(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】バイオフィルム除去剤およびバイオフィルム除去方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/36 20060101AFI20241216BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20241216BHJP
C11D 1/04 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
A61K8/36
A61Q19/10
C11D1/04
(21)【出願番号】P 2018210371
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-08-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501172235
【氏名又は名称】シャボン玉石けん株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 貴佳
(72)【発明者】
【氏名】田北 美紀
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】木村 敏康
【審判官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-300(JP,A)
【文献】特開2015-91992(JP,A)
【文献】特開2011-241263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水および脂肪酸カリウムのみからなるバイオフィルム除去剤であって、
前記脂肪酸カリウムは、(A)オレイン酸カリウムと、(B)ラウリン酸カリウムおよびカプリン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを、含有し、
前記脂肪酸カリウムの含有量が、前記バイオフィルム除去剤全量に対して、6質量%以上34質量%以下であり、
前記(A)成分の純分の含有量が、前記(A)成分および前記(B)成分の純分の合計量に対して、6質量%以上
70質量%以下であり、
前記(A)成分および前記(B)成分の純分の合計量が、前記脂肪酸カリウム全量に対して、
89質量%以上である
ことを特徴とするバイオフィルム除去剤。
【請求項2】
請求項
1に記載のバイオフィルム除去剤を用いたバイオフィルム除去方法であって、
前記バイオフィルム除去剤を被処理物に塗布する工程と、
前記バイオフィルム除去剤が塗布された被処理物を洗浄して、バイオフィルムを除去する工程と、
を備えることを特徴とするバイオフィルム除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム除去剤およびバイオフィルム除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルム(菌膜)とは、微生物により形成される構造体である。バイオフィルムが形成されると、微生物を原因とする危害が発生して人体に様々な影響を及ぼす可能性がある。また、バイオフィルムを形成した微生物集合体に対しては、水系に分散浮遊状態にある微生物に対する場合と比較して、殺菌剤のような微生物制御薬剤の効果が十分に出ない傾向にある。
【0003】
そこで、このバイオフィルムを除去できる皮膚洗浄剤組成物などに関する技術が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
しかしながら、特許文献1に記載の皮膚洗浄剤組成物、および、特許文献3に記載のバイオフィルム除去剤は、皮膚に対する刺激性が比較的に高く、人体への負荷が多いという問題点があった。一方で、特許文献2に記載の皮膚洗浄剤組成物は、バイオフィルムの除去性能の点で未だ必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-241740号公報
【文献】特開2013-124229号公報
【文献】特開2013-185036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、バイオフィルムの除去性能が優れ、かつ人体への負荷が少ないバイオフィルム除去剤、並びにそれを用いたバイオフィルム除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のようなバイオフィルム除去剤およびバイオフィルム除去方法を提供するものである。
すなわち、本発明のバイオフィルム除去剤は、水と、脂肪酸カリウムとからなるバイオフィルム除去剤であって、前記脂肪酸カリウムは、(A)オレイン酸カリウムと、(B)ラウリン酸カリウムおよびカプリン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを、含有し、前記脂肪酸カリウムの含有量が、前記バイオフィルム除去剤全量に対して、6質量%以上34質量%以下であり、前記(A)成分の純分の含有量が、前記(A)成分および前記(B)成分の純分の合計量に対して、6質量%以上85質量%以下であり、前記(A)成分および前記(B)成分の純分の合計量が、前記脂肪酸カリウム全量に対して、75質量%以上であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明のバイオフィルム除去剤においては、有機溶剤を含有しないことが好ましい。
【0008】
本発明のバイオフィルム除去方法は、前記バイオフィルム除去剤を用いたバイオフィルム除去方法であって、前記バイオフィルム除去剤を被処理物に塗布する工程と、前記バイオフィルム除去剤が塗布された被処理物を洗浄して、バイオフィルムを除去する工程と、を備えることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バイオフィルムの除去性能が優れ、かつ人体への負荷が少ないバイオフィルム除去剤、並びにそれを用いたバイオフィルム除去方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のバイオフィルム除去剤およびバイオフィルム除去方法の実施形態を説明する。
[バイオフィルム除去剤]
先ず、本実施形態のバイオフィルム除去剤について説明する。
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、以下説明する水と、脂肪酸カリウムとからなるものである。
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水および脂肪酸カリウムのみからなることが好ましい。この脂肪酸カリウムのみにより、バイオフィルム除去性能を確保できる。そして、本実施形態のバイオフィルム除去剤においては、脂肪酸カリウム以外のバイオフィルム除去成分を用いる必要がない。
また、本実施形態のバイオフィルム除去剤においては、必要のない成分を用いないという観点から、脂肪酸カリウム以外の成分(例えば、有機溶剤(アルコールなど)、および抗菌剤など)を含有しないことが好ましい。
【0011】
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水、および、脂肪酸カリウムのみからなり、これらの成分以外の成分を実質的に含有しないことが好ましい。
本実施形態のバイオフィルム除去剤に用いる水は、精製水であることが好ましい。精製水としては、RO(Reverse Osmosis)水、脱イオン水、および蒸留水などが挙げられる。また、精製水としては、日本薬局方または医薬部外品原料規格に合致した精製水であることがより好ましい。
【0012】
本実施形態に用いる脂肪酸カリウムは、(A)オレイン酸カリウムと、(B)ラウリン酸カリウムおよびカプリン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種とを、含有する必要がある。(A)成分および(B)成分との組み合わせにより、バイオフィルム除去剤としての液状の安定性を向上でき、しかも泡立ちや泡持ちも向上できる。
【0013】
本実施形態に用いる(A)成分は、天然にきわめて多く存在する脂肪酸であるオレイン酸のカリウム塩であり、人体への負荷が少ないことも確認されている。
なお、本実施形態に用いるオレイン酸カリウムは、原料としてオレイン酸と、カリウム化合物(水酸化カリウムなど)とから得られる。ここで、原料としてオレイン酸には、通常、不純物が含まれている。この不純物としては、多くはリノール酸であるが、それ以外には、ステアリン酸、リノレン酸およびパルチミン酸などが含まれている。
【0014】
本実施形態に用いる(B)成分は、天然にきわめて多く存在する脂肪酸であるラウリン酸やカプリン酸のカリウム塩であり、人体への負荷が少ないことも確認されている。
なお、本実施形態に用いるラウリン酸カリウムは、原料としてラウリン酸と、カリウム化合物(水酸化カリウムなど)とから得られる。ここで、原料としてラウリン酸には、通常、微量ではあるが、不純物が含まれている。この不純物としては、カプリン酸およびミリスチン酸などが含まれている。
本実施形態に用いるカプリン酸カリウム(デカン酸カリウム)は、原料としてカプリン酸と、カリウム化合物(水酸化カリウムなど)とから得られる。ここで、原料としてカプリン酸には、通常、微量ではあるが、不純物が含まれている。この不純物としては、カプリル酸およびラウリン酸などが含まれている。
【0015】
(A)成分および(B)成分以外の不純物としては、カプリル酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、パルミトオレイン酸カリウム、リノール酸カリウム、リノレン酸カリウム、アラキジン酸カリウムおよびベヘン酸カリウムなどが挙げられる。
【0016】
本実施形態においては、脂肪酸カリウムの含有量が、バイオフィルム除去剤全量に対して、6質量%以上34質量%以下であることが必要である。脂肪酸カリウムの含有量が6質量%未満では、バイオフィルム除去剤の泡立ちや泡持ちが不十分となってしまう。他方、脂肪酸カリウムの含有量が34質量%を超えると、バイオフィルム除去剤がゲル状となってしまう。
脂肪酸カリウムの含有量は、泡立ちや泡持ちを向上できるという観点から、バイオフィルム除去剤全量に対して、7質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。
脂肪酸カリウムの含有量は、液状の安定性を向上できるという観点から、バイオフィルム除去剤全量に対して、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態においては、(A)成分の純分の含有量が、(A)成分および(B)成分の純分の合計量に対して、6質量%以上85質量%以下であることが必要である。(A)成分の純分の含有量が6質量%未満では、バイオフィルム除去剤の泡立ちや泡持ちが不十分となってしまう。他方、(A)成分の純分の含有量が85質量%を超えると、液状の安定性が低下し、バイオフィルム除去剤の泡立ちや泡持ちが不十分となってしまう。
(A)成分の純分の含有量は、泡立ちや泡持ちを向上できるという観点から、(A)成分および(B)成分の純分の合計量に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
(A)成分の純分の含有量は、液状の安定性を向上でき、泡立ちや泡持ちを向上できるという観点から、(A)成分および(B)成分の純分の合計量に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0018】
本実施形態においては、(A)成分および(B)成分の純分の合計量が、脂肪酸カリウム全量に対して、75質量%以上であることが必要である。(A)成分および(B)成分の純分の合計量が75質量%未満では、バイオフィルム除去剤の液状の安定性が不十分となってしまう。
(A)成分および(B)成分の純分の合計量は、液状の安定性を向上できるという観点から、脂肪酸カリウム全量に対して、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
(A)成分および(B)成分の純分の合計量は、天然材料からの生産のし易さの観点から、脂肪酸カリウム全量に対して、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、92質量%以下であることが特に好ましい。
【0019】
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、本発明の目的を阻害しない範囲内において、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、pH調整剤およびキレート剤からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。また、より具体的な添加剤としては、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、フマル酸、コハク酸、グリコール酸、フィチン酸、またはこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
また、上記の添加剤を用いる場合、本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水と、脂肪酸カリウムと、上記の添加剤と、からなることが好ましい。
【0020】
本実施形態のバイオフィルム除去剤は、水と、脂肪酸カリウムと、を上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0021】
[バイオフィルム除去方法]
次に、本実施形態のバイオフィルム除去方法について説明する。
本実施形態のバイオフィルム除去方法は、前記本実施形態のバイオフィルム除去剤を用いたバイオフィルム除去方法であって、以下説明する塗布工程および除去工程を備える方法である。
【0022】
塗布工程においては、前記バイオフィルム除去剤を被処理物に塗布する。
ここで、バイオフィルム除去剤は、泡状であることが好ましい。液状のバイオフィルム除去剤を泡状のバイオフィルム除去剤とする方法としては、泡立て器などを用いる従来公知の方法を採用できる。なお、バイオフィルム除去剤を、被処理物に塗布した後に、泡立ててもよい。
被処理物としては、人体(手、腕、顔、頭、首、胴体、腰および足など)、動物および物体などが挙げられる。
塗布方法としては、従来公知のバイオフィルム除去剤の塗布方法を採用できる。具体的には、(i)容器入りのバイオフィルム除去剤を容器から押出し、泡立てて塗布する方法、(ii)バイオフィルム除去剤を、手で擦り付け、泡立てる方法などが挙げられる。
バイオフィルム除去剤の温度は、特に限定されず、例えば、15℃以上45℃以下であればよい。
バイオフィルム除去剤の塗布量は、特に限定されず、バイオフィルムを除去する面積に応じて、適宜決定すればよい。
【0023】
除去工程においては、被処理物を洗浄して、バイオフィルムを除去する。
被処理物を洗浄する際には、通常、水を用いる。水としては、精製水、生理食塩水および水道水などが挙げられる。
水の温度は、人にとって適温であるという観点から、15℃以上40℃以下であることが好ましく、25℃以上35℃以下であることがより好ましい。
【0024】
以上のように、本実施形態のバイオフィルム除去方法により、バイオフィルム除去剤を用いて、バイオフィルムを除去できる。また、本実施形態のバイオフィルム除去剤は、人体への負荷が少ないので、本実施形態のバイオフィルム除去方法により、人体への負荷が少ない方法で、バイオフィルムを除去できる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
反応槽に、精製水78.7gを投入し、その後、水酸化カリウム(100質量%)4.2gを投入し、この反応槽を70℃の温浴に入れ、攪拌機により攪拌しながら、オレイン酸(東京化成工業社製、純分:87質量%)7.9gおよびラウリン酸(東京化成工業社製、純分:99質量%以上)9.2gを加えて、反応させた。その後、冷却して、バイオフィルム除去剤(水80質量%、脂肪酸カリウム20質量%)を得た。
得られたバイオフィルム除去剤において、脂肪酸カリウムの含有量は、バイオフィルム除去剤全量に対して、20質量%であった。また、(A)成分の純分の含有量は、(A)成分および(B)成分の純分の合計量に対して、41.5質量%であった。さらに、(A)成分および(B)成分の純分の合計量は、脂肪酸カリウム全量に対して、94質量%であった。実施例1における、脂肪酸カリウムの含有量、(A)成分の純分の含有量、並びに、(A)成分および(B)成分の純分の合計量は、表1に示す。また、実施例1における脂肪酸カリウム組成(各脂肪酸カリウムの脂肪酸カリウム全量に対する配合比率)を表1に示す。
【0027】
[実施例2~11、13~15、比較例1~13、および参考例A~C]
脂肪酸カリウムの含有量、(A)成分の純分の含有量、並びに、(A)成分および(B)成分の純分の合計量が、それぞれ表1に記載の通りとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、バイオフィルム除去剤を得た。なお、実施例9では、(B)成分としてカプリン酸カリウムを用いているが、実施例1~8および10~18では、(B)成分としてラウリン酸カリウムを用いている。
また、脂肪酸カリウムの含有量、(A)成分の純分の含有量、並びに、(A)成分および(B)成分の純分の合計量が、それぞれ表2に記載の通りとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、バイオフィルム除去剤を得た。
また、実施例2~11、13~15、比較例1~13、および参考例A~Cでは、以下の脂肪酸を用いた。なお、実施例11、13~15および参考例A~Cにおける脂肪酸カリウム組成を表1に示す。また、比較例1~13における脂肪酸カリウム組成を表2に示す。
オレイン酸(東京化成工業社製、純分:87質量%)
ラウリン酸(東京化成工業社製、純分:99質量%以上)
カプリン酸(デカン酸、富士フイルム和光純薬社製、純分:98質量%)
パルミチン酸(東京化成工業社製、純分:99質量%以上)
【0028】
[バイオフィルム除去剤の評価]
バイオフィルム除去剤の評価(バイオフィルム除去性、泡立ち・泡持ち、液状の安定性、経時安定性、皮膚刺激性)を以下のような方法で行った。実施例について得られた結果を表1に示す。また、比較例について得られた結果を表2に示す。
(1)バイオフィルム除去性
バイオフィルム除去剤を試料とし、下記の試験方法によりバイオフィルムの除去率を測定した。そして、バイオフィルムの除去率に基づいて、下記の基準に従って、バイオフィルム除去性を評価した。
〇:バイオフィルムの除去率が、75%以上である。
×:バイオフィルムの除去率が、75%未満である。
(バイオフィルムの作製)
継代スラント(OJ-1、ATCC No.BAA-2856)を、TSA(Trypticase soy agar)スラント培地にて、37℃で24時間前培養した。次に、TSAスラント培地から菌を掻き取り、波長600nmにおける吸光度が0.1となるようにTSB(Tryptic Soybean Broth)で希釈し、菌液とした。次に、菌液を、ウェル(コーニング社製の細胞培養プレート12well、培養細胞用)へ1mLずつ分注した。次に、温度37℃で24時間静置培養し、バイオフィルムを形成させた。なお、菌液を分注せずに培養したウェルも準備した(このウェルは、除去率の算出に用いる)。
(バイオフィルムの除去)
バイオフィルムの上澄み液を除去し、滅菌生理食塩水1mLを分注し取り除く操作(以下、洗浄という)を1回行った。次に、直前に数秒ボルテックスをかけた試料1mLを各ウェルに分注した。次に、常温で1分間静置処理した。次に、被検物質を除去し、滅菌生理食塩水1mLで3回洗浄した。各試料につき、N=3で同様の操作を行った。なお、試料の代わりに、滅菌生理食塩水を分注したものを測定し、ネガティブコントロールとした(このウェルは、除去率の算出に用いる)。
(バイオフィルムの除去率の測定)
0.1質量%クリスタルバイオレット水溶液を0.5mLずつ分注し、1時間静置した。次に、上澄み液を除去し、滅菌生理食塩水1mLで2回洗浄し、その後、99.5容量%エタノールを2mLずつ分注した。次に、ウェル底に不溶化した沈着物をプラスチック製コーニング棒で掻き取り、1時間静置してクリスタルバイオレットを抽出した。次に、新しいプレートに移し替え、プレートリーダーを用いて、波長570nmにおける吸光度を測定した。
なお、滅菌生理食塩水接触後のウェルの吸光度(Ac)、菌液なしで培養したウェルの吸光度(Ab)、および、試料接触後のウェルの吸光度(As)を測定した。そして、これらの測定値より、下記数式(F1)に基づいて、バイオフィルムの除去率を算出した。
【0029】
【0030】
(2)泡立ち・泡持ち
バイオフィルム除去剤を試料とし、試料約0.5gを予洗いした手に取り、通常手を洗浄するときの手順で試料を泡立て、その状態を観察した。そして、下記の基準に従って、泡立ち・泡持ちを評価した。
〇:十分な泡が立ち、泡持ちも良好である。
△:泡量が少ないが泡が立ち、使用可能である。
×:十分に泡立たない。
(3)液状の安定性
バイオフィルム除去剤を作製したときの状態、或いは、作製後24時間が経過したときの状態を目視で確認した。そして、下記の基準に従って、液状の安定性を評価した。
〇:沈殿の析出がなく、液状で流動性がある。
△:一部がゲル化するが、24時間後には液状になり、使用可能である。
×:脂肪酸カリウムの析出がある、或いは、全体若しくは一部がゲル化して24時間後も液状にならない。
(4)経時安定性
バイオフィルム除去剤を試料とし、試料2.5gをガラス製バイアル瓶に入れ、60℃の恒温器に3日間保管したときの試料と、1℃の恒温器で3日間保管したときの試料との外観を目視にて比較した。そして、下記の基準に従って、液状の安定性を評価した。
〇:各試料の外観が、同等もしくはわずかな色調の変化である。
△:明らかな色調の変化が見られるが、使用可能である。
×:著しく色調が変化した。
(5)皮膚刺激性
バイオフィルム除去剤を試料とし、試料約0.5gを予洗いした手に取り、通常手を洗浄するときの手順で試料を泡立てた。その後、約35℃の水道水で十分に手をすすぎ、水分をふき取った。そして、下記の基準に従って、皮膚刺激性を評価した。
〇:水分をふき取ってから1分経過するまでに、皮膚への刺激を感じない。
×:水分をふき取ってから1分経過するまでに、皮膚への刺激を感じる。
【0031】
【0032】
【0033】
表1および表2に示すように、実施例1~17で得られたバイオフィルム除去剤は、バイオフィルム除去性、泡立ち・泡持ち、液状の安定性、経時安定性、および皮膚刺激性が全て良好であることが分かった。このことから、オレイン酸カリウムを含有するバイオフィルム除去剤は、バイオフィルムの除去性能が優れ、かつ人体への負荷が少ないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のバイオフィルム除去剤は、バイオフィルムを除去するための技術として有用である。