(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】電気機器及び遮断器
(51)【国際特許分類】
H02B 13/055 20060101AFI20241213BHJP
H02G 5/06 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
H02B13/055 C
H02G5/06 371T
(21)【出願番号】P 2024559949
(86)(22)【出願日】2024-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2024023198
【審査請求日】2024-10-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】宮下 信
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】特許第3433004(JP,B2)
【文献】実開昭56-113413(JP,U)
【文献】実公昭63-041790(JP,Y2)
【文献】特開2003-219523(JP,A)
【文献】特許第6067150(JP,B2)
【文献】特開平05-260631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02B 13/00 - 13/08
H02G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入されるタンクと、
前記タンクの内部に設置され、直流電圧が印加される高電圧導体と、
前記タンクの内部の導電性異物を除去する異物除去装置とを備え、
前記異物除去装置は、
外周部に湾曲面が設けられたリング状であり、前記高電圧導体に設置されるシールドリングと、
前記シールドリングの外周部に設置され、前記導電性異物が前記高電圧導体の周囲で浮遊するファイアフライ状態を維持できなくするファイアフライ抑制部とを備え
、
前記ファイアフライ抑制部は、半導電性材料で形成されたリング状の部材であることを特徴とする電気機器。
【請求項2】
前記ファイアフライ抑制部は、前記湾曲面よりも凹んで配置されていることを特徴とする請求項
1に記載の電気機器。
【請求項3】
前記ファイアフライ抑制部と前記シールドリングとの間に第1の溝部が設けられていることを特徴とする請求項
2に記載の電気機器。
【請求項4】
前記ファイアフライ抑制部を複数備え、
複数の前記ファイアフライ抑制部は、間隔を空けて設置されており、
前記ファイアフライ抑制部同士の間に第2の溝部が形成されていることを特徴とする請求項
3に記載の電気機器。
【請求項5】
前記ファイアフライ状態を維持できなくなって落下した前記導電性異物を捕獲する異物捕獲用容器を備えることを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の電気機器。
【請求項6】
前記ファイアフライ抑制部は、前記高電圧導体に印加される直流電圧の逆の極性に帯電する性質を持
ち、前記湾曲面よりも凹んで配置されていることを特徴とする請求項
1に記載の電気機器。
【請求項7】
絶縁ガスが封入される筒状のタンクと、
前記タンクの内部に設置された固定側接触子を有する固定側電極部と、前記タンクの内部に移動可能に設置された可動側接触子を有する可動側電極部とを有し、前記可動側接触子が前記固定側接触子に接触することによって閉極し、前記可動側接触子が前記固定側接触子から離れることによって開極する開閉部と、
前記タンクの内部で前記可動側電極部を支持する可動側フレームと、
前記タンクの内部で前記固定側電極部を支持する固定側フレームと、
前記タンクの内部の導電性異物を除去する異物除去装置とを備え、
前記可動側フレーム及び前記固定側フレームの各々は、直流電圧が印加される高電圧導体であり、
前記可動側電極部は、前記開閉部の遮断動作時に容積が減少し、前記開閉部の投入動作時に容量が増大するパッファ室と、前記開閉部の遮断動作時に前記パッファ室から押し出される前記絶縁ガスを前記固定側接触子に向けて噴射するノズルとを備え、
前記固定側電極部は、前記固定側接触子を前記タンクの径方向外側から覆う筒状の固定側シールドを備え、
前記異物除去装置は、
外周部に湾曲面が設けられたリング状であり、前記可動側フレームに設置される可動側シールドリングと、
外周部に湾曲面が設けられたリング状であり、前記固定側フレームに設置される固定側シールドリングと、
前記可動側シールドリングの外周部に設置され、前記導電性異物が前記高電圧導体の周囲で浮遊するファイアフライ状態を維持できなくする可動側ファイアフライ抑制部と、
前記固定側シールドリングの外周部に設置され、前記導電性異物が前記ファイアフライ状態を維持できなくする固定側ファイアフライ抑制部とを備え
、
前記可動側シールドリング及び前記固定側シールドリングは、前記直流電圧によって流れる電流の通電経路上に設置されていることを特徴とする遮断器。
【請求項8】
前記可動側シールドリング及び前記固定側シールドリングは中空構造であり、
前記可動側ファイアフライ抑制部は、前記パッファ室と前記可動側シールドリングの内部の空間とを接続する第1の風穴、及び前記可動側シールドリングの内部の空間と前記可動側シールドリングの外部の空間とを接続する第2の風穴であり、
前記固定側ファイアフライ抑制部は、前記固定側シールドの内部の空間と前記固定側シールドリングの内部の空間とを接続する第3の風穴、及び前記固定側シールドリングの内部の空間と前記固定側シールドリングの外部の空間とを接続する第4の風穴であり、
前記開閉部の遮断動作時には、前記パッファ室から押し出された前記絶縁ガスを、前記第1の風穴、前記可動側シールドリングの内部の空間及び前記第2の風穴を通じて前記可動側シールドリングの外部の空間に噴射し、かつ、前記ノズルから吹き出されて前記固定側シールドの内部に流入した前記絶縁ガスを、前記第3の風穴、前記固定側シールドリングの内部の空間及び前記第4の風穴を通じて前記固定側シールドリングの外部の空間に噴射し、
前記開閉部の投入動作時には、前記可動側シールドリングの外部の空間の前記絶縁ガスを、前記第2の風穴、前記可動側シールドリングの内部の空間及び前記第1の風穴を通じて前記パッファ室に吸引し、かつ前記固定側シールドリングの外部の空間の前記絶縁ガスを、前記第4の風穴、前記固定側シールドリングの内部の空間、前記固定側シールドの内部の空間及び前記ノズルを通じて前記パッファ室に吸引することを特徴とする請求項
7に記載の遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流電圧が印加される高電圧導体を絶縁ガスが封入されたタンク内に備えた電気機器及び遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電圧が印加される高電圧導体を絶縁ガスが封入されたタンク内に備えた電気機器において、高電圧導体からのコロナ放電を防止するために、導電性材料で形成されたシールドリングを高電圧導体に取り付けて電界を緩和する手法が用いられている。
【0003】
タンク内に導電性異物が混入した場合、高電圧の直流電圧が高電圧導体に印加されると、タンク内底面に存在した導電性異物は静電力により高電圧導体に向かって浮上し、高電圧導体付近で拘束されて浮遊する「ファイアフライ」と呼ばれる状態となる。ファイアフライ状態の導電性異物を以下において、「ファイアフライ異物」と呼称する。
【0004】
ファイアフライ異物は、電界がより高い高電界部に向かって移動する性質があるため、高電圧導体にシールドリングが取り付けられている場合には、ファイアフライ異物は、シールドリングの先端部に向かって移動する。ファイアフライ異物がシールドリングの先端に到達すると、シールドリングによる電界緩和効果が低下してしまう。
【0005】
特許文献1には、高電圧導体に電界が低い異特性箇所を設けることにより、導電性異物が異特性箇所に到達するとファイアフライ状態を維持できなくなるようにすることにより、ファイアフライ異物を異物収集箇所に落下させて捕獲するガス絶縁機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるガス絶縁機器は、異特性箇所の電界が低いため、ファイアフライ異物が異特性箇所に集まりにくく、導電性異物を効率的に除去できない、という問題があった。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、導電性異物を効率的に除去できる異物除去装置を備えた電気機器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る電気機器は、絶縁ガスが封入されるタンクと、タンクの内部に設置され、直流電圧が印加される高電圧導体と、タンクの内部の導電性異物を除去する異物除去装置とを備える。異物除去装置は、外周部に湾曲面が設けられたリング状であり、高電圧導体に設置されるシールドリングと、シールドリングの外周部に設置され、導電性異物が高電圧導体の周囲で浮遊するファイアフライ状態を維持できなくするファイアフライ抑制部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、導電性異物を効率的に除去できる異物除去装置を備えた電気機器を得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施の形態2に係る電気機器の異物除去装置の拡大図
【
図4】実施の形態2に係る電気機器の異物除去装置における導電性異物の挙動を示す図
【
図5】実施の形態3に係る電気機器の異物除去装置の拡大図
【
図6】実施の形態3の変形例に係る電気機器の異物除去装置の拡大図
【
図7】実施の形態3の変形例に係る電気機器の異物除去装置における導電性異物の挙動を示す図
【
図8】実施の形態4に係る電気機器の異物除去装置の構成を示す図
【
図9】実施の形態5に係る遮断器の閉極状態を示す図
【
図10】実施の形態5に係る遮断器の開極状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施の形態に係る電気機器及び遮断器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電気機器の構成を示す図である。電気機器40は、絶縁ガスが封入されたタンク1と、タンク1の内部に設置された高電圧導体2と、タンク1内で高電圧導体2を支持する絶縁スペーサ3と、タンク1内の導電性異物61を除去する異物除去装置4とを備える。異物除去装置4は、高電圧導体2に設置されたシールドリング41と、ファイアフライ異物がファイアフライ状態を維持できなくさせるファイアフライ抑制部42と、高電圧導体2に設けられた低電界部47と、タンク1の下部に形成された異物捕獲用容器43とを備える。高電圧導体2には、高圧直流電圧が印加される。高電圧導体2は、金属導体の表面が絶縁被膜によって覆われた構造となっている。
【0014】
シールドリング41は、高電界部となっている曲率先端部を有する。ファイアフライ抑制部42は、シールドリング41の曲率先端部に配置されている。実施の形態1に係る電気機器40の異物除去装置4において、ファイアフライ抑制部42は、絶縁性材料で形成された絶縁物である。ここでは、電気抵抗が10
15Ω・mよりも大きい材料を絶縁性材料とする。ファイアフライ抑制部42の外径は、シールドリング41の外径と同じ大きさである。実施の形態1においては、円板状に形成されたファイアフライ抑制部42をシールドリング41で挟み込んだ構造を例に挙げるが、ファイアフライ抑制部42をリング状に形成するとともに、シールドリング41の外周部に設けた凹部に配置してもよい。低電界部47は、高電圧導体2の金属導体を覆う絶縁被膜を部分的に厚くすることによって形成されており、高電圧導体2の低電界部47以外の部分と比較すると、表面の電界が低くなっている。なお、
図1において低電界部47は、高電圧導体2の下方に形成されているが、これに限定されることはない。低電界部47は、高電圧導体2の全周にわたってリング状に形成されていてもよい。
【0015】
タンク1内の導電性異物61は、高電圧導体2の表面付近を浮遊しながら、電界がより高い高電界部に向かって移動する。タンク1の底面にあった導電性異物61が浮上してシールドリング41上でファイアフライ異物となった場合、ファイアフライ異物はシールドリング41先端の高電界部に向かって移動し、ファイアフライ抑制部42に到達する。ファイアフライ異物は、高電圧導体2から電荷を供給されることで浮遊を続けることができるが、シールドリング41の高電界部となっている曲率先端部には絶縁性材料で形成されたファイアフライ抑制部42が挟み込まれているため、ファイアフライ抑制部42に到達したファイアフライ異物は高電圧導体2からの電荷供給が絶たれ、ファイアフライ状態を維持できなくなる。ファイアフライ状態ではなくなった導電性異物61は、タンク1の底面に落下し、異物捕獲用容器43に入る。また、ファイアフライ異物が低電界部47に到達した場合も、ファイアフライ異物はファイアフライ状態を維持できなくなり、ファイアフライ状態ではなくなった導電性異物61は、タンク1の底面に落下し、異物捕獲用容器43に入る。
【0016】
異物捕獲用容器43は、導電性異物61が再浮上できないように捕獲する。異物捕獲用容器43の深さを深くすることにより、異物捕獲用容器43の底面部における電界がタンク1の底面部の電界よりも低くなり、かつ導電性異物61が再浮上できない大きさの電界となるようにすることができる。これにより、異物捕獲用容器43に捕獲された導電性異物61が再びファイアフライ異物となることを抑制し、導電性異物61を確実に捕獲することができる。
【0017】
実施の形態1に係る電気機器40は、シールドリング41の高電界部に設置されたファイアフライ抑制部42にファイアフライ異物を誘導し、高電圧導体2からの電荷供給を遮断してファイアフライ状態を維持できなくさせるため、導電性異物61を効率よく捕獲することができる。
【0018】
なお、ここではファイアフライ抑制部42が絶縁性材料で形成された構成を例に挙げたが、ファイアフライ抑制部42は、半導電性材料で形成されてもよい。ここでは、電気抵抗が109Ω・mよりも大きく1015Ω・m以下の材料を半導電性材料とする。
【0019】
ファイアフライ異物が絶縁性材料のファイアフライ抑制部42に近づき、ファイアフライ異物の持つ電荷によってファイアフライ抑制部42が帯電した場合、ファイアフライ異物がファイアフライ抑制部42の表面に付着してしまうことがある。ファイアフライ異物がファイアフライ抑制部42に付着した状態でインパルスなどの過大電圧が高電圧導体2に印加された場合には、絶縁破壊が発生しコロナ放電が起きる可能性がある。ファイアフライ抑制部42を半導電性材料で形成した場合には、ファイアフライ異物が持つ電荷は半導電性のファイアフライ抑制部42を介して高電圧導体2に流れて失われるため、ファイアフライ抑制部42の表面にファイアフライ異物が付着することがない。
【0020】
実施の形態2.
図2は、実施の形態2に係る電気機器の構成を示す図である。実施の形態2に係る電気機器40の異物除去装置4は、ファイアフライ抑制部42が、シールドリング41よりも凹んでいる点で、実施の形態1と相違する。実施の形態2においては、ファイアフライ抑制部42とタンク1との距離が、シールドリング41とタンク1との距離よりも大きくなっている。
【0021】
図3は、実施の形態2に係る電気機器の異物除去装置の拡大図である。ファイアフライ抑制部42とタンク1との距離は、シールドリング41とタンク1との距離よりも大きいため、ファイアフライ抑制部42の表面の電界E2の強度は、シールドリング41の表面の電界E1の強度よりも低くなっている。導電性異物61に働く静電力は、導電性異物61に蓄えられた電荷と、導電性異物61が存在する箇所における電界強度との積であるため、ファイアフライ抑制部42において導電性異物61に働く静電力は、シールドリング41において導電性異物61に働く静電力よりも小さくなる。
【0022】
図4は、実施の形態2に係る電気機器の異物除去装置における導電性異物の挙動を示す図である。
図4に示すように、シールドリング41の表面で発生する電気力線EL1とファイアフライ抑制部42で発生する電気力線EL2とは、シールドリング41及びファイアフライ抑制部42から離れた空間ではほぼ合わさるように並進する。ファイアフライ異物は、電気力線EL1,EL2に沿って跳躍しながら移動する。この際、シールドリング41の表面で発生する電気力線EL1とファイアフライ抑制部42で発生する電気力線EL2とが並進している空間では、シールドリング41の表面で発生する電気力線EL1上からファイアフライ抑制部42の表面で発生する電気力線EL2上にファイアフライ異物が移動する現象と、ファイアフライ抑制部42の表面で発生する電気力線EL2上からシールドリング41の表面で発生する電気力線EL1上にファイアフライ異物が移動する現象とがランダムに発生する。これにより、本来ならば電界が高いシールドリング41に向かって移動するファイアフライ異物が、シールドリング41よりも電界が低いファイアフライ抑制部42に向かって移動する機会が創出される。ファイアフライ抑制部42に到達したファイアフライ異物は、ファイアフライ状態を維持できなくなる。ファイアフライ状態ではなくなった導電性異物61は、タンク1の底面に落下して、異物捕獲用容器43に入る。
【0023】
なお、実施の形態2に係る電気機器40の異物除去装置4においては、ファイアフライ抑制部42を帯電防止材料又は導電性材料を用いて形成することもできる。ここでは、電気抵抗が109Ω・m以下の材料を導電性材料とする。ファイアフライ抑制部42が帯電防止材料で形成されている場合には、ファイアフライ抑制部42が絶縁性材料で形成されている場合と同じ効果を得ることができる。また、ファイアフライ抑制部42が導電性材料で形成されている場合には、ファイアフライ異物への電荷供給を絶つ効果は得られないが、ファイアフライ異物を電界が低いファイアフライ抑制部42に導くことができるため、ファイアフライ異物を効率的に除去することができる。
【0024】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3に係る電気機器の異物除去装置の拡大図である。実施の形態3に係る電気機器40の異物除去装置4は、ファイアフライ抑制部42とシールドリング41との間に隙間が空いて第1の溝部44が形成されている。この他は、実施の形態2と同様である。
【0025】
図5は、実施の形態3に係る電気機器の異物除去装置における導電性異物の挙動を示す図である。
図5に示すように、シールドリング41で発生する電気力線EL1とファイアフライ抑制部42で発生する電気力線EL2とは、シールドリング41及びファイアフライ抑制部42から離れた空間ではほぼ合わさるように並進する。ファイアフライ異物は、電気力線EL1,EL2に沿って跳躍しながら移動する。この際、シールドリング41の表面で発生する電気力線EL1とファイアフライ抑制部42で発生する電気力線EL2とが並進している空間では、シールドリング41の表面で発生する電気力線EL1上からファイアフライ抑制部42の表面で発生する電気力線EL2上にファイアフライ異物が移動する現象と、ファイアフライ抑制部42の表面で発生する電気力線EL2上からシールドリング41の表面で発生する電気力線EL1上にファイアフライ異物が移動する現象とがランダムに発生する。これより、本来ならば電界が高いシールドリング41に向かって移動するファイアフライ異物が、シールドリング41よりも電界が低いファイアフライ抑制部42に向かって移動する機会が創出される。
【0026】
同様に、ファイアフライ抑制部42で発生する電気力線EL2と第1の溝部44で発生する電気力線EL3とは、ファイアフライ抑制部42及び第1の溝部44から離れた空間ではほぼ合わさるように並進する。このため、ファイアフライ抑制部42で発生する電気力線EL2と第1の溝部44で発生する電気力線EL3とが並進している空間では、ファイアフライ抑制部42の表面で発生する電気力線EL2上から第1の溝部44で発生する電気力線EL3上にファイアフライ異物が移動する現象と、第1の溝部44で発生する電気力線EL3上からファイアフライ抑制部42の表面で発生する電気力線EL2上にファイアフライ異物が移動する現象とがランダムに発生する。これより、本来ならば電界が高いファイアフライ抑制部42に向かって移動するファイアフライ異物が、ファイアフライ抑制部42よりも電界が低い第1の溝部44に向かって移動する機会が創出される。
【0027】
ファイアフライ抑制部42がシールドリング41よりも凹んだ構成においては、ファイアフライ抑制部42が大きく凹んでいるほど電界が低くなるため、ファイアフライ異物がファイアフライ状態を維持できなくさせる効果が大きい。一方で、ファイアフライ抑制部42で発生する電界の強度とシールドリング41で発生する電界の強度との差が大きくなると、ファイアフライ異物は、シールドリング41で発生するより強い電界に引き付けられる確率が高くなり、ファイアフライ異物がファイアフライ抑制部42に到達しにくくなってしまう。実施の形態3に係る電気機器40の異物除去装置4は、まずファイアフライ異物がファイアフライ抑制部42に誘導され、その後で第1の溝部44にファイアフライ異物が誘導される。したがって、実施の形態3に係る電気機器40の異物除去装置4は、電界が低い第1の溝部44に効率的にファイアフライ異物を誘導し、導電性異物61を除去することができる。
【0028】
なお、実施の形態2に係る電気機器40の異物除去装置4と同様に、ファイアフライ抑制部42は、帯電防止材料又は導電性材料で形成することも可能である。
【0029】
図6は、実施の形態3の変形例に係る電気機器の異物除去装置の拡大図である。実施の形態3の変形例に係る電気機器40の異物除去装置4は、ファイアフライ抑制部42が二つのリング状の絶縁性材料で構成されており、ファイアフライ抑制部42同士の間に第2の溝部45が設けられている。ファイアフライ抑制部42とタンク1との距離は、シールドリング41とタンク1との距離よりも大きいため、ファイアフライ抑制部42の表面の電界E3の強度は、シールドリング41の表面の電界E1の強度よりも低くなっている。また、第1の溝部44とタンク1との距離は、ファイアフライ抑制部42とタンク1との距離よりも大きいため、第1の溝部44の電界の強度E4は、ファイアフライ抑制部42の表面の電界E3よりも低くなっている。
【0030】
上記のように、導電性異物61に働く静電力は、導電性異物61に蓄えられた電荷と、導電性異物61が存在する箇所における電界強度との積であるため、ファイアフライ抑制部42において導電性異物61に働く静電力は、シールドリング41において導電性異物61に働く静電力よりも小さくなる。また、第1の溝部44において導電性異物61に働く静電力は、ファイアフライ抑制部42において導電性異物61に働く静電力よりも小さくなる。
【0031】
図7は、実施の形態3の変形例に係る電気機器の異物除去装置における導電性異物の挙動を示す図である。実施の形態3の変形例に係る電気機器40の異物除去装置4は、ファイアフライ抑制部42同士の間に第2の溝部45が設けられていることにより、ファイアフライ異物が第1の溝部44又は第2の溝部45に到達しやすくなり、導電性異物61の除去性能をさらに高めることができる。
【0032】
実施の形態4.
図8は、実施の形態4に係る電気機器の異物除去装置の構成を示す図である。実施の形態4に係る異物除去装置4は、シールドリング41の外周部に窪みが形成されており、窪みの内部にはファイアフライ抑制部42が配置されている。ファイアフライ抑制部42は、正極性帯電性絶縁性材料でリング状に形成されている。正極性帯電性絶縁性材料の例にはナイロンを挙げることができるが、他の材料であってもよい。高電圧導体2には負極性の高圧直流電圧が印加される。また、実施の形態4に係る異物除去装置4は、高電圧導体2に低電圧部が設けられていない。
【0033】
シールドリング41上でファイアフライ状態となったファイアフライ異物は、より高電界である外周部に向かって移動する。シールドリング41の外周部に移動したファイアフライ異物は、負極性に帯電しているため、正極性に帯電しやすいファイアフライ抑制部42に引きつけられる。ファイアフライ異物がファイアフライ抑制部42に付着すると、ファイアフライ抑制部42に捕獲されてファイアフライ状態を維持できなくなる。ファイアフライ抑制部42の表面には捕獲された導電性異物61が付着したままとなるが、ファイアフライ抑制部42は窪みの内部に配置されており、ファイアフライ抑制部42の表面はシールドリング41の表面よりも凹んでいるため、ファイアフライ抑制部42に導電性異物61が付着したままでも絶縁性能が低下する恐れはない。
【0034】
なお、ここでは高電圧導体2に負極性の高圧直流電圧が印加される構成を例に挙げたが、高電圧導体2に正極性の高圧直流電圧が印加される場合には、負極性帯電性絶縁性材料でリング状に形成されたファイアフライ抑制部42を用いることで、上記と同様の効果が得られる。すなわち、高電圧導体2に印加する高圧直流電圧と反対の属性に帯電する性質を持った絶縁性材料でファイアフライ抑制部42を形成すれば、ファイアフライ異物をファイアフライ抑制部42に付着させて捕獲することができる。
【0035】
実施の形態5.
図9は、実施の形態5に係る遮断器の閉極状態を示す図である。
図10は、実施の形態5に係る遮断器の開極状態を示す図である。遮断器50は、筒状のタンク1と、可動側電極部51及び固定側電極部52を備えた開閉部24と、タンク1の上方に延びた一対のブッシング22内に配置された可動側外部導体34及び固定側外部導体36とを備える。なお、実施の形態5に係る遮断器50において、タンク1とブッシング22とは一体に形成されて、絶縁ガスが封入される密閉容器を構成している。
【0036】
タンク1の可動側の端部は、中央に穴が形成された板状である。なお、可動側電極部51と固定側電極部52との配列方向において、固定側電極部52から可動側電極部51に向かう方向を「可動側」といい、可動側電極部51から固定側電極部52に向かう方向を「固定側」という。
図9及び
図10においては、可動側電極部51と固定側電極部52とが紙面の左右方向に並んでいるため、紙面の右側が可動側であり、左側が固定側である。
【0037】
遮断器50は、可動側外部導体34の下端に接続された筒状の可動側フレーム18と、固定側外部導体36の下端に接続された筒状の固定側フレーム16とを有する。可動側フレーム18及び固定側フレーム16は、導電性材料で形成されている。
【0038】
可動側電極部51は、筒状のパッファシリンダ92と、パッファシリンダ92の固定側の端部に設けられた可動側シールド93と、パッファシリンダ92内に設置されたパッファピストン91と、パッファシリンダ92よりも小径でありパッファピストン91に固定された導体ロッド14と、導体ロッド14に固定された可動側接触子5aと、可動側接触子5aの周囲に配置されたノズル11とを有する。導体ロッド14は、可動側接触子5aを操作するためにタンク1外に設置された不図示の操作装置のシャフトに連結された絶縁ロッド12に連結されている。パッファピストン91は、導体ロッド14をタンク1の外周方向から囲んで導体ロッド14とパッファシリンダ92との隙間を塞いでいる。
【0039】
可動側フレーム18の固定側の端部は、パッファシリンダ92に挿入される円柱状部18aになっている。可動側フレーム18には円柱状部18aの軸方向に延びる貫通孔18bが形成されており、貫通孔18bの内周面の少なくとも1箇所は、導体ロッド14に接している。このため、可動側外部導体34は、可動側フレーム18及び導体ロッド14を介して可動側接触子5aと導通している。また、固定側外部導体36は、固定側フレーム16を介して固定側接触子5bと導通している。
【0040】
可動側外部導体34と固定側外部導体36との間で、直流電流は、可動側外部導体34、可動側フレーム18、導体ロッド14、可動側接触子5a、固定側接触子5b、固定側フレーム16及び固定側外部導体36の経路で流れる。したがって、可動側フレーム18、導体ロッド14、可動側接触子5a、固定側接触子5b及び固定側フレーム16の各々は、高圧直流電圧が印加される高電圧導体2の一部分をなしている。
【0041】
固定側電極部52は、固定側接触子5bと、固定側接触子5bをタンク1の外周方向から囲む筒状の固定側シールド15とを有する。固定側接触子5b及び固定側シールド15は、固定側フレーム16によって支持されている。
【0042】
可動側電極部51は、タンク1の内部に、タンク1の軸方向に移動可能に設置されている。実施の形態5において、可動側接触子5aと固定側接触子5bとが接触した状態を「閉極状態」といい、可動側接触子5aが固定側接触子5bから離れた状態を「開極状態」という。閉極状態から開極状態に移行する動作を「遮断動作」といい、開極状態から閉極状態に移行する動作を「投入動作」という。遮断器50は、可動側電極部51が移動して可動側接触子5aが固定側接触子5bに接触したり、固定側接触子5bに接触していた可動側接触子5aが固定側接触子5bから離れたりすることによって開極状態と閉極状態とが切り替わる。
【0043】
可動側接触子5aと固定側接触子5bとが接触した閉極状態において、固定側シールド15と可動側シールド93とは接触する。可動側接触子5aが固定側接触子5bから離れた開極状態において、可動側シールド93は固定側シールド15に非接触である。
【0044】
パッファピストン91には、貫通孔91aが形成されている。このため、パッファシリンダ92、パッファピストン91及び円柱状部18aによって囲まれた空間であるパッファ室32は、ノズル11に繋がっている。閉極状態から開極状態に移行する遮断動作の際には、パッファ室32の容積が減少し、ノズル11から絶縁ガスが固定側接触子5bに向けて噴射される。すなわち、可動側電極部51は、可動側接触子5aが固定側接触子5bに接触した閉極状態から可動側接触子5aが固定側接触子5bから離れた開極状態に移行する遮断動作において、パッファシリンダ92とパッファピストン91と円柱状部18aとの間に形成される空間であるパッファ室32の絶縁ガスを固定側接触子5bに向けて吹き付ける。遮断動作時に可動側接触子5aと固定側接触子5bとの間に形成されるアークは、ノズル11から絶縁ガスが吹き付けられることによって、冷却されて消弧される。
【0045】
可動側フレーム18には、異物除去装置4aが設けられている。異物除去装置4aは、中空構造の可動側シールドリング41aと、可動側シールドリング41aの内部の空間とパッファ室32とを接続する第1の風穴42aと、可動側シールドリング41aの内部の空間と可動側シールドリング41aの外部の空間とを接続する第2の風穴43aとで構成されている。パッファ室32は、第1の風穴42a、可動側シールドリング41aの内部の空間及び第2の風穴43aを通じて可動側シールドリング41aの外部の空間と繋がっている。異物除去装置4aにおいて、第1の風穴42a及び第2の風穴43aは、ファイアフライ異物がファイアフライ状態を維持できなくさせる可動側ファイアフライ抑制部である。
【0046】
また、固定側フレーム16には、異物除去装置4bが設けられている。異物除去装置4bは、中空構造の固定側シールドリング41bと、固定側シールドリング41bの内部の空間と固定側シールド15の筒内の空間とを接続する第3の風穴42bと、固定側シールドリング41bの内部の空間と固定側シールドリング41bの外部の空間とを接続する第4の風穴43bとで構成されている。固定側シールド15の筒内の空間は、第3の風穴42b、固定側シールドリング41bの内部の空間及び第4の風穴43bを通じて固定側シールドリング41bの外部の空間と繋がっている。異物除去装置4bにおいて、第3の風穴42b及び第4の風穴43bは、ファイアフライ異物がファイアフライ状態を維持できなくさせる固定側ファイアフライ抑制部である。
【0047】
開極状態から閉極状態に移行する投入動作の際にパッファ室32の容積が増大すると可動側シールドリング41aの外部から第2の風穴43aを通じて絶縁ガスが可動側シールドリング41aの内部の空間に吸い込まれる。この際に、可動側シールドリング41aに付着しているファイアフライ異物が絶縁ガスとともに第2の風穴43aから可動側シールドリング41aの内部の空間に吸い込まれる。可動側シールドリング41aの内部は電界強度がゼロであるため、可動側シールドリング41aの内部の空間に吸い込まれたファイアフライ異物は、ファイアフライ状態を維持することができなくなり、可動側シールドリング41aの内部に落下して捕獲される。
【0048】
また、投入動作の際にパッファ室32の容積が増大すると固定側シールドリング41bの外部から第4の風穴43bを通じて絶縁ガスが固定側シールドリング41bの内部の空間に吸い込まれる。この際に、固定側シールドリング41bに付着しているファイアフライ異物が絶縁ガスとともに第4の風穴43bから固定側シールドリング41bの内部の空間に吸い込まれる。シールドリングの内部は電界強度がゼロであるため、固定側シールドリング41bの内部の空間に吸い込まれたファイアフライ異物は、ファイアフライ状態を維持することができなくなり、固定側シールドリング41bの内部に落下して捕獲される。
【0049】
閉極状態から開極状態に移行する遮断動作の際にパッファ室32の容積が減少すると、パッファ室32内の絶縁ガスは、第1の風穴42a、可動側シールドリング41aの内部の空間及び第2の風穴43aを通じて可動側シールドリング41aの外部に噴射される。この際に、可動側シールドリング41aに付着しているファイアフライ異物が、第2の風穴43aから吹き出す絶縁ガスによって吹き飛ばされる。
【0050】
また、遮断動作の際にノズル11から固定側接触子5bに向けて噴射された絶縁ガスは、固定側シールド15の筒内の空間に流入し、第3の風穴42b、固定側シールドリング41bの内部の空間及び第4の風穴43bを通じて固定側シールドリング41bの外部に噴射される。この際に、固定側シールドリング41bに付着しているファイアフライ異物が、第4の風穴43bから吹き出す絶縁ガスによって吹き飛ばされる。
【0051】
実施の形態5に係る遮断器50は、高電界の可動側シールドリング41a及び固定側シールドリング41bの表面に集まったファイアフライ異物を可動側シールドリング41a及び固定側シールドリング41bの内部の空間に吸い込んで効率的に捕獲して除去することができる。また、可動側シールドリング41a及び固定側シールドリング41bの内部に吸い込まれなかったファイアフライ異物が高電界である可動側シールドリング41a及び固定側シールドリング41bの表面から吹き飛ばされるため、ファイアフライ異物が可動側シールドリング41a及び固定側シールドリング41bの表面に付着することによって絶縁性能が低下してしまうことを抑制することができる。
【0052】
以上の実施の形態に示した構成は、内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 タンク、2 高電圧導体、3 絶縁スペーサ、4,4a,4b 異物除去装置、5a 可動側接触子、5b 固定側接触子、11 ノズル、12 絶縁ロッド、14 導体ロッド、15 固定側シールド、16 固定側フレーム、18 可動側フレーム、18a 円柱状部、18b,91a 貫通孔、22 ブッシング、24 開閉部、32 パッファ室、34 可動側外部導体、36 固定側外部導体、40 電気機器、41 シールドリング、41a 可動側シールドリング、41b 固定側シールドリング、42 ファイアフライ抑制部、42a 第1の風穴、42b 第3の風穴、43 異物捕獲用容器、43a 第2の風穴、43b 第4の風穴、44 第1の溝部、45 第2の溝部、47 低電界部、50 遮断器、51 可動側電極部、52 固定側電極部、61 導電性異物、91 パッファピストン、92 パッファシリンダ、93 可動側シールド。
【要約】
電気機器(40)は、絶縁ガスが封入されるタンク(1)と、タンク(1)の内部に設置され、直流電圧が印加される高電圧導体(2)と、タンク(1)の内部の導電性異物(61)を除去する異物除去装置(4)とを備え、異物除去装置(4)は、外周部に湾曲面が設けられたリング状であり、高電圧導体(2)に設置されるシールドリング(41)と、シールドリング(41)の外周部に設置され、導電性異物(61)が高電圧導体(2)の周囲で浮遊するファイアフライ状態を維持できなくするファイアフライ抑制部(42)とを備える。