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特許7603906交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241213BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/12 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024560348
(86)(22)【出願日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2024006338
【審査請求日】2024-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2023096270
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】河内 謙吾
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-125545(JP,A)
【文献】特開2009-100558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのスイッチング素子を有し、交流電源から印加される電源電圧を整流する整流回路と、
直流母線に接続され、前記整流回路の出力電圧を平滑するコンデンサと、
前記コンデンサよりも交流電源側に配置されるリアクトルと、
前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング信号を生成する制御部と、
を備え、
前記スイッチング素子は、前記コンデンサよりも交流電源側に配置され、
前記制御部は、前記交流電源と前記整流回路との間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が、前記電源電流の高調波規格値に準拠するとともに前記スイッチング素子がスイッチング動作するときの電源電圧1周期におけるスイッチング回数が、1回以上、且つキャリア信号の周波数であるキャリア周波数を前記電源電圧の周波数で除算した値以下となるように前記スイッチング信号を生成する
ことを特徴とする交流直流変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記直流母線の電圧である母線電圧の指令値である第1の電圧指令値を用いて第1の電流指令値を生成する電圧制御部と、
前記第1の電流指令値を正弦波に追従させた第2の電流指令値を用いて第2の電圧指令値を生成する電流制御部と、
前記第2の電圧指令値を用いて前記スイッチング信号を生成するスイッチング信号生成部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の交流直流変換装置。
【請求項3】
前記電流制御部は、比例正弦波制御器、比例積分正弦波制御器又は比例積分共振制御器で構成された電流制御器を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の交流直流変換装置。
【請求項4】
前記電源電流を検出する電流検出部と、
前記母線電圧を検出する第1の電圧検出部と、
前記電源電圧を検出する第2の電圧検出部と、
を備え、
前記第1の電流指令値は、前記第1の電圧指令値と前記第1の電圧検出部が検出した検出電圧との差分である電圧偏差を用いて生成され、
前記正弦波は、前記第2の電圧検出部が検出した電圧位相に基づいて生成され、
前記第2の電圧指令値は、前記第2の電流指令値と前記電流検出部が検出した検出電流との差分である電流偏差を用いて生成される
ことを特徴とする請求項2に記載の交流直流変換装置。
【請求項5】
前記電源電流には低次高調波が重畳している
ことを特徴とする請求項2に記載の交流直流変換装置。
【請求項6】
前記電流制御部は、前記電流制御部が出力する前記第2の電圧指令値を前記第2の電流指令値の入力段にフィードバックするフィードバックループの零点を操作するフィルタを備える
ことを特徴とする請求項2に記載の交流直流変換装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の交流直流変換装置を備える回転機駆動装置。
【請求項8】
請求項1から6の何れか1項に記載の交流直流変換装置を備える冷凍サイクル適用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流電力を所望の直流電力に変換する交流直流変換装置、並びに交流直流変換装置を備えた回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電源から直流電圧を得る際には、力率改善回路を用いるのが一般的である。力率改善回路は、母線電圧を一定に制御する機能と、高調波規格に準拠可能なように電源電流を制御する機能とを有する。力率改善回路とその制御法の一種である「簡易スイッチング方式」(「部分スイッチング方式」とも呼ばれる)は、交流電源の電圧である電源電圧の半周期に少なくとも1回のスイッチングを行う方式であり、電源電圧のピーク値よりも母線電圧を低く制御できるという特徴を有している。但し、簡易スイッチング方式で交流電源のピーク値よりも母線電圧を低く設定すると、動作回路が昇圧チョッパからコンデンサインプット型のダイオード整流器に切り替わるため、電源電流が歪むという課題がある。
【0003】
この課題に対して、下記特許文献1に示される従来技術では、リアクトル容量とスイッチングタイミングとの組合せが高調波規格を準拠できるか否かを、負荷電力ごとに設計を繰り返すことで実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-125545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される従来技術は、高調波規格に準拠できるか否かを繰り返しの試行により確認する方法であるため、パルス数が増加するにつれて試行回数が指数関数的に増加してしまうという課題がある。また、制御ゲイン設計についても、定量的且つ一意に設計する指針が明確ではないため、設計完了までに多くの時間を要するという課題がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、試行錯誤的な調整に頼らずに高調波規格に準拠可能な交流直流変換装置を得ることによって、設計に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係る交流直流変換装置は、整流回路と、コンデンサと、リアクトルと、制御部とを備える。整流回路は、少なくとも1つのスイッチング素子を有し、交流電源から印加される電源電圧を整流する。コンデンサは、直流母線に接続され、整流回路の出力電圧を平滑する。リアクトルは、コンデンサよりも交流電源側に配置される。制御部は、コンデンサよりも交流電源側に配置されるスイッチング素子を制御するためのスイッチング信号を生成する際には、交流電源と整流回路との間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が、電源電流の高調波規格値に準拠するようにスイッチング信号を生成する。スイッチング素子は、電源電圧の半周期に少なくとも1回はスイッチング動作する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る交流直流変換装置によれば、試行錯誤的な調整に頼らずに高調波規格に準拠できるため、設計に要する時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る回転機駆動装置の構成例を示すブロック図
図2】実施の形態1に係る交流直流変換装置の構成例を示す回路図
図3】実施の形態1に係る制御部の構成例を示すブロック図
図4】実施の形態1に係る電圧制御部の構成例を示すブロック図
図5】実施の形態1に係る電流制御部の構成例を示すブロック図
図6図5に示す電流制御部に目標値フィルタを導入した場合の構成例を示すブロック図
図7図6に示す電流制御部を含む交流直流変換装置における電流制御系の伝達関数の説明に供するブロック図
図8】実施の形態1に係るスイッチング信号生成部の構成例を示すブロック図
図9図6に示す電流制御器にPI制御を適用した場合の電源電圧、母線電圧及び電源電流の動作波形例を示す図
図10図6に示す電流制御器にPS制御を適用した場合の電源電圧、母線電圧及び電源電流の動作波形例を示す図
図11図6に示す電流制御器にPS制御を適用した場合の電流高調波特性の一例を示す図
図12図6に示す電流制御器にPS制御を適用した場合における高調波成分の和の割合と動作電力との関係の一例を示す図
図13】実施の形態2に係る交流直流変換装置の構成例を示す図
図14】実施の形態3に係る冷凍サイクル適用機器の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器について詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る回転機駆動装置8の構成例を示すブロック図である。回転機駆動装置8は、交流電源1と、モータ41を備える負荷4とに接続される。回転機駆動装置8は、交流直流変換装置2と、直流交流変換装置3とを備える。回転機駆動装置8が空気調和機に用いられる場合、負荷4は、圧縮機又はファンであり、モータ41は、圧縮機モータ又はファンモータである。
【0012】
図2は、実施の形態1に係る交流直流変換装置2の構成例を示す回路図である。実施の形態1に係る交流直流変換装置2は、主たる構成部として、制御部6と、整流回路20と、リアクトル212と、コンデンサ216とを備える。また、交流直流変換装置2は、電圧又は電流の検出手段として、電流検出部211と、電圧検出部217a,217bとを備える。なお、本稿では、電圧検出部217a,217bを符号無しで区別するときには、電圧検出部217bを「第1の電圧検出部」と呼び、電圧検出部217aを「第2の電圧検出部」と呼ぶ。
【0013】
整流回路20は、4つのダイオードをブリッジ接続した単相ダイオードブリッジセル213a,213bと、単相ダイオードブリッジセル213bの両端に並列に接続されるスイッチング素子215とを備える。単相ダイオードブリッジセル213a,213bは、交流電源1に対して互いに並列に接続される。図2に示すような整流回路20は、「簡易スイッチング回路」と呼ばれる。単相ダイオードブリッジセル213b及びスイッチング素子215は、スイッチングセル225を構成する。スイッチング素子215は、電源電圧の半周期に少なくとも1回のスイッチング動作を行う。
【0014】
コンデンサ216は、直流母線9aと直流母線9bとの間に接続される。リアクトル212は、コンデンサ216よりも交流電源側に配置される。整流回路20は、交流電源1から印加される電源電圧をリアクトル212を介して受電し、受電した電源電圧を整流する。コンデンサ216は、整流回路20の出力電圧を平滑する。
【0015】
電圧検出部217bは、コンデンサ216が接続される直流母線9a,9bの電圧である母線電圧を検出する。電圧検出部217aは、電源電圧を検出する。電流検出部211は、交流電源1と整流回路20との間に流れる電源電流を検出する。
【0016】
制御部6には、電圧検出部217a,217b及び電流検出部211の各検出値が入力される。制御部6は、各々の検出値に基づいて、スイッチング素子215のオン及びオフを制御するためのスイッチング信号を生成する。
【0017】
スイッチング素子215の一例は、図示のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であるが、IGBTに限定されない。スイッチング素子215としては、スイッチング動作が可能であれば、どのような素子を用いてもよい。スイッチング素子215の他の例は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。
【0018】
また、図2に示す交流直流変換装置2は、電圧検出部217a,217b及び電流検出部211の各検出値を用いるクローズドループで構成されているが、目標値、推定値などを用いるオープンループで構成されていてもよい。交流直流変換装置2がオープンループで構成されている場合、電圧検出部217a,217b及び電流検出部211の各検出値を使用せずに、スイッチング素子215を制御することも可能である。
【0019】
図3は、実施の形態1に係る制御部6の構成例を示すブロック図である。制御部6は、電圧制御部61と、電流制御部62と、スイッチング信号生成部63とを備える。電圧制御部61は、第1の電圧指令値を用いて第1の電流指令値を生成する。電流制御部62は、第1の電流指令値を用いて第2の電圧指令値を生成する。スイッチング信号生成部63は、第2の電圧指令値を用いてスイッチング信号を生成する。
【0020】
図4は、実施の形態1に係る電圧制御部61の構成例を示すブロック図である。電圧制御部61は、電圧制御器611と、減算器612とを備える。電圧制御部61は、母線電圧の指令値である第1の電圧指令値を用いて第1の電流指令値を生成する。より詳細に説明すると、減算器612は、第1の電圧指令値と電圧検出部217bが検出した検出電圧との差分である電圧偏差を生成する。電圧制御器611は、減算器612から出力される電圧偏差を使用して第1の電流指令値を生成する。電圧制御器611は、例えばPI(Proportional Integral:比例積分)制御器で構成することができる。
【0021】
電圧制御器611をPI制御器で構成した場合の伝達関数GAVR(s)は、以下の(1)式で表すことができる。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、伝達関数GAVR(s)における“AVR”は“Automatic Voltage Regulator”の略である。また、上記(1)式において、KpAVRは比例ゲインであり、KiAVRは積分ゲインであり、sはラプラス演算子である。PI制御器において、比例ゲインKpAVR及び積分ゲインKiAVRは、任意に決定することができる。なお、比例ゲインKpAVRをゼロとしてI制御器として構成してもよいし、積分ゲインKiAVRをゼロとしてP制御器として構成してもよい。
【0024】
図5は、実施の形態1に係る電流制御部62の構成例を示すブロック図である。電流制御部62は、電流制御器621と、減算器622と、乗算器623とを備える。電流制御部62は、第1の電流指令値を正弦波に追従させた第2の電流指令値を用いて第2の電圧指令値を生成する。より詳細に説明すると、乗算器623は、第1の電流指令値に加振信号を乗算する。加振信号は、電源電圧の位相と同期した正弦波である。正弦波は、電圧検出部217aが検出した検出電圧の位相である電圧位相に基づいて生成される。乗算器623の出力は、第2の電流指令値として減算器622に入力される。減算器622は、第2の電流指令値と電流検出部211が検出した検出電流との差分である電流偏差を生成する。電流制御器621は、減算器622から出力される電流偏差を使用して第2の電圧指令値を生成する。電流制御器621は、例えばPS(Proportional Sinusoidal:比例正弦波)制御器で構成することができる。
【0025】
電流制御器621をPS制御器で構成した場合の伝達関数GACR(s)は、以下の(2)式で表すことができる。
【0026】
【数2】
【0027】
ここで、伝達関数GACR(s)における“ACR”は“Automatic Current Regulator”の略である。また、上記(2)式において、KpACRは比例ゲインであり、KsACRはS制御ゲインであり、ωは角周波数であり、sはラプラス演算子である。PS制御器において、比例ゲインKpACR、S制御ゲインKsACR及び角周波数ωは、任意に決定することができる。
【0028】
PS制御器は、正弦波関数又は余弦波関数のラプラス変換表現であるS制御器をP制御器に並列に挿入した制御器である。S制御器は、角周波数ωの正弦波入力に対する追従性能を向上させた制御器である。S制御器において、角周波数ωで脈動する入力に対して追従性能が向上する理由は、内部モデル原理から説明できる。内部モデル原理とは、ラプラス変換表記した指令値の分母多項式と同一の因子をコントローラの分母に有していれば、指令値に対して偏差なく追従できるというものである。なお、電流制御器621は、PS制御器に並列にI制御器を挿入して、PIS制御器として構成してもよい。
【0029】
図6は、図5に示す電流制御部62に目標値フィルタ624を導入した場合の構成例を示すブロック図である。また、図7は、図6に示す電流制御部62を含む交流直流変換装置2における電流制御系7の伝達関数の説明に供するブロック図である。
【0030】
図6では、図5に示す電流制御部62の前段に目標値フィルタ624が挿入されている。目標値フィルタ624は、図5に示す電流制御部62の伝達関数の応答を調節するために挿入されている。具体的に、電流制御部62の伝達関数の応答は、電流制御部62の伝達関数の零点が目標値フィルタ624の極で打ち消されるようにすることで調節される。
【0031】
ここで、図7の電流制御系7における閉ループ伝達関数Gclose(s)は、以下の(3)式で表すことができる。
【0032】
【数3】
【0033】
上記(3)式において、Gは任意の制御器72の伝達関数であり、Gは任意の制御対象プラント73の伝達関数である。上記(3)式が零点を持つ場合、閉ループの応答は極のみでは決定できない。そこで、閉ループ伝達関数Gclose(s)の零点と同じ極を持つ目標値フィルタ74を閉ループの前段に挿入する。そして、当該目標値フィルタ74の伝達関数GF(s)と、閉ループ伝達関数Gclose(s)との間で極零相殺を行い、零点の影響を打ち消すことで所望の応答を実現する。目標値フィルタ74の挿入後の伝達関数G'close(s)は、以下の(4)式で表すことができる。
【0034】
【数4】
【0035】
上記(4)式において、Gは任意の伝達関数である。伝達関数Gは、伝達関数G'close(s)の分母多項式におけるラプラス演算子sのゼロ乗項の値としてもよいし、任意の零点を持つようにしてもよい。このような伝達関数GF(s)を有する目標値フィルタ74を適用することで、制御器応答を調整することができる。なお、目標値フィルタ74と同様の効果を得る制御器として、PI制御器を用いてもよい。
【0036】
図8は、実施の形態1に係るスイッチング信号生成部63の構成例を示すブロック図である。スイッチング信号生成部63は、基準化器630と、キャリア信号生成器631と、比較器632とを備える。基準化器630は、スイッチング信号生成部63に入力される第2の電圧指令値を基準化する。なお、第2の電圧指令値を出力する電流制御器621の制御ゲインが基準化を考慮して設計されていれば、基準化器630は不要となる。
【0037】
キャリア信号生成器631は、スイッチング信号の生成に用いるキャリア信号を生成して比較器632に出力する。キャリア信号は、任意の周波数で動作するバイポーラ又はユニポーラの三角波状の波形を有する信号である。比較器632は、基準化器630の出力とキャリア信号生成器631の出力とに基づいてスイッチング信号を生成する。より詳細に説明すると、比較器632は、基準化器630の出力値とキャリア信号生成器631の出力値とを比較し、基準化器630の出力値がキャリア信号生成器631の出力値よりも大きければ、スイッチング素子215をオン動作させる信号を出力する。また、比較器632は、基準化器630の出力値がキャリア信号生成器631の出力値よりも小さければ、スイッチング素子215をオフ動作させる信号を出力する。なお、この動作とは逆に、基準化器630の出力値がキャリア信号生成器631の出力値よりも小さいときにオン動作信号が生成され、基準化器630の出力値がキャリア信号生成器631の出力値よりも大きいときにオフ動作信号が生成される構成でもよい。
【0038】
また、キャリア信号生成器631が生成するキャリア信号は、三角波状でなくてもよく、第2の電圧指令値からスイッチング信号を生成することができるのであれば、どのような構成でもよい。
【0039】
次に、スイッチング信号生成部63を構成する際の着意事項について説明する。スイッチングセル225におけるスイッチング素子215のスイッチング損失を抑制するには、スイッチング回数が少ないことが望ましい。スイッチング回数を少なくするには、スイッチング周波数を下げればよい。一方、スイッチング周波数を下げすぎるとキャリア信号の周波数成分が電流高調波規格で規定される基本波周波数の40次までの成分に含まれてしまう。
【0040】
ここで、基本波周波数は電源電圧の周波数であり、日本では、50Hz又は60Hzである。50Hzの40次は2kHzであり、60Hzの40次は2.4kHzである。よって、電源電圧の周波数が50Hzである場合、キャリア信号の周波数であるキャリア周波数は、2kHz以上とする必要がある。また、電源電圧の周波数が60Hzである場合、キャリア周波数は、2.4kHz以上とする必要がある。このことを、数式化すると、以下の(5)式で表すことができる。
【0041】
【数5】
【0042】
上記(5)式において、fswはキャリア周波数であり、fsiはキャリア周波数fswに対する側帯波の周波数であり、fは、電源電圧の周波数である。また、nは1以上の整数である。
【0043】
実施の形態1において、スイッチング素子215がスイッチング動作するときのスイッチング周波数となるキャリア周波数fswは、側帯波の周波数fsiの成分が高調波規格を満足するように決定すればよい。具体的には、以下の(6)式を満たすように決定する。
【0044】
【数6】
【0045】
上記(6)式において、Nswは、電源電圧1周期のスイッチング回数である。また、右辺に示される(fsw/f)は、電源電圧の周波数fに対するキャリア周波数fswの比であり、キャリア周波数fswを電源電圧の周波数fで除算、即ち電源電圧の周波数fで規格化した周波数である。即ち、実施の形態1では、電源電圧1周期のスイッチング回数Nswが、1回以上、且つキャリア周波数fswを電源電圧の周波数fで除算した値(fsw/f)以下となるように決定する。
【0046】
なお、実施の形態1では、電源電圧1周期のスイッチング回数Nswに関する制約条件として、上記(6)式を示したが、負荷4の全ての動作領域で満たす必要はない。例えば、負荷4が軽負荷領域で動作する場合には、スイッチング素子215のスイッチング動作を停止することがあるので、上記(6)式を満たさなくてもよい。
【0047】
次に、電流制御器621にPS制御を適用した際の動作特性について、電流制御器621にPI制御器を適用した条件と比較することで明らかにする。
【0048】
図9は、図6に示す電流制御器621にPI制御を適用した場合の電源電圧、母線電圧及び電源電流の動作波形例を示す図である。図9の上段部には、母線電圧及び電源電圧の絶対値の波形が示されている。図9の下段部には、検出電源電流、検出電源電流の基本波成分及び電源電流指令値の波形が示されている。検出電源電流は、電流検出部211によって検出される電源電流の検出波形である。
【0049】
図9の動作条件は、図9の上段部に示されるように、母線電圧が電源電圧の絶対値のピーク値以下となる条件である。この条件下では、整流回路20が昇圧回路としてではなく、コンデンサインプット型のダイオード整流回路として動作するため、母線電圧の制御は不可能になる。この際、PI制御の積分器に過剰に値が溜まるため、ワインドアップ現象を起こし、電源電流指令値に検出電源電流が追従できていない。
【0050】
これに対し、図10は、図6に示す電流制御器621にPS制御を適用した場合の電源電圧、母線電圧及び電源電流の動作波形例を示す図である。図9と同様に、図10の上段部には、母線電圧及び電源電圧の絶対値の波形が示され、図10の中段部には、検出電源電流、検出電源電流の基本波成分及び電源電流指令値の波形が示されている。また、図10の下段部には、スイッチング素子215を制御するためのスイッチング信号が示されている。
【0051】
図10の中段部に示されるように、検出電源電流の基本波成分は電源電流指令値にほぼ一致している。このことから、電流制御器621に正弦波入力に対して追従性能の高いPS制御を適用すれば、母線電圧が電源電圧の絶対値のピーク値以下となる条件であっても、検出電源電流の基本波が電源電流指令値に追従できることが分かる。なお、図10では、母線電圧が電源電圧の絶対値のピーク値以下となる動作条件の結果を示したが、母線電圧が電源電圧の絶対値のピーク値を超える動作条件であっても、検出電源電流の基本波が電源電流指令値に追従することは言うまでも無い。
【0052】
図11は、図6に示す電流制御器621にPS制御を適用した場合の電流高調波特性の一例を示す図である。図11で用いた電流高調波規格は、IEC61000-3-2クラスAである。なお、IEC61000-3-2クラスAは電流高調波規格の例示であり、この規格に限定されるものではない。
【0053】
図11では、IEC61000-3-2クラスAに示される2次から40次までの電流高調波規格値を実線で示している。また、図11では、定格動作時における2次から40次までの高調波成分の実効値を破線で示している。定格動作時の高調波成分は、交流直流変換装置2を定格電力で動作させたときに流れる電源電流から電源電流の基本波成分を除いた残りの成分を表している。なお、本稿では、2次から40次までの高調波を「低次高調波」と定義する。
【0054】
図11によれば、2次から40次までにおいて、破線の波形は実線の波形を下回っている。このことから、電流制御器621に正弦波入力に対して追従性能の高いPS制御を適用すれば、電源電流に含まれる低次高調波が電源電流の高調波規格値に準拠していることが分かる。なお、図11では、定格動作時の高調波成分を一例として示したが、PS制御による高調波成分の抑制効果は、定格動作時以外でも得られることは言うまでも無い。
【0055】
図12は、図6に示す電流制御器621にPS制御を適用した場合における高調波成分の和の割合と動作電力との関係の一例を示す図である。ここで言う、高調波成分の和の割合は、電源電流の基本波に対する2次以上の高調波成分の和の割合を意味している。
【0056】
図12には、図12に示す全ての動作領域において、高調波成分の和の割合が10%以上となっていることが分かる。高調波成分の和の割合が10%以上となっているのは、電流制御器621にPS制御を適用してスイッチング素子215を制御するという実施の形態1の手法に特有のものである。動作電力が小さいときには、高調波成分の和の割合が増加しているが、動作電力が小さいときの高調波規格値も大きくなっており、電流高調波の実効値が電源電流の高調波規格値を超えていないことは、図11に示されている通りである。
【0057】
実施の形態1の制御手法は、制御部6に電流制御器621を適用した上で、更に電流制御器621に対し、正弦波入力に対する追従性能が高いPS制御を適用したことが特徴である。正弦波入力に対する追従性能を高めるためにPS制御を適用することは、比較的広く行われていると考えられるが、高調波規格に準拠させるためにPS制御を適用することは、これまでにない新規の手法であると考える。
【0058】
以上説明したように、実施の形態1に係る交流直流変換装置は、交流電源から印加される電源電圧を整流する整流回路と、整流回路の出力電圧を平滑するコンデンサと、コンデンサよりも交流電源側に配置されるリアクトルとを備える。整流回路は、コンデンサよりも交流電源側に配置される少なくとも1つのスイッチング素子を有する。制御部は、スイッチング素子を制御するためのスイッチング信号を生成する際には、交流電源と整流回路との間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が、電源電流の高調波規格値に準拠するようにスイッチング信号を生成する。スイッチング素子は、電源電圧の半周期に少なくとも1回はスイッチング動作する。実施の形態1に係る交流直流変換装置によれば、高調波規格に準拠できるか否かを繰り返しの試行により確認する試行錯誤的な調整方法に頼らずに高調波規格に準拠することが可能となる。また、実施の形態1に係る交流直流変換装置によれば、母線電圧が電源電圧の絶対値のピーク値を超える動作条件であっても、入力力率を改善しながら、高調波規格への準拠が可能となる。
【0059】
上記の機能を実現するため、実施の形態1に係る制御部は、母線電圧の指令値である第1の電圧指令値を用いて第1の電流指令値を生成する電圧制御部と、第1の電流指令値を正弦波に追従させた第2の電流指令値を用いて第2の電圧指令値を生成する電流制御部と、第2の電圧指令値を用いてスイッチング信号を生成するスイッチング信号生成部とを備えるように構成する。電流制御部は電流制御器を有し、電流制御器には、PS制御を適用する。また、電流制御部の入力段には、電流制御部が出力する第2の電圧指令値を第2の電流指令値の入力段にフィードバックするフィードバックループの零点を操作するフィルタを備えるように構成する。このように構成された制御部を用いれば、リアクトル容量とスイッチングタイミングとの組合せが高調波規格を準拠できるか否かを、負荷電力ごとに設計を繰り返す必要がなくなるので、試行錯誤的な調整作業が排除され、設計作業に要する時間、及び設計完了までの時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0060】
スイッチング信号生成部は、スイッチング素子がスイッチング動作するときの電源電圧1周期におけるスイッチング回数が、1回以上、且つキャリア信号の周波数であるキャリア周波数を前記電源電圧の周波数で規格化した値以下となるようにスイッチング信号を生成することが望ましい。このようなスイッチング信号を生成すれば、スイッチングセルにおけるスイッチング損失を抑制することが可能となる。
【0061】
なお、上記のように構成された制御部を用いてスイッチング素子を制御すると、交流電源と交流直流変換装置との間に流れる電源電流には低次高調波が重畳するようになる。また、電源電流の高調波成分の合計は、電源電流の基本波に対して10%以上となる。
【0062】
また、交流直流変換装置の制御系をクローズドループで構成する場合、交流電源と整流回路との間に流れる電源電流を検出する電流検出部、母線電圧を検出する第1の電圧検出部、及び電源電圧を検出する第2の電圧検出部を設ける構成とする。交流直流変換装置の制御系がクローズドループで構成されている場合、第1の電流指令値は、第1の電圧指令値と第1の電圧検出部が検出した検出電圧との差分である電圧偏差を用いて生成し、第1の電流指令値を加振する正弦波は、第2の電圧検出部が検出した電圧位相に基づいて生成するようにすればよい。また、第2の電圧指令値は、第2の電流指令値と電流検出部が検出した検出電流との差分である電流偏差を用いて生成するようにすればよい。
【0063】
実施の形態2.
実施の形態1では、正弦波指令に対する追従性能を改善することを目的として電流制御部62の電流制御器621にPS制御を適用した構成について説明した。実施の形態2では、同じ目的で電流制御部62の電流制御器621にPIR(Proportional Integral Resonant:比例積分共振)制御を適用した構成について説明する。
【0064】
図13は、実施の形態2に係る交流直流変換装置2の構成例を示す図である。図2の構成部と同一又は同等の機能を有する構成部には同一の符号を付して示している。なお、実施の形態1と重複する内容の説明は、適宜割愛する。
【0065】
図13に示す整流回路20は、フルPAM(Pulse Amplitude Modulation:パルス振幅変調)回路と呼ばれる構成である。整流回路20は、単相ダイオードブリッジセル213aと、スイッチング素子215と、ダイオード218とを備える。単相ダイオードブリッジセル213aにおいて、スイッチング素子215は、電源電圧の半周期に少なくとも1回のスイッチング動作を行う。
【0066】
図2の構成で説明したリアクトル212は、単相ダイオードブリッジセル213aとダイオード218との間に配置される。スイッチング素子215は、単相ダイオードブリッジセル213aとコンデンサ216との間において、これらの単相ダイオードブリッジセル213a及びコンデンサ216に対して互いに並列に接続される。また、図2の構成で説明した電流検出部211は、単相ダイオードブリッジセル213aとダイオード218との間に配置される。
【0067】
図2及び図13の構成において、スイッチング素子215及びリアクトル212の配置位置及び接続形態は異なっているが、何れの構成においても、スイッチング素子215及びリアクトル212は、コンデンサ216よりも交流電源1側に配置されている。
【0068】
なお、図13では、スイッチング素子215をIGBTで示しているが、スイッチング動作が可能であれば、どのような素子を用いてもよい。また、図13に示す交流直流変換装置2はクローズドループで構成されているが、オープンループで構成されていてもよい。交流直流変換装置2がオープンループで構成される場合、電圧検出部217a,217b及び電流検出部211の検出値を使用しなくてもよい。
【0069】
また、実施の形態1に図13のフルPAM回路を用いてもよく、実施の形態2に図2の簡易スイッチング回路を用いてもよい。即ち、交流直流変換装置2が昇圧機能又は降圧機能を有している場合、整流回路20は少なくとも1つのスイッチング素子を備えているが、本稿で説明する制御手法は、当該スイッチング素子を制御する制御方式が異なっていても適用可能である。
【0070】
次に、PIR制御器の伝達関数について説明する。まず、PIR制御器の伝達関数GPIR(s)は、以下の(7)式で表すことができる。
【0071】
【数7】
【0072】
上記(7)式において、Kは比例ゲイン、Kは積分ゲイン、Kは共振制御ゲイン、ωは電流制御応答の角周波数、ωは追従させたい正弦波指令の角周波数である。このような伝達関数GPIR(s)を有するPIR制御器を、図5又は図6の電流制御器621に適用してもよい。PIR制御器を用いることでも、PS制御と同一の効果を得ることができる。
【0073】
以上説明したように、実施の形態2に係る制御部において、電流制御部に具備される電流制御器には、PIR制御を適用する。PS制御に代えてPIR制御を適用した場合であっても、実施の形態1と同様な効果を得ることができる。
【0074】
実施の形態3.
図14は、実施の形態3に係る冷凍サイクル適用機器900の構成例を示す図である。実施の形態3に係る冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1で説明した回転機駆動装置8を備える。実施の形態3に係る冷凍サイクル適用機器900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。
【0075】
冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1におけるモータ41を内蔵した圧縮機42と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。圧縮機42の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させるモータ41とが設けられている。冷凍サイクル適用機器900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。
【0076】
圧縮機構904は、可変速制御されるモータ41によって駆動される。暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0077】
なお、実施の形態3に係る冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1で説明した回転機駆動装置8を備えるものとして説明したが、これに限定されない。実施の形態2で説明した整流回路20を備える回転機駆動装置8を備えていてもよい。また、実施の形態1又は実施の形態2の制御手法を適用できるものであれば、実施の形態1,2で説明した整流回路20以外の整流回路を備える回転機駆動装置8でもよい。
【0078】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。例えば、上述した制御手法は、直流交流変換装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 交流電源、2 交流直流変換装置、3 直流交流変換装置、4 負荷、6 制御部、7 電流制御系、8 回転機駆動装置、9a,9b 直流母線、20 整流回路、41 モータ、42 圧縮機、61 電圧制御部、62 電流制御部、63 スイッチング信号生成部、72 制御器、73 制御対象プラント、74,624 目標値フィルタ、211 電流検出部、212 リアクトル、213a,213b 単相ダイオードブリッジセル、215 スイッチング素子、216 コンデンサ、217a,217b 電圧検出部、218 ダイオード、225 スイッチングセル、611 電圧制御器、612,622 減算器、621 電流制御器、623 乗算器、630 基準化器、631 キャリア信号生成器、632 比較器、900 冷凍サイクル適用機器、902 四方弁、904 圧縮機構、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器、912 冷媒配管。
【要約】
交流直流変換装置(2)は、スイッチング素子(215)を有し、交流電源(1)から印加される電源電圧を整流する整流回路(20)と、直流母線(9a,9b)に接続され、整流回路(20)の出力電圧を平滑するコンデンサ(216)と、コンデンサ(216)よりも交流電源(1)側に配置されるリアクトル(212)と、スイッチング素子(215)を制御するためのスイッチング信号を生成する制御部(6)とを備える。制御部(6)は、交流電源(1)と整流回路(20)との間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が、電源電流の高調波規格値に準拠するようにスイッチング信号を生成する。スイッチング素子(215)は、電源電圧の半周期に少なくとも1回はスイッチング動作する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14