IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7603907交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器
<>
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図1
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図2
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図3
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図4
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図5
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図6
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図7
  • 特許-交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241213BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/12 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024560626
(86)(22)【出願日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2024006339
【審査請求日】2024-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2023096271
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】河内 謙吾
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-125545(JP,A)
【文献】特開2009-100558(JP,A)
【文献】特開2007-215385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのスイッチング素子を有し、交流電源から印加される電源電圧を整流する整流回路と、
直流母線に接続され、前記整流回路の出力電圧を平滑するコンデンサと、
前記コンデンサよりも交流電源側に配置されるリアクトルと、
前記交流電源と前記整流回路との間に流れる電源電流を検出する電流検出部と、
前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング信号を生成する制御部と、
を備え、
前記スイッチング素子は、前記コンデンサよりも交流電源側に配置され、
前記制御部は、前記スイッチング素子をオフにして前記整流回路をパッシブ動作させたときに検出される前記電源電流の基本波を基準に前記電源電流の位相を変化させるように前記スイッチング信号を生成する
ことを特徴とする交流直流変換装置。
【請求項2】
前記直流母線の電圧である母線電圧を検出する第1の電圧検出部と、
前記電源電圧を検出する第2の電圧検出部と、
を備え、
前記制御部は、前記母線電圧の検出値と前記電源電圧の検出値との大小関係に応じて、前記電源電流の位相を変化させるように前記スイッチング信号を生成する
ことを特徴とする請求項に記載の交流直流変換装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の交流直流変換装置を備える回転機駆動装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の交流直流変換装置を備える冷凍サイクル適用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流電力を所望の直流電力に変換する交流直流変換装置、並びに交流直流変換装置を備えた回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
交流電源から直流電圧を得る際には、力率改善回路を用いるのが一般的である。力率改善回路は、母線電圧を一定に制御する機能と、高調波規格に準拠可能なように電源電流を制御する機能とを有する。力率改善回路とその制御法の一種である「簡易スイッチング方式」(「部分スイッチング方式」とも呼ばれる)は、交流電源の電圧である電源電圧の半周期に少なくとも1回のスイッチングを行う方式であり、電源電圧のピーク値よりも母線電圧を低く制御できるという特徴を有している。但し、簡易スイッチング方式で交流電源のピーク値よりも母線電圧を低く設定すると、動作回路が昇圧チョッパからコンデンサインプット型のダイオード整流器に切り替わるため、電源電流が歪むという課題がある。
【0003】
この課題に対して、下記特許文献1に示される従来技術では、リアクトル容量とスイッチングタイミングとの組合せが高調波規格を準拠できるか否かを、負荷電力ごとに設計を繰り返すことで実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-125545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される従来技術は、高調波規格に準拠できるか否かを繰り返しの試行により確認する方法であるため、パルス数が増加するにつれて試行回数が指数関数的に増加してしまうという課題がある。また、制御ゲイン設計についても、定量的且つ一意に設計する指針が明確ではないため、設計完了までに多くの時間を要するという課題がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、試行錯誤的な調整に頼らずに高調波規格に準拠可能な交流直流変換装置を得ることによって、設計に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本開示に係る交流直流変換装置は、整流回路と、コンデンサと、リアクトルと、電流検出部と、制御部とを備える。整流回路は、少なくとも1つのスイッチング素子を有し、交流電源から印加される電源電圧を整流する。コンデンサは、直流母線に接続され、整流回路の出力電圧を平滑する。リアクトルは、コンデンサよりも交流電源側に配置される。電流検出部は、交流電源と整流回路との間に流れる電源電流を検出する。制御部は、コンデンサよりも交流電源側に配置されるスイッチング素子を制御するためのスイッチング信号を生成する際には、電源電流の位相を変化させるようにスイッチング信号を生成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る交流直流変換装置によれば、試行錯誤的な調整に頼らずに高調波規格に準拠できるため、設計に要する時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る回転機駆動装置の構成例を示すブロック図
図2】実施の形態1に係る交流直流変換装置の構成例を示す回路図
図3】実施の形態1に係る制御部の構成例を示すブロック図
図4】実施の形態1に係る制御部に備えられる正弦波信号生成器の構成例を示すブロック図
図5図2に示す交流直流変換装置をパッシブ動作させた場合の動作波形例を示す図
図6図2に示す交流直流変換装置を基本波力率=1として動作させた場合の動作波形例を示す図
図7図2に示す交流直流変換装置に対して位相シフト制御を実施した場合の動作波形例を示す図
図8】実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照し、本開示の実施の形態に係る交流直流変換装置、回転機駆動装置及び冷凍サイクル適用機器について詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る回転機駆動装置8の構成例を示すブロック図である。回転機駆動装置8は、交流電源1と、モータ41を備える負荷4とに接続される。回転機駆動装置8は、交流直流変換装置2と、直流交流変換装置3とを備える。回転機駆動装置8が空気調和機に用いられる場合、負荷4は、圧縮機又はファンであり、モータ41は、圧縮機モータ又はファンモータである。
【0012】
図2は、実施の形態1に係る交流直流変換装置2の構成例を示す回路図である。実施の形態1に係る交流直流変換装置2は、主たる構成部として、制御部6と、整流回路20と、リアクトル212と、コンデンサ216とを備える。また、交流直流変換装置2は、電圧又は電流の検出手段として、電流検出部211と、電圧検出部217a,217bとを備える。なお、本稿では、電圧検出部217a,217bを符号無しで区別するときには、電圧検出部217bを「第1の電圧検出部」と呼び、電圧検出部217aを「第2の電圧検出部」と呼ぶ。
【0013】
整流回路20は、4つのダイオードをブリッジ接続した単相ダイオードブリッジセル213a,213bと、単相ダイオードブリッジセル213bの両端に並列に接続されるスイッチング素子215とを備える。単相ダイオードブリッジセル213a,213bは、交流電源1に対して互いに並列に接続される。図2に示すような整流回路20は、「簡易スイッチング回路」と呼ばれる。単相ダイオードブリッジセル213b及びスイッチング素子215は、スイッチングセル225を構成する。スイッチング素子215は、電源電圧の半周期に少なくとも1回のスイッチング動作を行う。
【0014】
コンデンサ216は、直流母線9aと直流母線9bとの間に接続される。リアクトル212は、コンデンサ216よりも交流電源側に配置される。整流回路20は、交流電源1から印加される電源電圧をリアクトル212を介して受電し、受電した電源電圧を整流する。コンデンサ216は、整流回路20の出力電圧を平滑する。
【0015】
電圧検出部217bは、コンデンサが接続される直流母線の電圧である母線電圧を検出する。電圧検出部217aは、電源電圧を検出する。電流検出部211は、交流電源1と整流回路20との間に流れる電源電流を検出する。
【0016】
制御部6には、電圧検出部217a,217b及び電流検出部211の各検出値が入力される。制御部6は、各々の検出値に基づいて、スイッチング素子215のオン及びオフを制御するためのスイッチング信号を生成する。
【0017】
スイッチング素子215の一例は、図示のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であるが、IGBTに限定されない。スイッチング素子215としては、スイッチング動作が可能であれば、どのような素子を用いてもよい。スイッチング素子215の他の例は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。
【0018】
また、図2に示す交流直流変換装置2は、電圧検出部217a,217b及び電流検出部211の各検出値を用いるクローズドループで構成されているが、目標値、推定値などを用いるオープンループで構成されていてもよい。交流直流変換装置2がオープンループで構成されている場合、電圧検出部217a,217b及び電流検出部211の各検出値を使用せずに、スイッチング素子215を制御することも可能である。
【0019】
図3は、実施の形態1に係る制御部6の構成例を示すブロック図である。制御部6は、減算器611と、電圧制御器612と、乗算器613と、減算器614と、電流制御器615と、スイッチング信号生成器616と、正弦波信号生成器617とを備える。
【0020】
減算器611は、第1の電圧指令値と電圧検出部217bが検出した母線電圧の検出値との差分である電圧偏差を生成する。第1の電圧指令値は、母線電圧の指令値である。電圧制御器612は、減算器611から出力される電圧偏差を使用して第1の電流指令値を生成する。電圧制御器612は、例えばPI(Proportional Integral:比例積分)制御器で構成することができる。
【0021】
電圧制御器612をPI制御器で構成した場合の伝達関数GAVR(s)は、以下の(1)式で表すことができる。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、伝達関数GAVR(s)における“AVR”は“Automatic Voltage Regulator”の略である。また、上記(1)式において、KpAVRは比例ゲインであり、KiAVRは積分ゲインであり、sはラプラス演算子である。PI制御器において、比例ゲインKpAVR及び積分ゲインKiAVRは、任意に決定することができる。なお、比例ゲインKpAVRをゼロとしてI制御器として構成してもよいし、積分ゲインKiAVRをゼロとしてP制御器として構成してもよい。
【0024】
正弦波信号生成器617は、第1の電圧指令値と電源電圧の検出値に基づいて加振信号としての正弦波信号を生成する。乗算器613は、第1の電流指令値に正弦波信号を乗算する。正弦波信号は、電源電圧の位相と同期した正弦波である。乗算器613の出力は、第2の電流指令値として減算器614に入力される。減算器614は、第2の電流指令値と電流検出部211が検出した電源電流の検出値との差分である電流偏差を生成する。電流制御器615は、減算器614から出力される電流偏差を使用して第2の電圧指令値を生成する。電流制御器615は、例えばPI制御器で構成することができる。スイッチング信号生成器616は、第2の電圧指令値を用いてスイッチング信号を生成する。
【0025】
電流制御器615をPI制御器で構成した場合の伝達関数GACR(s)は、以下の(2)式で表すことができる。
【0026】
【数2】
【0027】
ここで、伝達関数GACR(s)における“ACR”は“Automatic Current Regulator”の略である。また、上記(2)式において、KpACRは比例ゲインであり、KiACRは積分ゲインであり、sはラプラス演算子である。PI制御器において、比例ゲインKpACR及び積分ゲインKiACRは、任意に決定することができる。なお、比例ゲインKpACRをゼロとしてI制御器として構成してもよいし、積分ゲインKiACRをゼロとしてP制御器として構成してもよい。
【0028】
図4は、実施の形態1に係る制御部6に備えられる正弦波信号生成器617の構成例を示すブロック図である。正弦波信号生成器617は、電源電圧の位相及び電源電圧の周波数に同期した正弦波を出力する。この機能を実現するため、正弦波信号生成器617は、PLL(Phase Locked Loop:位相同期ループ)演算器6171と、減算器6172と、正弦波演算器6173と、位相シフト量演算器6174とを備える。
【0029】
PLL演算器6171は、電源電圧の位相及び周波数に同期した正弦波位相を生成して出力する。位相シフト量演算器6174は、電源電圧の検出値と母線電圧の指令値である第1の電圧指令値に基づいて位相シフト量を演算する。減算器6172は、PLL演算器6171の出力と位相シフト量演算器6174の出力との差分を演算する。正弦波演算器6173は、減算器6172から出力される差分を使用して正弦波信号を演算する。
【0030】
次に、位相シフト量の演算方法について、幾つかの図面及び数式を用いて説明する。
【0031】
図5は、図2に示す交流直流変換装置2をパッシブ動作させた場合の動作波形例を示す図である。パッシブ動作とは、パッシブモード時の動作を意味する。パッシブモードは、スイッチング素子215をスイッチングすることなく整流回路20を動作させるモードである。図5の上段部には、電源電圧の絶対値の波形が破線で示され、母線電圧の波形が実線で示されている。図5の下段部には、電源電流の波形が破線で示され、電源電流の基本波成分の波形が実線で示されている。下段部に示される電源電流は、電流検出部211によって検出される電源電流の検出波形である。
【0032】
パッシブモードでは、電源電圧が母線電圧を上回った際に電流が通流してリアクトル212が励磁される。この電流が通流し始める位相である通流開始位相γは、電源電圧が上昇して電源電圧と母線電圧とが等しくなる交点であるので、以下の(3)式で求められる。
【0033】
【数3】
【0034】
上記(3)式において、Vdcは母線電圧であり、vは電源電圧の実効値である。電源電流は電源電圧と母線電圧とが再度クロスするまで増加し続け、この交点が電源電流のピーク値となる。電源電流のピーク値の位相である電流ピーク位相φは、電源電圧のピーク値を基準とすると、以下の(4)式で表すことができる。
【0035】
【数4】
【0036】
電源電圧が母線電圧を下回ると電流は減少していき、最終的にはゼロになる。以上の回路動作によって、電源電流は、図5の線部で示すような概形となる。
【0037】
また、パッシブ動作時において、電源電流の基本波成分は、図5に示されるように、電源電圧に対して位相が遅れた波形となる。このパッシブ動作時の特性により、母線電圧が電源電圧のピーク値以下の条件で、基本波力率を1にしようとすると、電源電流に低次高調波が重畳してしまうことに繋がる。その理由は、以下の通りである。まず、パッシブ動作時に基本波力率を1にしようとすると、電源電圧のゼロクロス後に複数回スイッチングを行う必要性が生じる。一方、このスイッチング制御では、電源電流を歪ませることになる。従って、母線電圧が電源電圧のピーク値以下の条件で基本波力率を1にしようとすると、電源電流が歪んで、電源電流に低次高調波が重畳してしまう。
【0038】
そこで、本稿の制御手法では、母線電圧が電源電圧のピーク値以下の条件において、基本波力率を1にするのではなく、第1の電流指令値を加振する正弦波信号の位相を、パッシブ動作時における電源電流の基本波位相に同期するように制御する。このようにすれば、電源電流の基本波制御に起因する電流歪みを低減することができるので、母線電圧が電源電圧のピーク値以下の条件において、電源電流に含まれ得る高調波成分を抑制することが可能となる。
【0039】
パッシブ動作時における電源電流の位相の計算には、パッシブ動作時の電源電流の時間式を立式したフーリエ級数展開を用いることが考えられる。しかしながら、この手法の場合、電流がゼロになるタイミングを代数演算で計算することができないので、基本波の計算は解析的にしか行うことができない。そこで、本稿では、位相シフト量δを近似的に決定する。
【0040】
図5の下段部には、位相シフト量δが示されている。位相シフト量δは、電源電圧のピーク値を基準とした電源電流のピーク値の位相である。一方、図5の上段部には、前述した電流ピーク位相φが示されている。電流ピーク位相φは、パッシブ動作時における電源電流のピーク値の位相である。位相シフト量δ及び電流ピーク位相φは共に、電源電圧のピーク値を基準としている。また、図5に示されるように、両者は互いに接近していて、両者は近い値を有しているという特徴がある。
【0041】
そこで、本稿では、位相シフト量δが電流ピーク位相φにほぼ等しいと見なして、位相シフト量δを以下の(5)式で定義する。
【0042】
【数5】
【0043】
なお、上記(5)式は一例であり、本稿における位相シフト量δが上記(5)式のみに限定されるものではない。
【0044】
位相シフト量演算器6174は、上記(5)式に基づいて生成した位相シフト量δを減算器6172に出力する。PLL演算器6171から出力される正弦波位相をθvsで表すと、正弦波演算器6173には、“θvs-δ”が入力される。従って、正弦波演算器6173からは、以下の(6)式で示される正弦波信号fが出力される。
【0045】
【数6】
【0046】
正弦波信号fは、第1の電流指令値を加振する信号であり、正弦波信号fの位相をシフトすることで電源電流の位相もシフトする。本稿では、この制御を適宜「位相シフト制御」と呼ぶ。
【0047】
図6は、図2に示す交流直流変換装置2を基本波力率=1として動作させた場合の動作波形例を示す図である。図6の上段部には、電源電圧の絶対値の波形が破線で示され、母線電圧の波形が実線で示されている。図6の下段部には、電源電流の波形が実線で示され、電源電流の基本波成分の波形が破線で示されている。
【0048】
図6の下段部の実線波形に示されるように、スイッチング素子215に対するスイッチング制御は、電源電圧がゼロクロス点を過ぎ、且つ電源電圧の絶対値がピーク値に達する前までの期間に集中している。即ち、位相シフト制御を用いずに電源電流の基本波力率を1にする場合、スイッチング素子215に対するスイッチング制御が一部の期間に集中するので、その結果として、電源電流が歪んでしまうことになる。
【0049】
図7は、図2に示す交流直流変換装置2に対して位相シフト制御を実施した場合の動作波形例を示す図である。図7の上段部には、電源電圧の絶対値の波形が破線で示され、母線電圧の波形が実線で示されている。図7の下段部には、電源電流の波形が実線で示されている。
【0050】
図7の下段部の波形を見ると、微小な電流の変化は見られるが、電源電流の波形自体が電源電流の基本波の波形に一致して変化していることが見てとれる。従って、本稿の位相シフト制御を用いて交流直流変換装置2を動作させれば、電源電流を正弦波状に制御することができる。従って、本稿の位相シフト制御を用いれば、高調波規格に準拠できるか否かを繰り返しの試行により確認する試行錯誤的な調整に頼らずに高調波規格に準拠可能に交流直流変換装置2を動作させることが可能となる。
【0051】
以上説明したように、実施の形態1に係る交流直流変換装置は、交流電源から印加される電源電圧を整流する整流回路と、整流回路の出力電圧を平滑するコンデンサと、コンデンサよりも交流電源側に配置されるリアクトルと、交流電源と整流回路との間に流れる電源電流を検出する電流検出部とを備える。整流回路は、コンデンサよりも交流電源側に配置される少なくとも1つのスイッチング素子を有する。制御部は、スイッチング素子を制御するためのスイッチング信号を生成する際には、電源電流の位相を変化させるようにスイッチング信号を生成する。実施の形態1に係る交流直流変換装置によれば、電源電流を正弦波状に制御することが可能となる。これにより、交流電源と整流回路との間に流れる電源電流に含まれる高調波成分が、試行錯誤的な調整に頼らずに高調波規格に準拠することが可能となる。また、実施の形態1に係る交流直流変換装置によれば、母線電圧が電源電圧の絶対値のピーク値以下となる動作条件であっても、入力力率を改善しながら、高調波規格への準拠が可能となる。
【0052】
上記の機能を実現するため、実施の形態1に係る交流直流変換装置は、電源電流を検出する電流検出部を備え、制御部は、スイッチング素子をオフにして整流回路をパッシブ動作させたときに検出される電源電流の基本波を基準に、電源電流の位相を変化させるようにスイッチング信号を生成する。このようにして生成されたスイッチング信号を用いて整流回路のスイッチング素子を制御すれば、電源電流を正弦波状に制御することができるので、母線電圧が電源電圧の絶対値のピーク値以下となる動作条件であっても、入力力率を改善しながら、高調波規格への準拠が可能となる。なお、このようなスイッチング信号は、第1の電圧検出部による母線電圧の検出値と、第2の電圧検出部による電源電圧の検出値との大小関係に応じて、電源電流の位相を変化させることで生成することが可能である。
【0053】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900の構成例を示す図である。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1で説明した回転機駆動装置8を備える。実施の形態2に係る冷凍サイクル適用機器900は、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、ヒートポンプ給湯器といった冷凍サイクルを備える製品に適用することが可能である。
【0054】
冷凍サイクル適用機器900は、実施の形態1におけるモータ41を内蔵した圧縮機42と、四方弁902と、室内熱交換器906と、膨張弁908と、室外熱交換器910とが冷媒配管912を介して取り付けられている。圧縮機42の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構904と、圧縮機構904を動作させるモータ41とが設けられている。冷凍サイクル適用機器900は、四方弁902の切替動作により暖房運転又は冷房運転をすることができる。
【0055】
圧縮機構904は、可変速制御されるモータ41によって駆動される。暖房運転時には、実線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。冷房運転時には、破線矢印で示すように、冷媒が圧縮機構904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機構904に戻る。暖房運転時には、室内熱交換器906が凝縮器として作用して熱放出を行い、室外熱交換器910が蒸発器として作用して熱吸収を行う。冷房運転時には、室外熱交換器910が凝縮器として作用して熱放出を行い、室内熱交換器906が蒸発器として作用し、熱吸収を行う。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0056】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。例えば、上述した制御手法は、直流交流変換装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 交流電源、2 交流直流変換装置、3 直流交流変換装置、4 負荷、6 制御部、8 回転機駆動装置、9a,9b 直流母線、20 整流回路、41 モータ、42 圧縮機、211 電流検出部、212 リアクトル、213a,213b 単相ダイオードブリッジセル、215 スイッチング素子、216 コンデンサ、217a,217b 電圧検出部、225 スイッチングセル、611,614,6172 減算器、612 電圧制御器、613 乗算器、615 電流制御器、616 スイッチング信号生成器、617 正弦波信号生成器、900 冷凍サイクル適用機器、902 四方弁、904 圧縮機構、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器、912 冷媒配管、6171 PLL演算器、6173 正弦波演算器、6174 位相シフト量演算器。
【要約】
交流直流変換装置(2)は、スイッチング素子(215)を有し、交流電源(1)から印加される電源電圧を整流する整流回路(20)と、直流母線(9a,9b)に接続され、整流回路(20)の出力電圧を平滑するコンデンサ(216)と、コンデンサ(216)よりも交流電源(1)側に配置されるリアクトル(212)と、交流電源(1)と整流回路(20)との間に流れる電源電流を検出する電流検出部(211)と、スイッチング素子(215)を制御するためのスイッチング信号を生成する制御部(6)とを備える。制御部(6)は、電源電流の位相を変化させるようにスイッチング信号を生成する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8