(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】油井用金属管
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20241213BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20241213BHJP
C25D 7/04 20060101ALI20241213BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
F16L15/04 A
C25D5/26 G
C25D7/04
C23C28/00 A
(21)【出願番号】P 2023546885
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2022032244
(87)【国際公開番号】W WO2023037910
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2021145098
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大島 真宏
(72)【発明者】
【氏名】木本 雅也
(72)【発明者】
【氏名】アントワン アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ムニョス ダニエル
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/074103(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/044961(WO,A1)
【文献】特表2018-513326(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216416(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216475(WO,A1)
【文献】特開2020-29946(JP,A)
【文献】特開平5-212439(JP,A)
【文献】国際公開第2021/166100(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/045209(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/00
E21B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面と、前記ボックス接触表面との少なくとも一方の上に形成されているZn-Ni合金めっき層を備え、
前記Zn-Ni合金めっき層のX線回折強度が式(1)を満たす、
油井用金属管。
I
18/(I
18+I
36+I
54)≧0.60 (1)
ここで、式(1)中のI
18には、ミラー指数の二乗和が18となる{411}及び{330}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI
36には、ミラー指数の二乗和が36となる{442}及び{600}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI
54には、ミラー指数の二乗和が54となる{552}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。
【請求項2】
請求項1に記載の油井用金属管であって、
前記Zn-Ni合金めっき層の厚さは5~25μmである、
油井用金属管。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の油井用金属管であって、
前記Zn-Ni合金めっき層の上又は上方に潤滑被膜を備える、
油井用金属管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油井用金属管に関し、さらに詳しくは、ねじ継手が形成された油井用金属管に関する。
【背景技術】
【0002】
油田や天然ガス田(以下、油田及び天然ガス田を総称して「油井」という)の採掘のために、油井用金属管が使用される。具体的には、油井採掘地において、油井の深さに応じて、複数の油井用金属管を連結して、ケーシングやチュービングに代表される油井管連結体を形成する。油井管連結体は、油井用金属管の端部に形成されたねじ継手同士をねじ締めすることによって形成される。油井管連結体に対して検査を実施する場合がある。検査を実施する場合、油井管連結体が引き上げられ、ねじ継手がねじ戻しされる。そして、ねじ戻しされて油井管連結体から取り外された油井用金属管を検査する。検査後、油井用金属管のねじ継手が再びねじ締めされ、油井管連結体の一部として再度利用される。
【0003】
油井用金属管は、第1端部と第2端部とを含む管本体を備える。管本体は、第1端部に形成されているピンと、第2端部に形成されているボックスとを含む。ピンは、管本体の第1端部の外周面に、雄ねじ部を含むピン接触表面を有する。ボックスは、ピンと反対側の管本体の端部(第2端部)の内周面に、雌ねじ部を含むボックス接触表面を有する。油井用金属管に端部に形成されたねじ継手がねじ締めされるとき、ピン接触表面はボックス接触表面と接触する。
【0004】
ピン接触表面及びボックス接触表面は、油井用金属管のねじ締め及びねじ戻し時に強い摩擦を繰り返し受ける。これらの部位に、摩擦に対する十分な耐久性がなければ、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した時にゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生する。したがって、油井用金属管には、摩擦に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が要求される。
【0005】
従来、耐焼付き性を向上するために、ドープと呼ばれる重金属入りのコンパウンドグリスが使用されてきた。ピン接触表面及び/又はボックス接触表面にコンパウンドグリスを塗布することで、油井用金属管の耐焼付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリスに含まれるPb、Zn及びCu等の重金属は、環境に影響を与える可能性がある。このため、コンパウンドグリスを使用しなくても、耐焼付き性に優れる油井用金属管の開発が望まれている。
【0006】
特許文献1(国際公開第2016/170031号)に開示される油井用金属管では、コンパウンドグリスに代えて、Zn-Ni合金めっき層をピン接触表面又はボックス接触表面に形成している。油井用金属管の接触表面に形成されたZn-Ni合金めっき層中のZnは、犠牲防食により、油井用金属管の耐食性を高める。さらに、Zn-Ni合金は、耐摩耗特性にも優れる、と特許文献1には開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、油井用金属管のねじ締め及びねじ戻し時においては、Zn-Ni合金めっき層も強い摩擦を繰り返し受ける。強い摩擦を繰り返し受けたZn-Ni合金めっき層の一部が剥離すれば、接触表面の摩擦係数が一気に高まり、油井用金属管の耐焼付き性が急激に低下する。したがって、油井用金属管の接触表面に形成されるZn-Ni合金めっき層は、強い摩擦を繰り返し受けても剥離しにくい方が好ましい。以下、本明細書において、強い摩擦を繰り返し受けても剥離しにくいことを、「密着性が高い」ともいう。
【0009】
上記特許文献1に開示される技術によれば、ピン接触表面又はボックス接触表面にZn-Ni合金めっき層を形成することで、油井用金属管の耐焼付き性を高めることができる。しかしながら、上記特許文献1には、油井用金属管の接触表面上に形成されたZn-Ni合金めっき層の密着性について、検討されていない。
【0010】
本開示の目的は、高い密着性を有するZn-Ni合金めっき層を備えた油井用金属管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示による油井用金属管は、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面と、前記ボックス接触表面との少なくとも一方の上に形成されているZn-Ni合金めっき層を備え、
前記Zn-Ni合金めっき層のX線回折強度が、式(1)を満たす。
I18/(I18+I36+I54)≧0.60 (1)
ここで、式(1)中のI18には、ミラー指数の二乗和が18となる{411}及び{330}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI36には、ミラー指数の二乗和が36となる{442}及び{600}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI54には、ミラー指数の二乗和が54となる{552}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。
【発明の効果】
【0012】
本開示による油井用金属管のZn-Ni合金めっき層は、高い密着性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施例におけるFn1(=I
18/(I
18+I
36+I
54))と、密着性の指標である密着性評価との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態による油井用金属管の一例を示す構成図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す油井用金属管のカップリングの管軸方向に沿った断面(縦断面)を示す一部断面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す油井用金属管のうちのピン近傍部分の、油井用金属管の管軸方向に平行な断面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示す油井用金属管のうちのボックス近傍部分の、油井用金属管の管軸方向に平行な断面図である。
【
図6】
図6は、
図3と異なる、本実施形態による油井用金属管のカップリングの管軸方向に沿った断面(縦断面)を示す一部断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態によるインテグラル型の油井用金属管の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
本発明者らは、油井用金属管のピン接触表面とボックス接触表面との少なくとも一方に形成されたZn-Ni合金めっき層について、その密着性を高める手段を詳細に検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
【0016】
金属材料の物理的及び化学的な性質は、材料の結晶学的な構造や、表面形態に代表される微細構造によって、影響を受ける。そこで本発明者らは、金属材料であるZn-Ni合金めっき層のミクロ組織に着目して、Zn-Ni合金めっき層の密着性を高める手段を詳細に検討した。その結果、本発明者らは、Zn-Ni合金めっき層中の結晶の方位によって、密着性が変化することを知見した。本明細書において、Zn-Ni合金めっき層中の結晶の方位の分布状態を、「Zn-Ni合金めっき層の配向性」ともいう。つまり、Zn-Ni合金めっき層の配向性を適切に制御できれば、Zn-Ni合金めっき層の密着性を高められる可能性があると、本発明者らは考えた。
【0017】
ここで、金属材料の配向性を評価する手法として、X線回折分析(XRD:X-Ray Diffraction analysis)がある。XRDでは、X線が原子の周りにある電子によって散乱、干渉した結果起こる回折を解析する。そのため、XRDでは、材料中の原子の配列状態ごとに、特有の回折パターンが得られる。つまり、XRDによって得られた回折パターンから、結晶の大きさや、材料の配向性を評価することができる。
【0018】
そこで本発明者らは、接触表面上にZn-Ni合金めっき層を形成した油井用金属管を種々製造して、XRDによってZn-Ni合金めっき層の配向性を評価し、Zn-Ni合金めっき層の配向性と密着性との関係を調査した。その結果、Zn-Ni合金めっき層のX線回折強度が、次の式(1)を満たしていれば、Zn-Ni合金めっき層の密着性が顕著に高まることが明らかになった。
I18/(I18+I36+I54)≧0.60 (1)
ここで、式(1)中のI18には、ミラー指数の二乗和が18となる{411}及び{330}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI36には、ミラー指数の二乗和が36となる{442}及び{600}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI54には、ミラー指数の二乗和が54となる{552}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。
【0019】
Fn1=I18/(I18+I36+I54)と定義する。Fn1は、{411}及び{330}の配向傾向を示す指標である。つまり、Fn1が大きいほど、{411}及び{330}が同じ方向に揃っていることを示す。本発明者らのさらなる詳細な検討の結果、Fn1が0.60以上となれば、Zn-Ni合金めっき層の密着性が顕著に高まることが明らかになった。この点について、図面を用いて具体的に説明する。
【0020】
図1は、本実施例におけるFn1(=I
18/(I
18+I
36+I
54))と、密着性の指標である密着性評価との関係を示す図である。
図1は、後述する実施例を用いて作成した。Fn1を求めるためのX線回折強度、及び、密着性評価は、後述する方法で求めた。なお、密着性評価について、最も剥離の少ない場合「0」であり、最も剥離の多い場合「5」である。
【0021】
図1を参照して、Fn1が0.60以上になると、密着性評価が急激に低下する。つまり、Fn1が0.60以上になれば、Zn-Ni合金めっき層の密着性が顕著に高まる。したがって、本実施形態による油井用金属管では、接触表面上に形成されたZn-Ni合金めっき層において、Fn1を0.60以上とする。
【0022】
なお、Fn1が0.60以上とした場合に、Zn-Ni合金めっき層の密着性が高まる理由について、詳細は明らかになっていない。しかしながら、本発明者らは次のように推察している。上述のとおり、金属材料の物理的及び化学的な性質は、材料の結晶学的な構造によって影響を受ける。つまり、Zn-Ni合金めっき層の配向性が異なれば、結晶格子中の歪みの残存しやすさも変わる可能性がある。ここで、{411}及び{330}が同じ方向に揃っている場合、歪みが残存しにくい可能性がある。その結果、Fn1を0.60以上にまで高めれば、Zn-Ni合金めっき層中の残留引張応力が低減でき、密着性が高まるのではないかと、本発明者らは考えている。
【0023】
以上のメカニズムにより、Fn1を0.60以上とするZn-Ni合金めっき層の密着性が高まると本発明者らは推察している。なお、上記メカニズムとは異なるメカニズムによって、Fn1を0.60以上とするZn-Ni合金めっき層の密着性が高まっている可能性もある。しかしながら、Fn1を0.60以上とすることにより、Zn-Ni合金めっき層の密着性が高まることは、後述の実施例によって証明されている。
【0024】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による油井用金属管の要旨は、次のとおりである。
【0025】
[1]
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面と、前記ボックス接触表面上の少なくとも一方の上に形成されているZn-Ni合金めっき層を備え、
前記Zn-Ni合金めっき層のX線回折強度が、式(1)を満たす、
油井用金属管。
I18/(I18+I36+I54)≧0.60 (1)
ここで、式(1)中のI18には、ミラー指数の二乗和が18となる{411}及び{330}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI36には、ミラー指数の二乗和が36となる{442}及び{600}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI54には、ミラー指数の二乗和が54となる{552}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。
【0026】
[2]
[1]に記載の油井用金属管であって、
前記Zn-Ni合金めっき層の厚さは5~25μmである、
油井用金属管。
【0027】
[3]
[1]又は[2]に記載の油井用金属管であって、
前記Zn-Ni合金めっき層の上又は上方に潤滑被膜を備える、
油井用金属管。
【0028】
以下、本実施形態による油井用金属管について詳述する。
【0029】
[油井用金属管の構成]
初めに、本実施形態による油井用金属管の構成について説明する。油井用金属管は周知の構成を有する。油井用金属管は、T&C型の油井用金属管と、インテグラル型の油井用金属管とがある。以下、各タイプの油井用金属管について詳述する。
【0030】
[油井用金属管がT&C型である場合]
図2は、本実施形態による油井用金属管1の一例を示す構成図である。
図2は、いわゆるT&C型(Threaded and Coupled)の油井用金属管1の構成図である。
図2を参照して、油井用金属管1は、管本体10を備える。
【0031】
管本体10は、管軸方向に延びている。管本体10の管軸方向に垂直な断面は円形状である。管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bの反対側の端部である。
図2に示すT&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。カップリング12は、ピン管体11の一端に取り付けられている。より具体的には、カップリング12は、ピン管体11の一端にねじにより締結されている。
【0032】
図3は、
図2に示す油井用金属管1のカップリング12の管軸方向に平行な断面(縦断面)を示す一部断面図である。
図2及び
図3を参照して、管本体10は、ピン40と、ボックス50とを含む。ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。ピン40は、締結時において、他の油井用金属管(図示せず)のボックス50に挿入されて、他の油井用金属管1のボックス50とねじにより締結される。
【0033】
ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。締結時において、ボックス50には、他の油井用金属管1のピン40が挿入されて、他の油井用金属管1のピン40とねじにより締結される。
【0034】
[ピンの構成について]
図4は、
図3に示す油井用金属管1のうちのピン40近傍部分の、油井用金属管1の管軸方向に平行な断面図である。
図4中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のボックス50の構成を示す。
図4を参照して、ピン40は、管本体10の第1端部10Aの外周面に、ピン接触表面400を備える。ピン接触表面400は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のボックス50と接触する。
【0035】
ピン接触表面400は、第1端部10Aの外周面に形成された雄ねじ部41を少なくとも含む。ピン接触表面400はさらに、ピンシール面42と、ピンショルダ面43とを含んでもよい。
図4では、ピンシール面42は、第1端部10Aの外周面のうち、雄ねじ部41よりも第1端部10Aの先端側に配置されている。つまり、ピンシール面42は、雄ねじ部41とピンショルダ面43との間に配置されている。ピンシール面42はテーパ状に設けられている。具体的には、ピンシール面42では、第1端部10Aの長手方向(管軸方向)において、雄ねじ部41からピンショルダ面43に向かうにしたがって、外径が徐々に小さくなっている。
【0036】
他の油井用金属管1との締結時において、ピンシール面42は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスシール面52(後述)と接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンシール面42がボックスシール面52と接触する。そして、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50にさらにねじ込まれることにより、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着する。これにより、締結時において、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0037】
図4では、ピンショルダ面43は、第1端部10Aの先端面に配置されている。つまり、
図4に示すピン40では、管本体10の中央から第1端部10Aに向かって順に、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダ面43の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ピンショルダ面43は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスショルダ面53(後述)と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンショルダ面43がボックスショルダ面53と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0038】
なお、ピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいる。つまり、ピン接触表面400は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンショルダ面43とを含み、ピンシール面42を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。
【0039】
[ボックスの構成について]
図5は、
図3に示す油井用金属管1のうちのボックス50近傍部分の、油井用金属管1の管軸方向に平行な断面図である。
図5中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のピン40の構成を示す。
図5を参照して、ボックス50は、管本体10の第2端部10Bの内周面に、ボックス接触表面500を備える。ボックス接触表面500は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれ、ピン40のピン接触表面400と接触する。
【0040】
ボックス接触表面500は、第2端部10Bの内周面に形成された雌ねじ部51を少なくとも含む。締結時において、雌ねじ部51は、他の油井用金属管1のピン40の雄ねじ部41と噛み合う。
【0041】
ボックス接触表面500はさらに、ボックスシール面52と、ボックスショルダ面53とを含んでもよい。
図5では、ボックスシール面52は、第2端部10Bの内周面のうち、雌ねじ部51よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックスシール面52は、雌ねじ部51とボックスショルダ面53との間に配置されている。ボックスシール面52はテーパ状に設けられている。具体的には、ボックスシール面52では、第2端部10Bの長手方向(管軸方向)において、雌ねじ部51からボックスショルダ面53に向かうにしたがって、内径が徐々に小さくなっている。
【0042】
他の油井用金属管1との締結時において、ボックスシール面52は、他の油井用金属管1のピン40のピンシール面42と接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と接触し、さらにねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と密着する。これにより、締結時において、ボックスシール面52は、ピンシール面42と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0043】
ボックスショルダ面53は、ボックスシール面52よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックス50では、管本体10の中央から第2端部10Bの先端に向かって順に、ボックスショルダ面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ボックスショルダ面53は、他の油井用金属管1のピン40のピンショルダ面43と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40が挿入されることにより、ボックスショルダ面53がピンショルダ面43と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0044】
ボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含む。締結時において、ボックス50のボックス接触表面500の雌ねじ部51は、ピン40のピン接触表面400の雄ねじ部41に対応し、雄ねじ部41と接触する。ボックスシール面52は、ピンシール面42と対応し、ピンシール面42と接触する。ボックスショルダ面53は、ピンショルダ面43と対応し、ピンショルダ面43と接触する。
【0045】
ピン接触表面400が雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含まない場合、ボックス接触表面500は雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンショルダ面43とを含み、ピンシール面42を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスショルダ面53とを含み、ボックスシール面52を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダ面43を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスシール面52とを含み、ボックスショルダ面53を含まない。
【0046】
ピン接触表面400は、複数の雄ねじ部41を含んでもよく、複数のピンシール面42を含んでもよく、複数のピンショルダ面43を含んでもよい。たとえば、ピン40のピン接触表面400において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41の順で配置されてもよい。この場合、ボックス50のボックス接触表面500において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53の順に配置される。
【0047】
図4及び
図5では、ピン40が、雄ねじ部41、ピンシール面42、及び、ピンショルダ面43を含み、ボックス50が、雌ねじ部51、ボックスシール面52、及び、ボックスショルダ面53を含む、いわゆる、プレミアムジョイントを図示している。しかしながら、上述のとおり、ピン40は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。この場合、ボックス50は、雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含んでいない。
図6は、ピン40が雄ねじ部41を含み、ピンシール面及びピンショルダ面を含んでおらず、かつ、ボックス50が雌ねじ部51を含み、ボックスシール面及びボックスショルダ面を含んでいない油井用金属管1の一例を示す図である。本実施形態による油井用金属管1は、
図6に示す構成を有していてもよい。
【0048】
[油井用金属管がインテグラル型である場合]
図2、
図3及び
図6に示す油井用金属管1は、管本体10が、ピン管体11とカップリング12とを含む、いわゆる、T&C型の油井用金属管1である。しかしながら、本実施形態による油井用金属管1は、T&C型ではなく、インテグラル型であってもよい。
【0049】
図7は、本実施形態によるインテグラル型の油井用金属管1の構成図である。
図7を参照して、インテグラル型の油井用金属管1は、管本体10を備える。管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bと反対側に配置されている。上述のとおり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。つまり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、2つの別個の部材(ピン管体11及びカップリング12)を締結して構成されている。これに対して、インテグラル型の油井用金属管1では、管本体10は一体的に形成されている。
【0050】
ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。締結時において、ピン40は、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50に挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50と締結される。ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。締結時において、ボックス50には、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40が挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40と締結される。
【0051】
インテグラル型の油井用金属管1のピン40の構成は、
図4に示すT&C型の油井用金属管1のピン40の構成と同じである。同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50の構成は、
図5に示すT&C型の油井用金属管1のボックス50の構成と同じである。なお、
図7では、ピン40において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダ面、ピンシール面、雄ねじ部41の順で配置されている。そのため、ボックス50において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面、ボックスショルダ面の順に配置されている。しかしながら、
図4と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいればよい。また、
図5と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50のボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含んでいればよい。
【0052】
要するに、本実施形態による油井用金属管1は、T&C型であってもよく、インテグラル型であってもよい。
【0053】
[管本体の化学組成について]
本実施形態による油井用金属管1では、管本体10の化学組成は、特に限定されない。管本体10は、炭素鋼に該当する化学組成を有していてもよく、ステンレス鋼に該当する化学組成を有していてもよい。
【0054】
[Zn-Ni合金めっき層について]
本実施形態による油井用金属管1では、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の接触表面の上に、Zn-Ni合金めっき層が形成されている。つまり、Zn-Ni合金めっき層は、ピン接触表面400の上に形成されており、ボックス接触表面500の上に形成されていなくてもよい。また、Zn-Ni合金めっき層は、ボックス接触表面500の上に形成されており、ピン接触表面400の上に形成されていなくてもよい。また、Zn-Ni合金めっき層は、ピン接触表面400の上及びボックス接触表面500の上に形成されていてもよい。
【0055】
以降の説明では、Zn-Ni合金めっき層がピン接触表面400の上に形成されている場合のピン接触表面400上の構成、及び、Zn-Ni合金めっき層がボックス接触表面500の上に形成されている場合のボックス接触表面500上の構成について説明する。
【0056】
[Zn-Ni合金めっき層がピン接触表面の上に形成されている場合のピン接触表面上の構成]
図8は、Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400の上に形成されている場合のピン接触表面400近傍の拡大図である。
図8を参照して、この場合、油井用金属管1はさらに、ピン40のピン接触表面400の上に形成されているZn-Ni合金めっき層100を備える。
【0057】
Zn-Ni合金めっき層100は、ピン接触表面400の一部に形成されていてもよく、ピン接触表面400全体に形成されていてもよい。ピンシール面42は、ねじ締めの最終段階で特に面圧が高くなる。したがって、Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400の上に部分的に形成されている場合、Zn-Ni合金めっき層100は、少なくともピンシール面42に形成されていることが好ましい。Zn-Ni合金めっき層100は、上述のとおり、ピン接触表面400全体に形成されてもよい。
【0058】
[Zn-Ni合金めっき層がボックス接触表面の上に形成されている場合のボックス接触表面上の構成]
図9は、Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500の上に形成されている場合のボックス接触表面500近傍の拡大図である。
図9を参照して、この場合、ボックス接触表面500の上にZn-Ni合金めっき層100が形成されている。Zn-Ni合金めっき層100は、ボックス接触表面500の一部に形成されていてもよく、ボックス接触表面500全体に形成されていてもよい。ボックスシール面52は、ねじ締め最終段階で特に面圧が高くなる。したがって、Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500の上に部分的に形成されている場合、Zn-Ni合金めっき層100は、少なくともボックスシール面52に形成されていることが好ましい。
【0059】
[Zn-Ni合金めっき層の組成について]
上述のとおり、Zn-Ni合金めっき層100は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の接触表面の上に形成されている。ここで、Zn-Ni合金めっき層100は、Zn-Ni合金からなる。具体的に、Zn-Ni合金は、亜鉛(Zn)及びニッケル(Ni)を含有する。Zn-Ni合金は不純物を含有する場合がある。ここで、Zn-Ni合金の不純物とは、Zn及びNi以外の物質で、油井用金属管1の製造中等にZn-Ni合金めっき層100に含有され、本実施形態の効果に影響を与えない範囲の含有量で含まれる物質を意味する。
【0060】
ここで、Zn-Ni合金めっき層100はZnを含有する。ZnはFeと比較して卑な金属である。そのため、Zn-Ni合金めっき層100は、鋼材よりも優先的に腐食される(犠牲防食)。これにより、油井用金属管1の防食性が高まる。
【0061】
Zn-Ni合金めっき層100の化学組成は次の方法で測定することができる。油井用金属管1から、Zn-Ni合金めっき層100を含むサンプル(Zn-Ni合金めっき層100が形成されている接触表面を含む)を採取する。採取されたサンプルのZn-Ni合金めっき層100を、10%濃度の塩酸で溶解して、溶液を得る。得られた溶液に対して、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)による元素分析を実施して、Zn-Ni合金めっき層100中のNi含有量(質量%)、及び、Zn含有量(質量%)を求める。
【0062】
[Zn-Ni合金めっき層100の厚さ]
Zn-Ni合金めっき層100の厚さは特に限定されない。Zn-Ni合金めっき層100の厚さはたとえば、1~20μmである。Zn-Ni合金めっき層100の厚さが1μm以上であれば、耐焼付き性をさらに高めることができる。Zn-Ni合金めっき層100の厚さが20μmを超えても、上記効果は飽和する。Zn-Ni合金めっき層100の厚さの下限は好ましくは3μmであり、より好ましくは5μmである。Zn-Ni合金めっき層100の厚さの上限は好ましくは18μmであり、より好ましくは15μmである。
【0063】
本実施形態においてZn-Ni合金めっき層100の厚さは、次の方法で測定できる。Zn-Ni合金めっき層100を形成したピン接触表面400、又は、ボックス接触表面500の任意の4箇所に対して、Helmut Fischer GmbH製、渦電流位相式膜厚計PHASCOPE PMP10を用いて、Zn-Ni合金めっき層100の厚さを測定する。測定は、ISO(International Organization for Standardization)21968(2005)に準拠する方法で行う。測定箇所は、油井用金属管1の管周方向の4箇所(0°、90°、180°、270°の4箇所)である。測定結果の算術平均値を、Zn-Ni合金めっき層100の厚さとする。
【0064】
[Zn-Ni合金めっき層100のミクロ組織]
Zn-Ni合金めっき層100は、γ相を含む。ここで、電気めっき処理によって形成されるZn-Ni合金には、η相、γ相及びα相が含まれる。η相とは、化学式がZnであり、六方晶の結晶構造を有する相である。γ相とは、化学式がNi5Zn21であり、体心立方晶の結晶構造を有する相である。α相とは、化学式がNiであり、面心立方晶の結晶構造を有する相である。本実施形態によるZn-Ni合金めっき層100は、η相、γ相及びα相の混相であってもよい。好ましくは、Zn-Ni合金めっき層100は、γ相単相とする。本明細書において「γ相単相」とは、γ相以外の相(つまり、η相及びα相)が、無視できる程度に少ないことを意味する。
【0065】
[Zn-Ni合金めっき層100の配向性]
本実施形態のZn-Ni合金めっき層100は、X線回折強度が、次の式(1)を満たす。
I18/(I18+I36+I54)≧0.60 (1)
ここで、式(1)中のI18には、ミラー指数の二乗和が18となる{411}及び{330}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI36には、ミラー指数の二乗和が36となる{442}及び{600}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。式(1)中のI54には、ミラー指数の二乗和が54となる{552}のX線回折強度が、単位cpsで代入される。
【0066】
Fn1(=I18/(I18+I36+I54))は、{411}及び{330}の配向傾向を示す指標である。つまり、Fn1が大きいほど、{411}及び{330}が同じ方向に揃っていることを示す。また、Fn1が0.60以上となれば、Zn-Ni合金めっき層100の密着性が顕著に高まる。したがって、本実施形態では、Zn-Ni合金めっき層100のX線回折強度から求められるFn1を、0.60以上とする。
【0067】
Fn1の好ましい下限は0.65であり、さらに好ましくは0.70であり、さらに好ましくは0.75であり、さらに好ましくは0.80であり、さらに好ましくは0.85であり、さらに好ましくは0.90である。なお、Fn1の上限は特に限定されない。Fn1は1.00であってもよい。しかしながら、本実施形態による油井用金属管1においては、Fn1の上限は、実質的に0.99である。
【0068】
上述のとおり、本明細書において、Zn-Ni合金めっき層100の配向性とは、Zn-Ni合金めっき層中の結晶の方位の分布状態を意味する。さらに、XRDによれば、材料の配向性を評価することができる。一方、XRDでは、一部の面が分離できない場合がある。具体的に、任意の面のミラー指数を(hkl)と表現する。このとき、回折線は面(hkl)ごとに1つではなく、ミラー指数の二乗和s(=h2+k2+l2)の値ごとに1つ得られる。すなわち、同じミラー指数の二乗和sの値を有する面に由来する回折線は、1つの回折線として得られることになる。
【0069】
さらに、対称関係にある面(411)、(141)、及び、(114)を総称して{411}と表す。同様に、対称関係にある面(330)、(303)、及び、(033)を総称して{330}と表す。{411}及び{330}は、いずれもs=18である。そのため、s=18の回折線は、{411}に由来する回折線と、{330}に由来する回折線との重ね合わせとなる。また、対称関係にある面(442)、(424)、及び、(244)を総称した{442}、及び、対称関係にある面(600)、(060)、及び、(006)を総称した{600}は、いずれもs=36である。そのため、s=36の回折線は、{442}に由来する回折線と、{600}に由来する回折線との重ね合わせとなる。
【0070】
このように、式(1)中のI18は、{411}及び{330}のX線回折強度の総和となる。同様に、式(1)中のI36は、{442}及び{600}のX線回折強度の総和となる。また、式(1)中のI54は、対称関係にある面(552)、(525)、及び、(255)を総称した{552}のX線回折強度の総和となる。
【0071】
本実施形態において、Fn1は次の方法で求めることができる。本実施形態による油井用金属管1のうち、Zn-Ni合金めっき層100が形成されたピン接触表面400又はボックス接触表面500から、試験片を作製する。試験片の大きさは特に限定されないが、たとえば、15mm×15mm×厚さ2mmである。試験片のZn-Ni合金めっき層100の表面に対して、X線回折装置を用いて、X線回折測定を実施する。X線回折測定は、周知の方法で実施することができる。X線回折装置は特に限定されず、たとえば、株式会社リガク製 RINT-2500を用いることができる。また、本実施形態において、X線回折装置のターゲットは特に限定されない。たとえば、X線回折装置のターゲットとして、Co(CoKα線)を用いてもよい。
【0072】
X線回折測定によって得られたX線回折スペクトルから、s=18、36、及び、54に該当する回折ピークを特定する。特定された回折ピークの強度を求め、I18、I36、及び、I54と定義する。得られたI18、I36、及び、I54から、Fn1を求めることができる。
【0073】
[本実施形態の油井用金属管1の他の任意の構成について]
[化成処理被膜について]
本実施形態の油井用金属管1はさらに、Zn-Ni合金めっき層100の上に、化成処理被膜110を備えてもよい。
図10を参照して、Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400の上に形成されている場合において、化成処理被膜110は、Zn-Ni合金めっき層100の上に形成されてもよい。また、
図11を参照して、Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500の上に形成されている場合において、化成処理被膜110は、Zn-Ni合金めっき層100の上に形成されてもよい。
【0074】
化成処理被膜110は、特に限定されず、周知の化成処理被膜でよい。化成処理被膜110は、たとえば、シュウ酸塩化成処理被膜であってもよく、リン酸塩化成処理被膜であってもよく、ホウ酸塩化成処理被膜であってもよく、クロメート被膜であってもよい。化成処理被膜110がクロメート被膜である場合、クロメート被膜には6価クロムを含まないのが好ましい。
【0075】
油井用金属管1は、石油採掘地で実際に使用するまでの間に、屋外で長期間保管される場合がある。化成処理被膜110は、油井用金属管1が屋外で長期間大気に曝された場合に、ピン接触表面400の耐食性を高め、ピン接触表面400に錆(白錆)が発生するのを抑制できる。化成処理被膜110の膜厚は特に限定されない。化成処理被膜110の膜厚はたとえば、10~200nmである。
【0076】
[潤滑被膜]
油井用金属管1ではさらに、Zn-Ni合金めっき層100の上、化成処理被膜110の上、又は、Zn-Ni合金めっき層100が形成されていない接触表面の上(ピン接触表面400の上又はボックス接触表面500の上)に、潤滑被膜120を備えてもよい。潤滑被膜120は、油井用金属管1の潤滑性をさらに高める。
【0077】
図12を参照して、Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400の上に形成されている場合において、潤滑被膜120は、Zn-Ni合金めっき層100の上に形成されている化成処理被膜110の上に形成されてもよい。つまり、潤滑被膜120は、Zn-Ni合金めっき層100の上方に形成されてもよい。また、
図13を参照して、Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500の上に形成されている場合において、潤滑被膜120は、Zn-Ni合金めっき層100の上に形成されてもよい。つまり、潤滑被膜120は、Zn-Ni合金めっき層100の上に形成されてもよい。
【0078】
なお、潤滑被膜120の配置は、
図12及び
図13に限定されない。つまり、潤滑被膜120は、Zn-Ni合金めっき層100が形成されていないピン接触表面400の上又は上方に形成されてもよく、Zn-Ni合金めっき層100が形成されていないボックス接触表面500の上又は上方に形成されてもよく、ピン接触表面400の上に形成されたZn-Ni合金めっき層100の上又は上方に形成されてもよく、ボックス接触表面500の上に形成されたZn-Ni合金めっき層100の上又は上方に形成されてもよい。
【0079】
潤滑被膜は、固体であってもよく、半固体状及び液体状であってもよい。潤滑被膜は、市販の潤滑剤を使用できる。潤滑被膜はたとえば、潤滑性粒子及び結合剤を含有する。潤滑被膜は、必要に応じて、溶媒及び他の成分を含有してもよい。潤滑性粒子は、潤滑性を有する粒子であれば特に限定されない。潤滑性粒子はたとえば、黒鉛、MoS2(二硫化モリブデン)、WS2(二硫化タングステン)、BN(窒化ホウ素)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、CFx(フッ化黒鉛)及びCaCO3(炭酸カルシウム)からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0080】
結合剤はたとえば、有機結合剤及び無機結合剤からなる群から選択される1種又は2種である。有機結合剤はたとえば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂からなる群から選択される1種又は2種である。熱硬化性樹脂はたとえば、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上である。無機結合剤はたとえば、アルコキシシラン及びシロキサン結合を含有する化合物からなる群から選択される1種又は2種である。市販の潤滑剤はたとえば、JET-LUBE株式会社製、SEAL-GUARD ECF(商品名)である。他の潤滑被膜はたとえば、ロジン、金属石鹸、ワックス及び潤滑性粉末を含有する潤滑被膜である。
【0081】
[油井用金属管1の製造方法]
本実施形態の油井用金属管1の製造方法について、以下に説明する。なお、本実施形態の油井用金属管1は、上記構成を有すれば、製造方法は以下の製造方法に限定されない。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態の油井用金属管1を製造する好適な一例である。
【0082】
油井用金属管1の製造方法は、ピン40又はボックス50が形成されている素管を準備する準備工程(S1)と、Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)とを備える。以下、本実施形態の油井用金属管1の製造方法の各工程について詳述する。
【0083】
[準備工程(S1)]
準備工程(S1)では、ピン40又はボックス50が形成されている素管を準備する。本明細書において、「ピン又はボックスが形成されている素管」とは、T&C型の油井用金属管1における管本体10、ピン管体11、及び、インテグラル型の油井用金属管1における管本体10のいずれかを意味する。
【0084】
ピン40又はボックス50が形成されている素管は、たとえば、次の方法で製造する。溶鋼を用いて素材を製造する。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、鋼片(ビレット)を製造してもよい。以上の工程により素材(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。準備された素材を熱間加工して素管を製造する。熱間加工方法はマンネスマン法による穿孔圧延でもよく、熱間押出法でもよい。熱間加工後の素管に対して、周知の焼入れ及び周知の焼戻しを実施して、素管の強度を調整する。以上の工程により、素管を製造する。なお、油井用金属管1がT&C型である場合、カップリング12用の素管も準備する。カップリング12用の素管の製造方法は、上述の素管の製造方法と同じである。
【0085】
油井用金属管1がT&C型である場合、ピン管体11用の素管の両端部の外面に対してねじ切り加工を実施して、ピン接触表面400を含むピン40を形成する。以上の工程により、油井用金属管1がT&C型である場合の、ピン40が形成された素管(ピン管体11)を準備する。なお、油井用金属管1がT&C型である場合、カップリング12も準備しておいてもよい。具体的には、カップリング12用の素管の両端部の内面に対してねじ切り加工を実施して、ボックス接触表面500を含むボックス50を形成する。以上の工程により、カップリング12が製造される。
【0086】
油井用金属管1がインテグラル型である場合、素管の第1端部10Aの外面に対してねじ切り加工を実施して、ピン接触表面400を含むピン40を形成する。さらに、素管の第2端部10Bの内面に対してねじ切りを実施して、ボックス接触表面500を含むボックス50を形成する。以上の工程により、油井用金属管1がインテグラル型である場合の、ピン40及びボックス50が形成された素管(管本体10)を準備する。
【0087】
[その他任意の工程]
本実施形態の準備工程(S1)ではさらに、研削加工工程と、Niストライクめっき工程との少なくとも1工程を含んでもよい。
【0088】
本実施形態による準備工程(S1)において研削加工工程を実施する場合、研削加工工程では、たとえば、サンドブラスト処理、及び、機械研削仕上げを実施する。サンドブラスト処理は、ブラスト材(研磨剤)と圧縮空気とを混合して接触表面に投射する処理である。ブラスト材はたとえば、球状のショット材及び角状のグリッド材である。サンドブラスト処理により、接触表面の表面粗さを大きくできる。サンドブラスト処理は、周知の方法により実施できる。たとえば、コンプレッサーで空気を圧縮し、圧縮空気とブラスト材を混合する。ブラスト材の材質はたとえば、ステンレス鋼、アルミ、セラミック及びアルミナ等である。サンドブラスト処理の投射速度等の条件は特に限定されず、周知の条件で適宜調整することができる。
【0089】
Niストライクめっき工程では、素管の表面にNiストライクめっき層を形成する。Niストライクめっき層は、非常に薄い下地めっき層であって、後述するZn-Ni合金めっき層100の密着性を高める。なお、Niストライクめっき工程で用いられるめっき浴は特に限定されず、周知の浴を用いることができる。また、Niストライクめっき層を形成する条件も特に限定されず、適宜調整して実施することができる。
【0090】
なお、Niストライクめっき工程を実施した場合、管本体10とZn-Ni合金めっき層100との間にNiストライクめっき層が形成される。一方、形成されるNiストライクめっき層の厚さは、Zn-Ni合金めっき層100の厚さと比較して、無視できるほど薄い。つまり、本実施形態による油井用金属管1では、Zn-Ni合金めっき層100中に、Niストライクめっき層が含まれていてもよい。
【0091】
[Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)]
Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)では、準備工程(S1)後のピン40が形成されている素管のピン接触表面400の上、及び/又は、ボックス50が形成されている素管のボックス接触表面500の上に、電気めっきにより、Zn-Ni合金めっき層100を形成する。
【0092】
Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)では、亜鉛イオンとニッケルイオンとを含有するめっき浴を用いて、Zn-Ni合金めっき層100を形成する。亜鉛イオン及びニッケルイオンのカウンターアニオンは特に限定されない。たとえば、カウンターアニオンとして塩化物イオンを用いてもよく、硫酸イオンを用いてもよい。つまり、本実施形態によるZn-Ni合金めっき層形成工程(S2)では、めっき浴として塩化浴を用いてもよく、硫酸浴を用いてもよい。
【0093】
以下、具体的に、めっき浴の一例として塩化浴を用いる場合について説明する。塩化浴を用いる場合、めっき浴中には光沢剤を含有しない方が好ましい。この場合さらに、めっき浴中の金属イオン濃度は高い方が好ましい。つまり、塩化浴を用いる場合、具体的には、亜鉛イオン濃度とニッケルイオン濃度の和が30g/L以上であり、かつ、亜鉛イオンの濃度(g/L)がニッケルイオンの濃度(g/L)よりも高いめっき浴であって、光沢剤を含有しない方が好ましい。この場合、形成されたZn-Ni合金めっき層100において、安定してFn1を0.60以上にすることができる。
【0094】
さらに具体的には、本実施形態によるZn-Ni合金めっき層形成工程(S2)では、たとえば、亜鉛イオン:40g/L、ニッケルイオン:30g/L、及び、塩化アンモニウム:240g/Lを含有し、かつ、光沢剤を含有しないめっき浴を用いることができる。なお、上述のとおり、本実施形態によるZn-Ni合金めっき層形成工程(S2)では、めっき浴は塩化浴に限定されず、硫酸浴を用いてもよく、その他のめっき浴を用いることもできる。
【0095】
Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)における電気めっきの条件は、特に限定されず、周知の条件で適宜調整することができる。電気めっきの条件は、たとえば、めっき浴pH:1~10、めっき浴温度:10~60℃、電流密度:1~100A/dm2、及び、処理時間:0.1~30分である。Zn-Ni合金めっき層100をピン接触表面400の上に形成する場合、上述のめっき浴にピン接触表面400を浸漬して、電気めっきを実施する。一方、Zn-Ni合金めっき層100をボックス接触表面500の上に形成する場合、上述のめっき浴にボックス接触表面500を浸漬して、電気めっきを実施する。
【0096】
以上の製造工程により、上述の構成を有する本実施形態の油井用金属管1が製造される。なお、上述の製造工程は、本実施形態による油井用金属管1の製造工程の一例であって、本実施形態による油井用金属管1の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。
【0097】
[他の任意の工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法はさらに、次の化成処理工程、及び、成膜工程の少なくとも1工程を実施してもよい。これらの工程は任意の工程である。したがって、これらの工程は実施しなくてもよい。
【0098】
[化成処理工程]
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、化成処理工程を実施してもよい。つまり、化成処理工程は任意の工程である。化成処理工程を実施する場合、Zn-Ni合金めっき層100の上に化成処理被膜110を形成する。化成処理工程では、周知の化成処理を実施すればよい。化成処理は、たとえば、シュウ酸塩化成処理であってもよく、リン酸塩化成処理であってもよく、ホウ酸塩化成処理であってもよい。たとえば、リン酸塩化成処理を実施する場合、リン酸亜鉛を用いた化成処理を実施してもよく、リン酸マンガンを用いた化成処理を実施してもよく、リン酸亜鉛カルシウムを用いた化成処理を実施してもよい。
【0099】
具体的に、リン酸亜鉛化成処理を実施する場合、処理液として、たとえば、燐酸イオン1~150g/L、亜鉛イオン3~70g/L、硝酸イオン1~100g/L、ニッケルイオン0~30g/Lを含有する化成処理液を用いることができる。この場合、化成処理液の液温は、たとえば、20~100℃である。このように、周知の条件を適宜設定して化成処理を実施することにより、化成処理被膜110を形成することができる。
【0100】
[成膜工程]
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、成膜工程を実施してもよい。つまり、成膜工程は任意の工程である。成膜工程では、Zn-Ni合金めっき層100の上、及び/又は、化成処理被膜110の上、及び/又は、Zn-Ni合金めっき層100が形成されていない接触表面(ピン接触表面400又はボックス接触表面500)の上に、潤滑被膜を形成する。
【0101】
成膜工程では、上述の潤滑被膜の成分を含有する組成物又は潤滑剤を塗布する。これにより、潤滑被膜を形成できる。塗布方法は特に限定されない。塗布方法はたとえば、スプレー塗布、刷毛塗り及び浸漬である。スプレー塗布を採用する場合、組成物又は潤滑剤を加熱して、流動性を高めた状態で噴霧してもよい。組成物又は潤滑剤を乾燥して潤滑被膜を形成する。
【0102】
以下、実施例により本実施形態の油井用金属管1をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の油井用金属管1の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の油井用金属管1はこの一条件例に限定されない。
【実施例】
【0103】
本実施例では、接触表面を模擬した鋼板にZn-Ni合金めっき層を形成して、Zn-Ni合金めっき層の密着性を評価した。具体的に、鋼板とは冷延鋼板であって、化学組成は、C≦0.15%、Mn≦0.60%、P≦0.100%、S≦0.050%、残部:Fe及び不純物であった。
【0104】
各試験番号の鋼板に対して、下地処理として、電解脱脂、塩酸酸洗、及び、Niストライクめっきを実施した。表1中の「下地処理(分)」欄に、Niストライクめっきの処理時間を示す。なお、表1中の「下地処理(分)」欄の「-」は、Niストライクめっきを実施しなかったことを意味する。
【0105】
【0106】
各試験番号の鋼板に対して、表1に記載のめっき浴を用いて、Zn-Ni合金めっき層を形成した。なお、いずれのめっき浴を用いた場合も、Zn-Ni合金めっき層の厚さは約10μmであった。さらに、Zn-Ni合金めっき層中のNi比率は、12~16質量%であった。具体的に、めっき浴「A」及び「B」は、以下のとおりであった。
【0107】
[めっき浴A]
めっき浴Aとして、株式会社大和化成研究所製の製品名ダインジンアロイN2-PLを用いた。めっき浴Aは、塩化浴であり、光沢剤が含有されなかった。めっき浴Aはさらに、亜鉛イオン濃度とニッケルイオン濃度の和が30g/L以上であり、かつ、亜鉛イオンの濃度(g/L)がニッケルイオンの濃度(g/L)よりも高かった。なお、めっき浴Aを用いる場合の電気めっきの条件は、めっき浴pH:5.8、めっき浴温度:40℃、電流密度:6A/dm2、及び、処理時間:8分とした。
【0108】
[めっき浴B]
めっき浴Bとして、株式会社大和化成研究所製の製品名ダインジンアロイN-PLを用いた。めっき浴Bは、塩化浴であり、光沢剤が含有された。めっき浴Bはさらに、亜鉛イオン濃度とニッケルイオン濃度の和が30g/L以上であったが、亜鉛イオンの濃度(g/L)はニッケルイオンの濃度(g/L)よりも低かった。なお、めっき浴Bを用いる場合の電気めっきの条件は、めっき浴pH:6.4、めっき浴温度:25℃、電流密度:2A/dm2、及び、処理時間:20分とした。
【0109】
以上のとおりにZn-Ni合金めっき層が形成された各試験番号の鋼板に対して、XRDによるX線回折強度測定試験と、密着性試験とを実施した。
【0110】
[X線回折強度測定試験]
各試験番号の鋼板に対して、上述の方法でX線回折強度測定試験を実施して、Fn1を求めた。具体的には、各試験番号の鋼板に対して、X線回折装置を用いて、X線回折測定を実施した。X線回折装置は、株式会社リガク製 RINT-2500を用いた。また、X線回折測定では、ターゲットをCoとした(CoKα線)。X線回折測定によって得られたX線回折スペクトルから、s=18、36、及び、54に該当する回折ピークを特定した。特定された回折ピークの強度を求め、I18、I36、及び、I54と定義した。得られたI18、I36、及び、I54から、Fn1を求めた。各試験番号の鋼板について、得られたI18、I36、I54、及び、Fn1を、表1に示す。
【0111】
[密着性試験]
各試験番号の鋼板に対して、JIS K 5600-5-6(1999)に規定されるクロスカット法に準拠した密着性試験を実施した。具体的に、各試験番号の鋼板のZn-Ni合金めっき層に対して垂直な向きに、カッター刃で切り込みを加えた。約1mm間隔で6本の平行した切り込みを加えた後、90°方向を変え、6本の切り込みに直交する6本の切り込みを約1mm間隔で加えた。切り込みが加えられた領域に、透明な粘着テープを貼った後、5分以内に粘着テープを引き離した。粘着テープを引き離した後の各試験番号の鋼板の表面を目視で観察し、JIS K 5600-5-6(1999)の基準に沿って、試験結果を0~5の6段階で分類した。なお、最も剥離の少ない分類は「0」であり、最も剥離の多い分類は「5」である。得られた試験結果を表1の「密着性評価」欄に示す。
【0112】
[評価結果]
表1を参照して、試験番号1~6の鋼板では、Zn-Ni合金めっき層のX線回折強度が式(1)を満たした。その結果、密着性試験の密着性評価が0~2であった。すなわち、試験番号1~6のZn-Ni合金めっき層は、高い密着性を有していた。
【0113】
一方、試験番号7~9の鋼板では、Zn-Ni合金めっき層のX線回折強度が式(1)を満たさなかった。その結果、密着性試験の密着性評価が4又は5であった。すなわち、試験番号7~9のZn-Ni合金めっき層は、高い密着性を有していなかった。
【0114】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 油井用金属管
10 管本体
10A 第1端部
10B 第2端部
40 ピン
41 雄ねじ部
50 ボックス
51 雌ねじ部
100 Zn-Ni合金めっき層
110 化成処理被膜
120 潤滑被膜
400 ピン接触表面
500 ボックス接触表面