IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 岩谷産業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図1
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図2
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図3
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図4
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図5
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図6
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図7
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図8
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図9
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図10
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図11
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図12
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図13
  • 特許-溶接部品および溶接部品の製造方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】溶接部品および溶接部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20241213BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20241213BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20241213BHJP
   B23K 35/32 20060101ALN20241213BHJP
   C22C 27/04 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/23 B
B23K9/23 E
B23K35/30 320R
C22C9/00
B23K35/32 A
C22C27/04 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024096919
(22)【出願日】2024-06-14
【審査請求日】2024-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】藤川 敦士
(72)【発明者】
【氏名】石井 正信
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】南 和樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】檜尾 雅俊
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-183489(JP,A)
【文献】特開2023-092555(JP,A)
【文献】特開2024-056397(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061332(WO,A1)
【文献】特開昭52-092840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 35/30
C22C 9/00
B23K 35/32
C22C 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材と、
銅から構成される第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接合する溶接部と、を備え、
前記溶接部は、
前記第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、
前記第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、
を含み、
前記第2領域内には、前記第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域と前記第2領域とは、前記界面において金属結合を形成している、溶接部品。
【請求項2】
前記クロム系ステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼である、請求項1に記載の溶接部品。
【請求項3】
前記フェライト系ステンレス鋼は、JIS規格SUS430系ステンレス鋼である、請求項2に記載の溶接部品。
【請求項4】
前記第1部材および前記第2部材は管状の形成の形状を有し、
前記第1部材および前記第2部材のいずれか一方の長手方向端部は、いずれか他方の長手方向端部である挿入部が挿し入れられる継手部を含み、
前記第1部材および前記第2部材は、前記継手部に前記挿入部が挿し入れられた状態で、前記継手部の先端部において、前記溶接部により互いに接合されている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の溶接部品。
【請求項5】
前記挿入部が前記第1部材に含まれ、
前記継手部が前記第2部材に含まれている、請求項4に記載の溶接部品。
【請求項6】
クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材および銅から構成される第2部材を準備する工程と、
前記第1部材および前記第2部材と電極との間にアークを形成した状態で、前記アーク内に溶加材を供給し、前記第1部材、前記第2部材および前記溶加材を前記アークにより加熱することで溶融させ、溶融池を形成する工程と、
前記溶融池を凝固させることにより、前記第1部材と前記第2部材とを接合する溶接部を形成する工程と、を備え、
前記溶加材は、4.5質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなり、
前記溶接部を形成する工程において形成された前記溶接部は、
前記第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、
前記第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、
を含み、
前記第2領域内には、前記第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、
前記第1領域と前記第2領域とは、前記界面において金属結合を形成している、
溶接部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接部品および溶接部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、銅からなる部材と鋼からなる部材とを溶接により接合する技術が知られている。また、溶接の際に用いられる溶加棒(溶加材)として、銅と鉄との合金が採用され得ることが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-087688号公報
【文献】特開2020-076136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、従来の手法により、銅からなる部材と鋼からなる部材とを溶接により接合することができる。しかし、銅からなる部材とクロム系ステンレス鋼からなる部材とを溶接により接合する場合、溶接部の強度が不十分になるという問題がある。
【0005】
そこで、銅からなる部材とクロム系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の強度を向上させることを、本開示の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った溶接部品は、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材と、銅から構成される第2部材と、第1部材と第2部材とを接合する溶接部と、を備える。溶接部は、第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、を含む。第2領域内には、第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在する。第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在する。第1領域と第2領域とは、界面において金属結合を形成している。
【0007】
本開示に従った溶接部品の製造方法は、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材および銅から構成される第2部材を準備する工程と、第1部材および第2部材と電極との間にアークを形成した状態で、アーク内に溶加材を供給し、第1部材、第2部材および溶加材をアークにより加熱することで溶融させ、溶融池を形成する工程と、溶融池を凝固させることにより、第1部材と第2部材とを接合する溶接部を形成する工程と、を備える。溶加材は、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0008】
上記溶接部品および溶接部品の製造方法によれば、銅からなる部材とクロム系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の強度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る溶接部品の構造を示す模式的な断面図である。
図2図2は、図1のA部分における模式的な拡大図である。
図3図3は、図2のB部分における模式的な拡大図である。
図4図4は、実施の形態に係る溶接部品の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図5図5は、実施の形態に係る溶接部品の製造方法を説明するための模式的な正面図である。
図6図6は、実施の形態に係る溶接部品の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図7図7は、変形例に係る溶接部品の構造を示す模式的な断面図である。
図8図8は、変形例に係る溶接部品の製造方法を説明するための模式的な断面図である。
図9図9は、溶接部品としての試験片について、引張試験後の状態を示す写真である。
図10図10は、実験に用いた試験片の模式的な断面図である。
図11図11は、図10のC部分に相当する部分の金属組織を示す光学顕微鏡写真である。
図12図12は、図11のZ1部分における元素の分布の分析結果を示す拡大写真である。
図13図13は、図11のZ2部分における元素の分布の分析結果を示す拡大写真である。
図14図14は、図11のZ3部分における元素の分布の分析結果を示す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
本開示の溶接部品は、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材と、銅から構成される第2部材と、第1部材と第2部材とを接合する溶接部と、を備える。溶接部は、第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、を含む。第2領域内には、第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在する。第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在する。第1領域と第2領域とは、界面において金属結合を形成している。
【0011】
本発明者らは、銅から構成される部材とクロム系ステンレス鋼から構成される部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の強度を向上させる方策について検討した。その結果、以下のような知見が得られた。
【0012】
銅から構成される部材とクロム系ステンレス鋼から構成される部材とを溶接により接合する場合、銅と鉄とが固溶体を形成しにくいため、銅とクロム系ステンレス鋼とが一様に混合された溶接部を形成することは難しい。このため、溶接部は、クロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、銅を主成分とする第2領域とを有しており、第1領域と第2領域との間に界面が形成される。
【0013】
本開示の溶接部品においては、第2領域内には、クロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在する。第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在する。そして、第1領域と第2領域とは、上記界面において金属結合を形成する。その結果、本開示の溶接部品によれば、銅から構成される部材とクロム系ステンレス鋼から構成される部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の強度を向上させることができる。
【0014】
上記溶接部品において、クロム系ステンレス鋼がフェライト系ステンレス鋼であってもよい。フェライト系ステンレスは、本開示の溶接部品における第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼として好適である。
【0015】
上記溶接部品において、上記フェライト系ステンレス鋼は、JIS規格SUS430系ステンレス鋼であってもよい。JIS規格SUS430系ステンレス鋼は、本開示の溶接部品における第1部材を構成するフェライト系ステンレス鋼として好適である。
【0016】
上記溶接部品において、第1部材および前記第2部材は管状の形成の形状を有していてもよい。第1部材および第2部材のいずれか一方の長手方向端部は、いずれか他方の長手方向端部である挿入部が挿し入れられる継手部を含んでいてもよい。第1部材および第2部材は、継手部に挿入部が挿し入れられた状態で、継手部の端部において、溶接部により互いに接合されていてもよい。管状の形状を有する部材同士が接合された溶接部品においては、内部を流れる流体の影響、振動の影響などにより、溶接部における強度が問題となる場合がある。溶接部における強度が向上した本開示の溶接部品は、このような部品への適用に適している。
【0017】
上記溶接部品において、挿入部が第1部材に含まれ、継手部が第2部材に含まれてもよい。この構造は、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材と、銅から構成される第2部材との接合構造として好適である。
【0018】
本開示の溶接部品の製造方法は、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材および銅から構成される第2部材を準備する工程と、第1部材および第2部材と電極との間にアークを形成した状態で、アーク内に溶加材を供給し、第1部材、第2部材および溶加材をアークにより加熱することで溶融させ、溶融池を形成する工程と、溶融池を凝固させることにより、第1部材と第2部材とを接合する溶接部を形成する工程と、を備える。溶加材は、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【0019】
本発明者らの検討によれば、アーク溶接において、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる溶加材を採用することによって、第2領域内に複数の第1島状領域が互いに分離して存在し、かつ第1領域内に複数の第2島状領域が互いに分離して存在し、第1領域と第2領域とが金属結合を形成する状態を達成することが容易となる。そのため、本開示の溶接部品の製造方法によれば、銅からなる部材とクロム系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の強度を向上させることができる。
【0020】
[実施形態の詳細]
次に、本開示の溶接部品10の実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0021】
図1は、実施の形態に係る溶接部品10の構造を示す概略断面図である。図2は、図1のA部分の拡大図であり、溶接部3を示す概略図である。図3は、図2のB部分の拡大図であり、溶接部3の構造を模式的に示す。図1を参照して、本実施の形態の溶接部品10は、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材1と、銅から構成される第2部材2と、第1部材1と第2部材2とを接合する溶接部3とを備える。
【0022】
第1部材1を構成するクロム系ステンレス鋼は、クロムを含みかつニッケルを含まないステンレス鋼であり、例えば、フェライト系ステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼には、例えば、JIS規格SUS430系ステンレス鋼(JIS G 4304:2012およびJIS G 4305:2012)を採用できる。また、フェライト系ステンレス鋼としては、JIS規格SUS430系ステンレス鋼のほか、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS443J1、SUS444、SUS445J1、SUS445J2、SUS447J1、SUSXM27が挙げられる。JIS規格SUS430系ステンレス鋼は、JIS規格SUS430と、その末尾に記号が付されたものとを含む。例えば、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS430Fは、「JIS規格SUS430系ステンレス鋼」の範疇である。また、第1部材1を構成するクロム系ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼に限らず、マルテンサイト系ステンレス鋼であってもよい。第2部材2は、純銅、すなわち純度99.9質量%以上の銅から構成されている。
【0023】
ここで、本開示において「ニッケルを含まない」とは、ニッケルを含まないとみなせる範囲のものを含み、厳密な意味での「ニッケルを含まない」ではない。例えば、クロムを含むステンレス鋼において、ニッケルの含有率が1質量%以下であれば、クロム系ステンレス鋼の範疇である。
【0024】
第1部材1は、第1本体部11と、継手部12と、を備える。継手部12は、第2部材2の長手方向端部が挿し入れられる部分である。本実施の形態では、第2部材2において、継手部12に挿し入れられる部分を「挿入部22」という。継手部12は、第1本体部11の長手方向の端から中心軸に沿って延びている。継手部12は、第1部材1の長手方向端部に含まれる。
【0025】
第1部材1において、第1本体部11は、外周面111と、内周面112とを含んでいる。外周面111は円筒面形状を有している。内周面112は、外周面111と共通の中心軸を有する円筒面形状を有している。外周面111と内周面112とは、中心軸に沿って見ると、同心円状に配置されている。第1部材1は、内周面112に取り囲まれることで形成された流路(以下、第1流路13という場合がある)を有する。第1部材1は、管状の形状を有している。第1部材1は、クロム系ステンレス鋼から構成されたパイプである。
【0026】
継手部12は、外周面(以下、「継手外周面121」という)と、内周面(以下、「継手内周面122」という)とを含む。継手外周面121は、円筒面形状を有している。継手外周面121の直径は、外周面111の直径よりも長い。外周面111と継手外周面121とは、外側つなぎ面123を介してつながっている。外側つなぎ面123は、中心軸方向において外周面111から継手外周面121に向かうに従って径方向の外側に行くように、外周面111および継手外周面121に対して傾斜している。継手内周面122は、継手外周面121と共通の中心軸を有する円筒面形状を有している。継手内周面122の直径(継手部12の内径)は、内周面112の直径よりも長い。継手内周面122の直径(継手部12の内径)は、第2部材2の外径と同等である。本開示でいう「同等」は、比較対象同士が実質的に同じである範囲のものを含む。例えば、同じ呼び径のパイプ同士は、同等の直径を有する。
【0027】
第2部材2は、第2本体部21と、挿入部22と、を備える。挿入部22は、第2本体部21の長手方向の端から中心軸に沿って突き出ている。第2本体部21の内径と挿入部22の内径とは、同じ長さである。本実施の形態では、第2本体部21と挿入部22とは、継ぎ目なく、一体に形成されている。挿入部22の内径は、第2本体部21の内径よりも短くてもよいし、長くてもよい。
【0028】
第2部材2において、第2本体部21および挿入部22は、外周面211と、内周面212とを含んでいる。外周面211の直径は、第1部材1の外周面111の直径と同じで、外周面211と共通の中心軸を有する円筒面形状を有している。内周面212の直径は、第1部材1の内周面112の直径と同じであり、内周面212と共通の中心軸を有する円筒面形状を有している。内周面212は、外周面111と共通の中心軸を有している。第2部材2は、内周面212に取り囲まれることで形成された流路(以下、第2流路23という場合がある)を有する。第2部材2は、管状の形状を有している。第2部材2は、銅から構成されたパイプである。継手部12に対して挿入部22が挿し入れられると、第1流路13と第2流路23とが互いに通じ合い、一つの流路を形成する。
【0029】
第1部材1の内周面112の直径(第1部材1の内径)と、第2部材2の内周面212の直径(第2部材2の内径)とが同じ長さであることで、流路を流れる流体に圧力損失が生じにくい。第1部材1における第1本体部11の外径と、第2部材2の外径とは、異なる長さであってもよい。
【0030】
第1部材1および第2部材2は、継手部12に対して挿入部22が挿し入れられた状態において、継手部12の先端部において、溶接部3により互いに接合されている。図2を参照して、溶接部3は、第1領域31と、第2領域32とを含んでいる。第1領域31と第2領域32との間には、界面33が形成されている。すなわち、第2領域32は、第1領域31との間に界面33を形成するように配置されている。第1領域31は、第1部材1を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする領域である。第2領域32は、銅を主成分とする領域である。第1領域31は、溶接部品10の長手方向(中心軸に沿う方向)において、界面33よりも第1部材1側に位置している。第2領域32は、溶接部品10の長手方向(中心軸に沿う方向)において、界面33よりも第2部材2側に位置している。界面33は、溶接部3の厚み内において、溶接部3を横切っている。界面33は、凹凸面であってもよいし、曲面であってもよいし、平面であってもよい。
【0031】
図3を参照して、第2領域32内には、第1部材1を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域321が互いに分離して存在している。複数の第1島状領域321は、第2領域32の厚み内に存在し、複数の第1島状領域321のうちの一部が第2領域32の表面に現れる。第1領域31内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域311が互いに分離して存在している。複数の第2島状領域311は、第1領域31の厚み内に存在しており、複数の第2島状領域311のうちの一部が第1領域31の表面に現れる。そして、第1領域31と第2領域32とは、界面33において金属結合を形成している。ここで、界面33において金属結合が形成されている状態とは、界面33において、第1領域31を構成する金属原子の格子と第2領域32を構成する金属原子の格子とが連続性を有している状態を意味する。
【0032】
本実施の形態の溶接部品10において、第2領域32内には、第1部材1を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域321が存在する。第1領域31内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域311が存在する。そして、上述したように、第1領域31と第2領域32とは、界面33において金属結合を形成している。その結果、本実施の形態の溶接部品10は、溶接部3の強度が向上している。
【0033】
次に、本実施の形態の溶接部品10の製造方法の一例について説明する。図4は、溶接部品10の製造方法の概略を示すフローチャートである。図5および図6は、溶接部品10の製造方法を説明するための模式図である。
【0034】
図4を参照して、本実施の形態の溶接部品10の製造方法では、まず工程S10として素材準備工程が実施される。この工程S10では、素材として、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材1および銅から構成される第2部材2が準備される。図5を参照して、第1部材1は第1本体部11および継手部12を有する。第2部材2は第2本体部21および挿入部22を有する。第1本体部11と第2本体部21とは、例えば、同一の内径および外径を有する中空円筒状の形状を有している。工程S10では、第1部材1と第2部材2とは、継手部12に挿入部22が挿し入れられた状態となるように配置される。
【0035】
次に、工程S20として溶融池形成工程が実施される。この工程S20では、図6を参照して、工程S10において準備された第1部材1の端部(継手部12の先端部)と、第2部材2において挿入部22に隣接する部分(第2本体部21)と電極42との間にアーク6を形成した状態で、アーク6内に溶加材としての溶加棒5を供給し、継手部12、第2本体部21および溶加棒5をアーク6により加熱することで溶融させ、溶融池7が形成される。溶融池7は、継手部12の端部と第2本体部21とでなす入隅部に形成される。
【0036】
電極42は、例えば、タングステン(W)などの高融点の金属材料からなっている。電極42は、先端部を除いた部分の外周面が中空円筒状のノズル41に取り囲まれるとともに、電極42の先端部がノズル41から外部に露出している。ノズル41および電極42は、溶接トーチ4を構成する。電極42の外周面とノズル41の内周面の間の環状の空間から、継手部12の外周面(継手外周面121)および第2本体部21の外周面211に向かうように、矢印Aに沿ってシールドガスが吐出される。シールドガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを採用することができる。シールドガスとしては、Arとヘリウム(He)との混合ガスを採用してもよい。
【0037】
シールドガスが矢印Aに沿って吐出されることにより、アーク6が外部の空気から遮断される。溶加棒5は、アーク6による加熱によって溶融し、溶滴51として溶融池7へと到達する。溶融池7は、溶融した第1部材1、溶融した第2部材2および溶融した溶加棒5から構成される。溶加棒5は、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる。
【0038】
次に、工程S30として凝固工程が実施される。この工程S30では、工程S20において形成された溶融池7を凝固させることにより、第1部材1と第2部材2とを接合する溶接部3が形成される。具体的には、工程S20において溶融池7が形成された第1部材1および第2部材2を周方向に沿って所定の角度、例えば、5°から10°程度回転させる。これにより、アーク6は先に形成された溶融池7に隣接する領域に新たな溶融池7を形成するとともに、先に形成された溶融池7は凝固することにより、溶接部3(ビード)となる(図1参照)。このような手順が繰り返されて第1部材1および第2部材2の全周にわたって溶接部3が形成されることにより、本実施の形態の溶接部品10の製造方法は完了し、本実施の形態の溶接部品10が得られる。
【0039】
本実施の形態の溶接部品10の製造方法の工程S20では、4.0質量%以上4.9質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる溶加棒5(溶加材)が採用される。これにより、第2領域32内に複数の第1島状領域321が存在し、かつ第1領域31内に複数の第2島状領域311が存在し、第1領域31と第2領域32とが金属結合を形成する状態を達成することが容易となっている。その結果、本実施の形態の溶接部品10の製造方法によれば、溶接部3の強度を向上させることができる。溶加棒5は、4.0質量%以上4.8質量%以下の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなることが好ましい。鉄の融点は、銅の融点に比べて高いため、銅の融点を超え鉄の融点以下の温度域では、固相の鉄と液相の銅とが共存する状態となる。鉄の含有量を4.8質量%以下に低減することにより、鉄の偏析が抑制され、溶接部3の強度の向上に寄与する。
【0040】
溶加棒5の直径は、1.2mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.9mm以下である。このような溶加棒5を用いることで、第2領域32内に複数の第1島状領域321が存在し、かつ第1領域31内に複数の第2島状領域311が存在し、第1領域31と第2領域32とが金属結合を形成する状態を達成しやすい。
【0041】
[溶接部品の変形例]
上記実施の形態では、第1部材1と第2部材2とは、継手部12に挿入部22が挿し入れられた状態で、溶接部3により接合されたが、図7に示すように、第1部材1と第2部材2とは突合せ溶接により接合されてもよい。図7は、変形例に係る溶接部品10の構造を示す概略断面図である。図8は、変形例に係る溶接部品10において、溶接前の状態を示す模式的な断面図である。図7を参照して、第1部材1の内周面112の直径は、第2部材2の内周面212の直径と、同じ長さである。第1部材1の外周面111の直径は、第2部材2の外周面211の直径と、同じ長さである。
【0042】
図8を参照して、第1部材1の中心軸方向の端面のうち、第2部材2に対向する端面(以下、「第1端面14」という)は、テーパ面を含む。第2部材2の中心軸方向の端面のうち、第1部材1に対向する端面(以下、「第2端面24」という)は、テーパ面を含む。第1端面14のテーパ面と第2端面24のテーパ面は、径方向の外側に進むに従って対向間の距離が大きくなるように、第1部材1および第2部材2の中心軸に直交する仮想面に対して傾斜している。仮想面に対するテーパ面の角度(以下、ベベル角θという)は、10度以上45度以下が好ましく、より好ましくは15度以上30度以下である。このように構成することにより、溶接部において、界面33を介して、第1領域および第2領域を形成しやすい。
【0043】
第1端面14および第2端面24の各々は、ルート面を有してもよい。ルート面は、端面14,24において、第1部材1および第2部材2の中心軸に直交する平面である。ルート面は、本実施の形態では、端面14,24において、テーパ面以外の面である。第1部材1と第2部材2とを中心軸が一致するように、かつ溶接可能な位置に配置すると、ルート面同士が所定の間隔(ルート間隔W)をおいて対向する。ルート間隔Wは、0.01mm以上0.5mm以下が好ましく、より好ましくは、0.1mm以上0.4mm以下である。このように構成することにより、溶接部において、界面33を介して、第1領域31および第2領域32を形成しやすい。
【0044】
溶接部3は、第1部材1と第2部材2とを接合する。シールドガスとしては、上記実施の形態と同様、例えば、アルゴン等の不活性ガスを採用できる。また、溶融池形成工程において、第1流路13および第2流路23には、バックシールドガスが流される。バックシールドガスとしては、シールドガスと同様に、例えば、アルゴン、アルゴンとヘリウムとの混合ガス等の不活性ガスを採用することができる。溶接部3は、上記実施の形態の製造方法で説明したように、凝固工程において、第1部材1と第2部材2との間に形成された溶融池7が凝固することにより形成される。第1部材1および第2部材2の全周にわたって、溶接部3が形成されることにより、溶接部品10を得ることができる。
【0045】
[その他の変形例]
上記実施の形態において、第1部材1および第2部材2は、いずれもパイプであったが、本開示において、第1部材1および第2部材2はパイプでなくてもよい。例えば、第1部材1がクロム系ステンレス鋼からなる溶接式管継手、第2部材2が銅から構成されたパイプであってもよい。また、第1部材1および第2部材2が、筒状以外の形状(例えば、平板状、ブロック状等)の部材であってもよい。
【0046】
上記実施の形態に係る第1部材1は、クロム系ステンレス鋼のみから形成されたが、第1部材1には不純物が含まれていてもよい。また、第2部材2にも、不純物が含まれていてもよい。
【0047】
上記実施の形態において、第1部材1が継手部12を有し、第2部材2が挿入部22を有したが、第1部材1が挿入部22を有し、第2部材2が継手部12を有してもよい。
【実施例
【0048】
本開示の溶接部品10を作製し、本開示の溶接部品10の効果を確認するとともに、溶接部3の金属組織を確認する実験を行った。実験の手順は以下のとおりである。ただし、本開示の溶接部品10は以下の実施例に限定されない。
【0049】
上記実施の形態において説明した溶接部品10の製造方法により、平板状のクロム系ステンレス鋼と銅とが接合された溶接部品10としての試験片を作製した。第1部材1を構成するクロム系ステンレス鋼として、平板上のフェライト系ステンレス鋼板を用いた。フェライト系ステンレス鋼としては、JIS規格SUS430を採用した。シールドガスとしてはArガスを採用した。シールドガスの流量は、15L/minとした。電極42の直径は2.4mm、ノズル41の内径は6mmとした。電極42を構成する材料としては、2質量%のセリウム(Ce)が添加されたタングステン(W)を採用した。
【0050】
直流溶接電源を用い、電流の制御にはパルス溶接法を用いた。パルス制御の周波数は400Hzとした。ベース電流/パルスピーク電流を12A/60Aとした。図10を参照して、第1部材1としてのフェライト系ステンレス鋼板の上に、第2部材2としての銅板を重ねた上で、第2部材2の先端部と第1部材1の主面との間で溶接を行った。
【0051】
溶加棒5の組成は、鉄4.5質量%および銅95.5質量%を含む組成(4.5質量%の鉄を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる組成)とし、同じ条件の試験片を3つ作製した。得られた試験片について、以下のように(1)施工性の確認、および(2)引張試験を実施した。
【0052】
(1)施工性の確認
上記実施の形態において説明した手順に沿って溶接を実施し、良好な溶接が達成できたかどうかを確認した。外観上良好な溶接が達成できた場合を「合格」、多数のボイドが発生するなど外観上良好な溶接が達成できなかった場合を「不合格」と判定した。
【0053】
(2)引張試験
溶接部品10を長手方向に引っ張り、破断させる引張試験を実施した。試験は、試験片が常温(室温)の状態で実施した。そして、溶接部3以外で破断した場合を「合格」、溶接部3にて破断した場合を「不合格」と判定した。
【0054】
次に、上記(1)(2)に係る実験の結果について説明する。3つの溶接部品10については、いずれも、施工性が合格であったほか、引張試験についても合格と判断された。
【0055】
図9は、溶接部品10の引張試験後の状態を示す写真である。図9から明らかなように、試験片は、溶接部3以外の領域、具体的には第2部材2において破断した。引張試験において、破断するまでの最大応力は、銅のO材(焼鈍処理材)の引張強度と同等であった。このように、いずれの試験片においても、引張試験において溶接部3に亀裂が発生することなく、第2部材2において破断したことから、溶接部3の引張強度は、第2部材2の引張強度よりも強いことが裏付けられた。
【0056】
次に、作製した試験片について、溶接部3の金属組織の状態を確認した。図11,12,13,14は、溶接部3の金属組織を示す光学顕微鏡写真である。図11は、図10において、C部分に相当する部分の光学顕微鏡写真である。図12は、図11において、第1領域31のうちのZone1(Z1部分)を1000倍に拡大した写真である。図13は、図11において、第1領域31のうちのZone2(Z2部分)を1000倍に拡大した写真である。図14は、図11において、第2領域32のうちのZone3(Z3部分)を1000倍に拡大した写真である。表1は、溶接部3における元素の分布を、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて分析した結果を示す。
【0057】
【表1】

図11を参照して、クロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域31においては、第2領域32との界面33から近い箇所(zone1)と、界面33から遠い箇所(zone2)との2箇所における元素の分布を分析した。また、銅に含まれる元素を主成分とする第2領域32においては、Zone3における元素の分布を分析した。
図11から図14および表1を参照して、溶接部3は、第1部材1を構成するSUS430に含まれる元素(Fe、Cu、NiおよびCr)を主成分とする第1領域31と、Cuを主成分とする第2領域32とが、界面33を境界にして含んでいる。そして、第2領域32内には、SUS430に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域321(表1のFe相)が存在し、第1領域31内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域311(表1のCu相)が存在している。なお、Fe相において微量のNiが含まれている理由は、クロム系ステンレスに含まれる不純物としてのNiが測定されたものと考えられる。
【0058】
このように、溶接部3は、第1領域31と第2領域32とを含み、かつ第2領域32内において、SUS430に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域321が存在し、第1領域31内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域311が存在している。さらに、上記引張試験において、すべての試験片で溶接部30に亀裂が発生しなかった。以上のことから、第1領域31と第2領域32とは、界面33において金属結合を形成していると判断できる。すなわち、本開示の溶接部品10の要件を満たす3つの溶接部品10としての試験片は、溶接部3における強度が向上することが確認された。
【0059】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
10 溶接部品、1 第1部材、11 第1本体部、111 外周面、 112 内周面、12 継手部、121 継手外周面、122 継手内周面、123 外側つなぎ面、13 第1流路、14 第1端面、2 第2部材、21 第2本体部、22 挿入部、211 外周面、212 内周面、23 第2流路、24 第2端面、3 溶接部、31 第1領域、311 第2島状領域、32 第2領域、321 第1島状領域、33 界面、4 溶接トーチ、41 ノズル、42 電極、5 溶加棒、51 溶滴、6 アーク、7 溶融池、W ルート間隔、θ ベベル角度。
【要約】
【課題】銅からなる部材とクロム系ステンレス鋼からなる部材とが溶接により接合された溶接部品において、溶接部の強度を向上させること。
【解決手段】溶接部品は、クロム系ステンレス鋼から構成される第1部材と、銅から構成される第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とを接合する溶接部と、を備える。前記溶接部は、前記第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする第1領域と、前記第1領域との間に界面を形成するように配置され、銅を主成分とする第2領域と、を含む。前記第2領域内には、前記第1部材を構成するクロム系ステンレス鋼に含まれる元素を主成分とする複数の第1島状領域が互いに分離して存在する。前記第1領域内には、銅を主成分とする複数の第2島状領域が互いに分離して存在する。前記第1領域と前記第2領域とは、前記界面において金属結合を形成している。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14