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特許7603879技術継承支援システム、技術継承支援方法及び技術継承支援プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】技術継承支援システム、技術継承支援方法及び技術継承支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 19/00 20060101AFI20241213BHJP
【FI】
G09B19/00 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024178293
(22)【出願日】2024-10-10
【審査請求日】2024-10-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000181826
【氏名又は名称】社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100181630
【弁理士】
【氏名又は名称】原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】陳 隆明
(72)【発明者】
【氏名】戸田 晴貴
(72)【発明者】
【氏名】太田 智之
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0344919(US,A1)
【文献】特開2023-95875(JP,A)
【文献】特開2021-37115(JP,A)
【文献】特開2019-101260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00-9/56
G09B 17/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度、又は、互いに直交する3軸方向の座標を計測する少なくとも1つの計測装置と、
前記計測装置により取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データに基づいて対象者の作業を評価する情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、前記計測装置により取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データから上下動、左右動及び前後動に係る躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する算出部と、前記算出部で算出した各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度を予め設定されている閾値と比較して、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度が前記閾値以上か否かを評価する評価部とを有し、
前記閾値は、前記計測装置により取得した所定作業における熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータ、又は、互いに直交する3軸方向の座標モデルデータから前記算出部により算出された上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度に基づいて設定される技術継承支援システム。
【請求項2】
前記計測装置は、対象者の上部脊柱部に装着され、互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する第1計測装置を有する請求項1に記載の技術継承支援システム。
【請求項3】
前記計測装置は、対象者の骨盤部に装着され、互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する第2計測装置をさらに有する請求項2に記載の技術継承支援システム。
【請求項4】
前記評価部の評価結果に基づいて動作する警告装置をさらに備え、
前記情報処理装置は、前記評価部の評価結果に基づいて前記警告装置に警告の発報を指示する警告指示部をさらに有し、
前記警告指示部は、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度の少なくとも1つが前記閾値以上の場合に警告の発報を指示し、
前記警告装置は、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも1つが前記閾値以上の場合と、対象者の各姿勢角度の少なくとも1つが前記閾値以上の場合とで異なる警告を発報する請求項1に記載の技術継承支援システム。
【請求項5】
前記警告装置は、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも1つが前記閾値以上の場合は音による警告を発報し、対象者の各姿勢角度の少なくとも1つが前記閾値以上の場合は振動による警告を発報する請求項4に記載の技術継承支援システム。
【請求項6】
前記警告装置は、光による警告を発報する請求項5に記載の技術継承システム。
【請求項7】
計測装置で計測された、対象者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度データ及び角速度データ、又は、互いに直交する3軸方向の座標データを取得するデータ取得ステップと、
取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データから上下動、左右動及び前後動に係る躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する算出ステップと、
算出した各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度を予め設定されている閾値と比較して、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度が前記閾値以上か否かを評価する評価ステップと、を備え、
前記閾値は、前記計測装置により取得した所定作業における熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータ、又は、互いに直交する3軸方向の座標モデルデータから算出した上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度に基づいて設定される技術継承支援方法。
【請求項8】
計測装置で計測された、対象者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度データ及び角速度データ、又は、互いに直交する3軸方向の座標データを取得するデータ取得ステップと、
取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データから上下動、左右動及び前後動に係る躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する算出ステップと、
算出した各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度を予め設定されている閾値と比較して、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度が前記閾値以上か否かを評価する評価ステップと、を含む処理をコンピュータに実行させ、
前記閾値は、前記計測装置により取得した所定作業における熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータ、又は、互いに直交する3軸方向の座標モデルデータから算出した上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度に基づいて設定される技術継承支援プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熟練者の作業技術を非熟練者に継承させることを支援するための技術継承支援システム、技術継承支援方法及び技術継承支援プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、医療・福祉サービス業、運輸業、建設業などの体を使って働く業種では、業務に不慣れな労働者も熟練者と同様の作業を行う必要がある。また、このような業種では、近年人手が不足しており、非正規労働者、高齢労働者、外国人労働者など不慣れな労働者が作業に従事する場面が増えてきている。不慣れな労働者は、無理な姿勢及び動作で作業を行うことがあり、無理な姿勢及び動作の作業で体を損傷してしまうという問題があった。すなわち、例えば、被介護者をベッドから車椅子へ又は車椅子からベッドへ移乗させる移乗作業、被介護者の入浴を介助する入浴介助作業、被介護者の排便時にトイレで支援する排便支援作業などの介護作業において、被介護者を介護する際に、無理な姿勢及び動作で作業を行った結果、労働者の腰部が損傷するという問題があった。
【0003】
このような問題を解消するためには、非熟練者が熟練者の作業技術を早期に習得することが望まれる。例えば、特許文献1では、熟練者が不在の場合でも熟練者の技術を非熟練者に伝承可能な技術伝承トレースシステムが開発されている。また、特許文献2では、使用者の体に掛かる負荷の程度を表す負荷指数を算出できる負荷測定システムが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-153717号公報
【文献】特開2020-124464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術伝承トレースシステムは、予め用意されている熟練者の所定作業に関する動作モデルデータと作業者の実動作に対応した実動作データとを比較して、動作モデルデータを実動作データに対応した形式に変換している。そして、実動作データと変換後の動作モデルデータとを画面に重畳表示させて、実動作データと変換後の動作モデルデータとの画面上でのズレ量が所定閾値内であるか否かに基づいて、作業者の所定作業が正しいか否かを判定している。
【0006】
特許文献2の負荷測定システムは、腰から脊椎の延在方向の上側及び下側に離れた位置に加速度センサを有する負荷測定装置を装着し、ユーザの上体の傾き及び旋回等の姿勢を反映した物理量、例えば、腰の屈曲等に伴う地面に対する脊椎の角度等を測定している。そして、測定値に基づく腰部への負担の程度を算出し、予め定められた基準と比較し、比較した結果に応じて警告を行っている。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のシステムは、非熟練者の作業時の姿勢又は動作を、熟練者の作業時の姿勢若しくは動作、又は、理想とする姿勢若しくは動作と比較しているが、作業において重要な要素である動作の滑らかさについては評価していない。そのため、非熟練者が作業時の姿勢又は特定の動作に注力するあまり、姿勢と姿勢との間の繋ぎの動作、又は、特定の動作と特定の動作との間の繋ぎの動作が滑らかにならず、滑らかでない動作で体に無理が生じ、依然として体を損傷してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、所定作業の一連の動作を通して体への負担が少ない熟練者の技術を作業者に継承させることを支援する技術継承支援システム、技術継承支援方法及び技術継承支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の技術継承支援システムは、対象者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度、又は、互いに直交する3軸方向の座標を計測する少なくとも1つの計測装置と、計測装置により取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データに基づいて対象者の作業を評価する情報処理装置とを備える。情報処理装置は、計測装置により取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データから上下動、左右動及び前後動に係る躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する算出部と、算出部で算出した各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度を予め設定されている閾値と比較して、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度が閾値以上か否かを評価する評価部とを有する。閾値は、計測装置により取得した所定作業における熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータ、又は、互いに直交する3軸方向の座標モデルデータから算出部により算出された上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度に基づいて設定される。
【0010】
好ましい実施形態の技術継承支援システムでは、計測装置は、対象者の上部脊柱部に装着され、互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する第1計測装置を有する。
【0011】
さらに好ましい実施形態の技術継承支援システムでは、計測装置は、対象者の骨盤部に装着され、互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する第2計測装置をさらに有する。
【0012】
また、好ましい実施形態の技術継承支援システムは、評価部の評価結果に基づいて動作する警告装置をさらに備える。情報処理装置は、評価部の評価結果に基づいて警告装置に警告の発報を指示する警告指示部をさらに有する。警告指示部は、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合に警告の発報を指示する。警告装置は、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合と、対象者の各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合とで異なる警告を発報する。
【0013】
さらに好ましい実施形態の技術継承支援システムでは、警告装置は、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合は音による警告を発報し、対象者の各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合は振動による警告を発報する。
【0014】
より好ましい実施形態の技術継承支援システムでは、警告装置は、光による警告を発報する。
【0015】
また、本発明の技術継承支援方法は、計測装置で計測された、対象者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度データ及び角速度データ、又は、互いに直交する3軸方向の座標データを取得するデータ取得ステップと、取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データから上下動、左右動及び前後動に係る躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する算出ステップと、算出した各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度を予め設定されている閾値と比較して、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度が閾値以上か否かを評価する評価ステップとを備える。閾値は、計測装置により取得した所定作業における熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータ、又は、互いに直交する3軸方向の座標モデルデータから算出した上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度に基づいて設定される。
【0016】
また、本発明の技術継承支援プログラムは、計測装置で計測された、対象者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度データ及び角速度データ、又は、互いに直交する3軸方向の座標データを取得するデータ取得ステップと、取得した対象者の加速度データ及び角速度データ、又は、対象者の座標データから上下動、左右動及び前後動に係る躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する算出ステップと、算出した各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度を予め設定されている閾値と比較して、対象者の各躍度及び各角躍度の少なくとも一方、並びに、各姿勢角度が閾値以上か否かを評価する評価ステップとを含む処理をコンピュータに実行させる。閾値は、計測装置により取得した所定作業における熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータ、又は、互いに直交する3軸方向の座標データから算出した上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度並びに前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度の少なくとも一方、並びに、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度に基づいて設定される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定作業の一連の動作を通して体への負担が少ない熟練者の技術を作業者に継承させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態1に係る技術継承支援システムの構成を示すブロック図である。
図2図1の技術継承支援システムの計測装置を対象者に取り付けた状態を示す背面図である。
図3】本発明の実施形態1に係る技術継承支援方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態2に係る技術継承支援システムの構成を示すブロック図である。
図5図4の技術継承支援システムの計測装置を対象者に取り付けた状態を示す背面図である。
図6】実施例1の上部脊柱部の上下動の躍度の評価結果を示すグラフである。
図7】実施例1の上部脊柱部の左右動の躍度の評価結果を示すグラフである。
図8】実施例1の上部脊柱部の前後動の躍度の評価結果を示すグラフである。
図9】実施例1の上部脊柱部の前屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。
図10】実施例1の上部脊柱部の側屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。
図11】実施例1の上部脊柱部の回旋の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。
図12】実施例1の上部脊柱部の前屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。
図13】実施例1の上部脊柱部の側屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。
図14】実施例1の上部脊柱部の回旋動の角躍度の評価結果を示すグラフである。
図15】実施例2の骨盤部の上下動の躍度の評価結果を示すグラフである。
図16】実施例2の骨盤部の左右動の躍度の評価結果を示すグラフである。
図17】実施例2の骨盤部の前後動の躍度の評価結果を示すグラフである。
図18】実施例2の体幹の前屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。
図19】実施例2の体幹の側屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。
図20】実施例2の体幹の回旋の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。
図21】実施例2の体幹の前屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。
図22】実施例2の体幹の側屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。
図23】実施例2の体幹の回旋動の角躍度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。本発明の技術継承支援システムは、熟練者の作業技術を作業に不慣れな対象者に継承することを支援するために、対象者の作業を熟練者の作業と比較して対象者の作業を評価するシステムである。
【0020】
[実施形態1]
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態1に係る技術継承支援システム1Aについて説明する。図1は、実施形態1に係る技術継承支援システム1Aの構成を示すブロック図である。図2は、実施形態1の技術継承支援システム1Aの計測装置10を対象者Uに取り付けた状態を示す背面図である。以下では、図2に示すように、対象者の前後左右上下方向に基づいて、前後方向、左右方向、及び、上下方向を定義する。
【0021】
図1に示すように、技術継承支援システム1Aは、計測装置10と、情報処理装置20と、警告装置30とを備える。技術継承支援システム1Aは、さらに表示装置40を備えてもよい。計測装置10、情報処理装置20、警告装置30及び表示装置40は、直接、又は、インターネット、LAN(Local Area Network)若しくはBluetooth(登録商標)などのネットワークを介して接続されて構成されている。
【0022】
計測装置10は、対象者Uの作業時の姿勢及び動作に伴う互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する装置である。図2に示すように、実施形態1では、計測装置10は、対象者Uの背面において、対象者Uの上部脊柱部に装着される第1計測装置11を有する。対象者Uが滑らかな動作をしているか否かは、対象者Uの体幹の動きを把握することで判断できるが、上部脊柱部の動きは体幹の動きと相関性が高いため、実施形態1では、第1計測装置11は、対象者Uの上部脊柱部に装着される。第1計測装置11は、上下方向、左右方向及び前後方向の加速度を計測可能な加速度センサ、並びに、上下方向、左右方向及び前後方向の軸周りの角速度を計測可能な角速度センサにより構成される。第1計測装置11には、例えば、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ、慣性計測装置(IMU;Inertial Measurment Unit)などが用いられる。第1計測装置11は、対象者Uが所定作業を行う間、時間軸に沿って経時的に対象者Uの上部脊柱部に発生する加速度及び角速度を計測する。第1計測装置11は、計測した加速度及び角速度を、加速度データ及び角速度データとして情報処理装置20に送信する。
【0023】
ここで所定作業とは、例えば介護作業であれば、被介護者をベッドから車椅子へ又は車椅子からベッドへ移乗させる移乗作業、被介護者の入浴を介助する入浴介助作業、被介護者の排便時にトイレで支援する排便支援作業などである。なお、所定作業は、介護作業に限らず、荷物を扱う運輸業、建築現場での建設業なども含まれる。
【0024】
情報処理装置20は、計測装置10により取得した対象者Uの加速度データ及び角速度データに基づいて対象者Uの作業を評価する装置である。情報処理装置20は、取得部21と、算出部22と、閾値設定部23と、評価部24と、警告指示部25と、記憶部26と、制御部27とを備える。情報処理装置20は、例えば、マイクロコンピュータ、サーバコンピュータなどのコンピュータである。
【0025】
取得部21は、計測装置10で計測された上下方向、左右方向及び前後方向の加速度、並びに、上下方向、左右方向及び前後方向の軸周りの角速度を取得する。具体的には、取得部21は、計測装置10が送信した加速度データ及び角速度データを取得する。
【0026】
算出部22は、計測装置10により取得した対象者Uの加速度データ及び角速度データから対象者Uの上下動、左右動及び前後動に係る躍度、対象者Uの前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度、並びに、対象者Uの前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する。ここで、躍度及び角躍度は、対象者Uに装着された第1計測装置11の位置、すなわち上部脊柱部の躍度及び角躍度であり、姿勢角度は、対象者Uに装着された第1計測装置11の位置、すなわち上部脊柱部のサンプリング時間当たりのオイラー角の変位である。
【0027】
具体的には、躍度は、第1計測装置11で計測した互いに直交する3軸方向の加速度データを微分して上下動、左右動及び前後動に係る躍度を算出する。姿勢角度は、第1計測装置11で計測した互いに直交する3軸方向の角速度データを積分して前屈、側屈及び回旋に係るオイラー角を算出し、サンプリング時間ごとのオイラー角の変位を求めることで前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する。角躍度は、第1計測装置11で計測した角速度データを微分して前屈動、側屈動及び回旋動に係る角加速度データを算出し、角加速度データをさらに微分して前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する。
【0028】
閾値設定部23は、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の限界値である閾値を設定する。閾値は、計測装置10により取得した所定作業における熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う、互いに直交する3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータから算出部22により算出された上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度、並びに、前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度に基づいて設定される。
【0029】
具体的には、予め、熟練者に計測装置10を装着して、熟練者が種々の所定作業を行う際の熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う加速度及び角速度を計測している。そして、計測装置10により計測された加速度及び角速度は、熟練者の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータとして情報処理装置20の記憶部26に保存されている。
【0030】
このとき、加速度モデルデータ及び角速度モデルデータは、複数の所定作業に対して所定作業ごとに保存されている。また、所定作業を行う場所、例えば介護施設などが異なれば、作業の姿勢及び動作が異なることから、加速度モデルデータ及び角速度モデルデータは、介護施設ごと、さらには、介護施設における所定作業を行う場所ごとに保存されていてもよい。また、加速度モデルデータ及び角速度モデルデータは、各所定作業に対して複数の熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う加速度及び角速度から作成されてもよく、この場合は、作業開始から作業終了まで所定のサンプリング時間ごとに複数の熟練者の加速度及び角速度を平均して作成する。
【0031】
閾値設定部23は、記憶部26に保存されている閾値を設定する所定作業に係る加速度モデルデータ及び角速度モデルデータを読み出して、上記対象者Uの場合と同様にして、算出部22に各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度を算出させる。それから、閾値設定部23は、算出部22から各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度を取得し、各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度の最大値を算出する。そして、閾値設定部23は、各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度の最大値に予め設定されている標準偏差を加えて、上下動、左右動及び前後動に係る躍度の閾値、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度の閾値、並びに、前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の閾値を設定する。標準偏差は、同じ所定作業を行った複数人の熟練者の各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度から算出される値である。
【0032】
評価部24は、算出部22で算出した各躍度、各姿勢角度及び各角躍度を予め設定されている閾値と比較して、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度が閾値以上か否かを評価する。評価部24は、対象者Uが所定作業を行っている間、サンプリング時間ごとに、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度が、対象者Uが行う所定作業に対応する各躍度の閾値、各姿勢角度の閾値及び各角躍度の閾値を超えるか否かを判断して、対象者Uの作業について評価する。
【0033】
警告指示部25は、評価部24の評価結果に基づいて警告装置30に警告の発報を指示する。警告指示部25は、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合に警告の発報を指示する。
【0034】
記憶部26は、種々の情報、データ、プログラムなどを記憶する。記憶部26は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)によって構成される。記憶部26には、複数の所定作業に対して、所定作業ごとに熟練者の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータが保存されている。また、記憶部26には、対象者Uの作業を評価する技術継承支援プログラムが保存されている。
【0035】
制御部27は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成される。制御部27は、プログラムを実行することによって、取得部21、算出部22、閾値設定部23、評価部24、警告指示部25、及び、記憶部26の動作を制御する。
【0036】
警告装置30は、評価部24の評価結果に基づいて動作する。警告装置30は、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上となると警告を発報する。好ましくは、警告装置30は、対象者Uの各躍度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合と、対象者Uの各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合とで異なる警告を発報する。
【0037】
実施形態1では、警告装置30は、音及び振動による警告を発報する第1警告装置31と、光による警告を発報する光警告装置33とを有する。第1警告装置31は、例えば、小型のスピーカー及び/又は振動発生装置である。第1警告装置31は、対象者Uの背面において、対象者Uの上部脊柱部に設けられる。光警告装置33は、例えば、LED警告灯である。光警告装置33は、対象者Uが所定作業を行う場所において、対象者Uが所定作業を行う間中、対象者Uを指導する指導者が主に視認できる位置に設けられる。これにより、指導者も対象者Uの姿勢及び動作を把握することができ、容易に指導を行うことができる。なお、光警告装置33は、指導者とともに対象者Uも視認できる位置に設けられてもよい。
【0038】
警告装置30は、対象者Uの各躍度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第1警告装置31が音による警告を発報するとともに、光警告装置33が第1色による警告を発報する。また、対象者Uの各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第1警告装置31が振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第2色による警告を発報する。対象者Uの各躍度及び各角躍度の少なくとも1つと、対象者Uの各姿勢角度の少なくとも1つとがともに閾値以上の場合、第1警告装置31が音及び振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第3色による警告を発報する。
【0039】
実施形態1では、第1計測装置11及び第1警告装置31は、一体の小型のデバイスにより構成される。第1計測装置11及び第1警告装置31はベストなどに取り付けられており、当該ベストなどを対象者Uが装着することで、図2に示すように第1計測装置11及び第1警告装置31は対象者Uの上部脊柱部に設けられる。情報処理装置20は、サーバコンピュータとして構成され、第1計測装置11及び第1警告装置31とネットワークを介して接続されている。
【0040】
表示装置40は、技術継承支援システム1で対象者Uの一連の所定作業を評価した結果を、対象者Uが事後に視覚的に確認する装置である。表示装置40は、一連の所定作業における対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度を、当該一連の所定作業における熟練者の各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度と比較して表示する。表示装置40は、例えば、テレビモニタ、ディスプレイ、携帯端末ディスプレイなどである。
【0041】
次に、図3も参照して、技術継承支援システム1Aに基づいて対象者Uの作業を評価する技術継承支援方法について説明する。図3は、実施形態1に係る技術継承支援方法を示すフローチャートである。技術継承支援方法の各処理は、情報処理装置20に格納されている技術継承支援プログラムによって実行される。
【0042】
以下では、計測装置10が上下方向、左右方向及び前後方向の加速度、並びに、上下方向、左右方向及び前後方向の軸周りの角速度を計測して、対象者Uの作業の評価を行う技術継承支援方法について説明する。
【0043】
まず、対象者Uは、作業を開始する前に、技術継承支援システム1Aを起動させて、これから行う所定作業を選択し、それから作業を開始する。所定作業が選択されると、閾値設定部23は、記憶部26から選択された所定作業に係る互いに直交した3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータを取得する(S10)。そして、閾値設定部23は、取得した加速度モデルデータ及び角速度モデルデータを算出部22に送信し、算出部22に各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度を算出させる。
【0044】
算出部22は、取得された加速度モデルデータ及び各速度モデルデータを受け取ると、上下動、左右動及び前後動に係るモデル躍度、前屈、側屈及び回旋に係るモデル姿勢角度、前屈動、側屈動及び回旋動に係るモデル角躍度を算出して、閾値設定部23に送信する。閾値設定部23は、各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度を受け取ると、各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度の最大値に標準偏差を加えて、上下動、左右動及び前後動に係る躍度の閾値、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度の閾値、並びに、前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の閾値を設定する(S12)。設定された閾値は評価部24に送信される。
【0045】
一方、第1計測装置11は、対象者Uが作業を開始すると、対象者Uの作業に伴って対象者Uの上部脊柱部に発生する互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する(S14)。第1計測装置11で加速度及び角速度が計測されると、取得部21は、第1計測装置11で計測された加速度及び角速度を、サンプリング時間ごとに経時的に加速度データ及び角速度データとして取得するデータ取得ステップを実行する(S16)。取得された加速度データ及び角速度データは、算出部22に送信されれる。
【0046】
算出部22は、加速度データ及び角速度データを受け取ると、加速度データ及び角速度データを微分又は積分して、上下動、左右動及び前後動に係る躍度、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度、並びに、前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する算出ステップを実行する(S18)。算出した各躍度、各姿勢角度及び各角躍度は、評価部24に送られる。
【0047】
評価部24は、各躍度、各姿勢角度、各角躍度及び閾値を受け取ると、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度をそれぞれ閾値と比較して、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度が閾値以上か否かを評価する評価ステップを実行する(S20)。評価部24は、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上であると、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度のうちのどのパラメータが閾値以上であるかの情報とともに、警告を発報するように警告指示部25に指示をする。
【0048】
評価部24から警告を発報する指示を受け取ると、警告指示部25は、第1警告装置31及び光警告装置33に警告を発報するように指示する警告指示ステップを実行する(S22)。具体的には、警告指示部25は、各躍度及び各角躍度のいずれかが閾値以上の場合は、第1警告装置31に1秒間の音による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第1色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、各姿勢角度のいずれかが閾値以上の場合は、第1警告装置31に振動による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第2色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、各躍度及び各角躍度のいずれかと各姿勢角度のいずれかとがともに閾値以上の場合は、第1警告装置31に1秒間の音による警告と振動による警告とを発報するように指示し、光警告装置33に第3色を発光するように指示する。第1警告装置31及び光警告装置33からの警告により、対象者Uは自身の作業の姿勢及び動作が良くないことを認識する。
【0049】
データ取得ステップ、算出ステップ、評価ステップ及び警告指示ステップは、第1計測装置11で計測される加速度及び角速度のサンプリング時間ごとに実行される。制御部27は対象者Uの作業が継続中か終了したかを判断し(S24)、対象者Uの作業が終了すると技術継承支援方法の処理を終了する。対象者Uの作業の終了は、終了時に対象者U自身が操作するスイッチ、又は、一定の時間経過などによって判断される。
【0050】
[実施形態2]
次に、図4及び図5を参照して、本発明の実施形態2に係る技術継承支援システム1Bについて説明する。図4は、実施形態2に係る技術継承支援システム1Bの構成を示すブロック図である。図5は、実施形態2の技術継承支援システム1Bの計測装置10を対象者Uに取り付けた状態を示す背面図である。以下、実施形態2について、実施形態1と異なる事項について説明する。
【0051】
図4に示すように、技術継承支援システム1Bは、計測装置10と、情報処理装置20と、警告装置30とを備える。技術継承支援システム1Bは、さらに表示装置40を備えてもよい。計測装置10、情報処理装置20、警告装置30及び表示装置40は、直接、又は、インターネット、LAN(Local Area Network)若しくはBluetooth(登録商標)などのネットワークを介して接続されて構成されている。
【0052】
図5に示すように、実施形態2では、計測装置10は、対象者Uの背面において、対象者Uの上部脊柱部に装着される第1計測装置11と、対象者Uの骨盤部に装着される第2計測装置12とを有する。第2計測装置12は、上下方向、左右方向及び前後方向の加速度を計測可能な加速度センサ、並びに、上下方向、左右方向及び前後方向の軸周りの角速度を計測可能な角速度センサにより構成される。第2計測装置12には、例えば、3軸加速度センサ、3軸ジャイロセンサ、慣性計測装置などが用いられる。第2計測装置12は、対象者Uが所定作業を行う間、時間軸に沿って経時的に対象者Uの骨盤部に発生する加速度及び角速度を計測する。第2計測装置12は、計測した加速度及び角速度を、加速度データ及び角速度データとして情報処理装置20に送信する。
【0053】
算出部22は、計測装置10により取得した対象者Uの加速度データ及び角速度データから対象者Uの上下動、左右動及び前後動に係る躍度、対象者Uの前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度、並びに、対象者Uの前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する。ここで、躍度及び角躍度は、対象者Uに装着された第1計測装置11及び第2計測装置12の位置、すなわち上部脊柱部及び骨盤部の躍度及び角躍度であり、姿勢角度は、対象者Uに装着された第1計測装置11及び第2計測装置12の位置、すなわち上部脊柱部及び骨盤部のサンプリング時間当たりのオイラー角の変位である。
【0054】
具体的には、上部脊柱部の躍度、上部脊柱部の姿勢角度、及び、上部脊柱部の角躍度は、実施形態1と同様にして、第1計測装置11により取得した対象者Uの上部脊柱部の加速度データ及び角速度データから算出する。さらに、骨盤部の躍度は、第2計測装置12で計測した互いに直交する3軸方向の加速度データを微分して上下動、左右動及び前後動に係る躍度を算出する。骨盤部の姿勢角度は、第2計測装置12で計測した互いに直交する3軸方向の角速度データを積分して前屈、側屈及び回旋に係るオイラー角を算出し、サンプリング時間ごとのオイラー角の変位を求めることで前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度を算出する。骨盤部の角躍度は、第2計測装置12で計測した角速度データを微分して前屈動、側屈動及び回旋動に係る角加速度データを算出し、角加速度データをさらに微分して前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する。
【0055】
閾値設定部23は、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の限界値である閾値を設定する。具体的には、予め、熟練者に計測装置10を装着して、熟練者が種々の所定作業を行う際の熟練者の作業時の姿勢及び動作に伴う加速度及び角速度を計測している。そして、計測装置10により計測された加速度及び角速度は、熟練者の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータとして、所定作業ごとに、上部脊柱部と骨盤部とを分けて情報処理装置20の記憶部26に保存されている。
【0056】
閾値設定部23は、記憶部26に保存されている閾値を設定する所定作業に係る加速度モデルデータ及び角速度モデルデータを読み出して、上記対象者Uの場合と同様にして、算出部22に上部脊柱部及び骨盤部の各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度を算出させる。それから、閾値設定部23は、実施形態1と同様にして、上下動、左右動及び前後動に係る躍度の閾値、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度の閾値、並びに、前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の閾値を設定する。このとき、実施形態2では、算出部22において、対象者Uの上部脊柱部及び骨盤部の各躍度、対象者Uの上部脊柱部及び骨盤部の各姿勢角度、並びに、対象者Uの上部脊柱部及び骨盤部の各角躍度が算出されているため、設定される各閾値は、上部脊柱部の各躍度の閾値、骨盤部の各躍度の閾値、上部脊柱部の各姿勢角度の閾値、骨盤部の各姿勢角度の閾値、上部脊柱部の各角躍度の閾値、及び、骨盤部の各角躍度の閾値である。
【0057】
評価部24は、算出部22で算出した各躍度、各姿勢角度及び各角躍度を予め設定されている閾値と比較して、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度が閾値以上か否かを評価する。評価部24は、対象者Uが所定作業を行っている間、サンプリング時間ごとに、対象者Uの上部脊柱部の各躍度、骨盤部の各躍度、上部脊柱部の各姿勢角度、骨盤部の各姿勢角度、上部脊柱部の各角躍度及び骨盤部の各角躍度が、対象者Uが行う所定作業に対応する各躍度の閾値、各姿勢角度の閾値及び各角躍度の閾値を超えるか否かを判断して、対象者Uの作業について評価する。
【0058】
警告装置30は、評価部24の評価結果に基づいて動作する。警告装置30は、対象者Uの上部脊柱部の各躍度、骨盤部の各躍度、上部脊柱部の各姿勢角度、骨盤部の各姿勢角度、上部脊柱部の各角躍度及び骨盤部の各角躍度の少なくとも1つが閾値以上となると警告を発報する。実施形態2では、警告装置30は、音及び振動による警告を発報する第1警告装置31と、音及び振動による警告を発報する第2警告装置32と、光による警告を発報する光警告装置33とを有する。第1警告装置31及び光警告装置33は、実施形態1と同様である。第2警告装置32は、例えば、小型のスピーカー及び/又は振動発生装置である。第2警告装置32は、対象者Uの背面において、対象者Uの骨盤部に設けられる。
【0059】
警告装置30は、対象者Uの上部脊柱部の各躍度及び上部脊柱部の各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第1警告装置31が音による警告を発報するとともに、光警告装置33が第1色による警告を発報する。また、対象者Uの骨盤部の各躍度及び骨盤部の各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第2警告装置32が音による警告を発報するとともに、光警告装置33が第1色による警告を発報する。また、対象者Uの上部脊柱部の各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第1警告装置31が振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第2色による警告を発報する。また、対象者Uの骨盤部の各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第2警告装置32が振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第2色による警告を発報する。
【0060】
さらに、警告装置30は、対象者Uの上部脊柱部の各躍度及び上部脊柱部の各角躍度の少なくとも1つと、対象者Uの骨盤部の各躍度及び骨盤部の各角躍度の少なくとも1つとがともに閾値以上の場合、第1警告装置31及び第2警告装置32が音による警告を発報するとともに、光警告装置33が第1色による警告を発報する。また、対象者Uの上部脊柱部の各姿勢角度の少なくとも1つと、対象者Uの骨盤部の各姿勢角度の少なくとも1つとがともに閾値以上の場合、第1警告装置31及び第2警告装置32が振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第2色による警告を発報する。また、対象者Uの上部脊柱部又は骨盤部の各躍度及び各角躍度の少なくとも1つと、対象者Uの上部脊柱部又は骨盤部の各姿勢角度の少なくとも1つとがともに閾値以上の場合、第1警告装置31又は第2警告装置32が音及び振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第3色による警告を発報する。また、対象者Uの上部脊柱部の各躍度及び上部脊柱部の各角躍度の少なくとも1つと、対象者Uの骨盤部の各躍度及び骨盤部の各角躍度の少なくとも1つと、対象者Uの上部脊柱部の各姿勢角度の少なくとも1つと、対象者Uの骨盤部の各姿勢角度の少なくとも1つとがともに閾値以上の場合、第1警告装置31及び第2警告装置32が音及び振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第3色による警告を発報する。
【0061】
実施形態2では、第1計測装置11及び第1警告装置31は、一体の小型のデバイスにより構成される。また、第2計測装置12及び第2警告装置32は、他の一体の小型のデバイスにより構成される。第1計測装置11及び第1警告装置31、並びに、第2計測装置12及び第2警告装置32はそれぞれベストなどに取り付けられており、当該ベストなどを対象者Uが装着することで、図5に示すように第1計測装置11及び第1警告装置31は対象者Uの上部脊柱部に、第2計測装置12及び第2警告装置32は対象者Uの骨盤部に設けられる。情報処理装置20は、サーバコンピュータとして構成され、第1計測装置11、第2計測装置12、第1警告装置31及び第2警告装置32とネットワークを介して接続されている。
【0062】
次に、技術継承支援システム1Bに基づいて対象者Uの作業を評価する技術継承支援方法について説明する。実施形態2の技術継承支援方法のフローチャートは実施形態1と同じであるため、図3を参照して技術継承支援方法について説明する。以下では、計測装置10が上下方向、左右方向及び前後方向の加速度、並びに、上下方向、左右方向及び前後方向の軸周りの角速度を計測して、対象者Uの作業の評価を行う技術継承支援方法について説明する。
【0063】
まず、対象者Uは、作業を開始する前に、技術継承支援システム1Bを起動させて、これから行う所定作業を選択し、それから作業を開始する。所定作業が選択されると、閾値設定部23は、記憶部26から選択された所定作業に係る互いに直交した3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータを取得する(S10)。そして、実施形態1と同様にして、上部脊柱部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度の閾値、骨盤部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度の閾値、上部脊柱部の前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度の閾値、骨盤部の前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度の閾値、上部脊柱部の前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の閾値、並びに、骨盤部の前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の閾値を設定する(S12)。設定された閾値は評価部24に送信される。
【0064】
一方、対象者Uが作業を開始すると、第1計測装置11は対象者Uの作業に伴って対象者Uの上部脊柱部に発生する互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測し、第2計測装置12は対象者Uの作業に伴って対象者Uの骨盤部に発生する互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する(S14)。第1計測装置11及び第2計測装置12で加速度及び角速度が計測されると、取得部21は、第1計測装置11及び第2計測装置12で計測された加速度及び角速度を、サンプリング時間ごとに経時的に加速度データ及び角速度データとして取得するデータ取得ステップを実行する(S16)。取得された加速度データ及び角速度データは、算出部22に送信されれる。
【0065】
算出部22は、加速度データ及び角速度データを受け取ると、上部脊柱部及び骨盤部の加速度データ及び角速度データを微分又は積分して、上部脊柱部及び骨盤部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度、上部脊柱部及び骨盤部の前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度、並びに、上部脊柱部及び骨盤部の前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する算出ステップを実行する(S18)。算出した各躍度、各姿勢角度及び各角躍度は、評価部24に送られる。
【0066】
評価部24は、各躍度、各姿勢角度、各角躍度及び閾値を受け取ると、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度をそれぞれ閾値と比較して、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度が閾値以上か否かを評価する評価ステップを実行する(S20)。評価部24は、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上であると、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度のうちのどのパラメータが閾値以上であるかの情報とともに、警告を発報するように警告指示部25に指示をする。
【0067】
評価部24から警告を発報する指示を受け取ると、警告指示部25は、第1警告装置31、第2警告装置32及び光警告装置33に警告を発報するように指示する警告指示ステップを実行する(S22)。具体的には、警告指示部25は、上部脊柱部の各躍度及び各角躍度のいずれかが閾値以上の場合は、第1警告装置31に1秒間の音による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第1色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、骨盤部の各躍度及び各角躍度のいずれかが閾値以上の場合は、第2警告装置32に1秒間の音による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第1色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、上部脊柱部の各姿勢角度のいずれかが閾値以上の場合は、第1警告装置31に振動による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第2色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、骨盤部の各姿勢角度のいずれかが閾値以上の場合は、第2警告装置32に振動による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第2色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、上部脊柱部及び/又は骨盤部の各躍度及び各角躍度のいずれかと各姿勢角度のいずれかとがともに閾値以上の場合は、第1警告装置31及び/又は第2警告装置32に1秒間の音による警告と振動による警告とを発報するように指示し、光警告装置33に第3色を発光するように指示する。第1警告装置31、第2警告装置32及び光警告装置33からの警告により、対象者Uは自身の作業の姿勢及び動作が良くないことを認識する。
【0068】
データ取得ステップ、算出ステップ、評価ステップ及び警告指示ステップは、第1計測装置11及び第2警告装置12で計測される加速度及び角速度のサンプリング時間ごとに実行される。制御部27は、上記実施形態1と同様にして対象者Uの作業が継続中か終了したかを判断し(S24)、対象者Uの作業が終了すると技術継承支援方法の処理を終了する。
【0069】
[実施形態3]
次に、図4及び図5を参照して、本発明の実施形態3に係る技術継承支援システム1Bについて説明する。以下、実施形態3について、実施形態1及び実施形態2と異なる事項について説明する。
【0070】
実施形態3の技術継承支援システム1Bは、実施形態2の技術継承支援システム1Bと同様の構成を有する。計測装置10も、実施形態2と同様に、対象者Uの背面において、対象者Uの上部脊柱部に装着される第1計測装置11と、対象者Uの骨盤部に装着される第2計測装置12とを有する。
【0071】
算出部22は、計測装置10により取得した対象者Uの加速度データ及び角速度データから対象者Uの上下動、左右動及び前後動に係る躍度、対象者Uの前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度、並びに、対象者Uの前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する。実施形態3では、算出部22は、対象者Uの作業時の姿勢及び動作の良し悪しがより正確に評価できる体幹の各姿勢角度及び各角躍度を算出する。なお、体幹は、上部脊柱部に装着した第1計測装置11と骨盤部に装着した第2計測装置12とにより算出される相対的な角度となるため体幹の各躍度は算出できない。よって、各躍度は、骨盤部の各躍度を使用する。
【0072】
具体的には、第1計測装置11により取得した対象者Uの上部脊柱部の角速度データ、及び、第2計測装置12により取得した対象者Uの骨盤部の角速度データから、それぞれのサンプリング時間ごとのオイラー角を算出する。そして、第1計測装置11から鉛直方向に引いた垂線と、第2計測装置12から鉛直方向に引いた垂線との間で成される角度を算出する。このとき、左右方向に延びる軸を中心に左右いずれかの方向から見た時の円運動による変位が前屈の姿勢角度、前後方向に延びる軸を中心に正面から見た時の円運動による変位が側屈の姿勢角度、上下方向に延びる軸を中心に真上から見た時の円運動による変位が回旋の姿勢角度として算出される。前屈、側屈及び回旋の姿勢角度を3回微分することで、前屈動、側屈動及び回旋動の角躍度を算出する。躍度は、実施形態2と同様にして、第2計測装置12により取得した対象者Uの骨盤部の加速度データから、骨盤部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度を算出する。
【0073】
閾値設定部23は、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の限界値である閾値を設定する。具体的には、閾値設定部23は、記憶部26に保存されている閾値を設定する所定作業に係る加速度モデルデータ及び角速度モデルデータを読み出して、上記対象者Uの場合と同様にして、算出部22に各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度を算出させる。それから、閾値設定部23は、実施形態1と同様にして、上下動、左右動及び前後動に係る躍度の閾値、前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度の閾値、並びに、前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の閾値を設定する。このとき、実施形態3では、算出部22において、対象者Uの骨盤部の各躍度、対象者Uの体幹の各姿勢角度、及び、対象者Uの体幹の各角躍度が算出されているため、設定される各閾値は、骨盤部の各躍度の閾値、体幹の各姿勢角度の閾値、及び、体幹の各角躍度の閾値である。
【0074】
評価部24は、算出部22で算出した各躍度、各姿勢角度及び各角躍度を予め設定されている閾値と比較して、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度が閾値以上か否かを評価する。評価部24は、対象者Uが所定作業を行っている間、サンプリング時間ごとに、対象者Uの骨盤部の各躍度、体幹の各姿勢角度及び体幹の各角躍度が、対象者Uが行う所定作業に対応する各躍度の閾値、各姿勢角度の閾値及び各角躍度の閾値を超えるか否かを判断して、対象者Uの作業について評価する。
【0075】
警告装置30は、評価部24の評価結果に基づいて動作する。警告装置30は、対象者Uの骨盤部の各躍度、体幹の各姿勢角度及び体幹の各角躍度の少なくとも1つが閾値以上となると警告を発報する。実施形態3では、警告装置30は、音及び振動による警告を発報する第1警告装置31と、音及び振動による警告を発報する第2警告装置32と、光による警告を発報する光警告装置33とを有する。第1警告装置31、第2警告装置32及び光警告装置33は、実施形態2と同様である。なお、実施形態3では、警告装置30は、第1警告装置31又は第2警告装置32のいずれかを備える構成とすることもできる。以下では、第1警告装置31及び第2警告装置32を備えるとして説明するが、第1警告装置31又は第2警告装置32のいずれか一方しか備えない場合、備える方の警告装置31,32が警告を発報する。
【0076】
警告装置30は、対象者Uの各躍度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第1警告装置31及び/又は第2警告装置32が音による警告を発報するとともに、光警告装置33が第1色による警告を発報する。また、対象者Uの各姿勢角度の少なくとも1つが閾値以上の場合、第1警告装置31及び/又は第2警告装置32が振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第2色による警告を発報する。対象者Uの各躍度及び各角躍度の少なくとも1つと、対象者Uの各姿勢角度の少なくとも1つとがともに閾値以上の場合、第1警告装置31及び/又は第2警告装置32が音及び振動による警告を発報するとともに、光警告装置33が第3色による警告を発報する。
【0077】
実施形態3では、第1計測装置11及び第1警告装置31は、一体の小型のデバイスにより構成される。また、第2計測装置12及び第2警告装置32は、他の一体の小型のデバイスにより構成される。第1計測装置11及び第1警告装置31、並びに、第2計測装置12及び第2警告装置32はそれぞれベストなどに取り付けられており、当該ベストなどを対象者Uが装着することで、図5に示すように第1計測装置11及び第1警告装置31は対象者Uの上部脊柱部に、第2計測装置12及び第2警告装置32は対象者Uの骨盤部に設けられる。なお、第1警告装置31を備えない場合は、第1計測装置11が一体の小型のデバイスにより構成され、第2計測装置12及び第2警告装置32が他の一体の小型のデバイスにより構成される。また、第2警告装置31を備えない場合は、第1計測装置11及び第1警告装置31が一体の小型のデバイスにより構成され、第2計測装置12が他の一体の小型のデバイスにより構成される。情報処理装置20は、サーバコンピュータとして構成され、第1計測装置11、第2計測装置12、第1警告装置31及び第2警告装置32とネットワークを介して接続されている。
【0078】
次に、技術継承支援システム1Bに基づいて対象者Uの作業を評価する技術継承支援方法について説明する。実施形態3の技術継承支援方法のフローチャートは実施形態1と同じであるため、図3を参照して技術継承支援方法について説明する。以下では、計測装置10が上下方向、左右方向及び前後方向の加速度、並びに、上下方向、左右方向及び前後方向の軸周りの角速度を計測して、対象者Uの作業の評価を行う技術継承支援方法について説明する。
【0079】
まず、対象者Uは、作業を開始する前に、技術継承支援システム1Bを起動させて、これから行う所定作業を選択し、それから作業を開始する。所定作業が選択されると、閾値設定部23は、記憶部26から選択された所定作業に係る互いに直交した3軸方向の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータを取得する(S10)。そして、実施形態1と同様にして、骨盤部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度の閾値、体幹の前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度の閾値、並びに、体幹の前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度の閾値を設定する(S12)。設定された閾値は評価部24に送信される。
【0080】
一方、対象者Uが作業を開始すると、第1計測装置11は対象者Uの作業に伴って対象者Uの上部脊柱部に発生する互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測し、第2計測装置12は対象者Uの作業に伴って対象者Uの骨盤部に発生する互いに直交する3軸方向の加速度及び角速度を計測する(S14)。第1計測装置11及び第2計測装置12で加速度及び角速度が計測されると、取得部21は、第1計測装置11及び第2計測装置12で計測された加速度及び角速度を、サンプリング時間ごとに経時的に加速度データ及び角速度データとして取得するデータ取得ステップを実行する(S16)。取得された加速度データ及び角速度データは、算出部22に送信される。
【0081】
算出部22は、加速度データ及び角速度データを受け取ると、骨盤部の加速度データを微分して骨盤部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度を算出するとともに、上部脊柱部及び骨盤部の角速度データから、体幹の前屈、側屈及び回旋に係る姿勢角度、並びに、体幹の前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度を算出する算出ステップを実行する(S18)。算出した各躍度、各姿勢角度及び各角躍度は、評価部24に送られる。
【0082】
評価部24は、各躍度、各姿勢角度、各角躍度及び閾値を受け取ると、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度をそれぞれ閾値と比較して、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度が閾値以上か否かを評価する評価ステップを実行する(S20)。評価部24は、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値以上であると、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度のうちのどのパラメータが閾値以上であるかの情報とともに、警告を発報するように警告指示部25に指示をする。
【0083】
評価部24から警告を発報する指示を受け取ると、警告指示部25は、第1警告装置31、第2警告装置32及び光警告装置33に警告を発報するように指示する警告指示ステップを実行する(S22)。具体的には、警告指示部25は、各躍度及び各角躍度のいずれかが閾値以上の場合は、第1警告装置31及び/又は第2警告装置32に1秒間の音による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第1色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、各姿勢角度のいずれかが閾値以上の場合は、第1警告装置31及び/又は第2警告装置32に振動による警告を発報するように指示し、光警告装置33に第2色を発光するように指示する。また、警告指示部25は、各躍度及び各角躍度のいずれかと各姿勢角度のいずれかとがともに閾値以上の場合は、第1警告装置31及び/又は第2警告装置32に1秒間の音による警告と振動による警告とを発報するように指示し、光警告装置33に第3色を発光するように指示する。第1警告装置31、第2警告装置32及び光警告装置33からの警告により、対象者Uは自身の作業の姿勢及び動作が良くないことを認識する。
【0084】
データ取得ステップ、算出ステップ、評価ステップ及び警告指示ステップは、第1計測装置11及び第2警告装置12で計測される加速度及び角速度のサンプリング時間ごとに実行される。制御部27は、上記実施形態1と同様にして対象者Uの作業が継続中か終了したかを判断し(S24)、対象者Uの作業が終了すると技術継承支援方法の処理を終了する。
【0085】
次に、実施形態3の技術継承支援システム1Bの変形例について説明する。実施形態3の変形例の技術継承支援システム1Bでは、実施形態3の技術継承支援システム1Bと同様の構成を有する。実施形態3の変形例の技術継承支援システム1Bは、対象者Uの作業の作業を評価する際に、上部脊柱部の各躍度及び骨盤部の各躍度を使用する点が、実施形態3の技術継承支援システム1Bと異なる。
【0086】
すなわち、算出部22は、上記実施形態3に示したように、第1計測装置11及び第2計測装置12により取得した対象者Uの上部脊柱部の角速度データ及び骨盤部の角速度データから体幹の各姿勢角度及び体幹の各角躍度を算出する。加えて、算出部22は、第1計測装置11により取得した対象者Uの加速度データから、上部脊柱部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度を算出し、第2計測装置12により取得した対象者Uの加速度データから、骨盤部の上下動、左右動及び前後動に係る躍度を算出する。
【0087】
閾値設定部23は、実施形態2及び実施形態3と同様にして、対象者Uの上部脊柱部の各躍度の閾値、骨盤部の各躍度の閾値、体幹の各姿勢角度の閾値及び体幹の各角躍度の閾値を設定する。そして、評価部24は、対象者Uの上部脊柱部の各躍度、骨盤部の各躍度、体幹の各姿勢角度及び体幹の各角躍度が、対象者Uが行う所定作業に対応する各躍度の閾値、各姿勢角度の閾値及び各角躍度の閾値を超えるか否かを判断して、対象者Uの作業について評価する。
【0088】
警告装置30は、第1警告装置31及び第2警告装置32を備える場合には、実施形態2と同様に、対象者Uの上部脊柱部の各躍度の少なくとも1つが閾値以上となると、第1警告装置31が音による警告を発報し、対象者Uの骨盤部の各躍度の少なくとも1つが閾値以上となると、第2警告装置32が音による警告を発報する。また、対象者Uの上部脊柱部の各躍度の少なくとも1つと、対象者Uの骨盤部の各躍度の少なくとも1つとがともに閾値以上となると、第1警告装置31及び第2警告装置32が音による警告を発報する。この構成とすることで、対象者Uには、上部脊柱部が閾値以上となっているのか、骨盤部が閾値以上となっているのかを意識させることができる。
【0089】
また、警告装置30は、第1警告装置31又は第2警告装置32のいずれかを備える場合には、対象者Uの上部脊柱部の各躍度及び骨盤部の各躍度の少なくとも1つが閾値以上となると、備えている警告装置30が音による警告を発報する。また、対象者Uの上部脊柱部の各躍度の少なくとも1つと、対象者Uの骨盤部の各躍度の少なくとも1つとがともに閾値以上となるときも同様に、備えている警告装置30が音による警告を発報する。その他の警告装置30の警告を発報する動作は、実施形態3と同様である。
【実施例
【0090】
次に、実施形態1又は実施形態3に係る技術継承支援システム1A,1Bについて、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0091】
<実施例1>
実施例1では、実施形態1の技術継承支援システム1Aを用いて、作業に不慣れな対象者Uが行った所定作業の評価がどのように評価されるかを確認する。実施例1では、トイレにおける脱衣介助時の作業を行った場合の評価を確認する。
【0092】
熟練者は、作業経験が10年以上の者である。3名の熟練者が作業を行った平均値を熟練者の加速度モデルデータ及び角速度モデルデータとする。対象者1~3は、作業経験が全くない初心者である。
【0093】
対象者1~3が技術継承支援システム1Aの計測装置10を装着して所定作業を行い、所定作業を行っている間、上記実施形態1で示したようにして、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度を算出した。各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の算出結果を図6図14に示す。図6は、実施例1の上部脊柱部の上下動の躍度の評価結果を示すグラフである。図7は、実施例1の上部脊柱部の左右動の躍度の評価結果を示すグラフである。図8は、実施例1の上部脊柱部の前後動の躍度の評価結果を示すグラフである。図9は、実施例1の上部脊柱部の前屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。図10は、実施例1の上部脊柱部の側屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。図11は、実施例1の上部脊柱部の回旋の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。図12は、実施例1の上部脊柱部の前屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。図13は、実施例1の上部脊柱部の側屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。図14は、実施例1の上部脊柱部の回旋動の角躍度の評価結果を示すグラフである。図6図14では、閾値を水平に延びる破線で示している。図6図8及び図12図14では、各対象者及び熟練者のデータを黒の実線又は破線で示し、熟練者のデータを平均として標準偏差を加減算した領域を熟練者のグラフにグレーの領域で示している。図9図11では、各対象者のデータを黒の実線で、熟練者のデータをグレーの破線で、熟練者のデータを平均として標準偏差を加減算した領域をグレーの領域で示している。
【0094】
図6図14を参照すると、一連の作業を行う間に各躍度及び各角躍度のいずれかで閾値を超えるタイミングがあり、対象者1~3は、熟練者と比べて動作が滑らかでないタイミングがあることが分かる。また、一連の作業を行う間の大半の時間で、各姿勢角度のいずれかが閾値を超えており、対象者1~3は、熟練者と比べて無理な姿勢を取っていることが分かる。このように、動作が滑らかでないこと、及び、無理な姿勢を取っていることが評価できているため、滑らかでない動作の時点、及び、無理な姿勢を取った時点で警告を発報することで、対象者1~3は、自身がどの時点の作業で無理な姿勢及び歪な動作を行っているかを認識することができる。そして、対象者1~3は、自身の作業技術を見直して、対象者1~3の作業技術を熟練者の作業技術に近づけることができる。
【0095】
<実施例2>
実施例2では、実施形態3の技術継承支援システム1Bを用いて、作業に不慣れな対象者Uが行った所定作業の評価がどのように評価されるかを確認する。実施例2でも、トイレにおける脱衣介助時の作業を行った場合の評価を確認する。熟練者及び対象者1~3は、実施例1と同様である。
【0096】
対象者1~3が技術継承支援システム1Bの計測装置10を装着して所定作業を行い、所定作業を行っている間、上記実施形態3で示したようにして、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度を算出した。各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の算出結果を図15図23に示す。図15は、実施例2の骨盤部の上下動の躍度の評価結果を示すグラフである。図16は、実施例2の骨盤部の左右動の躍度の評価結果を示すグラフである。図17は、実施例2の骨盤部の前後動の躍度の評価結果を示すグラフである。図18は、実施例2の体幹の前屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。図19は、実施例2の体幹の側屈の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。図20は、実施例2の体幹の回旋の姿勢角度の評価結果を示すグラフである。図21は、実施例2の体幹の前屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。図22は、実施例2の体幹の側屈動の角躍度の評価結果を示すグラフである。図23は、実施例2の体幹の回旋動の角躍度の評価結果を示すグラフである。図15図23では、閾値を水平に延びる破線で示している。図15図17及び図21図23では、各対象者及び熟練者のデータを黒の実線又は破線で示し、熟練者のデータを平均として標準偏差を加減算した領域を熟練者のグラフにグレーの領域で示している。図18図20では、各対象者のデータを黒の実線で、熟練者のデータをグレーの破線で、熟練者のデータを平均として標準偏差を加減算した領域をグレーの領域で示している。
【0097】
図15図23を参照すると、一連の作業を行う間に各躍度及び各角躍度のいずれかで閾値を超えるタイミングがあり、対象者1~3は、熟練者と比べて動作が滑らかでないタイミングがあることが分かる。また、一連の作業を行う間の大半の時間で、各姿勢角度のいずれかが閾値を超えており、対象者1~3は、熟練者と比べて無理な姿勢を取っていることが分かる。このように、動作が滑らかでないこと、及び、無理な姿勢を取っていることが評価できているため、滑らかでない動作の時点、及び、無理な姿勢を取った時点で警告を発報することで、対象者1~3は、自身がどの時点の作業で無理な姿勢及び歪な動作を行っているかを認識することができる。そして、対象者1~3は、自身の作業技術を見直して、対象者1~3の作業技術を熟練者の作業技術に近づけることができる。
【0098】
さらに、上部脊柱部の各躍度を使用して評価する実施例1と骨盤部の各躍度を使用して評価する実施例2とを対比すると、上部脊柱部の各躍度を示す図6図8、及び、骨盤部の各躍度を示す図15図18から分かるとおり、対象者1~3の骨盤部の各躍度に熟練者からの逸脱が顕著であることが確認できる。このことから、骨盤部の各躍度を利用することによって、滑らかでない動作をより高精度に評価することが可能となることが分かる。このように、上部脊柱部の加速度データ及び角速度データにも体幹の姿勢や動きが反映されているが、骨盤部の加速度データ及び角速度データの方が、四肢や腰背部の姿勢や動きがより直接的に影響する体幹をより精度高く評価することができるため、労働災害において着目される非熟練者の動作改善及び適切な指導をより迅速に行うことが可能となる。これらの観点から、第1計測装置11のみを備える実施形態1よりも、第1計測装置11及び第2計測装置12を備える実施形態2及び実施形態3の方が、対象者Uの作業について評価する上で、より高い正確性を持ち、より望ましい実施形態であると言える。
【0099】
以上のように、本発明の技術継承支援システム1A,1Bでは、計測した加速度及び角速度から互いに直交する3軸方向の躍度、姿勢角度及び角躍度を算出し、熟練者の互いに直交する3軸方向の躍度、姿勢角度及び角躍度と比較して作業者(対象者U)の作業を評価している。躍度及び角躍度を評価することで動作の滑らかさを判断することができ、所定作業の一連の動作を滑らかに行うことで作業者の体に負担がかかりにくくすることができる。同時に、姿勢角度を評価することで無理な姿勢を取っているかを判断することができ、所定作業の間に無理な姿勢を取らないようにすることで作業者の体に負担がかかりにくくすることができる。これらの評価は熟練者の作業技術に基づく閾値と対比して行われるため、作業者の体の損傷を防止するとともに、作業者の体に負担のかかりにくい熟練者の作業技術を身に着けることができる。
【0100】
また、本発明の技術継承支援システム1A,1Bでは、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の少なくとも1つが閾値を超えると警告が発報されるようになっている。これにより、作業者は、作業中に自身のどの作業が熟練者の作業と異なっていて体に負担がかかっているかを容易に認識することができる。
【0101】
また、実施形態2及び実施形態3の技術継承支援システム1Bでは、上部脊柱部に加えて骨盤部にも第2計測装置12を備えている。このように、2箇所に設けられた計測装置10を用いて対象者Uの作業時の姿勢及び動作を計測することで、取得できる加速度データ及び角速度データの量が多くなり、上部脊柱部の1箇所に計測装置10を設けた実施形態1の技術継承支援システム1Aよりも、より高精度に対象者Uの作業における評価を行うことができる。特に、実施形態3の技術継承支援システム1Bでは、対象者Uの体幹の姿勢及び動作に基づいて対象者Uの作業における評価を行っているため、さらに高精度に対象者Uの作業における評価を行うことができる。
【0102】
また、実施形態3の技術継承支援システム1Bでは、実施形態3で示した骨盤部の各躍度を使用して評価する方法と、変形例で示した上部脊柱部及び骨盤部の各躍度を使用して評価する方法とがある。上部脊柱部と骨盤部とは共進運動であるが別々の動きをするため、上部脊柱部及び骨盤部の両方の各躍度を使用することで、正確に対象者Uの作業における評価を行うことができる。一方で、対象者Uが姿勢及び動作を修正する観点では、骨盤部のみの評価を認識できる方が対象者Uには分かりやすい。また、体幹評価の観点からは、上部脊柱部の各躍度を使用した評価よりも骨盤部の各躍度を使用した評価の方が、より体幹評価に即した評価となる。これらのことから、骨盤部の各躍度のみを使用することで、高精度に対象者Uの作業における評価ができつつも、対象者Uも姿勢及び動作を見直しやすい技術継承支援システム1Bとなる。
【0103】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0104】
例えば、上記実施形態では、算出部22は、対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度を算出しているが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。すなわち、各躍度と各角躍度とはともに動作の滑らかさを示す指標として用いるため、算出部22は、対象者Uの上下動、左右動及び前後動に係る躍度、又は、対象者Uの前屈動、側屈動及び回旋動に係る角躍度のいずれかを算出する構成でもよい。このとき、評価部24は、対象者Uの各躍度又は各角躍度と、対象者Uの各姿勢角度とをそれぞれの閾値と比較して、対象者Uの作業を評価する。
【0105】
また、上記実施形態では、情報処理装置20は、閾値設定部23を備えているが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、情報処理装置20は、記憶部26に、各所定作業に対する各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の閾値を保存していれば、閾値設定部23を設けなくてもよい。このとき、評価部24は、閾値設定部23から閾値を取得するのではなく、対象者Uが所定作業を設定すると、記憶部26から当該所定作業の閾値を読み出して取得する。
【0106】
また、上記実施形態では、警告装置30は、光警告装置33を有しているが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、警告装置30は、光警告装置33を備えなくてもよい。光警告装置33を備えない場合、光警告装置33を設置するスペースが必要なくなり、狭いスペースの作業でも技術継承支援システム1A,1Bを使用することができる。
【0107】
また、上記実施形態では、情報処理装置20は、サーバコンピュータとして構成されて計測装置10及び警告装置30とネットワークを介して接続され構成であるが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、情報処理装置20は、計測装置10及び警告装置30と一体の小型デバイスとして構成されてもよい。すなわち、上記実施形態1では、第1計測装置11、情報処理装置20、及び、第1警告装置31が一体の小型のデバイスとして構成される。また、上記実施形態2及び3では、第1計測装置11、情報処理装置20、及び、第1警告装置31が一体の小型のデバイスとして構成される、又は、第2計測装置12、情報処理装置20、及び、第2警告装置32が一体の小型のデバイスとして構成される。このとき、情報処理装置20と一体の小型デバイスとして構成されていない方の計測装置10及び警告装置30は、ネットワークを介して情報処理装置20と接続されている。
【0108】
また、上記実施形態では、計測装置10は、加速度センサ及び角速度センサにより構成される第1計測装置11及び第2計測装置12を有しているが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、計測装置10は、対象者の上半身が撮影可能な撮像装置により構成されてもよい。この場合、撮像装置で撮像した画像を解析することで、対象者の作業時の姿勢及び動作に伴う互いに直交する3軸方向の座標が計測される。すなわち、計測装置10は、対象者Uの作業時の姿勢及び動作に伴う、対象者Uの姿勢を示す値(加速度及び角速度、又は、座標)、及び、対象者Uの動作を示す値が計測できればよい。
【0109】
上記のように計測装置10が撮像装置により構成される場合、計測装置10で計測された対象者Uの座標は、座標データとして情報処理装置20に送信される。情報処理装置20は、対象者Uの座標データに基づいて対象者Uの作業を評価する。具体的には、算出部22において、サンプリング時間ごとの座標データの変位から加速度及び角速度を算出し、上記実施形態のようにして躍度及び角躍度を算出する。姿勢角度は、座標データからの相対的位置関係により算出する。このとき、閾値は、熟練者の互いに直交する3軸方向の座標モデルデータに基づいて設定される。
【0110】
また、身体的動作が伴う技術継承は、実際に技術が提供される環境下における動作が改善されることで初めて達成される。したがって、熟練者のモデルデータは、非熟練者が指導を要する実際の場面及び空間で計測することが重要である。例えば、介護作業に関していえば、事業所ごとに作業空間が異なるし、同じ事業所内においてもトイレの空間及び便器の位置が異なる。そのため、非熟練者が作業に従事する空間、又は、実技練習若しくはトレーニングを行う空間の条件下で、熟練者のモデルデータを取得し、その熟練者のモデルデータに基づいて非熟練者の作業について評価を行うことが必要となる。したがって、対象者Uがどの所定作業を行うかを特定する必要がある。ここで、上記実施形態では、対象者Uが作業を開始する前に、どの所定作業を行うかを選択しているが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、技術継承支援システム1A,1Bが小型カメラを備え、小型カメラで対象者Uの周囲の環境を把握し、対象者Uがこれからどのような作業を行うかを画像認識又はAIにより判断して、自動的に所定作業を選択してもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、閾値設定部23は、各躍度、各姿勢角度及び各角躍度の閾値を設定する際に、熟練者の一連の作業の各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度の最大値に対して標準偏差を加えて閾値を設定しているが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。例えば、作業者が異なっても時間経過と作業内容とがある程度共通する作業の場合、サンプリング時間ごとに熟練者の各モデル躍度、各モデル姿勢角度及び各モデル角躍度に標準偏差を加えた閾値を設定してもよい。このとき、評価部24は、サンプリング時間ごとに異なって設定される閾値と、同じサンプリング時間の対象者Uの各躍度、各姿勢角度及び各角躍度とを比較して、対象者Uの作業を評価する。
【符号の説明】
【0112】
1A,1B 技術継承支援システム
10 計測装置
11 第1計測装置
12 第2計測装置
20 情報処理装置
22 算出部
24 評価部
25 警告指示部
30 警告装置
U 対象者

【要約】
【課題】 所定作業の一連の動作を通して体への負担が少ない熟練者の技術を作業者に継承させることを支援する技術継承支援システムを提供する。
【解決手段】 本発明の技術継承支援システム1Aは、対象者Uの作業時の姿勢及び動作に伴う加速度及び角速度を計測する少なくとも1つの計測装置10と、計測装置10により取得した対象者Uの加速度データ及び角速度データに基づいて対象者の作業を評価する情報処理装置20とを備える。情報処理装置20は、対象者の加速度データ及び角速度データから互いに直交する3軸方向の躍度、角躍度、及び、姿勢角度を算出する算出部22と、算出部22で算出した各躍度、各角躍度、及び、各姿勢角度を予め設定されている熟練者の作業時の姿勢及び動作に基づいて設定した閾値と比較して、対象者の各躍度、各角躍度、及び、各姿勢角度が閾値以上か否かを評価する評価部24とを有する。
【選択図】 図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23