(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20241213BHJP
【FI】
H02M7/49
(21)【出願番号】P 2024553498
(86)(22)【出願日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2024020398
【審査請求日】2024-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 美和子
(72)【発明者】
【氏名】中山 暁斗
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147935(WO,A1)
【文献】特開2018-196237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統および直流回路との間で電力変換を行なう電力変換装置であって、
前記交流系統の複数の相にそれぞれ対応する複数のレグ回路を含む電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置とを備え、
前記レグ回路は、直列接続された正側アームおよび負側アームを含み、前記正側アームおよび前記負側アームの接続点は前記交流系統の対応する相の交流線に接続され、直列接続された前記正側アームおよび前記負側アームの両端は前記直流回路に接続され、
前記正側アームおよび前記負側アームの各々は、直列接続された複数の変換器セルを有し、前記複数の変換器セルの各々は、複数のスイッチング素子と、前記複数のスイッチング素子に接続されるコンデンサとを有し、
前記制御装置は、
前記正側アーム内の前記コンデンサの電圧を示す正側コンデンサ電圧と、前記負側アーム内の前記コンデンサの電圧を示す負側コンデンサ電圧とをバランスさせるための電流調整値を演算するアームバランス制御部と、
前記交流線に流れる交流電流の電流指令値を前記電流調整値を用いて調整することにより、前記交流線に出力する交流電圧の交流電圧指令値を生成する交流電流制御部と、
前記交流電圧指令値と、前記直流回路に出力される直流電圧の直流電圧指令値とに基づいて、前記正側アームに対する正側アーム電圧指令値および前記負側アームに対する負側アーム電圧指令値を演算する指令演算部とを含む、電力変換装置。
【請求項2】
前記交流電流制御部は、前記電流調整値を用いて調整された前記電流指令値に前記交流線の交流電流が追従するように前記交流電圧指令値を生成する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記アームバランス制御部は、前記複数の相の各々について、前記正側コンデンサ電圧と前記負側コンデンサ電圧との偏差を演算し、各相の前記偏差の平均値を前記偏差から減算した減算値が小さくなるように前記電流調整値を演算する、請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記アームバランス制御部は、規定のリミット値を用いて、当該演算された前記電流調整値を制限する、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記電力変換器の中性点電圧を制御するための中性点電圧指令値を出力する中性点電圧制御部をさらに含み、
前記アームバランス制御部は、前記正側コンデンサ電圧と前記負側コンデンサ電圧とに基づいて前記中性点電圧を調整するための電圧調整値を演算し、
前記中性点電圧制御部は、前記中性点電圧と前記電圧調整値とに基づいて、前記中性点電圧指令値を生成し、
前記指令演算部は、前記交流電圧指令値および前記直流電圧指令値と、さらに前記中性点電圧指令値とに基づいて、前記正側アーム電圧指令値および前記負側アーム電圧指令値を演算する、請求項1
または請求項
2に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記アームバランス制御部は、前記正側コンデンサ電圧と、前記負側コンデンサ電圧と、さらに前記正側アーム内および前記負側アーム内の零相電流の極性情報とに基づいて、前記電圧調整値を演算する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記アームバランス制御部は、
前記電力変換器を流れる直流電流の極性または前記電力変換器から出力される有効電力の極性を前記極性情報として判定し、
前記複数の相の各々について、前記正側コンデンサ電圧と前記負側コンデンサ電圧との偏差を演算し、各相の前記偏差の平均値に前記極性情報を乗算することにより、前記電圧調整値を演算する、請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記複数のレグ回路間を循環する循環電流を制御するための循環制御指令値を生成する循環電流制御部をさらに含み、
前記指令演算部は、前記交流電圧指令値と、前記直流電圧指令値と、前記中性点電圧指令値と、さらに前記循環制御指令値とに基づいて、前記正側アーム電圧指令値および前記負側アーム電圧指令値を演算する、請求項
5に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統などの高圧系統に適用される高電圧、大容量の電力変換装置として、モジュラーマルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converter)が知られている。MMCは、変換器セルと呼ばれる複数の単位変換器がカスケード接続されたアームで構成されている。変換器セルは、複数のスイッチング素子と蓄電素子(例えば、コンデンサ)とを含む。
【0003】
三相MMCにおいては、各相に対応してアームが設けられており、各相アームは正側アームおよび負側アームから構成されている。正側アームと負側アームとの接続点は、交流側入出力端子となる。各変換器セルのコンデンサの電圧ばらつきにより、正側アーム内のコンデンサの電圧と負側アーム内のコンデンサの電圧とが不均衡となる場合がある。そのため、当該不均衡を抑制するためにコンデンサの電圧を制御する必要がある。
【0004】
特許第6227192号(特許文献1)に係る電力変換装置は、各相交流線に流れる交流電流成分を制御する交流制御指令を演算する交流電流制御部と、正側コンデンサ電圧と負側コンデンサ電圧とを均衡させる第1電圧調整値を演算するアームバランス制御部と、交流制御指令を第1電圧調整値を用いて調整することにより交流電圧指令を演算する交流側指令演算部とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、正側アーム内のコンデンサの電圧と負側アーム内のコンデンサの電圧とを均衡させてコンデンサの過電圧を防ぎ、系統の異常時にも電力変換装置を安定的に動作させることを検討している。特許文献1に係る電力変換装置では、交流電流成分を制御するための交流制御指令を、正側コンデンサ電圧と負側コンデンサ電圧とを均衡させる第1電圧調整値を用いて直接補正することにより交流電圧指令が生成される。この場合、アームバランス制御と交流電流制御とが干渉することにより、コンデンサ電圧をバランスさせるために必要な電流を流すことができず、コンデンサ電圧のバランス制御性が劣化するという問題があった。
【0007】
本開示のある局面における目的は、各変換器セルにおける正側アームのコンデンサ電圧と負側アームのコンデンサ電圧とをより適切にバランスさせることが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある実施の形態に従うと、交流系統および直流回路との間で電力変換を行なう電力変換装置が提供される。電力変換装置は、交流系統の複数の相にそれぞれ対応する複数のレグ回路を含む電力変換器と、電力変換器を制御する制御装置とを備える。レグ回路は、直列接続された正側アームおよび負側アームを含む。正側アームおよび負側アームの接続点は交流系統の対応する相の交流線に接続される。直列接続された正側アームおよび負側アームの両端は直流回路に接続される。正側アームおよび負側アームの各々は、直列接続された複数の変換器セルを有する。複数の変換器セルの各々は、複数のスイッチング素子と、複数のスイッチング素子に接続されるコンデンサとを有する。制御装置は、正側アーム内のコンデンサの電圧を示す正側コンデンサ電圧と、負側アーム内のコンデンサの電圧を示す負側コンデンサ電圧とをバランスさせるための電流調整値を演算するアームバランス制御部と、交流線に流れる交流電流の電流指令値を電流調整値を用いて調整することにより、交流線に出力する交流電圧の交流電圧指令値を生成する交流電流制御部と、交流電圧指令値と、直流回路に出力される直流電圧の直流電圧指令値とに基づいて、正側アームに対する正側アーム電圧指令値および負側アームに対する負側アーム電圧指令値を演算する指令演算部とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によると、電力変換装置において、各変換器セルにおける正側アームのコンデンサ電圧と負側アームのコンデンサ電圧とをより適切にバランスさせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】アームバランス制御部の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】交流電流制御部の機能構成を示すブロック図である。
【
図7】変形例に従うアームバランス制御部の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0012】
<全体構成>
図1は、電力変換装置の構成例を示す図である。
図1を参照して、電力変換装置100は、交流系統14と直流回路15との間で電力変換を行なう。直流回路15は、例えば、直流送電網等を含む直流電力系統、または他の電力変換装置の直流端子である。直流回路15は、電力変換器7の直流端子に接続された蓄電装置を含む構成であってもよい。蓄電装置は、例えば、電気二重層コンデンサ、あるいはリチウムイオン電池等の蓄電池を含む。
【0013】
電力変換装置100は、自励式の電力変換器7と、電力変換器7を制御する制御装置20とを含む。典型的には、電力変換器7は、互いに直列接続された複数の変換器セル(
図1中の「セル」に対応)10を含むダブルスター型のモジュラーマルチレベル変換器によって構成される。「変換器セル」は、「サブモジュール(sub module)」あるいは「単位変換器」とも称される。
【0014】
電力変換器7は、直流回路15に接続されており、直流回路15と交流系統14との間で電力変換を行なう電力変換器である。具体的には、電力変換器7は、直流回路15から出力される直流電力を交流電力に変換して、当該交流電力を変圧器13を介して交流系統14に出力する。また、電力変換器7は、交流系統14からの交流電力を直流電力に変換して、当該直流電力を直流回路15に出力する。
【0015】
図1の例では、電力変換器7は、交流系統14のU相、V相、W相にそれぞれ対応する複数のレグ回路4u,4v,4wを含む。具体的には、電力変換器7は、正極直流端子(すなわち、高電位側直流端子)Npと、負極直流端子(すなわち、低電位側直流端子)Nnとの間に互いに並列に接続された複数のレグ回路4u,4v,4w(以下、総称する場合または任意のものを示す場合、「レグ回路4」と記載する)を含む。レグ回路4は、交流系統14と直流回路15との間に接続され、両回路間で電力変換を行なう。各相のレグ回路4は、正側直流母線2および負側直流母線3間に並列接続される。
【0016】
レグ回路4u,4v,4wにそれぞれ設けられた交流端子Nu,Nv,Nwは、変圧器13を介して交流系統14に接続される。交流系統14は、例えば、交流電源などを含む三相交流電力系統である。各レグ回路4に共通に設けられた直流端子(すなわち、正極直流端子Np,負極直流端子Nn)は、直流回路15に接続される。
【0017】
図1の変圧器13を用いる代わりに、レグ回路4u,4v,4wは、連系リアクトルを介して交流系統14に接続した構成としてもよい。さらに、交流端子Nu,Nv,Nwに代えてレグ回路4u,4v,4wにそれぞれ一次巻線を設け、この一次巻線と磁気結合する二次巻線を介してレグ回路4u,4v,4wが変圧器13または連系リアクトルに交流的に接続するようにしてもよい。この場合、一次巻線を下記のリアクトル9a,9bとしてもよい。すなわち、レグ回路4は、交流端子Nu,Nv,Nwまたは上記の一次巻線など、各レグ回路4u,4v,4wに設けられた接続部を介して電気的(すなわち、直流的または交流的)に交流系統14に接続される。
【0018】
レグ回路4uは、正極直流端子Npから交流端子Nuまでの正側アーム5uと、負極直流端子Nnから交流端子Nuまでの負側アーム6uとを含む。正側アーム5uと負側アーム6uとの接続点が、交流端子Nuとして変圧器13と接続される。正極直流端子Npおよび負極直流端子Nnが直流回路15に接続される。レグ回路4vは正側アーム5vと負側アーム6vとを含み、レグ回路4wは正側アーム5wと負側アーム6wとを含む。正側アーム5u,5v,5wを「正側アーム5」とも総称し、負側アーム6u,6v,6wを「負側アーム6」とも総称する。
【0019】
このように、レグ回路4は、直列接続された正側アーム5および負側アーム6により構成される。正側アーム5および負側アーム6の接続点(例えば、交流端子Nu,Nv,Nw)は、交流系統14の対応する相の交流線に接続される。直列接続された正側アーム5および負側アーム6の両端(すなわち、正極直流端子Npおよび負極直流端子Nn)は、直流回路15に接続される。レグ回路4v,4wはレグ回路4uと同様の構成を有しているので、以下、レグ回路4uを代表として説明する。
【0020】
レグ回路4uにおいて、正側アーム5uは、互いに直列接続された複数の変換器セル10と、リアクトル9aとを含む。当該複数の変換器セル10とリアクトル9aとは互いに直列接続されている。負側アーム6uは、互いにカスケード接続された複数の変換器セル10と、リアクトル9bとを含む。当該複数の変換器セル10とリアクトル9bとは互いに直列接続されている。
【0021】
リアクトル9aが挿入される位置は、正側アーム5uのいずれの位置であってもよく、リアクトル9bが挿入される位置は、負側アーム6uのいずれの位置であってもよい。リアクトル9a,9bはそれぞれ複数個あってもよい。各リアクトルのインダクタンス値は互いに異なっていてもよい。さらに、正側アーム5uのリアクトル9aのみ、もしくは、負側アーム6uのリアクトル9bのみを設けてもよい。
【0022】
電力変換装置100は、図示しない各種の検出器(例えば、交流電圧検出器、交流電流検出器、直流電圧検出器、アーム電流検出器等)を有する。これらの検出器は、電力変換器7の制御に使用される電気量(すなわち、電流、電圧)を計測する。これらの検出器によって検出された信号は、制御装置20に入力される。
【0023】
具体的には、交流電圧検出器は、交流系統14の各相の交流電圧Vsu,Vsv,Vsw(以下、「交流電圧Vs」とも総称する。)を検出する。交流電流検出器は、交流系統14の各相交流線に流れる交流電流Isu,Isv,Isw(以下、「交流電流Is」とも総称する。)を検出する。直流電圧検出器は、直流回路15の直流電圧Vdcを検出する。なお、電力変換器7の中性点電圧Vsnは、直流回路15の直流電圧Vdcを用いて演算されてもよいし、中性点電圧検出器により検出されてもよい。
【0024】
レグ回路4uに設けられた各アーム電流検出器は、正側アーム5uに流れる正側アーム電流Iupおよび負側アーム6uに流れる負側アーム電流Iunを検出する。レグ回路4vに設けられた各アーム電流検出器は、正側アーム電流Ivpおよび負側アーム電流Ivnをそれぞれ検出する。レグ回路4wに設けられたアーム電流検出器は、正側アーム電流Iwpおよび負側アーム電流Iwnをそれぞれ検出する。以下、正側アーム電流Iup,Ivp,Iwpを「正側アーム電流Ip」とも総称し、負側アーム電流Iun,Ivn,Iwnを「負側アーム電流In」とも総称する。
【0025】
<変換器セルの構成>
図2は、変換器セルの一例を示す回路図である。
図2(a)に示す変換器セル10は、ハーフブリッジ構成と呼ばれる回路構成を有する。この変換器セル10は、2つのスイッチング素子31p、31nを直列接続して形成した直列体と、蓄電素子としてのコンデンサ32と、電圧検出器33とを含む。直列体とコンデンサ32とは並列接続される。電圧検出器33は、コンデンサ32の両端の電圧である電圧Vcを検出する。
【0026】
図2(b)に示す変換器セル10は、フルブリッジ構成と呼ばれる回路構成を有する。この変換器セル10は、2つのスイッチング素子31p1,31n1を直列接続して形成された第1の直列体と、2つのスイッチング素子31p2,31n2を直列接続して形成された第2の直列体と、コンデンサ32と、電圧検出器33とを含む。第1の直列体と、第2の直列体と、コンデンサ32とが並列接続される。電圧検出器33は、電圧Vcを検出する。
【0027】
図2(a)における2つのスイッチング素子31p、31nと、
図2(b)における4つのスイッチング素子31p1、31n1、31p2、31n2とは、例えば、IGBT、GCTサイリスタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)などの半導体スイッチング素子に還流ダイオードが逆並列に接続されて構成される。また、
図2(a)および
図2(b)において、コンデンサ32には、フィルムコンデンサなどが主に用いられる。
【0028】
以下の説明では、スイッチング素子31p,31n,31p1,31n1,31p2,31n2をスイッチング素子31とも総称する。また、スイッチング素子31内の半導体スイッチング素子のオンオフを、単に「スイッチング素子31のオンオフ」と記載する。
【0029】
図2(a)を参照して、スイッチング素子31nの両端子を入出力端子P1,P2とする。スイッチング素子31p、31nのスイッチング動作によりコンデンサ32の両端電圧、および零電圧を出力する。例えば、スイッチング素子31pがオン、かつスイッチング素子31nがオフとなったときに、コンデンサ32の両端電圧が出力される。スイッチング素子31pがオフ、かつスイッチング素子31nがオンとなったときに、零電圧が出力される。
【0030】
次に、
図2(b)を参照して、スイッチング素子31p1とスイッチング素子31n1との中点と、スイッチング素子31p2とスイッチング素子31n2との中点とをそれぞれ変換器セル10の入出力端子P1,P2とする。
図2(b)に示す変換器セル10は、スイッチング素子31n2をオンとし、スイッチング素子31p2をオフとし、スイッチング素子31p1,31n1を交互にオン状態とすることによって、正電圧または零電圧を出力する。また、
図2(b)に示す変換器セル10は、スイッチング素子31n2をオフし、スイッチング素子31p2をオンし、スイッチング素子31p1,31n1を交互にオン状態にすることによって、零電圧または負電圧を出力できる。
【0031】
以下の説明では、変換器セル10を
図2(a)に示すハーフブリッジセルの構成とし、半導体スイッチング素子、および蓄電素子としてのコンデンサを用いた場合を例に説明する。しかし、変換器セル10を
図2(b)に示すフルブリッジ構成としてもよい。また、上記で示した構成以外の変換器セル、例えば、
図2(b)のスイッチング素子31p2をダイオードのみで置き換えた1.5ハーフブリッジ構成とも呼ばれる回路構成を適用した変換器セルを用いてもよい。
【0032】
<制御装置のハードウェア構成>
図3は、制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3の場合の制御装置20は、コンピュータに基づいて構成される。
図3を参照して、制御装置20は、1つ以上の入力変換器70と、1つ以上のサンプルホールド回路(S/H回路)71と、マルチプレクサ(MUX:multiplexer)72と、A/D変換器73とを含む。さらに、制御装置20は、1つ以上のCPU(Central Processing Unit)74と、RAM(Random Access Memory)75と、ROM(Read Only Memory)76とを含む。さらに、制御装置20は、1つ以上の入出力インターフェイス77と、補助記憶装置78と、上記の構成要素間を相互に接続するバス79とを含む。
【0033】
入力変換器70は、入力チャンネルごとに補助変成器を備える。各補助変成器は、電力変換装置100に設けられる各種の検出器による検出信号を、後続する信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
【0034】
サンプルホールド回路71は、入力変換器70ごとに設けられる。サンプルホールド回路71は、対応の入力変換器70から受けた電気量を表す信号を規定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。
【0035】
マルチプレクサ72は、複数のサンプルホールド回路71に保持された信号を順次選択する。A/D変換器73は、マルチプレクサ72によって選択された信号をデジタル値に変換する。なお、複数のA/D変換器73を設けることによって、複数の入力チャンネルの検出信号に対して並列的にA/D変換を実行するようにしてもよい。
【0036】
CPU74は、制御装置20の全体を制御し、プログラムに従って演算処理を実行する。揮発性メモリとしてのRAM75および不揮発性メモリとしてのROM76は、CPU74の主記憶として用いられる。ROM76は、プログラムおよび信号処理用の設定値などを収納する。補助記憶装置78は、ROM76に比べて大容量の不揮発性メモリであり、プログラムおよび電気量検出値のデータなどを格納する。入出力インターフェイス77は、CPU74と外部装置との間で通信する際のインターフェイス回路である。
【0037】
なお、制御装置20の少なくとも一部をFPGAおよびASICなどの回路を用いて構成してもよい。もしくは、制御装置20の少なくとも一部は、アナログ回路によって構成することもできる。
【0038】
<制御装置の機能構成>
電力変換器7は直流および交流を出力するため、制御装置20は、直流側と交流側の両側を制御する必要がある。さらに、交流側出力にも直流側出力にも寄与しないで正側アーム5、負側アーム6間を還流する循環電流が電力変換器1内を流れる。したがって、制御装置20は、直流側制御、交流側制御に加えて循環電流の制御を実行する。
【0039】
図4は、制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図4を参照して、制御装置20は、電圧指令生成部21と、PWM制御部22とを含む。電圧指令生成部21およびPWM制御部22の構成は、例えば、処理回路により実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいし、制御装置20の内部メモリに格納されるプログラムを実行するCPU74であってもよい。処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、FPGA、ASIC、またはこれらを組み合わせたもの等で構成される。
【0040】
電圧指令生成部21は、入力された各種の電圧、電流の情報に基づいて、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令値Vprefと、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令値Vnrefとを生成する。具体的には、電圧指令生成部21は、アームバランス制御部24と、交流電流制御部25と、中性点電圧制御部26と、循環電流制御部27と、指令演算部28とを含む。
【0041】
アームバランス制御部24は、正側アーム5のコンデンサ32の電圧を示す正側コンデンサ電圧Vcpと、負側アーム6内のコンデンサ32の電圧を示す負側コンデンサ電圧Vcnと、直流電流Idcとの入力を受け付ける。典型的には、正側アーム5内のすべてのコンデンサ32の電圧Vcの平均値が正側コンデンサ電圧Vcpとして用いられ、負側アーム6内のすべてのコンデンサ32の電圧Vcの平均値が負側コンデンサ電圧Vcnとして用いられる。
【0042】
ただし、正側コンデンサ電圧Vcpは、正側アーム5内のすべてのコンデンサ32の電圧Vcの最大値、最小値、または中央値であってもよい。また、正側コンデンサ電圧Vcpは、正側アーム5内の任意の変換器セル10のコンデンサ32の電圧値であってもよい。同様に、負側コンデンサ電圧Vcnは、負側アーム6内のすべてのコンデンサ32の電圧Vcの最大値、最小値、または中央値であってもよい。また、負側コンデンサ電圧Vcnは、負側アーム6内の任意の変換器セル10のコンデンサ32の電圧値であってもよい。
【0043】
アームバランス制御部24は、正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとをバランスさせる(すなわち、電圧ばらつきを抑制する)ための電流調整値Iadを演算する。また、アームバランス制御部24は、正側コンデンサ電圧Vcpと、負側コンデンサ電圧Vcnと、直流電流Idcとに基づいて中性点電圧Vnpを調整するための電圧調整値ΔVnpを演算する。アームバランス制御部24の詳細な構成については後述する。
【0044】
交流電流制御部25は、交流系統14の交流線に流れる交流電流Isと、交流電流Isの電流指令値Isrefとの入力を受け付ける。交流電流制御部25は、電流指令値Isrefを電流調整値Iadを用いて調整することにより、交流線に出力する交流電圧Vsの交流電圧指令値Vsrefを生成する。具体的には、交流電流制御部25は、電流調整値Iadを用いて調整された電流指令値Isrefに交流電流Isが追従するように交流電圧指令値Vsrefを生成する。交流電流制御部25の詳細な構成については後述する。
【0045】
中性点電圧制御部26は、電力変換器7の中性点電圧Vnpと、アームバランス制御部24により演算された電圧調整値ΔVnpとの入力を受け付ける。中性点電圧制御部26は、中性点電圧Vnpと電圧調整値ΔVnpとに基づいて、中性点電圧Vnpを制御するための中性点電圧指令値Vnprefを生成する。典型的には、中性点電圧制御部26は、中性点電圧Vnpと電圧調整値ΔVnpとの加算値を中性点電圧指令値Vnprefとして生成する。
【0046】
循環電流制御部27は、直流回路15に流れないが電力変換器7内(具体的には、各相のレグ回路4間)を循環する循環電流Izを制御するための循環制御指令値Vzrefを生成する。具体的には、循環電流制御部27は、循環電流Izが規定の循環電流指令値Izref(例えば、0)に追従するように循環制御指令値Vzrefを生成する。循環電流制御部27は、例えば、比例制御器、PI制御器、PID制御器、またはフィードバック制御に用いられる他の制御器として構成され得る。
【0047】
指令演算部28は、交流電圧指令値Vsrefと、直流回路15に出力される直流電圧Vdcの直流電圧指令値Vdcrefと、中性点電圧指令値Vnprefと、循環制御指令値Vzrefとの入力を受け付ける。直流電圧指令値Vdcrefは、予め設定された値であってもよいし、公知の直流出力制御によって算出された値であってもよい。
【0048】
指令演算部28は、交流電圧指令値Vsrefと、直流電圧指令値Vdcrefと、中性点電圧指令値Vnprefと、循環制御指令値Vzrefとに基づいて、正側アーム5および負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、正側アーム5および負側アーム6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配する。これにより、指令演算部28は、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令値Vprefと、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令値Vnrefとを演算する。例えば、正側アーム電圧指令値Vprefは、“Vdcref-Vsref+Vzref-Vnpref”で表わされる。負側アーム電圧指令値Vnrefは、“Vdcref+Vsref+Vzref+Vnpref”で表わされる。
【0049】
電圧指令生成部21により生成される各相の正側アーム電圧指令値Vprefおよび負側アーム電圧指令値Vnrefは、直流回路15の直流電圧Vdcを直流電圧指令値Vdcrefに制御し、交流電圧Vsを交流電圧指令値Vsrefに制御し、中性点電圧Vnpを中性点電圧指令値Vnprefに制御し、循環電流Izを循環制御指令値Vzrefに制御する出力電圧指令となる。
【0050】
PWM制御部22は、各相の正側アーム電圧指令値Vprefおよび負側アーム電圧指令値Vnrefに基づいて、各相の正側アーム5内および負側アーム6内の各変換器セル10をPWM制御するゲート信号GPを生成する。ゲート信号GPにより各変換器セル10内のスイッチング素子31が駆動制御され、電力変換器7の出力電圧は所望の値に制御される。
【0051】
<アームバランス制御部の構成>
図5は、アームバランス制御部の機能構成を示すブロック図である。
図5を参照して、アームバランス制御部24は、電流調整値演算部50と、中性点調整値演算部51とを含む。
【0052】
電流調整値演算部50は、U相、V相、W相の各相個別に電流調整値Iad(すなわち、電流調整値Iadu,Iadv,Iadw)を演算する構成を有している。具体的には、電流調整値演算部50は、減算器55u~55w(以下、「減算器55」とも総称する。)と、フィルタ56u~56w(以下、「フィルタ56」とも総称する。)と、演算器57と、減算器58u~58w(以下、「減算器58」とも総称する。)と、補償器62u~62w(以下、「補償器62」とも総称する。)と、リミッタ63u~63w(以下、「リミッタ63」とも総称する。)と、座標変換部64とを含む。電流調整値Iadの演算方式は各相共通である。
【0053】
減算器55は、正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとの偏差ΔVcpnを演算する。具体的には、減算器55uは、U相の正側コンデンサ電圧Vcpuと、U相の負側コンデンサ電圧Vcnuとの偏差ΔVcpnu(すなわち、ΔVcpnu=Vcpu-Vcnu)を演算する。減算器55vは、V相の正側コンデンサ電圧Vcpvと、V相の負側コンデンサ電圧Vcnvとの偏差ΔVcpnvを演算する。減算器55wは、W相の正側コンデンサ電圧Vcpwと、W相の負側コンデンサ電圧Vcnwとの偏差ΔVcpnwを演算する。
【0054】
フィルタ56は、偏差ΔVcpnにフィルタ処理を施して偏差ΔVcpn_fを出力する。具体的には、フィルタ56uは、偏差ΔVcpnuから規定の周波数成分を除去した偏差ΔVcpnu_fを出力する。同様に、フィルタ56v,56wは、同様のフィルタ処理がなされた偏差ΔVcpnv_f,ΔVcpnw_fをそれぞれ出力する。これは、正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとの電圧差であるΔVcpnには、制御対象としない規定の周波数成分(例えば、基本波周波数成分、基本波周波数の2倍の周波数成分等)が含まれているためである。
【0055】
各フィルタ56は、例えば、基本波周波数、および基本波周波数の2倍の周波数等の規定の周波数を除去するようなバンドストップフィルタであり、制御対象の周波数帯域をパスさせるようなフィルタであればよい。
【0056】
演算器57は、各相の偏差ΔVcpnu_f,ΔVcpnv_f,ΔVcpnw_f(以下、「偏差ΔVcpn_f」とも総称する。)の加算値に1/3を乗算することにより、各相の偏差ΔVcpn_fの共通成分ΔVczを演算する。すなわち、共通成分ΔVczは、各相の偏差ΔVcpn_fの平均値である。
【0057】
減算器58は、偏差ΔVcpn_fから平均値ΔVczを減算した減算値ΔVcgを出力する。具体的には、減算器58uは、偏差ΔVcpnu_fから平均値ΔVczを減算した減算値ΔVcguを演算する。減算器58vは、偏差ΔVcpnv_fから平均値ΔVczを減算した減算値ΔVcgvを演算する。減算器58wは、偏差ΔVcpnw_fから平均値ΔVczを減算した減算値ΔVcgwを演算する。このように、各相の偏差ΔVcpn_fから共通成分ΔVczを除去する理由は、共通成分ΔVczを別途制御するためである。詳細については後述する。
【0058】
補償器62uは、減算値ΔVcguがゼロとなるように電流調整値Iaduを演算する。同様に、補償器62vは、減算値ΔVcgvがゼロとなるように電流調整値Iadvを演算する。補償器62wは、減算値ΔVcgwがゼロとなるように電流調整値Iadwを演算する。このように、補償器62は、正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとの偏差ΔVcpnをフィルタ処理した偏差ΔVcpn_fから共通成分ΔVczを減算した減算値ΔVcgがゼロになるような電流調整値Iadを出力する。補償器62は、例えば、比例制御器、PI制御器、PID制御器、またはフィードバック制御に用いられる他の制御器として構成され得る。
【0059】
電流調整値Iadが示す電流は、電力変換器7から変圧器13へ流れるため、当該電流が大きくなると、変圧器13が飽和する可能性がある。そのため、リミッタ63は、規定のリミット値を用いて、電流調整値Iadを制限する。
【0060】
具体的には、リミッタ63は、電流調整値Iadを電流範囲R内(例えば、下限リミット値Imin以上かつ上限リミット値Imax以下の範囲内)に制限した値を電流調整値Iadxとして出力する。リミッタ63u,63v,63wは、それぞれ、電流調整値Iadu,Iadv,Iadwを制限した値である電流調整値Iadxu,Iadxv,Iadxwを出力する。典型的には、上限リミット値Imaxおよび下限リミット値Iminは、それぞれ、変圧器13で許容される電流量の上限値および下限値に設定される。
【0061】
上記では、リミッタ63は、変圧器13で許容される電流量の上下限値内に電流調整値を制限する構成について説明した。ただし、リミッタ63は、変圧器13の磁気飽和を防止するために短時間だけ電流調整値に基づく電流を流すように構成されていてもよい。
【0062】
座標変換部64は、交流系統14の交流電圧Vsと同期した位相θを用いて電流調整値Iadxu,Iadxv,Iadxwを3相/2相変換して、電流調整値のd軸成分Id_adおよびq軸成分Iq_adを算出する。d軸成分Id_adおよびq軸成分Iq_adは、それぞれ、電流調整値の無効電流成分および有効電流成分に対応する。そのため、以下では、無効電流調整値Id_adおよび有効電流調整値Iq_adとも記載する。例えば、無効電流調整値Id_adおよび有効電流調整値Iq_adは、以下の式(1)を用いて演算される。位相θは、各相の交流電圧Vsu,Vsv,Vswから検出される。
【0063】
【0064】
上記のように、電流調整値演算部50は、正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとを均衡させるために必要な電流調整値(すなわち、無効電流調整値および有効電流調整値)を演算する。
【0065】
次に、中性点調整値演算部51の機能構成について説明する。中性点調整値演算部51は、極性判定部61と、補償器62zと、乗算器66とを含む。
【0066】
極性判定部61は、直流電流Idcから、正側アーム5内および負側アーム6内の零相電流の方向を示す極性Hを判定する。
【0067】
補償器62zは、共通成分ΔVczがゼロとなるような演算値を出力する。乗算器66は、当該演算値と極性Hとを乗算し、当該乗算値を電圧調整値ΔVnpとして演算する。なお、電力変換器7から出力される直流電流Idcは、図示しない直流電流検出器を用いて検出されてもよいし、各アーム電流を用いて演算されてもよい。
【0068】
中性点調整値演算部51により演算される電圧調整値ΔVnpを用いて中性点電圧Vsnを調整することにより、各相の正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとの電圧バランスを一括で制御することができる。
【0069】
中性点電圧Vsnを調整するための極性は、零相電流の極性(すなわち、直流電流Idcの極性H)に依存するため、補償器62zにより共通成分ΔVczが補償された演算値と直流電流Idcの極性Hとの乗算値を電圧調整値ΔVsnとする。このように、電圧調整値ΔVnpを用いて中性点電圧Vsnを別途調整する制御のため、減算器58において偏差ΔVcpn_fから共通成分ΔVczが減算されている。
【0070】
上記によると、アームバランス制御部24は、複数の相(例えば、U相、V相、W相)の各々について、正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとの偏差ΔVcpnを演算し、各相の偏差ΔVcpnの平均値(例えば、共通成分ΔVcz)を偏差ΔVcpnから減算した減算値が小さくなる(例えば、減算値ΔVcgがゼロになる)ように電流調整値Iadを演算する。アームバランス制御部24は、規定のリミット値(例えば、上限リミット値Imaxおよび下限リミット値Imin)を用いて、当該演算された電流調整値Iadを制限する。
【0071】
他の局面では、アームバランス制御部24は、正側コンデンサ電圧Vcpと、負側コンデンサ電圧Vcnと、正側アーム5内および負側アーム6内の零相電流の極性情報(例えば、極性H)とに基づいて、電圧調整値ΔVnpを演算する。より具体的には、アームバランス制御部24は、電力変換器7を流れる直流電流Idcの極性を極性情報として判定し、各相の偏差ΔVcpnの平均値に極性情報を乗算することにより、電圧調整値ΔVnpを演算する。
【0072】
<交流電流制御部の構成>
図6は、交流電流制御部の機能構成を示すブロック図である。
図6を参照して、交流電流制御部25は、座標変換部81と、加算器82d,82qと、減算器83d,83qと、補償器84d,84qと、座標変換部85とを含む。
【0073】
座標変換部81は、交流電圧Vsと同期した位相θを用いて交流電流Isu,Isv,Iswを3相/2相変換して、交流電流Isのd軸成分に対応する無効電流Idと、交流電流Isのq軸成分に対応する有効電流Iqを算出する。例えば、無効電流Idおよび有効電流Iqは、以下の式(2)を用いて演算される。
【0074】
【0075】
加算器82dは、無効電流指令値Idrefと無効電流調整値Id_adとを加算することにより、新たな無効電流指令値Idxrefを算出する。減算器83dは、無効電流指令値Idxrefと無効電流Idとの偏差ΔId(すなわち、ΔId=Idxref-Id)を算出する。加算器82qは、有効電流指令値Iqrefと有効電流調整値Iq_adとを加算することにより、新たな有効電流指令値Iqxrefを算出する。減算器83qは、有効電流指令値Iqxrefと有効電流Iqとの偏差ΔIq(すなわち、ΔIq=Iqxref-Iq)を算出する。
【0076】
補償器84dは、偏差ΔIdがゼロになるように交流電圧Vsのd軸電圧指令値Vdrefを生成する。補償器84qは、偏差ΔIqがゼロになるように交流電圧Vsのq軸電圧指令値Vqrefを生成する。補償器84d,84qは、例えば、比例制御器、PI制御器、PID制御器、またはフィードバック制御に用いられる他の制御器として構成され得る。
【0077】
座標変換部85は、位相θを用いて、d軸電圧指令値Vdrefおよびq軸電圧指令値Vqrefを2相/3相変換して、交流電流Isの三相の交流電圧指令値Vsuref,Vsvref,Vswrefを生成する。
【0078】
このように、交流電流制御部25は、有効電流調整値Iq_adを用いて調整された新たな有効電流指令値Iqxrefに有効電流Iqを追従させ、かつ、無効電流調整値Id_adを用いて調整された新たな無効電流指令値Idxrefに無効電流Idを追従させるように交流電圧指令値Vsuref,Vsvref,Vswrefを生成する。
【0079】
上述したPWM制御部22は、各相の交流電圧指令値Vsuref,Vsvref,Vswrefに基づいて各変換器セル10の出力電圧指令値を演算し、当該出力電圧指令値に基づいてPWM制御を行ない、各変換器セル10のスイッチング素子のオンオフ駆動を制御するゲート信号GPを生成する。
【0080】
<変形例>
図7は、変形例に従うアームバランス制御部の機能構成を示すブロック図である。
図7を参照して、アームバランス制御部24Aの構成は、
図4のアームバランス制御部24における中性点調整値演算部51を中性点調整値演算部51Aに置き換えた構成に相当する。
【0081】
具体的には、中性点調整値演算部51は、直流電流Idcから正側アーム5および負側アーム6内の零相電流の極性Hを判定するように構成されていたが、中性点調整値演算部51Aは、直流電流Idcではなく有効電力Pから正側アーム5および負側アーム6内の零相電流の極性情報(例えば、極性H)を判定するように構成される。
【0082】
中性点調整値演算部51Aは、極性判定部61Aと、補償器62zと、乗算器66とを含む。極性判定部61Aは、有効電力Pから正側アーム5内および負側アーム6内の零相電流の方向を示す極性Hを判定する。乗算器66は、当該演算値と極性Hとを乗算し、当該乗算値を電圧調整値ΔVnpとして演算する。有効電力Pは、交流系統14に出力される有効電力であってもよいし、直流回路15に出力される有効電力であってもよい。有効電力Pは、交流電流Isおよび交流電圧Vs、または、直流電流Idcおよび直流電圧Vdcに基づいて算出される。
【0083】
上記より、変形例に従うアームバランス制御部24Aは、電力変換器7から出力される有効電力Pの極性を、極性情報として判定する。
【0084】
<利点>
本実施の形態によると、アームバランス制御に基づいて、正側コンデンサ電圧Vcpと負側コンデンサ電圧Vcnとの不平衡を抑制するための電流調整値が演算され、当該電流調整値を用いて補正された交流電流指令値に従って交流電流制御が実行される。したがって、アームバランス制御と交流電流制御との干渉を防止することができ、変換器セル10の正側アーム電圧と負側アーム電圧とを適切にバランスさせることができる。これにより、系統事故時等における電力変換装置100の運転継続性を向上できる。
【0085】
また、電流調整値は、各相毎に演算されるため、例えば、相毎に正側コンデンサ電圧と負側コンデンサ電圧との電圧バランスが異なる場合でも、各相の状態に対応した制御が可能となる。これにより、アームバランス制御の精度が向上する。
【0086】
さらに、電圧調整値ΔVnpを用いて電力変換器7の中性点電圧Vnpを調整することにより、各相の正側アーム5および負側アーム6間のコンデンサの電圧バランスを一括で容易に制御できる。
【0087】
その他の実施の形態.
(1)上述した実施の形態では、アームバランス制御部24が、電流調整値演算部50と、中性点調整値演算部51とを含む構成について説明したが、当該構成に限られない。アームバランス制御部24は、電流調整値演算部50のみを含む構成であってもよい。この場合、中性点電圧制御部26は、電圧調整値ΔVnpを用いずに、検出された中性点電圧Vnpのみに基づいて中性点電圧指令値Vnprefを演算する。
【0088】
(2)上述の実施の形態として例示した構成は、本開示の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理および構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0089】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
2 正側直流母線、3 負側直流母線、4u~4w レグ回路、5u~5w 正側アーム、6u~6w 負側アーム、7 電力変換器、9a,9b リアクトル、10 変換器セル、13 変圧器、14 交流系統、15 直流回路、20 制御装置、21 電圧指令生成部、22 PWM制御部、24,24A アームバランス制御部、25 交流電流制御部、26 中性点電圧制御部、27 循環電流制御部、28 指令演算部、31n,31p スイッチング素子、32 コンデンサ、33 電圧検出器、50 電流調整値演算部、51,51A 中性点調整値演算部、61,61A 極性判定部、70 入力変換器、71 サンプルホールド回路、72 マルチプレクサ、73 A/D変換器、75 RAM、76 ROM、77 入出力インターフェイス、78 補助記憶装置、79 バス、100 電力変換装置。
【要約】
電力変換装置(100)は、電力変換器(7)と、電力変換器(7)を制御する制御装置(20)とを備える。制御装置(20)は、正側アーム(5)内のコンデンサ(32)の電圧を示す正側コンデンサ電圧と、負側アーム(6)内のコンデンサ(32)の電圧を示す負側コンデンサ電圧とをバランスさせるための電流調整値を演算するアームバランス制御部(24)と、交流線に流れる交流電流の電流指令値を電流調整値を用いて調整することにより、交流線に出力する交流電圧の交流電圧指令値を生成する交流電流制御部(25)と、交流電圧指令値と、直流回路に出力される直流電圧の直流電圧指令値とに基づいて、正側アームに対する正側アーム電圧指令値および負側アームに対する負側アーム電圧指令値を演算する指令演算部(28)とを含む。