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特許7603832長期保存が可能なボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】長期保存が可能なボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20241213BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20241213BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20241213BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241213BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241213BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241213BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20241213BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241213BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K47/64
A61K47/69
A61K47/42
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/12
A61K9/19
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023547776
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 KR2022001824
(87)【国際公開番号】W WO2022169323
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0017390
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517154177
【氏名又は名称】テウン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DAEWOONG CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】ソ ジョンドク
(72)【発明者】
【氏名】キム ハンビョル
(72)【発明者】
【氏名】キム ギョンユン
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-529530(JP,A)
【文献】特表2012-514003(JP,A)
【文献】特開昭52-117486(JP,A)
【文献】特開昭59-020225(JP,A)
【文献】特表2004-520836(JP,A)
【文献】特表2014-509644(JP,A)
【文献】CHEN, P.Y. et al.,Toxins,2020年,Vol. 12, Article No. 75,pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩複合体、
5-20 w/v%のヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、
0.35-0.5 w/v%のヒト血清アルブミン、
0.1-8 w/v%のマンニトール、
0.7-0.95 w/v%の等張化剤および
緩衝剤
を含むボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物であって、
ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩は、1:5~1:20の質量比で複合体を形成しており、そして
緩衝剤のpHは、6.0-7.0であり、濃度は10-30mMである、
ボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物。
【請求項2】
前記プロタミン硫酸塩の濃度は、1.72nM~0.22mMであることを特徴とする、請求項1に記載のボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物。
【請求項3】
緩衝剤が、リン酸緩衝液又はクエン酸緩衝液である、請求項1に記載のボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物。
【請求項4】
ボツリヌス毒素は、血清型A、B、C、D、E、FおよびGからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物。
【請求項5】
以下の工程を含むボツリヌス毒素凍結乾燥製剤の製造方法:
(a)溶液中において、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩を混合し、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体を形成させる段階、ここで、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩は、1:5~1:20の質量比で複合体を形成し
(b)前記ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体に、
5-20 w/v%のヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、
0.35-0.5 w/v%のヒト血清アルブミン、
0.1-8 w/v%のマンニトール
0.7-0.95 w/v%の等張化剤および
緩衝剤を添加して、ボツリヌス毒素原液を調製する段階、ここで、緩衝剤のpHは、6.0-7.0であり、濃度は10-30mMである、
(c)前記ボツリヌス毒素原液を凍結乾燥させる段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期保存可能なボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物に関し、より詳細には、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体、等張化剤及び緩衝剤を含む長期保存可能なボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経毒性を持つ毒素を分泌する様々なクロストリジウム属の菌株は、1890年代から今まで発見されており、過去70年間、これらの菌株が分泌する毒素の特性に関する解明が行われてきた。
【0003】
前記クロストリジウム属の菌株に由来した神経毒性を持つ毒素、すなわちボツリヌス毒素(botulinum toxin)は、その血清学的特徴によってAないしG型の7種類に区分される。各毒素は、約150kDa程度の毒素タンパク質を持っているが、自然的には複数の非毒性タンパク質と結合している複合体で構成されている。中間(Medium)複合体(300kDa)は、毒素タンパク質と非毒性-非ヘマグルチニンタンパク質で構成されており、大きな(Large; 450kDa)複合体及び巨大(Large-Large; 900kDa)複合体は、中間複合体がヘマグルチニンと結合している形態を呈している(Sugiyama, H, Microbiol Rev, 44:419, 1980)。これらの非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質は、腸内の低いpHと各種タンパク質加水分解酵素から毒素を保護する機能をすることが知られている。
【0004】
前記毒素は、細胞内で分子量が約150kDaの一つのポリペプチドとして合成された後、細胞内タンパク質分解酵素の作用やトリプシンのような人工的な酵素処理によってN末端から1/3になる位置で切断され、2つの単位体である軽鎖(L: light chain)(分子量: 50 kDa)と重鎖(H: heavy chain)(分子量: 100 kDa)に分けられる。このように分割された毒素は、単一ポリペプチドである場合に比べてその毒性が大きく増加する。二つの単位体は、ジスルフィド結合で互いに接続されており、それぞれが異なる機能を持つ。中鎖は、標的(target)となる細胞の受容体(receptor)と結合し、低いpH(pH4)で生体膜と反応してチャンネル(channel)を形成する機能を持ち(Mantecucco, C et al, TIBS, 18:324, 1993)、軽鎖は薬理活性を持っており、洗剤(detergent)を使用して細胞に透過性を付与したり、電気穿孔(electroporation)などで細胞内に投入されたときに神経伝達物質の分泌を妨害する。
【0005】
前記毒素は、神経筋終末(neuromuscular junction)のコリン作動性前シナプス(cholinergic presynapse)でアセチルコリンのエクソシトシス(exocytosis)を阻害し、全身性無力症を引き起こす。極微量の毒素を処理しても毒性が現れることから、この毒素は何らかの酵素活性を持つと考えられてきた。
【0006】
最近明らかになったところによると、毒素はメタロペプチダーゼ活性(metallopeptidase activity)を持っており、その基質はエクソサイトシス装置複合体(exocytosis machinary complex)を構成する単位タンパク質であるシナプトブレビン(Synaptobrevin)、シンタキシン(Syntaxin)、25kDaのシナプトソーム関連タンパク質(Synaptosomal associated protein of 25kDa)(SNAP25)などである。各型の毒素は、この3つのタンパク質のうちの一つを基質としており、B、D、F、G型はシナプトブレビンを、AとE型はSNAP25を、C型はシンタキシンを特定の部位で切断することが知られている。
【0007】
特に、ボツリヌス菌毒素A型は、pH 4.0~6.8の希薄水溶液に可溶性であることが知られている。約7以上のpHで安定化非毒素タンパク質が神経毒素から分離され、その結果、毒性が徐々に失われ、特にpHおよび温度が上昇するにつれて毒性が減少することが知られている。
【0008】
前記ボツリヌス毒素は少量で人体に致命的で、大量生産が容易であるため、炭疽菌(Bacillus anthracis)、ペスト(Yersinia pestis)、天然痘(smallpox virus)と共に4大生物テロ兵器として使用できる毒素である。しかし、前記ボツリヌス毒素のうちA型毒素の場合には、全身的には人体に影響を与えない用量以下で注射すると、前記注射部位の局所筋肉を麻痺させることができることが明らかになったが、このような特性を利用して、しわの除去剤、硬直性片麻痺および脳性麻痺の治療薬などとして幅広く使用できるため、需要が急増しており、需要に合わせてボツリヌス毒素の生産方法に関する研究が活発に行われている。
【0009】
現在、代表的に市販されている製品は、米国アレルガン(Allergan)社のBOTOX(R) (ボツリヌス毒素A型精製された神経毒素複合体)で、それぞれのBOTOX(R) の100ユニットバイアルは、約5ngの精製されたボツリヌス毒素A型複合体、0.5mgのヒト血清アルブミン、および0.9mgの塩化ナトリウムで構成され、真空・乾燥の形で提供され、保存剤なしで(0.9%塩化ナトリウム注入)、滅菌生理食塩水を利用して復元させる。他の市販化された製品は、英国Ipsen社のDysport(R) (ボツリヌス毒素薬剤学的組成物中にラクトース及びヒト血清アルブミンを持つクロストリジウムボツリヌスA型毒素ヘマグルチニン複合体、使用前に0.9%塩化ナトリウムを使用して復元される)およびSolstice Neurosciences社のMyoBloc(R) (ボツリヌス毒素B型、ヒト血清アルブミン、コハク酸ナトリウム、および塩化ナトリウムを含む約pH5.6の注射用溶液)などがある。
【0010】
ボツリヌス毒素は主に凍結乾燥製剤として流通しており、凍結乾燥製剤を長期間安定して保つための多くの研究が行われてきた。例えば、US 7,744,904 B1では、アルファ、ベータ、ガンマシクロデキストリンをそれぞれボツリヌス毒素とリン酸塩緩衝液内で単純混合してシクロデキストリン-ボツリヌス毒素錯体形態を形成させることにより、ボツリヌス毒素の安定性を促進しようとしたが、アルファ、ベータ、ガンマシクロデキストリンの場合、経口投与は認められているが、限られた溶解性と腎毒性のため、主に注射剤として使用されるボツリヌス毒素の賦形剤としては適さないという問題がある。また、ボツリヌス毒素が体内に注入される際、粒子サイズが均一でない場合、効果が体内で均等に作用せず、治療的または美容的に所望の効果を達成できず、様々な副作用を引き起こす可能性がある。
【0011】
従って、本発明者らは、ボツリヌス毒素が均質に粒子化され、安定性も共に向上する凍結乾燥製剤の開発に努めた結果、賦形剤としてプロタミン硫酸塩を含有するボツリヌス毒素凍結乾燥製剤を製造すると、プロタミン硫酸塩とボツリヌス毒素が複合体を形成し、ボツリヌス毒素の効能が従来3ヶ月程度持続していたのに比べて6ヶ月以上持続性が向上し、ボツリヌス毒素粒子のPDI値が0.3以下で均一に製造できることを確認することで本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】US 7,744,904 B1
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、ボツリヌス毒素の均質な粒子サイズの造成が可能で、長期保存安定性が向上した新規なボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物及びその製造方法を提供することである。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体、等張化剤及び緩衝剤を含むボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物を提供する。
【0015】
本発明はまた、以下の工程を含むボツリヌス毒素凍結乾燥製剤の製造方法を提供する。
(a)ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩を混合し、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体を形成させる段階、
(b)前記ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体に、ポリソルベート20、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、ヒト血清アルブミンおよびマンニトールからなる群から選択される1つ以上の賦形剤、等張化剤および緩衝剤を添加して、ボツリヌス毒素原液を調製する段階、および
(c)前記ボツリヌス毒素原液を凍結乾燥させる段階。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
他に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野で当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される命名法は、当技術分野でよく知られ、通常使用されるものである。
【0017】
本発明では、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体を製造し、これを凍結乾燥製剤化する場合、サイズが均一に維持され、凍結乾燥製剤の長期保存安定性が向上できることを確認した。
【0018】
したがって、本発明は、一観点から、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体、等張化剤および緩衝剤を含むボツリヌス毒素凍結乾燥製剤組成物に関する。
【0019】
本発明でボツリヌス毒素は負に帯電した電荷を持ち、プロタミン硫酸塩は正に帯電した電荷を持ち、溶液で反応時、イオン複合体を形成することになり、分子量の大きいボツリヌス毒素タンパク質にプロタミン硫酸塩がイオン結合の形で結合することになる。この場合、添加されるプロタミン硫酸塩の濃度によってボツリヌス毒素に結合するプロタミン硫酸塩の量が異なり、プロタミン硫酸塩が結合されたボツリヌス毒素表面は正に帯電した電荷を帯び、ボツリヌス毒素と追加の複合体を形成することもできる。
【0020】
したがって、本発明による凍結乾燥製剤の長期保存安定性が向上した複合体を形成するために、本発明において、前記プロタミン硫酸塩の濃度は、1.72nMないし0.22mM、好ましくは1.72nMないし17.2nM、より好ましくは1.72nMないし6.98nM、さらに好ましくは1.72nMないし3.44nMであることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0021】
また、本発明において、前記ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩は、1:3ないし1:20、好ましくは1:5ないし1:20、さらに好ましないしは1:5~1:10、最も好ましくは1:5の質量比で複合体を形成することを特徴とするが、これらに限定されない。
【0022】
本発明において、前記組成物は、ポリソルベート20、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、ヒト血清アルブミン及びマンニトールからなる群から選択される1つ以上の賦形剤をさらに含むことを特徴とし、好ましくは、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、ヒト血清アルブミン及びマンニトールをさらに含むことを特徴とするが、これらに限定されない。
【0023】
本発明において、前記ヒドロキシプロピル-ベータシクロデキの濃度は、1ないし30w/v%、好ましくは2ないし25w/v%、さらに好ましくは5ないし20w/v%、例えば5ないし15w/v%、5ないし10w/v%、8ないし15w/v%、8ないし10w/v%、10~20w/v%または15~20w/v% であることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0024】
本発明において、前記ヒト血清アルブミンの濃度は、 0.1ないし1.0w/v%、好ましくは0.2ないし0.7w/v%、より好ましくは0.2ないし0.5w/v%、最も好ましくは0.35ないし0.5w/v%であることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0025】
本発明において、前記マンニトールは、凍結保存剤として機能し、これに代えてスクロース、グリセリン、トレハロース、またはラクトースなどが使用できるが、これらに限定されない。凍結保存剤の含有量は、全組成物を基準として0.1ないし8w/v%であるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明において、好ましくは、前記凍結保存剤はマンニトールであり、前記マンニトールの濃度は、0.1ないし10w/v%、好ましくは0.1ないし8w/v%、より好ましくは4ないし8w/v%を含むことを特徴とするが、これらに限定されない。
【0027】
本発明において、前記等張化剤は、塩化ナトリウム、グリセリン、マンニトール、スクロース、塩化カリウム、またはデキストロースなどが使用できるが、これらに限定されない。前記等張化剤の含有量は、全組成物を基準として0.7~0.95w/v%であることができるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明において、前記等張化剤は、好ましくは塩化ナトリウムであり、前記塩化ナトリウムの濃度は、0.7 - 1.0 w/v%、好ましくは0.7 - 0.95 w/v%、より好ましくは0.8 - 0.95 w/v%、最も好ましくは0.9 w/v%であることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0029】
本発明による組成物は、生理学的に適切な等電点以上のpHを示す緩衝剤を含有し、これにより長期安定性を確保することができる。
【0030】
本発明において、生理的に適した前記緩衝剤のpHは、6.0 - 7.0の範囲、好ましくはpH 6.4 - 6.6の範囲を維持できる必要があり、最も好ましくはpH 6.5程度になるようにする緩衝剤を使用することができる。
【0031】
本発明において、生理学的に適した前記緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム、コハク酸、リン酸、第一リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、または塩化ナトリウム等が使用できるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明において、凍結乾燥に適した前記緩衝剤の濃度は、組成物全体を基準にして10~35mM、好ましくは10~30mM、最も好ましくは15~25mM とすることができる。
【0033】
好ましくは、前記緩衝剤のpHは6.0 - 7.0であり、濃度は10 - 35 mM であることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0034】
一実施形態として、前記生理学的に適切な緩衝剤として、pH6.5のリン酸を組成物全体に基づいて20mMの濃度で含有する。
【0035】
本発明による凍結乾燥製剤組成物は、プロタミン硫酸塩を使用してボツリヌス毒素との複合体を誘導し、これにヒドロキシプロピル-ベータシクロデキストリンおよびヒト由来血清アルブミンを添加して疎水性を付与する。また、等張化剤、好ましくは塩化ナトリウムを使用して、ボツリヌス毒素の溶解度を高めることができる。
【0036】
本発明において、前記プロタミン硫酸塩は、正電荷を示すアミノ酸を多く含む分子であり、ボツリヌス毒素と複合体を形成し、ボツリヌス毒素の安定性に寄与する。
【0037】
一方、本発明において、前記ヒドロキシプロピル-ベータシクロデキストリン(これは、「ベータデックス」と混用して使用することができる)は、糖鎖が環状構造からなり、ポリソルベート20やポリソルベート80と同様の両親媒性を有しており、ボツリヌス毒素の安定性に寄与する。
【0038】
本発明における「ボツリヌス毒素」は、クロストリジウムボツリヌス菌株またはその変異体によって生成された神経毒素(Neurotoxins、NTXs)だけでなく、変異体、組換え、ハイブリッドおよびキメラボツリヌス毒素の両方を含むことができる。本発明において、組換えボツリヌス毒素は、非クロストリジウム種によって組換えで製造された軽鎖及び/又は中鎖を有することができる。本発明において、前記ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素複合体(すなわち、300、600および900kDa複合体)だけでなく、純粋なボツリヌス毒素(すなわち、約150kDaの神経毒性分子)の両方を含む。
【0039】
本発明において、前記ボツリヌス毒素は、血清型A、B、C、D、E、F及びGからなる群から選択されることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0040】
好ましくは、本発明の凍結乾燥組成物に含有されるボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素A型である。本発明による組成物には、ボツリヌス毒素が約10ないし200 unit/ml、好ましくは約20ないし150 unit/ml、さらに好ましくは約40ないし100 unit/ml含有されることを特徴とするが、これらに限定されない。
【0041】
本発明において、前記凍結乾燥組成物は、抗酸化剤をさらに含有し、前記抗酸化剤は、α-トコフェロールであるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明は、別の観点から、以下の段階を含むボツリヌス毒素凍結乾燥製剤の製造方法に関する。
(a)ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩を混合し、ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体を形成させる段階、
(b)前記ボツリヌス毒素とプロタミン硫酸塩の複合体に、ポリソルベート20、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、ヒト血清アルブミンおよびマンニトールからなる群から選択される1つ以上の賦形剤、等張化剤および緩衝剤を添加して、ボツリヌス毒素原液を製造する段階、および
(c)前記ボツリヌス毒素原液を凍結乾燥させる段階。
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、もっぱら本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものと解釈されないことは、当業者にとって自明であろう。
【実施例
【0044】
実験例1 ボツリヌス毒素/プロタミン硫酸塩複合体の調製とサイズ測定
ボツリヌス毒素の安定性を維持するために、正電荷の特性を有するプロタミン硫酸塩を利用してボツリヌス毒素/プロタミン硫酸塩複合体を調製した。比較的負電荷を有するボツリヌス毒素はPIが約pH 6で、プロタミン硫酸塩と複合体形成を誘導するためにpH 6以上の緩衝液を利用した。緩衝液は20 mMリン酸緩衝液(pH 6.5)を使用した。ボツリヌス毒素A型(900 kDa、(株)大雄)は0.1 mg/mLで準備し、プロタミン硫酸塩は0.5、1.0、2.0 mg/mLでそれぞれ20 mMリン酸緩衝液(pH 6.5)に溶解した後、1:1(v/v)で混合した後、室温で約30分間複合体形成を誘導した。
【0045】
複合体形成の有無を確認するために、ナノ粒度分析装置(Zetasizer ZSP、Malvern)を用いてボツリヌス毒素またはボツリヌス毒素/プロタミン硫酸塩複合体の粒子サイズを確認した。ナノ粒度分析装置は、試料に光を透過させてその光を再び受けるときの屈折率を測定して粒子の大きさを測定する装置である。試験結果、表1のようにボツリヌス毒素A型の場合、約19 nmの大きさを示す一方、プロタミン硫酸塩と1:5の比率で複合体を形成する場合、約182 nmの大きさを示すことを確認した。1:10と1:20の場合、それぞれ約335, 481 nmの大きさを示すことを確認した。一方、PDI(polydispersity index)を確認した結果、ボツリヌス毒素A型:プロタミン硫酸塩が1:5の比率で複合体を形成する場合、PDI値が0.3以下となり、したがって、当該比率の複合体が均一な粒子サイズを示すことから、体内注入時に個々の複合体が同じ効果を発揮するのに最も有利な組成比であることが分かった。
【0046】
【表1】
【0047】
実験例2 ボツリヌス毒素を主成分とする凍結乾燥製剤組成物の賦形剤スクリーニング及び過酷安定性評価
ボツリヌス毒素/プロタミン硫酸塩1:5複合体を基本組成としてボツリヌス毒素凍結乾燥製剤として安定性を持つ賦形剤組成物をスクリーニングしようとした。凍結乾燥製剤組成物は、ボツリヌス毒素/プロタミン硫酸塩複合体形成のために20 mMリン酸緩衝液(pH 6.5)を基本溶媒とし、安定化剤、抗酸化剤、凍結保存剤、等張化剤など様々な賦形剤をスクリーニングしてボツリヌス毒素の安定性を確認した。
【0048】
この場合、ボツリヌス毒素は40 U/mLで実験を行い、後記表2に示すような賦形剤組成でそれぞれ最終原液を調製後、50 U/vialで分注して凍結乾燥した。凍結乾燥後、長期安定性を間接的に確認するために過酷安定性試験を行った。40℃の過酷チャンバーで12週間サンプルを保管し、力価変化を測定して毒素の保存安定性を確認した。具体的には、表示された特定の期間に4週齢のICRマウス(Koatech, Korea)を用いて動物力価試験を通じてボツリヌス毒素の安定性を評価し、試験物質を生理食塩水で再水和した後、7種類の濃度に希釈し、希釈した溶液を0.1mL/mouseで投与して3日間動物の死亡有無を観察し、LD50値を求めて力価値を算出した。各濃度ごとにマウスは10匹で実験を行い、結果はこれらの平均値で示した。
【0049】
この場合、製剤の調製の際、各製剤の力価は全て100%になるようにしたが、ボツリヌス毒素はタンパク質であるため、賦形剤の組成、外部環境、凍結乾燥工程などのparameterなどによって影響を受けるため、仮に1日目の力価を再び100%に換算した後、その後の力価変化を計算した。この場合、力価は初期力価値100%を基準に±20%まで適当と判断した。
【0050】
【表2】
【0051】
その結果、まず、安定化剤としてヒト血清アルブミンと凍結乾燥剤としてマンニトールを用いた場合(比較例1)及び安定化剤としてベータデックスとヒト血清アルブミンと等張化剤として塩化ナトリウムを用いた場合(比較例2)は、いずれも過酷な条件下で12週間後のボツリヌス毒素の力価測定の結果、不適合判定で確認された。しかし、安定化剤としてベータデックスとヒト血清アルブミンを使用し、等張化剤として塩化ナトリウムと凍結保存剤としてマンニトールを一緒に使用した場合(実施例1)は、過酷な条件下で12週間後のボツリヌス毒素力価が最も優れていることが確認された。一方、安定化剤としてヒト血清アルブミンとベータデックスにポリソルベートを添加し、等張化剤として塩化ナトリウム、凍結乾燥剤としてマンニトールを使用した場合(実施例2)とこれに加えて抗酸化剤としてアルファ-トコフェロールを追加して使用した場合(実施例3)でも、過酷な条件12週間後の力価が適切であることが確認されたが、前記実験の結果と賦形剤の経済的なコストを考慮して実施例1を基本賦形剤組成として選定し、今後の研究を進めた。
【0052】
実験例3 賦形剤組成の最適化及び苛酷安定性評価
ボツリヌス毒素/プロタミン硫酸塩1:5複合体を基本組成として0.9%塩化ナトリウムおよび20 mMリン酸緩衝液(pH 6.5)を固定し、ヒト血清アルブミン0.35-0.5 (w/v)%, ベータデックス5-20 (w/v)%, マンニトール4-8 (w/v)% を含有する濃度範囲での効果を確認するために、表3のように合計3つの追加組成物を調製した。全ての組成物は、賦形剤の濃度を除いて同じ方法で調製した。調製後、10 mLバイアルに分注して凍結乾燥させ、12週間、ボツリヌス毒素の過酷な安定性を評価した。
【0053】
【表3】
【0054】
その結果、ヒト血清アルブミン0.35-0.5%、ベータデックス5-20%、マンニトール4-8%を含有する濃度範囲では、過酷8週間以上、具体的には過酷12週間ボツリヌス毒素の安定性が維持されることを実験的に検証することができた。本発明者らは従来の研究結果を基に、過酷2週間の安定性確保時、冷蔵で約6ヶ月まで安定性が確認され、過酷8週間の安定性確保時、冷蔵で約2年以上安定したことを確認した。したがって、前記加酷12週間まで80~120%の力価範囲内の安定性を有する最適な濃度で、ヒト血清アルブミン0.35-0.5%、ベータデックス10-20%、マンニトール4-8%を含有するボツリヌス毒素の凍結乾燥製剤は、その効能が流通過程で少なくとも6ヶ月以上、好ましくは12ヶ月以上、最も好ましくは24ヶ月以上維持できることが分かった。
【0055】
実験例4 シクロデキストリン系賦形剤のボツリヌス毒素安定性影響評価試験
ベータデックスは、β-シクロデキストリン(βの誘導体で、ヒドロキシ(hydroxy)官能基とプロピル(propyl)官能基を導入し、親水性の特性を向上させた物質である。ベータデックスは現在、医薬品の賦形剤としてFDA、EUなどで許可された賦形剤で、医薬品の主成分安定化剤として使用されている。シクロデキストリンは、構造によってアルファ(α)、ベータ(β)、ガンマ(γ)の3つに分類され、比較的疎水性の特性を持つ内部構造が主成分包接を通じて安定化させる。したがって、ベータデックスと類似したシクロデキストリン系賦形剤を利用してボツリヌス毒素の安定化影響を評価しようとした。
【0056】
まず、α、β、γ-シクロデキストリンは腎毒性があり、FDA及びKFDAで医薬品注射剤賦形剤としては適さないと評価されているため、本実験では除外し、ベータデックス(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)に代えてメチル-β-シクロデキストリン、ベータ-シクロデキストリン硫酸塩、ベータ-シクロデキストリンスルホブチルイソソルビウム、ヒドロキシエチル-ベータ-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-ガンマ-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-アルファ-シクロデキストリンが使用できるか実験を行った。
【0057】
このため、ボツリヌス毒素/プロタミン硫酸塩1:5複合体を基本組成として塩化ナトリウム0.9%、20 mMリン酸緩衝液(pH 6.5)、ヒト血清アルブミン0.5%、マンニトール4%で固定し、シクロデキストリン系賦形剤のみを変えて実験を行った。この場合、シクロデキストリン系賦形剤の濃度は5%で同じに保った。
【0058】
【表4】
【0059】
その結果、前記表4で確認されるように、本発明によるベータデックス(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、実施例7)を除き、他のシクロデキストリン系賦形剤では、過酷な4週間の安定性評価でボツリヌス毒素の保存安定性が不適当であると判断され、過酷な6週間以上の力価安定性を維持できなかった。したがって、本発明のボツリヌス毒素の凍結保存のための製剤としては、シクロデキストリンのうちベータデックスを使用する場合、特に効果が顕著であることが分かった。
【0060】
実験例5 プロタミン硫酸塩のボツリヌス毒素安定性影響評価試験
プロタミン硫酸塩は正電荷を持つペプチドで、比較的負電荷を持つボツリヌス毒素とイオン結合を通じて複合体を形成することができる。ボツリヌス毒素との複合体形成は、ボツリヌス毒素タンパク質が安定に維持される要因として作用することができる。したがって、プロタミン硫酸塩の有無によってボツリヌス毒素の安定性に及ぼす影響を確認するために比較試験を行った。
【0061】
このために塩化ナトリウム0.9%、20 mMリン酸緩衝液(pH 6.5)、ヒト血清アルブミン0.5%、マンニトール4%、ベータデックス10%で固定し、ボツリヌス毒素単独またはボツリヌス毒素/プロタミン硫酸1:5複合体を利用して比較実験を行った。
【0062】
【表5】
【0063】
その結果、表5のようにプロタミン硫酸塩を含む製剤のみボツリヌス毒素凍結乾燥製剤の安定性が維持されることが確認できた。
【0064】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に説明したが、当業者にとって、これらの具体的な技術は単なる好ましい実施態様に過ぎず、これによって本発明の範囲が限定されるものではないことは明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項とそれらの等価物によって定義されるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によるボツリヌス毒素凍結乾燥製剤は、凍結乾燥工程で発生するボツリヌス毒素の失活率を下げ、効率的で安定した凍結乾燥製剤を製造することができる。また、本発明によるボツリヌス毒素凍結乾燥製剤は、従来のボツリヌス毒素凍結乾燥製剤に比べて、長期間ボツリヌス毒素の安定性を維持させることができるだけでなく、均一な粒子サイズを形成して投与部位で効果が同じように現れ、一部の部位だけ過剰な毒素投与効果が発生する副作用を防止することができる。