(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】ストラドルドビークル
(51)【国際特許分類】
B60W 20/00 20160101AFI20241213BHJP
B60K 6/26 20071001ALI20241213BHJP
F02N 11/04 20060101ALI20241213BHJP
F02N 11/08 20060101ALI20241213BHJP
H02P 6/08 20160101ALI20241213BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/26 ZHV
F02N11/04 C
F02N11/08 K
H02P6/08
(21)【出願番号】P 2023557543
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2021040794
(87)【国際公開番号】W WO2023079686
(87)【国際公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】井出 桂介
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-53776(JP,A)
【文献】特開2007-100705(JP,A)
【文献】国際公開第00/34649(WO,A1)
【文献】特開2012-86783(JP,A)
【文献】特開2011-219057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/00
B60K 6/26
F02N 11/04
H02P 6/08
F02N 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、
動力を出力するクランクシャフトを有し、4ストロークの間に、前記クランクシャフトを回転させる負荷が大きい高負荷領域と、前記クランクシャフトを回転させる負荷が前記高負荷領域の負荷より小さい低負荷領域とを有する負荷変動型4ストロークエンジンと、
回転方向に並んだ複数の磁極対を構成するように配置された永久磁石を有し前記クランクシャフトと直接に接続されたロータ、及び、複数相の巻線を有するステータを有する永久磁石式同期モータと、
前記複数相の巻線のそれぞれに流れる電流を制御する複数のスイッチング部を有するインバータと、
前記ロータが回転していない状態において前記負荷変動型4ストロークエンジンを始動するための始動指示が入力された場合、前記複数のスイッチング部を、ゼロ出力状態から、低出力状態、高出力状態の順に変化させるように前記複数のスイッチング部を制御する制御装置と、を備え、
前記ゼロ出力状態は、前記ロータが回転しないように、前記複数のスイッチング部が前記永久磁石式同期モータの出力をゼロ又は実質的にゼロにするように設定された状態であり、
前記高出力状態は、前記ロータの回転が加速するように、前記複数のスイッチング部が制御される状態であり、
前記低出力状態は、前記ロータの回転が開始するように、前記複数のスイッチング部が、前記ロータが前記複数の磁極対の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間、前記永久磁石式同期モータの出力を前記ゼロ出力状態よりも大きく且つ前記高出力状態よりも小さくするように制御され、更に、前記複数のスイッチング部が、前記高出力状態への遷移の前後において、前記ロータの回転と、前記複数相の巻線のそれぞれに流れる電流の正負のパターンとの各々が継続するように制御される状態である。
【請求項2】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
前記低出力状態は、前記永久磁石式同期モータの出力を、前記クランクシャフトが前記負荷変動型4ストロークエンジンの前記高負荷領域を乗越す力よりも小さくするように、複数のスイッチング部が制御される状態である。
【請求項3】
請求項1または2記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記スイッチング部をPWM制御し、前記低出力状態におけるPWM制御のデューティ比を前記高出力状態におけるデューティ比よりも小さくすることで、前記永久磁石式同期モータに前記高出力状態よりも小さい出力を前記低出力状態で出力させる。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記永久磁石式同期モータは、エンジンに駆動されて発電する発電機を兼ねるモータジェネレータである。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記始動指示の入力を契機として、前記ロータが回転するように前記スイッチング部に前記複数相の巻線への電流の供給を開始させる。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記負荷変動型4ストロークエンジンは、単気筒エンジンである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両として、4ストロークの間に、エンジンのクランクシャフトを回転させる負荷が大きい高負荷領域と、クランクシャフトを回転させる負荷が小さい低負荷領域とを有する負荷変動型4ストロークエンジンを備えた車両がある。このような負荷変動型4ストロークエンジンは、エンジン始動時に高負荷領域を越えてクランクシャフトを回転させるために、始動のためのモータに大きな出力トルクを要求する。しかしながら、モータの出力トルクを増大しようとすると、モータが大型化する。このため鞍乗型車両が大型化する。
【0003】
モータの大型化を抑制しつつエンジンの始動時に高負荷領域を越えてクランクシャフトを回転させるため、クランクシャフトの回転開始から高負荷領域の位置まで助走区間を設けることが考えられる。
例えば、特許文献1には、4ストロークの間に高負荷領域と低負荷領域とを有する負荷変動型4ストロークエンジンを備えた鞍乗型車両が示されている。特許文献1の鞍乗型車両の制御装置は、始動指示の入力に応じてモータにクランクシャフトの回転を開始させ、高負荷領域に到達するまでの助走区間でクランクシャフトの回転を加速する。特許文献1に示すような鞍乗型車両では、高い回転速度に伴う大きな慣性力とモータの出力トルクの両方を利用して高負荷領域を乗り越えることにより、始動にかかる時間を短縮させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開パンフレット第2015/093576号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鞍乗型車両では、大型化を抑制しつつエンジン始動にかかる時間をより短くすることが望まれている。
【0006】
本発明の目的は、大型化を抑制しつつエンジン始動にかかる時間をより短くすることができる鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、始動にかかる時間についてさらに検討するなかで回転の開始におけるモータの出力に着目した。
ロータは、磁極対を有する。磁極対を有するロータは、ステータの各相の巻線に流れる電流によって形成される磁界によって回転力を受ける。各相の巻線に流れる電流の周期的な変化に応じてロータが回転することで、モータの出力が生じる。
ロータが停止している状態で巻線への電流の供給が開始する時、各相の巻線に流れる電流で形成される磁界によって回転力を生じるための理想の向きと、ロータの向きとが異なる場合がある。理想の向きとは、ロータが磁界から得る回転力が最大となる向きである。
ロータの向きが理想の位置と異なる場合、回転開始時にロータに生じる回転力が制約されたり、ロータに逆転の回転力が生じたりすることによって、ロータが磁界の回転に追従しない期間が生じる場合がある。つまり、停止状態のロータにかかる回転力が、理想の位置の場合にかかる回転力と異なる。この場合、ロータが加速を開始するまでの時間に遅延が生じる。この結果、クランクシャフトが高負荷領域まで回転するまでの時間に遅延が生じる。遅延の量は、停止しているロータの向きに応じて異なるため、エンジンの始動ごとに始動にかかる時間が異なる。平均的なエンジンの始動時間は遅延によって長くなる。
【0008】
本発明者は、始動指示が入力された場合、まず停止状態のロータが磁極対の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間に比較的小さい出力を出力するように巻線へ電流を流すことによって、エンジンの始動時間のバラつきを抑制できることを見いだした。より詳細には、始動指示が入力された場合、まず低出力状態において、停止状態のロータが磁極対の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間に小さい出力を出力するように巻線へ電流が流れる。これによって、停止していたロータの向きが理想の向きと異なる場合でも、ロータにおける回転のぶれが抑制される。例えば、ロータに逆転の回転力が生じる場合でも、回転力が抑制される。このため、低出力状態に続く高出力状態において、出力を大きくするような電流を流しながら各相の電流の正負を切替える場合に、ロータが、高出力状態で形成される磁界に追従しやすい。これに対し、ロータの向きが理想的な向きである場合には、ロータは、低出力状態における電流により形成される磁界の向きに直ちに追従して回転の力を受けることができる。
このため、エンジン始動にかかる時間のバラつきを抑制することができる。従って、例えば比較的小さい出力を出力するように巻線へ電流を流す構成を有しない場合と比較して、モータを大型化することなく、エンジン始動にかかる時間をより短くすることができる。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0010】
(1) 鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、
動力を出力するクランクシャフトを有し、4ストロークの間に、前記クランクシャフトを回転させる負荷が大きい高負荷領域と、前記クランクシャフトを回転させる負荷が前記高負荷領域の負荷より小さい低負荷領域とを有する負荷変動型4ストロークエンジンと、
回転方向に並んだ複数の磁極対を構成するように配置された永久磁石を有し前記クランクシャフトと直接に接続されたロータ、及び、複数相の巻線を有するステータを有する永久磁石式同期モータと、
前記複数相の巻線のそれぞれに流れる電流を制御する複数のスイッチング部を有するインバータと、
前記ロータが回転していない状態において前記負荷変動型4ストロークエンジンを始動するための始動指示が入力された場合、前記複数のスイッチング部を、ゼロ出力状態から、低出力状態、高出力状態の順に変化させるように前記複数のスイッチング部を制御する制御装置と、を備え、
前記ゼロ出力状態は、前記ロータが回転しないように、前記複数のスイッチング部が前記永久磁石式同期モータの出力をゼロ又は実質的にゼロにするように設定された状態であり、
前記高出力状態は、前記ロータの回転が加速するように、前記複数のスイッチング部が制御される状態であり、
前記低出力状態は、前記ロータの回転が開始するように、前記複数のスイッチング部が、前記ロータが前記複数の磁極対の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間、前記永久磁石式同期モータの出力を前記ゼロ出力状態よりも大きく且つ前記高出力状態よりも小さくするように制御され、更に、前記複数のスイッチング部が、前記高出力状態への遷移の前後において、前記ロータの回転と、前記複数相の巻線のそれぞれに流れる電流の正負のパターンとの各々が継続するように制御される状態である。
【0011】
(1)の鞍乗型車両は、負荷変動型4ストロークエンジンと、永久磁石式同期モータと、インバータと、制御装置と、を備える。
負荷変動型4ストロークエンジンは、動力を出力するクランクシャフトを有する。負荷変動型4ストロークエンジンは、4ストロークの間に、高負荷領域と、低負荷領域とを有する。高負荷領域は、クランクシャフトを回転させる負荷が大きい領域である。低負荷領域は、クランクシャフトを回転させる負荷が高負荷領域の負荷より小さい領域である。
永久磁石式同期モータは、ロータ、及び、ステータを有する。ロータは、クランクシャフトと直接に接続されている。ロータは永久磁石を有する。永久磁石は、回転方向に並んだ複数の磁極対を構成するように配置されている。ステータは、複数相の巻線を有する。
インバータは、複数のスイッチング部を有する。複数のスイッチング部は、複数相の巻線のそれぞれに流れる電流を制御する。
制御装置は、ロータが回転していない状態において始動指示が入力された場合、複数のスイッチング部を、ゼロ出力状態から、低出力状態、高出力状態の順に変化させるように制御する。始動指示は、負荷変動型4ストロークエンジンを始動するための指示である。
ゼロ出力状態は、ロータが回転しないように、複数のスイッチング部が永久磁石式同期モータの出力をゼロ又は実質的にゼロにするように設定された状態である。
高出力状態は、ロータの回転が加速するように、複数のスイッチング部が制御される状態である。
低出力状態は、ロータの回転が開始するように、複数のスイッチング部が制御される状態である。複数のスイッチング部は、ロータが複数の磁極対の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間、低出力状態で制御される。低出力状態において、複数のスイッチング部は、永久磁石式同期モータの出力をゼロ出力状態よりも大きく且つ高出力状態よりも小さくするように制御される。また、複数のスイッチング部は、低出力状態から高出力状態への遷移の前後において、ロータの回転と、複数相の巻線のそれぞれに流れる電流の正負のパターンとの各々が継続するように制御される。
【0012】
ロータが回転していない状態において始動指示が入力された場合、制御装置は、複数のスイッチング部を、ゼロ出力状態から低出力状態に変化させるように制御する。低出力状態において、停止状態のロータが磁極対の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間に小さい出力を出力するように巻線へ電流が流れる。これによって、ロータの回転が開始する。複数のスイッチング部は、永久磁石式同期モータの出力をゼロ出力状態よりも大きく且つ高出力状態よりも小さくするように制御される。このため、回転を開始する前のロータの向きが理想の向きと異なる場合でも、理想の向きの場合と比べたロータの挙動の差が抑制される。例えば、ロータに逆転の回転力が生じる状況でも、その回転力が抑制される。このため、低出力状態に続く高出力状態において、出力を大きくするような電流を流しながら各相の電流の正負のパターンが順次切替わる場合に、ロータが、変化する磁界に短い時間で追従しやすい。これに対し、回転を開始する前のロータの向きが理想的な向きである場合には、ロータは、低出力状態における巻線の電流により形成される磁界の向きに直ちに追従して回転の力を受けることができる。つまり、ロータが回転の開始時点から、変化する磁界に追従する。したがって、ロータが短い時間で加速する。このため、エンジン始動にかかる時間の遅延を抑制することができる。従って、モータを大型化することなく、エンジン始動にかかる時間をより短くすることができる。
【0013】
(2) (1)の鞍乗型車両であって、
前記低出力状態は、前記永久磁石式同期モータの出力を、前記クランクシャフトが前記負荷変動型4ストロークエンジンの前記高負荷領域を乗越す力よりも小さくするように、複数のスイッチング部が制御される状態である。
【0014】
(2)の構成によれば、低出力状態において、永久磁石式同期モータの出力は、クランクシャフトが高負荷領域を乗越す力よりも小さい程度に抑制される。このため、回転を開始する前のロータの向きが理想の向きと異なる場合でも、理想の向きの場合の挙動と比べたロータの挙動の差が抑制される。従って、低出力状態に続く高出力状態で、ロータの回転が滑らかに加速する。従って、エンジン始動にかかる時間をより短くすることができる。
【0015】
(3) (1)又は(2)の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記スイッチング部をPWM制御し、前記低出力状態におけるPWM制御のデューティ比を前記高出力状態におけるデューティ比よりも小さくすることで、前記永久磁石式同期モータに前記高出力状態よりも小さい出力を前記低出力状態で出力させる。
【0016】
(3)の構成によれば、PWM制御におけるデューティ比の制御によって低出力状態で高出力状態よりも小さい出力を出力できるので、出力の大きさを精密に調整することができる。
【0017】
(4) (1)から(3)いずれか1の鞍乗型車両であって、
前記永久磁石式同期モータは、エンジンに駆動されて発電する発電機を兼ねるモータジェネレータである。
【0018】
(4)の構成によれば、永久磁石式同期モータが発電機を兼ねるため鞍乗型車両をより小型化しつつ、エンジン始動にかかる時間を短くすることができる。
【0019】
(5) (1)から(4)いずれか1の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記始動指示の入力を契機として、前記ロータが回転するように前記スイッチング部に前記複数相の巻線への電流の供給を開始させる。
【0020】
(5)の構成によれば、始動指示の入力からロータの回転の開始までの時間が短かくなる。このため、エンジン始動にかかる時間をより短くすることができる。
【0021】
(6) (1)から(5)いずれか1の鞍乗型車両であって、
前記負荷変動型4ストロークエンジンは、単気筒エンジンである。
【0022】
(6)の構成によれば、例えば複数気筒を有する場合と比べて、高負荷領域に到達するまでのより長い助走区間でクランクシャフトの回転を加速することができる。このため、クランクシャフトが、より高い回転速度に伴う大きな慣性力を利用して高負荷領域を乗り越えることにより、始動にかかる時間より短くすることができる。
【0023】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。本明細書にて使用される用語「及び/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたは全ての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」及びその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分及び/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」及び/またはそれらの等価物は広く使用され、直接的及び間接的な取り付け、接続及び結合の両方を包含する。更に、「接続された」及び「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な電気的接続または結合を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術及び工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせを全て繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明及び請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しい鞍乗型車両について説明する。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細無しに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0024】
鞍乗型車両は、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両である。本発明の鞍乗型車両は、例えば、自動二輪車である。ただし、鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されず、例えば、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよい。また、鞍乗型車両は、リーン姿勢で旋回可能に構成されていることが好ましい。リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両は、カーブの中心に向かって傾いた姿勢で旋回するように構成される。これにより、リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両は、旋回時にビークルに加わる遠心力に対抗する。リーン姿勢で旋回可能に構成された鞍乗型車両では、操作に対する応答性が求められるため、小型化が重要視される。ただし、鞍乗型車両は、特に限定されず、例えば、リーン姿勢で旋回しない車両であってもよい。
【0025】
負荷変動型4ストロークエンジンは、4ストロークの間に、高負荷領域と低負荷領域とを有する。負荷変動型4ストロークエンジンは、例えば、単気筒エンジンである。負荷変動型4ストロークエンジンは、例えば、2つの気筒を有する不等間隔燃焼エンジンであってもよい。2つの気筒を有する不等間隔燃焼エンジンとして、例えばV型エンジンが挙げられる。
負荷変動型4ストロークエンジンでは、低い回転速度における回転の変動が、他のタイプのエンジンと比べ大きい。高負荷領域とは、エンジンの1燃焼サイクルのうち、負荷トルクが1燃焼サイクルにおける負荷トルクの平均値よりも高い領域をいう。低負荷領域とは、1燃焼サイクルにおける高負荷領域以外の領域をいう。クランクシャフトの回転角度を基準として見ると、エンジンでの低負荷領域は、例えば、高負荷領域より広い。圧縮行程は、高負荷領域と重なりを有する。
【0026】
永久磁石式同期モータは、永久磁石を有するモータである。永久磁石式同期モータは、ステータ及びロータを有する。永久磁石式同期モータのロータは永久磁石を有する。永久磁石式同期モータのステータはステータコアと巻線を備える。本発明の永久磁石式同期モータは、複数相に対応する巻線を備える。本発明の永久磁石式同期モータは、例えば、2相又は4相以上に対応する巻線を備えてもよい。ただし、本発明の永久磁石式同期モータは、例えば、3相に対応する巻線を備えることによって、正弦波駆動、又は方形波駆動が容易に実施可能である。ステータの巻線は、ステータコアを巻いている。ロータは永久磁石がステータコアとの間にエアギャップを介するように設けられる。永久磁石式同期モータは、例えば、ラジアルギャップ型のモータとして、ステータよりも外方で回転するロータを備えたアウターロータ型のモータである。ただし永久磁石式同期モータは、特に限定されず、ステータよりも内方で回転するロータを備えたインナーロータ型のモータでもよい。
永久磁石式同期モータは、例えば、発電機の機能を兼ねる。ただし、永久磁石式同期モータは、特に限定されず、例えば、発電機としての機能を有さない永久磁石式同期モータであってもよい。なお、ロータとクランクシャフトとの直接的な接続は、例えば、ロータとクランクシャフトとが共通の回転軸線を有するように接続される態様であってもよい。そのような接続態様としては、例えば、テーパ嵌合、フランジ接合、スプライン接合等の公知の接合態様が採用可能である。
永久磁石式同期モータは、例えば、歯部の数の2/3より多い磁極を有する。ただし、永久磁石式同期モータは、特に限定されず、例えば、歯部の数の2/3以下の磁極を有してもよい。永久磁石式同期モータは、例えば、クランクシャフトと共通のオイルと接触するように設けられる。ただし、永久磁石式同期モータは、特に限定されず、例えば、オイルと接触しないように設けられてもよい。
【0027】
インバータは、バッテリから永久磁石式同期モータに出力される電流を制御する複数のスイッチング部を備えている。スイッチング部は、例えば、半導体素子を有する。スイッチング部は、例えば、FET(Field Effect Transistor)、サイリスタ、及びIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を含む。インバータは、例えば、複数のスイッチング部で構成されたブリッジインバータを有する。
【0028】
制御装置は、例えば、エンジンの動作を制御する制御装置を含む。但し、本発明の制御装置は、特に限定されず、例えば、エンジンの動作を制御する装置とは別個の制御装置であってもよい。
【0029】
始動指示は、エンジンを始動するための指示である。始動指示は、例えば、鞍乗型車両に備えられた始動指示部から出力される。始動指示部は、例えば、運転者に操作されるスタータスイッチである。始動指示は、運転者の操作に基づき始動指示部から出力される。また、鞍乗型車両がアイドリングストップ機能を有する場合、制御装置は、予め定めたエンジン始動条件を判別することによって、自ら再始動の指示を実行する。エンジン始動条件は、例えば、アクセルの操作又はクラッチの操作を含む。予め定めたエンジン始動条件の達成は、始動指示の入力に含まれる。
【0030】
制御装置におけるゼロ出力状態は、前記ロータが回転しないように、前記複数のスイッチング部が設定される状態である。ゼロ出力状態は、例えば、電流が、スイッチング部から巻線に供給されない。スイッチング部は、例えば、巻線の端子が開放状態となるように制御される。ただし、スイッチング部は、特に限定されず、スイッチング部は、巻線の端子が短絡状態となるように制御されてもよい。また、ゼロ出力状態では、制御装置が例えばロータの位置を検出する目的で、ロータが回転しない程度に巻線に電流を流すようにスイッチング部を制御してもよい。
高出力状態は、ロータの回転が加速するように、複数のスイッチング部が制御される状態である。例えば、制御装置が、ロータの回転が加速するように、スイッチング部に複数相の巻線のそれぞれに流れる電流の正負のパターンを順次切替える。制御装置は、例えば、正弦波駆動を行なう。この場合、巻線のそれぞれに流れる電流が正弦波状に変化する。正弦波状に変化する電流の平均を基準として正の電流と負の電流が区別される。ただし、制御装置の駆動方式は特に限定されず、例えば、方形波駆動であってもよい。パターンとは、複数相の巻線に対する電流の正負の割り当ての型である。
低出力状態は、ロータの回転が開始するように、複数のスイッチング部が制御される状態である。複数のスイッチング部は、ロータが複数の磁極対の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間、低出力状態で制御される。低出力状態において、複数のスイッチング部は、永久磁石式同期モータの出力をゼロ出力状態よりも大きく且つ高出力状態よりも小さくするように制御される。例えば、低出力状態において、永久磁石式同期モータが、クランクシャフトが負荷変動型4ストロークエンジンの高負荷領域を乗越す力よりも小さい力を出力するように、複数のスイッチング部が制御される。
ロータの回転は、低出力状態から高出力状態への遷移の前後で継続する。低出力状態から高出力状態への遷移の前後で、ロータの回転は停止しない。ロータの回転の停止は、停止の状態が継続することを意味する。例えば、回転が継続することには、ロータの回転速度が変化する場合、及び、ロータの回転方向が瞬時に変化する場合が含まれる。
初期パターンは、低出力状態から高出力状態への遷移の前後で継続される。遷移の前後で、電流の正負は変化せず、電流の大きさは変化する。
【0031】
低出力状態のPWM制御におけるデューティ比及び高出力状態のPWM制御におけるデューティ比は、制御装置が例えば正弦波駆動のようにデューティを周期的に変動させる場合、変動の周期における同一位相におけるデューティで比較することができる。例えば正弦波の場合、代表として極大値におけるデューティ比同士を比較することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、大型化を抑制しつつエンジン始動にかかる時間をより短くすることができる鞍乗型車両が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両を説明する図である。
【
図2】
図1に示される鞍乗型車両1の適用例におけるエンジンユニットを示す断面図である。
【
図3】負荷変動型4ストロークエンジンのクランク角度位置と負荷トルクとの関係を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図2に示される永久磁石式同期モータ20の回転軸線に垂直な断面を示す断面図である。
【
図5】
図2に示すエンジンユニット及びその周辺の電気的な概略構成を示すブロック図である。
【
図6】
図2に示す負荷変動型4ストロークエンジンの始動に関する動作を説明するフローチャートである。
【
図7】
図5及び
図6に示される制御装置の制御に基づいて、複数相の巻線へ供給される電流の変化を示すタイムチャートである。
【
図8】第二実施形態に係るエンジンの始動時における永久磁石式同期モータの出力を示すタイムチャートである。
【
図9】第三実施形態に係るエンジンの始動時における永久磁石式同期モータの出力を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を、好ましい実施形態に基づいて図面を参照しつつ説明する。
【0035】
[第一実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両を説明する図である。
図1のパート(a)は、鞍乗型車両のエンジンの負荷トルクを示すグラフである。
図1のパート(b)は、鞍乗型車両の概略構成を示すブロック図である。
図1のパート(c)は、永久磁石式同期モータの外力構成を示す断面図である。
図1のパート(d)は、エンジンの始動時における永久磁石式同期モータの出力を示すタイムチャートである。
【0036】
図1のパート(b)に示される鞍乗型車両1は、運転者がサドル2aに跨って着座する形式の車両である。鞍乗型車両1は、車体2及び車輪3a,3bを備える。後ろの車輪3bは駆動輪として機能する。
鞍乗型車両1は、負荷変動型4ストロークエンジン10と、永久磁石式同期モータ20と、インバータ50と、制御装置60と、を備える。
【0037】
負荷変動型4ストロークエンジン10は、動力を出力するクランクシャフト15を有する。負荷変動型4ストロークエンジン10は、駆動輪である車輪3bに供給される動力を、クランクシャフト15を介して出力する。車輪3bは、負荷変動型4ストロークエンジン10から出力される動力を受け、鞍乗型車両1を駆動する。
図1のパート(a)に示されるように、負荷変動型4ストロークエンジン10は、4ストロークの間に、高負荷領域THと、低負荷領域TLとを有する。高負荷領域THは、クランクシャフト15の回転に対する負荷が大きい領域である。低負荷領域TLは、クランクシャフト15を回転させる負荷が高負荷領域THの負荷より小さい領域である。
【0038】
永久磁石式同期モータ20は、クランクシャフト15を回転駆動することにより、負荷変動型4ストロークエンジン10を始動する。
図1のパート(c)に示されるように、永久磁石式同期モータ20は、ロータ30、及び、ステータ40を有する。
ロータ30は、クランクシャフト15と直接に接続されている。ロータ30は永久磁石37を有する。永久磁石37は、回転方向に並んだ複数の磁極37aを構成するように配置されている。回転方向に隣り合う2つの磁極37aは磁極対38を構成する。つまり、永久磁石37は、回転方向に並んだ複数の磁極対38を構成するように配置されている。
ステータ40は、複数相の巻線41を有する。
なお、図において、複数の永久磁石37及び磁極37aの一部に符号が付されている。また、複数の巻線41の一部のみ図示されている。
【0039】
再び
図1のパート(b)を参照して、インバータ50は、複数のスイッチング部51を有する。複数のスイッチング部51は、複数相の巻線41のそれぞれに流れる電流を制御する。
制御装置60は、複数のスイッチング部51のオン・オフ状態を制御することによって、複数相の巻線41のそれぞれに流れる電流を制御する。これによって、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20の回転、より詳細にはロータ30の回転を制御する。
制御装置60は、例えば、
図1のパート(d)に示されるように、永久磁石式同期モータ20の状態を、ゼロ出力状態C0、低出力状態C1、及び高出力状態C2、の間で切替える。
図1のパート(d)のタイムチャートの縦軸は、永久磁石式同期モータ20の出力の大きさを示す。制御装置60は、ロータ30が回転していない状態において始動指示が入力された場合、複数のスイッチング部51を、ゼロ出力状態C0から、低出力状態C1、高出力状態C2の順に変化させるように複数のスイッチング部51を制御する。
【0040】
ゼロ出力状態C0は、ロータ30が回転しないように、複数のスイッチング部51が永久磁石式同期モータ20の出力をゼロ又は実質的にゼロにするように設定された状態である。より詳細には、ゼロ出力状態C0は、ロータ30が回転しないように、制御装置60がスイッチング部51を制御する状態である。例えば、ゼロ出力状態C0において、複数のスイッチング部51の全てはオフ状態であり、複数相の巻線41のいずれにも電流が流れない。従って、ロータ30は停止しており、回転しない。
高出力状態C2は、ロータ30の回転が加速するように、複数のスイッチング部51が制御される状態である。高出力状態C2において、ロータ30の回転が加速するように、制御装置60は、複数のスイッチング部51に、複数相の巻線41のそれぞれへ電流(例えば
図7に示す電流Iu,Iv,Iw)を供給させる。高出力状態C2は、制御装置60が、スイッチング部51に複数相の巻線41のそれぞれに流れる電流の正負のパターンを順次切替えながら複数相の巻線41のそれぞれに電流を供給させる状態である。高出力状態C2において、制御装置60は、スイッチング部51に複数相の巻線41のそれぞれに流れる電流の正負のパターンを初期パターンから順次切替えさせる。初期パターンは、高出力状態C2における複数相の巻線41のそれぞれに流れる電流の正負の最初のパターンである。
低出力状態C1は、ロータ30の回転が開始するように、複数のスイッチング部51が、永久磁石式同期モータ20の出力をゼロ出力状態C0よりも大きく且つ高出力状態C2よりも小さくするように制御される状態である。複数のスイッチング部51は、ロータ30が複数の磁極対38の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間、低出力状態C1で制御される。また、低出力状態C1は、高出力状態C2への遷移の前後において、ロータ30の回転と、複数相の巻線41のそれぞれに流れる電流の正負のパターンとの各々が継続するように複数のスイッチング部51が制御される状態である。
【0041】
鞍乗型車両1には、始動指示部4が備えられている。始動指示部4は、例えば、運転者の操作に応じて、負荷変動型4ストロークエンジン10を始動するための始動指示を出力する。
制御装置60は、ロータ30が回転していない状態において始動指示が入力された場合、低出力状態C1及び高出力状態C2を経て永久磁石式同期モータ20を回転させるようにスイッチング部51に複数相の巻線41へ電流を流させる。
【0042】
例えば、
図1のパート(d)のタイムチャートにおける時刻t0に始動指示が入力される前、ロータ30は回転せず、停止している。制御装置60が、スイッチング部51をゼロ出力状態C0に制御している。なお、制御装置60は、始動指示が入力される前、常時、ゼロ出力状態C0に制御していなくともよい。例えば、制御装置60は、始動指示が入力される時点で、スイッチング部51をゼロ出力状態C0で制御していればよい。
時刻t0に始動指示が入力された場合、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20が低出力状態C1となるよう、スイッチング部51に複数相の巻線41へ電流を流させる。
低出力状態C1において、制御装置60は、高出力状態C2への遷移の前後でロータ30の回転及び初期パターンを継続するようにスイッチング部51を制御する。パターンは、複数相の巻線41に対する電流の正負の割り当ての組合せである。例えば、複数相の巻線41のそれぞれが、u相、v相、w相のいずれかに属する構成の場合、u相における電流の向きと、v相における電流の向きと、w相における電流の向きとが、1つのパターンを構成する。例えば時刻t0で始動指示が入力された場合、制御装置60は、初期パターンとして「パターン1」の組合せの向きの電流をu相、v相、w相に属する巻線41に流すようスイッチング部51を制御する。
例えば、低出力状態C1の期間中、初期パターンとして「パターン1」は変化しない。低出力状態C1において、制御装置60は、初期パターンを継続する。低出力状態C1の期間中、u相、v相、w相に属する巻線41の電流の向きは変化しないが、それぞれの巻線41の電流の大きさは変化する。
ただし、低出力状態C1の期間中、巻線41の電流の大きさも変化しない構成も採用可能である。また、低出力状態C1の期間中、パターンが変化し、低出力状態C1において、最終的に初期パターンに収束する構成も採用可能である。
【0043】
図1のパート(d)における期間PAは、ロータ30が複数の磁極対38の1つに対応する回転角度回転する期間である。低出力状態C1の期間は、期間PAよりも短い。
制御装置60は、ロータ30が複数の磁極対38の1つに対応する回転角度回転する期間PAよりも短い期間、低出力状態C1を維持する。
低出力状態C1において、複数のスイッチング部51は、永久磁石式同期モータ20の出力をゼロ出力状態C0よりも大きく且つ高出力状態C2よりも小さくするように制御される。
【0044】
低出力状態C1の後、制御装置60の制御は、高出力状態C2へ遷移する。
高出力状態C2において、制御装置60は、スイッチング部51に複数相の巻線41のそれぞれに流れる電流の正負のパターンを順次切替える。制御装置60は、初期パターンからパターンを切替える。ただし、制御装置60は、高出力状態C2に遷移しても初期パターンをある期間継続する。つまり、低出力状態C1から高出力状態C2への遷移の前後において、複数のスイッチング部51は、パターンが継続するように制御される。低出力状態C1から高出力状態C2への遷移の前後において、ロータ30は停止しない。つまり、ロータ30の回転が維持される。
例えば、
図1のパート(d)に示されるように低出力状態C1で初期パターンとして「パターン1」が採用される場合、制御装置60は、高出力状態C2で引き続き初期パターンである「パターン1」を維持する。制御装置60は、その後、時刻t2で、電流の正負のパターンを「パターン1」から「パターン2」、そして「パターン3」、…に順次切替えていく。電流の正負のパターンの変化の周期が徐々に短くなるのに従って、ロータ30に接続されたクランクシャフト15の回転が加速する。クランクシャフト15は、高負荷領域THの反力を乗り越して回転する。その後、負荷変動型4ストロークエンジン10が始動する。
【0045】
上述した制御装置60の制御によって、まず、低出力状態C1において、停止状態のロータ30が磁極対38の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間に小さい出力を出力するように巻線41へ電流が流れる。これによって、停止していたロータ30の向きが理想の向きと異なる場合でも、ロータ30における回転のぶれが抑制される。例えば、ロータ30に逆転の回転力が生じる状況でも、その回転力が抑制される。このため、低出力状態C1に続く高出力状態C2において、出力を大きくするような電流を流しながら各相の電流の正負を順次切替える場合に、ロータ30が、高出力状態C2で形成される磁界に追従しやすい。つまり、ロータ30の回転が始動から滑らかに加速する。これに対し、ゼロ出力状態C0においてロータ30の向きが理想的な向きである場合には、ロータ30は、低出力状態C1における電流により形成される磁界の向きに直ちに追従して回転の力を受けることができる。つまり、ロータ30がより滑らかに回転の開始から引き続き加速する。このため、エンジン始動にかかる時間の遅延を抑制することができる。従って、永久磁石式同期モータ20を大型化することなく、エンジン始動にかかる時間を短くすることができる。
【0046】
[適用例]
図2は、
図1に示される鞍乗型車両1の適用例におけるエンジンユニットを示す断面図である。
図2に示される適用例において、
図1と共通する要素には同じ符号を付して説明するか、又は説明を省略する。
本適用例は、後に説明する第二実施形態及び第三実施形態のいずれにも適用することができる。
【0047】
図2に示すエンジンユニットEUは、負荷変動型4ストロークエンジン10と、永久磁石式同期モータ20と、を備える。エンジンユニットEUには、クラッチ18と、変速装置19も備えられている。
【0048】
図2に示す負荷変動型4ストロークエンジン10は、単気筒エンジンである。
【0049】
負荷変動型4ストロークエンジン10は、クランクケース11と、シリンダ12と、ピストン13と、コネクティングロッド14と、クランクシャフト15とを備えている。ピストン13は、シリンダ12内に往復動可能に設けられている。
クランクシャフト15は、クランクケース11内に回転可能に設けられている。クランクシャフト15は、コネクティングロッド14を介して、ピストン13と連結されている。シリンダ12の上部には、シリンダヘッド16が取り付けられている。シリンダ12とシリンダヘッド16とピストン13とによって、燃焼室が形成される。クランクケース11及びシリンダ12は、オイルで内部が潤滑されるように構成される。
シリンダヘッド16には、図示しない排気バルブ及び吸気バルブが設けられている。
また、負荷変動型4ストロークエンジン10には、点火プラグ17、燃料噴射装置J(例えば
図5参照)、及び、図示しないスロットル弁も設けられている。スロットル弁は、開度に応じてシリンダ12内に供給される空気の量を調整する。燃料噴射装置Jは、シリンダ12内の燃焼室に燃料を供給する。スロットル弁を通る空気と燃料噴射装置Jから噴射された燃料の混合気が、シリンダ12内の燃焼室に供給される。吸気バルブは、シリンダ12内の燃焼室への混合気の供給を制御する。点火プラグ17が、シリンダ12内の混合気に点火することによって、混合気が燃焼する。
【0050】
クランクシャフト15の一端部15aには、永久磁石式同期モータ20が取り付けられている。例えば、
図2に示す永久磁石式同期モータ20は、クランクシャフト15とともにクランクケース11内に配置される。永久磁石式同期モータ20は、エンジンオイルと接触するように設けられる。
【0051】
負荷変動型4ストロークエンジン10は、混合気を燃焼する燃焼動作によって回転力を出力する。詳細には、ピストン13が、燃焼室に供給された燃料を含む混合気の燃焼によって移動する。ピストン13は、混合気の燃焼によって往復動する。ピストン13の往復動に連動してクランクシャフト15が回転する。回転力即ち動力は、クランクシャフト15を介して負荷変動型4ストロークエンジン10の外部に出力される。
図2に示す例では、クランクシャフト15の動力が、クラッチ18及び変速装置19を介して、車輪3b(
図1参照)に伝達される。鞍乗型車両1は、負荷変動型4ストロークエンジン10からクランクシャフト15を介して動力を受ける車輪3b(
図1参照)によって駆動される。
【0052】
図3は、負荷変動型4ストロークエンジンのクランク角度位置と負荷トルクとの関係を模式的に示す説明図である。負荷トルクは、負荷変動型4ストロークエンジン10が燃焼動作を行っていない状態で、クランクシャフト15を回転させるために必要とされるトルクである。
【0053】
負荷変動型4ストロークエンジン10は、燃焼動作における4ストロークに相当する燃焼サイクル内に、高負荷領域THと、低負荷領域TLとを有する。
高負荷領域THは、負荷変動型4ストロークエンジン10の1燃焼サイクルのうち、負荷トルクが1燃焼サイクルにおける負荷トルクの平均値Avよりも高い領域である。クランクシャフト15の回転角度を基準として見ると、低負荷領域TLは高負荷領域TH以上に広い。より詳細には、低負荷領域TLは高負荷領域THよりも広い。言い換えると、低負荷領域TLに相当する回転角度領域は、高負荷領域THに相当する回転角度領域よりも広い。負荷変動型4ストロークエンジン10は、燃焼行程(膨張行程)、排気行程、吸気行程、及び圧縮行程を繰り返しながら回転する。圧縮行程は、高負荷領域THと重なりを有する。
【0054】
負荷変動型4ストロークエンジン10の1回の燃焼サイクルには、燃焼行程、排気行程、吸気行程、及び圧縮行程が1回ずつ含まれる。
吸気行程において、混合気が、燃焼室に供給される。圧縮行程において、ピストン13が、燃焼室内の混合気を圧縮する。膨張行程において、点火プラグ17で点火された混合気が燃焼するとともに、ピストン13を押す。排気行程において、燃焼後の排ガスが燃焼室から排出される。高負荷領域THの高い負荷トルクは、主に混合気の圧縮の反力に起因する。
【0055】
図4は、
図2に示される永久磁石式同期モータ20の回転軸線に垂直な断面を示す断面図である。
図2及び
図4に示される永久磁石式同期モータ20は、例えば燃焼動作中の負荷変動型4ストロークエンジン10に駆動されて発電する機能も有する。つまり、永久磁石式同期モータ20は、負荷変動型4ストロークエンジン10を始動する始動モータと、負荷変動型4ストロークエンジン10に駆動されて発電する発電機の機能を兼ね備える。永久磁石式同期モータ20は、モータジェネレータである。
【0056】
永久磁石式同期モータ20は、三相ブラシレス型モータである。
永久磁石式同期モータ20は、ロータ30と、ステータ40とを有する。永久磁石式同期モータ20は、アウターロータ型である。即ち、ロータ30は、アウターロータである。ステータ40は、インナーステータである。
【0057】
ロータ30は、ロータ本体部31を有する。ロータ本体部31は、例えば強磁性材料からなる有底筒状の部材である。ロータ本体部31は、クランクシャフト15に直接的に接続されている。これによって、ロータ30は、負荷変動型4ストロークエンジン10のクランクシャフト15と直接的に接続されている。つまり、ロータ30と、クランクシャフト15とは、共通の回転軸線を有する。ロータ30には、電流が供給される巻線が設けられていない。
ロータ30は、永久磁石37を有する。ロータ30は、複数の磁極37aを有する。複数の磁極37aは永久磁石37により形成されている。複数の磁極37aは、バックヨーク部34の内周面に設けられている。複数の磁極37aは、永久磁石式同期モータ20の径方向におけるステータ40の外側に設けられている。
図4に示すロータ30は、複数の永久磁石37を有する。複数の磁極37aは、例えば、複数の永久磁石37のそれぞれに設けられている。ただし、永久磁石37は、例えば、1つの環状の磁石によって形成される構成も取り得る。この場合、1つの環状の磁石は、複数の磁極37aが内周面に並ぶように着磁される。また、永久磁石37は、複数の磁極37aよりも少ない数の円弧状の磁石ブロックで構成されてもよい。
【0058】
複数の磁極37aは、永久磁石式同期モータ20の周方向にN極とS極とが交互に配置されるように設けられている。隣り合う2つの磁極37aは、磁極対38を構成する。永久磁石式同期モータ20は、複数の磁極対38を有する。磁極対38の1つに対応する回転角度は、基本角度Rである。
図4に示す例では、ロータ30の磁極数が24個である。ロータ30の磁極数とは、ステータ40を向いた磁極37aの数をいう。磁極37aとステータ40との間には磁性体が設けられていない。磁極37aとステータ40との間には、例えば、非磁性体のカバーが設けられていてもよい。
【0059】
ステータ40は、複数の巻線41とステータコア42とを有する。ステータコア42は、周方向に間隔を空けて設けられた複数の歯部(ティース)43を有する。複数の歯部43は、ステータコア42の径方向外側に向かって延びている。
図4の例において、合計18個の歯部43が周方向に間隔を空けて設けられている。換言すると、ステータコア42は、周方向に間隔を空けて形成された合計18個のスロットSLを有する。歯部43は周方向に等間隔で配置されている。
【0060】
永久磁石式同期モータ20は、歯部43の数の2/3より多い磁極37aを有する。この場合、巻線41は、例えは歯部43の数の2/3以下の磁極37aを有する場合と比べて大きいインダクタンスを有する。このため、発電時における永久磁石式同期モータ20温度上昇が抑えられる。
【0061】
各歯部43の周囲には、巻線41が巻回している。つまり、複数相の巻線41は、スロットSLを通るように設けられている。
図4には、巻線41が、スロットSLの中にある状態が示されている。複数相の巻線41のそれぞれは、U相、V相、W相の何れかに属する。巻線41は、例えば、U相、V相、W相の順に並ぶように配置される。
【0062】
巻線41に、周期的に変化する電流が供給されることでロータ30が回転する。例えば、巻線41に、周期的に変化する正弦波状の電流、又は矩形波状の電流が流れることで、ロータ30が回転する。巻線41に流れる電流の変化の1周期(360度)に対応して、ロータ30は基本角度R回転する。基本角度Rは、電気角における360度とも称される。
【0063】
図5は、
図2に示すエンジンユニット及びその周辺の電気的な概略構成を示すブロック図である。
【0064】
鞍乗型車両1に備えられる制御装置60は、インバータ50を含む鞍乗型車両1の各部を制御する。
インバータ50には、永久磁石式同期モータ20及びバッテリ5が接続されている。バッテリ5は、永久磁石式同期モータ20がモータとして動作する場合、永久磁石式同期モータ20に電力を供給する。また、バッテリ5は、永久磁石式同期モータ20で発電された電力によって充電される。
【0065】
インバータ50は、複数のスイッチング部51を備えている。
図5に示すスイッチング部51は、三相ブリッジインバータを構成している。複数のスイッチング部51は、複数相の巻線41の各相と接続されている。より詳細には、複数のスイッチング部51のうち、直列に接続された2つのスイッチング部51がハーフブリッジを構成している。各相のハーフブリッジは、バッテリ5に対し並列に接続されている。各相のハーフブリッジを構成するスイッチング部51は、複数相の巻線41の各相とそれぞれ接続されている。
【0066】
スイッチング部51は、バッテリ5と永久磁石式同期モータ20との間を流れる電流を制御する。詳細には、スイッチング部51は、バッテリ5と複数相の巻線41との間の電流の通過/遮断を切替える。
詳細には、スイッチング部51のオン・オフ動作によって複数相の巻線41のそれぞれに対する通電及び通電停止が切替えられる。
また、永久磁石式同期モータ20がジェネレータとして機能する場合、スイッチング部51のオン・オフ動作によって、巻線41のそれぞれとバッテリ5との間の電流の通過/遮断が切替えられる。スイッチング部51のオン・オフが順次切替えられることによって、永久磁石式同期モータ20から出力される三相交流の整流及び電圧の制御が行われる。スイッチング部51は、永久磁石式同期モータ20からバッテリ5に出力される電流を制御する。
【0067】
[駆動方式について]
制御装置60は、スイッチング部51をパルス幅変調(PWM)制御する。これによって、制御装置60は、巻線41に流れる電流を制御する。
例えば、制御装置60は、巻線41に対し正弦波駆動を行うようにスイッチング部51を制御する。
正弦波駆動において、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20の各巻線41に正弦波状の電流が流れるよう、複数のスイッチング部51をオン・オフ動作させる。制御装置60は、各ステータ巻線Wに対応するスイッチング部51のデューティ比を動的に変化させることによって、各巻線41に正弦波状の電流を流す。制御装置60は、電気角の1周期よりも短い周期でスイッチング部51をオン・オフ動作することによって、ステータ巻線Wに正弦波状の電流を流す。3つの相の巻線41に流れる電流は、3相交流における波形のように、順に極大となり、また、順に極小となる。常時、いずれかの巻線41に電流が流れている。
例えば、高出力状態C2において、制御装置60は、正弦波の一周期内で正弦波の高さに応じて、スイッチング部51のデューティ比を約0%から約100%まで変化させる。
これに対し、制御装置60は、低出力状態C1におけるPWM制御のデューティ比を高出力状態C2におけるデューティ比よりも小さくすることで、低出力状態C1で永久磁石式同期モータ20に高出力状態C2よりも小さい出力を出力させる。
例えば、制御装置60は、低出力状態C1における永久磁石式同期モータ20の出力を、クランクシャフト15が負荷変動型4ストロークエンジン10の高負荷領域を乗越す力よりも小さくするように、スイッチング部51を制御する。
より詳細には、低出力状態C1において、制御装置60は、正弦波の一周期内で正弦波の高さに応じて、スイッチング部51のデューティ比を、例えば50%を中心ととする約30%の範囲、即ち約35%から約65%まの範囲で変化させる。この場合、低出力状態C1において各巻線41に流れる電流は、高出力状態C2における電流の1/3となる。この結果、低出力状態C1における永久磁石式同期モータ20の出力は、高出力状態C2における永久磁石式同期モータ20の出力の1/3となる。
正弦波駆動によれば、回転力の発生に寄与しない成分の電流の出力が抑えられるので、電力利用効率が高い。
【0068】
なお、電流波形の制御として、制御装置60は、例えば、巻線41に対し方形波駆動を行うようにスイッチング部51を制御してもよい。
制御装置60は、例えば、巻線41に方形波状の電流を流れるように制御する場合、120度通電方式によるタイミングで複数のスイッチング部51をオン・オフ動作する。120度通電方式は、複数相の巻線41の各相に対し、通電休止期間を設け、通電角180度未満の間欠通電を行う方式である。但し、120度通電方式の場合、常時、いずれかの巻線41に極大値相当の電流が流れる。
例えば、高出力状態C2において、制御装置60は、方形波の一周期内における電流の供給期間、スイッチング部51のデューティ比を約100%に維持する。
これに対し、低出力状態C1において、制御装置60は、方形波の一周期内における電流の供給期間、スイッチング部51のデューティ比を、約30%に維持する。この場合、低出力状態C1において各巻線41に流れる電流は、高出力状態C2における電流の1/3となる。この結果、低出力状態C1における永久磁石式同期モータ20の出力は、高出力状態C2における永久磁石式同期モータ20の出力の1/3となる。
正弦波駆動によれば、制御が簡単である。このため、より低い処理能力を有する演算装置も利用することができる。制御装置60の設計自由度が高い。
【0069】
スイッチング部51のそれぞれは、スイッチング素子を有する。スイッチング部51は、例えばトランジスタであり、より詳細にはFET(Field Effect Transistor)である。
【0070】
制御装置60には、燃料噴射装置J、点火プラグ17、及びバッテリ5が接続されている。
また、制御装置60には、ロータ位置検出装置70が接続されている。制御装置60は、ロータ位置検出装置70の検出結果によって、クランクシャフト15の回転位置及び回転速度を取得する。
【0071】
制御装置60は、スイッチング部51のそれぞれのオン・オフ動作を制御することによって、永久磁石式同期モータ20の動作を制御する。始動発電制御部62は、開始制御部621、及び発電制御部622を含む。
燃焼制御部63は、点火プラグ17及び燃料噴射装置Jを制御することによって、負荷変動型4ストロークエンジン10の燃焼動作を制御する。
【0072】
制御装置60は、中央処理装置60aと、記憶装置60bとを有するコンピュータで構成されている。中央処理装置60aは、制御プログラムに基づいて演算処理を行う。記憶装置60bは、プログラム及び演算に関するデータを記憶する。制御装置60の制御は、中央処理装置60aと記憶装置60bを有するコンピュータとコンピュータで実行される制御プログラムとによって実現される。
なお、燃料噴射装置J及び点火プラグ17を制御する部分は、スイッチング部51を制御する制御装置60と互いに別の装置として互いに離れた位置に構成されてもよく、また、一体に構成されてもよい。
【0073】
図6は、
図2に示す負荷変動型4ストロークエンジンの始動に関する動作を説明するフローチャートである。
【0074】
まず、負荷変動型4ストロークエンジン10の停止状態において、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20をゼロ出力状態C0に制御する(S11)。ロータ30は、停止している。即ち、クランクシャフト15は停止している。
【0075】
始動指示の入力を契機として(S12でYes)、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20が低出力状態C1で回転を開始するよう、スイッチング部51に複数相の巻線41へ電流の供給を開始させる。制御装置60は、低出力期間、低出力状態C1でスイッチング部51を制御する。制御装置60は、例えば、「パターン1」(
図1参照)の向きで、U相、V相、W相の巻線41へ電流が流れるよう、スイッチング部51を制御する。
低出力期間C1は、ロータ30が複数の磁極対38の1つに対応する回転角度よりも小さい角度回転する期間である。低出力期間C1は、例えば負荷変動型4ストロークエンジン10及び永久磁石式同期モータ20の動作特性に基づき設定された期間である。なお、低出力期間C1は、例えば、ロータ30が、磁極対38の1つに対応する回転角度よりも小さい所定角度、実際に回転することを検出することで設定されてもよい。
【0076】
低出力期間C1が終了した場合(S14でNo)、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20が高出力状態C2で回転を加速するよう、スイッチング部51に複数相の巻線41へ電流を供給させる。高出力状態C2において、制御装置60は、U相、V相、W相の巻線41へ電流が流れる向きとして、「パターン1」(
図1参照)を維持し、この後、パターンを切替える。高出力状態C2において、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20が低出力状態C1の場合よりも大きい出力を出力するようにスイッチング部51を制御する。
【0077】
クランクシャフト15の回転速度が、負荷変動型4ストロークエンジン10における燃焼動作に適した始動回転速度に達した場合(S16でYes)、制御装置60は、高出力状態C2における制御を終了する。これによって、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20からの動力の出力を停止する。
【0078】
図7は、
図5及び
図6に示される制御装置の制御に基づいて、複数相の巻線41へ供給される電流の変化を示すタイムチャートである。
図7のチャートには、正弦波駆動が採用される場合におけるU相、V相、W相の巻線41それぞれの電流Iu、Iv、Iwが示されている。また、
図7のチャートには、永久磁石式同期モータ20の制御状態と、状態に対応した出力の大きさが示されている。また、
図7のチャートには、U相、V相、W相の巻線41それぞれの電流Iu、Iv、Iwの組合せのパターンの遷移が示されている。
【0079】
時刻t0に始動指示が入力される前、制御装置60がスイッチング部51をゼロ出力状態C0に制御する。ロータ30は回転せず、停止している。永久磁石式同期モータ20は、動力を出力しない。
【0080】
時刻t0に始動指示が入力された場合、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20が低出力状態C1となるよう、スイッチング部51に複数相の巻線41へ電流を流させる。制御装置60は、例えば、巻線41に対し正弦波駆動を行うようにスイッチング部51を制御する。但し、低出力状態C1において、正弦波状の電流を流すためデューティ比が変化する範囲は、高出力状態C2の場合の30%に抑えられる。
この結果、低出力状態C1における永久磁石式同期モータ20の出力は、高出力状態C2の場合の出力よりも小さい。例えば、低出力状態C1における永久磁石式同期モータ20の出力は、高出力状態C2の場合の出力の30%である。
図7のチャートに示されるように低出力状態C1におけるU相の巻線41の電流Iuの向きは正である。V相の巻線41の電流Ivの向きは負である。W相の巻線41の電流Iwの向きは負である。これらの電流の向きの組合せを「パターン1」と称する。
制御装置60は、電気角の1周期PAよりも短い時刻t0からt1までの低出力期間、低出力状態C1を継続する。制御装置60は、時刻t0からt1までの低出力期間、「パターン1」を維持する。制御装置60は、ロータ30が磁極対38の1つに対応する基本角度R(
図4参照)よりも小さい角度回転する期間、永久磁石式同期モータ20が低出力状態C1で小さい出力を出力するようにスイッチング部51を制御する。
このため、始動指示が入力された場合、巻線41へ電流が流れることによって、停止していたロータ30が回転を開始する。低出力状態C1で巻線41へ電流が流れるため、ロータ30は、比較的弱い回転力、及び小さい速度で回転を開始する。低出力状態C1におけるロータ30の回転角度は、基本角度R(
図4参照)よりも小さい。
【0081】
時刻t1が経過すると、制御装置60は、永久磁石式同期モータ20が高出力状態C2となるよう、スイッチング部51に複数相の巻線41へ電流を流させる。
制御装置60は、低出力状態C1の場合のようなデューティ比の制限なしにデューティ比を変化させて巻線41に電流を流させる。
高出力状態C2において、制御装置60は、まず「パターン1」を維持する。高出力状態C2において、制御装置60は、「パターン1」を初期状態として、電流の向きのパターンを、「パターン2」、「パターン3」、「パターン4」の順に切替える。電流の向きの組合せの切替は、正弦波状の電流の変化に伴い実施される。
高出力状態C2における永久磁石式同期モータ20の出力は、低出力状態C1の場合の出力よりも小さい。高出力状態C2で、ロータ30の回転が加速する。即ち、クランクシャフト15の回転が加速する。
【0082】
図7のグラフには示されていないが、クランクシャフト15の回転速度が、負荷変動型4ストロークエンジン10における燃焼動作に適した始動回転速度に達した場合(S16でYes)、制御装置60は、高出力状態C2における制御を終了する。これによって、永久磁石式同期モータ20からの動力の出力は、停止する。また、負荷変動型4ストロークエンジン10の燃焼動作が開始する。
【0083】
上述した制御装置60の制御によれば、まず、低出力状態C1において、停止状態のロータ30が基本角度R(
図4参照)よりも小さい角度回転する低出力期間に小さい出力を出力するように巻線41へ電流が流れる。これによって、停止していたロータ30の向きが理想の向きと異なる場合でも、ロータ30における回転のぶれが抑制される。このため、低出力状態C1に続く高出力状態C2において、出力を大きくするような電流を流しながら各相の電流の向きを順次切替える場合に、ロータ30が、高出力状態C2で形成される磁界に追従しやすい。従って、永久磁石式同期モータ20を大型化することなく、エンジン始動にかかる時間を短くすることができる。
【0084】
[第二実施形態]
図8は、第二実施形態に係るエンジンの始動時における永久磁石式同期モータの出力を示すタイムチャートである。
【0085】
本実施形態における制御装置60は、低出力状態C1において、永久磁石式同期モータ20から出力される動力が徐々に大きくなるようにスイッチング部51を制御する。
【0086】
[第三実施形態]
図9は、第三実施形態に係るエンジンの始動時における永久磁石式同期モータの出力を示すタイムチャートである。
【0087】
本実施形態における制御装置60は、低出力状態C1において、永久磁石式同期モータ20から出力される動力がゼロから徐々に大きくなるようにスイッチング部51を制御する。
【符号の説明】
【0088】
1 :鞍乗型車両
10 :負荷変動型4ストロークエンジン
15 :クランクシャフト
20 :永久磁石式同期モータ
30 :ロータ
37 :永久磁石
37a :磁極
38 :磁極対
40 :ステータ
41 :巻線
50 :インバータ
51 :スイッチング部
60 :制御装置
C0 :ゼロ出力状態
C1 :低出力状態
C2 :高出力状態