(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/02216 20210101AFI20241213BHJP
H01S 5/02253 20210101ALI20241213BHJP
【FI】
H01S5/02216
H01S5/02253
(21)【出願番号】P 2024051152
(22)【出願日】2024-03-27
(62)【分割の表示】P 2020047378の分割
【原出願日】2020-03-18
【審査請求日】2024-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】落合 隆英
(72)【発明者】
【氏名】秋草 直大
(72)【発明者】
【氏名】柴田 公督
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸孝
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-179294(JP,A)
【文献】特開2002-223024(JP,A)
【文献】特開2019-009376(JP,A)
【文献】特開2003-017797(JP,A)
【文献】特開2000-001337(JP,A)
【文献】特開2002-353355(JP,A)
【文献】特開2000-183442(JP,A)
【文献】特開2004-253783(JP,A)
【文献】特開2016-111237(JP,A)
【文献】特表2018-530927(JP,A)
【文献】特開2003-344722(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0076383(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
IEEE Xplore
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子を収容するパッケージと、を備え、
前記パッケージは、
底壁と、
前記底壁上に立設され、前記底壁に垂直な方向から見た場合に前記半導体レーザ素子が収容される領域を包囲するように環状に形成された側壁と、
前記側壁の前記底壁側とは反対側の開口を塞ぐ天壁と、を有し、
前記側壁には、前記半導体レーザ素子から出射されるレーザ光を通過させる光出射窓が設けられており、
前記光出射窓は、
前記レーザ光の光軸に沿った光軸方向に延在する第1孔部と、
前記光軸方向に延在し、前記光軸方向から見た場合に前記第1孔部を含み且つ前記第1孔部よりも大きい第2孔部と、
前記第1孔部と前記第2孔部とを接続し、前記光軸方向に交差する面に沿って延在する環状の座ぐり面と、
前記第2孔部の内側に配置された窓部材と、
によって構成されており、
前記窓部材における前記座ぐり面と対向する面は、
前記窓部材における前記座ぐり面と対向する面の中央部を含み、第1反射防止膜が設けられた第1領域と、
前記第1領域から離間して前記第1領域を包囲するように環状に形成され、メタライズされた第2領域と、を有し、
前記第2領域は、半田部材を介して前記座ぐり面に接合されている、半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記窓部材は、前記光軸方向に沿って延在する側面を有し、
前記側面は、前記第2領域と連続するようにメタライズされた第3領域を有し、
前記側面の少なくとも一部は、前記半田部材を介して前記第2孔部の内側面の少なくとも一部に接合されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記光軸方向に沿った前記第1孔部の長さは、前記光軸方向に沿った前記第2孔部の長さよりも短い、請求項1又は2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記窓部材は、前記窓部材を透過した前記レーザ光を前記パッケージの外側に出射する出射面を有し、
前記出射面は、第2反射防止膜が設けられた第4領域を有し、
前記第4領域は、前記光軸方向から見た場合に前記第1領域を含み且つ前記第1領域よりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記パッケージの外側に配置され、前記光出射窓を透過した前記レーザ光を集光又はコリメートするレンズを更に備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記レーザ光の波長は、4μm~12μmの範囲に含まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記窓部材は、前記窓部材を透過した前記レーザ光を前記パッケージの外側に出射する出射面を有し、
前記出射面は、前記光出射窓が設けられた前記側壁における前記パッケージの外側の面よりも、前記パッケージの外側に突出している、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザ素子をパッケージ内に収容した半導体レーザ装置(半導体レーザモジュール)が知られている(例えば、特許文献1)。上記半導体レーザ装置では、半導体レーザ素子から出射されるレーザ光をパッケージ外部に取り出すための光出射窓が、パッケージの側壁に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような半導体レーザ装置では、光出射窓にはレーザ光の取り出し効率を高めるために反射防止膜が成膜される場合がある。反射防止膜の耐熱温度が比較的低い場合、融点が比較的高いろう材を用いて光出射窓をパッケージにろう付けしようとすると、反射防止膜がろう付けの際に生じる熱によって破損するおそれがある。また、上述したような半導体レーザ装置では、パッケージ内部を真空状態又は不活性ガス雰囲気にする必要があるため、パッケージには気密性が求められる。
【0005】
そこで、本開示は、光出射窓に設けられる反射防止膜の破損を抑制すると共にパッケージの高気密性を確保することができる半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る半導体レーザ装置は、半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子を気密に収容するパッケージと、を備え、パッケージは、底壁と、底壁上に立設され、底壁に垂直な方向から見た場合に半導体レーザ素子が収容される領域を包囲するように環状に形成された側壁と、側壁の底壁側とは反対側の開口を塞ぐ天壁と、を有し、側壁には、半導体レーザ素子から出射されるレーザ光を通過させる光出射窓が設けられており、光出射窓は、レーザ光の光軸に沿った光軸方向においてパッケージの内側に開口する第1孔部と、パッケージの外側に開口し、光軸方向から見た場合に第1孔部を含み且つ第1孔部よりも大きい第2孔部と、第1孔部と第2孔部とを接続し、光軸方向に交差する面に沿って延在する環状の座ぐり面と、第2孔部の内側に配置された窓部材と、によって構成されており、窓部材は、レーザ光が入射する入射面と、入射面とは反対側の面であり、窓部材を透過したレーザ光をパッケージの外側に出射する出射面と、入射面と出射面とを接続し、光軸方向に沿って延在する側面と、を有し、入射面は、入射面の中央部を含み、第1反射防止膜が設けられた第1領域と、第1領域から離間して第1領域を包囲するように環状に形成され、メタライズされた第2領域と、を有し、第2領域は、半田部材を介して座ぐり面に接合されている。
【0007】
上記半導体レーザ装置では、光出射窓は、ろう材よりも融点が低い半田部材によって、パッケージの側壁に接合されている。これにより、ろう材を用いる場合と比較して、熱による窓部材(特に反射防止膜)の損傷を抑制しつつ、窓部材と座ぐり面とを密着させることができる。また、窓部材の入射面において、反射防止膜(第1反射防止膜)が設けられた第1領域及び半田部材が接合される第2領域は互いに離間している。これにより、第2領域における半田部材の溶融時又は凝固時の応力が第1領域上の反射防止膜に伝わることが抑制される。その結果、上記応力に起因する反射防止膜の破損(クラック又は剥離等)が抑制される。以上により、上記半導体レーザ装置によれば、光出射窓に設けられる反射防止膜の破損を抑制すると共にパッケージの高気密性を確保することができる。
【0008】
側面は、第2領域と連続するようにメタライズされた第3領域を有してもよく、側面の少なくとも一部は、半田部材を介して第2孔部の内側面の少なくとも一部に接合されていてもよい。上記構成によれば、第2領域から窓部材の側面(第3領域)にかけて連続した領域がメタライズされていることにより、半田接合の際に、半田部材の一部を第3領域側へと好適に濡れ広がらせることができる。その結果、窓部材の側面と第2孔部の内側面との間に半田部材を介在させることができ、パッケージの気密性を好適に向上させることができる。
【0009】
光軸方向に沿った第1孔部の長さは、光軸方向に沿った第2孔部の長さよりも短くてもよい。上記構成によれば、第1孔部の長さが第2孔部の長さ以上である場合と比較して、光出射窓を半導体レーザ素子に近づけることができる。これにより、半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のビーム放射角が大きい場合であっても、レーザ光の広がり具合が小さいうちにレーザ光を光出射窓に入射させることが可能となる。その結果、光出射窓の小型化を図ることができ、ひいてはパッケージの小型化を図ることができる。
【0010】
出射面は、第2反射防止膜が設けられた第4領域を有していてもよく、第4領域は、光軸方向から見た場合に第1領域を含み且つ第1領域よりも大きくてもよい。発散光であるレーザ光が窓部材に入射する場合、窓部材の入射面においてレーザ光が通過する領域は、窓部材の出射面においてレーザ光が通過する領域よりも小さい。そこで、上記構成のように、入射面側の第1反射防止膜を出射面側の第2反射防止膜よりも小さくすることにより(すなわち、第1領域を第4領域よりも小さくすることにより)、第4領域と第1領域との差分に対応する領域を第2領域として確保できる。このように、レーザ光のビーム放射角を考慮して第1領域、第2領域、及び第4領域のサイズを設計することにより、窓部材の小型化を図ることができ、ひいてはパッケージの小型化を図ることができる。
【0011】
上記半導体レーザ装置は、パッケージの外側に配置され、光出射窓を透過したレーザ光を集光又はコリメートするレンズを更に備えてもよい。上記構成によれば、レンズをパッケージの外側に配置される外付け部材とすることにより、レンズの配置及び交換等を柔軟に行うことが可能となる。
【0012】
レーザ光の波長は、4μm~12μmの範囲に含まれてもよい。一般に、4μm~12μmの光に対応する反射防止膜は耐熱温度が低いが、上記半導体レーザ装置では、融点が比較的低い半田部材が接合材料として用いられているため、熱による反射防止膜の破損を抑制しつつ、反射防止膜が設けられた窓部材を半田接合によって側壁に取り付けることができる。
【0013】
窓部材の出射面は、光出射窓が設けられた側壁におけるパッケージの外側の面よりも、パッケージの外側に突出していてもよい。上記構成によれば、パッケージの外側から窓部材を側壁に接合する際の作業性を向上させることができる。また、外付けのレンズを窓部材の出射面に取り付ける場合には、レンズ取付の作業性を向上させることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、光出射窓に設けられる反射防止膜の破損を抑制すると共にパッケージの高気密性を確保することができる半導体レーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態の量子カスケードレーザ装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される量子カスケードレーザ装置の側断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示される量子カスケードレーザ装置の平面図である。
【
図4】
図4は、量子カスケードレーザにより出射されるレーザ光の放射角(横軸)と放射強度(縦軸)との関係の典型例を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1に示される量子カスケードレーザ装置の一部拡大図である。
【
図6】
図6は、側壁の小径孔及び大径孔を含む部分の正面図である。
【
図7】
図7において、(A)は窓部材の入射面を示す図であり、(B)は窓部材の断面図であり、(C)は窓部材の出射面を示す図である。
【
図8】
図8において、(A)はペルチェモジュールの上面図であり、(B)はペルチェモジュールの側面図である。
【
図9】
図9において、(A)はヒートスプレッダの上面図であり、(B)はヒートスプレッダの側面図であり、(C)はヒートスプレッダの底面図である。
【
図10】
図10において、(A)は各素子が搭載されたヒートシンクの上面図であり、(B)は各素子が搭載されたヒートシンクの側面図である。
【
図13】
図13において、(A)はレンズホルダの上面図であり、(B)はレンズホルダの底面図であり、(C)はレンズホルダの側断面図である。
【
図15】
図15は、比較例に係るレンズホルダを用いた場合のレンズとレンズホルダとの位置関係を模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、
図1に示される量子カスケードレーザ装置の組立手順の一部を示す図である。
【
図17】
図17において、(A)は第1変形例のレンズホルダの正面図であり、(B)は(A)のB-B線に沿ったレンズホルダの断面図である。
【
図18】
図18において、(A)は第2変形例のレンズホルダの正面図であり、(B)は(A)のB-B線に沿ったレンズホルダの断面図である。
【
図19】
図19において、(A)は第3変形例のレンズホルダの正面図であり、(B)は(A)のB-B線に沿ったレンズホルダの断面図である。
【
図20】
図20は、変形例の量子カスケードレーザ装置の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。各図において同一又は相当の部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。なお、図面においては、一部、実施形態に係る構成を分かり易く説明するために誇張している部分があり、実際の寸法とは異なっている場合がある。また、以下の説明において「上」、「下」等の語は図面に示される状態に基づく便宜的なものである。
【0017】
図1~
図3に示されるように、量子カスケードレーザ装置1(半導体レーザ装置)は、量子カスケードレーザ素子(以下「QCL素子)2と、QCL素子2を気密に収容するパッケージ3と、を備えている。
【0018】
QCL素子2は、半導体レーザ素子の一種である。QCL素子2は、一方向(本実施形態では、X軸方向)に交差する端面2a(出射面)を有しており、当該端面2aから中赤外領域の広帯域の波長(例えば、4μm~12μm)のレーザ光Lを出射するように構成されている。本実施形態では、QCL素子2から出射されるレーザ光Lの光軸は、X軸方向に沿っている。QCL素子2は、例えば、中心波長が互いに異なる複数の活性層がスタック状に積層された構造を有しており、上記のような広帯域の光を出射することができる。ただし、QCL素子2は、単一の活性層からなる構造を有していてもよく、この場合でも上記のような広帯域の光を出射することができる。
図4に示されるように、QCL素子2から出射されるレーザ光Lは、量子カスケードレーザの原理上、レーザダイオード等と比較して非常に大きいビーム放射角(発散角)を有している。
【0019】
パッケージ3は、いわゆるバタフライパッケージである。パッケージ3は、底壁31と、側壁32と、天壁33と、を有している。
図3においては、パッケージ3の天壁33の図示が省略されている。
【0020】
底壁31は、矩形板状の部材である。底壁31は、例えば銅タングステン等の金属材料によって形成されている。底壁31は、後述するペルチェモジュール4等の各種部材が搭載されるベース部材である。本明細書では便宜上、底壁31の長手方向をX軸方向と表し、底壁31の短手方向をY軸方向と表し、底壁31に垂直な方向(すなわち、X軸方向及びY軸方向に直交する方向)をZ軸方向と表す。上述したように、X軸方向は、QCL素子2から出射されるレーザ光Lの光軸に沿った方向(光軸方向)でもある。
【0021】
側壁32は、底壁31上に立設されている。側壁32は、Z軸方向から見た場合に、QCL素子2等が収容される領域(内部空間S)を包囲するように環状に形成されている。本実施形態では、側壁32は、内部空間Sを包囲する矩形筒状の部材である。側壁32は、コバール等の金属材料によって形成されている。側壁32は、例えば、Ni/Auメッキが施されたコバールフレームである。本実施形態では、側壁32は、底壁31の長手方向(X軸方向)における中央部に設けられている。側壁32の短手方向(Y軸方向)に沿った幅は底壁31の短手方向の幅と一致しており、側壁32の長手方向(X軸方向)に沿った幅は底壁31の長手方向の幅よりも短い。すなわち、底壁31の長手方向における両側には、側壁32よりも外側に突出して延在する突出部31aが形成されている。突出部31aにおける底壁31の四隅に対応する部分には、パッケージ3(底壁31)を他の部材に取り付けるためのネジ孔31bが設けられている。
【0022】
天壁33は、側壁32の底壁31側とは反対側の開口を塞ぐ部材である。天壁33は、矩形板状を呈している。Z軸方向から見た天壁33の外形(長手方向及び短手方向の幅)は、側壁32の外形と略一致している。天壁33は、例えば、側壁32と同じ金属材料(例えばコバール等)によって形成されている。
【0023】
側壁32のうち長手方向(X軸方向)に沿って延在する部分321(すなわち、短手方向(Y軸方向)に交差する部分)には、パッケージ3内に収容されるQCL素子2等の部材に電流を流すための複数(本実施形態では、短手方向の両側それぞれに7本ずつの計14本)のリードピン10が挿通されている。
【0024】
側壁32のうち短手方向(Y軸方向)に沿って延在する部分322(すなわち、長手方向(X軸方向)に交差する部分)の一方には、QCL素子2の一方の端面2aから出射されるレーザ光Lを通過させる光出射窓11が設けられている。
【0025】
図5及び
図6に示されるように、光出射窓11は、側壁32(部分322)によって構成された小径孔12(第1孔部)、大径孔13(第2孔部)、及び座ぐり面14と、窓部材15と、によって構成されている。なお、窓部材15には後述する反射防止膜151,152及び金属膜153が設けられている(
図7参照)。これらの部材は窓部材15本体と比較して非常に薄いため、
図7以外の図面ではこれらの部材の図示を省略している。
【0026】
小径孔12は、レーザ光Lの光軸に沿った光軸方向(すなわちX軸方向)においてパッケージ3の内側(すなわち内部空間S)に開口している。大径孔13は、パッケージ3の外側に開口している。大径孔13は、X軸方向から見た場合に、小径孔12を含み且つ小径孔12よりも大きい形状を有している。小径孔12及び大径孔13は、それぞれX軸方向に延在している。座ぐり面14によって接続された小径孔12及び大径孔13によって、X軸方向に貫通する貫通孔が形成されている。本実施形態では、小径孔12及び大径孔13の各々は、円形状に形成されており、大径孔13の径d2は、小径孔12の径d1よりも大きい(d2>d1)。また、小径孔12の中心軸及び大径孔13の中心軸は、QCL素子2から出射されるレーザ光Lの光軸と一致していてもよい。座ぐり面14は、小径孔12と大径孔13とを接続し、X軸方向に交差する面(YZ平面)に沿って延在する環状の面である。より具体的には、座ぐり面14は、小径孔12の大径孔13側の端部と大径孔13の小径孔12側の端部とを接続している。大径孔13及び座ぐり面14は、パッケージ3の外側から座ぐり加工を行うことによって形成することができる。なお、本実施形態では、座ぐり面14は連続的な環状に形成されているが、座ぐり面14は不連続的な環状に形成されてもよい。例えば、小径孔12の内壁面の一部に切り欠きが形成されることによって、当該切り欠きが形成された部分において、座ぐり面14が分断されていてもよい。
【0027】
本実施形態では、小径孔12の径d1は3.8mmであり、大径孔13の径d2は5.7mmであり、座ぐり面14の径方向の幅((d2-d1)/2)は0.95mmである。また、X軸方向に沿った小径孔12の長さw1は、X軸方向に沿った大径孔13の長さw2よりも短い。本実施形態では、側壁32の厚さt(X軸方向に沿った長さ)は1mmであり、小径孔12の長さw1は0.23mmであり、大径孔13の長さw2は0.77mmである。
【0028】
窓部材15は、中赤外領域の波長のレーザ光Lを透過させる材料(例えば、ゲルマニウム等)によって形成されている。窓部材15は、円板状に形成されており、大径孔13の内側に配置されている。窓部材15は、入射面15aと、出射面15bと、側面15cと、を有している。入射面15a及び出射面15bは、X軸方向に交差する面であり、円形状に形成されている。入射面15aは、内部空間S側の面であり、レーザ光L(本実施形態では、レンズ8によりコリメートされたレーザ光L)が入射する面である。出射面15bは、入射面15aとは反対側の面(すなわち、パッケージ3の外側の面)であり、窓部材15を透過したレーザ光Lをパッケージ3の外側に出射する面である。側面15cは、入射面15aと出射面15bとを接続し、X軸方向に沿って延在する面である。本実施形態では、窓部材15(入射面15a又は出射面15b)の径は5.4mmであり、窓部材15の厚さ(X軸方向に沿った長さ)は0.7mmである。
【0029】
図7の(A)及び(B)に示されるように、入射面15aは、第1領域A1と、第2領域A2と、を有している。第1領域A1は、入射面15aの中央部を含み、反射防止膜151(第1反射防止膜)が設けられた領域である。反射防止膜151は、入射面15aにおいて中赤外領域の波長のレーザ光Lの反射を抑制する機能を有する膜部材である。反射防止膜151は、例えばゲルマニウム(Ge)やシリコン(Si)等の高屈折率材、硫化亜鉛(ZnS)やセレン化亜鉛(ZnSe)等の中間屈折率材、フッ化イットリウム(YF3)等の低屈折率材、又は中赤外を透過する屈折率の異なる複数の物質を交互に積層させた誘電体多層膜等によって形成されている。反射防止膜151は、円形状に形成されている。反射防止膜151の厚さ(X軸方向に沿った長さ)は、反射防止膜151の透過波長(透過させるレーザ光Lの波長)の設計に応じて決定される。反射防止膜151の厚さは、例えば、1.0μm以上3.0μm以下である。例えば透過波長の設計値が5.2μmである場合には、反射防止膜151の厚さは、例えば1.4μmに設定される。また、本実施形態では、反射防止膜151の径(すなわち、第1領域A1の径)は4.2mmである。
【0030】
第2領域A2は、第1領域A1から離間して第1領域A1を包囲するように環状に形成された領域である。第2領域A2は、金属膜153によってメタライズされている。金属膜153は、半田接合に適した材料(すなわち、後述する半田部材16と親和性の良い材料)によって形成されている。金属膜153は、例えば、Cr/Ni/Au(0.2μm/0.5μm/0.5μm)によって形成されている。本実施形態では、入射面15aに形成された金属膜153の内径(すなわち、第2領域A2の内径)は4.5mmである。すなわち、本実施形態では、第1領域A1の外縁と第2領域A2の内縁との間に、入射面15a(ゲルマニウム素地)が露出する0.15mm幅の円環状の領域が形成されている。
【0031】
図7の(B)に示されるように、側面15cは、第2領域A2と連続するようにメタライズされた第3領域A3を有している。すなわち、金属膜153は、第2領域A2から側面15cにかけて連続して設けられている。
【0032】
図7の(B)及び(C)に示されるように、出射面15bは、反射防止膜152(第2反射防止膜)が設けられた第4領域A4を有している。反射防止膜152は、出射面15bにおいて中赤外領域の波長のレーザ光Lの反射を抑制する機能を有する膜部材である。反射防止膜152は、反射防止膜151と同様の材料によって円形状に形成されている。本実施形態では、反射防止膜152の径(すなわち、第4領域A4の径)は4.6mmである。すなわち、第4領域A4は、X軸方向から見た場合に第1領域A1を含み且つ第1領域A1よりも大きい領域である。
【0033】
窓部材15は側壁32(部分322)に対して直接接合されている。具体的には、入射面15aの第2領域A2(すなわち、金属膜153によってメタライズされた領域)が、円環状に形成された半田部材16を介して座ぐり面14に接合されている。半田部材とは、450℃以下の融点を有する接合材料である。半田部材16は、例えば、融点が220℃であるSnAgCu系の半田材料によって形成されている。半田部材16は、元々は円環状に形成されたシート状の部材である(
図16参照)。
【0034】
本実施形態では、半田付けされる前の状態(すなわち、円環状のシートの状態)の半田部材16の厚さは0.1mmであり、外径は5.5mmであり、内径は4.2mmである。すなわち、本実施形態では、半田部材16の内径(4.2mm)は第1領域A1の径(4.2mm)と一致しており、第1領域A1と半田部材16とは互いに重なっていない。また、反射防止膜151が形成された第1領域A1と金属膜153が形成された第2領域A2とは離間している。このように第1領域A1と第2領域A2とが完全に分離され、第1領域A1と第2領域A2との間に窓部材15の素地(本実施形態ではゲルマニウム素地)が露出した領域が存在することにより、半田付けの際において、半田部材16が第1領域A1上(反射防止膜151上)に流れ難くなっている。一方、半田部材16は、半田部材16と親和性の高い金属膜153上に濡れ広がり易い。これにより、半田付けの際における半田部材16の溶融又は凝固時の応力が、第1領域A1上の反射防止膜151に伝わり難くされている。
【0035】
また、上述したように、半田部材16が金属膜153上に濡れ広がることにより、半田部材16の一部は、第3領域A3上にも回り込んでいる(
図5参照)。つまり、半田部材16の一部が、側面15cと大径孔13の内側面との間に入り込んでいる。すなわち、窓部材15の側面15cの少なくとも一部は、半田部材16を介して、大径孔13の内側面の少なくとも一部に接合されている。これにより、窓部材15の取付部分において、パッケージ3の気密性が効果的に高められている。
【0036】
本実施形態では、窓部材15の出射面15bは、光出射窓11が設けられた側壁32における外面32a(パッケージ3の外側の面)と略面一となっている。すなわち、出射面15bと側壁32の外面32aとが略面一となるように、大径孔13の長さw2(すなわち、座ぐり加工の深さ)が調整されている。
【0037】
次に、パッケージ3に収容される各部材について説明する。パッケージ3によって形成される内部空間Sには、QCL素子2以外に、主に、ペルチェモジュール4と、ヒートスプレッダ5と、ヒートシンク6と、サブマウント7と、レンズ8と、レンズホルダ9と、温度センサT(
図10参照)と、が収容されている。
【0038】
ペルチェモジュール4は、QCL素子2の温度を調整するための温度制御素子である。具体的には、ペルチェモジュール4は、QCL素子2の温度をQCL素子2の発振波長に応じた温度に保つための冷却・加熱機能を有している。ペルチェモジュール4による温度制御は、ヒートシンク6に搭載される温度センサT(
図10参照)により測定されたQCL素子2の温度に基づいて行われる。
【0039】
図8に示されるように、ペルチェモジュール4は、複数の熱電半導体素子であるペルチェ素子41と、複数のペルチェ素子41を上下から挟み込む一対のセラミック基板42,43と、を有している。セラミック基板42は、ペルチェ素子41に対して天壁33側に設けられており、セラミック基板43は、ペルチェ素子41に対して底壁31側に設けられている。各セラミック基板42,43は、例えばアルミナによって形成されている。各セラミック基板42,43の外面(ペルチェ素子41側とは反対側の面)は、メッキによってCu/Ni/Au等の金属膜44が成膜されたメタライズ面となっている。そして、セラミック基板42,43の外面は、金属膜44を介して、半田部材であるIn箔45が設けられている。セラミック基板42は、In箔45を介して、ヒートスプレッダ5と半田接合されている。一方、セラミック基板43は、In箔45を介して、パッケージ3の底壁31の上面31c(天壁33と対向する面)と半田接合されている。一方のセラミック基板(本実施形態では、セラミック基板43)には、ペルチェモジュール4に直流電流を流すための2本のリード線20が電気的に接続されている。2本のリード線20は、それぞれ異なるリードピン10に接続されている。
【0040】
ヒートスプレッダ5は、ペルチェモジュール4上に搭載される部材であり、QCL素子2で生じた熱をペルチェモジュール4側に放熱する。ヒートスプレッダ5は、例えば銅等の熱伝導性に優れた材料によって形成されている。
図9に示されるように、ヒートスプレッダ5は、セラミック基板42上に設けられたIn箔45(
図8参照)を介してペルチェモジュール4と半田接合される底面51と、ヒートシンク6及びサブマウント7が搭載される第1上面52と、レンズホルダ9が搭載される第2上面53(第2取付面)と、を有している。
【0041】
ここで、銅の熱膨張係数(約17×10-6/K)はアルミナの熱膨張係数(約7×10-6/K)よりも大きい。このため、ペルチェモジュール4のセラミック基板42がアルミナによって形成されており、ヒートスプレッダ5が銅によって形成されている場合に、ヒートスプレッダ5の底面51の全体をIn箔45を介してセラミック基板42に接合してしまうと、量子カスケードレーザ装置1の長期的な使用や、温度制御時においてペルチェ素子41の上面と下面との間に生じる大きな温度差等により、ペルチェ素子41にクラックが生じるおそれがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、ヒートスプレッダ5の底面51には、ペルチェモジュール4との接合面を複数に分割するための溝部51aが形成されている。本実施形態では一例として、2つの溝部51aが、長手方向(X軸方向)に底面51を三分割する位置において、短手方向(Y軸方向)に沿って延在している。当該2つの溝部51aによって、ペルチェモジュール4との接合面が、略均等に三分割されている。このようにペルチェモジュール4との接合面が複数(ここでは3つ)に分割されることにより、セラミック基板42の材料(アルミナ)とヒートスプレッダ5の材料(銅)との熱膨張率の差に起因して生じる応力が低減され、上述したペルチェ素子41のクラックの発生が抑制される。
【0043】
また、ペルチェモジュール4の四隅(角部)は、特に機械的強度が弱い。そこで、本実施形態では、ヒートスプレッダ5の底面51の四隅に、切り欠き溝51bが形成されている。これにより、ペルチェモジュール4の四隅に対応する部分において、セラミック基板42とヒートスプレッダ5の底面51との接合を回避することができ、上記熱膨張率の差に起因するペルチェモジュール4の四隅に対する応力を効果的に低減することができる。
【0044】
なお、上述した溝部51a及び切り欠き溝51bは、セラミック基板42と底面51とをIn箔45を介して半田接合する際に混入する空気層(ボイド)の逃げ道としても機能する。これにより、ペルチェモジュール4(セラミック基板42)とヒートスプレッダ5との接合品質及び熱伝導性を向上させることができる。
【0045】
また、ペルチェモジュール4(セラミック基板42)とヒートスプレッダ5とを接合する半田部材としてIn,InSn等の軟半田材(本実施形態ではIn)を用いることにより、熱による膨張又は収縮の応力を好適に吸収でき、量子カスケードレーザ装置1の信頼性を向上させることができる。
【0046】
第1上面52は、第2上面53よりも高い位置(天壁33側)に位置している。本実施形態では一例として、第1上面52には、ヒートシンク6をネジ留めするための2つのネジ孔52aと、上方(天壁33側)に突出した突出部52bと、が設けられている。突出部52bは、第1上面52の長手方向(X軸方向)における端部(第2上面53側とは反対側の端部)において、短手方向(Y軸方向)に沿って延在している。突出部52bは、ヒートシンク6の端部を当接させて位置決めするための部分である。
【0047】
第2上面53には、アイランド状に形成された複数(本実施形態では4つ)の凸部53a(第2凸部)が設けられている。4つの凸部53aは、後述するレンズホルダ9と接合される部分である。
【0048】
ヒートシンク6は、ヒートスプレッダ5の第1上面52上に搭載される部材である。ヒートシンク6は、ヒートスプレッダ5と同様に、例えば銅等の熱伝導性に優れた材料によって形成されている。ヒートシンク6は、略直方体状に形成されている。例えば、ヒートシンク6のX軸方向に沿った幅は5mmであり、ヒートシンク6のY軸方向に沿った幅は6mmである。
図10に示されるように、ヒートシンク6の上面6a(天壁33側の面)には、QCL素子2を搭載したサブマウント7と、QCL素子2の温度を測定するための温度センサTと、ワイヤ配線用のセラミックパターンSPと、が搭載されている。ヒートシンク6の下面6bは、ヒートスプレッダ5の第1上面52に当接している。QCL素子2に不良が生じた場合にQCL素子2を容易に交換可能とするために、ヒートシンク6は、ヒートスプレッダ5に対してネジによって固定されている。ヒートシンク6には、このようなネジ留めのために、Z軸方向に貫通するネジ孔6cと、ネジ孔6cの周囲に形成された座ぐり溝6dと、が形成されている。ネジ孔6cは、上述したヒートスプレッダ5のネジ孔52a(
図9参照)に対応する位置に設けられている。例えば、ねじロック剤(ネジのゆるみ止めの接着剤)がネジ先端に塗布されたネジ部材(不図示)がネジ孔6c及びネジ孔52aに挿通されることにより、ヒートシンク6は、ヒートスプレッダ5に対して固定される。座ぐり溝6dは、上記ネジ部材の頭部を収容するために設けられた溝部である。なお、上記ねじロック剤としては、アウトガスを発生させない熱硬化型の樹脂接着剤(例えばエポキシ樹脂等)が、好適に用いられる。
【0049】
温度センサT及びセラミックパターンSPは、図示しないワイヤを介して、所定のリードピン10と電気的に接続されている。また、QCL素子2は、セラミックパターンSP及び図示しないワイヤを介して、所定のリードピン10と電気的に接続されている。これにより、外部の電源装置から、リードピン10を介して、QCL素子2及び温度センサTに電力が供給される。
【0050】
サブマウント7は、QCL素子2が載置される矩形板状の部材である。QCL素子2は、端面2aから出射されるレーザ光Lの光軸が光出射窓11の中心(すなわち、小径孔12及び大径孔13の中心軸)と一致するように、サブマウント7上に載置されている。サブマウント7は、QCL素子2と近い熱膨張係数を有する材料(例えば、窒化アルミニウム等)によって形成されている。QCL素子2とサブマウント7とは、例えばAnSn系の半田材料を介して接合されている。また、サブマウント7とヒートシンク6とは、例えばSnAgCuNiGe系の半田材料を介して接合されている。
【0051】
続いて、
図11~
図15を参照して、レンズ8及びレンズホルダ9について説明する。上述したように、レーザ光Lは、量子カスケードレーザの原理上、比較的大きいビーム放射角を有している(
図4参照)。このため、レーザ光Lを有効に利用するためには、レンズ等の光学素子を用いてレーザ光Lのビーム成形(集光、コリメート等)を行う必要がある。一方、発振波長が中赤外領域のレーザ光Lは不可視であるため、上記ビーム成形のためのレンズのアライメント(位置合わせ)を行うためには、中赤外領域に感度がある高価なビームモニタ又はディテクタ等が必要となる。そこで、本実施形態では、パッケージ3の内部に、上記ビーム成形を行うためのレンズ8が予め内蔵されている。この構成には、ユーザ側でレンズ(外付けレンズ)のアライメントを行う必要がないという利点がある。
【0052】
レンズ8は、QCL素子2から出射されるレーザ光Lを集光又はコリメートするための部材である。レンズホルダ9は、レンズ8を保持する部材である。レンズ8は、QCL素子2のレーザ光Lの出射面である端面2aと対向して配置されている。
【0053】
レンズ8は、例えば、ZnSeによって形成された非球面レンズである。
図11及び
図14に示されるように、レンズ8は、入射面8aと、側面8bと、出射面8cと、を有している。入射面8aは、レーザ光Lが入射する面である。本実施形態では、入射面8aは平坦面である。側面8bは、入射面8aの縁部から、レーザ光Lの光軸方向(すなわちX軸方向)に沿って延在する面である。出射面8cは、レンズ8内を通過したレーザ光Lを出射する面である。本実施形態では、出射面8cは、非球面の曲面状に形成されている。本実施形態では、レンズ8の径(入射面8aの径)は5mmであり、レンズ8の有効径は4.5mmである。レンズ8の有効径とは、レーザ光Lの光軸方向(X軸方向)に直交する面(入射面8a)においてレンズの光学特性を満足することが可能な入射ビームの直径(レンズ8がコリメートレンズの場合には、レンズの仕様として、透過及びコリメートが可能な入射光の直径)である。また、レンズ8の有効径内の領域のことを有効領域という。
【0054】
図11に示されるように、レンズホルダ9は、略直方体状の外形を有する部材である。レンズホルダ9は、例えば、黒色アルマイト表面処理が施されたアルミニウムによって形成されている。レンズホルダ9のX軸方向から見た中央部には、X軸方向に沿って貫通する貫通孔が設けられている。レンズホルダ9は、当該貫通孔を構成する小径孔9a及び大径孔9bを有している。小径孔9a及び大径孔9bは、それぞれ、X軸方向に延在している。大径孔9bは、小径孔9aよりもQCL素子2から離れた位置に設けられている。すなわち、小径孔9aは、大径孔9bよりもQCL素子2側に設けられている。大径孔9bは、X軸方向から見た場合に、小径孔9aを含み且つ小径孔9aよりも大きい形状を有している。大径孔9bは、その内側にレンズ8を収めることができるように、レンズ8の外形よりも大きいサイズに形成されている。本実施形態では、小径孔9a及び大径孔9bの各々は、円形状に形成されている。小径孔9aと大径孔9bとは、X軸方向に交差する面(YZ平面)に沿って延在する環状の座ぐり面9cによって接続されている。より具体的には、座ぐり面9cは、小径孔9aの大径孔9b側の端部と大径孔9bの小径孔9a側の端部とを接続している。なお、本実施形態では、座ぐり面9cは連続的な環状に形成されているが、座ぐり面9cは不連続的な環状に形成されてもよい。例えば、小径孔9aの内壁面の一部に切り欠きが形成されることによって、当該切り欠きが形成された部分において、座ぐり面9cが分断されていてもよい。
【0055】
図11及び
図12に示されるように、大径孔9bの内側面には、X軸方向に沿って、レンズホルダ9のQCL素子2側とは反対側の端部から座ぐり面9cまで到達する溝部9d(凹部)が形成されている。本実施形態では、X軸方向から見て、矩形状のレンズホルダ9の一の対角線に沿って互いに対向する一対の溝部9dが形成されている。
【0056】
図12及び
図14に示されるように、小径孔9aの中心軸AX1は、大径孔9bの中心軸AX2と一致していない。すなわち、小径孔9aの中心軸AX1は、大径孔9bの中心軸AX2から偏心している。なお、
図14においては、説明を分かり易くするために、一対の溝部9dが無視されている。すなわち、
図14は、大径孔9bに一対の溝部9dが設けられていないものとして、
図12のXIV-XIV線に沿った断面構造を模式的に示している。
【0057】
本実施形態では、小径孔9aの中心軸AX1は、大径孔9bの中心軸AX2に対して、方向Dにずれている。方向Dは、X軸方向から見て一方の溝部9dから他方の溝部9dに向かう方向である。また、小径孔9aの径d3はレンズ8の有効径と同じ4.5mmであり、大径孔9bの径d4は5.15mmである。また、上述のように、中心軸AX1が中心軸AX2に対して偏心していることにより、
図12及び14に示されるように、中心軸AX1と中心軸AX2とを通る直線上において中心軸AX1側の座ぐり面9c(ここでは、溝部9dを除く部分)の幅が、座ぐり面9cの最小幅wminとなる。また、中心軸AX1と中心軸AX2とを通る直線上において中心軸AX2側の座ぐり面9c(ここでは、溝部9dを除く部分)の幅が、座ぐり面9cの最大幅wmaxとなる。本実施形態では、最小幅wminは0.25mmであり、最大幅wmaxは0.4mmであり、中心軸AX1と中心軸AX2との距離dは0.075mmである。
【0058】
レンズ8の入射面8aの縁部は、座ぐり面9cに当接している。また、レンズ8は、大径孔9bの中心軸AX2から小径孔9aの中心軸AX1に向かう方向Dに沿って、レンズ8の側面8bが、大径孔9bの内側面に対して位置決めされている。具体的には、レンズ8の側面8bが、方向Dに沿って、大径孔9bの内側面に対して突き当てられている。これにより、レンズ8の中心軸AX3は、大径孔9bの中心軸AX2よりも小径孔9aの中心軸AX1に近い位置に配置されている。本実施形態では、上述したように、レンズ8の径(5mm)及び有効径(4.5mm)、小径孔9aの径d3(4.5mm)、大径孔9bの径d4(5.15mm)、並びに中心軸AX1と中心軸AX2との距離d(0.075mm)が設定されている。これにより、レンズ8の中心軸AX3は、小径孔9aの中心軸AX1と略一致している。すなわち、X軸方向から見て、レンズ8の有効領域の全体が、小径孔9aと重なっている。言い換えれば、レンズ8の有効領域の全体が、小径孔9aを介して、QCL素子2側に露出している。これにより、レンズ8の有効領域を最大限活用することが可能となっている。
【0059】
次に、レンズホルダ9に対するレンズ8の固定方法について説明する。
図14に示されるように、レンズ8の側面8bの少なくとも一部は、上述したようにレンズ8がレンズホルダ9に対して位置決めされた状態で、樹脂接着剤B1を介して、大径孔9bの内側面に固定されている。樹脂接着剤B1は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって形成されている。例えば、樹脂接着剤B1を溝部9dに流し込むことにより、溝部9dに入り込んだ樹脂接着剤B1が、毛細管現象によって、溝部9dの周辺においても、レンズ8の側面8bと大径孔9bの内側面との間に流れ込む。また、レンズ8の入射面8aと座ぐり面9cとの間にも、毛細管現象によって樹脂接着剤B1が流れ込む。この状態でレンズホルダ9のベーク処理が行われることにより、樹脂接着剤B1が硬化し、レンズ8がレンズホルダ9に対して固定される。溝部9dに樹脂接着剤B1を流し込む処理は、例えば、樹脂接着剤B1を塗布するためのニードル部材を溝部9dに挿入し、ニードル部材の先端から樹脂接着剤B1を溝部9d内の座ぐり面9cに向けて注入することにより行われる。この場合、溝部9dは、ニードル部材を挿入可能な大きさに形成されればよい。
【0060】
図15を参照して、上述したように小径孔9aの中心軸AX1を大径孔9bの中心軸AX2に対して方向Dに偏心させると共に、レンズ8を方向Dに沿って位置決めする構造(以下「偏心構造」という。)により得られる効果について詳細に説明する。
図15は、比較例に係るレンズホルダ900を用いた場合のレンズ8とレンズホルダ900との位置関係を模式的に示す図である。レンズホルダ900では、小径孔9aの中心軸AX1は、大径孔9bの中心軸AX2に対して偏心していない。すなわち、中心軸AX1は中心軸AX2と一致している。この場合、レンズ8の有効径を最大限に活用するためには、
図15の左部に示されるように、レンズ8の中心軸AX3をレンズホルダ900の中心軸(すなわち、中心軸AX1,AX2)と一致させる必要がある。このようなレンズ8とレンズホルダ900との位置関係が維持されれば問題は生じない。しかし、実際には、このようにレンズホルダ900の中心にレンズ8を設置して、レンズ8の側面8bと大径孔9bの内側面とを樹脂接着剤B1を介して接合した場合、
図15の右部に示されるように、ベーク処理を行った際に、樹脂接着剤B1の表面張力により、レンズ8の中心軸AX3がレンズホルダ9の中心軸(中心軸AX1,AX2)からずれるおそれがある。具体的には、レンズ8の側面8bと大径孔9bとの間に充填される樹脂接着剤B1の量は必ずしも均一とならないため、樹脂接着剤B1の表面張力が強く働く方向にレンズ8が移動する現象が起こり得る。このようなレンズ8の移動(位置ずれ)が生じた場合、レンズ8の有効領域の一部が座ぐり面9cと重なってしまい、有効領域を最大限に活用できなくなってしまう。すなわち、
図15の右部に示されるように、レンズ8の中心軸AX3とQCL素子2から出射されるレーザ光Lの光軸とを一致させた場合に、レンズ8の有効領域のうち座ぐり面9cと重なる部分において、レーザ光Lの光束を捕捉することができない。
【0061】
一方、
図12及び
図14に示した偏心構造によれば、予めレンズ8の側面8bを、方向Dに沿って、レンズ8の設置端となる大径孔9bの内側面に密着させておくことができる。そして、レンズ8の側面8bと大径孔9bの内側面との距離が近い部分(すなわち、密着した部分及びその周辺)ほど、樹脂接着剤B1の表面張力が強く働くことになる。このため、ベーク処理を行っても、レンズ8がレンズホルダ9に対して方向Dとは反対側に引き戻されることがない。すなわち、ベーク処理の前後において、レンズ8の側面8bが方向Dに沿って大径孔9bの内側面に対して突き当てられた状態(
図12及び
図14参照)が維持される。従って、上記偏心構造によれば、レンズ8を上述したように位置決めした状態でレンズ8の有効領域と小径孔9aとが一致するように寸法を調整しておくことにより、レンズ8の有効領域を最大限に活用することが可能となる。
【0062】
なお、レンズ8の側面8bのうち大径孔9bの内側面に突き当てられた部分と大径孔9bの内側面とは、必ずしも直接接触している必要はない。すなわち、
図14に示されるように、レンズ8の側面8bのうち大径孔9bの内側面に突き当てられた部分と大径孔9bの内側面との間には、毛細管現象によって僅かに入り込んだ樹脂接着剤B1が介在していてもよい。
【0063】
図11、
図12、及び
図13の(B)に示されるように、レンズホルダ9の大径孔9bを構成する壁部90(すなわち、X軸方向に沿って延在する筒状の部分)は、ヒートスプレッダ5の第2上面53に対向する底壁部92(第1壁部)を有している。底壁部92は、第2上面53に対向する下面92a(第1取付面)を有している。下面92aには、ヒートスプレッダ5側に突出する複数(本実施形態では4つ)の凸部92b(第1凸部)が形成されている。4つの凸部92bは、ヒートスプレッダ5の第2上面53に設けられた4つの凸部53a(
図9の(A)参照)に対応する位置に設けられている。各凸部92bは、UV硬化性樹脂(光硬化性樹脂)からなる接着層B2(
図2参照)を介して、各凸部53aと接合されている。
【0064】
本実施形態では、4つの凸部92bは、底壁部92の四隅にバランス良く配置されている。すなわち、4つの凸部92bは、Z軸方向から見て4つの凸部92bの中心が底壁部92の略中心に一致するように配置されている。これにより、レンズホルダ9をヒートスプレッダ5の第2上面53上に安定して固定することができ、衝撃、振動等に強い構造を実現することができる。
【0065】
図11及び
図13の(A)に示されるように、壁部90は、パッケージ3の天壁33に対向する天壁部91(第2壁部)を有している。天壁部91は、大径孔9bを介して底壁部92に対向している。天壁部91の小径孔9a側とは反対側の端部には、切り欠き91aが形成されている。また、底壁部92の小径孔9a側とは反対側の端部にも、切り欠き92cが形成されている。Z軸方向から見て、切り欠き91aと切り欠き92cとは、互いに重なる部分を有している。すなわち、天壁部91は、底壁部92と天壁部91とが対向する方向(Z軸方向)から見た場合に、底壁部92の切り欠き92cの少なくとも一部と重ならないように形成されている。そして、切り欠き91aと切り欠き92cとが重なる部分を介して、天壁部91の上方からヒートスプレッダ5の第2上面53の一部を視認することが可能となっている。すなわち、上記部分を介して、天壁部91の上方からヒートスプレッダ5の第2上面53へと光を照射することが可能となっている。このような構造によれば、4つの凸部53aの位置と4つの凸部92bの位置とを合わせるようにしてレンズホルダ9をヒートスプレッダ5の第2上面53上に載置した後に、レンズホルダ9の上方からUV光を照射することにより、当該UV光をレンズホルダ9の下面92aとヒートスプレッダ5の第2上面53との間の空間へと好適に導くことができる。これにより、各凸部92bと各凸部53aとの間に設けられた接着層B2を適切に硬化させることができる。
【0066】
また、接着層B2が塗布される場所が、アイランド状に形成された各凸部92b及び各凸部53aによって規定されていることにより、接着層B2を塗布する場所及び接着層B2の塗布量を複数の製品(量子カスケードレーザ装置1)間で統一することができる。また、UV光がUV硬化性樹脂の内部に浸透する深さには限界がある。このため、仮に凸部92b及び凸部53aを設けずに、下面92aの全体にUV硬化性樹脂を塗布してしまうと、当該UV硬化性樹脂の内部(中心側)にUV光が到達せず、当該UV硬化性樹脂を完全に硬化させることができないという問題が生じ得る。上述したように接着層B2が塗布される場所をアイランド状に規定することにより、このような問題を回避することができる。また、アイランド状の凸部92b及び凸部53aを設けることにより、凸部92b及び凸部53aが重ならない位置において、下面92aと第2上面53との間にUV光を通すための十分な空間を形成することができる。これにより、当該空間に入り込んだUV光を、下面92a及び第2上面53それぞれの谷部(凸部92b及び凸部53aが形成されていない部分)で反射させて、各凸部53a上の接着層B2にUV光を照射することが可能となる。
【0067】
次に、量子カスケードレーザ装置1の製造方法(組立方法)について説明する。
図16に示されるように、まず、天壁33を側壁32に接合する前のパッケージ3を用意する。続いて、側壁32に窓部材15(予め反射防止膜151,152及び金属膜153が設けられた窓部材15(
図7参照))を接合する。具体的には、ワッシャ状に成型された円環状のシート部材である半田部材16を座ぐり面14と窓部材15との間に挟み込む。そして、窓部材15を座ぐり面14に対して押し込むように、窓部材15に対してパッケージ3の外側から荷重をかける。この状態で、例えば真空半田付け装置(真空半田炉)を用いることにより、窓部材15と座ぐり面14とを半田部材16を介して接合する。この際、窓部材15の中心を座ぐり開口(小径孔12及び大径孔13)の中心軸に合わせるための治具が用いられてもよい。
【0068】
続いて、半田部材であるIn箔45を上下に貼り付けたペルチェモジュール4上にヒートスプレッダ5を載置し、治具を用いてこれらの部材を底壁31上の所定位置に配置する。そして、ヒートスプレッダ5の上方から、これらの部材を底壁31に対して押し込むように荷重をかける。この状態で、例えば真空半田付け装置を用いることにより、底壁31、ペルチェモジュール4、及びヒートスプレッダ5を、それぞれの部材間に配置されたIn箔45を介して接合する。続いて、
図2に示されるように、ペルチェモジュール4のリード線20をリードピン10に対して半田付けする。
【0069】
続いて、QCL素子2、サブマウント7、温度センサT、及びセラミックパターンSP等の素子が予め搭載されたヒートシンク6を、ヒートスプレッダ5の第1上面52に固定する。具体的には、図示しないネジ部材をヒートシンク6のネジ孔6c(
図10参照)及びヒートスプレッダ5のネジ孔52aに挿通することにより、ヒートシンク6をヒートスプレッダ5に対してネジ留めする。また、温度センサT及びセラミックパターンSPと所定のリードピン10とを、図示しないワイヤによって電気的に接続する。
【0070】
続いて、上述したようにレンズ8が搭載されたレンズホルダ9を、ヒートスプレッダ5の第2上面53に固定する。具体的には、ヒートスプレッダ5の第2上面53に形成された各凸部53a上に、UV硬化性樹脂(接着層B2)を予め塗布しておく。そして、レンズホルダ9を例えばコンバム(真空発生器)等を用いて真空チャックして、パッケージ3内に移動させる。そして、QCL素子2を駆動してレーザ光Lを出射させ、ビームモニタでレーザ光Lを観察しながらレーザ光Lの光軸とレンズ8の中心軸とを合わせるアクティブアライメントを行う。
【0071】
続いて、レーザ光Lの光軸とレンズ8の中心軸との位置が合った状態で、レンズホルダ9をヒートスプレッダ5に固定する。具体的には、レーザ光Lの光軸とレンズ8の中心軸とが合った状態で、レンズホルダ9の上方から、レンズホルダ9の切り欠き91a及び切欠き92cを介して、ヒートスプレッダ5の第2上面53に向けてUV光を照射する。これにより、レンズホルダ9の各凸部92bとヒートスプレッダ5の各凸部53aとが、接着層B2を介して接合される。
【0072】
ここで、各凸部92bの位置は、レーザ光Lの光軸とレンズ8の中心軸とが合った状態で、ヒートスプレッダ5の各凸部53aと重なるように設計されている。また、レーザ光Lの光軸とレンズ8の中心軸とが合った状態で、ヒートスプレッダ5の各凸部53aとレンズホルダ9の各凸部92bとの間に、各凸部53a上に予め塗布されたUV硬化樹脂(接着層B2)の厚さよりも小さい数百μm程度の隙間ができるように、各凸部53a及び各凸部92bの高さ寸法(Z軸方向に沿った長さ)が設計されている。これにより、レーザ光Lの光軸とレンズ8の中心軸とが合うようにレンズホルダ9をヒートスプレッダ5に対して移動させた場合に、レンズホルダ9の各凸部92bとヒートスプレッダ5の各凸部53a上の接着層B2とが接触するように調整されている。言い換えれば、レンズホルダ9がヒートスプレッダ5上に予め塗布されたUV硬化樹脂(接着層B2)に対して押し込まれた状態で、レーザ光Lの光軸とレンズ8の中心軸とが合うように、各凸部53a及び各凸部92bの高さ寸法並びに接着層B2の厚さが設計されている。
【0073】
続いて、パッケージ3の側壁32の上端部(底壁31側とは反対側の端部)に天壁33を接合する。以上により、
図1に示される量子カスケードレーザ装置1が得られる。
【0074】
以上説明した量子カスケードレーザ装置1では、光出射窓11は、ろう材(融点が450℃以上)よりも融点が低い半田部材16(本実施形態では、融点が220℃であるSnAgCu系の半田材料)によって、パッケージ3の側壁32に接合されている。これにより、ろう材を用いる場合と比較して、熱による窓部材15等(特に反射防止膜151,152)の損傷を抑制しつつ、窓部材15と座ぐり面14とを密着させることができる。また、窓部材15の入射面15aにおいて、反射防止膜151が設けられた第1領域A1及び半田部材16が接合される第2領域A2は互いに離間している(
図7参照)。これにより、第2領域A2における半田部材16の溶融時又は凝固時の応力が第1領域A1上の反射防止膜151に伝わることが抑制される。その結果、上記応力に起因する反射防止膜151の破損(クラック又は剥離等)が抑制される。以上により、量子カスケードレーザ装置1によれば、光出射窓11に設けられる反射防止膜151の破損を抑制すると共にパッケージ3の高気密性を確保することができる。
【0075】
また、窓部材15の側面15cは、第2領域A2と連続するようにメタライズされた第3領域A3を有しており、側面15cの少なくとも一部は、半田部材16を介して大径孔13の内側面の少なくとも一部に接合されている(
図5参照)。上記構成によれば、第2領域A2から窓部材15の側面15c(第3領域A3)にかけて連続した領域がメタライズされていることにより、半田接合の際に、半田部材16の一部を第3領域A3側へと好適に濡れ広がらせることができる。その結果、窓部材15の側面15cと大径孔13の内側面との間に半田部材16を介在させることができ、パッケージ3の気密性を好適に向上させることができる。
【0076】
また、QCL素子2から出射されるレーザ光Lの波長は、4μm~12μmの範囲に含まれている。一例として、反射防止膜151,152の耐熱温度は、260℃程度である。一方、量子カスケードレーザ装置1では、融点が比較的低い半田部材16が接合材料として用いられているため、熱による反射防止膜151,152の破損を抑制しつつ、反射防止膜151,152が設けられた窓部材15を半田接合によって側壁32に取り付けることができる。
【0077】
また、量子カスケードレーザ装置1では、レンズホルダ9は、中心軸AX1,AX2が互いに偏心した小径孔9a及び大径孔9bを有している。また、レンズ8の側面8bが、大径孔9bの中心軸AX2から小径孔9aの中心軸AX1に向かう方向Dに沿って、大径孔9bの内側面に対して位置決めされている。これにより、仮にレンズ8を大径孔9bの中央部に配置した場合(例えば、
図15の左部参照)にレンズ8の周囲に配置される樹脂接着剤B1の表面張力に起因して生じるレンズ8の位置ずれ(レンズホルダ9に対するレンズ8の移動)を、好適に抑制することができる。さらに、このようにレンズ8が位置決めされた状態で、レンズ8の中心軸AX3は小径孔9aの中心軸AX1に近い位置に配置されている(本実施形態では中心軸AX3と中心軸AX1とは一致している)。これにより、レンズ8の有効領域(レンズの中心軸AX3を中心とする有効径内の領域)と座ぐり面9cとが干渉する(重なる)領域の面積を低減することができる。その結果、レンズ8の有効領域を効率良く利用することが可能となる。また、レンズ8の有効領域を効率良く利用できることにより、レンズ8の小型化を図ることができ、ひいてはパッケージ3の小型化を図ることができる。
【0078】
また、本実施形態では、レンズ8の中心軸AX3は、小径孔9aの中心軸AX1と略一致しており、レンズ8の有効径は、小径孔9aの径d3と略一致している。上記構成によれば、レンズ8の有効領域(有効径内の領域)の全体を小径孔9aを介して露出させることができる。これにより、小径孔9aの大きさを最小限に抑えて座ぐり面9cの面積を確保することによってレンズ8の入射面8aの縁部を適切に支持しつつ、レンズ8の有効領域を最大限活用することが可能になる。
【0079】
また、大径孔9bの内側面には、X軸方向に沿って座ぐり面9cまで到達する溝部9dが形成されており、溝部9dには、樹脂接着剤B1が入り込んでいる。上記構成によれば、溝部9dを介して、レンズ8の側面8bと大径孔9bの内側面との間に樹脂接着剤B1を容易に注入することが可能となる。
【0080】
また、レンズホルダ9は、ヒートスプレッダ5側に突出する複数(本実施形態では4つ)の凸部92bが形成された下面92aを有しており、複数の凸部92bは、UV硬化性樹脂からなる接着層B2を介してヒートスプレッダ5の第2上面53に接合されている。本実施形態では、第2上面53には、複数の凸部92bに対応する位置においてレンズホルダ9側に突出する複数の凸部53aが形成されており、複数の凸部92bは、接着層B2を介して複数の凸部53aに接合されている。上記構成によれば、接着層B2が設けられる場所を複数の凸部92b上に分散させることができるため、接着層B2を面全体に広い範囲に設ける場合と比較して、各凸部92b上の接着層B2を容易且つ適切に硬化させることができる。さらに、本実施形態では、下面92aと第2上面53との間に形成される空間の中央部(凸部92bと凸部53aとの間)に接着層B2が配置される。これにより、当該空間内において下面92a及び第2上面53で反射するUV光を、接着層B2に対して好適に照射することが可能となる。その結果、接着層B2をより適切に硬化させることができ、ヒートスプレッダ5に対してレンズホルダ9を安定的に固定することができる。
【0081】
また、レンズホルダ9の底壁部92には、ヒートスプレッダ5の第2上面53に光を導くための切り欠き92cが設けられている。上記構成によれば、レンズホルダ9に対してヒートスプレッダ5が配置される側とは反対側(すなわち、レンズホルダ9の上方)から、底壁部92に設けられた切り欠き92cを介して、ヒートスプレッダ5の第2上面53に対してUV光を照射することができる。これにより、下面92aと第2上面53との間の接着層B2を硬化させるための光照射を容易に行うことが可能となる。
【0082】
また、レンズホルダ9は、大径孔9bを介して底壁部92に対向する天壁部91を有している。そして、天壁部91は、底壁部92と天壁部91とが対向する方向(Z軸方向)から見た場合に、底壁部92に設けられた切り欠き92cの少なくとも一部と重ならないように形成されている。上記構成によれば、底壁部92及び天壁部91により、大径孔9b内に配置されるレンズ8を外部から適切に保護することができる。また、天壁部91が、底壁部92に設けられた切り欠き92cの少なくとも一部と重ならないように形成されていることにより、レンズホルダ9の外側(天壁部91を挟んで底壁部92とは反対側)からレンズホルダ9に対して光を照射することで、ヒートスプレッダ5の第2上面53に対して光を照射することができる。
【0083】
なお、底壁部92には、切り欠き92cに代えて、Z軸方向に貫通する貫通孔が形成されてもよい。同様に、天壁部91には、切り欠き91aに代えて、Z軸方向に貫通すると共に、底壁部92に設けられた切り欠き92c又は貫通孔と重なる部分を有する貫通孔が形成されてもよい。このような構成によっても、レンズホルダ9の上方から光を照射することにより、当該光をヒートスプレッダ5の第2上面53に導くことができる。
【0084】
また、QCL素子2及びレンズホルダ9は、同一のヒートスプレッダ5上に搭載されている。なお、QCL素子2は、サブマウント7及びヒートシンク6を介して、ヒートスプレッダ5に搭載されている。上記構成によれば、QCL素子2及びレンズホルダ9が載置される土台(ヒートスプレッダ5)を共通化することにより、熱によってヒートスプレッダ5が膨張又は収縮した場合において、QCL素子2に対するレンズホルダ9の相対的な移動を抑制することができる。その結果、パッケージ3内の温度変化に起因する光軸ずれ(レーザ光Lの光軸に対するレンズ8の中心軸AX3のずれ)の発生を抑制することができる。
【0085】
また、パッケージ3は、上述したQCL素子2、レンズ8、及びレンズホルダ9を気密に収容している。上記構成によれば、パッケージ3内に配置されるレンズ8の有効領域を効率良く利用することが可能であるため、レンズ8の小型化を図ると共にパッケージ3の小型化を図ることができる。
【0086】
[変形例]
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。また、上記実施形態に含まれる一部の構成は、適宜、変更又は省略されてもよい。
【0087】
レンズホルダの形状は、上述したレンズホルダ9の形状に限られない。例えば、上述したレンズホルダ9の代わりに、
図17~
図19に示されるレンズホルダ9A~9Cが用いられてもよい。
【0088】
図17に示されるように、第1変形例のレンズホルダ9Aは、円形状の大径孔9bの代わりに四角形状の大径孔9Abが形成されると共に、溝部9dが形成されていない(大径孔9Abが溝部9dに対応する部分を含む大きさに形成されている)点で、レンズホルダ9と相違している。このように、大径孔9Abは、レンズ8が収まる大きさに形成されていればよく、必ずしも円形状に形成されていなくてもよい。このような大径孔9Abによれば、溝部9dを設けることなく、大径孔9Abの四隅において、樹脂接着剤B1を充填するための十分なスペースを確保することができる。見方を変えれば、レンズホルダ9Aにおいては、大径孔9Abの四隅に対応する部分がそれぞれ、レンズホルダ9の溝部9dに対応する凹部として機能する。なお、小径孔9aについても、大径孔9Abと同様に、円形以外の形状(例えば、大径孔9Abよりも一回り小さい、大径孔9Abと同様の四角形状等)に形成されてもよい。
【0089】
図18に示されるように、第2変形例のレンズホルダ9Bは、天壁部91の代わりに上面が円形状(曲面状)に形成された天壁部91Bを有する点で、レンズホルダ9と相違している。また、レンズホルダ9Bでは、天壁部91Bを採用したことにより、レンズホルダ9において天壁部91側に設けられていた溝部9dを形成するスペースがとれない。このため、レンズホルダ9Bでは、底壁部92側において、Y軸方向の両側のそれぞれに一対の溝部9dが形成されている。このように、レンズホルダにおいて溝部9dが形成される位置は、特に限定されない。また、溝部9dの個数も特に限定されない。また、レンズホルダ9Bでは、大径孔9bを形成する壁部のうち底壁部92を除く部分のX軸方向に沿った長さが、レンズホルダ9の壁部90と比較して短くされている。具体的には、上記部分のX軸方向に沿った長さは、レンズ8のX軸方向に沿った長さよりも若干短くされている。このような構成によれば、レンズホルダ9Bの上方からのUV光を遮る部分を少なくすることができるため、接着層B2を硬化させるためのUV光をより好適にヒートスプレッダ5側に導くことができる。
【0090】
図19に示されるように、第3変形例のレンズホルダ9Cは、天壁部91の代わりに天壁部91よりもX軸方向に沿った長さが短い天壁部91Cを有する点で、レンズホルダ9と相違している。天壁部91CのX軸方向に沿った長さは、レンズ8のX軸方向に沿った長さの半分程度とされている。また、レンズホルダ9Cでは、大径孔9bを形成する壁部のうち底壁部92を除く部分のX軸方向に沿った長さは、天壁部91Cと同一とされている。すなわち、レンズホルダ9Cは、Y軸方向から見て略L字状に形成されている。レンズホルダ9Cでは、レンズホルダ9Bよりも、レンズホルダ9Cの上方からのUV光を遮る部分が少ないため、接着層B2を硬化させるためのUV光をより好適にヒートスプレッダ5側に導くことができる。また、レンズホルダ9Cのように、レンズホルダの大径孔9bを構成する壁部は、レンズ8の側面8bの全体を包囲している必要はなく、レンズ8の側面8bの入射面8a側の一部のみを包囲するように構成されてもよい。
【0091】
また、
図20に示される変形例に係る量子カスケードレーザ装置1Aのように、レンズは、必ずしもパッケージ3内に収容されなくてもよい。量子カスケードレーザ装置1Aは、パッケージ3内にレンズ8及びレンズホルダ9を備えない代わりに、パッケージ3の外側に外付けされるレンズ8Aを備えている点で、量子カスケードレーザ装置1と相違している。すなわち、量子カスケードレーザ装置1Aは、パッケージ3の外側に配置され、光出射窓11を透過したレーザ光Lを集光又はコリメートするレンズ8Aを備えている。また、当該相違により、量子カスケードレーザ装置1Aは、ヒートスプレッダ5の代わりに、QCL素子2を光出射窓11に近接する位置に配置可能に構成されたヒートスプレッダ5Aを備えている点でも、量子カスケードレーザ装置1と相違している。上述したように、レーザ光Lのビーム放射角は非常に大きい。このため、光出射窓11によってレーザ光Lの光束を全てパッケージ3の外側に通過させつつ、光出射窓11をなるべく小型化するためには、光出射窓11とQCL素子2のレーザ光Lの出射面(端面2a)とをなるべく近づけることが好ましい。このため、パッケージ3の内部にレンズを備えない量子カスケードレーザ装置1Aは、上述したようなヒートスプレッダ5Aを備えている。
【0092】
量子カスケードレーザ装置1Aによれば、レンズ8Aをパッケージ3の外側に配置される外付け部材とすることにより、レンズ8の配置及び交換等を柔軟に行うことが可能となる。さらに、上述したように、レーザ光Lの光軸方向(X軸方向)に沿った小径孔12の長さw1は、大径孔13の長さw2よりも短い(
図5参照)。上記構成によれば、小径孔12の長さw1が大径孔13の長さw2以上である場合と比較して、光出射窓11をQCL素子2に近づけることができる。これにより、QCL素子2から出射されるレーザ光Lのビーム放射角が大きい場合であっても、レーザ光Lの広がり具合が小さいうちにレーザ光Lを光出射窓11に入射させることが可能となる。その結果、光出射窓11の小型化を図ることができ、ひいてはパッケージ3の小型化を図ることができる。
【0093】
また、上述したように、窓部材15の出射面15bは、反射防止膜152が設けられた第4領域A4を有し、第4領域A4は、X軸方向から見た場合に第1領域A1を含み且つ第1領域A1よりも大きい。量子カスケードレーザ装置1Aのように、パッケージ3内にレンズが設けられておらず、発散光であるレーザ光Lが窓部材15に入射する場合、窓部材15の入射面15aにおいてレーザ光Lが通過する領域は、窓部材15の出射面15bにおいてレーザ光Lが通過する領域よりも小さい。そこで、上記構成のように、入射面15a側の反射防止膜151を出射面15b側の反射防止膜152よりも小さくすることにより(すなわち、第1領域A1を第4領域A4よりも小さくすることにより)、第4領域A4と第1領域A1との差分に対応する領域を第2領域A2として確保できる。このように、レーザ光Lのビーム放射角を考慮して第1領域A1、第2領域A2、及び第4領域A4のサイズを設計することにより、窓部材15の小型化を図ることができ、ひいてはパッケージ3の小型化を図ることができる。
【0094】
また、上記実施形態では、窓部材15の出射面15bは、側壁32の外面と略面一とされていたが、窓部材15の出射面15bは、側壁32の外面よりも、パッケージ3の外側に突出していてもよい。つまり、窓部材15の厚さは、大径孔13の長さw2よりも大きくてもよい。この場合、パッケージ3の外側から窓部材15を側壁32に接合する際の作業性を向上させることができる。また、量子カスケードレーザ装置1Aのように外付けのレンズ8Aを窓部材15の出射面15bに取り付ける場合には、レンズ取付の作業性を向上させることもできる。また、側壁32を薄肉化することによってパッケージ3の小型化を図ったり、レンズ8Aを確実に窓部材15に近接させて配置したりすることが可能となる。
【0095】
また、上記実施形態では、半導体レーザ素子の一例として、量子カスケードレーザ素子(QCL素子2)を例示したが、パッケージ3に収容される半導体レーザ素子として、量子カスケードレーザ素子以外のレーザ素子が用いられてもよい。また、半導体レーザ素子は、活性層上部に回折格子構造が設けられた分布帰還型(DistributedFeedback:DFB)半導体レーザ素子であってもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、バタフライパッケージであるパッケージ3を例示したが、パッケージの形態はこれに限られない。例えば、パッケージは、CANパッケージであってもよい。
【符号の説明】
【0097】
1,1A…量子カスケードレーザ装置(半導体レーザ装置)、2…量子カスケードレーザ素子(半導体レーザ素子)、2a…端面(出射面)、3…パッケージ、5,5A…ヒートスプレッダ、8,8A…レンズ、8a…入射面、8b…側面、8c…出射面、9,9A,9B,9C…レンズホルダ、9a…小径孔、9b…大径孔、9c…座ぐり面、9d…溝部(凹部)、11…光出射窓、12…小径孔(第1孔部)、13…大径孔(第2孔部)、14…座ぐり面、15…窓部材、15a…入射面、15b…出射面、15c…側面、16…半田部材、31…底壁、32…側壁、33…天壁、53…第2上面(第2取付面)、53a…凸部(第2凸部)、91…天壁部(第2壁部)、92…底壁部(第1壁部)、92a…下面(第1取付面)、92b…凸部(第1凸部)、92c…切り欠き、151…反射防止膜(第1反射防止膜)、152…反射防止膜(第2反射防止膜)、153…金属膜、A1…第1領域、A2…第2領域、A3…第3領域、A4…第4領域、AX1,AX2,AX3…中心軸、B1…樹脂接着剤、B2…接着層、D…方向、L…レーザ光。