(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法及び押出成形装置
(51)【国際特許分類】
B21C 25/08 20060101AFI20241213BHJP
B21C 23/14 20060101ALI20241213BHJP
B21C 23/21 20060101ALI20241213BHJP
B21J 5/06 20060101ALI20241213BHJP
B21K 21/08 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B21C25/08
B21C23/14
B21C23/21 Z
B21J5/06 B
B21K21/08
(21)【出願番号】P 2024501508
(86)(22)【出願日】2023-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2023032371
(87)【国際公開番号】W WO2024111215
(87)【国際公開日】2024-05-30
【審査請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022186133
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 喬志
(72)【発明者】
【氏名】野津 健太郎
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03261196(US,A)
【文献】特開2003-266139(JP,A)
【文献】特開2013-230494(JP,A)
【文献】国際公開第2013/038526(WO,A1)
【文献】特開2021-041461(JP,A)
【文献】特開2014-205187(JP,A)
【文献】特開2003-010940(JP,A)
【文献】米国特許第03213664(US,A)
【文献】米国特許第03165199(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 25/08
B21C 23/14
B21C 23/21
B21J 5/06
B21K 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状を有するマンドレルと、所定の形状を有するスリーブと、所定の形状を有する貫通孔であるコンテナ孔が形成されたコンテナと、前記コンテナ孔に前記マンドレル及び前記スリーブを押し込むように構成された駆動機構と、を備える押出成形装置において、所定の形状を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを押出加工によって成形する、押出成形方法であって、
前記素材は、押出方向における上流側である基端側の端面に開口し所定の内径である第1内径を有する円柱状の空間である第1中空孔が形成され所定の肉厚である第1肉厚を有する円筒状の部分である第1中空部分及び前記押出方向における下流側である先端側の端面と前記第1中空部分との間に位置する円柱状の部分である第1中実部分からなり全体として所定の外径である第1外径を有する円柱状の外形を有する部材であり、
前記差厚パイプは、前記第1外径及び前記第1肉厚を有する円筒状の部分である第2中空部分と、前記第2中空部分の前記先端側に隣接し前記基端側から前記先端側に向かって前記第1外径から前記第1外径よりも小さい所定の外径である第2外径へと外径が変化し且つ前記第1肉厚から前記第1肉厚よりも小さい所定の肉厚である第2肉厚へと肉厚が変化する筒状の部分である第3中空部分と、前記第3中空部分の前記先端側に隣接し前記第2外径及び第2肉厚を有する円筒状の部分である第4中空部分と、前記先端側の端部と前記第4中空部分との間に位置し前記第2外径を有する円柱状の部分である第2中実部分とからなり、前記基端側の端面に開口し前記第1内径を有する円柱状の空間である第2中空孔が前記第2中空部分から前記第4中空部分に亘って連続的に形成された部材であり、
前記マンドレルは、前記スリーブに同軸状且つ軸方向において摺動可能に内嵌され前記第1内径に対応する所定の外径である第3外径を有する円柱状の形状を有する部材であり、
前記スリーブは、前記マンドレルに同軸状且つ軸方向において摺動可能に外嵌され前記第3外径に対応する所定の内径である第2内径及び前記第1外径を有する円筒状の形状を有する部材であり、
前記コンテナ孔は、前記基端側に形成され且つ前記第1外径に対応する内径である第3内径を有する部分である大内径部分と、前記先端側に形成され且つ前記第2外径に対応する内径である第4内径を有する部分である小内径部分と、前記大内径部分と前記小内径部分との間に形成され且つ前記大内径部分から前記小内径部分へと近付くにつれて前記第3内径から前記第4内径へと内径が減少する部分である内径減少部分と、からなり、
前記コンテナ孔の前記大内径部分に前記素材を挿入し前記コンテナ孔の前記内径減少部分に前記素材の前記先端側の端部を当接させ、前記素材の前記基端側の端部に前記スリーブを当接させ、前記素材の前記第1中空孔に前記マンドレルを挿入し、前記スリーブの前記先端側の端部と前記マンドレルの前記先端側の端部との間の前記押出方向における相対的な距離である先端間距離を所定の距離である第1距離に固定する、第1工程、
前記マンドレル及び前記スリーブの協調駆動により前記先端間距離を前記第1距離に維持しつつ前記スリーブ及び前記マンドレルを前記押出方向に向かって進行させることにより前記コンテナ孔の前記内径減少部分を介して前記小内径部分へと前記素材を押し込んで押出加工を行い、前記マンドレルの前記先端側の端部が前記コンテナ孔の前記内径減少部分の前記基端側の端部に到達する時点である第1時点まで前記スリーブ及び前記マンドレルの進行を継続する、第2工程、及び
前記第1時点以降も前記先端間距離を前記第1距離に維持しつつ前記スリーブ及び前記マンドレルを前記押出方向に向かって進行させる、第3工程、
を含
み、
少なくとも前記第2工程における前記押出加工の開始時点である第2時点においては前記素材の前記第1中空孔の底部と前記マンドレルとが接触していない、
ことを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法。
【請求項2】
請求項
1に記載された中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法であって、
前記第2時点における前記素材の前記第1中空孔の底部と前記マンドレルの前記先端側の端部との間の空隙である初期空隙の前記押出方向における長さである初期長さが所定の第1長さ以上であり且つ前記第1長さよりも長い所定の第2長さ未満であり、
前記第1長さが、前記第2時点から前記素材の前記先端側の端部が前記コンテナ孔の前記内径減少部分へと進入し始める時点である第3時点までの期間における前記素材の寸法変化の大きさに基づいて定められ、
前記第2長さが、前記第2時点から前記第1時点までの期間において前記素材を構成する材料が前記素材の前記第1中空孔の底部と前記マンドレルの前記先端側の端部との間の空隙である第1空隙に流入しない最大長さ以下の所定の長さに定められる、
ことを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法。
【請求項3】
所定の形状を有するマンドレルと、所定の形状を有するスリーブと、所定の形状を有する貫通孔であるコンテナ孔が形成されたコンテナと、前記コンテナ孔に前記マンドレル及び前記スリーブを押し込むように構成された駆動機構と、を備え、
所定の形状を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを押出加工によって成形するように構成された、
押出成形装置であって、
前記素材は、押出方向における上流側である基端側の端面に開口し所定の内径である第1内径を有する円柱状の空間である第1中空孔が形成され所定の肉厚である第1肉厚を有する円筒状の部分である第1中空部分及び前記押出方向における下流側である先端側の端面と前記第1中空部分との間に位置する円柱状の部分である第1中実部分からなり全体として所定の外径である第1外径を有する円柱状の外形を有する部材であり、
前記差厚パイプは、前記第1外径及び前記第1肉厚を有する円筒状の部分である第2中空部分と、前記第2中空部分の前記先端側に隣接し前記基端側から前記先端側に向かって前記第1外径から前記第1外径よりも小さい所定の外径である第2外径へと外径が変化し且つ前記第1肉厚から前記第1肉厚よりも小さい所定の肉厚である第2肉厚へと肉厚が変化する筒状の部分である第3中空部分と、前記第3中空部分の前記先端側に隣接し前記第2外径及び第2肉厚を有する円筒状の部分である第4中空部分と、前記先端側の端部と前記第4中空部分との間に位置し前記第2外径を有する円柱状の部分である第2中実部分とからなり、前記基端側の端面に開口し前記第1内径を有する円柱状の空間である第2中空孔が前記第2中空部分から前記第4中空部分に亘って連続的に形成された部材であり、
前記マンドレルは、前記スリーブに同軸状且つ軸方向において摺動可能に内嵌され前記第1内径に対応する所定の外径である第3外径を有する円柱状の形状を有する部材であり、
前記スリーブは、前記マンドレルに同軸状且つ軸方向において摺動可能に外嵌され前記第3外径に対応する所定の内径である第2内径及び前記第1外径を有する円筒状の形状を有する部材であり、
前記コンテナ孔は、前記基端側に形成され且つ前記第1外径に対応する内径である第3内径を有する部分である大内径部分と、前記先端側に形成され且つ前記第2外径に対応する内径である第4内径を有する部分である小内径部分と、前記大内径部分と前記小内径部分との間に形成され且つ前記大内径部分から前記小内径部分へと近付くにつれて前記第3内径から前記第4内径へと内径が減少する部分である内径減少部分と、からなり、
前記コンテナ孔の前記大内径部分に前記素材を挿入し前記コンテナ孔の前記内径減少部分に前記素材の前記先端側の端部を当接させ、前記素材の前記基端側の端部に前記スリーブを当接させ、前記素材の前記第1中空孔に前記マンドレルを挿入し、前記スリーブの前記先端側の端部と前記マンドレルの前記先端側の端部との間の前記押出方向における相対的な距離である先端間距離を所定の距離である第1距離に固定する、第1工程、
前記マンドレル及び前記スリーブの協調駆動により前記先端間距離を前記第1距離に維持しつつ前記スリーブ及び前記マンドレルを前記押出方向に向かって進行させることにより前記コンテナ孔の前記内径減少部分を介して前記小内径部分へと前記素材を押し込んで押出加工を行い、前記マンドレルの前記先端側の端部が前記コンテナ孔の前記内径減少部分の前記基端側の端部に到達する時点である第1時点まで前記スリーブ及び前記マンドレルの進行を継続する、第2工程、及び
前記第1時点以降も前記先端間距離を前記第1距離に維持しつつ前記スリーブ及び前記マンドレルを前記押出方向に向かって進行させる、第3工程、
を実行することにより前記差厚パイプを成形するように構成され
ており、
少なくとも前記第2工程における前記押出加工の開始時点である第2時点においては前記素材の前記第1中空孔の底部と前記マンドレルとが接触していない、
ことを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置。
【請求項4】
請求項
3に記載された中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置であって、
前記第2時点における前記素材の前記第1中空孔の底部と前記マンドレルの前記先端側の端部との間の空隙である初期空隙の前記押出方向における長さである初期長さが所定の第1長さ以上であり且つ前記第1長さよりも長い所定の第2長さ未満であり、
前記第1長さが、前記第2時点から前記素材の前記先端側の端部が前記コンテナ孔の前記内径減少部分へと進入し始める時点である第3時点までの期間における前記素材の寸法変化の大きさに基づいて定められ、
前記第2長さが、前記第2時点から前記第1時点までの期間において前記素材を構成する材料が前記素材の前記第1中空孔の底部と前記マンドレルの前記先端側の端部との間の空隙である第1空隙に流入しない最大長さ以下の所定の長さに定められる、
ことを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法及び押出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野においては、例えば厚肉部において所望の機械的強度を達成しつつ薄肉部(厚肉部以外の部分)において軽量化を図ること等を目的としてパイプの軸方向における一部分に厚肉部が形成された差厚パイプ(「バテッドパイプ」及び「バテッドチューブ」等とも称呼される)が知られている。このような全長に亘って中空の差厚パイプは、例えば特許文献1(特許第6933762号公報)において開示されているように、円筒状の素管から押出成形によって一体的に成形することができる。
【0003】
また、例えばシャフト類等の分野においても差厚パイプを適用するニーズがあるが、全長に亘って中空とするのではなく、軸方向において所定の長さを有する中実部分を一方の端部側に設けることが求められる場合がある。例えば製造コストの削減等の観点からは、このような中実部分を有する差厚パイプもまた押出成形によって一体的に成形することが望ましい。しかしながら、このような中実部分を有する差厚パイプを上記工法によって成形することはできない。
【0004】
一方、当該技術分野においては、軸方向の長さは短いながらも中実部分を一端に有する差厚パイプである底付中空金属製品を押出成形によって製造する工法が知られている。例えば特許文献2(特公昭49-035497号公報)には、略円柱状且つ中実の素材にパンチを挿し込んで中空孔を形成する穿孔圧縮工程と、次工程において別個のパンチにより中空孔の底部を押圧しながら全体を押し出すことにより中空部分(差厚部)及び中実部分(底部)を形成する工程との組合せによって底付中空金属製品を製造する工法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3(特公昭58-048264号公報)には、所定の位置関係にある鍔部と中空孔(と底部)とを有する素材を鍛造工程にて予め形成しておき、次工程においてセンターパンチの先端によって中空孔の底を押圧して角を付けた中間素材を成形し、次工程において中間素材の底部とは反対側の端部をスリーブパンチによって押圧することにより中空部分(差厚部)及び中実部分(底部)を形成する工法が開示されている。
【0006】
しかしながら、上述した何れの工法においても、特定の要件を満たす比較的複雑な形状を有する素材を用意する必要がある。また、これらの工法によって製造される底付中空金属製品は所謂「有底筒状部材」であり、前述したような軸方向において所定の長さを有する中実部分を有する差厚パイプには該当しない。更に、後者の工法においては、センターパンチの先端によって中空孔の底を押圧して角を付ける工程において素材の底部と側壁部との境界に亀裂が生じ易いため、センターパンチによる押圧力を強く設定することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6933762号公報
【文献】特公昭49-035497号公報
【文献】特公昭58-048264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、前述したような先行技術における問題点を勘案し、特許文献1に記載された技術をベースとして、中空部分と中実部分とを有する素材の中空孔にマンドレル(芯金)を挿通した状態にて先端側に小内径部を有するコンテナ(ダイス)に当該素材を押し込んで縮径を行うことにより中実部分を有する差厚パイプを押出成形する実験を試みた。ところが、マンドレルの先端によって素材の中空孔の底部(中実部分の最上部)を押出方向へ押圧すると、
図6の(a)において太い実線によって例示するように、中空孔の底部と側壁部との境界に全周に亘る亀裂が発生し易いことが確認された。
【0009】
一方、上記のような亀裂の発生を防ぐべく、マンドレルの先端と中空孔の底部との間に空間を維持しながら押出成形をすると、
図6の(b)において黒い半円形によって例示するように、当該素材が径方向における内側に向かって圧縮されるのに伴い、当該素材の肉(形成材料)が当該空間に向かって塑性流動し、当該空間内の全周に渡って肉溜まりができてしまい、所望の中空形状を実現することができないことが確認された。
【0010】
即ち、当該技術分野においては、複雑な形状を有する素材を必要とすること無く上述したような亀裂及び/又は肉溜まり等の欠陥の発生を低減することができる、中実部分を有する差厚パイプの製造方法並びに製造装置に対する需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した知見に基づき、本発明者は、更なる鋭意研究の結果、マンドレルの先端と素材の中空孔の底部との位置関係並びにスリーブ及びマンドレルの動きを適切に制御することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0012】
具体的には、本発明に係る中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、押出成形装置において、所定の形状を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを押出加工によって成形する、押出成形方法である。押出成形装置は、所定の形状を有するマンドレルと、所定の形状を有するスリーブと、所定の形状を有する貫通孔であるコンテナ孔が形成されたコンテナと、コンテナ孔にマンドレル及びスリーブを押し込むように構成された駆動機構と、を備える。
【0013】
素材は、第1中空部分及び第1中実部分からなり、全体として所定の外径である第1外径を有する円柱状の外形を有する部材である。第1中空部分は、押出方向における上流側である基端側の端面に開口し所定の内径である第1内径を有する円柱状の空間である第1中空孔が形成され所定の肉厚である第1肉厚を有する円筒状の部分である。第1中実部分は、押出方向における下流側である先端側の端面と第1中空部分との間に位置する円柱状の部分である。
【0014】
差厚パイプは、第2中空部分と、第3中空部分と、第4中空部分と、第2中実部分からなる部材である。第2中空部分は、第1外径及び第1肉厚を有する円筒状の部分である。第3中空部分は、第2中空部分の先端側に隣接し基端側から先端側に向かって第1外径から第1外径よりも小さい所定の外径である第2外径へと外径が変化し且つ第1肉厚から第1肉厚よりも小さい所定の肉厚である第2肉厚へと肉厚が変化する筒状の部分である。第4中空部分は、第3中空部分の先端側に隣接し第2外径及び第2肉厚を有する円筒状の部分である。第2中実部分は、先端側の端部と第4中空部分との間に位置し第2外径を有する円柱状の部分である。更に、基端側の端面に開口し第1内径を有する円柱状の空間である第2中空孔が第2中空部分から第4中空部分に亘って連続的に形成されている。
【0015】
マンドレルは、スリーブに同軸状且つ軸方向において摺動可能に内嵌され第1内径に対応する所定の外径である第3外径を有する円柱状の形状を有する部材である。スリーブは、マンドレルに同軸状且つ軸方向において摺動可能に外嵌され第3外径に対応する所定の内径である第2内径及び第1外径を有する円筒状の形状を有する部材である。
【0016】
コンテナ孔は、大内径部分と、小内径部分と、内径減少部分と、からなる。大内径部分は、基端側に形成され且つ第1外径に対応する内径である第3内径を有する部分である。小内径部分は、先端側に形成され且つ第2外径に対応する内径である第4内径を有する部分である。内径減少部分は、大内径部分と小内径部分との間に形成され且つ大内径部分から小内径部分へと近付くにつれて第3内径から第4内径へと内径が減少する部分である。
【0017】
本発明方法は、以下に列挙する第1工程乃至第3工程を含む。
第1工程は、コンテナ孔の大内径部分に素材を挿入しコンテナ孔の内径減少部分に素材の先端側の端部を当接させ、素材の基端側の端部にスリーブを当接させ、素材の第1中空孔にマンドレルを挿入し、スリーブの先端側の端部とマンドレルの先端側の端部との間の押出方向における相対的な距離である先端間距離を所定の距離である第1距離に固定する工程である。
第2工程は、先端間距離を第1距離に維持しつつスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させることによりコンテナ孔の内径減少部分を介して小内径部分へと素材を押し込んで押出加工を行い、マンドレルの先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分の基端側の端部に到達する時点である第1時点までスリーブ及びマンドレルの進行を継続する工程である。
第3工程は、第1時点以降も先端間距離を第1距離に維持しつつスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させる工程である。
【0018】
また、本発明は、上述した本発明方法を実行することにより中実部分を有する差厚パイプを成形する、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置(以降、「本発明装置」と称呼される場合がある。)にも関する。
【発明の効果】
【0019】
上述した構成を有する本発明装置において上述した第1工程乃至第3工程を含む本発明方法を実行することにより、単純な構造を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを精度良く且つ容易に成形することができる。即ち、本発明によれば、複雑な形状を有する素材を必要とすること無く亀裂及び/又は肉溜まり等の欠陥の発生を低減することができる、中実部分を有する差厚パイプの製造方法並びに製造装置を提供することができる。
【0020】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法(第1方法)において使用される素材の元となる原素材、素材及び素材から成形される中実部を有する差厚パイプの構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】第1方法において使用されるマンドレル及びスリーブ並びにコンテナの構成の一例を示す模式的な断面図である。
【
図3】第1方法において実行される第1工程乃至第3工程の流れを例示するフローチャートである。
【
図4】第1方法において実行される第1工程の終了時並びに第3工程の開始時及び終了時における素材及び差厚パイプの形状並びにマンドレル、スリーブ及びコンテナと素材及び差厚パイプとの位置関係の一例を示す模式的な断面図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法(第2方法)に含まれる第2工程の開始時点における素材の第1中空孔の底部の近傍における第1中空孔の底部とマンドレルとの位置関係の一例を示す模式的な断面図である。
【
図6】従来技術をベースとして中実部分を有する差厚パイプを押出成形する実験を試みた際に認められた問題を例示する模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0023】
〈構成〉
第1方法は、押出成形装置において、所定の形状を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを押出加工によって成形する、押出成形方法である。押出成形装置は、所定の形状を有するマンドレルと、所定の形状を有するスリーブと、所定の形状を有する貫通孔であるコンテナ孔が形成されたコンテナと、コンテナ孔にマンドレル及びスリーブを押し込むように構成された駆動機構と、を備える。このような押出成形装置の基本的な構成については当業者に周知であるので詳細な説明は省略するが、マンドレル、スリーブ及びコンテナを始めとする構成要素は、例えば後述する押出加工において構成要素に作用する荷重等の加工条件に耐え得る性質(例えば、機械的強度及び耐久性等)を有する材料によって構成される。また、コンテナ孔にマンドレル及びスリーブを押し込むための駆動機構は、押出加工に付される素材を構成する材料の性質(例えば、機械的強度及び硬度等)に応じて、当該技術分野において周知の種々の駆動機構の中から適宜選択することができる。典型的には、例えば油圧式プレス機等のプレス機が駆動機構として採用される。
【0024】
図1の(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、第1方法において使用される素材の元となる原素材11、素材21及び素材21から成形される中実部を有する差厚パイプ31の構成の一例を示す模式的な断面図である。
図1の(b)に例示するように、素材21は、第1中空部分PH1及び第1中実部分PS1からなり、全体として所定の外径である第1外径DO1を有する円柱状の外形を有する部材である。第1中空部分PH1は、押出方向における上流側である基端側の端面に開口し所定の内径である第1内径DI1を有する円柱状の空間である第1中空孔HH1が形成され所定の肉厚である第1肉厚T1を有する円筒状の部分である。第1中実部分PS1は、押出方向における下流側である先端側の端面と第1中空部分PH1との間に位置する円柱状の部分である。
【0025】
上記のように素材21は比較的単純な構造を有するので、
図1の(a)に例示するような第1外径DO1を有する円柱状の部材である原素材11に第1中空孔HH1を形成することにより容易に製造することができる。原素材11に第1中空孔HH1を形成するための具体的な手法は特に限定されないが、例えば切削加工等の手法により原素材11に第1中空孔HH1を容易に形成することができる。
【0026】
尚、原素材11を構成する材料は、押出加工における塑性変形により所望の形状に成形することが可能である限り、特に限定されない。典型的には、原素材11を構成する材料は、例えば、鉛、スズ、アルミニウム、銅、ジルコニウム、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、及び鋼等を始めとする金属である。
【0027】
図1の(c)に例示するように、差厚パイプ31は、第2中空部分PH2と、第3中空部分PH3と、第4中空部分PH4と、第2中実部分PS2からなる部材である。第2中空部分PH2は、第1外径DO1及び第1肉厚T1を有する円筒状の部分である。第3中空部分PH3は、第2中空部分PH2の先端側に隣接し基端側から先端側に向かって第1外径DO1から第1外径DO1よりも小さい所定の外径である第2外径DO2へと外径が変化し且つ第1肉厚T1から第1肉厚T1よりも小さい所定の肉厚である第2肉厚T2へと肉厚が変化する筒状の部分である。第4中空部分PH4は、第3中空部分PH3の先端側に隣接し第2外径DO2及び第2肉厚T2を有する円筒状の部分である。第2中実部分PS2は、先端側の端部と第4中空部分PH4との間に位置し第2外径DO2を有する円柱状の部分である。更に、基端側の端面に開口し第1内径DI1を有する円柱状の空間である第2中空孔HH2が第2中空部分PH2から第4中空部分PH4に亘って連続的に形成されている。
【0028】
尚、
図1の(c)に例示した差厚パイプ31においては、第3中空部分PH3の外径の変化率が基端側から先端側に向かうほど大きくなっており、第3中空部分PH3の外径の輪郭が径方向における外側に凸状の曲線となっている。しかしながら、第3中空部分PH3の外径の第1外径DO1から第2外径DO2への変化のパターンはこれに限定されない。例えば、第3中空部分PH3の外径の輪郭が、径方向における外側に凹状の曲線となっていてもよく、或いは、第3中空部分PH3の外径の変化率が基端側の端部から先端側の端部まで一定であり、第3中空部分PH3の外径の輪郭が直線となっていてもよい。
【0029】
また、
図1の(c)に例示した差厚パイプ31においては、第2中空孔HH2の底部(先端側の端部)が円錐形の形状を有している。しかしながら、第2中空孔HH2の底部の形状はこれに限定されず、例えば差厚パイプ31の用途等に応じて様々な形状とすることができる。例えば、第2中空孔HH2の底部の形状は、差厚パイプ31の軸方向に垂直な平面であってもよく、先端側に凸状の曲面(例えば、球面等)であってもよい。このような第2中空孔HH2の底部の形状は、例えばマンドレルの先端側の端部の形状を第2中空孔HH2の底部の形状に対応した形状とすることによって達成することができる。
【0030】
図2の(a)及び(b)は、それぞれ、第1方法において使用されるマンドレル41及びスリーブ51並びにコンテナ61の構成の一例を示す模式的な断面図である。
図2の(a)に例示するように、マンドレル41は、スリーブ51に同軸状且つ軸方向において摺動可能に内嵌され、素材21の第1中空部分PH1の内径である第1内径DI1に対応する所定の外径である第3外径DO3を有する円柱状の形状を有する部材である。スリーブ51は、マンドレル41に同軸状且つ軸方向において摺動可能に外嵌され、マンドレル41の外径である第3外径DO3に対応する所定の内径である第2内径DI2及び素材21の外径である第1外径DO1を有する円筒状の形状を有する部材である。
【0031】
尚、
図2には描かれていないが、マンドレル41及びスリーブ51の基端側の部分は、押出成形装置が備える駆動機構による駆動及び/又は駆動装置からの脱着等に好適な構造及び/又は機構を備えることができる。
【0032】
図2の(b)に例示するように、コンテナ61に形成されたコンテナ孔HC1は、大内径部分PDILと、小内径部分PDISと、内径減少部分PDITと、からなる。大内径部分PDILは、基端側に形成され且つ素材21の外径である第1外径DO1に対応する内径である第3内径DI3を有する部分である。小内径部分PDISは、先端側に形成され且つ差厚パイプ31の第4中空部分PH2及び第2中実部分PS2の外径である第2外径DO2に対応する内径である第4内径DI4を有する部分である。内径減少部分PDITは、大内径部分PDILと小内径部分PDISとの間に形成され且つ大内径部分PDILから小内径部分PDISへと近付くにつれて第3内径DI3から第4内径DI4へと内径が減少する部分である。
【0033】
尚、
図2の(b)に例示したコンテナ61においては、大内径部分PDILが2つの部材によって構成され、内径減少部分PDIT及び小内径部分PDISの最も基端側の部分が1つの部材によって一体的に構成され、小内径部分PDISの残りの部分が2つの部材によって構成されている。即ち、
図2の(b)に例示したコンテナ61は、全体として5つの部材によって構成されている。しかしながら、コンテナ61の構成はこれに限定されず、例えば、全体として1つの部材によって構成されていてもよく、或いは、大内径部分PDIL、小内径部分PDIS及び内径減少部分PDITがそれぞれ1つの部材によって構成され、全体として3つの部材によって構成されていてもよい。
【0034】
第1方法は、
図3のフローチャートによって例示されるように、以下に列挙する第1工程乃至第3工程を含む。
【0035】
ステップS01において実行される第1工程は、コンテナ孔の大内径部分に素材を挿入しコンテナ孔の内径減少部分に素材の先端側の端部を当接させ、素材の基端側の端部にスリーブを当接させ、素材の第1中空孔にマンドレルを挿入し、スリーブの先端側の端部とマンドレルの先端側の端部との間の押出方向における相対的な距離である先端間距離を所定の距離である第1距離に固定する工程である。即ち、第1工程においては、素材、マンドレル、スリーブ及びコンテナが所定の位置にセットされる。
【0036】
ステップS02において実行される第2工程は、先端間距離を第1距離に維持しつつスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させることによりコンテナ孔の内径減少部分を介して小内径部分へと素材を押し込んで押出加工を行い、マンドレルの先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分の基端側の端部に到達する時点である第1時点までスリーブ及びマンドレルの進行を継続する工程である。即ち、第2工程においては、マンドレルの先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分の基端側の端部に到達するまで、マンドレル及びスリーブの協調駆動により先端間距離を第1距離に維持しつつ、スリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させる。これにより、素材の第1中実部分から差厚パイプの第2中実部分への押出加工が行われる。
【0037】
ステップS03において実行される第3工程は、第1時点以降も先端間距離を第1距離に維持しつつスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させる工程である。即ち、第1時点以降に実行される工程である第3工程においても、マンドレル及びスリーブの協調駆動により先端間距離を第1距離に維持しつつ、スリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させることにより、素材の第1中空部分の先端側の一部から差厚パイプの第3中空部分及び第4中空部分への押出加工が行われる。尚、素材の第1中空部分のうち第3工程において押出加工に付されなかった部分が差厚パイプの第2中空部分となる。
【0038】
図4の(a)は、第1工程の終了時における素材21の形状並びにマンドレル41、スリーブ51及びコンテナ61と素材21との位置関係の一例を示す模式的な断面図である。尚、
図4においては、図面を簡潔なものとするため、
図1及び
図2において示した各部位に付された符号の一部のみが表示されている。しかしながら、
図4に関する以下の説明においては、正確を期すため、
図1及び
図2において示した符号を使用するので、必要に応じて
図1及び
図2を参照されたい。
【0039】
図4の(a)に例示するように、コンテナ孔HC1の大内径部分PDILに素材21が挿入され、コンテナ孔HC1の内径減少部分PDITに素材21の先端側の端部が当接している。これにより、コンテナ孔HC1の内部における所定の位置に素材21が保持されている。また、素材21の基端側の端部にスリーブ51が当接しており、素材21に形成された第1中空孔HH1にマンドレル41が挿入されている。更に、スリーブ51の先端側の端部とマンドレル41の先端側の端部との間の押出方向における相対的な距離である先端間距離DTが所定の距離である第1距離D1となるようにスリーブ51及びマンドレル41が配置されている(即ち、DT=D1)。
【0040】
その後、図示しないが、第1工程に続く第2工程においては、マンドレル51及びスリーブ41の協調駆動により先端間距離DTを第1距離D1に維持しつつスリーブ51及びマンドレル41を押出方向(
図4における下向きの方向)に向かって進行させる。これにより、素材21の第1中実部分PS1が先端側からコンテナ孔HC1の内径減少部分PDITを介して小内径部分PDISへと押し込まれ、素材21の第1中実部分PS1から差厚パイプ31の第2中実部分PS2への押出加工が行われる。
【0041】
尚、差厚パイプ31の第2中実部分PS2の外径である第2外径DO2は素材21の第1中実部分PS1の外径である第1外径DO1よりも小さい(DO2<DO1)。即ち、差厚パイプ31の第2中実部分PS2の横断面積は素材21の第1中実部分PS1の横断面積よりも小さい。従って、素材21の第1中実部分PS1から押出加工される差厚パイプ31の第2中実部分PS2の押出方向における長さは素材21の第1中実部分PS1の押出方向における長さよりも大きい(詳しくは後述する)。
【0042】
ところで、例えば
図6の(a)に例示したような亀裂の発生等の問題を回避する観点からは、少なくとも第2工程における上記押出方向の開始時点である第2時点においては、素材21の基端側の端部はスリーブ51によって押出方向に向かって押圧されるものの第1中空孔HH1の底部はマンドレル41によって押圧されない状態にあることが好ましい。このような状態は、例えば、第2時点において素材21の第1中空孔HH1の底部とマンドレル41とを接触させないこと或いは第2時点において素材21の第1中空孔HH1の底部とマンドレル41の先端側の端部との間に所定の大きさを有する空隙を設けること等によって達成することができる(詳しくは後述する)。
【0043】
但し、図示しないが、例えば素材、マンドレル、スリーブ及び/又はコンテナを構成する材料並びに例えば押圧荷重及び又は押圧速度等の押出加工の条件等によっては、上記押出加工の進行に伴って、所謂「据え込み現象」が発生する場合がある。この場合、素材を構成する材料の塑性流動及び/又はコンテナの弾性変形等により径方向における外側に向かって素材が膨張すると共に軸方向において収縮し、素材に形成された第1中空孔の底部が基端側へと僅かに変位する。従って、第2時点において素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部との間に空隙があったとしても、上記据え込み現象によって当該空隙が消失又は縮小する場合がある。
【0044】
上記押出加工の進行に伴い、やがてマンドレル41の先端側の端部がコンテナ孔HC1の内径減少部分PDITの基端側の端部に到達する。このようにマンドレル41の先端側の端部がコンテナ孔HC1の内径減少部分PDITの基端側の端部に到達した時点である第1時点までの期間が第2工程に該当し、第1時点以降の期間が第3工程に該当する。
【0045】
図4の(b)は、第2工程の終了直後、即ち第3工程の開始直後における素材21の形状並びにマンドレル41、スリーブ51及びコンテナ61と素材21との位置関係の一例を示す模式的な断面図である。第3工程においては、第1時点以降も先端間距離DTを第1距離D1に維持しつつスリーブ51及びマンドレル41の押出方向への進行が継続される。これにより、素材21の第1中空部分PH1が先端側からコンテナ孔HC1の内径減少部分PDITを介して小内径部分PDISへと押し込まれ、素材21の第1中空部分PH1の先端側の一部から差厚パイプ31の第4中空部分PH4及び第3中空部分PH3への押出加工が行われる。また、上述したように、素材21の第1中空部分PH1のうち第3工程において押出加工に付されなかった部分が差厚パイプ31の第2中空部分PH2となる。
【0046】
尚、差厚パイプ31の第4中空部分PH4の外径である第2外径DO2は素材21の第1中空部分PH1の外径である第1外径DO1よりも小さい(DO2<DO1)。また、差厚パイプ31の第2中空孔HH2の内径はマンドレル41により素材21の第1中空部分PH1の内径である第1内径DI1のまま維持される。即ち、差厚パイプ31の第4中空部分PH4の横断面積は素材21の第1中空部分PH1の横断面積よりも小さい。一方、差厚パイプ31の第3中空部分PH3の外径は、前述したように基端側から先端側に向かって第1外径DO1から第1外径DO1よりも小さい第2外径DO2へと変化するものの、差厚パイプ31の第3中空部分PH3の内径もまたマンドレル41により第1内径DI1のまま維持される。即ち、差厚パイプ31の第3中空部分PH3の横断面積もまた素材21の第1中空部分PH1の横断面積よりも小さい。従って、素材21の第1中空部分PH1から押出加工される差厚パイプ31の第4中空部分PH4及び第3中空部分PH3の押出方向における長さは素材21の第1中空部分PH1の押出加工に付された部分の押出方向における長さよりも大きくなる(詳しくは後述する)。
【0047】
従って、
図4の(b)において太い破線によって囲まれている領域に示すように、第3工程において素材21の第1中空部分PH1から差厚パイプ31の第4中空部分PH4及び第3中空部分PH3への押出加工が開始されると、素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部とが互いに離隔し始める。
【0048】
図4の(c)は、第3工程の終了時における差厚パイプ31の形状並びにマンドレル41、スリーブ51及びコンテナ61と差厚パイプ31との位置関係の一例を示す模式的な断面図である。
図4の(c)に例示するように、上述した第1工程乃至第3工程の実行により、所期の形状を有する第2中空部分PH2と第3中空部分PH3と第4中空部分PH4と第2中実部分PS2からなる差厚パイプ31を、単純な形状を有する素材21から、容易に成形することができる。
【0049】
尚、第1方法に含まれる第2工程おいては、上述したように、スリーブの先端側の端部とマンドレルの先端側の端部との間の押出方向における相対的な距離である先端間距離DTを所定の距離である第1距離D1に維持しつつスリーブ51及びマンドレル41を押出方向に向かって進行させることによりコンテナ孔HC1の内径減少部分PDITを介して小内径部分PDISへと素材21の第1中実部分PS1を押し込んで素材21の第1中実部分PS1から差厚パイプ31の第2中実部分PS2への押出加工を行う。
【0050】
一方、第3工程においては、上述したように、素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部とが互いに離隔している。即ち、第3工程においては、マンドレル41は押出加工には寄与せず、素材21の第1中空部分PH1の先端側の一部が差厚パイプ31の第4中空部分PH4及び第3中空部分PH3へと変化する過程において差厚パイプ31に形成された第2中空孔HH2の横断面形状を素材21に形成された第1中空孔HH1と同一に維持する機能を担っている。
【0051】
ここで、先に言及した素材21及び差厚パイプ31の各部分の押出方向(素材21の軸方向に同じ)における長さについて以下に詳しく説明する。但し、以下の説明においては、理解を容易にすることを目的として、素材21に形成された第1中空孔HH1及び差厚パイプ31に形成された第2中空孔HH2の底部の形状が何れも軸方向に垂直な平面であることを前提としている。従って、これらの底部の形状が軸方向に垂直な平面ではない場合は、当該形状に応じた修正が必要とされることは言うまでも無い。
【0052】
差厚パイプ31の第2中空部分PH2、第3中空部分PH3及び第4中空部分PH4は素材21の第1中空部分PH1から成形され、差厚パイプ31の第2中実部分PS2は素材21の第1中実部分PS1から成形される。従って、素材21の各部分の軸方向における長さ(以降、単に「長さ」と称呼される場合がある。)と差厚パイプ31の各部分の軸方向における長さとの間には以下に列挙するような関係が成立する。
【0053】
先ず、差厚パイプ31の第2中空部分PH2の長さ(LPH2)は、第3工程を終了する時点において押出加工に付されずに素材21のまま未加工の状態にて残る部分の長さである。従って、素材21の第1中空部分PH1の長さ(LPH1)よりも小さい限り、第3工程を終了するタイミングによってLPH2を任意の大きさに定めることができる。
【0054】
次に、差厚パイプ31の第3中空部分PH3の長さ(LPH3)は、コンテナ61に形成されたコンテナ孔HC1の内径減少部分PDITの長さ(LPDIT)によって自ずと定まる。従って、コンテナ61に形成されたコンテナ孔HC1におけるLPDITを調整することによりLPH3を任意の大きさに定めることができる。
【0055】
次に、差厚パイプ31の第4中空部分PH4の長さ(LPH4)は、素材21の第1中空部分PH1を構成している材料の体積(VPH1)から差厚パイプ31の第2中空部分PH2及び第3中空部分PH3を構成している材料の体積(VPH2+VPH3)を減算した残りの体積を第4中空部分PH4の環状の横断面の面積(APH4)によって除算することによって算出することができる。従って、所期のLPH4を得るためには、以下の式(1)が成立するように素材21、差厚パイプ31及び第3コンテナ61に形成されるコンテナ孔HC1を構成する必要がある。尚、VPH1、VPH2、及びAPH4は以下の式(2)乃至式(4)によって表すことができる。尚、VPH3は第3中空部分PH3の外径の変化のパターン(即ち輪郭の形状)によって変化するので、第3中空部分PH3の形状に応じて算出する必要がある。
【0056】
【0057】
素材21の第1中実部分PS1の長さ(LPS1)と差厚パイプ31の中実部分PS2の長さ(LPS2)との関係は以下の式(5)によって表すことができる。
【0058】
【0059】
従って、所期のLPS2を得るためには、以下の式(6)が成立するように素材21の第1外径DO1並びに差厚パイプ31の第2外径DO2に応じて素材21の第1中実部分の長さ(LPS1)を定める必要がある。
【0060】
【0061】
〈効果〉
以上説明してきたように、上述した構成を有するマンドレル、スリーブ及びコンテナ並びに駆動機構を備える押出成形装置において上述した第1工程乃至第3工程を含む第1方法を実行することにより、単純な構造を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを精度良く且つ容易に成形することができる。即ち、第1方法は、複雑な形状を有する素材を必要とすること無く亀裂及び/又は肉溜まり等の欠陥の発生を低減することができる、中実部分を有する差厚パイプの製造方法である。
【0062】
このような中実部分を有する差厚パイプは、厚肉部において所望の機械的強度を達成しつつ薄肉部(厚肉部以外の部分)において軽量化を図ることが求められる部品として有用である。また、例えば、シャフト系の部品のうち油止めが必要とされる部品として上記のような中実部分を有する差厚パイプを採用すれば、油止めのための栓が不要となり、設計上の自由度を高めたり製造コストを削減したりすることができる。
【0063】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0064】
前述したように、第1方法においては、スリーブの先端側の端部とマンドレルの先端側の端部との間の押出方向における相対的な距離である先端間距離を所定の距離である第1距離に維持しつつスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させることによりコンテナ孔の内径減少部分を介して小内径部分へと素材を押し込んで押出加工を行う。その結果、素材21の第1中空部分PH1の先端側の一部が差厚パイプ31の第4中空部分PH4及び第3中空部分PH3へと押出加工される第3工程においては、素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部とが互いに離隔する。即ち、第3工程においては、マンドレルは押出加工には寄与せず、素材に形成された第1中空孔が差厚パイプ31に形成された第2中空孔へと変化する過程において当該中空孔の横断面形状を維持する機能を担っている。
【0065】
その結果、単純な構造を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを精度良く且つ容易に成形することができる。即ち、第1方法によれば、複雑な形状を有する素材を必要とすること無く、亀裂及び/又は肉溜まり等の欠陥の発生を低減しつつ、中実部分を有する差厚パイプを容易に製造することができる。
【0066】
しかしながら、前述したように、例えば素材、マンドレル、スリーブ及び/又はコンテナを構成する材料並びに例えば押圧荷重及び又は押圧速度等の押出加工の条件等によっては、コンテナに形成されたコンテナ孔の内径減少部分を介して小内径部分へと素材を押し込み始める時点(即ち、押出加工の開始時点)において所謂「据え込み現象」が発生する場合がある。この場合、素材を構成する材料の塑性流動及び/又はコンテナの弾性変形等により径方向における外側に向かって素材が膨張すると共に軸方向において収縮し、素材に形成された第1中空孔の底部が基端側へと僅かに変位する。その結果、第1中空孔の底部によってマンドレルの先端側の端部が基端側に向かって押圧され、その反作用により第1中空孔の底部に応力が作用して、第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる場合がある。
【0067】
〈構成〉
そこで、第2方法は、上述した第1方法であって、少なくとも第2工程における押出加工の開始時点である第2時点においては素材の第1中空孔の底部とマンドレルとが接触していないことを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法である。
【0068】
図5は、第2方法に含まれる第2工程の開始時点における素材の第1中空孔の底部の近傍における第1中空孔の底部とマンドレルとの位置関係の一例を示す模式的な断面図であり、
図4の(a)において太い破線によって囲まれている領域の拡大図である。
図5に例示するように、第2方法においては、少なくとも(図示しない)スリーブ51及びマンドレル41を押出方向に向かって進行させ始める時点(第2時点)において、素材21の第1中空孔HH1の底部とマンドレル41とが接触していない。具体的には、
図5に示す例においては、素材21の第1中空孔HH1の底部とマンドレル41との間に空隙Gが設けられている。
【0069】
上記により、上述したように第2工程における押出加工の開始時点において据え込み現象が発生して素材に形成された第1中空孔の底部が基端側へと変位する場合であっても、マンドレルの先端を中空孔の底部が押圧する可能性を低減することができる。その結果、第1中空孔の底部によるマンドレルの先端への押圧の反作用により第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を低減することができる。
【0070】
尚、
図5に例示した素材21においては、第1中空孔HH1の底部(先端側の端部)が円錐形の形状を有している。このため、
図5に示した例においては、素材21の第1中空孔HH1の底部とマンドレル41との間の空隙Gとして、素材21の第1中空孔HH1の底面の軸方向における平均的な位置とマンドレル41の先端面との間の距離が採用されている。しかしながら、第1中空孔HH1の底部の形状はこれに限定されず、例えば差厚パイプ31の用途及び/又はマンドレルの先端側の端部の形状等に応じて様々な形状とすることができる。例えば、第1中空孔HH1の底部の形状は、素材21の軸方向に垂直な平面であってもよく、先端側に凸状の曲面(例えば、球面等)であってもよい。
【0071】
〈効果〉
以上のように、第2方法によれば、第2工程における押出加工の開始時点において据え込み現象が発生して素材に形成された第1中空孔の底部が基端側へと変位する場合であっても、マンドレルの先端を中空孔の底部が押圧する可能性を低減することができる。その結果、第1中空孔の底部によるマンドレルの先端への押圧の反作用により第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を低減することができる。
【0072】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら、本発明の第3実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0073】
前述したように、第2方法においては、少なくともスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させ始める時点(第2時点)において、素材の第1中空孔の底部とマンドレルとが接触していない。従って、第2方法によれば、第2工程における押出加工の開始時点において据え込み現象が発生して素材に形成された第1中空孔の底部が基端側へと変位する場合であっても、マンドレルの先端を中空孔の底部が押圧する可能性を低減することができる。その結果、第1中空孔の底部によるマンドレルの先端への押圧の反作用により第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を低減することができる。
【0074】
しかしながら、第2時点における素材の第1中空孔の底部とマンドレルとの間の空隙G(初期空隙)が小さ過ぎると、第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を十分に低減することができない場合がある。従って、第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を十分に低減するためには初期空隙を十分に大きく設けることが望ましいと考えられる。ところが、本発明者による更なる研究の結果、例えば素材、マンドレル、スリーブ及び/又はコンテナを構成する材料並びに例えば押圧荷重及び又は押圧速度等の押出加工の条件等によっては、初期空隙が大き過ぎても第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を十分に低減することができない場合があることが判明した。即ち、初期空隙には第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を十分に低減するために好適な範囲が存在する。
【0075】
〈構成〉
そこで、第3方法は、前述した第2方法であって、初期空隙の押出方向における長さである初期長さが所定の第1長さ以上であり且つ第1長さよりも長い所定の第2長さ未満であることを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法である。初期空隙は、第2時点における素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部との間の空隙である。
【0076】
尚、第1長さは、第2時点から素材の先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分へと進入し始める時点である第3時点までの期間における素材の寸法変化の大きさに基づいて定めることができる。好ましくは、第1長さは、第2時点から第3時点までの期間における第1中空孔の底部の基端側への変位の大きさに基づいて定めることができる。このような第1中空孔の底部の基端側への変位等の素材の寸法変化の大きさは、例えば事前の予備実験による検証及び/又は流動解析等のコンピューターシミュレーション等によって特定することができる。
【0077】
一方、第2長さは、第2時点から(マンドレルの先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分を通過した時点以降の所定の時点である)第4時点までの期間において素材を構成する材料が素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部との間の空隙である第1空隙に流入しない最大長さ以下の所定の長さに定めることができる。斯かる第2長さもまた、例えば事前の予備実験による検証及び/又は流動解析等のコンピューターシミュレーション等によって特定することができる。
【0078】
〈効果〉
以上のように、第3方法においては、スリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させ始める時点(第2時点)において第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を十分に低減するために好適な範囲に初期空隙が設定される。その結果、第3方法によれば、素材の第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞をより確実に低減することができる。
【0079】
《第4実施形態》
ところで、本明細書の冒頭において述べたように、本発明は、上述した第1方法乃至第3方法を始めとする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法のみならず、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置にも関する。そこで、本発明の各種実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置につき以下に説明する。
【0080】
先ず、本発明の第4実施形態に係る差厚パイプの押出成形装置(以降、「第4装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0081】
〈構成〉
第4装置は、所定の形状を有するマンドレルと所定の形状を有するスリーブと所定の形状を有する貫通孔であるコンテナ孔が形成されたコンテナとコンテナ孔にマンドレル及びスリーブを押し込むように構成された駆動機構とを備える、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置である。前述したように、このような押出成形装置の基本的な構成については当業者に周知であり、マンドレル、スリーブ及びコンテナを始めとする構成要素は、例えば前述した押出加工において構成要素に作用する荷重等の加工条件に耐え得る性質(例えば、機械的強度及び耐久性等)を有する材料によって構成される。
【0082】
第4装置は、以下に列挙する第1工程乃至第3工程を実行することにより、所定の形状を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを押出加工によって成形するように構成されている。
【0083】
第1工程は、コンテナ孔の大内径部分に素材を挿入しコンテナ孔の内径減少部分に素材の先端側の端部を当接させ、素材の基端側の端部にスリーブを当接させ、素材の第1中空孔にマンドレルを挿入し、スリーブの先端側の端部とマンドレルの先端側の端部との間の押出方向における相対的な距離である先端間距離を所定の距離である第1距離に固定する工程である。
第2工程は、先端間距離を第1距離に維持しつつスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させることによりコンテナ孔の内径減少部分を介して小内径部分へと素材を押し込んで押出加工を行い、マンドレルの先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分の基端側の端部に到達する時点である第1時点までスリーブ及びマンドレルの進行を継続する工程である。
第3工程は、第1時点以降も先端間距離を第1距離に維持しつつスリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させる工程である。
【0084】
第1工程乃至第3工程の詳細については、前述した第1方法に関する説明において既に述べたので、ここでの説明は省略する。
【0085】
図1を参照しながら既に説明したように、素材21は、第1中空部分PH1及び第1中実部分PS1からなり、全体として所定の外径である第1外径DO1を有する円柱状の外形を有する部材である。第1中空部分PH1は、押出方向における上流側である基端側の端面に開口し所定の内径である第1内径DI1を有する円柱状の空間である第1中空孔HH1が形成され所定の肉厚である第1肉厚T1を有する円筒状の部分である。第1中実部分PS1は、押出方向における下流側である先端側の端面と第1中空部分PH1との間に位置する円柱状の部分である。
【0086】
また、差厚パイプ31は、第2中空部分PH2と、第3中空部分PH3と、第4中空部分PH4と、第2中実部分PS2からなる部材である。第2中空部分PH2は、第1外径DO1及び第1肉厚T1を有する円筒状の部分である。第3中空部分PH3は、第2中空部分PH2の先端側に隣接し基端側から先端側に向かって第1外径DO1から第1外径DO1よりも小さい所定の外径である第2外径DO2へと外径が変化し且つ第1肉厚T1から第1肉厚T1よりも小さい所定の肉厚である第2肉厚T2へと肉厚が変化する筒状の部分である。第4中空部分PH4は、第3中空部分PH3の先端側に隣接し第2外径DO2及び第2肉厚T2を有する円筒状の部分である。第2中実部分PS2は、先端側の端部と第4中空部分PH4との間に位置し第2外径DO2を有する円柱状の部分である。更に、基端側の端面に開口し第1内径DI1を有する円柱状の空間である第2中空孔HH2が第2中空部分PH2から第4中空部分PH4に亘って連続的に形成されている。
【0087】
図2を参照しながら既に説明したように、マンドレル41は、スリーブ51に同軸状且つ軸方向において摺動可能に内嵌され、素材21の第1中空部分PH1の内径である第1内径DI1に対応する所定の外径である第3外径DO3を有する円柱状の形状を有する部材である。スリーブ51は、マンドレル41に同軸状且つ軸方向において摺動可能に外嵌され、マンドレル41の外径である第3外径DO3に対応する所定の内径である第2内径DI2及び素材21の外径である第1外径DO1を有する円筒状の形状を有する部材である。
【0088】
また、コンテナ61に形成されたコンテナ孔HC1は、大内径部分PDILと、小内径部分PDISと、内径減少部分PDITと、からなる。大内径部分PDILは、基端側に形成され且つ素材21の外径である第1外径DO1に対応する内径である第3内径DI3を有する部分である。小内径部分PDISは、先端側に形成され且つ差厚パイプ31の第4中空部分PH2及び第2中実部分PS2の外径である第2外径DO2に対応する内径である第4内径DI4を有する部分である。内径減少部分PDITは、大内径部分PDILと小内径部分PDISとの間に形成され且つ大内径部分PDILから小内径部分PDISへと近付くにつれて第3内径DI3から第4内径DI4へと内径が減少する部分である。
【0089】
以上のように、第4装置は前述した第1方法に対応する、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置である。従って、第4装置によって成形される差厚パイプ、差厚パイプを成形する元となる素材及び素材の元となる原素材、並びに、第4装置を構成するマンドレル、スリーブ及びコンテナについては、前述した第1方法に関する説明から明らかであるので、ここでの説明は省略する。
【0090】
〈効果〉
上述したような構成を有する第4装置において第1工程乃至第3工程を実行することにより、単純な構造を有する素材から中実部分を有する差厚パイプを精度良く且つ容易に成形することができる。即ち、第4装置は、複雑な形状を有する素材を必要とすること無く亀裂及び/又は肉溜まり等の欠陥の発生を低減することができる、中実部分を有する差厚パイプの製造装置である。
【0091】
《第5実施形態》
次に、本発明の第5実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置(以降、「第5装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0092】
〈構成〉
第5装置は、上述した第4装置であって、少なくとも第2工程における押出加工の開始時点である第2時点においては素材の第1中空孔の底部とマンドレルとが接触していないことを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置である。
【0093】
以上のように、第5装置は前述した第2方法に対応する、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置である。従って、第5装置の構成及び作動の詳細については第2方法に関する説明から明らかであるので、ここでの説明は省略する。
【0094】
〈効果〉
第5装置によれば、第2工程における押出加工の開始時点において据え込み現象が発生して素材に形成された第1中空孔の底部が基端側へと変位する場合であっても、マンドレルの先端を中空孔の底部が押圧する可能性を低減することができる。その結果、第1中空孔の底部によるマンドレルの先端への押圧の反作用により第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を低減することができる。
【0095】
《第6実施形態》
次に、本発明の第6実施形態に係る、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置(以降、「第6装置」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0096】
〈構成〉
第6装置は、上述した第5装置であって、初期空隙の押出方向における長さである初期長さが所定の第1長さ以上であり且つ第1長さよりも長い所定の第2長さ未満であることを特徴とする、中実部分を有する差厚パイプの押出成形方法である。初期空隙は、第2時点における素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部との間の空隙である。第1長さは、第2時点から素材の先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分へと進入し始める時点である第3時点までの期間における素材の寸法変化の大きさに基づいて定めることができる。第2長さは、第2時点から(マンドレルの先端側の端部がコンテナ孔の内径減少部分を通過した時点以降の所定の時点である)第4時点までの期間において素材を構成する材料が素材の第1中空孔の底部とマンドレルの先端側の端部との間の空隙である第1空隙に流入しない最大長さ以下の所定の長さに定めることができる。
【0097】
以上のように、第6装置は前述した第3方法に対応する、中実部分を有する差厚パイプの押出成形装置である。従って、第6装置の構成及び作動の詳細については第3方法に関する説明から明らかであるので、ここでの説明は省略する。
【0098】
〈効果〉
第6装置においては、スリーブ及びマンドレルを押出方向に向かって進行させ始める時点(第2時点)において第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞を十分に低減するために好適な範囲に初期空隙が設定される。その結果、第6装置によれば、素材の第1中空孔の底部と側壁部との境界に亀裂が生ずる虞をより確実に低減することができる。
【0099】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0100】
11…原素材、21…素材、31…差厚パイプ、41…マンドレル、51…スリーブ、61…コンテナ、
DO1…第1外径、DO2…第2外径、DO3…第3外径、
DI1…第1内径、DI2…第2内径、DI3…第2内径、DI4…第2内径、
HH1…第1中空孔、HH2…第2中空孔、
T1…第1肉厚、T2…第2肉厚、
PH1…第1中空部分、PH2…第2中空部分、PH3…第3中空部分、PH4…第4中空部分、
PS1…第1中実部分、PS2…第2中実部分、
HC1…コンテナ孔、
PDIL…大内径部分、PDIS…小内径部分、PDIT…内径減少部分、及び
G…空隙。