(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】セラックを用いた成型体及び構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20241213BHJP
B22C 9/12 20060101ALI20241213BHJP
B22C 9/04 20060101ALI20241213BHJP
B22C 9/02 20060101ALI20241213BHJP
B22C 1/20 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B29C33/38
B22C9/12 A
B22C9/04 Z
B22C9/02 101C
B22C1/20 Z
B22C9/02 103B
(21)【出願番号】P 2024138386
(22)【出願日】2024-08-20
(62)【分割の表示】P 2023209796の分割
【原出願日】2023-12-13
【審査請求日】2024-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2023137664
(32)【優先日】2023-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524295504
【氏名又は名称】森川 敬子
(74)【代理人】
【識別番号】100128794
【氏名又は名称】小林 庸悟
(72)【発明者】
【氏名】森川 健司
(72)【発明者】
【氏名】北村 和久
(72)【発明者】
【氏名】松沢 伸一
(72)【発明者】
【氏名】ホセ アダン ペレス アギラール
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103589886(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103602869(CN,A)
【文献】特開2019-182959(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112979964(CN,A)
【文献】特開2019-019331(JP,A)
【文献】特開2009-082967(JP,A)
【文献】特開2014-073504(JP,A)
【文献】特開2022-083253(JP,A)
【文献】特開2005-027651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00-9/30
B22F 1/00-8/00
10/00-12/90
B29C 33/00-33/76
39/26-39/36
41/38-41/44
43/36-43/42
43/50
45/26-45/44
45/64-45/68
45/73
49/48-49/56
49/70
51/30-51/40
51/44
C09J 1/00-5/10
9/00-201/10
C22C 1/04-1/059
1/08-1/10
33/02
47/00-49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成形品の模型の周囲に付着させる工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記セラック溶液に骨材として砂や金属粉末を付着させる工程と、前記セラック溶液のアルコール分を気化させて砂や金属粉末によって補強された状態に硬化させる工程とを含むことで、成形品の型としての成型体を得ることを特徴とするセラックを用いた成型体の製造方法。
【請求項2】
前記セラックによって成形品の型としての成型体を得る工程の
前の工程として、ロストフォーム方式によって鋳物を製造する際に用いるロストフォーム用塗型剤を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成型品の模型の周囲に付着させると工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記ロストフォーム用塗型剤に骨材として砂や金属粉末を付着させる工程とを含むことを特徴とする請求項1記載のセラックを用いた成型体の製造方法。
【請求項3】
前記成形品型としての成型体を得るための各工程のうち少なくとも一部の工程について複数回行うことを特徴とする請求項2記載のセラックを用いた成型体の製造方法。
【請求項4】
前記成形品の型としての成型体を得た後に、該成型体を補強する型の構成として、乾燥砂又はCO
2砂を用いて鋳型としての構造体を得ることを特徴とする請求項3記載のセラックを用いた成型体の製造方法。
【請求項5】
前記成形品の模型が、ポリスチレンの材料によって形成され、リモネン溶液によって溶解されることや加熱されることによって溶融されることで取り出され、成形品が形成されるための中空が設けられた成形品の型としての成型体を得ることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のセラックを用いた成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属材料に比較して簡便且つ自由度が高く、多孔質成型体などの成型体又は構造体を製造することができるセラックを用いた成型体及び構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然の樹脂であるセラックは、アルコールには溶けるが、トルエンなどの他の有機溶剤には溶けない性質があり、インキのバインダーや、医薬品・食品用の防湿剤などとして使用されている。
【0003】
また、従来の金属の多孔質成型体の製造方法としては、アルミニウム又はアルミニウム合金あるいは他の金属又は合金をベースにしたポーラス金属材料の製造方法であって、少なくとも1種類のスペーサー樹脂の周りに少なくとも1種類の母材金属を被覆したものを連結部に樹脂あるいは空隙を配置した状態になるよう連結させ、圧縮成形した後、熱分解あるいは溶解によってスペーサーを除去し、その際、焼結や拡散接合や接着あるいはそれに類する接合方法により金属どうしを接合する(特許文献1)ものが提案されている。これによれば、空隙の大きさと分布及びマトリックスの壁の厚さを制御すると共に、空隙率を制御し、かつ母材の壁の穴を最小限にして表面に開孔を持たない、あるいは、連通孔の大きさや形を制御したポーラス金属材料を製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-292888号公報(第1頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラックを用いた成型体及び構造体の製造方法に関して解決しようとする問題点は、セラックは、従来から、インクのバインダーや、医薬品・食品用の防湿剤などとして用いられているが、そのセラックを用いることで、簡便且つ適切に多孔質成型体などの成型体を製造することが提案されていなかったことにある。
【0006】
そこで本発明の目的は、セラックを用いることで、簡便かつ適切に多孔質成型体などの成型体を製造することができるセラックを用いた成型体及び構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の一形態によれば、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液に、金属粉末を混合してセラック混合流動体を得る工程と、前記セラック混合流動体を製造型に入れる工程と、前記セラック混合流動体のアルコール分を気化させることで成型体を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の一形態によれば、アルコールの沸点以上で加熱することによってアルコールを沸騰させることや、セラックの熱硬化温度以上の温度で加熱することによって懸濁した状態で熱硬化をさせることで、ポーラスを生成させることができる。
【0009】
また、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の一形態によれば、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成形品の模型の周囲に付着させる工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記セラック溶液に骨材として砂や金属粉末を付着させる工程と、前記セラック溶液のアルコール分が気化させて砂や金属粉末によって補強された状態に硬化させる工程とを含むことで、成形品の型としての成型体を得ることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の一形態によれば、前記セラックによって成形品の型としての成型体を得る工程の前の工程として、ロストフォーム方式によって鋳物を製造する際に用いるロストフォーム用塗型剤を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成型品の模型の周囲に付着させると工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記ロストフォーム用塗型剤に骨材として砂や金属粉末を付着させる工程とを含むことを特徴とすることができる。
【0011】
また、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の一形態によれば、前記成形品型としての成型体を得るための各工程のうち少なくとも一部の工程について複数回行うことを特徴とすることができる。
【0012】
また、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の一形態によれば、前記成形品の型としての成型体を得た後に、該成型体を補強する型の構成として、乾燥砂又はCO2砂を用いて鋳型としての構造体を得ることを特徴とすることができる。
【0013】
また、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の一形態によれば、前記成形品の模型が、ポリスチレンの材料によって形成され、リモネン溶液によって溶解されることや加熱されることによって溶融されることで取り出され、成形品が形成されるための中空が設けられた成形品の型としての成型体を得ることを特徴とすることができる。
【0014】
また、本発明に係るセラックを用いた構造体の製造方法の一形態によれば、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を用い、前記セラックの接着性を利用して、被接着部材としての、パンチングメタル、板状のハニカム、前記パンチングメタルや前記板状のハニカム以外の金属部材、グラスウール、カーボンファイバー、前記セラック及び金属粉末が混合されて設けられた成型体の少なくともいずれか二つの被接着部材を接着させることで複数の層状に貼り合わせる工程を含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るセラックを用いた構造体の製造方法の一形態によれば、前記セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液に、金属粉末を混合してセラック混合流動体を得る工程と、前記セラック混合流動体を層間接着材として用いて前記被接着部材同士を積層させる工程と、前記セラック混合流動体のアルコール分を気化させることで複数枚の金属板が積層された状態に接着させる工程とを含むことを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセラックを用いた成型体及び構造体の製造方法によれば、セラックを用いることで、簡便且つ適切に多孔質成型体などの成型体や、軽量で断熱性及び吸音性に富む構造体を製造することができるという特別有利な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るセラックを用いた成型体及び構造体の製造方法の形態例を説明する。
【0018】
本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法は、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液に、金属粉末を混合してセラック混合流動体を得る工程と、前記セラック混合流動体を製造型に入れる工程と、前記セラック混合流動体のアルコール分を気化させることで成型体を得る工程とを含む。なお、金属粉末としては、例えばアルミ粉末が用いられるが、これに限定されるものではなく、他の金属の粉末を用いることができるのは勿論である。また、セラック溶液としては、例えば75%のアルコール濃度で希釈されているものを用いることができる。
【0019】
本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法によれば、金属粉末が骨材となり、セラックが結着材(バインダー)として機能することで、金属材料のみで成形される場合などに比較して、簡便且つ適切に成型体を製造することができるという特別有利な効果を奏する。
【0020】
なお、セラックとは天然の樹脂であり、そのセラックの特性は、比重:1.02~1.12、比熱:0,53(0℃)、軟化点:70~80℃、酸価:60~80、ケン化価:200~260、ヨウ素価:15~30(ウイスズ法)、熱硬化時間:2~6分(JIS K5909 170℃)、体積固有抵抗:1015~1016Ω・cm、誘電率:3.5~4.0、電気絶縁耐力:40~80kV/mm、SP値:12.5±2.0となっている。
【0021】
また、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法の形態例としては、前記セラック混合流動体のアルコール分を気化させる工程で、アルコールの沸点以上で加熱することによってアルコールを沸騰させることや、セラックの熱硬化温度以上の温度で加熱することによって懸濁した状態で熱硬化をさせることで、ポーラスを生成させる工程を含ませることができる。
【0022】
これによれば、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法では、金属材(粉末)と樹脂のバインダーを使って固着する製法であり、大規模設備を要さないという特別有利な効果がある。これに対して、ポーラス金属(多孔質金属)は、一般的に熱による溶融金属(金属溶解)又は融着金属(焼結)による製法によって得られるもので、大規模設備を必要し、製造コストが高くなってしまう。
【0023】
また、セラックは、低分子から高分子まで幅広い分子量分布を持つ天然樹脂であり、セラックの熱硬化性は、一挙に最終硬化点まで到達せず、任意の硬化状態に調節することができる。すなわち、熱硬化による高分子化も徐々に起こるため、一気に硬化が進む合成樹脂とは大きく異なり、加熱温度と時間を規定することで、硬化の程度を任意に調整することができる。また、熱硬化の前には一旦溶融することもセラック樹脂の大きな特徴である。
【0024】
次に、セラックを用いた成型体の製造方法の具体的な実施例について、緻密成型体の場合と、ポーラス成型体の場合に分けて以下に説明する。基本的に、金属粉末の粘結剤として天然樹脂のセラックを使用し、セラック溶液は例えば75%のアルコール濃度で希釈されているものを利用でき、アルコールによって、アルミ粉末とセラックが懸濁してスラリー状となる。アルコール分が所要以上に気化すると、セラックは硬化を始める。
【0025】
緻密型(緻密成型体)の製造方法は、前述のようにセラック混合流動体を製造型に入れる工程でセラック混合流動体が入れられた製造型を、オーブンへ投入し、オーブン庫内で、アルコール分を気化させる。例えば、オーブンの設定温度を70℃とする。このようにアルコールの沸点以下である低温によって、アルコール分を気化させることで緻密な素材となる。つまり、アルコール分を静かに気化させることでアルミの自重でポロシティの無い緻密な素材となる。
【0026】
また、アルコールの沸点以下でアルコール分を気化させることで、上述のように、セッラクは固形化してアルミ粉末を結合させる。この状態のセラックは、70℃~80℃の熱可塑性の特性を利用し、スラリー状の材料に戻すことが可能である。つまり、熱可塑性と熱硬化性の両方の性質から、熱硬化前であれば、材料のリサイクル化が可能となる。
【0027】
ポーラス型(ポーラス成型体)の製造方法は、前述したようにセラック混合流動体を製造型に入れる工程の後、セラック混合流動体が入れられた製造型を、オーブンへ投入し、例えばオーブンの設定温度を例えば170℃として例えば30分加熱する。これにより、ポーラスが生成された成型体(この実施例では10cm角で厚さ2cm程度の中物の成型体)を得ることができる。すなわち、セラックの熱硬化温度は170℃であることから、それ以上の温度で加熱することで懸濁した状態で熱硬化をする。この状態で固まった金属がポーラスとなる(
図2参照)。このようにポーラス成型体が形成されるのは、一気に高温にすることで、アルコール分が沸騰し、気化ガスによってポーラスになると推定される。つまり、セラック含有のアルコール分を煮沸することで、気化ガスによってポーラスを生成する。なお、加熱中において、セラックが煮沸していたことを視認した。また、加熱時間については、成型体の大きさや形態とオーブンの大きさや予熱条件などによって変化するもので、例えば小さな加熱対象物では、5分程度で、ポーラス成型体を得ることができた。
【0028】
次に、以上に説明したセラックを用いた成型体に関し、金属との親和性について説明する。
【0029】
金属材料の例として、ねずみ鋳鉄、ステンレス、又はスチールとの接合性について実験した。セラックを用いた成型体を形成するセラック混合流動体を、それらの金属に接触させた状態で、170℃で熱硬化したところ、いずれの場合も、セラックを用いた成型体と、それらの金属材料とが、離型できなくなるように結合した。これによれば、セラックは、天然樹脂であるため、自然界の物質と結合しやすく、親和性がよいことが確認された。なお、型の離型剤としては、フッ素やシリコンが適している。
【0030】
以上の製法では、金属溶解設備などを必要とせず、200℃程度のオーブンがあれば、セラックを用いた成型体を容易に製作することが可能である。すなわち、本発明によれば、大型設備を必要としない。また、温度と時間のコントロールによって、ポーラス(多孔質)と緻密素材の作り分けが可能である。天然樹脂のセラックは化石燃料から生成したものでないため、バイオマスとして環境に優しい。さらに、セラックは、天然樹脂であることから加熱しても有害なガスが発生しない。
【0031】
さらに、天然樹脂であることから天然鉱物の物質(鉄、ステンレス、ガラス等)とは親和性が高い。この性質を利用することで、セラックを用いた所要の厚さのある成型体(アルミポーラス金属状の成型体など)を、鋼板などの金属板で挟み込むと、セラックを接着剤として用いて結合され、遮音性と減衰性を兼ね備えた軽量な防音材や制振材及び断熱材を製造できる。また、この金属板は、有孔板(パンチングメタル)とすることができる。
【0032】
次に、本発明に係るセラックを用いた成型体の製造方法を、成形品の型(鋳型や樹脂成形型)を製造する場合に応用する方法について、以下に説明する。
【0033】
本発明に係るセラックを用いた成型体(鋳型など)の製造方法では、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成形品の模型の周囲に付着させる工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記セラック溶液に骨材としての砂や金属粉末を付着させる工程と、前記セラック溶液のアルコール分が気化させて砂や金属粉末によって補強された状態に硬化させる工程とを含むことで、成形品の型としての成型体(鋳型など)を得ることを特徴とする。
【0034】
このとき、前記セラックによって成形品の型としての成型体を得る工程の前又は後の工程として、ロストフォーム方式によって鋳物を製造する際に用いるロストフォーム用塗型剤を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成型品の模型の周囲に付着させると工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記ロストフォーム用塗型剤に骨材として砂や金属粉末を付着させる工程とを含むことで、より崩れにくく強化された安定性のある成形品の型としての成型体(鋳型)を得ることができる。なお、ロストフォーム用塗型剤としては、例えば、フォセコ・ジャパン・リミテッド(神戸市中央区御幸通6-1-10)のスタイロモル144を用いることができる。
【0035】
また、例えば、発泡ポリスチレンによる成形品の模型の場合は、後述するようにリモネン溶液などの溶剤を用いて、その成形品の模型を溶解・流動化させて排出させると、ロストフォーム用塗型剤によって形成された鋳型の内面が荒れた状態になり、骨材としての砂や金属粉末が剥がれ易くなることがある。そこで、その鋳型の内面を補強するため、例えば、前述のセラック溶液やそのセラック溶液に砂などが混合された混合溶液で、その鋳型の内面をどぶ付け状態とすることで、セラックによってコーティングしてもよい。これによれば、鋳型の内面をセラックの薄層によって好適にコーティングでき、鋳肌の仕上がりを向上させることができる。
【0036】
また、通常のロストフォームのおける発泡ポリスチレン(発泡スチロール)では30~50倍に発泡されているが、本発明に係る発泡ポリスチレンによる成形品の模型においては、その発泡率をより低くして緻密な物を利用することができる。これによれば、鋳肌がきめの細かい成型体(鋳物)に仕上げることができる。
【0037】
そして、前記成形品型としての成型体を得るための上述した各工程のうち少なくとも一部の工程について複数回行うことで、より崩れにくく強化された安定性のある成形品の型としての成型体(鋳型)を得ることができる。
【0038】
すなわち、前述の成型体を補強する一例の方法としては、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成形品の模型の周囲(表面)に付着させる工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記セラック溶液に砂や金属粉末を付着させる工程と、前記セラック溶液のアルコール分を気化させて砂や金属粉末によって補強された状態に硬化させる工程とを一連の工程とし、該一連の工程を複数回行うことで、成形品の型としての成型体を得ることができる。なお、セラック溶液のアルコール分を気化させて砂や金属粉末によって補強された状態に硬化させる工程では、複数回の最後の工程では完全に硬化させる必要はあるが、それまでの回の工程では、セラック液によって形成される膜層の原型に接する部分が変形しない程度に硬化させればよく、完全に硬化させる必要はない。同様に、前述のロストフォーム用塗型剤についても一連の工程を複数回行ってもよい。
【0039】
さらに、前記成形品の型としての成型体を得た後に、該成型体を補強する型の構成として、乾燥砂又はCO2砂を用いて鋳型としての構造体を得ることで、強化された安定性のある成形品の型としての構造体(鋳型)を得ることができる。
【0040】
すなわち、前記成型体(鋳型)を補強する一つ方法としては、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を前記模型の周囲に付着させると共に砂などを付着させる工程で形成された前記セラック溶液及び砂などによる被膜状の成型体を、自硬性のあるCO2砂によって裏打ちするように、CO2砂の中に埋没させると共にそのCO2砂を硬化させる工程とを含むことで、CO2砂によってバックアップされた成形品の型としての成型体(鋳型)を得ることができる。
【0041】
以上のセラックを用いた成型体の製造方法によれば、鋳型などの成形品の型としての成型体を容易に形成することができる。すなわち、この成型体は、金属の鋳物用の型や、樹脂成型用の型として好適に用いることができる。これによれば、多品種少量生産に好適に対応できる。なお、3Dプリンターで製造される鋳物用などの成形品の模型としては、例えば、後述するポリスチレンの他に、ロストワックス鋳造で用いられる3Dプリンター用ワックスレジンを使用して形成することもできる。
【0042】
また、セラックを用いた成型体(鋳型)の製造方法の実施例として、前記鋳物の原型(模型)が、ポリスチレンの材料によって形成され、リモネン溶液によって溶解されること、又は加熱されることで溶融されることで取り出され、鋳物が形成される中空が設けられた鋳型を得ることができる。
【0043】
これによれば、鋳物が形成される中空が設けられた鋳型を、容易且つ合理的に形成することができる。例えば、以下の工程を含むことができる。先ず、ポリスチレン模型(原型)にリモネン溶液などの溶媒を注入して膨潤・溶解させる。溶解したペースト状のポリスチレン模型を鋳型より取り出す。その後、又は前記のリモネン溶液などの溶媒を用いる工程を行うことなく、加熱されることで、ポリスチレン模型を溶融・流動化させて流出させる。これによって、セラックを用いた鋳型にできた空間に金属溶融湯を流し込み、鋳物を製造(鋳造)できる。なお、発泡ポリスチレンによる成形品の模型の場合は、加温したリモネン溶液を用いて、その成形品の模型を適切に溶解・流動化させて排出できる。
【0044】
上記の実施例の具体的な工程例を、以下に説明する。なお、以下では3Dプリンターで製造された成形品の模型を用いた例を説明しているが、これに限定されず、発泡ポリスチレンによる成形品の模型(ロストフォーム方式の模型と同様の工程で製造されたもの)を用いてもよいのは勿論である。
1)3Dプリンターでポリスチレン(PS)の材料で模型(原型)を作成する。
2)3Dプリンターで作成した模型を、前述のセラック溶液と砂や金属粉末とによって、厚手のコーティングをすることでセラックを用いた成型体(鋳型など)を作成する。なお、コーティングの方法としては、どぶ付けによってセラック溶液を付着させた模型に、砂などをシャワー状に振りかけることで、その砂などを効率良く付着させることができる。また、この工程の前又は後に、前述したように、ロストフォーム用塗型剤を模型の周囲に付着させると工程と、そのロストフォーム用塗型剤に骨材として砂や金属粉末を付着させる工程を行うとよい。この場合も、どぶ付けなどによってロストフォーム用塗型剤を付着させた模型に、砂などをシャワー状に振りかけることで、その砂などを効率良く付着させることができる。上記のセラック溶液やロストフォーム用塗型剤による工程は、1~2回程度を行うことでも適切な成型体を得ることが可能であるが、より信頼性の高めた成型体を得るために、適宜に繰り返してもよい。
3)3Dプリンター模型(PS材)をリモネン溶液などの溶媒で溶解させて取り出す。又は、3Dプリンター模型(PS材)を加熱・溶融させることで取り出す。例えば、250℃程度まで加熱することによって、3Dプリンター模型(PS材)を流出させるように溶融させることができる。
4)3Dプリンター模型(PS材)の部分が空洞となり、空洞となった鋳型(厚手のコーティング)を必要に応じて乾燥砂の中へ埋没させるか、CO2砂によってバックアップさせる。この鋳型によって形成される成形品が、小物の場合は乾燥砂でも十分にバックアップできることになり、大物の場合はCO2砂を用いればよいことになる。なお、前述したCO2砂を用いる他の方法であって、セラックの被膜がCO2砂によってバックアップされた成型体である場合は、乾燥砂の中へ埋没させることを要しないことになる。
5)空洞となった部分へ金属溶湯を流し込み、鋳物にする。
【0045】
また、上記の実施例では、ポリスチレン模型にリモネン溶液などの溶媒を注入して溶融させるか、ポリスチレン模型を加熱・溶融させることで取り出すが、溶融するまでに時間がかかるため、それを解決する手段とし、ポリスチレン模型を中空仕様とし、ポリスチレン模型の形状を維持できる最小の肉厚とする。これにより、ポリスチレン模型を取り出すための溶解時間を短縮させることができる。
【0046】
なお、鋳型を製造する際において、その湯道の部分については、型によって標準形状の形態のものを予め発泡スチロールで製造しておき、前述したような3Dプリンターで形成した模型などと接続するとよい。発泡スチロールで形成された部分は、リモネン溶液などの有機溶剤によって極めて容易に溶解するため、鋳物が形成される中空が設けられた鋳型を適切且つ容易に製造することができる。また、前述したセラック溶液に金属粉末を混合して得られるセラック混合流動体を用いて設けられる前述の成型体によれば、成型品を製造する際の中子として用いることができる。
【0047】
次に、複数枚の金属板が積層された状態に接着された構造体を製造するセラックを用いた構造体の製造方法について説明する。
【0048】
このセラックを用いた構造体の製造方法では、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液に、金属粉末を混合してセラック混合流動体を得る工程と、前記セラック混合流動体を層間接着材として用いて金属板同士を積層させる工程と、前記セラック混合流動体のアルコール分を気化させることで複数枚の金属板が積層された状態に接着させる工程とを含むことを特徴とする。
【0049】
これによれば、セラックによる接着を利用し、金属板の複数枚を重ねる構造体を容易に設けることができる。なお、この複数枚の金属板が積層された構造体では、セラック混合流動体が、金属板の層間で硬化して接着材層として機能するもので、その金属板の層間のセラック混合流動体の厚さは、前述のようなセラックを用いた成型体の厚さに比べて十分に薄いものとすることができる。
【0050】
また、金属板が、有孔板や高さが低い板状のハニカムであることで、例えば、有孔板同士や板状のハニカム同士を、相互の開孔をずらして積層した状態で且つ各層間に前述したセラック混合流動体を介在させ、そのセラック混合流動体を硬化させることで、有孔板をより強固に複数枚重ねた形態の金属板積層物(構造体)を得ることができる。すなわち、有孔板やハニカムの開孔にセラック混合流動体が入り込んで硬化できるため、有孔板同士の固着強度を高めることができる。この際に、セラック混合流動体を前述のようにポーラスが生成されるように加熱することで、有孔板同士を接着できると共に、振動や音をポーラス構造によって吸収抑制できる軽量な形態の構造体を得ることができる。なお、金属板の面同士が接触する部分では、主にセラック溶液が入り込んで接着されることになる。
【0051】
また、セラックの接着性を利用して、構造体を製造する方法としては、上記の方法に限定されず、セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を用い、前記セラックの接着性を利用して、被接着部材としての、パンチングメタル、板状のハニカム、前記パンチングメタルや前記板状のハニカム以外の金属部材、グラスウール、カーボンファイバー、前記セラック及び金属粉末が混合されて設けられた成型体の少なくともいずれか二つの被接着部材を接着させることで複数の層状に貼り合わせる工程が行われる場合が含まれる。なお、いずれか二つの被接着部材には、種々の部材の組み合わせの他、例えば二枚のパンチングメタルなど、同種の部材同士も含まれる。これによれば、軽量化した構造体や、断熱性及び吸音性を向上できる構造体を合理的に製造できる。
【0052】
さらに、上述したセラックを用いた構造体としては、平面状の部材(被接着部材)を層状に貼り合せた形状に限定されるものではなく、湾曲や屈曲した面形状のもの同士を接着して層状に形成された構造体や、一対の面状部材によって層状に被接着部材を挟み込むと共に接着することによってサンドイッチ状の層状構造に形成された構造体も含まれる。
【0053】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【要約】
【課題】セラックを用いることで、簡便且つ適切に成形品の型として成型体を製造することができるセラックを用いた成型体の製造方法を提供する。
【解決手段】セラックがアルコールによって溶解されたセラック溶液を、発泡ポリスチレンによる成形品の模型又は3Dプリンターで製造された成形品の模型の周囲に付着させる工程と、前工程で前記成形品の模型に付着された前記セラック溶液に骨材として砂や金属粉末を付着させる工程と、前記セラック溶液のアルコール分を気化させて砂や金属粉末によって補強された状態に硬化させる工程とを含むことで、成形品の型としての成型体を得ることを特徴とする。
【選択図】なし