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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】複合冷却装置、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20241213BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20241213BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20241213BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20241213BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20241213BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B32B15/08 E
B32B7/023
F28F13/18 E
G02B5/00
G02B5/02 B
G02B5/08 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024027729
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大杉 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2020/022156(JP,A1)
【文献】特開2022-151098(JP,A)
【文献】特表2022-533863(JP,A)
【文献】特表2021-529680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0008147(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F28F 13/18
G02B 5/00-5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置する光反射層とを備える複合冷却装置であって、
前記光反射層は、厚みが100nm以上500nm以下で、且つ銅を50質量%以上100質量%以下含む金属から成り、
前記赤外放射層と前記光反射層との間に樹脂材料から形成される基材層を備え、
前記赤外放射層と前記基材層との少なくとも一方に、算術平均粒子径が2μm以下の白色フィラー及び算術平均孔径が0.01μm以上2μm以下の空孔の少なくとも一方を含み、
前記赤外放射層と前記基材層との少なくとも一方に前記白色フィラーを含む場合、前記白色フィラーが含まれる前記赤外放射層及び前記基材層の質量における前記白色フィラーの占める質量割合が、5質量%より大きく、
前記赤外放射層と前記基材層を合わせた厚みは20mm以下であり、
前記赤外放射層を形成する樹脂材料が、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びポリフッ化ビニリデンの少なくとも一つを含み、
前記基材層を形成する樹脂材料は、エステル結合、エーテル結合及びベンゼン環の何れか一つを含む樹脂材料であり、且つポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂の少なくとも一つを含む複合冷却装置。
【請求項2】
前記白色フィラーの算術平均粒子径が、0.2μm以上1μm以下である請求項1に記載の複合冷却装置。
【請求項3】
前記白色フィラーが含まれる前記赤外放射層及び前記基材層の質量における前記白色フィラーの占める質量割合が、40質量%以下である請求項1又は2に記載の複合冷却装置。
【請求項4】
前記赤外放射層と前記基材層との少なくとも一方に、前記白色フィラー及び前記空孔の少なくとも一方を含む構成において、
前記赤外放射層及び前記基材層の波長400nm以上800nmの可視光域での平均反射率が70%以上である請求項1又は2に記載の複合冷却装置。
【請求項5】
前記光反射層の前記基材層の存在側と反対側に、保護層が設けられ、
当該保護層は、チアゾール、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、クロム酸系化合物の少なくとも何れか一つを含む防食剤を含む請求項1又は2に記載の複合冷却装置。
【請求項6】
前記基材層は、ベンゾトリアゾールを含む防食剤を含む請求項1又は2に記載の複合冷却装置。
【請求項7】
前記赤外放射層及び前記基材層との間を接続する接続層としての第1接続層と、前記基材層及び前記光反射層との間を接続する第2接続層との少なくとも一方が、白色フィラー及び中空粒子の少なくとも一方を含む請求項1又は2に記載の複合冷却装置。
【請求項8】
前記光反射層の波長800nm以上1200nmの赤外光域での平均反射率が80%以上である請求項1又は2に記載の複合冷却装置。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の複合冷却装置の製造方法であって、
前記基材層が、前記白色フィラーを含むポリエチレンテレフタラートであり、
前記金属を前記基材層に蒸着して前記光反射層を形成する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置する光反射層とを備える複合冷却装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
素材の裏面を冷却する機能として、放射冷却が知られている。放射冷却とは、物質が周囲に赤外線などの電磁波を放射することでその温度が下がる現象のことを言う。この現象を利用すれば、たとえば、電気などのエネルギーを消費せずに冷却対象を冷やす複合冷却装置を構成することができる。
【0003】
複合冷却装置の従来例として、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられて構成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1には、光反射層が、銀又は銀合金等から構成されている点が示されている。
一方、特許文献2には、放射面から赤外光を放射する赤外放射層を、ポリマー及び当該ポリマー粒子に混入される複数の非ポリマー粒子から構成すると共に、光反射層を構成する金属として銅を含んでも良い点が示されている。
更にで、特許文献3には、白色の樹脂層のみで高い日射反射率を発揮する反射フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-165611号公報
【文献】特表2019-515967号公報
【文献】特開2018-169456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示の技術のように、光反射層として銀や銀合金を用いると、複合冷却装置自体が相対的に高価なものになり、また、特定の過酷な環境下では、銀合金中の銀粒子が凝集し、特定の色を呈色することがあるという問題があった。
【0006】
また、光反射層として銀や銀合金を用いる際には、一般的に蒸着という手法が採用されるが、銀や銀合金は、比較的高価であると共に蒸着時の温度を高くする必要があるために、金属層の厚みを十分厚くすることが難しく、光反射層の平面方向への熱伝導率を十分に確保することが難しかった。このため、複合冷却装置が局所的に加熱された場合、局所的な熱を平面方向へ伝達し難く、冷却性能を十分に発揮できないことがあった。
【0007】
そこで、特許文献2に開示の技術のように、光反射層として、銀よりも金属凝集性が低く、比較的安価で、銀に比べて低い蒸着温度で蒸着可能な銅を用いることも検討されている。
しかしながら、銅は、可視光域での反射率が低いために、光反射層として用いた場合に冷却性能を十分に発現することができなかった。
また、銅は、特に可視光域で反射率が低くなる特性を有するが、特許文献2に開示の技術では、金属反射層として銅を用いる場合、特に可視光域で低くなる反射率を改善する構成等について、何ら検討されていなかった。
【0008】
一方で、特許文献3に開示の白色の樹脂層のみで高い日射反射率を発揮する反射フィルムでは、太陽光スペクトルの中の近赤外領域に対して十分な反射率を有することが難しく、日射反射率としては相対的に低くなるため、十分な冷却性能を有することが難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、可視光領域から赤外領域において高い反射率を有しつつ大気の窓での高い赤外放射率を有すると共に、局所的な加熱が生じた場合にも良好に冷却機能を維持しつつ、過酷な使用環境でも特定の色を露呈し難い複合冷却装置、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための複合冷却装置は、
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置する光反射層とを備える複合冷却装置であって、
前記光反射層は、厚みが100nm以上500nm以下で、且つ銅を50質量%以上100質量%以下含む金属から成り、
前記赤外放射層と前記光反射層との間に樹脂材料から形成される基材層を備え、
前記赤外放射層と前記基材層との少なくとも一方に、算術平均粒子径が2μm以下の白色フィラー及び算術平均孔径が0.01μm以上2μm以下の空孔の少なくとも一方を含み、
前記赤外放射層と前記基材層との少なくとも一方に前記白色フィラーを含む場合、前記白色フィラーが含まれる前記赤外放射層及び前記基材層の質量における前記白色フィラーの占める質量割合が、5質量%より大きく、
前記赤外放射層と前記基材層を合わせた厚みは20mm以下であり、
前記赤外放射層を形成する樹脂材料が、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びポリフッ化ビニリデンの少なくとも一つを含み、
前記基材層を形成する樹脂材料は、エステル結合、エーテル結合及びベンゼン環の何れか一つを含む樹脂材料であり、且つポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂の少なくとも一つを含む点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、光反射層として比較的安価であると共に蒸着時の温度を比較的低く抑えることができる銅を50質量%以上100質量%以下含む金属(銅又は銅合金)を用いるから、100nm以上500nm以下の十分に厚い光反射層を形成できる。これにより、光反射層の平面方向への熱伝導率を十分に確保することができ、複合冷却装置が局所的に加熱された場合、局所的な熱を平面方向へ良好に伝達し、冷却性能を十分に発揮することができる。
また、光反射層として銅又は銅合金を用いることで、銀又は銀合金を用いる場合に比べ、金属粒子の凝集を抑制でき、凝集による特定の色の呈色を防止できる。
【0012】
更に、銅単体では赤外光領域での反射率は高いものの可視光領域における反射率が低く、可視光により冷却対象の加熱が懸念されるが、発明者らは、上記特徴構成の如く、赤外放射層と基材層との少なくとも一方に、算術平均粒子径が2μm以下の白色フィラー及び算術平均孔径が0.01μm以上2μm以下の空孔の少なくとも一方を含むことで、後述する試験結果に示すように、可視光領域での光反射率を一定以上に保つことができるという知見を得た。
ちなみに、上記特徴構成によれば、赤外放射層と基材層の少なくとも一方に、白色フィラー又は空孔を設ける構成としているから、他方は、赤外光を放射する放射冷却機能を発揮できる樹脂のみから構成でき、赤外放射層又は基材層の他方を不必要に厚くしなくても、十分な放射冷却機能を発揮できる。
さらに、基材層を形成する樹脂材料を、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂の少なくとも一つとすれば、銅を蒸着した際に基材にダメージが少なく、均一な反射層の成膜が可能になるため、面全体で高く均一な反射率を発現するために望ましい。逆にPVCなどを基材に用いると、蒸着時に基材ダメージによるアウトガスが発生し、金属層が均一に成形されるのを阻害するために、望ましくない。
さらに、赤外放射層を形成する樹脂材料が、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びポリフッ化ビニリデンの少なくとも何れか一つを含むことで、大気の窓へ赤外光を適切に放射して、放射冷却機能を良好に発揮することができる。
さらに、白色フィラーが含まれる赤外放射層及び基材層の体積における白色フィラーの占める質量割合が、5質量%より大きく、赤外放射層と基材層を合わせた厚みは20mm以下である。
【0013】
尚、白色フィラーは、球形の他、楕円形等の種々の形状のものを用いることができるが、本明細書において、白色フィラーの算術平均粒子径とは、白色フィラーの最短径の平均値を意味するものとする。
また、空孔についても、球形の他、楕円形等の種々の形状のものを用いることができるが、本明細書において、空孔の算術平均孔径とは、空孔の最短内径の平均値を意味するものとする。
【0014】
以上より、可視光領域から赤外領域において高い反射率を有しつつ大気の窓での高い赤外放射率を有すると共に、局所的な加熱が生じた場合にも良好に冷却機能を維持しつつ、過酷な使用可能でも特定の色を露呈し難い複合冷却装置を実現できる。
【0015】
複合冷却装置の更なる特徴構成は、
前記白色フィラーの平均粒子径が、0.2μm以上1μm以下である点にある。
【0016】
更に、発明者らは、白色フィラーの算術平均粒子径を0.2μm以上1μm以下の十分に小さいものとすることで、当該白色フィラーを内部に含む赤外放射層又は基材層が、特に、可視光の反射率を十分に高くできることを確認している。
【0021】
複合冷却装置の更なる特徴構成は、
前記白色フィラーが含まれる前記赤外放射層及び前記基材層の質量における前記白色フィラーの占める質量割合が、40質量%以下である点にある。
【0022】
上記特徴構成の如く、前記白色フィラーが含まれる前記赤外放射層及び前記基材層の体積における前記白色フィラーの占める質量割合が、40質量%以下であることが好ましい。
白色フィラーが占める質量割合が、40質量%を超えると、顔料濃度が高すぎるとR2Rでの成膜性が悪くなったり、柔軟性が失われ、長期使用後に放射層が破れやすくなったりするというデメリットがある。
【0023】
複合冷却装置の更なる特徴構成は、
前記赤外放射層と前記基材層との少なくとも一方に、前記白色フィラー及び前記空孔の少なくとも一方を含む構成において、
前記赤外放射層及び前記基材層の波長400nm以上800nmの可視光域での平均反射率が70%以上である点にある。
【0024】
上記特徴構成の如く、赤外放射層と基材層との少なくとも一方に、白色フィラー及び空孔の一方を含む構成において、赤外放射層及び基材層の波長400nm以上800nmの可視光域での平均反射率が70%以上であることで、光反射層として銅又は銅合金を用いる場合にも、可視光領域から赤外光領域の光を良好に反射することができ、放射冷却機能を適切に発揮することができる。
【0025】
複合冷却装置の更なる特徴構成は、
前記光反射層の前記基材層の存在側と反対側に、保護層が設けられ、
当該保護層は、チアゾール、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、クロム酸系化合物の少なくとも何れか一つを含む防食剤を含む点にある。
【0026】
複合冷却装置の更なる特徴構成は、
当該基材層は、チアゾール、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、クロム酸系化合物を含む防食剤を含む点にある。
【0027】
例えば、特許文献2に開示される複合冷却装置の如く、銅又は銅合金から成る光反射層を何らかの保護構成をとることなく用いる場合、外部から水素や酸素が供給されることにより、容易に酸化することになる。
上記特徴構成によれば、銅又は銅合金の防食機能を発揮するチアゾール、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、クロム酸系化合物の少なくとも何れか一つを含む層により、銅又は銅合金からなる光反射層を保護することで、光反射層の酸化を長期に亘って防止することができ、高い反射率を維持することができる。
【0028】
複合冷却装置の更なる特徴構成は、
前記赤外放射層及び前記基材層との間を接続する接続層としての第1接続層と、前記基材層及び前記光反射層との間を接続する第2接続層との少なくとも一方が、白色フィラー及び中空粒子の少なくとも一方を含む点にある。
【0029】
特に、上述の如く、接続層に、例えば、算術平均粒径が0.1μm以上5um以下程度のフィラーや中空粒子を含ませることで、紫外~可視領域の光の反射率を向上させることができ、所望の反射率を得るための積層樹脂層(特に、光反射層)の厚みの低減を図ることができる。
【0030】
複合冷却装置の更なる特徴構成は、
前記光反射層の波長800nm以上1200nmの赤外光域での平均反射率が80%以上である点にある。
【0031】
上記特徴構成の如く、光反射層の波長800nm以上1200nm以下の赤外光域での平均反射率が80%以上であることで、複合冷却装置が、可視光領域から赤外光領域の光を良好に反射することができ、放射冷却機能を適切に発揮することができる。
【0032】
これまで説明してきた複合冷却装置の製造方法の特徴は、
前記基材層が、前記白色フィラーを含むポリエチレンテレフタラートであり、
前記金属を前記基材層に蒸着して前記光反射層を形成する点にある。
【0033】
発明者らは、基材層が白色フィラーを含むポリエチレンテレフタラートである場合においても、銅又は銅合金である金属を基材層に蒸着することで、光反射層を良好に形成できることを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】複合冷却装置の実施形態を説明する図である。
図2】複合冷却装置の実施形態を説明する図である。
図3】複合冷却装置の実施形態を説明する図である。
図4】樹脂材料の吸収係数と波長帯域との関係を示す図である。
図5】樹脂材料の光吸収率と波長との関係を示す図である。
図6】塩化ビニル樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
図7】塩化ビニリデン樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
図8】エチレンテレフタラート樹脂の輻射率スペクトルを示す図である。
図9】放射面の温度と光反射層の温度との関係を示す図である。
図10】比較例の複合冷却装置の積層形態の一例を示す図である。
図11】比較例の複合冷却装置の積層形態の一例を示す図である。
図12】比較例の複合冷却装置の積層形態の一例を示す図である。
図13】複合冷却装置の別実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔複合冷却装置の基本構成〕
図1に示すように、複合冷却装置CPは、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Jと、当該赤外放射層Jにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる光反射層Bとを備え、且つ、フィルム状に形成されている。つまり、複合冷却装置CPが、放射冷却フィルムとして構成されている。
説明を加えると、当該実施形態に係る複合冷却装置CPは、光反射層Bが、厚みが100nm以上500nm以下で、且つ銅を50質量%以上100質量%以下含む金属から成り、赤外放射層Jと光反射層Bとの間に樹脂材料から形成される基材層BAを備え、赤外放射層Jと基材層BAとの少なくとも一方に、算術平均粒子径が2μm以下の白色フィラーF及び算術平均孔径が0.01μm以上2μm以下の空孔(図示せず)の少なくとも一方を含むよう構成されている。
白色フィラーFの算術平均粒子径は、より好ましくは、0.2μm以上1μm以下である。
尚、光反射層Bの波長800nm以上1200nmの赤外光域での平均反射率は80%以上である。
【0036】
尚、本実施形態において、光Lとは、紫外光、可視光、赤外光を含むものであり、これらを電磁波としての光の波長で述べると、その波長が10nmから20000nm(0.01μmから20μmの電磁波)の電磁波を含む。
太陽光スペクトルは、波長300nmから4000nmにかけて存在し、波長400nmから大きくなるにつれ強度が大きくなり、特に波長500nmから波長1800nmにかけての強度が大きい。
【0037】
当該実施形態に係る複合冷却装置CPでは、赤外放射層J及び基材層BAとの間が接続層Sとしての第1接続層S1にて接続され、基材層BA及び光反射層Bとの間が接続層Sとしての第2接続層S2にて接続されている。
更に、光反射層Bの基材層BAの存在側とは反対側に、保護層HOが設けられている。
【0038】
即ち、当該実施形態に係る複合冷却装置CPでは、図1~3に示すように、放射面Hの側から順に、赤外放射層J、第1接続層S1、基材層BA、第2接続層S2、光反射層B、保護層HOが積層状態で設けられる。
図1に示すように、基材層BAのみに白色フィラーFが含まれていても構わないし、図2に示すように、赤外放射層Jと基材層BAの双方に白色フィラーFが含まれていても構わないし、図3に示すように、赤外放射層Jのみに白色フィラーFが含まれていても構わない。
また、図示は省略するが、図1~3に示す複合冷却装置CPにおいて、基材層BAのみに空孔が含まれていても構わないし、赤外放射層Jと基材層BAの双方に空孔が含まれていても構わないし、赤外放射層Jのみに空孔が含まれていても構わない。
一例を図示すると、図13に示すように、赤外放射層Jには白色フィラーF及び空孔を含めず、基材層BAのみに白色フィラーF及び空孔Kを含める構成としても良い。
【0039】
ただし、赤外放射層Jによる赤外放射を良好に行う観点からは、赤外放射層Jに空孔を含まないことが好ましい。赤外放射層Jに空孔を含むことにより、外部に露出する場合が多い赤外放射層Jの放射面Hに汚れが付着することを好適に防止できる。また、赤外放射層Jにおける樹脂材料が占める体積割合を増加させ、赤外放射層Jの厚みを低減できる。
【0040】
上記接続層Sは、接着剤、粘着剤、のりの少なくとも何れか一つ以上からなる。当該接続層Sの具体的な材料としては、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコン系接着剤等を好適に用いることができる。当該接続層Sは、図示は省略するが、白色フィラーF及び中空粒子の少なくとも一方を含むことで、紫外~可視領域の光の反射率を向上させることができ、所望の反射率を得るための複合冷却装置CP(特に、光反射層B)の厚みの低減を図ることができる。ここで、白色フィラーや中空粒子は、白色フィラー及び中空粒子の算術平均粒子径が、0.1μm以上5um以下程度のものを好適に用いることができ、白色フィラーとしては、TiO、MgSO、BaSO、TiBaOを粒状にしたものを好適に用いることができる。
これにより、紫外~可視領域の光の反射率を向上させ、所望の反射率を得るための複合冷却装置CP(特に、光反射層B)の厚みの低減を図ることができる。
【0041】
また、上記基材層BA及び保護層HOには、防食剤を含ませることができる。当該防食剤としては、チアゾール、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、クロム酸系化合物の少なくとも何れか一つ等を好適に用いることができる。
【0042】
以上の構成により、複合冷却装置CPは、複合冷却装置CPに入射した光Lのうちの一部の光を、赤外放射層Jの放射面Hにて反射する。また、複合冷却装置CPに入射した光Lを、光反射層Bにて反射することに加え、赤外放射層Jが白色フィラーF及び空孔の少なくとも一方を含む構成の場合には、当該赤外放射層Jにて反射し、基材層BAが白色フィラーF及び空孔の少なくとも一方を含む構成の場合には、当該光反射層Bにて反射し、放射面Hから外部へ逃がするように構成されている。
【0043】
そして、光反射層Bにおける赤外放射層Jの存在側とは反対側に位置する冷却対象物(図示せず)からの複合冷却装置CPへの入熱(例えば、冷却対象物からの熱伝導による入熱)を、赤外放射層Jによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象物を冷却するように構成されている。
【0044】
つまり、複合冷却装置CPは、当該複合冷却装置CPへ照射される光Lを反射し、また、当該複合冷却装置CPへの伝熱(例えば、大気からの伝熱や冷却対象物からの伝熱)を赤外光IRとして外部に放射するように構成されている。
また、赤外放射層J及び光反射層Bが柔軟性を備えることによって、複合冷却装置CP(放射冷却フィルム)が柔軟性を備えるように構成されている。
【0045】
加えて、複合冷却装置CPは、赤外光IRを赤外放射層Jの光反射層Bと接する面とは反対側の放射面Hから放射する放射冷却方法を実施するために用いられることになり、具体的には、放射面Hを空に向け、当該空に向けた放射面Hから赤外光IR放射する放射冷却方法を実施することになる。
【0046】
〔赤外放射層及び基材層を形成する樹脂〕
赤外放射層Jを形成する樹脂には、炭素-フッ素結合(C-F)、炭素-塩素結合(C-Cl)を含む無色の樹脂材料を用いることができる。
また、基材層BAを形成する樹脂には、炭素-酸素結合(C-O)、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環を含む無色の樹脂材料を用いることができる。
それぞれの樹脂材料(炭素-酸素結合を除く)について、大気の窓の波長帯域における吸収係数を持つ波長域を図3に示す。
【0047】
キルヒホッフの法則により、輻射率(ε)と光吸収率(A)は等しい。光吸収率は吸収係数(α)からA=1-exp(-αt)の関係式(以下、光吸収率関係式と呼ぶ)で求めることができる。尚、tは膜厚である。
つまり、赤外放射層Jの膜厚を調整すると、吸収係数の大きな波長帯域で大きな熱輻射が得られる。屋外で放射冷却する場合、大気の窓の波長帯域である波長8μmから13μmにおいて吸収係数の大きな材料を用いるとよい。
また、太陽光の吸収を抑制するために波長0.3μmから4μm、特に0.4μmから2.5μmの範囲で吸収係数を持たない、或いは小さな材料を用いるとよい。吸収係数と吸収率の関係式からわかるように、光吸収率(輻射率)は樹脂材料の膜厚によって変化する。
【0048】
日射環境下での放射冷却によって周囲の大気より温度を下げるためには、大気の窓の波長帯域において大きな吸収係数をもち、太陽光の波長帯域では吸収係数を殆ど持たない材料を選ぶと、膜厚の調整によって太陽光は殆ど吸収しないが、大気の窓の熱輻射を多く出す、つまりは太陽光の入力よりも放射冷却による出力の方が大きな状態を作り出すことができる。
【0049】
炭素-フッ素結合(C-F)に関しては、CHFおよびCFに起因する吸収係数が大気の窓である波長8μmから13μmにかけた広帯域に大きく広がっており、特に8.6μmで吸収係数が大きい。併せて、太陽光の波長帯域に関しては、エネルギー強度が大きな0.3μmから2.5μmの波長で目立った吸収係数がない。
【0050】
炭素-フッ素結合(C-F)を有する樹脂材料としては、
ポリフッ化ビニル(PVD)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられる。
尚、以後、ポリフッ化ビニルをフッ化ビニリル樹脂と記載している場合があるが、両者は同一の材料を指すものとして用いている。他の樹脂についても同様である。
【0051】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、樹脂材料としてはポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)が挙げられるが、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。
【0052】
エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)に関しては、波長7.8μmから9.9μmにかけて吸収係数を持つ。また、エステル結合、エーテル結合に含まれる炭素-酸素結合に関しては、波長8μmから10μmの波長帯域にかけて強い吸収係数が現れる。
ベンゼン環を炭化水素樹脂の側鎖に導入すると、ベンゼン環自身の振動や、ベンゼン環の影響による周りの元素の振動によって、波長8.1μmから18μmにかけて広く吸収が現れるようになる。
【0053】
これらの結合をもつ樹脂としては、エチレンテレフタラート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂がある。
【0054】
〔光吸収の考察〕
上記した結合および官能基を持つ樹脂材料の紫外-可視領域における光吸収、つまり、太陽光吸収について考察する。紫外線から可視光の吸収の起源は結合に寄与する電子の遷移である。この波長域の吸収は、結合エネルギーを計算するとわかる。
先ずは、炭素-フッ素結合(C-F)をもった樹脂材料の紫外から可視域に吸収係数が生じる波長について考える。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を代表としての基本構造部のC-C結合、C-H結合、C-F結合の結合エネルギーを求めると、4.50eV、4.46eV、5.05eVとなる。それぞれ、波長0.275μm、波長0.278μm、波長0.246μmに対応し、これら波長の光を吸収する。
【0055】
太陽光スペクトルは波長0.300μmより長波しか存在しないため、フッ素樹脂を用いた場合、太陽光の紫外線、可視光線、近赤外線をほとんど吸収しない。なお、紫外線の定義は波長0.400μmよりも短波長側、可視光線の定義は波長0.400μmから0.800μm、近赤外線は波長0.800μmから3μmの範囲とし、中赤外線は3μmから8μmの範囲とし、遠赤外線は波長8μmよりも長波とする。
【0056】
炭素-塩素結合(C-Cl)に関して、アルケンの炭素と塩素の結合エネルギーは3.28eVであり、その波長は0.378μmであるので、太陽光の内紫外線を多く吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
厚さ100μmの塩化ビニル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図5に示すが、波長0.38μmよりも短波長側で光吸収が大きくなる。
厚さ100μmの塩化ビニリデン樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図5に示すが、波長0.4μmよりも短波長側で若干の吸収率スペクトルの増加がみられる。
【0057】
エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C結合)、ベンゼン環をもつ樹脂としては、メタクリル酸メチル樹脂、エチレンテレフタラート樹脂がある。例えばアクリルのC-C結合の結合エネルギーは3.93eVであり、波長0.315μmより短波長の太陽光を吸収するが、可視域については吸収をほとんど持たない。
【0058】
これら結合および官能基を持つ樹脂材の一例として、厚さ5mmのメタクリル酸メチル樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図5に示す。尚、例示するメタクリル酸メチル樹脂は、一般的に市販されているものであって、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が混入している。
5mmと厚板であるために、吸収係数の小さな波長も大きくなり、波長0.315よりも長波の0.38μmよりも短波側で光吸収が大きくなる。
【0059】
これら結合および官能基を持つ樹脂材の一例として厚さ40μmのエチレンテレフタラート樹脂の紫外から可視域の吸収率スペクトルを図5に示す。
図示のように、波長0.315μmに近づくほどに吸収率が大きくなり、波長0.315μmで急激に吸収率が大きくなる。なお、エチレンテレフタラート樹脂も、厚みを増していくと、波長0.315μmより少し長波側において、C-C結合由来の吸収端による吸収率が大きくなり、メタクリル酸メチル樹脂同様に紫外線における吸収率が増大する。
【0060】
赤外放射層Jは、前述の輻射率(光放射率)、光吸収率の特性を有する樹脂材料を用いるものであれば、一種類の樹脂材料の単層膜、複数種類の樹脂材料の多層膜、複数種類の樹脂材料がブレンドされた樹脂材料の単層膜、複数種類の樹脂材料がブレンドされた樹脂材料の多層膜でも構わない。
なお、ブレンドには、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体といった共重合体や側鎖を置換した変性品も含まれる。
【0061】
〔塩化ビニル樹脂及び塩化ビニリデン樹脂の輻射率〕
図6に、炭素-塩素結合をもつ樹脂の代表例として、塩化ビニル樹脂(PVC)の大気の窓における輻射率を示す。また、図7に、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)の大気の窓における輻射率を示す。
炭素-塩素結合に関しては、C-Cl伸縮振動による吸収係数が波長12μmを中心に半値幅1μm以上の広帯域に現れる。
また、塩化ビニル樹脂の場合、塩素の電子吸引の影響で、主鎖に含まれるアルケンのC-Hの変角振動に由来する吸収係数が波長10μmあたりに現れる。塩化ビニリデン樹脂についても同様である。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから13μmにおいて43%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0062】
〔エチレンテレフタラート樹脂の輻射率〕
図8に、エステル結合やベンゼン環をもつ樹脂の代表例として、エチレンテレフタラート樹脂の大気の窓における輻射率を示す。
エステル結合に関しては、波長7.8μmから9.9μmにかけて吸収係数を持つ。また、エステル結合に含まれる炭素-酸素結合に関しては、波長8μmから10μmの波長帯域にかけて強い吸収係数が現れる。ベンゼン環を炭化水素樹脂の側鎖に導入すると、ベンゼン環自身の振動や、ベンゼン環の影響による周りの元素の振動によって、波長8.1μmから18μmにかけて広く吸収が現れる。
これらの影響で、厚さ10μmの輻射率の波長平均は、波長8μmから13μmにおいて71%であり、波長平均40%以上という規定の中に入る。図示の通り、膜厚が厚くなると大気の窓領域における輻射率は増大する。
【0063】
〔光反射層および赤外放射層の表面の温度〕
赤外放射層Jの大気の窓の熱輻射は樹脂材料の表面近傍で発生する。
図6より、塩化ビニル樹脂の場合は100μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、塩化ビニル樹脂の場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μm以内の部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
図7より、塩化ビニリデン樹脂は、塩化ビニル樹脂と同様であることが分かる。
【0064】
図8より、エチレンテレフタラート樹脂の場合は125μmより厚くなっても大気の窓領域における熱輻射の増大は殆どなくなる。つまり、エチレンテレフタラート樹脂の場合、大気の窓における熱輻射は表面から深さ約100μmの部分で生じており、より深い部分の輻射は外に出てこない。
【0065】
以上のように、樹脂材料表面から発生する大気の窓領域の熱輻射は、表面からの深さが概ね100μm以内の部分で生じており、それ以上に樹脂の厚みが増していくと、熱輻射に寄与しない樹脂材料によって、複合冷却装置の放射冷却した冷熱が断熱される。
理想的に、赤外放射層J及び基材層BAを、太陽光を全く吸収しない樹脂にて構成すると共に、当該赤外放射層J及び基材層BAを光反射層Bの上に作製することを考える。この場合、太陽光は複合冷却装置CPの光反射層Bでのみ吸収される。
樹脂材料の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であり、この熱伝導性を考慮して計算すると、赤外放射層Jの厚みが20mmを超えると、冷却面(光反射層Bにおける赤外放射層Jの存在側とは反対側の面)の温度が上昇する。
【0066】
太陽光をまったく吸収しない理想的な樹脂材料が存在したとしても、赤外放射層J及び基材層BAの樹脂の熱伝導率はおしなべて0.2W/m/K程度であるので、図9のように20mmを超えると光反射層Bが日射を受けて加熱されてしまい、光反射層B側に設置された冷却対象物は加熱される。つまり、赤外放射層J及び基材層BAを合わせた樹脂の厚みは20mm以下にする必要がある。
【0067】
なお、図9は、真夏の西日本の良く晴れた日の南中を想定して計算した複合冷却装置(放射冷却フィルム)の放射面Hの表面温度と光反射層Bの温度のプロットである。太陽光はAM1.5とし、1000W/mのエネルギー密度としている。外気温は30℃であり、放射エネルギーは温度によって変わるが30℃において100Wである。赤外放射層J及び基材層BAで太陽光の吸収はないものとしての計算である。無風状態を仮定し、対流熱伝達率は5W/m/Kとしている。
【0068】
〔炭化水素系樹脂の光吸収について〕
赤外放射層J又は基材層BAを形成する樹脂材料が、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合、ベンゼン環を1つ以上有する炭化水素を主鎖とする樹脂であった場合、或いは、シリコーン樹脂であり側鎖の炭化水素の炭素数が2個以上の場合、先述の共有結合電子による紫外線吸収以外に、近赤外域に結合の変角や伸縮などの振動に基づく吸収が観測される。
【0069】
具体的には、CH、CH、CHの第一励起状態への遷移の基準音による吸収がそれぞれ波長1.6μmから1.7μm、波長1.65μmから1.75μm、波長1.7μmに現れる。さらに、CH、CH、CHの結合音の基準音による吸収がそれぞれ波長1.35μm、波長1.38μm、波長1.43μmに現れる。さらに、CH、CHの第二励起状態への遷移の倍音がそれぞれ波長1.24μmあたりに現れる。C-H結合の変角や伸縮の基準音は波長2μmから2.5μmにかけて広帯域に分布している。
【0070】
また、エステル結合(R-COO-R)、エーテル結合(C-O-C)を有する場合、波長1.9μmあたりに大きな光吸収が存在する。
これらに起因する光吸収率は、上述の光吸収率関係式より、樹脂材料の膜厚が薄いと小さくなり目立たなくなるが、膜厚が厚いと大きくなる。
【0071】
〔ブレンド樹脂の光吸収について〕
樹脂が、炭素-フッ素結合を主鎖とする樹脂と、炭化水素を主鎖とする樹脂とをブレンドした樹脂材料である場合には、ブレンドされた炭化水素を主鎖とする樹脂の割合に応じてCH、CH、CHなどに起因する近赤外域の光吸収が現れる。
炭素-フッ素結合が主成分の場合、炭化水素に起因する近赤外域の光吸収は小さくなるので、熱伝導性の観点での上限の20mmまで厚くすることができる。
【0072】
フッ素樹脂と炭化水素とのブレンドには、フッ素樹脂を炭化水素に置換したものや、フッ素モノマーと炭化水素モノマーの交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体も含まれる。
【0073】
置換する炭化水素側鎖の分子量および割合に応じてCH、CH、CHなどに起因する近赤外域の光吸収が現れる。側鎖や共重合として導入されるモノマーが低分子であるとき、あるいは、導入されるモノマーの密度が小さいときには、炭化水素に起因する近赤外域の光吸収は小さくなるので、熱伝導性の観点での限界の20mmまで厚くすることができる。
【0074】
〔赤外放射層の厚みについて〕
複合冷却装置CPの実用の観点では、赤外放射層Jの厚みは薄い方がよい。樹脂材料の熱伝導率は、金属やガラスなどよりも一般に低い。冷却対象物を効果的に冷却するには、赤外放射層Jの膜厚は必要最低限であるのがよい。赤外放射層Jの膜厚を厚くするほどに大気の窓の熱輻射は大きくなり、ある膜厚を超えると大気の窓における熱輻射エネルギーは飽和する。
【0075】
飽和する膜厚は樹脂材料にもよるが、フッ素樹脂の場合は概ね300μmもあれば十分に飽和する。したがって、熱伝導度の観点で500μmよりも300μm以下に膜厚を抑えるのが望ましい。さらに、熱輻射は飽和していないが、厚みが100μm程度であっても大気の窓領域において十分な熱輻射を得ることができる。厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、フッ素樹脂の場合、100μm程度以下の厚さにするのがよい。
【0076】
C-F結合に起因する吸収係数よりも炭素-ケイ素結合、炭素-塩素結合、炭素-酸素結合、エステル結合、エーテル結合に由来する吸収係数の方が大きい。当然、熱伝導度の観点で500μmよりも300μm以下に膜厚を抑えるのが望ましいが、更に膜厚を薄くして熱伝導性を上げるとさらに大きな放射冷却効果が期待できる。
炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、厚みが100μmであっても飽和しており、厚さ50μmでも大気の窓領域において十分な熱輻射が得られる。樹脂材料の厚さが薄い方が、熱貫流率が高まり被冷却物の温度をより効果的に下げられるので、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにすると断熱性が小さくなり冷却対象物を効果的に冷却することができる。炭素-塩素結合の場合には、100μm以下の厚さであれば、冷却対象物を効果的に冷却することができる。
【0077】
薄くする効用は断熱性を下げて冷熱を伝えやすくすること以外にもある。それは、炭素-塩素結合を含む樹脂が呈する、近赤外域でのCH、CH、CH由来の近赤外域の光吸収の抑制である。薄くすると、これらによる太陽光吸収を小さくすることができるので、複合冷却装置CPの冷却能力が高まることになる。
以上の観点から、炭素-塩素結合を含む樹脂の場合、50μm以下の厚さにするとより効果的に日照下において放射冷却効果を出すことができる。
【0078】
尚、後述するように、当該実施形態に係る複合冷却装置CPでは、基材層BAとしても樹脂を用い、一定の熱輻射を期待できる。この点を考慮すると、上述した赤外放射層Jの厚みは、更に薄くすることが好ましい。
【0079】
〔光反射層の詳細〕
当該実施形態に係る複合冷却装置CPは、上述したように、光反射層Bとして銅を主材料とする金属を用いることで、銀を主材料とする金属(銀や銀合金)等を用いる場合に比して、経済優位性を有する。また、銅を主材料とする金属を用いることで、樹脂材料から成る赤外放射層J等に対し、比較的厚みのある光反射層Bを蒸着により形成する場合であっても、樹脂材料の熱による巻き込み等を低減できることを、後述する試験により確認している。
より詳細には、光反射層Bは、銅を50質量%以上100質量%以下含む金属(銅又は銅合金)から構成し、厚みが50nm以上500nm以下としている。
【0080】
さて、上述したように、光反射層Bは銅を主材料とする金属から成るため、可視光領域の光の反射率が低く、複合冷却装置CPの光反射機能を当該光反射層B単体で担うことは難しい。
そこで、当該実施形態に係る複合冷却装置CPは、以下に示す基材層BAを備えている。
【0081】
〔基材層の詳細〕
当該実施形態に係る複合冷却装置CPは、基材層BAをポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂の少なくとも何れか一つを含む樹脂材料から構成することが好ましく、更に、図1、2に示すように、算術平均粒子径が2μm以下の白色フィラーFとして第2白色フィラーF2を含むことが好ましい。
【0082】
基材層BAにおける上記第2白色フィラーF2が占める質量割合は、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0083】
尚、基材層BAには、上述の第2白色フィラーF2に換えて、及び算術平均孔径が0.01μm以上2μm以下の空孔を含んでも良い。また、基材層BAには、第2白色フィラーF2に加えて、上記空孔を含んでも良い。
【0084】
ちなみに、基材層BAには、必ずしも、上述した第2白色フィラーF2及び空孔の少なくとも一方を含ませる必要はなく、図3に示す複合冷却装置CPに示すように、赤外放射層Jに白色フィラーFとしての第1白色フィラーF1及び空孔の少なくとも一方を含まれる構成を採用しても構わない。
尚、赤外放射層Jに含まれる第1白色フィラーF1は、上記基材層BAに含まれる第1白色フィラーF1(F)と同一であっても良く、異なっていても良い。また、赤外放射層Jに含まれる空孔は、上記基材層BAに含まれる空孔と同一であっても良く、異なっていても良い。
【0085】
基材層BAに白色フィラーFを含まず、赤外放射層Jに白色フィラーF(又は/及び空孔)を含む場合、以下の質量割合とすることが好ましい。
【0086】
赤外放射層Jにおける上記第1白色フィラーF1が占める質量割合は、5質量%より大きく40質量%以下であることが好ましい。
【0087】
尚、赤外放射層Jには、上述の第1白色フィラーF1に換えて上記空孔を含んでも良い。また、赤外放射層Jには、第1白色フィラーF1に加えて上記空孔を含んでも良い。
【0088】
尚、白色フィラーFが含まれる赤外放射層J及び基材層BAの体積における白色フィラーFの占める質量割合は、5質量%より大きく40質量%以下であることが好ましい。
【0089】
以上の構成を採用することにより、当該実施形態に係る複合冷却装置CPでは、光反射層B以外の層である赤外放射層J及び基材層BAにより、波長400nm以上800nmの可視光域での平均反射率が70%以上の構成を実現している。尚、当該可視光域での平均反射率は、光反射層Bを含まない構成での反射率であり、光反射層Bを含む構成における可視光域での平均反射率は、80%以上である。
【0090】
更に、接続層Sに白色フィラーF又は中空ビーズを含ませる構成においては、当該実施形態に係る複合冷却装置CPでは、光反射層B以外の層である赤外放射層J及び基材層BA及び接続層Sにより、波長400nm以上800nmの可視光域での平均反射率が80%以上の構成を実現している。尚、当該可視光域での平均反射率は、光反射層Bを含まない構成での反射率であり、光反射層Bを含む構成における可視光域での平均反射率は、80%以上である。
【0091】
〔赤外放射層及び基材層の樹脂材料の組み合わせ〕
これまで説明してきたように、赤外放射層Jを形成する樹脂材料は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、及びポリフッ化ビニリデンの少なくとも何れか一つを含むことが好ましく、基材層BAを形成する樹脂材料は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びウレタン系樹脂の少なくとも何れか一つを含むことが好ましい例を示した。
このように、赤外放射層Jと基材層BAとの樹脂材料を選定した理由は、8~13umの波長における放射率が非常に高く、また長期の耐候性に優れているからである。
【0092】
ちなみに、赤外放射層J及び基材層BAの波長400nm以上800nmの可視光域での平均反射率が70%以上であることが好ましい。
【0093】
尚、赤外線の放射率及び特に可視光領域の光の反射率の向上の観点から、赤外放射層Jの樹脂材料と基材層BAの樹脂材料との好適な組み合わせは、ポリ塩化ビニルとポリエチレンテレフタレートである。
【0094】
尚、基材層BAが、白色フィラーFを含むポリエチレンテレフタラートであり、銅を50質量%以上100質量%以下含む金属を基材層BAに蒸着して光反射層Bを形成することが好ましい。
【0096】
当該実施形態に係る複合冷却装置CPは、これまで示した構成により、波長400nmから800nmの可視光反射率を80%以上とし、波長800nmから1200nmの赤外反射率を80%以上とし、波長8μmから13μmの赤外放射率の算術平均を90%以上とし、平面熱伝導性を一定以上とし、凝集による呈色を十分に抑制できるものとした。
【0097】
〔実験結果〕
これまで説明してきた複合冷却の実施例及び比較例について、波長400nmから800nmの可視光反射率、波長800nmから1200nmの赤外光反射率、赤外放射率、平面熱伝導性、金属層付与性、凝縮による呈色性に係る各種試験を実施した結果を、以下の〔表1〕~〔表4〕に示す。表に示す試験結果において、下線を付した部分は、各種試験の条件を満たしていないことを示すものである。
ちなみに、〔表1〕~〔表4〕には、実施例及び比較例を構成するフィルムの各種条件についても示している。
尚、実施例1、3、4、8、9は、図3に示す積層形態に関するものであり、実施例5、6、7は、図2に示す積層形態に関するものであり、実施例2は、図1に示す積層形態に関するものであり、複合冷却装置CPを構成する各層の材料等については、表1、2に示す通りである。
一方、比較例1、2、5、6、8は、図10に示す積層形態に関するものであり、比較例3、4は、図11に示す積層形態に関するものであり、比較例7は、図12に示す積層形態に関するものであり、複合冷却装置を構成する各層の材料等については、表3、4に示す通りである。尚、図10~12においては、説明の都合上、白色フィラーの図示は省略している。
【0098】
波長400nmから800nmの可視光反射率は、紫外-可視光分光計UV-2600(島津製作所製)で測定された、波長400nmから800nmの反射率の算術平均を用いて評価した。当該反射率が80%以上のものを、当該条件を満たす(波長400nmから800nmの反射率が高い)ものと定義した。
【0099】
波長800nmから1200nmの赤外反射率は、紫外-可視光分光計UV-2600(島津製作所製)で測定された、波長800nmから1200nmの反射率の算術平均を用いて評価した。当該赤外反射率が80%以上のものを、当該条件を満たす(波長800nmから1200nmの反射率が高い)ものと定義した。
【0100】
赤外放射率は、FT-IR IRTracer-100(島津製作所製)で測定された、波長8μmから13μmの放射率の算術平均を用いて評価した。当該放射率が90%以上のものを、当該条件を満たすものと定義した。
【0101】
平面熱伝導性は、JIS R1611に定義されるレーザーフラッシュ法を用いて測定し、実施例1の場合を1.0として、当該値以上のものを、平面熱伝導性が高い(よい)と定義した。
【0102】
凝集による呈色がないことはJIS K5600に定義されるキセノン耐候性試験において、ブラックパネル温度(BPT)が63℃の環境で、波長550nm、強度が180W/mの紫外線に4000時間暴露させ、当該試験の前後でのサンプルの色差ΔEを測定し、ΔE<2.0となるものを凝集による呈色がない(よい)と定義した。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
以上の実験結果に示すように、本発明の実施例1~9に係る複合冷却装置CPでは、波長400nmから800nmの可視光反射率、波長800nmから1200nmの赤外光反射率、赤外放射率、平面熱伝導性、金属層付与性、凝縮による呈色性について、定めた条件を満足する結果が得られている。
【0108】
一方、比較例3、5については、基材層BAに白色フィラーを含んでいないことが主要因で、可視光反射率の条件を満たしていないと考えられ、比較例7については、光反射層Bを備えていないことが主要因で、赤外反射率の条件を満たしていないと考えられ、比較例3、4、7については、赤外放射層Jを備えていないことが主要因で、赤外放射率の条件を満足していないと考えられ、比較例5、7については、光反射層Bを構成する銅合金の厚みが薄いことが主要因で、平面熱伝導性の条件を満たしていないと考えられ、比較例6については、比較的高い蒸着温度が必要となる銀合金を比較的厚い500nmの厚みとしたことが主要因で、金属付与性の条件を満たしていないと考えられ、比較例1、2、4、6、8については、光反射層Bを構成する金属材料に銀を含んでいることが主要因で、凝縮による呈色の条件をみたしていない(凝縮による呈色が生じた)と考えられる。
尚、比較例5については、光反射層の厚みが20nmと薄いために、反射率が十分得られない例となっている。
【0109】
即ち、金属の凝集による呈色を抑える観点から、銅合金には銀を含まないことが好ましいと言える。
【0110】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、保護層HOは、必ずしも設けられていなくても構わない。
【0111】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の複合冷却装置、及びその製造方法は、可視光領域から赤外領域において高い反射率を有しつつ大気の窓での高い赤外放射率を有すると共に、局所的な加熱が生じた場合にも良好に冷却機能を維持しつつ、過酷な使用可能でも特定の色を露呈し難い複合冷却装置、及びその製造方法として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0113】
B :光反射層
BA :基材層
CP :複合冷却装置
F :白色フィラー
H :放射面
HO :保護層
IR :赤外光
J :赤外放射層
S :接続層


【要約】
【課題】可視光領域から赤外領域において高い反射率を有しつつ大気の窓での高い赤外放射率を有すると共に、局所的な加熱が生じた場合にも良好に冷却機能を維持しつつ、過酷な使用環境でも特定の色を露呈し難い複合冷却装置、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光反射層Bは、厚みが50nm以上500nm以下で、且つ銅を50質量%以上100質量%以下含む金属から成り、赤外放射層Jと光反射層Bとの間に樹脂材料から形成される基材層BAを備え、赤外放射層Jと基材層BAとの少なくとも一方に、算術平均粒子径が2μm以下の白色フィラーF及び算術平均孔径が0.01μm以上2μm以下の空孔の少なくとも一方を含む。
【選択図】図1
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図13