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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】駆動装置及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/18 20060101AFI20241213BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
H02P25/18
H02P27/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024519155
(86)(22)【出願日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 JP2022019525
(87)【国際公開番号】W WO2023214453
(87)【国際公開日】2023-11-09
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】滝 英俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴彦
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/210129(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/016972(WO,A1)
【文献】特開2018-170919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/18
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から出力される交流電圧を受け、電圧値可変の直流電圧を出力する昇圧コンバータと、
前記昇圧コンバータから出力される母線電圧を、電圧可変及び周波数可変の交流電圧に変換して電動機に印加するインバータと、
前記電動機の巻線を第1の結線と第2の結線との間で相互に切り替える結線切替装置と、
前記昇圧コンバータ、前記インバータ及び前記結線切替装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電動機の電流をゼロとした状態で前記巻線の結線を切り替えるゼロ電流制御を行い、
前記結線切替装置により前記第2の結線が選択されている状態において、ゼロ電流制御期間前の前記電動機の回転速度が回転速度の上限値を超えていない場合、前記第1の結線への切り替えを行う
駆動装置。
【請求項2】
前記母線電圧に上限を設けた状態で前記巻線の結線の切り替えを行う
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記結線切替装置により前記第1の結線が選択されている状態において、前記母線電圧が第1の電圧値であり、前記電動機の回転速度が第1の速度値である第1の状態から、前記母線電圧が前記第1の電圧値よりも高く、前記電動機に流れる電流が予め定められた閾値以下である第2の状態に移行した際に、前記第1の結線から前記第2の結線への切り替えを行う
請求項に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記第1の結線はスター結線であり、前記第2の結線はデルタ結線である
請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記電動機に流れる電動機電流を検出する検出部を備え、
前記制御部は、回転速度を推定すると共に、前記電動機電流の検出値に基づいて前記電動機に加わる負荷トルクを推定する
請求項3に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記電動機は永久磁石電動機であり、
前記切り替えを行うときの前記母線電圧の最大値をVdc_maxとし、
前記切り替えを行うときの前記電動機の回転速度をωとし、
前記切り替えを行うときの前記永久磁石電動機の電機子鎖交磁束をΦyとするとき、
前記第2の状態への移行前に、下記の(1)式が満たされる
請求項5に記載の駆動装置。
【数1】
【請求項7】
前記電動機は永久磁石電動機であり、
前記切り替えを行うときの前記母線電圧の最大値をVdc_maxとし、
前記切り替えを行うときの前記電動機の回転速度をωとし、
前記切り替えを行うときの前記永久磁石電動機の電機子鎖交磁束をΦyとし、
前記切り替えを行うときの回転速度降下量をΔωとするとき、
前記第2の状態への移行前に、下記の(2)式が満たされる
請求項5に記載の駆動装置。
【数2】
【請求項8】
前記切り替えを行うときの動作最低回転保証速度をωminとし、
前記切り替えを行うときの前記電動機の回転軸周りのイナーシャをJとし、
前記切り替えを行うときの最大負荷トルクをTmmaxとし、
前記切り替えを行うときのゼロ電流制御期間をTとするとき、
前記第2の状態への移行前に、下記の(3)式が満たされる
請求項6に記載の駆動装置。
【数3】
【請求項9】
前記母線電圧をVdcとし、
前記切り替えを行うときの前記母線電圧の最大値をVdc_maxとし、
前記切り替えを行うときの前記電動機の回転速度をωとし、
前記切り替えを行うときの前記永久磁石電動機の電機子鎖交磁束をΦyとし、
前記切り替えを行うときの回転速度降下量をΔωとするとき、
前記第1の状態の回転速度ωが、下記の(4)式を満たしていない場合、前記昇圧コンバータが前記母線電圧Vdcを昇圧し、
前記母線電圧Vdcを前記母線電圧の最大値Vdc_maxまで昇圧しても、下記の(4)式を満たさない場合、前記回転速度を低下させる
請求項6に記載の駆動装置。
【数4】
【請求項10】
前記回転速度降下量は、前記ゼロ電流制御期間前の前記負荷トルクに基づいて算出される
請求項7に記載の駆動装置。
【請求項11】
請求項1から10の何れか1項に記載の駆動装置を備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機を駆動する駆動装置及び冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機の固定子巻線(以下、単に「巻線」と呼ぶ)を複数の異なる結線状態の何れかに切替える結線切替装置を備え、電動機の回転中に巻線の結線を切り替えることが可能な駆動装置が知られている。例えば、下記特許文献1には、第1の結線が選択され、且つ電動機が第1の状態であるときにおいて、第1の結線から第2の結線への切り替えを行う際には、電動機が第2の状態に移行してから第2の結線を選択する技術が開示されている。第1の状態は、直流電源回路の出力電圧が第1の電圧値であり、且つ電動機の回転速度が第1の速度値である状態である。また、第2の状態は、直流電源回路の出力電圧が第1の電圧値よりも高く、且つ電動機の回転速度が第1の速度値よりも高く、且つ電動機に流れる電流が予め定められた閾値以下である状態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】再表2020/021681号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術によれば、機器の大型化を避けることができ、信頼性の高い駆動装置を得ることができるという効果が得られる。その一方で、上記従来技術では、電動機の結線切り替え時の負荷の大小、即ち結線切り替え時における負荷状態を把握することは考慮されていない。例えば、結線切り替え時において負荷が大きい場合、結線切り替え後に、電動機の電圧が駆動装置の内部回路の電圧を超えてしまうことで発生する回生電流によって、駆動装置の内部回路が過電圧になるおそれがある。駆動装置の故障を防止し、駆動装置の寿命を延ばすためにも、駆動装置の内部回路に生じ得る過電圧を抑制することが望まれる。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、結線切り替え時の負荷状態に依らず、駆動装置の内部回路に生じ得る過電圧を抑制可能な駆動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る駆動装置は、昇圧コンバータと、インバータと、結線切替装置と、制御部とを備える。昇圧コンバータは、交流電源から出力される交流電圧を受け、電圧値可変の直流電圧を出力する。インバータは、昇圧コンバータから出力される母線電圧を、電圧可変及び周波数可変の交流電圧に変換して電動機に印加する。結線切替装置は、電動機の巻線を第1の結線と第2の結線との間で相互に切り替える。制御部は、昇圧コンバータ、インバータ及び結線切替装置を制御する。制御部は、電動機の電流をゼロとした状態で巻線の結線を切り替えるゼロ電流制御を行う。また、制御部は、結線切替装置により第2の結線が選択されている状態において、ゼロ電流制御期間前の電動機の回転速度が回転速度の上限値を超えていない場合、第1の結線への切り替えを行う。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る駆動装置によれば、結線切り替え時の負荷状態に依らず、駆動装置の内部回路に生じ得る過電圧を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る駆動装置の構成例を示す図
図2図1に示される結線切替装置と電動機との間の接続態様を詳細に示す図
図3図1に示される結線切替装置の切替器の詳細構成を示す図
図4図1に示される電動機において切り替えられる2つの結線状態を示す図
図5】実施の形態1に係る制御部の細部の構成例を示す図
図6】実施の形態1の結線切替制御における制御シーケンスの説明に供する第1のタイムチャート
図7】実施の形態1の結線切替制御における制御シーケンスの説明に供する第2のタイムチャート
図8図7の制御シーケンスを実施するための処理フローの例を示すフローチャート
図9】実施の形態1に係る制御部の機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図
図10】実施の形態1に係る制御部の機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図
図11】実施の形態2に係る冷凍サイクル装置の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る駆動装置及び冷凍サイクル装置について詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る駆動装置100の構成例を示す図である。駆動装置100は、交流電源2に接続され、交流電源2の電力を利用して電動機1を駆動する。電動機1には、機器5が接続されている。駆動装置100は、昇圧コンバータ3と、インバータ4と、結線切替装置20と、制御部30とを有する。制御部30は、昇圧コンバータ3、インバータ4及び結線切替装置20を制御する。
【0011】
昇圧コンバータ3は、交流電源2から出力される交流電圧を受け、電圧値可変の直流電圧を出力する。以下、この直流電圧を「母線電圧」と呼ぶ。
【0012】
インバータ4は、昇圧コンバータ3から出力される母線電圧を、電圧可変及び周波数可変の交流電圧に変換して電動機1に印加する。制御部30は、インバータ4が出力する電流に基づいてインバータ4の動作を制御する。
【0013】
電動機1の例は、図示の三相電動機である。本稿では、三相同期電動機を想定する。電動機1における巻線の端部は、電動機1の外部に引き出されている。巻線は、第1の結線であるスター結線(以下、適宜「Y結線」と表記)することも、第2の結線であるデルタ結線(以下、適宜「Δ結線」と表記)とすることも可能である。Y結線及びΔ結線のそれぞれにおいて、他の結線への切り替えは、結線切替装置20により行われる。結線切替装置20は、電動機1の巻線の結線を切り替えるための切替器21,22,23を有する。電動機1をY結線とΔ結線のうちの何れの結線状態で駆動するかの選択は、制御部30により制御される。
【0014】
図2は、図1に示される結線切替装置20と電動機1との間の接続態様を詳細に示す図である。図3は、図1に示される結線切替装置20の切替器21,22,23の詳細構成を示す図である。
【0015】
図2において、電動機1の、U相,V相,W相から成る3つの相の巻線41,42,43の第1の端部41a,42a,43aは、それぞれが外部端子41c,42c,43cに接続されている。また、U相,V相,W相の巻線41,42,43の第2の端部41b,42b,43bは、それぞれが外部端子41d,42d,43dに接続されている。外部端子41c,42c,43c,41d,42d,43dは、電動機1の外部との接続が可能な端子である。外部端子41c,42c,43cには、インバータ4のU相,V相,W相の出力線61,62,63が接続されている。
【0016】
前述したように、結線切替装置20は、切替器21,22,23を有する。切替器21,22,23には、それぞれ巻線41,42,43に流れる電流が流れる。切替器21,22,23は、それぞれが巻線41,42,43に流れる電流の経路を切り替える。切替器21,22,23としては、電磁的に接点が開閉する電磁接触器が用いられている。そのような電磁接触器には、リレー、コンタクターなどと呼ばれるものが含まれる。切替器21,22,23は、例えば図3に示すように構成されている。図3では、励磁コイル211,221,231に電流が流されているときと、電流が流されていないときとで、切替器21,22,23の接点が異なる接続状態となるように構成されている。
【0017】
図3において、励磁コイル211,221,231は、半導体スイッチ204を介して、切替電源電圧V20を受けるように接続される。半導体スイッチ204の開閉は、制御部30から出力される結線選択信号Scにより制御される。例えば、結線選択信号Scが第1の値のとき、半導体スイッチ204はオフとなり、結線選択信号Scが第2の値のとき、半導体スイッチ204はオンとなる。第1の値は、例えば論理値の“Low”であり、第2の値は、例えば論理値の“High”である。これらは、逆の関係でもよい。なお、結線選択信号Scが、十分な電流容量を持つ回路から出力される場合には、結線選択信号Scによる電流を当該回路から直接、励磁コイル211,221,231に流すように構成してもよい。その場合には、半導体スイッチ204は不要となる。
【0018】
なお、半導体スイッチ204は、シリコン系材料により形成された半導体素子を用いて形成するのが一般的であるが、これに限定されない。半導体スイッチ204は、ワイドバンドギャップ半導体により形成された半導体素子を用いてもよい。ワイドバンドギャップ半導体により形成されたスイッチング素子を用いることにより、より低損失な装置を構成することができる。
【0019】
図2に戻り、切替器21の共通接点21cは、リード線71を介して外部端子41dに接続され、常閉接点21bは、中性点ノード24に接続され、常開接点21aは、インバータ4のV相の出力線62に接続されている。切替器22の共通接点22cは、リード線72を介して外部端子42dに接続され、常閉接点22bは、中性点ノード24に接続され、常開接点22aは、インバータ4のW相の出力線63に接続されている。切替器23の共通接点23cは、リード線73を介して外部端子43dに接続され、常閉接点23bは、中性点ノード24に接続され、常開接点23aは、インバータ4のU相の出力線61に接続されている。
【0020】
図3において、励磁コイル211,221,231に電流が流れていないときは、切替器21,22,23が図示のように、常閉接点側に切替わった状態、即ち、共通接点21c,22c,23cが常閉接点21b,22b,23bに接続された状態にある。この状態では、電動機1は、Y結線状態にある。励磁コイル211,221,231に電流が流れているときは、切替器21,22,23が図示とは逆に、常開接点側に切替わった状態、即ち、共通接点21c,22c,23cが常開接点21a,22a,23aに接続された状態にある。この状態では、電動機1は、Δ結線状態にある。
【0021】
以上の説明の通り、結線選択信号Scが第1の値、例えばLowのときは、電動機1はY結線の状態になる。また、結線選択信号Scが第2の値、例えばHighのときは、電動機1はΔ結線の状態になる。以下、電動機1の巻線をY結線とΔ結線との間で相互に切り替える制御を、適宜「結線切替制御」と呼ぶ。
【0022】
次に、電動機1の結線状態をY結線又はΔ結線の何れかへ切り替えることの利点について、図4を参照して説明する。図4は、図1に示される電動機1において切り替えられる2つの結線状態を示す図である。
【0023】
図4(a)には、3つの巻線をY結線としたときの接続状態が示され、図4(b)には、3つの巻線をΔ結線としたときの接続状態が示されている。Y結線時の線間電圧をV、流れ込む電流をIとし、Δ結線時の線間電圧をVΔ、流れ込む電流をIΔとし、各相の巻線に印加される電圧が互いに等しいとする。このとき、電圧Vと電圧VΔとの間には、下記の(1)式の関係が成り立つ。
【0024】
【数1】
【0025】
また、電流Iと電流IΔとの間には、下記の(2)式の関係が成り立つ。
【0026】
【数2】
【0027】
Y結線時の電圧V及び電流Iと、Δ結線時の電圧VΔ及び電流IΔとが上記(1),(2)式の関係を有するとき、Y結線時とΔ結線時とで電動機1に供給される電力が互いに等しくなる。つまり、電動機1に供給される電力が互いに等しいとき、Δ結線の方が駆動に必要な電流は大きくなり、逆に駆動に必要な電圧は低くなる。
【0028】
電動機1が同期電動機である場合、回転速度が上昇、即ち負荷が大きくなると逆起電力が増加し、駆動に必要な電圧値が増加する。この逆起電力は、上記のようにY結線の方がΔ結線に比べて大きい。
【0029】
電動機1が永久磁石電動機である場合、より高速回転での逆起電力を抑制するために、永久磁石の磁力を小さくしたり、巻線の巻数を減らしたりすることが考えられる。しかしながら、そのようにすると、同一出力トルクを得るための電流が増加するので、電動機1及びインバータ4に流れる電流が増加して、装置の効率が低下する。
【0030】
そこで、回転速度に応じて結線を切り替えることが考えられる。例えば、高速での運転が必要な高負荷域では、結線状態をΔ結線とする。こうすることで、Y結線に比べて、駆動に必要な電圧値を1/√3にすることができる。これにより、巻線の巻数を減らす必要がなくなり、効率の低下を抑制できる。
【0031】
一方、低速で運転可能な低負荷域では、結線状態をY結線とする。こうすることで、Δ結線に比べて駆動に必要な電流値を1/√3にすることができる。また、Y結線の状態で高速運転することがなくなるので、Y結線状態の巻線を低速での駆動に適したように設計することが可能となる。これにより、Y結線を速度範囲の全域に亘って使用する場合に比べて、電流値を低減することができる。これにより、インバータ4の損失を低減することができ、装置の効率を高めることが可能となる。
【0032】
以上のことから、負荷条件に応じて、電動機1の結線を切り替えることとすれば、低負荷時の効率を向上させつつ、高負荷時の高出力化も可能となる。
【0033】
制御部30は、昇圧コンバータ3を制御して、昇圧コンバータ3から出力される母線電圧を変化させる。また、制御部30は、インバータ4を制御して、電動機1に印加する電圧の周波数及び電圧値を変化させる。更に、制御部30は、結線切替装置20を制御して、電動機1の結線状態をY結線とΔ結線との間で相互に切り替える。
【0034】
なお、本稿において、Y結線は第1の結線の例示であり、Δ結線は第2の結線の例示である。第1及び第2の結線間において、それぞれの端子間電圧に上記(1)式の関係が成り立ち、また、巻線に流れるそれぞれの電流間に上記(2)式の関係が成り立つのであれば、Y結線及びΔ結線以外の結線でもよい。
【0035】
図5は、実施の形態1に係る制御部30の細部の構成例を示す図である。図5に示すように、制御部30は、運転指令部31と、母線電圧制御部32と、インバータ制御部33とを備えた構成とすることができる。
【0036】
また、図5には、電圧検出部6と、電流検出部7,8とが図示されている。電圧検出部6は、昇圧コンバータ3が出力する母線電圧Vdcを検出し、その検出値を母線電圧制御部32に出力する。電流検出部7は、昇圧コンバータ3とインバータ4との間に流れる母線電流Idcを検出し、その検出値をインバータ制御部33に出力する。電流検出部8は、電動機1に流れる電動機電流Imを検出し、その検出値を運転指令部31に出力する。
【0037】
運転指令部31は、母線電圧指令値Vdcと、周波数指令値ωと、ゼロ選択信号Szと、前述した結線選択信号Scとを演算する。母線電圧指令値Vdcは、母線電圧制御部32に出力され、周波数指令値ω及びゼロ選択信号Szは、インバータ制御部33に出力される。電動機電流Imの情報は、運転指令部31によって、必要の都度参照される。
【0038】
前述したように、Y結線が選択されるとき、結線選択信号Scは、第1の値(例えばLow)に制御され、Δ結線が選択されるとき、結線選択信号Scは第2の値(例えばHigh)に制御される。
【0039】
ゼロ選択信号Szは、通常は第1の値(例えばLow)に制御され、後述するゼロ電流制御の期間中は第2の値(例えばHigh)に制御される。
【0040】
運転指令部31は、例えば、電動機1の巻線をY結線とするかΔ結線とするかの決定、及び目標回転速度を決定し、この決定に基づいて生成した結線選択信号Sc及び周波数指令値ωを、それぞれ結線切替装置20とインバータ制御部33とに出力する。
【0041】
ここで、電動機1に接続されている機器5が、例えば空気調和機である場合を考える。空気調和機において、制御部30は、室温と設定温度との差が大きいときはΔ結線とすることを決め、結線選択信号Scを第2の値とする。また、運転指令部31は、目標回転速度を比較的高い値に設定し、起動後において、設定した目標回転速度に対応する周波数まで徐々に上昇させる周波数指令値ωを生成する。目標回転速度に対応する周波数に達した場合、運転指令部31は、室温が設定温度に近づくまでの間、その状態を維持し、室温が設定温度に近くなったら、結線選択信号Scを第1の値として、Y結線に切り替える。その後、運転指令部31は、室温が設定温度に近い状態を維持するための制御を行う。なお、これらの制御には、周波数の調整、電動機1の停止、再起動等が含まれる。
【0042】
また、運転指令部31は、Y結線とΔ結線との間の一方から他方への切り替えのために、結線選択信号Scの値を変化させると共に、切り替え動作中に周波数指令値ω及びゼロ選択信号Szの値を一時的に変化させる。
【0043】
例えば、結線状態の切り替えに際し、運転指令部31は、母線電圧指令値Vdc及び周波数指令値ωを一時的により大きい値にする。そして、母線電圧指令値Vdc及び周波数指令値ωがより大きい値とされている期間中に、ゼロ選択信号Szを、第1の値(例えばLow)から一時的に第2の値(例えばHigh)とする。そして、ゼロ選択信号Szが第2の値となっている期間中に、結線選択信号Scを第2の値から第1の値に、又は第1の値から第2の値に切り替える。
【0044】
母線電圧制御部32は、母線電圧指令値Vdc及び母線電圧Vdcの検出値に基づいて、駆動信号Xnを生成して昇圧コンバータ3に出力する。昇圧コンバータ3は、駆動信号Xnに従って、母線電圧Vdcが母線電圧指令値Vdcに一致するように、昇圧コンバータ3内の図示しないスイッチング素子を動作させる。
【0045】
インバータ制御部33は、母線電圧Vdc及び母線電流Idcの検出値に基づいて、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)信号Smを生成してインバータ4に出力する。インバータ4は、PWM信号Smに従って、出力電圧の周波数及び電圧値を維持又は変化させて電動機1を駆動する。
【0046】
次に、電動機1の運転中に結線切替装置20を動作させる際の駆動装置100の動作について説明する。この動作中には、実施の形態1における特徴的な制御であるゼロ電流制御が含まれている。ゼロ電流制御は、電動機1の電流をゼロとした状態で巻線の結線を切り替える制御である。
【0047】
前述したように、電動機1の結線状態を相互に切り替える際には、結線切替装置20の切替器21,22,23を動作させる。この動作において、切替器21,22,23では、常閉接点21b,22b,23bと、常開接点21a,22a,23aとの間で、共通接点21c,22c,23cの接続が切り替わる。この切り替え動作を、電動機1の運転中、即ちインバータ4から電動機1への給電が行われているときに行うと、切替器21,22,23の接点間にアーク放電が発生し、これにより接点溶着等の故障が発生する可能性がある。
【0048】
このような故障を避けるため、結線切替装置20を動作させる前にインバータ4から電動機1への給電を停止し、電動機1の回転速度がゼロの状態で切り替えを行うことが考えられる。
【0049】
しかしながら、電動機1の回転速度をゼロにしてしまうと、再始動に必要なトルクが増加し、起動時の電流が増加したり、再起動ができなくなったりするおそれがある。例えば電動機1の駆動対象である機器5が空気調和機である場合、圧縮機を駆動するため、回転速度をゼロにした直後は、冷媒の状態が安定していないため、再始動に必要なトルクが増加する。電動機1の回転速度をゼロにしてから、十分に冷媒の状態が安定するのに必要な時間が経過した後に、再始動を行うことも考えられる。その場合、圧縮機により冷媒を加圧することができなくなり、冷房能力及び暖房能力の低下により、室温の所望温度からの乖離が大きくなってしまうおそれがある。
【0050】
そこで、結線切替装置20に流れる電流がゼロとなるように制御し、その状態で結線切替装置20に切り替え動作を行わせるようにする。この制御が、ゼロ電流制御である。ゼロ電流制御を用いれば、結線状態の切り替えの際において、切替器21,22,23の接点間にアーク放電が発生するのを防ぐことができる。また、ゼロ電流制御を用いれば、結線状態の切り替えの都度、電動機1の回転速度をわざわざゼロにする必要がなくなる。
【0051】
結線切替装置20に流れる電流をゼロとなるようにするには、電動機1に流れる電流を検出してインバータ4のスイッチング動作により、電流ゼロとなるように制御する。或いは、インバータ4のスイッチング動作を停止することにより電流を遮断する。また、これらの両方を併用することにより実現できる。
【0052】
但し、上記のゼロ電流制御を実施する場合、以下の留意事項がある。まず、電動機1の巻線の結線を切り替える際は、電流がゼロである状態をある程度の時間継続する必要がある。ゼロ電流制御の期間は、電動機1の出力トルクがゼロであり、電動機1に加わる負荷トルクの大きさに比例して、回転速度が低下する。また、ゼロ電流制御の期間が長いほど、そして負荷トルクが大きいほど、回転速度の低下幅が大きくなる。更に、低速でゼロ電流制御を開始した場合、回転速度がゼロ付近まで低下して、電動機1が脱調する可能性がある。
【0053】
なお、電動機1の回転速度の低下については、回転速度がゼロ付近まで落ちることを防ぐため、単純に電動機1の回転速度を上昇させ、その状態でゼロ電流制御を行うことが考えられる。
【0054】
しかしながら、電動機1の回転速度が増加すると、電動機1に発生する逆起電力が大きくなり、逆起電力以上の電圧をインバータ4から出力する必要がある。一方、インバータ4から出力可能な電圧は、昇圧コンバータ3の出力電圧である母線電圧の制約を受ける。インバータ4からの出力電圧が、母線電圧により制限された上限を超えて飽和する領域は、「過変調領域」と呼ばれる。
【0055】
過変調領域において、電動機1の逆起電力を抑制するためには、逆起電力の発生源となる電動機1が発生する磁束を減少させる、周知の弱め磁束制御を行う必要がある。一方、弱め磁束制御では、負のd軸電流を流す必要がある。従って、弱め磁束制御とゼロ電流制御とは、両立が不可能である。また、インバータ4のスイッチング動作を停止すると、逆起電力による電動機1の電圧が上昇し、電動機1の電圧が母線電圧を超えると、電動機1からインバータ4への回生電流が発生して、インバータ4が過電圧状態となる。
【0056】
そこで、実施の形態1では、ゼロ電流制御を行う前に、昇圧コンバータ3によって母線電圧を上昇させる昇圧制御を行う。この昇圧制御によって、母線電圧が逆起電力による電動機1の電圧よりも高い状態にする。そして、この状態でゼロ電流制御を行って、結線を切り替える。そして、結線の切り替えが完了したら、母線電圧を元に戻す。これらの制御により、高負荷域であっても、結線の切り替えを円滑に行うことが可能となる。
【0057】
図6は、実施の形態1の結線切替制御における制御シーケンスの説明に供する第1のタイムチャートである。図6では、Y結線からΔ結線への切り替えを想定している。なお、説明が煩雑になるのを避けるため、図6は、過変調領域への移行を回避する制御シーケンスとはなっていない。過変調領域への移行を回避する制御シーケンスについては、後述の図7及び図8を参照して説明する。
【0058】
図6(a)には、結線切替装置20に流れる電流が示されている。図6(b)には、ゼロ選択信号Szの変化が示されている。図6(c)には、結線選択信号Scの変化が示されている。図6(d)には、母線電圧指令値Vdcの変化が示されている。図6(e)には、周波数指令値ωの変化が示されている。
【0059】
図6に示されるように、結線を切り替える前には、母線電圧指令値Vdc及び周波数指令値ωを一時的に大きくし、大きくしている間にゼロ電流制御を行い、ゼロ電流制御を行っている間に結線の切り替えを行う。以下、より詳細に説明する。
【0060】
まず、切り替え処理の開始前において、母線電圧指令値Vdcが第1の電圧値Vdc(0)であり、周波数指令値ωが第1の周波数値ω(0)である状態で電動機1が駆動されていたとする。
【0061】
切り替え処理の開始後、時刻ta1から時刻ta2の期間で、母線電圧指令値Vdcを上記の第1の電圧値Vdc(0)よりも大きい第2の電圧値Vdc(1)にする(図6(d))。これにより、昇圧コンバータ3に母線電圧Vdcを上昇させる。
【0062】
時刻ta2において、母線電圧Vdcの上昇が完了したら時刻tb1から時刻tb2の期間で、周波数指令値ωを上記の第1の周波数値ω(0)よりも大きい第2の周波数値ω(1)にする(図6(e))。これにより、周波数ωを上昇させる。
【0063】
その後、時刻tcから時刻teまでの期間において、ゼロ選択信号Szの値をHighにすることで(図6(b))、電流指令値としてゼロを選択するゼロ電流制御を行う(図6(a))。また、ゼロ電流制御期間中の時刻tdにおいて、結線選択信号Scの値をLowからHighに変化させることで(図6(c))、結線切替装置20の接点を切り替える。
【0064】
結線切替装置20の接点の切り替えが完了したら、時刻tf1から時刻tf2の期間で、周波数指令値ωを元の値である第1の周波数ω(0)に戻す(図6(e))。そして、回転速度が下がったら、時刻tg1から時刻tg2の期間で、母線電圧指令値Vdcを元の値である第1の電圧値Vdc(0)に戻す(図6(d))。
【0065】
なお、上記の説明では、母線電圧指令値Vdcに対する母線電圧Vdcの遅れがなく、周波数指令値ωに対する周波数ωの遅れがないものとしている。動作の遅れを考慮する必要がある場合には、母線電圧Vdc及び周波数ωがより大きい値である期間中に、結線切替装置20の切り替えを行うこととすればよい。また、ゼロ電流制御期間中は電動機1の発生トルクが無くなり、電動機1に加わる負荷トルクの大きさに比例して電動機1の速度が低下する。このため、この速度低下を見越して、時刻teにおける周波数指令値ωを第2の周波数値ω(1)より低い周波数値に設定する。また、負荷トルクの大きさによっては、時刻teにおける周波数指令値ωが第1の周波数値ω(0)より小さくなるケースも想定される。このような場合は、第1の周波数値ω(0)まで加速させるような周波数指令値ωを与える。
【0066】
図6では、Y結線からΔ結線への切り替えを想定しているが、Δ結線からY結線への切り替えも同様なシーケンスで実施することが可能である。但し、Δ結線からY結線への切り替えの場合には、図6(c)における結線選択信号Scは、LowからHighではなく、HighからLowに切り替わる。
【0067】
なお、図6のシーケンスは一例であり、図6以外のシーケンスでも問題ない。但し、高速回転域でゼロ電流制御を行う際には、母線電圧Vdcを上げてインバータ4から出力可能な電圧を大きくした上で、電動機1を駆動する必要がある。
【0068】
次に、上記したゼロ電流制御時の昇圧コンバータ3に対する母線電圧指令値Vdcの設定値について説明する。電動機1は、どのような電動機でもよいが、ここでは、永久磁石同期電動機を例に説明する。
【0069】
まず、永久磁石同期電動機のdq座標軸の電圧方程式は、下記の(3),(4)式で表される。
【0070】
【数3】
【数4】
【0071】
上記の(3),(4)式において、Vd,Vqは電機子電圧のdq軸成分を表し、id,iqは電機子電流のdq軸成分を表す。Ld,Lqはdq軸のインダクタンスを表し、Raは電機子巻線抵抗を表す。Φaは電機子鎖交磁束を表し、pは微分演算子を表す。ωは、電気角で表される回転速度である。
【0072】
ここで、上記の(3),(4)式において、前述のゼロ電流制御により、id=iq=0とする。また、前述の通り、ゼロ電流制御は、時刻tcから時刻teまでの期間において継続するので、p・id=p・iq=0であるとする。従って、上記(4)式から、下記の(5)式が成立する。
【0073】
【数5】
【0074】
また、前述の通り、ゼロ電流制御を行う場合には、母線電圧Vdcを昇圧する必要がある。母線電圧Vdcの条件は、上記(5)式から、下記の(6)式で表すことができる。
【0075】
【数6】
【0076】
電機子鎖交磁束Φaの値は、結線状態によって変化するが、結線切替前後の値のうちで、大きい方を用いる必要がある。例えば、Y結線時の電機子鎖交磁束Φaの値は、Δ結線時の電機子鎖交磁束Φaの値の√3倍である。ここで、例えばΔ結線からY結線に切り替える場合において、上記(6)式における電機子鎖交磁束Φaとして、Δ結線の値を用いて母線電圧Vdcを設定してしまうことを考える。このように設定した上で、更にゼロ電流制御期間中の電動機1の速度低下が小さい場合、母線電圧Vdcの設定値よりも電動機1の逆起電力による電機子電圧の方が大きくなることが想定される。従って、Δ結線からY結線に切り替わった直後において、電動機1の逆起電力による電機子電圧がインバータ4から出力可能な電圧を超過し、インバータ4に過電圧が発生するおそれがある。
【0077】
このため、電動機1の結線状態をY結線とΔ結線との間で相互に切り替える際には、Y結線時の電機子鎖交磁束Φaの値を用いる。また、過電圧を抑制するため、昇圧コンバータ3の最大出力電圧より結線切り替え後の電動機1の電圧が小さくなるように、結線切り替えを行う際の周波数指令値ωを選択する。また、過電圧を抑制するため、母線電圧Vdcに基づいて、電動機1の結線切り替えを行う際の回転速度に上限を設けるようにする。
【0078】
次に、結線切り替え時の負荷状態を考慮した結線切替制御について、図7及び図8を参照して説明する。図7は、実施の形態1の結線切替制御における制御シーケンスの説明に供する第2のタイムチャートである。図8は、図7の制御シーケンスを実施するための処理フローの例を示すフローチャートである。ここで言う負荷状態を考慮した結線切替制御は、電動機1の結線状態の切り替え時において、過変調領域に入らずに結線状態の切り替えを行う制御である。前述したように、過変調領域における弱め磁束制御とゼロ電流制御とは、両立が不可能である。図7の制御シーケンス、及び図8のフローチャートを用いれば、過変調領域に入らずに電動機1の結線状態の切り替えが可能になる。
【0079】
図7には、Δ結線からY結線への切り替え動作が示されている。具体的に、図7(a)には、電動機1の回転速度の変化が示されている。図7(b)には、電機子電圧の変化が母線電圧Vdcと共に示されている。図7(c)には、結線選択信号Scの変化が示されている。図7(d)には、母線電圧指令値Vdcの変化が示されている。
【0080】
まず、結線切り替えのための準備動作として、母線電圧指令値Vdcを昇圧コンバータ3の最大出力電圧に対応する母線電圧指令最大値Vdc_max に変更し、母線電圧Vdcを昇圧する(図7(d))。
【0081】
母線電圧Vdcの昇圧が完了した後、制御部30は、過変調領域に入っていないかを判定する(図8:ステップS500)。この時点で、過変調領域に入っていれば、弱め磁束制御を行う必要があり、電動機1の電流をゼロに制御できない。また、インバータ4のスイッチング動作を停止させると、電動機1側からインバータ4へ回生電流が発生し、過電圧状態となる。
【0082】
そこで、過変調領域に入っていた場合(図8:ステップS500,No)、制御部30は、周波数指令値ωを下げる制御を行う(図8:ステップS501)。周波数指令値ωを下げることで電動機1の電機子電圧を下げ、その後、再度過変調領域に入っていないかが判定される(図8:ステップS500)。
【0083】
過変調領域に入っていないことが判定できた場合(図8:ステップS500,Yes)、制御部30は、ゼロ電流制御期間前の回転速度及び電動機1の負荷トルクの情報を取得する(図8:ステップS502)。負荷トルクの情報は、例えば、回転速度は周波数指令値ωに追従しているものとして、周波数指令値ωを用いたり、或いは周知の速度センサレス技術を用いたりして推定することで取得できる。具体的に、電動機1の負荷トルクTloadは、下記の(7)式を用いて演算で求めることができる。
【0084】
【数7】
【0085】
上記(7)式において、Pnは、電動機1の極対数を表している。
【0086】
制御部30は、ゼロ電流制御期間での回転速度降下量を算出する(図8:ステップS503)。回転速度降下量は、ゼロ電流制御期間に下降する回転速度量であり、ゼロ電流制御期間前の負荷トルクTloadの算出値から求めることができる。制御部30は、ゼロ電流制御期間前の回転速度が回転速度の上限値を超えていないかを判定する(図8:ステップS504)。
【0087】
負荷トルクTloadによってゼロ電流制御期間中に下降する回転速度降下量をΔωで表す。なお、本稿では、回転速度についても記号ωで表すことがある。
【0088】
また、回転速度降下量Δωを考慮した回転速度の上限値をβTmaxで表す。この回転速度の上限値βTmaxは、下記の(8)式で表される。
【0089】
【数8】
【0090】
上記(8)式において、Vdc_maxは昇圧コンバータ3の出力電圧の最大値、即ち母線電圧Vdcの最大値を表し、ΦyはY結線時の電機子鎖交磁束を表す。回転速度降下量Δωは、負荷トルクTloadに依存する。このため、回転速度の上限値βTmaxは、電動機1の負荷条件により変動することになる。
【0091】
なお、ゼロ電流制御期間中において、電動機1に負荷トルクが印加されていないときが一番厳しい条件となる。この場合の条件式は、下記の(9)式で表すことができる。
【0092】
【数9】
【0093】
上記(9)式において、βmaxは、回転速度降下量Δωを考慮しないときの回転速度の上限値である。
【0094】
ゼロ電流制御期間前の回転速度が回転速度の上限値を超えている場合(図8:ステップS504,No)、制御部30は、周波数指令値ωを下げ(図8:ステップS505)、再度ゼロ電流制御期間前の回転速度及び負荷トルクTloadの情報を取得する(図8:ステップS502)。そして、制御部30は、ゼロ電流制御期間での回転速度降下量を算出し(図8:ステップS503)、再度ステップS504の判定処理を実施する。
【0095】
一方、ゼロ電流制御期間前の回転速度が回転速度の上限値を超えていない場合(図8:ステップS504,Yes)、制御部30は、結線切替を行う(図8:ステップS506)。
【0096】
上記のように、ステップS502~S505の処理は、ステップS504の判定処理が“Yes”となるまで繰り返される。これらの処理により、図7(a)に示されるように、ゼロ電流制御期間の直前及び直後、並びにゼロ電流制御期間の回転速度が回転速度の上限値を超えることはない。これにより、結線切替時に過変調領域に入ることは回避される。
【0097】
なお、前述したように、回転速度降下量Δωは、負荷トルクTloadに依存する。このため、負荷トルクTloadに応じた回転速度降下量Δωのテーブルを制御部30に保持させておけば、回転速度の上限値βTmaxの計算が容易となる。
【0098】
以上のシーケンスにより、結線切替を行うことで、結線切替時に過変調領域に入ることなく、電流をゼロにした状態で結線切替を行うことができる。
【0099】
なお、図8の処理フローでは、回転速度に関しては、その上限値βTmaxを制約条件としている。一方、回転速度が低い状態で結線状態の切り替えを行うと、ゼロ電流制御期間中に回転速度が低下し、回転速度がゼロ付近まで低下して、電動機1が脱調する可能性がある。また、電動機1の回転速度がゼロ付近まで低下すると、電動機1の再始動が必要になることもある。このため、回転速度に関しては、下限側にも制約がある。
【0100】
そこで、実施の形態1では、下記の(10)式に示されるβminを回転速度の下限値として設定する。
【0101】
【数10】
【0102】
上記(10)式において、Tmmaxは最大負荷トルクを表し、Jは電動機1の回転軸周りのイナーシャを表し、T[sec]はゼロ電流制御期間の長さ、即ちゼロ電流制御時間を表している。なお、実際には、回転速度の下限値βminに対し、電動機1が脱調しない程度の動作保証を与えるための最低回転保証速度ωminをマージンとして加えることが好ましい。この場合の式は、下記の(11)式で表される。
【0103】
【数11】
【0104】
また、図7の制御シーケンスでは、母線電圧指令値Vdcを昇圧コンバータ3の最大出力電圧に対応する母線電圧指令最大値Vdc_max に設定して母線電圧Vdcを昇圧して結線切り替えを行っていた。これに代えて、母線電圧指令値Vdcが回転速度に応じた値となるように、昇圧コンバータ3の昇圧量を徐々に上げていくシーケンスを挟んでもよい。この処理を行う場合には、回転速度の下限値βminに対し、電動機1が脱調しない程度の動作保証を与えるための最低回転保証速度ωminをマージンとして加えることが好ましい。この場合の式は、上記の(11)式で表される。上記(9)式の上限値βmaxが上記(11)式の下限値βminを下回らないように、昇圧コンバータ3の昇圧量を上昇させる。また、昇圧コンバータ3の最大出力電圧まで上昇させても上記(9)式の上限値βmaxが上記(11)式の下限値βminを上回らない場合には、回転速度を下げるというシーケンスで結線切り替えを行えばよい。
【0105】
このようにして、Y結線時の電機子鎖交磁束Φy、及び電動機1の負荷トルクTloadにより求まる回転速度の上限値βTmaxと、回転速度の下限値βminとに基づいて、ゼロ電流制御の開始時刻tcにおける周波数指令値ω(1)を設定する(図6(e)参照)。但し、ゼロ電流制御期間において、最大負荷トルクTmmaxによる回転速度降下量Δωが、回転速度の上限値βTmaxと回転速度の下限値βminとの差を超えてしまう場合には、結線切り替え時の負荷トルク条件範囲を制限する必要がある。なお、図8(a)に示される例は、最大負荷トルクTmmaxによる回転速度降下量Δωが、回転速度の上限値βTmaxと回転速度の下限値βminとの差の範囲に収まっている例である。
【0106】
以上のように、実施の形態1に係る結線切替制御を用いれば、電動機1の結線を切り替える際に、切替器21,22,23の接点間のアーク抑制に必要なゼロ電流制御を確実に実施することができる。また、実施の形態1に係る結線切替制御を用いれば、結線切り替え時の負荷状態に関わらず、駆動装置100の内部回路に生じ得る過電圧を確実に抑制することができる。
【0107】
上述した制御部30の機能は、図9又は図10に示すハードウェア構成で実現可能である。図9は、実施の形態1に係る制御部30の機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図10は、実施の形態1に係る制御部30の機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図である。
【0108】
実施の形態1における制御部30の機能の一部又は全部を実現する場合には、図9に示されるように、演算を行うプロセッサ300、プロセッサ300によって読みとられるプログラムが保存されるメモリ302、及び信号の入出力を行うインタフェース304を含む構成とすることができる。
【0109】
プロセッサ300は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)と称される演算手段の例示である。また、メモリ302には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)を例示することができる。
【0110】
メモリ302には、実施の形態1に係る制御部30の機能を実行するプログラムが格納されている。プロセッサ300は、インタフェース304を介して必要な情報を授受し、メモリ302に格納されたプログラムをプロセッサ300が実行し、メモリ302に格納されたテーブルをプロセッサ300が参照することにより、上述した処理を行うことができる。プロセッサ300による演算結果は、メモリ302に記憶することができる。
【0111】
また、実施の形態1に係る制御部30の機能の一部を実現する場合には、図10に示す処理回路305を用いることもできる。処理回路305は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。処理回路305に入力する情報、及び処理回路305から出力する情報は、インタフェース304を介して入手することができる。
【0112】
なお、制御部30における一部の処理を処理回路305で実施し、処理回路305で実施しない処理をプロセッサ300及びメモリ302で実施してもよい。
【0113】
以上説明したように、実施の形態1に係る駆動装置は、昇圧コンバータ、インバータ、電動機の巻線を第1の結線と第2の結線との間で相互に切り替える結線切替装置、並びに昇圧コンバータ、インバータ及び結線切替装置を制御する制御部を備える。制御部は、電動機の電流をゼロとした状態で巻線の結線を切り替えるゼロ電流制御を行う。また、制御部は、結線切替装置により第2の結線が選択されている状態において、ゼロ電流制御期間前の電動機の回転速度が回転速度の上限値を超えていない場合、第1の結線への切り替えを行う。これにより、電動機が回転中であっても、巻線の結線を切り替えることができる。また、結線切り替え時の負荷状態に依らず、駆動装置の内部回路に生じ得る過電圧を抑制することができる。
【0114】
また、実施の形態1に係る駆動装置において、制御部は、結線切替装置により第1の結線が選択されている状態において、母線電圧が第1の電圧値であり、電動機の回転速度が第1の速度値である第1の状態から、母線電圧が第1の電圧値よりも高く、電動機に流れる電流が予め定められた閾値以下である第2の状態に移行した際に、第1の結線から第2の結線への切り替えを行う。これにより、機器の大型化を回避し、信頼性の高い駆動装置を得ることができる。
【0115】
実施の形態2.
図11は、実施の形態2に係る冷凍サイクル装置900の構成例を示す図である。実施の形態2に係る冷凍サイクル装置900は、実施の形態1で説明した駆動装置100を備える。実施の形態2に係る冷凍サイクル装置900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。なお、図11において、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素には、実施の形態1と同一の符号を付している。
【0116】
冷凍サイクル装置900は、実施の形態1における電動機1を内蔵した圧縮機901と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。
【0117】
圧縮機901の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させる電動機1とが設けられている。
【0118】
冷凍サイクル装置900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。圧縮機構904は、可変速制御される電動機1によって駆動される。
【0119】
暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0120】
冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。
【0121】
暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0122】
実施の形態2に係る冷凍サイクル装置900は、実施の形態1に係る駆動装置100を搭載しているので、実施の形態1で得られる効果を享受することができる。
【0123】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略又は変更することも可能である。
【符号の説明】
【0124】
1 電動機、2 交流電源、3 昇圧コンバータ、4 インバータ、5 機器、6 電圧検出部、7,8 電流検出部、20 結線切替装置、21,22,23 切替器、21a,22a,23a 常開接点、21b,22b,23b 常閉接点、21c,22c,23c 共通接点、24 中性点ノード、30 制御部、31 運転指令部、32 母線電圧制御部、33 インバータ制御部、41,42,43 巻線、41a,42a,43a 第1の端部、41b,42b,43b 第2の端部、41c,42c,43c,41d,42d,43d 外部端子、61,62,63 出力線、71,72,73 リード線、100 駆動装置、204 半導体スイッチ、211,221,231 励磁コイル、300 プロセッサ、302 メモリ、304 インタフェース、305 処理回路、900 冷凍サイクル装置、901 圧縮機、902 四方弁、904 圧縮機構、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器、912 冷媒配管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11