セルを60℃に加熱したのち、電流密度0.1Acm
-2の一定電流を2hr通電することによってセルをエージングした。その後、電流密度を0.1Acm
-2幅にて0.5Acm
-2まで増大させた。
電流密度0.5Acm
-2におけるセル電圧にて対する、トルエンの電解水素化の熱中性電圧1.138Vの比を電圧効率(%)とした。
一方、電流効率(%)は、所定の電流密度にて一定時間電解したカソードのトルエン中のメチルシクロヘキサン濃度を、ガスクロマトグラフィーにて定量することによって求めた。
そして、上記電圧効率(%)と上記電流効率(%)との積であるエネルギー効率(%)も算出した。
図3は、実施例1に用いた炭素フォームのSEM画像である。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0184】
(実施例2)
原料のメラミン樹脂フォームの厚さを4mm、炭素化においてメラミンフォームに印加する圧縮荷重を70Paとしたこと以外は、実施例1と同様に炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。その他、膜の作製方法、および電解試験方法も実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0185】
(実施例3)
原料のメラミン樹脂フォームの厚さを30mm、炭素化においてメラミンフォームに印加する圧縮荷重を630Paとしたこと以外は、実施例1と同様に炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。その他、膜の作製方法、および電解試験方法も実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0186】
(実施例4)
炭素化温度を2000℃としたこと以外は、実施例1と同様に炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。その他、膜の作製方法、および電解試験方法も実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0187】
(実施例5)
原料のメラミン樹脂フォームの厚さを3mm、炭素化においてメラミンフォームに印加する圧縮荷重を70Pa、炭素化温度を2000℃としたこと以外は、実施例1と同様に炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。その他、膜の作製方法、および電解試験方法も実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0188】
(参考例6)
原料のメラミン樹脂フォームの厚さを2mm、炭素化においてメラミンフォームに印加する圧縮荷重を18Pa、炭素化温度を1500℃としたこと以外は、実施例1と同様に炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。その他、膜の作製方法、および電解試験方法も実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0189】
(実施例7)
原料のメラミン樹脂フォーム(寸法:90mm×120mm×40mm)を、250mm角の黒鉛板の上にサンプルを置き、サンプルの横にスペーサーとして厚み0.5mmの150mm×20mmSUS板を置き、上から更に黒鉛板を置いてサンプルとスペーサーを挟み込んだ。この黒鉛板に挟み込んだ状態で北川精機社製真空プレス機(KVHC-II)内に導入し、真空ポンプで真空減圧しながら設定圧力2.0MPaで押圧した。減圧を続けながら昇温速度:5℃/分で360℃まで昇温した後、10分間保持してから冷却を行った。サンプルを取り出した後、実施例6と同様に再度サンプル上に黒鉛板を載置して、18Paの圧縮荷重を印加し、この圧縮荷重を印加した状態で熱処理炉内に導入して、1500℃で熱処理を行い、実施例7による炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。膜の作製方法、および電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0190】
(実施例8)
パーフルオロカーボン重合体(ポリマー構造:式(P1)、当量質量EW=950g/eq)からなる厚さ300μmの原料膜を、70℃の蒸留水に30分間浸漬、洗浄する操作を4回繰り返し、100℃で20分間乾燥させたものを、バッチ式二軸延伸機「IMC-1AA6」(製品名、井元製作所株式会社製)を用いて同時二軸延伸により、延伸した。直交するX方向及びY方向いずれも92.5mmに切り出した原料膜を、X方向及びY方向のチャック間隔が72.5mmとなるよう延伸機に把持した。延伸機の加熱チャンバーの温度が140℃に到達後3min経過したら、延伸速度100mm/minにて同時二軸延伸を開始した。X方向及びY方向のチャック間隔が145mmに到達したら、延伸を停止し、膜をチャックに把持した状態で、直ちに加熱チャンバーを開放し冷却を開始した。同時に、X方向及びY方向の緩和率が0.5%となるように、チャック間隔を0.7mm狭めた。膜が室温まで冷却されたら、チャックから取り外し、X方向及びY方向の延伸倍率2.0の二軸延伸電解質膜を得た。炭素フォームの作製方法、および電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0191】
(実施例9)
パーフルオロカーボン重合体(ポリマー構造:式(P2)、当量質量EW=1100g/eq)からなる厚さ470μmの原料膜を70℃の蒸留水に30分間浸漬、洗浄する操作を4回繰り返し、100℃で20分間乾燥させたものを、二軸延伸した。直交するX方向及びY方向いずれも78mmに切り出した原料膜を、X方向及びY方向のチャック間隔が58mmとなるよう延伸機に把持した。延伸機の加熱チャンバーの温度が100℃に到達後3min経過したら、延伸速度100mm/minにて同時二軸延伸を開始した。X方向及びY方向のチャック間隔が145mmに到達したら、延伸を停止し、膜をチャックに把持した状態で、直ちに加熱チャンバーを開放し冷却を開始した。同時に、X方向及びY方向の緩和率が0.5%となるように、チャック間隔を0.7mm狭めた。膜が室温まで冷却されたら、チャックから取り外し、X方向及びY方向の延伸倍率2.5の二軸延伸電解質膜を得た。炭素フォームの作製方法、および電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0192】
(実施例10)
パーフルオロカーボン重合体(ポリマー構造:式(P1)、当量質量EW=950g/eq)からなる厚さ630μmの原料膜を70℃の蒸留水に30分間浸漬、洗浄する操作を4回繰り返し、100℃で20分間乾燥させたものを、二軸延伸した。直交するX方向及びY方向いずれも70mmに切り出した原料膜を、X方向及びY方向のチャック間隔が50mmとなるよう延伸機に把持した。延伸機の加熱チャンバーの温度が140℃に到達後3min経過したら、延伸速度100mm/minにて同時二軸延伸を開始した。X方向及びY方向のチャック間隔が145mmに到達したら、延伸を停止し、膜をチャックに把持した状態で、直ちに加熱チャンバーを開放し冷却を開始した。同時に、X方向及びY方向の緩和率が1.0%となるように、チャック間隔を1.4mm狭めた。膜が室温まで冷却されたら、そのチャック間隔のまま、再び膜を140℃にて5min加熱した。膜が室温まで冷却されたら、チャックから取り外し、X方向及びY方向の延伸倍率2.9のヒートセットされた二軸延伸電解質膜を得た。炭素フォームの作製方法、および電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0193】
(参考例11)
原料のメラミン樹脂フォームの厚さを2mm、炭素化においてメラミンフォームに荷重を印加しなかったこと以外は、実施例1と同様に炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。その他、膜の作製方法、および電解試験方法も実施例1と同様とした。得られた炭素フォームのかさ密度は0.006gcm-3と小さな値であったが、厚さ1000μmの炭素フォームを250μmまで圧縮してセルに組み込むことによって、十分な電気的接触と導通を得ることができた。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0194】
(参考例12)
原料のメラミン樹脂フォームの厚さを2mm、炭素化においてメラミンフォームに荷重を印加しなかったこと、炭素化温度を2000℃としたこと以外は、実施例1と同様に炭素フォームを作製した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ2μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であった。その他、膜の作製方法、および電解試験方法も実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0195】
(参考例13)
カソード拡散層にSGL CARBON製炭素繊維ペーパ(SIGRACET GDL39AA)を用いた。一方、膜については実施例8と同じ二軸延伸膜を用いた。それ以外の電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0196】
(参考例14)
カソード拡散層にSGL CARBON製炭素繊維ペーパ(SIGRACET GDL39AA)を用いた。一方、膜については、パーフルオロカーボン重合体(ポリマー構造:式(P1)、当量質量EW=950g/eq)からなる厚さ300μmの原料膜を70℃の蒸留水に30分間浸漬、洗浄する操作を2回繰り返し、100℃で20分間乾燥させたものを、バッチ式二軸延伸機「IMC-1AA6」(製品名、井元製作所株式会社製)を用いて同時二軸延伸により、延伸した。直交するX方向及びY方向いずれも92.5mmに切り出した原料膜を、X方向及びY方向のチャック間隔が72.5mmとなるよう延伸機に把持した。延伸機の加熱チャンバーの温度が140℃に到達後3min経過したら、延伸速度25mm/minにて同時二軸延伸を開始した。X方向及びY方向のチャック間隔が145mmに到達したら、延伸を停止し、膜をチャックに把持した状態で、直ちに加熱チャンバーを開放し冷却を開始した。同時に、X方向及びY方向の緩和率が0.5%となるように、チャック間隔を0.7mm狭めた。膜が室温まで冷却されたら、チャックから取り外し、X方向及びY方向の延伸倍率2.0の二軸延伸電解質膜を得た。
それ以外の電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0197】
(参考例15)
カソード拡散層にSGL CARBON製炭素繊維ペーパ(SIGRACET GDL39AA)を用いた。一方、膜については、パーフルオロカーボン重合体(ポリマー構造:式(P1)、当量質量EW=950g/eq)からなる厚さ300μmの原料膜を蒸留水での洗浄をせずに、バッチ式二軸延伸機「IMC-1AA6」(製品名、井元製作所株式会社製)を用いて同時二軸延伸により、延伸した。その際、延伸時の加熱チャンバー内を、密閉から50L/秒で排気するようにした。直交するX方向及びY方向いずれも92.5mmに切り出した原料膜を、X方向及びY方向のチャック間隔が72.5mmとなるよう延伸機に把持した。延伸機の加熱チャンバーの温度が140℃に到達後3min経過したら、延伸速度100mm/minにて同時二軸延伸を開始した。X方向及びY方向のチャック間隔が145mmに到達したら、延伸を停止し、膜をチャックに把持した状態で、直ちに加熱チャンバーを開放し冷却を開始した。同時に、X方向及びY方向の緩和率が0.5%となるように、チャック間隔を0.7mm狭めた。膜が室温まで冷却されたら、チャックから取り外し、X方向及びY方向の延伸倍率2.0の二軸延伸電解質膜を得た。
それ以外の電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0198】
(比較例1)
カソード拡散層にSGL CARBON製炭素繊維ペーパ(SIGRACET GDL39AA)を用いた。それ以外の膜の作製方法、および電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0199】
(比較例2)
カソード拡散層にSGL CARBON製炭素繊維不織布(SIGRACELL GFD4.6EA)を用いた。陰極プレートと膜の間にテフロン(登録商標)板を挟むことによって、セルに組み込んだ時の炭素繊維不織布の厚さが3mmとなるように調節した。それ以外の膜の作製方法、および電解試験方法は実施例1と同様とした。炭素フォームや炭素繊維ペーパと比べて、厚さが大幅に大きい炭素繊維不織布については、テーバ曲げ剛さを正しく測定することができなかった。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0200】
(比較例3)
カソード拡散層にBoyd Corp.製ポリイミド発泡体SOLIMIDEを、実施例1と同様に1100℃にて炭素化して得た炭素発泡体を用いた。この炭素発泡体は、
図4に示す走査型電子顕微鏡像からわかるように、線状部と結合部からなる構造ではなく、波打った炭素薄膜が重なった、いわゆるカードハウス構造であった。それ以外の膜の作製方法、および電解試験方法は実施例1と同様とした。
図4は、比較例3に用いた炭素フォームのSEM画像である。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0201】
(比較例4)
BASF社製メラミン樹脂フォームBASOTECT G+を室温の2M硫酸に浸漬させ、1週間静置した。その後蒸留水で洗浄し、洗浄液が中性になったことを確認した。その後、実施例1と同様に炭素フォームを作成した。得られた炭素フォームは連続空隙からなり、繊維径がおよそ0.4μmの線状部と、それらが結合した結合部からなる構造であったが、非常に強度が弱く、電解セルに組み込むことができなかった。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0202】
(比較例5)
カソード拡散層にSGL CARBON製炭素繊維ペーパ(SIGRACET GDL39AA)を用いた。一方、膜については、パーフルオロカーボン重合体(ポリマー構造:式(P1)、当量質量EW=950g/eq)からなる厚さ300μmの原料膜を蒸留水での洗浄操作を実施せずに、バッチ式二軸延伸機「IMC-1AA6」(製品名、井元製作所株式会社製)を用いて同時二軸延伸により、延伸した。直交するX方向及びY方向いずれも92.5mmに切り出した原料膜を、X方向及びY方向のチャック間隔が72.5mmとなるよう延伸機に把持した。延伸機の加熱チャンバーの温度が140℃に到達後3min経過したら、延伸速度100mm/minにて同時二軸延伸を開始した。X方向及びY方向のチャック間隔が145mmに到達したら、延伸を停止し、膜をチャックに把持した状態で、直ちに加熱チャンバーを開放し冷却を開始した。同時に、X方向及びY方向の緩和率が0.5%となるように、チャック間隔を0.7mm狭めた。膜が室温まで冷却されたら、チャックから取り外し、X方向及びY方向の延伸倍率2.0の二軸延伸電解質膜を得た。
それ以外の電解試験方法は実施例1と同様とした。
本例の諸条件は、表1~表3に記載のとおりである。
【0203】
【0204】
【0205】